説明

光学ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子およびその製造方法、ならびに接合光学素子

【課題】リヒートプレス法でも失透しない優れた熱的安定性を有し、接合レンズの作製に好適な高屈折率高分散光学ガラスを提供すること。
【解決手段】質量%表示にて、SiO2を2〜37%、B2O3を0〜25%、GeO2を0〜10%、Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOを合計で18〜55%、TiO2、Nb2O5およびWO3を合計で27〜55%含み、SiO2とB2O3の合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))が0.1〜1の範囲であり、Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するLi2O含有量の質量比(Li2O/(Li2O+Na2O+K2O+CaO+SrO+BaO)が0〜0.4の範囲であり、TiO2、Nb2O5およびWO3を合計含有量に対するTiO2含有量の質量比(TiO2/(TiO2+Nb2O5+WO3))が0.35〜1の範囲であり、屈折率ndが1.860〜1.990の範囲であり、かつアッベ数νdが21〜29の範囲であることを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラス、光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子およびその製造方法、ならびに接合光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス素材を加熱し、プレス成形して光学素子を製造する方法は、以下2つの方法に大別できる。
第1の方法は、粘度が103.5〜104.5dPa・s程度になる温度に加熱したガラス素材をプレス成形型に導入してプレス成形し、得られた成形品を研削、研磨して光学素子を製造する方法であり、リヒートプレス法と呼ばれている。
第2の方法は、粘度が105〜109dPa・s程度になる温度にガラス素材を加熱し、プレス成形して光学素子を製造する方法であり、精密モールドプレス成形法または精密プレス成形法と呼ばれている。第2の方法は、高粘度のガラスに高い圧力を加え、プレス成形型の成形面の形状をガラスに精密に転写することで研削、研磨工程なしで光学機能面を形成することができる。そのため、プレス成形を繰り返し行うことによって、型成形面が劣化しないようにするため、ガラス転移温度の低いガラスを用いてプレス成形温度を低くすることが行われている。
【0003】
ところで、近年、撮像光学系、投射光学系の高機能化、コンパクト化に伴い、高屈折率高分散ガラス製の光学素子の需要が高まっている。特許文献1には、かかる光学素子の製造に使用するための高屈折率高分散ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−161598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高屈折率高分散ガラス製レンズは、低分散性と異常部分分散性を兼ね備えたフツリン酸ガラス製のレンズと組合せることにより、優れた色収差補正を実現することができる。特に、高屈折率高分散ガラス製レンズとフツリン酸ガラス製レンズを接合した接合レンズは、光学系の高機能化、コンパクト化に有効である。
【0006】
上記接合レンズでは、接合面を精密にはり合わせる必要がある。そのためには、一方のレンズの接合面を凸球面、他方のレンズの接合面を凹球面に精密に研磨することが望ましい。こうした球面研磨レンズの製造には、精密モールドプレス成形法よりもリヒートプレス法が適している。また、精密モールドプレス成形法は、非球面レンズなどの研削、研磨加工には向かない光学素子の製造には適しているが、研削、研磨加工に適した光学素子、例えば、球面レンズの製造にはかえってコスト高となる。
【0007】
そこで本発明者らが、高屈折率高分散ガラスである特許文献1に開示されているガラスをリヒートプレス成形することを試みたところ、熱的安定性が低いため失透することが判明した。したがって、特許文献1に記載のガラスは、リヒートプレス成形により接合レンズを作製するガラス材料としては適していない。
【0008】
そこで本発明は、リヒートプレス法でも失透しない優れた熱的安定性を有し、接合レンズの作製に好適な高屈折率高分散光学ガラスを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子とその製造方法、および上記ガラス製のレンズとフツリン酸ガラス製レンズを接合した接合レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記手段により達成された。
[1]質量%表示にて、
SiO2 2〜37%、
B2O3 0〜25%、
GeO2 0〜10%、
Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOを合計で18〜55%、
TiO2、Nb2O5およびWO3を合計で27〜55%、
含み、
SiO2とB2O3の合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))が0.1〜1の範囲であり、
Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するLi2O含有量の質量比(Li2O/(Li2O+Na2O+K2O+CaO+SrO+BaO)が0〜0.4の範囲であり、
