光学フィルタ、光学装置及び光学フィルタの製造方法。
【課題】低反射な光吸収性の光学フィルタを提供する。また光学フィルタ用いた光学装置、光学フィルタの製造方法を提供する。
【解決手段】基板13上に、膜厚方向に屈折率が段階的に変化する屈折率傾斜薄膜12と
、反射を低減する反射防止構造体111とを有し、屈折率傾斜薄膜12の屈折率を膜厚方
向において、基板13側では、基板13の屈折率に近づくように変化し、反射防止構造体
111側では、反射防止構造体111の屈折率に近づくように変化させた光学フィルタを用いることにより解決する。また光学フィルタを撮影光学系に用いる。
【解決手段】基板13上に、膜厚方向に屈折率が段階的に変化する屈折率傾斜薄膜12と
、反射を低減する反射防止構造体111とを有し、屈折率傾斜薄膜12の屈折率を膜厚方
向において、基板13側では、基板13の屈折率に近づくように変化し、反射防止構造体
111側では、反射防止構造体111の屈折率に近づくように変化させた光学フィルタを用いることにより解決する。また光学フィルタを撮影光学系に用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性の基板上に光吸収性の薄膜と反射防止構造体をこの順に設けた光学フィルタそれを撮像光学系に用いた光学装置及び光学フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種様々な用途で使用されている光学フィルタは、フィルタ自身の反射に起因した問題を抱えている事が多い。例えば、撮像光学系などで使用される光学フィルタでは、フィルタを透過した光の一部が、他の部材によって反射され、光学フィルタの光出射面から、再び光学フィルタに入射される現象が起きる場合がある。このような場合に、光学フィルタがこの入射光の波長領域に反射率を持っていると、再度光を反射してしまい、これに起因した不具合を発生させる事がある。従って、光学フィルタにおける反射防止機能の更なる強化が強く望まれている。
【0003】
光学フィルタの所定の波長領域に対する透過光の制御には、反射を利用して透過光を減ずる光学フィルタと吸収を利用して透過光を減ずる光学フィルタがあり、また双方の性質を利用したものもある。光吸収を持つタイプの光学フィルタにおいても、吸収構造体を有する面の反射率を限りなくゼロに近づけておけば、光吸収特性を調整する事によって所望の透過特性を得る事が可能である。
【0004】
このような所望の波長領域に吸収を持つタイプの光学フィルタとしては、光量絞り装置などで用いられる、吸収型のND(Neutral Density)フィルタなどが一般的に広く知られている。
【0005】
光量絞りは、銀塩フィルム、或いはCCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものであり、被写界が明るくなるにつれ、より小さく絞り込まれていく構造になっている。したがって、快晴時や高輝度の被写界を撮影する際、絞りはいわゆる小絞り状態となり、絞りのハンチング現象や光の回折現象などの影響を受け易い事から、像性能に劣化を生じさせる場合がある。
【0006】
これに対する対策として、絞りを通る光路中の絞りの近傍にNDフィルタを配置するか、若しくはNDフィルタを絞り羽根に直接貼り付ける事で光量の制御を行い、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる様な工夫をしている。
【0007】
近年では撮像素子の感度が向上するに従い、NDフィルタの濃度を濃くして、光の透過率をさらに低下させ、高感度の撮像素子を使用した場合であっても、絞りの開口が小さくなり過ぎないようにする改善がなされてきた。
【0008】
NDフィルタを構成する基板には、ガラスなどの透明基板が用いられる場合もあるが、任意形状への加工性や、小型化・軽量化などの要望に伴い、最近では様々なプラスチック材料が基板用として多く使用されるようになってきている。この基板用のプラスチック材料としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)及びPO(ポリオレフィン)等を挙げることができる。これらの中でも特に、耐熱性や柔軟性、さらにはコスト的な要素も含めた総合的な観点より、Arton(JSR社製:製品名)やZeonex(日本ゼオン社製:製品名)などに代表されるノルボルネン系の樹脂や、ポリイミド系の樹脂などが好適である。
【0009】
光吸収タイプのNDフィルタには、基板中に光を吸収する有機色素または顔料を混ぜて練り込むタイプのものや、光を吸収する有機色素または顔料を塗布するタイプのものなどがある。これらのタイプでは、分光透過率の波長依存性が大きいと言った致命的な欠点を有する場合がある。したがって、現在では蒸着法やスパッタ法など真空成膜法により、プラスチックやガラスなどの透明基板上に、多層膜を生成する事でNDフィルタを作製するのが最も一般的なNDフィルタの作製手法となっている。
【0010】
このようなNDフィルタにおいても、最近の固体撮像素子の更なる高感度化、高精細化等に伴い、先に述べたようなフィルタ自身の反射に起因した、ゴーストやフレア等の撮影画像への不具合が生ずる可能性が高まってきており、可視光波長領域における分光反射率を従来以上に低減することが1つの大きな課題となっている。
【0011】
反射低減策としては次のような方法が知られている。まず、特許文献1では、例えばSiO2、MgF2、Nb2O5、TiO2、Ta2O5、ZrO2等の異なる材料からなる屈折率の異なる数種類の薄膜を積層して多層膜タイプの反射防止膜とし、任意の波長領域の反射率を抑制する方法が提案されている。また、特許文献2には、反射防止構造体として微細周期構造体を用いたNDフィルタが開示されている。更に、光吸収膜において所望の光透過特性を得る例として、特許文献3では、透過平坦性を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−075902号公報
【特許文献2】特開2009−122216号公報
【特許文献3】特開2010−277094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1で示されたような多層膜での反射防止膜の場合には、広い波長領域にわたって反射率を大幅に低減するには、多層膜を構成する薄膜材料として使用できる材料が限定されているため、相当の層数を必要としたり、設計が複雑になってしまう。
【0014】
また、特許文献2で示されている、サブミクロンピッチで形成された微細周期構造体をNDフィルタの反射防止構造体とする場合は、特許文献1で示した多層膜構成の場合よりも、反射防止の波長領域を拡げる事が比較的容易であり、さらに、反射率の低減も容易である。しかしながら、引用文献2に記載されている基板上に微細周期構造体を設ける構成では、これらの界面での光反射が問題となる場合がある。また、例えば多層薄膜からなる光吸収層でも、NDフィルタを構成する構造体間で生じる光反射を干渉効果のみでこれら全てを打ち消しあい、NDフィルタ総体としての反射をゼロに近づける事は著しく困難である。
【0015】
特許文献3では、所望の波長領域での分散特性が小さい吸収材料を用いる事で透過率の平坦性を向上させる方法が提案されている。透過率の平坦性のみを向上させ、所望の透過特性を得る事は比較的容易である。しかし、所定の濃度を維持したまま、例えば0.5%程度まで反射率を低減しつつ、平坦性を大幅に向上させる為には、非常に多くの層数や極薄層が必要となる等、設計が大変複雑になってしまうといった問題が生じる。
【0016】
本発明の目的は、上述のような光吸収性を有する光学フィルタの反射率に起因した不具合を低減する方法を提供することにある。また、反射率に起因した不具合を低減した光学フィルタおよび光学フィルタの製造方法を提供することにある。他の目的として、反射率に起因した不具合を低減するとともに透過率の平坦性を向上できる光学フィルタを提供する事にある。
【0017】
また、このような反射を低減した光学フィルタを撮像光学系に用いる事で、反射率に起因したゴーストを低減することができる。また、反射率を低減し、透過率の平坦性を向上した光学フィルタを撮像光学系に用いることで、高画質化など高精度化を実現できる光学装置を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明の光学フィルタは、光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾斜薄膜と、反射防止構造体と、を有し、前記屈折率傾斜薄膜はその膜厚方向に前記基板と反射防止構造体との間に配置されている光学フィルタであって、
前記屈折率傾斜薄膜は、その膜厚方向において段階的に変化する屈折率変化を有し、
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向の屈折率の変化は、
(1)前記基板側において、前記屈折率変化の前記基板側の終点まで、前記屈折率が前記基板の屈折率に近づくように段階的に変化する部分と、
(2)前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点まで、前記屈折率が前記反射防止構造体の屈折率に近づくように段階的に変化する部分と、
を有することを特徴とする。
【0019】
また本発明にかかる光学装置は、上記構成の光学フィルタを撮影光学系に用いたことを特徴とする光学装置である。
【0020】
上記課題を解決するために本発明の光学フィルタの製造方法は、光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾斜薄膜と、反射防止構造体を有して構成される光学フィルタの製造方法であって、前記屈折率傾斜薄膜を設ける工程は、前記屈折率傾斜薄膜の前記基板の側での終点の屈折率を段階的に前記基板の屈折率に近づくように成膜する工程と、3種以上の元素からなる材料を用いた成膜法によりこれら材料の混合比を変化させ段階的に屈折率の異なる混合膜を隣り合う混合膜間の屈折率差を0.05〜0.1以内で成膜する工程と、前記屈折率傾斜薄膜の前記反射防止構造体の側での終点の屈折率を段階的に前記反射防止構造体の屈折率に近づけて成膜する工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光学フィルタおよび光学フィルタの製造方法によれば、反射を低減した吸収タイプの光学フィルタを得る事ができる。この光学フィルタを撮影光学系に用いた場合、フィルタの反射に起因した、例えばゴーストなどの不具合を低減することができる。また、分光透過特性の平坦性を向上させたフィルタでは、分光透過に起因した、例えば色バランスなどを改善する事ができる。また、このような光学フィルタを特に光量絞り装置などに用いた撮像装置は、高画質化を可能とした装置を得る事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る屈折率傾斜薄膜の屈折率分布例である。
【図2】本発明に係る屈折率傾斜薄膜の屈折率変化の境界部分が一定部分と変化部分の例である。
【図3】本発明に係る光学フィルタの構成例である。
【図4】本発明に係る光学フィルタの構成の変形例である。
【図5】本発明に係るTiOとTi2O3の分光透過率特性の例である。
【図6】本発明の実施に用いたスパッタ装置の概略平面図である。
【図7】実施例1における屈折率傾斜薄膜の屈折率プロファイルである。左方に基板が配置され、右方に反射防止構造体が配置される。
【図8】ピラ−アレイ状の微細周期構造体の概略図である。
【図9】微細周期構造体の配列例である。
【図10】実施例1のNDフィルタの製造方法のフローチャートである。
【図11】実施例1により作製された光学フィルタの分光反射率特性である。
【図12】実施例2により作製された光学フィルタの構成図である。
【図13】実施例2に記載の光学フィルタの構成例である。
【図14】実施例2における屈折率傾斜薄膜の屈折率プロファイルである。左方に基板が配置され、右方に反射防止構造体が配置される。
【図15】実施例2のNDフィルタの製造方法のフローチャートである。
【図16】実施例2により作製された光学フィルタの分光反射率特性である。
【図17】実施例3のNDフィルタを用いた光量絞り装置の説明図である。
【図18】実施例3のNDフィルタを用いた光学撮影装置の光学系の説明図である。
【図19】実施例4のNDフィルタを用いた光学測定装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明にかかる光学フィルタは、光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾
斜薄膜と、反射防止構造体とを有する。
【0024】
基板としては、光学フィルタの基板としての強度や光学特性を有するものであり、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の形成用の基板として機能可能であるものが利用される。基板としては、ガラス系の材料からなる基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルサルホン)、PC(ポリカーボネート)、PO(ポリオレフィン)、PI(ポリイミド)及びPMMA(ポリメチルメタクリレート)等から選択した樹脂材料からなる基板を用いることができる。
屈折率傾斜薄膜は、基板の屈折率に近づくように膜厚方向に段階的に屈折率変化し、基板と屈折率傾斜薄膜に隣接する構造体(例えば反射防止構造体)との屈折率差を低減する。
【0025】
この膜厚方向の屈折率変化を膜厚方向において複数の領域に分けた場合に、屈折率傾斜薄膜は、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域と、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域とを有する。好ましくは、屈折率傾斜薄膜の屈折率は、膜厚方向は段階的に変化する。また、屈折率傾斜薄膜に隣接している構造体が反射防止構造体である場合は、屈折率傾斜薄膜は、基板と反射防止構造体の屈折率差を低減する。屈折率傾斜薄膜の基板側端部の屈折率と屈折率傾斜薄膜の反射防止構造体側端部の屈折率差が、基板と反射防止構造体の屈折率差より小さくなるように設定する。特に好ましくは、基板の屈折率と反射防止構造体の屈折率を段階的に繋ぐように変化する。また基板の片面に設けた屈折率傾斜薄膜の反対側の面に少なくとも反射防止構造体及び屈折率傾斜薄膜のいずれか一方を備えることで基板両面の反射を低減してもよい。
【0026】
屈折率傾斜薄膜は光吸収性を有する薄膜であり、その厚さ方向において基板と反射防止構造体との間に配置される。屈折率傾斜薄膜の光吸収性は、目的とする光学フィルタの機能や特性に応じて設定される。入射光の所定の波長に対して、少なくともおよそ1%程度が吸収される場合に、当該波長に対して光吸収性を持つといえる。
【0027】
屈折率傾斜薄膜は、その厚さ方向において段階的に変化する屈折率変化を有する。この屈折率変化は、
(1)前記基板側において、前記屈折率変化の前記基板側の終点まで、前記屈折率が前記基板の屈折率に段階的に近づくように変化する部分と、
(2)前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点まで、前記屈折率が前記反射防止構造体の屈折率に段階的に近づくように変化する部分とを有する。
【0028】
なお、上記の屈折率変化の基板側終点とは、例えば、図1におけるAで示された点であり、反射防止構造体側の終点はBで示された点である。点A、点B、点Cは厚さ方向における屈折率の変化がほぼ一定な部分である。例えば、点A、点Bの屈折率に対して、屈折率傾斜薄膜中の段階的な屈折率をなす部分は点Cで示された点である。図1に示す例では、屈折率分布の変化の基板側終点(あるいは起点)Aを含む末端部分において、点Cに対して屈折率傾斜薄膜の屈折率が基板の屈折率に段階的に近づくように変化している。屈折率分布の変化の反射防止構造体終点(あるいは起点)Bを含む末端部分においても同様に、この点Bを含む末端部分において点Cに対して屈折率傾斜膜の屈折率が反射防止構造体の屈折率に近づくように変化している。なお、点Aは基板側界面に位置してもよい。また、点Bも反射防止構造体側の界面に位置してもよい。段階的な屈折率変化を持たせた屈折率傾斜薄膜成膜の成膜の過程で、点A、点Bの屈折率となるように成膜することによって隣接する物質との界面での反射を低減できる。本発明の光学フィルタの造方法においては、上記(1)(2)の部分を成膜する工程を有する。段階的な屈折率変化は、3種以上の元素からなる材料を用いた成膜法によりこれら材料の混合比を変化させ段階的に屈折率の異なる混合膜を隣り合う混合膜間の屈折率差を0.05〜0.2以内で成膜する混合膜成膜工程を用いることが好ましい。特に好ましくは、隣り合う混合膜間の屈折率差を0.05〜0.1以内で成膜する。
基板または反射防止構造体の屈折率に、屈折率が大きい方から近づいても、屈折率が小さい方から近づいてもよい。屈折率傾斜薄膜の膜厚方向における基板側の端部の屈折率と基板の屈折率の差aと、屈折率傾斜薄膜の膜厚方向における反射防止構造体側の端部の屈折率と反射防止構造体の屈折率の差bとの和(a+b)が、屈折率傾斜薄膜の両面に隣接する2つの構造体間の屈折率差よりも小さくなっていればよい。
つまり、屈折率傾斜薄膜の屈折率が、基板の屈折率と反射防止構造体を構成する材料の屈折率との屈折率差を低減するように膜厚方向に屈折率変化するとは、基板の屈折率Aと反射防止構造体の屈折率Bとの屈折率差|A−B|と(a+b)の関係が、|A−B|>a+bが成り立つことである。なお、この関係は、後述する図3及び図14における基板、他の屈折率傾斜薄膜及び他の反射防止構造体の場合においても同様である。
【0029】
