説明

光学フィルムの製造方法

【課題】液晶表示装置の黒表示における光漏れを良好に防止するのに寄与する光学フィルムを、低コストで均一な光学特性を有するように製造可能な製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、長尺のプラスチックフィルムFをラビング処理する工程と、ラビング処理されたフィルムの表面に液晶性分子を塗工し固定して、nx>ny=nzの第1の光学補償層13を形成する工程と、この上に、nx>ny>nzで1.2≦Nz≦2を満足する第2の光学補償層14を積層する工程とを含む。ラビング処理工程では、金属表面の搬送ベルト3によってフィルムを搬送すると共に、搬送ベルトの下面を支持するバックアップロール機構5を配設する。この機構は、搬送ベルトの搬送方向に沿ってそれぞれ回転する複数のバックアップロール51を備え、各バックアップロールは、ラビングロール4の直下であって、ラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関し、特に、液晶表示装置の黒表示における光漏れを良好に防止するのに寄与する光学フィルムを、低コストで均一な光学特性を有するように製造可能な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、バーティカル・アライメント(VA)モードの液晶セルを具備する液晶表示装置として、透過型液晶表示装置及び反射型液晶表示装置に加え、半透過反射型液晶表示装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このような半透過反射型液晶表示装置の具体例としては、例えばアルミニウム等の金属膜に光透過用の窓部を形成した反射膜を液晶セルの下基板の内側に備え、この反射膜を半透過反射板として機能させる液晶表示装置が挙げられる。このような液晶表示装置においては、反射モードの場合、液晶セルの上基板側から入射した外光が、液晶層を通過した後に下基板内側の反射膜で反射され、再び液晶層を透過して上基板側から出射されて表示に寄与する。一方、透過モードの場合、下基板側から入射したバックライトからの光が、反射膜の窓部を通って液晶層を通過した後、上基板側から出射されて表示に寄与する。従って、反射膜形成領域の内、窓部が形成された領域が透過表示領域となり、その他の領域が反射表示領域となる。
【0004】
しかしながら、従来のVAモードの液晶セルを具備する反射型又は半透過反射型の液晶表示装置においては、黒表示における光漏れが生じ、コントラスが低下するという問題がある(第1の課題)。
【0005】
一方、従来より、基材の表面上に液晶材料を塗布して配向させることにより製造される種々の光学素子が知られている。このような光学素子の製造工程においては、液晶材料を基材表面上で配向させるために、例えば起毛布によって基材表面を一方向に擦るラビング処理を施すのが一般的である。例えば、光学素子が液晶セルである場合には、基材としてのガラス基板単位でラビング処理が施されることになる。しかしながら、基材としてプラスチックフィルムを用いる光学素子(光学フィルム)の場合には、裁断したフィルム単位でラビング処理を施すよりも、長尺のプラスチックフィルムを用いていわゆるロール・ツー・ロール方式で連続的にラビング処理を施す方が、製造効率ひいてはコスト面で圧倒的に有利である。
【0006】
従って、従来より、光学フィルムを製造するに際し、上記のようなロール・ツー・ロール方式によって長尺フィルムに連続的にラビング処理を施す種々の方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献3には、鏡面仕上げをされた金属表面を有する搬送ベルトにて長尺フィルムを搬送しながら、搬送ベルト上に配置されたラビングロールで前記フィルム表面にラビング処理を施すことを特徴とするラビング方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献4には、長尺フィルムをラビングロールと該ラビングロールに対向して配置されたバックアップロールとの間に連続的に搬送させながら、前記ラビングロールで前記フィルム表面にラビング処理を施すことを特徴とするラビング方法が提案されている。
【0009】
光学フィルムを製造するに際し、ラビング処理を施す基材としては、一般的に、直鎖状の構造を有する材料、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどが用いられている。また、ラビング処理を施した基材(フィルム)の表面に塗布する液晶材料としては、1つ又はそれ以上の官能基を有する液晶性分子が用いられている。そして、液晶性分子を適宜の有機溶媒などを用いて溶液化し、ラビング処理を施したフィルムの表面に塗布した後、乾燥・配向させ、適宜の紫外線などを露光して架橋させて固定することにより光学フィルムを製造している。
【0010】
しかしながら、例えば、長尺のTACフィルム等を基材として用い、ロール・ツー・ロール方式によって連続的にラビング処理を施す場合、ラビング処理を施す前のロールに巻回した状態の基材にブロッキング(基材同士が光学的に界面を有さずに密着する現象)が生じる場合がある。
【0011】
上記のような基材においては、ブロッキングが生じた部分の表面状態が変化するため、当該基材にラビング処理を施しても、ブロッキングが生じた部分とそれ以外の部分とでは配向特性が変化し、液晶性分子にドメインが発生することによって均一な配向状態が得られない場合があるという問題がある。例えば、製造する光学フィルムが、液晶表示装置に用いる位相差フィルムである場合、画面内での均一性が重要であるため、上記のような不均一な配向状態の位相差フィルムでは殆ど商品価値が得られないことになる(第2の課題)。
【0012】
ブロッキングが生じた基材についても均一な配向特性を得るためには、例えば、特許文献3に記載の方法においてラビングロールの押し込み量を大きくすることが考えられる。しかしながら、特許文献3に記載の方法では、搬送ベルトの下面を支持するバックアップロールが無いため、押し込み量を大きくし過ぎると、搬送ベルトの弛み、ひいてはフィルムの弛みの影響等により安定した状態でラビング処理が施せないという問題がある。
【0013】
また、特許文献4に記載の方法においてラビングロールの押し込み量を大きくすることによっても、ブロッキングが生じた基材について均一な配向特性が得られる可能性があると考えられる。しかしながら、特許文献4に記載の方法では、フィルムの搬送方向に沿って回転する1本のバックアップロールしか配置していないため、特にラビングロールの回転軸をフィルムの搬送方向に対して直角方向から傾斜させた際に、フィルムの弛みの影響等により安定した状態でラビング処理が施せないという問題がある。
【0014】
上記のような問題を解決するには、フィルムを支持する搬送ベルトの下面を、互いに略平行に配設され、搬送ベルトの搬送方向に沿って回転する複数の棒状のバックアップロールで支持することも考えられる。しかしながら、特にラビングロールの回転軸をフィルムの搬送方向に対して直角方向から傾斜させた際には、搬送ベルトの弛み、ひいてはフィルムの弛みの影響を十分に回避できないという問題が残る。
【特許文献1】特開平11−242226号公報
【特許文献2】特開2001−209065号公報
【特許文献3】特開2004−170454号公報
【特許文献4】特開平6−110059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、斯かる従来技術における第1及び第2の課題を解決するべくなされたものであり、液晶表示装置の黒表示における光漏れを良好に防止するのに寄与する光学フィルムを、低コストで均一な光学特性を有するように製造可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するべく、本発明の発明者らは鋭意検討した結果、第1の課題については、
(1)液晶セルの少なくとも片側に配置する光学フィルムとして、nx>ny=nzの屈折率特性を有する第1の光学補償層と、nx>ny>nzの屈折率特性を有すると共に、Nz係数が1.2≦Nz≦2を満足する第2の光学補償層とを積層したフィルムを用いる。そして、前記光学フィルムの第1の光学補償層側に偏光子を配置して、該偏光子の吸収軸と、第1の光学補償層及び第2の光学補償層の各遅相軸との成す角度を所定の範囲に設定することにより、特にVAモードの液晶セルを具備する反射型又は半透過反射型の液晶表示装置において、黒表示の光漏れを顕著に改善できることを見出した。
【0017】
また、第2の課題については、
(2)ラビング処理を施す際に長尺のプラスチックフィルムを支持して搬送する搬送ベルトの下面に、ラビングロールの直下であってラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って複数のバックアップロールを配設することにより、ラビングロールの回転軸をフィルムの搬送方向に対して直角方向から傾斜させ、ラビングロールの押し込み量を大きくしたとしても、搬送ベルトの平坦度が向上して弛みが生じ難いこと、
(3)各バックアップロールが搬送ベルトの搬送方向に沿って回転するように構成することにより、各バックアップロールの回転が搬送ベルトの搬送方向への移動ひいてはプラスチックフィルムの搬送を阻害しないこと、
(4)上記(2)及び(3)により、安定した状態でラビング処理を施すことが可能となり、プラスチックフィルムに均一な配向特性を付与することができ、ひいては均一な光学特性を有する光学フィルムを製造可能であること、
を見出した。
本発明の発明者らは、上記の新しい知見(1)〜(4)に基づき、本発明を完成させたものである。
【0018】
すなわち、本発明は、長尺のプラスチックフィルムの表面をプラスチックフィルムの搬送方向に対して直角方向から回転軸を傾斜させたラビングロールによって擦るラビング処理工程と、前記ラビング処理工程を経たプラスチックフィルムの表面に液晶性分子を塗工し、該塗工した液晶性分子を固定して、前記プラスチックフイルム上にnx>ny=nzの屈折率特性を有する第1の光学補償層を形成する第1の光学補償層形成工程と、前記第1の光学補償層上に、nx>ny>nzの屈折率特性を有すると共に、Nz係数が1.2≦Nz≦2を満足する、塗工によって形成された第2の光学補償層を積層する第2の光学補償層形成工程とを含み、前記ラビング処理工程において、金属表面を有する搬送ベルトによって前記長尺のプラスチックフィルムを支持して搬送すると共に、前記プラスチックフィルムを支持する搬送ベルトの下面を支持するバックアップロール機構を配設し、前記バックアップロール機構は、前記搬送ベルトの搬送方向に沿ってそれぞれ回転する複数のバックアップロールを備え、前記複数の各バックアップロールは、前記ラビングロールの直下であって、前記ラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って配設されていることを特徴とする光学フィルムの製造方法を提供するものである。
