説明

光学フィルムとその製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】偏光子との接着性に優れ、脆性が改善され、液晶表示装置に組み込んだときの光モレが改善された光学フィルムの提供。
【解決手段】ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含有するコア層と、該コア層の少なくとも片側に、3μmより厚く20μm以下の厚みであり、かつ、セルロースアシレートを含む外層を有することを特徴とする、光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムとその製造方法、偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低消費電力で、薄層化が可能であることから、TVやパーソナルコンピューター等の画像表示装置として広く採用されている。液晶表示装置は液晶セルの両側に偏光板が設けられており、偏光板はヨウ素や染料を吸着配向させた偏光子の両面を透明樹脂で挟み込んだ構成をしている。このような透明樹脂は偏光子を保護する目的を持ち、セルロースエステルフィルムがもっとも一般的に使用されている。
【0003】
近年液晶表示装置はその普及にともない、更なる薄層化、大型化、また高性能化が求められている。偏光板保護フィルムとして広く用いられているセルロースエステルフィルムは透過率が高く、アルカリ水溶液に浸漬させてその表面を鹸化し親水化することで、偏光子との優れた接着性を実現している。しかしながら、温湿度変化により吸湿または脱水により寸法変化しやすいという問題があった。また、液晶表示装置に組みこんだ場合に、特に経年劣化等により変形した液晶表示装置内の他の部材がセルロースエステルフィルムと接したときに表示ムラを生じ易いという問題が、近年著しい薄型化の要請から生じてきている。
【0004】
この課題を解決するために、セルロースエステルに代わるフィルムとして、吸湿性が低く、光弾性係数が小さいメチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル系樹脂フィルムが提案されたが、偏光子との接着性は十分に高いものとは言えず、割れ等が生じやすく、脆性が不十分なものであった(特許文献1参照)。
【0005】
そこで、メチルメタクリレートなどの従来の(メタ)アクリル系樹脂に比べて、高い機械的強度を有する樹脂として、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が提案されている(特許文献2〜5参照)。
【0006】
しかしながら、従来の(メタ)アクリル系樹脂やラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂をそのまま偏光板保護フィルムとして用いた場合、偏光子との接着性が悪いという問題があった。特に、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂をそのまま偏光板保護フィルムとして用いた場合、偏光子との接着性を向上させるための易接着処理(例えば、コロナ処理)をフィルム面に行うと、フィルムの表面付近において凝集破壊が起こってしまうことがあり、従来の(メタ)アクリル系樹脂と比べてもさらに偏光子との接着性が十分に発現できないという問題があった。
【0007】
これに対し、接着性の優れたセルロース系樹脂を、(メタ)アクリル系樹脂の上に薄く塗布して積層体を形成することで偏光子との接着性を改善した、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含むフィルムを偏光子保護フィルムに用いる方法が提案されている(特許文献6参照)。
【0008】
【特許文献1】特開平5−119217号公報
【特許文献2】特開2000−230016号公報
【特許文献3】特開2001−151814号公報
【特許文献4】特開2002−120326号公報
【特許文献5】特開2002−254544号公報
【特許文献6】特開2007−316366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らが特許文献6に記載の方法を検討したところ、同文献に記載のフィルムを偏光板保護フィルムとして用いると、(メタ)アクリル系樹脂の脆性を十分に克服できない問題があることが判明した。一方、製法上も、(メタ)アクリル系樹脂の製膜とセルロース系樹脂の塗布が二段階となり、生産効率が悪いという問題があった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、偏光子との接着性に優れ、脆性が改善され、液晶表示装置に組み込んだときの光モレが改善された光学フィルムを提供することである。また、該光学フィルムの生産性に優れた製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討をした結果、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を用い、かつ、偏光子との貼り合わせや脆性克服に十分な厚みをもったセルロースアセテートの層外層として同時に併せ持つフィルムとすることによって、上記課題を解決できることを見出した。あわせて、上記(メタ)アクリル系樹脂とセルロースアセテートを、溶液製膜・共流延法により同時に製膜でき、生産性に優れた製造方法を見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成である。
[1] ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含有するコア層と、該コア層の少なくとも片側に、3μmより厚く20μm以下の厚みであり、かつ、セルロースアシレートを含む外層を有することを特徴とする、光学フィルム。
[2] 前記コア層の両側に、前記外層を1層ずつ有する3層構成であることを特徴とする、[1]に記載の光学フィルム。
[3] 前記コア層の膜厚が10〜100μmであることを特徴とする、[1]または[2]に記載の光学フィルム。
[4] 全膜厚に占める、前記外層の合計膜厚の割合が、2〜40%であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[5] 光弾性係数の値が−3.0〜3.0×10-12Pa-1 であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[5−2] 前記コア層の残留溶媒量が0.004質量%以上であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の光学フィルム。
[6] セルロースアシレートと有機溶媒を含有するドープ(A)、およびラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂と有機溶媒を含有するドープ(B)を流延基材側から(A)−(B)の順番に、共流延法により同時に流延基材上に流延する工程と、前記有機溶媒を除去する工程を含み、前記ドープ(A)の流延厚みを該ドープ(A)の乾燥厚みが3μmより厚く20μm以下になるように制御することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
[7] 前記ドープ(A)および前記ドープ(B)を、流延基材側から(A)−(B)−(A)の順番に共流延法により同時に流延基材上に流延することを特徴とする[6]に記載の光学フィルムの製造方法。
[8] 前記ドープ(A)の複素粘度ηAと、前記ドープ(B)の複素粘度ηBが、下記式Iの関係を満たすように制御することを特徴とする、[6]または[7]に記載の光学フィルムの製造方法。
(式I) ηA≦ηB
[9] 前記ドープ(A)および前記ドープ(B)の25℃における複素粘度がいずれも10〜80Pa・sであることを特徴とする[6]〜[8]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
[10] 前記ドープ(A)の固形分濃度が15〜25質量%であることを特徴とする[6]〜[9]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
[11] [7]〜[10]のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする、光学フィルム。
[12] 偏光子と、[1]〜[6]および[11]のいずれか一項に記載の光学フィルムを含むことを特徴とする偏光板。
[13] [1]〜[6]および[11]のいずれか一項に記載の光学フィルム、または、[12]に記載の偏光板を含むことを特徴とする液晶表示装置。
[15] IPS方式であることを特徴とする、[13]に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、偏光子との接着性に優れ、脆性が改善され、液晶表示装置に組み込んだときの光モレが改善された光学フィルムを提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、本発明の光学フィルムの生産性にすぐれた製造方法を提供できる。また、本発明の液晶表示装置は、液晶表示装置内の他の部材がセルロースエステルフィルムと接したときに表示ムラを生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】バンド流延装置の一例を示す模式図である。
【図2】ドラム流延装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の光学フィルム及びその製造方法、並びに本発明の光学フィルムを用いた偏光板及び液晶表示装置について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
[光学フィルム]
本発明の光学フィルム(以下、本発明のフィルムとも言う)は、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含有するコア層と、該コア層の少なくとも片側に、3μmより厚く20μm以下の厚みであり、かつ、セルロースアシレートを含む外層を有することを特徴とする。
以下、本発明のフィルムの好ましい態様について説明する。
【0017】
<フィルム層構成>
(外層の厚み)
本発明の光学フィルムは、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含有するコア層の少なくとも片側に、3μmより厚く20μm以下の厚みであり、かつ、セルロースアシレートを含む外層を有する。このような構成により、本発明のフィルムは、偏光子との接着性および光学フィルムの脆性を良化する機能を持つ。セルロースアシレートを含む前記外層の厚みは、3.5〜15μmであることが好ましく、より好ましくは4〜8μmである。このような厚みのフィルム層構成とすることで、厚いセルロースアシレートフィルムをコア層として用いてその上に薄いアクリル機能層を表層として塗布等により積層したフィルムと比べて、光弾性係数を小さくすることができる。
【0018】
(コア層の厚み)
本発明の光学フィルムは、通常20〜40μmの偏光子の保護フィルムとしての機能を発揮することが好ましい。このため、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含むコア層の厚みは、10〜100μmであることが好ましい。さらに好ましくは20〜80μmであり、より好ましくは20〜60μmであり、特に好ましくは30〜60μmである。
