説明

光学的立体造形用樹脂組成物

【課題】 光硬化感度が高く、吸湿率が低くて保存安定性に優れ、短い造形時間で、寸法安定性、耐久性、耐水性、耐湿性、力学的特性に優れる立体造形物を生産性良く製造できる光造形用樹脂組成物の提供。
【解決手段】 カチオン重合性有機化合物として、下記一般式(I);


(式中、R1は、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、シクロヘキサンジメタノール残基またはトリシクロデカンジメタノール残基を示す。)で表される脂環式ジグリシジルエーテル化合物、ポリオキセタン化合物及びモノオキセタン化合物を含有し、ラジカル重合性有機化合物としてジ(メタ)アクリレート化合物とポリ(メタ)アクリレート化合物を含有し、式:[S+(R2)a(R3)b(R4)c][Sb-6]mで表されるアンチモン芳香族スルホニウム化合物をカチオン重合開始剤として含有する、エステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を含まない光造形用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学的立体造形用樹脂組成物および当該組成物を用いて光学的立体造形物を製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、光硬化感度が高く、しかも光硬化前および光硬化後の水分および湿分の吸収が小さくて、寸法精度、造形精度、寸法安定性、耐水性、耐湿性、靭性、他の力学的特性に優れる光学的立体造形物を高い造形速度で生産性良く製造することのできる光学的立体造形用樹脂組成物および当該光学的立体造形用樹脂組成物を用いて立体造形物を製造する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元CADに入力されたデータに基づいて液状の光硬化性樹脂組成物を立体的に光学造形する方法が、金型などを作製することなく目的とする立体造形物を良好な寸法精度で製造し得ることから、広く採用されるようになっている。
光学的立体造形法の代表的な例としては、容器に入れた液状光硬化性樹脂の液面に所望のパターンが得られるようにコンピューターで制御された紫外線を選択的に照射して所定厚みを硬化させ、ついで該硬化層の上に1層分の液状樹脂を供給し、同様に紫外線で前記と同様に照射硬化させ、連続した硬化層を得る積層操作を繰り返すことによって最終的に立体造形物を得る方法を挙げることができる。この光学的立体造形方法は、形状のかなり複雑な造形物をも容易に且つ比較的短時間に得ることが出来る。
【0003】
光学的立体造形に用いる樹脂または樹脂組成物については、活性エネルギー線による硬化感度が高いこと、低粘度で造形時の取り扱い性に優れること、経時的に水分や湿気の吸収が少なく硬化感度の低下がないこと、造形物の解像度が高く造形精度に優れていること、硬化時の体積収縮率が小さいこと、硬化して得られる造形物が力学的特性、耐久性、耐水性や耐湿性、耐熱性などに優れていることなどの種々の特性が要求される。
【0004】
光造形用の光硬化性樹脂組成物としては、従来、ラジカル重合性有機化合物を含む光硬化性樹脂組成物、エポキシ化合物などのカチオン重合性有機化合物を含む光硬化性樹脂組成物、ラジカル重合性有機化合物とカチオン重合性有機化合物の両方を含む光硬化性樹脂組成物などの種々の光硬化性樹脂組成物が提案されて用いられている。その際に、ラジカル重合性有機化合物としては、例えば(メタ)アクリレート系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物、ポリエステル(メタ)アクリレート系化合物、ポリエーテル(メタ)アクリレート系化合物、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物などが用いられている。また、カチオン重合性有機化合物としては、例えば、各種エポキシ化合物、環状アセタール系化合物、ビニルエーテル系化合物、ラクトン類などが用いられている。
【0005】
上記したうちで、エポキシ化合物などのカチオン重合性有機化合物を含む光硬化性樹脂組成物では、系内に存在する光カチオン重合開始剤が光照射によりカチオン種(H+)を生成し、それが連鎖的にカチオン重合性有機化合物に関与し、カチオン重合性有機化合物が開環して反応が進む。エポキシ化合物などのカチオン重合性有機化合物をベースとする光硬化性樹脂組成物を用いると、一般に、ラジカル重合性有機化合物をベースとする光硬化性樹脂組成物を用いた場合に比べて、得られる光硬化物の収縮率が小さく、寸法安定性、寸法精度に優れる造形物が得られる。
【0006】
カチオン重合性有機化合物を光重合させるための光カチオン重合開始剤としては、第16族元素の芳香族スルホニウム塩、17族元素の芳香族オニウム塩、第15族元素の芳香族オニウム塩などよりなる光カチオン重合開始剤が知られている(特許文献1〜8などを参照)。そのうちでも、カチオン重合性有機化合物を含む光硬化性樹脂組成物では、光カチオン重合開始剤として、アンチモンを含むスルホニウム塩が光硬化性樹脂組成物の反応性の観点から汎用されている。
【0007】
光カチオン重合開始剤としてアンチモンのスルホニウム塩を用いた光学的立体造形用樹脂組成物では、光硬化速度を高くするために、カチオン重合性有機化合物の少なくとも一部として、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートやその他の分子中にエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物が一般に用いられており、当該カチオン重合性有機化合物を含まない場合には、光硬化速度が遅くなる。
しかしながら、分子中にエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物は、吸水性および吸湿性が高いために、当該カチオン重合性有機化合物を含有する光学的立体造形用樹脂組成物およびそれを光硬化して得られる立体造形物はいずれも吸水性および吸湿性が大きく、光硬化する前の光学的立体造形用樹脂組成物の保存時などには湿分の吸収を防ぐための管理を厳密に行なう必要があり、また光硬化して得られる立体造形物は、吸湿による変形、寸法精度の低下や強度の低下などが生じ易く、カチオン重合性有機化合物を用いることによる上記した低収縮性、寸法安定性、寸法精度という長所を十分に発揮できないのが実状である。
さらに、光造形物の用途の拡大に伴って、耐熱性、耐湿性、寸法精度、寸法安定性という特性と併せて、靭性に優れていて曲げなどの外部応力が加えられても破損しにくく、耐久性に優れる立体造形物を形成できる光学的立体造形用樹脂組成物が求められている。
【0008】
【特許文献1】特公平7−103218号公報
【特許文献2】特公昭52−14277号公報
【特許文献3】特公昭52−14278号公報
【特許文献4】特公昭52−14279号公報
【特許文献5】特開2002−241363号公報
【特許文献6】特開2001−81096号公報
【特許文献7】特開2007−262401号公報
【特許文献8】特開平2007−238828号公報
【非特許文献1】ポール・エフ・ヤコブ(Paul F. Jacobs)著、「Rapid Prototyping & Manufacturing, Fundamentals of Stereo-Lithography」,“Society of Manufacturing Engineers”,1992年,p28−39
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来から汎用されているアンチモンのスルホニウム塩をカチオン重合開始剤として含有する、光硬化感度が高くて短縮された活性エネルギー線照射時間で造形物を生産性良く製造することができ、しかも光硬化前および光硬化後のいずれにおいても水分や湿分の吸収が少なくて、保存安定性、取り扱い性、光造形して得られる立体造形物の寸法安定性や寸法精度に優れる光学的立体造形用樹脂組成物を提供することである。
そして、本発明の目的は、靭性に優れていて、衝撃、曲げなどの外部応力が加えられても破損が生じず耐久性に優れ、更にその他の力学的特性どにも優れる立体造形物を形成することのできる光学的立体造形用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討した結果、カチオン重合性有機化合物、ラジカル重合性有機化合物、活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤および活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤を含有する光学的立体造形用樹脂組成物において、活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤として、従来から汎用されていたアンチモンのスルホニウム塩を用いるに当たって、カチオン重合性有機化合物として、エステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を用いずに、特定の脂環式ジエポキシ化合物、ポリオキセタン化合物およびモノオキセタン化合物を用いると共に、ラジカル重合性有機化合物として(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有するジ(メタ)アクリレート化合物と(メタ)アクリロイルオキシ基を3個以上有するポリ(メタ)アクリレート化合物を用いると、光硬化感度の高い光学的立体造形用樹脂組成物が得られること、しかも当該光学的立体造形用樹脂組成物およびそれから得られる立体造形物は、高湿度下に放置した場合にも湿分の吸収が小さくて、貯蔵安定性、経時の寸法安定性に優れ、目的とする光造形物を高い寸法精度で製造できることを見出した。
さらに、本発明者らは、前記した光学的立体造形用樹脂組成物から得られる立体造形物は、靭性に優れていて、衝撃、曲げなどの外部応力が加えられても破損が生じず耐久性に優れ、しかもその他の力学的特性、耐水性、耐熱性などの特性にも優れることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)(i) カチオン重合性有機化合物(A)、ラジカル重合性有機化合物(B)、活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤(C)および活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(D)を含有する光学的立体造形用樹脂組成物であって;
(ii) カチオン重合性有機化合物(A)として、
・下記の一般式(I);
【0012】
【化7】


