説明

光学フィルムの製造方法と製造装置

【課題】フィルムの表面に擦り傷を発生させることなくフィルム内に歪み変形を与えることで、表示装置に用いても輝点欠陥がなく、フィルム内の歪み変形量のバラツキの小さい光学フィルムの製造が可能であり、かつフィルム面に傾斜方向に安定して延伸することが可能な光学フィルムの製造方法を提供する。また、当該製造方法に適した製造装置を提供する。
【解決手段】特定条件を満たす工程1及び工程2を有する、樹脂フィルムを連続的に搬送して光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法であって、前記工程1において当該樹脂フィルムの厚さ方向の屈折率と進行方向に直交する方向の屈折率との間に差を発生させ、前記工程2において当該樹脂フィルムの屈折率が最小の方向が、当該樹脂フィルム面の法線方向から傾斜した方向となるように調整することを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TN型液晶表示装置用光学補償フィルムとして適した光学フィルムの製造方法と製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ツイストテッドネマティック(Twisted Nematic:ねじれネマティック:以下「TN」と称す。)型液晶表示装置用光学補償フィルムは、優れた視野拡大のために光学軸がフィルム面方向から傾斜している部分がフィルム面内に必要であることが知られている。このため、支持体フィルム上に液晶化合物をコーティングし、ラビング処理することで液晶分子の方向をフィルム面方向から傾斜させ、光学軸をフィルム面方向から傾斜させたものが一般に市場に提供されている。
【0003】
しかしながら、当該TN型液晶表示装置用光学補償フィルムは、その構成及び製造方法が複雑であり、生産性が悪く、高コストであるという問題がある。
【0004】
このため、生産性に優れ、液晶層を必要としないシンプルな樹脂フィルムの光学軸をフィルム面方向から傾斜させた光学フィルムである光学補償フィルムが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0005】
しかし、光学軸をフィルム面方向から傾斜させる達成手段が、フィルムを周速が異なる2本のローラ間に挟んで、当該フィルムの面方向にせん断力を加えることによって、フィルムに歪み変形を与え、光学軸をフィルム面方向から傾斜させるため、ローラとフィルムのスリップによってフィルム表面に微細な擦り傷が生じ、液晶表示装置に用いると、擦り傷が、輝点欠陥として目立つという欠点があった。また、ローラとフィルムの摩擦力が安定せず、せん断力のコントロールが難しく、結果としてフィルム面方向から傾斜させる光学軸のコントロールが難しいという欠点があり、実用に至っていない。
【特許文献1】特開平6−222213号公報
【特許文献2】特開平7−333437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、フィルムの表面に擦り傷を発生させることなくフィルム内に歪み変形を与えることで、表示装置に用いても輝点欠陥がなく、フィルム内の歪み変形量のバラツキの小さい光学フィルムの製造が可能であり、かつフィルム面に傾斜方向に安定して延伸することが可能な光学フィルムの製造方法を提供することである。また、当該製造方法に適した製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記課題は、以下の手段によって解決される。
1.下記条件1を満たす工程1及び下記条件2を満たす工程2を有する、樹脂フィルムを連続的に搬送して光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法であって、前記工程1において当該樹脂フィルムの厚さ方向の屈折率と進行方向に直交する方向の屈折率との間に差を発生させ、前記工程2において当該樹脂フィルムの屈折率が最小の方向が、当該樹脂フィルム面の法線方向から傾斜した方向となるように調整することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
条件1:前記工程1が、前記樹脂フィルムを搬送方向と直交する方向にx倍に延伸し、搬送方向にy倍延伸する工程であり、下記条件式1を満たす。
(条件式1) 1.00<x<2.50, 0.40<y<1.00
条件2:前記工程2が、前記樹脂フィルムの片面に駆動ローラを接触させ、当該樹脂フィルムの反対面に回転負荷を有する追随回転ローラを接触させる工程であり、ローラ間距離aと当該樹脂フィルム膜厚dとが、下記条件式2を満たす。
(条件式2) 0.40×d<a<0.98×d
2.前記樹脂フィルムが、駆動ローラAと追随回転ローラBの2種のローラを用いる前記工程2で、ローラAの周速をA1(m/min)、樹脂フィルムがローラから離れた後の速度をP1(m/min)とした場合に、下記条件式3を満たすことを特徴とする前記1に記載の光学フィルムの製造方法。
(条件式3) 0.30<P1/A1<1.00
3.前記駆動ローラと追随回転ローラが、前記樹脂フィルムを挟むニップローラ対を構成することを特徴とする前記1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【0008】
4.前記樹脂フィルムと前記2種のローラが接触する箇所(以下「接触部」ともいう。)及びその接触部の前後において、当該樹脂フィルムを加熱または冷却することを特徴とする前記1から前記3のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0009】
5.前記駆動ローラまたは追随回転ローラが、複数設けられており、フィルム搬送経路の複数個所で前記接触を行うことを特徴とする前記1から4のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0010】
6.樹脂フィルムの片面に接触する駆動ローラと当該樹脂フィルムの反対面に接触し回転負荷を有する追随回転ローラとを備え、これら2種のローラが当該樹脂フィルを搬送する手段となりかつ当該樹脂フィルム内に歪み変形を与える手段となることを特徴とする光学フィルムの製造装置。
【0011】
7.前記1から5のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法の実施に用いられることを特徴とする前記6に記載の光学フィルムの製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記手段により、フィルムの表面に擦り傷を発生させることなくフィルム内に歪み変形を与えることで、表示装置に用いても輝点欠陥がなく、フィルム内の歪み変形量のバラツキの小さい光学フィルムの製造が可能であり、かつフィルム面に傾斜方向に安定して延伸することが可能な光学フィルムの製造方法を提供することである。また、当該製造方法に適した製造装置を提供することである。
【0013】
これにより、従来、一般に知られている面に平行方向の延伸による強度アップや、光学軸や、屈折率調整では得られない各種のフィルム物性の付与が可能と考えられ、各種の光学フィルムに有用となる。特に、TN型液晶表示装置用光学補償フィルムの製造方法として適した製造方法と製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の光学フィルムの製造方法は、前記条件1を満たす工程1及び前記条件2を満たす工程2を有する、樹脂フィルムを連続的に搬送して光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法であって、前記工程1において当該樹脂フィルムの厚さ方向の屈折率と進行方向に直交する方向の屈折率との間に差を発生させ、前記工程2において当該樹脂フィルムの屈折率が最小の方向が、当該樹脂フィルム面の法線方向から傾斜した方向となるように調整することを特徴とする。この特徴は、請求項1〜7に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0015】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための最良の形態・態様について詳細な説明をする。
