説明

光学レンズのコーティング装置

【課題】レンズの反転操作が確実で位置ずれするおそれがなく、回転台に対して確実に装着することができる光学レンズのコーティング装置を提供する。
【解決手段】レンズの外周を保持するリング状のレンズ保持用治具16と、このレンズ保持用治具16が装着される回転台を備えた塗布容器12と、回転台を駆動する回転台用駆動装置と、レンズ2の被塗布面にコーティング溶液を適下するコーティング溶液滴下装置20と、レンズ保持用治具16を反転させる治具用反転装置17とを備えている。治具用反転装置17のハンド110は、レンズ保持用治具16の環状体の外周を径方向両側から把持する一対の把持部110A、110Bを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの表裏面にコーティング溶液を塗布する光学レンズのコーティング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学レンズ、特に眼鏡レンズの製作においては、遮光性、防眩性、調光性、耐擦傷性等を向上させるために、眼鏡レンズの光学面にその目的に応じた材質のコーティング被膜を形成することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されているスピンコート装置は、眼鏡レンズの両面にコーティング溶液を塗布するもので、レンズを保持するスピンコート保持具と、このスピンコート保持具を反転させる反転機構とを備えている。スピンコート保持具は、レンズの周囲を取り囲むリング状のフレームと、このフレームに取付けられレンズの外周を把持する複数の保持部と、これらの保持部の少なくとも1つに設けられ他の保持部側にレンズを付勢する付勢部材とを備えている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−021355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来のスピンコート装置においては、フレームの外周に設けた突出部を反転部に設けた1つの把持部によって把持して反転させる構造を採っているため安定性に欠け、反転させたときにスピンコート保持具が把持部に対して位置ずれするおそれがある。また、このような位置ずれが生じたスピンコート保持具をチャックに再装着すると、レンズが塗布部に対して位置ずれするため、コーティング溶液をレンズに滴下してスピンコートしたとき、コーティング溶液が被塗布面の全面にわたって均一に塗布されず、不良品が発生する場合が考えられる。さらに、スピンコート保持具をチャックに戻すとき、位置ずれしていると、チャックに設けられている複数の段差部間にはめ込むことができず、再装着に時間を要するといった問題もあった。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、レンズの反転操作が確実で位置ずれするおそれがなく、回転台に対して確実に装着することができる光学レンズのコーティング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、光学レンズの被塗布面にコーティング溶液を滴下して塗布する光学レンズのコーティング装置において、前記光学レンズの外周を保持する複数のレンズ保持手段を有するリング状のレンズ保持用治具と、前記レンズ保持用治具が載置される回転台を有する塗布容器と、前記回転台を回転させる回転台回転用駆動装置と、前記回転台を昇降させる回転台昇降用駆動装置と、前記レンズ保持用治具を把持して反転させる治具用反転装置と、前記塗布容器と前記治具用反転装置を相対的に接近離間させる機構と、前記光学レンズの被塗布面に前記コーティング溶液を滴下するコーティング溶液滴下装置と、前記レンズ保持用治具を前記回転台に位置決めする位置決め手段とを備え、前記治具用反転装置は、前記レンズ保持用治具の外周を径方向両側から把持する一対の把持部を有するハンドと、前記一対の把持部を開閉する把持部開閉用駆動装置と、前記ハンドを軸線回りに180°回転させるハンド反転用駆動装置と、前記ハンドを昇降させるハンド昇降用駆動装置とで構成されているものである。
【0008】
また、本発明は、レンズ保持用治具の反転時において、回転台が上昇して前記レンズ保持用治具を塗布容器の外部に突出させ、ハンドが回転台上のレンズ保持用治具を把持すると、上昇して前記レンズ保持用治具を反転させ、しかる後下降してレンズ保持用治具を前記回転台に再装着するものである。
【0009】
また、本発明は、ハンドがレンズ保持用治具の落下を防止する落下防止部材を備えているものである。
【0010】
また、本発明は、位置決め手段が、回転台とレンズ保持用治具にそれぞれ設けられ互いに係合する複数の突状体および係合穴とからなるものである。