(式中、R1は、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、シクロヘキサンジメタノール残基またはトリシクロデカンジメタノール残基を示す。)
で表される脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I);
・オキセタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物(OXp);および、
・オキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物(OXm);
を含有し;
(iii) ラジカル重合性有機化合物(B)として、
・(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有するジ(メタ)アクリレート化合物(B1);および、
・(メタ)アクリロイルオキシ基を3個以上有するポリ(メタ)アクリレート化合物(B2);
を含有し;
(iv) 活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤(C)が、下記の一般式(II);
【0013】
【化8】


[上記の式(II)中、R2およびR3はそれぞれ独立して下記の式(i)〜(iv);
【0014】
【化9】


{式(ii)および式(iv)中、Xは塩素原子またはフッ素原子を示す}
で表される基のいずれかであり、R4は下記の式(v);
【0015】
【化10】


で表される基であり、aは0〜3の整数、bは0〜3の整数およびcは0または1であって、aとbとcの合計が3であり、mは1+cと同じ数である。]
で表されるアンチモンの芳香族スルホニウム化合物(II)であり;且つ、
(v) 分子中にエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を実質的に含有しない;
ことを特徴とする光学的立体造形用樹脂組成物である。
【0016】
そして、本発明は、
(2) カチオン重合性有機化合物(A):ラジカル重合性有機化合物(B)の含有割合が30:70〜90:10の質量比であり、アンチモンの芳香族スルホニウム化合物(II)をカチオン重合性有機化合物(A)の質量に基づいて0.1〜10質量%の割合で含有し、活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(D)をラジカル重合性有機化合物(B)の質量に基づいて0.1〜20質量%の割合で含有する前記(1)の光学的立体造形用樹脂組成物;
(3) カチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づいて、脂環式ジグリシジルエーテル合物(I)を20〜95質量%の割合で含有する前記(1)または(2)の光学的立体造形用樹脂組成物;
(4) カチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づいて、ポリオキセタン化合物(OXp)を5〜50質量%およびモノオキセタン化合物(OXm)を2〜40質量%の割合で含有する前記(1)〜(3)のいずれかの光学的立体造形用樹脂組成物;
(5) カチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づく脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)の合計含有割合が40〜100質量%である前記(1)〜(4)のいずれかの光学的立体造形用樹脂組成物;および、
(6) ラジカル重合性有機化合物(B)の全質量に基づいて、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)を20〜60質量%およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を30〜70質量%の割合で含有する前記(1)〜(5)のいずれかの光学的立体造形用樹脂組成物;
である。
【0017】
さらに、本発明は、
(7) ポリオキセタン化合物(OXp)が、下記の一般式(III−1);
【0018】
【化11】


(式中、2個のR5は互いに同じかまたは異なる炭素数1〜5のアルキル基、R6は芳香環を有しているかまたは有していない2価の有機基、pは0または1を示す。)
で表されるジオキセタン化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物;および、
(8) モノオキセタン化合物(OXm)が、下記の一般式(III−2a)で表されるモノオキセタン化合物(III−2a)および下記の一般式(III−2b)で表されるモノオキセタン化合物(III−2b)から選ばれる少なくとも1種のモノオキセタン化合物である、前記(1)〜(7)のいずれかの光学的立体造形用樹脂組成物である。
【0019】
【化12】


(式中、R7およびR8は炭素数1〜5のアルキル基、R9はエーテル結合を有していてもよい炭素数2〜10のアルキレン基、qは1〜6の整数を示す。)
そして、本発明は、
(9) 前記(1)〜(8)のいずれかの光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形物を製造する方法である。
【発明の効果】
【0020】
カチオン重合性有機化合物としてアンチモンの芳香族スルホニウム化合物を用いている本発明の光学的立体造形用樹脂組成物(以下「光造形用樹脂組成物」という)は、エステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を含んでおらず、活性エネルギー線による硬化感度が高く、短縮された造形時間で目的とする立体造形物を生産性よく製造することができる。すなわち、本発明の光造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物として、エステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)を含有し、ラジカル重合性有機化合物としてジ(メタ)アクリレート化合物(B1)とポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を含有することによって、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートのような高反応性のカチオン重合性有機化合物を含有していないにも拘わらず、アンチモンの芳香族スルホニウム化合物からなるカチオン重合開始剤の触媒活性が良好に維持されるためか、光硬化感度が高く、速い造形速度で立体造形物を生産性良く製造することができる。
しかも、本発明の光造形用樹脂組成物およびそれから得られる立体造形物は、エステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を用いていないために、水分および湿分の吸収が小さく、光造形用樹脂組成物の保存安定性、取り扱い性、得られる立体造形物の寸法安定性、寸法精度に優れている。
さらに、本発明の光造形用樹脂組成物を用いて得られる立体造形物は、力学的特性、耐水性、耐熱性などの特性にも優れている。特に、本発明の光造形用樹脂組成物を用いることによって、靭性に優れていて、衝撃、曲げなどの外部応力が加えられても破損しにくく、耐久性に優れる立体造形物を円滑に製造することができる。
その上、本発明の光造形用樹脂組成物を用いることによって、耐湿性に優れるため、長期の寸法安定性に優れるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の光造形用樹脂組成物は、活性エネルギー線の照射によって重合する活性エネルギー線重合性化合物として、カチオン重合性有機化合物(A)およびラジカル重合性有機化合物(B)を含有する。
なお、本明細書でいう「活性エネルギー線」とは、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などのような光学的造形用樹脂組成物を硬化させ得るエネルギー線をいう。
本発明の光造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物(A)として、下記の一般式(I);
【0022】
【化13】


(式中、R1は、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、シクロヘキサンジメタノール残基またはトリシクロデカンジメタノール残基を示す。)
で表される、エステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)を含有する。
【0023】
本発明の光造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物(A)として、エステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)を含有することによって、硬化感度、厚膜硬化性、解像度、紫外線透過性などが一層良好になり、更に光学的造形用樹脂組成物の粘度が低くなって造形が円滑に行われるようになり、しかも造形により得られる光学的造形物の体積収縮率が一層低減される。
本発明の光造形用樹脂組成物は、エステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)を、カチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づいて、20〜95質量%の割合で含有することが好ましく、30〜90質量%の割合で含有することがより好ましく、50〜90質量%の割合で含有することが更に好ましい。脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)の含有割合が少なすぎると、造形物の高湿度下での寸法安定性が低下し易くなり、一方含有割合が多すぎると光硬化性が低下し易くなる。
【0024】
本発明で使用するエステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)としては、具体的には、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールZジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルおよびトリシクロデカンジメタノールジグリシジルエーテルなどを挙げることができる。本発明の光造形用樹脂組成物は、エステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)として、前記したジグリシジルエーテルのうちの1種のみを含有してもよいし、または2種以上を含有してもよい。そのうちでも、本発明の光造形用樹脂組成物は、エステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)として、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルおよび/またはトリシクロデカンジメタノールジグリシジルエーテルを含有することが、当該脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)の入手性、得られる造形物の耐吸湿性などの点から好ましい。
【0025】
本発明の光造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物(A)として、上記したエステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)と共に、分子中にオキセタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物(OXp)および分子中にオキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物(OXm)を含有する。
本発明の光造形用樹脂組成物は、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)を含有することによって、光造形用樹脂組成物の光硬化感度が向上し、しかも得られる光造形物の靭性が増し、衝撃、曲げなどの応力が加えられても破損しにくくなり、耐久性が向上する。
【0026】
ポリオキセタン化合物(OXp)としては、1分子中にオキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物および1分子中にオキセタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物のいずれもが使用できる。
ポリオキセタン化合物(OXp)としては、オキセタン基を2個以上有する化合物、例えばオキセタン基を2個、3個または4個以上有する化合物のうちのいずれもが使用でき、そのうちでもオキセタン基を2個有するジオキセタン化合物が好ましく用いられる。
特に、ジオキセタン化合物としては、下記の一般式(III−1);
【0027】
【化14】


