説明

光学特性評価装置および光学特性評価方法

【課題】屈折率や透過係数など電磁波に対する試料の光学特性を従来よりも高精度に評価する。
【解決手段】光学特性評価装置1において、センサ部30は、複数の第1の貫通スリット31Aが所定の間隔ごとに形成された第1の金属層31と、第1の金属層31と間隔をあけて平行に設けられ、複数の第2の貫通スリット32Aが所定の間隔ごとに形成された第2の金属層32と、第1および第2の金属層間に挿入され、試料を保持可能な保持体33とを含む。電磁波源10は、複数の第1の貫通スリット31Aの間隔および複数の第2の貫通スリット32Aの間隔よりも長い波長を有する電磁波を、第1の金属層31と交差する方向からセンサ部30に照射する。検出器20は、センサ部30を透過した電磁波、またはセンサ部30から反射された電磁波を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主としてミリ波からテラヘルツ波の周波数領域にある電磁波を用いて試料の光学特性を評価する光学特性評価装置および光学特性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主としてミリ波からテラヘルツ波(30GHz〜30THz)の周波数領域にある電磁波を用いた非破壊的な分析技術が開発されている。たとえば、物質内部の複素誘電率を求めて物質の結合状態を調べる分光技術、生体分子の解析技術、半導体のキャリア濃度および移動度を評価する技術が開発されている。これらの技術では、テラヘルツ波を被測定試料に照射して、透過率を測定することによって試料の分析が行われる(たとえば、特開2004−108905号公報(特許文献1)を参照)。
【0003】
さらに進歩した測定技術が、たとえば特開2007−10366号公報(特許文献2)に開示されている。この技術では、金属導体に設けられた空隙部に被測定試料を充填することによって一体型構造体が形成される。この一体型構造体にテラへルツ波を照射することによって、試料の屈折率などが測定される。
【0004】
上記の特開2007−10366号公報(特許文献2)に記載の測定技術は、特開2004−117703号公報(特許文献3)に記載された位相差板を利用したものである。この文献によれば、位相差板は、多数の貫通孔が周期的に形成された金属板からなり、金属板の厚みと貫通孔の寸法および間隔が電磁波の波長レベルに設定される。
【0005】
電磁波もしくは光の波長と同程度の周期性をもつ金属人工材料の他の例として、J.T.Shenらによって報告された金属貫通スリットが知られている(J.T.Shen、外2名、「Mechanism for Designing Metallic Metamaterials with a High Index of Refraction」、Physical Review Letters、2005年、第94巻、197401-1〜4(非特許文献1)参照)。J.T.Shenらの文献によれば、電磁波の波長よりも短い周期で貫通スリットが周期的に配列された金属膜は、誘電体スラブ(Slab)と等価であると考えることができる。誘電体スラブの屈折率は金属膜の幾何学的形状のみで決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−108905号公報
【特許文献2】特開2007−10366号公報
【特許文献3】特開2004−117703号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.T.Shen、外2名、「Mechanism for Designing Metallic Metamaterials with a High Index of Refraction」、Physical Review Letters、2005年、第94巻、197401-1〜4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のテラヘルツ波を利用した非破壊分析技術は有用ではあるが、分析精度が十分とは言い難い。試料の屈折率や吸収係数などをより高精度に検出できる分析技術の開発が望まれているのが現状である。
【0009】
この発明の目的は、屈折率や透過係数など電磁波に対する試料の光学特性を従来よりも高精度に評価することができる光学特性評価装置および光学特性評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は一局面において、電磁波を用いて試料の光学特性を評価する光学特性評価装置であって、センサ部と、電磁波源と、検出器とを備える。センサ部は、複数の第1の貫通スリットが所定の間隔ごとに形成された第1の金属層と、第1の金属層と間隔をあけて平行に設けられ、複数の第2の貫通スリットが所定の間隔ごとに形成された第2の金属層と、第1および第2の金属層間に挿入され、試料を保持可能な保持体とを含む。電磁波源は、複数の第1の貫通スリットの間隔および複数の第2の貫通スリットの間隔よりも長い波長を有する電磁波を、第1の金属層と交差する方向からセンサ部に照射する。検出器は、センサ部を透過した電磁波、またはセンサ部から反射された電磁波を検出する。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、屈折率など電磁波に対する試料の光学特性を従来よりも高精度に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1による光学特性評価装置1の主要部の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】光学特性評価装置1の全体構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】図2の電磁波源制御部60A、電磁波源10A、および検出器20Aのさらに詳しい構成を説明するための図である。
【図4】金属層31,32の光学特性を説明するための図である。
【図5】式(2)に従って計算したときの屈折率n3と貫通スリットのずれ量Δxとの関係を示す図である。
【図6】試料がない場合のセンサ部30の透過スペクトルの数値計算結果を示す図である。
【図7】試料なしの場合の透過スペクトルと試料ありの場合の透過スペクトルとを比較して示す図である(吸収係数が0の場合)。
【図8】試料による屈折率の増加量とモニター周波数ν0における透過率の変化量の絶対値ΔTとの関係を示す図である。
【図9】試料なしの場合の透過スペクトルと試料ありの場合の透過スペクトルとを比較して示す図である(吸収係数が0でない場合)。
【図10】実施の形態1の光学特性評価装置1による光学特性の評価手順を示すフローチャートである。
【図11】この発明の実施の形態2による光学特性評価装置2の構成を示すブロック図である。
【図12】図11の光学特性評価装置2による光学特性の評価手順を示すフローチャートである。
【図13】この発明の実施の形態3による光学特性評価装置3の構成を示すブロック図である。
【図14】透過率と貫通スリットのずれ量Δxとの関係を試料なしの場合と試料ありの場合とで比較して示した図である。
【図15】図13の光学特性評価装置3による光学特性の評価手順を示すフローチャートである。
【図16】実施の形態3の変形例による光学特性の評価手順を示すフローチャートである。
【図17】この発明の実施の形態4による光学特性評価装置4の主要部の構成を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。以下の説明では、電磁波は主としてテラヘルツ波であるとして説明するが、この発明に用いられる電磁波の波長域はテラヘルツ帯に限られない。たとえば、ミリ波や中赤外線に対してもこの発明を適用することができる。なお、以下の説明において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0014】
<実施の形態1>
[光学特性評価装置の主要部の構成]
図1は、この発明の実施の形態1による光学特性評価装置1の主要部の構成を模式的に示す斜視図である。図1を参照して、光学特性評価装置1は、センサ部30と、テラヘルツ帯の周波数の電磁波をセンサ部30に照射する電磁波源10と、センサ部30の透過波または反射波の強度を検出する検出器20とを含む。