TiO2、Nb2O5およびWO3を合計含有量に対するTiO2含有量の質量比(TiO2/(TiO2+Nb2O5+WO3))が0.35〜1の範囲であり、
屈折率ndが1.860〜1.990の範囲であり、かつアッベ数νdが21〜29の範囲であることを特徴とする光学ガラス。
[2]結晶化ピーク温度Txとガラス転移温度Tgの差(Tx−Tg)が120℃以上である[1]に記載の光学ガラス。
[3]液相温度LTが1300℃以下である[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[4]100〜300℃における平均線膨張係数αが85×10-7/℃以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の光学ガラス。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
[6][1]〜[4]のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
[7][5]に記載のプレス成形用ガラス素材を加熱して軟化した状態でプレス成形して光学素子ブランクを作製し、作製した光学素子ブランクを研削および研磨して光学素子を得る光学素子の製造方法。
[8][1]〜[4]のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子と、フツリン酸ガラスからなる光学素子を接合した接合光学素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リヒートプレス法でも失透しない優れた熱的安定性を有する高屈折率高分散光学ガラスを提供することができる。さらに本発明によれば、上記光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子とその製造方法、および上記ガラス製のレンズとフツリン酸ガラス製レンズを接合した接合レンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
光学ガラス
本発明の光学ガラスは、
質量%表示にて、
SiO2 2〜37%、
B2O3 0〜25%、
GeO2 0〜10%、
Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOを合計で18〜55%、
TiO2、Nb2O5およびWO3を合計で27〜55%、
含み、
SiO2とB2O3の合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))が0.1〜1の範囲であり、
Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するLi2O含有量の質量比(Li2O/(Li2O+Na2O+K2O+CaO+SrO+BaO)が0〜0.4の範囲であり、
TiO2、Nb2O5およびWO3を合計含有量に対するTiO2含有量の質量比(TiO2/(TiO2+Nb2O5+WO3))が0.35〜1の範囲であり、
屈折率ndが1.860〜1.990の範囲であり、かつアッベ数νdが21〜29の範囲であることを特徴とする光学ガラス、
である。
【0012】
以下、本発明の光学ガラスについて詳説するが、特記しない限り、各成分の含有量、合計含有量は質量%表示とし、ガラス成分の含有量と合計含有量の比は質量比とする。
【0013】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成し、ガラスの熱的安定性を高め、液相温度を低下させる働きのある必須成分である。SiO2の含有量が2%より少ないとガラスの熱的安定性が低下し、液相温度が上昇する。SiO2の含有量が37%より多いと屈折率が低下して所要の光学特性を得ることが困難となる。したがって、SiO2の含有量は2〜37%とする。SiO2の含有量の好ましい下限は4%、より好ましい下限は6%、さらに好ましい下限は8%、一層好ましい下限は10%である。
【0014】
本発明の光学ガラスをフツリン酸ガラス製のレンズと接合するレンズに使用する場合、ガラスの膨張係数を高めることが望ましい。フツリン酸ガラスは光学ガラスの中でも高膨張特性を有する。そのため、接合するガラスの膨張係数が小さいと、接合した二種のガラスの膨張差により、接着時や高温高湿保存時に接合面に不具合が生じやすいためである。例えば、レンズの接着は通常、紫外線硬化型接着剤を接合面に塗布し、レンズ越しに紫外線を照射して行われる。このとき熱が発生し、二種のガラスで膨張差が大きいと上記のように不具合が発生する。
以上の理由より膨張係数を高くすることが望ましいが、SiO2は膨張係数を低下させる働きがある。したがって、高屈折率を維持し、膨張係数を高める上から、SiO2の含有量の好ましい上限は32%、より好ましい上限は27%、さらに好ましい上限は25%である。
【0015】
なおSiO2をベースとした組成系の光学ガラスはリン酸系の光学ガラスよりも高強度である。接合レンズの製造工程は複雑であるため接合レンズに使用されるレンズは取り扱いのときに傷つきやすいが、本発明の光学ガラスはSiO2をベースとした組成系であるため、本発明の光学ガラスによれば同じ高屈折率高分散のリン酸系の光学ガラスよりも傷つきにくいレンズを提供することもできる。
【0016】
