説明

光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法、及び光学レンズ−ホルダー複合体

【課題】二色成形により光学レンズ−ホルダー複合体を製造する方法であって、光学レンズとレンズホルダーとの接着に優れ、レンズとレンズホルダー間の隙間やレンズの脱落等が発生しにくいとともに、優れた耐熱性を有する光学レンズ−ホルダー複合体を製造できる方法を提供する。
【解決手段】レンズホルダー3を構成する熱可塑性樹脂と光学レンズ2を構成する熱可塑性樹脂を二色成形する工程、及び、前記工程後、光学レンズ2を構成する熱可塑性樹脂及び/又はレンズホルダー3を構成する熱可塑性樹脂を架橋する工程を有する製造方法により、光学レンズ−ホルダー複合体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の光学レンズ及びそれを保持するレンズホルダーからなる光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法、及びこの方法により製造することができる光学レンズ−ホルダー複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズ及びこの光学レンズを保持するためのレンズホルダーからなる光学レンズ−ホルダー複合体は、光ピックアップや、LEDレンズパッケージ等の発光素子、受光素子等として、各種の電子装置、例えばCD、MD、DVD等の光記録再生装置や、受発光素子が搭載された装置、イメージセンサー、カメラモデュール等に用いられている。光学レンズとしては、無機ガラスが用いられているが、無機ガラスは比重が大きく又脆いため破損しやすい等の欠点を有しておりかつ成形に時間がかかるという問題もある。
【0003】
そこで近年は、耐熱性や光学特性(透明性や変色性等)に優れる樹脂よりなる樹脂製のレンズも提案されており、例えば、特開2008−088303号公報(特許文献1)には、透明な熱可塑性樹脂を成形するとともに架橋した透明樹脂成形体からなる光学レンズが開示されている。そして、透明な熱可塑性樹脂としては透明性に優れる透明ポリアミド等が知られている。
【0004】
一方、光学レンズを保持するためのレンズホルダーとしては、例えば、特開2007−141416号公報(特許文献2)に、対物レンズ保持部およびコイル付設部を有する樹脂成形体であって、配線部やリードフレーム等が該樹脂成形体にインサートモールドされてなるレンズホルダーが開示されている。
【0005】
従来、前記のような樹脂製の光学レンズ及び樹脂製のレンズホルダーは別個に作製され、その後組立てて光学レンズ−ホルダー複合体が製造されていた。しかし、この製造方法によれば、接着剤等により両者を接着し組立てる工程を要し、又光学レンズとレンズホルダー間の優れた位置精度を得るためにはこの組立ての工程に高い精度が求められ量産には不向きであった。
【0006】
そこで、樹脂製の光学レンズ及び樹脂製のレンズホルダーを一体成形して光学レンズ−ホルダー複合体を製造する方法が望まれた。すなわち、光学レンズ又はレンズホルダーのいずれか一方の成形体を得た後、金型中にその成形体を装着し、その金型の空間(キャビティー)内に、他方を構成する樹脂を溶融して射出成形し、その後冷却固化する等により光学レンズ−ホルダー複合体を得る方法である(二色成形)。この方法によれば、他方の成形時に光学レンズとレンズホルダーが組立てられ、接着剤や組立工程が不要であり、又精度のよい金型を用いれば、高い位置精度での光学レンズ−ホルダー複合体を優れた生産性で量産することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−088303号公報
【特許文献2】特開2007−141416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学レンズ−ホルダー複合体は、半田リフロー等により各種の電子装置に装着される。近年環境問題から、リフロー半田に融点の高い鉛フリー半田が使用され、その結果、耐熱性に対する要望はより高くなり、光学レンズ及びレンズホルダーのいずれの樹脂成形体にも、260℃程度においても高い剛性を保持する耐熱性(リフロー耐熱性)が求められるようになっている。
【0009】
そこで、光学レンズ及びレンズホルダーには、融点や軟化点が高い樹脂の成形体が用いられるが、この場合、前記二色成形におけるシリンダー温度を高くする(シリンダー温度270℃以上、金型温度80℃程度)必要がある。しかし、光学レンズ及びレンズホルダー用の樹脂として融点や軟化点の差が大きい熱可塑性樹脂を用いて二色成形を行うと、光学レンズとレンズホルダーとの接着が不十分となりやすく、レンズとレンズホルダー間の隙間やレンズの脱落又は変色等が発生しやすいとの問題があった。
