説明

光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材

【課題】 被測定面に設けられた、光学的に距離を測定する指標となる線状溝の交差位置を容易に見出すことができる光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材を提供する。
【解決手段】 検査マスタのマスタ本体に取り付けられる基準部材9の被測定面9Aを、球体表面に形成された円形の平坦面とし、この被測定面9Aには、その中心付近に3次元測定機から照射された測定光を乱反射させる微細な線状溝Gが被測定面9Aの中心位置Oで互いに交差するように複数設けられているとともに、線状溝よりも幅広のマーカー溝Mが、それぞれの線状溝Gの外側に隣接して被測定面9Aの径方向に放射状に複数設けられている。マーカー溝Mは、測定光を線状溝より強く乱反射するため、測定の指標となる中心位置Oを容易に見出すことできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式の3次元測定機の精度検査や測定誤差の校正に使用する検査マスタの基準部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジンや変速機のケース類のような機械部品類の寸法測定には、測定テーブル(ベッド)上にセッティングした被測定物に対してプローブ(測定子)の先端を接触させて測定を行うようにした3次元測定機が用いられている。
【0003】
このような3次元測定機は、測定精度を維持するために、高精度に仕上げられた基準となる検査マスタを用いて、定期的に精度の検査や測定誤差の校正が行われている。(特許文献1、2参照)
【0004】
これらの検査マスタは、3次元測定機のプローブが接触するための高精度に仕上げられた基準測定面を有する複数の基準部材を備えており、3次元測定機による異なる基準部材の基準測定面間の距離等の実測データを検査マスタの基準値と比較することにより、3次元測定機の精度を評価している。
【0005】
前述したような、被測定物にプローブの先端を接触させて測定する接触式の3次元測定機は、被測定面がプローブとの接触で、傷つく恐れがあったり、あるいは、簡単に変形を生じる素材で製作された被測定物の寸法測定には不向きであり、このような被測定物の場合には、寸法測定を非接触で行うことのできる光学式の3次元測定機が用いられている。
【0006】
光学式の3次元測定機は、被測定物に接触するプローブを備えておらず、代わりに測定光を被測定面に照射し、その反射光をCCDカメラ等の検出器で受光して、被測定面の位置を測定する構造になっている。
【0007】
このような光学式の3次元測定機の精度検査や測定誤差の校正を行う場合、接触式の3次元測定機用に製作されている検査マスタは、基準測定面に光学的に距離を測定するための指標が設けられていないため、使用することができなかった。
【0008】
そこで、検査マスタに装着する基準部材に球面状の被測定面を設け、この被測定面上に一点で互いに交差する複数の線状溝を形成し、これらの線状溝で光学式の3次元測定機から照射される測定光を乱反射させてその反射光を捉えることで、光学式の3次元測定機の精度検査や校正等を、接触式の3次元測定機と同様に行えるようにした技術が提案されている。(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−330428号公報
【特許文献2】特開2002−195820号公報
【特許文献3】特許第4049272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した光学式の3次元測定機用の検査マスタに装着する基準部材は、位置測定の精度を高めるため、被測定面上の指標となる線状溝の線幅は5μ程度と極めて微細に加工されている。
【0011】
そのため、CCDカメラが受光する線状溝からの反射光は微弱であり、特に、周囲の照明等の外光が被測定面にしてCCDカメラに入る場合等においては、指標となる線状溝の交差位置を見出すことが困難となる問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、前述したような、光学式の3次元測定機の検査マスタ用基準部材の問題を解消し、被測定面に設けられた、光学的に距離を測定する指標となる線状溝の交差位置を容易に見出すことができる光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的のために提供される本発明の検査マスタ用基準部材は、光学式3次元測定機の精度検査に使用する検査マスタ用基準部材であって、3次元測定機から照射された測定光を反射する被測定面を有し、前記被測定面が、球体表面に形成された円形の平坦面で構成され、前記被測定面には、その中心付近に測定光を乱反射させる微細な線状溝が当該被測定面の中心位置で互いに交差するように複数設けられているとともに、線状溝よりも幅広で測定光をより強く乱反射させるマーカー溝が、それぞれの線状溝の外側に隣接して被測定面の径方向に放射状に複数設けられている。
【0014】
本発明の検査マスタ用基準部材においては、線状溝とマーカ溝は、被測定面上で直交する2つの直径上にそれぞれ配置されているとともに、マーカー溝の中心寄りの端部は楔状に尖ってその先端に線状溝が連続していることが望ましい。また、被測定面を除いた部分が球面から構成されていることも望ましい。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された発明によれば、3次元測定機から測定光が基準部材の被測定面に照射されると、線状溝の外側に設けられた複数のマーカー溝が測定光を強く乱反射するため、マーカー溝からの反射光を目印にして、これらのマーカー溝の内側にある微細な線状溝の交点位置を容易に見出すことができる。