B2O3は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの熱的安定性を維持し、液相温度を低下させる働きのある任意成分である。B2O3の含有量が25%より多いと屈折率が低下して所要の光学特性を得ることが困難となる。したがって、B2O3の含有量は0〜25%とする。B2O3の含有量の好ましい上限は20%、より好ましい上限は15%、さらに好ましい上限は13%、一層好ましい上限は11%である。液相温度を一層低下させる上からB2O3の含有量の好ましい下限は0.1%、より好ましい下限は0.3%である。
【0017】
SiO2、B2O3の含有量については上記の通りであるが、本発明の光学ガラスでは、ガラスの熱的安定性を維持し、液相温度の上昇を抑える上から、SiO2とB2O3の合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))を0.1以上とする。また、SiO2/(SiO2+B2O3)を増加させると熔融ガラスを成形する際の粘度を高め、高品質のガラスを成形しやすくすることができる。そのため、SiO2/(SiO2+B2O3)の好ましい下限は0.2、より好ましい下限は0.3、さらに好ましい下限は0.5、一層好ましい下限は0.6、より一層好ましい下限は0.7である。なお上記質量比は、B2O3が含まれない場合に上限値1となる。また、上記範囲内でSiO2/(SiO2+B2O3)を変化させることにより、膨張係数、屈折率を調整することもできる。SiO2/(SiO2+B2O3)を減少させると膨張係数が増加、屈折率ndを高めることができる。
【0018】
GeO2は、ガラスのネットワーク形成機能を有し、SiO2、B2O3と比べ高屈折率の維持に有効な任意成分であるが、本発明の光学ガラスを構成する必須成分、任意成分の中で格別高価な成分なので、その含有量は0〜10%とする。ガラスの製造コストを低減し、高屈折率ガラスを広く普及させる上からGeO2の含有量の好ましい範囲は0〜5%、より好ましい範囲は0〜3%、さらに好ましい範囲は0〜1%であり、GeO2を含有しないことが一層好ましい。
【0019】
Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrO、BaOはガラスネットワークの修飾成分であり、ガラスの熔融性を改善し、膨張係数を高める働きのある成分である。Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrO、BaOの合計含有量が18%未満であると前記効果を得ることが困難となり、前記合計量が55%を超えるとガラスの熱的安定性が低下し、液相温度が上昇する。したがって、Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量を18〜55%とする。前記合計含有量の好ましい下限は20%、より好ましい下限は22%であり、好ましい上限は50%、より好ましい上限は47%、更に好ましい上限は45%である。
ただし、Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するLi2O含有量の質量比(Li2O/(Li2O+Na2O+K2O+CaO+SrO+BaO))が0.4を超えると、ガラスの熱的安定性、特にガラスを再加熱したときの耐失透性が悪化し、リヒートプレス成形法には不向きなガラスとなるため、Li2O/(Li2O+Na2O+K2O+CaO+SrO+BaO)は0〜0.4とする。Li2O/(Li2O+Na2O+K2O+CaO+SrO+BaO) の好ましい上限は0.3、より好ましい上限は0.2である。また、上記質量比は、Li2Oが含まれない場合に下限値ゼロとなるが、0.01以上であってもよい。
【0020】
Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrO、BaOの合計含有量および該合計含有量に対するLi2O含有量の質量比については上記の通りである。次に、これら成分の含有量について説明する。
【0021】
Li2Oは、上記修飾成分の中では比較的、高屈折率を維持する働きの優れた成分であるが、上記した通り過剰の導入によりガラスの熱的安定性、特に再加熱時の耐失透性が低下する。したがってLi2Oの含有量は、修飾成分の合計量に対する比を上記範囲とした上で、0〜8%の範囲とすることが好ましく、0〜6%の範囲とすることがより好ましく、0〜4%の範囲とすることがさらに好ましい。
【0022】
Na2O、K2Oも含有量を高めるとガラスの熱的安定性が悪化し、液相温度も上昇するから、Na2Oの含有量は0〜20%の範囲とすることが好ましく、0〜14%の範囲とすることがより好ましく、0〜12%の範囲とすることがさらに好ましい。また、K2Oの含有量は0〜11%の範囲とすることが好ましく、0〜9%の範囲とすることがより好ましく、0〜7%の範囲とすることがさらに好ましい。
【0023】
CaO、BaOは修飾成分の中では比較的、高屈折率を維持する働きがあるが、過剰の導入により熱的安定性が低下し、液相温度が上昇傾向を示すことから、CaOの含有量は0〜30%の範囲とすることが好ましい。CaOの含有量の好ましい上限は27%、より好ましい上限は25%である。一方、CaOの含有量の好ましい下限は1%、より好ましい下限は2%である。またBaOの含有量は2〜47%とすることが好ましい。BaOの含有量の好ましい上限は45%、より好ましい上限は44%であり、好ましい下限は3%、より好ましい下限は5%である。
【0024】