【0010】
本発明は、二色成形により光学レンズ−ホルダー複合体を製造する方法であって、従来技術の前記の問題が解決された方法、即ち、光学レンズとレンズホルダーとの接着に優れ、レンズとレンズホルダー間の隙間やレンズの脱落等が発生しにくいとともに、優れた耐熱性(リフロー耐熱性)を有する光学レンズ−ホルダー複合体を製造できる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、光学レンズを構成する樹脂とレンズホルダーを構成する樹脂とを二色成形した後、光学レンズを構成する樹脂及び/又はレンズホルダーを構成する樹脂を架橋する方法により、原料の樹脂として融点又は軟化点の低い樹脂を用いることができ、又光学レンズとレンズホルダー間の接着性を向上することができ、レンズとレンズホルダー間の隙間やレンズの脱落等の発生を防止できることを見出した。そして、この方法により、原料の樹脂として融点又は軟化点の低い樹脂を用いた場合でも、260℃程度においても剛性を保持する耐熱性が得られることを見出し、以下に示す構成からなる本発明を完成した。
【0012】
請求項1に記載の発明は、レンズホルダーを構成する熱可塑性樹脂と光学レンズを構成する熱可塑性樹脂を二色成形する工程、及び、前記工程後、光学レンズを構成する熱可塑性樹脂及び/又はレンズホルダーを構成する熱可塑性樹脂を架橋する工程を有することを特徴とする光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法である。この製造方法によれば、光学レンズを構成する樹脂及びレンズホルダーを構成する樹脂を一体成形するので、製造工程が短縮され生産性が高く、製造コストを下げることができ、又組立精度を上げることができる。
【0013】
この製造方法としては、
(1)先ず、光学レンズを構成する樹脂を成形して光学レンズの成形体を形成し、当該成形体(冷却固化したもの)を金型等の型内に装着した後、当該型内にあるキャビティー(空洞)にレンズホルダーを構成する樹脂を射出成形(二色成形)してレンズホルダーを形成し、さらにその後、レンズホルダーを構成する樹脂及び/又は光学レンズを構成する樹脂を架橋して光学レンズ−ホルダー複合体を製造する方法、及び
(2)先ず、レンズホルダーを構成する樹脂を成形してレンズホルダーの成形体を形成し、当該成形体(冷却固化したもの)を金型等の型内に装着した後、当該型内にあるキャビティー(空洞)に光学レンズを構成する樹脂を射出成形(二色成形)して光学レンズを形成し、さらにその後、レンズホルダーを構成する樹脂及び/又は光学レンズを構成する樹脂を架橋して光学レンズ−ホルダー複合体を製造する方法
等を挙げることができる。
【0014】
(1)及び(2)の方法いずれにおいても、型内のキャビティーに、レンズホルダー又は光学レンズを形成する樹脂を射出しその後冷却、固化することにより光学レンズとそれを保持するレンズホルダーが一体化された複合体が作製される。本発明においては、(1)及び(2)の方法いずれも可能であるが、光学レンズの汚れを防ぐ観点からは(2)の方法が好ましい。
【0015】
(1)の方法においては、光学レンズの成形体の形成後、レンズホルダーを構成する樹脂の射出成形前に、光学レンズを構成する樹脂を架橋してもよいし、又はレンズホルダーを構成する樹脂の成形後、レンズホルダーを構成する樹脂と光学レンズを構成する樹脂を同時に架橋してもよい。射出成形前に光学レンズを構成する樹脂を架橋する場合は、架橋により、射出成形時の加熱等による光学レンズの成形体の損傷を低減できる場合があるが、接着力が低下する傾向があるので、レンズホルダーを構成する樹脂と光学レンズを構成する樹脂を同時に架橋する方法が好ましい。
【0016】
(2)の方法においては、レンズホルダーの成形体の形成後、光学レンズを構成する樹脂の射出成形前に、レンズホルダーを構成する樹脂を架橋してもよいし、又は光学レンズを構成する樹脂の成形後、レンズホルダーを構成する樹脂と光学レンズを構成する樹脂を同時に架橋してもよい。射出成形前に、レンズホルダーを構成する樹脂を架橋する場合は、架橋により射出成形時の加熱等によるレンズホルダーの成形体の損傷を低減できる場合があるが、接着力が低下する傾向があるので、レンズホルダーを構成する樹脂と光学レンズを構成する樹脂を同時に架橋する方法が好ましい。
【0017】
金型等の型内に成形体を装着する方法としては、例えば上金型と下金型間に成形された光学レンズ又はレンズホルダーを挟むことにより行うことができる。金型等の型内にはキャビティーが設けられ、その形状は、二色成形により所定の形状を有する光学レンズ又はレンズホルダーが形成されるように設計されている。本発明の方法は、光記録再生装置等に用いられている公知の樹脂製光学レンズに適用することができる。例えば、特許文献1に記載の光学レンズを挙げることができる。
