説明

光学ガラス

【課題】高屈折率および低分散の光学特性を有し、かつモールドプレス成形した場合であっても表面に白濁が発生しにくい光学ガラスを提供する。
【解決手段】質量%で、SiO 0〜21%、B 4〜30%、ZnO 0〜40%、ZrO 0〜10%、La 15〜50%、Gd 0〜40%、Ta 0〜30%、Sbの0.0001%〜0.1%未満の組成を含有することを特徴とする光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にモールドプレス成形に好適な光学ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVDその他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等のレンズとしては非球面形状のレンズが広く用いられている。レンズ用ガラス素材として種々のガラスが提案されている。特に近年、高屈折率および低分散(高アッベ数)の光学特性が要求される傾向にある。このような光学特性を有する光学ガラスとして、例えば屈折率1.80以上、アッベ数35以上のSiO―B系ガラスが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
この種のレンズの作製方法として、例えば以下のような方法が知られている。
【0004】
まず、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して、液滴状ガラスを作製し(液滴成形)、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。または、溶融ガラスを急冷鋳造し一旦ガラスインゴットを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。続いて、プリフォームガラスを加熱して軟化し、高精度な成形表面を持つ金型によって加圧成形し、金型の表面形状をガラスに転写してレンズを作製する。
【0005】
このような成形方法は一般にモールドプレス成形法と呼ばれており、大量生産に適した方法として近年広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−267748号公報
【特許文献2】特開2006−16295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プリフォームガラスをモールドプレス成形すると、ガラス表面に白濁が生じることがある。レンズ表面の白濁は、レンズを透過する光を遮断、散乱させるため致命的な欠陥となりうる。
【0008】
本発明の目的は、高屈折率および低分散の光学特性を有し、かつモールドプレス成形した場合であっても表面に白濁が発生しにくい光学ガラスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が種々のテストを行った結果、比較的高粘性のプリフォームガラスをモールドプレスすると白濁が生じることが明らかになった。さらに調査を進めたところ、白濁の原因は高粘性のガラスに清澄剤として入っているSbの揮発物がガラスと反応することが原因であることを突き止め、本発明を提案するに到った。
【0010】
即ち、本発明は、質量%で、SiO 0〜21%、B 4〜30%、ZnO 0〜40%、ZrO 0〜10%、La 15〜50%、Gd 0〜40%、Ta 0〜30%、Sbの0.0001%〜0.1%未満の組成を含有することを特徴とする光学ガラスに関する。
【0011】
本発明の光学ガラスは、上記組成範囲に限定することにより、高屈折率および低分散であり、かつSbに起因するモールドプレス時の白濁を効果的に抑制することが可能になる。
【0012】
第二に、本発明の光学ガラスは、モールドプレス成形用であることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、本発明の効果を的確に享受することができる。
【0014】
第三に、本発明の光学ガラスは、ガラス転移点が650℃以下であることが好ましい。
【0015】
ガラス転移点が650℃以下と低いことにより、特にモールドプレス成形用として好適なガラスとなる。
【0016】
第四に、本発明の光学ガラスは、400nmにおける内部透過率が90%以上であることが好ましい。
【0017】
上記構成によると、短波長可視領域付近の透過率が良好であり、高機能な撮像レンズに用いられる大径プレスレンズなどの材料として好適である。なお、「内部透過率」とは、試料の入射側および出射側における表面反射損失を除いた透過率をいう。特に、本発明において「内部透過率」とは、厚さ10mmでの内部透過率を指し、具体的には、厚さ5mmおよび10mmのそれぞれの表面反射損失を含む透過率の測定値から算出される。
