説明

光学ローパスフィルタ、撮像装置ユニット、ディジタルカメラおよび携帯情報端末装置

【課題】 偽色やモアレを十分に抑制しつつ、解像度を極力損なわない光学ローパスフィルタを提供する。
【解決手段】 結像光学系と電子撮像素子との間に正のパワーを有する光学ローパスフィルタP1を配置する。光学ローパスフィルタP1は、前記電子撮像素子の画素ピッチをpとし、空間周波数uにおけるe線での前記結像光学系の光軸上でのMTFをM10(u)とし、空間周波数uにおけるe線での結像光学系の最大像高の8割の高さでのMTFをM1(u)とし、空間周波数uにおける光軸上での前記光学ローパスフィルタのMTFをM20(u)とし、空間周波数uにおける最大像高8割の主光線が前記光学ローパスフィルタに入射する高さでの前記光学ローパスフィルタのMTFをM2(u)としたとき、次の条件:
0.9<(M1(u)×M2(u))/(M10(u)×M20(u))<1.3
但し、u=1/4p
を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ローパスフィルタに関し、より詳細には、電子撮像素子の素子ピッチと被写体のある特定の空間周波数との干渉による色モアレ(偽色)等のノイズを軽減ないしは除去し得る光学ローパスフィルタおよびこの光学ローパスフィルタを有する撮像装置ユニット、この撮像装置ユニットを有するディジタルカメラおよび携帯情報端末装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年においては、ディジタルカメラまたは電子カメラ等と称され、被写体像を、例えばCCD(電荷結合素子)撮像素子等の固体撮像素子により撮像し、被写体の静止画像(スティル画像)または動画像(ムービー画像)の画像データを得て、フラッシュメモリに代表される不揮発性半導体メモリ等にディジタル的に記録するタイプのカメラが、一般化している。このようなディジタルカメラの市場は非常に大きなものとなっており、ディジタルカメラに対するユーザの要求も広範囲に且つ高度になってきている。特に、広画角化、小型化ならびに低価格化と相俟って、画像の高画質化に対する要求が強い。
ところで、このようなディジタルカメラ等における撮影光学系のように、CCD等の電子撮像素子を受光素子として用いる光学系においては、撮像素子にほぼ垂直に光線を入射させる必要があること、そして光学系と撮像素子との間に光学的ローパスフィルタおよび赤外カットフィルタ等のようなフィルタ類を配置する必要がある。
撮像素子にCCDのような電子撮像素子を用いた機器においては、電子撮像素子の素子ピッチと被写体のある特定の空間周波数との干渉による色モアレ等のノイズを防止または軽減するために、結像光学系と電子撮像素子との間に光学ローパスフィルタを配置したものがある。
【0003】
しかしながら、光学ローパスフィルタの効果を強めすぎると、色モアレ等のノイズの低減効果は高まるものの、解像力が低下し、細かい(空間周波数の高い)被写体の再現性が悪化するという問題もある。また一般的に、結像光学系は像面中心に比べ、画面周辺での性能が若干低い、すなわち画面中心のMTFより画面周辺のMTFが低い。従って、複屈折材料の平行平板による従来からの光学ローパスフィルタでは、フィルタの周波数特性は一定の厚みで一意的に決定されるため、画面中心部で最適化すると画面周辺部の解像力が低下し、逆に画面周辺部で最適化すると画面中心部ではノイズが発生しやすくなるという問題がある。
ところで、このような問題に着眼してなされた発明として、特許文献1(特開2001−117139号公報)がある。
この特許文献1には、撮像レンズの光軸に対応するフィルタ中心から周部にわたって漸次変化する複数の板厚をもって構成してなる光学ローパスフィルタおよび撮像レンズにより撮像素子上に被写体画像を結像させ、この撮像素子上に結像させた被写体画像を取り込んで、その画像データを記録する撮像装置において、上述したローパスフィルタを上記撮像レンズの光軸上にフィルタの中心を位置させて配設してなる撮像装置が記載されている。
【0004】