【0018】
(1)及び(2)の方法いずれにおいても、樹脂の冷却、固化は、通常の方法により行うことができる。又、架橋の工程は、冷却、固化の後、成形体を型より取り出して行うことができる。架橋することにより、優れた耐熱性(高温における高い剛性等)を達成することができる。例えば、融点の低い架橋性樹脂(例えば、ポリアミド12)を用いた場合であっても、高い鉛フリー半田が使用された半田リフローにも充分耐えられる優れたリフロー耐熱性を達成することができる。従って、樹脂の選択範囲を広くすることができる。
【0019】
例えば、レンズホルダーの優れた耐熱性(高温における高い剛性、リフロー耐熱性)は架橋により得られるようにして、融点又は軟化点が低い架橋性樹脂を選定し、かつ光学レンズとレンズホルダーとの優れた接着性が得られるように樹脂の種類や成形条件等の選定を行うことができる。この選定は容易であり、成形用樹脂の選択の幅を拡げることができる。その結果、光学レンズとレンズホルダーとの接着性に優れるとともに、優れた耐熱性、リフロー耐熱性を有する複合体を一体成形により高い生産性で製造することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、前記二色成形が、310℃以下のシリンダー温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法である。
【0021】
融点や軟化点の低い樹脂を用いることにより、二色成形は低いシリンダー温度で行うことができる。前記のように、本発明の方法によれば、融点や軟化点の低い樹脂を用いても、成形後の架橋の工程により優れた耐熱性(高温における高い剛性、リフロー耐熱性)を得ることができ、成形用樹脂の選択の幅を拡げることができるが、特に、前記二色成形を310℃以下のシリンダー温度で行うことができる樹脂の中からは、一体成形後の接着性に優れる樹脂の選択が容易である。
【0022】
請求項3に記載の発明は、前記光学レンズを構成する樹脂が、透明ポリアミド樹脂、環状ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を主体とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法である。
【0023】
光学レンズを形成する成形体としては、優れた耐熱性(リフロー耐熱性)と光学特性(透明性、非変色性等)を兼ね備えた透明樹脂成形体が望まれる。そこで、光学レンズを形成する樹脂としては、透明ポリアミド樹脂、環状ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を主体としたものが好ましい。なお、主体とするとは、前記例示の樹脂のみからなるか、又は例示の樹脂を少なくとも50重量%以上、好ましくは80重量%以上含む場合を言う。なお、他の樹脂を含む場合、当該他の樹脂は、例示の樹脂の特性、即ち優れた耐熱性と光学特性を損ねないものから選択される。
【0024】
優れた耐熱性、特に優れたリフロー耐熱性を得るために、光学レンズを形成する樹脂を、架橋することが好ましい。光学レンズを形成する樹脂を架橋すれば、前記の樹脂として融点が250℃以下の樹脂を選んでも優れた耐熱性を有する光学レンズが得られるが、このような樹脂の中からは優れた接着性を達成できる樹脂を容易に選択することができる。
【0025】
又、光学レンズを形成する樹脂は、好ましくは、前記例示の樹脂の中で、その厚さ2mmの成形体における全光線透過率が60%以上となる樹脂より選ばれる。ここで、全光線透過率とは、透明性を表す指標であり、その測定は、JIS K 7361に規定される測定法を用いて行い、可視光線の範囲、具体的には波長400〜800nmの範囲において、入射光量T1と試験片を通った全光量T2との比の百分率で示される。
【0026】
又、光学レンズを形成する成形体は、さらに補強材として充填剤、特にフィラーを含有することが好ましい。充填剤を含有することにより、リフロー耐熱性がさらに向上する。光学レンズを形成する樹脂には、架橋を促進するため、架橋助剤を含有させてもよい。
【0027】
光学レンズを形成する樹脂の好ましい例として挙げられた前記の樹脂の中でも、透明性の点で透明ポリアミドが好ましく、又樹脂を架橋することにより、鉛フリー半田を用いた半田リフローにも耐えられる優れたリフロー耐熱性や、レーザーやキセノンランプによる高温に耐えられる耐熱性が得られる。特に、成形体にさらに光安定剤を含有させることにより、キセノンランプやブルーレーザー等の500nm以下の電磁波による長時間の照射にも優れた耐久性を示す光学レンズが得られる。
