説明

光学用フィルム

【課題】近赤外線吸収性粘着層中の有機色素に対し十分な耐光性を有する光学用フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の光学用フィルムは、透明基材フィルムの一方の面に(A)紫外線吸収性ハードコート層が形成され、紫外線吸収性ハードコート層が形成された側とは反対の他方面に、(B)近赤外線吸収性粘着層が形成されている。(A)紫外線吸収性ハードコート層は、(A1)紫外線硬化型樹脂、(A2)特定構造の紫外線吸収剤、及び(A3)光重合開始剤を含む紫外線吸収性ハードコート層塗布液を紫外線硬化させた層であり、その厚みが0.5〜10μmである。(B)近赤外線吸収性粘着層は、(B1)変性(メタ)アクリル系重合体、(B2)重合性不飽和基を有するカルボン酸、(B3)特定構造のジイモニウム塩化合物、(B4)光重合開始剤、及び(B5)シラン化合物、(B6)ネオンカット色素を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収性ハードコート層と近赤外線吸収性粘着層とを備える光学用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会において、電子ディスプレイ等の光エレクトロニクス機器はテレビジョンやパーソナルコンピュータのモニター用等として著しい進歩を遂げ、広く普及している。中でもプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと称す)は電子ディスプレイパネルの大型化や薄型化に伴って注目を浴びているが、動作原理上発せられる近赤外線によってリモートコントロール機器等の周辺機器の誤動作を招くといった問題がある。また、薄型化や軽量化のためには種々の機能の複合化や部材点数の削減をしなければならないという課題もある。これらの課題を解決するために、近赤外線吸収機能と粘着機能とを兼ね備えた近赤外線吸収性粘着層を有する近赤外線吸収フィルムが提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、近赤外線吸収剤として用いられている、例えばシアニン化合物及びアザポルフィリン系化合物を含む有機色素は紫外線によって分解するため、長期間の使用によってその性能が低下するという問題があった。そこで、当該有機色素の分解を防ぐためにハードコート層に紫外線吸収剤を含有する光学用フィルムが提案されている。一般に紫外線吸収剤をハードコート層に含有させると、ハードコート層を紫外線硬化型樹脂で形成することが困難になるが、紫外線吸収剤の中でもトリアジン系紫外線吸収剤が短波長側に吸収波長を持つことから、ハードコート層の大きな硬化阻害を起こさずに、紫外線硬化型樹脂を硬化させることができる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−18773号公報
【特許文献2】特開2009−294329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のトリアジン系紫外線吸収剤では、性能的に必ずしも満足し得るものではなく、十分な耐光性を得ようとすると、添加量が大きくなり、ブリードするという問題点があった。また、紫外線吸収剤の総量を確保するために、ハードコート層の膜厚を過剰に厚くすると、ハードコート層を形成する際の紫外線硬化型樹脂の硬化収縮が大きくなるため、得られる光学用フィルムがカールして、加工性が悪化する問題がある。
【0006】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、その目的とするところは、短波長側にエネルギーの高い吸収波長を持つ特定構造のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を用いることにより、カール性の悪化を避けつつ近赤外線吸収性粘着層中の有機色素に対し十分な耐光性を有する光学用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の光学用フィルムは、次のものである。
(1)透明基材フィルムの一方の面に(A)紫外線吸収性ハードコート層が形成され、紫外線吸収性ハードコート層が形成された側とは反対の他方面に、(B)近赤外線吸収性粘着層が形成されている紫外線吸収性及び近赤外線吸収性を有する光学用フィルムであって、(A)紫外線吸収性ハードコート層が、
(A1)紫外線硬化型樹脂100質量部、
(A2)一般式(1)で表される紫外線吸収剤5〜20質量部及び、
(A3)光重合開始剤0.1〜10質量部を含む紫外線吸収性ハードコート層塗布液を紫外線硬化させた層であって
前記(A)紫外線吸収性ハードコート層の厚みが0.5〜10μmであり、
