説明

光学モジュール及び原子発振器

【課題】周波数安定度の高い原子発振器を得ることが可能な光学モジュールを提供する。
【解決手段】光学モジュール2は、量子干渉効果を利用する原子発振器1の光学モジュールであって、中心波長を有する基本波Fと、互いに異なる波長を有する第1側帯波W1及び第2側帯波W2と、を含む第1光L1を発生させる光源10と、第1光L1から第1側帯波W1及び第2側帯波W2を選択し、第2光L2として射出する波長選択手段20と、アルカリ金属ガスを封入し、第2光L2が照射されるガスセル30と、ガスセル30を透過した第2光L2の強度を検出する光検出手段40と、を含み、波長選択手段20は、エタロン20aと、エタロンの温度を制御するための温度制御手段20bと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学モジュール及び原子発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、量子干渉効果のひとつであるCPT(Coherent Population Trapping)を利用した原子発振器が提案され、装置の小型化や低消費電力化が期待されている。CPTを利用した原子発振器は、アルカリ金属原子に互いに波長(周波数)の異なる2つの共鳴光を同時に照射すると、2つの共鳴光の吸収が停止する現象(EIT現象:Electromagnetically Induced Transparency)を利用した発振器である。例えば、特許文献1には、CPTを利用した原子発振器として、コヒーレントな光を発する光源と、アルカリ金属原子が封入されたガスセルと、ガスセルを透過した光の強度を検出する受光素子と、を有する光学モジュールを含んで構成された原子発振器が記載されている。
【0003】
CPTを利用した原子発振器では、例えば、光源として半導体レーザーが用いられる。光源として半導体レーザーを用いた原子発振器では、例えば、半導体レーザーの駆動電流を変調することによって半導体レーザーから射出される光に側帯波を発生させて、EIT現象を発現させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−89116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、駆動電流が変調された半導体レーザーから射出される光には、側帯波だけでなく、EIT現象に寄与しない中心波長を有する基本波(搬送波)も含まれる。この基本波がアルカリ金属原子に照射されると、アルカリ金属原子が吸収する光の波長(周波数)が変化して(ACシュタルク効果)、原子発振器の周波数の安定度を低下させる場合がある。
【0006】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、周波数安定度の高い原子発振器を得ることが可能な光学モジュールを提供することにある。また、本発明のいくつかの態様にかかる目的の1つは、上記光学モジュールを有する原子発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
本適用例にかかる光学モジュールは、量子干渉効果を利用する原子発振器の光学モジュールであって、中心波長を有する基本波と互いに異なる波長を有する第1側帯波及び第2側帯波とを含む第1光を発生させる光源と、前記第1光から前記第1側帯波及び前記第2側帯波を選択し第2光として射出する波長選択手段と、アルカリ金属ガスが封入され前記第2光が照射されるガスセルと、前記ガスセルを透過した前記第2光の強度を検出する光検出手段と、を含み、前記波長選択手段は、エタロンと前記エタロンの温度を制御するための温度制御手段とを有することを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、光学モジュールは量子干渉効果を利用する原子発振器に用いられる。光学モジュールは光源、波長選択手段、ガスセル、光検出手段を有している。そして、光源は、中心波長を有する基本波と互いに異なる波長を有する第1側帯波及び第2側帯波とを含む第1光を発生させる。そして、波長選択手段は、第1光から第1側帯波及び第2側帯波を選択し第2光として射出する。波長選択手段は、エタロンとエタロンの温度を制御するための温度制御手段とを有している。ガスセルにはアルカリ金属ガスが封入され第2光が照射される。そして、光検出手段はガスセルを透過した第2光の強度を検出する。
【0010】
波長選択手段は第1光から第1側帯波及び第2側帯波を選択するので、第1光の基本波の強度を減少または基本波を消滅させることができる。これにより、EIT現象に寄与しない基本波がアルカリ金属原子に照射されることを抑制または防止できる。したがって、ACシュタルク効果による周波数変動を抑制することができ、周波数安定度の高い原子発振器を提供できる。