【0028】
請求項4に記載の発明は、前記レンズホルダーを構成する樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、及び環状ポリオレフィン樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を主体とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法である。
【0029】
前記レンズホルダーを構成する樹脂としては、優れた成形性、光学レンズとの密着性、かつ架橋後の優れたリフロー耐熱性を容易に得るためには、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、及び環状ポリオレフィン樹脂から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂を主体とすることが好ましい。この例示の樹脂の中の1種のみでもよいし、これらから選ばれる2種以上の組合せでもよい。「主体とする」の意味は前記と同じである。
【0030】
これらの樹脂としては、その主鎖又は側鎖に架橋を形成することができる部分(架橋サイト)を有する樹脂、すなわち加熱や放射線照射により架橋反応を起こす能力を有する架橋用樹脂が好ましく、この樹脂を成形後、加熱や放射線照射を施すことにより、架橋された成形体を容易に得ることができる。
【0031】
レンズホルダーと光学レンズとの接着性の観点からは、レンズホルダーを構成する樹脂の融点又は軟化点と、光学レンズを構成する樹脂の融点又は軟化点とは近い方が好ましく、例えば両者の差は100℃未満が好ましい。又、二色成形時における型内に装着される成形体の損傷を防ぐためにも両者の差は100℃未満が好ましく、又射出される樹脂の融点又は軟化点は、型内に装着される成形体の融点又は軟化点よりも低いことが好ましい。
【0032】
光学レンズが透明ポリアミド樹脂を主体とする樹脂からなる場合、光学レンズとの接着性の観点からは、融点が250℃以下の、透明ポリアミド樹脂や脂肪族ポリアミド樹脂が好ましい。融点が250℃以下の脂肪族ポリアミド樹脂としては、融点が185℃程度のポリアミド12を挙げることができるが、この樹脂を用いた場合でも、架橋により(さらにフィラーの添加により)鉛フリー半田を用いた半田リフローにも耐えられる優れたリフロー耐熱性が得られる。
【0033】
請求項5に記載の発明は、前記架橋が、架橋助剤の存在下での電離放射線の照射による架橋であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法である。
【0034】
架橋方法としては、電離放射線の照射による放射線架橋や、加熱による熱架橋等を挙げることができる。電離放射線の照射による架橋は、成形時の温度、流動性の制限を伴わず、架橋の制御が容易であるため好ましい。電離放射線としては、電子線の他、γ線、エックス線等を挙げることができる。放射線の照射線量は、レンズホルダーのリフロー耐熱性を、鉛フリー半田を用いた半田リフローにも十分耐えられるようにするために必要な量が好ましい。その具体的な範囲は、使用する樹脂や照射条件により変動し特に限定できないが、通常10〜1000kGy程度である。
【0035】
電離放射線の照射による架橋は、通常、架橋助剤の存在下で行われる。架橋助剤の併用により、架橋を促進し優れた耐熱性や剛性が得られるので好ましい。
【0036】
光学レンズを構成する樹脂やレンズホルダーを構成する樹脂は、さらに無機フィラーを含有することができる。無機フィラーを含有することにより、成形された樹脂の剛性を向上させることができるので好ましい。例えば、貯蔵弾性率が260℃で1MPa以上を容易に得ることができる。ここで、貯蔵弾性率とは、粘弾性体に正弦的振動ひずみを与えたときの応力と、ひずみの関係を表わす複素弾性率を構成する一項(実数項)であり、粘弾性測定器(DMS)により測定した値である。より具体的には、アイティー計測制御社製DVA−200による粘弾性測定器により10℃/minの昇温速度にて測定される値である。
【0037】
レンズホルダーを構成する樹脂(レンズホルダーの形成に用いられる樹脂)は、さらに又、本発明の趣旨が損なわれない範囲で、他の成分、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可視光吸収剤、耐候性安定剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、導電剤、メッキ付与剤等を含有することができる。
【0038】
