説明

光学素子及びその製造方法

【課題】結晶の主面に対して略平行に配向したラメラ状のミクロドメインをミクロ相分離構造に含む高分子フォトニック結晶を備え、従来に比して光学特性を向上させることが可能な光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る光学素子の製造方法は、互いに対向する板状部材30の主面30a及び板状部材40の主面40aの間に、ブロック共重合体と光重合開始剤と光重合性モノマーとを含有するポリマー溶液60を介在させた状態で、主面30a又は主面40aの少なくとも一方に略平行な互いに異なる方向に板状部材30,40をポリマー溶液60に対して相対移動させて、ランダムずり流動場をポリマー溶液60に対して印加する配向性付与工程と、ポリマー溶液60に光を照射して光重合性モノマーを重合させ、高分子フォトニック結晶を得る光重合工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及びその製造方法に関する。特に、高分子フォトニック結晶を備えた光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶は、屈折率の互いに異なる物質が光の波長程度の大きさのユニットで周期的に配列した構造体であり、屈折率周期構造に起因して特定波長の光を完全に遮断するバンドギャップ(フォトニックバンドギャップ)が発生することが知られている。このような屈折率周期構造を調整することで、特定波長の光の透過性を制御可能であることが知られている。
【0003】
また、1次元フォトニック結晶、すなわち屈折率の異なる物質の多層膜は、その多層構造の周期に応じて特定波長を反射し、透過しないというノッチフィルタとして利用することが可能である。このような多層膜は、従来から蒸着法やスパッタリング法によって作製され、広く使用されている。
【0004】
蒸着法やスパッタリング法の場合、大型の真空装置を用いる必要があり作業も煩雑であるのに対し、多層膜をより簡便に作製可能な方法として、屈折率の異なる高分子材料をスピンコート法によって積層する方法が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1の製造方法では、多数回にわたってスピンコートを行う必要があり、充分に簡便な方法とは言えない。
【0005】
前記トップダウン法により作製されるフォトニック結晶に対して、近年、ブロック共重合体が自己組織化することで形成されるミクロ相分離構造を屈折率周期構造として有するフォトニック結晶が知られている(例えば、下記特許文献2参照)。この場合、大型の装置(例えば蒸着装置、パターン露光装置、スパッタリング装置)を用いる必要のあるトップダウン加工により誘電体多層膜を形成する場合と比較して、ブロック共重合体の自己組織化を利用することによりフォトニック結晶を非常に低コストに作製可能である。
【0006】
しかしながら、光学素子の光学特性(例えば透過特性)を向上させるためには、ミクロ相分離構造におけるミクロドメインの配向性を制御することが不可欠であるが、従来のミクロ相分離構造の多くは多結晶体であり、屈折率周期構造は無配向である。また、フォトニック結晶が溶媒を多量に含むゲル状であるため構造安定性に問題がある特許文献2の製造方法のように、ミクロドメインの配向制御が容易でない場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−55543号公報
【特許文献2】国際公開第2008/047514号パンフレット
【特許文献3】特開2008−55579号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature Materials 6, 957−960(2007)
【非特許文献2】Polymer Journal 37,12,900−905(2005)
【非特許文献3】Macromolecules 32、3695−3711(1999)
【非特許文献4】Current Opinion in Colloid & Interface Science 5, 342−350(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、近年、ラマン分光装置や蛍光顕微鏡等に使用される特定波長をブロックする多層膜フィルタとして、結晶の主面に対して平行に配向したラメラ状のミクロドメインをミクロ相分離構造に含む高分子フォトニック結晶を用いることが検討されており、その光学特性を向上させることが求められている。しかしながら、従来検討されているミクロ相分離構造を有するフォトニック結晶を用いた多層膜フィルタは、現在市販されている誘電体多層膜フィルタと同等の光学特性を有するには至っておらず(例えば、上記非特許文献1参照)、例えばラマン分光装置のフィルタとして使用することは困難である。
【0010】