(B)近赤外線吸収性粘着層が、
(B1)変性(メタ)アクリル系重合体80〜99質量部、及び
(B2)重合性不飽和基を有するカルボン酸1〜20質量部、
を合計100質量部含み、更に
(B3)一般式(2)で表されるジイモニウム塩化合物1.0〜2.5質量部、
(B4)光重合開始剤0.1〜1.0質量部、及び
(B5)シラン化合物0.1〜2.0質量部
(B6)ネオンカット色素0.1〜1.0質量部
を含む光学用フィルム。
【化1】


【化2】


(Xはヘキサフルオロアンチモン酸イオン又はヘキサフルオロリン酸イオンであり、R〜Rは、炭素数4〜9の環状アルキル基を有するアルキレン基、またはアルコキシ基を有するアルキレン基を表わす。)
(2)前記紫外線吸収性ハードコート層の上に該層よりも屈折率の低い層が設けられていることを特徴とする(1)に記載の光学用フィルム。
(3)前記紫外線吸収性ハードコート層に金属酸化物が10〜180質量部含まれていることを特徴とする(1)に記載の光学用フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一般式(1)であらわされる紫外線吸収剤を添加した紫外線吸収性ハードコート層を所定の厚みとすることで、カール性等の悪化を防止しつつ、良好な耐光性を有する光学用フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
本発明の光学用フィルムは、テレビやモニター等の電子画像表示装置(電子ディスプレイ)におけるPDPに適用されるものであって、透明基材フィルムの一方の面に紫外線吸収性ハードコート層が形成され、紫外線吸収性ハードコート層が形成された側とは反対の他方の面に近赤外線吸収性粘着層が形成されている。また、本発明の光学用フィルムは、近赤外線吸収性粘着層を介して基材(被着体)に張り合わせることができる。
【0010】
<透明基材フィルム>
光学用フィルムに用いられる透明基材フィルムは、透明性を有している限り特に制限されない。そのような透明基材フィルムを形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアリレート、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルフォンなどである。これらのうち、ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが成形の容易性及び、コストの点で好ましい。
【0011】
透明基材フィルムの厚みは、好ましくは25〜400μm、さらに好ましくは50〜200μmである。透明基材フィルムの厚みが25μmより薄い場合や400μmより厚い場合には、光学用フィルムの製造時及び使用時における取り扱い性が低下して好ましくない。なお、透明基材フィルムには、各種の添加剤が含有されていてもよい。そのような添加剤として例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、難燃剤などである。
【0012】
<(A)紫外線吸収性ハードコート層>
紫外線吸収性ハードコート層は紫外線硬化型樹脂と、一般式(1)であらわされる紫外線吸収剤と、光重合開始剤とを含む紫外線吸収性ハードコート層塗布液を紫外線硬化させた層である。紫外線吸収性ハードコート層は、前記各成分を含む紫外線吸収性ハードコート層塗布液に紫外線を照射して硬化することにより形成される。
【0013】
紫外線吸収性ハードコート層の厚みは0.5〜10μmが好ましく、1〜6μmがさらに好ましい。紫外線吸収性ハードコート層の厚みが0.5μm未満では、紫外線吸収剤の含有率との関係で紫外線吸収性ハードコート層中の紫外線吸収剤の量が少なく、十分な紫外線吸収効果を得られないため好ましくない。一方、10μmを超えると、カールを低減することができなくなるため好ましくない。なお、紫外線吸収性ハードコート層には、該紫外線吸収性ハードコート層の屈折率を上昇させる金属酸化物が含有されていてもよい。
【0014】
紫外線吸収性ハードコート層を透明基材フィルム上に設ける方法としては、紫外線吸収性ハードコート層塗布液をウェットコート法により塗布する方法であれば特に制限されず、例えばグラビアコート法、スピンコート法、ダイコート法等の従来公知の塗工方法を採用することができる。
【0015】
<(A1)紫外線硬化型樹脂>
上記紫外線吸収性ハードコート層を形成する紫外線硬化型樹脂としては、紫外線を照射することにより硬化反応を生じる樹脂であればその種類は特に制限されない。そのような樹脂として、例えば単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂などである。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの双方を含む総称を意味する。また、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル系、及び(メタ)アクリロイルの記載も同様である。
