説明

光学ガラス

【課題】本発明は、高屈折率光学ガラスであり、非常に低いガラス転移点(Tg)を有し、かつ化学的耐久性に優れ、精密プレス成形に適した光学ガラスを提供する。
【解決手段】屈折率(nd)が1.9以上およびアッベ数(νd)が15以上であり、ガラス転移点(Tg)が300℃以下であり、Pb及び/又はAs化合物を含まず、TeO成分を50mol%以上含有することを特徴とする光学ガラス。RO(RはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)成分、ZnO成分、Bi成分を含有し、さらにAl及び/又はGa成分を含有する前記光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率光学ガラスであり、非常に低いガラス転移点(Tg)を有し、かつ化学的耐久性に優れ、精密プレス成形に適した光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
光学系を構成するレンズには一般に球面レンズと非球面レンズがある。多くの球面レンズは、ガラス材料をリヒートプレス成形して得られたガラス成形品を研削研磨することによって製造される。一方、非球面レンズは、加熱軟化したレンズプリフォーム材を、高精度な成形面をもつ金型でプレス成形し、金型の高精度な成形面の形状をレンズプリフォーム材に転写して得る方法、すなわち、精密プレス成形によって製造されることが主流となっている。
【0003】
精密プレス成形によって非球面レンズのようなガラス成形品を得るにあたっては、高温環境下でプレス成形することが必要であるので、この際使用する金型も高温に曝され、また、金型に高いプレス圧力が加えられる。そのため、レンズプリフォーム材を加熱軟化させる際及びレンズプリフォーム材をプレス成形する際に、金型の成形面が酸化、侵食されたり、金型成形面の表面に設けられている離型膜が損傷したりして金型の高精度な成形面が維持できなくなることが多く、また、金型自体も損傷し易い。そのようになると、金型を交換せざるを得ず、金型の交換回数が増加して、低コスト、大量生産を実現できなくなる。そこで、精密プレス成形に使用するレンズプリフォーム材となるガラスは、上記損傷を抑制し、金型の高精度な成形面を長く維持し、かつ、低いプレス圧力での精密プレス成形を可能にするという観点から、できるだけ低いガラス転移点(Tg)を有することが望まれている。
【0004】
ところで、精密プレス成形を行う場合、そのレンズプリフォーム材となるガラスは表面が鏡面、あるいはそれに近い状態である必要がある。レンズプリフォーム材の作製法は、滴下法によって溶融ガラスから直接作製される方法と研削研磨によって作製される方法が一般的であるが、コストや工程数を考慮すると前者の方法がより一般的に用いられている。滴下法によって得られたレンズプリフォーム材はゴブあるいはガラスゴブと呼ばれる。これらのレンズプリフォーム材は、精密プレス成形する前に洗浄を行って表面のゴミや汚れを除去する必要がある。また、レンズとして成形された後でも高湿下にさらされる場面があるので、所定の化学的耐久性が要求される。
【0005】
高屈折率及び低いガラス転移点(Tg)を有するガラスの1つとして、TeOを主成分とするテルライト系ガラスが知られている。
【0006】
例えば、特開昭62−108741(特許文献1)には、TeO−PbO−B系ガラスが記載されており、特開2006−182577(特許文献2)にはB−TeO−ZnO−La−Nb系ガラスが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭62−108741号公報
【特許文献2】特開2006−182577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の光学ガラスは、所望の高屈折率高分散を実現するものであるが、PbO成分を含有しており、環境影響の観点から好ましくない。また、特許文献2に記載の光学ガラスは、LaやNb成分を多量に含有しているため、十分に低いガラス転移点(Tg)が得られないとういう欠点があった。
【0009】
また、一般的に、精密プレス成形用の光学ガラスは、一般に、ガラス転移点を低下させようとすると、その代償として化学的耐久性が悪くなることが多く、環境によってはレンズプリフォーム材表面にヤケを生じたり、鏡面あるいは鏡面に近い状態を保てなくなる場合があった。
【0010】
本発明は、前述の高屈折率光学ガラスに見られる諸欠点を総合的に解消し、かつ高屈折率、低いガラス転移点(Tg)を維持しつつ、優れた化学的耐久性を兼ね備えた、精密プレス成形に適した光学ガラスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、TeO成分を主成分とする高屈折率光学ガラスにおいて、所望の光学特性及び化学的耐久性を実現できることを見出した。さらに、RO成分(RはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)、ZnO成分及びBi成分を所定量含有させ、さらにAl及びGa成分の一方又は両方を所定量含有させることにより、屈折率、低いガラス転移点(Tg)を維持しつつ、優れた化学的耐久性を兼ね備えた、精密プレス成形に適した光学ガラスを製造しうることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の第1の構成は、屈折率(nd)が1.9以上およびアッベ数(νd)が15以上であり、ガラス転移点(Tg)が300℃以下であり、Pb及び/又はAs化合物を含まず、TeO成分を50mol%以上含有することを特徴とする光学ガラスである。
【0013】
本発明の第2の構成は、 RO(RはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)成分、ZnO成分、Bi成分を含有し、さらにAl及び/又はGa成分を含有する前記構成1の光学ガラスである。
【0014】
本発明の第3の構成は、 酸化物基準のmol%で、
TeO 50〜90%、
O(RはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上) 5〜30%、
ZnO 1〜30%及び
Bi 1〜20%
を含有する前記構成1及び2の光学ガラスである。
【0015】