【0015】
センサ部30は、互いに平行に配置された第1の金属層31および第2の金属層32と、その間隙に挿入された、電磁波を透過する媒質でできた保持体33とを含む。保持体33には被測定試料50が固定可能である。センサ部30への電磁波の入射方向は金属層31,32と交差する方向であればよいが、金属層31,32に対して垂直な方向に近いほうが望ましい。検出器20は、図1に示すようにセンサ部30を透過した電磁波を検出する場合には、センサ部30に対して電磁波源10と反対側に配置される。センサ部30の反射波を検出する場合には、検出器20はセンサ部30に対して電磁波源10と同じ側に配置される。
【0016】
センサ部30において、第1の金属層31には、一方向に延びた複数の貫通スリット31Aが、電磁波源10から出射される電磁波の波長よりも短い間隔ごとに周期的に形成される。以下、金属層31に垂直な方向をz方向とし、貫通スリット31Aの延在方向をy方向とし、y方向およびz方向に垂直な方向をx方向とする。第2の金属層32は、第1の金属層31と間隔をあけて平行に設けられ、一方向に延びた複数の貫通スリット32Aが、電磁波源10から出射される電磁波の波長よりも短い間隔ごと周期的に形成される。
【0017】
金属層31に形成された複数の貫通スリット31Aの延在方向と金属層32に形成された複数の貫通スリット32Aの延在方向は同一であることが望ましい。さらに、金属層31に形成された貫通スリット31Aの周期と金属層32に形成された複数の貫通スリット32Aの周期とは同一であることが望ましい。金属層31,32間の間隔は波長程度であればよく、目安として0より大きく波長の2倍以下であることが望ましいが、波長の2倍以上であってもセンサ部30の効果が急激に失われるわけではない。
【0018】
センサ部30の金属層31と金属層32との間隙には、テラヘルツ波に対して透明なセルロースなどの非極性材料でできた高分子繊維からなる保持体33を用いて被測定試料50が保持されている。テラヘルツ波で測定可能な被測定試料50として例えば生体物質、薬物、化学物質が挙げられる。
【0019】
センサ部30に照射される電磁波の偏光状態は、磁界の方向が貫通スリット31Aの延在方向(y方向)であり、電界の方向がy方向に直交する平面(zx平面)内にある、いわゆるTM(Transverse Magnetic)偏光が望ましい。
【0020】
[金属層31,32の作製方法]
ミリ波からテラヘルツ波の周波数帯である30GHz〜30THzに対応する波長は、10mm〜10μmである。したがって、電磁波の波長が比較的長い場合には、エッチングなどの方法によって金属板に細長い矩形状の開口(貫通スリット)を平行に複数本形成することによって、図1に示す構造の金属層31,32を容易に作製することができる。この場合、矩形状の開口(貫通スリット)の長さは、電磁波の波長の5〜6倍以上に形成されることが望ましい。電磁波の波長の5〜6倍以上の長さの貫通スリットであれば、電磁波の伝搬特性は貫通スリットの長さが無限に長い場合とほぼ同じに考えることができる。
【0021】
電磁波の波長が比較的短い場合には、電磁波に対して透明な基板にメッキ法などによって金属層を形成し、その後、エッチングによって金属層を貫通する複数の貫通スリットを形成する。そして、このように金属層が形成された2枚の基板を、金属層の形成面が対向するように固定することによって、図1に示すような構造の金属層31,32を作製することができる。テラヘルツ波に対して用いる基板材料として、ドープ量の少ないシリコンなどを使用することができる。ミリ波で使用することができる基板材料としては、一般的な用途に使われるプラスチックなどが挙げられる。
【0022】
[光学特性評価装置の全体構成]
図2は、光学特性評価装置1の全体構成を概略的に示すブロック図である。
【0023】
図3は、図2の電磁波源制御部60A、電磁波源10A、および検出器20Aのさらに詳しい構成を説明するための図である。図2、図3を参照して、光学特性評価装置1は、電磁波源10Aと、電磁波源制御部60Aと、凹面鏡41,42と、センサ部30と、検出器20Aと、コンピュータ70とを含む。電磁波源10Aおよび検出器20Aは図1の電磁波源10および検出器20にそれぞれ対応する。
【0024】
電磁波源10Aは、低温成長ガリウム砒素(GaAs)基板12上に形成された10mm程度のギャップを有するアンテナ素子11を含む。アンテナ素子11のギャップ間には直流電源14によって直流電圧が印加される。GaAs基板12の裏面には、反射損失を減らすとともに放射パターンを改善するためにシリコン半球レンズ13が設けられる。
【0025】
電磁波源制御部60Aは、超短パルスレーザ61と、固定ミラー62A〜62Dと、可動ステージに搭載された可動ミラー63と、ハーフミラー64とを含む。超短パルスレーザ61は、数10MHz程度の繰返し周期で100fs程度のパルス幅のフェムト秒パルス光を出射する。超短パルスレーザ61から出射されたフェムト秒パルス光は、ミラー62Aおよびハーフミラー64を介してアンテナ素子11のギャップ間にポンプ光として照射される。これによって、アンテナ素子11は、0.5〜2.5THzに広がったブロードなスペクトルを有するテラヘルツ波を発生する。
【0026】
発生したテラヘルツ波は、凹面鏡41によってコリメートされてからセンサ部30に照射される。このときのテラヘルツ波の偏光状態は、磁界の方向が貫通スリット31Aの延在方向(y方向)であり、電界の方向がy方向に直交する平面(zx平面)内にある、いわゆるTM偏光が望ましい。アンテナ素子11として、たとえばダイポールアンテナを用いる場合には、アンテナから発生するテラヘルツ波は直線偏光であり、アンテナ電流の方向に電磁波の電界が生じるので、アンテナ素子11の配置方向によってセンサ部30に照射されるテラヘルツ波の偏光方向を調整できる。
【0027】
検出器20Aは、低温成長GaAs基板22に形成されるアンテナ素子21を含む。アンテナ素子21は、電磁波源10Aに設けられたアンテナ素子11と同等の構成を有する。検出器20A用のアンテナ素子21には電流計24が接続される。
【0028】
センサ部30を透過したテラヘルツ波は、凹面鏡42と、GaAs基板22の裏面側に設けられたシリコン半球レンズ23を介してアンテナ素子21に到達する。さらに、超短パルスレーザ61から出射されたフェムト秒パルス光が、ミラー62A,64,62B,63,62C,62Dを介してアンテナ素子21のギャップ間にプローブ光として照射される。この結果、プローブ光が照射されたときの、透過テラヘルツ波の電界強度に応じた信号が電流計24によって検出される。電流計24の出力は図示を省略したアンプによって増幅された後、コンピュータ70に取り込まれる。
【0029】
テラヘルツ波の時間サンプリングを行なうには、テラヘルツ波が数10MHzの繰返しで到来することを利用して、ポンプ光とプローブ光のタイミングを変更しながら複数回測定を行なう。具体的には、可動ステージに搭載した光学部品(可動ミラー63)を用いてフェムト秒パルス光(プローブ光)に光路遅延を与え、検出器20Aに設けられたアンテナ素子21にテラヘルツ波が到達する時間とフェムト秒パルス光(プローブ光)が到達する時間との差を変化させる。そして、テラヘルツ電磁波とフェムト秒パルス光(プローブ光)の到達時間差に応じて変化するアンテナ素子21の出力電流を検出することによってテラヘルツ波の時間サンプリングデータを取得する。もし、100fs程度の短いパルス波形を1回で測定することが可能であれば、上記のような方法を用いなくても1回の測定で時間サンプリングデータを取得することができる。
【0030】
コンピュータ70は、プログラムに従って、光学特性評価装置1全体を制御するとともに、検出器20Aで検出された時間サンプリングデータに基づいて試料の光学特性、すなわち屈折率、透過係数、および反射係数などを評価する。具体的には、コンピュータ70は、まず、時間サンプリングデータをフーリエ変換することによって透過スペクトルデータに変換する。次にコンピュータ70は、透過スペクトルデータに基づいて被測定試料50の複素屈折率を計算する。このとき、最小二乗法あるいは重回帰分析法を用いることにより吸収のある物質や複数の物質からなる試料についても対応可能な解析が行われる。具体的な解析法については後で詳細に説明する。