請求項6に記載の発明は、さらに金属部材のインサートモールドが行われることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法である。
【0039】
光学レンズ−ホルダー複合体が光ピックアップに用いられる場合等では、その駆動のためにレンズホルダーがコイルを保持し、そのコイルに信号を送るための配線やリードフレームがレンズホルダー内に設けられる場合がある。このような配線やリードフレームが設けられた光学レンズ−ホルダー複合体の製造においては、配線やリードフレーム等の金属部材を金型等の型内に装着した状態で、前記二色成形又はレンズホルダーの成形を行う方法が、生産性が高く、又金属部材とレンズホルダーとの接着性にも優れるので好ましい。
【0040】
ここで、金属部材とは、金属からなり、インサートモールド等により熱可塑性樹脂と一体成形されるものであり、光ピックアップにおける配線やリードフレーム、LED素子搭載用パッケージにおけるリードフレーム等が挙げられる。
【0041】
本発明は、前記の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法に加えて、この製造方法により製造することができる光学レンズ−ホルダー複合体を提供する。光学レンズ及びそれを保持するレンズホルダーからなり、前記光学レンズ及び前記レンズホルダーは、熱可塑性樹脂を主体として構成され、前記光学レンズと前記レンズホルダーが、0.8N/cm以上の接着力で接着しており、前記光学レンズ及び前記レンズホルダーを構成するいずれの樹脂成形体も、260℃での貯蔵弾性率が5×10Pa以上であることを特徴とする光学レンズ−ホルダー複合体(請求項7)である。
【0042】
この光学レンズ−ホルダー複合体は、前記光学レンズと前記レンズホルダーが、0.8N/cm以上の接着力で接着しているので、レンズとホルダー間の隙間やレンズの脱落等が発生しにくいものである。それとともに、前記光学レンズ及び前記レンズホルダーを構成するいずれの樹脂成形体、すなわち前記の樹脂の成形や架橋により得られるいずれの樹脂成形体も、260℃での貯蔵弾性率が5×10Pa以上であるので、優れた耐熱性(リフロー耐熱性)を有するものである。
【0043】
従って、本発明の光学レンズ−ホルダー複合体は、光記録再生装置中の光ピックアップや、LEDレンズパッケージ等の発光素子、受光素子等の光学素子として、各種の電子装置、例えばCD、MD、DVDや、受発光素子が搭載された装置(例えば光通信装置)、イメージセンサー、カメラモデュール等に好適に用いられる。なお、本発明の光学レンズ−ホルダー複合体の前記光学レンズ及び前記レンズホルダーを構成する熱可塑性樹脂としては、本発明の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法の説明において例示した熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明は、二色成形により光学レンズ−ホルダー複合体を製造する方法であるが、この方法によれば、光学レンズとレンズホルダーとの接着に優れ、レンズとレンズホルダー間の隙間やレンズの脱落等が発生しにくいとともに、優れた耐熱性(リフロー耐熱性)を有する光学レンズ−ホルダー複合体を製造することができる。又、本発明の光学レンズ−ホルダー複合体は、レンズとレンズホルダー間の隙間やレンズの脱落等が発生しにくいとともに、優れた耐熱性(リフロー耐熱性)を有する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の製造方法に用いる金型を示す断面図である。
【図2】本発明の製造方法に用いる金型を示す断面図である。
【図3】本発明の光学レンズ−ホルダー複合体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
次に、本発明を実施するための最良の形態及び実施例を説明するが、本発明の範囲はこの形態や実施例のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で、種々の変更を加えることが可能である。
【0047】
光学レンズの形成に用いられる透明ポリアミドは、特開昭62−121726号公報、特開昭63−170418号公報、特開2004−256812号公報等に開示されているが、これらは、芳香環、脂環等の環を有するモノマーを用いて得られるものであり、非晶性でかつガラス転位点の高いポリアミドである。
【0048】
透明ポリアミドの具体的な例としては、
テレフタル酸、及び2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンと2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンとの異性体混合物からなるポリアミド、