本発明の第4の構成は、Al及び/又はGa成分を外割で0.01〜3.0mol%含有することを特徴とする前記構成1〜3の光学ガラスである。
【0016】
本発明の第5の構成は、粉末法耐水性が1級、2級又は3級であることを特徴とする前記構成1〜4の光学ガラスである。
【0017】
本発明の第6の構成は、B、GeO及びP成分の含有率の合計が5mol%以下である前記構成1〜5の光学ガラスである。
【0018】
本発明の第7の構成は、ROがLiO及び/又はNaO成分からなる前記構成2〜6の光学ガラスである。
【0019】
本発明の第8の構成は、F成分を実質的に含有しない前記構成1〜7の光学ガラスである。
【0020】
本発明の第9の構成は、
酸化物基準のmol%で、任意成分として
SiO 0〜10%及び/又は
LiO 0〜30%及び/又は
NaO 0〜20%及び/又は
O 0〜15%及び/又は
CsO 0〜10%及び/又は
MgO 0〜10%及び/又は
CaO 0〜20%及び/又は
BaO 0〜20%及び/又は
SrO 0〜20%及び/又は
TiO 0〜10%及び/又は
Nb 0〜10%及び/又は
Ta 0〜10%及び/又は
WO 0〜10%及び/又は
ZrO 0〜10%及び/又は
0〜10%及び/又は
Yb 0〜10%及び/又は
La 0〜10%及び/又は
Gd 0〜10%及び/又は
Sb 0〜0.5%
の各成分を含有する前記構成1〜8の光学ガラスである。
【0021】
本発明の第10の構成は、Y、Yb、La及びGd成分の含有量の合計が10mol%未満である前記構成1〜9の光学ガラスである。
【0022】
本発明の第11の構成は、前記構成1〜10の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子である。
【0023】
本発明の第12の構成は、前記構成1〜10の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームである。
【0024】
本発明の第13の構成は、前記構成12のプリフォームを精密プレス成形してなる光学素子である。
【発明の効果】
【0025】
上記本発明の構成によれば、高屈折率光学ガラスであり、非常に低いガラス転移点(Tg)を有し、かつ化学的耐久性に優れ、精密プレス成形に適した光学ガラスを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の光学ガラスの各成分について説明する。以下、特に断らない限り各成分の含有率は酸化物基準のmol%を意味する。「酸化物基準」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属フッ化物等が熔融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の質量の総和を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である
【0027】
TeO成分はガラス形成の効果がある成分であり、本発明においては必須に含有する。しかし、その量が少なすぎるとガラス化しにくくなり、過剰に含有するとガラスとして不安定になりやすいという不利益がある。したがって本発明においては好ましくは50%、より好ましくは55%、最も好ましくは60%を下限とし、好ましくは90%、より好ましくは85%、最も好ましくは80%を上限とする。
【0028】
O成分(RはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)は、TeO成分のガラス化を容易にし、ガラス転移点(Tg)を低く保つ効果がある成分であり、本発明においては有用な成分である。しかし、その量が少なすぎるとガラスを形成するためには不十分となりやすく、過剰に含有すると屈折率が低下しやすく、失透性が増しやすいという不利益がある。したがって本発明においてはRO成分含有量の合計が、好ましくは5%、より好ましくは7%、最も好ましくは10%を下限とし、好ましくは30%、より好ましくは27%、最も好ましくは25%を上限とする。
【0029】
次に、ROの各成分について説明する。
【0030】
LiO成分はTeO成分のガラス化を容易にし、ガラス転移点(Tg)を低く保つ効果がある成分である。しかし、過剰に含有すると屈折率が低下しやすく、また失透性が増しやすいという不利益がある。本発明におけるLiO成分含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは5.0%を下限とし、好ましくは30%、より好ましくは27%、最も好ましくは25%を上限とする。
【0031】
NaO成分はTeO成分のガラス化を容易にし、ガラス転移点(Tg)を低く保つ効果がある成分である。しかし、過剰に含有すると屈折率が低下しやすく、また失透性が増しやすいという不利益があるため、含有しなくとも差し支えない。本発明におけるNaO成分含有量は、好ましくは20%、より好ましくは17%、最も好ましくは15%を上限とする。
【0032】
O成分はTeO成分のガラス化を容易にし、ガラス転移点(Tg)を低く保つ効果がある成分である。しかし、過剰に含有すると屈折率が低下しやすく、また失透性が増しやすいという不利益があるため、含有しなくとも差し支えない。本発明において、KO成分含有量は好ましくは15%、より好ましくは13%、最も好ましくは10%を上限とする。
【0033】
CsO成分はTeO成分のガラス化を容易にする効果がある成分である。しかし、過剰に含有すると屈折率が低下しやすく、また失透性が増しやすくなるという不利益があるため、含有しなくとも差し支えない。本発明において、CsO成分は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。
【0034】
また、ROは好ましくはLiO及びNaO成分のいずれか一方或いは両方により成ることが好ましい。これは他のRO成分はLiO及びNaO成分に比べ、比較的失透性悪化が顕著とないやすいためである。
【0035】
ZnO成分はTeO成分のガラス化を容易にする効果がある成分であり、本発明においては有用な成分である。しかし、その量が少なすぎるとガラスが不安定になりやすく、過剰に含有しても失透性が増しやすくなったり、屈折率の低下やガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって、本発明においては好ましくは1%、より好ましくは2%、最も好ましくは3%を下限とし、好ましくは30%、より好ましくは27%、最も好ましくは25%を上限とする。