上記のように、高屈折率を維持する上で、CaOおよびBaOの合計含有量は9%以上とすることが好ましく、11%以上とすることがより好ましく、13%以上とすることがさらに好ましい。また熱的安定性、液相温度を良好に維持する上で、CaOおよびBaOの合計含有量は48%以下とすることが好ましく、46%以下とすることがより好ましく、44%以下とすることがさらに好ましい。
また、高屈折率を維持する上から、Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するCaOおよびBaOの合計含有量の質量比(CaO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O+CaO+SrO+BaO))は、0.30〜1の範囲とすることが好ましく、0.40〜1の範囲とすることがより好ましく、0.45〜1の範囲とすることがさらに好ましい。なお、上記質量比を1とすることもできる。
【0025】
また、SrOの含有量は、上記質量比(CaO+BaO)/(Li2O+Na2O+K2O+CaO+SrO+BaO))の値によって定まるものであり、0%でもよく0%超でもよい。
【0026】
なお、高屈折率高分散性を維持しつつ、より良好な熱的安定性を得る上から、上記アルカリ土類金属酸化物の合計量をアルカリ金属酸化物の合計量よりも多くすることが好ましい。
【0027】
TiO2、Nb2O5、WO3はいずれもガラスの屈折率を高める働きの優れた成分である。TiO2、Nb2O5およびWO3を合計含有量が27%未満であると、所要の屈折率nd、アッベ数νdを得ることが困難となり、55%を超えるとガラスの熱的安定性が低下し、液相温度が上昇する。したがって、TiO2、Nb2O5およびWO3を合計含有量を27〜55%とする。TiO2、Nb2O5およびWO3を合計含有量の好ましい下限は29%、より好ましい下限は30%であり、好ましい上限は52%、より好ましい上限は49%である。
【0028】
ただし、TiO2、Nb2O5およびWO3を合計含有量に対するTiO2含有量の質量比(TiO2/(TiO2+Nb2O5+WO3))が0.35未満になると、ガラスの熱的安定性が低下し、液相温度が上昇することから、TiO2/(TiO2+Nb2O5+WO3)を0.35〜1の範囲とする。熱的安定性の維持、液相温度の上昇抑制の観点から、TiO2/(TiO2+Nb2O5+WO3)の好ましい下限は0.4、より好ましい下限は0.45であり、好ましい上限は0.9、より好ましい上限は0.85である。なお上記質量比は、Nb2O5およびWO3が含まれない場合に上限値1となる。
【0029】
TiO2、Nb2O5、WO3の合計含有量および質量比(TiO2/(TiO2+Nb2O5+WO3))については上記の通りであるが、高屈折率高分散特性を維持しつつ、熱的安定性の維持、液相温度の上昇を抑制する上からTiO2の含有量の好ましい下限は9%、より好ましい下限は11%、さらに好ましい下限は13%であり、好ましい上限は35%、より好ましい上限は33%、さらに好ましい上限は31%である。
Nb2O5の含有量の好ましい下限は2%、より好ましい下限は4%、さらに好ましい下限は6%であり、好ましい上限は36%、より好ましい上限は32%、さらに好ましい上限は28%である。
WO3の含有量の好ましい上限は5%、より好ましい上限は4%、さらに好ましい上限は3%である。WO3を含有しなくてもよいし、WO3の含有量を0%超としてもよい。
【0030】
La2O3はガラスの屈折率を高める働きの優れた任意成分である。ただし、過剰の導入によって熱的安定性が低下し、液相温度が上昇するため、La2O3の含有量は0〜15%の範囲とすることが好ましく、0〜13%の範囲とすることがより好ましく、0〜11%の範囲とすることがさらに好ましい。
【0031】
ZrO2はガラスの屈折率を高める働きの優れた任意成分である。ただし、過剰の導入によって熱的安定性が低下し、液相温度が上昇するため、ZrO2の含有量は0〜12%の範囲とすることが好ましい。ZrO2の含有量の好ましい上限は11%、より好ましい上限は10%である。ZrO2含有の効果を得る上から、ZrO2の含有量を1%以上とすることが好ましい。
【0032】
なお、膨張係数を高める働きが強い順に上記成分を並べると、K2O、Na2O、BaO、SrO、CaO、Li2O、TiO2、B2O3、Nb2O5、SiO2となるので、このような傾向を勘案して膨張係数を調整してもよい。
【0033】
さらに、添加剤としてSb2O3やSnO2などのような清澄剤を添加してもよい。前記清澄剤の中で好ましいものはSb2O3である。Sb2O3を用いる場合は、質量比によるSb2O3の外割り添加量を0〜1%の範囲とすることが好ましい。尚、質量比による外割り添加量とは、ガラス成分の質量を基準とした割合で示す添加量である。Sb2O3は清澄効果があることに加え、ガラス熔融中、前述の高屈折率化成分を酸化状態にするとともに、この酸化状態を安定化する働きをする。しかし、外割り添加量が1%を超えるとSb自体の光吸収により、ガラスが着色する傾向を示す。ガラスの透過率特性を改善するという観点から、Sb2O3の外割り添加量の好ましい上限は0.8%、より好ましい上限は0.6%であり、好ましい下限は0.4%である。
【0034】
また、少量のNO3、CO3、SO4、F、Cl、Br、Iなどを添加してもよい。
【0035】
なお、本発明の光学ガラスにおいて、Pb、As、Cd、Te、Tl、Seはいずれも環境への負荷を配慮し、含有、添加しないことが望ましい。また、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Nd、Eu,Tb、Ho、Erのカチオンはいずれもガラスを着色させたり、紫外光の照射により蛍光を発生するため、含有、添加しないことが望ましい。ただし、上記の含有、添加しないとは、ガラス原料やガラス熔融工程に由来する不純物としての混入までも排除するものではない。
