説明

光学物品およびその製造方法

【課題】耐衝撃性が良好であって、しかも、干渉縞の発生も抑制できる、光学物品の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の組成物を用いてプラスチック基材の上に第1の層を積層する工程を有する。第1の組成物は、平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子と、有機ケイ素化合物とを含む。プラスチック基材の側の屈折率に対して、第2の層に面した表層の屈折率が低い第1の層を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡やカメラなどのプラスチックレンズとして好適に使用できる光学物品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズと比べて軽量であり、成形性、加工性、染色性などに優れ、しかも割れにくく、安全性も高い。このため、プラスチックレンズは、眼鏡レンズ分野において急速に普及し、現在では、その大部分を占めている。また、近年では、薄型化、軽量化のさらなる要求に応えるべく、チオウレタン系樹脂やエピスルフィド系樹脂などの高屈折率素材が開発されている。
【0003】
特許文献1および2には、エピチオ基を有する化合物(エピスルフィド化合物)を硫黄の存在下で重合させることにより、屈折率の高いエピスルフィド系樹脂を製造する方法が提案されている。このようなエピスルフィド系樹脂は、屈折率が1.7以上の高屈折率を容易に発現でき、眼鏡レンズの薄型化に有効である。
【0004】
また、眼鏡レンズを含む光学物品としては、プラスチック基材の表面に主として密着性および耐衝撃性を付与するプライマー層が形成されているとともに、プライマー層の表面に主として耐擦傷性および耐摩耗性を付与するハードコート層が形成されているものが知られている。このような光学物品においては、プラスチック基材の屈折率を高くした場合、干渉縞の発生を防ぐために、プライマー層やハードコート層についてもプラスチック基材と同等の屈折率を持たせる必要がある。
【0005】
例えば、種々の金属酸化物をフィラーとしてハードコート層に含有させ、ハードコート層を高屈折率化することが一般的に行われている。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化スズなどの単体もしくは複合微粒子が使われている。金属酸化物は、一般に、耐光性が悪く、また着色しやすい傾向があるため、可視光領域での透明性、安定性などの観点から、主に酸化チタンが使用されている。
【0006】
しかしながら、酸化チタンは、紫外線を受けて光触媒作用を発現する性質を有しており、ハードコート層にフィラーとして用いた場合に、酸化チタン周囲の有機樹脂から成るバインダー成分を分解して、ハードコート層のはがれを生じさせることがある。このため、特許文献3のように、ハードコート層においては、酸化チタンとして、光触媒作用を生じやすいアナターゼ型ではなく、光触媒作用が相対的に少ないルチル型を採用することも多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−002712号公報
【特許文献2】特開2005−281527号公報
【特許文献3】特開2007−102096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プラスチック基材とプライマー層との間および/またはプライマー層とハードコート層との間の屈折率が大きく異なると、屈折率の差から干渉縞が発生する。近年、屈折率が1.7を超える高屈折率プラスチック基材の登場に伴い、干渉縞を抑制するために、ハードコート層だけでなく、プライマー層の高屈折率化も行われている。
【0009】
レンズ基材の上に積層されるハードコート層およびプライマー層などの層(機能層)の屈折率を上げるためには、主に、それらの層を形成する組成物中の金属酸化物微粒子(金属酸化物ゾル)の比率を高める必要がある。
【0010】
一方で、高屈折率レンズ素材は比較的脆弱であるため、ハードコート層およびプライマー層、特にプライマー層は十分な耐衝撃性(衝撃吸収性)があることが望ましい。プライマー層の衝撃吸収性は、プライマー層形成用の組成物中の樹脂成分によって発揮されるが、高屈折率化するために金属酸化物微粒子の比率を高めようとすると、衝撃吸収性が十分に発揮できなくなるおそれがある。
【0011】
したがって、高屈折率のプラスチック基材を用いる場合であっても、耐衝撃性(衝撃吸収性)が良好であって、しかも、干渉縞の発生も抑制できる、光学物品およびその製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、(A)平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂と(B)金属酸化物微粒子と(C)有機ケイ素化合物とを含む第1の組成物を用いてプラスチック基材の上に第1の層を積層する工程を有する、光学物品の製造方法である。
【0013】
平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂と金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とを含む第1の組成物を用いることにより、衝撃吸収性が高く、さらに、層の内部で屈折率が変化する層を形成できる。典型的には、第1の層における表層(表面層)の屈折率を、プラスチック基材との界面となる基層(基部)の屈折率および/または当該第1の層の内部層(内部)の屈折率よりも低下させることができる。すなわち、屈折率がプラスチック基材から離れる方向に連続的または段階的(断続的)に低下する(傾斜する)第1の層を得ることができる。ここで、表面層とは、プラスチック基材側とは反対側の表面を指す。内部層とは、表面層を除く第1の層の内部を指す。
【0014】
このため、第1の層の上に、プラスチック基材よりも屈折率が低い第2の層を積層させる場合に、プラスチック基材と第1の層との間の屈折率の差、および第1の層と第2の層との間の屈折率の差の双方を、殆ど無いあるいは小さくすることができる。すなわち、プラスチック基材から第1の層を介して第2の層にかけて、屈折率を連続的または段階的(断続的)に低下させることができ、干渉縞の発生も抑制できる。
【0015】
平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂を含む第1の組成物において、屈折率の変化と衝撃吸収性とを得やすい複数種類のポリウレタン樹脂の組み合わせの1つは、金属酸化物の平均粒子径と同程度あるいはそれ以下の平均粒子径のポリウレタン樹脂と、金属酸化物の平均粒子径と同程度あるいはそれ以上の平均粒子径のポリウレタン樹脂とを含む組み合わせである。第1の組成物における相溶性の観点からは、ポリウレタン樹脂の平均粒子径は、金属酸化物の平均粒子径と同程度あるいはそれ以下であることが好ましい。一方、良好な耐衝撃性を確保するためには、第1の層の柔軟性をある程度確保し、または第1の層の層厚をある程度確保する必要があり、ポリウレタン樹脂の平均粒子径は、金属酸化物の平均粒子径と同程度あるいはそれより大きい方が好ましい。良好な耐衝撃性を確保するためには、複数種類のポリウレタン樹脂の組み合わせは、金属酸化物の平均粒子径よりも大きな平均粒子径のポリウレタン樹脂を含む組み合わせであることがさらに好ましい。
【0016】
この光学物品の製造方法においては、上述のように、第1の層の上に、プラスチック基材よりも屈折率が低い第2の層を積層させることも可能である。すなわち、この光学物品の製造方法においては、第1の層の上に、プラスチック基材よりも屈折率の低い第2の層を積層する工程をさらに有していてもよい。第1の層と第2の層とは積層後、一体で定着(加熱形成)しても良く、別々に形成してもよい。この際、第1の層における第2の層の側の表層は、典型的には、プラスチック基材の側に対して屈折率が低くなる。
【0017】
また、この光学物品の製造方法によれば、金属酸化物微粒子の平均粒子径は5nm〜60nmであることが好ましい。このようにすることにより、第1の層のプラスチック基材近傍における屈折率をより高くすることができる。この結果、屈折率が1.7以上の高屈折率のプラスチック基材を用いた場合でも、干渉縞の発生を効果的に抑制することができる。
【0018】
さらに、この光学物品の製造方法においては、複数種類のポリウレタン樹脂は、平均粒子径が5nm〜60nmである小径ポリウレタン樹脂群と、平均粒子径が60nm〜400nmである大径ポリウレタン樹脂群とを含む群から選ばれ、第1の組成物は、小径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つと、大径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つとを含むことが好ましい。
【0019】
平均粒子径が5nm〜60nmである小径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂は、金属酸化物微粒子との相溶性が比較的高い。平均粒子径が5nm〜60nmである小径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂は、第1の層において空隙を良好に補填するため、第1の層を高屈折率で屈折率が傾斜した層とすることに寄与すると考えられる。
【0020】
平均粒子径が60nm〜400nmである大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂は、第1の層の柔軟性を付与し、または第1の層の層厚を比較的厚く形成する際に好適である。しかも、平均粒子径が60nm〜400nmの大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂は、金属酸化物微粒子の移動を阻害し難い。金属酸化物微粒子の移動が阻害されると、屈折率がプラスチック基材から離れる方向に連続的または段階的に低下する第1の層が形成され難くなる。大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂の平均粒子径が400nmを超えると、小粒径である金属酸化物微粒子や小径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂と良好に混合・分散し難くなり、樹脂組成が均質な第1の層が得られ難くなる。
【0021】
したがって、第1の組成物が、小径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つと、大径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つとを含むようにすることにより、第1の層を、比較的柔軟性の高い層とし、または比較的厚い層とすることが可能となり、しかも、屈折率がプラスチック基材から離れる方向に連続的または段階的に低下する層とすることができる。また、第1の組成物の混合物としての安定性も良好に保つことができる。
【0022】