【0016】
(本発明の光学フィルムの製造方法の特徴)
本発明の光学フィルムの製造方法は下記条件1を満たす工程1及び下記条件2を満たす工程2を有する、樹脂フィルムを連続的に搬送して光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法であって、前記工程1において当該樹脂フィルムの厚さ方向の屈折率と進行方向に直交する方向の屈折率との間に差を発生させ、前記工程2において当該樹脂フィルムの屈折率が最小の方向が、当該樹脂フィルム面の法線方向から傾斜した方向となるように調整することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
条件1:前記工程1が、前記樹脂フィルムを搬送方向と直交する方向にx倍に延伸し、搬送方向にy倍延伸する工程であり、下記条件式1を満たす。
(条件式1) 1.00<x<2.50, 0.40<y<1.00
条件2:前記工程2が、前記樹脂フィルムの片面に駆動ローラを接触させ、当該樹脂フィルムの反対面に回転負荷を有する追随回転ローラを接触させる工程であり、ローラ間距離aと当該樹脂フィルム膜厚dとが、下記条件式2を満たす。
(条件式2) 0.40×d<a<0.98×d
なお、上記条件1における「延伸」には、縮小化を、1倍未満の延伸として表現し、含めた。
【0017】
本願において、「回転負荷を有する追随回転ローラ」とは、図1に示すように、搬送される樹脂フィルムとの接触圧力によって自由回転又は強制回転する回転ローラであって、駆動ローラによってフィルムを搬送させる力が掛るフィルム面と反対のフィルム面でブレーキが掛るように反対方向に力を作用させるために使用する回転ローラをいう。回転に要する負荷は、各種のブレーキを使用することができる。ポイントとしては、負荷トルクが変動しない構造とすることが重要であり、駆動ローラを含めて、一定のトルクとなるような制御が必要である。
【0018】
また、「樹脂フィルムに歪み変形を与える」とは、ローラとの接触圧力またはローラニップ圧等によるせん断力を樹脂フィルムに加え、当該樹脂フィルム内の屈折率等の光学的物性(「光学特性」ともいう。)の変化をもたらすような歪み変形を生じさせることをいう。
【0019】
本発明の実施態様としては、前記樹脂フィルムが、前記駆動ローラAと追随回転ローラBの2種のローラを用いる前記工程2で、ローラAの周速をA1(m/min)、樹脂フィルムがローラから離れた後の速度をP1(m/min)とした場合に、下記条件式3を満たす態様の製造方法であることが好ましい。
(条件式3) 0.30<P1/A1<1.00
すなわち、当該樹脂フィルムが、前記駆動ローラと追随回転ローラの2種のローラの接触部分との間でスリップしない様にする態様であることが好ましい。このため、当該駆動ローラと追随回転ローラが、当該樹脂フィルムを挟むニップローラ対を構成する態様であることが好ましい。これにより、当該樹脂フィルムが、駆動ローラと追随回転ローラの外周面上で、スリップすることが抑えられるため、フィルム表面に擦り傷がつかない。また、当該駆動ローラと追随ローラからフィルムに伝達される応力が安定しており、フィルム内の歪み変形量のバラツキが小さい。
【0020】
本発明においては、前記樹脂フィルムと前記2種のローラが接触する箇所(「接触部」という。)及びその接触部の前後において、当該樹脂フィルムを加熱または冷却する態様が好ましい。歪み変形は、樹脂フィルムのガラス転移温度の上下50℃の範囲の温度条件が生じ易く、加熱は、接触部の前で実施し、樹脂フィルム温度をガラス転移温度付近とするためであり、歪み変形量を大きくするために有効である。冷却は、接触部を通過後に実施し、フィルムに生じた歪み変形を維持固定化して変化するのを防止するために有効である。
【0021】
尚、ガラス転移温度以上の温度状態を接触部以外の搬送部分などで長時間維持することは、発生した歪み変形が変化(消失の現象も含む)するため好ましくない。また、歪み変形を付与した後、フィルムを巻き取る前工程で、短時間(1〜20分間)の間、ガラス転移温度以上の高温とする熱安定化処理は、歪み変形が長期間変動し難くなり、好ましい態様である。
【0022】
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)とする。
【0023】
本発明においては、前記駆動ローラまたは追随回転ローラが、複数設けられており、フィルム搬送経路の複数個所で前記接触を行う態様であることも好ましい。
【0024】
複数回に分けて一定量の歪み変形を形成することが、1回で歪み変形を形成するよりも安定してバラツキ量を小さく出来る点で優れている。また、複数回に分けて歪み変形を与える時に、フィルムの膜厚方向で加熱する領域を部分限定して複数回の加熱位置を変更することで、フィルム厚み方向で歪み変形量が異なる様にすることが出来、好ましい。
【0025】
従って、本発明の光学フィルムの製造方法の実施に用いられる製造装置としては、基本的には、樹脂フィルムの片面に接触する駆動ローラと当該樹脂フィルムの反対面に接触し回転負荷を有する追随回転ローラとを備え、これら2種のローラが当該樹脂フィルを搬送する手段となりかつ当該樹脂フィルム内に歪み変形を与える手段となる態様の光学フィルムの製造装置であることが好ましい。
【0026】
本発明に係る樹脂フィルム内の歪み変形については、下記(1)〜(7)に示す手段によって、フィルム内の変形量のコントロールが容易であり、かつフィルムの連続搬送による生産安定性が良好である。
【0027】
(1)追随回転ローラの回転負荷の負荷量を調整する。
【0028】
(2)せん断力が掛かる部分(接触部およびその前後)のフィルム温度を調整する。
【0029】
(3)上記(2)でフィルムの面方向の温度状態の調整をする。例えば、片面より加熱することで加熱しない(冷却)側と温度差を事前加熱時間も含めて調整する。
【0030】
(4)駆動ローラと回転負荷を有する追随回転ローラをローラニップ対として使用し、前記ローラニップ対を使用する数を調整する。
【0031】
(5)上記(4)で複数のローラニップ対で、追随回転ローラの回転負荷量を徐々に重くしたり、軽くしたりと調整する。
【0032】
(6)上記(4)及び(5)の複数のローラニップ対で、ローラ温度を変化させ、複数の接触部分の加熱するフィルム温度を調整する。
【0033】
(7)ローラ材質(金属、各種ゴム)の選定によりローラ変形量を調整する。
【0034】
(8)フィルム片面に加熱手段を設け、反対面に冷却手段を設ける。
【0035】
以下、本発明の光学フィルムの製造方法の好ましい態様例の技術的特徴について、図2(a)〜(d)を参照して、更に詳しく説明する。
【0036】
図2(a)〜(d)は、本発明に係る駆動ローラと追随回転ローラの配置例(位置的相互関係例)を示す概念図である。図2(a)に示す例の場合、ローラがニップせず、ローラ外周をフィルムが密着した状態となっており、ローラ径を小さくして小さな湾曲部を形成して歪み変形を与えることが出来、次の図2(b)とは異なる歪み変形を与えることが出来る。複数ローラの温度を変化させる、ローラ径を変化させることにより、ローラニップ対方式では得られない歪み変形を与えることが出来る。
【0037】
図2(b)に示す例の場合、追随回転ローラの回転負荷に、ローラの質量を使用出来、ローラ幅方向のバラツキが減少する。ローラニップ圧力によりスリップ限界を高く出来、1箇所のローラ対で強い力が伝達可能であり、1対のローラ対でのフィルム内変形量を大きくすることが出来る。
【0038】
図2(c)に示す例の場合、1個のローラに対して複数ローラを対とすることで製造工程を小さく出来る。駆動ローラを冷却ローラとして、追随回転ローラを加熱ローラとして、樹脂フィルム片側表面の樹脂フィルム内を変形することが出来る。図2(c)で、前半と後半で逆のローラ配置とすることで、樹脂フィルムの両面より樹脂フィルム内を変形させることで、樹脂フィルムの厚さ方向での変形量などを調整出来る。
