説明

光学活性2−アルキル−D−システインエステルの製造方法

【課題】
各種工業薬品、農薬及び医薬品の製造中間体として重要な光学活性2−アルキル−D−システインエステルの経済的で工業的に実施可能な製造方法を提供する。
【解決手段】
2−アルキルシステインアミドに、2−アルキル−L−システインアミドのアミド結合を立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて、生成物である2−アルキル−L−システインと未反応の2−アルキル−D−システインアミドとの混合物となし、これをアルデヒド又はケトン、或いはアセタール(ケタール)と反応させてチアゾリジン−4−カルボン酸とチアゾリジン−4−カルボン酸アミドとなし、その混合物からチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを分離した後、開環、加水分解して2−アルキル−D−システインを得、これをエステル化することによって2−アルキル−D−システインエステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(9)で示される光学活性2−アルキル−D−システインエステルの製造方法に関する。詳しくは、一般式(1)で示されるDL体の混合物である2−アルキルシステインアミドに、2−アルキル−L−システインアミドのアミド結合を立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて、一般式(2)で示される2−アルキル−L−システインを生成せしめ、生成した2−アルキル−L−システインと未反応の一般式(3)で示される2−アルキル−D−システインアミドとの混合物を一般式(4)で示されるアルデヒド又はケトン、或いは一般式(5)で示されるアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれ一般式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸及び一般式(7)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導し、それらの混合物から一般式(7)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを分取した後、開環、加水分解して一般式(8)で示される光学活性2−アルキル−D−システインを得、これをエステル化することにより一般式(9)で示される光学活性2−アルキル−D−システインエステルを取得することを特徴とする、2−アルキルシステインアミドから光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法に関する。光学活性2−アルキル−D−システインエステルは、各種工業薬品、農薬、及び医薬品の製造中間体として重要な物質である。
【化1】

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【化2】

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【化9】

(9)
(一般式(1)、(2)、(3)、(6)、(7)、(8)、(9)中のR及びR’は炭素数1〜4の低級アルキル基、一般式(4)、(5)、(6)、(7)中のR及びRは各々独立した水素又は炭素数1〜4の低級アルキル基、或いは両者が互いに結合した員数5〜8の脂環構造を示す。但し、RとRの両者が同時に水素の場合を除く。)
【背景技術】
【0002】
光学活性2−アルキルシステインエステルの製造方法として、光学活性システインメチルエステルを原料として合成する方法が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。この方法は、光学活性システインメチルエステルをピバルアルデヒドで環化、ホルムアルデヒドで保護し、リチウム試薬とヨウ化メチルでメチル化した後、塩酸で開環、脱保護して光学活性2−メチルシステインを塩酸塩として取得し、アルコール中にてアセチルクロライドを添加し光学活性2−アルキルシステインエステルを得る手法である。しかし、出発原料が光学活性体であることなど高価な原料及び試薬を用いており、工程数も多く煩雑であるため、工業的に優れた方法とは言いがたい。一方、一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドのアミド結合を微生物が有する酵素を利用して不斉加水分解し、一般式(8)で示される光学活性2−アルキル−D−システインとなし、さらにエステル化して一般式(9)で示される光学活性2−アルキル−D−システインエステルへと誘導する方法は報告されていない。
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,403,830号明細書
【非特許文献1】Gerald Pattenden,Stephen M.Thom and Martin F.Jones, Tetrahedron,Vol.149,No.10,pp2131−2138,1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決し、各種工業薬品、農薬、及び医薬品の製造中間体として重要な光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造するための、経済性に優れ工業的に実施可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、原料的に手当し易いDL混合物の2−アルキルシステインアミドから、効率良く高品質な光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法に関して鋭意検討を行った。その結果、一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドを生化学的に不斉加水分解することによって、一般式(2)で示される光学活性2−アルキル−L−システインと未反応の一般式(3)で示される2−アルキル−D−システインアミドの混合物となすことはできるが、両者の、水及び各種有機溶媒に対する溶解度や分配係数等の物理化学的性状に大きな差がないため効率的な分離を行うためには更なる改良を要することを知った。そこで検討を加え、前記混合物を一般式(4)で示されるアルデヒド又はケトン、或いは一般式(5)で示されるそれらのアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれ一般式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸及び一般式(7)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導した後、それらの混合物から一般式(7)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを分取し、開環、加水分解して一般式(8)で示される光学活性2−アルキル−D−システインとなし、これをエステル化することによって一般式(9)で示される光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、DL混合物である2−アルキルシステインから、効率的に高品質な光学活性な2−アルキル−D−システインアミドを得るための1)〜4)に示す製造方法に関する。
1)一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドに、2−アルキル−L−システインアミドのアミド結合を立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて、生成物である一般式(2)で示される2−アルキル−L−システインと未反応の一般式(3)で示される2−アルキル−D−システインアミドとの混合物となし、これらを一般式(4)で示されるアルデヒド又はケトン、或いは一般式(5)で示されるアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれ一般式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸及び一般式(7)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドの混合物に誘導し、この混合物から一般式(7)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを分離した後、開環、加水分解して一般式(8)で示される光学活性2−アルキル−D−システインを得、これをエステル化することにより一般式(9)で示される光学活性2−アルキル−D−システインエステルを取得することを特徴とする、2−アルキルシステインアミドから光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法。
【化10】