また、この光学物品の製造方法においては、小径ポリウレタン樹脂群は、平均粒子径が20nm〜40nmの第1のポリウレタン樹脂と、平均粒子径が40nm〜60nmの第2のポリウレタン樹脂とを含むことが好ましい。そして、第1の組成物は、第1のポリウレタン樹脂と、第2のポリウレタン樹脂とを含むことが好ましい。
【0023】
すなわち、この場合、第1の組成物は、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第1のポリウレタン樹脂(平均粒子径が20nm〜40nmのポリウレタン樹脂)と、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第2のポリウレタン樹脂(平均粒子径が40nm〜60nmのポリウレタン樹脂)と、大径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つのポリウレタン樹脂(平均粒子径が60nm〜400nmのポリウレタン樹脂)とを含むことになる。
【0024】
この光学物品の製造方法において、第1の層を積層する工程は、ディッピング法(ディップコーティング法)、スピンコート法(スピンコーティング法)、スプレーコート法(スプレー法)、ロールコート法、あるいは、フローコート法などの種々の方法を用いることができる。作業の簡便さなどを鑑みると、ディップコーティング法がより好ましい。
【0025】
したがって、この光学物品の製造方法においては、第1の組成物にプラスチック基材を浸漬してプラスチック基材に第1の組成物を塗布することを含むことが好ましい。
【0026】
本発明の他の態様は、プラスチック基材の上に第1の層が形成されている光学物品である。この光学物品において、第1の層は、屈折率がプラスチック基材から離れる方向に減少しており、平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子と、有機ケイ素化合物とを含む第1の組成物を用いて形成されている。この光学物品によれば、高屈折率のプラスチック基材を用いる場合であっても、耐衝撃性が良好であって、しかも、干渉縞の発生を抑制できる。
【0027】
この光学物品によれば、第1の層の上に、プラスチック基材よりも屈折率の低い第2の層を形成することができる。このようにしても、干渉縞が発生し難い。
【0028】
また、この光学物品によれば、複数種類のポリウレタン樹脂は、平均粒子径d1が以下の条件式(1)を満たす小径ポリウレタン樹脂群と、平均粒子径d2が以下の条件式(2)を満たす大径ポリウレタン樹脂群とを含む群から選ばれることが好ましい。そして、第1の組成物は、小径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つと、大径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つとを含むことが好ましい。また、金属酸化物微粒子の平均粒子径dmは以下の条件式(3)を満たすことが好ましい。
5nm≦d1≦60nm・・・(1)
60nm≦d2≦400nm・・・(2)
5nm≦dm≦60nm・・・(3)
【0029】
金属酸化物微粒子の平均粒子径dmが条件式(3)を満たすようにすることにより、第1の層のプラスチック基材近傍における屈折率を高くすることができる。また、第1の組成物が、条件式(1)を満たす小径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つと、条件式(2)を満たす大径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つとを含んでいるため、比較的厚く衝撃吸収性に優れた層であって、屈折率がプラスチック基材から離れる方向に連続的または段階的に低下する(傾斜する)層とすることができる。
【0030】
さらに、この光学物品においては、小径ポリウレタン樹脂群は、平均粒子径d11が以下の条件式(4)を満たす第1のポリウレタン樹脂と、平均粒子径d12が以下の条件式(5)を満たす第2のポリウレタン樹脂とを含むことが好ましい。そして、第1の組成物は、第1のポリウレタン樹脂と、第2のポリウレタン樹脂とを含むことが好ましい。
20nm≦d11≦40nm・・・(4)
40nm≦d12≦60nm・・・(5)
【0031】
第1のポリウレタン樹脂および第2のポリウレタン樹脂の双方により第1の層の空隙が補填されるため、第1の層をより高屈折率とすることができる。
【0032】
本発明の光学物品およびその製造方法の一形態では、プラスチック基材は、エピスルフィド化合物を主成分とする重合性組成物を重合硬化して得られ、屈折率が1.7以上のものである。この光学物品は、屈折率が1.7以上と高屈折率であるので、薄型化が容易であり、しかも、耐衝撃性に優れ、ほとんど干渉縞が発生しない。したがって、本発明の光学物品およびその製造方法の一形態では、眼鏡レンズをはじめ、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズなど各種の薄型光学レンズなどとして、幅広く使用することができる光学物品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態にかかるプラスチックレンズを示す断面図。
【図2】実施例1〜7および比較例1〜2のプラスチックレンズの製造条件および各評価結果を纏めて示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の光学物品について実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる光学物品を模式的に示している。本実施形態の光学物品1は、例えば、眼鏡レンズ(眼鏡用のプラスチックレンズ)である。
【0035】
本実施形態のプラスチックレンズ1は、プラスチックレンズ基材10と、プラスチックレンズ基材10の表面に形成された、プラスチックレンズ基材10に接する第1の層11と、第1の層11の表面に形成された、第1の層11に接する第2の層12とを有している。また、本実施形態のプラスチックレンズ1は、眼鏡レンズであるため、第2の層12の表面に形成された、第2の層12に接する反射防止層13をさらに有している。反射防止層13の表面に、さらに、防汚層などを設けてもよい。
【0036】
本実施形態の光学物品1において、第1の層11は、いわゆるプライマー層として機能する層であり、第2の層12は、いわゆるハードコート層として機能する層である。以下、第1の層11をプライマー層、第2の層をハードコート層と記載する。次に、プラスチックレンズ基材10、プライマー層11、およびハードコート層12について、それぞれさらに詳しく説明する。
【0037】
1.プラスチックレンズ基材
プラスチックレンズ基材10は、プラスチック樹脂からなる、あるいは、プラスチック樹脂を主成分とするものであれば特に限定されない。光学物品1が眼鏡レンズ(眼鏡用のプラスチックレンズ)の場合、プラスチックレンズ基材10として高屈折率のレンズ素材を用いることは、光学物品1を薄型化するため、さらには、プラスチックレンズ基材10表面の上層に形成される反射防止層13との屈折率差を得るために好ましい。眼鏡レンズ用のプラスチックレンズ基材10の屈折率は、好ましくは1.65以上、より好ましくは1.7以上、さらに好ましくは1.74以上、もっとも好ましくは1.76以上である。
【0038】
屈折率が1.65以上のレンズ素材としては、イソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物とを反応させることによって製造される、ポリチオウレタン系プラスチック、あるいはエピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モノマーを重合硬化して製造される、エピスルフィド系プラスチックなどが挙げられる。
【0039】
ポリチオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアネート基またはイソチオシアネート基を持つ化合物としては、公知の化合物を用いることができる。イソシアネート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアナートなどが挙げられる。
【0040】
また、メルカプト基を持つ化合物もまた、公知の化合物を用いることができる。メルカプト基を持つ化合物の具体例としては、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオールなどの脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼンなどの芳香族ポリチオールが挙げられる。
【0041】
また、プラスチックレンズ基材10の高屈折率化のためには、メルカプト基以外にも、硫黄原子を含むポリチオールがより好ましく用いられる。その具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパンなどが挙げられる。
【0042】
さらに、プラスチックレンズ基材10としては、エピスルフィド化合物を主成分とする重合性組成物を重合硬化して、屈折率を1.7以上、好ましくは1.7を超えるようにしたものも好適に用いられる。
【0043】
エピスルフィド化合物としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。エピスルフィド化合物の具体例としては、既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物などが挙げられる。また、プラスチックレンズ基材10の高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも、硫黄原子を含む化合物を用いることが好ましい。その具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。これらのエピスルフィド化合物は単独で用いても、混合して用いてもよい。
【0044】
プラスチックレンズ基材10は、例えば、モノマーとして上述したエピスルフィド化合物と所定の触媒とを、あるいはさらに硫黄と混合した上で、ガラス製または金属製の鋳型に注入し、いわゆる注型重合を行うことで得ることができる。硫黄の存在下で重合を行うことにより、屈折率が1.74以上の高屈折率のプラスチックレンズ基材10を得ることができる。硫黄を混合する場合は、硫黄は、エピスルフィド化合物100重量部に対して0.1〜25重量部であることが好ましく、1〜20重量部であることがより好ましい。
【0045】
重合に用いられる触媒としては、アミン類、フォスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類、第3級スルホニウム塩類、第2級ヨードニウム塩類、鉱酸類、ルイス酸類、有機酸類、ケイ酸類、四フッ化ホウ酸類などを挙げることができる。これらの中でも好ましい触媒の例としては、アミノエタノール、1−アミノプロパノールのようなアミン類、テトラブチルアンモニウムブロマイドのような第4級アンモニウム塩類、テトラメチルホスホニウムクロライド、テトラメチルホスホニウムブロマイドのような第4級ホスホニウム塩類などを挙げることができる。
【0046】