また、本発明における段階的な変化とは、図2(a)及び図2(b)に示したような屈折率変化を含む。図3に屈折率傾斜薄膜を作成した際の屈折率プロファイル例を示す。n1より屈折率の高いn2の材料を使用した場合、n2とn1の間の屈折率を示す中間屈折率材料を形成することができる。この中間屈折率材料により屈折率がほぼ一定の部分を複数有した段階的な屈折率プロファイルを形成することができる。図2(a)では、明確に中間屈折率を形成する部分を連続的に屈折率傾斜薄膜内で形成した例である。一方、図2(b)では図2(a)における屈折率が段階的に変化する層間で屈折率が緩やかに連続的に変化している。図2(b)は、製造工程における環境変化や図2(a)を製造の後、所定時間経過し平滑化された状態等が考えられる。本発明における段階的な変化とは、所定膜厚以上の膜厚で、膜厚方向前後の膜組成が近く、所定の屈折率±0.01程度で近似的に一定である部分を有し、さらに、屈折率傾斜薄膜内で異なる所定の屈折率である部分が複数存在することを呼ぶ。より好ましくは、屈折率の範囲が所定の屈折率±0.005程度に制御することによって、各種光学特性を精度良く制御することができる。本発明を実施する光学フィルタの製造方法においては、屈折率を安定的に成膜できる範囲で成膜を行った。安定的に成膜するためには、少なくとも5nmの物理膜厚が必要である。所定の膜厚内で本発明の屈折率変化を行うためには、5〜100nm以内の物理膜厚で屈折率を変化させるのが好ましい。所定の屈折率±0.01程度で近似的に一定とは、屈折率が段階的に変化し、屈折率が近似的に一定である5〜100nmの膜厚の部分における屈折率の平均値に対して、±0.01以内であることを示す。
【0030】
なお、成膜方法によっては、基板上に形成される薄膜の最初の部分での厚さ方向の屈折率変化が生じても良い。後述するとおり、基板上に屈折率傾斜薄膜を成膜する際に、複数の薄膜形成用材料の配合比を変化させて膜厚方向での屈折率の段階的な変化を形成する。その場合、明確に屈折率が一定な成膜を行っても、ある時間経過後に複数の薄膜形成用材料の配合比を変化させた界面では、酸素の移動が起こり厚さ方向における屈折率の変化が生じることもある。また、成膜の環境によっては、屈折率が一定な膜間で緩やかな屈折率変化を生じる場合もある。基板側の段階的な屈折率変化の終点における屈折率は、基板の屈折率と同じか、あるいは、基板の屈折率に対して、目的とする光学フィルタの特性において許容される屈折率差の範囲内の屈折率であればよい。反射防止構造体側の屈折率変化の終点における屈折率も同様に、反射防止構造体の屈折率と同じか、あるいは、反射防止構造体の屈折率に対して、透過光の波長または波長領域における目的とする光学フィルタの特性において許容される屈折率差の範囲内の屈折率であればよい。これらの屈折率差は0.05以下が好ましい。同様に、屈折率傾斜薄膜内における段階的な屈折率変化も0.05以下とすることで屈折率傾斜薄膜の屈折率変化に起因する反射を低減することができる。一方で、屈折率傾斜薄膜は光吸収性を持つため、隣接する膜間の屈折率差を0.1以下とすることでも界面に比べて膜間での良好な反射防止性を有する。屈折率傾斜薄膜内での位置や隣り合う膜の屈折率により0.2以下まで許容される場合もある。所定の膜厚内で所望の吸収を持たせるためには、消衰係数等も考え所定の領域以上の屈折率まで上昇させる必要があり、所定の屈折率の範囲内で屈折率を変化させる必要がある。一方、屈折率変化を細かくしすぎると多くの層数が必要になり、あまりに多くの層数で成膜すると制御が複雑になる。そのため、隣接する屈折率の異なるそれぞれの部分において0.05〜0.1の屈折率差とすることが好ましい。
すなわち、屈折率傾斜薄膜の屈折率は、基板側の屈折率変化の終点では、基板の屈折率との差を例えば、段階的な屈折率変化の隣合う部分の屈折率差以下として0.05以下とすることで反射を低減することができる。より好ましくは、段階的な屈折率変化の隣合う部分の屈折率差よりも小さく基板側の屈折率変化の終点と基板との屈折率差を0.03以下とする。反射防止構造体側の屈折率変化の終点では、反射防止構造体の屈折率との差を基板側と同様に小さくすることによって反射を低減することができる。従って、屈折率傾斜薄膜の膜厚方向端部の屈折率は、隣接する構造体との屈折率差を少なくする。一方、屈折率傾斜薄膜の膜厚方向中央部の屈折率も、段階的に屈折率変化し、光吸収性の物質単体の割合も変化する。段階的な屈折率変化において、光吸収性の物質の割合が多い部分を形成し、光吸収性の物質単体の屈折率に近づく部分を有するとともに、所望とする吸収特性に必要な膜厚を備えることで反射低減と吸収性を両立させることができる。
【0031】
屈折率傾斜薄膜における厚さ方向の屈折率変化の幅は、目的とする光学フィルタの特性や屈折率傾斜薄膜形成用の材料の種類やその組合せなどによって各種設定できる。例えば、屈折率傾斜薄膜の厚さ方向において、3種類の元素を用いて、SiO2からなる領域からTiO2からなる領域に変化させる場合は1.47〜2.70程度の範囲内で変化させることができる。
屈折率傾斜膜の膜厚は、目的とする機能に応じて適宜選択できる。屈折率傾斜膜の膜厚は、10〜4000nm、より好ましくは100〜1000nmとすることができる。
【0032】
反射防止構造体は、所望の光学フィルタの光学特性を得るために必要とされる反射防止機能を有するものであればよい。反射防止構造体としては、基板を透過する可視光の波長よりも短い周期で構成された凹凸構造を持つ微細周期構造体や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜を形成する工程を用いることができる。
【0033】
反射防止構造体としては、可視光の波長よりも短いピッチで多数の微細な突起が配列された面を有する微細構造体、あるいは可視光の波長よりも短いピッチでの凹凸の繰り返しを設けた面を有する微細構造体を用いることができる。この微細構造体としては、ランダムに形成された針状体及び柱状体等の突起、階段形状に微細に形成された凹凸構造の突出部または凹部によって大気や隣接する媒体との屈折率差を低減したものも含む。この微細構造体としては、公知の微細構造体から目的に応じて選択したものを用いることができる。例えば、基板を透過する可視光の波長よりも短い繰返し周期で配置された多数の突起からなる周期構造、あるいは基板を透過する可視光の波長よりも短い繰返し周期の凹凸構造からなる周期構造を持つ微細周期構造体であれば、光ナノインプリントなどの方法を用いて再現性良く作成することができる。その他の反射防止構造体としては、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜を用いることができる。単層または複数層の反射防止膜では、屈折率傾斜薄膜に隣接する層の屈折率と前記基板の屈折率との屈折率差を低減するように、屈折率傾斜薄膜は膜厚方向に屈折率変化する。
【0034】
なお、基板と、膜厚方向に屈折率が段階的に変化する屈折率傾斜薄膜と、所望の光の波長領域において反射防止効果を発現する反射防止構造体とを、それぞれこの順番に隣接させ配置する事で、光学フィルタ内での光の反射率を著しく低減させることができる。そこで、本発明では、膜厚方向において段階的に屈折率が変化する薄膜を用い、基板、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の屈折率の関係を上記の(1)及び(2)のように成膜する工程を有している。
【0035】
しかしながら、光吸収性を屈折率傾斜薄膜に持たせた光学フィルタとする場合には、単に、基板と微細周期構造体との間に屈折率傾斜薄膜を配置した構成では、色バランスなど、高画質化に必要とされる、分光透過特性を調整し向上させる事は大変困難である。そこで、本発明では、基板への入射光に対して、分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域と、分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域が、前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に配置されていることにより、屈折率傾斜薄膜の分光透過特性の平坦性を向上させたNDフィルタを得る事が可能となる。
【0036】
また、基板の両面の各々に屈折率傾斜薄膜を有する構成とすることで、それぞれの膜応力を相殺させ、基板の反り等を防止することができる。そして、基板の両面の各々に屈折率傾斜薄膜を形成し、屈折率傾斜薄膜上に基板の表裏から二つの光源を用いて微細周期構造体を作成することで、生産性良く光学フィルタを製造することができる。
【0037】
本発明にかかる光学フィルタの構成は、吸収を持つタイプで反射が問題となる場合は各種の光学フィルタに利用可能である。平坦性を向上させた場合は、透過光の平坦性を課題とする光学フィルタであれば、例えば、NDフィルタ等の光学フィルタに利用できる。
【0038】
以下、本発明の光学フィルタの製造方法について、NDフィルタとした場合について実施例に基いて説明する。
【0039】
(実施例1)
図3のように構成した、吸収タイプのNDフィルタについて、以下に詳しく記載する。
【0040】
なお、以下の各実施例における屈折率は、基板、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の構成材料から540nmの波長の光での屈折率として特定できるものである。
【0041】
図3に示したように、基板13の片面(上面)側に屈折率傾斜薄膜12を配置した。また、屈折率傾斜薄膜12上に反射防止構造体111を配置し、基板13の裏面にも反射防止構造体112を配置した場合、さらに反射防止効果を得ることができる。また、屈折率傾斜薄膜12は膜中の少なくても一部に吸収を持っている。
【0042】
図3のような構成の場合、基板の裏面での反射が大きくなってしまう為、この面にも何らかの反射防止構造体112が必要となる場合が多い。このような反射防止構造体111、112としては、図4(a)〜(b)中に示したように、反射防止効果を持つ微細周期構造体151、152や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜161、162が挙げられる。更には、図4(c)〜(d)中に示したように、微細周期構造体15と反射防止膜16を併用した構成などが挙げられる。適宜最適な構成を選択すれば良い。このような構成であれば、例えば撮像素子側にフィルタのどちらの面を向けても、フィルタの反射に起因したゴ−スト光の発生を抑制する事ができるなど、フィルタの方向を選ばず光学系内に配置する事も可能となる。
【0043】
図4(a)〜(d)中でも、反射低減の観点からは図4(a)に示したような構成にする事がより望ましい。従って、後述する本発明の実施例1、2では反射防止構造体として、基板の両側の面で微細周期構造体を形成した。
【0044】
ここで、例えば図4(b)のような多層膜構成の反射防止膜161や162と同様の効果を持つ機能を屈折率傾斜薄膜12中に組み込む事も可能である。その場合は、表層の界面付近における所定の領域内で、屈折率を段階的に複数回増減させ、外気との界面反射防止用の屈折率プロファイルが必要となる。そのため、屈折率傾斜薄膜上に別途反射防止構造体を設けた構成とみなすことができる。また、反射防止膜の作成に際して、屈折率傾斜薄膜上に、屈折率傾斜薄膜の作成に使用する材料と異なる材料を使用し、屈折率が段階的に変化する反射防止膜を作成してもよい。
【0045】
しかし、その場合は屈折率傾斜薄膜表層の界面付近における所定の領域で、屈折率を段階的に複数回増減させる屈折率プロファイルを形成する必要があり、先までの屈折率傾斜薄膜とは異なる屈折率を必要とする場合が多く、基礎データの蓄積や、プロセス時の制御が複雑となる場合も想定される。従って、屈折率傾斜薄膜上に別途反射防止構造体を設ける構成が望ましい。
【0046】
このような実施例1のNDフィルタ14を形成する基板13には屈折率が1.60程度となるように厚さ0.1mmのPETフィルムを使用した。本実施例ではPETフィルムを使用したが、これらに限らずガラス系の材料でも良いし、POやPI系、PEN、PES、PC、PMMA系などの樹脂材料であっても良い。
【0047】
<屈折率傾斜薄膜について>
屈折率傾斜薄膜12は、メタルモードスパッタ法により、SiO2とTiOx膜の成膜レートを調整しながら、この2種類を混合させ、屈折率を膜厚方向で段階的に変化させる事で、所望の吸収特性を得るように調整し作製した。
【0048】
このような段階的な屈折率プロファイルを持つ屈折率傾斜薄膜の例が図1である。図1では、比較的高屈折率を持つ基板から、屈折率傾斜薄膜、微細周期構造体の順に積層されている。そして、膜厚方向に対し、基板側から段階的に屈折率が増減するような変化を持っており、屈折率傾斜薄膜両端の界面に向かうにつれ、それぞれ隣接する構造体の屈折率に近づくような変化をとっている。
【0049】
屈折率傾斜薄膜は、膜面に垂直な方向、つまり膜厚方向に屈折率が段階的に変化している薄膜の事である。基板側から段階的に屈折率が減少するような変化を持っており、屈折率傾斜薄膜両端の界面に向かうにつれ、それぞれ隣接する構造体の屈折率に近づくような変化をとっている。
【0050】
膜厚方向に屈折率が、連続的かつ周期的に変化している膜は、ルゲート膜、ルゲートフィルタなどとして知られている。
【0051】
また、深さ方向分析によって得られた結果を、縦軸に濃度(強度)、横軸に深さ(膜厚などに対応するパラメータ)を取ったプロットをデプス・プロファイルという。測定試料の表面から内側に向かって組成分布を調べる深さ方向分析において,ミクロンオーダー以下の分析には加速イオンを用いて表面を削り取りながら分析する手法が良く用いられる。この方法はイオンスパッタリング法と呼ばれ、X線光電子分光法(XPS)やオージェ電子分光法(AESまたはESCA)などとして知られており、基板表面に層を形成した構造を持った光学部品や電子部品、機能材料の評価に多く用いられている。これらのX線光電子分光法では、超高真空中で試料にX線を照射し、放出される電子(光電子)を検出する。放出される光電子は、対象となる原子の内殻電子に起因するものであり、そのエネルギーは元素ごとに定まることから、エネルギー値を知ることで定性分析を行う事が可能である。このように屈折率傾斜薄膜中の膜厚方向における組成の変化を評価し、デプス・プロファイルを得る事により、所望の屈折率分布を得る事ができているのかを確かめる事が可能である。
【0052】
このような屈折率傾斜薄膜の設計手法は以前より各種様々な方法が検討されており、連続的な変化とは異なり、階段状に徐々に段階的に屈折率が変化するステップ型の屈折率分布であっても、この屈折率分布を調整する事で、連続的なインデックス変化を持たせた膜と、略同様の光学特性を得る事も可能である事が判明している。反射低減などにおいては、連続的な屈折率変化を持った方がより理想的な特性を得る事ができ、さらに薄膜中で界面が無くなり前後の膜組成が非常に近くなる事から、膜の密着強度の向上や、環境安定性の改善などの効果が現れる。一方で、製作に関しては大変複雑になってしまい、成膜装置の機構や制御などが複雑化する問題が生じる。また、膜組成が様々な形態を取る為、設計の高精度化を図る為には膨大な基礎データの蓄積が必要となり、これらの観点からは、屈折率が段階的に変化する階段状の屈折率分布を選択する方が良い。
【0053】
以前までの薄膜作製技術では任意の屈折率を得る事が難しく、実際に作製する事は大変困難であった。しかし、スパッタ法や蒸着法など、近年の成膜手法の発展により、屈折率の範囲は限定される事があるものの、少なくてもその範囲内では任意の屈折率を得る事が可能となってきた。
【0054】
例えばスパッタ法においては、2種類の材料に対して同時に放電し、各材料の投入パワー、つまりターゲットへの投入パワーを変化させ、混合比を変える事で、2つの物質の間の屈折率を持つ、中間屈折率材料を作製する事が可能である。また、混合する種類は2種類以上であっても良い。
【0055】
このようなスパッタ法の場合、1つの材料を低パワーとしていくと、放電が不安定になったり、メタルモードスパッタの場合は、反応モードになってしまったりするなどの不具合が生じる。従って、2物質間の全ての屈折率を実現する為には、例えばマスク法により成膜量をコントロールするなど、投入パワー以外の要素も並行して調整し、膜厚を制御する必要があるが、この場合は、装置の機構や、制御が少なからず複雑化する。以上より、本実施例で用いたメタルモードスパッタ法においては、放電を安定的に維持、制御できる範囲内で屈折率を変化させた。
【0056】
また、膜厚方向に屈折率を段階的に変化させる事に加え、TiOxのxを膜厚方向で変化させ、消衰係数も変化させる事で、屈折率傾斜薄膜12中の吸収特性を調整し、可視波長領域である400nm〜700nmにおける分光透過特性が、膜総体として分散が小さい平坦な特性となるようにした。
【0057】
一例を示すと、xが1相当となるTiOでは可視波長領域での分光透過特性が図5中の(a)のように、長波長側につれ徐々に高くなるような特性になる傾向がある。xが1.5相当となるTi2O3では可視波長領域での分光透過特性が図5中の(b)のように、長波長側になるにつれ徐々に低くなるような特性になる傾向がある。そこで、これらのように、分散形状が相反する領域を屈折率傾斜薄膜12の膜厚方向に配置した組合せを1以上設ける事で、総体として分光透過特性を平坦に調整した。一般的な光学薄膜に使用される金属酸化物において金属と酸素の割合が変化する場合には同様な傾向を示す。透過率に関連する係数である消衰係数の異なる2種類以上の金属酸化物の透過率の波長依存性が互いに変化を相殺し合う関係にあることにより、多層膜構成であれば、平坦な透過率特性を得るという発想が、特許第3359114号に開示されている。金属酸化物のこの特性を利用して平坦性を改善にするように膜設計を行うことができる。ここで、xの値を可変させる事で、屈折率も変化する為、これを踏まえ、予め得た基礎デ−タより、SiO2との成膜比を決定し制御を行う必要がある。xの値を膜厚方向で可変させる具体的な手段については、酸化源のパワ−を調整したり、成膜方法によっては導入するガス量を調整する事などで制御する事が可能である。
【0058】
<スパッタ装置構成>
図6は、屈折率傾斜薄膜の作製に用いたスパッタ成膜装置の基板搬送装置の回転軸に直交する面での平面断面図である。
【0059】