【0019】
本発明によれば、nx>ny=nzの屈折率特性を有する第1の光学補償層と、nx>ny>nzの屈折率特性を有すると共に、Nz係数が1.2≦Nz≦2を満足する第2の光学補償層とを積層した光学フィルムが得られるため、これを液晶セルに配置することにより、液晶表示装置の黒表示における光漏れを良好に防止することが可能である。また、第1の光学補償層が液晶性分子で形成され、第2の光学補償層が塗工によって形成されるため、光学フィルムの厚みを格段に薄くすることができ、これを適用する液晶表示装置等の画像表示装置の薄型化に大きく貢献することができる。
【0020】
なお、本発明において、「nx」は、各層の面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率を、「ny」は、各層の面内で遅相軸に垂直な方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率を、「nz」は、各層の厚み方向の屈折率を意味する。また、「ny=nz」とは、nyとnzとが厳密に等しい場合のみならず、nyとnzとが実質的に等しい場合も包含する意味である。実質的に等しいとは、光学フィルムの全体的な光学特性に実用上の影響を与えない範囲でnyとnzとが異なる場合も包含する趣旨である。さらに、「Nz係数」は、23℃における波長590nmの光で測定した屈折率nx、ny、nzを用いて、Nz=(nx−nz)/(nx−ny)によって求められる。
【0021】
また、本発明によれば、ロール・ツー・ロール方式によって長尺のプラスチックフィルムに連続的にラビング処理を施すことが可能であるため、低コストで光学フィルムを製造することが可能である。また、本発明によれば、プラスチックフィルムを支持する搬送ベルトの下面を支持するバックアップロール機構が、ラビングロールの直下であって、ラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って配設された複数のバックアップロールを備えるため、ラビングロールの回転軸が搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜していても、各バックアップロールは、プラスチックフィルム及び搬送ベルトを介して、傾斜したラビングロールの直下に配設されることになる。さらに、本発明によれば、各バックアップロールが、搬送ベルトの搬送方向(プラスチックフィルムの搬送方向)に沿ってそれぞれ回転するため、各バックアップロールの回転が搬送ベルトの搬送方向への移動ひいてはプラスチックフィルムの搬送を阻害することもない。従って、たとえラビングロールの回転軸が搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜した状態でラビングロールの押し込み量を大きくしたとしても、搬送ベルトの平坦度が向上して弛みが生じ難く且つ搬送ベルトの移動が阻害されることもなく、安定した状態でラビング処理を施すことが可能である。この結果、プラスチックフィルムに均一な配向特性を付与することができ、ひいては均一な光学特性を有する光学フィルムを製造することが可能である。
【0022】
好ましくは、前記第1の光学補償層は1/2波長板として機能し、前記第2の光学補償層は1/4波長板として機能する。
【0023】
なお、本発明において、「1/2波長板」とは、光の波長(通常、可視光領域)に対して、面内の位相差値(=(nx−ny)×d(d:層の厚み(nm)))が約1/2であるものを意味し、ある特定の振動方向を有する直線偏光を該直線偏光の振動方向と直交する振動方向を有する直線偏光に変換したり、右円偏光を左円偏光に(又は、左円偏光を右円偏光に)変換する機能を有する。また、本発明において、「1/4波長板」とは、光の波長(通常、可視光領域)に対して、面内の位相差値が約1/4であるものを意味し、ある特定の波長の直線偏光を円偏光に(又は、円偏光を直線偏光に)変換する機能を有する。
【0024】
前記光学フィルムは、バーティカル・アライメント(VA)モードの液晶セルを具備する液晶表示装置に好適に用いられる。
【0025】
好ましくは、前記第2の光学補償層は、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーから形成される。
【0026】
好ましくは、前記バックアップロール機構は、前記ラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って配設された台座部と、前記搬送ベルト表面の法線周りに回転可能に前記台座部上に軸支された複数の支持部とを更に備え、前記複数の各バックアップロールは、前記複数の各支持部に前記搬送ベルトの搬送方向に沿って回転可能に軸支される。
【0027】
斯かる好ましい構成によれば、ラビングロールの回転軸が搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜していても、バックアップロール機構を構成する台座部を同じ様に傾斜させる(すなわち、前記傾斜したラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿うように台座部を傾斜させる)ことにより、搬送ベルトの移動に伴って(搬送ベルト下面から付与される摩擦力によって)支持部に軸支されたバックアップロールが搬送ベルトの搬送方向に沿って回転する向きとなるように、台座部に軸支された支持部が自然に回転することになる。換言すれば、ラビングロールの傾斜角度が固定ではなく、傾斜角度の設定値を変更したとしても、台座部をラビングロールと同様の傾斜角度に変更するだけで、各バックアップロールがラビングロールの直下に配設され且つ搬送ベルトの搬送方向に沿って回転する状態にすることが可能である。
【0028】
さらに好ましくは、前記バックアップロール機構は、前記ラビングロールの回転軸を前記搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜させた場合に、これに伴って前記台座部も傾斜するように前記ラビングロールと前記台座部とを連結する連結機構を更に備える。
【0029】
斯かる好ましい構成によれば、ラビングロールの回転軸を搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜させた場合に、これに伴って台座部も傾斜するようにラビングロールと台座部とを連結する連結機構を備えるため、ラビングロールとバックアップロール機構(台座部)とを個別に傾斜させる構成に比べて、設定が極めて容易であるという利点を有する。
【0030】
なお、前記ラビングロールの回転軸は、プラスチックフィルムの搬送方向に対して直角方向から0°を超え45°以下に傾斜させることが好ましい。
【0031】
ここで、前記複数のバックアップロールについて、隣接する各バックアップロールの回転軸方向の中心間距離を200mmよりも大きく設定する場合には、搬送ベルトの平坦度が低下することにより、配向ムラが生じ外観不良が発生する虞がある。一方、前記中心間距離を60mmよりも小さく設定する場合には、バックアップロールを支持する部材の幅が小さくなり、バックアップロールを安定して保持する強度が低下するため、搬送ベルトの平坦度が低下する。従って、上記のような問題を確実に回避するには、隣接する各バックアップロールの回転軸方向の中心間距離は、60mm以上200mm以下に設定することが好ましく、70mm以上150mm以下に設定することがより好ましい。
【0032】
また、前記複数の各バックアップロールの回転軸方向の幅を20mmよりも小さく設定する場合には、摩擦熱により搬送ベルトを傷つける可能性が生じる。一方、前記幅を150mmよりも大きく設定する場合には、ラビングロールの回転軸をプラスチックフィルムの搬送方向に対して直角方向から傾斜させたときに、バックアップロールをラビングロールの直下に配置することが困難になり、搬送ベルトの平坦度が低下する結果、配向ムラが生じ外観不良が発生する虞がある。従って、上記のような問題を確実に回避するには、複数の各バックアップロールの回転軸方向の幅は、20mm以上150mm以下に設定することが好ましく、25mm以上70mm以下に設定することがより好ましい。
【0033】
本発明に係る製造方法は、前記プラスチックフィルムがトリアセチルセルロースフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムである場合に特に有効である。
【0034】
前記ラビングロールには、起毛布が巻回されていることが好ましく、この起毛布としては、例えば、レーヨン、コットン、ナイロン、トリアセテート及びこれらの混合物の何れかを用いることが好ましい。
【0035】
さらに、前記搬送ベルトの厚みとしては、容易に弛まないようにする一方で可撓性を付与するべく、好ましくは0.5mm〜2.0mm(より好ましくは0.7〜1.5mm)とされる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る光学フィルムの製造方法によれば、nx>ny=nzの屈折率特性を有する第1の光学補償層と、nx>ny>nzの屈折率特性を有すると共に、Nz係数が1.2≦Nz≦2を満足する第2の光学補償層とを積層した光学フィルムが得られるため、これを液晶セルに配置することにより、液晶表示装置の黒表示における光漏れを良好に防止することが可能である。また、ラビングロールの回転軸をフィルムの搬送方向に対して直角方向から傾斜させた場合であっても、低コストで均一な光学特性を有する光学フィルムを製造することが可能である。具体的には、表面に異物の付着が生じ難く、良好な光学フィルムの外観を維持することが可能である。これは、ラビングロールの直下に複数のバックアップロールをその回転軸方向の中心間距離を所定の値にして配置することにより、搬送ベルトの平坦度が向上するためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0038】
I.光学素子の構成
まず最初に、本発明に係る製造方法によって製造される光学フィルムを具備する光学素子の構成例について説明する。
【0039】
<光学素子の全体構成>
図1は、本発明に係る製造方法によって製造される光学フィルムを具備する光学素子の概略構成を示す断面図である。図2は、図1に示す光学素子を構成する各層の吸収軸と遅相軸との関係を説明する分解斜視図である。図1に示すように、本実施形態に係る光学素子10は、偏光子11と光学フィルム200とを備える。光学フィルム200は、基材12と、基材12上に形成された第1の光学補償層13と、第1の光学補償層13上に形成された第2の光学補償層14とを備える。偏光子11は、光学フィルム200の基材12側に配置される。
【0040】
第1の光学補償層13と基材12との間を除き、光学素子10を構成する各層は、任意の適切な粘着剤層又は接着剤層(図示せず)を介して積層される。実用的には、偏光子11の光学補償層13、14が積層されない側の面に、任意の適切な保護層(透明保護フィルム)15が積層される。