また、重合に用いられる触媒は、使用するモノマーの種類に応じて選択し、添加量も調整する必要がある。典型的には、プラスチックレンズ基材10の原料の全量を基準にして、0.001〜0.1重量%が好ましい範囲である。
【0047】
重合温度は、5〜120℃程度が好ましく、反応時間は、1〜72時間程度である。重合後は、プラスチックレンズ基材10の歪みを除去するために、50〜150℃で10分間〜5時間程度アニール処理を行うことが好ましい。
【0048】
プラスチックレンズ基材10を形成する重合性組成物を調製する際に、他のモノマーとして、ポリイソシアナート化合物および/またはポリチオール化合物をさらに混合しておくことも好ましい。エピスルフィド化合物にポリイソシアナート化合物および/またはポリチオール化合物をさらに混合した場合、エピスルフィド化合物だけでなく、ポリイソシアナート化合物やポリチオール化合物も重合に関与する。これにより、染色性や耐熱性にさらに優れたプラスチックレンズ基材10を得ることが可能になる。
【0049】
また、プラスチックレンズ基材10を形成する重合性組成物には、必要に応じて紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、内部離型剤、酸化防止剤、染料、フォトクロミック染料、顔料、帯電防止剤などの公知の各種添加剤を配合してもよい。
【0050】
2.プライマー層
プライマー層11は、第1の組成物(プライマー層形成用組成物)をプラスチックレンズ基材10の上に直に塗布し、その後、ハードコート層12とともに加熱定着することにより形成される。プライマー層11をハードコート層12とは独立して加熱定着することにより形成してもよい。プライマー層11は、例えば、ディッピング法(ディップコーティング法)、スピンコート法(スピンコーティング法)、スプレーコート法(スプレー法)、ロールコート法、あるいは、フローコート法などにより形成することができる。
【0051】
プライマー層11は、典型的には、プラスチックレンズ基材10とハードコート層12との間の密着性を良くするとともに耐衝撃性を付与する性質を有する。これに加え、本実施形態のプライマー層11は、屈折率がプラスチックレンズ基材10から離れる方向に減少するように形成されている。より具体的には、本実施形態のプライマー層11は、プライマー層11のプラスチックレンズ基材10側の部分(プラスチックレンズ基材10と接触している部分およびその近傍)の屈折率がプラスチックレンズ基材10の屈折率と同程度であって、プライマー層11のハードコート層12側の部分(ハードコート層12と接触している部分およびその近傍)の屈折率がハードコート層12の屈折率と同程度となっている。
【0052】
このようなプライマー層11は、(A)平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂と、(B)金属酸化物微粒子と、(C)有機ケイ素化合物(金属酸化物ゾル)とを含むプライマー層形成用組成物を用いることにより形成することができる。なお、プライマー層形成用組成物中において、金属酸化物微粒子のみならず、複数種類のポリウレタン樹脂や有機ケイ素化合物も粒子として存在する。ポリウレタン樹脂の平均粒子径は、例えば、ポリウレタン樹脂の製造条件や分子量、あるいは、プライマー層形成用組成物における攪拌速度などを制御することにより決まる。
【0053】
これらの粒子(微粒子)の平均粒子径は、光散乱法により求めることができる。例えば、動的光散乱式粒径分布測定装置((株)堀場製作所製、商品名:LB−550)を用いることにより、粒径分布と平均粒子径を測定することができる。
【0054】
上記プライマー層形成用組成物により形成されたプライマー層11の屈折率がプラスチックレンズ基材10から離れる方向に減少するのは、以下のような理由であると考えられる。すなわち、プライマー層形成用組成物のコーティング後の乾燥時には、その表層において、ポリウレタン樹脂が相対的に早く硬化し、そして、その後、徐々に、内部(内部層)に向かい、ポリウレタン樹脂が硬化する際に金属酸化物微粒子を表層よりも多く含みながら硬化していくためであると考えられる。したがって、表層にポリウレタン樹脂が相対的に多く、内部層に金属酸化物微粒子が相対的に多い層が形成され、結果として、屈折率がプラスチックレンズ基材10から離れる方向に減少するプライマー層11が形成される。
【0055】
プライマー層形成用組成物に含まれる金属酸化物微粒子としては、酸化チタンを用いてもよいが、酸化チタンを用いずとも、あるいは少量の酸化チタンを含有させるだけで、プライマー層11の屈折率を向上させることができ、また、干渉縞の発生も抑えることができる。また、酸化チタンの使用量を低減すれば光活性作用も少なくなり、耐光性も向上する。
【0056】
さらに、プライマー層形成用組成物は、ポリウレタン樹脂および金属酸化物微粒子の他、有機ケイ素化合物も含んでいる。プライマー層形成用組成物中に有機ケイ素化合物が存在しない場合、単純に金属酸化物微粒子の屈折率を上げたり、その割合を増やしたりしても、プライマー層11の屈折率は、あまり向上しない。プライマー層形成用組成物中に、ポリウレタン樹脂および金属酸化物微粒子とともに有機ケイ素化合物を存在させると、ポリウレタン樹脂の粒子と金属酸化物微粒子とから形成される空隙に、有機ケイ素化合物が入り込む。結果として、プライマー層11は、より密な層となって、屈折率が向上すると考えられる。すなわち、有機ケイ素化合物は、屈折率の向上に寄与しているものと考えられる。プライマー層形成用組成物に有機ケイ素化合物を含ませることにより、プライマー層11における空隙部分に有機ケイ素化合物を充填させ、プライマー層11の内部層を高密度化させることができる。
【0057】
プライマー層形成用組成物は、ポリウレタン樹脂(より具体的には互いに平均粒子径が異なる複数のポリウレタン樹脂)を含んでいるため、この組成物により形成されるプライマー層11は、耐衝撃性が良好であって、しかも、プラスチックレンズ基材10とハードコート層12との間において良好な密着性を発現する。また、ポリウレタン樹脂を含むプライマー層形成用組成物は、他の樹脂、例えばポリエステル樹脂などを用いた場合と比べて、耐光性や耐衝撃性の向上効果に優れている。
【0058】
2.1 ポリウレタン樹脂((A)成分)
(A)成分のポリウレタン樹脂としては、特に制限はなく、平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂を適宜選択すればよい。好ましくは、プライマー層形成用組成物は、平均粒子径が5nm〜60nmの小径ポリウレタン樹脂群に含まれる少なくとも1つのポリウレタン樹脂と、平均粒子径が60nm〜400nmの大径ポリウレタン樹脂群に含まれる少なくとも1つのポリウレタン樹脂とを含むものとするとよい。さらに好ましくは、プライマー層形成用組成物は、例えば、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる平均粒子径が20nm〜40nmの第1のポリウレタン樹脂と、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる平均粒子径が40nm〜60nmの第2のポリウレタン樹脂と、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第3のポリウレタン樹脂とを含むようにするとよい。上述したように、平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂を含むプライマー形成用組成物を用いることにより、第1の層の柔軟性を比較的向上させることができ、かつ、第1の層の層厚を比較的厚くすることができ、しかも、第1の組成物の混合物としての安定性も良好に保つことができる。
【0059】
極性基同士の引き付け合いが生じるような構造を有するポリウレタン樹脂を選択することにより、緻密な構造(ハードセグメント)を形成することができる。しかしながら、平均粒子径が比較的大きいポリウレタン樹脂のみを使用した場合、極性基同士の引き付け合いが生じるような構造を有していたとしても、立体障壁などにより、緻密な構造(ハードセグメント)が形成されない、または形成され難い場合がある。このような場合であっても、使用されるポリウレタン樹脂のうちの少なくとも1つを、平均粒子径が比較的小さいポリウレタン樹脂とすることにより、平均粒子径が比較的大きいポリウレタン樹脂の立体障壁などにより生じる空隙を補填することができる。
【0060】
また、芳香環(ベンゼン環など)は、対称性が高い分子構造であるため、極性基同士の引き付け合いによって集合すると、非常に緻密な構造(ハードセグメント)が形成される。したがって、使用されるポリウレタン樹脂のうちの少なくとも1つは、芳香環を備えるポリウレタン樹脂であることが好ましい。このようにすることにより、プライマー層11が高密度化し、屈折率を高めることができる。
【0061】
ただし、使用されるポリウレタン樹脂のうちの多くを、芳香環を備えるポリウレタン樹脂とした場合、ハードセグメントの増加によって、プライマー層11の結晶性が非常に高くなり、耐衝撃性が低下することがある。このような場合には、使用されるポリウレタン樹脂のうちの少なくとも1つを、カーボネート系のポリウレタン樹脂(カーボネート骨格を備えるポリウレタン樹脂)とすることが好ましい。カーボネート系のポリウレタン樹脂(カーボネート骨格を備えるポリウレタン樹脂)を用いることにより、ハードセグメントを緩和することができる。
【0062】
したがって、芳香環を備えるポリウレタン樹脂であって第1の平均粒子径を有するポリウレタン樹脂と、カーボネート骨格を備えるポリウレタン樹脂であって第2の平均粒子径を有するポリウレタン樹脂とを含むプライマー層形成用組成物を用いることにより、屈折率が比較的高く、しかも、耐衝撃性の良好なプライマー層11を形成することができる。芳香環を備えるポリウレタン樹脂とカーボネート骨格を備えるポリウレタン樹脂との双方を含むプライマー層形成用組成物の使用は、好ましい実施形態の1つである。
【0063】
ポリウレタン樹脂としては、例えば、ジイソシアネート化合物とジオール化合物とを反応して得られる、水溶性のポリウレタン樹脂または水分散性のポリウレタン樹脂(ポリウレタン水分散体)を好適に使用することができる。より好ましくは、水分散性のポリウレタン樹脂である。
【0064】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート化合物、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ジイソシアネート化合物、トルイレンジイソシアネート、フェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート化合物、これらジイソシアネートの変性物(カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン含有変性物など)などが挙げられる。その他の公知のジイソシアネート化合物の使用も可能である。
【0065】