スパッタ成膜装置としては、薄膜が形成される基板51を保持する回転可能な円筒状の基板搬送装置52を真空槽53内に備え、基板搬送装置52の外周部とその外側の真空槽53との間の環状空間に、2箇所のスパッタ領域54、55と、反応領域57が設けられている装置を用いた。領域59から基板を搬入する。
【0060】
基板51は成膜される面が外側を向くように基板搬送装置52に搭載させた。スパッタ領域54、55には、ACダブル(デュアル)カソードタイプのターゲット54a、55aが装備されている。真空槽53の外側に高周波電源56が配置されている。ターゲット材の形状は平板型に限らず、円筒型のシリンドリカルタイプであっても良い。また、これらの他に、別途領域58には、例えばグリッド電極を有する高周波励起によるイオンガングリッドや、基板への正イオンの電荷蓄積を防ぐために正イオンを中和する低エネルギー電子を放出するニュートラライザ等を設ける事も可能である。本発明に用いるスパッタ装置は、例えばスパッタ領域を3領域以上設けても良く、上記装置以外の構成でも実施可能である。
【0061】
図6で示したスパッタ装置を用い、スパッタ領域54にSiターゲット、スパッタ領域55にTiターゲットを配置し、反応領域57には酸素を導入した構成で屈折率傾斜薄膜を形成した。基板搬送装置52に固定された基板51を高速回転させ、スパッタ領域54、55において、基板51上にSiとTiの極薄膜を形成した後、反応領域57でSiとTiの極薄膜を酸化させる。これにより、SiとTiの酸化膜を形成し、この動作を繰り返す事でSi酸化膜とTi酸化膜の混合膜を作製した。さらに、各スパッタ領域でのスパッタレートや酸化レートを、成膜中に段階的に変化させる事で、膜厚方向において段階的に屈折率が変化する屈折率傾斜薄膜を形成した。また、SiO2とTiOxのそれぞれ単独での成膜条件を基に、SiとTiのスパッタレート、及び酸化レートを制御する事で、SiO2とTiOx相当となる混合膜を作製する事も可能である。また、SiO2膜単体の屈折率からTiOx膜単体の屈折率まで、屈折率を屈折率差が小さい範囲で段階的に変化させる場合には、投入パワ−を低くすると放電が不安定になる事がある為、酸化レートの制御時に、投入電力の制御だけではなくカソード上設けたマスク機構を併用した。
【0062】
<屈折率傾斜薄膜の屈折率>
本実施例においては、屈折率傾斜薄膜12は、図7(a)で示すような屈折率のプロファイルを持つ構成とした。図7(a)中の山谷を複数形成したような図7(b)に示すプロファイルを形成する事も可能であるが、制御の容易性などを考慮して、複雑化しないよう必要最低限の増減となるように設計した。
【0063】
本実施例においては、屈折率差を0.05として膜設計を行い成膜した。所望の吸収を得るためには、屈折率が高い領域が必要となる。そのため、屈折率傾斜薄膜は基板に近い方から段階的に屈折率を上昇させ、屈折率が下降に向かう段階的な変曲部を経て、反射防止構造体に向かって反射防止構造体の屈折率に所定の屈折率差以内で屈折率差を屈折率が減少するに従って小さくするように緩やかに近づくことが好ましい。本実施例においては、各種の屈折率差を所定の範囲とし、吸収特性を持たせている。そのため、屈折率が1.6以下の基板、反射防止構造体を用いる場合は、1.8以上の屈折率を持つ領域から図7(a)、図7(b)示すように、基板反射防止構造体それぞれの界面に向かって段階的に単調減少させることにより、屈折率傾斜薄膜内での反射と界面での反射を低減することができる。隣接する媒体との界面付近の屈折率傾斜薄膜は、屈折率傾斜薄膜の外部からの影響が内部に比べて大きい。そのため、屈折率変化の基板側終点と屈折率分布の変化の反射防止構造体側終点は、制御できる範囲内で、屈折率傾斜薄膜内からの屈折率差を他の段階的な屈折率変化に比べて緩やかにすることで隣接する媒体との界面での影響を緩和し、膜の安定性を高めることもできる。
【0064】
一方、基板と屈折率傾斜薄膜との界面、および屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との界面においても、屈折率が異なるとその屈折率差に応じて反射が発生する。そこで、これらの界面での反射が問題となる場合は、屈折率差は出来るだけ小さくする事が望ましい。また、吸収タイプの薄膜は、無色透明な薄膜に比べて反射が少ない。膜厚、屈折率が同じ場合、光を吸収する物質の割合が多い方が反射を低減できる。本実施例では、屈折率傾斜薄膜の成膜開始直後と成膜終了間際でのSiO2とTiOxとのレート比を調整する事で、2つの界面での屈折率差をそれぞれで0.05以下となるように調整した。また、屈折率傾斜薄膜12の膜厚は200nmとなるように調整した。膜厚が薄いと膜厚の制御が安定しないため、膜厚は物理膜厚で少なくとも5nm以上が好ましい。屈折率傾斜薄膜の膜厚は、薄い方が基板から反射防止構造体までの屈折率の変化率が急峻になる。そのため、反射防止の観点からは、膜厚が厚い方が好ましい。反射をより低減する必要がある場合は、400nm程度までに厚くする事で対応できる。
【0065】
<反射防止構造体について>
微細周期構造体は、近年の微細加工技術の向上とともに作製されるようになってきた。
このような構造体の1つである、反射防止効果を持つ微細周期構造体は、モス・アイ構造体などと呼ぶことも可能である。構造体の形状を擬似的に屈折率の変化が連続的となる形状とする事で、物質間の屈折率差に起因した反射の低減を図ったものである。
【0066】
図8は基板上にピラ−アレイ状に円錐体が配置された、反射防止効果を持つ微細周期構造体の概略例を示す上方向からの斜視図である。これと同様にホ−ルアレイ状に配置した微細周期構造体の形成も可能である。このような構造体は、真空成膜法などで薄膜を単層、または複数層積層する事により作製する反射防止膜とは別の手段として、例えば物質表面などに生成される事が多い。
【0067】
このような微細周期構造体の作製に関しては、様々な方法が提案されているが、本実施例ではUV硬化性樹脂を用いた光ナノインプリント法を用いた。
【0068】
微細周期構造体は図8のように円錐体を周期的に配置したピラ−アレイ状とし、NDフィルタの用途を考慮し、少なくても可視波長領域の反射率は低減できる構造となるように、高さ350nm、周期250nmとなるように設計した。さらに、突起構造体のマトリックス状の配列に関して、図9(a)の平面図で示すように正方配列や、図9(b)の平面図で示すように三方(六方)配列などが考えられるが、三方配列の方が基板材料の露出面が少ない事などから、反射防止効果が高いと言われている。従って、本実施例では三方配列のピラ−アレイとした。
【0069】
先に設計された形状を反転させたホールアレイ形状を持つモールドとしての石英基板に、UV硬化樹脂を適量滴下した。その後、インプリントを施す基板に石英モールドを押し付けた状態でUV光を照射する事で樹脂を硬化させ、サブミクロンピッチのピラーアレイ状の微細周期構造体151、152を作製した。各種のUV硬化樹脂を用いることができるがここでは、東洋合成製PAK−01(商品名)を用いて、重合硬化後に、屈折率が1.50となるように調整した。
【0070】
ここで、屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との密着性を向上させるために、プライマー処理を行い、屈折率傾斜薄膜上と微細周期構造体との間に密着層を設けた。プライマー液としては、界面活性剤である信越化学社製のKBM−503(商品名)をベースに、IPA(イソプロピルアルコール)や硝酸を適量加え、塗工後の硬化した密着層の屈折率が1.45となるように調整したものを用いた。これを、0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタを介し屈折率傾斜薄膜上に滴下し、スピンコートにより極薄膜となるように塗工した。更に密着力を強化する必要がある場合は、前述のプライマー液の成分に更にTEOS(オルトケイ酸テトラエチル)などを加えても良い。また、プライマー液をより均一に塗工する為に、プライマー液塗工前に、基板にはUVオゾンによる親水化処理を施す事がより好ましい。さらに、基板両面に設ける場合は、濃度を適宜調整し、ディップコートにより塗工しても良いし、スピンコートで片面塗工した後に基板の表裏を変え、もう一方の面を再度スピンコートで塗工しても良いが、本実施例では後者を選択した。密着層と隣接する構造体との屈折率差も0.05以内とすることが好ましい。
【0071】
ここで、NDフィルタのように可視波長全域に吸収を持つフィルタの場合、紫外域にも吸収を持っている場合が多い。従って、使用するUV光の波長によっては、フィルタの基板側から光を照射した場合、NDフィルタがその光の少なくとも一部を吸収してしまい、十分な光が樹脂まで届かない場合がある。従って、そのような場合はモールド側からUV光を照射する必要があり、必要なUV光の波長を十分に透過する材質のモールドを選択する必要がある。
【0072】
更に、光ナノインプリントのプロセスを考慮すると、基板13の片面にインプリントを施し、その後もう一方の面にインプリントすると、最初に形成した微細周期構造体に欠けやクラックなどのダメージを与えてしまう事が想定される。従って、基板両面にそれぞれインプリント用のモールドを配置し、両面同時に光ナノインプリントを実施する手法を選択した。この場合、UV光源も基板両面に2つ配置することで生産性を高めることができる。
【0073】
本発明の実施の形態おける光学フィルタの製造方法を図10にフローチャートとして示す。Sは各工程のステップを示す。ターゲット54a、55aにはTiOx及びSiO2をスパッタするための原料が備えられている。成膜を開始するために成膜条件を不図示のスパッタ装置の制御部に入力し成膜を開始する。S101で基板51(13)を基板搬送装置52に設置して成膜位置に移動させる。S102では、投入パワーを調節し基板51(13)との屈折率差が0.05以内の成膜を行う。S103で、S102に用いた投入パワーとは異なるバランスの投入パワーでSiO2膜とTiOx膜の成膜レートを調整し、混合比率を変え下層に成膜した混合膜から0.05〜0.1の範囲で屈折率を変化させ成膜を行う。S104で、不図示のスパッタ装置の制御部により、次の成膜が屈折率傾斜薄膜の最表層の成膜になるかを判定し、最表層でない場合は、S103へ進み、次の成膜が最表層である場合は、S105へ進む。S105では、屈折率傾斜薄膜の最表層上に形成する反射防止構造体の界面の屈折率との屈折率差が0.05以下で成膜を行う。S106において、反射防止構造体を作成する。本実施例においては、スパッタ装置から取り出し上述の方法で、微細周期構造体151、152を形成したが、これに限らず、単層または複数層の薄膜からなる反射防止構造体を形成してもよい。
【0074】
図7(a)の屈折率プロファイルにおいて、基板側の界面点P0から点P1にかけては、TiOxのxは約1.5で固定されており、SiO2との組成比を変化させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
次に、点P1から点P2を通過し点P3に近づくにつれ、TiOxのxは1.5から1.0に段階的に変化させている。これと同時にSiO2との組成比を変化させ、点P1から点P2に近づくにつれTiOxに対しSiO2の組成比を増やし、更に点P2から点P3に近づくにつれ、TiOxに対しSiO2の組成比を減少させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
さらに、点P3から反射防止構造体側の界面点P4にかけては、TiOxのxは約1.0で固定されており、SiO2との組成比を変化させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
点P1付近ではTi2O3の影響を大きく受けた分光透過を示し、点P3付近ではTiOの影響を大きく受けた分光透過を示す。従って、このように構成する事で、屈折率傾斜薄膜中に、可視波長領域において図5で例示したような異なる分散特性を持つ領域を混在させ、膜厚や組成比により影響度を調整する事で、所望の透過特性を得る事が可能となる。本実施例においては、可視波長領域において分光透過特性が平坦な形状となるように、これらを調整した。
【0075】
一方、基板と屈折率傾斜薄膜との界面、および屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との界面においても、屈折率が異なるとその屈折率差に応じて反射が発生する。そこで、これらの界面での反射が問題となる場合は、屈折率差は出来るだけ小さくする事が望ましい。本実施例では、屈折率傾斜薄膜の成膜開始直後と成膜終了間際でのSiO2とTiOxとのレ−ト比を調整する事で、2つの界面での屈折率差をそれぞれで0.05以下となるように調整した。
【0076】
<光学フィルタの特性>
以上によって作製されたNDフィルタの、分光反射率特性、及び分光透過率特性が図11である。濃度は約0.70程度であり、可視波長領域の殆どにおいて反射率が0.4%以下になっている。本構成により、非常に低い反射率を実現できた。測定には、分光光度計(U4100(株)日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた。
【0077】
さらに、可視領域全域において、分光透過特性が平坦であり、この平坦性の1つの指標である、{(400〜700nmにおける透過率の最大値)−(400〜700nmにおける透過率の最小値)}÷(500〜600nmにおける透過率の平均値)を平坦性と定義した場合、本実施例において作製されたフィルタの平坦性は約4.2%程度であり、可視光領域の反射率を0.5%以下と非常に低い値に抑えたうえで、平坦性に優れたNDフィルタを得る事ができた。
【0078】
また、スパッタ法を用いることで、蒸着法などと比べて、密度の高い薄膜を安定的に形成することができる。本実施例において、屈折率の制御に酸化物を用いたが窒化物でも良く屈折率傾斜薄膜として、段階的に屈折率が変化すれば各種の化合物を用いることができる。加えて、基板と屈折率傾斜薄膜、及び/または屈折率傾斜薄膜と反射防止構造体の間に、基板、反射防止構造体のそれぞれの屈折率に近い接着層やバッファ層等を設けて、密着性や耐久性を改善することなども可能である。その場合はバッファ層等を考慮した設計を行えば良い。バッファ層の屈折率は、これに隣接する基板または反射防止構造体と同じ、あるいは屈折率差を近接させる、好ましくはこれらの屈折率差を0.05以下とする。このようなバッファ層は、後述する他の屈折率傾斜薄膜を有する構造においても同様に用いることができる。
バッファ層として密着層を設ける場合における密着層形成用の材料としては、シランカップリング剤の他には、Cr、Ti、TiOx、TiNx、SiOx、SiNx、AlOx、SiOxNyなどの無機材料や各種の有機材料が挙げられる。密着性を高める層の材質に応じて公知の材料から密着層形成用の材料を適宜選択して用いることができる。密着層の膜厚は、目的とするフィルタの光学的機能及び密着性が得られるように設定すればよい。密着層は、例えば10nm以下の薄膜として形成してもよい。
【0079】
また、本実施例では、単濃度のNDフィルタを作成した。グラデーションNDフィルタを作成する場合は、マスク面と成す角度の調節が可能な遮蔽板を有するマスクを使用する。そして、マスクでターゲットの面に対して膜材料の一部を遮蔽することによって、基板上にグラデーション濃度分布を成膜する方法を用いることにより形成できる。
【0080】
(実施例2)
図12のように基板両面に屈折率傾斜薄膜を形成したフィルタの作製について以下に記載する。
【0081】
図12に示したように、本実施例では、基板23の片面(上面)側に屈折率傾斜薄膜221を配置し、屈折率傾斜薄膜221上に反射防止構造体211を配置した。その後、基板23の裏面側にも同様に屈折率傾斜薄膜222と反射防止構造体212を配置した。NDフィルタ24における所望の波長領域に所望の吸収を持つ機能は、屈折率傾斜薄膜221、222の両方に持たせた。場合によっては屈折率傾斜薄膜221と222のどちらか一方のみであっても同様の特性を得る事は可能である。このような反射防止構造体211、212としては、図13(a)及び(b)中に示したように、反射防止効果を持つ微細周期構造体251、252や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜261、262を挙げることができる。更には、図13(c)中に示したように、微細周期構造体25と反射防止膜26を併用した構成などが挙げられる。適宜最適な構成を選択すれば良い。
【0082】
図13(a)〜(c)中でも、反射低減の観点からは図13(a)に示したような構成にする事がより望ましい。従って、本実施例では図13(a)のように、反射防止構造体として、基板23の両側の面で微細周期構造体251、252を形成した。
【0083】
NDフィルタ24を形成する基板23には厚さ1.0mmのSFL−6ガラスを使用した。実施例1と同様に、まずは基板23上の片面側に、屈折率傾斜薄膜221を、メタモ−ドスパッタ法により、SiO2とTiOx膜の成膜レ−トを調整しながら作製した。この場合においても、これらの2種類を混合させ、屈折率を膜厚方向で段階的に変化させる事で、所望の吸収特性を得るように調整した。その後、基板の表裏を変えて、再度同様にSiO2とTiOxの混合膜である屈折率傾斜薄膜222を作製した。また屈折率傾斜薄膜221、222の膜厚は200nmとなるように調節した。
【0084】
膜厚方向に屈折率を連続的に変化させる事に加え、TiOxのxを膜厚方向で変化させ、消衰係数も変化させる事で、屈折率傾斜薄膜221、222中の吸収特性を調整し、可視波長領域である400nm〜700nmにおける分光透過特性が、膜総体として分散が小さい平坦な特性となるように膜設計を行った。すなわち、屈折率傾斜薄膜221、222は、図14(a)で示すような屈折率のプロファイルを持つ構成とした。図12(a)中の山谷を複数形成したような図14(b)に示すプロファイルを形成する事も可能であるが、制御の容易性などを考慮して、複雑化しないよう必要最低限の増減となるように設計した。
【0085】