【0011】
また、本発明は、コーティング溶液滴下装置が、それぞれ異なったコーティング溶液を収容する複数のシリンジを備えているものである。
【0012】
さらに、本発明は、上記発明において、ハンドの把持部は、レンズ保持用治具の外周の一部に係合する凹部を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、ハンドが一対の把持部によってレンズ保持用治具の外周を径方向から把持するので、安定した保持が得られ、位置ずれするおそれがない。
また、本発明においては、ハンドがレンズ保持用治具を把持すると、上昇してレンズ保持用治具を反転させるため、反転時にレンズ保持用治具が回転台や塗布容器に当接するといった事故を未然に防止することができる。
また、本発明においては、ハンドが落下防止部材を備えているので、レンズ保持用治具を把持して反転させたとき、レンズ保持用治具が落下するようなことがない。
また、本発明においては、位置決め手段が複数の突状体と係合穴からなるので、レンズ保持用治具を確実に位置決めすることができ、位置ずれするようなことがない。
また、本発明においては、複数のシリンジを備えているので、シリンジを選択することにより異なったコーティング溶液を塗布することができる。
さらに、本発明においては、ハンドの把持部にレンズ保持用治具の外周の一部に係合する凹部と、レンズ保持用治具の滑りを防止する滑り止め部材を設けているので、レンズ保持用治具をより一層確実に把持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る光学レンズのコーティング装置の一実施の形態を示す外観斜視図、図2は同コーティング装置内の各種装置、部品等の配置関係を示す斜視図、図3は同コーティング装置の側断面図、図4は同コーティング装置の内部を示す概略平面図、図5はコーティング溶液滴下装置を退避させレンズ保持用治具を反転させるときの様子を示す平面図、図6はレンズをレンズ保持用治具に装着した状態を示す外観斜視図、図7は同レンズ保持用治具の断面図、図8は同レンズ保持用治具の要部の分解斜視図、図9は塗布容器の内部とその駆動装置を示す斜視図、図10は治具用反転装置の斜視図、図11は同治具用反転装置の側面図、図12はハンドの把持部の分解斜視図、図13はハンドによってレンズ保持用治具を把持した状態を示す斜視図、図14はコーティング溶液滴下装置の斜視図、図15はコーティング装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【0015】
図1〜図5において、全体を参照番号1で示すコーティング装置は、眼鏡レンズ(以下、レンズともいう)2の両光学面(被塗布面ともいう)2a、2b(図7)にコーティング溶液を順次滴下し、スピンコート法によって被塗布面の全面にわたって均一な膜厚に塗布する装置で、床面に設置された前後方向に長い立方体の筐体3を備えている。また、このコーティング装置1は、眼鏡フレームに装着される2枚一組からなるレンズ2に対してコーティング溶液の塗布作業を同時に行うことができる装置である。レンズ2に塗布するコーティング溶液としては、例えば遮光性、防眩性、耐擦傷性等のコーティング被膜、紫外線硬化型の調光用コーティング溶液等が用いられる。
【0016】
コーティング装置1の筐体3は、複数本のフレーム4を接合して形成した箱型の骨組構造体5と、この骨組構造体5の底板6と、骨組構造体5の内部を上下2つの室8A、8Bに仕切る基台7と、上方の室8Aの前面、上面、側面および背面を形成する複数枚の透明板9と、下方の室8Bの前面、側面および背面を形成する複数枚の扉10等で構成されている。
【0017】
上方の室8Aは、フィルター付きファン11によって清浄な空気が上から下に向けて供給されることにより内圧が大気圧より若干高いクリーンルームを形成している。上方の室8Aの内部には、2つの回転台13を内部に有する塗布容器12と、前記回転台13を駆動する回転台用駆動装置14(図9)と、前記回転台13上に載置されているレンズ保持用治具16を把持して反転させる左右一対の治具用反転装置17(図10〜図13)と、前記塗布容器12を前後方向に往復移動させる塗布容器用駆動装置18と、各レンズ2の被塗布面にコーティング溶液を滴下する左右一対のコーティング溶液滴下装置20等が配設されている。上方の室8Aの天井板を形成する透明板9aの上には、前記フィルター付きファン11が設置され、前面板9bには、作業者が腕を差し込む左右一対の開口部22が開設され、右側面には外部入力装置23が取付けられ、背面側には内部の空気を外部に排出する排気ダンパ24が取付けられている。さらに、上方の室8Aの前面下部には、レンズ保持用治具16を収納したトレー25を搬送する搬送部26が設けられている。
【0018】