【0041】
第1の光学補償層13は、nx>ny=nzの屈折率特性を有する。第2の光学補償層14は、nx>ny>nzの屈折率特性を有すると共に、Nz係数が1.2≦Nz≦2を満足する。
【0042】
本実施形態においては、図2に示すように、第1の光学補償層13は、その遅相軸Bが偏光子11の吸収軸Aに対して所定の角度αを成すように積層されている。角度αは、+17°≦α≦+27°又は−27°≦α≦−17°とされ、好ましくは+19°≦α≦+25°又は−25°≦α≦−19°、より好ましくは+21°≦α≦+24°又は−24°≦α≦−21°、最も好ましくは+22°≦α≦+23°又は−23°≦α≦−22°とされる。第2の光学補償層14は、その遅相軸Cが偏光子11の吸収軸Aに対して所定の角度βを成すように積層されている。角度βは、+85°≦β≦+95°とされ、好ましくは+87°≦β≦+93°、より好ましくは+88°≦β≦+92°、最も好ましくは+89°≦β≦+91°とされる。なお、α、βの正負は、吸収軸Aに対して反時計回りの方向を正、時計回りの方向を負としている。上記のような特定の位置関係で特定の2つの光学補償層を積層することにより、VAモードの液晶セルを具備する液晶表示装置(特に、反射型または半透過反射型の液晶表示装置)の黒表示における光漏れを顕著に防止することができる。
【0043】
光学素子10の全体厚みは、好ましくは40〜150μm、より好ましくは40〜130μm、最も好ましくは40〜120μmとされる。本実施形態に係る光学素子10によれば、2つの光学補償層13、14のみで液晶表示装置における光漏れを良好に防止できる。さらに、後述のように第1の光学補償層13が液晶性分子で形成されているため、第1の光学補償層13を1/2波長板として機能させるための厚みを従来に比べて格段に薄くすることができる。また、第2の光学補償層14がポリマー材料を塗工することによって形成されているため、第2の光学補償層14を1/4波長板として機能させるための厚みを従来に比べて格段に薄くすることができる。その結果、本実施形態に係る光学素子10は、従来の同等の光学素子に比べて、全体厚みを格段に薄くすることができ、これを適用する液晶表示装置等の画像表示装置の薄型化に大きく貢献することができる。
【0044】
<第1の光学補償層の構成>
前述のように、第1の光学補償層13は、nx>ny=nzの屈折率特性を有する。好ましくは、第1の光学補償層13は、1/2波長板として機能する。第1の光学補償層13が1/2波長板として機能することにより、1/4波長板として機能する第2の光学補償層14の波長分散特性(特に、面内の位相差値がλ/4(λ:光の波長)を外れる波長の範囲)が適切に補正される。第1の光学補償層13の面内の位相差値Re[590]は、好ましくは200〜300nm、より好ましくは220〜280nm、最も好ましくは230〜270nmとされる。なお、Re[590]は、23℃における波長590nmの光で測定した光学補償層の面内の位相差値(=(nx−ny)×d(d:光学補償層の厚み(nm)))を意味する。
【0045】
第1の光学補償層13の厚みは、1/2波長板として最も適切に機能し得るように設定することができる。換言すれば、第1の光学補償層13の厚みは、所望の面内位相差値が得られるように設定すればよい。具体的には、第1の光学補償層13の厚みは、好ましくは0.5〜5μm、より好ましくは1〜4μm、最も好ましくは1.5〜3μmとされる。
【0046】
第1の光学補償層13を形成する材料としては、液晶性分子が用いられる。液晶相がネマチック相である液晶性分子であることが好ましい。液晶性分子を用いることにより、第1の光学補償層13のnxとnyとの差を非液晶性材料に比べて格段に大きくすることができる。その結果、所望の面内位相差値を得るための第1の光学補償層13の厚みを格段に小さくすることができる。このような液晶性分子としては、液晶ポリマー、液晶プレポリマー、液晶モノマーなどが適宜用いられる。これらを組み合わせて用いてもよい。液晶性分子の液晶性の発現機構は、リオトロピック及びサーモトロピックの何れでもよい。また、液晶の配向状態は、ホモジニアス配向であることが好ましい。
【0047】
第1の光学補償層13を形成する液晶性分子が液晶モノマーである場合、例えば、重合性モノマー又は架橋性モノマーであることが好ましい。これは、重合性モノマー又は架橋性モノマーを重合又は架橋させることによって、液晶性分子の配向状態を固定できるためである。液晶モノマーを配向させた後に、液晶モノマー(重合性モノマー又は架橋性モノマー)同士を重合又は架橋させれば、上記配向状態を固定できる。ここで、重合によりポリマーが形成され、架橋により3次元網目構造が形成されることとなるが、これらは非液晶性である。従って、形成された第1の光学補償層13は、液晶化合物に特有の、温度変化による液晶相、ガラス相、結晶相への転移が生じることはない。この結果、第1の光学補償層13は、温度変化に影響されない極めて安定性に優れる光学補償層となる。なお、重合性モノマー及び架橋性モノマーは、組み合わせて用いてもよい。
【0048】
前記液晶モノマーとしては、例えば、以下の化学式(1)〜(16)の何れかで表されるモノマーを選択することが可能である。
【化1】


【0049】
<第2の光学補償層の構成>
前述のように、第2の光学補償層14は、nx>ny>nzの屈折率特性を有する。すなわち、第2の光学補償層14は、二軸性の光学補償層である。好ましくは、第2の光学補償層14は、1/4波長板として機能する。全ての波長において十分な視覚補償を達成させるには、第2の光学補償層14の波長分散は、適用する液晶セル中の液晶の波長分散と同様の波長分散を示すことが好ましい。1/4波長板として機能する第2の光学補償層14の波長分散特性を、1/2波長板として機能する第1の光学補償層13の光学特性によつて補正することにより、広い波長範囲での円偏光機能を発揮することができる。第2の光学補償層14の面内位相差値Re[590]は、好ましくは90〜160nm、より好ましくは100〜150nm、最も好ましくは110〜140nmとされる。また、第2の光学補償層の厚み方向の位相差値Rth[590]は、好ましくは80〜150nm、より好ましくは90〜140nm、最も好ましくは100〜130nmとされる。なお、Rth[590]は、23℃における波長590nmの光で測定した光学補償層の厚み方向の位相差値(=(nx−nz)×d(d:光学補償層の厚み(nm)))を意味する。
【0050】
また、第2の光学補償層14のNz係数は、1.2≦Nz≦2を満足する。好ましくは1.3≦Nz≦1.8であり、より好ましくは1.4≦Nz≦1.7とされる。第2の光学補償層14のNz係数を上記のような範囲に調整することにより、第2の光学補償層14を1/4波長板として機能させながら、VAモードの液晶セルに対する光学補償と軸補償の機能をも発揮させることが可能となり、液晶表示装置のコントラストを向上させることができる。
【0051】
第2の光学補償層14の厚みは、1/4波長板として最も適切に機能し得るように設定することができる。換言すれば、第2の光学補償層14の厚みは、所望の面内位相差値が得られるように設定すればよい。具体的には、第2の光学補償層14の厚みは、好ましくは1〜10μm、より好ましくは1.2〜6μm、最も好ましくは1.4〜3μmとされる。この厚みは、従来の二軸性の1/4波長板で実現できる厚みに比べて格段に薄い。これは、後述するように、基材に塗工したポリマー材料を特定の加熱及び延伸処理に供して第2の光学補償層14を形成することにより実現可能である。
【0052】
第2の光学補償層14を形成する材料としては、上記のような光学特性が得られる限りにおいて、任意の適切な材料を用いることができる。例えば、このような材料としては、非液晶性材料を挙げることができ、好ましくは、非液晶性ポリマーとされる。非液晶性材料は、液晶性材料とは異なり、基材の配向性に関係なく、それ自体の性質によって、nx=ny>nzという光学的一軸性を示す膜を形成することができる。この結果、配向基材のみならず未配向基材を使用することも可能である。また、未配向基材を用いる場合、その表面に配向膜を塗工する工程や、配向膜を積層する工程等を省略することができる。
【0053】
上記の非液晶性ポリマーとしては、例えば、耐熱性、耐薬品性、透明性に優れ、剛性にも富むことから、特開2004−46065号の段落0018〜0072に記載のような、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等のポリマーが好ましい。これらのポリマーは、何れか一種類を単独で使用してもよいし、例えば、ポリアリールエーテルケトンとポリアミドとの混合物のように、異なる官能基を持つ2種以上の混合物として使用してもよい。このようなポリマーの中でも、高透明性、高配向性、高延伸性であることから、ポリイミドを用いることが特に好ましい。ポリイミドは耐熱性が高く、熱膨張が小さいので、ポリイミドから形成される第2の光学補償層14は、発生する熱ムラが小さいという利点がある。また、ポリイミドは、短波長になるほど位相差値が大きくなる、いわゆる正分散特性を有し、VAモードの液晶セルの波長分散に近いので、VAモードの液晶セルの光学補償に優れている。
【0054】
上記ポリマーの分子量は、特に制限されないが、例えば、重量平均分子量(Mw)が1000〜1000000の範囲であることが好ましく、より好ましくは2000〜500000の範囲とされる。
【0055】
<偏光子の構成>
偏光子11としては、目的に応じて、任意の適切な偏光子を用いればよい。例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素などの二色性物質を吸着させて一軸延伸した偏光子は、偏光二色比が高いため、特に好ましい。これら偏光子の厚みは特に制限されないが、一般的に、1〜80μm程度の厚みとされる。
【0056】
ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着させて一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元の長さの3〜7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じて、ホウ酸、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等を含んでいてもよいし、ヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬してもよい。さらに、必要に応じて染色の前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。
【0057】
ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することで、ポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させて染色のムラなどの不均一を防止する効果も得られる。延伸は、ヨウ素で染色した後に行ってもよいし、染色しながら延伸してもよいし、或いは延伸してからヨウ素で染色してもよい。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液中の他、水溶中でも延伸することができる。
【0058】
<基材及び保護層の構成>
基材12としては、その表面をラビング処理するか或いはその表面に形成した配向膜をラビング処理することにより、後述するように表面に塗工した液晶性分子を配向させることのできる機能が付与されると共に、偏光子11の保護層として使用できる限りにおいて、その材質に特に制限はない。また、保護層15としては、偏光子11の保護層として使用できる任意の適切なフィルムを用いることができる。好ましくは、基材12及び保護層15は、透明保護フィルムとされる。
【0059】
このようなフィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、アクリル系、アセテート系などの透明樹脂等が挙げられる。また、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系などの熱硬化型樹脂又は紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムを使用することもできる。このポリマーフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換又は非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換又は非置換のフェニル基及びニトリル基を有する熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテン及びN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。上記のポリマーフィルムは、例えば、前記樹脂組成物を押出成形したものであってもよい。基材12及び保護層15の材質としては、TAC、ポリイミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ガラス質系ポリマーが好ましく、TACがより好ましい。
【0060】
基材12及び保護層15は、透明で、色付きが無いことが好ましい。具体的には、厚み方向の位相差値Rth[550]が、好ましくは−90nm〜+90nm、より好ましくは−80nm〜+80nm、最も好ましくは−70nm〜+70nmとされる。
【0061】
基材12及び保護層15の厚みとしては、上記の好ましい厚み方向の位相差値が得られる限りにおいて、任意の適切な厚みとすることができる。具体的には、基材12及び保護層15の厚みは、好ましくは5mm以下、より好ましくは1mm以下、特に好ましくは1〜500μm、最も好ましくは5〜150μmとされる。
【0062】
基材12及び保護層15は、同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。保護層15には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等が施される。
【0063】
<光学素子のその他の構成要素>
本実施形態に係る光学素子10は、更に他の光学層を備える構成であってもよい。このような他の光学層としては、その目的や適用する液晶表示装置等の画像表示装置の種類に応じて、任意の適切な光学層を採用すればよい。具体例としては、液晶フィルム、光散乱フィルム、回折フィルムの他、前述した第1及び第2の光学補償層13、14とは別の光学補償層(位相差フィルム)等が挙げられる。
【0064】
本実施形態に係る光学素子10は、少なくとも一方の側に、最外層として粘着剤層又は接着剤層を更に備えた構成としてもよい。このように、最外層として粘着剤層又は接着剤層を備えることにより、例えば、他の部材(例えば、液晶セル)との積層が容易になり、光学素子10が他の部材から剥離するのを防止できる。上記の粘着剤層及び接着剤層を形成する材料としては、任意の適切な材料を用いることができる。好ましくは、吸湿性や耐熱性に優れる材料が用いられる。吸湿による発泡や剥離、熱膨張差等による光学特性の低下、液晶セルの反り等を防止できるからである。
【0065】
実用的には、上記の粘着剤層又は接着剤層の表面は、光学素子10が実際に使用されるまでの間、任意の適切なセパレータによって覆われ、汚染が防止される。セパレータは、例えば、任意の適切なフィルムに、必要に応じて、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離剤による剥離コートを設ける方法等によって形成される。
【0066】
光学素子10を構成する各層は、例えば、サリチル酸エステル系化合物、べンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などの紫外線吸収剤による処理等によって、紫外線吸収能を付与したものであってもよい。
【0067】
II.光学素子の製造方法
次に、以上に説明した構成を有する光学素子10の製造方法について説明する。
【0068】
<製造方法の概要>
本実施形態に係る光学素子10の製造方法は、長尺のプラスチックフィルム(最終的に基材12となる)の表面をプラスチックフィルムの搬送方向に対して直角方向から回転軸を傾斜させたラビングロールによって擦るラビング処理工程と、前記ラビング処理工程を経たプラスチックフィルムの表面に液晶性分子を塗工し、該塗工した液晶性分子を固定して、前記プラスチックフイルム上に第1の光学補償層13を形成する第1の光学補償層形成工程と、第1の光学補償層13上に、塗工によって形成された第2の光学補償層14を積層する第2の光学補償層形成工程とを含む。以上の工程を経ることによって、光学フィルム200が製造される。
【0069】
さらに、本実施形態に係る光学素子10の製造方法は、プラスチックフィルム(基材12)のラビング処理を施さない側の面に偏光子11を積層する工程と、偏光子11の光学補償層13、14が積層されない側の面に保護層15を積層する工程とを含む。
【0070】
なお、上記各工程の順序は適宜変更することが可能である。以下、各工程の詳細について、順次詳細に説明する。
【0071】
<プラスチックフィルムのラビング処理工程>
図3は、ラビング処理工程を実施するためのラビング処理装置の概略構成を示す正面図である。図4は、図3に示すバックアップロール機構の概略構成を示す図であり、図4(a)は平面図を、図4(b)はバックアップロール近傍の斜視図を、図4(c)はフィルムの搬送方向から見た図をそれぞれ示す。図3に示すように、本実施形態に係るラビング処理装置100は、駆動ロール1、2と、駆動ロール1、2間に架設され、長尺のプラスチックフィルムFを支持して搬送する無限軌道の搬送ベルト3と、搬送ベルト3の上方において上下方向に昇降可能に配設されたラビングロール4と、プラスチックフィルムF(最終的に基材12となる)を支持する搬送ベルト3の下面を支持するバックアップロール機構5とを備えている。なお、ラビング装置100の前後には、必要に応じて適切な静電気除去装置や除塵装置等を設置しても良い。
【0072】
搬送ベルト3は、プラスチックフィルムFを支持する側の表面が鏡面仕上げされた金属表面(搬送ベルト3全体を金属製としてもよい)とされている。斯かる金属としては、銅や鋼等の各種金属材料を用いることができるが、強度、硬度、耐久性の点よりステンレス鋼を用いることが好ましい。プラスチックフィルムFとの密着性を確保するため、鏡面仕上げの程度としては、表面粗さ(Ra)を0.02μm以下とすることが好ましく、より好ましくは、0.01μm以下とされる。また、プラスチックフィルムFの弛みを防止するには、これを支持する搬送ベルト3の弛みを防止する必要がある。搬送ベルト3の弛みを防止すると共に、駆動ロール1、2間に架設するためにある程度の可撓性を付与する必要があることに鑑みれば、搬送ベルト3の厚みは、0.5mm〜2.0mmとすることが好ましく、より好ましくは0.7mm〜1.5mmとされる。また、搬送ベルト3の弛みを防止すると共に、搬送ベルト3の張力強度を考慮すれば、搬送ベルト3に付与する張力は、0.5〜20kg重/mm2とすることが好ましく、より好ましくは、2〜15kg重/mm2とされる。
【0073】
ラビングロール4は、その外周面に起毛布4aが巻回されている。起毛布の材質や形状等は、ラビング処理を施されるプラスチックフィルムFの材質に応じて適宜選択すればよい。一般的には、起毛布4aとして、レーヨン、コットン、ナイロン、トリアセテート又はこれらの混合物等を適用することができる。本実施形態に係るラビングロール4の回転軸は、プラスチックフィルムFの搬送方向(図3の矢符Aで示す方向)に対して直角方向から傾斜(例えば、傾斜角度が0°を超え45°以下)させることができるように、すなわち、プラスチックフィルムFの長辺に対して任意の軸角度に設定できるように構成されている。また、ラビングロール4の回転方向は、ラビング処理の条件に応じて適宜選択可能である。なお、ラビングロール4(起毛布4aを含む)の外径は、好ましくは130mm以上170mm以下(より好ましくは140mm以上160mm以下)に設定される。
【0074】
ラビングロール4によるプラスチックフィルムFのラビング方向(配向方向)は、プラスチックフィルムFと偏光子11とを積層した場合に、偏光子11の吸収軸A(図2参照)に対して所定の角度θを成すような方向とされる。このプラスチックフィルムFのラビング方向は、プラスチックフィルムFの表面に形成される第1の光学補償層13の遅相軸B(図2参照)の方向と実質的に同一である。従って、プラスチックフィルムFのラビング方向と偏光子11の吸収軸Aとの成す所定の角度θは、遅相軸Bと吸収軸Aとの成す角度αと同様に、+17°≦θ≦+27°又は−27°≦θ≦−17°とされ、好ましくは+19°≦θ≦+25°又は−25°≦θ≦−19°、より好ましくは+21°≦θ≦+24°又は−24°≦θ≦−21°、最も好ましくは+22°≦θ≦+23°又は−23°≦θ≦−22°とされる。
【0075】
なお、偏光子11が、二色性物質を吸着させたポリマーフィルムを一軸延伸したものである場合には、その延伸方向が吸収軸Aの方向と一致する。そして、偏光子11を大量生産する際には、長尺のポリマーフィルムを準備し、その長手方向に連続的に延伸処理を施すのが一般的である。このため、長尺の偏光子と長尺のプラスチックフィルムFとを積層(貼り合わせ)する場合には、両者の長手方向が偏光子の吸収軸Aの方向と実質的に一致する。従って、プラスチックフィルムFのラビング方向と偏光子11の吸収軸Aとの成す角度θは、プラスチックフィルムFのラビング方向とプラスチックフィルムFの長手方向との成す角度と実質的に一致するため、プラスチックフィルムFのラビング方向とプラスチックフィルムFの長手方向とが上記所定の角度θを成すように、ラビングロール4の回転軸の傾斜角度を設定すればよい。
