説明

光学的に活性なN−ベンジル−3−ヒドロキシピロリジンの製造方法

本発明は、天然に産するアルカロイドであるバシシンから、高収率で光学的に活性なN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを製造するための、簡単で、高度に効率的な、かつ経済的な方法に関する。該天然産のアルカロイドであるバシシンは、(S)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジン及び(R)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンのプリカーサとして使用され、これは容易に、薬用植物アダトダバシカ(Adatoda vasica)から、当分野において公知の方法により供給され、本発明において記載した方法によって、光学異性体:(R)-及び(S)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンに変換することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然に産するアルカロイドであるバシシンから出発する、光学的に活性なN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの、簡単かつ著しく効果的な製造方法に関するものである。該アルカロイドとしてのバシシンは、植物源から単離される、容易に入手できる原料物質である。光学的に活性なN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンは、数種の医薬生成物、抗生物質型の薬物及び農薬を製造するための、有用な中間体である。本発明は、工業的に重要である可能性のある該中間体を合成する、新規かつ効果的な方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
光学的に活性なN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジン及びその誘導体は、様々なキラル医薬、例えばカルバペネム抗生物質(パニペネム)、血管拡張剤(バルニジピン)、又は抗-高血圧薬(ダリフェナシン(Darifenacine)、リレキル(Lirequill)、クリナフロキサシン(Clina floxacine))(EP 483580; EP 330469; EP 304087; US 5463064; US.5281711; US.5109008; US.4916141; WO 91/09013)等の中間体として広く利用されている。幾つかの化合物は、また臨床的にテストされていることも報告されている。エナンショマー的に純粋な3-ヒドロキシ-N-ベンジルピロリジンも、様々な農薬に関する有用な中間体である。エナンショマー的に純粋な3-ヒドロキシピロリジン及びその誘導体を製造するための、文献記載の方法は、以下の通りである。
1) 3-ヒドロキシピロリジンの製造方法は、キラル4-ヒドロキシ-2-ピロリジンカルボン酸の脱炭酸反応を含む(WO 91/09013; U.S. 5233053;Chem Lett. 1986, 893)。この方法は、低収率で、多くの合成段階を含むという欠点を持つ。
【0003】
2) N-置換3-ピロリジンの、ジイソピノコンフェニル(diisopinocomphenyl)ボランによるヒドロホウ素化及びこれに続くアルカリ性過酸化水素による酸化は、エナンショマー的に活性な3-ヒドロキシピロリジンを与える(Brown H.C.等, J. Am. Chem. Soc., 1986, 108-2049; Brown, H.C.等, J. Org. Chem; 1986, 51, 4296)。この方法は、特殊なボラン試薬を使用していることから、工業的製造には不適当である可能性がある。
3) N-置換3-ヒドロキシピロリジンを製造するための一般的な方法の一つは、天然のリンゴ酸とベンジルアミンとの縮合反応及びこれに続く強力な還元剤による還元反応である(Synth. Commun. 1983, 13, 117及びSynth. Commun. 1985, 15, 587)。光学的に活性なN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンは、またグルタミン酸から出発して製造された。この中間体3-ヒドロキシピロリジノンは、強力な還元剤により還元されて、N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを与える(Synth. Commun. 1986,16,1815)。上記方法は、キラル3-ヒドロキシピロリジン及びその誘導体が、市販品として入手できる材料から製造できるという利点を持つが、これら工程において使用される該還元剤は高価であり、また必要とされる反応条件は、大規模生産にとって不適当である。
【0004】