【0011】
さらに、波長選択手段がエタロンの温度を制御するための温度制御手段を有しているため、波長選択手段は熱光学効果によってエタロンの波長選択特性(エタロンが選択する波長範囲)を変化させることができる。これにより、波長選択手段は、製造誤差や環境変化等によるエタロンの波長選択特性のずれを補正することができ、第1光から第1側帯波及び第2側帯波を、精度よく選択して射出することができる。その結果、周波数安定度の高い原子発振器を提供できる。
【0012】
[適用例2]
上記適用例に記載の光学モジュールでは、前記温度制御手段は抵抗体を有し、前記抵抗体に流す電流を制御することにより、前記エタロンの温度を制御することが好ましい。
【0013】
このような光学モジュールによれば、波長選択手段は抵抗体を有している。そして、抵抗体に流す電流を制御することによりエタロンの温度を制御している。従って、簡易な構成で波長を選択することができる。
【0014】
[適用例3]
上記適用例に記載の光学モジュールでは、前記光源は、面発光型レーザーであることが好ましい。
【0015】
このような光学モジュールによれば、光源は面発光型レーザーである。従って、光源が端面発光型レーザーであるときと比べて、ゲインを生じさせるための電流が少なくすることができる。その結果、光学モジュールを低消費電力にすることができる。
【0016】
[適用例4]
上記適用例に記載の光学モジュールでは、さらに、前記光源で発生した前記第1光を、前記エタロンに入射させるための光学素子を有することが好ましい。
【0017】
このような光学モジュールによれば、光源で発生した光を光学素子が効率よくエタロンに導くことができる。従って、効率良く光を活用することができる。
【0018】
[適用例5]
本適用例にかかる原子発振器は、光学モジュールと周波数制御回路とを有する原子発振器であって、前記光学モジュールは上記適用例に記載の光学モジュールであることを特徴とする。
【0019】
このような原子発振器は、上記適用例に記載の光学モジュールを含んでいる。従って、原子発振器は、ACシュタルク効果による周波数変動を抑制することができ、周波数安定度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態にかかる原子発振器の機能を示すブロック図。
【図2】(A)は、アルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと第1側帯波及び第2側帯波の関係を説明するための図、(B)は、光源で発生する第1光の周波数スペクトラムを説明するための図。
【図3】波長選択手段から射出された第2光の周波数スペクトラムを説明するための図。
【図4】原子発振器の構成を示すブロック図。
【図5】光学モジュールの要部を示す概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。尚、以下の各図においては、各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
【0022】
図1は、本実施形態にかかる原子発振器の機能を示すブロック図である。まず、本実施形態にかかる光学モジュール及び原子発振器について説明する。原子発振器1は、量子干渉効果を利用した発振器であり、原子発振器1は、光学モジュール2と制御手段50とを含む。
【0023】
光学モジュール2は、光源10と波長選択手段20とガスセル30と光検出手段40とがこの順に接続されている。光源10は、中心波長(中心周波数)を有する基本波Fと、互いに異なる波長を有する第1側帯波W1及び第2側帯波W2と、を含む第1光L1を発生させる。
【0024】
波長選択手段20は、第1光L1から第1側帯波W1及び第2側帯波W2を選択し、第2光L2として射出する。波長選択手段20は、所定の波長範囲の光を選択して射出するエタロン20aと、エタロン20aの温度を制御するための温度制御手段20bと、を有する。温度制御手段20bは、エタロン20aの温度を制御することにより、エタロン20aが選択する波長範囲(波長選択特性)を変化させることができる。
【0025】
ガスセル30は、アルカリ金属ガスを封入しており、ガスセル30には、第2光L2が照射される。光検出手段40は、ガスセル30を透過した第2光L2の強度を検出する。
【0026】