本発明は、上記課題を解決しようとするものであり、結晶の主面に対して略平行に配向したラメラ状のミクロドメインをミクロ相分離構造に含む高分子フォトニック結晶を備え、従来に比して光学特性を向上させることが可能な光学素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここで、誘電体多層膜フィルタが用いられるラマン分光測定は、レーザー等の励起光を試料に照射することで発生した微弱なラマン散乱光を検出する測定法である。ラマン散乱光を検出する際には、フィルタによって励起光をブロックする必要がある。また、ラマン散乱光の波長は励起波長と近い場合があるため、フィルタにより励起光のみを選択的にブロックする必要がある。そのため、結晶の主面に対して平行に配向したラメラ状のミクロドメインをミクロ相分離構造に含む高分子フォトニック結晶をラマン分光測定に用いる場合、ミクロドメインの配向性が高いことが重要な課題となる。
【0012】
ラメラ状のミクロドメインを基板表面で配向制御する場合、基板表面に特別な処理を施すことなくラメラ状のミクロドメインが当該基板の主面に対して平行に配向し易いと考えられており、ラメラ状のミクロドメインを結晶の主面に対して平行に配向制御することは容易であると考えられる傾向にある。そのため、このようなラメラ状のミクロドメインの配向制御方法については近年あまり報告されておらず、ブロック共重合体を含有する溶液にずり流動場を印加することによって主面に対して平行にミクロドメインを配向制御すること等がわずかに報告されているだけである(例えば、上記特許文献3及び上記非特許文献2〜4参照)。
【0013】
しかしながら、上記非特許文献2〜4では、ずり速度がミクロドメインの配向性に与える影響について検討されているものの、フォトニック結晶として利用可能なほどミクロ相分離構造の周期構造が大きなものではなく、また、フォトニック結晶光学素子として利用するには配向性が充分ではない。
【0014】
本発明者は、上記課題解決のために鋭意検討した結果、従来のブロック共重合体のミクロ相分離構造を利用した高分子フォトニック結晶では、ミクロドメインが結晶の主面に対して充分に略平行に配向していない領域を含むことにより、このような高分子フォトニック結晶をラマン分光測定等に用いても充分な光学特性が得られないことを見出した。
【0015】
すなわち、本発明に係る光学素子は、互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する高分子フォトニック結晶を備え、高分子フォトニック結晶が、ブロック共重合体を含有すると共に、ラメラ状のミクロドメインを含むミクロ相分離構造を有し、ミクロドメインのそれぞれが、第1の主面又は第2の主面の少なくとも一方に対して略平行に配向している。
【0016】
本発明に係る光学素子では、高分子フォトニック結晶がラメラ状のミクロドメインを含むミクロ相分離構造を有しているため、ミクロドメインの配向状態に依存した光学特性(例えば透過特性)を発現できる。そして、本発明に係る光学素子では、ラメラ状のミクロドメインのそれぞれが、第1の主面又は第2の主面の少なくとも一方に対して略平行に配向している。これにより、本発明に係る光学素子では、ミクロドメインが結晶の主面に対して充分に略平行に配向していない領域を含む従来のフォトニック結晶を用いる光学素子に比して光学特性を向上させることができる。
【0017】
第1の主面又は第2の主面の少なくとも一方に略垂直な複数の断面におけるミクロドメインの平均配向度は、互いに略同一であることが好ましい。この場合、ブロック共重合体を用いた従来のフォトニック結晶の光学素子に比して光学特性を更に向上させることができる。
【0018】
下記式(1)で定義されるミクロドメインの平均配向度Pは、0.92以上であることが好ましい。この場合、ブロック共重合体を用いた従来のフォトニック結晶の光学素子に比して光学特性を更に向上させることができる。
【数1】


(式中、μは小角X線散乱測定における方位角を表し、<cosμ>は下記式(2)で定義される。)
【数2】


(式中、I(μ)は方位角μにおける散乱強度を表す。)
【0019】
高分子フォトニック結晶の透過スペクトルは、下記式(3)で定義される傾斜Gが2.0%未満である波長帯域を阻止帯域と通過帯域との間に有することが好ましい。この場合、ブロック共重合体を用いた従来のフォトニック結晶の光学素子に比して光学特性を更に向上させることができる。
【数3】


(式中、λ50は上記波長帯域において透過率50%を示す波長(nm)を表し、λは、阻止帯域及び上記波長帯域の境界の波長(nm)を表す。)
【0020】
ブロック共重合体の重量平均分子量は、8.0×10(g/mol)以上であることが好ましい。この場合、フォトニック結晶としての光学特性を発現させるために必要な周期構造を更に良好に得ることができる。
【0021】
高分子フォトニック結晶は、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の光重合性モノマーを含む組成物を重合させて得られる高分子化合物を更に含有することが好ましい。
【0022】
高分子フォトニック結晶は、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含有してもよい。
【0023】
本発明者は、ラメラ状のミクロドメインを配向制御するに際して、高分子フォトニック結晶となる溶液にランダムずり流動場を印加することで、上記特許文献3に示されるように特定の一軸方向のみにずり流動場を印加する場合と比較して、ミクロドメインを良好に配向制御することが可能であることを見出した。
【0024】