4) また、3-ヒドロキシピロリジンは、報告によれば、1,4-ジブロモ-2-ブタノールとベンジルアミンとを反応させることにより製造された(J. Med. Pharm. Chem., 1959, 1, 76)。1,4-位における選択的な臭素化の制御は、容易ではなく、また該反応の収率は低い(31%)。その上、高価な臭素化試薬の使用は、この方法を、大規模生産にとって不適当なものとしている。
5) 幾つかの古典的な方法は、光学的に活性な3-ヒドロキシピロリジン及びその誘導体を、ラセミ混合物から得るために、化学的な分割試薬を用いた[(JP 05/279326(1993); JP 05/279325(1993); JP 04/164066(1992)]。この場合にも、報告された収率は低く、またこれらの方法は、大規模生産にとって効果的なものではない。
6) 加水分解[(WO 95/03421(1995); U.S. 5187094(1993); JP 01/141600(1995)]及びエステル化[(WO 95/03219(1995); JP 05/227991(1993); JP 04/131093(1992)]を介する、酵素を用いた分割法を用いる、ラセミ型3-ヒドロキシピロリジン誘導体の分割法は、実用性に乏しく、またラセミ型の出発物質の合成も、一つの欠点となる。
【0005】
7) 酸素原子が、対応するピロリジン核内に立体選択的に挿入されている、光学的に活性な3-ヒドロキシピロリジンを製造するための生体触媒の使用は、有望な方法の一つであるが、その主な欠点の幾つかは、その生成物が、低収率、高希釈率、かつ低エナンショマー過剰率である点にある(US 7141412)。酵素を用いたピロリジンのヒドロキシル化は複雑である。N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンのシュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)によるヒドロキシル化は、低収率かつ低エナンショマー過剰率で、対応する3-ヒドロキシピロリジンを与える(EP 1002871)。また、特殊な真菌、即ちクニンガメラベルティシレート(Cunninghamella verticillate)又はアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)を用いた、キムゲテロツィクルソーデン(Khim. Geterotsikl. Soedin)によるヒドロキシル化も報告されている(Chemical Abstract, 1993, 118: 6835C)。この方法が、N-アシルピロリジン類のヒドロキシル化に適用可能か否かは疑わしく、更にこの方法は、低収率であるという欠点をも持つ。該生体触媒を用いたヒドロキシル化方法が、恐らく標的分子の製造のために、工業的に利用される唯一の方法である。
8) エナンショマー的に純粋な3-ヒドロキシピロリジンを製造するための方法[(JP 06/141876(1994); WO 98/23768(1998)]も、上記と同様な困難に直面する。
【0006】
9) 最近、3-ヒドロキシピロリジン及びその誘導体は、4-ハロ-3-ヒドロキシブタン誘導体の環化[(EP 452143(1991)]、例えばエナンショマー的に純粋な4-クロロ-3-ヒドロキシブチルニトリル[(EP 431521(1988)]及び3-クロロ-2-ヒドロキシプロピオニトリル(WO 2007/024113)の環化によって製造された。しかし、エナンショマー的に純粋な出発物質は高価であり、しかも容易に入手できないので、この方法はあまり実行可能なものとはいえない。
文献においては、エナンショマーに富むN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジン及びその誘導体を製造するための様々な方法が報告されているが、安価かつ容易に入手できる原料物質から、エナンショマー的に純粋な製品を製造するための、効率的な方法は、依然として合成及び医薬工業分野おける重要な課題の一つであることは明らかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
持続的な供給を持って、容易に入手でき、再生可能な源である原料物質から、簡単な反応方法で、かつ高収率で、高い光学純度を持つ両エナンショマー、即ち(R)-及び(S)-3- N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを製造するための本発明の方法は、魅力的かつ工業的に価値あるものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、天然産のアルカロイドである(-)-バシシンから、光学的に活性なN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを製造するための方法を提供するものであり、該方法は、以下の諸工程:
a 以下の式3で表される(-)-バシシンと:
【0009】
【化1】