(1)
【化11】

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【化13】

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【化18】

(9)
(一般式(1)、(2)、(3)、(6)、(7)、(8)、(9)中のR及びR’は炭素数1〜4の低級アルキル基、一般式(4)、(5)、(6)、(7)中のR及びRは各々独立した水素又は炭素数1〜4の低級アルキル基、或いは両者が互いに結合した員数5〜8の脂環構造を示す。但し、RとRの両者が同時に水素の場合を除く。)
2)Rがメチル基である、1)記載の2−アルキルシステインアミドから光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法。
3)R、R及びRが何れもメチル基である、1)記載の2−アルキルシステインアミドから光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法。
4)R、R及びRが何れもメチル基であり、R’がメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル基である、1)記載の2−アルキルシステインアミドから光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、各種工業薬品、農薬、及び医薬品の製造中間体として重要な、光学活性2−アルキル−D−システインエステルを高品質かつ経済的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の詳細について説明する。本発明の原料となる一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミド中のRは、炭素数1〜4の低級アルキル基であればよく、特に制限はないが、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、secブチル及びtブチルなどの直鎖又は分枝した低級アルキル基が好適であり、メチル基が特に好適である。
【0009】
本発明で使用する一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドは、その製法等に特に制限はなく、例えば該当する4−アルキルチアゾリジン−4−カルボン酸アミド誘導体を加水分解する方法等によって得ることができる。また使用する2−アルキルシステインアミドは、遊離物の他、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の塩として用いることも可能である。
【0010】
本発明の一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドの生化学的不斉加水分解に使用される微生物は、2−アルキル−L−システインに対応する2−アルキル−L−システインアミドのアミド結合を立体選択的に加水分解する活性を有する微生物であればよく、このような微生物として例えば、キサントバクター属、プロタミノバクター属及びミコプラナ属等に属する微生物、具体的にはキサントバクター フラバス(Xanthobacter flavus)NCIB 10071、プロタミノバクター アルボフラバス(Protaminobacter alboflavus)ATCC8458、ミコプラナ ラモサ(Mycoplana ramose)NCIB9440、ミコプラナ ディモルファ(Mycoplana dimorpha)ATCC4279が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これら微生物から人工的変異手段によって誘導される変異株、或いは細胞融合又は遺伝子組換え法等の遺伝学的手法により誘導される組換え株等の何れの株であっても上記能力を有するものであれば、本発明に使用できる。
【0011】
これらの微生物の培養は、通常資化し得る炭素源、窒素源、各微生物に必須の無機塩、栄養等を含有させた培地を用いて行われる。培養時のpHは、4〜10の範囲であり、温度は20〜50℃である。培養は1日〜1週間程度好気的に行われる。このようにして培養した微生物は、生菌体又は該生菌体処理物、例えば培養液、分離菌体、菌体破砕物、さらには精製した酵素として反応に使用される。また、常法に従って菌体又は酵素を固定化して使用することもできる。
【0012】
2−アルキルシステインアミドの生化学的不斉加水分解反応の条件は、2−アルキルシステインアミド濃度0.1〜40wt%、2−アルキルシステインアミドに対する微生物の使用量は、乾燥菌体として重量比0.0001〜3、反応温度10〜70℃、pH4〜13の範囲である。なお、2−アルキルシステインアミドの反応液中における濃度が高い場合には、前記微生物の使用量が、好ましい範囲の上限である3以下であって、反応が好適に実施できる比率を適宜選択すればよい。得られる2−アルキルシステインは酸化を受けやすく、酸素存在下で放置すると2量化したジスルフィド(2,2'−ジアルキルシスチン)となる。これを防止するため、生化学的不斉加水分解反応は窒素等の不活性ガス雰囲気下で行なうのが好ましいが、系内に2−メルカプトエタノール等の還元性物質を共存させる方法も可能である。また、反応に用いる全ての溶媒を反応実施前に脱気すると、副生成物を生成せず好適に反応が進行する。さらに、Fe、Mn、Zn、Ni、Coなどの各種金属イオンを反応溶液中に1〜50ppm添加することにより、不斉加水分解速度を向上させることができる。好ましくは、2価のMnを5〜20ppm加えることにより、反応速度は、金属イオンを添加しない場合に比べて2〜5倍ほど向上する。生化学的不斉加水分解反応に使用した菌体又は酵素は、酵素反応に使用した後も、遠心分離又は濾過操作などにより回収し、生化学的不斉加水分解反応工程へ戻すことにより再利用することができる。
【0013】