(式中、2個のR5は互いに同じかまたは異なる炭素数1〜5のアルキル基、R6は芳香環を有しているかまたは有していない2価の有機基、pは0または1を示す。)
で表されるジオキセタン化合物(III−1)が、入手の容易性、反応性、低吸湿性、得られる硬化物の力学的特性などの点から好ましく用いられる。
【0028】
上記の一般式(III−1)において、R5の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルを挙げることができる。また、R6の例としては、炭素数1〜12の直鎖状または分岐状のアルキレン基(例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、n−ペンタメチレン基、n−ヘキサメチレン基など)、式:−CH2−Ph−CH2−または−CH2−Ph−Ph−CH2−で表される2価の基、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、シクロヘキサンジメタノール残基、トリシクロデカンジメタノール残基などを挙げることができる。
【0029】
上記の一般式(III−1)で表されるジオキセタン化合物(III−1)の具体例としては、下記の式(III−1a)または式(III−1b)で表されるジオキセタン化合物を挙げることができる。
【0030】
【化15】


(式中、2個のR5は互いに同じか又は異なる炭素数1〜5のアルキル基、R6は芳香環を有しているかまたは有していない2価の有機基を示す。)
【0031】
上記の式(III−1a)で表されるジオキセタン化合物の具体例としては、ビス(3−メチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−プロピル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−ブチル−3−オキセタニルメチル)エーテルなどを挙げることができる。
また、上記の式(III−1b)で表されるジオキセタン化合物の具体例としては、上記の式(III−1b)において2個のR5が共にメチル、エチル、プロピル、ブチルまたはペンチル基で、R6がエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、n−ペンタメチレン基、n−ヘキサメチレン基などのアルキレン基、式:−CH2−Ph−CH2−または−CH2−Ph−Ph−CH2−で表される2価の基、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、シクロヘキサンジメタノール残基、トリシクロデカンジメタノール残基であるジオキセタン化合物を挙げることができる。
本発明の光造形用樹脂組成物は、前記したジオキセタン化合物のうちの1種または2種以上を含有することができる。
【0032】
そのうちでも、ポリオキセタン化合物(OXp)として、上記の式(III−1a)において、2個のR5が共にメチル基またはエチル基であるビス(3−メチル−3−オキセタニルメチル)エーテルおよび/またはビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテルが、入手の容易性、低吸湿性、硬化物の力学的特性などの点から好ましく用いられ、特にビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテルがより好ましく用いられる。
【0033】
本発明の光造形用樹脂組成物は、光造形用樹脂組成物から得られる光造形物の靭性の向上、造形物の機械的物性、耐熱性、耐湿性などの点から、光造形用樹脂組成物中のカチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づいて、ポリオキセタン化合物(OXp)を5〜50質量%の割合で含有していることが好ましく、5〜40質量%の割合で含有していることがより好ましく、5〜30質量%の割合で含有していることが更に好ましい。
【0034】
本発明の光造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物(A)の一部として、前記した脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)およびポリオキセタン化合物(OXp)と共に、分子中にオキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物(OXm)を含有する。
本発明の光造形用樹脂組成物は、オキセタン化合物として、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)を含有していることによって、光造形用樹脂組成物の光硬化感度が一層高くなると共に、光造形用樹脂組成物の水分および湿分を吸収率を損なわずに光硬化感度が一層高くなると共に、光造形用樹脂組成物を湿度の高い状態で長期間保存した場合にも水分および湿分の吸収を抑えて、当初の高い光硬化感度を長期にわたって維持できるという効果を奏することができ、しかも得られる立体造形物の靭性がより向上する。
【0035】
モノオキセタン化合物(OXm)としては、1分子中にオキセタン基を1個有する化合物であればいずれも使用でき、そのうちでも1分子中にオキセタン基を1個有し且つアルコール性水酸基を1個有するモノオキセタンモノアルコールが反応性、組成物の粘度などの点から好ましく用いられる。
特に、モノオキセタンモノアルコール化合物のうちでも、下記の一般式(III−2a)で表されるモノオキセタン化合物(III−2a)および下記の一般式(III−2b)で表されるモノオキセタン化合物(III−2b)から選ばれる少なくとも1種のモノオキセタン化合物が、入手容易性、反応性などの点から好ましく用いられる。特に、モノオキセタン化合物(OXm)として、下記の一般式(III−2b)で表されるモノオキセタン化合物(III−2b)を用いると、光造形用樹脂組成物およびそれから得られる立体造形物の耐水性がより良好になる。
【0036】
【化16】