制御手段50は、光検出手段40の検出結果に基づいて、第1側帯波W1及び第2側帯波W2の周波数の差が、ガスセル30に封入されたアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数に等しくなるように制御する。制御手段50は、光検出手段40の検出結果に基づいて、変調周波数fmを有する検出信号を発生させる。そして、光源10は、この検出信号に基づいて所定の周波数f0を有する基本波Fを変調して、周波数f1=f0+fmを有する第1側帯波W1、及び周波数f2=f0−fmを有する第2側帯波W2を発生させる。
【0027】
図2(A)は、アルカリ金属原子のΛ型3準位モデルと第1側帯波及び第2側帯波の関係を説明するための図である。図2(B)は、光源で発生する第1光の周波数スペクトラムを説明するための図である。
【0028】
図2(B)に示すように、光源10において発生する第1光L1は、中心周波数f0(=v/λ0:vは光の速度、λ0はレーザー光の中心波長)を有する基本波Fと、中心周波数f0に対して上側サイドバンドに周波数f1を有する第1側帯波W1と、中心周波数f0に対して下側サイドバンドに周波数f2を有する第2側帯波W2と、を含む。第1側帯波W1の周波数f1は、f1=f0+fmであり、第2側帯波W2の周波数f2は、f2=f0−fmである。
【0029】
図2(A)及び図2(B)に示すように、第1側帯波W1の周波数f1と第2側帯波W2の周波数f2との周波数差が、ガスセル30内のアルカリ金属原子の基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と一致している。したがって、アルカリ金属原子は、周波数f1を有する第1側帯波W1と周波数f2を有する第2側帯波W2によってEIT現象を起こす。
【0030】
ここで、EIT現象について説明する。アルカリ金属原子と光との相互作用は、Λ型3準位系モデルで説明できることが知られている。図2(A)に示すように、アルカリ金属原子は2つの基底準位を有し、基底準位1と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f1)を有する第1側帯波W1、あるいは基底準位2と励起準位とのエネルギー差に相当する波長(周波数f2)を有する第2側帯波W2を、それぞれ単独でアルカリ金属原子に照射すると、光吸収が起きる。ところが、図2(B)に示すように、このアルカリ金属原子に、周波数差f1−f2が基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数と正確に一致する第1側帯波W1と第2側帯波W2を同時に照射すると、2つの基底準位の重ね合わせ状態、即ち量子干渉状態になり、励起準位への励起が停止して第1側帯波W1と第2側帯波W2がアルカリ金属原子を透過する透明化現象(EIT現象)が起きる。このEIT現象を利用し、第1側帯波W1と第2側帯波W2との周波数差f1−f2が基底準位1と基底準位2のエネルギー差ΔE12に相当する周波数からずれた時の光吸収挙動の急峻な変化を検出し制御することで、高精度な発振器をつくることができる。
【0031】
図3は、波長選択手段から射出された第2光の周波数スペクトラムを説明するための図である。第2光L2は、第1光L1と比べて、基本波Fが消滅または基本波Fの強度が減少した光である。図3に示すように、第2光L2は、中心周波数f0に対して上側サイドバンドに周波数f1を有する第1側帯波W1、及び中心周波数f0に対して下側サイドバンドに周波数f2を有する第2側帯波W2のみを有している。このように、光学モジュール2では、波長選択手段20によって、基本波Fの強度を減少または基本波Fを消滅させることができる。
【0032】
次に、原子発振器1のより具体的な構成について説明する。図4は、原子発振器の構成を示すブロック図である。図4に示すように、原子発振器1は光学モジュール2と、電流駆動回路150と、変調回路160と、を備えている。
【0033】
光学モジュール2では半導体レーザー110、波長選択装置120、ガスセル130、光検出器140がこの順に接続されている。
【0034】
半導体レーザー110は、中心波長を有する基本波Fと、互いに異なる波長を有する第1側帯波W1及び第2側帯波W2と、を含む第1光L1を発生させる。半導体レーザー110が射出するレーザー光(第1光L1)は、電流駆動回路150が出力する駆動電流によって中心周波数f0(中心波長λ0)が制御され、変調回路160の出力信号(変調信号)によって変調がかけられる。すなわち、電流駆動回路150による駆動電流に、変調信号の周波数成分を有する交流電流を重畳することにより、半導体レーザー110が射出する第1光L1に変調をかけることができる。これにより、第1光L1には、第1側帯波W1、及び第2側帯波W2が生成される。半導体レーザー110が発生する光は可干渉性を有するため量子干渉効果を得るのに好適である。