ジオール化合物としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドやテトラヒドロフランなどの複素環式エーテルを(共)重合させて得られるジオール化合物が挙げられる。ジオール化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルジオール、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリ−3−メチルペンチルアジペート、ポリエチレン/ブチレンアジペート、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートなどのポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオールが挙げられる。ジオール化合物としては、これらの中では、ポリエーテル系、ポリエステル系およびポリカーボネート系のうち1種以上を用いることが好ましい。その他の公知のジオール化合物の使用も可能である。
【0066】
さらに好ましくは、ポリウレタン樹脂として、ジオール化合物としてポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のジオールを用いて得られる、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いるとよい。
【0067】
また、カルボン酸基、スルホン酸基などの酸性基を有するジオールを用いたり、低分子量のポリヒドロキシ化合物を添加したり、酸性基を導入したウレタン樹脂、中でもカルボキシル基を有するウレタン樹脂を用いたりすることも望ましい。さらに、架橋処理により、カルボキシル基などの官能基を架橋させることは、光沢向上、耐擦性向上などの点から望ましい。
【0068】
平均粒子径の大きなポリウレタン樹脂としては、例えば、活性水素含有化合物とポリイソシアネート化合物との重合反応によって得られる、水溶性または水分散性のポリウレタン樹脂(ポリウレタン水分散体)が適している。
【0069】
活性水素含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルキレングリコール類、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(ネオペンチレンアジペート)などのポリ(アルキレンアジペート)類、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ(1,4−ブタンジエン)グリコール、ポリ(1,2−ブタンジエン)グリコールなどのポリブタジエングリコール類、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)などのポリ(アルキレンカーボネート)類、シリコーンポリオール等が挙げられる。その他の公知の活性水素含有化合物の使用も可能である。
【0070】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフエニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ジフエニルジイソシアネートなどの芳香族系ジイソイシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族系ジイソシアネートが挙げられる。
【0071】
さらに、ポリイソシアネート化合物としては、水添キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット結合体あるいはイソシアヌレート結合体、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチールプロパンとの反応アダクト体、2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートヘキサノエート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、イソホロンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの反応アダクト体、キシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの反応アダクト体、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとトリメチロールプロパンとの反応アダクト体などのいわゆるブロック型ポリイソシアネートを用いることもできる。その他の公知のポリイソシアネート化合物の使用も可能である。
【0072】
耐衝撃性を発現させる上では、活性水素含有化合物として、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)などのポリカーボネート系ポリオールと、ポリイソシアネート化合物として、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族および/または脂環族系ジイソシアネートを組み合わせた、カーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂が好ましい。
【0073】
ポリウレタン樹脂は、嵩高い構造を有し立体障害を発現するイソホロン基、ジシクロヘキシル基などを有することで、機械的安定性が向上するとともに、柔軟性に優れた層を形成することが可能であり、耐衝撃性に優れる性質もある。また、カーボネート骨格は、一般的に用いられるポリエステル骨格やポリエーテル骨格に比べて、耐加水分解性を発現でき、耐久性に優れた被膜を形成することが可能である。
【0074】
高屈折率を発現させる上では、活性水素化合物としてポリエステル系ポリオールおよび/またはポリエーテル系ポリオール、ポリイソシアネート化合物として芳香族イソシアネートを組み合わせたポリウレタン樹脂が好ましい。さらに、芳香環を有するポリウレタン樹脂は、高屈折率を発現できるため好ましい。さらに、芳香環を有するポリウレタン樹脂では、結晶性が高くなるため、透明性を向上させることも可能である。
【0075】
カーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂と芳香環を有するポリウレタン樹脂とを併用することで、耐衝撃性、高屈折率、良好な透明性を兼ね備えたプライマー層を形成することができる。この際、双方のポリウレタン樹脂として互いに異なる平均粒子径を有するポリウレタン樹脂を組み合わせることにより、プライマー層中において密に充填がなされるため、それぞれを単独で用いる場合よりも、耐衝撃性および屈折率がさらに向上する。つまり、互いに異なる粒子径を有する2種以上のポリウレタン樹脂の組み合わせにより、耐衝撃性、高屈折率、透明性を向上させることが可能である。
【0076】
すなわち、良好な耐衝撃性を発現させる上では、カーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂は高分子量体が好ましく、相対的に平均粒子径が大きいものを組み合わせることが好ましい。一方、芳香環を有するポリウレタン樹脂は、高屈折率および透明性を発現させ、さらに、相対的に平均粒子径の大きなカーボネート骨格を有するポリウレタン樹脂によるマトリックスの空隙部分を適度に補間して耐衝撃性を発現させるため、相対的に平均粒子径が小さいものを組み合わせることが望ましい。
【0077】
ポリウレタン樹脂の形態は、特に限定されない。代表的には、エマルジョンタイプ、例えば、自己乳化エマルジョンや、自己安定化タイプが挙げられる。また、プライマー層形成用組成物を調整する際、ポリウレタン樹脂は、例えば、ポリウレタン溶液として用いることが好ましい。ポリウレタン溶液は、例えば、活性水素含有化合物とポリイソシアネートとの混合物のような、重合前の化合物の混合物を含むものであってもよく、また、すでに重合がなされた重合物を含むものであってもよい。
【0078】
屈折率傾斜機能を良好に発現させる上では、ポリウレタン溶液は、重合物を含むものであることが好ましい。重合物を含むポリウレタン溶液としては、例えば、ポリウレタン樹脂に親水基または親水セグメントを付与し、水溶性または自己分散型にしたポリウレタン水分散エマルション、疎水性のウレタン樹脂を界面活性剤により、強制的に乳化したポリウレタン乳化エマルションなどが挙げられる。このようなポリウレタン溶液を用いて調整したプライマー層形成用組成物をプラスチックレンズ基材10の表面に塗布し、乾燥・硬化させると、ポリウレタン樹脂同士の融着反応により、プライマー層形成用組成物の経時安定性が優れ、且つ塗膜均質性の良好なプライマー層11を形成することができる。
【0079】
なお、ポリウレタン樹脂としては、カチオン系ウレタン樹脂、アニオン系ウレタン樹脂、両性ウレタン樹脂、非イオン系ウレタン樹脂など、各々のポリウレタン樹脂を適用可能である。後述する金属酸化物微粒子との相溶性、プライマー層形成用組成物全体の安定性維持の観点から、その中では、アニオン系ウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0080】
ポリウレタン樹脂の配合量(プライマー層形成用組成物中のポリウレタン樹脂のトータル量の割合)は、20〜70重量%の範囲が好ましく、40〜60重量%であることがより好ましい。本実施形態のように、光学物品1が眼鏡レンズである場合、ポリウレタン樹脂の配合量が20重量%未満であると、最終的に光学物品1を構成したときの耐衝撃性や耐光性が不十分となるおそれがある。また、ポリウレタン樹脂の配合量が70重量%を超えると、プライマー層11の屈折率が低下して、干渉縞が発生しやすくなる。また、光学物品1が眼鏡レンズである場合、眼鏡レンズ1の外観が悪化するおそれがある。
【0081】
ポリウレタン樹脂の好ましい具体例としては、スーパーフレックス210(第一工業製薬(株)製)、スーパーフレックス460(第一工業製薬(株)製)、F2929D(第一工業製薬(株)製)、NeoRezR−960(ゼネカ製)、ハイドランAP−30(大日本インキ工業(株)製)、アイゼラックスS−1020(保土ヶ谷化学(株)製)、ネオタンUE−5000(東亞合成(株)製)、RU−40シリーズ(スタール・ジャパン製)、WF−41シリーズ(スタール・ジャパン製)、WPC−101(日本ウレタン工業(株)製)などが挙げられる。
【0082】
2.2 金属酸化物微粒子((B)成分)
(B)成分の金属酸化物微粒子は、プライマー層11の屈折率に寄与するとともに、フィラーとしてプライマー層11の架橋密度向上に作用して、耐水性、耐候性や耐光性の向上にも寄与する。
【0083】
金属酸化物微粒子としては、酸化チタンを含有する微粒子が好ましく、より好ましくは、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを主成分とする金属酸化物微粒子である。耐光性の観点からは、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する複合型を用いることがより好ましい。複合型の金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化チタンおよび酸化スズ、または酸化チタン、酸化スズおよび酸化ケイ素からなるルチル型の結晶構造を有するものを挙げることができる。