(式中、R7およびR8は炭素数1〜5のアルキル基、R9はエーテル結合を有していてもよい炭素数2〜10のアルキレン基、qは1〜6の整数を示す。)
【0037】
上記の一般式(III−2a)において、R7の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルを挙げることができる。また、上記の一般式(III−2a)において、qは1〜6のうちのいずれでもよいが、1であることが、合成の容易性などの点から好ましい。
モノオキセタン化合物(III−2a)の具体例としては、3−ヒドロキシメチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−プロピルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−ノルマルブチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−プロピルオキセタンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、入手の容易性、反応性などの点から、3−ヒドロキシメチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタンがより好ましく用いられる。
【0038】
上記の一般式(III−2b)において、R8の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルを挙げることができる。
また、上記の一般式(III−2b)において、R9は炭素数2〜10のアルキレン基であれば、鎖状のアルキレン基または分岐したアルキレン基のいずれであってもよく、或いはアルキレン基(アルキレン鎖)の途中にエーテル結合(エーテル系酸素原子)を有する炭素数2〜10の鎖状または分岐状のアルキレン基であってもよい。R9の具体例としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、3−オキシペンチレン基などを挙げることができる。そのうちでも、R9はトリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基またはヘプタメチレン基であることが、合成の容易性、化合物が常温で液体である取り扱い易いなどの点から好ましい。
【0039】
本発明の光造形用樹脂組成物は、光硬化性の点から、モノオキセタン化合物(OXm)を、カチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づいて、2〜40質量%の割合で含有することが好ましく、2〜30質量%の割合で含有することがより好ましく、5〜25質量%の割合で含有することが更に好ましい。
また、本発明の光造形用樹脂組成物におけるポリオキセタン化合物(OXp):モノオキセタン化合物(OXm)の含有比率(質量比)は、5:95〜95:5、特に10:90〜80:20であることが好ましく、それによって光造形物の靭性の向上効果に加えて、光造形用樹脂組成物の水分および湿気の吸収率が極めて低くなって、光造形用樹脂組成物を湿度の高い状態で長期間保存した場合に水分および湿気の吸収が少なくなって、当初の高い光硬化感度を長期にわたって維持できるという効果を奏することができる。
【0040】
本発明の光造形用樹脂組成物は、水分および湿分の吸収を抑制して光造形用樹脂組成物の光硬化感度を高く維持するために、更に光硬化して得られる立体造形物の耐湿性、寸法精度、寸法安定性を良好なものにするために、分子中にエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を実質的に含有しないことが必要である。
本発明の光造形用樹脂組成物が含有しないことを要件とする「分子中にエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物」の代表例としては、分子中にエポキシ基とエシテルカルボニル基を有する化合物などを挙げることができる。限定されるものではないが、「分子中にエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物」の具体例としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのビニル重合により合成したホモポリマー、グリシジルアクリレートおよび/またはグリシジルメタクリレートとその他のビニルモノマーとのビニル重合により合成したコポリマー、高級脂肪酸のグリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ブチルなどがあり、本発明の光造形用樹脂組成物は、エステルカルボニル基を有するこれらのカチオン重合性有機化合物を含有しない。
【0041】
本発明の光造形用樹脂組成物では、エステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)の合計含有割合が、カチオン重合性有機化合物(A)の合計質量に基づいて、40〜100質量%であることが好ましく、60〜100質量%であることがより好ましく、70〜100質量%であることがさらに好ましい。前記含有量にすることによって、光造形用樹脂組成物の硬化感度、厚膜硬化性、解像度、紫外線透過性などが一層良好になり、光造形用樹脂組成物の粘度が低くなって造形が円滑に行われるようになり、造形により得られる光学的造形物の体積収縮率が一層低減され、得られる光造形物の靭性が増して衝撃、曲げなどの応力が加えられても破損しにくくなり、しかも光造形用樹脂組成物の水分および湿気の吸収率が極めて低くなって、光造形用樹脂組成物を湿度の高い状態で長期間保存した場合に、水分および湿気の吸収が少なくなって、当初の高い光硬化感度を長期にわたって維持することができる。
【0042】
本発明の光造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物(A)として、上記した脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)と共に、分子中にエステルカルボニル基を持たない他のカチオン重合性有機化合物を必要に応じて含有することができる。本発明の光造形用樹脂組成物が必要に応じて含有することのできる他のカチオン重合性有機化合物としては、脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)以外のエステルカルボニル基を持たない脂環族エポキシ化合物、エステルカルボニル基を持たない脂肪族エポキシ化合物、エステルカルボニル基を持たない芳香族エポキシ化合物などを挙げることができる。他のエポキシ化合物としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するポリエポキシ化合物がより好ましく用いられる。
【0043】
本発明の光造形用樹脂組成物が必要に応じて含有することのできるエステルカルボニル基を持たない他の脂環族エポキシ化合物の種類は限定されず、例えば、少なくとも1個の脂環族環を有するエステルカルボニル基を持たない多価アルコールのポリグリシジルエーテル、或いはシクロヘキセンまたはシクロペンテン環を有するエステルカルボニル基を持たない化合物を過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化して得られるシクロヘキセンオキサイドまたはシクロペンテンオキサイド含有化合物などを挙げることができ、具体例としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタジオキサン、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)エタンなどを挙げることができる。
【0044】
また、本発明の光造形用樹脂組成物が必要に応じて含有することのできる分子中にエステルカルボニル基を持たない脂肪族エポキシ化合物の種類は限定されず、例えば、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルなどを挙げることができ、具体例としては、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテルなどの多価アルコールのグリシジルエーテル、また、プロピレン、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル、フェノール、クレゾール、ブチルフェノールまたはこれらにアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル、エポキシ化ポリブタジエンなどを挙げることができる。
【0045】
また、本発明の光造形用樹脂組成物が必要に応じて含有することのできるエステルカルボニル基を持たない前記芳香族エポキシ化合物の種類は制限されず、例えば、多価フェノールのまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルなどを挙げることができ、具体例としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、またはこれらに更にエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加した化合物のグリシジルエーテル、ノボラック樹脂のグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0046】
前記したエステルカルボニル基を持たない芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(市販品としてはそれぞれ、ジャパンエポキシレジン社製のエピコート828、旭電化社製のEP−4800など)、ビスフェノールFジグリシジルエ−テル(市販品としてはジャパンエポキシレジン社製のエピコート807、旭電化社製のEP−4900など)、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAジグリシジルエ−テル(市販品としては、新日本理化社製のリカレジンBPO−20E、BPO−60E、旭電化社製のEP−4000など)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(市販品としては大日本インキ化学社製のN−730、N−770、東都化成社製のYDPN638など)が挙げられる。
また、前記したエステルカルボニル基を持たない脂肪族エポキシ化合物の市販品としては、例えば、ナガセゲムテック社製のEX−212、EX−313、EX−321、EX−411、EX−521、EX−614、EX−711,EX−811、EX−821、EX−851、EX−911、EX−941、EX−920、東都化成社製のYH−300、PG−202、PG−207などが挙げられる。
【0047】
本発明の光造形用樹脂組成物において、カチオン重合性有機化合物(A)の一部として、エステルカルボニル基を持たない脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)以外の、上記したエステルカルボニル基を持たない他のカチオン重合性有機化合物を用いる場合は、その含有割合は、カチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づいて、60質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0048】
本発明の光造形用樹脂組成物は、ラジカル重合性有機化合物(B)として、活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(D)[以下単に「ラジカル重合開始剤(D)」または「ラジカル重合開始剤」という]の存在下に、紫外線やその他の活性エネルギー線を照射したときにラジカル重合および/または架橋する、(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有するジ(メタ)アクリレート化合物(B1)および(メタ)アクリロイルオキシ基を3個以上有するポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を含有する。
【0049】
本発明の光造形用樹脂組成物は、ラジカル重合性有機化合物(B)の全質量に基づいて、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)を20〜60質量%およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を30〜70質量%の割合で含有することが好ましく、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)を25〜50質量%およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を40〜60質量%の割合で含有することがより好ましい。
また、光造形用樹脂組成物におけるジ(メタ)アクリレート化合物(B1):ポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)の含有比率(質量比)は、20:80〜70:30であることが好ましく、30:70〜60:40であることがより好ましい。
ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を前記した割合で含有していることによって、光造形用樹脂組成物が光硬化性に優れ、得られる立体造形物が機械的強度に優れるという特性を示す。
ラジカル重合性有機化合物(B)として、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)を含有するがポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を含有しない場合には、機械的特性が劣るようになり、またポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を含有するがジ(メタ)アクリレート化合物(B1)を含有しない場合には、光硬化物の靭性が劣るようになり、本発明の目的を達成することができない。
【0050】
ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)としては、分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有するジ(メタ)アクリレート化合物であればいずれもが使用でき、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られるジ(メタ)アクリレート、2価アルコール類のジ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ポリエーテルジオールのジ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0051】
上記したエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応により得られるジ(メタ)アクリレートとしては、芳香族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物および/または脂肪族エポキシ化合物と、(メタ)アクリル酸との反応により得られるジ(メタ)アクリレート系反応生成物を挙げることができる。前記したジ(メタ)アクリレート系反応生成物のうちでも、芳香族エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応により得られるジ(メタ)アクリレート系反応生成物が好ましく用いられ、具体例としては、ビスフェノールAやビスフェノールSなどのジグリシジルエーテルを(メタ)アクリル酸と反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0052】
また、上記した2価アルコール類のジ(メタ)アクリル酸エステルとしては、分子中に2個の水酸基をもつ芳香族アルコール、脂肪族アルコール、脂環族アルコールおよび/またはそれらのアルキレンオキサイド付加体と、(メタ)アクリル酸との反応により得られるジ(メタ)アクリレートを挙げることができる。具体例としては、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、前記したジオールのアルキレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
前記したジ(メタ)アクリレート化合物のうちで、ジメタクリレート化合物よりも、ジアクリレート化合物が重合速度の点から好ましく用いられる。
【0053】
さらに、上記したポリエステルジオールのジ(メタ)アクリレートとしては、水酸基含有ポリエステルと(メタ)アクリル酸との反応により得られるポリエステル(メタ)アクリレートを挙げることができる。また、上記したポリエーテル(メタ)アクリレートとしては、水酸基含有ポリエーテルとアクリル酸との反応により得られるポリエーテルアクリレートを挙げることができる。
【0054】
そのうちでも、本発明では、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)としては、エチレンオキシド変性ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチルトリシクロデカン)のジ(メタ)アクリレレートの1種または2種が好ましく用いられる。
【0055】
また、ポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)としては、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸を反応させて得られる3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する反応生成物、3価以上の多価アルコール類またはそのアルキレンオキサイド付加体のポリ(メタ)アクリル酸エステル、3個以上の水酸基を有するポリエステルと(メタ)アクリレートを反応させて得られる3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリエチレンポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0056】
前記したエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸を反応させて得られる3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する反応生成物の具体例としては、エポキシノボラック樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させて得られる3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するエポキシ(メタ)アクリレート系反応生成物などを挙げることができる。
3価以上の多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加体と(メタ)アクリル酸との反応により得られるポリ(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、前記したトリオール、テトラオール、ヘキサオールなどの多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
そのうちでも、本発明では、ポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、またはこれらのアルキレンオキシド変性体が好ましく用いられる。
【0057】
本発明の光造形用樹脂組成物は、ラジカル重合性有機化合物(B)として、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)と共に、必要に応じて、他のラジカル重合性有機化合物を含有することができる。他のラジカル重合性有機化合物を含有する場合は、その含有割合は、ラジカル重合性有機化合物(B)の全質量に基づいて、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
本発明の光造形用樹脂組成物が必要に応じて含有することのできる他のラジカル重合性有機化合物の種類は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基を1個有するモノ(メタ)アクリレート化合物、不飽和ポリエステル化合物、ポリチオール化合物などを挙げることができ、これらの他のラジカル重合性有機化合物は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。
前記したモノ(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。また、これら以外にも、イミドアクリレート化合物も用いることができ、具体例としては、N−(2−アクリロイルオキシエチル)テトラヒドロフタルイミド、N−(2−アクリロイルオキシエチル)ヘキサヒドロフタルイミドなどを挙げることができる。
【0059】
本発明の光造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物(A)を重合および/または架橋させるためのカチオン重合開始剤(C)として、下記の一般式(II);
【0060】
【化17】


で表されるアンチモンの芳香族スルホニウム化合物(II)[以下「アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)」という]を含有する。
アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)は、式:[S+(R2a(R3b(R4c]で表されるカチオンと、式:[Sb-6]で表されるアニオンが、イオン結合した塩である。
アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)において、R2およびR3は、それぞれ独立して下記の式(i)で表されるフェニル基、式(ii)で表される塩化フェニル基またはフルオロフェニル基、式(iii)で表される4−フェニルチオフェニル基或いは式(iv)で表される基である[式(ii)および(iv)において、Xは塩素原子またはフッ素原子を示す]。
【0061】
【化18】


アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)では、R2とR3は同じであっても、または異なっていてもよい。
また、アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)において、R4は、下記の式(v)で表される4’−ジフェニルスルホニオ−4−フェニルチオフェニル基である。
【0062】
【化19】

【0063】
アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)において、aおよびbはいずれも0〜3の整数、cは0または1であり、aとbとcの合計は3である。そのため、芳香族スルホニウム化合物(II)では、aとbの合計が3または2、cが0または1である。
【0064】
一般式(II)において、mは、1+cと同じ数である。
一般式(II)において、cが0であって、アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)のカチオンがR4[上記の式(v)で表される基]を持たない場合は、mは1である。
また、一般式(II)においてcが1であってアンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)のカチオンがR4[上記の式(v)で表される基]を1個有する場合は、式:[S+(R2a(R3b(R4c]で表されるカチオンは2価のカチオンであり、当該2価のカチオンに、2個のアニオン:[Sb-6]がイオン結合している(m=2)。
【0065】
限定されるものではないが、アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)における式:[S+(R2)a(R3b(R4c]で表されるカチオンの具体例としては、下記のカチオン(IIa1)〜(IIa5)を挙げることができる。
【0066】
【化20】

【0067】
そして、本発明で好ましく用いられるアンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)の具体例としては、下記の式(II−1)〜(II−3)で表される化合物、またはそれらの混合物などを挙げることができる。
【0068】
【化21】

【0069】
アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)の具体例としては、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4,4’−ビス(ジフェニルスルフォニオ)フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、4,4’−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルフォニオ]フェニルスルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、4−[4’−(ベンゾイル)フェニルチオ]フェニル−ジ−(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−(2−クロロ−4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニル−ジ−(4−フルオロフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネートなどのトリアリールスルホニウム塩やこれらの混合物が挙げられる。市販されている商品としては、ダウ社製「UVI−6974」、サンアプロ社製「CPI−101A」、ADEKA社製「SP−172」などが挙げられる。
本発明では、前記したアンチモン芳香族スルホニウム化合物の1種または2種以上を用いることができる。
【0070】
本発明の光造形用樹脂組成物では、ラジカル重合性有機化合物(B)を重合および/または架橋させるための活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(D)[以下「ラジカル重合開始剤(D)」または「ラジカル重合開始剤」という]として、活性エネルギー線を照射したときにラジカル重合性有機化合物のラジカル重合を開始させ得る重合開始剤のいずれもが使用でき、例えば、ベンジルまたはそのジアルキルアセタール系化合物、ベンゾイル化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインまたはそのアルキルエーテル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などを挙げることができる。
具体的には、ベンジルまたはそのジアルキルアセタール系化合物としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジル−β−メトキシエチルアセタールなどを挙げることができる。ベンゾイル化合物としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどを挙げることができる。
また、アセトフェノン系化合物としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシメチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4’−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−アジドベンザルアセトフェノンなどを挙げることができる。
【0071】
また、ベンゾイン系化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインノルマルブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどを挙げることができる。
また、ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラースケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノンなどを挙げることができる。
そして、チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどを挙げることができる。
本発明では、1種または2種以上のラジカル重合開始剤(D)を所望の性能に応じて配合して使用することができる。
【0072】
本発明の光造形用樹脂組成物においては、造形速度、硬化精度などの点から、カチオン重合性有機化合物(A):ラジカル重合性有機化合物(B)の含有割合が30:70〜90:10(質量比)であることが好ましく、40:60〜85:15(質量比)であることがより好ましい。また、本発明の光造形用樹脂組成物は、アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)[カチオン重合開始剤(C)]をカチオン重合性有機化合物(A)の質量に基づいて0.1〜10質量%、特に1〜5質量%の割合で含有し、ラジカル重合開始剤(D)をラジカル重合性有機化合物(B)の質量に基づいて0.1〜20質量%、特に1〜10質量%の割合で含有していることが好ましい。
【0073】
本発明の光造形用樹脂組成物は、反応速度を向上させる目的で、必要に応じて光増感剤、例えばジブトキシアントラセンなどのジアルコキシアントラセン、チオキサントンなどをさらに含有していてもよい。
【0074】
また、本発明の光造形用樹脂組成物は、場合によりポリアルキレンエーテル系化合物を含有することができ、ポリアルキレンエーテル系化合物を含有していると、得られる立体造形物の耐衝撃性などの物性がより向上する。
ポリアルキレンエーテル系化合物としては、特に下記の一般式(IV);

A−O−(R10−O−)r−(R11−O−)s−A’ (IV)

[式中、R10およびR11は互いに異なる直鎖状または分岐状の炭素数2〜5のアルキレン基、AおよびA’はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、フェニル基を示し、rおよびsはそれぞれ独立して0または1以上の整数(但しrとsの両方が同時に0にはならない)を示す。]
で表されるポリアルキレンエーテル系化合物が好ましく用いられる。
【0075】
上記の一般式(IV)で表されるポリアルキレンエーテル系化合物[以下「ポリアルキレンエーテル系化合物(IV)」ということがある]において、rおよびsの両方が1以上の整数で且つrとsの合計が3以上である場合には、オキシアルキレン単位(アルキレンエーテル単位):−R10−O−とオキシアルキン単位(アルキレンエテール単位):−R11−O−はランダム状に結合していてもよいし、ブロック状に結合してもよいし、またはランダム結合とブロック状結合が混在していてもよい。
【0076】
上記のポリアルキレンエーテル系化合物(IV)において、R10およびR11の具体例としては、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基(テトラメチレン基)、イソブチレン基、tert−ブチレン基、直鎖状または分岐状のペンチレン基[例えば−CH2CH2CH2CH2CH2−,−CH2CH2CH(CH3)CH2−など]など]などを挙げることができる。そのうちでも、R10およびR11は、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基(テトラメチレン基)、n−ペンチレン基、式:−CH2CH2CH(CH3)CH2−で表される分岐状のペンチレン基のいずれかであることが好ましい。
【0077】
また、上記のポリアルキレンエーテル系化合物(IV)において、AおよびA’の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、アセチル基、ベンゾイル基などを挙げることができ、そのうちでもAおよびA’の少なくとも一方、特に両方が水素原子であることが好ましい。AおよびA’の少なくとも一方が水素原子であると、該ポリアルキレンエーテル系化合物を含有する光造形用樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して硬化した際に、該ポリアルキレンエーテル系化合物の両端の水酸基がエポキシ化合物やラジカル重合開始剤などと反応して、ポリアルキレンエーテル系化合物が硬化した樹脂中で結合した状態になり、耐衝撃性などの特性がより向上する。
【0078】
上記のポリアルキレンエーテル系化合物(IV)において、オキシアルキレン単位の繰り返し数を示すr及びsは、ポリアルキレンエーテル系化合物の数平均分子量が500〜10,000、特に500〜5,000の範囲内になるような数であることが好ましい。
【0079】
上記のポリアルキレンエーテル系化合物(IV)の好適な例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム共重合体、式:−CH2CH2CH(R12)CH2O−(式中R12は低級アルキル基であり、好ましくはメチルまたはエチル基)で表されるアルキル置換基を有するオキシテトラメチレン単位(アルキル置換基を有するテトラメチレンエーテル単位)が結合したポリエーテル、前記オキシテトラメチレン単位と前記した式:−CH2CH2CH(R12)CH2O−(式中R12は低級アルキル基)で表されるアルキル置換基を有するオキシテトラメチレン単位がランダムに結合したポリエーテルなどを挙げることができる。そのうちでも、数平均分子量が上記した500〜10,000の範囲にあるポリテトラメチレングリコールおよび/またはテトラメチレンエーテル単位と式:−CH2CH2CH(R12)CH2O−(式中R12は低級アルキル基)で表されるアルキル置換基を有するテトラメチレンエーテル単位がランダムに結合したポリエーテルが好ましく用いられ、その場合には、吸湿性が低くて寸法安定性や物性の安定性に優れる光造形物を得ることができる。
【0080】
本発明の光造形用樹脂組成物がポリアルキレンエーテル系化合物(IV)を含有する場合は、ポリアルキレンエーテル系化合物(IV)の含有量は、光造形用樹脂組成物の全質量に対して1〜30質量%であることが好ましく、2〜20質量%であることがより好ましい。また、前記含有量を超えない範囲で、同時に2種類以上のポリアルキレンエーテル系化合物を含有していてもよい。
【0081】
また、本発明の光造形用樹脂組成物は、必要に応じて、下記の一般式(V);