【0010】
還元剤とを、有機又は水性媒体中で、0〜40℃なる範囲の温度にて、10分〜1時間なる範囲の期間に渡り反応させて、以下の式4:
【0011】
【化2】

【0012】
で表されるアニリン誘導体を得る工程;
b 前記式4で表される該アニリン誘導体のジアゾ化及びジアゾニウム誘導体の脱アミノ化により、以下の式1:
【0013】
【化3】

【0014】
で表される(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを得る工程;
c 前記式1の(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンと、トリフェニルホスフィン及びジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)、及びジイソプロピルアゾジカルボキシレート(DIAD)を含む群から選択される試薬系とを、0〜25℃なる範囲の温度にて、1〜16時間なる範囲の期間に渡り反応させ、次いで蟻酸、酢酸、プロピオン酸からなる有機酸の群から選択される酸を添加し、アンモニアの添加により該反応系のpHを8-9なる範囲内の値に調節して、以下の式5:
【0015】
【化4】

R= HCO、CH3CO、CH3CH2CO、CH3CH2CH2CO
【0016】
で表される中間体化合物を得る工程;及び
d 前記式5で表される中間体化合物を、0〜25℃なる範囲の温度にて、1〜3時間なる範囲の期間に渡り、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択される塩基と反応させることにより加水分解して、以下の式2:
【0017】
【化5】

【0018】
で表される(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを得る工程を含むことを特徴とする。
本発明の方法の一態様において、該還元剤は、水素化物イオン移動試薬、例えばボロハイドライド、アルミニウムハイドライド、ボランから選択することができる。
本発明のもう一つの態様では、該還元剤を、有機相、例えばメタノール、水性メタノールエタノール、水性エタノール、テトラヒドロフラン、水性THF、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、酢酸等の中で使用することができる。
更に別の本発明の態様において、上記式4で表されるアニリン中間体のジアゾ化は、酸触媒の存在下にて、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸アミルからなる群から選択される、アルカリ金属亜硝酸塩又は有機亜硝酸塩を用いることにより行われる。
更に別の本発明の態様において、該酸触媒は、硫酸、塩酸、リン酸、オルトリン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸から選択される、酸から選択される。
【0019】
本発明の一態様において、上記ジアゾニウム中間体の脱アミノ化は、酸触媒を用いて行われ、ここで該触媒は、無機酸、例えば硫酸、硝酸、リン酸、塩酸、次亜リン酸(hypophosphorus acid)等から選択される。
本発明の更なる態様では、前記ジアゾ化反応が、-10〜50℃なる範囲の温度、好ましくは-5〜+10℃なる範囲の温度にて行われる。
本発明の一態様において、上記生成物としての、式1で表される(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの単離は、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸カリウムからなる群から選択される塩基を添加することにより維持される、塩基性pH、好ましくは7-9なる範囲のpHの下で行われる。
本発明の一態様において、上記生成物の精製は、アルミナ又はシリカゲル上でのクロマトグラフィーにより行われる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、光学的に純粋な(R)-及び(S)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを製造するための、簡単かつ著しく効率的な方法に関する。この方法は、原料物質として、再生可能な植物源、例えば大量に生育しているアドハトダバシカ(Adhatoda vasica)から容易に単離される、アルカロイドを使用し、また該方法は簡単かつ経済的であり、しかもエナンショマー的に純粋な(S)-及び(R)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを工業的に生産するために、大規模化することができる。
この方法においては、エナンショマー的に純粋な結晶形状にある該天然生成物としてのバシシンを、原料物質として使用した。夫々上記式1及び2で表される、(S)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジン及び(R)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンは、以下のような反応段階を利用して製造される:
1. アルカロイドとしての(-)-バシシンにおけるC=N結合を、適当な還元剤を用いて開裂させる段階;
2. 該中間体としての芳香族アミンを、脱アミノ化して、(S)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを得る段階;及び
3. このヒドロキシピロリジンのC-3位において、ミツノブ(Mitsunobu)反応によって立体反転させて、第二のエナンショマーとしての(R)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを製造する段階。
【0021】
本発明は、エナンショマー的に純粋なN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを合成するための、効率的な方法に係り、その製造のための原料物質として、アルカロイドである(-)-バシシンを使用する。本発明のこの方法は、以下の諸段階を含む:
1. 上記式3で表されるバシシンにおけるイミン結合を、還元剤の使用により開裂させて、上記式4で表される(S)-(-)-N-(2-アミノベンジル)-3-ヒドロキシピロリジン中間体を得る段階;
2. 該式4で表される(S)-(-)-N-(2-アミノベンジル)-3-ヒドロキシピロリジン中間体を、ジアゾ化及びヒドロ脱ジアゾ化によって脱アミノ化して、上記式1で表されるN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの(S)-(-)-エナンショマーを得る段階;及び
3. 該式1で表される(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを、ミツノブ反転反応により、上記式2で表される(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンへと立体反転させる段階。
出発物質として使用される、以下の式3で表される構造によって示される、該天然のアルカロイドとしてのバシシン:
【0022】
【化6】