図14(a)の屈折率プロファイルにおいて、基板側の界面点Q0から点Q1にかけては、TiOxのxは約1.0で固定されており、SiO2との組成比を変化させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
次に、点Q1から点Q2を通過し点Q3に近づくにつれ、TiOxのxは1.0から1.5に段階的に変化させている。これと同時にSiO2との組成比を変化させ、点Q1から点Q2に近づくにつれTiOxに対しSiO2の組成比を増やし、更に点Q2から点Q3に近づくにつれ、TiOxに対しSiO2の組成比を減少させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
さらに、点Q3から反射防止構造体側の界面点Q4にかけては、TiOxのxは約1.5で固定されており、SiO2との組成比を変化させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
点Q1付近ではTiOの影響を大きく受けた分光透過を示し、点Q3付近ではTi2O3の影響を大きく受けた分光透過を示す。従って、このように構成する事で、屈折率傾斜薄膜中に、可視波長領域において図6で例示したような異なる分散特性を持つ領域を混在させ、膜厚や組成比により影響度を調整する事で、所望の透過特性を得る事が可能となる。本実施例においては、可視波長領域において分光透過特性が平坦な形状となるように、これらを調整した。
【0086】
吸収特性を維持しつつ反射防止を行う観点から、屈折率傾斜薄膜は基板に近い方から屈折率が緩やかに上昇し、変曲部を経て、反射防止構造体に向かって反射防止構造体の屈折率に緩やかに近づくことが好ましい。また、屈折率傾斜薄膜内でも屈折率変化が少ない方が良い。本実施例では、基板23と反射防止構造体(微細周期構造体251、252)の屈折率差が大きいため、複数の変曲部の中でも、屈折率が一番大きくなる変曲部を基板に一番近い側に設定した。そのため、複数の変曲部が形成され、変曲部の屈折率は基板23から微細周期構造体に向かうに従って低下するように設計した。これにより、膜厚を安定させるために所定の膜厚が必要な条件で、段階的な屈折率変化を持たせ所望とする波長の吸収の平坦性を確保しつつ、全体の膜厚を厚くしすぎない構成となる。
【0087】
その後、基板両面に形成された屈折率傾斜薄膜上にUV硬化樹脂を用いた光ナノインプリント法により反射防止効果を持つサブミクロンピッチの微細周期構造体251、252を形成した。実施例1と同様の理由から、本実施例においても、ND膜を形成した基板両面にそれぞれインプリント用のモールドを配置し、二つの光源を使用して両面同時に光ナノインプリントを実施した。
【0088】
本発明の実施の形態おける光学フィルタの製造方法を図15にフローチャートとして示す。Sは各工程のステップを示す。S201〜S205については、実施例1とは異なる基板23に対して所望の特性を得るための成膜を図10のS101〜105と同様な工程を行う。S206で基板23の表裏を装置内または装置から取り出して入れ変える。S207〜S210については、S102〜S105にそれぞれ対応させ同様な工程を行う。これにより、基板23の表裏に屈折率傾斜薄膜221、222に形成し、S211において上述の方法で、微細周期構造体251、252を形成した。また反射防止構造体としては、これに限らず、単層または複数層の薄膜を形成してもよい。上述のような工程が、製造効率が良い。しかし、スパッタ法やアシストの強い蒸着法等を用いて、高密度の膜を成膜する場合、片面一層または一部複数層成膜ごとに基板の表裏を入れ替えて成膜すると膜応力による基板の反りを防止することができる。また、表面を一部複数層形成後、基板の表裏を入れ替えて裏面を成膜し、再度表面の残りを成膜するなど製造工程は各種変形が考えられる。
【0089】
以上によって作製されたNDフィルタの分光反射率特性、及び分光透過率特性が図16である。濃度は約0.70程度であり、可視波長領域において反射率が約0.2%以下になっている。本構成により、非常に低い反射率を実現できた。測定には、分光光度計を用いた。
【0090】
さらに、可視領域全域において、分光透過特性が平坦であり、前述の平坦性の指標に換算すると、本実施例において作製されたフィルタの平坦性は約0.5%程度であり、可視光領域の反射率を0.5%以下と非常に低い値に抑えたうえで、平坦性に優れたフィルタを得る事ができた。
【0091】
また、実施例1、2ではメタルモードスパッタ法によりSiO2とTiOxの混合膜を作製し、膜厚方向でその混合比率を変える事で段階的な屈折率を持つ傾斜薄膜を形成したが、これに限らず、NbOxやTaOx、ZrOx、AlOx、MoSiOx、MoOx、WOxなど、様々な金属または半金属の酸化物の材料を使用する事が可能である。前述したような屈折率傾斜薄膜と界面をなす構造体の屈折率などの関係から、必要とされる屈折率を実現できる材料であれば良く、プロセス上の制約などを考慮し、時々で最適な材料を選択すれば良い。また、3種類以上の金属または半金属の元素を含んだ材料を組合わせても良い。3種類以上の材料を組み合わせると安定的に屈折率を傾斜させることが可能となり、吸収の低減など消衰係数の調整も行い易くなり設計の自由度が広がる。この際、酸化物に限らず窒化物でも同様に設計の自由度を広げることができる。
【0092】
さらに、反応性蒸着などを用いる場合は、その導入ガスを制御し、屈折率や消衰係数を制御する事で屈折率傾斜薄膜を形成する事も可能である。膜厚方向で傾斜薄膜中の一部に吸収を持たせる構成でも良いし、全体的に吸収を持ちつつ屈折率を段階的に変化させても良い。成膜手法もメタルモードスパッタ法だけに限らず、他のスパッタ法や、各種の蒸着法などでも良い。
【0093】
本実施例のように形成された屈折率傾斜薄膜は、高密度の膜となり膜応力が問題となる事がある。その場合は本実施例のように、剛性の高いガラスなどの基板を用いると膜応力による反りなどの不具合を低減できる。また、屈折率傾斜薄膜を基板の両面に設けることで、それぞれの膜応力を打ち消しあい安定した光学フィルタを製造することができる。
【0094】
特に、本実施例に用いた基板の両面に屈折率傾斜薄膜、微細周期構造体を設ける構成は、膜応力に対する基板の安定性を得られる。加えて、二つの光源により、微細周期構造体を両面から光ナノインプリントにより反射防止構造体を一連の連続または同時の工程で形成することができるため生産性に優れる。
【0095】
(実施例3)
次に本発明のNDフィルタを備える光量絞り装置を光学装置(ビデオカメラ)に適用した実施例について図17、図18を用いて説明する。
図17に光量絞り装置を示す。ビデオカメラあるいはデジタルスチルカメラ等の撮影光学系に使用するに適した光量絞り装置の絞りは、CCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものである。被写界が明るくなるにつれ、絞り羽根31を制御し、より小さく絞り込まれていく構造になっている。このとき、小絞り状態時に発生する像性能の劣化に対する対策として、絞りの近傍にNDフィルタ34を配置し、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる構造にしている。入射光がこの光量絞り装置33を通過し、固体撮像素子(不図示)に到達する事で電気的な信号に変換され画像が形成される。
【0096】
この絞り装置33内の例えばNDフィルタ34の位置に、実施例1〜2で作製されたNDフィルタを配置する。ただし、配置場所はこれに限らず、絞り羽根支持板32に固定するように配置する事も可能である。
図18に光学撮影装置の撮影光学系の構造を示す。この撮影光学系41は、レンズユニット41A〜41D、CCD等の固体撮像素子42、光学ローパスフィルタ43を有する。固体撮像素子42は、撮影光学系41によって形成される光線a、bの像を受光し、電気信号に変換する。撮影光学系41は、NDフィルタ44、絞り羽根45,46、絞り羽根支持板47で構成される光量絞り装置を有している。
【0097】
ビデオカメラあるいはデジタルスチルカメラ等の撮影系に使用するに適した光量絞り装置の絞りは、CCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものである。被写界が明るくなるにつれ、絞り羽根45、46を制御し、より小さく絞り込まれていく構造になっている。このとき、小絞り状態時に発生する像性能の劣化に対する対策として、絞りの近傍にNDフィルタ44を配置し、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる構造にしている。
【0098】
入射光がこの光量絞り装置を通過し、固体撮像素子に到達することで電気的な信号に変換され画像が形成される。この絞り装置内の例えばNDフィルタ44の位置に、本実施例1〜2で作製されたNDフィルタを配置する。ただし、配置場所はこれに限らず、絞り羽根支持板47に固定するように配置する事も可能である。また、他の光学装置であっても、実施例1や実施例2で作製されたような反射率を著しく低減した光学フィルタを用いることで、フィルタの反射に起因した装置上の不具合を著しく低減する事が可能であり、同時に透過に起因した不具合を低減する事ができる。
【0099】
特に、実施例2に記載の微細周期構造と屈折率傾斜薄膜を両面に備えた構成を撮影光学系に備えた場合、CCD等への反射を抑え良好な撮影画像を得られるとともに、NDフィルタの設置の方向性を考えることなく組み立てることができ組み立て性に優れる。
【0100】
(実施例4)
図19は光学測定装置である干渉顕微鏡の機能及び構成を示す。光源910は光源として所定の波長を出力する。この光源910から出力された観察光から、フィルタ911にて一定の波長成分のみが抽出される。その後、観察光は、それぞれ異なる透過率を有するNDフィルタ912を保持したフィルタホルダ913の回転位置に応じて選択的に光路上に配置されたNDフィルタ912を介して、適宜光量が調節される。光源としては、単色波長のレーザ光源等も光源として用いることができる。
【0101】
このフィルタホルダ913は、それぞれ透過率の異なる複数のNDフィルタ912、を配置し、不図示のCPU等からの制御に基づいて動作する回転駆動部914の回転駆動によっていずれかの透過率のNDフィルタ912を上記光路上に選択的に配置する。また光源のスポット径とグラデーションの範囲が対応していれば、グラデーションNDフィルタの位置決めで透過率を変更しても良い。その場合は、実施例3で示した絞り装置のようにNDフィルタが動作するように構成することもできる。このNDフィルタ912を介した光は、同じく光路上に配置された偏光板915を介して偏光角が変化される。この偏光板915は、偏光板回転駆動部916により回転駆動されることで透過する光の偏光角を所望する角度となるように変化させるもので、偏光板回転駆動部916もまた、CPU等からの制御に基づいて動作する。
【0102】
偏光板915を介した光は、ハーフミラー917で試料方向に反射された後にプリズム918で偏光方向によって2つの平行な光路に分割される。2つの光路に分割された光は共に対物レンズ919を介して、焦点を調節するための焦点観察機構921上に載置された観察物体920に照射される。
【0103】
観察物体920から反射した光は、対物レンズ919、プリズム918を介して今度はハーフミラー917を透過し、結像レンズ922によってCCD等の撮像素子924に結像される。結像レンズ922と撮像素子924の間の光路上には回転可能な偏光素子としての検光子923が配置される。
【0104】
撮像素子924の出力はデジタル信号化され、CPU等で処理され観測された干渉縞を分析することで表面構造や屈折率分布等を分析することができる。また、光学測定装置として、本実施例に限定されるものでなく、本発明のNDフィルタを用いることで、測定精度の信頼性が必要な光学装置である光学測定装置において、NDフィルタの反射による悪影響を抑えた測定を行うことができる。
【0105】
(他の実施例)
実施例1、2で記載したNDフィルタ以外の光学フィルタにおいても、同様の効果を期待でき、例えば撮像素子やポスターなど対象物を保護するようなフィルタには、所望とする波長領域の反射を低減する為の反射防止の保護フィルムとして応用可能である。また吸収を持つタイプの光学フィルタであれば例えばカラーフィルタやIRカットフィルタ、蛍光フィルタなど、様々なバンドパスフィルタ、エッジフィルタなどに応用する事が可能である。これらの光学フィルタに本発明を適用する事で、反射率を低減する事が可能となる。また、これらの光学フィルタを搭載する事で、前述の不具合を改善した各種の光学装置を得る事が可能となる。
【符号の説明】
【0106】
111、112、211、212.反射防止構造体
12、221、222.屈折率傾斜薄膜
13、23、51.基板
15、151、152、251、252.微細周期構造体
16、161、162.反射防止膜
31.絞り羽根
32.絞り羽根支持板
33.光量絞り装置
14、24、34、44、912.NDフィルタ
41.撮影光学系
41A、41B、41C、41D.レンズユニット
42.固体撮像素子
43.光学ローパスフィルタ
45、46.絞り羽根
52.基板搬送装置
53.真空槽
54,55.スパッタ領域
54a、55a.ターゲット
56.高周波電源
57.反応領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性の基板上に光吸収性の薄膜と反射防止構造体をこの順に設けた光学フィルタそれを撮像光学系に用いた光学装置及び光学フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種様々な用途で使用されている光学フィルタは、フィルタ自身の反射に起因した問題を抱えている事が多い。例えば、撮像光学系などで使用される光学フィルタでは、フィルタを透過した光の一部が、他の部材によって反射され、光学フィルタの光出射面から、再び光学フィルタに入射される現象が起きる場合がある。このような場合に、光学フィルタがこの入射光の波長領域に反射率を持っていると、再度光を反射してしまい、これに起因した不具合を発生させる事がある。従って、光学フィルタにおける反射防止機能の更なる強化が強く望まれている。
【0003】
光学フィルタの所定の波長領域に対する透過光の制御には、反射を利用して透過光を減ずる光学フィルタと吸収を利用して透過光を減ずる光学フィルタがあり、また双方の性質を利用したものもある。光吸収を持つタイプの光学フィルタにおいても、吸収構造体を有する面の反射率を限りなくゼロに近づけておけば、光吸収特性を調整する事によって所望の透過特性を得る事が可能である。
【0004】
このような所望の波長領域に吸収を持つタイプの光学フィルタとしては、光量絞り装置などで用いられる、吸収型のND(Neutral Density)フィルタなどが一般的に広く知られている。
【0005】
光量絞りは、銀塩フィルム、或いはCCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものであり、被写界が明るくなるにつれ、より小さく絞り込まれていく構造になっている。したがって、快晴時や高輝度の被写界を撮影する際、絞りはいわゆる小絞り状態となり、絞りのハンチング現象や光の回折現象などの影響を受け易い事から、像性能に劣化を生じさせる場合がある。
【0006】
これに対する対策として、絞りを通る光路中の絞りの近傍にNDフィルタを配置するか、若しくはNDフィルタを絞り羽根に直接貼り付ける事で光量の制御を行い、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる様な工夫をしている。
【0007】
近年では撮像素子の感度が向上するに従い、NDフィルタの濃度を濃くして、光の透過率をさらに低下させ、高感度の撮像素子を使用した場合であっても、絞りの開口が小さくなり過ぎないようにする改善がなされてきた。
【0008】
NDフィルタを構成する基板には、ガラスなどの透明基板が用いられる場合もあるが、任意形状への加工性や、小型化・軽量化などの要望に伴い、最近では様々なプラスチック材料が基板用として多く使用されるようになってきている。この基板用のプラスチック材料としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)及びPO(ポリオレフィン)等を挙げることができる。これらの中でも特に、耐熱性や柔軟性、さらにはコスト的な要素も含めた総合的な観点より、Arton(JSR社製:製品名)やZeonex(日本ゼオン社製:製品名)などに代表されるノルボルネン系の樹脂や、ポリイミド系の樹脂などが好適である。
【0009】
光吸収タイプのNDフィルタには、基板中に光を吸収する有機色素または顔料を混ぜて練り込むタイプのものや、光を吸収する有機色素または顔料を塗布するタイプのものなどがある。これらのタイプでは、分光透過率の波長依存性が大きいと言った致命的な欠点を有する場合がある。したがって、現在では蒸着法やスパッタ法など真空成膜法により、プラスチックやガラスなどの透明基板上に、多層膜を生成する事でNDフィルタを作製するのが最も一般的なNDフィルタの作製手法となっている。
【0010】
このようなNDフィルタにおいても、最近の固体撮像素子の更なる高感度化、高精細化等に伴い、先に述べたようなフィルタ自身の反射に起因した、ゴーストやフレア等の撮影画像への不具合が生ずる可能性が高まってきており、可視光波長領域における分光反射率を従来以上に低減することが1つの大きな課題となっている。
【0011】
反射低減策としては次のような方法が知られている。まず、特許文献1では、例えばSiO2、MgF2、Nb2O5、TiO2、Ta2O5、ZrO2等の異なる材料からなる屈折率の異なる数種類の薄膜を積層して多層膜タイプの反射防止膜とし、任意の波長領域の反射率を抑制する方法が提案されている。また、特許文献2には、反射防止構造体として微細周期構造体を用いたNDフィルタが開示されている。更に、光吸収膜において所望の光透過特性を得る例として、特許文献3では、透過平坦性を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−075902号公報