HO−R13−OH (V)

(式中、R13は、炭素数5〜8の直鎖状または分岐状アルキレン基を示す。)
で表される2官能性ヒドロキシ化合物(V)のうちの少なくとも1種を含有していてもよい。
本発明の光造形用樹脂組成物中に2官能性ヒドロキシ化合物(V)を含有させると、冬季などの乾燥時などに湿度の低い状態で長期間保存しても、水分含量が極端に低下せずに、光硬化に必要な水分(一般に0.3〜1質量%、好ましくは0.4〜0.8質量%)を安定して組成物中に保持するため、冬季などの乾燥時であっても、光造形用樹脂組成物の硬化感度を向上させるために外部から水分をわざわざ添加しなくても、高い硬化感度を維持することができる。
2官能性ヒドロキシ化合物(V)を含有する場合は、その含有量は光造形用樹脂組成物の質量に基づいて1〜10質量%、更には1〜7質量%、特に1〜5質量%であることが好ましい。
【0082】
2官能性ヒドロキシ化合物(V)の具体例としては、R13が炭素数5のアルキレン基である2官能性ヒドロキシ化合物[例えばHO−CH2CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH2CH2−OH、HO−CH2CH(CH3)CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH(CH3)CH2−OH、HO−C(CH32CH2CH2−OH、HO−CH2C(CH32CH2−OH];R2が炭素数6のアルキレン基である2官能性ヒドロキシ化合物[例えばHO−CH2CH2CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH2CH(CH3)CH2CH2CH2−OH、HO−CH2CH2CH(CH3)CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH(CH3)CH2CH2−OH、HO−CH2CH(CH3)CH(CH3)CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH(CH32CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH2CH(CH3)−OH、HO−CH(CH3)CH(CH3)CH(CH3)−OH、HO−C(CH32CH(CH3)CH2−OH、HO−C(CH32CH2CH(CH3)−OH、HO−CH2CH(CH32CH(CH3)−OH、HO−CH2CH2CH(C25)CH2−OHなど];R13が炭素数7のアルキレン基である2官能性ヒドロキシ化合物[例えばHO−CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH(CH3)CH2CH2CH2−OH、HO−CH2CH(CH3)CH(CH3)CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH(CH32CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH2CH2CH(CH3)−OH、HO−CH(CH3)CH(CH3)CH(CH3)CH2−OH、HO−C(CH32CH(CH3)CH2CH2−OH、HO−C(CH32CH2CH(CH3)CH2−OH、HO−CH2CH(CH32CH(CH3)CH2−OH、HO−CH2CH2CH(C25)CH2CH2−OHなど];R13素数8のアルキレン基である2官能性ヒドロキシ化合物[例えばHO−CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH2CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH(CH3)CH2CH2CH2CH2−OH、HO−CH2CH(CH3)CH(CH3)CH2CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH(CH32CH2CH2CH2−OH、HO−CH(CH3)CH2CH2CH(CH3)CH2CH2−OH、HO−C(CH32CH(CH3)CH2CH2CH2−OH、HO−C(CH32CH2CH(CH3)CH2CH2−OH、HO−CH2CH2CH(C25)CH2CH2CH2−OHなど]、CH3(CH25CH(OH)CH2OHなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
そのうちでも、2官能性ヒドロキシ化合物(V)としては、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオールが、入手性の点から好ましく用いられ、特にネオペンチルグリコールおよび1,6−ヘキサンジオールが、吸湿性、保湿性、反応性の点から好ましく用いられる。
【0083】
本発明の光造形用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、顔料や染料等の着色剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、充填剤(架橋ポリマー粒子、シリカ、ガラス粉、セラミックス粉、金属粉等)、改質用樹脂などの1種または2種以上を適量含有していてもよい。
【0084】
本発明の光造形用樹脂組成物を用いて光学的に立体造形を行うに当たっては、従来既知の光学的立体造形方法および装置のいずれもが使用できる。好ましく採用され得る光学的立体造形法の代表例としては、液状をなす本発明の光学的造形用樹脂組成物に所望のパターンを有する硬化層が得られるように活性エネルギー線を選択的に照射して硬化層を形成し、次いでこの硬化層に未硬化の液状光学的造形用樹脂組成物を供給し、同様に活性エネルギー光線を照射して前記の硬化層と連続した硬化層を新たに形成する積層操作を繰り返すことによって最終的に目的とする立体的造形物を得る方法を挙げることができる。
その際の活性エネルギー線としては、上述のように、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などを挙げることができる。そのうちでも、300〜400nmの波長を有する紫外線が経済的な観点から好ましく用いられ、その際の光源としては、紫外線レーザー(例えば半導体励起固体レーザー、Arレーザー、He−Cdレーザーなど)、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED(発光ダイオード)、紫外線蛍光灯などを使用することができる。
【0085】
光造形用樹脂組成物よりなる造形面に活性エネルギー線を照射して所定の形状パターンを有する各硬化樹脂層を形成するに当たっては、レーザー光などのような点状に絞られた活性エネルギー線を使用して点描または線描方式で硬化樹脂層を形成してもよいし、または液晶シャッターまたはデジタルマイクロミラーシャッター(DMD)などのような微小光シャッターを複数配列して形成した面状描画マスクを通して造形面に活性エネルギー線を面状に照射して硬化樹脂層を形成させる造形方式を採用してもよい。
【0086】
本発明の光造形用樹脂組成物は、光学的立体造形分野に幅広く用いることができ、何ら限定されるものではないが、代表的な応用分野としては、設計の途中で外観デザインを検証するための形状確認モデル、部品の機能性をチェックするための機能試験モデル、鋳型を制作するためのマスターモデル、金型を制作するためのマスターモデル、試作金型用の直接型などを挙げることできる。特に、本発明の光造形用樹脂組成物は、精密な部品などの形状確認モデルや機能試験モデルの作製に威力を発揮する。より具体的には、例えば、精密部品、電気・電子部品、家具、建築構造物、自動車用部品、各種容器類、鋳物などのモデル、母型、加工用などの用途に有効に用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。以下の例中、「部」は質量部を意味する。
また、以下の例中、光造形用樹脂組成物の粘度、吸湿率、硬化深度(Dp)、臨界硬化エネルギー(Ec)および作業硬化エネルギー(E10)の測定、並びに光造形して得られた光造形物の力学的特性[引張り特性(引張強度、引張破断伸度、引張弾性率)、曲げ特性(曲げ強度、曲げ弾性率)]、収縮率、硬さ、熱変形温度および湿度80%下での伸び率の測定または算出は、次のようにして行なった。
【0088】
(1)光造形用樹脂組成物の粘度:
光造形用樹脂組成物を25℃の恒温槽に入れて、光硬化性樹脂組成物の温度を25℃に調節した後、B型粘度計(株式会社東京計器製)を使用して測定した。
【0089】
(2)光造形用樹脂組成物の吸湿率:
以下の実施例または比較例で製造した光造形用樹脂組成物100gをビーカー(容量100ml)に入れて湿度80%に調湿したデシケーター(容量5000ml)に収容して、温度25℃で14日間静置した後、デシケーターから取り出して、光造形用樹脂組成物中に含まれる湿分(水分)(質量%)を、容量滴定式水分測定装置(三菱化学株式会社製「モデルKF−06型」)を使用して測定した。
【0090】
(3)光造形用樹脂組成物の硬化深度(Dp)、臨界硬化エネルギー(Ec)及び作業硬化エネルギー(E10):
非特許文献1に記載されている理論にしたがって測定した。具体的には、光造形用樹脂組成物よりなる造形面(液面)に、半導体励起固体レーザのレーザ光(波長355nmの紫外光、液面レーザ強度100mW)を、照射スピードを6段階変化(照射エネルギー量を6段階変化)させて照射して光硬化膜を形成させた。生成した光硬化膜を光造形用樹脂組成物液から取り出して、未硬化樹脂を取り除き、6段階のエネルギーに対応する部分の硬化膜の厚さを定圧のノギスで測定した。光硬化膜の厚さをY軸、照射エネルギー量をX軸(対数軸)としてプロットし、プロットして得られた直線の傾きから硬化深度[Dp(mm)]を求めると共に、X軸の切片を臨界硬化エネルギー[Ec(mJ/cm2)]とし、0.25mmの厚さに硬化させるのに必要な露光エネルギー量を作業硬化エネルギー[(E10/(mJ/cm2)]とした。
【0091】
(4)光造形物の引張り特性(引張強度、引張破断伸度、引張弾性率):
以下の実施例または比較例で作製した光造形物(JIS K−7113に準拠したダンベル形状の試験片)を用いて、JIS K−7113にしたがって、試験片の引張強度、引張破断伸度および引張弾性率を測定した。
【0092】
(5)光造形物の曲げ特性(曲げ強度、曲げ弾性率):
以下の実施例または比較例で作製した光造形物(JIS K−7171に準拠したバー形状の試験片)を用いて、JIS K−7171にしたがって、試験片の曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
【0093】
(6)収縮率:
光硬化させる前の光造形用樹脂組成物(液体)の比重(d0)と、光硬化して得られた光硬化物の比重(d1)から、下記の数式により収縮率を求めた。