【0031】
[試料がない場合の金属層31,32の光学特性]
図4は、金属層31,32の光学特性を説明するための図である。図4(A),(B)には、金属層31に形成された貫通スリット31Aと、金属層32に形成された貫通スリット32Aとにずれがない場合とずれがある場合の側面図がそれぞれ示される。図4(C)には、金属層31,32と等価と考えられる3層の誘電体スラブ(Slab)の概念図が示される。
【0032】
図4(A),(B)を参照して、金属層31に形成された貫通スリット31Aの幅をa1とし、貫通スリット31Aの周期をd1とし、金属層31の厚みをL1とする。金属層32に形成された貫通スリット32Aの幅をa2とし、貫通スリット32Aの周期をd2とし、金属層31の厚みをL2とする。金属層31の形状と金属層32の形状は同じであることが好ましいので、以下では、a1=a2=a、d1=d2=d、L1=L2=Lとする。さらに、金属層31,32間の間隔をΔzとし、z方向から見たときの金属層31に形成された貫通スリット31Aと、金属層32に形成された貫通スリット32Aとの横ずれの大きさをΔxとする。
【0033】
前述したJ.T.Shenら文献(非特許文献1)には、単一の金属層(31または32)の特性は、屈折率n=d/a、厚みL/nの誘電体スラブ(図4(C)の参照符号101,102に対応する)の特性にほぼ等しくなることが示されている。さらに、ファブリペローの共振条件(ω/c×L=mπ、ただし、ω:角周波数、c:電磁波の速度=光速/n、m:整数、π:円周率)を満たすとき透過係数が100%になることが記載されている。しかしながら、間隔Δzをあけて平行に設けられた2層の金属層31,32が全体としてどのような光学特性を有するのかは明らかでない。
【0034】
本願の発明者は、図4(A),(B)に示される2層の金属層31,32の特性が、金属層間の空気層(誘電体層)を含めた3層の誘電体スラブ101,103,102とほぼ等価であることを見出した。貫通スリットが形成された金属層31,32について、貫通スリット内の電磁波をTM偏光の伝播モードで展開し、貫通スリットの上下の空気層は散乱モード(z方向は自由伝播、x方向は貫通スリットの周期に対する逆格子ベクトルを基底として)で展開を行い、透過率Tを計算すると、次式(1)が得られた。ただし、ωは電磁波の角周波数を表わし、cは電磁波の速度を表わし、iは虚数単位を表わし、eはネイピア数を表わす。
【0035】
【数1】

【0036】
式(1)において、S1、S2、S3は貫通スリットの形状(幅a、周期d、深さL)および相対配置(Δx、Δz)で決まる値である。式(1)の透過率の形式は3層の誘電体層の透過率の形式と同じである。S1、S2、S3を3層の誘電体層の同様の係数と比較することにより、中間の空気層に対応する誘電体スラブ103の屈折率n3は、“1”ではなく上下金属層31,32の貫通スリットの配置関係(ΔxおよびΔz)に依存して、
【0037】
【数2】

【0038】
のように近似的に表わすことができた(この結果は、本願の出願時において未公表である)。上式(2)において、sincは、正弦関数をその変数で割って得られる関数であり、カーディナル・サイン関数と呼ばれる。中間の空気層に対応する誘電体スラブ103の厚みはΔzのままで扱える。
【0039】
図5は、式(2)に従って計算したときの屈折率n3と貫通スリットのずれ量Δxとの関係を示す図である。式(2)において、貫通スリット31A,32Aの周期dを0.6mmとし、貫通スリット31A,32Aの幅aを0.16mmとした。上下の金属層31,32間の間隔Δzを0.1mmとし、金属層31,32の厚みLを1.3mmとした。
【0040】
図5に示すように、貫通スリットのずれ量Δxが0のときは、金属層31,32の中間の空気層(誘電体スラブ103)の屈折率は1(空気の屈折率)に等しい。貫通スリットのずれ量Δxが増加するにつれて、金属層31,32の中間の空気層(誘電体スラブ103)の屈折率が増加することがわかる。
【0041】
図6は、試料がない場合のセンサ部30の透過スペクトルの数値計算結果を示す図である。図6に示したグラフの縦軸はセンサ部30の透過率Tを示し、横軸はテラヘルツ波の周波数を示す。
【0042】
数値計算には有限差分時間領域法を用いた。数値計算のパラメータとして、金属層31,32の材料を真鍮とし、貫通スリット31A,32Aの周期dを0.6mmとし、貫通スリット31A,32Aの幅aを0.16mmとした。上下の金属層31,32間の間隔Δzを0.1mmとし、金属層31,32の各々の厚みLを1.3mmとし、上下の貫通スリット31A,32Aのずれ量Δxを0とした。金属層31,32を構成する材料を真鍮とし、金属材料の複素誘電関数がドルーデモデルに従って与えられるとした。金属層31,32のx方向、y方向の両端での境界条件を周期境界条件とした。金属層31,32の表面に平行な電界成分を0とした。
【0043】
図6に示すように、被測定試料50のない場合のセンサ部30の透過スペクトルには透過率Tが100%となる複数のピークが並ぶ。図6に示す透過スペクトルは、図4(C)に示した3層の誘電体スラブの場合と同じ結果を与える。すなわち、透過率のピークの位置は、ファブリペロー共振条件によって説明できる。
【0044】
[吸収係数が0である試料が金属層間に挿入された場合]
次に、図1の金属層31,32間に挿入される保持体33に試料が保持されている場合について説明する。この場合、試料の屈折率によって有効光路長が大きくなる(言替えると、試料中では電磁波の波長が短くなる)ので、ファブリペローの共振条件を満たすピーク周波数(強度が極大になるときの周波数)の位置が低周波数側にシフトする。
【0045】
図7は、試料なしの場合の透過スペクトルと試料ありの場合の透過スペクトルとを比較して示す図である。図7のグラフは、図6において透過率がほぼ100%となる複数のピークのうち、ひとつのピーク(周波数が0.3THz付近)について着目した拡大図である。被測定試料50には吸収がないものとしている。実線のグラフが金属層31,32間に試料がない場合を示し、破線のグラフが金属層31,32間に試料がある場合を示す。上下の貫通スリット間のすれ幅Δxは0であるとする。
【0046】
図7に示すように、試料50のある場合(破線)は、試料50のない場合(実線)に比べて金属層31と金属層32との間隙の平均的な屈折率が大きくなるために、ピーク周波数が周波数ν0から周波数ν1へと低周波数側にシフトする。したがって、被測定試料50のない場合の1つのピーク周波数ν0をモニター周波数とすれば、被測定試料50の屈折率の増加に伴って透過率が減少することがわかる。
【0047】
図8は、試料による屈折率の増加量とモニター周波数ν0における透過率の変化量の絶対値ΔTとの関係を示す図である。図8には、図6の場合と同じパラメータを用いて数値計算を行なった結果が示される。
【0048】
図8に示すように、試料の屈折率の増加に伴って、モニター周波数ν0における透過率が直線的に変化することがわかる。わずか0.01の屈折率の増加で、透過率が10%以上変化する高感度な検出ができる。
【0049】
[吸収係数が0でない試料が金属層間に挿入された場合]
図9は、試料なしの場合の透過スペクトルと試料ありの場合の透過スペクトルとを比較して示す図である。図9も図8と同様に、図6において透過率がほぼ100%となる複数のピークのうち、ひとつのピーク(周波数が0.3THz付近)について着目して周波数を拡大したものである。ただし、被測定試料50は、テラヘルツ波を吸収する物質で構成されているとする。
【0050】
図9に示すように、試料がテラヘルツ波を吸収する場合には、ピーク周波数が低周波数側にシフトするとともに、ピークでの透過率が100%から減少する。このような場合には、図8で示したような単一のモニター波長ν0での解析では不十分である。屈折率と吸収係数を正確に求めるには、ピーク周波数付近のスペクトルデータを取得してスペクトル形状の解析を行なう。具体的には、ピークでの透過率の変化量ΔT(100%からの減衰量)から吸収係数を算出し、ピーク周波数のシフト量Δνから屈折率変化を算出する。