【0039】
なお、本発明では、樹脂フィルムは、駆動ローラと追随回転ローラに直接に接触することが好ましが、図2(d)に示す様に樹脂フィルムとローラの間にフィルムやシートやベルトを介して、樹脂フィルム内に歪み変形を与える方法も、本発明に含まれる形態である。
【0040】
〈ローラ構成材料〉
本発明に係るローラを構成する材料としては、通常知られている各種材料が使用出来る。具体的には、ステンレス、クロムメッキ、チタンなど金属ローラ(変形しない)、各種ゴム(ゴム硬度により、弾性変形量を調整出来る)、フッ素樹脂(撥水性、撥油性などによりローラへのフィルム材の付着を防止出来る)など各種が使用出来る。
【0041】
〈追随回転ローラへの回転負荷〉
追随回転ローラへの回転負荷としては、ニップ力を強くする、ローラ自体の重さを利用する、各種のローラブレーキを利用する、ローラに別の回転対を付加して回転負荷とする等が挙げられる。
【0042】
〈ローラ表面〉
本発明に係るローラ表面の表面状態は、鏡面状態(表面粗さが非常に小さい0.01〜2.0nm)、表面粗さ2〜30nm程度としてスリップをさせない。30nm〜10μmとして、フィルム表面の凹凸形状とする効果(防幻性フィルムの機能)をもたせる、など各種の表面とすることが出来る。フィルムの用途によって選択することが好ましい。
【0043】
〈加熱、冷却〉
本発明においては、電熱ヒータ、遠赤外線ヒータ、熱媒体による加熱など一般に知られる各種の加熱手段が利用出来、フィルムの直接加熱(接触と非接触)、駆動ローラ及び追随回転ローラを加熱することができる。
【0044】
冷却は、熱媒体による冷却、空気冷却、冷凍機使用など一般に知られる各種の冷却手段が使用出来、フィルムの直接冷却(接触と非接触)、駆動ローラ、追随回転ローラを冷却することができる。
【0045】
加熱温度は、目的により異なるが樹脂フィルムのガラス転移温度の±100℃が好ましい。より好ましくは、±50℃である。冷却温度は取り扱い性から、室温〜軟化点温度の範囲が好ましい。
【0046】
(樹脂フィルム)
本発明において用いることができる樹脂フィルムの樹脂は、熱硬化性樹脂(硬化途中での本発明の適用となるため、コントロールし難い点がある。)であっても熱可塑性樹脂(加熱することで歪み変形を受け易い状態に変化)であっても使用出来るが、取り扱い性より熱可塑性樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂としては、例えば、セルロースエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、アクリル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、および脂環式オレフィンポリマーなどを挙げることができる。この中でも、熱可塑性樹脂としては、セルロースエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状オレフィン樹脂、及びアクリル樹脂が好ましい。また、特開2004−212971号公報に記載されている光弾性係数が60×10−8cm/N以上であるポリマー材料である、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびポリエステルイミド樹脂も好ましく用いることが出来る。
【0047】
また、樹脂フィルムは、単一組成のフィルムであることが、シンプルで取り扱い性が良好であるが、積層構成の樹脂フィルムであっても良い。積層構成としては、樹脂フィルム表面にポリイミド樹脂などの薄膜層を設けた特開2004−212971号公報に記載されている構成が好ましい。
【0048】
本発明の樹脂フィルムは、長尺のフィルムとして取り扱うことが好ましく、ロール状に巻き取られた形態の樹脂フィルムを繰り出して、本発明の製造方法を適用した後に再び巻き取る形態や、長尺フィルムの生産の乾燥途中や乾燥後の巻き取り前の段階で、本発明の製造方法を適用することが好ましい。一方カットシートフィルムに対して本発明の製造方法を適用することも可能であるが、長尺フィルムを連続処理する方法に比較すると生産効率の面で劣る。
【0049】
〈セルロースエステル樹脂〉
本発明に用いることができるセルロースエステル樹脂は、セルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0050】
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0051】
混合脂肪酸エステルの置換度として、更に好ましいセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルは、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロース樹脂であることが好ましい。
【0052】
式(I) 2.6≦X+Y≦3.0
式(II) 1.0≦X≦2.5
この内特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも1.9≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦0.9であることが好ましい。上記アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することができる。
【0053】
更に、本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、更に好ましくは2.5〜5.0であり、更に好ましくは3.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。
【0054】
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することができる。
【0055】
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
【0056】
本発明に係るセルロースエステル樹脂は、20mlの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて攪拌した時のpHが6〜7、電気伝導度が1〜100μS/cmであることが好ましい。pHが6未満の場合、残留有機酸が加熱溶融時にセルロースの劣化を促進させる恐れがあり、pHが7より高い場合、加水分解が促進する恐れがある。また、電気伝導度が100μS/cm以上の場合、残留イオンが比較的多く存在するため、加熱溶融時にセルロースを劣化させる要因になると考えられる。
【0057】
〈ポリカーボネート樹脂〉
本発明では、種々の公知のポリカーボネート樹脂も使用することができる。本発明においては、特に芳香族ポリカーボネートを用いることが好ましい。当該芳香族ポリカーボネートについて特に制約はなく、所望するフィルムの諸特性が得られる芳香族ポリカーボネートであれば特に制約はない。
【0058】
一般に,ポリカーボネートと総称される高分子材料は,その合成手法において重縮合反応が用いられて,主鎖が炭酸結合で結ばれているものを総称するが,これらの内でも,一般に,フェノール誘導体と、ホスゲン、ジフェニルカーボネートらから重縮合で得られるものを意味する。通常、ビスフェノール−Aと呼称されている2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンをビスフェノール成分とする繰り返し単位で表される芳香族ポリカーボネートが好ましく選ばれるが,適宜各種ビスフェノール誘導体を選択することで,芳香族ポリカーボネート共重合体を構成することができる。
【0059】
かかる共重合成分としてこのビスフェノール−A以外に,ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフロロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等を挙げることができる。