【0019】
(積層態様)
本発明のフィルムは、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含有するコア層の少なくとも片側に、セルロースアシレートからなる外層を有する。本発明のコア層は、ラクトン環を有することで(メタ)アクリル系樹脂の機械強度を高めることができる。
本発明のフィルムは、前記コア層の両面に前記外層を少なくとも1層ずつ有することが好ましく、前記コア層の両面に前記外層を1層ずつ有することがより好ましい。詳しくは、コア層の両側に外層としてセルロースアシレートを含む層を特定の厚みで有する構成にすることにより、機械強度(主に、曲げ脆性)をさらに格段に良化することができ、単層のセルロースアシレートフィルムと比べても不満が生じない程度に改善することができる。
【0020】
本発明のフィルムは、積層体としての光学フィルム全体の膜厚は、11〜240μmが好ましく、更に好ましくは15〜150μmであり、最も好ましくは20〜100μmであり、特に好ましくは、20〜60μmである。
【0021】
本発明のフィルムは、さらに、全膜厚に占める、前記外層の合計膜厚の割合が、2〜40%であることが好ましく、3〜30%であることがより好ましく、5〜20%であることが特に好ましい。ただし、ここでいう外層の合計膜厚とは、外層が2層ある場合は2層の合計膜厚を意味する。
【0022】
(フィルム幅)
本発明のフィルムは、フィルム幅が400〜2500mmであることが好ましく、1000mm以上であることがより好ましく、1500mm以上であることが特に好ましく、1800mm以上であることがより特に好ましい。
【0023】
次に、本発明のフィルムの各層に含まれる成分の詳細と好ましい態様について、説明する。
以下、コア層、外層の構成について順に説明する。
【0024】
<外層>
本発明の光学フィルムは、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含有する外層を有する。本明細書中、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル系樹脂とアクリル系樹脂の両方を含む概念である。また、(メタ)アクリル系樹脂には、アクリレート/メタクリレートの誘導体、特にアクリレートエステル/メタクリレートエステルの(共)重合体も含まれる。
【0025】
(ラクトン環を有する(メタ)アクリル系樹脂)
前記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、好ましくは、下記一般式(1)で表されるラクトン環構造を有する。
【化1】

(一般式(1)中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。)
前記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは10〜50重量%である。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合が5重量%以上であれば、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が十分になる。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合が90重量%以下であると、成形加工性に優れる。
【0026】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造を有していてもよい。一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造としては、特に限定されないが、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の製造方法として後に説明するような、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(2a)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0027】
【化2】

(式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−CN基、−CO−R5基、または−O−CO−R6基を表し、R5およびR6は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。)
【0028】
前記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(1)で表されるラクトン環構造以外の構造の含有割合は、(メタ)アクリル酸エステルを重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは10〜95重量%、より好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは40〜90重量%、特に好ましくは50〜90重量%であり、水酸基含有主単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、さらに好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。不飽和カルボン酸を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、さらに好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。一般式(2a)で表される単量体を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)の場合、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、さらに好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。
【0029】
前記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の製造方法については、特に限定は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法を用いることができる。好ましくは、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、下記の所定の単量体を、重合することによって分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を得た後に、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入するラクトン環化縮合を行うことによって得られる。ラクトン環を有する(メタ)アクリル系樹脂の好ましい樹脂組成や合成方法の詳細は、特開2007−316366号公報、特開2009−198658号公報、特開2006−171464号公報に記載されている方法を用いることができる。
【0030】
重合工程においては、下記一般式(1a)で表される単量体を含む単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得る。
【0031】
【化3】

(式中、R7およびR8は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。)
【0032】
前記一般式(1a)で表される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性向上効果が高い点で、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。一般式(1a)で表される単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記重合工程において供する単量体成分中の一般式(1a)で表される単量体の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは10〜50重量%である。重合工程において供する単量体成分中の一般式(1a)で表される単量体の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が十分になる。重合工程において供する単量体成分中の一般式(1a)で表される単量体の含有割合が90重量%以下であれば、重合時、ラクトン環化時にゲル化が起こる難く、得られた重合体の成形加工性が良好になる傾向にある。
【0034】
前記重合工程において供する単量体成分中には、前記一般式(1a)で表される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。このような単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(2a)で表される単量体が好ましく挙げられる。一般式(1a)で表される単量体以外の単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
【化4】

(式中、R4は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−CN基、−CO−R5基、または−O−CO−R6基を表し、R5およびR6は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す。)
【0036】
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、前記一般式(1a)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルであれば特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、耐熱性、透明性が優れる点から、メタクリル酸メチルが好ましい。
前記一般式(1a)で表される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは10〜95重量%、より好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは40〜90重量%、特に好ましくは50〜90重量%である。
【0037】
前記水酸基含有単量体としては、前記一般式(1a)で表される単量体以外の水酸基含有単量体であれば特に限定されないが、例えば、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル;2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記一般式(1a)で表される単量体以外の水酸基含有単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、さらに好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。
【0038】
前記不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