すなわち、本発明に係る光学素子の製造方法は、互いに対向する第1部材の主面及び第2部材の主面の間に、ブロック共重合体と、光重合開始剤と、当該ブロック共重合体及び光重合開始剤を可溶な光重合性モノマーとを含有する溶液を介在させた状態で、第1部材の主面又は第2部材の主面の少なくとも一方に略平行な互いに異なる方向に第1部材及び第2部材を上記溶液に対して相対移動させて、ランダムずり流動場を上記溶液に対して印加する第1工程と、第1工程の後、上記溶液に光を照射して光重合性モノマーを重合させ、ラメラ状のミクロドメインが第1部材の主面又は第2部材の主面の少なくとも一方に対して略平行に配向した高分子フォトニック結晶を得る第2工程と、を備える。
【0025】
本発明において、「ランダムずり流動場」とは、第1部材及び第2部材を溶液に対して相対移動させることで第1部材の主面又は第2部材の主面の少なくとも一方に略平行な面内において複数方向に印加されるずり流動場をいう。ランダムずり流動場は、特定の一軸方向のみに印加されるずり流動場や、特定の一軸を基準として同心円状に印加される流動場とは異なるものである。
【0026】
本発明に係る光学素子の製造方法では、第1工程において、互いに対向する第1部材の主面及び第2部材の主面の間に、ブロック共重合体と光重合開始剤と光重合性モノマーとを含有する溶液を介在させた状態で、第1部材の主面又は第2部材の主面の少なくとも一方に略平行な互いに異なる方向に第1部材及び第2部材を溶液に対して相対移動させて、ランダムずり流動場を溶液に対して印加する。これにより、ミクロ相分離構造におけるラメラ状のミクロドメインのそれぞれが、第1部材の主面又は第2部材の主面の少なくとも一方に対して略平行に配向制御される。そして、第2工程において、溶液中の光重合性モノマーを重合させることにより、第1工程で得られたミクロ相分離構造の配向状態を保持しつつミクロ相分離構造を固定化して高分子フォトニック結晶を得ることができる。本発明に係る光学素子の製造方法では、ミクロドメインのそれぞれが第1部材の主面又は第2部材の主面の少なくとも一方に対して略平行に配向制御されるため、ミクロドメインが結晶の主面に対して充分に略平行に配向していない領域を含む従来のブロック共重合体を用いたフォトニック結晶の光学素子に比して光学特性を向上させることができる。
【0027】
また、本発明に係る光学素子の製造方法では、溶液に対してランダムずり流動場を印加し、ブロック共重合体が自己組織化することでミクロ相分離構造が形成される。これにより、トップダウン加工によりフォトニック結晶を形成する場合に比して、フォトニック結晶の製造コストを大幅に低減させることができる。
【0028】
ブロック共重合体の重量平均分子量は、8.0×10(g/mol)以上であることが好ましい。この場合、フォトニック結晶としての光学特性を発現させるために必要な周期構造を更に良好に得ることができる。
【0029】
光重合性モノマーは、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
上記溶液は、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含有してもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、結晶の主面に対して略平行に配向したラメラ状のミクロドメインをミクロ相分離構造に含む高分子フォトニック結晶を備え、従来に比して光学特性を向上させることが可能な光学素子を提供することができる。また、本発明によれば、このような光学素子を簡便で安価な方法で作製可能な製造方法を提供することができる。これにより、大面積の高分子フォトニック結晶を備えた光学素子を容易に製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学素子を示す斜視図である。
【図2】屈折率周期構造と透過スペクトルの波長分布との関係を説明するための図面である。
【図3】エッジ急峻度の算出方法を説明するための透過スペクトルを示す図面である。
【図4】ピークの対称性の算出方法を説明するための透過スペクトルを示す図面である。
【図5】本発明の一実施形態に係る光学素子の製造方法の一工程を示す図面である。
【図6】本発明の他の一実施形態に係る光学素子の製造方法の一工程を示す図面である。
【図7】本発明の他の一実施形態に係る光学素子の製造方法の一工程を示す図面である。
【図8】実施例1の高分子フォトニック結晶フィルムのTEM写真である。
【図9】比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムのTEM写真である。
【図10】高分子フォトニック結晶フィルムの2次元散乱パターンを示す図面である。
【図11】高分子フォトニック結晶フィルムにおける散乱強度の方位角依存性を示す図面である。
【図12】高分子フォトニック結晶フィルムの透過スペクトルを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る光学素子及びその製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0034】
(光学素子)
図1は、本実施形態に係る光学素子を示す斜視図である。本実施形態に係る光学素子1は、例えばノッチフィルタである。光学素子1は、互いに略平行に対向する主面(第1の主面)3a及び主面(第2の主面)3bを有する高分子フォトニック結晶3を備える。高分子フォトニック結晶3は、特に限定されるものではないが、例えば円形のフィルム状を呈している。