一方、下方の室8Bには、制御盤(図示せず)、コーティング溶液の滴下量を調節するディスペンサコントローラ、エアの圧力を調整するレギュレータ(いずれも図示せず)、塗布容器12内のコーティング溶液を回収するタンク27等が配設されている。制御盤は、回転台用駆動装置14、治具用反転装置17、コーティング溶液滴下装置20等をシーケンス制御するためのもので、前記外部入力装置23が接続されている。外部入力装置23は、例えばタッチパネルボックスが用いられ、作業者がレンズ2の形状、種類、度数、塗布時間、回転台13の回転速度、時間、回転台用駆動装置14、治具用反転装置17等の動作タイミング、動作時間等を各レンズ2に応じて設定すると、その信号が制御盤に入力される。以下、上記装置等の構成についてさらに詳述する。
【0019】
図6および図7において、前記レンズ2は、被塗布面である凸側、および凹側の光学面2a、2bが所定の曲率半径の光学面に研磨仕上げされた円形のプラスチックレンズからなり、外径が例えば、65mm、70mm、75mm、80mm等の種類がある。このようなレンズ2は、図6〜図8に示すレンズ保持用治具16によって保持された後、トレー25に2枚一組で収納され、搬送部26の装填部26A(図4、図5)に挿入される。
【0020】
図6〜図8において、前記レンズ保持用治具16は、環状体31と、この環状体31に周方向に等間隔おいて配設され、レンズ2の縁面(コバ面)2cを保持する3つのレンズ保持手段32と、各レンズ保持手段32を前記環状体31にそれぞれ固定する固定手段としての3つボルト33等を備えている。
【0021】
前記環状体31は、レンズ2の外径より十分に大きい内径(例えば、110mmφ)を有することにより、レンズ2の外周を取り囲むリングからなり、上、下面にそれぞれ開口する3つの挿通孔(係合穴)34およびねじ取付用孔35と、内、外周面にそれぞれ開口する3つのロッド取付用孔36が形成されている。3つの挿通孔34は、環状体31の周方向に等間隔おいて形成されている。挿通孔34の各開口縁は、後述する位置決めピン(突状体)40、101(図9)の挿通を容易にするためにテーパ孔を形成している。ねじ取付用孔35は、環状体31の周方向に等間隔おいて、かつ挿通孔34と60°位相をずらして形成されている。また、ねじ取付用孔35は、環状体31の半径方向に長い長孔に形成されている。ロッド取付用孔36は、同じく環状体31の周方向に等間隔おいて、かつ挿通孔34と60°位相をずらして形成されることにより、前記ねじ取付用孔35にそれぞれ連通しており、内周面にはキー溝41が形成されている。
【0022】
前記環状体31の内周面には、スピンコーティング時の遠心力によりレンズ2の外周から飛散したコーティング溶液が当たって跳ね返りレンズ2に再付着するのを防止する跳ね返り防止部46が設けられている。この跳ね返り防止部46は、環状体31の内周面の全周にわたって一体に突設した断面形状がV字状の突状体によって構成されることにより、斜め上方と斜め下方に傾斜した2つの斜面46a、46bを有している。
【0023】
前記レンズ保持手段32は、レンズ2の縁面2cの周方向に等間隔離間した3箇所を保持するもので、前記環状体31のロッド取付用孔36に進退自在に配設された支持ロッド50と、この支持ロッド50の前端に取付けられた押圧ロッド51とを備えている。
【0024】
支持ロッド50は、円柱状に形成され、前記ロッド取付用孔36を進退自在に貫通し、下面にはキー溝41に摺動自在に嵌合するキー52が取付けられ、これによって支持ロッド50の回転を防止している。支持ロッド50の上面中央には、前記ボルト33がねじ込まれるねじ孔54が形成されており、これにより支持ロッド50が環状体31に固定される。
【0025】
支持ロッド50の外周面で環状体31の外周側に突出する後端部には、付勢用ばね56が装着されている。付勢用ばね56は、圧縮コイルばねからなり、支持ロッド50の後端に突設した鍔57と環状体31の外周との間に弾装されることにより、支持ロッド50を環状体31の径方向外方に付勢している。
【0026】
前記押圧ロッド51は、円柱状に形成され、長手方向中央部の背面部(レンズ側とは反対側の部位)が前記支持ロッド50の前端に連結ピン58によって連結されている。このため、押圧ロッド51の外周面中央部で支持ロッド50の前端面と対向する部分には、支持ロッド50の前端部が嵌合する嵌合凹部59が形成されている。嵌合凹部59の高さは、支持ロッド50の外径と略等しい。連結ピン58は、前端側が嵌合凹部59の垂直壁に形成した嵌合孔60に嵌合され、後端側が支持ロッド50の前端面に形成した嵌合孔61に嵌合されている。嵌合孔60は、凹部59の中心より上方に形成され、嵌合孔61は、支持ロッド50の中心より上方に変位して形成され、これによって押圧ロッド51の支持ロッド50に対する回転を防止している。なお、支持ロッド50と押圧ロッド51は、互いに直交し、側面視横向きのT字状に形成されている。