【0084】
金属酸化物微粒子として、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する複合酸化物微粒子を使用することにより、プライマー層11の屈折率が向上するだけでなく、耐候性や耐光性がより向上する。また屈折率は、アナターゼ型の結晶よりもルチル型の結晶の方が高い。したがって、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する複合酸化物微粒子は、比較的屈折率の高い金属酸化物微粒子と言える。
【0085】
また、金属酸化物微粒子は、メチル基などのアルキル基を有する有機ケイ素化合物で表面処理されていることが好ましい。アルキル基を有する有機ケイ素化合物としては、後述する(C)成分の有機ケイ素化合物のうち、アルキル基を有するものが好適に用いられる。
【0086】
アルキル基を有する有機ケイ素化合物で表面処理された金属酸化物微粒子を用いることにより、(A)成分のポリウレタン樹脂との相溶性が向上し、結果として均質性が向上することから、干渉縞の発生がより抑制され、また、耐衝撃性も向上する。また、プライマー層11の均質性が向上する際、(C)成分の有機ケイ素化合物により充填される空隙の均質性も同時に向上し、その結果、プライマー層11の屈折率がより向上し、干渉縞の発生をより効果的に抑えることができる。
【0087】
金属酸化物微粒子の種類や配合量は、目的とする屈折率や硬度などにより決定される。金属酸化物微粒子は、平均粒子径が5nm〜60nmであることが好ましい。より好ましくは、10〜20nmである。平均粒子径が5nm未満、あるいは60nmを超えると、(A)成分のポリウレタン樹脂や、後述する(C)成分の有機ケイ素化合物との相乗効果が良好に発揮できず、プライマー層11の屈折率を効果的に向上させることが困難となる場合がある。
【0088】
金属酸化物微粒子の配合量(プライマー層形成用組成物中の金属酸化物微粒子の割合)は、30〜80重量%であることが好ましく、40〜60重量%の範囲であることがより好ましい。金属酸化物微粒子の配合量が少なすぎると、プライマー層11の屈折率および耐摩耗性が不十分となる場合がある。一方、金属酸化物微粒子の配合量が多すぎると、耐衝撃性が低下したり、プライマー層11にクラックが生じるおそれもある。また、染色する場合には、染色性が低下するおそれもある。金属酸化物微粒子の割合を40〜80重量%とすることにより、プライマー層11の屈折率を十分高くできるとともに、プライマー層11の架橋密度を適度に保つことができ、硬さおよび耐衝撃性を損なうこともない。
【0089】
2.3 有機ケイ素化合物((C)成分)
(C)成分の有機ケイ素化合物は、主として、プライマー層11中の空隙部分を充填するものであり、これにより、プライマー層11全体が高密度化し、屈折率が向上する。有機ケイ素化合物としては、例えば、下記一般式(a)で示される化合物を好適に使用することができる。
12nSiX13-n ・・・(a)
(上記一般式(a)中、R1は、重合可能な反応基を有する有機基であり、R2は炭素数1
〜6の炭化水素基であり、X1は加水分解基であり、nは0または1である。)
【0090】
一般式(a)で示される有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどが挙げられる。有機ケイ素化合物としては、これらの有機ケイ素化合物を2種類以上混合して用いてもよい。
【0091】
また、有機ケイ素化合物としては、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなど、下記一般式(b)で示される4官能有機ケイ素化合物を用いても、上記と同様の効果を得ることができる。
SiX24 …(b)
(上記一般式(b)中、X2はアルコキシル基である。)
【0092】
さらに、有機ケイ素化合物としては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシランなどのエポキシ基を有する有機ケイ素化合物を用いてもよい。これらを用いることにより、プラスチックレンズ基材10とハードコート層12との間の密着性をさらに向上させることができる。
【0093】
また、有機ケイ素化合物がエポキシ基を有する場合、プライマー層11の架橋密度が向上し過ぎることがなく、適度に制御されるため、耐衝撃性の良好なプライマー層11を得ることができる。
【0094】
さらに、有機ケイ素化合物は、オルガノアルコキシシラン化合物であり、加水分解を施さない単量体として用いることも有効である。オルガノアルコキシシラン化合物を加水分解を施さない単量体として用いる場合、加水分解を施して高分子量化させた場合に比べて、プライマー層11中の空隙部分に充填され易い。したがって、プライマー層11の屈折率がより高くなり、屈折率が1.7以上のエピスルフィド系のプラスチックレンズ基材10を用いても、干渉縞の発生を良好に抑えることができる。
【0095】
有機ケイ素化合物は、平均粒子径が5nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。有機ケイ素化合物の平均粒子径が5nmを超えると、ポリウレタン樹脂や金属酸化物微粒子との相乗効果が発揮できず、プライマー層11の屈折率を効果的に向上させることが困難となる場合がある。
【0096】
有機ケイ素化合物の配合量(プライマー層形成用組成物中の有機ケイ素化合物の割合)は、0.1重量%〜10重量%であることが好ましい。有機ケイ素化合物の割合が0.1重量%未満であると、プラスチックレンズ基材10とハードコート層12との間の密着性が十分に発揮されないおそれがある。また、空隙部分を完全に充填することができず、屈折率が向上しないおそれがある。一方、有機ケイ素化合物が10重量%を超えると、耐摩耗性が低下するおそれがある。また、空隙部分に対して過剰量が存在することになり、屈折率の低下をきたすおそれがある。
【0097】
プライマー層形成用組成物をプラスチックレンズ基材10に塗布するにあたっては、プラスチックレンズ基材10と第1のプライマー層11との密着性の向上を目的として、プラスチックレンズ基材10の表面を、予め、アルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、無機あるいは有機の微粒子による剥離/研磨処理、プラズマ処理しておくことが効果的である。
【0098】
また、プライマー層形成用組成物の塗布方法および硬化方法の一例としては、ディッピング法(ディップコーティング法)、スピンコート法(スピンコーティング法)、スプレーコート法(スプレー法)、ロールコート法、あるいは、フローコート法などにより、プライマー層形成用組成物をプラスチックレンズ基材10上に塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱・乾燥する方法が挙げられる。
【0099】
プライマー層形成用組成物は、必要に応じ、塗布に適した濃度に希釈して使用してもよい。希釈に用いられる溶媒(溶剤)としては、例えば、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、芳香族類などが挙げられる。その他の公知の溶剤の使用も可能である。典型的には、加熱により溶剤が揮散して、ポリウレタン樹脂などを主成分とするプライマー層11が形成される。
【0100】
また、プライマー層形成用組成物には、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加し、塗布性、硬化速度、および硬化後の被膜性能などを改良することもできる。
【0101】
以下の実施例において、プライマー層11は1層で構成されているが、2層以上の多層構造であってもよい。プライマー層11の層厚は、0.05μm〜5μmの範囲が好ましい。さらには、0.1μm〜2μmの範囲がより好ましく、0.3μm〜0.9μmの範囲が最も好ましい。プライマー層11の層厚が薄すぎると、耐水性や耐衝撃性などが低下するおそれがあり、逆に厚すぎると、表面の平滑性が損なわれたり、光学的歪や白濁、曇りなどの外観欠点を発生させる場合がある。
【0102】
上述したプライマー層形成用組成物をプラスチックレンズ基材10に塗布することにより、屈折率がプラスチックレンズ基材10から離れる方向に減少するプライマー層11を形成することができる。なお、干渉縞の抑制の観点より、プライマー層11のプラスチックレンズ基材10近傍における屈折率とプラスチックレンズ基材10の屈折率との差は、0.01以下であることが好ましい。また、プライマー層11の表層(ハードコート層近傍)における屈折率とハードコート層の屈折率との差も、0.01以下であることが好ましい。
【0103】
3.ハードコート層
ハードコート層12は、第2の組成物(ハードコート層形成用組成物)をプライマー層11の上に直に塗布し、その後、プライマー層11とともに加熱定着することにより形成される。ハードコート層12を独立して加熱定着してもよい。ハードコート層12もまた、例えば、ディッピング法(ディップコーティング法)、スピンコート法(スピンコーティング法)、スプレーコート法(スプレー法)、ロールコート法、あるいは、フローコート法などにより形成することができる。
【0104】
ハードコート層12は、典型的には、プライマー層11の表面に形成され、耐擦傷性および耐摩耗性を発揮する性質を有する。このようなハードコート層12は、例えば、(D)有機ケイ素化合物と(E)金属酸化物微粒子(金属酸化物ゾル)とを含むハードコート層形成用組成物を用いることにより形成することができる。ハードコート層形成用組成物は、(F)着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの添加物を含んでいてもよい。
【0105】
(D)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、シリコーン系硬化樹脂を用いることができる。また、(D)成分の有機ケイ素化合物としては、(C)成分の有機ケイ素化合物と同様のものを用いることもできる。すなわち、(D)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、上記一般式(a)で示される化合物を好適に使用することができる。
【0106】
有機ケイ素化合物は、ハードコート層におけるバインダー剤としての役割を果たすが、良好な密着性を得るためには、上記一般式(a)で示される化合物を用いる場合、上記一般式(a)におけるR2は、エポキシ基が好ましい。良好な耐擦傷性を得るためには、上記一般式(a)におけるR2は、メチル基が好ましい。
【0107】
(E)成分の金属酸化物微粒子としては、(B)成分の金属酸化物微粒子と同様のものを用いることができる。尚、酸化チタンの使用量は減量するほど、耐候性、耐光性に優れる。前記プライマー層との組み合わせによって、ハードコートの屈折率を必ずしも向上させる必要がなくなることから、酸化チタンの使用量を減量でき、耐候性、耐光性を向上させることが可能である。また、酸化チタンの使用量を低減する際、光活性作用を有さない金属酸化物を配合することは非常に有用である。特に酸化ケイ素は光活性作用を有さず、また酸化チタンに比べて硬度に優れることから、耐候性、耐光性、耐擦傷性を向上させることが可能である。