【0036】
[屈折率、アッベ数]
本発明の光学ガラスの屈折率ndは1.860〜1.990、アッベ数νdは21〜29である。屈折率ndを1.860以上、アッベ数νdを29以下とすることにより、光学系の高機能化、コンパクト化に有効な光学素子材料を提供することができる。さらに低分散ガラス製光学素子と組合せることにより、特に接合レンズとすることにより、優れた色収差補正機能を実現することができる光学材料を提供することができる。
ガラスの熱的安定性を維持するため、屈折率ndは1.990以下、アッベ数νdは21以上とする。
また、上記観点から、本発明における屈折率ndの好ましい下限は1.870、より好ましい下限は1.885であり、好ましい上限は1.985、より好ましい上限は1.980である。
また本発明におけるアッベ数νdの好ましい下限は22、より好ましい下限は23であり、好ましい上限は28、より好ましい上限は27である。
【0037】
[熱的安定性]
ガラスの熱的安定性には、ガラス融液を成形する際の耐失透性と、一度固化したガラスを再加熱したときの耐失透性とがある。
ガラス融液を成形する際の耐失透性は液相温度を目安にし、液相温度が低いほど優れた耐失透性を有している。液相温度が高いガラスでは、失透を防止するために、ガラス融液、すなわち、熔融ガラスの温度を高温に保持しなければならず、易揮発成分の揮発が生じる、坩堝の侵蝕が助長される、特に貴金属製坩堝の場合は貴金属イオンがガラス融液に溶け込んでガラスが着色する、成形時の粘性が低くなって均質性の高いガラスを成形することが難しくなるなどの現象が発生する。そのため、本発明の光学ガラスの液相温度LTは1300℃以下であることが好ましく、1250℃以下であることがより好ましく、1200℃以下であることがさらに好ましく、1180℃以下であることが一層好ましい。
【0038】
一方、一度固化したガラスを再加熱したときの耐失透性については、結晶化ピーク温度Txとガラス転移温度Tgの差(Tx-Tg)が大きいものほど耐失透性が優れていると考えることができる(山根 正之 著 「はじめてガラスを作る人のために(セラミックス基礎講座)」内田老鶴圃 発行 150ページ参照)。
ガラス転移温度Tg、結晶化ピーク温度Txは次のようにして求める。示差走査熱量分析において、ガラス試料を昇温すると比熱の変化に伴う吸熱挙動、すなわち、吸熱ピークが現れ、さらに昇温すると発熱ピークが現れる。示差走査熱量分析では横軸を温度、縦軸を試料の発熱吸熱に対応する量とする示差走査熱量曲線(DSC曲線)が得られる。この曲線でベースラインから吸熱ピークが現れる際に傾きが最大になる点における接線と前記ベースラインの交点をガラス転移温度Tgとし、発熱ピークが現れる際に傾きが最大になる点における接線と前記ベースラインの交点を結晶化ピーク温度Txとする。
ガラス転移温度Tg、結晶化ピーク温度Txの測定は、ガラスを乳鉢で十分粉砕したものを試料とし、例えば、株式会社ブルカー製の高温型示差走査熱量計「DSC3300SA」を使用して測定することができる。
ガラス素材を加熱、軟化して所要の形状に成形するリヒートプレス成形法では、ガラス素材をガラス転移温度より高温に加熱する必要がある。成形時のガラスの温度が、結晶化温度域に達すると失透するので、(Tx-Tg)が小さいガラスは、失透を防止しつつ成形を行う上で不利である。反対に(Tx-Tg)が大きいガラスは、失透せずに再加熱、軟化して成形を行う上で有利である。
上記理由により、結晶化ピーク温度Txとガラス転移温度Tgの差(Tx-Tg)の好ましい下限は120℃、より好ましい下限は130℃、さらに好ましい下限は140℃である。
【0039】
ガラス転移温度Tgを低くすると、自ずと(Tx-Tg)が大きくなることはない。特許文献1に開示されている光学ガラスではガラス転移温度を低下させるための組成調整によって結晶化ピーク温度も低くなるため、(Tx-Tg)を大きくすることができず、その結果、リヒートプレス成形法には不向きなガラスになっている。なお、精密モールドプレス成形法では、ガラス転移温度より数十℃高い比較的低温でプレス成形を行うため、(Tx-Tg)が小さくても成形が可能である。
リヒートプレス成形法に好適な光学ガラスを得る上から、ガラス転移温度を過度に低下させることは好ましいとは言えない。このような理由からガラス転移温度Tgの好ましい下限は590℃、より好ましい下限は595℃、さらに好ましい下限は600℃である。
【0040】
[膨張係数]
接合レンズの作製に使用されるフツリン酸ガラスの100〜300℃における平均線膨張係数αは概ね130×10-7/℃超の範囲にある。先に説明したように、フツリン酸ガラス製の光学素子との接合に好適な光学素子用材料を提供する上から、本発明の光学ガラスにおいて、100〜300℃における平均線膨張係数αを85×10-7/℃以上とすることが好ましく、90×10-7/℃以上とすることがより好ましい。
平均線膨張係数は、直径5mm、長さ20mmの円柱状ガラス試料を用意し、例えば、ブルカー・エイエックスエス(BRUKER axs)製の熱機械分析装置「TMA4000s」を使用して測定することができる。
【0041】
[部分分散性]
撮像光学系、投射光学系などで、高次の色収差補正を行うには、本発明の光学ガラスからなるレンズと分散の低いガラスからなるレンズの組合せが効果的である。しかし、低分散側のガラスは部分分散比が大きいものが多いため、より高次の色収差を補正する場合、低分散ガラス製レンズと組合せる本発明の光学ガラスには、部分分散比が小さいことが求められる。