【0023】
は、その純粋なエナンショマー形状で、植物:アドハトダバシカ(Adhatoda vasica)から単離される。この植物は、インド及び地球上の他の部分において広く分布している。この植物の乾燥部分からのバシシンの収量は、季節的変化及び気候、風土的な立地によって変動する(0.5-2.5%)。アドハトダバシカ(Adhatoda vasica)から得た、本発明で使用する、該純粋な原料物質としてのバシシンの融点(mp)は210℃であり、またその比旋光度の値[α]Dは、-233 (C, 2.6 CHCl3)である。
本発明の方法における上記第一の段階において、バシシン中のイミン(C=N)結合の開裂は、水性又は有機相中で、還元剤を添加することによって効果的に達成される。室温における該還元的開裂のためには、NaBH4、Ca(BH4)2、LiBH4、LiAlH4、Zn(BH4)2、アルキルボラン類、ジボラン、9-BBN、NaCNBH4、DIBAH等から選択される水素化物イオン移動試薬等の還元剤、より好ましくはボロハイドライドが使用される。バシシン中のイミン(C=N)結合を開裂するこの新規な方法は、本発明の発明者等によって初めて開発されたものである。この方法において使用する溶媒は、極性媒体乃至極性溶媒、例えばジクロロメタン、酢酸エチル、四塩化炭素、メタノール、エタノール、水、DMSO、酢酸又はこれらの混合物、好ましくは周囲温度における水性媒体から選択される。この反応の完了後、以下の式4で表される構造:
【0024】
【化7】

【0025】
を持つ、該C=N結合の開裂された製品:(S)-N-(2-アミノベンジル)-3-ヒドロキシピロリジンが、有機溶媒により一般的な単離法を用いて、該反応混合物から抽出される。
本発明の方法の次の段階においては、該式4で表される構造を持つ中間体:(S)-N-(2-アミノベンジル)-3-ヒドロキシピロリジンが、ジアゾ化、これに続くオルトリン酸等の酸の添加によるヒドロ脱ジアゾ化によって、以下の式1:
【0026】
【化8】

【0027】
で表される(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンに転化される。このヒドロ脱ジアゾ化工程は、水素原子によるジアゾニウム基の置換を含み、結果として一級アミノ基の除去が行われる。上記式4で表される構造を持つ該中間体アミンは、これとアルカリ金属亜硝酸塩、例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、又は有機ニトリット、例えばアミルニトリット、より好ましくは無機亜硝酸塩とを、酸性媒体中で反応させることにより、ジアゾニウム塩に転化される。このジアゾ化反応を行うのに使用される該酸は、無機酸、例えば硫酸、塩酸、リン酸、オルトリン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等から選択することができる。該ジアゾ化反応は、-10〜+50℃なる範囲、好ましくは-5〜+10℃なる範囲の温度にて行われる。該ジアゾニウム中間体の該ヒドロ脱ジアゾ化反応は、該反応中の緩慢な窒素ガスの放出により示される。所望の生成物としての上記式1で表される(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンは、アンモニア又は任意の他の塩基の添加により該反応混合物を塩基性化して、該溶液のpHを7-9なる範囲の値とした後に、抽出される。該式1で表される生成物は、有機溶媒で抽出され、水で洗浄され、脱溶媒和され、また最終的にアルミナ上でのクロマトグラフィー処理によって精製される。
【0028】
該式1で表される(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンから、上記式2で表される(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを調製するためには、前者のC-3位におけるヒドロキシル基の配置の反転を、ミツノブ反応を利用することにより行う。このミツノブ反応は、アルコールにおける立体化学の反転を行うために使用される重要な方法である。このミツノブ反応における試薬添加の順序は、極めて重要である。本発明の方法によれば、テトラヒドロフラン(THF)中のトリフェニルホスフィンを、0oC-10oCなる範囲の温度に冷却する。次いで上記溶液に、テトラヒドロフラン(THF)中に溶解した、ジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)又はジイソプロピルアゾジカルボキシレート(DIAD)を徐々に添加する。最後に、上記式1の(S)-アルコールを、上記溶液に徐々に添加する。得られる反応混合物を、20-30分間に渡り攪拌し、次いで有機酸、例えば酢酸、蟻酸、プロピオン酸等から選択される有機酸、好ましくは酢酸を滴添する。この反応混合物を、室温にて一夜に渡り、継続的に攪拌する。該反応の完了後、該溶液を、希薄無機酸(5%)の添加により酸性にし、一方で該溶液の温度を0oC-10oCに維持する。得られる水性相を、同様に生成する有機相から分離する。該水性相部分のpHを、アンモニア又は任意の他の塩基の添加により8に調節し、クロロホルムで抽出した。乾燥された該抽出液から、クロロホルム部分を、減圧下で蒸発させて、殆ど定量的な収率にて、上記式5で表される、反転された生成物:(R)-(+)-N-ベンジル-3-アシルオキシピロリジンを得た。(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを調製するためには、以下の式5で表されるアシレート:
【0029】
【化9】