【0051】
もう少し簡便に、被測定試料50のない場合にピークとなる周波数の他に、さらにひとつ、あるいは複数の周波数でのデータを取得して最小二条法を用いた解析を行なうことにより、屈折率(ピーク周波数のシフト量)と吸収係数(ピーク透過率の変化量)とを同時に得ることができる。
【0052】
たとえば、周波数がν1からνNのN個の透過スペクトルデータ{Ti}(ただし、i=1〜N)を取得したとする。ピーク付近での透過スペクトル形状f(ν)は予め分かっているものとすると、求めるべきピークの周波数ν0および透過率T0を用いて透過スペクトルの周波数依存性はT0×f(ν−ν0)と表すことができる。この結果、透過スペクトルの実測データ{Ti}と一致すべきスペクトル形状T0×f(ν−ν0)との残差の二乗和Qは、
【0053】
【数3】

【0054】
と表わされる。上記の残差の二乗和Qが最小になるように、たとえば、ニュートン・ラフソン法を用いてν0とT0を決定することができる。
【0055】
さらに、上記のようにして求めた屈折率、もしくは吸収係数、もしくは屈折率および吸収係数の両方から物質の濃度などの情報を得ることができる。
【0056】
[混合物質の混合比の評価]
図6で示した透過率がほぼ100%になるN個のピーク周波数について、上記と同様の測定を行なうことにより、複数の物質が混合された被測定試料について、混合された複数の物質のそれぞれの濃度を得ることができる。
【0057】
たとえば、被測定試料にはM種類の物質が含まれているものとする。予め各物質について、その物質だけで構成されており濃度の分かっている試料についてN個のピーク周波数の各々で測定と解析を行い、各ピーク周波数での単位濃度の吸収係数{αji}(ただし、i=1〜M,j=1〜N)を算出しておく。混合された被測定試料について測定と解析を行い、被測定試料の吸収係数{βj}(ただし、j=1〜N)を算出する。被測定試料の物質の混合比を{Ci}(ただし、i=1〜M)とすると、{βj}、{αji}および{Ci}の関係は、
【0058】
【数4】

【0059】
のように表わすことができる。ここで、{ej}(ただし、j=1〜N)は残差である。上式(4)を簡略化して、
【0060】
【数5】

【0061】
のように表わす。上式(5)において最小二乗法を用いて残差の二乗和が最小になるようにすると、混合比{Ci}を表わすベクトル[C]を、
【0062】
【数6】

【0063】
のように求めることができる。上式(6)において、[ ]tは転置行列を表わし、[ ]-1は逆行列を表わす。式(6)の関係から、被測定試料の混合比{Ci}を求めることができる。
【0064】
[光学特性の評価手順]
図10は、実施の形態1の光学特性評価装置1による光学特性の評価手順を示すフローチャートである。以下、図1〜図3、図10を参照して、これまでの説明を総括して試料の光学特性の評価手順について説明する。
【0065】
まず、ステップS101で、試料なしの保持体33が金属層31,32間に挿入された状態でセンサ部30が光学特性評価装置1に取付けられる。
【0066】
次のステップS102で、図2のコンピュータ70の制御によって、図3の超短パルスレーザ61の発振が開始される。超短パルスレーザ61から出射されたフェムト秒パルスレーザ光がポンプ光としてアンテナ素子11のギャップに照射される。これによって、テラヘルツ波がアンテナ素子11から放射される。発生したテラヘルツ波は、凹面鏡41でコリメータされた後、センサ部30に照射される。実施の形態1の場合には、超短パルスレーザ61のレーザ発振の繰返し周波数(たとえば、数10MHz)と同じ繰返し周波数でテラヘルツ波がセンサ部30に照射される。
【0067】
次のステップS103で、図3の検出器20Aに設けられたアンテナ素子21は、プローブ光が照射された時点で、アンテナ素子21に到達した透過テラヘルツ波を検出する。ポンプ光が電磁波源10Aのアンテナ素子11に照射されるタイミングと、プローブ光が検出器20Aのアンテナ素子21に照射されるタイミングとの時間差を変化させることによって、透過テラヘルツ波の時間サンプリングを行なうことができる。コンピュータ70は透過テラヘルツ波の時間サンプリングデータを内蔵の記憶装置に記憶する。
【0068】
次のステップS104で、試料ありの保持体33が金属層31,32間に挿入された状態でセンサ部30が光学特性評価装置1に取付けられる。
【0069】
次のステップS105およびS106は、それぞれステップS102およびS103と同じであるので説明を繰返さない。ステップS106で検出された透過テラヘルツ波の時間サンプリングデータは、図2のコンピュータ70に内蔵された記憶装置に記憶される。
【0070】
次のステップS107で、コンピュータ70は、ステップS103で検出された試料なしの場合の時間サンプリングデータをフーリエ変換することによって、透過スペクトルを算出する。
【0071】
次のステップS108で、コンピュータ70は、ステップS106で検出された試料ありの場合の時間サンプリングデータをフーリエ変換することによって、透過スペクトルを算出する。
【0072】
次のステップS109で、コンピュータ70は、試料なしの場合に得られた透過スペクトルのピーク周波数と、試料ありの場合に得られた透過スペクトルのピーク周波数との相違に基づいて、被測定試料の屈折率を決定する。具体的な屈折率の算出方法は既に説明したとおりである。
【0073】
次のステップS110で、コンピュータ70は、試料なしの場合に得られた透過スペクトルのピーク強度(強度の極大値)と、試料ありの場合に得られた透過スペクトルのピーク強度との相違に基づいて、被測定試料の吸収係数を決定する。具体的な吸収係数の算出方法は既に説明したとおりである。
【0074】
被測定試料が複数の物質の混合された混合物である場合には、既に説明したように、混合物の混合比を評価することができる。この場合、コンピュータ70は、保持体33に試料が保持されていない状態で得られた透過スペクトルの複数のピーク強度と、保持体33に試料が保持された状態で得られた透過スペクトルのそれぞれ対応する複数のピーク強度との相違に基づいて、混合物の混合比を算出する。
【0075】
上記と同様の方法で試料の反射係数を評価することもできる。反射係数を測定する場合には、検出器20Aはセンサ部30に対して電磁波源10Aと同じ側に配置される。ステップS103,S106では、検出器20Aによって、センサ部30によって反射されたテラヘルツ波が時間サンプリングされる。ステップS107,S108では、コンピュータ70は、ステップS103,S106でそれぞれ検出された反射テラヘルツ波の時間サンプリングデータをフーリエ変換することによって反射スペクトルを算出する。ステップS110では、コンピュータ70は、試料なしの場合に得られた反射スペクトルのボトム強度(強度の極小値)と、試料ありの場合に得られた反射スペクトルのボトム強度との相違に基づいて、被測定試料の反射係数を決定する。
【0076】
被測定試料が複数の物質の混合された混合物である場合には、試料なしの状態で得られた反射スペクトルの複数のボトム強度と、試料ありの状態で得られた反射スペクトルのそれぞれ対応する複数のボトム強度と相違に基づいて、混合物の混合比を算出することができる。具体的な混合比の算出方法は、透過スペクトルを用いた場合と同様であるので説明を繰返さない。
【0077】
[変形例]
本実施の形態においては、金属層31、32の材料の例として真鍮の例を示したが、金属層の材料としてはこれに限るものではなく、金、銀、銅、クロムなど、ミリ波からテラヘルツ波の周波数領域の光に対して金属の性質を有する材料であれば、何であってもよい。これらの金属材料を利用すれば、貫通スリットの周期を小さくすることにより、中赤外の周波数領域の電磁波を利用することもできる。
【0078】
さらに、金属層31、32の材料としては、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、酸化スズなどの酸化物、あるいは高濃度に不純物をドープした珪素、ゲルマニウム、炭素、ガリウム砒素、インジウム燐、炭化珪素、シリコンゲルマニウムなどであってもよい。テラヘルツ波やマイクロ波の周波数領域で金属の性質を示す材料であれば、金属材料以外の材料であっても利用することができる。