【0018】
第五に、本発明の光学ガラスは、透過率吸収端の波長が340nm以下であることが好ましい。
【0019】
上記構成とすることにより、短波長可視領域付近の透過率が高いガラスとなる。そのため、高機能な撮像レンズに用いられる大径プレスレンズなどの材料として好適である。なお、「透過率吸収端の波長」とは、厚さ10mmでの透過率曲線において、透過率が0.5%になる波長をいう。透過率吸収端を透過率が0.5%になる波長で評価する理由は、0%付近ではピークがブロードになっており、ばらつきが大きいためである。
【0020】
第六に、本発明の光学ガラスは、透過率75%となる波長λT75が410nm以下であることが好ましい。
【0021】
上記構成とすることにより、短波長可視領域付近の透過率が高いガラスとなる。そのため、高機能な撮像レンズに用いられる大径プレスレンズなどの材料として好適である。なお、本発明において、透過率a%となる波長λTaは日本光学硝子工業会規格(JOGIS)に準じて測定したものをいう。具体的には、厚さ10mmでの透過率曲線において、透過率がa%となる波長をいう。
【0022】
第七に、本発明の光学ガラスは、透過率70%となる波長λT70が395nm以下であることが好ましい。
【0023】
第八に、本発明の光学ガラスは、透過率5%となる波長λT5が350nm以下であることが好ましい。
【0024】
第九に、本発明の光学レンズは、上記ガラスからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の光学ガラスは、Sbの含有量を制限することで、モールドプレス時にガラス表面に白濁が生じないガラスを得ることができる。このため、レンズ表面の高い面精度が維持され、量産性に優れたガラスである。また少量のSbを含有させておくことにより、高粘性のガラスであってもガラス溶融を不当に高温、長時間行うことなく清澄することが可能になる。
【0026】
それゆえ本発明の光学ガラスは、CD、MD、DVDその他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等といったモールドプレス成形で得られる光学レンズ用硝材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
特に高粘性の光学ガラスには、一般的にSbが清澄剤として0.5質量%程度含まれる。ところがモールドプレス時にガラスが高温の金型と接触すると、ガラス中のSbが還元されて析出して金型を汚染し、これがガラス表面に付着して白濁となる。
【0028】
そこで本発明はSbを0.1質量%未満に制限することによって、モールドプレス時にガラス表面で発生する白濁を防止している。Sbの上限は0.08質量%以下、特に0.05質量%以下であることが好ましい。なおSbを0.1質量%未満とすることにより清澄が不十分となる場合は、溶融時間を長くする、溶融温度を高くする、溶融時のガラス融液の深さを浅くすることなどの方法で補完することもできる。ただし、溶融時間を長くしたり、溶融温度を高くしたりする方法ではガラス中に溶け込んでくるPt量が多くなり、ガラスが着色する傾向がある。また、ガラス融液の深さを浅くすると、生産性に劣る傾向がある。従って、これらの補完方法はなるべく控えることが好ましい。
【0029】
一方、内部に泡がなく、また白金の溶け込みによる着色のないガラスを得る観点から、Sbの下限は0.0001質量%以上に限定される。好ましくは0.001質量%以上、0.005質量%以上、特に0.01質量%以上であることが好ましい。Sbが0.0001質量%未満であると、清澄の効果が認められず、ガラス中に泡が残る。Sbの含有量が0.0001質量%以上であれば、清澄可能な量のガスが放出されて、溶融時間を極端に長く、或いは溶融温度を極端に高くしなくても、泡を含まず、しかも着色のないガラスを得ることが可能になる。
【0030】
本発明における清澄剤はSbであるが、Sbに加えてその他の清澄剤成分を含有させることも可能である。例えばSnOやCeOがその他の清澄剤として考えられる。ただしSnOは、Sbと同様にモールドプレス時の白濁になる恐れがあるため、多量の添加は避けるべきである。SnOの含有量は0.1質量%未満であることが好ましい。またCeOは着色する恐れがあるので、やはり多量の添加は避けるべきである。CeOの含有量は0.1質量%未満であることが好ましい。さらにSb、SnOおよびCeOの合量は、0.1質量%未満で0.0001質量%以上が好ましい。