上記特許文献1に記載の光学ローパスフィルタは、フィルタ中心から周部にわたって、段階的に薄くなる板厚を有してなることから、像高が低い撮像レンズ光軸付近における偽解像や偽色を軽減し、且つ像高が高い撮像レンズ周部付近における偽解像や偽色もある程度軽減することができる、とされている。しかしながら、板厚を複数段階に変化させてなるものであるため、肉厚の異なる部分の影が映るおそれがあると共に、具体的解決手段についての記載がなく、周辺部の解像性能の劣化を防ぎ像面全体にわたって良好な像を得ることは困難である。
【0005】
【特許文献1】特開2001−117139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、請求項1の目的とするところは、偽色やモアレを十分に抑制しつつ、且つ解像度を極力損なわない光学ローパスフィルタを提供することにある。
本発明の請求項2の目的は、簡単な構成で、密閉構造を実現し得る光学ローパスフィルタを提供することにある。
本発明の請求項3の目的は、中心から周辺に向かってのローパスフィルタ効果の変化の具合を、より適切に変化させることが可能な光学ローパスフィルタを提供することにある。
本発明の請求項4の目的は、偽色やモアレを十分に抑制しつつ且つ画面全体にわたって解像度を極力損なわない撮像装置ユニットを提供することにある。
本発明の請求項5の目的は、偽色やモアレを十分に抑制しつつ且つ撮像画面全体にわたって解像度を極力損なわないディジタルカメラを提供することにある。
本発明の請求項6の目的は、偽色やモアレを十分に抑制しつつ且つ撮像画面全体にわたって解像度を極力損なわない携帯情報端末装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載したフィルタは、上述した目的を達成するために、結像光学系と電子撮像素子との間に配置される光学ローパスフィルタにおいて、正のパワーを有し、前記電子撮像素子の画素ピッチをpとし、空間周波数uにおけるe線での前記結像光学系の光軸上でのMTFをM10(u)とし、空間周波数uにおけるe線での結像光学系の最大像高の8割の高さでのMTFをM1(u)とし、空間周波数uにおける光軸上での前記光学ローパスフィルタのMTFをM20(u)とし、空間周波数uにおける最大像高8割の主光線が前記光学ローパスフィルタに入射する高さでの前記光学ローパスフィルタのMTFをM2(u)としたとき、次の条件:
0.9<(M1(u)×M2(u))/(M10(u)×M20(u))<1.3
但し、u=1/4p
を満足することを特徴としている。
請求項2に記載した発明に係る光学ローパスフィルタは、入射側または射出側のいずれか一方の面が平面であることを特徴としている。
請求項3に記載した発明に係る光学ローパスフィルタは、入射側または射出側のいずれか一方の面が非球面で形成されていることを特徴としている。
【0008】
請求項4に記載した発明に係る撮像装置ユニットは、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタを有することを特徴としている。
請求項5に記載した発明に係るディジタルカメラは、前記請求項4に記載の前記撮像装置ユニットを有することを特徴としている。
請求項6に記載した発明に係る携帯情報端末装置は、前記請求項4に記載の前記撮像ユニットを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1に記載の光学ローパスフィルタによれば、結像光学系と電子撮像素子との間に配置される光学ローパスフィルタにおいて、正のパワーを有し、前記電子撮像素子の画素ピッチをpとし、空間周波数uにおけるe線での前記結像光学系の光軸上でのMTFをM10(u)とし、空間周波数uにおけるe線での結像光学系の最大像高の8割の高さでのMTFをM1(u)とし、空間周波数uにおける光軸上での前記光学ローパスフィルタのMTFをM20(u)とし、空間周波数uにおける最大像高8割の主光線が前記光学ローパスフィルタに入射する高さでの前記光学ローパスフィルタのMTFをM2(u)としたとき、次の条件:
0.9<(M1(u)×M2(u))/(M10(u)×M20(u))<1.3
但し、u=1/4p
を満足する構成としたので、画面全体にわたって解像力の低下を起こすことなく、モアレや偽色等のノイズを的確に軽減乃至は除去し得る光学ローパスフィルタを提供する。