【0079】
保持体33の材料としてはセルロースの例を示したが、使用する光の波長に対して透明性を有するものであれば、他の材料であってもよい。たとえば、テラヘルツ波に対してはドープ量の少ないシリコンなどを使用することができる。ミリ波で使用することができる材料としては、一般的な用途に使われるプラスチックが挙げられる。
【0080】
<実施の形態2>
図11は、この発明の実施の形態2による光学特性評価装置2の構成を示すブロック図である。図11を参照して、光学特性評価装置2は、電磁波源10Bと、検出器20Bと、センサ部30と、コンピュータ70とを含む。電磁波源10Bおよび検出器20Bは図1の電磁波源10および検出器20にそれぞれ対応する。センサ部30の構成は図1、図4に示す実施の形態1の場合と同じであるので説明を繰返さない。
【0081】
電磁波源10Bは、たとえば非線形結晶のパラメトリック過程を利用して、変更可能な単一の中心周波数を有するテラヘルツ波を発生する。テラヘルツ帯のパラメトリック波は、LiNbO3結晶やMgOをドープしたLiNbO3結晶などにQスイッチYAGレーザによるポンプ光を入射することによって発生させる。このときパラメトリック波とともに発生するアイドラー光を共振器内で共振させることによってスペクトル線幅を狭くすることができる。試料の有無による屈折率変化が小さいほど透過スペクトルのピークシフト量は小さくなるので、テラヘルツ波のスペクトル線幅が狭い方が検出感度は向上する。
【0082】
ポンプ光の光軸からの散乱角に応じてアイドラー光およびテラヘルツ波の波長が決まるので、電磁波源10Bで発生するテラヘルツ波の中心周波数は変更可能である。中心周波数の設定に関して、金属層31,32を3層誘電体スラブとみなしたときのファブリペローの共振条件を満たすピーク周波数の位置に、電磁波源10Bで発生するテラヘルツ波の中心周波数を概ね一致させたほうが、検出感度が向上するので望ましい。
【0083】
センサ部30に照射されるテラヘルツ波の偏光状態は、磁界の方向が貫通スリット31Aの延在方向(図1のy方向)であり、電界の方向がy方向に直交する平面(zx平面)内にある、いわゆるTM偏光が望ましい。パラメトリック過程では、ポンプ光、アイドラー光、およびテラヘルツ波の偏光状態は直線偏光で電界方向は全て同じ方向にあり、予めテラヘルツ光の偏光方向がわかっている。したがって、ミラー対を用いて偏光を90度だけ回転させたり、あるいは損失は生ずるがワイアグリッドを用いて所望の方向の偏光成分を取り出したりして、偏光方向を調整することができる。
【0084】
検出器20Bは、センサ部30を透過したテラヘルツ波の強度を検出する。検出器20Bとして、ボロメータや焦電素子を利用することができる。
【0085】
コンピュータ70は、光学特性評価装置2全体を制御するとともに、検出器20Bで検出された透過テラヘルツ波の強度に基づいて試料の光学特性を評価する。電磁波源10Bから出射されるテラヘルツ波の中心周波数を変更しながら、検出器20Bによってテラヘルツ波の透過強度を検出することによって、透過スペクトルデータを取得することができる。
【0086】
図12は、図11の光学特性評価装置2による光学特性の評価手順を示すフローチャートである。以下、図1、図11、図12を参照して、試料の光学特性の評価手順について説明する。
【0087】
ステップS201で、試料なしの保持体33が金属層31,32間に挿入された状態でセンサ部30が光学特性評価装置2に取付けられる。
【0088】
次のステップS202で、図11のコンピュータ70の制御によって、電磁波源10Bから初期設定周波数のテラヘルツ波がセンサ部30に照射される。
【0089】
次のステップS203で、図11の検出器20Bは、センサ部30を透過したテラヘルツ波の強度を検出する。コンピュータ70は検出器20Bによって検出されたテラヘルツ波の透過強度のデータを内蔵の記憶装置に記憶する。
【0090】
次のステップS204で、コンピュータ70の制御によって、電磁波源10Bから出射されるテラヘルツ波の中心周波数が変更される。変更後に再度ステップS202,S203が繰返される。所定の周波数範囲内での測定が完了した場合には(ステップS204でNO)、処理はステップS205に進む。以上のステップS202〜S204が繰返されることによって、試料なしの場合でのセンサ部30の透過スペクトルが検出される。
【0091】
次のステップS205で、試料ありの保持体33が金属層31,32間に挿入された状態でセンサ部30が光学特性評価装置2に取付けられる。
【0092】
次のステップS206〜S208は、それぞれステップS202〜S204と同じであるので説明を繰返さない。ステップS206〜S208が繰返されることによって、試料ありの場合でのセンサ部30の透過スペクトルが検出される。所定の周波数範囲内での測定が完了した場合には(ステップS208でNO)、処理はステップS209に進む。
【0093】
次のステップS209で、コンピュータ70は、試料なしの場合に得られた透過スペクトルのピーク周波数と、試料ありの場合に得られた透過スペクトルのピーク周波数との相違に基づいて、被測定試料の屈折率を決定する。具体的な屈折率の算出方法は実施の形態1で説明したとおりであるので説明を繰返さない。
【0094】
次のステップS210で、コンピュータ70は、試料なしの場合に得られた透過スペクトルのピーク強度と、試料ありの場合に得られた透過スペクトルのピーク強度との相違に基づいて、被測定試料の吸収係数を決定する。具体的な吸収係数の算出方法は実施の形態1で説明したとおりであるので説明を繰返さない。被測定試料が複数の物質の混合された混合物である場合には、実施の形態1で説明した方法を用いて、混合物の混合比を評価することができる。
【0095】
上記と同様の方法で試料の反射係数を評価することもできる。反射係数を測定する場合には、検出器20Bはセンサ部30に対して電磁波源10Bと同じ側に配置される。ステップS203,S207では、検出器20Bによって、センサ部30によって反射されたテラヘルツ波の強度が検出される。ステップS210では、コンピュータ70は、試料なしの場合に得られた反射スペクトルのボトム強度と、試料ありの場合に得られた反射スペクトルのボトム強度との相違に基づいて、被測定試料の反射係数を決定する。被測定試料が複数の物質の混合された混合物である場合には、試料なしの場合に得られた反射スペクトルの複数のボトム強度と、試料ありの場合に得られた反射スペクトルのそれぞれ対応する複数のボトム強度との相違に基づいて、混合物の混合比を決定することができる。
【0096】
<実施の形態3>
図4で説明したように、貫通スリットのずれ量Δxが増加するにつれて、金属層31,32を3層の誘電体スラブとみなしたときの中間層(誘電体スラブ103)の屈折率が増加する。そうすると、屈折率の増加に伴って中間層(誘電体スラブ103)の有効光路長が長くなるので、ファブリペローの共振条件を満たすピーク周波数が低周波数側にシフトする。この横ずれに伴うピークシフトを利用することによって、単一の中心周波数の電磁波を用いて、スペクトルを取得するのと同等の効果が得られる。以下、具体的に説明する。
【0097】
図13は、この発明の実施の形態3による光学特性評価装置3の構成を示すブロック図である。図13を参照して、光学特性評価装置3は、電磁波源10Cと、検出器20Cと、センサ部30と、移動機構80と、コンピュータ70とを含む。電磁波源10Cおよび検出器20Cは図1の電磁波源10および検出器20にそれぞれ対応する。センサ部30の構成は、図1、図4に示した実施の形態1の場合と同じであるので説明を繰返さない。
【0098】
電磁波源10Cは、固定された単一の中心周波数のテラヘルツ波を放出する。放射されたテラヘルツ波は図1で説明したセンサ部30に照射される。放射周波数が固定でテラヘルツ波を発生する電磁波源10Cには、たとえば量子カスケードレーザが利用できる。実施の形態2で説明した非線形結晶のパラメトリック過程を利用した電磁波源を、ある固定した周波数で使用してもよい。いずれの電磁波源を使用する場合も、金属層31,32を3層誘電体スラブとみなしたときのファブリペローの共振条件を満たすピーク周波数の位置に、電磁波源10Cで発生するテラヘルツ波の共振ピークを概ね一致させたほうが、検出感度が向上するので望ましい。