収縮率(%)={(d1−d0)/d1}×100
【0094】
(7)光造形物の硬さ(ショアD硬度):
以下の実施例および比較例で作製した光造形物(JIS K−7113に準拠したダンベル形状の試験片)を用いて、高分子計器社製の「アスカーD型硬度計」を使用して、JIS K−6253に準拠して、デュロメーター法により試験片の硬さ(ショアD硬度)を測定した。
【0095】
(8)光造形物の熱変形温度:
以下の実施例または比較例で作製した光造形物(JIS K−7171に準拠したバー形状の試験片)を使用し、東洋精機社製「HDTテスタ6M−2」を使用して、試験片に1.81MPaの荷重を加えて、JIS K−7207(A法)に準拠して、試験片の熱変形温度を測定した。
【0096】
(9)光造形物の湿度80%下での伸び率:
以下の実施例または比較例で作製した長方形状の紐状光造形物(長さ×幅×厚さ=200mm×10mm×1mm)を、湿度80%に調湿したデシケーターに入れ、温度25℃でそのまま14日間放置した後、デシケーターから取り出して長さを測定して、デシケーターに入れる前の長さ(200mm)に対する伸び率(%)を求めた。
【0097】
《実施例1》
(1) 水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル(新日本理化株式会社製「HBE−100」)54部、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル10部、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン5部、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A−DCP」)15部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業株式会社製「NKエステルA−9530」)9部、上記の式(II−1)で表されるアンチモン芳香族スルホニウム化合物(II−1)(ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート)(サンアプロ社製「CPI−101A」)3.5部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「イルガキュア−184」、ラジカル重合開始剤)2部およびチヌビン384−2(紫外線吸収剤;チバ・スペシャリティケミカルズ社製)0.03部を室温下(25℃)によく混合して、光造形用樹脂組成物を調製した。この光造形用樹脂組成物の粘度を上記した方法で測定したところ470mPa・s(25℃)であった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物の硬化深度(Dp)、臨界硬化エネルギー(Ec)および作業硬化エネルギー(E10)を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(3) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、超高速光造形システム(ナブテスコ株式会社製「SOLIFORM500B」)を使用して、半導体レーザー(定格出力1000mW;波長355nm;スペクトラフィジックス社製「半導体励起固体レーザーBL6型)で、液面500mW、液面照射エネルギー80mJ/cm2の条件下に、スライスピッチ(積層厚み)0.10mm、1層当たりの平均造形時間2分で光学的立体造形を行って、物性測定用のJIS K−7113に準拠したダンベル形状の試験片、JIS K−7171に準拠したバー形状の試験片および長方形の紐状造形物を作製し、その物性を上記した方法で測定した。その結果を下記の表1に示す。
【0098】
《比較例1》
(1) オキセタン化合物として、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテルを用いずに、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン15部を用いた以外は、実施例1の(1)と同様にして光造形用樹脂組成物を調製し、この光造形用樹脂組成物の物性を実施例1の(2)と同様にして測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(3)と同様にして光学的立体造形を行なって、得られた立体造形物(試験片)の物性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0099】
《比較例2》
(1) オキセタン化合物として、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタンを用いずに、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル15部を用いた以外は、実施例1の(1)と同様にして光造形用樹脂組成物を調製し、この光造形用樹脂組成物の物性を実施例1の(2)と同様にして測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(3)と同様にして光学的立体造形を行なって、得られた立体造形物(試験片)の物性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0100】
《比較例3》
(1) 水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル54部の代わりに、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル50部および3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(米国 DOW Chemical社製「UVR−6105」)4部を用いた以外は、実施例1の(1)と同様にして光造形用樹脂組成物を調製し、この光造形用樹脂組成物の物性を実施例1の(2)と同様にして測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(3)と同様にして光学的立体造形を行なって、得られた立体造形物(試験片)の物性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0101】
《比較例4》
(1) 水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル54部の代わりに、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル50部および3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(米国 DOW Chemical社製「UVR−6105」)4部を用い、オキセタン化合物として、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタンを用いずに、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル15部を用いた以外は、実施例1の(1)と同様にして光造形用樹脂組成物を調製し、この光造形用樹脂組成物の物性を実施例1の(2)と同様にして測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(3)と同様にして光学的立体造形を行なって、得られた立体造形物(試験片)の物性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0102】
《比較例5》
(1) 水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル54部の代わりに、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル50部および3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(米国 DOW Chemical社製「UVR−6105」)4部を用い、オキセタン化合物として、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテルを用いずに、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン15部を用いた以外は、実施例1の(1)と同様にして光造形用樹脂組成物を調製し、この光造形用樹脂組成物の物性を実施例1の(2)と同様にして測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(3)と同様にして光学的立体造形を行なって、得られた立体造形物(試験片)の物性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0103】
《比較例6》
(1) ラジカル重合性有機化合物として、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートを用いずに、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート24部分を用いた以外は、実施例1の(1)と同様にして光造形用樹脂組成物を調製し、この光造形用樹脂組成物の物性を実施例1の(2)と同様にして測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(3)と同様にして光学的立体造形を行なって、得られた立体造形物(試験片)の物性を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。なお、この比較例6で得られた立体造形物では反りが発生し寸法精度に劣っていた。
【0104】
【表1】