【0016】
<(A2)紫外線吸収剤>
上記紫外線吸収性ハードコート層を形成する紫外線吸収剤は下記一般式(1)で表される。
【化3】


紫外線吸収剤の含有量は、求める紫外線透過率や紫外線吸収剤の吸光度にもよるが、前記紫外線硬化型樹脂100質量部に対して、通常20質量部以下が好ましく、5〜20質量部がさらに好ましい。紫外線吸収剤の含有量が20質量部よりも多い場合には、硬化性組成物の紫外線による硬化性が低下する傾向があると共に、光学用フィルムの可視光線透過率が低下するおそれもある。一方、5質量部より少ない場合には、光学用フィルムの紫外線吸収性を十分に発揮することができなくなる。また、紫外線吸収幅を広くするために、最大吸収波長の異なる紫外線吸収剤を2種以上併用することができる。
【0017】
<(A3)光重合開始剤>
上記紫外線吸収性ハードコート層を形成する光重合開始剤としては、紫外線による重合開始能を有するものであれば、その種類は特に限定されない。そのような開始剤として、例えばアセトフェノン系重合開始剤、ベンゾイン系重合開始剤、ベンゾフェノン系重合開始剤、チオキサントン系重合開始剤などである。重合開始剤の含有量は、紫外線硬化型樹脂の固形分に対し、0.1〜10質量%とすることが好ましい。重合開始剤の含有量が0.1質量%未満の場合には紫外線硬化型樹脂の重合硬化が不十分となり、10質量%を越える場合には、光重合開始に使用されなかった光重合開始剤が残存し、可視光線透過率が低下するなどの弊害が生じるおそれがある。
【0018】
<(A4)金属酸化物>
金属酸化物は、紫外線吸収性ハードコート層塗布液に含有させることにより屈折率が上昇する目的で添加するものであれば、その種類は特に制限されない。そのような金属酸化物として酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化シラン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム錫などがある。この金属酸化物は、微粒子状のものが好適に使用される。この金属酸化物の含有量は求める屈折率にもよるが、前記紫外線硬化型樹脂100質量部に対して、通常180質量部以下、好ましくは10〜180質量部である。金属酸化物の含有量が180質量部より多いときには、硬化性組成物の紫外線硬化性に支障をきたしたり、可視光線透過率が低下するなどの弊害が生じる恐れがある。
【0019】
<(B)近赤外線吸収性粘着層>
近赤外線吸収性粘着層は、近赤外線吸収機能と粘着機能を併せ持った機能層であり、変性(メタ)アクリル系重合体、重合性不飽和基を有するカルボン酸、ジイモニウム塩化合物、光重合開始剤、シラン化合物、及びネオンカット色素を含む近赤外線吸収性粘着層塗布液を紫外線硬化した層である。近赤外線吸収性粘着層の厚みは10〜30μmが好ましく、15〜25μmがさらに好ましい。近赤外線吸収性粘着層の厚みが10μm未満では、近赤外線吸収性粘着層を介して光学用フィルムを基材に貼合する際に異物等を埋め込むことができないため好ましくない。一方、30μmより厚いとハンドリング性が悪くなるため好ましくない。なお、近赤外線吸収性粘着層は、本発明の効果を損なわない範囲において、例えば、紫外線吸収剤、色補正色素、酸化防止剤等のその他の成分を有していても良い。
【0020】
近赤外線吸収性粘着層を透明基材フィルム上に設ける方法としては、上記成分を含む近赤外線吸収性粘着層塗布液をウェットコート法により塗布する方法であれば特に制限されず、例えばグラビアコート法、スピンコート法、ダイコート法等の従来公知の塗工方法を採用することができる。
【0021】
<(B1)変性(メタ)アクリル系重合体>
変性(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系モノマーの繰り返し単位を含んでなる。(メタ)アクリル系モノマーとしては、アクリル酸、n−ブチル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類などであるが、中でもエチルアクリレート、ブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレート由来の繰り返し単位を含むものが好ましく、エチルアクリレートまたはブチルアクリレート由来の繰り返し単位を含むものが更に好ましく、エチルアクリレート由来の繰り返し単位を含むものが特に好ましい。これらの繰り返し単位を含ませることによって、良好な粘着性能を発揮させることが可能となるからである。