【特許文献2】特開2009−122216号公報
【特許文献3】特開2010−277094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1で示されたような多層膜での反射防止膜の場合には、広い波長領域にわたって反射率を大幅に低減するには、多層膜を構成する薄膜材料として使用できる材料が限定されているため、相当の層数を必要としたり、設計が複雑になってしまう。
【0014】
また、特許文献2で示されている、サブミクロンピッチで形成された微細周期構造体をNDフィルタの反射防止構造体とする場合は、特許文献1で示した多層膜構成の場合よりも、反射防止の波長領域を拡げる事が比較的容易であり、さらに、反射率の低減も容易である。しかしながら、引用文献2に記載されている基板上に微細周期構造体を設ける構成では、これらの界面での光反射が問題となる場合がある。また、例えば多層薄膜からなる光吸収層でも、NDフィルタを構成する構造体間で生じる光反射を干渉効果のみでこれら全てを打ち消しあい、NDフィルタ総体としての反射をゼロに近づける事は著しく困難である。
【0015】
特許文献3では、所望の波長領域での分散特性が小さい吸収材料を用いる事で透過率の平坦性を向上させる方法が提案されている。透過率の平坦性のみを向上させ、所望の透過特性を得る事は比較的容易である。しかし、所定の濃度を維持したまま、例えば0.5%程度まで反射率を低減しつつ、平坦性を大幅に向上させる為には、非常に多くの層数や極薄層が必要となる等、設計が大変複雑になってしまうといった問題が生じる。
【0016】
本発明の目的は、上述のような光吸収性を有する光学フィルタの反射率に起因した不具合を低減する方法を提供することにある。また、反射率に起因した不具合を低減した光学フィルタおよび光学フィルタの製造方法を提供することにある。他の目的として、反射率に起因した不具合を低減するとともに透過率の平坦性を向上できる光学フィルタを提供する事にある。
【0017】
また、このような反射を低減した光学フィルタを撮像光学系に用いる事で、反射率に起因したゴーストを低減することができる。また、反射率を低減し、透過率の平坦性を向上した光学フィルタを撮像光学系に用いることで、高画質化など高精度化を実現できる光学装置を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明の光学フィルタは、光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾斜薄膜と、反射防止構造体と、を有し、前記屈折率傾斜薄膜はその膜厚方向に前記基板と反射防止構造体との間に配置されている光学フィルタであって、
前記屈折率傾斜薄膜は、その膜厚方向において段階的に変化する屈折率変化を有し、
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向の屈折率の変化は、
(1)前記基板側において、前記屈折率変化の前記基板側の終点まで、前記屈折率が前記基板の屈折率に近づくように段階的に変化する部分と、
(2)前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点まで、前記屈折率が前記反射防止構造体の屈折率に近づくように段階的に変化する部分と、
を有することを特徴とする。
【0019】
また本発明にかかる光学装置は、上記構成の光学フィルタを撮影光学系に用いたことを特徴とする光学装置である。
【0020】
上記課題を解決するために本発明の光学フィルタの製造方法は、光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾斜薄膜と、反射防止構造体を有して構成される光学フィルタの製造方法であって、前記屈折率傾斜薄膜を設ける工程は、前記屈折率傾斜薄膜の前記基板の側での終点の屈折率を段階的に前記基板の屈折率に近づくように成膜する工程と、3種以上の元素からなる材料を用いた成膜法によりこれら材料の混合比を変化させ段階的に屈折率の異なる混合膜を隣り合う混合膜間の屈折率差を0.05〜0.1以内で成膜する工程と、前記屈折率傾斜薄膜の前記反射防止構造体の側での終点の屈折率を段階的に前記反射防止構造体の屈折率に近づけて成膜する工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光学フィルタおよび光学フィルタの製造方法によれば、反射を低減した吸収タイプの光学フィルタを得る事ができる。この光学フィルタを撮影光学系に用いた場合、フィルタの反射に起因した、例えばゴーストなどの不具合を低減することができる。また、分光透過特性の平坦性を向上させたフィルタでは、分光透過に起因した、例えば色バランスなどを改善する事ができる。また、このような光学フィルタを特に光量絞り装置などに用いた撮像装置は、高画質化を可能とした装置を得る事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る屈折率傾斜薄膜の屈折率分布例である。
【図2】本発明に係る屈折率傾斜薄膜の屈折率変化の境界部分が一定部分と変化部分の例である。
【図3】本発明に係る光学フィルタの構成例である。
【図4】本発明に係る光学フィルタの構成の変形例である。
【図5】本発明に係るTiOとTi2O3の分光透過率特性の例である。
【図6】本発明の実施に用いたスパッタ装置の概略平面図である。
【図7】実施例1における屈折率傾斜薄膜の屈折率プロファイルである。左方に基板が配置され、右方に反射防止構造体が配置される。
【図8】ピラ−アレイ状の微細周期構造体の概略図である。
【図9】微細周期構造体の配列例である。
【図10】実施例1のNDフィルタの製造方法のフローチャートである。
【図11】実施例1により作製された光学フィルタの分光反射率特性である。
【図12】実施例2により作製された光学フィルタの構成図である。
【図13】実施例2に記載の光学フィルタの構成例である。
【図14】実施例2における屈折率傾斜薄膜の屈折率プロファイルである。左方に基板が配置され、右方に反射防止構造体が配置される。
【図15】実施例2のNDフィルタの製造方法のフローチャートである。
【図16】実施例2により作製された光学フィルタの分光反射率特性である。
【図17】実施例3のNDフィルタを用いた光量絞り装置の説明図である。
【図18】実施例3のNDフィルタを用いた光学撮影装置の光学系の説明図である。
【図19】実施例4のNDフィルタを用いた光学測定装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明にかかる光学フィルタは、光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾
斜薄膜と、反射防止構造体とを有する。
【0024】
基板としては、光学フィルタの基板としての強度や光学特性を有するものであり、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の形成用の基板として機能可能であるものが利用される。基板としては、ガラス系の材料からなる基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルサルホン)、PC(ポリカーボネート)、PO(ポリオレフィン)、PI(ポリイミド)及びPMMA(ポリメチルメタクリレート)等から選択した樹脂材料からなる基板を用いることができる。
屈折率傾斜薄膜は、基板の屈折率に近づくように膜厚方向に段階的に屈折率変化し、基板と屈折率傾斜薄膜に隣接する構造体(例えば反射防止構造体)との屈折率差を低減する。
【0025】
この膜厚方向の屈折率変化を膜厚方向において複数の領域に分けた場合に、屈折率傾斜薄膜は、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域と、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域とを有する。好ましくは、屈折率傾斜薄膜の屈折率は、膜厚方向は段階的に変化する。また、屈折率傾斜薄膜に隣接している構造体が反射防止構造体である場合は、屈折率傾斜薄膜は、基板と反射防止構造体の屈折率差を低減する。屈折率傾斜薄膜の基板側端部の屈折率と屈折率傾斜薄膜の反射防止構造体側端部の屈折率差が、基板と反射防止構造体の屈折率差より小さくなるように設定する。特に好ましくは、基板の屈折率と反射防止構造体の屈折率を段階的に繋ぐように変化する。また基板の片面に設けた屈折率傾斜薄膜の反対側の面に少なくとも反射防止構造体及び屈折率傾斜薄膜のいずれか一方を備えることで基板両面の反射を低減してもよい。
【0026】
屈折率傾斜薄膜は光吸収性を有する薄膜であり、その厚さ方向において基板と反射防止構造体との間に配置される。屈折率傾斜薄膜の光吸収性は、目的とする光学フィルタの機能や特性に応じて設定される。入射光の所定の波長に対して、少なくともおよそ1%程度が吸収される場合に、当該波長に対して光吸収性を持つといえる。
【0027】
屈折率傾斜薄膜は、その厚さ方向において段階的に変化する屈折率変化を有する。この屈折率変化は、
(1)前記基板側において、前記屈折率変化の前記基板側の終点まで、前記屈折率が前記基板の屈折率に段階的に近づくように変化する部分と、
(2)前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点まで、前記屈折率が前記反射防止構造体の屈折率に段階的に近づくように変化する部分とを有する。
【0028】
なお、上記の屈折率変化の基板側終点とは、例えば、図1におけるAで示された点であり、反射防止構造体側の終点はBで示された点である。点A、点B、点Cは厚さ方向における屈折率の変化がほぼ一定な部分である。例えば、点A、点Bの屈折率に対して、屈折率傾斜薄膜中の段階的な屈折率をなす部分は点Cで示された点である。図1に示す例では、屈折率分布の変化の基板側終点(あるいは起点)Aを含む末端部分において、点Cに対して屈折率傾斜薄膜の屈折率が基板の屈折率に段階的に近づくように変化している。屈折率分布の変化の反射防止構造体終点(あるいは起点)Bを含む末端部分においても同様に、この点Bを含む末端部分において点Cに対して屈折率傾斜膜の屈折率が反射防止構造体の屈折率に近づくように変化している。なお、点Aは基板側界面に位置してもよい。また、点Bも反射防止構造体側の界面に位置してもよい。段階的な屈折率変化を持たせた屈折率傾斜薄膜成膜の成膜の過程で、点A、点Bの屈折率となるように成膜することによって隣接する物質との界面での反射を低減できる。本発明の光学フィルタの造方法においては、上記(1)(2)の部分を成膜する工程を有する。段階的な屈折率変化は、3種以上の元素からなる材料を用いた成膜法によりこれら材料の混合比を変化させ段階的に屈折率の異なる混合膜を隣り合う混合膜間の屈折率差を0.05〜0.2以内で成膜する混合膜成膜工程を用いることが好ましい。特に好ましくは、隣り合う混合膜間の屈折率差を0.05〜0.1以内で成膜する。
基板または反射防止構造体の屈折率に、屈折率が大きい方から近づいても、屈折率が小さい方から近づいてもよい。屈折率傾斜薄膜の膜厚方向における基板側の端部の屈折率と基板の屈折率の差aと、屈折率傾斜薄膜の膜厚方向における反射防止構造体側の端部の屈折率と反射防止構造体の屈折率の差bとの和(a+b)が、屈折率傾斜薄膜の両面に隣接する2つの構造体間の屈折率差よりも小さくなっていればよい。
つまり、屈折率傾斜薄膜の屈折率が、基板の屈折率と反射防止構造体を構成する材料の屈折率との屈折率差を低減するように膜厚方向に屈折率変化するとは、基板の屈折率Aと反射防止構造体の屈折率Bとの屈折率差|A−B|と(a+b)の関係が、|A−B|>a+bが成り立つことである。なお、この関係は、後述する図3及び図14における基板、他の屈折率傾斜薄膜及び他の反射防止構造体の場合においても同様である。
【0029】
また、本発明における段階的な変化とは、図2(a)及び図2(b)に示したような屈折率変化を含む。図3に屈折率傾斜薄膜を作成した際の屈折率プロファイル例を示す。n1より屈折率の高いn2の材料を使用した場合、n2とn1の間の屈折率を示す中間屈折率材料を形成することができる。この中間屈折率材料により屈折率がほぼ一定の部分を複数有した段階的な屈折率プロファイルを形成することができる。図2(a)では、明確に中間屈折率を形成する部分を連続的に屈折率傾斜薄膜内で形成した例である。一方、図2(b)では図2(a)における屈折率が段階的に変化する層間で屈折率が緩やかに連続的に変化している。図2(b)は、製造工程における環境変化や図2(a)を製造の後、所定時間経過し平滑化された状態等が考えられる。本発明における段階的な変化とは、所定膜厚以上の膜厚で、膜厚方向前後の膜組成が近く、所定の屈折率±0.01程度で近似的に一定である部分を有し、さらに、屈折率傾斜薄膜内で異なる所定の屈折率である部分が複数存在することを呼ぶ。より好ましくは、屈折率の範囲が所定の屈折率±0.005程度に制御することによって、各種光学特性を精度良く制御することができる。本発明を実施する光学フィルタの製造方法においては、屈折率を安定的に成膜できる範囲で成膜を行った。安定的に成膜するためには、少なくとも5nmの物理膜厚が必要である。所定の膜厚内で本発明の屈折率変化を行うためには、5〜100nm以内の物理膜厚で屈折率を変化させるのが好ましい。所定の屈折率±0.01程度で近似的に一定とは、屈折率が段階的に変化し、屈折率が近似的に一定である5〜100nmの膜厚の部分における屈折率の平均値に対して、±0.01以内であることを示す。
【0030】
なお、成膜方法によっては、基板上に形成される薄膜の最初の部分での厚さ方向の屈折率変化が生じても良い。後述するとおり、基板上に屈折率傾斜薄膜を成膜する際に、複数の薄膜形成用材料の配合比を変化させて膜厚方向での屈折率の段階的な変化を形成する。その場合、明確に屈折率が一定な成膜を行っても、ある時間経過後に複数の薄膜形成用材料の配合比を変化させた界面では、酸素の移動が起こり厚さ方向における屈折率の変化が生じることもある。また、成膜の環境によっては、屈折率が一定な膜間で緩やかな屈折率変化を生じる場合もある。基板側の段階的な屈折率変化の終点における屈折率は、基板の屈折率と同じか、あるいは、基板の屈折率に対して、目的とする光学フィルタの特性において許容される屈折率差の範囲内の屈折率であればよい。反射防止構造体側の屈折率変化の終点における屈折率も同様に、反射防止構造体の屈折率と同じか、あるいは、反射防止構造体の屈折率に対して、透過光の波長または波長領域における目的とする光学フィルタの特性において許容される屈折率差の範囲内の屈折率であればよい。これらの屈折率差は0.05以下が好ましい。同様に、屈折率傾斜薄膜内における段階的な屈折率変化も0.05以下とすることで屈折率傾斜薄膜の屈折率変化に起因する反射を低減することができる。一方で、屈折率傾斜薄膜は光吸収性を持つため、隣接する膜間の屈折率差を0.1以下とすることでも界面に比べて膜間での良好な反射防止性を有する。屈折率傾斜薄膜内での位置や隣り合う膜の屈折率により0.2以下まで許容される場合もある。所定の膜厚内で所望の吸収を持たせるためには、消衰係数等も考え所定の領域以上の屈折率まで上昇させる必要があり、所定の屈折率の範囲内で屈折率を変化させる必要がある。一方、屈折率変化を細かくしすぎると多くの層数が必要になり、あまりに多くの層数で成膜すると制御が複雑になる。そのため、隣接する屈折率の異なるそれぞれの部分において0.05〜0.1の屈折率差とすることが好ましい。
すなわち、屈折率傾斜薄膜の屈折率は、基板側の屈折率変化の終点では、基板の屈折率との差を例えば、段階的な屈折率変化の隣合う部分の屈折率差以下として0.05以下とすることで反射を低減することができる。より好ましくは、段階的な屈折率変化の隣合う部分の屈折率差よりも小さく基板側の屈折率変化の終点と基板との屈折率差を0.03以下とする。反射防止構造体側の屈折率変化の終点では、反射防止構造体の屈折率との差を基板側と同様に小さくすることによって反射を低減することができる。従って、屈折率傾斜薄膜の膜厚方向端部の屈折率は、隣接する構造体との屈折率差を少なくする。一方、屈折率傾斜薄膜の膜厚方向中央部の屈折率も、段階的に屈折率変化し、光吸収性の物質単体の割合も変化する。段階的な屈折率変化において、光吸収性の物質の割合が多い部分を形成し、光吸収性の物質単体の屈折率に近づく部分を有するとともに、所望とする吸収特性に必要な膜厚を備えることで反射低減と吸収性を両立させることができる。
【0031】
屈折率傾斜薄膜における厚さ方向の屈折率変化の幅は、目的とする光学フィルタの特性や屈折率傾斜薄膜形成用の材料の種類やその組合せなどによって各種設定できる。例えば、屈折率傾斜薄膜の厚さ方向において、3種類の元素を用いて、SiO2からなる領域からTiO2からなる領域に変化させる場合は1.47〜2.70程度の範囲内で変化させることができる。
屈折率傾斜膜の膜厚は、目的とする機能に応じて適宜選択できる。屈折率傾斜膜の膜厚は、10〜4000nm、より好ましくは100〜1000nmとすることができる。
【0032】
反射防止構造体は、所望の光学フィルタの光学特性を得るために必要とされる反射防止機能を有するものであればよい。反射防止構造体としては、基板を透過する可視光の波長よりも短い周期で構成された凹凸構造を持つ微細周期構造体や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜を形成する工程を用いることができる。
【0033】
反射防止構造体としては、可視光の波長よりも短いピッチで多数の微細な突起が配列された面を有する微細構造体、あるいは可視光の波長よりも短いピッチでの凹凸の繰り返しを設けた面を有する微細構造体を用いることができる。この微細構造体としては、ランダムに形成された針状体及び柱状体等の突起、階段形状に微細に形成された凹凸構造の突出部または凹部によって大気や隣接する媒体との屈折率差を低減したものも含む。この微細構造体としては、公知の微細構造体から目的に応じて選択したものを用いることができる。例えば、基板を透過する可視光の波長よりも短い繰返し周期で配置された多数の突起からなる周期構造、あるいは基板を透過する可視光の波長よりも短い繰返し周期の凹凸構造からなる周期構造を持つ微細周期構造体であれば、光ナノインプリントなどの方法を用いて再現性良く作成することができる。その他の反射防止構造体としては、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜を用いることができる。単層または複数層の反射防止膜では、屈折率傾斜薄膜に隣接する層の屈折率と前記基板の屈折率との屈折率差を低減するように、屈折率傾斜薄膜は膜厚方向に屈折率変化する。