【0035】
高分子フォトニック結晶3は、ブロック共重合体(高分子ブロック共重合体)を含有している。「ブロック共重合体」とは、2種以上のポリマー鎖(セグメント)が結合した共重合体であり、例えば、モノマーAを構造単位とする第1ポリマー鎖と、モノマーBを構造単位とする第2ポリマー鎖とがポリマー鎖の末端同士で結合した共重合体が挙げられる。
【0036】
ブロック共重合体としては、例えば、ポリスチレン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(エチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(プロピルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(イソプロピルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(ペンチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(デシルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(ドデシルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(メチルアクリレート)、ポリスチレン−b−ポリ(tert−ブチルアクリレート)、ポリスチレン−b−ポリブタジエン、ポリスチレン−b−ポリイソプレン、ポリスチレン−b−ポリジメチルシロキサン、ポリブタジエン−b−ポリジメチルシロキサン、ポリイソプレン−b−ポリジメチルシロキサン、ポリビニルピリジン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリビニルピリジン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリビニルピリジン−b−ポリブタジエン、ポリビニルピリジン−b−イソプレン、ポリブタジエン−b−ポリビニルナフタレン、ポリビニルナフタレン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリビニルナフタレン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)等の2元ブロック共重合体、ポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリブタジエン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリイソプレン−b−ポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン−b−ポリイソプレン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)等の3元ブロック共重合体等が挙げられる。なお、ブロック共重合体は、ポリマー鎖間で屈折率が異なれば上記に限られるものではない。
【0037】
ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)の下限値は、フォトニック結晶としての光学特性を発現させるために必要な周期構造が良好に得られる観点から、8.0×10(g/mol)以上が好ましく、9.0×10(g/mol)以上がより好ましく、1.0×10(g/mol)以上が更に好ましい。上記重量平均分子量の上限値は、フォトニック結晶としての光学特性を発現させるために必要な周期構造が更に良好に得られる観点から、3.0×10(g/mol)以下が好ましく、2.5×10(g/mol)以下がより好ましく、2.0×10(g/mol)以下が更に好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算の重量平均分子量として得ることができる。
【0038】
高分子フォトニック結晶3は、ミクロ相分離構造5を有している。「ミクロ相分離構造」とは、ミクロドメインが周期的に配置された集合体をいう。「ミクロドメイン」とは、ブロック共重合体の異種のポリマー鎖が互いに混じり合うことなく相分離して形成される相をいう。ミクロ相分離構造5は、ラメラ状のミクロドメイン7aと、ラメラ状のミクロドメイン7bとが交互に積層されて形成された屈折率周期構造7である。ミクロドメイン7a,7bのそれぞれは、主面3a又は主面3bの少なくとも一方に対して略平行に配向しており、本実施形態では主面3a及び主面3bに対して略平行に配向している。ミクロドメイン7aは、ブロック共重合体のうちの一のポリマー鎖9aを主成分として含んでおり、ミクロドメイン7bは、ブロック共重合体のうちの他のポリマー鎖9bを主成分として含んでいる。なお、ミクロドメイン7a,7bの繰り返し周期やポリマー鎖9a,9bの配置は図1に示されるものに限定されるものではない。
【0039】
(ミクロドメインの配向度)
次に、ミクロドメインの配向度と光学特性との関係について図2を用いて説明する。屈折率が互いに異なる相が積層された屈折率周期構造体(多層膜構造体)に対して光が入射する場合、屈折率周期構造体の回折現象によって、反射光の中心波長λと構造周期dとの間にはブラッグの式として知られている下記式(4)が成り立つ。