【0099】
センサ部30に照射されるテラヘルツ波の偏光状態は、磁界の方向が貫通スリット31Aの延在方向(図1のy方向)であり、電界の方向がy方向に直交する平面(zx平面)内にある、いわゆるTM偏光が望ましい。量子カスケードレーザの場合には、発生するテラヘルツ光は量子井戸の積層方向に対して電界が平行になるのでレーザの配置を調整することによって、偏光方向を調整することができる。
【0100】
検出器20Cは、センサ部30を透過したテラヘルツ波の強度を検出する。検出器20Cとして、ボロメータや焦電素子を利用することができる。
【0101】
移動機構80は、センサ部30を構成する第1の金属層を第2の金属層に対して相対移動させることによって、金属層に垂直な方向から見たとき、第1の金属層の貫通スリットに対して第2の金属層の貫通スリットの相対位置を変化させる。図1、図4の場合には、移動機構80は、金属層31,32の少なくとも一方をx方向に移動させることによって、x方向の貫通スリットのずれ量Δxを変化させる。
【0102】
コンピュータ70は、プログラムに従って、光学特性評価装置3全体を制御するとともに、検出器20Cの検出データに基づいて試料の光学特性を評価する。検出器20Bによって検出された透過電磁波の強度データは、貫通スリットのずれ量Δxの関数(透過スペクトルに対応する)としてコンピュータ70に取り込まれる。コンピュータ70は、取り込んだデータに基づいて、試料50の複素屈折率(屈折率および透過係数)などを評価する。
【0103】
図14は、透過率と貫通スリットのずれ量Δxとの関係を試料なしの場合と試料ありの場合とで比較して示した図である。被測定試料50には吸収がないものとしている。図14において、実線のグラフが金属層31,32間に試料がない場合を示し、破線のグラフが金属層31,32間に試料が挿入された場合を示す。貫通スリットの周期dおよび幅a、金属層31,32の厚みL、ならびに金属層間の間隔Δzは、図6の数値計算の場合と同じにしている。試料なしの場合に得られた最大透過率に対応する貫通スリットのずれ量x0と、試料ありの場合に得られた最大透過率に対応する貫通スリットのずれ量x1との差は、試料の屈折率に応じて決まるので、この差(x0−x1)に基づいて試料の屈折率を決定することができる。
【0104】
図15は、図13の光学特性評価装置3による光学特性の評価手順を示すフローチャートである。以下、図1、図13、図15を参照して、試料の光学特性の評価手順について説明する。
【0105】
ステップS301で、試料なしの保持体33が金属層31,32間に挿入された状態でセンサ部30が光学特性評価装置3に取付けられる。
【0106】
次のステップS302で、図13のコンピュータ70の制御によって、貫通スリットの相対位置(ずれ量Δx)が初期値(たとえば、Δx=0)に設定され、電磁波源10Cで発生したテラヘルツ波がセンサ部30に照射される。
【0107】
次のステップS303で、図13の検出器20Cは、センサ部30を透過したテラヘルツ波の強度を検出する。コンピュータ70は、検出器20Cによって検出されたテラヘルツ波の透過強度のデータを内蔵の記憶装置に記憶する。
【0108】
次のステップS304で、コンピュータ70の制御によって、図13の移動機構80は金属層31,32の少なくとも一方を移動させることによって、貫通スリットの相対位置(ずれ量Δx)を変更する。変更後に再度ステップS302,S303が繰返される。電磁波源10Cからのテラヘルツ波の照射が連続的であると見なせる場合には、金属層31,32を連続的に移動させながら透過テラヘルツ波の検出を行ってもよい。所定範囲のずれ量(たとえば、Δx=0〜d/2)での測定が完了した場合には(ステップS304でNO)、処理はステップS305に進む。上記のステップS302〜S304が繰返されることによって、試料なしの場合におけるずれ量Δxと透過強度との関係(透過スペクトル対応する)が検出される。
【0109】
次のステップS305で、試料ありの保持体33が金属層31,32間に挿入された状態でセンサ部30が光学特性評価装置3に取付けられる。
【0110】
次のステップS306〜S308は、それぞれステップS302〜S304と同じであるので説明を繰返さない。上記のステップS306〜S308が繰返されることによって、試料ありの場合におけるずれ量Δxと透過強度との関係(透過スペクトル対応する)が検出される。所定範囲のずれ量(たとえば、Δx=0〜d/2)での測定が完了した場合には(ステップS308でNO)、処理はステップS309に進む。
【0111】
次のステップS309で、コンピュータ70は、試料なしの状態でセンサ部30の透過波の強度が最大になるときの貫通スリットのずれ量Δxと、試料あり状態でセンサ部30の透過波の強度が最大になるときの複数の貫通スリットのずれ量Δxとの相違に基づいて、試料の屈折率を求める。具体的な屈折率の算出方法は実施の形態1で説明したのと同様である。
【0112】
次のステップS310で、コンピュータ70は、試料なしの状態でのセンサ部30の透過波のピーク強度と、試料ありの状態でのセンサ部30の透過波のピーク強度との相違に基づいて、試料の透過係数を求める。具体的な透過係数の算出方法は実施の形態1で説明したのと同様である。
【0113】
上記と同様の方法で試料の反射係数を評価することもできる。反射係数を測定する場合には、検出器20Cはセンサ部30に対して電磁波源10Cと同じ側に配置される。ステップS303,S307では、検出器20Cによって、センサ部30によって反射されたテラヘルツ波の強度が検出される。ステップS310では、コンピュータ70は、試料なしの場合に得られた反射テラヘルツ波のボトム強度と、試料ありの場合に得られた反射テラヘルツ波のボトム強度との相違に基づいて、被測定試料の反射係数を決定する。
【0114】
<実施の形態3の変形例>
上記で説明した貫通スリットのずれ量Δxを変化させる測定方法と、実施の形態2で説明した電磁波源から出射されるテラヘルツ波の中心周波数を変化させる測定方法とを組合わせることによって、混合物の混合比を決定することができる。この場合、図13の電磁波源10Cからセンサ部30に照射されるテラヘルツ波は、変更可能な単一の中心周波数を有するものである。電磁波源10Cとして、たとえば、パラメトリック過程を利用した発振器を用いることができる。
【0115】
図16は、実施の形態3の変形例による光学特性の評価手順を示すフローチャートである。図1、図13、図15を参照して、ステップS401で、試料なしの保持体33が金属層31,32間に挿入された状態でセンサ部30が光学特性評価装置3に取付けられる。
【0116】
次のステップS402で、図13のコンピュータ70の制御によって、貫通スリットの相対位置(ずれ量Δx)が初期値(たとえば、Δx=0)に設定され、電磁波源10Cから初期設定周波数のテラヘルツ波がセンサ部30に照射される。
【0117】
次のステップS403で、図13の検出器20Cは、センサ部30を透過したテラヘルツ波の強度を検出する。コンピュータ70は、検出器20Cによって検出されたテラヘルツ波の透過強度のデータを内蔵の記憶装置に記憶する。
【0118】
次のステップS404で、コンピュータ70の制御によって、図13の移動機構80は金属層31,32の少なくとも一方を移動させることによって、貫通スリットの相対位置(ずれ量Δx)を変更する。変更後に再度ステップS402,S403が繰返される。電磁波源10Cからのテラヘルツ波の照射が連続的であると見なせる場合には、金属層31,32を連続的に移動させながら透過テラヘルツ波の検出を行ってもよい。所定範囲のずれ量(たとえば、Δx=0〜d/2)での測定が完了した場合には(ステップS404でNO)、処理はステップS405に進む。
【0119】