【0076】
図4に示すように、バックアップロール機構5は、搬送ベルト3の搬送方向(図4(a)の矢符Aで示す方向)に沿ってそれぞれ回転する複数のバックアップロール51を備えている。そして、各バックアップロール51は、ラビングロール4の直下であって、ラビングロール4の回転軸と略平行な直線に沿って配設されている。
【0077】
このように、プラスチックフィルムFを支持する搬送ベルト3の下面を支持するバックアップロール機構5が、ラビングロール4の直下であって、ラビングロール4の回転軸と略平行な直線に沿って配設された複数のバックアップロール51を備えるため、ラビングロール4の回転軸が搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜している場合(例えば、図4(a)の直線C1がラビングロール4の回転軸である場合)であっても、各バックアップロール51は、プラスチックフィルムF及び搬送ベルト3を介して、傾斜したラビングロール4の直下に配設されることになる。さらに、各バックアップロール51が、搬送ベルト3の搬送方向(プラスチックフィルムFの搬送方向)に沿ってそれぞれ回転するため、各バックアップロール51の回転が搬送ベルト3の搬送方向への移動ひいてはプラスチックフィルムFの搬送を阻害することもない。従って、たとえラビングロール4の回転軸が搬送ベルト3の搬送方向に対して直角方向から傾斜した状態でラビングロール4の押し込み量を大きくしたとしても、搬送ベルト3の平坦度が向上して弛みが生じ難く且つ搬送ベルト3の移動が阻害されることもなく、安定した状態でラビング処理を施すことが可能である。この結果、プラスチックフィルムFに均一な配向特性を付与することができ、ひいては均一な光学特性を有する光学フィルム200、光学素子10を製造することが可能である。
【0078】
本実施形態に係るバックアップロール機構5は、好ましい構成として、ラビングロール4の回転軸と略平行な直線に沿って配設された台座部52と、搬送ベルト3表面の法線周りに回転可能に台座部52上に軸支された複数の支持部53とを更に備え、各バックアップロール51は、各支持部53に搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転可能に軸支されている。より具体的に説明すれば、本実施形態に係る支持部53は、軸部材54によって台座部53に軸支されており、軸部材54周りに回転可能とされている。また、本実施形態に係るバックアップロール51は、軸部材55によって支持部53に軸支されており、軸部材55周りに回転可能とされている。
【0079】
斯かる好ましい構成によれば、ラビングロール4の回転軸が搬送ベルト3の搬送方向に対して直角方向(図4(a)の直線C0の方向)から傾斜していても、バックアップロール機構5を構成する台座部52を同じ様に傾斜させる(すなわち、前記傾斜したラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿うように台座部52を傾斜させる)ことにより、搬送ベルト3の移動に伴って(搬送ベルト3下面から付与される摩擦力によって)支持部53に軸支されたバックアップロール51が搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転する向きとなるように、台座部52に軸支された支持部53が自然に回転することになる。換言すれば、ラビングロール4の傾斜角度が固定ではなく、傾斜角度の設定値を変更したとしても、台座部52をラビングロール4と同様の傾斜角度に変更するだけで、各バックアップロール51がラビングロール4の直下に配設され且つ搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転する状態にすることが可能である。
【0080】
さらに、図4(c)に示すように、本実施形態に係るバックアップロール機構5は、好ましい構成として、ラビングロール4の回転軸を搬送ベルト3の搬送方向に対して直角方向から傾斜させた場合に、これに伴って台座部52も傾斜するようにラビングロール4と台座部52とを連結する連結機構56を備えている。より具体的に説明すれば、本実施形態に係る連結機構56は、ラビングロール4を回転軸周りに回転可能に且つ上下方向に昇降可能に支持すると共に、台座部52を支持する断面略コの字状の枠体とされており、その頂部に取り付けられたモータMによって、図4(c)の矢符Bの方向に回転可能とされている。モータMによって、連結機構56が図4(c)の矢符Bの方向に回転することにより、連結機構56に支持されたラビングロール4及び台座部52は、同じ方向に同じ角度だけ回転(傾斜)することになる。従って、ラビングロール4と台座部52とを個別に傾斜させる構成に比べて、設定が極めて容易となる。なお、本実施形態では、モータMを用いて自動的に連結機構56を回転させる構成について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、連結機構56を手動で回転させる構成を採用することも可能である。
【0081】
なお、本実施形態では、好ましい構成として、隣接する各バックアップロール51の回転軸方向の中心間距離L1(図4(a)参照)は、60mm以上200mm以下(より好ましくは、70mm以上150mm以下)に設定される。また、各バックアップロール51の回転軸方向の幅L2(図4(a)参照)は、20mm以上150mm以下(より好ましくは25mm以上70mm以下)に設定される。その他、隣接する各バックアップロール51の離間距離L3(図4(a)参照)は、40mm以上60mm以下(より好ましくは45mm以上55mm以下)に、各バックアップロール51の外径は70mm以上110mm以下(より好ましくは80mm以上100mm以下)に、台座部52の長さは1500mm以上2500mm以下(ただし、搬送ベルト3の幅よりも大きい値とされる)に、それぞれ設定される。
【0082】
以上に説明した構成を有するラビング装置100を用いてプラスチックフィルムFにラビング処理を施すに際し、所定のロール(図示せず)に巻回した状態の長尺のプラスチックフィルムFの先端が、複数の搬送ロール(図示せず)を経て搬送ベルト3上に供給される。そして、駆動ロール1、2を回転駆動させることにより、搬送ベルト3が図3の矢符Cで示す方向に移動し、これに伴いプラスチックフィルムFも搬送ベルト3と共に搬送され、ラビングロール4によってラビング処理が施されることになる。
【0083】
なお、本実施形態に係る製造方法の適用対象となるプラスチックフィルムFとしては、基材12の構成として前述したように、その表面をラビング処理するか或いはその表面に形成した配向膜をラビング処理することにより、表面に塗工した液晶性分子を配向させることのできる機能が付与されると共に、偏光子11の保護層として使用できる限りにおいて、その材質に特に制限はない。
【0084】
プラスチックフィルムFの表面に形成する配向膜としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミド等を挙げることができる。また、配向膜の形成方法としては、例えば、スピンコート法、バーコート法、スロット代コート法、ディップコート法などを挙げることができる。
【0085】
なお、装置仕様等の関係上、一般的には、プラスチックフィルムFの搬送速度は1〜50m/min、好ましくは1〜10m/minの範囲で、ラビングロール4の回転数は1〜3000rpm、好ましくは500〜2000rpmの範囲で、ラビングロール4の押し込み量は100〜2000μm、好ましくは100〜1000μmの範囲とされる。なお、上記「ラビングロール4の押し込み量」とは、プラスチックフィルムF表面に対してラビングロール4の位置を変動させた場合において、ラビングロール4に巻回した起毛布の毛先が最初にプラスチックフィルムF表面に接した位置を原点(0点)とし、当該原点からプラスチックフィルムFに向けてラビングロール4を押し込んだ量(位置の変動量)を意味する。
【0086】
<第1の光学補償層形成工程>
以上のようにしてラビング処理を施されたプラスチックフィルムFの表面又は配向膜表面には、液晶性分子が塗工され、当該塗工した液晶性分子を硬化又は固化することによって第1の光学補償層13が形成される。
【0087】
液晶性分子を塗工する際には、一般的に、液晶化合物が溶解された溶液が用いられる。前記溶液に含有される液晶性分子としては、前述のように、液晶ポリマー、液晶プレポリマー、液晶モノマーなどが適宜用いられる。
【0088】
液晶ポリマーを用いる場合、液晶ポリマー溶液をプラスチックフィルムFの表面又は配向膜表面に塗布した後、液晶相を示す温度領域以上になるまで加熱し、乾燥させた後、液晶相を示す状態のままで室温まで急冷することにより、光学異方性を示す液晶状態を固定化することが可能である。
【0089】
液晶プレポリマーや液晶モノマーを用いる場合、これらの溶液をプラスチックフィルムFの表面又は配向膜表面に塗布した後、液晶相を示す温度領域以上になるまで加熱し、乾燥させた後、液晶相を示す状態の温度まで冷却し、紫外線などを露光することにより架橋させて、光学異方性を示す液晶状態を固定化することが可能である。
【0090】
液晶性分子として液晶ポリマーを用いる場合、液晶モノマー溶液には、好ましくは、重合剤や架橋剤が含まれる。これら重合剤及び架橋剤としては、特に制限されないが、例えば、以下のようなものが使用できる。前記重合剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が使用でき、前記架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート架橋剤等が使用できる。これらはいずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0091】
液晶モノマー溶液の塗工液は、例えば、前述した化学式(1)〜(16)の何れかで表される液晶モノマーを、適当な溶媒に溶解・分散することによって調製できる。前記溶媒としては、特に制限されないが、例えば、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピルなどのエステル系溶媒、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリルのようなニトリル系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒、あるいは二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ等が使用できる。これらの中でも好ましくは、トルエン、キシレン、メシチレン、MEK、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸エチルセロソルブである。これらの溶媒は、例えば、一種類でもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0092】