【0022】
また、変性(メタ)アクリル系重合体は、主鎖が1種の(メタ)アクリル系モノマー単位のみを含む単独重合体であってもよいし、2種以上の(メタ)アクリル系モノマー単位を含む共重合体であってもよいが、形成される近赤外線吸収性粘着層の物性を精密に調整することが容易であるという理由から、2種以上の(メタ)アクリル系モノマー単位を含む共重合体であることが好ましい。また、変性(メタ)アクリル系重合体の主鎖は好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上、最も好ましくは全てが(メタ)アクリルモノマー単位によって構成されていることが最も好ましい。(メタ)アクリル系モノマー単位の含有率が50質量%未満であると、近赤外線吸収性粘着層の粘着性能が低下する傾向があるため好ましくない。
【0023】
また、変性(メタ)アクリル系重合体は、側鎖に(メタ)アクリロイル骨格を含む官能基を有するものである。これにより、紫外線照射によってその重合体同士が架橋されるため、紫外線硬化性が発現されるとともに、近赤外線吸収性粘着層を剥離した際に被着体への糊残りが少なく被着体を汚染し難いという好ましい効果が発揮される。
【0024】
(メタ)アクリロイル系官能基の好ましい含有量は、主鎖の構造、重量平均分子量、ガラス転移温度、粘着物性等によっても異なるが、変性(メタ)アクリル系重合体100g当たり0.1〜100mmolであることが好ましく、0.3〜50mmolであることが更に好ましく、1〜40mmolであることが特に好ましい。例えば、重量平均分子量が30万程度の変性(メタ)アクリル系重合体であれば、(メタ)アクリロイル系官能基を重合体1分子当たり0.33〜330個有しているものが好ましく、1.0〜165個有しているものが更に好ましく、3.3〜132個有しているものが特に好ましい。この含有量が0.1mmol/100gより少ない場合には、(メタ)アクリロイル系官能基による変性効果(具体的には、紫外線硬化性、高耐候性、被着体への糊残りが少ない等の効果)が十分に得られなくなるおそれがある。その一方、(メタ)アクリロイル系官能基の含有量が100mmol/100gより多い場合には、重合体組成等によっても異なるが、高粘度とそれに伴う塗工不良を招く傾向がある。
【0025】
変性(メタ)アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)は、20万〜100万であり、30万〜80万であることが好ましい。重量平均分子量を20万〜100万の範囲内に設定することにより、光重合開始剤との混和性が良好で且つ均一な組成物となって近赤外線吸収性粘着層が良好な粘着特性とその持続性を発現することができると共に、被着体への糊残りが少なく被着体を汚染し難くなる。重量平均分子量が20万を下回る場合には、近赤外線吸収性粘着層を剥離した際に被着体への糊残りが増加し、被着体を汚染する結果を招く。その一方、100万を上回る場合には光重合開始剤との混和性が不良となって近赤外線吸収性粘着層の良好な粘着特性を発揮することができなくなる。なお、本明細書において「重量平均分子量」というときは、GPC−LS法(Gel Permeation Chromatography−Light Scattering Method:GPC−光散乱法)で測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味するものとする。
【0026】
変性(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度は、−55〜0℃である。ガラス転移温度をこの範囲内に設定することによって、近赤外線吸収性粘着層を形成した際に良好な粘着性能を発現することができる。ガラス転移温度が0℃より高くなると、近赤外線吸収性粘着層を形成した際に粘着強度が低下する傾向を示す。一方、−55℃より低くなると、近赤外線吸収性粘着層を剥離した際に被着体への糊残りが増加し、被着体を汚染する傾向がある。なお、本明細書において「ガラス転移温度」というときは、JIS K7121(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠して測定されたガラス転移温度を意味するものとする。
【0027】
変性(メタ)アクリル系重合体の製造方法は特に限定されず、例えば基本骨格となる(メタ)アクリル系重合体に対して化学修飾によって(メタ)アクリロイル系官能基を導入する方法(化学修飾法)等の従来公知の方法を用いることができる。
【0028】