【数4】


(式中、λは反射光の中心波長(nm)を表し、dは構造周期(nm)を表し、nはミクロドメインの屈折率、mは1以上の整数であり、θは屈折率周期構造体への入射角度を表す。)
【0040】
すなわち、入射光として白色光が屈折率周期構造体に入射する場合、屈折率周期構造体に対する入射角度θや構造周期dによって、反射光の中心波長λ、すなわち、透過しないでミクロドメインにブロックされる波長(ブロック波長)が変化する。屈折率周期構造体に対する入射角度θが90°の時(垂直入射、正反射)、反射波長は最大となる。透過スペクトルは、基本的には反射スペクトルを裏返した形となり、上記式(4)を満たす波長が透過しないことを示す。
【0041】
図2(a)に示す屈折率周期構造体11aは、構造周期dの分布が小さく且つ屈曲のない平板状のミクロドメインが互いに略平行に積層されて形成されている。屈折率周期構造体11aに対して入射光L1として白色光が入射する場合、構造周期dの分布の程度に応じて反射光や透過光L2の波長も分布を有する。例えば、図2(b)に示すように、透過光L2の透過スペクトルの波長分布は比較的小さいものとなる。
【0042】
一方、図2(c)に示す屈折率周期構造体11bは、屈曲のない平板状のミクロドメインだけでなく、屈曲したミクロドメインが積層されて形成されている。屈折率周期構造体11bに対して入射光L1として白色光が入射した場合、屈曲したミクロドメインに対しては様々な角度で光が入射することになる。屈曲したミクロドメインに対して光が入射する場合、反射光の波長が低波長側にシフトするため、透過スペクトルは低波長側にシフトし、反射光や透過光L2の波長分布は大きくなる。例えば、図2(d)に示すように、透過光L2の透過スペクトルは、波長分布が大きく、低波長側の裾が大きく広がって急峻度が低下したものとなる。
【0043】
以上のように、透過スペクトルの波長分布は、構造周期dやミクロドメインの配向の乱れの程度に応じて広がる。構造周期dが均一であっても、配向が乱れて屈曲したミクロドメインが屈折率周期構造体に含まれる場合、透過スペクトルは、高波長側では急峻であるのに対して低波長側では急峻度が低下したものとなる。但し、このように構造周期dが均一でありミクロドメインの配向が乱れることは稀であり、構造周期d及びミクロドメインの配向のいずれもが乱れる場合が多い。そのため、光学特性に劣るフィルタでは、通常、低波長側の急峻度と高波長側の急峻度とが低下した透過スペクトルとなる。急峻度が大きく低下した透過スペクトルを有するフィルタを例えばノッチフィルタとして用いると、ブロック波長と透過波長との波長差が広がってしまい、波長分解能が著しく低下することとなる。
【0044】
ミクロドメインの平均配向度は、小角X線散乱測定により評価することができる。具体的には、高分子フォトニック結晶3を主面3a又は主面3bの少なくとも一方に略垂直な方向(高分子フォトニック結晶3の厚み方向)に切断し、断面の2次元散乱パターンを小角X線散乱測定により測定する。これにより、ミクロドメインの配向状態に依存した散乱強度の方位角(配向角)依存性を得ることができる。散乱強度の方位角依存性の測定結果に基づき、2次元配向度の評価方法として広く用いられているHermans配向度を平均配向度Pとして算出することができる(例えば特開2001−91502号公報参照)。平均配向度Pは、下記式(1)により定義される。
【数5】


(式中、μは小角X線散乱測定における方位角を表し、<cosμ>は下記式(2)で定義される二乗平均を表す。)
【数6】


(式中、I(μ)は方位角μにおける散乱強度を表す。)
【0045】
ここで、方位角μは、主面3a,3bと垂直な方向が0°に設定されている。すなわち、方位角μとは、主面3a,3bに対する傾斜角度に相当する。
【0046】
平均配向度Pが1の場合、上記断面内で主面3a,3bに対してミクロドメインが完全に平行に配向したラメラ状のミクロ相分離構造を形成していることを示す。一方、平均配向度Pが0の場合、上記断面内でミクロドメインが無配向であることを示す。
【0047】
平均配向度Pは、0.92以上が好ましく、0.95以上がより好ましく、0.97以上が更に好ましい。平均配向度Pが0.92未満であると、屈曲したミクロドメインや欠陥がミクロ相分離構造に多く含まれる傾向があるため、透過スペクトルの急峻度が低下して光学特性(透過特性)が低下する傾向がある。
【0048】
更に急峻な透過スペクトルを得る観点から、主面3aから主面3bにかけてのいずれの領域においてもミクロドメイン7a,7bの配向度は互いに略同一であることが好ましい。ミクロドメイン7a,7bの配向度が低い領域が高分子フォトニック結晶3に多く含まれると、透過スペクトルの急峻度が低下して波長分布が広がる傾向がある。主面3a又は主面3bの少なくとも一方に略垂直な複数の断面におけるミクロドメイン7a,7bの平均配向度Pは、互いに略同一であることが好ましく、例えば、無作為に選択された断面が互いに略同一の平均配向度Pを与えることが好ましい。「平均配向度Pが略同一である」とは、比較対象の断面間の平均配向度Pの差が0〜0.05以内に収まることをいい、例えばミクロドメインの厚さ、ミクロドメインの主面3aあるいは主面3bに対する角度(平行度)、ポリマー鎖の密度が比較対象の断面間で略同一であることを意味する。図2(c)のように湾曲したミクロドメインを含むなどして、ミクロドメインが結晶の主面に対して充分に略平行に配向していない領域を含む場合、選択された断面は略同一とはならない。