前記不飽和カルボン酸を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、さらに好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。
【0039】
前記一般式(2a)で表される単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも特に、本発明の効果を十分に発揮させる点で、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
前記一般式(2a)で表される単量体を用いる場合、重合工程に供する単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、好ましくは0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、さらに好ましくは0〜15重量%、特に好ましくは0〜10重量%である。
【0040】
単量体成分を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を用いた重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
【0041】
溶剤を用いた重合形態の場合、重合溶剤は特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられ、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、本発明の製造方法では、ラクトン環を有する(メタ)アクリル系樹脂を有機溶媒に溶解させて溶液流延を行って前記コア層を形成するため、ラクトン環を有する(メタ)アクリル系樹脂の合成時における有機溶媒は、溶融製膜を行う場合よりも限定されず、沸点が高い有機溶媒を用いて合成してもよい。
【0042】
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2´−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1´−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、用いる単量体の組み合わせや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
重合開始剤の量の調整により、重合体の重量平均分子量を調整することができる。
【0043】
重合を行う際には、反応液のゲル化を抑止するために、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%以下となるように制御することが好ましい。具体的には、重合反応混合物中の生成した重合体の濃度が50重量%を超える場合には、重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加して50重量%以下となるように制御することが好ましい。重合反応混合物中の生成した重合体の濃度は、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下である。
【0044】
重合溶剤を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されず、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応混合物中の生成した重合体の濃度を制御することによって、反応液のゲル化をより十分に抑止することができ、特に、ラクトン環含有割合を増やして耐熱性を向上させるために分子鎖中の水酸基とエステル基の割合を高めた場合であってもゲル化を十分に抑制できる。添加する重合溶剤としては、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に用いた溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの溶剤であってもよいし、2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0045】
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶剤が含まれているが、溶剤を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶剤を含んだ状態で続くラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、固体状態で取り出した後に、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶剤を再添加してもよい。
【0046】
重合工程で得られた重合体は、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)であり、重合体(a)の重量平均分子量は、本発明では特に制限されないが、好ましくは1000〜2000000、より好ましくは5000〜1000000、さらに好ましくは10000〜500000、特に好ましくは50000〜500000である。重合工程で得られた重合体(a)は、続くラクトン環化縮合工程において、加熱処理されることによりラクトン環構造が重合体に導入され、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂となる。
【0047】
前記重合体(a)へラクトン環構造を導入するための反応は特に制限されないが、加熱により、重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基が環化縮合してラクトン環構造を生じる反応であることが好ましく、その環化縮合によってアルコールが副生する。ラクトン環構造が重合体の分子鎖中(重合体の主骨格中)に形成されることにより、高い耐熱性が付与される。ラクトン環構造を導く環化縮合反応の反応率が不十分であると、耐熱性が十分に向上しなかったり、成形時の加熱処理によって成形途中に縮合反応が起こり、生じたアルコールが成形品中に泡やシルバーストリークとなって存在してしまったりするおそれがある。
【0048】
前記重合体(a)を加熱処理する方法については特に限定されず、公知の方法が利用できる。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。また、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。また、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を持つ加熱炉や反応装置、脱揮装置のある押出機等を用いて加熱処理を行うこともできる。
【0049】
環化縮合反応を行う際に、重合体(a)に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化縮合反応を行う際には、必要に応じて、環化縮合反応の触媒として一般に用いられるp−トルエンスルホン酸等のエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし 酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸等の有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に示されている様に、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
【0050】
環化縮合反応を行う際には、特開2001−151814号公報に示されているように有機リン化合物を触媒として用いることが好ましい。環化縮合反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されないが、重合体(a)に対して、好ましくは0.001〜5重量%、より好ましくは0.01〜2.5重量%、さらに好ましくは0.01〜1重量%、特に好ましくは0.05〜0.5重量%である。触媒の添加時期は特に限定されず、反応初期に添加しても、反応途中に添加しても、それらの両方で添加してもよい。
【0051】
重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基を予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、特開2007−316366号公報に記載の脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う方法が、本発明においてラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化縮合反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が得られる。この場合、環化縮合反応率の目安としては、後述するダイナミックTG測定における、150〜300℃間での重量減少率が2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。このような脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応については、特開2007−316366号公報に記載されている。
【0052】
上記方法(ii)としては、例えば、耐圧性の釜などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱する方法等が挙げられる。
【0053】
上記方法(i)、(ii)ともに、条件によっては加圧下となっても何ら問題はない。
【0054】
脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応の前に予め行う環化縮合反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
【0055】
重合工程で得られた重合体(a)の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基を予め環化縮合反応させて環化縮合反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応を行う形態の場合、予め行う環化縮合反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)と溶剤を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入してもよいし、必要に応じて、上記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基の少なくとも一部が環化縮合反応した重合体)を単離してから溶剤を再添加する等のその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化縮合反応に導入しても構わない。
【0056】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、重量平均分子量(質量平均分子量と称することもある)が、10,000〜3,000,000であるものを選択できる。この際、本発明では、ラクトン環を有する(メタ)アクリル系樹脂のコア層の少なくとも片側にセルロースアシレートの外層を設けるが、両者の重量平均分子量に制限はないが、製膜の過程で最適となるよう、適宜、重量平均分子量を選択できる。