【0027】
押圧ロッド51の前面側中央部、すなわち前記嵌合凹部59が形成されている背面側中央部とは反対側の部位は、レンズ2の縁面2cを押圧して保持するレンズ押圧部63を形成している。このレンズ押圧部63は、前記支持ロッド50の軸線の延長上に位置し、レンズ2の縁面2cを線接触または面接触状態で押圧し保持する。押圧ロッド51の外周には、ゴム、合成樹脂等の軟質材によって円筒状に形成されたキャップ64が被冠されており、これによりレンズ2が傷付いたり滑ったりするのを防止している。
【0028】
このようなレンズ保持用治具16にレンズ2を装着するときは、プレート65上に配設したレンズ受け66の上にレンズ2を載置し、さらに環状体31をプレート65上に中心をレンズ2の中心に略一致させて載置する。また、治具用プレート65には、3本の位置決め用ピン40が突設されており、これらのピン40を環状体31の挿通孔34にそれぞれ挿入することにより環状体31をプレート65に対して位置決めする。
【0029】
次に、3つのレンズ保持手段32を適宜な治具組付装置によって付勢用ばね56に抗して同時に内側に移動させて押圧ロッド51のレンズ押圧部63をレンズ2の縁面2cに押し付ける。この状態でボルト33を環状体31のねじ孔54にねじ込んで支持ロッド50をロッド取付用孔36に固定すると、レンズ2が3つのレンズ保持手段32によって保持される。図6はこの状態を示す。このようなレンズ保持用治具16によるレンズの保持は、左眼用のレンズと、右眼用のレンズについてそれぞれ行われる。そして、右眼用と左眼用のレンズをそれぞれ保持した2つのレンズ保持用治具16は、トレー25に収納される。
【0030】
図1および図4において、前記トレー25は、プラスチックの射出成形によって上方に開放した矩形の箱型に形成され、2つのレンズ保持用治具16を収納し得る大きさを有している。
【0031】
前記搬送部26は、筐体3の幅より長い長さを有することにより、両端部が上方の室8Aの左右に突出し、図1および図4において右側部分がトレー25の装填部26Aを形成し、左側部分がトレー25の取り出し部26Bを形成し、中央部が上方の室8A内にあってレンズ2の受け渡し部26Cを形成している。搬送部26によるトレー25の搬送には、搬送機構70が用いられる。この搬送機構70は、2本の無端ベルト71、71と、これらの無端ベルト71、71を同期して走行させる図示を省略したモータと、このモータの回転を無端ベルト71、71に伝達する歯車、プーリ等の回転伝達機構(図示せず)とで構成されている。
【0032】
図2〜図4および図9において、前記塗布容器12は、上方に開放する左右方向に長い矩形の箱体からなり、前記上方の室8Aの内部中央に配設されている。また、この塗布容器12は、基台7上に敷設したリニアガイド81に沿って前後移動自在に配設され、エアシリンダ82によってレンズ装着位置S1 と治具反転位置S2 間を往復移動するように構成されている。リニアガイド81とエアシリンダ82は、塗布容器12を治具用反転装置17に対して接近離間させる機構を構成している。
【0033】
レンズ装着位置S1 は、前記受け渡し部26Cに停止したトレー25からレンズ保持用治具16を取り出して塗布容器12の回転台13に装着したり、レンズ2にコーティング溶液を滴下してスピンコートしたり、スピンコートが終了した後のレンズ保持用治具16を回転台13から取り外して、トレー25に戻す位置、すなわちレンズ保持用治具16の受け渡し、受け取り位置であり、上方の室8Aの内部前方位置である。
【0034】
治具反転位置S2 は、レンズ保持用治具16を反転させる位置で、上方の室8Aの内部後方位置である。
【0035】
前記塗布容器12は、配管86(図3)によってコーティング溶液回収用のタンク27に接続されている。塗布容器12の上面板87(図2)には、2つの開口部88が各回転台13に対応して形成されている。開口部88は、回転台13およびレンズ保持用治具16より大きな穴径を有している。
【0036】
図9において、前記回転台用駆動装置14は、2つの回転台13を同時に昇降させる回転台昇降用駆動装置90と、回転台13を個々独立に回転させる2つの回転台回転用駆動装置91、91とで構成されている。回転台昇降用駆動装置90は、塗布容器12の底板92の中央に上向きに設置されたエアシリンダ93を備え、これによって昇降板94を昇降させるように構成されている。昇降板94は、前記底板92上に立設した2本のガイド95、95に摺動自在に支持されており、中央が前記エアシリンダ93の可動ロッド96の上端に固定されている。
【0037】