【0060】
また、一部にテレフルタル酸及び/またはイソフタル酸成分を含む芳香族ポリエステルカーボネートを使用することも可能である。このような構成単位をビスフェノール−Aからなる芳香族ポリカーボネートの構成成分の一部に使用することにより芳香族ポリカーボネートの性質、例えば耐熱性、溶解性を改良することができるが,このような共重合体についても本発明は有効である。
【0061】
ここで用いられる芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量は、10000以上、200000以下であれば好適に用いられる。粘度平均分子量20000〜120000が特に好ましい。粘度平均分子量が10000より低い樹脂を使用すると得られるフィルムの機械的強度が不足する場合があり,また400000以上の高分子量になるとドープの粘度が大きくなり過ぎ取扱い上問題を生じるので好ましくない。粘度平均分子量は市販の高速液体クロマトグラフィ等で測定することができる。
【0062】
本発明に係る芳香族ポリカーボネートのガラス転移温度は200℃以上であることが高耐熱性のフィルムを得る上で好ましく、より好ましくは230℃以上である。これらは、上記共重合成分を適宜選択して得ることができる。ガラス転移温度は、DSC装置(示差走査熱量分析装置)にて測定することができ、例えばセイコー電子工業株式会社製:RDC220にて、10℃/分の昇温条件によって求められる、ベースラインが偏奇し始める温度である。
【0063】
本発明において、上記芳香族ポリカーボネートを含むドープ組成物に用いる溶媒は、メチレンクロライド、及び炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを4〜14質量部含有する混合溶媒であることが好ましい。
【0064】
上記炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールの混合量は、好ましくは4〜12質量部である。このような混合溶媒を用い、従来よりも高い残留溶媒濃度でウェブを剥離することにより、ウェブ剥離時の強い静電気の発生を抑制し、これによりベルトが損傷したり、フィルムのズジやムラ、微小傷の発生を防止することができる。
【0065】
加えるアルコールの種類は用いる溶媒により制限される。アルコールと当該溶媒とが相溶性があることが必要条件である。これらは単独で加えても良いし、2種類以上組み合わせても問題ない。本発明におけるアルコールとしては、炭素数1〜6、好ましくは1〜4、より好ましくは2〜4の鎖状、或いは分岐した脂肪族アルコールが好ましい。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ターシャリ−ブタノールなどが挙げられる。これらのうちエタノール、イソプロパノール、ターシャリ−ブタノールはほぼ同等の効果が得られるが、メタノールはやや効果が低い。理由は明らかでないが溶媒の沸点、即ち乾燥時の飛び易さが関係しているものと推測している。それ以上の高級アルコールは、高沸点であるためフィルム製膜後も残留しやすくなるので好ましくない。
【0066】
アルコールの添加量は慎重に選択されなければならない。これらのアルコールは芳香族ポリカーボネートに対する溶解性には全く乏しく、完全な貧溶媒である。従ってあまり多く加えることはできず、満足すべき剥離性が得られる最少量とすべきである。前述したようにメチレンクロライドに対して4〜14質量部、好ましくは4〜12質量部である。メチレンクロライド量に対しては、添加量が4〜14質量部の範囲であると、当該溶媒のポリマーに対する溶解性、ドープ安定性が向上し、剥離性改善の効果が大きくなる。
【0067】
本発明はドープ組成物中、上記メチレンクロライドと脂肪族アルコールで構成されるが、他の溶媒を使用することもできる。その他残りの溶媒としては芳香族ポリカーボネートを高濃度に溶解し、かつアルコールと相溶性があること、更に低沸点溶媒であれば特に限定はない。例えば、芳香族ポリカーボネートに対して溶解力のある溶媒として、塩化メチレン以外にクロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系の溶媒、シクロヘキサノン等のケトン系の溶媒が挙げられる。
【0068】
他の溶媒を使用する場合は特に限定はなく、効果を勘案して用いればよい。ここでいう効果とは、溶解性や安定性を犠牲にしない範囲で溶媒を混合することによる、たとえば溶液流延法により製膜したフィルムの表面性の改善(レベリング効果)、蒸発速度や系の粘度調節、結晶化抑制効果などである。これらの効果の度合により混合する溶媒の種類や添加量を決定すればよく、また混合する溶媒として1種または2種以上用いてもかまわない。
【0069】
好適に用いられる他の溶媒としてはクロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、メトキシエチルアセテートなどのエーテル系溶媒が挙げられる。
【0070】
本発明に係るドープ組成物は、結果としてヘイズの低い透明な溶液が得られればいかなる方法で調製してもよい。あらかじめある溶媒に溶解させた芳香族ポリカーボネート溶液に、アルコールを所定量添加してもよいし、アルコールを含む混合溶媒に芳香族ポリカーボネートを溶解させてもよい。ただ先にも述べた様にアルコールは貧溶媒であるため、前者の後から添加する方法ではポリマーの析出によるドープ白濁の可能性があるため、後者の混合溶媒に溶解させる方法が好ましい。
【0071】
(環状オレフィン樹脂)
本発明においては、環状オレフィン樹脂を用いることも好ましい。環状オレフィン樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0072】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。
【0073】
これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0074】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0076】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類及びその誘導体、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエン及びその誘導体などが挙げられる。
【0077】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0078】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0079】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0080】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0081】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90質量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの質量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光学補償フィルム(光学フィルム)を得ることができる。
【0082】
本発明に用いる環状オレフィン樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定される。溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常20,000〜150,000である。好ましくは25,000〜100,000、より好ましくは30,000〜80,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度および成型加工性が高度にバランスされ好適である。