イソフタル酸及び1,6−ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド、
テレフタル酸/イソフタル酸、及び1,6−ヘキサメチレンジアミンからなるコポリアミド、
イソフタル酸、及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及びラウリンラクタム又はカプロラクタムからなるコポリアミド、
1,12−ドデカン二酸又は1,10−ドデカン二酸、及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、場合によってはさらにラウリンラクタム又はカプロラクタムからなる(コ)ポリアミド、
イソフタル酸、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及びラウリンラクタム又はカプロラクタムからなるコポリアミド、
1,12−ドデカン二酸、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンからなるポリアミド、
テレフタル酸/イソフタル酸混合物、及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及びラウリンラクタムからなるコポリアミド、等を挙げることができる。
【0049】
又、透明ポリアミドは、多数の異なるポリアミドの配合物であってよい。配合物自体が透明であれば、この配合物成分に結晶性のものが含まれていてもよい。透明ポリアミドの具体的商品例としては、透明ナイロン(商品名グリルアミドTR−55、TR−90(エムスケミー・ジャパン製))等が挙げられる。これらの透明ポリアミドは、耐UV性に優れており、キセノンの発光等によるUVに対しても、変色や変形等を生じにくい。
【0050】
環状ポリオレフィンとは、環状オレフィンモノマーを含む単量体を重合して得ることができるポリオレフィン系樹脂であるが、環状オレフィンモノマーとは、特開平8−20692号公報等により公知のものであって、例えば、シクロペンテン、2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン系化合物が好ましく挙げられる。
【0051】
フッ素樹脂としては、フッ化ポリイミド、フッ化アクリレート、フッ化ビニリデン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を挙げることができる。
【0052】
アイオノマー樹脂とは、エチレン−メタクリル酸共重合体やエチレン−アクリル酸共重合体の分子間を、ナトリウムや亜鉛などの金属のイオンで分子間結合した特殊な構造を有する樹脂であり、例えば、三井デュポンポリケミカル社製の「ハイラミン」(登録商標)(デュポン社製の「サーリン」(登録商標))等のオレフィン系アイオノマー、ダイキン社製のETFEアイオノマー等のフッ素系アイオノマーを挙げることができる。
【0053】
レンズホルダーの形成に用いられる脂肪族ポリアミド樹脂としては、ナイロン12等の商品名で市販されている融点が250℃以下の樹脂を挙げることができる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等を挙げることができる。環状ポリオレフィン樹脂としては、光学レンズの形成に用いられる環状ポリオレフィン樹脂と同様なものを挙げることができる。
【0054】
光学レンズやレンズホルダーの形成に用いられる樹脂に添加される無機フィラーとしては、ガラスファイバー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ等の無機系ウィスカ、モンモリロナイト、合成スメクタイト、セルロース、ケナフ、アラミド繊維、アルミナ、カーボンファイバー等の無機フィラーや有機化クレー等を挙げることができる。
【0055】
フィラーの添加量は、通常、樹脂100重量部に対して、0.1〜100重量部が好ましい。フィラーの添加量が0.1重量部未満の場合は、フィラー添加の効果が不十分になる場合がある。一方、充填剤の含有量が100重量部を越える場合は、樹脂の流動性が低下して成形困難になり、得られる成形体が脆くなる傾向がある。
【0056】
架橋助剤としては、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレート又はメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のアリル化合物類;N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等が挙げられる。これらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。