2−アルキルシステインアミドの生化学的不斉加水分解反応で生成した光学活性2−アルキル−L−システインと未反応の2−アルキル−D−システインアミドは、一般式(4)で示されるアルデヒド又はケトン、或いは一般式(5)で示されるそれらのアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれ一般式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸及び一般式(7)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドに誘導される。
【0014】
ここで使用するアルデヒド又はケトンを表す一般式(4)のR及びRは各々独立して水素又は炭素数1〜4の低級アルキル基(但し、互いに水素の場合を除く)、或いは両者が互いに結合した員数5〜8の脂環構造であればよく、特に制限はないが、アルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、secブチル及びtブチルなどの直鎖又は分枝した低級アルキル基が好適であり、R及びRが互いにメチル基の場合が特に好適である。このような化合物として、具体的にはアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられ、特にアセトンが好適に使用される。
【0015】
反応に先だって、生化学的不斉加水分解反応終了液から、例えば遠心分離或いは濾過膜などの通常の固液分離手段により微生物菌体を除く。さらに限外濾過又は活性炭等の吸着剤を用いて微生物由来の有機物の大部分を除去するとより好適である。次に、この反応液を濃縮して水を留去し、濃縮物を有機溶媒に溶解させる。用いる有機溶媒は、一般式(4)で示されるアルデヒド又はケトン、或いは一般式(5)で示されるそれらのアセタール(ケタール)が液体であり、かつ生化学的不斉加水分解反応液濃縮物を溶解させ得る場合、それ自体を溶媒として用いることが最も好ましい。一方、溶解し得なかった場合には、反応液濃縮物を溶解させ、かつ、一般式(4)で示されるアルデヒド又はケトン、或いは一般式(5)で示されるそれらのアセタール(ケタール)を溶解するものを用いればよく、特に限定されないが、各々の溶解度の点でメタノール、エタノール等のアルコール類が好適に用いられる。用いるアルデヒド又はケトン、或いはそのアセタール(ケタール)の量は、生化学的不斉加水分解反応に供したアルキルシステインアミドに対して同モル以上であれば、上限は特にない。多量なほど反応は速やかに進むので、均一溶液となる経済的な濃度を適宜選択して行うことが好ましい。また、反応の進行に伴い反応生成水が生じるので、これを除去しながら反応を行なうとより好適である。また反応温度は特に限定されないが、より高温であった方が反応の進行が速いことから、還流条件で行なうのが実際的で好ましい。また、この環化反応は無触媒でも進行するが、少量の塩基を添加したほうが速やかに進行するので好ましい。用いる塩基としては特に限定はされないが、水酸化ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アンモニア、トリメチルアミン等の塩基性物質の他、炭酸ナトリウム等の塩基性を示す塩類が使用可能である。その量が過剰であった場合、後処理の中和に必要な酸の量が増えるため好ましくなく、適当な量は生化学的不斉加水分解反応に用いたアルキルシステインアミドの5倍当量以下が好ましく、1〜3倍当量がより好ましい。
【0016】
反応終了後の反応液から溶媒と揮発分を除去した後の濃縮物を水に分散させると、L体であるチアゾリジンカルボン酸が水に溶解し一般式(7)で示されるD体のチアゾリジンカルボン酸アミドが不溶分として析出するので、これを濾別回収する。このチアゾリジンカルボン酸アミドを適当な有機溶媒で洗浄することにより、不純物となるタンパク質、核酸、及びチアゾリジンカルボン酸等を取り除くことができる。この際に用いられる有機溶媒としては特に限定はされないが、生化学的不斉加水分解時に混入してくるタンパク質や核酸等を溶解し、且つ目的とするチアゾリジンカルボン酸アミド(7)の溶解力の低い溶媒を適宜選択すれば良く、そういった意味でアセトンやシクロヘキサノン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類が好適に用いられる。
【0017】
濾取したチアゾリジンカルボン酸アミドを水に懸濁させて加熱還流すると、開環反応を伴いながらアミド部位の加水分解反応が進行する。この際、生成するアルデヒド又はケトン(4)を系外に除去しながら反応を行なうと、速やかに進行する。また、触媒として塩酸や硫酸等の酸を用いると、より速やかに反応が進行するが、この場合には酸との塩としてアミノ酸が得られることになる。反応後の反応液は、エーテルや塩化メチレン等の非水溶性極性有機溶媒を加えて、分液、洗浄して、残留するアルデヒド又はケトンを除去する。この水層を濃縮すると光学活性2−アルキル−D−システイン又はその塩が得られる。
【0018】
光学活性2−アルキル−D−システイン又はその塩を、あらかじめ塩化水素ガスを吹き込んだエステル化の目的試薬とするアルコール溶液に溶解させ、還流することによりエステル化することができる。このとき、アルコール溶液中に含まれる塩化水素の量が光学活性2−アルキル−D−システインに対して1.1〜4倍当量存在するよう塩化水素ガスを吹き込んで使用すると、収率及び純度の面で良好にエステル化反応を行うことができるので好ましい。一方、酸塩である光学活性2−アルキル−D−システインの塩をエステル化する場合には、塩化水素の量がその塩に対して0.1〜3倍当量存在するように減じて反応させることが好ましい。エステル化の目的試薬となるアルコールは、光学活性2−アルキル−D−システイン又はその塩に対して同等モル以上存在すればよいが、多いほど反応は早く進行するので、原料である光学活性2−アルキル−D−システイン又はその塩が均一に溶解し、経済的にも許容できる範囲でアルコールを使用するのが望ましい。また、アルコールに塩化アセチルを添加することにより、還流条件で塩化水素を反応溶液内に発生させて、エステル化を進行させることもできる。エステル化の進行とともに水が生成するが、生成する水を除去しながら反応を行うとより速やかに反応が進行する。