部分分散比Pg,Fは、g線、F線、c線における各屈折率ng、nF、ncを用いて、(ng−nF)/(nF−nc)と表される。
本発明の光学ガラスにおいて、高次の色収差補正に適したガラスを提供する上から部分分散比Pg,Fは0.600以下であることが好ましい。Pg,Fは、0.598以下であることがより好ましく、0.596以下であることがさらに好ましく、0.594以下であることが一層好ましく、0.592以下であることがより一層好ましく、0.590以下であることがさらに一層好ましい。
ただし、部分分散比Pg,Fを過剰に減少させると、他の特性が好ましい範囲から逸脱する傾向を示す。そのため、部分分散比Pg,Fは0.570以上とすることが好ましい。部分分散比Pg,Fのより好ましい下限は0.575、さらに好ましい下限は0.580、一層好ましい下限は0.582、より一層好ましい下限は0.584、さらに一層好ましい下限は0.586である。
【0042】
[着色(λ80、λ70、λ5)]
本発明の光学ガラスは、上記ガラス組成を有することで着色を低減ないし抑制することができ、これにより可視光域の広い範囲にわたり高い光透過性を示すことができる。光学ガラスの着色の指標としては、波長280〜700nmの範囲において光線透過率が80%になる波長λ80、同光線透過率が70%となる波長λ70、および同光線透過率が5%となる波長λ5を用いることができる。ここで、光線透過率とは、10.0±0.1mmの厚さに研磨された互いに平行な面を有するガラス試料を用い、前記研磨された面に対して垂直方向から光を入射して得られる分光透過率、すなわち、前記試料に入射する光の強度をIin、前記試料を透過した光の強度をIoutとしたときのIout/Iinのことである。分光透過率には、試料表面における光の反射損失も含まれる。また、上記研磨は測定波長域の波長に対し、表面粗さが十分小さい状態に平滑化されていることを意味する。
λ70については、本発明の光学ガラスは、530nm以下のλ70を示すことができる。本発明の光学ガラスのλ70は500nm以下であることが好ましく、490nm以下であることがより好ましく、480nm以下であることがさらに好ましい。
λ80については、本発明の光学ガラスは、660nm以下のλ80を示すことができる。本発明の光学ガラスのλ80は600nm以下であることが好ましく、590nm以下であることがより好ましく、580nm以下であることがさらに好ましい。
λ5の好ましい範囲は430nm以下、より好ましい範囲は420nm、さらに好ましい範囲は410nm以下、一層好ましい範囲は400nm以下、より一層好ましい範囲は390nm以下である。
このように本発明の光学ガラスは、高屈折率ガラスでありながら、優れた光線透過性を示し、撮像光学系、投射光学系を構成する光学素子の材料として好適なものである。
【0043】
比重
本発明の光学ガラスは高屈折率ガラスであるが、一般にガラスは高屈折率化すると比重が増加傾向を示す。しかし比重の増加は光学素子の重量増加を招くため好ましくない。これに対し本発明の光学ガラスは、上記ガラス組成を有することにより、高屈折率ガラスでありながら比重を4.5以下にすることができる。本発明の光学ガラスにおいて、比重の好ましい上限は4.4、より好ましい上限は4.3、さらに好ましい上限は4.2、一層好ましい上限は4.1である。一方、比重を過剰に減少させるとガラスの安定性が低下し、液相温度が上昇する傾向を示すため、比重は3.5以上であることが好ましく、3.6以上であることがより好ましく、3.7以上であることがさらに好ましく、3.8以上であることが一層好ましく、3.9以上であることがより一層好ましい。
【0044】
[光学ガラスの製造方法]
本発明の光学ガラスは、ガラス原料を加熱、熔融、清澄、均質化し、得られた熔融ガラスを成形するガラス熔融法で製造することができる。ガラス熔融法としては公知の方法を適用することができる。また、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物など使用し、所望の組成のガラスが得られるようにガラス原料を秤量し、十分混合して粉体原料とし、この粉体原料を加熱、熔融してもよいし、粉体原料を粗熔解してカレット化し、複数のカレットを調合して得た原料を加熱、熔融してもよい。
上記熔融ガラスを成形して得られたガラス成形体は、後述するように、アニールして歪を除去してプレス成形用ガラス素材の作製に使用することができる。
【0045】
プレス成形用ガラス素材
本発明のプレス成形用ガラス素材は、上記本発明の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材である。再加熱、軟化に対して優れた耐失透性を有する光学ガラスからなるため、リヒートプレス成形時にガラスが失透することなく、高品質なプレス成形品を得ることができる。また、熔融ガラス成形時の耐失透性も優れたガラスを用いることにより、高品質のプレス成形品を得ることもできる。プレス成形用ガラス素材の形状は、製造しようとするプレス成形品の形状に応じて適宜決めればよく、ガラス素材の質量もプレス成形品の質量に合わせればよい。
【0046】
プレス成形用ガラス素材の製造方法の一例は、以下のとおりである。
先に説明したガラス成形体をアニールして歪を除去し、複数のガラス片(カットピース)に機械加工によって分割した後、バレル研磨してプレス成形用ガラス素材を作製する。バレル研磨の代わりに、ガラス片を研削、研磨してプレス成形用ガラス素材を作製してもよい。