【0049】
高分子フォトニック結晶3の光学特性は、透過スペクトルにおけるエッジ急峻度や、ピークの対称性よって評価することができる。
【0050】
(エッジ急峻度)
高分子フォトニック結晶3の透過スペクトルには、例えば、波長512〜515nmの範囲に阻止帯域(ブロック波長帯)が現れる。この場合、高分子フォトニック結晶3の透過スペクトルは、阻止帯域と通過帯域との間に、下記式(3)で定義される傾斜G(以下、「エッジ急峻度G」という。)が2.0%未満である波長帯域(遷移帯域)を有することが好ましい。なお、「阻止帯域」とは、入射光を通過させる通過帯域に対して、入射光を遮蔽する波長帯域を意味する。阻止帯域は、立ち上がりエッジや立ち下がりエッジのいずれであってもよい。
【数7】


(式中、λ50は遷移帯域において透過率50%を示す波長(nm)を表し、λは、阻止帯域及び遷移帯域の境界の波長(nm)を表す。)
【0051】
エッジ急峻度Gは、以下の手順で算出することができる。すなわち、まず、高分子フォトニック結晶3の主面3a又は主面3bから光を入射して透過スペクトルを測定し、透過率の波長依存性を測定する。エッジ急峻度Gは、縦軸が透過率又はOD値(透過率の逆数の常用対数)のいずれの透過スペクトルを用いても同一の値を算出することができる。例えば、図3は、エッジ急峻度Gの算出方法を説明するための透過スペクトルを示す図面であり、縦軸は透過率(%)を100%で除した値を示し、横軸は波長(nm)を示している。
【0052】
次に、阻止帯域及び遷移帯域の境界の波長と、透過率50%を示す波長(図3において縦軸0.5を示す波長)とを透過スペクトルから抽出する。図3では、実線Aで示される立ち上がり波長が阻止帯域及び遷移帯域の境界の波長であり、実線Bで示される波長が透過率50%を示す波長である。そして、エッジ急峻度Gを上記式(3)より算出する。
【0053】
ところで、例えばラマン分光測定においては500cm−1付近にシグナルが観察される場合があるため、低波数側の測定限界として400cm−1程度を確保することが求められている。現在市販されているラマン分光器用のフィルタでは低波数側の測定限界として400cm−1が確保されており、エッジ急峻度も2.0%以下である。そのため、高分子フォトニック結晶3のエッジ急峻度Gは、低波数側の測定限界を充分に確保する観点から、2.0%未満が好ましく、1.5%未満がより好ましく、1.3%未満が更に好ましい。
【0054】
(ピークの対称性)
透過スペクトルにおけるピークの対称性Sは、以下の手順で算出することができる。すなわち、エッジ急峻度Gと同様に、高分子フォトニック結晶3の主面3a又は主面3bの透過スペクトルを測定し、透過率の波長依存性を測定する。ピークの対称性Sは、縦軸が透過率又はOD値のいずれのスペクトルを用いても同一の値を算出することができる。例えば、図4は、ピークの対称性の算出方法を説明するための透過スペクトルを示す図面であり、縦軸はOD値を示し、横軸は波長(nm)を示している。
【0055】
次に、透過スペクトルの波長ピークのピークトップから横軸に対して垂線Cを引く。続いて、ピークトップのOD値の1/10のOD値を有する高波長側の位置Paと、低波長側の位置Pbとを透過スペクトル上において特定し、垂線C及び位置Paの最短距離Waと、垂線C及び位置Pbの最短距離Wbとを求める。そして、対称性Sを下記式(5)より算出する。
【数8】

【0056】
対称性Sは、0.5〜2.0が好ましく、0.8〜1.5がより好ましく、1.0〜1.2が更に好ましい。対称性Sが1.0である場合、垂線Cを基準として対称なピークとなる。対称性Sが2.0を超える場合又は0.5未満である場合、構造周期dの分布が広くなり、更に、配向度が低下することが原因となり透過特性が低下する傾向がある。
【0057】
高分子フォトニック結晶3は、ブロック共重合体以外の構成成分として、ブロック共重合体及び後述する光重合開始剤を可溶な光重合性モノマーを単量体成分として含む組成物を光重合開始剤の存在下で光重合させて得られる光硬化性樹脂(高分子化合物)を含んでいる。上記光重合性モノマーとしては、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。上記光重合性モノマーとしては、単官能性モノマー又は多官能性モノマーのいずれでもよく、例えばカルボキシエチルアクリレート、イソボニルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレートなどの単官能モノマー、ジエチレングリコールアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングレコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、4,4′−ジアクリロイルオキシスチルベン、ジエチレングリコールメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性ジペンタエリトリトールヘキサアクリレートなどの多官能モノマーが該当する。上記光重合性モノマーとしては、多官能モノマーが好ましく、例えばジシクロペンタニルアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート等がより好ましい。上記光重合性モノマーは単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。光硬化性樹脂の含有量は、高分子フォトニック結晶3の全質量基準で40〜90質量%が好ましい。
