説明

光学素子モジュール

【課題】光学素子モジュールを構成する筐体における熱応力が、筐体内部に収容する光学素子に与える影響を低減することが可能な光学素子モジュールを提供する。
【解決手段】電気光学効果を有する基板を用いた光学素子3を内蔵する光学素子モジュールにおいて、該モジュールを構成する筐体は、本体部1と蓋部2から構成され、該本体部の側壁で、該本体部と該蓋部との接合位置から離れた位置に、側壁の厚みを薄くする溝11を形成することを特徴とする。好ましくは、該溝11は、該本体部1の側壁に沿って1周する連続した溝を少なくとも有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子モジュールに関し、特に、光変調器や光スイッチなどの電気光学効果を有する基板を用いた光学素子を内蔵する光学素子モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野においては、光変調器や光スイッチなどのように、電気光学効果を有する基板に光導波路や、該光導波路を伝搬する光波を制御する制御電極を設けた光学素子が多用されている。そして、これらの光学素子は、長期に渡り安定した動作を確保するため、金属の筐体内に収容され、かつ気密封止された状態で光学素子モジュールを構成している。
【0003】
ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板は、応力が加わると基板の屈折率が変化し、光学素子の駆動時のバイアス点(動作点)が変化するなど、光学素子の安定駆動の支障となる。このため、光学素子を収容するパッケージの筐体は、光学素子を構成するLN材料などと、線膨張係数が近いステンレス材料などが使用されている。
【0004】
図1は、光学素子を収容する光学素子モジュールの筐体を示す外観であり、本体部1と蓋部2から構成される。通常、本体部の側面には、光波を入出力する光ファイバや光学素子を駆動する電極端子が設けられている。本体部1と蓋部2とは、シーム溶接などにより、気密封止される。シーム溶接に際しては筐体は、局所的に1000℃程度に加熱されるため、筐体が熱膨張した状態で本体部1と蓋部2とを接合し、その接合状態を保ちながら筐体を常温にまで冷却すると、筐体の内部に内部応力が発生する。
【0005】
図2は、図1の矢印A−A’における断面図を示しており、本体部1の内部には、光学素子3が所定位置に設置固定されている。上述したような内部応力が筐体に発生すると、該応力の一部が光学素子を構成する基板にも影響を及ぼし、光学素子の駆動状態が変化するなど光学特性が変動する原因となる。
【0006】
しかも、図2に示すように、本体部1の側壁の厚みW1及びW2が異なるなど、本体部や蓋部の形状が非対称形状となる場合(例えば、図2において左右対称とならない場合)には、シーム溶接や光学素子モジュールの動作環境の温度変化により、筐体が歪み易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−108162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した問題を解消し、光学素子モジュールを構成する筐体における熱応力が、筐体内部に収容する光学素子に与える影響を低減することが可能な光学素子モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有する基板を用いた光学素子を内蔵する光学素子モジュールにおいて、該モジュールを構成する筐体は、本体部と蓋部から構成され、該本体部の側壁で、該本体部と該蓋部との接合位置から離れた位置に、側壁の厚みを薄くする溝を形成することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光学素子モジュールにおいて、該溝は、該側壁の外面又は内面のいずれかに形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光学素子モジュールにおいて、該溝は、該本体部の側壁に沿って1周する連続した溝を少なくとも有することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の光学素子モジュールにおいて、該筐体はステンレス材料で構成され、該本体部と該蓋部とはシーム溶接されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有する基板を用いた光学素子を内蔵する光学素子モジュールにおいて、該モジュールを構成する筐体は、本体部と蓋部から構成され、該本体部の側壁で、該本体部と該蓋部との接合位置から離れた位置に、側壁の厚みを薄くする溝を形成するため、本体部と蓋部との接合により発生した熱応力が該溝で緩和され、本体部の内部に設置された光学素子への該熱応力の影響を低減させることが可能となる。
【0014】
請求項2に係る発明により、溝は、側壁の外面又は内面のいずれかに形成されているため、利用者の目的に応じて光学素子モジュールに熱応力を緩和する手段を任意に形成することが可能となる。例えば、外観に凹凸を形成しない場合には、側壁の内面に溝を形成することが好ましく、加工の容易性を確保するためには、側壁の外面に溝を形成することが好ましい。
【0015】
請求項3に係る発明により、溝は、本体部の側壁に沿って1周する連続した溝を少なくとも有するため、本体部と蓋部との接合により発生した熱応力が、本体部の如何なる側壁から本体部の内底面に伝達しても、その途中には必ず溝が形成されているため、該溝により熱応力を緩和し、本体部の内底面に設置される光学素子へ応力が伝達されるのを低減することが可能となる。
【0016】