ステップS405で、コンピュータ70の制御によって、電磁波源10Cから出射されるテラヘルツ波の中心周波数が変更される。変更後に再度ステップS402〜S404が繰返される。所定の周波数範囲内での測定が完了した場合には(ステップS405でNO)、処理はステップS406に進む。以上のステップS402〜S405によって、試料なしの場合におけるずれ量Δxと透過強度との関係(透過スペクトル対応する)が、設定された周波数ごとに検出される。
【0120】
次のステップS406で、試料ありの保持体33が金属層31,32間に挿入された状態でセンサ部30が光学特性評価装置3に取付けられる。
【0121】
次のステップS407〜S410は、それぞれステップS402〜S405と同じであるので説明を繰返さない。所定の周波数範囲内での測定が完了した場合には(ステップS410でNO)、処理はステップS411に進む。以上のステップS407〜S410によって、試料ありの場合におけるずれ量Δxと透過強度との関係(透過スペクトル対応する)が、設定された周波数ごとに検出される。
【0122】
次のステップS411で、コンピュータ70は、設定された周波数ごとに、試料なしの状態で得られたセンサ部30のピーク透過強度と、試料あり状態で得られたセンサ部30のピーク透過強度との相違に基づいて、試料の透過係数を求める。具体的な透過係数の算出方法は実施の形態1で説明したのと同様である。
【0123】
次のステップS412で、コンピュータ70は、試料なしの状態で得られた複数の透過係数と、試料ありの状態で得られたそれぞれ対応する複数の透過係数とを比較することによって混合物の混合比を決定する。具体的な混合比の算出方法は実施の形態1で説明したのと同様である。
【0124】
反射テラヘルツ波を用いても上記と同様の方法で混合物の混合比を決定することができる。具体的には、検出器20Cはセンサ部30に対して電磁波源10Cと同じ側に配置される。ステップS403,S408では、検出器20Cによって、センサ部30によって反射されたテラヘルツ波の強度が検出される。ステップS411では、コンピュータ70は、設定周波数ごとに、試料なしの場合に得られた反射テラヘルツ波のボトム強度と、試料ありの場合に得られた反射テラヘルツ波のボトム強度との相違に基づいて、被測定試料の反射係数を決定する。ステップS412では、コンピュータ70は、試料なしの状態で得られた複数の反射係数と、試料ありの状態で得られたそれぞれ対応する複数の反射係数とを比較することによって混合物の混合比を決定する。
【0125】
<実施の形態4>
図17は、この発明の実施の形態4による光学特性評価装置4の主要部の構成を模式的に示す斜視図である。図17のセンサ部130は、貫通スリット31Aと交差する複数の貫通スリット31Bが第1の金属層31にさらに形成されるとともに、貫通スリット32Aと交差する複数の貫通スリット32Bが第2の金属層32にさらに形成される点で、図1のセンサ部30と異なる。金属層31に形成された貫通スリット31Bの延在方向と、金属層32に形成された貫通スリット32Bの延在方向とは同一であることが望ましい。さらに、金属層31に形成された貫通スリット31Bの周期と、金属層32に形成された貫通スリット32Bの周期とは同一であることが望ましい。さらに、金属層31において貫通スリット31Aの延在方向と貫通スリット31Bの延在方向は直交することが望ましく、金属層32において貫通スリット32Aの延在方向と貫通スリット32Bの延在方向は直交することが望ましい。図17のその他の点は図1の光学特性評価装置1と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0126】
実施の形態1〜3による光学特性評価装置1〜3では、センサ部30に照射される電磁波の偏光状態として、磁界の方向が貫通スリット31Aの延在方向(y方向)であり、電界の方向がy方向に直交する平面(zx平面)内にある、いわゆるTM(Transverse Magnetic)偏光に実質的に限定されていた。これに対して、実施の形態4の光学特性評価装置4では、各金属層に互いに交差する2方向に延びた貫通スリットを設けることで、任意の偏光状態の電磁波を利用することができる。
【0127】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0128】
1〜4 光学特性評価装置、10,10A〜10C 電磁波源、20,20A〜20C 検出器、30,130 センサ部、31,32 金属層、31A,31B,32A,32B 貫通スリット、33 保持体、50 試料、70 コンピュータ、80 移動機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を用いて試料の光学特性を評価する光学特性評価装置であって、
センサ部を備え、前記センサ部は、
複数の第1の貫通スリットが所定の間隔ごとに形成された第1の金属層と、
前記第1の金属層と間隔をあけて平行に設けられ、複数の第2の貫通スリットが所定の間隔ごとに形成された第2の金属層と、
前記第1および第2の金属層間に挿入され、前記試料を保持可能な保持体とを含み、
前記光学特性評価装置は、さらに、
前記複数の第1の貫通スリットの間隔および前記複数の第2の貫通スリットの間隔よりも長い波長を有する電磁波を、前記第1の金属層と交差する方向から前記センサ部に照射する電磁波源と、
前記センサ部を透過した電磁波、または前記センサ部から反射された電磁波を検出する検出器とを備える、光学特性評価装置。
【請求項2】
前記光学特性評価装置は、前記第1の金属層に垂直な方向から見たときに前記複数の第2の貫通スリットに対する前記複数の第1の貫通スリットの相対位置が変化するように、前記第1および第2の金属層の少なくとも一方を移動させる移動機構をさらに備える、請求項1に記載の光学特性評価装置。
【請求項3】
前記第1の金属層には、前記複数の第1の貫通スリットと交差する方向に複数の第3の貫通スリットがさらに形成され、
前記第2の金属層には、前記複数の第2の貫通スリットと交差する方向に複数の第4の貫通スリットがさらに形成される、請求項1または2に記載の光学特性評価装置。
【請求項4】
前記複数の第1の貫通スリットの延在方向と前記複数の第2の貫通スリットの延在方向とは同一であり、
前記複数の第1の貫通スリットの間隔と前記複数の第2の貫通スリットの間隔とは等しい、請求項1または2に記載の光学特性評価装置。
【請求項5】
電磁波を用いて試料の光学特性を評価する光学特性評価方法であって、
センサ部を準備するステップを備え、前記センサ部は、
複数の第1の貫通スリットが所定の間隔ごとに形成された第1の金属層と、
前記第1の金属層と間隔をあけて平行に設けられ、複数の第2の貫通スリットが所定の間隔ごとに形成された第2の金属層と、
前記第1および第2の金属層間に挿入され、前記試料を保持可能な保持体とを含み、
前記光学特性評価方法は、さらに、
前記複数の第1の貫通スリットの間隔および前記複数の第2の貫通スリットの間隔よりも長い波長を有する電磁波を、前記第1の金属層と交差する方向から前記センサ部に照射するステップと、
前記センサ部を透過した電磁波、または前記センサ部から反射された電磁波を検出するステップと、
前記検出された電磁波のデータに基づいて前記試料の光学特性を評価するステップとを備えた光学特性評価方法。
【請求項6】
前記センサ部に照射される電磁波は連続した波長域を有し、
前記照射するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態と保持された状態の各々で前記センサ部に電磁波を照射するステップを含み、
前記検出するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態と保持された状態の各々で前記センサ部の透過波または反射波を時間サンプリングすることによって波形データを取得するステップを含み、
前記評価するステップは、前記取得された波形データをフーリエ変換することによって、前記保持体に前記試料が保持されていない状態と保持された状態の各々に対して前記センサ部の透過スペクトルまたは反射スペクトルを算出するステップを含む、請求項5に記載の光学特性評価方法。
【請求項7】
前記センサ部に照射される電磁波は、変更可能な単一の中心周波数を有し、
前記照射するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態と保持された状態の各々で、前記中心周波数の設定値を変更しながら前記センサ部に電磁波を照射するステップを含み、