また、請求項2に記載の光学ローパスフィルタによれば、入射側または射出側のいずれか一方の面を平面に形成したので、電子撮像素子に異物が付着するのを防止する密閉構造を構成する際に簡単な構造で、密閉構造を実現することができる。
【0010】
また、請求項3に記載の光学ローパスフィルタによれば、入射側または射出側のいずれか一方の面が非球面で形成されているので、単に球面で正のパワーを持たせるものに比べ、中心から周辺に向ってのローパス効果の変化の度合いをより適切に、即ちより細かく、より微妙に変化させることが可能となる。
請求項4に記載の撮像装置ユニットによれば、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタを有する構成としたので、画面全体にわたって解像力の低下を起こすことなく、モアレや偽色等のノイズを的確に軽減乃至は除去することができる。
また、請求項5に記載のディジタルカメラによれば、前記請求項4に記載の前記撮像装置ユニットを有する構成としたので、画面全体にわたって解像力の低下を起こすことなく、モアレや偽色等のノイズを的確に軽減乃至は除去することができると共に、さらに、CCD等の撮像素子を用いる撮像装置ユニットにおいては、撮像素子にほぼ垂直に光線を入射させるために、結像光学系の射出瞳位置を撮像素子から遠ざける必要があるが、撮像素子直前に配置される光学ローパスフィルタに正のパワーを持たせることは、射出瞳を遠ざけるとこにも有効となる。
また、請求項6に記載の携帯情報端末装置によれば、前記請求項4に記載の前記撮像ユニットを有する構成としたので、上記請求項5に記載のディジタルカメラの奏する効果と同等の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施の形態に基づき、図面を参照して本発明の光学ローパスフィルタ、撮像装置ユニット、ディジタルカメラおよび携帯情報端末装置を詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態であると共に、数値実施例である結像光学系と光学ローパスフィルタの構成を示す断面図である。
本発明に係る結像光学系は、単焦点レンズであって、物体側から像面側に向かって、順次、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第1レンズE1、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズからなる第2レンズE2、物体側に強い凸面を向けた両凸レンズからなる第3レンズE3、像面側に強い凸面を向けた両凸レンズからなる第4レンズE4、物体側に強い凹面を向けた両凹レンズからなる第5レンズE5、像面側に強い凸面を向けた両凸レンズからなる第6レンズE6を配置してなる。前記第4レンズE4と第5レンズE5とは、互いに密接して一体に接合してなる接合レンズである。
第1レンズE1と第2レンズE2と第3レンズE3とを一体的に支持することにより前群GFを構成し、前記第4レンズE4と第5レンズE5、第6レンズE6とを、一体に支持することにより、後群GRを構成してなり、後群GRを移動させることによって物体距離、即ち、被写体距離の変化による焦点位置の調整、即ち、ピント合わせを行う。このような構成とすることにより、小型で且つ広画角および大口径を実現して、しかも広画角化した場合のピント合わせ時の像面の平面性の劣化を有効に補償し、被写体距離にかかわらず高性能を得ることが可能となる。
【0012】
ここで、被写体が無限遠から近距離へ近づくと、周辺像の最良面は、画面中心に対して、光軸方向のプラス側(被写体から像面へ向かう方向をプラスとする)へ変化する。これに対し、前記前群と前記後群の間隔が狭くなるように変化すると、周辺像の最良面は、光軸方向のマイナス側へ変化する。無限遠被写体に合焦している状態から被写体位置が近距離へ変化した場合、ピントを合わせる(合焦させる)ために前記後群を移動させると、前記後群は被写体側へ移動することになる。すなわち、前記前群と前記後群との間隔が狭くなる。したがって、被写体距離の変化による周辺像最良面の変化を、ピント調整操作による前記前群と前記後群との間隔変化による周辺像最良面の移動が相殺することになる。この結果、被写体距離が変化しても周辺像最良面の位置がほぼ一定に保たれ、被写体距離変化による性能劣化を防止することができる。