前記回転台回転用駆動装置91は、前記昇降板94の下面両端部に各回転台13に対応してそれぞれ上向きに取付けられたステッピングモータからなり、その出力軸98に回転台13の回転軸99がカップリング100を介して連結されている。
【0038】
前記回転台13は、前記レンズ保持用治具16と略等しい大きさの円盤からなり、上面外周部に3本の位置決め用ピン(突状体)101が同一円周上に等間隔おいて突設されている。これらの位置決めピン101は、レンズ保持用治具16が回転台13上に載置されたとき、環状体31の挿通孔34に挿入されることにより、環状体31を回転台13に対して位置決めする。なお、回転台13は、コーティング溶液の滴下時とスピンコーティング時の回転速度が1〜5000rpmの間で自由に調整可能である。例えばコーティング溶液の螺旋状塗布工程時の回転数は50〜500rpm程度であり、液をレンズ2上で広げる工程での回転数は50〜500rpm程度であり、余分な液を飛散させるスピンコーティング時の回転数は300〜3000rpm程度である。コーティング溶液の粘土、形成する膜厚等を考慮して、各工程時に最適な回転数に調整して行なう。
【0039】
図10〜図13において、前記治具用反転装置17は、レンズ保持用治具16に保持されているレンズ2の下になっている面2bにコーティング溶液を塗布する際に、レンズ保持用治具16を反転させて回転台13上に再装着するもので、環状体31の外周で互いに対向する左右2箇所を把持する開閉自在な一対の把持部110A、110Bを有するハンド110と、一対の把持部110A、110Bを開閉する把持部開閉用駆動装置112と、レンズ保持用治具16の反転時にハンド110をその軸113の周りに180°回転させるハンド反転用駆動装置114と、ハンド110を昇降させるハンド昇降用駆動装置115とを備えている。
【0040】
把持部開閉用駆動装置112、ハンド反転用駆動装置114およびハンド昇降用駆動装置115としては、エアシリンダが用いられる。ハンド110の各把持部110A、110Bは、環状体31の高さと略等しい高さを有し、先端部内側面には、環状体31を挟んで把持する際、外周の一部に係合する位置決め用の凹部120が形成され、さらに、把持部110A、110Bの先端部外側面には、環状体31を把持した際の落下を防止する側面視コ字状の落下防止部材122が固定されており、その内側端部が把持部110A、110Bの内側に突出し、凹部120の上方および下方を覆っている。
【0041】
図2、図4、図5および図14において、左右一対のコーティング溶液滴下装置20は、上側の室8Aの内部両側部に塗布容器12内の各回転台13に対応して配設されている。このコーティング溶液滴下装置20は、筐体3のフレーム4に固定された前後方向に長いリニアガイド130と、このリニアガイド130に摺動自在に配設されたスライダー131と、このスライダー131をリニアガイド130に沿って前後移動させるスライダー移動用駆動装置132と、昇降プレート135に着脱可能に搭載された第1、第2のシリンジ134A、134Bと、前記昇降プレート135を昇降させる昇降用駆動装置136等で構成されている。第1、第2のシリンジ134A、134Bは、下端のニードル137が回転台13の上方で、回転台13の中心を通る前後方向の仮想直線上に位置するように昇降プレート135に取付けられており、コーティング溶液の塗布時にいずれか一方が選択的に使用される。このようなコーティング溶液滴下装置20は、コーティング溶液の滴下時において図4に実線で示すようにレンズ装着位置S1 側にあって、塗布容器12内のレンズ2にコーティング溶液を滴下し、コーティング溶液の塗布が終了して、レンズ2を高速回転にてスピンコートする際、コーティング溶液滴下装置20は一時的に治具反転位置S2 に移動する。スピンコート終了後、レンズ2をレンズ保持用治具16とともに反転させるとき、図5で示すように塗布容器12が治具反転位置S2 に移動するのと同時に、コーティング溶液滴下装置20はレンズ装着位置S1 側に退避される。
【0042】
前記第1、第2のシリンジ134A、134B内のコーティング溶液は、所定圧力のエアが加えられることによりニードル137から一定量押し出され、レンズ2の被塗布面2aに滴下される。
【0043】
次に、上記構造からなるコーティング装置1の動作を図15に示すフローチャートに基づいて説明する。
先ずステップ100において、適宜に治具組付装置によって左眼用と右眼用の2つのレンズ2をそれぞれレンズ保持用治具16に装着する。装着に際しては、図6に示すようにレンズ2を治具組付装置のレンズ受け66上に被塗布面2aを上に向けて載置する。また、プレート65の上に環状体31を載置し、3つの支持ロッド50を付勢用ばね56に抗して内側に同時に移動させ、各押圧ロッド51をレンズ2のコバ面2cに押し付けてレンズ2を保持する。そして、この状態でボルト33を締め付けて全ての支持ロッド50を環状体31に固定する。