【0083】
環状オレフィン樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよい。耐久性及び延伸加工性の観点から、好ましくは130〜160℃、より好ましくは135〜150℃の範囲である。
【0084】
環状オレフィン樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、緩和時間、生産性等の観点から、1.2〜3.5、好ましくは1.5〜3.0、さらに好ましくは1.8〜2.7である。
【0085】
本発明に用いる環状オレフィン樹脂は、光弾性係数の絶対値が10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σで表される値である。環状オレフィン樹脂の光弾性係数が10×10−12Pa−1を超えると、延伸フィルムの面内リターデーションのバラツキが大きくなるおそれがある。
【0086】
本発明において、環状オレフィン樹脂には、実質的に粒子を含まないことが好ましい。ここで、実質的に粒子を含まないとは、環状オレフィン樹脂からなるフィルムへ粒子を添加しても、未添加状態からのヘイズの上昇巾が0.05%以下の範囲である量までは許容できることを意味する。特に、脂環式ポリオレフィン樹脂は、多くの有機粒子や無機粒子との親和性に欠けるため、上記範囲を超えた粒子を添加した環状オレフィン樹脂フィルムを延伸すると、空隙が発生しやすく、その結果として、ヘイズの著しい低下が生じるおそれがある。
【0087】
本発明において、環状オレフィン樹脂に荷重たわみ温度調整剤を入れることにより、上述したように優れた延伸適性を持たせ、高温下における光学特性の変化を改良した光学補償フィルムを得ることができる。
【0088】
これは、樹脂のガラス転位温度Tg(℃)と、荷重たわみ温度Tt(℃)との差が大きくなる事により、低温においてもフィルムに無理な力がかかることなく延伸ができ、その結果、リターデーションのムラが大幅に低減され、またリターデーションの熱緩和特性も改良されると考えられる。
【0089】
具体的には、TgとTtとの差が、Tg−Tt=5〜30(℃)であり、より好ましくは10〜30(℃)である。
【0090】
なお、熱可塑性フィルムには、上記の樹脂以外の高分子材料やオリゴマーを適宜選択して混合してもよい。高分子材料やオリゴマーとしては、セルロースエステル樹脂等と相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上であることが好ましい。セルロースエステル以外の高分子材料やオリゴマーの少なくとも1種以上を混合する目的は、加熱溶融時の粘度制御やフィルム加工後のフィルム物性を向上するために行う意味を含んでいる。
【0091】
(その他添加剤)
本発明に係る熱可塑性フィルムには、目的に応じて種々の化合物等を添加剤として含有させることができる。例えば、可塑剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、光安定剤、紫外線吸収剤、光学異方性制御剤、マット剤、帯電防止剤、剥離剤、等を含有させることができる。
【0092】
前記添加剤の中で、本発明に有効に寄与するのは光学異方性制御剤であり、特にリターデーション上昇剤が光学的に複屈折性を本願目的の平面から斜め方向に発現し易くするため好ましい。リターデーション上昇剤は、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物が好ましい。芳香族化合物は、樹脂の100質量部に対して、0.01乃至20質量部の範囲で使用することが好ましい。そして、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。これらについては、特開2004−109410号、特開2003−344655号、特開2000−275434号、特開2000−111914号、特開平12−275434号公報などに詳細が記載されている。
【0093】
(マット剤)
本発明の光学フィルムは、作製されたフィルムがハンドリングされる際に、傷が付いたり、搬送性が悪化することを防止するために、マット剤として、微粒子を添加することが好ましい。
【0094】
微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等を挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0095】
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径100〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。光学フィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成の光学フィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0096】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0097】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0098】
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0099】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vが光学フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。本発明の光学フィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
【0100】
(熱可塑性樹脂フィルムの製造方法)
本発明に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、溶融流延法であっても、溶液流延法であってもよい。
【0101】
溶融流延法においては、従来、溶液流延法において使用されてきた溶媒(例えば塩化メチレン等)を用いずに、加熱溶融する溶融流延による成形法は、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等に分類できる。これらの中で、機械的強度及び表面精度等に優れる偏光板保護フィルムを得るためには、溶融押出し法が優れている。
【0102】
また、光学フィルム支持体の膜厚変動は、±3%、更に±1%、更に好ましくは±0.1%の範囲とすることが好ましい。またフィルム中の各種異物は少ない程好ましく、よりこのましはゼロ(検出限界以下)であることである。
【0103】
近年の液晶ディスプレイの大型化を鑑みると、TN液晶用視野拡大の目的での本発明光学フィルムとしては、フィルムの幅は1m以上が好ましい。他方で、4mを超えると装置が大型化し、また搬送が困難となるため、光学フィルムの幅は1〜4mが好ましく、特に好ましくは1.4〜2.5mである。
【0104】
〈フィルム面に平行方向の延伸工程〉
本発明の光学フィルムは、従来のフィルム面に平行方向の延伸処理を行うことが出来る。延伸処理の目的は、フィルム平面性の向上、フィルム強度アップ、リターデーション値の調整の目的で行うことが出来る。
【0105】
延伸方向としては、長手方向(MD)、幅手方向(TD)が一般的であるが、長手方向に対して、斜め方向の延伸であっても良い。
【0106】
最初に、長手方向(MD)の延伸方法について説明する。
【0107】
長手方向に一段または多段MD延伸してもよい。延伸する際は、フィルムのガラス転移温度をTgとすると(Tg−30)〜(Tg+100)℃、より好ましくは(Tg−20)〜(Tg+80)℃の範囲内で加熱して搬送方向(長手方向;MD)或いは幅手方向(TD)に延伸することが好ましい。(Tg−20)〜(Tg+20)℃の温度範囲内で横延伸し次いで熱固定することが好ましい。また延伸工程の後、緩和処理を行うことも好ましい。