R= HCO、CH3CO、CH3CH2CO、CH3CH2CH2CO
【0030】
を、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン又はこれらの混合物等の有機溶媒中に溶解し、その後水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム等のアルカリの存在下で、該アシレートを加水分解する。この加水分解生成物としての、以下の式2で表される(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジン:
【0031】
【化10】

【0032】
は、適当な有機溶媒を用いた、該反応混合物から単離され、次いで溶媒の除去及び得られる粗生成物のアルミナ上でのクロマトグラフィーによる精製処理に付される。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を、以下に与えられる実施例を参照しつつ説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
実施例-1:
A. 上記式4の構造を持つ(S)-(-)-N-(2-アミノベンジル)-3-ヒドロキシピロリジンの製造:
10g(0.05291モル)の上記式3で表される純粋な天然のバシシン([α]25D:-233(C,2.6 CHCl3))を、攪拌機を備えた、容量250mLの丸底フラスコ中の、100mLのメタノール-水(1:1)混合溶媒に溶解した。5.87g(0.15873モル)のナトリウムボロハイドライドを、室温にて、一定の間隔で少量ずつ上記溶液に添加し、更に継続的に10時間に渡り攪拌した。この反応は、バシシンのジヒドロ誘導体の生成を通して進行し、該バシシンは、N-C結合の開裂を介して、ついには完全に還元された。この反応を、酢酸エチル(10mL)の添加により停止させ、得られる生成物を、クロロホルム(3×100mL)で抽出した。乾燥された該クロロホルム抽出液を、薄膜蒸発器上で減圧下に蒸発させ、また中性アルミナ上でクロマトグラフィー処理し、クロロホルム-水で溶出させたところ、90%なる収率にて、半-固体状で淡黄色の上記式2で表される化合物を与えた。[α]25D:-199 (ee, 97%)。
1H NMR (CDCl3, 200 MHz); δ 1.75(m,1H), 2.21(m,1H), 2.34 ( m,1H), 2.50 (bs,1H), 2.60 (m,1H),2.89(m,1H), 3.71(s, 2H), 4.31(m,1H), 6.68 (m,2H), 7.10 (m,2H).
【0034】
B. 上記式4の中間体からの上記式1の(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの製造:
7.4g(0.105モル)の粉末化した亜硝酸ナトリウムを、-0oCにて、穏やかに攪拌しつつ、97%濃硫酸(15mL)に少量ずつ添加した。5gの上記式4で表される中間体を、15mLの97%濃硫酸に溶解した溶液を、攪拌中に滴添した。該反応の温度を5oC以下に維持し、また氷浴中で4-6時間に渡り攪拌を継続した。次いで、この反応混合物を、激しく攪拌しつつ、15g(0.35モル)の次亜リン酸(hypophosphoric acid)及び150gの氷を含む混合物中に流し込んだ。かなりの発煙が生じ、また該混合物は、不定期に攪拌しつつ数時間に渡り放置し、次いで室温にて一夜放置した。この反応混合物のpHを、アンモニア溶液を添加することにより8に調節し、次いでクロロホルムで抽出(3×50mL)した。該溶媒を蒸発させ、ジクロロメタン:メタノール(99:1)を用いてアルミナ上でクロマトグラフィー処理した後、上記式1の生成物を、約70%なる収率(3.22g)にて得た。[α]25D:-3.64(c, 2.5 CHCl3) (ee, 95%)。
1H NMR (CDCl3, 200 MHz); δ 1.75(m,1H), 2.21(m,1H), 2.34(m,1H), 2.50 (bs,1H), 2.60(m,1H), 2.89 (m, 1H), 3.71(s,2H), 4.31(m, 1H), 7.29(s, 5H).
【0035】
実施例-2:
A. 上記式1で表される構造を持つ(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの製造