【0057】
光学レンズを透明ポリアミドで形成し、架橋により優れたリフロー耐熱性を得る場合、架橋助剤としてTAICが特に好ましく用いられる。
【0058】
次に本発明の製造方法を図により説明する。図1、図2は、光学レンズ−ホルダー複合体1の製造に用いられる金型10を示す断面図である。図1に示される金型10は、上金型11及び下金型9よりなる。
【0059】
先ず、レンズホルダーを構成する熱可塑性樹脂を加熱して、図1に示される金型10のキャビティー8(空間)内に射出する(ゲートは図示していない。)。その後、冷却、固化して、図1中の3で示される断面形状を有するレンズホルダーを得る。光ピックアップの作製等の場合には、この射出成形の際にさらに配線、リードフレーム等の金属部材を装着してもよい。
【0060】
図1に示すように、冷却、固化後のレンズホルダー3は、上金型11内に装着されているが、その後下金型9を下金型12に交換する。図2は、この交換後の金型10を示す断面図であり、図に示されるように、この金型10は、上金型11内にレンズホルダー3を装着し、キャビティー15を有する。その後、金型10(上金型11及び下金型12)を約80℃に加熱し、キャビティー15内に、光学レンズを構成する樹脂を加熱して射出する(ゲートは図示していない。)。射出後、樹脂を冷却固化して、光学レンズ2とレンズホルダー3(場合によりさらに金属部材)が一体となった成形体を得る。
【0061】
その後、成形体を金型より取り出し、電子線(又はγ線等)の照射により架橋反応を施す(照射量:100〜1000kGy程度)。架橋反応が終了後、必要により、150〜300℃(アニール温度)の雰囲気に10分以上放置した加熱(アニール)を行うことにより、本発明の光学レンズ−ホルダー複合体が得られる。
【0062】
前記の例の方法に変えて、先ず光学レンズを形成し、それを、キャビティー8を有する上金型11及び下金型12の間に装着し、その後キャビティー8内に、レンズホルダーを構成する熱可塑性樹脂を加熱して射出し、冷却固化して、レンズホルダーと光学レンズが一体となった成形体を得ることもできる。金型10の加熱温度、電子線(又はγ線等)の照射による架橋反応等は、前記と同様にして行うことができる。
【0063】
成形用樹脂の加熱温度(シリンダー温度)は、用いる樹脂の種類により変動するが、融点が185℃程度のナイロン12の場合は、250℃程度である。一方、融点が255℃程度のナイロン66の場合は、280℃程度にする必要がある。
【0064】
図3は、このようにして得られた光学レンズ−ホルダー複合体1の断面図である。図3に示されるように光学レンズ−ホルダー複合体1は、レンズホルダー3と光学レンズ2が接着した構造である。光学レンズ2とレンズホルダー3との接着は優れているので、レンズとレンズホルダー間の隙間やレンズの脱落等が発生しにくい。又、架橋反応が施されているので、光学レンズ−ホルダー複合体1は優れた耐熱性(リフロー耐熱性)を有する。
【0065】
なお、光学レンズ−ホルダー複合体1が光ピックアップの場合、レンズホルダー内に配線やリードフレームが組込まれており(図示されていない。)、さらにレンズホルダーはコイルを保持している。そして、配線やリードフレームを通して各コイルに選択的に電流を流し、発生する磁界及び外部に設けられた磁石の作用で駆動させる。
【実施例】
【0066】
(レンズホルダーの作製)
表1に示す処方で配合した熱可塑性樹脂組成物を、図1に示すような断面形状の金型を用いて、表1に示すシリンダー温度で射出成形して、外径5mm、内径3mmの円筒状(図1、図2に示す断面形状)のレンズホルダーを成形した。なお、表1中等に示す略号は以下のものを表す。
【0067】
Ny12:UBEナイロン3024U(宇部興産社製、ポリアミド12、Tg=80℃、融点=185℃)
Ny66:東レアミランCM3007(東レ社製、ポリアミド66、Tg=80℃、融点=255℃)
TR90:グリルアミドTR−90(エムスケミー・ジャパン社製、透明ポリアミド樹脂、Tg=155℃、600〜1000nmでの平均透過率(厚さ2mm)91%)
9Tナイロン:ジェネスタG1300A(クラレ社製、ポリアミド9T、Tg=125℃、融点=300℃)
GF:ECS03T−289/PL(日本電気硝子社製、ガラスファイバー)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)
【0068】
(二色成形:光学レンズの作製)