【0036】
Bi成分はTeO成分のガラス化を容易にし、屈折率を高くする効果があり、発明においては有用な成分である。しかし、その量が少なすぎるとガラスが不安定になりやすく、過剰に含有しても失透性が増増しやすくなったり、またガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては好ましくは1%、より好ましくは2%、最も好ましくは3%を下限とし、好ましくは20%、より好ましくは17%、最も好ましくは15%を上限とする。
【0037】
AlおよびGa成分は、ともにガラスの失透性を抑制する効果がある成分であり、いずれか一方又は両方を含有することが好ましい。しかし、その量が少なすぎると失透性抑制の効果が不十分になりやすく、過剰に含有しても失透性が増しやすく、さらに屈折率の低下やガラス転移点(Tg)の上昇を招きやすいという不利益がある。したがって本発明においてはAl及びGa成分含有量の合計が、外割で好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、最も好ましくは0.1%を下限とし、好ましくは3.0%、より好ましくは2.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。
【0038】
なお、本間明細書中において「外割」とは、AlおよびGa成分以外の酸化物成分の合計含有量を100%と仮定した場合の、AlおよびGa成分の相対質量%を意味する。
【0039】
各々の成分については、Al成分は好ましくは2.0%、より好ましくは1.5%、最も好ましくは1.0%を上限とする。Gaは好ましくは2.0%、より好ましくは1.5%、最も好ましくは1.0%を上限とする。
【0040】
ところで、TeO成分は本発明の光学ガラスにおいてガラス形成酸化物として作用しうるが、単独ではガラス化することが非常に困難である。そのため、上述の成分(すなわちRO、ZnO及びBi成分、並びにAlおよびGa成分の一方又は両方)の少なとも1種以上を含有させることが好ましい。また、TeO成分とそれらの成分を同時に含有させることによって、より優れた安定性、溶解性、化学的耐久性、光学ガラスとしての性能を備えたガラスを得やすくなる。
【0041】
、GeO及びP成分は屈折率を低下させ、ガラス転移点(Tg)を高くする成分であるため、その合計量が好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。ただし、いずれも含有しなくとも差し支えない。
【0042】
、GeO及びPの各々の成分については、それぞれ好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。
【0043】
F成分については、失透性を増加させやすくする成分であるため、好ましくは5%、より好ましくは2%、最も好ましくは含有しない。なお、本発明におけるFの含有量は、本発明のガラスを構成する酸化物の一部又は全部をフッ化物置換したFの合計量が前記酸化物基準組成100質量%基準にして、F原子として計算した場合の質量%で表すものである。
【0044】
SiO成分は失透性を改善する効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、また屈折率が低下しやすくガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。
【0045】
MgO成分は失透性を改善する効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、また屈折率が低下しやすくガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。
【0046】
CaO成分は失透性を改善する効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、また屈折率が低下しやすくガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは20.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0047】
BaO成分は失透性を改善する効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、また屈折率が低下しやすくガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは20.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0048】
SrO成分は失透性を改善する効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、また屈折率が低下しやすくガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは20.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0049】
TiO成分は屈折率を高くする効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0050】
Nb成分は屈折率を高くする効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0051】
Ta成分は屈折率を高くする効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0052】
WO成分は屈折率を高くする効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0053】
ZrO成分は化学的耐久性を改善する効果がある成分であるので本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。
【0054】