機械的攪拌機、温度計を備え、また氷浴で囲まれた三つ口フラスコ(容量1L)を、200mLの濃硫酸及び100mLの水との、予備冷却した混合物を充填する。この攪拌中の混合物の温度を-5℃に下げ、また7.4g(0.108モル)の亜硝酸ナトリウムを、15分間に渡り少量ずつ添加する。次いで、冷却した50%の次亜リン酸(39mL、0.38モル)を、10分間かけて添加し、一方で温度を-5℃以下に維持する。200mLの氷酢酸に5gの中間体4を溶解した溶液を、1.5時間なる期間に渡り、滴下ロートを通して、上記攪拌中のジアゾ化溶液に添加し、一方でその添加期間中、系の温度を-5℃に維持する。得られるスラリーの攪拌を約2時間に渡り継続し、その温度を、5℃まで徐々に上昇させる。この緩く栓をしたフラスコを、36時間に渡り冷蔵庫内に維持する。この期間中、窒素ガス及び幾分かの他の酸化物が発生する。該反応混合物のpHを、アンモニアの添加により8に調節し、次いでクロロホルムで抽出(3×50mL)した。通常の処理及びアルミナ上でのクロマトグラフィー処理後、上記式1の最終生成物の収量は、3.68g(80%)であった。[α]25D:-3.64(c, 2.5 CHCl3) (ee, 95%)。
1H NMR (CDCl3, 200 MHz); δ 1.75(m,1H), 2.21(m,1H),2.34(m,1H), 2.50(bs,1H), 2.60(m,1H), 2.89 (m, 1H), 3.71(s, 2H), 4.31(m, 1H), 7.29(s, 5H).
【0036】
実施例-3:上記式4の中間体からの(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの製造
換気フード内で、10MイソアミルニトリットのDMF溶液(23mL)を、容量100mLの磁気回転翼を含む丸底フラスコ中に入れる。還流冷却機を、65℃に加熱された浴内の、締め具で取付けられたフラスコの上部に配置して、該フラスコ内部の温度を約45℃に維持する。この攪拌中の溶液に、5gの中間体4(0.026モル)を最小量のDMF(1mL)に溶解した溶液を、5分間に渡り滴添する。窒素ガスが即座に発生し始め、その発生は、該物質の全てが添加されるまで継続する。該ガスの発生が完了した後(約15分間)、この反応混合物を、室温まで冷却させる。該反応混合物のpHを、アンモニアの添加により8に調節し、次いでクロロホルムで抽出(3×50mL)した。上記処理及び該溶媒の除去後、上記式1の最終生成物の収量は、1.475g(80%)であった。[α]25D:-3.60(c, 2.5 CHCl3) (ee, 95%)。
【0037】
実施例4:上記式1の(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの製造
5.75g(0.03モル)の上記中間体4を、還流冷却機を備えた、容量200mLの二口フラスコ内で、60mLの精留スピリット及び15mLのベンゼンに溶解した。該フラスコの第二の口は、栓により閉じられていた。濃硫酸(3.5mL)を、上記液体を穏やかに攪拌しつつ、側部の口を介して該溶液に滴添し、次いで水浴上で透明な溶液が得られるまで加熱した。このフラスコを該水浴から取出し、6gの粉末化された亜硝酸ナトリウムを、該側部の口を介して、等しい2つの部分に分けて添加し、各一方のニトリットの添加の完了後、栓を交換し、該フラスコを激しく振とうし、反応が終了した時点で、第二のニトリット部分を添加する。該加熱は、該ガスの発生が停止するまで、該水浴上で継続した。この溶液を、氷浴中で10分間に渡り冷却する。該反応混合物のpHを、アンモニアの添加により8に調節し、次いでクロロホルムで抽出(3×50mL)した。上記処理及び該溶媒の除去後、上記式1の生成物の収量は、3.186g(60%)であった。[α]25D:-3.55(c, 2.5 CHCl3) (ee, 93%)。
【0038】
実施例-5:上記式2で表される(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの製造
A(I): 式5で示される中間体(R)-エステルの製造
攪拌された、トリフェニルホスフィン(41.78mM)を無水THF(300mL)に溶解した溶液を、窒素雰囲気下で0℃に維持した。ジイソプロピルアゾジカルボキシレート(DIAD)(7.0mL、 35.17mM)を、同温度にて、15分間、得られた上記溶液に滴添した。該混合物がクリーム状の白色物質となった際に、上記分子式1の(-)-アルコール(6.71g、25mLのTHF中に分散させた)を滴添し、更に攪拌を20分間継続し、次いで70mMの酢酸を一度に添加した。得られた混合物を、室温にて16時間攪拌した。この反応混合物を、1:1の塩酸:水混合物で酸性にし、水性相を有機相から分離し、該水性相のpHを、アンモニアの添加により8に調節し、次いでクロロホルムで抽出(3×60mL)した。上記処理及び該溶媒の除去後、該中間体エステル生成物の収率は、80%(6.63g)であった。