前記検出するステップは、前記中心周波数の設定値に対応付けて前記センサ部の透過波または反射波の強度を検出することによって、前記保持体に前記試料が保持されていない状態と保持された状態の各々に対して前記センサ部の透過スペクトルまたは反射スペクトルを取得するステップを含む、請求項5に記載の光学特性評価方法。
【請求項8】
前記評価するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた透過スペクトルのピーク周波数と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた透過スペクトルのピーク周波数との相違に基づいて、前記試料の屈折率を求めるステップを含む、請求項6または7に記載の光学特性評価方法。
【請求項9】
前記評価するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた透過スペクトルのピーク強度と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた透過スペクトルにおいて前記ピーク強度を与えた周波数と同一の周波数における強度との相違に基づいて、前記試料の屈折率を求めるステップを含む、請求項6または7に記載の光学特性評価方法。
【請求項10】
前記評価するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた透過スペクトルのピーク強度と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた透過スペクトルのピーク強度との相違に基づいて、前記試料の吸収係数を求めるステップを含む、請求項6または7に記載の光学特性評価方法。
【請求項11】
前記評価するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた反射スペクトルのボトム強度と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた反射スペクトルのボトム強度との相違に基づいて、前記試料の反射係数を求めるステップを含む、請求項6または7に記載の光学特性評価方法。
【請求項12】
前記試料は、複数の物質が混合された混合物であり、
前記評価するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた透過スペクトルの複数のピーク強度と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた透過スペクトルのそれぞれ対応する複数のピーク強度との相違に基づいて、前記混合物の混合比を求めるステップを含む、請求項6または7に記載の光学特性評価方法。
【請求項13】
前記試料は、複数の物質が混合された混合物であり、
前記評価するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた反射スペクトルの複数のボトム強度と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた反射スペクトルのそれぞれ対応する複数のボトム強度との相違に基づいて、前記混合物の混合比を求めるステップを含む、請求項6または7に記載の光学特性評価方法。
【請求項14】
前記第1および第2の金属層の少なくとも一方は、前記第1の金属層に垂直な方向から見たときに前記複数の第2の貫通スリットに対する前記複数の第1の貫通スリットの相対位置が変化するように移動可能であり、
前記センサ部に照射される電磁波は単一の中心周波数を有し、
前記照射するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態と保持された状態の各々で、前記複数の第1の貫通スリットの相対位置を変化させながら前記センサ部に電磁波を照射するステップを含み、
前記検出するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態と保持された状態の各々で、前記複数の第1の貫通スリットの相対位置に対応付けて前記センサ部の透過波または反射波の強度を検出するステップを含む、請求項5に記載の光学特性評価方法。
【請求項15】
前記評価するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で前記センサ部の透過波の強度が最大になるときの前記複数の第1の貫通スリットの相対位置と、前記保持体に前記試料が保持された状態で前記センサ部の透過波の強度が最大になるときの前記複数の第1の貫通スリットの相対位置との相違に基づいて、前記試料の屈折率を求めるステップを含む、請求項14に記載の光学特性評価方法。
【請求項16】
前記評価するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた前記センサ部の透過波のピーク強度と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた前記センサ部の透過波のピーク強度との相違に基づいて、前記試料の透過係数を求めるステップを含む、請求項14に記載の光学特性評価方法。
【請求項17】
前記評価するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた前記センサ部の反射波のボトム強度と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた前記センサ部の反射波のボトム強度との相違に基づいて、前記試料の反射係数を求めるステップを含む、請求項14に記載の光学特性評価方法。
【請求項18】
前記第1および第2の金属層の少なくとも一方は、前記第1の金属層に垂直な方向から見たときに前記複数の第2の貫通スリットに対する前記複数の第1の貫通スリットの相対位置が変化するように移動可能であり、
前記センサ部に照射される電磁波は、変更可能な単一の中心周波数を有し、
前記照射するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態と保持された状態の各々で、前記中心周波数の複数の設定値の各々に対して、前記複数の第1の貫通スリットの相対位置を変化させながら前記センサ部に電磁波を照射するステップを含み、
前記検出するステップは、前記保持体に前記試料が保持されていない状態と保持された状態の各々で、前記中心周波数の設定値ごとに、前記複数の第1の貫通スリットの相対位置に対応付けて前記センサ部の透過波または反射波の強度を検出するステップを含む、請求項5に記載の光学特性評価方法。
【請求項19】
前記試料は、複数の物質が混合された混合物であり、
前記評価するステップは、前記中心周波数の設定値ごとに、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた前記センサ部の透過波のピーク強度と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた前記センサ部の透過波のピーク強度とを比較することによって、前記混合物の混合比を求めるステップを含む、請求項18に記載の光学特性評価方法。
【請求項20】
前記試料は、複数の物質が混合された混合物であり、
前記評価するステップは、前記中心周波数の設定値ごとに、前記保持体に前記試料が保持されていない状態で得られた前記センサ部の反射波のボトム強度と、前記保持体に前記試料が保持された状態で得られた前記センサ部の反射波のボトム強度とを比較することによって、前記混合物の混合比を求めるステップを含む、請求項18に記載の光学特性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−185116(P2012−185116A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49995(P2011−49995)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】