【0031】
ガラスが高粘性である場合に、本発明の効果をより一層享受できる。高粘性のガラスは、溶融時に泡が抜けにくいため、Sb等の清澄剤を必要とするからである。高粘性とは具体的には1300℃で100.1dPa・s以上の粘性を持つガラスを指す。また泡を浮上しやすくするという観点から、1300℃における粘性が101.0dPa・s以下であることが好ましい。
【0032】
本発明のガラスは、質量%で、SiO 0〜21%、B 4〜30%、ZnO 0〜40%、ZrO 0〜10%、La 15〜50%、Gd 0〜40%、Ta 0〜30%、Sbの0.0001%〜0.1%未満の組成を含有することを特徴とする
以下に、各ガラスの組成範囲を限定した理由を示す。なおSbの限定理由は、既述の通りであり、以下の説明では割愛する。以下の記載において、「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。
【0033】
SiOはガラスの骨格を構成する成分であり、失透および分相を抑制するとともに耐酸性や耐水性等の耐候性を向上させる効果がある。また、アッベ数を高める効果がある。SiOの含有量は0〜21%、1〜20%、3〜16%、特に3.5〜10%が好ましい。SiOの含有量が21%を超えると、ガラスの屈折率が低下したり、軟化点が高なる傾向がある。
【0034】
はガラスの骨格を構成する成分であり、アッベ数を最も高める成分でもある。Bの含有量は4〜30%、5〜30%、7〜25%、特に7〜20%が好ましい。Bの含有量が4%未満であると、高いアッベ数、具体的には40以上、特に41以上のアッベ数を有するガラスが得られにくくなる。一方、Bの含有量が30%を超えると、ガラス成形時にBとLaで形成される失透物が生成しやすく、また、屈折率が低下するとともに耐候性が悪化する傾向がある。
【0035】
ZnOはガラスの屈折率を高める成分である。また、ZnOを添加することにより、ガラス粘度およびガラス転移温度を低下させることができるため、金型と融着しにくいガラスが得られやすくなる。また、ZnOは多量に添加してもアッベ数を低下させにくい成分でもある。さらに、耐候性を向上させる効果もある。なお、アルカリ土類金属成分(MgO、CaO、SrO、BaO)に比べ失透傾向が強くないため、多量に含有させても均質なガラスが得られやすい。ZnOの含有量は0〜40%、1〜35%、1〜30%、特に2〜20%が好ましい。ZnOの含有量が40%を超えると、逆に耐候性が悪化する傾向がある。
【0036】
ZrOは屈折率を高める成分であるとともにアッベ数を低下させにくい成分である。また、中間酸化物としてガラスの骨格を形成するため、耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を改善したり、化学的耐久性を向上させる効果もある。ZrOの含有量は0〜10%、2〜10%、特に3〜8%が好ましい。ZrOの含有量が10%を超えると、ガラス転移温度が上昇しモールドプレス成形性が悪化するとともに、ZrOを主成分とする失透物が析出しやすくなる。
【0037】
Laはアッベ数を殆ど低下させることなく屈折率を高めることが可能な成分である。Laの含有量は15〜50%、20〜50%、22〜48%、特に25〜46%が好ましい。Laの含有量が15%未満であると、十分に高い屈折率が得られにくい傾向がある。一方、Laの含有量が50%を超えると、耐失透性が悪化し、例えば、ガラス成形時にBとLaで形成される失透物が生成しやすくなる。また、モールドプレス成形時にもガラスが失透しやすくなる。
【0038】
Gdはガラスの屈折率を高める成分である。また、耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を向上させる効果があり、かつ、作業温度範囲を拡大させることができる成分でもある。さらにGdを添加することで金型と融着しにくいガラスが得られやすくなる。Gdの含有量は0〜40%、0〜30%、特に5〜20%が好ましい。Gdの含有量が40%を超えると、ガラスの分相傾向が強くなり均質なガラスが得られにくくなる。また、BとLaを含有する組成系では、La、BおよびGdで形成される失透物がガラス表面に析出(表面失透)しやすくなり、ガラスの液相温度が上昇する傾向がある。また、アッベ数が低下する傾向がある。ただし、Gdは他のアッベ数を低下させる成分(例えば、Ta、WO、TiO等)に比べると、アッベ数低下の程度は低い。
【0039】