【0108】
有機ケイ素化合物と金属酸化物微粒子とを含むハードコート層形成用組成物を調製する際には、金属酸化物微粒子が分散したゾルと有機ケイ素化合物とを混合することにより調整することが好ましい。金属酸化物微粒子の配合量は、ハードコート層の硬度や、屈折率などにより決定されるものであるが、ハードコート層中の固形分の5重量%〜80重量%、特に10重量%〜60重量%であることが好ましい。金属酸化物微粒子の配合量が少なすぎると、ハードコート層12の耐摩耗性や屈折率が不十分となり、配合量が多すぎると、ハードコート層12にクラックが生じることがある。また、ハードコート層12を染色する場合には、染色性が低下する場合もある。
【0109】
また、ハードコート層形成用組成物は、(D)成分の有機ケイ素化合物および(E)成分の金属酸化物微粒子の他、有機樹脂成分((G)成分)として、多官能性エポキシ化合物を含有することが非常に有用である。多官能性エポキシ化合物は、プライマー層11に対するハードコート層12の密着性を向上させるとともに、ハードコート層12の耐水性およびプラスチックレンズ1としての耐衝撃性を向上させる効果を奏する。
【0110】
多官能性エポキシ化合物としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテルなどの脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテルなどの芳香族エポキシ化合物などが挙げられる。
【0111】
さらに、ハードコート層形成用組成物には、(H)成分として硬化触媒を添加してもよい。(H)成分の硬化触媒としては、例えば、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウムなどの過塩素酸類、Cu(II)、Zn(II)、Co(II)、Ni(II)、Be(II)、Ce(III)、Ta(III)、Ti(III)、Mn(III)、La(III)、Cr(III)、V(III)、Co(III)、Fe(III)、Al(III)、Ce(IV)、Zr(IV)、V(IV)などを中心金属原子とするアセチルアセトナート、アミン、グリシンなどのアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩などが挙げられる。
【0112】
また、ハードコート層形成用組成物の塗布方法および硬化方法の一例としては、ディッピング法(ディップコーティング法)、スピンコート法(スピンコーティング法)、スプレーコート法(スプレー法)、ロールコート法、あるいは、フローコート法などにより、ハードコート層形成用組成物をプライマー層11上に塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱・乾燥する方法が挙げられる。
【0113】
ハードコート層形成用組成物は、必要に応じ、塗布に適した濃度に希釈して使用してもよい。希釈に用いられる溶媒(溶剤)としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類などの溶剤が用いられる。また、ハードコート層形成用のコーティング組成物は、必要に応じて、少量の金属キレート化合物、界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料、油溶染料、顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系などの耐光耐熱安定剤などを添加し、コーティング液の塗布性、硬化速度および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【0114】
ハードコート層12の層厚は、0.05〜30μmの範囲が好ましい。ハードコート層12の層厚が0.05μm未満では、基本性能(耐擦傷性、耐摩耗性など)が実現できない。一方、ハードコート層12の層厚が30μmを超えると、表面の平滑性が損なわれたり、光学歪みが発生してしまう場合がある。
【0115】
4.反射防止層
反射防止層13は、必要に応じてハードコート層12上に形成される薄層である。反射防止層13は、例えば、屈折率が1.3〜1.5である低屈折率層と、屈折率が1.8〜2.3である高屈折率層とを交互に積層して形成することができる。層数としては、5層あるいは7層程度が好ましい。
【0116】
反射防止層13を構成する各層に使用される無機物の例としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、TaO、Ta、NbO、Nb、NbO、Nb、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどが挙げられる。これらの無機物は単独で用いるかもしくは2種以上を混合して用いる。反射防止層13の一例は、低屈折率層をSiOの層とし、高屈折率層をZrOの層としたものである。
【0117】
反射防止層13を形成する方法としては、乾式法、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが挙げられる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0118】
なお、反射防止層13は、湿式法を用いて形成してもよい。例えば、内部空洞を有するシリカ系微粒子(以下、「中空シリカ系微粒子」ともいう)と、有機ケイ素化合物とを含んだ反射防止層形成用組成物を、プライマー層11あるいはハードコート層12と同様の方法でコーティングして形成することもできる。
【0119】
ここで、中空シリカ系微粒子を用いるのは、内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含されることによって、空洞のないシリカ系微粒子に比べてより屈折率が低減し、結果的に、優れた反射防止効果を付与できるからである。中空シリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されている方法などで製造することができるが、平均粒子径が1〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することが望ましい。また、有機ケイ素化合物としては、前記した一般式(a)で示される化合物を好適に用いることができる。反射防止層13の層厚は、50〜150nmの範囲が好ましい。この範囲より厚すぎたり薄すぎたりすると、十分な反射防止効果が得られないおそれがある。
【0120】
5.防汚層
光学物品1の表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、反射防止層13の上に、フッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる防汚層を形成してもよい。フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、例えば、特開2005−301208号公報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。
【0121】
含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液(防汚層形成用組成物)として用いることが好ましい。防汚層は、この撥水処理液を反射防止層13上に塗布することにより形成することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法などを用いることができる。なお、撥水処理液を金属ペレットに充填した後、真空蒸着法などの乾式法を用いて、防汚層を形成することも可能である。
【0122】
防汚層の層厚は、特に限定されないが、0.001μm〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001μm〜0.03μmである。防汚層の層厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層の厚さが0.03μmより厚くなると反射防止効果が低下する可能性がある。
【0123】
本実施形態によれば、屈折率が1.7以上の高屈折率のプラスチック基材10を用いることができ、しかも、このプラスチック基材10上に、プライマー層11およびハードコート層12を形成しているため、非常に薄型で、耐衝撃性に優れ、かつ干渉縞の少ない光学物品(眼鏡用プラスチックレンズ)1を提供することができる。
【実施例】
【0124】
次に、上記実施形態に基づく実施例1〜7、および比較例1〜2について説明する。まず、実施例1〜7および比較例1〜2のプラスチックレンズの製造方法について説明する。また、実施例1〜7および比較例1〜2において製造したプラスチックレンズについて、干渉縞、耐衝撃性、およびヘーズの評価を行った。この評価基準および評価結果について説明する。
【0125】
(実施例1)
工程(1)プライマー組成物(第1の組成物)の調整
ステンレス製容器内に、メチルアルコール8500重量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液40重量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(金属酸化物微粒子(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤メチルトリメトキシシラン、固形分濃度20%、日揮触媒化成(株)製、商品名:オプトレイク))2500重量部((B)成分)を加え、攪拌混合した。次いで、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第1のポリウレタン樹脂(平均粒子径30nm、水分散、固形分濃度35%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)240重量部と、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第2のポリウレタン樹脂(平均粒子径50nm、水分散、固形分濃度38%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス460)110重量部と、大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂(平均粒子径250nm、水分散、固形分濃度30%、第一工業製薬(株)製、F2929D)560重量部(以上(A)成分)と、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(有機ケイ素化合物)60重量部((C)成分)とを加えて攪拌混合した後、さらにシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7604)2重量部を加えて、一昼夜攪拌を続けた。その後、2μmのフィルターで濾過を行い、プライマー組成物(第1の組成物)を得た。
【0126】