【0044】
次に、レンズ2をそれぞれ保持した2つのレンズ保持用治具16をトレー25に収納する(ステップ101)。また、トレー25を搬送部26の装填部26Aに装填する。トレー25は、搬送部26の装填部26Aに装填されると、無端ベルト71の走行によって受け渡し部26Cに搬送されて停止する(ステップ102)。無端ベルト71は、作業者が足でフットスイッチ72(図1)をON操作することにより走行し、センサー(不図示)で感知して定位置で停止する。そして、トレー25が受け渡し部26Cに停止すると、作業者は腕を開口部22から受け渡し部26C内に差し込み、トレー25内の2つのレンズ保持用治具16を順次取り出して塗布容器12内の各回転軸13に順次装着する(S103)。
【0045】
このとき、塗布容器12は、レンズ装着位置S1 に停止している。また、回転台13は、レンズ保持用治具16が装着されるとき、予め上昇して塗布容器12の上方に突出している。レンズ保持用治具16は、位置決めピン101が環状体31の挿通孔34に挿通されることで回転台13に装着され、レンズ2の中心を回転台13の回転中心に略一致させる。なお、空になったトレー25は、レンズ2へのコーティング溶液の滴下、塗布が終了し、レンズ保持用治具16が再びトレー25に戻されるまで受け渡し部26Cに待機している。
【0046】
レンズ保持用治具16の回転台13への装着が終了すると、回転台13は塗布容器12内部へ下降し、コーティング溶液滴下装置20によって塗布容器12内のレンズ2の被塗布面2aにコーティング溶液を滴下する(ステップS104)。コーティング溶液の滴下に際して、第1のシリンジ134Aに収容されているコーティング溶液を滴下するときは、予めスライダー131(図14)を移動させて第1のシリンジ134Aをレンズ2の上方に位置させておく。そして、昇降用駆動装置136を駆動して昇降プレート135と第1、第2のシリンジ134A、134Bを下降させ、第1のシリンジ134A内のコーティング溶液をエアによる加圧によってレンズ2の被塗布面2aに所定量滴下する。コーティング溶液を滴下する際は、回転台13を低速回転させ、スライダー131の移動によってレンズ2の外周から中心(またはこの逆)に向かってコーティング溶液を螺旋状に滴下する。なお、第2のシリンジ134B内のコーティング溶液を滴下する際は、塗布容器12を治具反転位置S2 の位置に移動させた後、第2のシリンジ134Bをレンズ2の上方に位置させておけばよい。
【0047】
コーティング溶液の滴下が終了すると、次に、ステップ105において、コーティング溶液滴下装置20を治具反転位置S2 に一次退避させる。その後、回転台13を高速回転させ、コーティング溶液を遠心力によって薄く伸ばし被塗布面2aの全面にわたって均一な膜厚に塗布する(ステップ106)。
【0048】
コーティング溶液のスピンコーティングが終了すると、塗布容器12は治具反転位置S2 に移動し、同時にコーティング溶液滴下装置20は反対のレンズ装着位置S1 側に移動する(ステップ107)。そして、回転台13を上昇させて塗布容器12の上方にレンズ保持用治具16を突出させる(ステップ108)。レンズ保持用治具16が塗布容器12の上方に突出すると、レンズ保持用治具16の高さで、一対の把持部110A、110Bを開いて待機している治具用反転装置17が作動しハンド110が閉じる。これら把持部によってレンズ保持用治具16の環状体31の外周2箇所を把持する(ステップ109)。ハンド110が環状体31を把持すると、ハンド110を一定高さ上昇させ(ステップ110)、その位置で180°回転させることによりレンズ保持用治具16を反転させる(ステップ111)。このようにコーティング溶液滴下装置20をレンズ装着位置S1 に退避させておき、ハンド110を上昇させてレンズ保持用治具16を反転させたとき、レンズ保持用治具16が回転台13や塗布容器12やコーティング溶液滴下装置20に衝突するおそれがなく、確実に反転させることができる。
【0049】
レンズ保持用治具16を反転させると、レンズ2も反転するため、コーティング溶液が塗布された光学面2aが下になり、今まで下になっていた光学面2bが上になり被塗布面となる。なお、ハンド110は、その回転軸113を中心として180°回転してレンズ保持用治具16を反転させる。また、一対の把持部110A、11Bは、回転軸113の両側に等距離離れて設けられているので、レンズ保持用治具16を反転させても、レンズ保持用治具16の中心が前後、左右方向に位置ずれすることはない。
【0050】
ハンド110は、レンズ保持用治具16を反転させると、下降してレンズ保持用治具16を回転台13に再装着する(ステップ112)。このとき、位置決めピン101が環状体31の挿通孔34に挿入することで、環状体31を回転台13に対して位置決めし、レンズ2の中心を回転台13の中心に略一致させる。レンズ保持用治具16を回転台13に再装着すると、ハンド110は一対の把持部110A、110Bを開放した初期状態に復帰する。