Taはガラスの屈折率、化学的耐久性と耐失透性(BおよびLaで形成される失透物の抑制)を高める成分である。Taの含有量は0〜30%、3〜25%、特に5〜22%が好ましい。Taの含有量が30%を超えると、アッベ数が低下する傾向があり、所望の光学特性が得られにくくなる。また、La、TaおよびBで形成される失透物が析出して液相温度が上昇しやすくなる。さらに、コストも高くなる。なお、高いアッベ数が要求されない場合は、Taを多く含有させることにより1.80以上の屈折率ndを容易に得ることが可能になる。
【0040】
鉛成分(例えば、PbO)、砒素成分(例えば、As)、F成分(例えば、F)は、環境上の理由から、実質的なガラスへの導入は避けるべきである。それゆえ、本発明ではこれらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。具体的には、各成分の含有量は0.1質量%以下に限定することが好ましい。
【0041】
上記組成を有する本発明の光学ガラスにおいて、低分散、高屈折率のガラスを得るためには、SiOとBの合量を適切に調整することが好ましい。具体的には、これらの成分の合量は12〜33%、好ましくは12〜25%、より好ましくは14〜22%である。これらの成分の合量が少なすぎると、低分散を維持することが難しくなり、逆に多すぎると高屈折率のガラスが得られにくくなる。
【0042】
上記組成を有する本発明の光学ガラスにおいて、低分散のガラス、特にアッベ数νdが36以上のガラスを得るためには、アッベ数を低下させる成分であるGd、Ta、WO、TiOの合量を制限すればよい。具体的には、これらの成分の合量は45%以下、特に42%以下が好ましい。
【0043】
また本発明の光学ガラスには、上記成分以外にも種々の成分を添加可能である。例えば、Al、CaO、BaO、SrO、MgO、LiO、NaO、KO、Y、Yb、清澄剤等を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で添加可能である。
【0044】
AlはSiOやBとともにガラスの骨格を構成する成分である。また、耐候性を向上させる効果があり、特に、ガラス中の成分が水へ選択的に溶出することを効果的に抑制することができる。Alの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。Alの含有量が10%を超えると、ガラスが失透しやすくなる。また、溶融性が悪化して脈理や泡がガラス中に残り、レンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなるおそれがある。
【0045】
MgO、CaO、BaO、SrOといったアルカリ土類金属酸化物(RO)は融剤として作用するとともに、アッベ数を低下させずに屈折率を高める成分である。ROの含有量(合量)で0〜20%、1〜20%、特に5〜10%が好ましい。ROの含有量が多くなりすぎると、プリフォームガラスの溶融および成形工程中に、BおよびLaを主成分とする失透物が析出しやすくなる。その結果、液相温度が上昇して作業温度範囲が狭くなり、量産化が困難となる傾向がある。さらに、耐候性が悪化しやすくなり、研磨洗浄水や各種洗浄溶液中へのガラス成分の溶出量が増大したり、高温多湿状態でのガラス表面の変質(ガラス表面からのRO成分の析出)が顕著になる傾向がある。
【0046】
なお、各RO成分の含有量は以下のように制限することが好ましい。
【0047】
CaOはアッベ数を低下させることなく屈折率を高める成分である。CaOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。
【0048】
BaOは屈折率を高める成分である。また、CaOに比べると高温多湿状態でのガラス表面からの析出量が少ない。BaOの含有量は0〜20%、0〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。
【0049】
SrOは屈折率を高める成分である。また、CaOに比べると高温多湿状態でのガラス表面からの析出量が少ない。したがって、SrOを積極的に含有させることにより、耐候性に優れたガラスを得ることができる。SrOの含有量は0〜20%、0〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。
【0050】
MgOは屈折率を高める成分である。MgOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。MgOの含有量が10%を超えると失透しやすくなる。
【0051】