【0057】
本発明の光学フィルムに用いられるアクリル系樹脂は、特に光学フィルムとしての脆性、自己成膜性の観点で、重量平均分子量(Mw)は80000以上が好ましく、80000〜1000000の範囲内であることが更に好ましく、100000〜600000の範囲内であることが特に好ましく、150000〜400000の範囲であることが最も好ましい。
アクリル系樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。
アクリル系樹脂が、重量平均分子量80000以上であり、分子内にメチルメタアクリレート単位を50質量%以上99質量%以下有するアクリル系樹脂であることが特に好ましい。
【0058】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が、好ましくは115℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは130℃以上、さらに好ましくは135℃以上、最も好ましくは140℃以上である。Tgが115℃以上であることにより、例えば、最終的に偏光板に組み入れた場合に、耐久性に優れたものとなり易い。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂のTgの上限値は特に限定されないが、本発明の効果をより発揮させるためには、好ましくは150℃以下である。
【0059】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、それに含まれる残存揮発分の総量多くとも、本発明の製造方法で共流延を行う場合には特に問題はない。
【0060】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、ASTM−D−1003に準じた方法で測定された全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の目安であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないおそれがある。
【0061】
前記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、通常の有機合成によって作成することができ、例えば特開2007−316366号公報に記載の方法で合成により作成できる。前記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は2種以上を併用することもできる。
【0062】
(コア層に含まれてもよいその他の熱可塑性樹脂)
本発明における前記コア層は、上記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂以外のその他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。その他の熱可塑性樹脂は、上記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂とブレンドしてフィルム状にした際に、ガラス転移温度が120℃以上、面方向の100μmあたりの位相差が20nm以下で、全光線透過率が85%以上の性能を有するものであれば、特に種類は問わないが、熱力学的に相溶する熱可塑性樹脂の方が、透明性や機械強度を向上させる点において好ましい。
【0063】
上記その他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;などが挙げられる。ゴム質重合体は、表面に本発明のラクトン環重合体と相溶し得る組成のグラフ卜部を有するのが好ましく、また、ゴム質重合体の平均粒子径は、フィルム状とした際の透明性向上の観点から、100nm以下である事が好ましく、70nm以下である事が更に好ましい。
【0064】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂と熱力学的に相溶する熱可塑性樹脂としては、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを含む共重合体、具体的にはアクリロニトリル−スチレン系共重合体やポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル類を50重量%以上含有する重合体を用いるとよい。それらの中でもアクリロニトリル−スチレン系共重合体を用いると、ガラス転移温度が120℃以上、面方向の100μmあたりの位相差が20nm以下で、全光線透過率が85%以上である前記コア層を容易に得ることが可能となる。
【0065】
本発明における前記コア層が上記その他の熱可塑性樹脂を含有するとき、上記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂とその他の熱可型樹脂の含有割合は、好ましくは60〜99:1〜40重量%、より好ましくは70〜97:3〜30重量%、さらに好ましくは80〜95:5〜20重量%である。
【0066】
(残留溶媒量)
本発明のフィルムは、後述する本発明の製造方法によって共流延によって製膜されることが好ましい。このように溶液製膜によって、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む前記コア層を形成することによって、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む層を溶融製膜により形成した場合よりも、前記外層の表面面状を改善することができる。
【0067】
<外層>
次に、本発明のフィルムの外層について説明する。
本発明のフィルムは、3μmより厚く20μm以下の厚みであり、かつ、セルロースアシレートを含む外層を有する。
【0068】
(厚み)
前記外層の厚みの好ましい態様については、本発明の層構成の説明において上述したとおりである。
【0069】
(セルロースアシレートの種類)
本発明に用いられるセルロースアシレート系樹脂は、特に定めるものではない。原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0070】
(セルロースアシレートのアシル置換度)
本発明に用いられるセルロースアシレートは、アシル基の総置換度が1.2以上3.0以下であることが好ましい。
さらに、本発明に用いられるセルロースアシレート系樹脂は、アシル基の総置換度をTA全、炭素数が2のアシル基の置換度をTA2、炭素原子数が3以上7以下のアシル基の置換度をTA3としたときに、以下の条件を満たすことが好ましい。以下の範囲にすることで、隣接層との密着性、流延時の支持体からの剥離性、フィルムのカール低減の観点で優れた光学フィルムを得ることができる。
2.2≦TA全≦3.0
1.5≦TA2≦3.0
0.0≦TA3≦0.7
【0071】
また、セルロースアシレート系樹脂は、より好ましくは以下の条件を満たすセルロースアシレート系樹脂である。
2.5≦TA全≦3.0
2.4≦TA2≦3.0
0.0≦TA3≦0.1
【0072】
本発明に用いられるセルロースアシレート系樹脂としては、特にセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートベンゾエート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらの中でより好ましいセルロースアシレート系樹脂は、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートであり、更に好ましくはトリアセチルセルロースである。
【0073】
なお、アセチル基の置換度や他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めることができる。
【0074】
本発明に用いられるセルロースアシレート系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特にアクリル系樹脂との密着性の観点から、好ましくは75000以上であり、75000〜300000の範囲であることがより好ましく、100000〜240000の範囲内であることが更に好ましく、160000〜240000のものが特に好ましい。セルロースアシレート系樹脂の重要平均分子量(Mw)が75000以上であればセルロースアシレート系樹脂層自身の自己成膜性や密着の改善効果が発揮され、好ましい。本発明では2種以上のセルロースアシレート樹脂を混合して用いることもできる。
【0075】
(セルロースアシレート層に含まれるその他の樹脂)
本発明においては、アクリル樹脂を前記セルロースアシレート層に添加することもできる。セルロースアシレートに対する、アクリル樹脂の割合は、セルロースアシレートを基準とした場合に、2〜140質量%が好ましく、より好ましくは4〜100質量%、最も好ましくは6〜60質量%である。また、アクリル樹脂の分子量は、1000〜20万が好ましく、更に好ましくは1000〜10万、最も好ましくは1500〜5万以下であり、特に好ましくは1500〜1万である。この分子量範囲にすることで、セルロースアシレート層の透明性に優れる。
【0076】
<添加剤>
本発明の光学フィルムには、前記コア層および前記外層のそれぞれにおいて、主原料となる1種又は2種以上の熱可塑性樹脂とともに、前記光弾性係数低減剤以外の添加剤を、本発明の趣旨に反しない限りにおいて含有させてもよい。
以下、本発明の光学フィルムに添加してもよい添加剤について説明する。
【0077】
(可塑剤)
本発明においては、光学フィルムに柔軟性を与え、寸法安定性を向上させ、耐湿性を向上させるために可塑剤を用いてもよい。
【0078】
好ましく添加される可塑剤としては、上記の物性の範囲内にある分子量190〜5000程度の低分子〜オリゴマー化合物が挙げられ、例えばリン酸エステル、カルボン酸エステル、ポリオールエステル等が用いられる。
【0079】
リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が含まれる。好ましくは、トリフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェートである。
【0080】
カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジエチルヘキシルフタレート等が挙げられる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル、O−アセチルクエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
これらの好ましい可塑剤は、25℃においてTPP(融点約50℃)以外は液体であり、沸点も250℃以上である。
【0081】
その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。グリコール酸エステルの例としては、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、メチルフタリルメチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートなどがある。
【0082】