【0105】
上記の表1の結果にみるように、カチオン重合開始剤としてアンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)を含有する実施例1の光造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物として、分子中にエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を含有せずに、脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)(水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル)、ポリオキセタン化合物(OXp)[ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル]およびモノオキセタン化合物(OXm)(3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン)を含有し、且つラジカル重合性有機化合物としてジ(メタ)アクリレート化合物(B1)(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート)およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)の両方を含有していることによって、光硬化感度が高くて立体造形物を生産性よく製造することができ、吸湿率が低くて(吸湿率0.6質量%)、保存安定性、取り扱い性に優れており、しかも実施例1の光造形用樹脂組成物を光硬化して得られた立体造形物は、80%の高湿度下での伸び率が0.3%と小さくて、水分および湿分の吸収が少なく、立体造形物の寸法安定性、寸法精度に優れており、更に引張強度、引張破断伸度、引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率などの力学的特性に優れていて破損しにくく耐久性に優れ、耐熱性にも優れている。
いる。
【0106】
それに対して、カチオン重合開始剤としてアンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)を含有する比較例1の光造形用樹脂組成物は、エステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を含有しておらず、脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)と共にジ(メタ)アクリレート化合物(B1)およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を含有しているが、オキセタン化合物として、モノオキセタン化合物(OXm)のみを含有し、ポリオキセタン化合物(OXp)を含有していないため、実施例1の光造形用樹脂組成物に比べて、硬化前の光造形用樹脂組成物での吸湿率が大幅に高くて保存安定性、取り扱い性に劣っており、しかも比較例1の光造形用樹脂組成物を用いて製造した造形物は、実施例1で得られた立体造形物に比べて、引張強度、引張破断伸度、引張弾性率、曲げ強度のすべてにおいて劣っている。
【0107】
また、カチオン重合開始剤としてアンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)を含有する比較例2の光造形用樹脂組成物は、エステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を含有しておらず、脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)と共にジ(メタ)アクリレート化合物(B1)およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を含有しているが、オキセタン化合物として、ポリオキセタン化合物(OXp)のみを含有し、モノオキセタン化合物(OXm)を含有していないため、硬化反応速度が遅く、しかも比較例2の光造形用樹脂組成物を光硬化して得られる立体造形物は、実施例1の光造形用樹脂組成物から得られた立体造形物に比べて、引張破断伸度および曲げ強度が大幅に低く、力学的特性に劣っている。
【0108】
また、比較例3の光造形用樹脂組成物は、脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)を含有し、且つラジカル重合性有機化合物としてジ(メタ)アクリレート化合物(B1)およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)の両方を含有しているが、エステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物をも含有しているために、光造形用樹脂組成物およびそれから得られた立体造形物の吸湿性が高く、光造形用樹脂組成物の保存安定性、立体造形物の寸法安定性および寸法精度に劣っている。しかも、比較例3の光造形用樹脂組成物から得られた立体造形物は、実施例1の光造形用樹脂組成物から得られた立体造形物に比べて、引張破断伸度、引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率が大幅に小さくて、力学的特性に劣っていて、靭性に劣り、脆く、その上熱変形温度も低く耐熱性にも劣っている。
【0109】
比較例4の光造形用樹脂組成物は、脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、ポリオキセタン化合物(OXp)、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を含有しているが、モノオキセタン化合物(OXm)を含有しておらず、その一方でエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を含有しているために、光造形用樹脂組成物およびそれから得られた立体造形物の吸湿性が高く、光造形用樹脂組成物の保存安定性、立体造形物の寸法安定性および寸法精度に劣っている。しかも、比較例4の光造形用樹脂組成物から得られた立体造形物は、実施例1の光造形用樹脂組成物から得られた立体造形物に比べて、引張強度、引張破断伸度、曲げ強度、曲げ弾性率が小さくて、力学的特性に劣っていて、靭性に劣り、脆く、更には熱変形温度も低く耐熱性にも劣っている。
【0110】
比較例5の光造形用樹脂組成物は、脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、モノオキセタン化合物(OXm)、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を含有するが、ポリオキセタン化合物(OXp)を含有しておらず、その一方でエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を含有しているために、光造形用樹脂組成物およびそれから得られた立体造形物の吸湿性が高く、光造形用樹脂組成物の保存安定性、立体造形物の寸法安定性および寸法精度に劣っている。しかも、比較例5の光造形用樹脂組成物から得られた立体造形物は、実施例1の光造形用樹脂組成物から得られた立体造形物に比べて、引張強度、引張破断伸度、引張弾性率、曲げ強度、曲げ弾性率が大幅に小さくて、力学的特性に劣っていて、靭性に劣り、脆く、更には熱変形温度も低く耐熱性にも劣っている。
【0111】
比較例6の光造形用樹脂組成物は、脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)を含有し、エステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物をも含有していないが、ラジカル重合性有機化合物としてポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)のみを含有し、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)を含有していないために、光造形用樹脂組成物から得られた立体造形物は、実施例1の光造形用樹脂組成物から得られた立体造形物に比べて、引張強度、引張破断伸度、曲げ強度が大幅に小さくて、力学的特性に劣っていて靭性に劣り、脆く、反りが発生し寸法精度に劣っていた。
【0112】
《実施例2》
(1) 水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル54部の代わりに、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(新日本理化株式会社製「DME−100」)54部を用いた以外は、実施例1の(1)と同様にして光造形用樹脂組成物を調製し、この光造形用樹脂組成物の物性を実施例1の(2)と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(3)と同様にして光学的立体造形を行なって、得られた立体造形物(試験片)の物性を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0113】
《実施例3》
(1) ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル10部の代わりに、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメトキシメチル)ベンゼン(東亞合成株式会社製「OXT−121])10部を用いた以外は、実施例2の(1)と同様にして光造形用樹脂組成物を調製し、この光造形用樹脂組成物の物性を実施例1の(2)と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(3)と同様にして光学的立体造形を行なって、得られた立体造形物(試験片)の物性を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0114】
《実施例4》
(1) 実施例2で使用したアンチモン芳香族スルホニウム化合物(II−1)(ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート)(カチオン重合開始剤)3.5部の代わりに、ジ(4−フルオロフェニル)−[(4−ベンゾイル−2−クロロフェニル)チオフェニル]スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート[上記の式(II−2)で表されるアンチモン芳香族スルホニウム化合物、ADEKA社製「SP−172」]3.5部を用いた以外は、実施例2の(1)と同様にして光造形用樹脂組成物を調製し、この光造形用樹脂組成物の物性を実施例1の(2)と同様にして測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(3)と同様にして光学的立体造形を行なって、得られた立体造形物(試験片)の物性を測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0115】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0116】
アンチモン芳香族スルホニウム化合物(II)を光カチオン重合開始剤として含有する本発明の光造形用樹脂組成物は、エステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を含有していないにも拘わらず、光硬化感度が高く、短縮された造形時間で目的とする立体造形物を生産性よく製造することができ、しかもエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を含有していないことにより水分および湿分の吸収が小さく、保存安定性に優れ、本発明の光造形用樹脂組成物を用いて得られる立体造形物は、その低い吸湿率によって寸法安定性に優れ、更に靭性、耐久性があり、その他の力学的特性、耐水性、耐湿性、耐熱性などにも優れている。
そのため、本発明の光造形用樹脂組成物を用いて、精密部品、電気・電子部品、家具、建築構造物、自動車用部品、各種容器類、鋳物、金型、母型などのためのモデルや加工用モデル、複雑な熱媒回路の設計用の部品、複雑な構造の熱媒挙動の解析企画用の部品、その他の複雑な形状や構造を有する各種の立体造形物を、高い造形速度および寸法精度で、安全に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) カチオン重合性有機化合物(A)、ラジカル重合性有機化合物(B)、活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤(C)および活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(D)を含有する光学的立体造形用樹脂組成物であって;
(ii) カチオン重合性有機化合物(A)として、
・下記の一般式(I);
【化1】


(式中、R1は、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、シクロヘキサンジメタノール残基またはトリシクロデカンジメタノール残基を示す。)
で表される脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I);
・オキセタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物(OXp);および、
・オキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物(OXm);
を含有し;
(iii) ラジカル重合性有機化合物(B)として、
・(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有するジ(メタ)アクリレート化合物(B1);および、
・(メタ)アクリロイルオキシ基を3個以上有するポリ(メタ)アクリレート化合物(B2);
を含有し;
(iv) 活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤(C)が、下記の一般式(II);
【化2】


[上記の式(II)中、R2およびR3はそれぞれ独立して下記の式(i)〜(iv);
【化3】


{式(ii)および式(iv)中、Xは塩素原子またはフッ素原子を示す}
で表される基のいずれかであり、R4は下記の式(v);
【化4】


で表される基であり、aは0〜3の整数、bは0〜3の整数およびcは0または1であって、aとbとcの合計が3であり、mは1+cと同じ数である。]
で表されるアンチモンの芳香族スルホニウム化合物(II)であり;且つ、
(v) 分子中にエステルカルボニル基を有するカチオン重合性有機化合物を実質的に含有しない;
ことを特徴とする光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項2】
カチオン重合性有機化合物(A):ラジカル重合性有機化合物(B)の含有割合が30:70〜90:10の質量比であり、アンチモンの芳香族スルホニウム化合物(II)をカチオン重合性有機化合物(A)の質量に基づいて0.1〜10質量%の割合で含有し、活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(D)をラジカル重合性有機化合物(B)の質量に基づいて0.1〜20質量%の割合で含有する請求項1に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項3】
カチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づいて、脂環式ジグリシジルエーテル合物(I)を20〜95質量%の割合で含有する請求項1または2に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項4】
カチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づいて、ポリオキセタン化合物(OXp)を5〜50質量%およびモノオキセタン化合物(OXm)を2〜40質量%の割合で含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項5】
カチオン重合性有機化合物(A)の全質量に基づく脂環式ジグリシジルエーテル化合物(I)、ポリオキセタン化合物(OXp)およびモノオキセタン化合物(OXm)の合計含有割合が40〜100質量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項6】
ラジカル重合性有機化合物(B)の全質量に基づいて、ジ(メタ)アクリレート化合物(B1)を20〜60質量%およびポリ(メタ)アクリレート化合物(B2)を30〜70質量%の割合で含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項7】
ポリオキセタン化合物(OXp)が、下記の一般式(III−1);
【化5】


(式中、2個のR5は互いに同じかまたは異なる炭素数1〜5のアルキル基、R6は芳香環を有しているかまたは有していない2価の有機基、pは0または1を示す。)
で表されるジオキセタン化合物である請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項8】
モノオキセタン化合物(OXm)が、下記の一般式(III−2a)で表されるモノオキセタン化合物(III−2a)および下記の一般式(III−2b)で表されるモノオキセタン化合物(III−2b)から選ばれる少なくとも1種のモノオキセタン化合物である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【化6】


(式中、R7およびR8は炭素数1〜5のアルキル基、R9はエーテル結合を有していてもよい炭素数2〜10のアルキレン基、qは1〜6の整数を示す。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形物を製造する方法。

【公開番号】特開2009−203306(P2009−203306A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45807(P2008−45807)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(391064429)シーメット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】