【0034】
なお、基板と、膜厚方向に屈折率が段階的に変化する屈折率傾斜薄膜と、所望の光の波長領域において反射防止効果を発現する反射防止構造体とを、それぞれこの順番に隣接させ配置する事で、光学フィルタ内での光の反射率を著しく低減させることができる。そこで、本発明では、膜厚方向において段階的に屈折率が変化する薄膜を用い、基板、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の屈折率の関係を上記の(1)及び(2)のように成膜する工程を有している。
【0035】
しかしながら、光吸収性を屈折率傾斜薄膜に持たせた光学フィルタとする場合には、単に、基板と微細周期構造体との間に屈折率傾斜薄膜を配置した構成では、色バランスなど、高画質化に必要とされる、分光透過特性を調整し向上させる事は大変困難である。そこで、本発明では、基板への入射光に対して、分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域と、分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域が、前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に配置されていることにより、屈折率傾斜薄膜の分光透過特性の平坦性を向上させたNDフィルタを得る事が可能となる。
【0036】
また、基板の両面の各々に屈折率傾斜薄膜を有する構成とすることで、それぞれの膜応力を相殺させ、基板の反り等を防止することができる。そして、基板の両面の各々に屈折率傾斜薄膜を形成し、屈折率傾斜薄膜上に基板の表裏から二つの光源を用いて微細周期構造体を作成することで、生産性良く光学フィルタを製造することができる。
【0037】
本発明にかかる光学フィルタの構成は、吸収を持つタイプで反射が問題となる場合は各種の光学フィルタに利用可能である。平坦性を向上させた場合は、透過光の平坦性を課題とする光学フィルタであれば、例えば、NDフィルタ等の光学フィルタに利用できる。
【0038】
以下、本発明の光学フィルタの製造方法について、NDフィルタとした場合について実施例に基いて説明する。
【0039】
(実施例1)
図3のように構成した、吸収タイプのNDフィルタについて、以下に詳しく記載する。
【0040】
なお、以下の各実施例における屈折率は、基板、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の構成材料から540nmの波長の光での屈折率として特定できるものである。
【0041】
図3に示したように、基板13の片面(上面)側に屈折率傾斜薄膜12を配置した。また、屈折率傾斜薄膜12上に反射防止構造体111を配置し、基板13の裏面にも反射防止構造体112を配置した場合、さらに反射防止効果を得ることができる。また、屈折率傾斜薄膜12は膜中の少なくても一部に吸収を持っている。
【0042】
図3のような構成の場合、基板の裏面での反射が大きくなってしまう為、この面にも何らかの反射防止構造体112が必要となる場合が多い。このような反射防止構造体111、112としては、図4(a)〜(b)中に示したように、反射防止効果を持つ微細周期構造体151、152や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜161、162が挙げられる。更には、図4(c)〜(d)中に示したように、微細周期構造体15と反射防止膜16を併用した構成などが挙げられる。適宜最適な構成を選択すれば良い。このような構成であれば、例えば撮像素子側にフィルタのどちらの面を向けても、フィルタの反射に起因したゴ−スト光の発生を抑制する事ができるなど、フィルタの方向を選ばず光学系内に配置する事も可能となる。
【0043】
図4(a)〜(d)中でも、反射低減の観点からは図4(a)に示したような構成にする事がより望ましい。従って、後述する本発明の実施例1、2では反射防止構造体として、基板の両側の面で微細周期構造体を形成した。
【0044】
ここで、例えば図4(b)のような多層膜構成の反射防止膜161や162と同様の効果を持つ機能を屈折率傾斜薄膜12中に組み込む事も可能である。その場合は、表層の界面付近における所定の領域内で、屈折率を段階的に複数回増減させ、外気との界面反射防止用の屈折率プロファイルが必要となる。そのため、屈折率傾斜薄膜上に別途反射防止構造体を設けた構成とみなすことができる。また、反射防止膜の作成に際して、屈折率傾斜薄膜上に、屈折率傾斜薄膜の作成に使用する材料と異なる材料を使用し、屈折率が段階的に変化する反射防止膜を作成してもよい。
【0045】
しかし、その場合は屈折率傾斜薄膜表層の界面付近における所定の領域で、屈折率を段階的に複数回増減させる屈折率プロファイルを形成する必要があり、先までの屈折率傾斜薄膜とは異なる屈折率を必要とする場合が多く、基礎データの蓄積や、プロセス時の制御が複雑となる場合も想定される。従って、屈折率傾斜薄膜上に別途反射防止構造体を設ける構成が望ましい。
【0046】
このような実施例1のNDフィルタ14を形成する基板13には屈折率が1.60程度となるように厚さ0.1mmのPETフィルムを使用した。本実施例ではPETフィルムを使用したが、これらに限らずガラス系の材料でも良いし、POやPI系、PEN、PES、PC、PMMA系などの樹脂材料であっても良い。
【0047】
<屈折率傾斜薄膜について>
屈折率傾斜薄膜12は、メタルモードスパッタ法により、SiO2とTiOx膜の成膜レートを調整しながら、この2種類を混合させ、屈折率を膜厚方向で段階的に変化させる事で、所望の吸収特性を得るように調整し作製した。
【0048】
このような段階的な屈折率プロファイルを持つ屈折率傾斜薄膜の例が図1である。図1では、比較的高屈折率を持つ基板から、屈折率傾斜薄膜、微細周期構造体の順に積層されている。そして、膜厚方向に対し、基板側から段階的に屈折率が増減するような変化を持っており、屈折率傾斜薄膜両端の界面に向かうにつれ、それぞれ隣接する構造体の屈折率に近づくような変化をとっている。
【0049】
屈折率傾斜薄膜は、膜面に垂直な方向、つまり膜厚方向に屈折率が段階的に変化している薄膜の事である。基板側から段階的に屈折率が減少するような変化を持っており、屈折率傾斜薄膜両端の界面に向かうにつれ、それぞれ隣接する構造体の屈折率に近づくような変化をとっている。
【0050】
膜厚方向に屈折率が、連続的かつ周期的に変化している膜は、ルゲート膜、ルゲートフィルタなどとして知られている。
【0051】
また、深さ方向分析によって得られた結果を、縦軸に濃度(強度)、横軸に深さ(膜厚などに対応するパラメータ)を取ったプロットをデプス・プロファイルという。測定試料の表面から内側に向かって組成分布を調べる深さ方向分析において,ミクロンオーダー以下の分析には加速イオンを用いて表面を削り取りながら分析する手法が良く用いられる。この方法はイオンスパッタリング法と呼ばれ、X線光電子分光法(XPS)やオージェ電子分光法(AESまたはESCA)などとして知られており、基板表面に層を形成した構造を持った光学部品や電子部品、機能材料の評価に多く用いられている。これらのX線光電子分光法では、超高真空中で試料にX線を照射し、放出される電子(光電子)を検出する。放出される光電子は、対象となる原子の内殻電子に起因するものであり、そのエネルギーは元素ごとに定まることから、エネルギー値を知ることで定性分析を行う事が可能である。このように屈折率傾斜薄膜中の膜厚方向における組成の変化を評価し、デプス・プロファイルを得る事により、所望の屈折率分布を得る事ができているのかを確かめる事が可能である。
【0052】
このような屈折率傾斜薄膜の設計手法は以前より各種様々な方法が検討されており、連続的な変化とは異なり、階段状に徐々に段階的に屈折率が変化するステップ型の屈折率分布であっても、この屈折率分布を調整する事で、連続的なインデックス変化を持たせた膜と、略同様の光学特性を得る事も可能である事が判明している。反射低減などにおいては、連続的な屈折率変化を持った方がより理想的な特性を得る事ができ、さらに薄膜中で界面が無くなり前後の膜組成が非常に近くなる事から、膜の密着強度の向上や、環境安定性の改善などの効果が現れる。一方で、製作に関しては大変複雑になってしまい、成膜装置の機構や制御などが複雑化する問題が生じる。また、膜組成が様々な形態を取る為、設計の高精度化を図る為には膨大な基礎データの蓄積が必要となり、これらの観点からは、屈折率が段階的に変化する階段状の屈折率分布を選択する方が良い。
【0053】
以前までの薄膜作製技術では任意の屈折率を得る事が難しく、実際に作製する事は大変困難であった。しかし、スパッタ法や蒸着法など、近年の成膜手法の発展により、屈折率の範囲は限定される事があるものの、少なくてもその範囲内では任意の屈折率を得る事が可能となってきた。
【0054】
例えばスパッタ法においては、2種類の材料に対して同時に放電し、各材料の投入パワー、つまりターゲットへの投入パワーを変化させ、混合比を変える事で、2つの物質の間の屈折率を持つ、中間屈折率材料を作製する事が可能である。また、混合する種類は2種類以上であっても良い。
【0055】
このようなスパッタ法の場合、1つの材料を低パワーとしていくと、放電が不安定になったり、メタルモードスパッタの場合は、反応モードになってしまったりするなどの不具合が生じる。従って、2物質間の全ての屈折率を実現する為には、例えばマスク法により成膜量をコントロールするなど、投入パワー以外の要素も並行して調整し、膜厚を制御する必要があるが、この場合は、装置の機構や、制御が少なからず複雑化する。以上より、本実施例で用いたメタルモードスパッタ法においては、放電を安定的に維持、制御できる範囲内で屈折率を変化させた。
【0056】
また、膜厚方向に屈折率を段階的に変化させる事に加え、TiOxのxを膜厚方向で変化させ、消衰係数も変化させる事で、屈折率傾斜薄膜12中の吸収特性を調整し、可視波長領域である400nm〜700nmにおける分光透過特性が、膜総体として分散が小さい平坦な特性となるようにした。
【0057】
一例を示すと、xが1相当となるTiOでは可視波長領域での分光透過特性が図5中の(a)のように、長波長側につれ徐々に高くなるような特性になる傾向がある。xが1.5相当となるTi2O3では可視波長領域での分光透過特性が図5中の(b)のように、長波長側になるにつれ徐々に低くなるような特性になる傾向がある。そこで、これらのように、分散形状が相反する領域を屈折率傾斜薄膜12の膜厚方向に配置した組合せを1以上設ける事で、総体として分光透過特性を平坦に調整した。一般的な光学薄膜に使用される金属酸化物において金属と酸素の割合が変化する場合には同様な傾向を示す。透過率に関連する係数である消衰係数の異なる2種類以上の金属酸化物の透過率の波長依存性が互いに変化を相殺し合う関係にあることにより、多層膜構成であれば、平坦な透過率特性を得るという発想が、特許第3359114号に開示されている。金属酸化物のこの特性を利用して平坦性を改善にするように膜設計を行うことができる。ここで、xの値を可変させる事で、屈折率も変化する為、これを踏まえ、予め得た基礎デ−タより、SiO2との成膜比を決定し制御を行う必要がある。xの値を膜厚方向で可変させる具体的な手段については、酸化源のパワ−を調整したり、成膜方法によっては導入するガス量を調整する事などで制御する事が可能である。
【0058】
<スパッタ装置構成>
図6は、屈折率傾斜薄膜の作製に用いたスパッタ成膜装置の基板搬送装置の回転軸に直交する面での平面断面図である。
【0059】
スパッタ成膜装置としては、薄膜が形成される基板51を保持する回転可能な円筒状の基板搬送装置52を真空槽53内に備え、基板搬送装置52の外周部とその外側の真空槽53との間の環状空間に、2箇所のスパッタ領域54、55と、反応領域57が設けられている装置を用いた。領域59から基板を搬入する。
【0060】
基板51は成膜される面が外側を向くように基板搬送装置52に搭載させた。スパッタ領域54、55には、ACダブル(デュアル)カソードタイプのターゲット54a、55aが装備されている。真空槽53の外側に高周波電源56が配置されている。ターゲット材の形状は平板型に限らず、円筒型のシリンドリカルタイプであっても良い。また、これらの他に、別途領域58には、例えばグリッド電極を有する高周波励起によるイオンガングリッドや、基板への正イオンの電荷蓄積を防ぐために正イオンを中和する低エネルギー電子を放出するニュートラライザ等を設ける事も可能である。本発明に用いるスパッタ装置は、例えばスパッタ領域を3領域以上設けても良く、上記装置以外の構成でも実施可能である。
【0061】
図6で示したスパッタ装置を用い、スパッタ領域54にSiターゲット、スパッタ領域55にTiターゲットを配置し、反応領域57には酸素を導入した構成で屈折率傾斜薄膜を形成した。基板搬送装置52に固定された基板51を高速回転させ、スパッタ領域54、55において、基板51上にSiとTiの極薄膜を形成した後、反応領域57でSiとTiの極薄膜を酸化させる。これにより、SiとTiの酸化膜を形成し、この動作を繰り返す事でSi酸化膜とTi酸化膜の混合膜を作製した。さらに、各スパッタ領域でのスパッタレートや酸化レートを、成膜中に段階的に変化させる事で、膜厚方向において段階的に屈折率が変化する屈折率傾斜薄膜を形成した。また、SiO2とTiOxのそれぞれ単独での成膜条件を基に、SiとTiのスパッタレート、及び酸化レートを制御する事で、SiO2とTiOx相当となる混合膜を作製する事も可能である。また、SiO2膜単体の屈折率からTiOx膜単体の屈折率まで、屈折率を屈折率差が小さい範囲で段階的に変化させる場合には、投入パワ−を低くすると放電が不安定になる事がある為、酸化レートの制御時に、投入電力の制御だけではなくカソード上設けたマスク機構を併用した。
【0062】
<屈折率傾斜薄膜の屈折率>
本実施例においては、屈折率傾斜薄膜12は、図7(a)で示すような屈折率のプロファイルを持つ構成とした。図7(a)中の山谷を複数形成したような図7(b)に示すプロファイルを形成する事も可能であるが、制御の容易性などを考慮して、複雑化しないよう必要最低限の増減となるように設計した。
【0063】
本実施例においては、屈折率差を0.05として膜設計を行い成膜した。所望の吸収を得るためには、屈折率が高い領域が必要となる。そのため、屈折率傾斜薄膜は基板に近い方から段階的に屈折率を上昇させ、屈折率が下降に向かう段階的な変曲部を経て、反射防止構造体に向かって反射防止構造体の屈折率に所定の屈折率差以内で屈折率差を屈折率が減少するに従って小さくするように緩やかに近づくことが好ましい。本実施例においては、各種の屈折率差を所定の範囲とし、吸収特性を持たせている。そのため、屈折率が1.6以下の基板、反射防止構造体を用いる場合は、1.8以上の屈折率を持つ領域から図7(a)、図7(b)示すように、基板反射防止構造体それぞれの界面に向かって段階的に単調減少させることにより、屈折率傾斜薄膜内での反射と界面での反射を低減することができる。隣接する媒体との界面付近の屈折率傾斜薄膜は、屈折率傾斜薄膜の外部からの影響が内部に比べて大きい。そのため、屈折率変化の基板側終点と屈折率分布の変化の反射防止構造体側終点は、制御できる範囲内で、屈折率傾斜薄膜内からの屈折率差を他の段階的な屈折率変化に比べて緩やかにすることで隣接する媒体との界面での影響を緩和し、膜の安定性を高めることもできる。
【0064】
一方、基板と屈折率傾斜薄膜との界面、および屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との界面においても、屈折率が異なるとその屈折率差に応じて反射が発生する。そこで、これらの界面での反射が問題となる場合は、屈折率差は出来るだけ小さくする事が望ましい。また、吸収タイプの薄膜は、無色透明な薄膜に比べて反射が少ない。膜厚、屈折率が同じ場合、光を吸収する物質の割合が多い方が反射を低減できる。本実施例では、屈折率傾斜薄膜の成膜開始直後と成膜終了間際でのSiO2とTiOxとのレート比を調整する事で、2つの界面での屈折率差をそれぞれで0.05以下となるように調整した。また、屈折率傾斜薄膜12の膜厚は200nmとなるように調整した。膜厚が薄いと膜厚の制御が安定しないため、膜厚は物理膜厚で少なくとも5nm以上が好ましい。屈折率傾斜薄膜の膜厚は、薄い方が基板から反射防止構造体までの屈折率の変化率が急峻になる。そのため、反射防止の観点からは、膜厚が厚い方が好ましい。反射をより低減する必要がある場合は、400nm程度までに厚くする事で対応できる。
【0065】
<反射防止構造体について>
微細周期構造体は、近年の微細加工技術の向上とともに作製されるようになってきた。
このような構造体の1つである、反射防止効果を持つ微細周期構造体は、モス・アイ構造体などと呼ぶことも可能である。構造体の形状を擬似的に屈折率の変化が連続的となる形状とする事で、物質間の屈折率差に起因した反射の低減を図ったものである。
【0066】
図8は基板上にピラ−アレイ状に円錐体が配置された、反射防止効果を持つ微細周期構造体の概略例を示す上方向からの斜視図である。これと同様にホ−ルアレイ状に配置した微細周期構造体の形成も可能である。このような構造体は、真空成膜法などで薄膜を単層、または複数層積層する事により作製する反射防止膜とは別の手段として、例えば物質表面などに生成される事が多い。
【0067】
このような微細周期構造体の作製に関しては、様々な方法が提案されているが、本実施例ではUV硬化性樹脂を用いた光ナノインプリント法を用いた。
【0068】