前記塗工液は、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤバーコート法、ディップコート法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレコート法等の従来公知の方法によって流動展開させればよく、この中でも、塗布効率の点からスピンコート、エクストルージョンコートが好ましい。
【0093】
液晶モノマー溶液の塗工液をプラスチックフィルムFの表面又は配向膜表面に塗布した後の加熱処理の温度条件は、例えば、用いる液晶モノマーの種類、具体的には液晶モノマーが液晶性を示す温度に応じて適宜決定できるが、通常40〜120℃の範囲であり、好ましくは50〜100℃の範囲であり、より好ましくは60〜90℃の範囲である。前記温度が40℃以上であれば、通常、十分に液晶モノマーを配向することができ、前記温度が120℃以下であれば、例えば、耐熱性の面においてプラスチックフィルムFの選択肢が広がることになる。
【0094】
前記溶解する液晶化合物としては、塗工可能なものである限り特に制限されないが、例えば、棒状液晶化合物、平板状液晶化合物、或いは、これらの重合物が用いられる。より具体的には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類などの液晶化合物や、これらの重合物が好ましく用いられる。
【0095】
以上のようにして、プラスチックフィルムFの表面又は配向膜表面に、液晶性分子を塗工し、当該塗工した液晶性分子を硬化又は固化することにより、プラスチックフィルムFのラビング方向に沿って液晶性分子が配向するため、形成された第1の光学補償層13の遅相軸B(図2参照)の方向は、プラスチックフィルムFのラビング方向と実質的に同一となる。
【0096】
<偏光子及び保護層の積層工程>
プラスチックフィルムF(基材12)のラビング処理を施さない側の面への偏光子11及び保護層(透明保護フィルム)15の積層は、本実施形態に係る光学素子10の製造方法における任意の適切な時点で実施することができる。例えば、偏光子11及び保護層15の積層は、下記の(1)〜(4)の時点で実施することができる。
(1)ラビング処理工程の前
偏光子11及び保護層15を予めプラスチックフィルムF(ラビング処理を施す前のプラスチックフィルムF)に積層しておく。そして、保護層15/偏光子11/プラスチックフィルムFからなる積層体のプラスチックフィルムF側の面にラビング処理を施す。
(2)ラビング処理工程と第1の光学補償層形成工程との間
プラスチックフィルムFにラビング処理工程を施した後、プラスチックフィルムFのラビング処理を施していない側の面に保護層15及び偏光子11を積層する。そして、保護層15/偏光子11/プラスチックフィルムFからなる積層体のプラスチックフィルムF側の面に第1の光学補償層13を形成する。
(3)第1の光学補償層形成工程と第2の光学補償層形成工程との間
プラスチックフィルムFにラビング処理工程を施した後、プラスチックフィルムFのラビング処理を施した側の面に第1の光学補償層13を形成する。そして、プラスチックフィルムF/第1の光学補償層13からなる積層体のプラスチックフィルムF側の面に保護層15及び偏光子11を積層する。さらに、保護層15/偏光子11/プラスチックフィルムF/第1の光学補償層13からなる積層体の第1の光学補償層13側の面に第2の光学補償層14を形成する。
(4)第2の光学補償層形成工程の後
プラスチックフィルムF/第1の光学補償層13/第2の光学補償層14からなる積層体を形成した後、この積層体のプラスチックフィルムF側の面に保護層15及び偏光子11を積層する。
【0097】
偏光子11及び保護層15の積層方法としては、任意の適切な積層方法(例えば、接着)を用いることができる。接着は、任意の適切な接着剤又は粘着剤を用いて行われる。接着剤又は粘着剤の種類は、被着体(プラスチックフィルムF、偏光子11、保護層15)の種類に応じて適宜選択すればよい。接着剤の具体例としては、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系等のポリマー製接着剤、イソシアネート系接着剤、ゴム系接着剤等が挙げられる。粘着剤の具体例としては、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、イソシアネート系、ゴム系等の粘着剤が挙げられる。
【0098】
本実施形態に係る製造方法によれば、前述のように、プラスチックフィルムFのラビング処理工程において、ラビングロール4の傾斜角度を調整することにより、第1の光学補償層13の遅相軸Bを設定できるので、偏光子11として、長手方向に延伸された(すなわち、長手方向に吸収軸Aを有する)長尺の偏光フィルムを使用することができる。つまり、ラビング方向(配向方向)が長手方向に対して所定の角度をなすようにラビング処理が施された長尺のプラスチックフィルムFと、長尺の偏光フィルムとを、それぞれの長手方向を揃えて、ロール・ツー・ロール方式で連続的に貼り合わせることができる。従って、極めて優れた製造効率で光学素子10を得ることができる。さらに、本実施形態に係る製造方法によれば、プラスチックフィルムFや偏光子(偏光フィルム)11を長手方向に対して斜め方向に切り出して積層する必要がない。このため、切り出した各フィルムにおいて、配向方向や吸収軸の方向にばらつきが生じ難く、結果的に製品間で品質のばらつきが少ない光学素子10が得られる。さらに、切り出しによる廃棄物も生じないので、低コストで光学素子10を得ることができると共に、大型の光学素子10の製造も容易になる。
【0099】
なお、別の実施形態として、保護層15/偏光子11/保護層15’からなる長尺の積層体の保護層15’の上に、接着剤又は粘着剤を介して第1の光学補償層13をプラスチックフィルムFから転写してもよい。
【0100】
<第2の光学補償層形成工程>
本工程では、前述のようにして形成された第1の光学補償層13上に、塗工によって形成された第2の光学補償層14が積層される。本工程では、まず最初に、第2の光学補償層14を形成する材料(具体的には、前述したような非液晶性材料が挙げられる。以下、適宜「光学補償層形成材料」という)を含有する塗工液を基材シートに塗工する。塗工方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。塗工方法の具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法が挙げられる。
【0101】
前記塗工液中の光学補償層形成材料の濃度は、前述した構成の第2の光学補償層14が得られ、且つ塗工可能である限りにおいて、任意の適切な濃度を採用することができる。例えば、前記塗工液は、溶媒100重量部に対して、光学補償層形成材料を好ましくは5〜50重量部、より好ましくは10〜40重量部含む。このような濃度範囲の塗工液は、塗工容易な粘度を有する。前記塗工液に用いられる溶媒は、光学補償層形成材料の種類に応じて適宜選択すればよい。使用可能な溶媒の具体例としては、前述した第1の光学補償層13を形成する際の塗工液に用いられる溶媒と同様のものが挙げられる。前記塗工液は、必要に応じて、安定剤、可塑剤、金属類等の種々の添加剤を更に含有してもよい。前記塗工液の塗工量は、第2の光学補償層14が1/4波長板として適切に機能し得るような厚み(前述のように、好ましくは1〜10μm、より好ましくは1.2〜6μm、最も好ましくは1.4〜3μm)となるように調整される。
【0102】
また、前記塗工液は、得られる第2の光学補償層14の光学特性が適切である限りにおいて、光学補償層形成材料とは異なる樹脂をさらに含有してもよい。このような樹脂としては、例えば、各種の汎用樹脂、エンジニアリングプラスチック、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。このような樹脂を併用することにより、目的に応じた適切な機械的強度や耐久性を有する第2の光学補償層14を形成することが可能となる。
【0103】
前記塗工液を塗工する基材シートとしては、適切な第2の光学補償層14が得られる限りにおいて、任意の適切な基材シートを用いることができる。代表的には、前記基材シートは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状又はノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー又はこれらの混合物から形成される。特に、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0104】
基材シートには、必要に応じて、延伸処理や再結晶処理等が施される。基材シートの厚みは、好ましくは20〜100μm、より好ましくは30〜90μm、最も好ましくは30〜80μmとされる。このような範囲の厚みを有することにより、極めて薄い第2の光学補償層14を、後述する転写工程において良好に支持する強度が付与され、且つ、すべり性やロール走行性のような操作性も適切に維持される。
【0105】
次に、前記基材シートに形成された光学補償層形成材料の溶液の塗工膜を乾燥させて、ポリマー層を形成する。このポリマー層が、最終的に第2の光学補償層14となる。乾燥方法としては、任意の適切な方法(例えば、自然乾燥、加熱乾燥、風乾)を用いることができる。適切な乾燥温度は、光学補償層形成材料の種類、溶媒の種類、目的とする第2の光学補償層14の光学特性等に応じて異なる。乾燥温度は、好ましくは20〜400℃、より好ましくは60〜300℃、最も好ましくは65〜250℃とされる。乾燥時間は、好ましくは0.5〜200分、より好ましくは1〜120分、最も好ましくは5〜100分とされる。乾燥は、一定温度で行ってもよく、温度を連続的又は段階的に変化させながら行ってもよい。
【0106】
次に、上記のようにして得られたポリマー層を基材シートごと(すなわち、ポリマー層と基材シートとを一体として)加熱及び延伸し、基材シート上に第2の光学補償層14を形成する。延伸方法としては、任意の適切な方法(例えば、固定端延伸、自由端延伸)を採用することができる。延伸倍率は、延伸前の一体とされたポリマー層及び基材シートの長さに対して、好ましくは1.2〜3.0倍、より好ましくは1.3〜2.9倍、最も好ましくは1.3〜2.8倍とされる。このような範囲の延伸倍率であれば、第2の光学補償層14において、前述した所望するNz係数を得ることができる。延伸温度は、好ましくは120〜200℃、より好ましくは130〜190℃、最も好ましくは135〜180℃とされる。このような範囲に延伸温度を設定することにより、極めて大きな延伸倍率で延伸処理を施しても、得られる第2の光学補償層14の光学特性を安定して制御可能である。
【0107】