変性(メタ)アクリル系重合体の好ましい含有量は、変性(メタ)アクリル系重合体の構造、光重合開始剤の種類、被着体の種類、要求される粘着特性等によっても異なるが、変性(メタ)アクリル系重合体と重合性不飽和基を有するカルボン酸の合計を100質量部とした場合に80〜99質量部であり、85〜98質量部であることが好ましく、90〜97質量部であることが特に好ましい。この含有量が80質量部より少ないと、近赤外線吸収性粘着層の粘着力が低下する傾向がある。一方、変性(メタ)アクリル系重合体の含有量が99質量部より多いと、重合性不飽和基を有するカルボン酸やその他のモノマーを用いる際にそれらの単量体との混和性が低下する傾向がある。なお、粘着剤組成物及び近赤外線吸収性粘着層を構成する各成分の含有量は、固形分に基づくものである。
【0029】
<(B2)重合性不飽和基を有するカルボン酸>
重合性不飽和基を有するカルボン酸とは、重合性二重結合または重合性三重結合を有するカルボン酸を意味する。重合性不飽和基を有するカルボン酸モノマーを含有させることにより、被着体に対する近赤外線吸収性粘着層の密着性が向上するとともに、熱架橋剤を使用しなくとも(粘着物性の発現にエイジングが不要)、高温又は高温高湿度条件下においても粘着特性が低下し難い粘着剤組成物を得ることができる。重合性不飽和基を有するカルボン酸の例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、アクリルアミドN−グリコール酸、ケイ皮酸などである。
【0030】
重合性不飽和基を有するカルボン酸の好ましい含有量は、変性(メタ)アクリル系重合体の構造、光重合開始剤の種類、被着体の種類、要求される粘着特性等によって異なるが、変性(メタ)アクリル系重合体と重合性不飽和基を有するカルボン酸の合計を100質量部とした場合に、1〜20質量部であり、2〜15質量部であることが好ましく、3〜10質量部であることが特に好ましい。この含有量が1質量部未満であると、近赤外線吸収性粘着層の粘着耐久性が低下する傾向がある。一方、重合性不飽和基を有するカルボン酸の含有量が20質量部を超えると、近赤外線吸収性粘着層を剥離した際の糊残りが多くなる傾向がある。また、光学特性に大きな影響を与えない範囲であれば、重合性不飽和基を有するカルボン酸以外の重合性不飽和基を有する化合物を加えてもよい。
【0031】
<(B3)ジイモニウム塩化合物>
本実施形態におけるジイモニウム塩化合物は下記一般式(2)で表される。
【化4】


一般式(2)において、Xはヘキサフルオロアンチモン酸イオン又はヘキサフルオロリン酸イオンである。これらは高温又は高温高湿度条件における耐久性能を高められるので好ましい。R〜Rは、炭素数4〜9の環状アルキル基を有するアルキレン基、またはアルコキシ基を有するアルキレン基を表す。前記アルキレン基は更なる置換基を有しても良く、また、R〜Rは同一であっても異なっていても良い。これらのアルキレン基は微粒子を形成しやすくして耐熱性能を向上させることができる点で好ましい。このような環状アルキル基を有するアルキレン基としては、例えばシクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘキシルプロピル基、ベンジル基、フェニルプロピル基等が挙げられるが、これらの中では耐熱性能を向上させられる点でシクロヘキシルメチル基とシクロヘキシルエチル基が好ましい。一方、アルコキシ基を有するアルキレン基としては、例えばn−プロピルオキシメチル基、n−プロピルオキシエチル基、イソプロピルオキシメチル基、イソプロピルオキシエチル基、sec−ブトキシメチル基、sec−ブトキシエチル基、sec‐ブトキシプロピル基、tert−ブトキシメチル基、tert−ブトキシエチル基、tert‐ブトキシプロピル基等が挙げられるが、これらの中では耐熱性能の観点からイソプロピルオキシメチル基、イソプロピルオキシエチル基が好ましい。
【0032】
本実施形態においては、ジイモニウム塩化合物は近赤外線吸収性粘着層中において微粒子の状態で分散して存在することが好ましい。これにより耐久性能を格段に高めることができる。近赤外線吸収性粘着層に含まれるジイモニウム塩化合物は、平均粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子であり、平均粒子径が0.005〜0.030μmの微粒子であることが好ましい。平均粒子径が0.1μmを超えると光の散乱により白ボケを生ずるため不適当であり、平均粒子径が0.001μm未満であると溶解により耐久性能を十分に発現することができないという弊害がある。尚、ここでの平均粒子径とは、nanotracUPA−EX150〔日機装株式会社製の粒度分布測定機〕を用いて動的光散乱理論/周波数マトリックス解析法(FFT法)により測定した値のことをいう。