成分は化学的耐久性を改善する効果がある成分であるので本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、その合計量が、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0055】
Yb成分は屈折率を高くする効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、その合計量が、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0056】
La成分は屈折率を高くする効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、その合計量が、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0057】
Gd成分は屈折率を高くする効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、その合計量が、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0058】
、Yb、La及びGdからなる希土類酸化物成分は、上述のように化学的耐久性の改善や屈折率を高くする効果を有する任意成分である。しかし、これら成分が過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、その合計量が、好ましくは10.0%、より好ましくは7.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0059】
Sb成分は清澄作用の効果がある成分であるので、本発明においては任意に含有できる。しかし、過剰に含有すると失透性が増加しやすくなり、ガラス転移点(Tg)が高くなりやすいという不利益がある。したがって本発明においては、好ましくは0.5%、より好ましくは0.4%、最も好ましくは0.3%を上限とする。
【0060】
次に、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない成分について説明する。
【0061】
鉛化合物は、精密プレス成形時に金型と融着しやすい成分であるという問題並びにガラスの製造のみならず、研磨等のガラスの冷間加工及びガラスの廃棄に至るまで、環境対策上の措置が必要となり、環境負荷が大きい成分であるという問題があるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0062】
As、カドミウム及びトリウム成分は、共に、環境に有害な影響を与え、環境負荷の非常に大きい成分であるため、本発明の光学ガラスに含有させるべきではない。
【0063】
さらに本発明の光学ガラスにおいては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Eu、Nd、Sm、Tb、Dy、Er等の着色成分は、光線透過率を下げやすいので、実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、不純物として混入される場合を除き、人為的に含有させないことを意味する。
【0064】
本発明のガラス組成物は、その組成がmol%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物基準組成で概ね以下の値をとる。
TeO 40〜90%、
O(RはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上) 5〜30%、
ZnO 1〜20%
Bi 1〜50%及び
Al及び/又はGaを外割で0.005〜3.0mol%並びに
、GeO及びP 0〜5%
SiO 0〜10%及び/又は
LiO 0.5〜10%及び/又は
NaO 0〜10%及び/又は
O 0〜10%及び/又は
MgO 0〜5%及び/又は
CaO 0〜20%及び/又は
BaO 0〜20%及び/又は
SrO 0〜20%及び/又は
TiO 0〜5%及び/又は
Nb 0〜20%及び/又は
Ta 0〜25%及び/又は
WO 0〜15%及び/又は
ZrO 0〜5%及び/又は
0〜15%及び/又は
Yb 0〜25%及び/又は
La 0〜20%及び/又は
Gd 0〜10%及び/又は
Sb 0〜2%
【0065】
次に、本発明において規定される物性について説明する。
【0066】
本発明の光学ガラスにおいては、屈折率(nd)が1.9以上およびアッベ数(νd)が15以上が所望である。かかる光学恒数を有することにより、例えばカメラ内のレンズ枚数を減らす等の市場の要求に対応することできる。
【0067】
ガラス転移点はガラスの熱膨張測定によって測定されるものである、ガラス転移点が高いほど成形温度が高いことを示し、すなわち金型の寿命が短くなることを示唆する。本発明の光学ガラスにおいては、従来の超鋼製金型のみならず、ステンレス鋼等の金型による精密プレス成形にも適用できることが好ましいため、そのガラス転移点が、好ましくは300℃以下、より好ましくは295℃以下、最も好ましくは290℃以下である
【0068】
本発明においては、化学的耐久性の指標として、日本光学硝子工業会規格;JOGIS06−1999に規定される粉末法耐水性を用いている。化学的耐久性が悪すぎると、光学ガラスとして使用することが困難となる。特に、本発明の光学ガラスをレンズプリフォーム材に適用することを考慮すると、好ましくは1〜3級。より好ましくは1〜2級、最も好ましくは1級である。
【0069】
前述のとおり本発明の光学ガラスはプレス成形用のプリフォーム材として使用することができ、或いは溶融ガラスをダイレクトプレスすることも可能である。プリフォーム材として使用する場合、その製造方法及び精密プレス成形方法は特に限定されるものではなく、公知の製造方法及び成形方法を使用することができる。プリフォーム材の製造方法としては、例えば特開平8−319124に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8−73229に記載の光学ガラスの製造方法及び製造装置のように、溶融ガラスから直接プリフォーム材を製造することもでき、また板状ガラスや棒状ガラスを冷間加工して製造しても良い。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0071】