【0035】
図2(B)に示すように、第1光L1は、中心周波数f0(=v/λ0:vは光の速度、λ0は第1光L1の中心波長)を有する基本波Fと、中心周波数f0に対して上側サイドバンドに周波数f1を有する第1側帯波W1と、中心周波数f0に対して下側サイドバンドに周波数f2を有する第2側帯波W2と、を含む。第1側帯波W1の周波数f1は、f1=f0+fmであり、第2側帯波W2の周波数f2は、f2=f0−fmである。
【0036】
図4に戻って、波長選択装置120は、第1光L1から第1側帯波W1及び第2側帯波W2を選択し、第2光L2として射出する。波長選択装置120は、所定の波長範囲の光を選択して射出するエタロン120aと、エタロン120aの温度を制御するための温度制御手段としての温度制御装置120bと、を有する。
【0037】
エタロン120aは、第1光L1から第1側帯波W1及び第2側帯波W2を選択して射出することができる。これにより、エタロン120aに入射した第1光L1の基本波Fの強度を減少または基本波Fを消滅させて、第2光L2として射出することができる。すなわち、第2光L2では、第1光L1と比べて、基本波Fの強度が減少または基本波Fが消滅している。図3の例では、第2光L2は、第1側帯波W1及び第2側帯波W2のみを有している。
【0038】
温度制御装置120bは、熱光学効果によって、エタロン120aが選択する波長範囲(波長選択特性)を変化させることができる。ここで、熱光学効果とは、物質の光に対する屈折率が、外部より熱を加えることによって変化する現象をいう。具体的には、温度制御装置120bは、エタロン120aの温度を制御することにより、エタロン120aの屈折率を変化させ、エタロン120aの波長選択特性を制御する。波長選択装置120は、温度制御装置120bによって、製造誤差や環境変化(熱、光等)等によるエタロン120aの波長選択特性のずれを補正することができるため、第1光L1から第1側帯波W1及び第2側帯波W2を、精度よく選択して射出することができる。
【0039】
温度制御装置120bは、光検出器140の出力信号に基づいて、エタロン120aの温度を調整し、エタロン120aの波長選択特性を制御してもよい。光学モジュール2では、例えば、エタロン120a、ガスセル130、光検出器140、温度制御装置120bを通るフィードバックループによりエタロン120aの温度が調整され、エタロン120aの波長選択特性が制御される。
【0040】
また、温度制御装置120bは、予め取得されたエタロン120aの波長選択特性のずれのデータに基づいて、エタロン120aの温度を調整し、エタロン120aの波長選択特性のずれを補正してもよい。
【0041】
ガスセル130は、容器中に気体状のアルカリ金属原子(ナトリウム(Na)原子、ルビジウム(Rb)原子、セシウム(Cs)原子等)が封入されたものである。ガスセル130には、波長選択装置120から射出された第2光L2が照射される。
【0042】
このガスセル130に対して、アルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数(波長)を有する2つの光波(第1側帯波及び第2側帯波)が照射されると、アルカリ金属原子がEIT現象を起こす。例えば、アルカリ金属原子がセシウム原子であれば、D1線(フラウンホーファー線の1つ)における基底準位1と基底準位2のエネルギー差に相当する周波数が9.19263・・・GHzなので、周波数差が9.19263・・・GHzの2つの光波が照射されるとEIT現象を起こす。
【0043】
光検出器140は、ガスセル130を透過した第2光L2を検出し、検出した光の量に応じた信号強度の信号を出力する。光検出器140の出力信号は、電流駆動回路150及び変調回路160に入力される。また、光検出器140の出力信号は、さらに、温度制御装置120bに入力されてもよい。光検出器140は、特に限定されないが例えば、フォトダイオードを用いることができる。
【0044】
電流駆動回路150は、光検出器140の出力信号に応じた大きさの駆動電流を発生させて半導体レーザー110に供給し、第1光L1の中心周波数f0(中心波長λ0)を制御する。半導体レーザー110、波長選択装置120、ガスセル130、光検出器140、電流駆動回路150を通るフィードバックループにより第1光L1の中心周波数f0(中心波長λ0)が微調整されて安定する。
【0045】
変調回路160は、光検出器140の出力信号に応じた変調周波数fmを有する変調信号を発生させる。この変調信号は、光検出器140の出力信号が最大になるように変調周波数fmが微調整されながら半導体レーザー110に供給される。半導体レーザー110が射出するレーザー光は、変調信号により変調がかけられ、第1側帯波W1と第2側帯波W2を発生させる。