【0047】
光学素子とその製造方法
本発明の光学素子は、上記本発明の光学ガラスからなる光学素子である。
本発明の光学素子によれば、本発明の光学ガラスの高屈折率高分散特性を活かして撮像光学系、投射光学系を含む様々な光学系の高機能化、コンパクト化に有効な光学素子を提供することができる。
さらに、SiO2系の高屈折率高分散ガラスとしては高膨張特性を有するガラスであれば、フツリン酸ガラスなど膨張係数が高いガラスからなる光学素子との接合に好適である。
【0048】
本発明の光学素子を例示すると、レンズ、プリズムなどがある。
高屈折率高分散ガラス製レンズと低分散ガラス製レンズを組合わせて色収差を補正する際、高屈折率高分散側のレンズのパワーを負、低分散側のレンズのパワーを正とすることが光学設計上有利であることから、本発明の光学素子としては、負のパワーを有するレンズ、例えば両凹レンズ、凹メニスカスレンズ、平凹レンズが好ましい。また接合レンズに使用する上から、レンズの光学機能面の少なくとも一方を球面とすることが好ましく、両面とも球面とすることがより好ましい。
【0049】
本発明の光学素子の製造方法は、上記本発明のプレス成形用ガラス素材を加熱して軟化した状態でプレス成形して光学素子ブランクを作製し、作製した光学素子ブランクを研削および研磨して光学素子を得る。
研削、研磨工程の前にガラスの破損防止の上から光学素子ブランクをアニールすることが好ましい。このアニールにおいてガラスの歪を除去するとともに、アニール時の降温スピードを調整することにより、屈折率を微調整することもできる。
なお、本発明の光学素子は、熔融ガラスを成形して得たガラス成形体をアニールし、研削、研磨して製造することもできる。
【0050】
接合光学素子
本発明の接合光学素子は、上記本発明の光学ガラスからなる光学素子と、フツリン酸ガラスからなる光学素子を接合したものである。
本発明の高屈折率高分散ガラス製光学素子と、異常部分分散性と低分散性を有するフツリン酸ガラス製光学素子とを接合することにより優れた色収差補正を有する接合光学素子を得ることができる。前記接合光学素子を撮像光学系、投射光学系などの光学系に適用することにより、光学系を高機能化、コンパクト化することができる。
【0051】
本発明の光学素子と接合するフツリン酸ガラスとしては、例えば、HOYA株式会社製のFCD1、FCD100、FCD505などの公知のフツリン酸系光学ガラスを使用することができる。
【0052】
接合光学素子としては、レンズ同士を接合したもの(接合レンズ)、レンズとプリズムを接合したものなどを例示することができる。
前述のように高屈折率高分散側のレンズのパワーを負、フツリン酸ガラス製レンズのパワーを正とすることで、優れた色収差補正機能を有するとともに、光学系の高機能化、コンパクト化に有効な接合レンズを提供することができる。
接合光学素子は、接合する2つの光学素子の接合面を形状が反転形状となるように精密に加工(例えば、球面研磨加工)し、接合レンズの接着に使用される紫外線硬化型接着剤を塗布し、はり合わせてから紫外線を照射し接着剤を硬化させることで作製することができる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
まず、表1に示す組成を有するガラスNo.1〜30が得られるように、原料として炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、酸化物などを用い、各原料粉末を秤量して十分混合し、調合原料とし、この調合原料を白金製坩堝に入れて1,300℃で加熱、熔融し、清澄、撹拌して均質な熔融ガラスした。この熔融ガラスを予熱した鋳型に流し込んで急冷し、ガラス転移温度近傍の温度で2時間保持した後、徐冷してガラスNo.1〜30の各光学ガラスを得た。いずれのガラス中にも結晶の析出は認められなかった。
なお、表1に示す各ガラスの特性は、以下に示す方法で測定した。測定結果を表1に示す。
【0055】
(1)屈折率nd、nc、nF、ngおよびアッベ数νd
1時間あたり30℃の降温速度で冷却した光学ガラスについて、日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により測定した。
(2)ガラス転移温度Tg、結晶化ピーク温度Tx
ガラスを乳鉢で十分粉砕したものを試料とし、株式会社ブルカー製の高温型示差走査熱量計「DSC3300SA」を用いて、昇温速度10℃/分で1250℃まで測定した。
(3)液相温度LT
ガラスを所定温度に加熱された炉内に入れて2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で結晶の有無を観察し、結晶が消失する最低温度を液相温度とした。
(4)100〜300℃における平均線膨張係数α
日本光学硝子工業会規格JOGIS 08-1975「光学ガラスの熱膨張の測定方法」で定められている方法により測定した。
(5)比重
アルキメデス法により測定した。
(6)部分分散比Pg,F
屈折率ng、nF、ncの値より次式に用いて算出した。
Pg,F=(ng−nF)/(nF−nC)
(7)着色度λ80、λ70、λ5
分光光度計を用いて、分光透過率を測定して求めた。
【0056】
【表1】



【0057】
なお、上記各光学ガラスは、原料粉末(粉体原料)を加熱、熔融して作製したが、粉体原料を粗熔解してカレット化し、得られたカレットを用いて調合した原料を加熱、熔融して作製することもできる。
このようにして、優れた熱的安定性を有しリヒートプレス法に好適であり、着色が少なく、フツリン酸ガラス製の光学素子との接合に好適な光学素子用材料として望ましい高膨張特性を備えた高屈折率高分散光学ガラスを得ることができた。