【0039】
A(II): 上記式5で表される、中間体としての(R)-エステルの製造
トリフェニルホスフィン(41.78mM)を無水THF(300mL)に溶解して得た、攪拌された溶液を、窒素雰囲気下で0℃に維持した。ジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)(35.17mM)を、同温度にて15分間に渡り、上記溶液に滴添した。該混合物がクリーム状の白色物質となった際に、上記分子式1の(-)-アルコール(6.71g、25mLのTHF中に分散させた)を滴添し、更に攪拌を20分間継続し、次いで70mMの酢酸を一度に添加した。得られた混合物を、室温にて16時間攪拌した。この反応混合物を、1:1の塩酸:水混合物で酸性にし、水性相を有機相から分離し、該水性相のpHを、アンモニアの添加により8に調節し、次いでクロロホルムで抽出(3×60mL)した。上記処理及び該溶媒の除去後、該中間体エステル生成物の収率は、73%(6.049g)であった。
【0040】
B(I): 上記式2で表される(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンヒドロキシドを製造するための、上記式5で表される(R)-エステルの加水分解
精製されていない、上で製造した上記式5の中間体エステル(0.3mM)を、THFとメタノール(3:1)との混合物(10mL)に溶解し、水酸化リチウムの一水和物の水性溶液(0.5mM、1mL)を、これに添加した。この反応混合物を、0℃にて2時間攪拌し、次いで塩化アンモニウムの飽和水性溶液(20ml)で希釈し、得られた混合物を、クロロホルムで抽出(3×60mL)した。上記処理及び該溶媒の除去並びにアルミナ上でのカラムクロマトグラフィー処理後、上記式2の生成物の収率は96%であった。[α]25D:+3.53(c, 2.5 CHCl3) (ee, 93%)。
【0041】
B(II) : 上記式2で表される(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンヒドロキシドを製造するための、上記式5で表される(R)-エステルの加水分解
精製されていない、上で製造した式5の中間体エステル(0.3mM)を、THFとメタノール(3:1)との混合物(10mL)に溶解し、水酸化カリウムの水性溶液(0.5mM、1mL)を、これに添加した。この反応混合物を、0℃にて2時間攪拌し、次いで塩化アンモニウムの飽和水性溶液(20ml)で希釈し、得られた混合物を、クロロホルムで抽出(3×60mL)した。上記処理及び該溶媒の除去並びにアルミナ上でのカラムクロマトグラフィー処理後、上記式2の生成物の収率は80%であった。[α]25D:+3.53(c, 2.5 CHCl3) (ee, 93%)。
【0042】
B(III) 上記式2で表される(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンヒドロキシドを製造するための、上記式5で表される(R)-エステルの加水分解
精製されていない、上で製造した式5の中間体エステル(0.3mM)を、THFとメタノール(3:1)との混合物(10mL)に溶解し、水酸化ナトリウムの水性溶液(0.5mM、1mL)を、これに添加した。この反応混合物を、0℃にて2時間攪拌し、次いで塩化アンモニウムの飽和水性溶液(20ml)で希釈し、得られた混合物を、クロロホルムで抽出(3×60mL)した。上記処理及び該溶媒の除去並びにアルミナ上でのカラムクロマトグラフィー処理後、上記式2の生成物の収率は77%であった。[α]25D:+3.53(c, 2.5 CHCl3) (ee, 93%)。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(-)-バシシンからの光学的に活性なN-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの製造方法であって、以下の工程、
(a) 以下の式3で表される(-)-バシシンと、
【化1】