ジイモニウム塩化合物の分散方法は特に限定されず、従来公知の分散方法を用いることができる。例えば、有機溶剤にジイモニウム塩化合物を少量ずつ撹拌しながら添加してゆき、ガラスビーズを加えてペイントシェイカーで物理的に粉砕する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0033】
ジイモニウム塩化合物の含有量は、前記近赤外線吸収性粘着層を構成する変性(メタ)アクリル系重合体及び重合性不飽和基を有するカルボン酸の総量100質量部に対して、1.0〜2.5質量部である。ジイモニウム塩化合物の含有量が1.0〜2.5質量部であれば、近赤外線吸収能と可視光線の透過率が実用上十分な近赤外線吸収性粘着層を得ることができる。ジイモニウム塩化合物の含有量が1.0質量部より少ない場合には、近赤外線吸収性粘着層が近赤外線吸収能を十分に発揮することができないため不適当であり、含有量が2.5質量部より多い場合には、近赤外線吸収性粘着層の粘着性能が低下する等の弊害がある。
【0034】
<(B4)光重合開始剤>
上記近赤外線吸収性粘着層を構成する光重合開始剤としては、紫外線による重合開始能を有するものであれば、その種類は特に限定されない。そのような開始剤として、例えばアセトフェノン系重合開始剤、ベンゾイン系重合開始剤、ベンゾフェノン系重合開始剤、チオキサントン系重合開始剤などである。
【0035】
上記近赤外線吸収性粘着に含まれる光重合開始剤の好ましい含有量は、変性(メタ)アクリル系重合体の構造、光重合開始剤の種類、被着体の種類、要求される粘着特性等によって異なるが、変性(メタ)アクリル系重合体と重合性不飽和基を有するカルボン酸の合計を100質量部とした場合に0.1〜1.0質量部であり、0.1〜0.7質量部であることが好ましく、0.1〜0.5質量部であることが特に好ましい。この含有量が0.1質量部より少ないと、光重合開始剤としての作用が十分に発揮されなくなるおそれがある。一方、光重合開始剤の含有量が1.0質量部より多いと、光重合開始剤の残留により色素の退色を招き、色補正の性能が低下する傾向があると共に、高温又は高温高湿度条件における耐久性能が低下する傾向がある。
【0036】
<(B5)シラン化合物>
シラン化合物を配合することにより、ガラス等の被着体との接合用途において近赤外線吸収性粘着層に良好な粘着性を発揮させることができる。また、シラン化合物を含有することにより、重合性不飽和基含有カルボン酸の量が少ない場合でも、高温又は高温高湿度条件下においても粘着特性が低下し難い近赤外線吸収性粘着層を得ることができる。
【0037】
シラン化合物としては、一般的に「シランカップリング剤」と称されているものを広く用いることができる。プラズマディスプレイの前面板等、ガラス基材に対する密着性を向上させるという理由から、グリシドキシ基、イソシアネート基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基等の官能基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。
【0038】
シラン化合物の具体例としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業株式会社の商品名:KBM−403等〕、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン〔信越化学工業株式会社の商品名:KBE‐9007〕およびβ−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
シラン化合物の含有量は、変性(メタ)アクリル系重合体の重合体の構造、被着体の種類、要求される粘着特性等によっても異なるが、変性(メタ)アクリル系重合体および重合性不飽和基を有するカルボン酸の総量を100質量部とした場合に、0.1〜2.0質量部である。この含有量が0.1質量部未満であると、ガラス等の被着体への近赤外線吸収性粘着層の接合において粘着性が不十分となる場合があると共に、高温又は高温高湿度条件における耐久性能が低下する傾向がある。一方、シラン化合物の含有量が2.0質量部を超えると、近赤外線吸収性粘着層の剥離時に糊残りが発生するおそれがある。前記の効果をより確実に得るためには、シラン化合物の含有量を0.5〜1.5質量部とすることが好ましい。
【0040】
<(B6)ネオンカット色素>
ネオンカット色素は560〜610nmの波長範囲に極大吸収を有する化合物であれば、その種類は特に制限されない。そのような化合物として、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、アントラキノン系色素、フタロシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポリアゾ系色素、アズレニウム系色素、ジフェニルメタン系色素、トリフェニルメタン系色素、ポリフィリン環構造を有する色素などである。