【0019】
反応終了後、反応液を濃縮することによりアルコールと塩化水素ガス等を除去すると一般式(9)で示される光学活性2−アルキル−D−システインエステルの塩酸塩が得られる。この光学活性2−アルキル−D−システインエステルの塩酸塩に、当量の塩基を添加することにより遊離の光学活性アルキル−D−システインエステルを得ることができる。その際、用いる塩基の種類に特に限定はないが、水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等の塩基性物質の他、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の塩基性を示す塩類が使用可能である。遊離の光学活性2−アルキル−D−システインエステルは適当な有機溶媒で抽出することが可能である。使用する有機溶媒は、無機塩が溶解せず、目的とする光学活性2−アルキル−D−システインエステルの溶解度が高い溶媒が適宜選択されれば良く、そういった意味で塩化メチレンやヘキサン、ジエチルエーテル等の非水溶性有機溶媒が好適に用いられる。抽出に用いた有機溶媒を留去した後、濃縮物を蒸留等によって精製することにより光学活性2−アルキル−D−システインエステルが得られる。
【0020】
本発明の方法によって、具体的には、例えば2−メチル−D−システインイソブチルエステル、2−エチル−D−システインメチルエステル等の光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造することができる。
【実施例】
【0021】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
実施例1
【0022】
以下の組成を有する培地を調製し、この培地200mLを1L三角フラスコに入れ、滅菌後、キサントバクター フラバス(Xanthobacter flavus)NCIB10071を接種し、30℃で48時間振とう培養を行った。次いで、培養液を遠心分離し、乾燥菌体1.0gに相当する生菌体を得た。
培地組成(pH7.0)
グルコース 10g
ポリペプトン 5g
酵母エキス 5g
KHPO 1g
MgSO・7HO 0.4g
FeSO・7HO 0.01g
MnCl・4HO 0.01g
水 1L
【0023】
ラセミの2−メチルシステインアミド塩酸塩10.0g(0.059mol)を水300mLに溶かした後、500mLフラスコに入れ、乾燥菌体1.0gに相当する生菌体を加えて、窒素気流下、40℃で24時間攪拌して加水分解反応を行った。反応後、反応液から遠心分離によって菌体を除去して上清を得た。この上清をロータリーエバポレーターで濃縮した後、メタノール150mLに溶解させた。続いてアセトン200mL、炭酸ナトリウム3.6g(0.034mol)を加えて16時間、室温で攪拌し反応させた。反応液を濃縮後、50mLの純水を加えて析出した結晶を濾別した。濾別した結晶を50mLの水で洗浄し乾燥させた後、メタノール100mLを加え、アセトン300mL追加し3時間、加熱還流を行った。反応液をロータリーエバポレーターで濃縮し、この濃縮物を50mLのヘキサンで洗浄し乾燥させることにより白色固体の2,2,4−トリメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを得た。得られた2,2,4−トリメチルチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを100mLの純水に懸濁させ、3時間、加熱還流を行った。反応液を50mLのジエチルエーテルで二回洗浄した後、ロータリーエバポレーターで濃縮乾固し、3.8g(0.028mol)の2−メチル−D−システインを得た。この3.8g(0.028mol)の2−メチル−D−システインを、3%の塩化水素を含む400mLのイソブタノールに溶解させ、窒素気流下にて還流を9時間行った。反応液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、300mLのヘキサンに分散させた。この分散液に炭酸ナトリウム1.5g(0.014mol)を添加して、分液抽出を行い、ヘキサン層を回収した。回収したヘキサン層を200mLの純水で洗浄した後、硫酸マグネシウムでヘキサン層を乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮液を減圧蒸留することにより、無色透明の液体の2−メチル−D−システインイソブチルエステルを4.6g(0.024mol)得た。出発原料として使用したラセミ混合物中の2−メチル−D−システインアミドからの単離収率は82mol%、ラセミ混合物の2−メチルシステインアミドからの単離収率は41mol%であった。また、この液体を光学異性体分離カラムを用いた液体クロマトグラフィーによって分析した結果、光学純度は98%e.e.以上であった。
2−メチル−D−システインイソブチルエステル;無色透明液体(沸点113℃/1.4kPa)
[α]D +13.1 deg in CHCl c 2.01%
質量スペクトル(EI法) m/z = 192 (M+H)
H−NMR(90MHz,CDCl)δ[ppm] 3.93(2H,d,J=6.6Hz),3.00(1H,d,J=13.6Hz),2.58(1H,d,J=13.6Hz),1.67−2.05(1H,m),1.76(3H,s,br),1.38(3H,s),0.96(6H,d,J=6.6Hz)
IR[cm−1](KBr) N−H 3377,3309,1599 C−H 2964,2875 C=O 1732
元素分析 (測定値)C;50.44,H;9.02,N;7.30,(計算値)C;50.23,H;8.96,N;7.32