また、特開平5−194788号、特開昭60−250053号、特開平4−227941号、特開平6−16869号、特開平5−271471号、特開平7−286068号、特開平5−5047号、特開平11−80381号、特開平7−20317号、特開平8−57879号、特開平10−152568号、特開平10−120824号の各公報などに記載されている可塑剤も好ましく用いられる。これらの公報によると可塑剤の例示だけでなくその利用方法あるいはその特性についての好ましい記載が多数あり、本発明においても好ましく用いられるものである。
【0083】
その他の可塑剤としては、特開平11−124445号記載の(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、特開平11−246704号記載のグリセロールエステル類、特開2000−63560号記載のジグリセロールエステル類、特開平11−92574号記載のクエン酸エステル類、特開平11−90946号記載の置換フェニルリン酸エステル類、特開2003−165868号等記載の芳香環とシクロヘキサン環を含有するエステル化合物などが好ましく用いられる。
【0084】
また、分子量1000〜10万の樹脂成分を有する高分子可塑剤も好ましく用いられる。例えば、特開2002−22956号公報に記載のポリエステルおよびまたはポリエーテル、特開平5−197073号公報に記載のポリエステルエーテル、ポリエステルウレタンまたはポリエステル、特開平2−292342号公報に記載のコポリエステルエーテル、特開2002−146044号公報等記載のエポキシ樹脂またはノボラック樹脂等が挙げられる。
また、耐揮発性、ブリードアウト、低ヘイズなどの点で優れる可塑剤としては、例えば特開2009−98674号公報に記載の両末端が水酸基であるポリエステルジオールを用いるのが好ましい。また、光学フィルムの平面性や低ヘイズなどの点で優れる可塑剤としては、WO2009/031464号公報に記載の糖エステル誘導体も好ましい。
【0085】
これらの可塑剤は単独もしくは2種類以上を混合して用いてもよい。可塑剤の添加量は熱可塑性樹脂100質量部に対して2〜120質量部使用することができ、2〜70質量部が好ましく、更に好ましくは2〜30質量部、特に5〜20質量部が好ましい。また、後述する本発明の製造方法に用いる外層ドープ(A)、コア層ドープ(B)のうち隣接する層に共通の可塑剤を用いると、流延時のドープの界面の乱れの発生が少なくなったり、界面の密着が良化したり、カールが低減したりする観点から、好ましい。特に、外層ドープ(A)、コア層ドープ(B)が共通の可塑剤を含有することが好ましい。
【0086】
(紫外線吸収剤)
本発明の光学フィルムには、フィルム自身の耐光性向上、或いは偏光板、液晶表示装置の液晶化合物等の画像表示部材の劣化防止のために、更に紫外線吸収剤を添加してもよい。
【0087】
紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な画像表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものを用いることが好ましい。特に、波長370nmでの透過率が、20%以下であることが望ましく、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。このような紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、前記のような紫外線吸収性基を含有する高分子紫外線吸収化合物等があげられるが、これらに限定されない。紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。
【0088】
本発明の光学フィルムには、主原料となる1種又は2種以上の熱可塑性樹脂とともに、添加剤を含有していてもよい。添加剤の例には、フッ素系界面活性剤(好ましい添加量は熱可塑性樹脂に対して0.001〜1質量%)、剥離剤(0.0001〜1質量%)、劣化防止剤(0.0001〜1質量%)、光学異方性制御剤(0.01〜10質量%)、赤外線吸収剤(0.001〜1質量%)等が含まれる。
【0089】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、微量の有機材料、無機材料及びそれらの混合物からなる粒子を分散含有していてもよい。これらの粒子は、製膜時におけるフィルムの搬送性向上を目的として(マット剤として)添加される場合には、粒子の粒径は5〜3000nmであるのが好ましく、添加量は1質量%以下であるのが好ましい。
フィルムの表面に凹凸を与えたりフィルム内部に光散乱性を付与したりするために粒子を添加することもでき、その場合には、粒子の粒径は1〜20μmであるのが好ましく、添加量は2〜30質量%好ましい。これら粒子屈折率は本発明のポリマーフィルムの屈折率との差が0〜0.5であるのが好ましく、例えば、無機材料の粒子の例には、酸化珪素、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粒子が含まれる。有機材料の粒子の例には、アクリル樹脂、ジビニルベンゼン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、スチレン系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が含まれる。
【0090】
<光学フィルム上への付加的な層の積層>
本発明の光学フィルムは、例えば、その上に更に0.1μm以上15μm以下の厚みの硬化性樹脂層を設けてもよい。また、本発明の光学フィルムは、該硬化性樹脂層の上に、帯電防止層、高屈折率層、低屈折率層等の光学機能層を設けることもできる。また、硬化性樹脂層が帯電防止層や高屈折率層を兼ねることもできる。
硬化性樹脂層は、電離放射線硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。例えば、電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーを含む塗布組成物を光透過性基材上に塗布し、多官能モノマーや多官能オリゴマーを架橋反応、又は、重合反応させることにより形成することができる。
電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーの官能基としては、光、電子線、放射線重合性のものが好ましく、中でも光重合性官能基が好ましい。
光重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の不飽和の重合性官能基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
また、硬化性樹脂層には、公知のレベリング剤、防汚剤、帯電防止剤、屈折率調節用無機フィラー、散乱粒子、チキソトロピー剤等の添加剤を用いることができる。
【0091】
また、硬化性樹脂層を設けた光学フィルムの強度は、鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることが更に好ましい。
【0092】
<フィルム特性>
(光弾性係数)
光弾性係数は物質固有の性質であり、光弾性係数をほとんど発現しない物質はむしろまれである。例えば、高分子樹脂の多くは、外部応力や熱応力により複屈折を発現する。光弾性係数は、印加される応力の方向に関連して符号を定義することができる。即ち、媒体(高分子樹脂) に引っ張り応力を加えた場合、引っ張り応力と平行な方向に偏光面を有する偏光に対する屈折率nparaと、それに直交する方向に偏光面を有する偏光に対する屈折率に対して、下記(1B) 式で表される光弾性係数cの正負で光弾性係数の符号が表現される。
c=Δn/σ=(npara−nperp)/σ ・・・・・(1B)
つまり、nparaの方がよりnperpも大きい場合に光弾性係数は正、小さい場合は負となる。
【0093】
本発明の光学フィルムを偏光板保護フィルムとして使用した場合には、偏光子の収縮による応力などにより複屈折(Re、Rth)が変化する場合がある。このような応力に伴う複屈折の変化は光弾性係数として測定できるが、その範囲は、−3×10-12Pa-1〜3×10-12Pa-1であることが好ましく、−1×10-12Pa-1〜1×10-12Pa-1であることがより好ましい。
光弾性係数を上記範囲に制御することで、パネルを湿熱耐久試験にかけた後の、「サーモムラ」発生を抑制できる。
【0094】
(レターデーション)
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、532nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
【0095】
本明細書において、Re、Rth(単位;nm)は次の方法に従って求めたものである。まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて下記式(10)で表される平均屈折率(n)を求める。
式(10): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
【0096】
測定されるフィルムが1軸または2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(11)及び式(12)よりRthを算出することもできる。
【0097】
【数1】

上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。
式(11)におけるnxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dは膜厚である。
式(12)
Rth={(nx+ny)/2−nz}xd
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0098】
(湿度依存性)
本発明において、Reの湿度依存性(ΔRe)及びRthの湿度依存性(ΔRth)は、相対湿度がH(単位;%)であるときの面内方向及び膜厚方向のレターデーション値:Re(H%)及びRth(H%)から、下記式に基づいて算出される。
ΔRe=Re(10%)−Re(80%) [nm]
ΔRth=Rth(10%)−Rth(80%) [nm]
Re(H%)及びRth(H%)は、フィルムを25℃、相対湿度H%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度H%において、前記方法と同様にして、相対湿度H%における測定波長が590nmであるときのレターデーション値を測定、算出したものである。なお、相対湿度を明記せずに単にReと表記されている場合は、相対湿度60%で測定した値である。
本発明の光学フィルムの湿度を変化させた場合のレターデーション値は、以下の関係式を満たすことが好ましい。
|ΔRe|<8、かつ、|ΔRth|<8
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|ΔRe|<5、かつ、|ΔRth|<5
また以下の関係式を満たすことが更に好ましい。
|ΔRe|<3、かつ、|ΔRth|<3
上記湿度を変化させた場合のレターデーション値を制御することにより、外部環境が変化した場合のレターデーション変化を低下させることができ、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
また、本発明の光学フィルムのΔRthを低減させることによって、特定の条件で液晶表示装置を表示面の斜めから観察した際に視認される円形状の色ムラが改善されるという好ましい効果も得られる。
【0099】