【0046】
尚、半導体レーザー110、波長選択装置120、ガスセル130、光検出器140は、それぞれ図1の光源10、波長選択手段20、ガスセル30、光検出手段40に対応する。また、エタロン120aは、図1のエタロン20aに対応し、温度制御装置120bは、図1の温度制御手段20bに対応する。また、電流駆動回路150、変調回路160は、図1の制御手段50に対応する。
【0047】
このような構成の原子発振器1において、半導体レーザー110は第1側帯波W1と第2側帯波W2を有する第1光L1を発生させている。当該第1側帯波W1と第2側帯波W2との周波数差がガスセル130に含まれるアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と正確に一致しなければ、アルカリ金属原子がEIT現象を起こさない。このため、第1側帯波W1と第2側帯波W2の周波数に応じて光検出器140の検出量は極めて敏感に変化する。そのため、半導体レーザー110、波長選択装置120、ガスセル130、光検出器140、及び変調回路160を通るフィードバックループの制御を行っている。この制御により、第1側帯波W1と第2側帯波W2との周波数差がアルカリ金属原子の2つの基底準位のエネルギー差に相当する周波数と極めて正確に一致するようにできる。その結果、変調周波数は極めて安定した周波数になるので、変調信号を原子発振器1の出力信号(クロック出力)とすることができる。
【0048】
図5は、光学モジュールの要部を示す概略斜視図である。図5に示すように、光学モジュール2は半導体レーザー110と波長選択装置120を備えている。半導体レーザー110としては、例えば、面発光型レーザーを用いることができる。面発光型レーザーは、端面発光型レーザーと比べて、ゲインを生じさせるための電流が少ないため、低消費電力化を図ることができる。尚、半導体レーザー110として、端面発光型レーザーを用いてもよい。半導体レーザー110から射出された第1光L1は、光学素子170によって集光され、エタロン120aに入射する。光学素子170は、図示の例では、半導体レーザー110から射出される第1光L1を集光して、エタロン120aに入射させるためのレンズである。
【0049】
エタロン120aは、第1光の第1側帯波W1及び第2側帯波W2を選択して透過させる。すなわち、エタロン120aは、第1側帯波W1及び第2側帯波W2に対する透過率が大きく、基本波Fに対する透過率が小さい。これにより、エタロン120aに入射した第1光L1の基本波Fの強度を減少または基本波Fを消滅させて、第2光L2として射出することができる。すなわち、第2光L2は、第1光L1と比べて、基本波Fの強度が減少または基本波Fが消滅している。これにより、第2光L2は図3に示す例のようになる。つまり、第2光L2は、中心周波数f0に対して上側サイドバンドに周波数f1を有する第1側帯波W1、及び中心周波数f0に対して下側サイドバンドに周波数f2を有する第2側帯波W2のみを有している。
【0050】
図5に戻って、エタロン120aは温度制御装置120bの発熱体122の上方に配置されている。尚、エタロン120aと温度制御装置120bの発熱体122との間の位置関係は特に限定されない。エタロン120aは、入射した第1光L1から第1側帯波W1及び第2側帯波W2を選択して透過させることができる。
【0051】
温度制御装置120bは、エタロン120aに熱を供給するための発熱体122を有している。温度制御装置120bから供給された熱によりエタロン120aの温度が変化すると、熱光学効果が生じてエタロン120aの屈折率が変化し、エタロン120aの波長選択特性(エタロンが選択する波長範囲)が変化する。発熱体122は、例えば、電流が流れることにより発熱する抵抗体である。温度制御装置120bは、この発熱体122(抵抗体)に流れる電流量を制御することにより、発熱体122の温度を調整し、エタロン120aの温度を制御することができる。尚、温度制御装置120bは、エタロン120aの温度を制御できれば良く、特に限定されず、公知のホットプレート等の発熱装置を用いてもよい。
【0052】
以上述べたように、本実施形態にかかる光学モジュール2及び原子発振器1によれば、以下の効果を得ることができる。
【0053】
(1)本実施形態によれば、波長選択装置120が、第1光L1の基本波Fの強度を減少または基本波Fを消滅させることができる。これにより、EIT現象に寄与しない基本波Fがアルカリ金属原子に照射されることを抑制または防止できる。したがって、ACシュタルク効果による周波数変動を抑制することができ、周波数安定度の高い原子発振器1を提供できる。