微細周期構造体は図8のように円錐体を周期的に配置したピラ−アレイ状とし、NDフィルタの用途を考慮し、少なくても可視波長領域の反射率は低減できる構造となるように、高さ350nm、周期250nmとなるように設計した。さらに、突起構造体のマトリックス状の配列に関して、図9(a)の平面図で示すように正方配列や、図9(b)の平面図で示すように三方(六方)配列などが考えられるが、三方配列の方が基板材料の露出面が少ない事などから、反射防止効果が高いと言われている。従って、本実施例では三方配列のピラ−アレイとした。
【0069】
先に設計された形状を反転させたホールアレイ形状を持つモールドとしての石英基板に、UV硬化樹脂を適量滴下した。その後、インプリントを施す基板に石英モールドを押し付けた状態でUV光を照射する事で樹脂を硬化させ、サブミクロンピッチのピラーアレイ状の微細周期構造体151、152を作製した。各種のUV硬化樹脂を用いることができるがここでは、東洋合成製PAK−01(商品名)を用いて、重合硬化後に、屈折率が1.50となるように調整した。
【0070】
ここで、屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との密着性を向上させるために、プライマー処理を行い、屈折率傾斜薄膜上と微細周期構造体との間に密着層を設けた。プライマー液としては、界面活性剤である信越化学社製のKBM−503(商品名)をベースに、IPA(イソプロピルアルコール)や硝酸を適量加え、塗工後の硬化した密着層の屈折率が1.45となるように調整したものを用いた。これを、0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタを介し屈折率傾斜薄膜上に滴下し、スピンコートにより極薄膜となるように塗工した。更に密着力を強化する必要がある場合は、前述のプライマー液の成分に更にTEOS(オルトケイ酸テトラエチル)などを加えても良い。また、プライマー液をより均一に塗工する為に、プライマー液塗工前に、基板にはUVオゾンによる親水化処理を施す事がより好ましい。さらに、基板両面に設ける場合は、濃度を適宜調整し、ディップコートにより塗工しても良いし、スピンコートで片面塗工した後に基板の表裏を変え、もう一方の面を再度スピンコートで塗工しても良いが、本実施例では後者を選択した。密着層と隣接する構造体との屈折率差も0.05以内とすることが好ましい。
【0071】
ここで、NDフィルタのように可視波長全域に吸収を持つフィルタの場合、紫外域にも吸収を持っている場合が多い。従って、使用するUV光の波長によっては、フィルタの基板側から光を照射した場合、NDフィルタがその光の少なくとも一部を吸収してしまい、十分な光が樹脂まで届かない場合がある。従って、そのような場合はモールド側からUV光を照射する必要があり、必要なUV光の波長を十分に透過する材質のモールドを選択する必要がある。
【0072】
更に、光ナノインプリントのプロセスを考慮すると、基板13の片面にインプリントを施し、その後もう一方の面にインプリントすると、最初に形成した微細周期構造体に欠けやクラックなどのダメージを与えてしまう事が想定される。従って、基板両面にそれぞれインプリント用のモールドを配置し、両面同時に光ナノインプリントを実施する手法を選択した。この場合、UV光源も基板両面に2つ配置することで生産性を高めることができる。
【0073】
本発明の実施の形態おける光学フィルタの製造方法を図10にフローチャートとして示す。Sは各工程のステップを示す。ターゲット54a、55aにはTiOx及びSiO2をスパッタするための原料が備えられている。成膜を開始するために成膜条件を不図示のスパッタ装置の制御部に入力し成膜を開始する。S101で基板51(13)を基板搬送装置52に設置して成膜位置に移動させる。S102では、投入パワーを調節し基板51(13)との屈折率差が0.05以内の成膜を行う。S103で、S102に用いた投入パワーとは異なるバランスの投入パワーでSiO2膜とTiOx膜の成膜レートを調整し、混合比率を変え下層に成膜した混合膜から0.05〜0.1の範囲で屈折率を変化させ成膜を行う。S104で、不図示のスパッタ装置の制御部により、次の成膜が屈折率傾斜薄膜の最表層の成膜になるかを判定し、最表層でない場合は、S103へ進み、次の成膜が最表層である場合は、S105へ進む。S105では、屈折率傾斜薄膜の最表層上に形成する反射防止構造体の界面の屈折率との屈折率差が0.05以下で成膜を行う。S106において、反射防止構造体を作成する。本実施例においては、スパッタ装置から取り出し上述の方法で、微細周期構造体151、152を形成したが、これに限らず、単層または複数層の薄膜からなる反射防止構造体を形成してもよい。
【0074】
図7(a)の屈折率プロファイルにおいて、基板側の界面点P0から点P1にかけては、TiOxのxは約1.5で固定されており、SiO2との組成比を変化させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
次に、点P1から点P2を通過し点P3に近づくにつれ、TiOxのxは1.5から1.0に段階的に変化させている。これと同時にSiO2との組成比を変化させ、点P1から点P2に近づくにつれTiOxに対しSiO2の組成比を増やし、更に点P2から点P3に近づくにつれ、TiOxに対しSiO2の組成比を減少させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
さらに、点P3から反射防止構造体側の界面点P4にかけては、TiOxのxは約1.0で固定されており、SiO2との組成比を変化させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
点P1付近ではTi2O3の影響を大きく受けた分光透過を示し、点P3付近ではTiOの影響を大きく受けた分光透過を示す。従って、このように構成する事で、屈折率傾斜薄膜中に、可視波長領域において図5で例示したような異なる分散特性を持つ領域を混在させ、膜厚や組成比により影響度を調整する事で、所望の透過特性を得る事が可能となる。本実施例においては、可視波長領域において分光透過特性が平坦な形状となるように、これらを調整した。
【0075】
一方、基板と屈折率傾斜薄膜との界面、および屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との界面においても、屈折率が異なるとその屈折率差に応じて反射が発生する。そこで、これらの界面での反射が問題となる場合は、屈折率差は出来るだけ小さくする事が望ましい。本実施例では、屈折率傾斜薄膜の成膜開始直後と成膜終了間際でのSiO2とTiOxとのレ−ト比を調整する事で、2つの界面での屈折率差をそれぞれで0.05以下となるように調整した。
【0076】
<光学フィルタの特性>
以上によって作製されたNDフィルタの、分光反射率特性、及び分光透過率特性が図11である。濃度は約0.70程度であり、可視波長領域の殆どにおいて反射率が0.4%以下になっている。本構成により、非常に低い反射率を実現できた。測定には、分光光度計(U4100(株)日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた。
【0077】
さらに、可視領域全域において、分光透過特性が平坦であり、この平坦性の1つの指標である、{(400〜700nmにおける透過率の最大値)−(400〜700nmにおける透過率の最小値)}÷(500〜600nmにおける透過率の平均値)を平坦性と定義した場合、本実施例において作製されたフィルタの平坦性は約4.2%程度であり、可視光領域の反射率を0.5%以下と非常に低い値に抑えたうえで、平坦性に優れたNDフィルタを得る事ができた。
【0078】
また、スパッタ法を用いることで、蒸着法などと比べて、密度の高い薄膜を安定的に形成することができる。本実施例において、屈折率の制御に酸化物を用いたが窒化物でも良く屈折率傾斜薄膜として、段階的に屈折率が変化すれば各種の化合物を用いることができる。加えて、基板と屈折率傾斜薄膜、及び/または屈折率傾斜薄膜と反射防止構造体の間に、基板、反射防止構造体のそれぞれの屈折率に近い接着層やバッファ層等を設けて、密着性や耐久性を改善することなども可能である。その場合はバッファ層等を考慮した設計を行えば良い。バッファ層の屈折率は、これに隣接する基板または反射防止構造体と同じ、あるいは屈折率差を近接させる、好ましくはこれらの屈折率差を0.05以下とする。このようなバッファ層は、後述する他の屈折率傾斜薄膜を有する構造においても同様に用いることができる。
バッファ層として密着層を設ける場合における密着層形成用の材料としては、シランカップリング剤の他には、Cr、Ti、TiOx、TiNx、SiOx、SiNx、AlOx、SiOxNyなどの無機材料や各種の有機材料が挙げられる。密着性を高める層の材質に応じて公知の材料から密着層形成用の材料を適宜選択して用いることができる。密着層の膜厚は、目的とするフィルタの光学的機能及び密着性が得られるように設定すればよい。密着層は、例えば10nm以下の薄膜として形成してもよい。
【0079】
また、本実施例では、単濃度のNDフィルタを作成した。グラデーションNDフィルタを作成する場合は、マスク面と成す角度の調節が可能な遮蔽板を有するマスクを使用する。そして、マスクでターゲットの面に対して膜材料の一部を遮蔽することによって、基板上にグラデーション濃度分布を成膜する方法を用いることにより形成できる。
【0080】
(実施例2)
図12のように基板両面に屈折率傾斜薄膜を形成したフィルタの作製について以下に記載する。
【0081】
図12に示したように、本実施例では、基板23の片面(上面)側に屈折率傾斜薄膜221を配置し、屈折率傾斜薄膜221上に反射防止構造体211を配置した。その後、基板23の裏面側にも同様に屈折率傾斜薄膜222と反射防止構造体212を配置した。NDフィルタ24における所望の波長領域に所望の吸収を持つ機能は、屈折率傾斜薄膜221、222の両方に持たせた。場合によっては屈折率傾斜薄膜221と222のどちらか一方のみであっても同様の特性を得る事は可能である。このような反射防止構造体211、212としては、図13(a)及び(b)中に示したように、反射防止効果を持つ微細周期構造体251、252や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜261、262を挙げることができる。更には、図13(c)中に示したように、微細周期構造体25と反射防止膜26を併用した構成などが挙げられる。適宜最適な構成を選択すれば良い。
【0082】
図13(a)〜(c)中でも、反射低減の観点からは図13(a)に示したような構成にする事がより望ましい。従って、本実施例では図13(a)のように、反射防止構造体として、基板23の両側の面で微細周期構造体251、252を形成した。
【0083】
NDフィルタ24を形成する基板23には厚さ1.0mmのSFL−6ガラスを使用した。実施例1と同様に、まずは基板23上の片面側に、屈折率傾斜薄膜221を、メタモ−ドスパッタ法により、SiO2とTiOx膜の成膜レ−トを調整しながら作製した。この場合においても、これらの2種類を混合させ、屈折率を膜厚方向で段階的に変化させる事で、所望の吸収特性を得るように調整した。その後、基板の表裏を変えて、再度同様にSiO2とTiOxの混合膜である屈折率傾斜薄膜222を作製した。また屈折率傾斜薄膜221、222の膜厚は200nmとなるように調節した。
【0084】
膜厚方向に屈折率を連続的に変化させる事に加え、TiOxのxを膜厚方向で変化させ、消衰係数も変化させる事で、屈折率傾斜薄膜221、222中の吸収特性を調整し、可視波長領域である400nm〜700nmにおける分光透過特性が、膜総体として分散が小さい平坦な特性となるように膜設計を行った。すなわち、屈折率傾斜薄膜221、222は、図14(a)で示すような屈折率のプロファイルを持つ構成とした。図12(a)中の山谷を複数形成したような図14(b)に示すプロファイルを形成する事も可能であるが、制御の容易性などを考慮して、複雑化しないよう必要最低限の増減となるように設計した。
【0085】
図14(a)の屈折率プロファイルにおいて、基板側の界面点Q0から点Q1にかけては、TiOxのxは約1.0で固定されており、SiO2との組成比を変化させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
次に、点Q1から点Q2を通過し点Q3に近づくにつれ、TiOxのxは1.0から1.5に段階的に変化させている。これと同時にSiO2との組成比を変化させ、点Q1から点Q2に近づくにつれTiOxに対しSiO2の組成比を増やし、更に点Q2から点Q3に近づくにつれ、TiOxに対しSiO2の組成比を減少させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
さらに、点Q3から反射防止構造体側の界面点Q4にかけては、TiOxのxは約1.5で固定されており、SiO2との組成比を変化させる事で段階的な屈折率変化を形成した。
点Q1付近ではTiOの影響を大きく受けた分光透過を示し、点Q3付近ではTi2O3の影響を大きく受けた分光透過を示す。従って、このように構成する事で、屈折率傾斜薄膜中に、可視波長領域において図6で例示したような異なる分散特性を持つ領域を混在させ、膜厚や組成比により影響度を調整する事で、所望の透過特性を得る事が可能となる。本実施例においては、可視波長領域において分光透過特性が平坦な形状となるように、これらを調整した。
【0086】
吸収特性を維持しつつ反射防止を行う観点から、屈折率傾斜薄膜は基板に近い方から屈折率が緩やかに上昇し、変曲部を経て、反射防止構造体に向かって反射防止構造体の屈折率に緩やかに近づくことが好ましい。また、屈折率傾斜薄膜内でも屈折率変化が少ない方が良い。本実施例では、基板23と反射防止構造体(微細周期構造体251、252)の屈折率差が大きいため、複数の変曲部の中でも、屈折率が一番大きくなる変曲部を基板に一番近い側に設定した。そのため、複数の変曲部が形成され、変曲部の屈折率は基板23から微細周期構造体に向かうに従って低下するように設計した。これにより、膜厚を安定させるために所定の膜厚が必要な条件で、段階的な屈折率変化を持たせ所望とする波長の吸収の平坦性を確保しつつ、全体の膜厚を厚くしすぎない構成となる。
【0087】
その後、基板両面に形成された屈折率傾斜薄膜上にUV硬化樹脂を用いた光ナノインプリント法により反射防止効果を持つサブミクロンピッチの微細周期構造体251、252を形成した。実施例1と同様の理由から、本実施例においても、ND膜を形成した基板両面にそれぞれインプリント用のモールドを配置し、二つの光源を使用して両面同時に光ナノインプリントを実施した。
【0088】
本発明の実施の形態おける光学フィルタの製造方法を図15にフローチャートとして示す。Sは各工程のステップを示す。S201〜S205については、実施例1とは異なる基板23に対して所望の特性を得るための成膜を図10のS101〜105と同様な工程を行う。S206で基板23の表裏を装置内または装置から取り出して入れ変える。S207〜S210については、S102〜S105にそれぞれ対応させ同様な工程を行う。これにより、基板23の表裏に屈折率傾斜薄膜221、222に形成し、S211において上述の方法で、微細周期構造体251、252を形成した。また反射防止構造体としては、これに限らず、単層または複数層の薄膜を形成してもよい。上述のような工程が、製造効率が良い。しかし、スパッタ法やアシストの強い蒸着法等を用いて、高密度の膜を成膜する場合、片面一層または一部複数層成膜ごとに基板の表裏を入れ替えて成膜すると膜応力による基板の反りを防止することができる。また、表面を一部複数層形成後、基板の表裏を入れ替えて裏面を成膜し、再度表面の残りを成膜するなど製造工程は各種変形が考えられる。
【0089】
以上によって作製されたNDフィルタの分光反射率特性、及び分光透過率特性が図16である。濃度は約0.70程度であり、可視波長領域において反射率が約0.2%以下になっている。本構成により、非常に低い反射率を実現できた。測定には、分光光度計を用いた。
【0090】
さらに、可視領域全域において、分光透過特性が平坦であり、前述の平坦性の指標に換算すると、本実施例において作製されたフィルタの平坦性は約0.5%程度であり、可視光領域の反射率を0.5%以下と非常に低い値に抑えたうえで、平坦性に優れたフィルタを得る事ができた。
【0091】
また、実施例1、2ではメタルモードスパッタ法によりSiO2とTiOxの混合膜を作製し、膜厚方向でその混合比率を変える事で段階的な屈折率を持つ傾斜薄膜を形成したが、これに限らず、NbOxやTaOx、ZrOx、AlOx、MoSiOx、MoOx、WOxなど、様々な金属または半金属の酸化物の材料を使用する事が可能である。前述したような屈折率傾斜薄膜と界面をなす構造体の屈折率などの関係から、必要とされる屈折率を実現できる材料であれば良く、プロセス上の制約などを考慮し、時々で最適な材料を選択すれば良い。また、3種類以上の金属または半金属の元素を含んだ材料を組合わせても良い。3種類以上の材料を組み合わせると安定的に屈折率を傾斜させることが可能となり、吸収の低減など消衰係数の調整も行い易くなり設計の自由度が広がる。この際、酸化物に限らず窒化物でも同様に設計の自由度を広げることができる。
【0092】
さらに、反応性蒸着などを用いる場合は、その導入ガスを制御し、屈折率や消衰係数を制御する事で屈折率傾斜薄膜を形成する事も可能である。膜厚方向で傾斜薄膜中の一部に吸収を持たせる構成でも良いし、全体的に吸収を持ちつつ屈折率を段階的に変化させても良い。成膜手法もメタルモードスパッタ法だけに限らず、他のスパッタ法や、各種の蒸着法などでも良い。
【0093】
本実施例のように形成された屈折率傾斜薄膜は、高密度の膜となり膜応力が問題となる事がある。その場合は本実施例のように、剛性の高いガラスなどの基板を用いると膜応力による反りなどの不具合を低減できる。また、屈折率傾斜薄膜を基板の両面に設けることで、それぞれの膜応力を打ち消しあい安定した光学フィルタを製造することができる。