なお、上記スーパーフレックス210は、芳香環を有するエステル系ポリウレタン樹脂を分散媒として含む液体である。また、上記スーパーフレックス460は、カーボネート骨格を有するカーボネート系ポリウレタン樹脂を分散媒として含む液体である。上記F2929Dは、カーボネート骨格および芳香環を有するカーボネート系ポリウレタン樹脂であって、屈折率が比較的高い、高分子量体のポリウレタン樹脂を分散媒として含む液体である。
【0127】
工程(2)ハードコート組成物の調整
ステンレス製容器内に、ブチルセロソルブ1000重量部を投入し、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1200重量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸水溶液300重量部を添加して、一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7001)30重量部を加えて1時間攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク)7300重量部を加えて2時間攪拌混合した。次いで、エポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名:EX−313)250重量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)アセチルアセトナート20重量部を加えて1時間攪拌した。その後、2μmのフィルターで濾過を行い、ハードコート組成物を得た。
【0128】
工程(3)プライマー層の積層(プライマー層形成用組成物の塗布および乾燥)
プラスチックレンズ基材(屈折率1.74、中心厚:1.1mm、セイコーエプソン(株)製、商品名:セイコープレステージ)を用意した。このプラスチックレンズ基材をアルカリ処理(50℃に保たれた2モル/リットルの水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した後、純水で洗浄し、次いで25℃に保たれた1.0モル/リットル硫酸に1分間浸漬して中和処理を行う)し、純水洗浄および乾燥、放冷を行った。
【0129】
なお、屈折率1.74のプラスチックレンズ基材の製造方法の一例は次のようなものである。まず、窒素雰囲気下において、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド90重量部、硫黄10重量部を、100℃で1時間、混合攪拌する。冷却後、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド0.05重量部を混合後、均一液とする。次いで、これを0.5μmのPTFEフィルターで濾過し、1.2mm厚のレンズ成型用ガラスモールドに注入し、オーブン中で10℃から22時間かけて120℃に昇温し重合硬化させ、プラスチックレンズ基材10を製造する。この方法により得られたプラスチックレンズ基材10は、屈折率が1.74、アッベ数が33であった。また、得られたプラスチックレンズ基材10は、透明で表面状態は良好であった。
【0130】
アルカリ処理したプラスチックレンズ基材を、上記工程(1)で調整したプライマー組成物中に浸漬し、引き上げ速度300mm/分でディップコートした。これにより、プラスチックレンズ基材にプライマー層組成物が塗布された。この後、プライマー層組成物が塗布されたプラスチックレンズを70℃で20分間焼成し、表面乾燥後の層厚が500nmとなるようにプライマー層を積層させた。すなわち、これにより、プラスチックレンズ基材の上(プラスチックレンズ基材の表面)に、層厚が500nmのプライマー層(第1の層)が積層された。
【0131】
工程(4)ハードコート層の積層(ハードコート層形成用組成物の塗布および乾燥)
プライマー層を形成したプラスチックレンズ基材を、上記工程(2)で調整したハードコート組成物中に浸漬し、引き上げ速度400mm/分でディップコートし、80℃で30分間焼成した。これにより、プライマー層の上に、層厚が2000nmのハードコート層(第2の層)が積層された。
【0132】
工程(5)プライマー層およびハードコート層の定着
さらに、125℃に保たれたオーブン内で3時間加熱して、プライマー層およびハードコート層が形成されたプラスチックレンズ基材(プラスチックレンズ)を得た。
【0133】
工程(6)反射防止層の形成
プライマー層およびハードコート層が形成されたプラスチックレンズ基材に、反射防止層を真空蒸着法にて成膜した。具体的には、プラズマ処理(アルゴンプラズマ400W×60秒)を行い、ハードコート層側から大気側に向かって順に、SiO2、ZrO2、SiO2、ZrO2、SiO2の5層で構成される多層の反射防止層を、真空蒸着機((株)シンクロン製)にて形成した。各層の光学的膜厚は、最初のSiO2層、次のZrO2とSiO2の等価膜層および次のZrO2層、最上層のSiO2層について、設計波長λを520nmとしてそれぞれλ/4となるように形成した。これにより、プライマー層、ハードコート層、および反射防止層を有するプラスチックレンズが製造された。
【0134】
(実施例2)
実施例1の工程(1)プライマー組成物の調整において使用した(A)成分(ポリウレタン樹脂の種類および量)を小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第1のポリウレタン樹脂(平均粒子径30nm、水分散、固形分濃度35%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)285重量部と、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第2のポリウレタン樹脂(平均粒子径50nm、水分散、固形分濃度38%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス460)260重量部と、大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂(平均粒子径250nm、水分散、固形分濃度30%、第一工業製薬(株)製、F2929D)400重量部とに変更した。これ以外は、実施例1と同様にプラスチックレンズを製造した。
【0135】
(実施例3)
実施例1の工程(1)プライマー組成物の調整において使用した(A)成分(ポリウレタン樹脂の種類および量)を、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第1のポリウレタン樹脂(平均粒子径30nm、水分散、固形分濃度35%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)300重量部と、大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂(平均粒子径250nm、水分散、固形分濃度30%、第一工業製薬(株)製、F2929D)630重量部とに変更した。これ以外は、実施例1と同様にプラスチックレンズを製造した。
【0136】
(実施例4)
実施例1の工程(1)プライマー組成物の調整において使用した(A)成分(ポリウレタン樹脂の種類および量)を、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第1のポリウレタン樹脂(平均粒子径30nm、水分散、固形分濃度35%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)180重量部と、大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂(平均粒子径250nm、水分散、固形分濃度30%、第一工業製薬(株)製、F2929D)770重量部とに変更した。これ以外は、実施例1と同様にプラスチックレンズを製造した。
【0137】
(実施例5)
実施例1の工程(1)プライマー組成物の調整において使用した(A)成分(ポリウレタン樹脂の種類および量)を、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第2のポリウレタン樹脂(平均粒子径50nm、水分散、固形分濃度38%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス460)220重量部と、大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂(平均粒子径250nm、水分散、固形分濃度30%、第一工業製薬(株)製、F2929D)700重量部とに変更した。これ以外は、実施例1と同様にプラスチックレンズを製造した。
【0138】
(実施例6)
実施例1の工程(1)プライマー組成物の調整において使用した(A)成分(ポリウレタン樹脂の種類および量)を、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第2のポリウレタン樹脂(平均粒子径50nm、水分散、固形分濃度38%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス460)110重量部と、大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂(平均粒子径250nm、水分散、固形分濃度30%、第一工業製薬(株)製、F2929D)840重量部とに変更した。これ以外は、実施例1と同様にプラスチックレンズを製造した。
【0139】
(実施例7)
実施例1の工程(1)プライマー組成物の調整において使用した(A)成分(ポリウレタン樹脂の種類および量)を、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第1のポリウレタン樹脂(平均粒子径30nm、水分散、固形分濃度35%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)420重量部と、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第2のポリウレタン樹脂(平均粒子径50nm、水分散、固形分濃度38%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス460)390重量部とに変更した。これ以外は、実施例1と同様にプラスチックレンズを製造した。
【0140】
(比較例1)
実施例1の工程(1)プライマー組成物の調整において使用した(A)成分(ポリウレタン樹脂の種類および量)を、小径ポリウレタン樹脂群に含まれる第1のポリウレタン樹脂(平均粒子径30nm、水分散、固形分濃度35%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)840重量部のみに変更した。これ以外は、実施例1と同様にプラスチックレンズを製造した。
【0141】
(比較例2)
実施例1の工程(1)プライマー組成物の調整において使用した(A)成分(ポリウレタン樹脂の種類および量)を、大径ポリウレタン樹脂群に含まれるポリウレタン樹脂(平均粒子径250nm、水分散、固形分濃度30%、第一工業製薬(株)製、F2929D)980重量部のみに変更した。これ以外は、実施例1と同様にプラスチックレンズを製造した。
【0142】
(評価)