【0058】
また、高分子フォトニック結晶3は、可塑剤等、他の成分を含有してもよい。可塑剤としては、例えば、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物、ポリエステル等から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。高分子フォトニック結晶3がこれらの可塑剤を含有することにより、ミクロ相分離構造の規則性を向上することができる。可塑剤の含有量は、高分子フォトニック結晶3の全質量基準で5〜50質量%が好ましい。
【0059】
高分子フォトニック結晶3の厚さの下限値は、配向制御を更に良好に行うことが可能であり更に良好な光学特性が得られる観点から、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましく、0.10mm以上が更に好ましい。高分子フォトニック結晶3の厚さの上限値は、配向制御を更に良好に行うことが可能であり更に良好な光学特性が得られる観点から、1.00mm以下が好ましく、0.80mm以下がより好ましく、0.60mm以下が更に好ましい。
【0060】
本実施形態に係る光学素子1では、高分子フォトニック結晶3がラメラ状のミクロドメイン7a,7bを含むミクロ相分離構造5を有しているため、ミクロドメイン7a,7bの配向状態に依存した光学特性(例えば偏光透過特性)を発現できる。そして、本実施形態に係る光学素子1では、ラメラ状のミクロドメイン7a,7bのそれぞれが、主面3a及び主面3bに対して略平行に配向している。これにより、本実施形態に係る光学素子1では、ミクロドメインが結晶の主面に対して充分に略平行に配向していない領域を含む従来のフォトニック結晶を用いる光学素子に比して光学特性を向上させることができる。
【0061】
(光学素子の製造方法)
本実施形態に係る光学素子1の製造方法は、例えば溶液調製工程、配向性付与工程(第1工程)、アニール工程、及び、光重合工程(第2工程)をこの順に備えている。
【0062】
溶液調製工程では、まず、上述したポリマー鎖を有するブロック共重合体を重合する。ラメラ状のミクロドメインを形成可能なブロック共重合体の重合方法としては、例えばリビングアニオン重合等が挙げられる。
【0063】
次に、ブロック共重合体及び光重合開始剤を可溶な光重合性モノマーにブロック共重合体及び光重合開始剤を溶解させて、ブロック共重合体と光重合開始剤と光重合性モノマーとを含有するポリマー溶液を調製する。ポリマー溶液には、上記可塑剤等、他の成分を含有させることができる。このようなポリマー溶液を調製した段階においてブロック共重合体は、配向制御されていない状態のミクロ相分離構造を形成している。
【0064】
ポリマー溶液中のブロック共重合体の含有量は、作製プロセスにおいて粘度を下げるために加熱する必要が無く、室温においてある程度低粘度で流動性を有するポリマー溶液とする観点から、ポリマー溶液の全質量基準で3〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、7〜15質量%が更に好ましい。ブロック共重合体の含有量が3質量%未満であると、ミクロ相分離構造を形成する際の偏析力が減少する傾向があり、ミクロ相分離構造の規則性が低下する傾向がある。ブロック共重合体の含有量が30質量%を超えると、偏析力は増大するものの、粘度が増加するため、流動場印加による配向制御が難化する傾向がある。
【0065】
光重合開始剤は、活性光線照射により活性化しうる重合開始剤である。光重合開始剤としては、活性光線照射により分子が開裂してラジカルとなり、光重合性を有するポリマー又はモノマーとラジカル重合反応を引き起こすことにより、材料を高分子量化(架橋)させてゲル化を進行させるラジカル型光重合開始剤が挙げられる。光重合開始剤としては、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン等が挙げられる。光重合開始剤としては、より具体的にはIRGACURE651(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。これらの光重合開始剤は単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。光重合開始剤の含有量は、光重合性モノマーの全質量基準で0.05〜0.5質量%であることが好ましい。
【0066】
次に、図5を用いて配向性付与工程について説明する。まず、互いに略平行に対向する平坦な主面30a,30bを有する板状部材(第1部材)30と、互いに略平行に対向する平坦な主面40a,40bを有する板状部材(第2部材)40とを準備する。板状部材30,40は、例えば円形状であり、例えば石英ガラスにより形成されている。板状部材30,40の直径は、例えば20〜100mmが好ましい。板状部材30,40の厚さは、例えば0.5〜10mmが好ましい。板状部材30,40の形状、構成材料、大きさは、互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