延伸方向は、第2の光学補償層14に所望される遅相軸C(図2参照)の方向に応じて設定すればよい。ここで、前述のように、第1の光学補償層13の遅相軸B(図2参照)の方向を、偏光子11の吸収軸A(図2参照)に対して+21°≦α≦+24°又は−24°≦α≦−21°の角度αを成すように設定すると、所望する光学特性を得るためには、第2の光学補償層14の遅相軸Cと偏光子11の吸収軸Aとを実質的に直交させればよいことが分かった。遅相軸Cの方向はポリマー層及び基材シートの延伸方向に対応するため、ポリマー層及び基材シートの延伸は、その幅方向(長手方向に直交する方向。偏光子11の吸収軸Aに直交する方向)に行えばよい。つまり、偏光子11として長手方向に延伸された(すなわち、長手方向に吸収軸Aを有する)長尺の偏光フィルムを使用し、この長尺の偏光フィルムと、長尺のポリマー層及び基材シートとを、それぞれの長手方向を揃えて積層する場合には、ポリマー層及び基材シートの延伸を幅方向に行えば、第2の光学補償層14の遅相軸Cと偏光子11の吸収軸Aとが実質的に直交することになる。これにより、第2の光学補償層14の遅相軸Cを偏光子11の吸収軸Aと直交させるために、ポリマー層及び基材シートを長手方向に対して斜め方向に切り出す必要がなく、ロール・ツー・ロール方式で連続的に貼り合わせることができるため、製造効率を高めることが可能である。
【0108】
次に、基材シート上に形成された第2の光学補償層14を第1の光学補償層13の表面に転写する。転写方法は、特に限定されるものではなく、例えば、基材シートに支持された第2の光学補償層14を接着剤を介して第1の光学補償層13と貼り合わせることによって行われる。前記接着剤としては、代表的には、硬化型接着剤を挙げることができる。硬化型接着剤の代表例としては、紫外線硬化型等の光硬化型接着剤、湿気硬化型接着剤、熱硬化型接着剤が挙げられる。熱硬化型接着剤の具体例としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂及びポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂系接着剤が挙げられる。湿気硬化型接着剤の具体例としては、イソシアネート樹脂系の湿気硬化型接着剤が挙げられる。湿気硬化型接着剤は、空気中の水分や被着体表面の吸着水、水酸基やカルボキシル基等の活性水素基等と反応して硬化するので、接着剤を塗工後、放置することによって自然に硬化させることができ、操作性に優れる。さらに、硬化のために加熱する必要がないので、第1及び第2の光学補償層13、14が、貼り合わせ(接着)の際に加熱されない。このため、加熱収縮の虞がなく、第1及び第2の光学補償層13、14が極めて薄い場合であっても、貼り合わせの際に割れ等が生じることを顕著に防止することが可能である。なお、イソシアネート樹脂系接着剤とは、ポリイソシアネート系接着剤、ポリウレタン樹脂接着剤の総称である。
【0109】
最後に、基材シートを第2の光学補償層14から剥離すれば、第1の光学補償層13と第2の光学補償層14との積層が完了し、本実施形態に係る光学素子10が得られる。
【0110】
III.光学素子の用途
次に、光学素子10の用途について説明する。
【0111】
<光学素子の用途>
光学素子10は、各種の画像表示装置(例えば、液晶表示装置、自発光型表示装置)に好適に使用される。適用可能な画像表示装置の具体例としては、液晶表示装置、ELディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)が挙げられる。光学素子10を液晶表示装置に用いる場合には、例えば、黒表示における光漏れ防止や視野角補償に有用である。光学素子10は、VAモードの液晶セルを具備する液晶表示装置に好適に用いられ、反射型又は半透過反射型の液晶表示装置に特に好適に用いられる。また、光学素子10をELディスプレイに用いる場合には、例えば、電極反射防止に有用である。
【0112】
<画像表示装置>
本実施形態に係る光学素子10を適用した画像表示装置として、液晶表示装置を例に挙げて具体的に説明する。ここでは、液晶表示装置が具備する液晶パネルの構成について説明するに留めるが、液晶表示装置が具備するその他の構成については、目的に応じて任意の適切な構成を採用すればよい。
【0113】
前述のように、本実施形態に係る光学素子10は、VAモードの液晶セルを具備する液晶表示装置に好適に用いられ、その中でも特に反射型又は半透過反射型の液晶表示装置に好適に用いられる。図5は、本実施形態に係る光学素子10を適用した液晶パネルの概略構成を示す断面図である。図5に示す液晶パネル300は、反射型の液晶表示装置用の液晶パネルであり、液晶セル20と、液晶セル20の上側に配置された位相差板30と、位相差板30の上側に配置された光学素子10とを備える。
【0114】
液晶セル20は、一対のガラス基板21、21’と、該基板21、21’間に配置された表示媒体としての液晶層22と、下基板21’の液晶層22側の面に設けられた反射電極23と、上基板21に設けられたカラーフィルター(図示せず)と、基板21、21’の間隔(セルギャップ)を制御するスペーサ24とを具備する。
【0115】
位相差板30としては、その目的や液晶セル20の配向モードに応じて、任意の適切な位相差板を採用することができる。ただし、その目的や液晶セル20の配向モードによっては、位相差板30を省略してもよい。また、本実施形態に係る光学素子10のみで良好な光学補償が行われる点からも、位相差板30を省略することが可能である。
【0116】
液晶セル20がVAモードの場合、電圧が印加されていない状態で、液晶層22内の液晶分子は基板21、21’面に垂直に配向する。このような垂直配向は、垂直配向膜(図示せず)を形成した基板21、21’間に、負の誘電率異方性を有するネマティック液晶を配置することによって実現される。液晶分子が垂直に配向した状態で、光学素子10を通過した直線偏光を上基板21から液晶層22に入射させると、入射光は垂直配向している液晶分子の長軸の方向に沿って進む。液晶分子の長軸方向には複屈折が生じないため、入射光はその偏光状態を変えずに進み、反射電極23で反射して、再び液晶層22を通過し、上基板21から出射する。このとき、出射光の偏光状態は入射光の偏光状態と変わらないので、当該出射光は光学素子10を透過し、明状態の表示が得られる。
【0117】
一方、基板21、21’に設けられた電極間に電圧が印加されると、液晶層22内の液晶分子の長軸が基板21、21’面に平行に配向する。この状態の液晶層22に入射した直線偏光に対して液晶分子は複屈折性を示し、入射光の偏光状態は液晶分子の傾きに応じて変化する。所定の最大電圧を電極間に印加した時、反射電極23で反射し、上基板21から出射した光は、例えばその偏光方位が90°回転した直線偏光となるので、光学素子10で吸収され、暗状態の表示が得られる。そして、再び電圧が印加されていない状態にすると、配向規制力によって明状態の表示に戻すことができる。また、印加電圧を変化させて、液晶分子の傾きを制御することにより、光学素子10からの透過光の強度を変化させれば、階調表示が可能となる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例及び比較例を示すことにより、本発明の特徴をより一層明らかにする。
【0119】
<実施例1>
(1)配向基材の作製
ケン化処理を施したトリアセチルセルロースフィルムを基材とし、その基材表面に厚み1.0μmのポリビニルアルコール(PVA)を配向膜として形成したフィルムに対して、図3及び図4に示すラビング処理装置100を用いて、ラビング処理を施した。なお、搬送ベルト3表面の鏡面仕上げはRa=0.01μm、駆動ロール1、2の外径は550mm、フィルムの搬送速度は5m/min、各バックアップロール51の外径は全て90mm、隣接する各バックアップロール51の回転軸方向の中心間距離L1は全て80mm、各バックアップロール51の回転軸方向の幅L2は全て30mmとした。また、ラビングロール4(起毛布4aを含む)の半径は76.89mmとし、レーヨン製の起毛布を巻回したものを用いた。ラビングロール4の回転軸はフィルムの搬送方向に対して直角方向から22.5°傾斜させ、各バックアップロール51は、ラビングロール4の直下であって、上記回転軸と平行な直線に沿って配置した。ラビングロール4の回転数は1500rpm、押し込み量は0.4mmとした。なお、配向膜の厚み測定には、大塚電子製の分光光度計:MCPD2000を用いた。後述する実施例2、比較例1、2についても同様である。
【0120】
(2)第1の光学補償層/配向基材からなる積層体の作製
ネマチック液晶層を示す重合性液晶化合物(BASF社製:商品名「PaliocolorLC242」)10gと、この重合性液晶化合物に対する光重合開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製:商品名「イルガキュア907」)0.5gとを、トルエン40gに溶解して、液晶組成物(塗工液)を調製した。
【0121】
そして、前述のようにして作製した配向基材のラビング処理を施した配向膜表面に、上記の塗工液をバーコーターにより塗工した後、90℃で2分間加熱乾燥することにより、液晶を配向させた。このようにして形成された液晶層に、メタルハライドランプを用いて20mJ/cmの光を照射し、該液晶層を硬化させることによって、nx>ny=nzの屈折率特性を有する正の一軸フィルムである第1の光学補償層を形成した。第1の光学補償層の厚み及び面内の位相差値は、塗工液の塗工量を変化させることにより調整し、厚みは2.2μm、面内位相差値Re[590]は250nmであった。なお、第1の光学補償層の厚み測定には、大塚電子製の分光光度計:MCPD2000を用いた。また、第1の光学補償層の面内位相差値Re[590]は、自動複屈折測定装置(王子計測機器社製:自動複屈折計KOBRA31PR)により、測定温度23℃、測定波長590nmで、屈折率nx、ny、nzを計測し、この計測値から算出した。
【0122】
(3)第1の光学補償層/配向基材/偏光子/保護層からなる積層体の作製
ポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素を含む水溶液中で染色した後、ホウ酸を含む水溶液中で速比の異なるロール間にて6倍に一軸延伸して偏光子を作製した。この偏光子と、保護層としてのTACフィルム(厚み40μm)と、配向基材及び第1の光学補償層からなる積層体とを、接着剤を用いて積層(偏光子の吸収軸方向が長手方向となり、偏光子の吸収軸と第1の光学補償層の遅相軸との成す角度が22.5°又は−22.5°となる)し、第1の光学補償層/配向基材/偏光子/保護層からなる積層体を作製した。
【0123】
(4)第2の光学補償層/基材シートからなる積層体の作製