【0016】
また、基準部材は、高い寸法精度で仕上げられた既製の鋼球等の球体に、被測定面となる平坦面を加工して簡単に製作することができるため、高い精度が得られるとともに、低コストで製作することができる。
【0017】
請求項2に記載された発明によれば、線状溝とマーカー溝は、被測定面上で直交する2つの直径上にそれぞれ配置されているとともに、マーカー溝の中心寄りの端部は楔状に尖ってその先端が線状溝に連続しているため、十字状に配列されたマーカー溝の中心側に向くそれぞれの尖った先端の延長線上にある線状溝の交点位置をより簡単に見つけ出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の検査マスタ用基準部材を装着した検査マスタを光学式3次元測定機にセットした状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の検査マスタ用基準部材が装着されている検査マスタの斜視図である。
【図3】本発明の検査マスタ用基準部材が装着されている検査マスタの平面図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【図5】本発明の検査マスタ用基準部材の斜視図である。
【図6】本発明の検査マスタ用基準部材の平面図である。
【図7】図6のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の検査マスタ用基準部材(以下、単に基準部材という。)を装着した検査マスタを、光学式3次元測定機(以下、単に3次元測定機という。)にセットした状態を示す斜視図であって、同図に示すように、3次元測定機1は、被測定物を載せる測定テーブル2を有し、この測定テーブル2の両側に、水平なX方向にスライド自在に設けられた門型の可動フレーム3と、前記可動フレーム3に対して、前記X方向と直交する水平なY方向にスライド自在に設けられたヘッド部4と、前記ヘッド部4に対し、Z方向すなわち上下方向にスライド自在に設けられた昇降筒5とを備えている。
【0020】
前記昇降筒5の内部には、図示しないが、被測定物に向けて測定光としてのレーザ光を照射するレーザ光源と、前記被測定物から反射されてきたレーザ光を受光するCCDカメラが内蔵されており、可動フレーム3、ヘッド部4、及び、昇降筒5をそれぞれ、X、Y、Z方向へ移動させることによって、レーザー光源とともにCCDカメラの位置を測定テーブル2上の所望の位置へ3次元的に位置決めできるようになっている。
【0021】
この3次元測定機1によって、エンジンブロック等のワークの仕上げ面の寸法測定等を行う場合には、測定テーブル2上にワークを載せ、昇降筒5の下端から下方に向けてレーザ光を照射して前記ワークの被測定面に当て、その反射光をCCDカメラで捉えて当該被測定面の座標位置を測定する。
【0022】
一方、3次元測定機1の精度検査や測定誤差の校正を行う場合には、図1に示すように、ワークに代えて、測定テーブル2上に治具パレット6を固定して、この治具パレット6上に検査マスタ7を載置する。
【0023】
そして、検査マスタ7に設けた後述する複数の基準部材9の被測定面にそれぞれ、昇降筒5から測定光としてのレーザ光を当て、その反射光を昇降筒5内部のCCDカメラで捉えて3次元方向に各基準部材の被測定面上の測定点の座標位置を測定する。
【0024】
図2は、本実施形態において使用する検査マスタ7の斜視図、図3はその平面図、図4は、図3におけるA−A線位置における縦断面図をそれぞれ示すものであって、これらの図に示すように、検査マスタ7は、外径が大小異なる扁平な2つの円筒部8A、8Bを2段組み合わせた形状のマスタ本体8と、このマスタ本体8に取り付けられている複数個の球状の基準部材9から構成されている。
【0025】
マスタ本体8は、熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れた不変鋼を機械加工して製作されており、図4に示すように、下段の円筒部8Aの上面S1と、上段の円筒部8Bの上面S2にはそれぞれ、基準部材9を取り付けるための球面状凹部aが設けられている。
【0026】
また、これらの凹部aの中心部にはそれぞれ基準部材9を固定するためのボルト10を下方から通すためのボルト挿通孔11が形成されている。これらのボルト挿通孔11の下部は、ボルト10の頭部を収容するために内径が拡大されており、この大径部分は下端がマスタ本体8の底面側に開口されている。
【0027】
基準部材9は、図3に示すように、マスタ本体8の下段の円筒部8Aの上面S1に、円周方向に中心角90°毎の等間隔で4カ所取り付けられているとともに、上段の円筒部8Bの上面S2の周縁近傍に、前記円筒部8A側の基準部材9とは、それぞれ中心角で45°位置をずらして向きで、円周方向に中心角90°毎の等間隔で4カ所取り付けられている。なお、マスタ本体8の素材としては、熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れたものであれば、不変鋼に限らず、石英やセラミックス等を用いてもよい。
【0028】
次に、図5は、基準部材9の斜視図、図6はその平面図、図7は図6のB−B断面図であって、これらの図に示すように、基準部材9は、球体の一部に被測定面としての、円形の平坦面9Aが形成されており、この平坦面9Aには、その中心位置を交点Oとして交差する2本の線状溝Gと、これらの線状溝Gの両端から、平坦面9Aの外周までその直径方向に放射状に延びる幅広の4つのマーカ溝Mが設けられている。
【0029】