図1において、前記結像光学系の背後、即ち、最も像面側の正の屈折力を有する第6レンズE6の像側面と像面FSとの間には、1枚の正の屈折力を有する光学ローパスフィルタP1と、平行平面ガラスP2とからなる光学フィルタOFが介挿され、偽解像や偽色を適切に除去する機能を果たす。
尚、光学ローパスフィルタP1については、本発明の実施例の説明において詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
次に、上述した本発明の実施の形態に基づく、具体的な数値実施例を詳細に説明する。以下に述べる実施例は、本発明に係る結像光学系の具体的数値例による具体的構成の実施例である。その後に、実施例に示されるような結像光学系を用いた撮像装置ユニット、ディジタルカメラまたは携帯情報端末装置の実施の形態を説明する。
本発明に係る結像光学系を示す実施例においては、結像光学系の構成およびその具体的な数値例を示している。
本発明のように結像光学系を構成することによって、充分な小型化を達成しながら非常に良好な結像性能を確保し得ることは、実施例から明らかとなるであろう。
以下の実施例に関連する説明においては、次のような各種記号を用いている。
光軸からの高さをHとするとき、面頂点から光軸方向の変位量をS、曲率半径をR、そして非球面係数をA2iとして、非球面は、次式(1)で定義される。
【0014】
【数1】


また、fは全系の焦点距離、面間隔はレンズ厚またはレンズ間隔に相当し、Ndはd線の屈折率、そしてνdはd線のアッベ数を示している。さらに、Kは、非球面の円錐定数、A4は、4次の非球面係数、A6は、6次の非球面係数、A8は、8次の非球面係数、A10は、10次の非球面係数とする。
【0015】
図1は、本発明の実施例に係る結像光学系の構成を示しており、光軸に沿った縦断面を模式的に示している。図1に示す結像光学系は、物体側から像面に向かって、順次、凸面を物体側に向けた負メニスカスタイプの負レンズからなる第1レンズE1、物体側に凸面を向けた負メニスカスタイプの負レンズからなる第2レンズE2、物体側に強い凸面を向けた両凸タイプの正レンズである第3レンズE3、絞りFA、像面側に強い凸面を向けた両凸タイプの正レンズである第4レンズE4と物体側に強い凹面を向けた両凹タイプの負レンズである第5レンズE5とを密接して貼り合わせてなる接合レンズ、像面側に強い凸面を向けた両凸タイプの正レンズである第6レンズE6を配置した構成となっている。第1レンズE1〜第3レンズE3が前群GFを構成し、第4レンズE4〜第6レンズE6が後群GRを構成する。この後群GRを絞りFAと共に繰り出し移動させてピント合わせを行う。
【0016】
例えば、ディジタルスティルカメラのようにCCD撮像素子等の固体撮像素子を用いるタイプのカメラの撮影光学系では、第6レンズE6の最終面と像面FSとの間に、本願発明に係る光学ローパスフィルタ、赤外カットフィルタおよびCCD撮像素子の受光面を保護するためのカバーガラス類の少なくともいずれかを構成する、例えば正のパワーを有する光学ローパスフィルタP1および例えば赤外カットフィルタP2が挿入される。したがって、図4および図6に示すMTF特性図は、いずれも結像レンズの最終面13と像面FSとの間に2枚のフィルタP1およびP2が入った状態での特性を示している。なお、図1には、各光学面の面番号も付して示している。
この実施例においては、焦点距離f=5.9mm、Fナンバ=2.4、そして半画角ω=38.6°としている。
各光学系の特性は、次表(表1)の通りである。
【0017】
【表1】

【0018】
表1において、面番号にアスタリスク「*」を付した第4面、第12面、第13面および第14面の各光学面が非球面であり、各非球面の上記(1)式におけるパラメータは、次表(表2)の通りである。
【0019】
【表2】

【0020】
次に、本発明に係る光学ローパスフィルタの実施例について説明する。