溶媒としてメチルイソブチルケトンを用いて、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)及び2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル)から合成されたポリイミドを15重量%で調製した溶液を、厚み25μmで、基材シートとしての日本ゼオン社製:商品名「ゼオノア」(延伸前の厚みは100μm)に塗工し、120℃で5分間乾燥処理した。これにより得られたフィルムを、延伸温度140℃で、幅方向に自由端一軸延伸で1.4倍に延伸した。以上のようにして、第2の光学補償層/基材シートからなる積層体を作製した。
【0124】
第2の光学補償層(ポリイミド層)単体の位相差値を王子計測機器社製:KOBRA21−ADHを使用して測定したところ、nx>ny>nzの関係を満足し、面内位相差値Re[590]は130nm、厚み方向位相差値Rth[590]は182nm、Nz係数は1.4であった。
【0125】
(5)光学素子の作製
第1の光学補償層/配向基材/偏光子/保護層からなる積層体と、第2の光学補償層/基材シートからなる積層体とを、ウレタン樹脂系接着剤(厚み5μm)を介して積層(偏光子の吸収軸方向が長手方向となり、偏光子の吸収軸と第2の光学補償層の遅相軸との成す角度が90°となる)し、最後に基材シートを剥離することで、第2の光学補償層/第1の光学補償層/配向基材/偏光子/保護層からなる光学素子を作製した。以上のようにして作製された光学素子の全体厚み(デジタルマイクロメータで測定)は、118μmであり、従来の同等の光学素子に比べて格段に薄くすることができた。
【0126】
<実施例2>
配向基材の作製に用いる基材として、ケン化処理を施したトリアセチルセルロースフィルムを使用し、その基材表面に厚み2.0μmのポリビニルアルコール(PVA)を配向膜として形成したフィルムに対してラビング処理を施したこと以外は、実施例1に準じて光学素子を作製した。作製された光学素子の全体厚み(デジタルマイクロメータで測定)は、119μmであり、従来の同等の光学素子に比べて格段に薄くすることができた。
【0127】
<比較例1>
ラビング処理において、図6に示すラビング処理装置100A(搬送ベルト3の下面を、互いに略平行に配設され、搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転する複数(5本)の棒状のバックアップロール5Aで支持する構成)を用いたこと以外は、実施例1に準じて光学素子を作製した。
【0128】
<比較例2>
ラビング処理において、図6に示すラビング処理装置100Aを用いたこと以外は、実施例2に準じて光学素子を作製した。
【0129】
<評価結果>
(1)搬送ベルトの平坦度評価
実施例及び比較例で用いたラビング処理装置について、搬送ベルト3の平坦度を評価した。具体的には、ラビングロール4の回転軸方向に沿った複数の箇所で、ラビングロール4と搬送ベルト3との間の隙間の寸法を隙間ゲージを用いて順次測定した。そして、ラビングロール4の回転軸方向に沿って測定した隙間の最大値と最小値との差を、搬送ベルト3表面の平坦度として評価した。
【0130】
上記評価の結果、比較例で用いたラビング処理装置100Aでは平坦度が130μmであったのに対し、実施例で用いたラビング処理装置100では平坦度が50μmであり、搬送ベルト3の平坦度が向上することが分かった。
【0131】
(2)輝点個数の評価
互いの吸収軸が直交するように配置した2枚の偏光板の間に、実施例1、2及び比較例1、2において作製した第1の光学補償層/配向基材からなる積層体を挟み、視認側の偏光板の吸収軸と積層体の遅相軸(第1の光学補償層の遅相軸)とが平行になるように積層した状態で目視することにより、視認できた輝点の個数を評価した。なお、輝点個数は、積層体表面の10cm×10cmの領域で計数し、この個数を1m2当たりの個数に比例換算して評価した。また、第1の光学補償層/配向基材からなる積層体について視認できた輝点は、光学素子を作製した後にもほぼ残存することを確認した。
【0132】
(3)コントラストの評価
実施例及び比較例で作製した光学素子を、VAモードの液晶セルを具備する市販の液晶パネルに実装し、コントラストを評価した。具体的には、第1の光学補償層の遅相軸と偏光子の吸収軸との成す角度が+22.5°の光学素子を、粘着剤を介して液晶パネルの上側に貼り合わせた。次に、第1の光学補償層の遅相軸と偏光子の吸収軸との成す角度が−22.5°の光学素子を、粘着剤を介して液晶パネルの下側に貼り合わせた。この際、上側に貼り合わせた光学素子における偏光子の吸収軸と、下側に貼り合わせた光学素子における偏光子の吸収軸との成す角度が90°となるようにした。そして、液晶パネルの黒表示及び白表示における輝度をトプコン製輝度計:BM−5で測定し、白表示の輝度と黒表示の輝度との比をコントラストとして評価した。
【0133】
上記(2)及び(3)の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0134】
表1に示すように、実施例1、2及び比較例1、2に係る光学素子の何れを用いても、黒表示における光漏れが抑制された結果、実用レベルで問題のない550のコントラストが得られた。これは、実施例及び比較例に係る光学素子の何れも、nx>ny=nzの屈折率特性を有する第1の光学補償層と、nx>ny>nzの屈折率特性を有すると共に、Nz係数が1.2≦Nz≦2を満足する第2の光学補償層とが積層され、第1の光学補償層側に配置された偏光子の吸収軸と、第1の光学補償層及び第2の光学補償層の各遅相軸との成す角度が特定の範囲に設定されているためである。ただし、実施例1、2の場合、比較例1、2に比べて、輝点の発生を抑制できることが分かった。これは、前述のように、実施例で用いたラビング処理装置の搬送ベルトの平坦度が比較例に比べて向上しているため、安定した状態で基材にラビング処理を施すことが可能となり、基材に均一な配向特性を付与することができたことが原因であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1は、本発明に係る製造方法によって製造される光学フィルムを具備する光学素子の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示す光学素子を構成する各層の吸収軸と遅相軸との関係を説明する分解斜視図である。
【図3】図3は、本発明に係る光学フィルムの製造方法におけるラビング処理工程を実施するためのラビング処理装置の概略構成を示す正面図である。
【図4】図4は、図3に示すバックアップロール機構の概略構成を示す図であり、図4(a)は平面図を、図4(b)はバックアップロール近傍の斜視図を、図4(c)はフィルムの搬送方向から見た図をそれぞれ示す。
【図5】図5は、図1に示す光学素子を適用した液晶パネルの概略構成を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明の比較例に係るラビング処理装置の概略構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0136】
1,2…駆動ロール
3…搬送ベルト
4…ラビングロール
4a…起毛布
5…バックアップロール機構
10…光学素子
11…偏光子
12…基材
13…第1の光学補償層
14…第2の光学補償層
15…保護層
51…バックアップロール
52…台座部
53…支持部
56…連結機構
100…ラビング装置
200…光学フィルム
300…液晶パネル
F…プラスチックフィルム
M…モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のプラスチックフィルムの表面をプラスチックフィルムの搬送方向に対して直角方向から回転軸を傾斜させたラビングロールによって擦るラビング処理工程と、
前記ラビング処理工程を経たプラスチックフィルムの表面に液晶性分子を塗工し、該塗工した液晶性分子を固定して、前記プラスチックフイルム上にnx>ny=nzの屈折率特性を有する第1の光学補償層を形成する第1の光学補償層形成工程と、
前記第1の光学補償層上に、nx>ny>nzの屈折率特性を有すると共に、Nz係数が1.2≦Nz≦2を満足する、塗工によって形成された第2の光学補償層を積層する第2の光学補償層形成工程とを含み、
前記ラビング処理工程において、金属表面を有する搬送ベルトによって前記長尺のプラスチックフィルムを支持して搬送すると共に、前記プラスチックフィルムを支持する搬送ベルトの下面を支持するバックアップロール機構を配設し、
前記バックアップロール機構は、前記搬送ベルトの搬送方向に沿ってそれぞれ回転する複数のバックアップロールを備え、
前記複数の各バックアップロールは、前記ラビングロールの直下であって、前記ラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って配設されていることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第1の光学補償層は1/2波長板として機能し、前記第2の光学補償層は1/4波長板として機能することを特徴とする請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記光学フィルムは、バーティカル・アライメント(VA)モードの液晶セルを具備する液晶表示装置に用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第2の光学補償層は、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドからなる群から選択される少なくとも1つのポリマーから形成されることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記バックアップロール機構は、
前記ラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って配設された台座部と、
前記搬送ベルト表面の法線周りに回転可能に前記台座部上に軸支された複数の支持部とを更に備え、
前記複数の各バックアップロールは、前記複数の各支持部に前記搬送ベルトの搬送方向に沿って回転可能に軸支されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記バックアップロール機構は、前記ラビングロールの回転軸を前記搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜させた場合に、これに伴って前記台座部も傾斜するように前記ラビングロールと前記台座部とを連結する連結機構を更に備えることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−151961(P2008−151961A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338966(P2006−338966)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】