[本発明の光学フィルムの製造方法]
本発明の光学フィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法とも言う)は、セルロースアシレートと有機溶媒を含有するドープ(A)、およびラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂と有機溶媒を含有するドープ(B)を流延基材側から(A)−(B)の順番に、共流延法により同時に流延基材上に流延する工程と、前記有機溶媒を除去する工程を含み、前記ドープ(A)の流延厚みを該ドープ(A)の乾燥厚みが3μmより厚く20μm以下になるように制御することを特徴とする。
以下、本発明の製造方法について、好ましい態様を説明する。
【0100】
(フィルム製膜方法)
本発明の光学フィルムの製膜の方法としては、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、公知のフィルム成形方法が挙げられる。本発明の製造方法は、これらの中でも、溶液キャスト法(溶液流延法)を用いることで、本発明のフィルムを生産性よく製造することを特徴とする。
【0101】
<ドープの調製>
本発明の光学フィルムに用いる熱可塑性樹脂の溶液(ドープ)の調製について、その溶解方法は、室温溶解法、冷却溶解法又は高温溶解方法により実施され、更にはこれらの組合せで実施される。これらに関しては、例えば特開平5−163301号、特開昭61−106628号、特開昭58−127737号、特開平9−95544号、特開平10−95854号、特開平10−45950号、特開2000−53784号、特開平11−322946号、特開平11−322947号、特開平2−276830号、特開2000−273239号、特開平11−71463号、特開平04−259511号、特開2000−273184号、特開平11−323017号、特開平11−302388号などの各公報にはセルロースアシレート溶液の調製法が記載されている。これらのセルロースアシレートの有機溶媒への溶解方法は、本発明の熱可塑性樹脂に対しても、これらの技術を適宜適用できるものである。これらの詳細、特に非塩素系溶媒系については、前記の公技番号2001−1745号の22〜25頁に詳細に記載されている方法で実施される。更に熱可塑性樹脂のドープ溶液は、溶液濃縮、濾過が通常実施され、同様に前記の公技番号2001−1745号の25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0102】
(有機溶媒)
本発明の製造方法において、前記セルロースアシレートおよび前記ラクトン環を有する(メタ)アクリル系樹脂をそれぞれ溶解しドープを形成する有機溶媒について記述する。用いる有機溶媒としては、従来公知の有機溶媒が挙げられ、例えば溶解度パラメーターで17〜22の範囲ものが好ましい。溶解度パラメーターは、例えばJ.Brandrup、E.H等の「PolymerHandbook(4th.edition)」、VII/671〜VII/714に記載の内容のものを表す。低級脂肪族炭化水素の塩化物、低級脂肪族アルコール、炭素原子数3から12までのケトン、炭素原子数3〜12のエステル、炭素原子数3〜12のエーテル、炭素原子数5〜8の脂肪族炭化水素類、炭素数6〜12の芳香族炭化水素類、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報 段落番号[0020]、同11−60807号公報 段落番号[0037]等に記載の化合物)等が挙げられる。
【0103】
本発明で用いられる溶剤は、単独でも併用でもよいが、良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが面状安定性を付与するために好ましく、更に好ましくは、良溶剤と貧溶剤の混合比率は良溶剤が60〜99質量%であり、貧溶剤が40〜1質量%である。本発明において、良溶剤とは使用する樹脂を単独で溶解するもの、貧溶剤とは使用する樹脂を単独で膨潤するか又は溶解しないものをいう。本発明に用いられる良溶剤としては、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類が挙げられる。また、本発明に用いられる貧溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン等が好ましく用いられる。
【0104】
前記ドープ(A)及び(B)に含有される有機溶媒のうちアルコールの割合が有機溶剤全体の10〜50質量%であることが製膜後の支持体(流延基材)上での乾燥時間を短縮し、早く剥ぎ取って乾燥することができるという理由から好ましく、15〜30質量%であることがより好ましい。
【0105】
(ドープの固形分濃度)
光学フィルムを形成する材料は、有機溶媒に10〜60質量%の固形分濃度(乾燥後固体となる成分の和)で溶解していることが好ましく、更に好ましくは10〜50質量%である。セルロースアシレート系樹脂を主成分とする場合には、10〜30質量%溶解していることが好ましく、15〜25質量%であることが好ましく、18〜20質量%であることが最も好ましい。但し、用途によっては、有機溶剤の含有量を少なくでき、乾燥時間の短縮ができるという理由などからドープ(A)の固形分濃度が20質量%を超え22質量%以下であっても好ましい場合がある。これらの固形分濃度に調製する方法は、溶解する段階で所定の固形分濃度になるように調製してもよく、また予め低濃度溶液(例えば9〜14質量%)として作製した後に濃縮工程で所定の高濃度溶液に調整してもよい。更に、予め高濃度の光透過性基材を形成する材料の溶液として後に、種々の添加物を添加することで所定の低濃度の溶液としてもよい。
本発明の目的である支持体離型性、界面密着性、低カールを達成するために、少なくともドープ(A)、(B)中の熱可塑性樹脂の組成は、以下の条件を満たすことが好ましい。ドープ(A)中の熱可塑性樹脂中セルロースアシレート系樹脂の占める割合は、50〜100質量%が好ましく、更に好ましくは70〜100質量%、最も好ましくは80〜100質量%である。またドープ(B)中の熱可塑性樹脂中アクリル系樹脂の占める割合は、30〜100質量%が好ましく、更に好ましくは50〜100質量%、最も好ましくは70〜100質量%である。
一方、共流延製膜にて良好な面状のフィルムを得るためには、ドープ(B)とドープ(A)の固形分濃度の差が10質量%以内であることが好ましく、5質量%以内であることがより好ましい。
特に、ドープ(B)において、固形分濃度が16〜30質量%であり、かつ、ドープ(B)とドープ(A)の固形分濃度の差が10質量%以内であることが好ましい。
【0106】
(ドープの複素粘度)
本発明の製造方法では、また、25℃における流前記ドープ(A)の複素粘度ηAと、前記ドープ(B)の複素粘度ηBが、下記式Iの関係を満たすように制御することが、好ましい。
(式I) ηA≦ηB
本発明の製造方法では、その中でも、前記ドープ(A)および前記ドープ(B)の複素粘度がいずれも10〜80Pa・s以下であり、かつ、前記ドープ(B)の複素粘度が前記ドープ(A)の複素粘度よりも大きいことが、製膜後のフィルム面状を改善する観点から、好ましい。
【0107】
本発明の製造方法では、前記ドープ(A)および前記ドープ(B)の複素粘度がいずれも10〜80Pa・s以下であることが好ましい。複素粘度をこのような範囲とすることにより、溶液流延適性がより向上する傾向にあり好ましい。ここで、本発明におけるドープの複素粘度とは、溶液剪断レオメータ測定によって測定した粘度をいう。
この範囲内であれば、フィルムの白化の抑制効果がさらに高まる。さらに好ましくは、20〜80Pa・sであり、とくに好ましくは、25〜70Pa・sである。粘度の測定は次のようにして行った。試料溶液1mLをレオメーター(CLS 500)に直径4cm/2°のSteel Cone(共にTA Instrumennts社製)を用いて測定した。
試料溶液は予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始した。この時の温度はその流延時の温度であれば特に限定されないが、好ましくは−5〜70℃であり、より好ましくは−5〜35℃である。上記のとおり、本発明では、25℃における値を採用した。
【0108】
<共流延工程>
(流延)
本発明の光学フィルムの製造方法においては、セルロースアシレートと有機溶媒を含有するドープ(A)、およびラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂と有機溶媒を含有するドープ(B)を流延基材側から(A)−(B)の順番に、共流延法により同時に流延基材上に流延する工程を含む。
【0109】
さらに、本発明の製造方法では、前記ドープ(A)の流延厚みを該ドープ(A)の乾燥厚みが3μmより厚く20μm以下になるように制御する。このような流延厚みの方法については特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。より好ましい乾燥厚みの範囲は、本発明の光学フィルムの前記外層の好ましい厚みと同様である。
【0110】
ドープは、支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。ここで、前記支持体は、特に制限はないが、ドラムまたはバンドであることが好ましい。支持体の表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延及び乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0111】
図1はバンドを有する流延設備の要部を示す概略図であって、側面からの平面図である。流延設備11は、流延ダイ14と、第1及び第2のバックアップローラ32、33と、バンド31と、剥ぎ取りローラ37と、温調板51と、複数の凝縮板52と、複数の液受け53と、回収タンク56と、送液管とからなる。なお、流延ドープ12として3種類のドープをそれぞれ調製し、これらを一度の流延操作によって、流延膜を3層構造とすることもできる。PSは流延開始位置を表す。36はフィルムを表す。
図2はドラムを含む流延設備を示す図である。図2は流延設備101の要部を示す概略図であって、側面からの平面図である。なお、上述の図1と同様の装置及び部材については、同じ符号を付し、説明を略する。図2では図1のバンドの代わりにドラム102を用いている。流延ダイ14からの流延ドープ12は、ドラム102上に形成された流延膜が流延開始位置PSから下方に向かうように、ドラム102の最上部よりやや下方に流延されている。この場合も、ドラム102上の流延開始位置PSにおける接線と流延ダイ14からの流延曲線の接線とができるだけ一致するように、流延開始位置PSを定めることが好ましい。
【0112】
ドラム102は、温度調整機能を有している。流延膜の外側には、複数の凝縮板105が設置されており、凝縮板105同士の隙間の傾斜をつたわって、外部の液受け53に入り、回収タンク56に回収される。ドラム102上を走行した流延膜は、フィルム36として剥ぎ取りローラ37により剥ぎ取られ、次の工程である乾燥設備に送られる。これにより、液だれを防止しながら、流延膜を均一に乾燥し、溶媒を高収率で回収することができる。ただし、ドラム102の回転方向を逆として、流延膜の走行方向が流延開始位置PSから上向きになされた場合にも、流延膜の均一乾燥と、フィルム36の厚みの均一化効果は得られる。
【0113】