本実施形態のものにおいては、基準部材9は高い寸法精度に仕上げられた既製の直径20mmの鋼球で製作されていて、線状溝Gは平坦面9Aを放電加工することによって、約5μmの幅と深さに形成されている。
【0030】
一方、マーカー溝Mは、同じく平坦面9Aを放電加工することによって、幅2mm、深さ0.5mmに形成されている。それぞれのマーカー溝Mの、平坦面9Aの中心寄りの端部Tは、楔状に尖ってその先端に線状溝Gが連続している。
【0031】
なお、基準部材9の平坦面9Aと、その外側の球状の表面は、鏡面に仕上げられており、線状溝Gとマーカー溝Mは、入射光を乱反射して光るように祖面に仕上げられている。
【0032】
図7に示すように、基準部材9の平坦面9Aと反対側には、前記平坦面9Aに垂直で、且つ基準部材9の中心付近まで達する深さのねじ穴9Bが形成されていて、図4に示すように、検査マスタ7Aの底面側からボルト挿通孔11内にボルト10を差し込んで、前記ねじ穴9Bに螺合して締め付けることにより、基準部材9を検査マスタ本体8の球面状の凹部a内に着座させ、高精度に位置決めされた状態で安定して固定することができるようにしてある。
【0033】
なお、本実施形態においては、製作コスト低減のため、基準部材9を鋼球を加工して製作しているが、高い形状精度が要求される場合には、鋼球に代えて超硬やルビー、セラミックス等の硬質素材で基準部材を製作してもよい。その場合、マスタ本体へボルトで固定することが困難な材質である場合には、接着剤で固定してもよい。
【0034】
前述した基準部材9を取り付けた検査マスタ7を用いて3次元測定機1の精度検査や測定誤差の校正を行う場合には、図2に示すようにマスタ本体8に取り付けられている8つの基準部材9について、それぞれの線状溝Gの交点Oの座標値を当該3次元測定機1によって測定する。
【0035】
そして、実測されたこれらの座標値から検査マスタ7のそれぞれの基準部材9の交点O間の距離を求め、これらを検査マスタ7に既定されている、それぞれの基準部材9の交点O間の距離の基準値と比較することにより、実測値と基準値との差に基づいて当該3次元測定機1の精度を評価したり、校正を行うことができる。
【0036】
この際、基準部材9の被測定面として形成されている平坦面9Aに測定光が照射されると、線状溝Gの周囲に設けられた幅広のマーカー溝Mが、線状溝Gよりも前記測定光を強く乱反射して光るため、これらのマーカー溝Mからの反射光を3次元測定機1のCCDカメラで鮮明に捉えることができ、この反射光を目印にしてマーカー溝の内側にある線状溝の交点位置を容易に見出すことができる。
【0037】
なお、前述した実施形態の基準部材9においては、線状溝Gを平坦面9Aの中心位置で十字状に2本直交させ、また、マーカー溝Mは、これらの線状溝Gの両端から、平坦面9Aの外周までその直径方向に放射状に合計4つ設けているが、本発明は、この実施形態に限定するものではなく、線状溝は3本以上を平坦面の中心位置で交差させて設けることも可能であり、その場合、マーカー溝は、それぞれの線状溝の両外側に各一対ずつ、線状溝の数に応じた本数設ければよい。
【0038】
また、本実施形態のものにおいては、マーカー溝Mの中心寄りの端部Tは楔状に尖ってその先端に線状溝Gが連続している構成としているが、マーカー溝の端部は、これに限定するものではなく、例えば半円弧状に形成してもよい。また、線状溝とマーカー溝の間は連続させなくてもよい。
【0039】
また、前述した基準部材9は、測定光の光源をレーザ光源とする3次元測定機1の精度検査や誤差測定の校正に用いているが、これに限定するものではなく、他の光源、例えば、ランプや発光ダイオード等を測定光の光源とする光学式3次元測定機に用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材は、測定光を被測定物に照射し、その反射光によって、被測定物の各部寸法測定を行う光学式3次元測定機の技術分野において、光学式3次元測定機の精度検査や測定誤差の校正を行う場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 3次元測定機
2 測定テーブル
3 可動フレーム
4 ヘッド部
5 昇降筒
6 治具パレット
7 検査マスタ
8 マスタ本体
8A、8B 円筒部
9 基準部材
9A 平坦面(被測定面)
9B ねじ穴
10 ボルト
11 ボルト挿通孔
S1、S2 上面
a 球面状凹部
G 線状溝
O 交点
M マーカー溝
T 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学式3次元測定機用検査マスタのマスタ本体に取り付けられる基準部材であって、3次元測定機から照射された測定光を反射する被測定面を有し、前記被測定面が球体表面に形成された円形の平坦面で構成され、前記被測定面には、その中心付近に測定光を乱反射させる微細な線状溝が当該被測定面の中心位置で互いに交差するように複数設けられているとともに、線状溝よりも幅広で測定光をより強く乱反射させるマーカー溝が、それぞれの線状溝の外側に隣接して被測定面の径方向に放射状に複数設けられていることを特徴とする光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材。
【請求項2】
線状溝とマーカー溝は、被測定面上で直交する2つの直径上にそれぞれ配置されているとともに、マーカー溝の中心寄りの端部は楔状に尖ってその先端が線状溝に連続していることを特徴とする請求項1記載の光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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