(b) 還元剤とを、有機又は水性媒体中で、0〜40℃なる範囲の温度にて、10分〜1時間なる範囲の期間に渡り反応させて、以下の式4、
【化2】

で表されるアニリン誘導体を得る工程、
(c) 前記式4で表される該アニリン誘導体のジアゾ化及び該ジアゾニウム中間体の脱アミノ化により、以下の式1、
【化3】

で表される(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを得る工程、
(d) 前記式1の(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンと、トリフェニルホスフィン及びジエチルアゾジカルボキシレート(DEAD)、及びジイソプロピルアゾジカルボキシレート(DIAD)を含む群から選択される試薬系とを、0〜25℃なる範囲の温度にて、1〜16時間なる範囲の期間に渡り反応させ、次いで蟻酸、酢酸、プロピオン酸からなる有機酸群から選択される酸を添加し、アンモニアの添加により該反応系のpHを8-9なる範囲内の値に調節して、以下の式5、
【化4】

R= HCO、CH3CO、CH3CH2CO、CH3CH2CH2CO
で表される中間体化合物を得る工程、及び
(e) 前記式5で表される中間体化合物を、0〜25℃なる範囲の温度にて、1〜3時間なる範囲の期間に渡り、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群から選択される塩基と反応させることにより加水分解して、以下の式2、
【化5】

で表される(R)-(+)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンを得る工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記還元剤が、水素化物イオン移動試薬、例えばボロハイドライド、アルミニウムハイドライド、ボランから選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤を、有機相、例えばメタノール、水性メタノールエタノール、水性エタノール、テトラヒドロフラン、水性THF、ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、酢酸等の中で使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記式4で表されるアニリン中間体のジアゾ化を、酸触媒の存在下にて、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、アミルニトリットからなる群から選択される、アルカリ金属亜硝酸塩又は有機ニトリットを用いることにより行う、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記酸触媒が、硫酸、塩酸、リン酸、オルトリン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸から選択される、酸から選択される請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ジアゾニウム中間体の脱アミノ化が、酸触媒を用いて行われ、ここで該触媒が、無機酸、例えば硫酸、硝酸、リン酸、塩酸、次亜リン酸等から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記ジアゾ化反応が、-10〜50℃なる範囲の温度、好ましくは-5〜+10℃なる範囲の温度にて行われる、請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記生成物としての、前記式1で表される(S)-(-)-N-ベンジル-3-ヒドロキシピロリジンの単離を、アンモニア、水酸化ナトリウム、炭酸カリウムからなる群から選択される塩基を添加することにより維持される、塩基性pH、好ましくは7-9なる範囲のpH値の下で行う、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記生成物の精製を、アルミナ又はシリカゲル上でのクロマトグラフィーにより行う、請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2012−509867(P2012−509867A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537014(P2011−537014)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/IN2009/000680
【国際公開番号】WO2010/058429
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(508176500)カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (27)
【Fターム(参考)】