【0054】
(2)本実施形態によれば、波長選択装置120が、エタロン120aの選択する波長範囲を変化させる温度制御装置120bを有している。このため、製造誤差や環境変化(熱、光等)によるエタロン120aの波長選択特性(エタロンが選択する波長範囲)のずれを補正することができる。したがって、波長選択装置120は、第1光L1から第1側帯波W1及び第2側帯波W2を、精度よく選択して射出することができる。
【0055】
(3)本実施形態によれば、エタロン120aの波長選択特性は、エタロン120aの長さに依存する。エタロン120aの製造工程において、エタロン120aの長さを精度よく与えることは困難であり、エタロン120aに製造誤差が生じる場合がある。このような場合であっても、波長選択装置120は、温度制御装置120bを有するため、この製造誤差に起因する波長選択特性のずれを補正することができる。
【0056】
(4)本実施形態によれば、温度制御装置120bが発生する熱による熱光学効果によって、温度制御装置120bはエタロン120aの波長選択特性を変化させることができる。これにより、エタロン120aの波長選択特性を、容易に制御できる。さらに、温度制御装置120bは、発熱体122(抵抗体)を含んで構成されている。したがって、波長選択装置120を簡易な構成とすることができる。
【0057】
(5)本実施形態によれば、光学モジュール2では、半導体レーザー110を面発光型レーザーにすることができる。面発光型レーザーは、端面発光型レーザーと比べてゲインを生じさせるための電流が少ないため、低消費電力化を図ることができる。
【0058】
(6)本実施形態によれば、半導体レーザー110から射出された第1光L1をエタロン120aに入射させるための光学素子170を有する。これにより、半導体レーザー110で発生した第1光L1を、効率よくエタロン120aに導くことができる。
【0059】
(7)本実施形態によれば、原子発振器1は、周波数安定度の高い光学モジュール2を有している。したがって、原子発振器1は、周波数安定度を高めることができる。
【0060】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例は総て本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0061】
1…原子発振器、2…光学モジュール、10…光源、20…波長選択手段、20a…エタロン、20b…温度制御手段、30…ガスセル、40…光検出手段、120b…温度制御手段としての温度制御装置、122…抵抗体としての発熱体、170…光学素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子干渉効果を利用する原子発振器の光学モジュールであって、
中心波長を有する基本波と互いに異なる波長を有する第1側帯波及び第2側帯波とを含む第1光を発生させる光源と、
前記第1光から前記第1側帯波及び前記第2側帯波を選択し第2光として射出する波長選択手段と、
アルカリ金属ガスが封入され前記第2光が照射されるガスセルと、
前記ガスセルを透過した前記第2光の強度を検出する光検出手段と、を含み、
前記波長選択手段は、エタロンと前記エタロンの温度を制御するための温度制御手段とを有することを特徴とする光学モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の光学モジュールにおいて、
前記温度制御手段は抵抗体を有し、前記抵抗体に流す電流を制御することにより、前記エタロンの温度を制御することを特徴とする光学モジュール。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学モジュールにおいて、
前記光源は、面発光型レーザーであることを特徴とする光学モジュール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学モジュールにおいて、
さらに、前記光源で発生した前記第1光を、前記エタロンに入射させるための光学素子を有することを特徴とする光学モジュール。
【請求項5】
光学モジュールと周波数制御回路とを有する原子発振器であって、
前記光学モジュールは請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学モジュールであることを特徴とする原子発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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