【0041】
ネオンカット色素の好ましい含有量は、変性(メタ)アクリル系重合体と重合性不飽和基を有するカルボン酸の合計を100質量部とした場合に0.1〜1.0質量部であり、0.1〜0.7質量部であることが好ましく、0.1〜0.5質量部であることが特に好ましい。
【0042】
<低屈折率層>
低屈折率層は、前記紫外線吸収性ハードコート層の上に設けられる該層よりも屈折率の低い層であり、ディスプレイの画像表示に影響を与える蛍光灯などの外光の反射や映り込みを防止する層である。
【0043】
上記低屈折率層を形成する材料としては、屈折率が1.20〜1.50の範囲であれば、低屈折率層を形成する公知の材料を用いてよい。例えば、空隙を有するシリカやフッ化マグネシウム等の低屈折率無機微粒子とバインダー樹脂形成用材料を含む塗工液、あるいはフッ素系樹脂等を含有する塗工液を用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。以下の試験では、各実施例や比較例の耐光性や物理的特性(カール性)を測定し評価した。各項目の測定方法は、次の通りである。
(I)耐光性試験
<スーパーキセノン試験>
スーパーキセノンウェザーメーターSX75(スガ試験機株式会社製)を用いて、照射照度180W/m(300〜400nm)、BPT温度63±1℃の試験条件で100時間試験を行い、試験後の光学用フィルムの外観変化を確認した。
○:外観変化なし
×:外観変化あり
(II)カール性試験
10cm×10cmのサイズの光学用フィルムを作成し、光学用フィルムを水平面に置いた際の4隅のカール高さを測定し、下記の基準により判定する。
○:カール高さが20mm未満
△:カール高さが20mm以上50mm未満
×:カール高さが50mm以上
【0045】
(紫外線吸収性ハードコート層塗布液の調製)
紫外線吸収性ハードコート層塗布液は、(A1)紫外線硬化型樹脂と、(A2)下記化学式(1)の紫外線吸収剤と、(A3)光重合開始剤と、(A4)金属酸化物とを下記表1に示す組成のように混合し、固形分濃度が40質量%となるようにイソプロピルアルコール(IPA)を混合して紫外線吸収性ハードコート層塗布液を得た。
【化5】

【0046】
(変性(メタ)アクリル系重合体β1の調製)
2Lフラスコにアクリル系共重合体〔根上工業株式会社製の商品名:パラクロンAW4500H、固形分濃度40%/トルエン、ブチルアクリレート単位、エチルアクリレート単位、メチルメタクリレート単位、ヒドロキシブチルアクリレート単位、及びヒドロキシエチルアクリレート単位を含む。重量平均分子量は330,000、ガラス転移温度は−8℃。水酸基含有量はアクリル系共重合体100質量部当たり15mmol(アクリル系共重合体1分子当たり50個)。〕586質量部、酢酸エチル890質量部、反応触媒としてジブチル錫ラウレート0.3質量部を加え、撹拌しながら40℃に加熱した。続いて、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製の商品名:カレンズMOI)1.8質量部を酢酸エチル120質量部に溶解し、前記フラスコ内の温度を40℃に保持しながら滴下した。滴下終了後、反応液の滴定分析によりイソシアネート基の消失を確認するまで40℃で5時間反応を継続することにより変性(メタ)アクリル系重合体β1を得た(重量平均分子量は331,000、ガラス転移温度は−8℃)。
【0047】
(近赤外線吸収性粘着層塗布液の調製)
近赤外線吸収性粘着層塗布液は、(B1)変性(メタ)アクリル系重合体β1と、(B2)重合性不飽和基を有するカルボン酸と、(B3)下記化学式(2)のジイモニウム塩化合物と、(B4)光重合開始剤と、(B5)シラン化合物と、(B6)ネオンカット色素とを表1に示す組成のように混合し、固形分濃度が27質量%となるようにメチルエチルケトン(MEK)を混合して近赤外線吸収性粘着層塗布液を得た。
【化6】

【0048】
(低屈折率層塗布液γの調製)
低屈折率層塗布液γは、粒子径が60nmの中空シリカ微粒子60質量部と、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)40質量部と、光重合開始剤〔BASFジャパン株式会社製の製品名:イルガキュア907〕2質量部とを、固形分濃度が5質量%となるようにイソプロピルアルコール(IPA)を混合して得た。
【0049】
(光学用フィルムの作製)
<実施例1−1>
ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に、下記表1に記載の組成を含有する前記紫外線吸収性ハードコート層塗布液を、グラビアコート法で乾燥膜厚が1μmになるよう塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの出力にて紫外線を照射して硬化させることにより、紫外線吸収性ハードコートフィルムを作製した。