【0051】
レンズ保持用治具16が回転台13に再装着されると、回転台13は下降し、塗布容器12の中に収納される。その後塗布容器12はレンズ装着位置S1 側に移動し(ステップ113)、レンズ装着位置S1 側で待機していたコーティング溶液滴下装置20の第1のシリンジ134A内のコーティング溶液を上記と同様に、レンズ2の被塗布面2bに滴下する(ステップS114)。
【0052】
また、第2のシリンジ134Bを用いて別種類のコーティング溶液を塗布する場合は、塗布容器12は治具反転位置S2 の位置のまま、コーティング溶液滴下装置20が治具反転位置S2 側へ移動してきて(ステップ113’)、上記と同様にレンズ2の被塗布面2bに滴下する。
【0053】
コーティング溶液の滴下が終了すると、回転台13を高速回転させ、コーティング溶液を遠心力によって薄く伸ばし被塗布面2bの全面にわたって均一な膜厚に塗布する(ステップ115)。
【0054】
コーティング溶液のスピンコーティングが終了すると、回転台13が上昇し、レンズ保持用治具16が塗布容器12上に現れる。レンズ保持用治具16を取り出し、受け渡し部26Cに待機している空のトレー25内に収納する(ステップS117)。トレー25にレンズ保持用治具16を収納すると、無端ベルト71を走行させ、トレー25を取り出し部26Bに搬送し(ステップ118)、内部のレンズ保持用治具16を取り出し、コーティング溶液の滴下、塗布を終了する。第2のシリンジ134Bを用いた場合は、コーティング溶液のスピンコーティング終了後、塗布容器12がレンズ装着位置S1 側へ移動してから(ステップ116)、回転台13が上昇し、以下、ステップ117以降は上記と同様の工程になる。
【0055】
引き続き、次のレンズにコーティング溶液を滴下、塗布するときは、上記ステップS100〜S118を繰り返せばよい。また、光学面2bにコーティング溶液を塗布しないときは、上記ステップS106の後、ステップS107〜S115を省略し、ステップS116〜S118を実行してレンズ保持用治具16をトレー25から取り出せばよい。
【0056】
このように本発明に係るコーティング装置1は、治具用反転装置17を備え、これによってレンズ2を保持しているレンズ保持用治具16を治具反転位置S2 で反転させるようにしているで、装置を一時停止してレンズ保持用治具をコーティング装置1の外部に取り出し、反転させる必要がなく、コーティング作業を大幅に短縮することができ、生産性、装置の稼働率を向上させることができる。
【0057】
また、治具用反転装置17は、ハンド110が一対の把持部110A、110Bによって環状体31の外周を径方向両側から把持するので、環状体31の把持が確実で反転させても位置ずれせず、確実に反転させることができる。
【0058】
また、レンズ保持用治具16を反転させるときは、ハンド110を上昇させ、コーティング溶液滴下装置20をレンズ装着位置S1 側に退避させて行うので、レンズ保持用治具16が塗布容器12や回転台13やコーティング溶液滴下装置20に当たったりすることがなく、これらの破損を未然に防止することができる。
【0059】
また、2枚のレンズ2のコーティング処理を同時に並行して行うことができるので、生産性を一層向上させることができる。
【0060】
さらに、コーティング溶液滴下装置20に2つのシリンジ134A、134Bを装着しているので、光学面2a、2bに異なったコーティング溶液を塗布することが可能である。
【0061】
なお、上記した実施の形態は、眼鏡レンズ2にコーティング被膜を形成する例について説明したが、本発明はコーティング液の種類について何ら特定されるものではなく、遮光性、防眩性、調光性、耐擦傷性等のコーティング被膜を形成する場合にも適用することが可能である。
【0062】
また、上記した実施の形態では、塗布容器12を移動自在に配設し、レンズ装着位置S1 と治具反転位置S2 間を往復移動させるように構成したが、本発明はこれに限らず塗布容器12を固定配置し、治具用反転装置17を移動させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は眼鏡レンズに限らずカメラ等の光学レンズにも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る光学レンズのコーティング装置の一実施の形態を示す外観斜視図である。
【図2】同コーティング装置内の各種装置、部品等の配置関係を示す斜視図である。
【図3】同コーティング装置の側断面図である。
【図4】同コーティング装置の内部を示す概略平面図である。