【0108】
光学フィルムのTgは、フィルムを構成する材料種及び構成する材料の比率によって制御することができる。フィルムの乾燥時のTgは110℃以上が好ましく、更に120℃以上が好ましい。これは液晶表示装置に本発明に係る光学フィルムを用いた場合、当該フィルムのTgが上記よりも低いと、使用環境の温度や湿度、バックライトの熱による影響によって、フィルム内部に固定された分子の配向状態に影響を与え、リターデーション値及びフィルムとしての寸法安定性や形状に大きな変化を与える可能性が高くなる。また、フィルムの形状を保持できなくなることがある。逆に当該フィルムのTgが高過ぎると、フィルム構成材料の分解温度に近づくため製造しにくくなり、フィルム化するときに用いる材料自身の分解によって揮発成分の存在や着色を呈することがある。従ってガラス転移温度は180℃以下、より好ましくは150℃以下であることが好ましい。このとき、フィルムのTgはJIS K7121に記載の方法などによって求めることができる。
【0109】
次に、幅手方向(TD)の延伸方法について説明する。
【0110】
TD延伸する場合、2つ以上に分割された延伸領域で温度差を1〜50℃の範囲で順次昇温しながら横延伸すると幅方向の物性の分布が低減でき好ましい。更に横延伸後、フィルムをその最終TD延伸温度以下でTg−40℃以上の範囲に0.01〜5分間保持すると幅方向の物性の分布が更に低減でき好ましい。
【0111】
熱固定は、その最終TD延伸温度より高温で、Tg−20℃以下の温度範囲内で通常0.5〜300秒間熱固定する。この際、2つ以上に分割された領域で温度差が1〜100℃となる範囲で順次昇温しながら熱固定することが好ましい。
【0112】
熱固定されたフィルムは通常Tg以下まで冷却され、フィルム両端のクリップ把持部分をカットし巻き取られる。この際、最終熱固定温度以下、Tg以上の温度範囲内で、横方向及び/または縦方向に0.1〜10%弛緩処理することが好ましい。また冷却は、最終熱固定温度からTgまでを、毎秒100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながらこれらの処理を行うことがフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。尚、冷却速度は、最終熱固定温度をT1、フィルムが最終熱固定温度からTgに達するまでの時間をtとした時、(T1−Tg)/tで求めた値である。
【0113】
これら熱固定条件、冷却、弛緩処理条件のより最適な条件は、フィルムを構成するセルロースエステルや可塑剤等の添加剤種により異なるので、得られた二軸延伸フィルムの物性を測定し、好ましい特性を有するように適宜調整することにより決定すればよい。
【0114】
本発明に係る光学フィルムの面内リターデーション値(Ro)及び厚さ方向のリターデーション値(Rt)は、光学補償フィルムとして用いる場合には、0≦Ro≦200nmかつ30≦Rt≦400nmであリ、より好ましくは30≦Ro≦100nmかつ50≦Rt≦300nmである。また、Rtの変動や分布の幅は±10%未満であることが好ましく、より好ましくは±5%未満である。更に好ましくは±1%未満であることが好ましく、最も好ましくはRtの変動がないことである。
【0115】
尚リターデーション値Ro、Rtは以下の式によって求めることができる。
【0116】
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
ここにおいて、dはフィルムの厚さ(nm)、屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう)、ny(フィルム面内で遅相軸に直角な方向の屈折率)、nz(厚さ方向におけるフィルムの屈折率)である。
【0117】
尚、リターデーション値(Ro)、(Rt)は自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長590nmで求めることができる。
【0118】
(偏光板)
本発明に係る光学フィルムを光学補償フィルムの機能と偏光板保護フィルムの機能を併せ持つ光学フィルムとして使用することが出来、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られた光学フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に完全鹸化ポリビニルアルコール水溶液を用いて本発明に係る光学フィルムを貼合する。偏光子の反対面には、下記の、従来の偏光板保護フィルムとして、コニカミノルタタックKC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UY、KC4UY、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC12UR、KC8UXW−H、KC8UYW−HA、KC8UX−RHA(コニカミノルタオプト(株)製)等のセルロースエステルフィルムが用いることができる。
【0119】
また、上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、同6−118232号に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
【0120】
(表示装置)
本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムを用いることにより、種々の視認性に優れた表示装置を作製することができる。本発明に係る光学フィルムは反射型、透過型、半透過型LCD或いはTN型、STN型、OCB型、HAN型、VA型(PVA型、MVA型)、IPS型等の各種駆動方式のLCDで好ましく用いられる。
【0121】
また、芳香族ポリカーボネートフィルムは平面性に優れ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー等の各種表示装置にも好ましく用いられる。
【0122】
〈液晶表示装置〉
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明に係る光学フィルムを適用した偏光板保護フィルムは平面性・リターデーションの均一性が高いため、どの部位に配置しても優れた表示性が得られる。液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには、クリアハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられた偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが好ましい。また光学補償層を設けた偏光板保護フィルムや、延伸操作等によりそれ自身に適切な光学補償能を付与した偏光板保護フィルムの場合には、液晶セルと接する部位に配置することで、優れた表示性が得られる。特にマルチドメイン型の液晶表示装置、より好ましくは複屈折モードによってマルチドメイン型の液晶表示装置に使用することが本発明の効果をより発揮することができる。
【0123】
マルチドメイン化とは、1画素を構成する液晶セルを更に複数に分割する方式であり、視野角依存性の改善・画像表示の対称性の向上にも適しており、種々の方式が報告されている「置田、山内:液晶,6(3),303(2002)」。当該液晶表示セルは、「山田、山原:液晶,7(2),184(2003)」にも示されており、これらに限定される訳ではない。
【0124】
表示セルの表示品質は、人の観察において左右対称であることが好ましい。従って、表示セルが液晶表示セルである場合、実質的に観察側の対称性を優先してドメインをマルチ化することができる。ドメインの分割は、公知の方法を採用することができ、2分割法、より好ましくは4分割法によって、公知の液晶モードの性質を考慮して決定できる。
【0125】