本発明に係る光学ローパスフィルタP1の実施例は、焦点距離f=5.9mm、Fナンバ2.4の結像レンズと、画素ピッチp=2.5×10−3mの電子撮像素子を用い、それらの間に被写体側の近軸曲率半径が、47.200mmの非球面であり、像面側の近軸曲率半径が無限大(平面)の水晶でできた光学ローパスフィルタP1を配置したものである(図1参照)。
この実施例においては、光学ローパスフィルタP1は、1枚で、像分離方向は、撮像素子の水平/垂直方向に対して、46°の方向としている。
ここで、本発明の要旨である光学ローパスフィルタの条件について述べる。
光学ローパスフィルタは、正のパワーを有するものであって、物体側の面が非球面とされ、電子撮像素子の画素ピッチをpとし、空間周波数uにおけるe線(546.07mu)での前記結像光学系の光軸上でのMTFをM10(u)とし、空間周波数uにおけるe線での結像光学系の最大像高の8割の高さでのMTFをM1(u)とし、空間周波数uにおける光軸上での前記光学ローパスフィルタのMTFをM20(u)とし、空間周波数uにおける最大像高8割の主光線が前記光学ローパスフィルタに入射する高さでの前記光学ローパスフィルタのMTFをM2(u)としたとき、次の条件:
0.9<(M1(u)×M2(u))/(M10(u)×M20(u))<1.3 …(2)
但し、u=1/4p
を満足することにより、画面全体にわたって解像力の低下を落とすことなく、偽色や色モアレなどのノイズを軽減ないしは除去することができる。
【0021】
上記(2)式の上限を超えた場合には、高い空間周波数の被写体に対して偽色や色モアレ等のノイズが現われ易くなり、上記(2)式の下限に満たない場合には、解像力の低下が起こり、高い空間周波数の被写体の再現性が悪くなる。
上述の実施例における結像光学系のMTFであるM10(u)、M1(u)と、光学ローパスフィルタ単独のMTFであるM20(u)、M2(u)を求めて演算した結果、
条件式(2)=0.948(T)
条件式(2)=1.017(R)
が得られた。
このとき、空間周波数u=1/4p=100/mm
で計算される。
結像光学系と光学ローパスフィルタとを通した総合のMTFは、軸上(像面中心)で58%であり、像面上の最大像高の8割の位置でのMTFは、タンジェンシャル(T)方向で55%、ラジアル(R)方向で59%である。
従って、条件式(2)の値は、上記したように、T方向で0.948、R方向で1.017となる。
仮に、この結像光学系の実施例において、光学ローパスフィルタとして従来の平板とした場合、その厚みを0.6mmとすれば、軸上のMTFは、上記と同じであるが、像高8割でのMTFは、T方向で46%、R方向で50%となる。
【0022】
従って、条件式(1)の値は、T方向では0.793、R方向では0.862しかない。
すなわち、T方向でみれば、中心に対して2割以上も結像性能が低下していることが分る。
尚、図2は、本発明に係る光学ローパスフィルタ単独のMTF特性曲線図で、横軸に空間周波数(本/mm)をとり、縦軸にMTF(%)をとっている。MTF(レスポンス)は、空間周波数“200(本/mm)”あたりでほぼ“0”となっている。
図3は、実施例にて説明した結像光学系の軸上のMTF特性曲線である。図4は、本発明に係る光学ローパスフィルタと結像光学系とを組み合わせた状態であって、両者のMTFを乗じた場合のMTF特性曲線図を示すもので、この場合も、空間周波数が200本/mmのときが、ほぼ“0”となる。
図5は、本発明の実施例に係る結像光学系の最大像高の8割の高さでのMTF特性曲線図である。ここで、実線はラジアル(R)方向、破線はタンジェンシャル(T)方向のMTFである(以下同じ。)。
【0023】
図6は、本発明の実施例であるe線での光学ローパスフィルタと、結像光学系の最大像高の8割の高さでのMTF特性曲線図である。
図7は、光学ローパスフィルタとして従来の平板型の水晶を用いた場合の光学ローパスフィルタのMTF特性と、上述した本発明の実施例に係る結像光学系の像高8割のMTFを乗じたMTF特性曲線図である。
上述したMTF特性曲線のうち、例えば、図4についてみると、この場合、本発明の実施例に係る光学ローパスフィルタのMTFと、上記実施例に係る結像光学系の軸上のMTFを乗じたMTF特性曲線図の空間周波数150本/mmでは、28%程度のMTFとなっている。