【0058】
(実施例2)
実施例1で作製したガラスNo.1〜30の各光学ガラスを研削、研磨してプレス成形用ガラス素材を作製した。次にプレス成形ガラス素材表面に窒化ホウ素粉末を均一に塗布し、耐熱性軟化皿上に載せ、加熱軟化炉内へ入れ、加熱した。
次いで、粘度が103.5〜104.5dPa・sになるように加熱、軟化したガラス素材を加熱軟化皿上からプレス成形用型内に導入しプレスして凹メニスカスレンズ形状に成形した。成形したレンズブランクをプレス成形用型から取り出しアニールした。
このようにして得たレンズブランクを研削、研磨して凹メニスカスレンズを作製した。
同様にして、両凹レンズなど各種球面レンズを作製した。
このようにして得た各種レンズの内部を観察したところ、結晶の析出は認められず、均質性の高いレンズが得られていることを確認した。
得られたレンズの光学機能面には必要に応じて反射防止膜をコートしてもよい。
【0059】
(実施例3)
屈折率ndが1.49700、アッベ数νdが81.61、部分分散比Pg,Fが0.5388、100〜300℃における平均線膨張係数が155×10-7/℃であるフツリン酸ガラス、屈折率ndが1.45860、アッベ数νdが90.20、部分分散比Pg,Fが0.5352、100〜300℃における平均線膨張係数が165×10-7/℃であるフツリン酸ガラス、屈折率ndが159282、アッベ数νdが68.63、部分分散比Pg,Fが0.5441、100〜300℃における平均線膨張係数が140×10-7/℃であるフツリン酸ガラスの3種の光学ガラスを用い、研削、研磨して両凸形状の球面レンズを作製した。実施例2で作製した凹メニスカスレンズの凹面の形状を反転した形状の凸面が得られるようにレンズ面を加工した。
そして、実施例2で作製した各凹メニスカスレンズの凹面と、各種フツリン酸ガラス製の両凸レンズの一方の凸面に紫外線硬化型接着剤を塗布し、気泡を含まないように精密にはり合わせ、紫外線を照射してレンズを接合した。
同様にして、上記3種のフツリン酸ガラスを用い、実施例2で作製した両凹レンズの一方の凹面の形状を反転した形状の凸状のレンズ面が得られるよう研削、研磨して両凸形状の球面レンズを作製した。そして、実施例2で作製した各両凹レンズの一方の凹面と、各種フツリン酸ガラス製の両凸レンズの一方の凸面に紫外線硬化型接着剤を塗布し、気泡を含まないように精密にはり合わせ、紫外線を照射してレンズを接合した。
このようにして色収差補正用の接合レンズを作製した。得られた接合レンズの接合面は、紫外線照射による不具合は認められず、また温度サイクル試験後も接合面に不具合は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の光学ガラスは、高屈折率高分散ガラスであって、低分散性と異常部分分散性を兼ね備えたフツリン酸ガラス製のレンズと組み合わせて色収差補正用の接合レンズを作製するために好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%表示にて、
SiO2 2〜37%、
B2O3 0〜25%、
GeO2 0〜10%、
Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOを合計で18〜55%、
TiO2、Nb2O5およびWO3を合計で27〜55%、
含み、
SiO2とB2O3の合計含有量に対するSiO2含有量の質量比(SiO2/(SiO2+B2O3))が0.1〜1の範囲であり、
Li2O、Na2O、K2O、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量に対するLi2O含有量の質量比(Li2O/(Li2O+Na2O+K2O+CaO+SrO+BaO)が0〜0.4の範囲であり、
TiO2、Nb2O5およびWO3を合計含有量に対するTiO2含有量の質量比(TiO2/(TiO2+Nb2O5+WO3))が0.35〜1の範囲であり、
屈折率ndが1.860〜1.990の範囲であり、かつアッベ数νdが21〜29の範囲であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
結晶化ピーク温度Txとガラス転移温度Tgの差(Tx−Tg)が120℃以上である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
液相温度LTが1300℃以下である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
100〜300℃における平均線膨張係数αが85×10-7/℃以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項7】
請求項5に記載のプレス成形用ガラス素材を加熱して軟化した状態でプレス成形して光学素子ブランクを作製し、作製した光学素子ブランクを研削および研磨して光学素子を得る光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子と、フツリン酸ガラスからなる光学素子を接合した接合光学素子。

【公開番号】特開2012−229135(P2012−229135A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97541(P2011−97541)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】