【図5】コーティング溶液滴下装置を退避させレンズ保持用治具を反転させるときの様子を示す平面図である。
【図6】レンズをレンズ保持用治具に装着した状態を示す外観斜視図である。
【図7】同レンズ保持用治具の断面図である。
【図8】同レンズ保持用治具の要部の分解斜視図である。
【図9】塗布容器の内部とその駆動装置を示す斜視図である。
【図10】治具用反転装置の斜視図である。
【図11】同治具用反転装置の側面図である。
【図12】ハンドの把持部の分解斜視図である。
【図13】ハンドによってレンズ保持用治具を把持した状態を示す斜視図である。
【図14】コーティング溶液滴下装置の斜視図である。
【図15】コーティング装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1…コーティング装置、2…眼鏡レンズ、2a、2b…被塗布面、12…塗布容器、13…回転台、16…レンズ保持用治具、17…治具反転用装置、18…塗布容器用駆動装置、20…コーティング溶液滴下装置、31…環状体、32…レンズ保持手段、34…挿通孔(係合穴)、90…回転台昇降用駆動装置、91…回転台回転用駆動装置、101…位置決めピン(突状体)、110…ハンド、110A、110B…把持部、112…把持部開閉用駆動装置、114…ハンド反転用駆動装置、115…ハンド昇降用駆動装置、120…凹部、122…落下防止部材、134A、134B…シリンジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズの被塗布面にコーティング溶液を滴下して塗布する光学レンズのコーティング装置において、
前記光学レンズの外周を保持する複数のレンズ保持手段を有するリング状のレンズ保持用治具と、
前記レンズ保持用治具が載置される回転台を有する塗布容器と、
前記回転台を回転させる回転台回転用駆動装置と、
前記回転台を昇降させる回転台昇降用駆動装置と、
前記レンズ保持用治具を把持して反転させる治具用反転装置と、
前記塗布容器と前記治具用反転装置を相対的に接近離間させる機構と、
前記光学レンズの被塗布面に前記コーティング溶液を滴下するコーティング溶液滴下装置と、
前記レンズ保持用治具を前記回転台に位置決めする位置決め手段とを備え、
前記治具用反転装置は、前記レンズ保持用治具の外周を径方向両側から把持する一対の把持部を有するハンドと、前記一対の把持部を開閉する把持部開閉用駆動装置と、前記ハンドを軸線回りに180°回転させるハンド反転用駆動装置と、前記ハンドを昇降させるハンド昇降用駆動装置とで構成されていることを特徴とする光学レンズのコーティング装置。
【請求項2】
請求項1記載の光学レンズのコーティング装置において、
レンズ保持用治具の反転時において、前記回転台が上昇して前記レンズ保持用治具を前記塗布容器の外部に突出させ、前記ハンドが回転台上のレンズ保持用治具を把持すると、上昇して前記レンズ保持用治具を反転させ、しかる後下降してレンズ保持用治具を前記回転台に再装着することを特徴とする光学レンズのコーティング装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の光学レンズのコーティング装置において、
前記ハンドが、前記レンズ保持用治具の落下を防止する落下防止部材を備えていることを特徴とする光学レンズのコーティング装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項記載の光学レンズのコーティング装置において、
前記位置決め手段が、回転台とレンズ保持用治具にそれぞれ設けられ互いに係合する複数の突状体および係合穴とからなることを特徴とする光学レンズのコーティング装置。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項記載の光学レンズのコーティング装置において、
前記コーティング溶液滴下装置が、それぞれ異なったコーティング溶液を収容する複数のシリンジを備えていることを特徴とする光学レンズのコーティング装置。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項記載の光学レンズのコーティング装置において、
前記ハンドの把持部が、前記レンズ保持用治具の外周の一部に係合する凹部を有することを特徴とする光学レンズのコーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−91849(P2010−91849A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262737(P2008−262737)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】