これに対し、光学ローパスフィルタとして平板型の従来のローパスフィルタのMTFと上記実施例に係る結像光学系のMTFとを乗じてなるMTF特性曲線図である図7とを対比してみると、MTFは20%程度になり、解像力の低下を招いていることが分る。
しかしながら、図6に示す、本発明に係る光学ローパスフィルタのMTF結像光学系の像高8割のMTFを乗じたMTFにおいては、空間周波数150本/mmでのMTFは、30%程度あり、光軸中心に比べ同等程度の解像力を有していることを確認できた。
【0024】
また、空間周波数100本/mmでみると、上記実施例の結像光学系と光学ローパスフィルタとを通した総合のMTFは、図4で分るように、軸上(像面中心)で58%であり、像面上の最大像高8割の位置でのMTFは、図6で分るように、MTFは、タンジェンシャル(T)方向で55%、ラジアル(R)方向で59%である。このときの条件式(2)の値は、T方向で0.948、R方向で1.017であり、条件式(2)の範囲内である。
もし、光学ローパスフィルタを、従来の平板とした場合、その厚みを0.6mm(本実施例の正のパワーを持つ光学ローパスフィルタの軸上の厚みも0.6mmである)とした場合、軸上のMTFは、上記実施例の場合と同じであるが、像高8割でのMTFは、図7から分るように、T方向で46%、R方向で50%と低くなってしまう。この場合の条件式(2)の値を算出してみると、MTFの値は、T方向で0.793、R方向で0.862しかなく、明らかに、上記条件式(2)の範囲から外れている。
【0025】
次に、上述した実施例に示されたような本発明に係る結像光学系を用いて構成した撮像装置ユニットを撮影用光学系として採用してカメラを構成した本発明の実施の形態に係るディジタルカメラについて図8を参照して説明する。図8は、撮影者側である背面側から見たディジタルカメラの外観を示す斜視図である。なお、ここでは、カメラについて説明しているが、いわゆるPDA(personal data assistant)や携帯電話機等の携帯情報端末装置にカメラ機能を組み込んだものが、近年登場している。このような携帯情報端末装置も外観は若干異にするもののカメラと実質的に全く同様の機能・構成を含んでおり、このような携帯情報端末装置における撮影用光学系として本発明に係る撮影光学系を採用してもよい。
図8に示すように、ディジタルカメラは、撮像装置ユニット101、レリーズボタン102、光学ファインダ104、液晶表示部105、液晶モニタ106およびメインスイッチ107等を備えている。
ディジタルカメラは、撮像装置ユニット101とCCD(電荷結合素子)撮像素子等のエリアセンサとしての受光素子(図示していない)を有しており、撮影対象となる物体、つまり被写体、の像を、撮影光学系である撮像装置ユニット101によって結像して受光素子によって読み取るように構成されている。この撮像装置ユニット101としては、実施例において説明したような本発明に係る結像光学系を用いる。
【0026】
受光素子の出力は、中央処理装置(CPU)(図示されていない)によって制御される信号処理装置(図示されていない)によって処理され、ディジタル画像情報に変換される。信号処理装置によってディジタル化された画像情報は、やはり中央演算装置によって制御される画像処理装置(図示されていない)において所定の画像処理が施された後、不揮発性メモリ等の半導体メモリ(図示されていない)に記録される。この場合、半導体メモリは、メモリカードスロット等に装填されたメモリカードでもよく、カメラ本体に内蔵された半導体メモリでもよい。液晶モニタ106には、撮影中の画像を電子ファインダとして表示することもできるし、半導体メモリに記録されている画像を表示することもできる。また、半導体メモリに記録した画像は、通信カードスロット等に装填した通信カード等を介して外部へ送信することも可能である。
撮像装置ユニット101は、カメラの携帯時には沈胴状態にあってカメラのボディー内に埋没しており、ユーザがメインスイッチ107を操作して電源を投入すると、図示のように鏡胴が繰り出され、カメラのボディーから突出する構成とする。
【0027】