請求項4に係る発明により、筐体はステンレス材料で構成され、本体部と蓋部とはシーム溶接されているため、シーム溶接で生じた熱応力も本発明の構成で効果的に緩和され、筐体に内蔵された光学素子へのシーム溶接による熱応力の影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】光学素子モジュールの筐体を示す斜視図である。
【図2】従来例を説明する、図1の矢印A−A’における断面図である。
【図3】本発明の光学素子モジュールの第1の実施例を説明する、図1の矢印A−A'における断面図である。
【図4】本発明の光学素子モジュールの第2の実施例を説明する、図1の矢印A−A'における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の光学素子モジュールについて、以下に詳細に説明する。
本発明の光学素子モジュールは、図3の第1の実施例で示すように、電気光学効果を有する基板を用いた光学素子3を内蔵する光学素子モジュールにおいて、該モジュールを構成する筐体は、本体部1と蓋部2から構成され、該本体部の側壁で、該本体部と該蓋部との接合位置から離れた位置に、側壁の厚みを薄くする溝11を形成することを特徴とする。
【0019】
この溝11により、本体部1と蓋部2との接合により発生した熱応力(内部の機械的歪)が該溝11で緩和され、本体部1の内部に設置された光学素子3への該熱応力の影響を低減させることが可能となる。
【0020】
光学素子に利用される電気光学効果を有する基板としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)、及び石英系の材料などが利用することが可能である。本発明の光学素子には、光変調器や光スイッチなど種々の光学素子が対象となるが、これらの光学素子は、一般的には、電気光学効果を有する基板に光導波路が形成され、さらに、該光導波路を伝搬する光波を制御するための制御電極(信号電極や接地電極)が基板表面に形成されている。
【0021】
本発明の光学素子モジュールに利用される溝とは、本体部1と蓋部2との接合部から光学素子が配置固定される場所までの間に、少なくとも本体部1の壁面が他よりも薄くなっている部分を設けることを意味している。このような薄い部分では応力が集中し、変形し易く、結果として、熱応力の伝達を低減させることが可能となる。
【0022】
図4は、本発明の光学素子モジュールの第2の実施例であり、本体部1の側壁の外面に溝12を形成している。溝は、図3の第1の実施例のように、本体部1の側壁の内面に形成しても良く、いずれを選択するかは、利用者の使用目的によって決定される。例えば、外観に凹凸を形成しないようにするためには、側壁の内面に溝11を形成することが好ましい。また、溝の加工の容易に行うためには、側壁の外面に溝12を形成することが好ましい。
【0023】
また、図3又は図4に示す溝は、側壁の一部に設けても効果があるが、可能ならば本体の側壁に沿って1周する連続した溝を少なくとも有することが好ましい。この構成により、本体部1と蓋部2との接合により発生した熱応力が、本体部の如何なる側壁から本体部1の内底面に伝達しても、その途中には必ず溝が形成されているため、該溝により熱応力を緩和できる。そのため、本体部1の内底面に設置される光学素子3へ応力が伝達されるのを確実に低減することが可能となる。
【0024】
図3又は図4に示した溝の数は、1つに限らず、複数本形成したり、1本の溝を螺旋状に形成することも可能である。当然、溝の数が多いほど、筐体の機械的強度は低下するが応力を緩和する特性はより改善する。
【0025】
特に、モジュールを構成する筐体はステンレス材料で構成し、光学素子を構成する基板と線膨張係数を近付けると共に、本体部1と蓋部2とをシーム溶接して、局所的に1000℃程度に高温状態としても、本発明のように溝11,12を本体部1に形成するだけで、熱応力が光学素子3に伝達されることを効果的に抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、光学素子モジュールを構成する筐体における熱応力が、筐体内部に収容する光学素子に与える影響を低減することが可能な光学素子モジュールを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 本体部
2 蓋部
3 光学素子
11,12 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板を用いた光学素子を内蔵する光学素子モジュールにおいて、
該モジュールを構成する筐体は、本体部と蓋部から構成され、
該本体部の側壁で、該本体部と該蓋部との接合位置から離れた位置に、側壁の厚みを薄くする溝を形成することを特徴とする光学素子モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子モジュールにおいて、該溝は、該側壁の外面又は内面のいずれかに形成されていることを特徴とする光学素子モジュール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学素子モジュールにおいて、該溝は、該本体部の側壁に沿って1周する連続した溝を少なくとも有することを特徴とする光学素子モジュール。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光学素子モジュールにおいて、該筐体はステンレス材料で構成され、該本体部と該蓋部とはシーム溶接されていることを特徴とする光学素子モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−276849(P2010−276849A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129177(P2009−129177)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】