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される2−アルキルシステインアミドに、2−アルキル−L−システインアミドのアミド結合を立体選択的に加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体処理物を作用させて、生成物である一般式(2)で示される2−アルキル−L−システインと未反応の一般式(3)で示される2−アルキル−D−システインアミドとの混合物となし、これらを一般式(4)で示されるアルデヒド又はケトン、或いは一般式(5)で示されるアセタール(ケタール)と反応させて、それぞれ一般式(6)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸及び一般式(7)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドの混合物に誘導し、この混合物から一般式(7)で示されるチアゾリジン−4−カルボン酸アミドを分離した後、開環、加水分解して一般式(8)で示される光学活性2−アルキル−D−システインを得、これをエステル化することにより一般式(9)で示される光学活性2−アルキル−D−システインエステルを取得することを特徴とする、2−アルキルシステインアミドから光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法。
【化1】

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【化2】

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【化4】

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【化5】

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【化9】

(9)
(一般式(1)、(2)、(3)、(6)、(7)、(8)、(9)中のR及びR’は炭素数1〜4の低級アルキル基、一般式(4)、(5)、(6)、(7)中のR及びRは各々独立した水素又は炭素数1〜4の低級アルキル基、或いは両者が互いに結合した員数5〜8の脂環構造を示す。但し、RとRの両者が同時に水素の場合を除く。)
【請求項2】
Rがメチル基である、請求項1記載の2−アルキルシステインアミドから光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法。
【請求項3】
R、R及びRが何れもメチル基である、請求項1記載の2−アルキルシステインアミドから光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法。
【請求項4】
R、R及びRが何れもメチル基であり、R’がメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル基である、請求項1記載の2−アルキルシステインアミドから光学活性2−アルキル−D−システインエステルを製造する方法。

【公開番号】特開2006−6(P2006−6A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176624(P2004−176624)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】