LiOはガラスの軟化点を低下させる成分である。LiOはアルカリ金属酸化物(R’O)のなかでも最もガラスの軟化点を低下させる効果が大きい。しかし、LiOは分相性が強いため、多量に含有すると、BとLaを主成分とする失透物が析出しやすく、結果として、液相温度が高くなって作業性が悪化する傾向がある。また、LiOの含有量が多すぎると、モールドプレス成形の際に発生する揮発物が増加したり、金型と融着しやすくなったりして、モールドプレス成形が困難になる。以上の観点から、LiOの含有量は0〜5%、0.1〜5%、0.5〜3%、特に1〜1.5%が好ましい。
【0052】
NaOは、LiOと同様にガラスの軟化点を低下させる効果を有する。しかしながら、その含有量が多すぎると、溶融時にBとNaOで形成される揮発物が多くなり、脈理の生成を助長してしまう。また、BとLaを主成分とする失透物が析出しやすく、液相温度が高くなる傾向がある。さらに、モールドプレス成形の際に発生する揮発物が増加したり、金型と融着しやすくなる傾向がある。以上の観点から、NaOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。
【0053】
Oも、LiO同様にガラスの軟化点を低下させる効果を有する。KOの含有量が多すぎると、耐候性が悪化する傾向がある。また、BとLaを主成分とする失透物が析出し、液相温度が高くなりやすい。さらに、モールドプレス成形の際に発生する揮発物が増加したり、金型に融着しやすくなる傾向がある。以上の観点から、KOの含有量は0〜10%、特に0.1〜5%が好ましい。
【0054】
およびYbはアッベ数を低下させることなく屈折率を高める成分である。そのため、Laとの置換により耐失透性を改善することができる。また、適量添加することによって、B−La系ガラスやSiO−B−La系ガラスに起こりやすい分相を抑制する効果がある。YおよびYbの含有量は、各々15%以下、各々8%以下、特に各々2%以下が好ましい。YおよびYbのいずれかの含有量が15%を超えると耐失透性が悪化し、作業温度範囲が狭くなる傾向がある。また、ガラス中に脈理が発生しやすくなる。なお、上記効果を十分に得るためには、YおよびYbは合量で1%以上含有することが好ましい。
【0055】
なお、Nb、WO、TiO、GeO、TeO、Biは、ガラスの高屈折率化に寄与する成分であるが、ガラスの透過率低下の原因となる。具体的には、その成分自体が着色するものや、ガラス中に含まれる不純物の着色を助長するものがある。そこで、特に透過率の高い光学ガラスを得るためには、これらの成分の含有量を各々1%未満に限定することが好ましい。さらには、これらの成分の合量が1%未満、0.5%以下、0.3%以下、0.1%以下、特に実質的に含有しないことがより好ましい。
【0056】
上記の組成範囲にあって、より好ましい組成範囲として、質量%で、SiO 3〜20%、B 7〜25%、ZnO 1〜30%、ZrO 2〜10%、La 22〜48%、Gd 0〜30%、Ta 3〜25%、Sb 0.0001〜0.1%未満含む組成が挙げられる。
【0057】
上記の組成範囲にあって、さらに好ましい組成範囲として、質量%で、SiO 3.5〜10%、B 7〜20%、ZnO 2〜20%、ZrO 3〜8%、La 25〜46%、Gd 5〜20%、Ta 3〜25%、Sb 0.0001〜0.1%未満含む組成が挙げられる。
【0058】
本発明のガラスは、モールドプレス成形が採用可能な低軟化点ガラスである場合に、その効果をより一層享受できる。このような観点から、本発明の光学ガラスのガラス転移温度は、650℃以下、640℃以下、特に630℃以下が好ましい。ガラス転移温度が650℃を超えると、モールドプレス成形を行う場合に、金型の酸化やガラス成分の揮発による金型の汚染等が原因で金型が劣化しやすくなり、また、ガラスが金型と融着しやすくなる。さらに、Sbに起因する揮発物がガラスと反応しやすくなり、ガラス表面の白濁が発生しやすくなる。
【0059】
本発明の光学ガラスは、400nmにおける内部透過率が90%以上、90.5%以上、特に92%以上であることが好ましい。一般的に、内部透過率はFe、Co、Crなどの金属酸化物等による着色がない場合、吸収の少ない400nm以上の領域では、屈折率によっても値が変化する。屈折率が高い場合、内部透過率は小さくなる傾向にある。400nmにおける内部透過率が90%未満であると、短波長可視領域付近の透過率に劣り、特に、高機能な撮像レンズに用いられる大径プレスレンズ等として使用することが困難となる。
【0060】
本発明の光学ガラスは、透過率吸収端の波長が340nm以下、336nm以下、特に330nm以下であることが好ましい。透過率吸収端の波長が340nmを超えると、短波長可視領域付近の透過率に劣り、特に、高機能な撮像レンズに用いられる大径プレスレンズ等として使用することが困難となる。
【0061】