実施例1〜7および比較例1〜2で得られたプラスチックレンズを、以下の評価方法によって評価した。
【0143】
(I)干渉縞
暗箱内において、三波長型蛍光灯(松下電器産業(株)製、商品名:ナショナルパルック)下で、プラスチックレンズの干渉縞を観察し、次の段階に分けて評価した。
○:干渉縞の発生がほとんど観察されない、良好な水準
△:干渉縞の発生が観察でき、やや見苦しい水準
×:干渉縞の発生が激しく、見苦しい水準
【0144】
(II)耐衝撃性
米国FDA規格による落球試験を行なった。凸面を上にしたプラスチックレンズの鉛直上方から、質量16.3gの鋼球を、高さ87cmから落下させ、ここで破壊が生じなかったものは、20cmずつ高さを上げて、再度鋼球を落下させ、破壊した時点の高さを測定し、同一水準のレンズ5枚の破壊高さの平均値から下記の通り分類した。なお、落球試験時にはプラスチックレンズ基材の中心厚を1.1mmとした。質量16.3gの鋼球による破壊高さが127cmを超えることがFDA規格クリアとされている。
◎:187cm以上
○:147cm以上〜187cm未満
△:127nm以上〜147cm未満
×:127cm未満
【0145】
(III)ヘーズ測定
自動ヘーズコンピューター(TMダブルビーム方式、光源:D65、スガ試験機(株)製、製品名:HZ−2)を用いて、全光線透過率に対する拡散透過率の比率を規格化した数値により、プラスチック基材上にプライマー層(層厚:0.5μm)およびハードコート層(層厚:2μm)を積層したプラスチックレンズの曇り度合いを評価した。評価方法は、JISK7136(プラスチック透明材料のヘーズの求め方)に準拠して行った。曇り度合いの目安となるヘーズ値は、以下の式で求められる。ヘーズ値が小さいほど透明性が高いと言える。
ヘーズ値=Td/Tt×100
(Td:散乱光線透過率、Tt:全光線透過率)
○:ヘーズ値が0.1未満
×:ヘーズ値が0.1以上
【0146】
(評価結果)
図2に、実施例1〜7および比較例1〜2のプラスチックレンズの製造条件および各評価結果を纏めて示している。
【0147】
実施例1〜7のプラスチックレンズは、干渉縞、耐衝撃性、およびヘーズ値の全てが良好であった。これは、平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂と金属酸化物微粒子と有機ケイ素化合物とを含む第1の組成物を用いて、プライマー層を形成したためであると考えられる。
【0148】
また、実施例1〜6のプラスチックレンズは、実施例7のプラスチックレンズと比べて、さらに耐衝撃性が良好であった。これは、高分子量体のポリウレタン樹脂であるF2929Dにより柔軟性を有する直鎖状マトリックスが形成され、耐衝撃性が発現されたためであると考えられる。
【0149】
比較例1は、干渉縞およびヘーズ値は良好であるが、耐衝撃性が劣っていた。これは、ポリウレタン樹脂として、平均粒子径が比較的小さい1種類のポリウレタン樹脂のみを用いたためであると考えられる。
【0150】
比較例2は、耐衝撃性は良好であるが、ヘーズ値が劣っており、干渉縞も発生した。これは、平均粒子径が比較的大きい1種類のポリウレタン樹脂のみを用いたためであると考えられる。
【0151】
また、実施例1〜6のプラスチックレンズは、小粒子径のポリウレタン樹脂(スーパーフレックス210、スーパーフレックス460)が同時に配合されているため、これらが、上記の直鎖状マトリックス同士を補完し、三次元的なネットワーク形成を促進しつつ、F2929Dのマトリックス中の空隙で作用する。したがって、実施例1〜6のプラスチックレンズは、耐衝撃性を損なうことなく、プライマー層全体の屈折率を向上させることも可能である。
【0152】
評価結果ではほとんど差がないが、耐衝撃性テストの具体的な数値、干渉縞の観察などの結果より、上記の実施例の中でも、スーパーフレックス210、スーパーフレックス460、およびF2929Dを含む実施例1および2の評価が特に良好であった。実施例1および2では、芳香環を有するスーパーフレックス210とF2929Dにより結晶部が形成されるとともに、平均粒子径の小さいスーパーフレックス210とスーパーフレックス460により空隙が補填され、さらに、柔軟性の高いスーパーフレックス460が衝撃を緩和していると考えられる。
【0153】
スーパーフレックス210とF2929Dとは、ともに芳香環を有し、かつ、平均粒子径が大小異なるため、結晶化の相互作用と補填効果によって、非常に緻密性のあるプライマー層を形成することができる。したがって、高屈折率化が図れ、しかも、緻密性の良好なプライマー層が得られる。ただし、結晶部が過剰に形成されると、緻密性が高くなりすぎ、耐衝撃性がやや低下する場合がある。実施例1および2では、カーボネート系のスーパーフレックス460により、結晶部が過剰に形成されることが緩和されるため、衝撃吸収性も良好である。
【0154】
F2929Dは、芳香環を有しているが、比較例2に示すように、これのみでは、平均粒子径が比較的大きいため、立体障壁などによりハードセグメントが密には形成されにくい。このため、光学的な性能が得られにくい。一方、スーパースレックス210のみでは、比較例1に示すように、光学的性能は良好であるが、耐衝撃性が得られにくい。実施例7では、芳香環を有しているスーパースレックス210と、カーボネート系のスーパーフレックス460との組み合わせにより、光学的性質は良好であり、さらに耐衝撃性もほぼ良好であるとの評価結果が得られている。
【0155】
実施例3〜6においては、カーボネート系で、スーパーフレックス460よりもさらに平均粒子径の大きなF2929Dを組み合わせることにより、衝撃吸収性がいっそう向上している。そして、上述したように、実施例1および2では、スーパーフレックス210およびF2929Dとはさらに平均粒子径の異なるカーボネート系のスーパーフレックス460を加えた3成分の組み合わせを採用することにより、様々なモードの衝撃を吸収しやすく、光学的性質も良好であるとの評価結果が得られている。
【0156】
以上のように、実施例1〜7とすることにより、耐衝撃性が良好であって、しかも、干渉縞もほとんど見られないプラスチックレンズを得ることができる。
【0157】
本発明の光学物品は、プラスチックレンズとして好適に使用することができる。本発明の光学物品としては、例えば、眼鏡レンズ、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズ、光学機器用レンズなどの光学レンズを挙げることができる。なお、本発明を適用できる光学物品は、光学レンズに限定されない。本発明の光学物品には、例えば、液晶ディスプレイなどの表示板、DVDなどの光記録媒体、光が透過または反射する他の物品などが含まれる。
【符号の説明】
【0158】
1 プラスチックレンズ(光学物品)
10 プラスチックレンズ基材(プラスチック基材)
11 プライマー層(第1の層)
12 ハードコート層(第2の層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材の上に第1の組成物を用いて第1の層を積層する工程を有し、
前記第1の組成物は、平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子と、有機ケイ素化合物とを含む、光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の層の上に、前記プラスチック基材よりも屈折率の低い第2の層を積層する工程をさらに有し、
前記第1の層における前記第2の層の側の表層は、前記プラスチック基材の側に対して屈折率が低い、光学物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記金属酸化物微粒子の平均粒子径は5nm〜60nmである、光学物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記複数種類のポリウレタン樹脂は、平均粒子径が5nm〜60nmである小径ポリウレタン樹脂群と、平均粒子径が60nm〜400nmである大径ポリウレタン樹脂群とを含む群から選ばれ、
前記第1の組成物は、前記小径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つと、前記大径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つとを含む、光学物品の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記小径ポリウレタン樹脂群は、平均粒子径が20nm〜40nmの第1のポリウレタン樹脂と、平均粒子径が40nm〜60nmの第2のポリウレタン樹脂とを含み、
前記第1の組成物は、前記第1のポリウレタン樹脂と、前記第2のポリウレタン樹脂とを含む、光学物品の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記第1の層を積層する工程は、前記第1の組成物に前記プラスチック基材を浸漬して前記プラスチック基材に前記第1の組成物を塗布することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項7】
プラスチック基材の上に第1の層が形成されている光学物品であって、
前記第1の層は、屈折率が前記プラスチック基材から離れる方向に減少しており、平均粒子径が互いに異なる複数種類のポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子と、有機ケイ素化合物とを含む第1の組成物を用いて形成されている、光学物品。
【請求項8】
請求項7において、前記第1の層の上に、前記プラスチック基材よりも屈折率の低い第2の層が形成されている、光学物品。
【請求項9】
請求項7または8において、前記複数種類のポリウレタン樹脂は、平均粒子径d1が以下の条件式を満たす小径ポリウレタン樹脂群と、平均粒子径d2が以下の条件式を満たす大径ポリウレタン樹脂群とを含む群から選ばれ、前記第1の組成物は、前記小径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つと、前記大径ポリウレタン樹脂群のうちの少なくとも1つとを含み、
前記金属酸化物微粒子の平均粒子径dmは以下の条件式を満たす、光学物品。
5nm≦d1≦60nm
60nm≦d2≦400nm
5nm≦dm≦60nm
【請求項10】
請求項9において、前記小径ポリウレタン樹脂群は、平均粒子径d11が以下の条件式を満たす第1のポリウレタン樹脂と、平均粒子径d12が以下の条件式を満たす第2のポリウレタン樹脂とを含み、
前記第1の組成物は、前記第1のポリウレタン樹脂と、前記第2のポリウレタン樹脂とを含む、光学物品。
20nm≦d11≦40nm
40nm≦d12≦60nm

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−262004(P2010−262004A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110470(P2009−110470)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】