偏光板は、垂直配向モードに代表されるMVA(Multi−domain Vertical Alignment)モード、特に4分割されたMVAモード、電極配置によってマルチドメイン化された公知のPVA(Patterned Vertical Alignment)モード、電極配置とカイラル能を融合したCPA(Continuous Pinwheel Alignment)モードに効果的に用いることができる。また、OCB(Optical Compensated Bend)モードへの適合においても光学的に二軸性を有するフィルムの提案が開示されており「T.Miyashita,T.Uchida:J.SID,3(1),29(1995)」、偏光板によって表示品質において、本発明の効果を発現することもできる。偏光板を用いることによって本発明の効果が発現できれば、液晶モード、偏光板の配置は限定されるものではない。
【0126】
当該液晶表示装置はカラー化及び動画表示用の装置としても高性能であるため、本発明に係る光学フィルムを用いた液晶表示装置、特に大型の液晶表示装置の表示品質は、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
【0127】
《TN型液晶表示装置》
本発明に係る光学フィルムが特に好適に用いられるTN型液晶表示装置について説明する。
【0128】
当該TN型液晶表示装置としては、特に制限されない。また、さらに光源を有してもよく、光源としては、特に制限されないが、例えば、光のエネルギーが有効に使用できることから、偏光を出射する平面光源であることが好ましい。
【0129】
光学フィルムが特に好適に用いられるTN型液晶表示装置の例を、図3及び図4を使用して説明する。第1の偏光板13及び第2の偏光板15は、それぞれ、偏光膜2,10を2枚の偏光板保護フィルムにより挟む構造を有する(偏光膜2は第1偏光板保護フィルム1及び第2偏光板保護フィルム3により挟み、偏光膜10は第3偏光板保護フィルム9および第4偏光板保護フィルム11により挟む。)。
【0130】
第2偏光板保護フィルム3および第3偏光板保護フィルム9のRo、Rtが15≦Ro≦70、70≦Rt≦200の範囲に存在する。
【0131】
TN方式液晶セル14は、2枚のガラスセル基板4,8により挟まれた空間に液晶層6を有する。液晶層6の平均厚さが液晶セルギャップである。
【0132】
ガラスセル基板4、8には液晶を配向するための配向層5、7が設けられており、配向層にはラビング処理が施されている。そして液晶のツイスト角は対向するラビング処理の方向つまりラビング軸の成す角度と一致し、配向膜5のラビング軸(基準0°とする。)と配向膜7のラビング軸の成す角度が115±22°である。
【0133】
第1の偏光板13の透過軸(偏光膜2の透過軸と等しい。)と液晶配向層5のラビング軸の成す角度が3.5±3°であり、第2の偏光板15の透過軸(偏光膜10の透過軸と等しい。)と液晶配向層7のラビング軸の成す角度が、3.5±3°である。
【0134】
なお、第1の偏光板と第2の偏光板は、クロスニコル(互いの透過軸が90°を成す。)になるように配置される。
【0135】
本発明の光学フィルムは、光学補償機能と偏光板保護機能を有する、第2偏光板保護フィルム3と第3偏光板保護フィルム9として使用することが好ましい。
【0136】
また、図示しないが、第2偏光板保護フィルム3と第3偏光板保護フィルム9には、偏光板保護機能を有するセルロースエステルフィルムを使用し、本発明の光学フィルムは光学補償フィルムとして、図3の第2偏光板保護フィルム3とガラスセル基板4の間と、2偏光板保護フィルム9とガラスセル基板8の間の2箇所(液晶セルの両側)に設置する対応も好ましい対応である。
【実施例】
【0137】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りない限り、実施例中の「部」は「質量部」を表す。
【0138】
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器にイオン交換水152400部、25%水酸化ナトリウム水溶液84320部を入れ、HPLC分析で純度99.8%の9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“ビスクレゾールフルオレン”と略称することがある)34848部、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン9008部(以下“ビスフェノールA”と略称することがある)及びハイドロサルファイト88部を溶解した後、塩化メチレン178400部を加えた後撹拌下15〜25℃でホスゲン18248部を60分かけて吹き込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、p−tert−ブチルフェノール177.8部を塩化メチレン2640部に溶解した溶液及び25%水酸化ナトリウム水溶液10560部を加え、乳化後、トリエチルアミン32部を加えて28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗したのち塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、塩化メチレン相を濃縮、脱水してポリカーボネート濃度が20%の溶液を得た。この溶液から溶媒を除去して得たポリカーボネート(共重合体A)はビスクレゾールフルオレンとビスフェノールAとの構成単位の比がモル比で70:30であった(ポリマー収率97%)。また、このポリマーの極限粘度は0.674、Tgは226℃であった。
【0139】
エタノールを4質量部含む、メチレンクロライドとエタノール混合溶媒75質量部に対して、前記ポリカーボネート25質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。このドープを、乾燥空気を送風して露点を12℃以下に制御した100mステンレスベルト上に流延し、剥離した。その時の残留溶媒濃度は35%だった。剥離性は良好であり帯電も少ないことより目視観察ではフィルム表面に剥離段や剥離筋等は見られなかった。その後、残留溶媒濃度が2%のとき、幅保持をして乾燥させた。その後、残留溶媒濃度が1%以下になるまで乾燥し芳香族ポリカーボネートフィルムを得た。Ro=28nmであり、フィルムの遅相軸は流延方向に対する角度である配向角は0°であった。表面粗さRa=0.4nm、光の散乱を示すヘイズが0.9%であった。膜厚は125μmであった。
【0140】
次に、上記で得たフィルムを、特開平6−222213号公報に開示されている方法に従って、図5に示す周速の異なるローラR及びローラRに挟み込んでフィルムをロール形状に50m作製した。
【0141】
図5において、ローラRは送り出しローラ、R、Rは駆動系を持たないニップローラ兼余熱ローラである。RとRはそれぞれに駆動系を有するローラであり、周速差を任意に制御できるローラである。また、油圧によってR、Rの間の圧力を制御できる構造になっている。Rは駆動系を有する巻取りローラであり、テンションコントローラで巻取り速度を制御している。RからRのローラには内部にヒータを内蔵し、ローラ表面に温度センサーが取り付けられており、温度センサーからの温度をそのヒータにフィードバックし、PID制御によって±1℃の精度で温度コントロールしている。
【0142】
比較の光学補償フィルムの成形条件は、以下の通りである。
【0143】
ローラR、ローラRの周速:2.8m/min、1.9m/min
ローラR、ローラRの表面温度:145℃
ローラR、ローラRに挟まれたフィルムに加わる力:2000kg
ローラR、ローラRのロール径:150mm
ローラR、ローラRの距離:123μm
次に、得られたフィルムをテンターによって横一軸延伸を行い、比較の光学補償フィルムNを得た。延伸条件(ローラ処理後延伸)は、以下の通りである。
【0144】
延伸温度:160℃
延伸倍率:7%
フィルム送り出し速度:3m/min
50mの光学補償フィルムを作製し、30〜39mのフィルム中央部分を1m毎に10シートにカットし、フィルム面からの傾斜角をコブラにて測定した。また、10シートについて、擦り傷をカウントした。