表1に記載の組成を含有する前記近赤外線吸収性粘着層塗布液をセパレートフィルム〔東洋紡績株式会社の商品名:E7002〕上に乾燥膜厚が15μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した後、65℃で2分間乾燥した。その後、高圧水銀ランプにより80mJ/cmの紫外線を照射して近赤外線吸収性粘着層を形成した。前記紫外線吸収性ハードコートフィルムの紫外線吸収性ハードコート層とは反対側の面に、セパレートフィルム上に形成された近赤外線吸収性粘着層が接するように貼合することにより、紫外線吸収性及び近赤外線吸収性を有する光学用フィルムを得た。
【0050】
<実施例1−2〜1−12、2−1〜2−3、及び3−1>
実施例1−1と同様に、表1及び2に記載の各成分を用いて光学用フィルムを得た。
【0051】
<比較例1>
実施例1−1において、紫外線吸収性ハードコート層塗布液から紫外線吸収剤を抜いた以外は、実施例1と同様に光学用フィルムを作成した。
【0052】
<比較例2>
実施例1−1において、紫外線吸収性ハードコート層の膜厚を0.1μmにした以外は、実施例1と同様に光学用フィルムを作成した。
【0053】
<比較例3>
実施例1−1において、紫外線吸収性ハードコート層の膜厚を15μmにした以外は、実施例1と同様に光学用フィルムを作成した。
【0054】
上記実施例1−1〜1−12、2−1〜2−3、3−1及び比較例1〜3の光学用フィルムを上記測定方法に基づき測定した結果を表1及び表2に示す。
【表1】


【表2】

【0055】
表1及び表2の結果より、実施例1−1〜1−12、2−1〜2−3、3−1の光学用フィルムは、キセノンランプによる劣化が抑えられ、外観変化がなかった。また、カール性も良好であった。
比較例1の光学用フィルムは、ハードコート層に紫外線吸収剤が入っていないため、耐光性が著しく悪化した。
比較例2の光学用フィルムは、ハードコート層の膜厚の薄膜化に伴う紫外線吸収剤の含有量低下のため、十分な紫外線吸収効果を得ることができず、外観が悪化した。
比較例3の光学用フィルムは、ハードコート層の膜厚が厚すぎるため、カール性が悪化していることが確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの一方の面に(A)紫外線吸収性ハードコート層が形成され、該紫外線吸収性ハードコート層が形成された側とは反対の他方面に、(B)近赤外線吸収性粘着層が形成されている、紫外線吸収性及び近赤外線吸収性を有する光学用フィルムであって、
前記(A)紫外線吸収性ハードコート層が、
(A1)紫外線硬化型樹脂100質量部、
(A2)一般式(1)で表される紫外線吸収剤5〜20質量部、及び、
(A3)光重合開始剤0.1〜10質量部を含む紫外線吸収性ハードコート層塗布液を紫外線硬化させた層であって、
前記(A)紫外線吸収性ハードコート層の厚みが0.5〜10μmであり、
前記(B)近赤外線吸収性粘着層が、
(B1)変性(メタ)アクリル系重合体80〜99質量部、及び
(B2)重合性不飽和基を有するカルボン酸1〜20質量部、
を合計100質量部含み、更に
(B3)一般式(2)で表されるジイモニウム塩化合物1.0〜2.5質量部、
(B4)光重合開始剤0.1〜1.0質量部、
(B5)シラン化合物0.1〜2.0質量部、及び
(B6)ネオンカット色素0.1〜1.0質量部
を含む近赤外線吸収性粘着層塗布液を紫外線硬化させた層である光学用フィルム。
【化1】


【化2】


(Xはヘキサフルオロアンチモン酸イオン又はヘキサフルオロリン酸イオンであり、R〜Rは、炭素数4〜9の環状アルキル基を有するアルキレン基、またはアルコキシ基を有するアルキレン基を表わす。)
【請求項2】
前記紫外線吸収性ハードコート層に(A4)金属酸化物10〜180質量部が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の光学用フィルム。
【請求項3】
前記紫外線吸収性ハードコート層の上に該ハードコート層よりも屈折率の低い層が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学用フィルム。



【公開番号】特開2012−171996(P2012−171996A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32948(P2011−32948)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】