ドープは、表面温度が5℃以下の支持体上に流延することが好ましい。流延基材(支持体)の表面温度は−30〜5℃が好ましく、−10〜2℃がより好ましい。
流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムを支持体から剥ぎ取り、更に100℃から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時の支持体の表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0114】
本発明では、流延基材としての支持体上に前記2種以上のドープを流延して製膜する。本発明のフィルムの製造方法としては、上記以外に特に制限はなく公知の共流延方法を用いることができる。例えば、金属支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からドープ溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフィルムを作製してもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適応できる。また、2つの流延口からドープ溶液を流延することによってもフィルム化することでもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号の各公報に記載の方法で実施できる。
【0115】
本発明の製造方法は、積層体の界面密着及びカールの低減の観点から流延基材側から順に少なくとも2種のドープ(A)、(B)を同時共流延する。更に、本発明の製造方法は、前記基材側から順に、支持体側から順に、ドープ(A)、(B)、(A)の順に同時共流延することが好ましい。ここで、一つの積層フィルム中の複数の(A)は、組成が全く同一でも異なっていてもよい。
【0116】
<乾燥工程>
本発明の製造方法は、前記有機溶媒を除去する工程を含む。
ドラムやバンド上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述べる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロ−ル群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエ−ブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。
本発明では、多層流延したドープを乾燥させてから、支持体から剥離することが好ましい。
【0117】
本発明では、ドープが流延基材上に流延され剥離される時間、すなわち、流延基材上を搬送される時間が60秒以内であることが好ましく、30秒以内であることがより好ましい。
【0118】
<延伸工程>
本発明の製造方法は、前記製膜工程のあとに、製膜した前記積層フィルムを延伸する工程を含んでもよい。
本発明のフィルムの製造では、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、ウェブ中の残留溶媒量が120質量%未満の時に延伸することが好ましい。
【0119】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。ウェブ中の残留溶媒量の更に好ましい範囲は10質量%〜50質量%、特に12質量%〜35質量%が最も好ましい。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
【0120】
延伸倍率は、一般的に5%〜100%で行うことができ、15%〜40%にすることも好ましい。ここで、一方の方向に対して5%〜100%延伸するとは、フィルムを支持しているクリップやピンの間隔を延伸前の間隔に対して1.05〜2.00倍の範囲にすることを意味している。
また、延伸はフィルム搬送方向(縦方向)に行っても、フィルム搬送方向に直交する方向(横方向)に行っても、両方向に行ってもよい。
【0121】
本発明では、溶液流延製膜したものは、特定の範囲の残留溶媒量であれば高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。本発明では、前記延伸工程における延伸温度は、110〜190℃であることが好ましく、120〜150℃であることがより好ましい。延伸温度が120℃以上であることが低ヘイズ化の観点から好ましく、150℃以下であることが光学発現性を高める観点(薄膜化の観点)から好ましい。
一方、ウェブの温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、可塑剤として揮散しやすい低分子可塑剤を用いる場合は、室温(15℃)〜145℃以下の範囲が好ましい。
【0122】
また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの光学発現性を高める観点、特にフィルムのRth(レターデーション)の値を高める観点から、有効な方法である。
【0123】
本発明では、延伸工程において同時に2軸方向に延伸してもよいし、逐次に2軸方向に延伸してもよい。逐次に2軸方向に延伸する場合は、それぞれの方向における延伸ごとに延伸温度を変更してもよい。
同時2軸延伸する場合、延伸温度は110℃〜190℃で行った場合でも本発明のフィルムを得ることができ、同時2軸延伸する場合の延伸温度は、120℃〜150℃であることがより好ましく、130℃〜150℃であることが特に好ましい。また、同時2軸延伸することで、ヘイズはある程度高くなるものの、光学発現性を更に高めることができる。
一方、逐次2軸延伸する場合、先にフィルム搬送方向に平行な方向に延伸し、その次にフィルム搬送方向に直交する方向に延伸することが好ましい。前記逐次延伸を行う延伸温度のより好ましい範囲は上記同時2軸延伸を行う延伸温度範囲と同様である。
【0124】
<熱処理工程>
本発明のフィルムの製造方法は乾燥工程終了後に熱処理工程を設けることが好ましい。当該熱処理工程における熱処理は乾燥工程終了後に行われればよく、延伸/乾燥工程後直ちに行ってよいし、あるいは乾燥工程終了後に後述する方法で一旦巻き取った後に、熱処理工程だけを別途設けてもよい。本発明においては乾燥工程終了後に一旦、室温〜100℃以下まで冷却した後において改めて前記熱処理工程を設けることが好ましい。これは熱寸法安定性のより優れたフィルムを得られる点で有利であるからである。同様の理由で熱処理工程直前において残留溶媒量が2質量%未満、好ましくは0.4質量%未満まで乾燥されていることが好ましい。
【0125】
熱処理は、搬送中のフィルムに所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法により行われる。
熱処理は150〜200℃の温度で行うことが好ましく、160〜180℃の温度で行うことが更に好ましい。また、熱処理は1〜20分間行うことが好ましく、5〜10分間行うことが更に好ましい。
【0126】
<加熱水蒸気処理工程>
また、延伸処理されたフィルムは、その後、100℃以上に加熱された水蒸気を吹き付けられる工程を経て製造されてもよい。この水蒸気の吹付け工程を経ることにより、製造される光学フィルムの残留応力が緩和されて、寸度変化が小さくなるので好ましい。水蒸気の温度は100℃以上であれば特に制限はないが、フィルムの耐熱性などを考慮すると、水蒸気の温度は、200℃以下となる。
【0127】
<表面処理工程>
本発明の光学フィルムを、偏光板の保護フィルムとして使用し、偏光子と接着させる場合には、偏光子との接着性の観点から、酸処理、アルカリ処理、プラズマ処理、コロナ処理等の表面を親水的にする処理を実施することが特に好ましい。
その中でも、本発明の光学フィルムは、少なくとも片側にセルロースアシレートの外層を有するため、このセルロースアシレート層をアルカリ鹸化して、通常使用される、ポリビニルアルコール偏光子との貼り合わせを改善することが好ましい。外層がなければ、接着剤を使用する必要があり、生産効率に劣るため不利となる。
【0128】
[偏光板]
本発明の偏光板は、偏光子と、本発明の光学フィルムを含むことを特徴とする。
本発明の光学フィルムは、偏光子とその少なくとも一方の側に配置された保護フィルムとを有する偏光板において、その保護フィルムとして使用することができる。
【0129】
また偏光板の構成として、偏光子の両面に保護フィルムを配置する形態においては、一方の保護フィルム又は、位相差フィルムとして用いることもできる。
【0130】
偏光子には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜及び染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造することができる。
【0131】
[液晶表示装置]
本発明の液晶表示装置は、本発明の光学フィルム、または、本発明の偏光板を用いることを特徴とする。
前記光学フィルム、及び偏光板は、液晶表示装置等の画像表示装置に有利に用いることができ、バックライト側の最表層に用いることが好ましい。
【0132】
一般的に、液晶表示装置は、液晶セル及びその両側に配置された2枚の偏光板を有し、液晶セルは、2枚の電極基板の間に液晶を担持している。更に、光学異方性層が、液晶セルと一方の偏光板との間に一枚配置されるか、又は液晶セルと双方の偏光板との間に2枚配置されることもある。
【0133】
液晶セルは、TNモード、VAモード、OCBモード、IPSモード又はECBモードであることが好ましく、IPSモードであることがより好ましい。
【0134】
本発明の光学フィルムは、特にIPSモード液晶表示装置に好ましく用いることができる。本発明の光学フィルムは、面内のレターデーションReおよび膜厚方向のレターデーションRthをいずれも小さくすることができ、IPSモード液晶表示装置においては、好ましい。
【実施例】
【0135】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0136】
[測定方法]
<重量平均分子量測定条件>
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。測定条件は以下の通りである。
溶媒 テトラヒドロフラン
装置名 TOSOH HLC−8220GPC
カラム TOSOH TSKgel Super HZM−H(4.6mm×15cm)を3本接続して使用した。
カラム温度 25℃
試料濃度 0.1質量%
流速 0.35ml/min
校正曲線 TOSOH製TSK標準ポリスチレン Mw=2800000〜1050までの7サンプルによる校正曲線を使用した。
【0137】
[実施例1〜6、比較例1〜4]
(ラクトン環含有アクリル系樹脂B1の調整)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた 60L反応釜に10000gのメタクリル酸メチル(MMA) 、2500gの2−(ヒドロキシメチル) アクリル酸メチル(MHMA)、12500gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温し、還流したところで、開始剤として10.0gのターシャリーアミルパーオキシイソノナノエート(アトフィナ吉富製、商品名: ルパゾール570) を添加すると同時に、20.0gの開始剤と100gのトルエンからなる溶液を4時間かけて滴下しながら、還流下(105〜110℃) で溶液重合を行い、さらに4.5時間かけて熟成を行った。
【0138】