【0145】
〈偏光板の作製〉
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1部、ヨウ化カリウム2部、ホウ酸4部を含む水溶液に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光膜を得た。次に、コニカミノルタタックKC8UXを2mol/リットルの水酸化ナトリウム溶液に60℃で1分間浸漬し、更に水洗、乾燥させ、固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤で、前記偏光膜の両面に貼り合わせて偏光板を製作した。
【0146】
〈液晶表示装置による評価〉
NEC製15インチディスプレイMulti Sync LCD1525Jの予め貼合されていた光学補償フィルム及び偏光板を剥がしたものを使用した。
【0147】
上記シートの光学補償フィルムについて、偏光板と併せて液晶セルの両面に配置した。液晶表示装置を、ELDIM社製EZ−contrast160Dにより視野角を測定した。視野角は、液晶セルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲で表した。前記10シートについて測定した視野角の左右上下の最小値と最大値を表1に示した。また、視野角の目視評価と、顕微鏡と目視評価により輝点欠陥数をカウントして、1m当りの数として表1に示した。
【0148】
続いて特開2008−44339号公報に開示されている延伸装置に準拠した装置を用いて、搬送方向および搬送方向と直交する方向に表1に記載の条件で延伸処理を行い原反フィルムを作製し、図6に示すようにフィルムの上側に5個の駆動ローラ、下側に5個の追随回転ローラを配置し、すなわち、5個のローラ対で、上記で得たフィルムを挟んで、フィルム搬送速度:3m/minで搬送し、フィルム内に歪み変形を与え光学補償フィルムA〜M,O〜Tを作製した。駆動モータのトルク負荷が500N・mとなる様に追随回転ローラの回転負荷を調整した。このようにして、50mの光学補償フィルムを作製し、30〜39mのフィルム中央部分を1m毎に10シートにカットし、フィルム面からの傾斜角とRt値を、自動複屈折計:KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下24時間放置したフィルム試料において測定した。
【0149】
また、10シートを前記液晶表示装置に組み込み視野角評価を行い、顕微鏡と目視評価により輝点欠陥と擦り傷の個数をカウントした。
【0150】
なお、生産安定性については、100m以上の連続生産が可能であるか否かを判断基準として、下記のように評価した。
【0151】
○:100m以上連続生産が可能
×:100m未満で故障発生
以上の、評価結果を表1及び表2に示す。
【0152】
【表1】

【0153】
【表2】

【0154】
表1及び表2に示した結果から明らかなように、本発明に係る実施例は、比較例に対して、擦り傷及び輝点欠陥の個数が少なく、傾斜角のバラツキが極めて小さく、また表示装置にした際にムラが少なく良好であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】フィルムに対する駆動ローラと追随回転ローラの作用効果を示す概念図
【図2】本発明に係る駆動ローラと追随回転ローラの配置例を示す概念図
【図3】TN型液晶表示において、本発明に係る光学フィルムを光学補償フィルム兼偏光板保護フィルムとして用いる場合の構成例の概念図
【図4】偏光板の液晶のツイスト角、ラビング軸および透過軸との関係を示す概念図
【図5】異周速ローラを有する装置における当該ローラの配置を示す概念図
【図6】本発明の実施例における駆動ローラと追随回転ローラの配置を示す概念図
【符号の説明】
【0156】
1R 駆動ローラ
2R 追随回転ローラ
B ベルト
F 樹脂フィルム
1 第1偏光板保護フィルム
2 第1偏光膜(透過軸を有する3.5±3°)
3 第2偏光板保護フィルム
4 視認側ガラスセル基板
5 視認側液晶配向層(ラビング軸基準0°を有する。)
6 液晶層(d:液晶セルギャップ)
7 バックライト側液晶配向層(ラビング軸115±22°を有する。)
8 バックライト側ガラスセル基板
9 第3偏光板保護フィルム
10 第2偏光膜(透過軸93.5±3°を有する。)
11 第4偏光板保護フィルム
13 第1の偏光板
14 TN型液晶セル
15 第2の偏光板
16 第1の偏光板の透過軸(3.5±3°)
17 視認側液晶配向層のラビング軸(基準0°)
18 バックライト側液晶配向層のラビング軸(115±22°)
19 第2の偏光板の透過軸(93.5±3°)
、R、R、R、R ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件1を満たす工程1及び下記条件2を満たす工程2を有する、樹脂フィルムを連続的に搬送して光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法であって、前記工程1において当該樹脂フィルムの厚さ方向の屈折率と進行方向に直交する方向の屈折率との間に差を発生させ、前記工程2において当該樹脂フィルムの屈折率が最小の方向が、当該樹脂フィルム面の法線方向から傾斜した方向となるように調整することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
条件1:前記工程1が、前記樹脂フィルムを搬送方向と直交する方向にx倍に延伸し、搬送方向にy倍延伸する工程であり、下記条件式1を満たす。
(条件式1) 1.00<x<2.50, 0.40<y<1.00
条件2:前記工程2が、前記樹脂フィルムの片面に駆動ローラを接触させ、当該樹脂フィルムの反対面に回転負荷を有する追随回転ローラを接触させる工程であり、ローラ間距離aと当該樹脂フィルム膜厚dとが、下記条件式2を満たす。
(条件式2) 0.40×d<a<0.98×d
【請求項2】
前記樹脂フィルムが、駆動ローラAと追随回転ローラBの2種のローラを用いる前記工程2で、ローラAの周速をA1(m/min)、樹脂フィルムがローラから離れた後の速度をP1(m/min)とした場合に、下記条件式3を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
(条件式3) 0.30<P1/A1<1.00
【請求項3】
前記駆動ローラと追随回転ローラが、前記樹脂フィルムを挟むニップローラ対を構成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂フィルムと前記2種のローラが接触する箇所(以下「接触部」ともいう。)及びその接触部の前後において、当該樹脂フィルムを加熱または冷却することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記駆動ローラまたは追随回転ローラが、複数設けられており、フィルム搬送経路の複数個所で前記接触を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
樹脂フィルムの片面に接触する駆動ローラと当該樹脂フィルムの反対面に接触し回転負荷を有する追随回転ローラとを備え、これら2種のローラが当該樹脂フィルを搬送する手段となりかつ当該樹脂フィルム内に歪み変形を与える手段となることを特徴とする光学フィルムの製造装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法の実施に用いられることを特徴とする請求項6に記載の光学フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−61091(P2010−61091A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313067(P2008−313067)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】