透明ポリアミド樹脂としてグリルアミドTR−90を用い、この90重量部に、架橋助剤としてTAIC10重量部を配合した。前記レンズホルダーの作製後、上金型内にレンズホルダーを保持したまま、下金型を交換し、図2に示す金型とした。その後、金型を約80℃に加熱し、その金型内の空間(図2のキャビティー15)に、光学レンズを構成する熱可塑性樹脂を、シリンダー温度230℃で射出し、その後、冷却して、外径5mm、中心部厚さ1mm(レンズのアールは5mm)の光学レンズと、レンズホルダー(場合によりさらに金属部材)が一体となった成形体を得た。
【0069】
(架橋)
このようにして得られた光学レンズとレンズホルダーが一体となった成形体に、480kGyの電子線を照射し架橋を行い光学レンズ−ホルダー複合体を得た。このようにして得られた光学レンズ−ホルダー複合体について、接着力を測定した結果を表1に示す。なお、接着力はレンズホルダーの中心部に露出した光学レンズをプッシュプルゲージで押し、光学レンズがレンズホルダーから剥離するために要する力を求め、その力を接着面積(0.1256cm)で除した値である。
【0070】
【表1】

【0071】
上記実施例は、いずれも、光学レンズとレンズホルダーを一体成形した生産性の高い製造方法であるが、表1に示す結果より明らかなように、光学レンズとレンズホルダー間の優れた接着力が得られている。中でも、レンズホルダーを構成する樹脂として、ポリアミド12、ポリアミド66、TR−90を用いた場合接着力が優れており、特に、ポリアミド12、TR−90を用いた場合優れている。なお、ポリアミド66を用いた実施例2では、光学レンズの樹脂の白化が見られた。ポリアミド66の融点が高いため、射出成形時に光学レンズの樹脂の損傷、剥離が生じたもの思われる。
【符号の説明】
【0072】
1 光学レンズ−ホルダー複合体
2 光学レンズ
3 レンズホルダー
10 金型
11 上金型
9、12 下金型
8,15 キャビティー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズホルダーを構成する熱可塑性樹脂と光学レンズを構成する熱可塑性樹脂を二色成形する工程、及び、前記工程後、光学レンズを構成する熱可塑性樹脂及び/又はレンズホルダーを構成する熱可塑性樹脂を架橋する工程を有することを特徴とする光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法。
【請求項2】
前記二色成形が、310℃以下のシリンダー温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法。
【請求項3】
前記光学レンズを構成する樹脂が、透明ポリアミド樹脂、環状ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を主体とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法。
【請求項4】
前記レンズホルダーを構成する樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、及び環状ポリオレフィン樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂を主体とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法。
【請求項5】
前記架橋が、架橋助剤の存在下での電離放射線の照射による架橋であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法。
【請求項6】
さらに金属部材のインサートモールドが行われることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光学レンズ−ホルダー複合体の製造方法。
【請求項7】
光学レンズ及びそれを保持するレンズホルダーからなり、
前記光学レンズ及び前記レンズホルダーは、熱可塑性樹脂を主体として構成され、
前記光学レンズと前記レンズホルダーが、0.8N/cm以上の接着力で接着しており、
前記光学レンズ及び前記レンズホルダーを構成するいずれの樹脂成形体も、260℃での貯蔵弾性率が5×10Pa以上であることを特徴とする光学レンズ−ホルダー複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−243659(P2010−243659A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90231(P2009−90231)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】