得られた重合体溶液に、1 0 g のリン酸ステアリル/リン酸ジステアリル混合物(堺化学製、商品名: Phoslex A−18) を加え、還流下(90〜110℃) で6時間、環化縮合反応を行った。次いで、上記環化縮合反応で得られた重合体溶液を、バレル温度260℃、回転数100rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg) 、リアベント数1個、フォアベント数4個のベントタイプスクリュー二軸押出し機(Φ=29.75mm、L/D=30)に、樹脂量換算で2.0kg/時間の処理速度で導入し、該押出し機内で環化縮合反応と脱揮を行い、押出すことにより、透明なラクトン環含有アクリル系樹脂B1のペレットを得た。ラクトン環含有アクリル系樹脂ペレットのラクトン環化率は97.0%、重量平均分子量は154300、Tg(ガラス転移温度)は130℃であった。
【0139】
(ドープ溶液Bの調整)
上記で得られたラクトン環含有アクリル系樹脂B1をメチレンクロライド:メタノール(重量比80:20)の混合溶剤に溶解し、ドープ溶液B(固形分濃度25%、複素粘度50Pa・s)を得た。
【0140】
(セルロースアシレートドープ溶液Aの調整)
アセチル置換度2.86のアセチルセルロース100質量部、下記に示す化合物15質量部を、メチレンクロライド:メタノール(重量比80:20)の混合溶剤に溶解し、ドープ溶液A(固形分濃度18質量%、複素粘度15Pa・s)を得た。
【0141】
【化5】

(上記繰り返し単位のオリゴマー、重量平均分子量1000)
【0142】
上記のドープ溶液Aを外層に、ドープ溶液Bをコア層に用いて、溶液流延製膜を行い、下記表1の構成となるように各実施例および比較例の光学フィルムを作製した。具体的には、3層同時の共流延が可能なダイから金属支持体上に、下記表1に記載の層構成となるように連続製膜を行い、金属支持体面側から、外層A−1、コア層B、外層A−2となるよう、各層の厚みを下記表1のようにして、流延した。膜厚構成は、各ドープ流量から均一厚みの膜が形成されたと仮定したときの換算膜厚である。金属支持体上にある間、ドープを40℃の乾燥風により乾燥してフィルムを形成した後に剥ぎ取り、フィルム両端をピンで固定し、その間を同一の間隔で保ちつつ105℃の乾燥風で5分間乾燥した。ピンを外した後、さらに130℃で20分間乾燥した。実施例1〜6の光学フィルムおよび、比較例1〜4の光学フィルムを作製した。
【0143】
[実施例7]
アセチル置換度2.86のアセチルセルロース100質量部、下記に示す化合物15質量部を、メチレンクロライド:メタノール(重量比80:20)の混合溶剤に溶解し、ドープ溶液A’(固形分濃度21質量%、複素粘度30Pa・s)を得た。
ドープ溶液Aの代わりにドープ溶液A’を用いた以外は実施例3と同様にして、3層構造の実施例7の光学フィルムを製膜した。
【0144】
[評価]
(折り曲げ試験)
得られた各実施例および比較例の光学フィルムを3cm×20cmに切断し、180°折曲げて折り曲げの前後で膜の状態(脆性)を調べた。その結果、容易に折り曲げが可能で且つ5回繰り返し折り曲げ後の膜に変化がなかったものを「○」、5回折り曲げ後に膜に外層、コア層ともに割れていないが折り曲げクセがつくものを「△」、5回の折り曲げ後にコア層が割れたものを「×」として判定した。得られた結果を下記表1に記載した。
【0145】
(光弾性係数)
作製した光学フィルムから1cm×5cmのサンプルを切り出し、分光エリプソメーター(M−220、日本分光株式会社製)を用いて、サンプルに25℃で応力をかけながら、フィルム面内のレターデーション値を測定し、レターデーション値と応力の関数の傾きから算出した。得られた結果を下記表1に記載した。
【0146】
(Rth湿度依存性(ΔRth))
また、レターデーション値の湿度に伴う変化については、フィルムを25℃・相対湿度10%にて12時間調湿した以外は本明細書中に記載の方法と同様にして測定して算出したRth(Rth(10%))、および25℃・相対湿度80%にて12時間調湿した以外は本明細書中に記載の方法と同様にして測定して算出したRth(Rth(80%))から、Rthの湿度依存性ΔRthとを算出した。具体的には、ΔRth=Rth(10%)−Rth(80%)の値を計算し、得られた結果をそれぞれ下記表1に記載した。
【0147】
(偏光板の作製)
実施例及び比較例で作成した各フィルム及びフジタックTD60UL(富士フイルム(株)製)を37℃に調温した4.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(けん化液)に1分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、更に水洗浴を通した。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光子を調製した。
このようにして得た偏光子と、前記鹸化処理したフィルムのうちから2枚選び、これらで前記偏光子を挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とフィルムの長手方向とが直交するようにロールツーロールで貼り合わせて偏光板を作成した。ここで、偏光子の一方のフィルムは、表2記載のフィルム群から選択される1枚を鹸化したフィルムとし、他方のフィルムはフジタックTD60ULとした。
【0148】
(PVA偏光子への貼り合わせ評価)
このとき、以下の基準でPVA偏光子への貼り合わせを評価した結果を下記表1に記載した。
○:フィルムがポリビニルアルコールから剥離しない。
×:フィルムがポリビニルアルコールから容易に剥離する。
【0149】
(液晶表示装置への実装評価)
(IPS型液晶表示装置への実装)
市販の液晶テレビ(IPSモードのスリム型42型液晶テレビ)から、液晶セルを挟んでいる偏光板を剥がし取り、上記にて作製した偏光板を、表1に記載の本発明の光学フィルム側が液晶セル側に配置されるように、粘着剤を介して液晶セルに再貼合した。組みなおした液晶テレビを、40℃・相対湿度80%の環境で10日間保持した後に、25℃・相対湿度60%の環境に移し、黒表示状態で点灯させ続け、48時間後に目視観察して、光ムラを評価した。
【0150】
(正面方向の光ムラレベル)
装置正面から観察した場合の黒表示時の輝度ムラを観察し、以下の基準で評価した。その結果を下記表1に記載した。
○ : 照度100lxの環境下でムラがほとんど視認されない。
△ : 照度100lxの環境下で淡いムラが視認される。
× : 照度100lxの環境下で明確なムラが視認される。
【0151】
【表1】

【0152】
表1より、実施例1〜7の光学フィルムは、セルロースアシレートからなる外層を有することにより、偏光子との貼り合わせが十分であり、折り曲げ試験に強いことがわかった。また、光弾性係数が小さく、光学湿度変化が小さいため、パネル光ムラ評価性能に優れていることがわかった。また、本発明の光学フィルムを用いた偏光板の場合には、偏光子の密着性と脆性に優れ、ポリビニルアルコールとの貼合性は十分であり、優れた偏光板加工適性を有していた。
比較例1および2より、外層厚みが本発明の下限値を大幅に下回る場合、PVAとの貼り合わせが悪く、脆性も悪いことがわかった。また、比較例1および2は通常のPVAとの貼り合わせ工程によって偏光板を作製することができず、パネル実装ができなかった。比較例3より、外層厚みが本発明の下限値をわずかに下回る場合、脆性が悪いことがわかった。比較例4より、外層厚みが本発明の上限値を超える場合、光弾性係数、光学湿度変化が大きくなり悪化し、パネルに光ムラ(光漏れ)が生じることがわかった。
【符号の説明】
【0153】
11 流延設備
12 ドープ
14 流延ダイ
31 バンド
32 バックアップローラ
33 バックアップローラ
36 フィルム
37 剥ぎ取りローラ
51 温調板
52 凝縮板
53 液受け
56 回収タンク
101 流延設備
102 ドラム
105 凝縮板
PS 流延開始位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含有するコア層と、
該コア層の少なくとも片側に、3μmより厚く20μm以下の厚みであり、かつ、セルロースアシレートを含む外層を有することを特徴とする、光学フィルム。
【請求項2】
前記コア層の両側に、前記外層を1層ずつ有する3層構成であることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記コア層の膜厚が10〜100μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学フィルム。
【請求項4】
全膜厚に占める、前記外層の合計膜厚の割合が、2〜40%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項5】
光弾性係数の値が−3.0〜3.0×10-12Pa-1 であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学フィルム。
【請求項6】
セルロースアシレートと有機溶媒を含有するドープ(A)、およびラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂と有機溶媒を含有するドープ(B)を流延基材側から(A)−(B)の順番に、共流延法により同時に流延基材上に流延する工程と、
前記有機溶媒を除去する工程を含み、
前記ドープ(A)の流延厚みを該ドープ(A)の乾燥厚みが3μmより厚く20μm以下になるように制御することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ドープ(A)および前記ドープ(B)を、流延基材側から(A)−(B)−(A)の順番に共流延法により同時に流延基材上に流延することを特徴とする請求項6に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ドープ(A)の複素粘度ηAと、前記ドープ(B)の複素粘度ηBが、下記式Iの関係を満たすように制御することを特徴とする、請求項6または7に記載の光学フィルムの製造方法。
(式I) ηA≦ηB
【請求項9】
前記ドープ(A)および前記ドープ(B)の25℃における複素粘度がいずれも10〜80Pa・sであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ドープ(A)の固形分濃度が15〜25質量%であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする、光学フィルム。
【請求項12】
偏光子と、請求項1〜6および11のいずれか一項に記載の光学フィルムを含むことを特徴とする偏光板。
【請求項13】
請求項1〜6および11のいずれか一項に記載の光学フィルム、または、請求項12に記載の偏光板を含むことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項14】
IPS方式であることを特徴とする、請求項13に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−66538(P2012−66538A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214998(P2010−214998)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】