本発明の光学ガラスは、透過率75%となる波長λT75が410nm以下、405nm以下、特に400nm以下であることが好ましい。λT75が410nmを超えると、短波長可視領域付近の透過率に劣り、特に、高機能な撮像レンズに用いられる大径プレスレンズ等として使用することが困難となる。
【0062】
本発明の光学ガラスは、透過率70%となる波長λT70が395nm以下、392nm以下、特に380nm以下であることが好ましい。λT70が395nmを超えると、短波長可視領域付近の透過率に劣り、特に、高機能な撮像レンズに用いられる大径プレスレンズ等として使用することが困難となる。
【0063】
本発明の光学ガラスは、透過率5%となる波長λT5が350nm以下、346nm以下、特に340nm以下であることが好ましい。λT5が350nmを超えると、短波長可視領域付近の透過率に劣り、特に、高機能な撮像レンズに用いられる大径プレスレンズ等として使用することが困難となる。
【0064】
本発明の光学ガラスは、500nmにおける透過率が80%以上、特に80.5%以上であることが好ましい。500nmにおける透過率が80%未満であると、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズなどの高い可視光透過率が要求されるプレスレンズ等として使用することが困難となる。
【0065】
次に、本発明の光学ガラスを用いたレンズ等の光学部品の製造方法について説明する。
【0066】
まず、所望の組成を有するように調合したガラス原料を溶融容器内で溶融する。
【0067】
清澄剤としてSbを使用するという観点から、ガラスの溶融温度は1150℃以上、1200℃以上、特に1250℃以上が好ましい。なお溶融容器を構成する白金金属からのPt溶け込みによるガラス着色を防止する観点から、溶融温度は1450℃以下、1400℃以下、1350℃以下、特に1300℃以下が好ましい。
【0068】
また溶融時間が短すぎると、十分に清澄できない可能性があるので、溶融時間は2時間以上、特に3時間以上が好ましい。ただし、溶融容器からのPt溶け込みによるガラス着色を防止する観点から、溶融時間は8時間以下、特に5時間以下が好ましい。
【0069】
また溶融容器内のガラス融液の深さは、浅すぎると生産性が悪くなるため、30mm以上、特に50mm以上が好ましい。一方、深すぎると泡の浮上に時間がかかるため、1m以下、特に0.5m以下が好ましい。
【0070】
続いて、溶融ガラスをモールドプレス可能な大きさのプリフォームに成形する。プリフォームの成形方法としては、板状や塊状のガラス片から所定の形状に切り出して研磨、洗浄して作製してもよいが、連続的に所定量ずつ滴下してから研削、研磨、洗浄する液滴成形法を用いると、容易に成形できるため好ましい。
【0071】
得られたプリフォームを加熱軟化してモールドプレスして所望の形状に加工した後、洗浄、乾燥して光学レンズ等の光学部品が得られる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の光学ガラスを実施例に基づいて詳細に説明する。
【0073】
表1〜9は本発明の実施例(No.2〜4、7〜9、12〜14、17〜19、22〜24、27〜29、32〜34、37〜39、41〜50)ならびに比較例(No.1、5、6、10、11、15、16、20、21、25、26、30、31、35、36、40)を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
【表8】

【0082】
【表9】

【0083】
【表10】

【0084】
各試料は、次のようにして作製した。
【0085】
各表に記載の組成となるように調合したガラス原料を、ガラス融液深さが50mmになるよう白金ルツボに入れ、1300〜1450℃で3時間溶融した。次に、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却固化した後、アニールを行ってガラス試料を作製した。このようにして得られたガラス試料について、屈折率nd、アッベ数νd、ガラス転移点Tg、液相温度、1300℃におけるガラスの粘度、各透過率、泡の有無、白濁発生率、Sb析出レベルを評価した。結果を表1〜9に示す。
【0086】
屈折率ndはヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
【0087】
アッベ数νdは、上記のd線の屈折率と水素ランプのF線(486.1nm)、同じく水素ランプのC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、νd=[(nd−1)/(nF−nC)]の式から算出した。