【0094】
特に、本実施例に用いた基板の両面に屈折率傾斜薄膜、微細周期構造体を設ける構成は、膜応力に対する基板の安定性を得られる。加えて、二つの光源により、微細周期構造体を両面から光ナノインプリントにより反射防止構造体を一連の連続または同時の工程で形成することができるため生産性に優れる。
【0095】
(実施例3)
次に本発明のNDフィルタを備える光量絞り装置を光学装置(ビデオカメラ)に適用した実施例について図17、図18を用いて説明する。
図17に光量絞り装置を示す。ビデオカメラあるいはデジタルスチルカメラ等の撮影光学系に使用するに適した光量絞り装置の絞りは、CCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものである。被写界が明るくなるにつれ、絞り羽根31を制御し、より小さく絞り込まれていく構造になっている。このとき、小絞り状態時に発生する像性能の劣化に対する対策として、絞りの近傍にNDフィルタ34を配置し、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる構造にしている。入射光がこの光量絞り装置33を通過し、固体撮像素子(不図示)に到達する事で電気的な信号に変換され画像が形成される。
【0096】
この絞り装置33内の例えばNDフィルタ34の位置に、実施例1〜2で作製されたNDフィルタを配置する。ただし、配置場所はこれに限らず、絞り羽根支持板32に固定するように配置する事も可能である。
図18に光学撮影装置の撮影光学系の構造を示す。この撮影光学系41は、レンズユニット41A〜41D、CCD等の固体撮像素子42、光学ローパスフィルタ43を有する。固体撮像素子42は、撮影光学系41によって形成される光線a、bの像を受光し、電気信号に変換する。撮影光学系41は、NDフィルタ44、絞り羽根45,46、絞り羽根支持板47で構成される光量絞り装置を有している。
【0097】
ビデオカメラあるいはデジタルスチルカメラ等の撮影系に使用するに適した光量絞り装置の絞りは、CCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものである。被写界が明るくなるにつれ、絞り羽根45、46を制御し、より小さく絞り込まれていく構造になっている。このとき、小絞り状態時に発生する像性能の劣化に対する対策として、絞りの近傍にNDフィルタ44を配置し、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる構造にしている。
【0098】
入射光がこの光量絞り装置を通過し、固体撮像素子に到達することで電気的な信号に変換され画像が形成される。この絞り装置内の例えばNDフィルタ44の位置に、本実施例1〜2で作製されたNDフィルタを配置する。ただし、配置場所はこれに限らず、絞り羽根支持板47に固定するように配置する事も可能である。また、他の光学装置であっても、実施例1や実施例2で作製されたような反射率を著しく低減した光学フィルタを用いることで、フィルタの反射に起因した装置上の不具合を著しく低減する事が可能であり、同時に透過に起因した不具合を低減する事ができる。
【0099】
特に、実施例2に記載の微細周期構造と屈折率傾斜薄膜を両面に備えた構成を撮影光学系に備えた場合、CCD等への反射を抑え良好な撮影画像を得られるとともに、NDフィルタの設置の方向性を考えることなく組み立てることができ組み立て性に優れる。
【0100】
(実施例4)
図19は光学測定装置である干渉顕微鏡の機能及び構成を示す。光源910は光源として所定の波長を出力する。この光源910から出力された観察光から、フィルタ911にて一定の波長成分のみが抽出される。その後、観察光は、それぞれ異なる透過率を有するNDフィルタ912を保持したフィルタホルダ913の回転位置に応じて選択的に光路上に配置されたNDフィルタ912を介して、適宜光量が調節される。光源としては、単色波長のレーザ光源等も光源として用いることができる。
【0101】
このフィルタホルダ913は、それぞれ透過率の異なる複数のNDフィルタ912、を配置し、不図示のCPU等からの制御に基づいて動作する回転駆動部914の回転駆動によっていずれかの透過率のNDフィルタ912を上記光路上に選択的に配置する。また光源のスポット径とグラデーションの範囲が対応していれば、グラデーションNDフィルタの位置決めで透過率を変更しても良い。その場合は、実施例3で示した絞り装置のようにNDフィルタが動作するように構成することもできる。このNDフィルタ912を介した光は、同じく光路上に配置された偏光板915を介して偏光角が変化される。この偏光板915は、偏光板回転駆動部916により回転駆動されることで透過する光の偏光角を所望する角度となるように変化させるもので、偏光板回転駆動部916もまた、CPU等からの制御に基づいて動作する。
【0102】
偏光板915を介した光は、ハーフミラー917で試料方向に反射された後にプリズム918で偏光方向によって2つの平行な光路に分割される。2つの光路に分割された光は共に対物レンズ919を介して、焦点を調節するための焦点観察機構921上に載置された観察物体920に照射される。
【0103】
観察物体920から反射した光は、対物レンズ919、プリズム918を介して今度はハーフミラー917を透過し、結像レンズ922によってCCD等の撮像素子924に結像される。結像レンズ922と撮像素子924の間の光路上には回転可能な偏光素子としての検光子923が配置される。
【0104】
撮像素子924の出力はデジタル信号化され、CPU等で処理され観測された干渉縞を分析することで表面構造や屈折率分布等を分析することができる。また、光学測定装置として、本実施例に限定されるものでなく、本発明のNDフィルタを用いることで、測定精度の信頼性が必要な光学装置である光学測定装置において、NDフィルタの反射による悪影響を抑えた測定を行うことができる。
【0105】
(他の実施例)
実施例1、2で記載したNDフィルタ以外の光学フィルタにおいても、同様の効果を期待でき、例えば撮像素子やポスターなど対象物を保護するようなフィルタには、所望とする波長領域の反射を低減する為の反射防止の保護フィルムとして応用可能である。また吸収を持つタイプの光学フィルタであれば例えばカラーフィルタやIRカットフィルタ、蛍光フィルタなど、様々なバンドパスフィルタ、エッジフィルタなどに応用する事が可能である。これらの光学フィルタに本発明を適用する事で、反射率を低減する事が可能となる。また、これらの光学フィルタを搭載する事で、前述の不具合を改善した各種の光学装置を得る事が可能となる。
【符号の説明】
【0106】
111、112、211、212.反射防止構造体
12、221、222.屈折率傾斜薄膜
13、23、51.基板
15、151、152、251、252.微細周期構造体
16、161、162.反射防止膜
31.絞り羽根
32.絞り羽根支持板
33.光量絞り装置
14、24、34、44、912.NDフィルタ
41.撮影光学系
41A、41B、41C、41D.レンズユニット
42.固体撮像素子
43.光学ローパスフィルタ
45、46.絞り羽根
52.基板搬送装置
53.真空槽
54,55.スパッタ領域
54a、55a.ターゲット
56.高周波電源
57.反応領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾斜薄膜と、反射防止構造体と、を有し、前記屈折率傾斜薄膜はその膜厚方向に前記基板と反射防止構造体との間に配置されている光学フィルタであって、
前記屈折率傾斜薄膜は、その膜厚方向において段階的に変化する屈折率変化を有し、
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向の屈折率の変化は、
(1)前記基板側において、前記屈折率変化の前記基板側の終点まで、前記屈折率が前記基板の屈折率に近づくように段階的に変化する部分と、
(2)前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点まで、前記屈折率が前記反射防止構造体の屈折率に近づくように段階的に変化する部分と、を有することを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向の段階的な屈折率の変化は、
隣接する部分の屈折率差が0.05〜0.1以内であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向において段階的に変化する屈折率の一定な部分は、
屈折率がほぼ一定である5〜100nmの膜厚における屈折率の平均値に対して、±0.01以内であることを特徴とした請求項1または請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記反射防止構造体は、前記基板を透過する可視光の波長よりも短い周期で構成された凹凸構造を持つ、微細周期構造体により形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに一項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記反射防止構造体と前記屈折率傾斜薄膜とが隣接し、前記反射防止構造体側の前記屈折率傾斜薄膜との界面の屈折率と、前記屈折率傾斜薄膜側の前記反射防止構造体との界面の屈折率が光学フィルタにおいて許容される屈折率差が0.05以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記基板と前記屈折率傾斜薄膜とが隣接し、前記基板の前記屈折率傾斜薄膜との界面の屈折率と、前記屈折率傾斜薄膜側の前記基板との界面の屈折率が光学フィルタにおいて許容される屈折率差が0.05以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記屈折率傾斜薄膜が3種類以上の元素から構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記基板への入射光に対して、分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域と、分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域が、前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に配置されていることにより、前記屈折率傾斜薄膜の分光透過特性の平坦性を得ていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記光学フィルタは、NDフィルタであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
光学フィルタを撮影光学系に用いた光学装置であって、
前記光学フィルタが、請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学フィルタであることを特徴とする光学装置。
【請求項11】
光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾斜薄膜と、反射防止構造体を有して構成される光学フィルタの製造方法であって、
前記屈折率傾斜薄膜を設ける工程は、
前記屈折率傾斜薄膜の前記基板の側での終点の屈折率を段階的に前記基板の屈折率に近づくように成膜する工程と、
3種以上の元素からなる材料を用いた成膜法によりこれら材料の混合比を変化させ段階的に屈折率の異なる混合膜を隣り合う混合膜間の屈折率差を0.05〜0.1以内で成膜する工程と、
前記屈折率傾斜薄膜の前記反射防止構造体の側での終点の屈折率を段階的に前記反射防止構造体の屈折率に近づけて成膜する工程とからなることを特徴とする光学フィルタの製造方法。
【請求項12】
前記屈折率傾斜薄膜の前記基板の側での終点の屈折率を段階的に前記基板の屈折率に近づくように成膜する工程または、
前記屈折率傾斜薄膜の前記反射防止構造体の側での終点の屈折率を段階的に前記反射防止構造体の屈折率に近づけて成膜する工程は、
前記隣り合う混合膜間の屈折率差を屈折率が減少するに従って小さくすることを特徴とすることを特徴とする請求項11に記載の光学フィルタの製造方法。
【請求項1】
光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾斜薄膜と、反射防止構造体と、を有し、前記屈折率傾斜薄膜はその膜厚方向に前記基板と反射防止構造体との間に配置されている光学フィルタであって、
前記屈折率傾斜薄膜は、その膜厚方向において段階的に変化する屈折率変化を有し、
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向の屈折率の変化は、
(1)前記基板側において、前記屈折率変化の前記基板側の終点まで、前記屈折率が前記基板の屈折率に近づくように段階的に変化する部分と、
(2)前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点まで、前記屈折率が前記反射防止構造体の屈折率に近づくように段階的に変化する部分と、を有することを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向の段階的な屈折率の変化は、
隣接する部分の屈折率差が0.05〜0.1以内であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向において段階的に変化する屈折率の一定な部分は、
屈折率がほぼ一定である5〜100nmの膜厚における屈折率の平均値に対して、±0.01以内であることを特徴とした請求項1または請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記反射防止構造体は、前記基板を透過する可視光の波長よりも短い周期で構成された凹凸構造を持つ、微細周期構造体により形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに一項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記反射防止構造体と前記屈折率傾斜薄膜とが隣接し、前記反射防止構造体側の前記屈折率傾斜薄膜との界面の屈折率と、前記屈折率傾斜薄膜側の前記反射防止構造体との界面の屈折率が光学フィルタにおいて許容される屈折率差が0.05以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記基板と前記屈折率傾斜薄膜とが隣接し、前記基板の前記屈折率傾斜薄膜との界面の屈折率と、前記屈折率傾斜薄膜側の前記基板との界面の屈折率が光学フィルタにおいて許容される屈折率差が0.05以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記屈折率傾斜薄膜が3種類以上の元素から構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記基板への入射光に対して、分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域と、分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域が、前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に配置されていることにより、前記屈折率傾斜薄膜の分光透過特性の平坦性を得ていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
前記光学フィルタは、NDフィルタであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
光学フィルタを撮影光学系に用いた光学装置であって、
前記光学フィルタが、請求項1〜9のいずれか一項に記載の光学フィルタであることを特徴とする光学装置。
【請求項11】
光透過性を有する基板と、光吸収性を有する屈折率傾斜薄膜と、反射防止構造体を有して構成される光学フィルタの製造方法であって、
前記屈折率傾斜薄膜を設ける工程は、
前記屈折率傾斜薄膜の前記基板の側での終点の屈折率を段階的に前記基板の屈折率に近づくように成膜する工程と、
3種以上の元素からなる材料を用いた成膜法によりこれら材料の混合比を変化させ段階的に屈折率の異なる混合膜を隣り合う混合膜間の屈折率差を0.05〜0.1以内で成膜する工程と、
前記屈折率傾斜薄膜の前記反射防止構造体の側での終点の屈折率を段階的に前記反射防止構造体の屈折率に近づけて成膜する工程とからなることを特徴とする光学フィルタの製造方法。
【請求項12】
前記屈折率傾斜薄膜の前記基板の側での終点の屈折率を段階的に前記基板の屈折率に近づくように成膜する工程または、
前記屈折率傾斜薄膜の前記反射防止構造体の側での終点の屈折率を段階的に前記反射防止構造体の屈折率に近づけて成膜する工程は、
前記隣り合う混合膜間の屈折率差を屈折率が減少するに従って小さくすることを特徴とすることを特徴とする請求項11に記載の光学フィルタの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図6】
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【図8】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−33241(P2013−33241A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−146196(P2012−146196)
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月29日(2012.6.29)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】
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