多くの場合、レリーズボタン102の半押し操作により、フォーカシング、つまりピント合わせがなされる。本発明に係る結像光学系におけるフォーカシングは、この場合、後群GR、つまり第4レンズE4〜第6レンズE6、の移動によって行うことができる。レリーズボタン102をさらに押し込み全押し状態とすると撮影が行なわれ、その後に上述した通りの処理がなされる。
上述のようなカメラまたは携帯情報端末装置には、既に述べた通り、実施例に示されたような結像光学系を使用することができる。したがって、高画質で小型のカメラまたは携帯情報端末装置を達成することが可能となる。この場合、携帯情報端末装置では、高画質な画像を撮影し、その画像を外部へ送信することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例に係る結像光学系の構成を示す光軸に沿った断面図である。
【図2】本発明の実施例に係る光学ローパスフィルタのMTF特性曲線図である。
【図3】本発明の実施例に係る結像光学系の軸上のMTF特性曲線図である。
【図4】本発明に係る光学ローパスフィルタのMTFと同実施例に係る結像光学系の軸上のMTFを乗じたMTF特性曲線図である。
【図5】本発明の実施例に係る結像光学系の像高8割のMTF特性曲線図である。
【図6】本発明の実施例に係る光学ローパスフィルタのMTFと本発明の実施例に係る結像光学系の像高8割のMTFを乗じたMTF特性曲線図である。
【図7】従来の水晶の平板を用いた場合の光学ローパスフィルタのMTFと本発明の実施例に係る結像光学系の像高8割のMTFを乗じた総合のMTF特性曲線図である。
【図8】本発明の結像光学系を含むディジタルカメラの要部の構成を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
GF 前群光学系
GR 後群光学系
E1〜E6 第1レンズ〜第6レンズ
FA 絞り
P1 光学ローパスフィルタ
P2 平行平板ガラス(赤外線カットフィルタ、防塵ガラス等)
101 撮像装置ユニット
102 レリーズボタン
104 光学ファインダ
105 液晶表示部
106 液晶モニタ
107 メインスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結像光学系と電子撮像素子との間に配置される光学ローパスフィルタにおいて、正のパワーを有し、前記電子撮像素子の画素ピッチをpとし、空間周波数uにおけるe線での前記結像光学系の光軸上でのMTFをM10(u)とし、空間周波数uにおけるe線での結像光学系の最大像高の8割の高さでのMTFをM1(u)とし、空間周波数uにおける光軸上での前記光学ローパスフィルタのMTFをM20(u)とし、空間周波数uにおける最大像高8割の主光線が前記光学ローパスフィルタに入射する高さでの前記光学ローパスフィルタのMTFをM2(u)としたとき、次の条件:
0.9<(M1(u)×M2(u))/(M10(u)×M20(u))<1.3
但し、u=1/4p
を満足することを特徴とする光学ローパスフィルタ。
【請求項2】
入射側または射出側のいずれか一方の面が平面であることを特徴とする請求項1に記載の光学ローパスフィルタ。
【請求項3】
入射側または射出側のいずれか一方の面が非球面で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ローパスフィルタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタを有することを特徴とする撮像装置ユニット。
【請求項5】
前記請求項4に記載の前記撮像装置ユニットを有することを特徴とするディジタルカメラ。
【請求項6】
前記請求項4に記載の前記撮像ユニットを有することを特徴とする携帯情報端末装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−76691(P2008−76691A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255077(P2006−255077)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】