【0088】
ガラス転移温度Tgは熱膨張測定装置(dilato meter)にて測定される値によって評価した。
【0089】
液相温度は、電気炉で1350℃−5分の条件でガラスを溶融後、温度勾配を有する電気炉で18時間保持した後、空気中で放冷し、光学顕微鏡で失透物の析出位置を求めることで測定した。液相温度が1200℃以下であれば、100.5以上の液相粘度を達成しやすく、液滴成形を行っても失透が生じにくい。
【0090】
1300℃におけるガラスの粘度は周知の白金球引き上げ法にて測定した。
【0091】
波長500nmにおける透過率および透過率a%となる波長λTaは、肉厚が10mm±0.1mmになるようにガラス試料の両面を鏡面仕上げた後、分光光度計(島津製作所製 UV−3100PC)を用いて200〜800nmの波長域での透過率を0.5nm間隔で測定し、波長500nmにおける透過率、および透過率75%、70%、5%を示す波長により評価した。また、透過率吸収端の波長は、透過率0.5%となる波長により評価を行った。
【0092】
波長400nmにおける内部透過率は、まず分光光度計(株式会社島津製作所製UV−3100)を用いて、厚さ5mm±0.1mmおよび10mm±0.1mmの研磨された各試料について、波長200〜800nmの範囲における表面反射損失を含む透過率を測定し、得られた測定値から波長400nmにおける内部透過率を算出した。
【0093】
泡の有無は次のように評価した。ガラス試料を50×50×15mmに切断し、ベンジルアルコール溶液に浸して横から平行光を入射させ、顕微鏡試料台に設置し、100倍の倍率で観察を行い評価した。
【0094】
白濁発生確率は次のようにして評価した。まずPt−IrがコートされたWC板の上にガラス試料を載置し、Tg+25℃のN雰囲気にて1分間熱処理する作業を100回行った。その後、ガラス表面の白濁の有無を顕微鏡で観察した。このようにして100個の試料を評価し、白濁発生確率を求めた。
【0095】
Sb析出レベルは、WC板上にφ5×5mmのガラス試料を載置し、800℃のN雰囲気にて15分間熱処理を行った後、WC板のSb量をEPMA(日本電子製、JXA−8900M)のWDXにて面分析を行った。さらにWDXの面分析で得られた総信号量を測定面積で割った平均値を求めた。なおWDXの面分析は電流3×10−8Aで行った。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の光学用ガラスは、CD、MD、DVDその他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等の光学レンズに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 0〜21%、B 4〜30%、ZnO 0〜40%、ZrO 0〜10%、La 15〜50%、Gd 0〜40%、Ta 0〜30%、Sbの0.0001%〜0.1%未満の組成を含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
モールドプレス成形用であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
ガラス転移点が650℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
400nmにおける内部透過率が90%以上であることを特徴とする請求項1〜3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
透過率吸収端の波長が340nm以下であることを特徴とする請求項1〜4に記載の光学ガラス。
【請求項6】
透過率75%となる波長λT75が410nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
透過率70%となる波長λT70が395nm以下であることを特徴とする請求項1〜6に記載の光学ガラス。
【請求項8】
透過率5%となる波長λT5が350nm以下であることを特徴とする請求項1〜7に記載の光学ガラス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の光学ガラスからなることを特徴とする光学レンズ。

【公開番号】特開2010−215444(P2010−215444A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62806(P2009−62806)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】