本発明のガラスの実施例(No.1〜No.11)の組成を、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移点(Tg)の結果と共に表1〜3に示す。表中、各成分の組成はmol%で表示するものとする。







































【0072】
【表1】





























【0073】
【表2】





























【0074】
【表3】
























【0075】
表1〜表3に示した本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.11)は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常の光学ガラス用原料を表1〜表3に示した各実施例の組成の割合となるように秤量し、混合し、白金または金るつぼに投入し、組成による熔融性に応じて、500〜1000℃で、30分〜5時間溶融、清澄、攪拌して均質化した後、金型等に鋳込み徐冷することにより得ることができた。
【0076】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は徐冷降温速度−25℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
【0077】
ガラス転移点(Tg)は日本光学硝子工業会規格JOJIS08−2003(光学ガラスの熱膨張の測定方法)に記載された方法により測定した。ただし、試料片として長さ50mm、直径4mmの試料を使用した。
【0078】
粉末法耐水性を示す級の値は、日本光学硝子工業会規格;JOGIS06−1999により、次のようにして求めた。実施例(No.1〜11)のガラスを、粒度425〜600μmに破砕し、破砕したガラス試料を比重グラムとり、白金かごの中に入れ、白金かごを純水(pH6.5−7.5)の入った石英ガラス製丸底フラスコに入れて、沸騰水浴中で60分間処理した後、処理後のガラス試料の減量率(%)を算出して、減量率が0.05%未満の場合を級1、減量率が0.05〜0.10%未満の場合を級2、減量率が0.10〜0.25%未満の場合を級3としたものであり、級の数が小さいほど、ガラスの耐水性が優れていることを意味する。
【0079】
表1〜表3に見られるとおり、本発明の実施例の光学ガラス(No.1〜No.11)はすべて、前記範囲内の光学定数(屈折率(nd)及びアッベ数(νd))を有し、ガラス転移点(Tg)が300℃以下の範囲にあるため、低温での精密モールドプレス成形に適しており、更には粉末法耐水性が良好であるので化学的耐久性にも優れて、精密プレス成形のためのレンズプリフォーム材への適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率(nd)が1.9以上およびアッベ数(νd)が15以上であり、ガラス転移点(Tg)が300℃以下であり、Pb及び/又はAs化合物を含まず、TeO成分を50mol%以上含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
O(RはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上)成分、ZnO成分、Bi成分を含有し、さらにAl及び/又はGa成分を含有する請求項1の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物基準のmol%で、
TeO 50〜90%、
O(RはLi、Na、K、Csからなる群より選択される1種以上) 5〜30%、
ZnO 1〜30%及び
Bi 1〜20%
の各成分を含有する請求項1又は2の光学ガラス。
【請求項4】
Al及び/又はGa成分を外割で0.01〜3.0mol%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項5】
粉末法耐水性が1級、2級又は3級であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
、GeO及びP成分の含有率の合計が5mol%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
O成分がLiO及び/又はNaO成分からなる請求項2〜6のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
F成分を実質的に含有しない請求項1〜7のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物基準のmol%で、任意成分として
SiO 0〜10%及び/又は
LiO 0〜30%及び/又は
NaO 0〜20%及び/又は
O 0〜15%及び/又は
CsO 0〜10%及び/又は
MgO 0〜10%及び/又は
CaO 0〜20%及び/又は
BaO 0〜20%及び/又は
SrO 0〜20%及び/又は
TiO 0〜10%及び/又は
Nb 0〜10%及び/又は
Ta 0〜10%及び/又は
WO 0〜10%及び/又は
ZrO 0〜10%及び/又は
0〜10%及び/又は
Yb 0〜10%及び/又は
La 0〜10%及び/又は
Gd 0〜10%及び/又は
Sb 0〜0.5%
の各成分を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項10】
、Yb、La及びGd成分の含有量の合計が10mol%未満である請求項1〜9のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学ガラスを精密プレス成形してなる光学素子。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項13】
請求項12のプリフォームを精密プレス成形してなる光学素子。

【公開番号】特開2008−105869(P2008−105869A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288068(P2006−288068)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】