【0067】
続いて、円形状の開口50aを有する円環状(リング状)のスペーサ50を板状部材30の主面30a上に配置する。スペーサ50は、開口50aの中心が主面30aの中心と対向するように配置されることが好ましい。スペーサ50の外径は、例えば80mmであり、スペーサ50の厚さは、作製するフィルムの厚さに応じて調整される。
【0068】
次に、開口50a内にポリマー溶液60を展開した後、主面30aと主面40aとが互いに略平行に対向するように、ポリマー溶液60上に板状部材40を配置する。これにより、ポリマー溶液60が主面30a及び主面40aに接した状態で板状部材30及び板状部材40の間に保持される。なお、主面30aと主面40aとが互いに略平行になるように板状部材30及び板状部材40を対向配置させた後、主面30a及び主面40aの間にポリマー溶液60を注入してもよい。
【0069】
ポリマー溶液60の厚さは、配向制御を更に良好に行うことが可能であり更に良好な光学特性が得られる観点から、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましく、0.10mm以上が更に好ましい。また、ポリマー溶液60の厚さは、配向制御を更に良好に行うことが可能であり更に良好な光学特性が得られる観点から、1.00mm以下が好ましく、0.80mm以下がより好ましく、0.60mm以下が更に好ましい。
【0070】
続いて、主面30a及び主面40aの間にポリマー溶液60を介在させた状態で、主面30a又は主面40aの少なくとも一方に略平行な複数の方向に板状部材30及び板状部材40を互いに異なる方向にポリマー溶液60に対して相対移動させて、主面30a又は主面40aの少なくとも一方に略平行なランダムずり流動場をポリマー溶液60に印加する。例えば、図5に示すように、主面30a,40aに対して略平行に板状部材30及び板状部材40を振動運動(往復運動)させつつ回転運動させる。
【0071】
板状部材30及び板状部材40は、同一振動数で互いに逆方向に単振動させることが好ましく、例えば、板状部材30が方向D1に移動する際に、板状部材40を方向D1とは反対の方向D2に移動させる。また、板状部材30及び板状部材40は、互いに逆方向に同一の回転速度で回転運動させることが好ましく、例えば、主面30bの中心点P1を通過する軸A1を基準として板状部材30を方向R1に同心円状に回転させると共に、主面40bの中心点P2を通過する軸A2を基準として板状部材40を方向R1とは反対の方向R2に同心円状に回転させる。
【0072】
ポリマー溶液60には、主面30a,40aと略平行な面内方向に、板状部材30,40の振動運動によって生じるずり流動場と、板状部材30,40の回転運動によって生じるずり流動場が印加される。これにより、主面30a,40aと略平行な面内の複数の方向にずり流動場がポリマー溶液60に印加される、すなわちランダムずり流動場が印加される。これにより、ポリマー溶液60中のラメラ状のミクロドメイン7a,7bのそれぞれが主面30a,40aに対して略平行に配向したミクロ相分離構造が形成される。
【0073】
ランダムずり流動場は、ポリマー溶液60内の主面30a,40a近傍の部分だけでなく、ポリマー溶液60の厚み方向の中央の領域においても印加される。ポリマー溶液60内に印加されるランダム流動場の大きさは、板状部材30,40の運動速度や運動時間により適宜調整することができる。
【0074】
ポリマー溶液60にランダムずり流動場を印加する方法は、図5に示す方法の他、図6,7に示す方法が挙げられる。図6,7は、板状部材40を主面40aに略平行な面内において振動運動や定常運動させる方法を例示している。ここで、「定常運動」とは、一定の速度で所定の運動が繰り返し行われる運動を意味し、例えば、後述する回転運動、旋回運動、遊星運動が挙げられる。なお、図6,7では、便宜上、板状部材40以外の部材の図示を省略している。図7の符号70は、板状部材40の回転運動の有無を明示するために記載したものであり、実際に表示されているものではない。
【0075】
ポリマー溶液60にランダムずり流動場を印加する方法としては、下記方法(a)〜(e)が挙げられる。
(a)「回転運動(自転運動)を伴わない複数方向への振動運動」:板状部材40を一方向に振動運動させた後、他方向に振動運動させる方法(図6(a))。
(b)「回転運動(自転運動)を伴う振動運動」:主面40bの中心点P2を通過する軸A2を基準として板状部材40を回転運動させつつ、一軸方向に振動運動させる方法(図5,図6(b))。
(c)主面40bの中心点P2を通過する軸A2を基準として板状部材40を回転運動させる前又は後に、一軸方向に振動運動させる方法。
(d)「旋回運動」:主面40bの中心点P2とは異なる基準点P3を通過し主面40bに垂直な基準軸の周りに板状部材40を旋回させる方法。
(e)「遊星運動」:主面40bの中心点P2を通過する軸A2を基準として板状部材40を回転運動させつつ、基準点P3を通過する基準軸の周りに板状部材40を旋回運動させる方法。
【0076】
ランダムずり流動場の印加方法として、ポリマー溶液に対して同時に複数方向にずり流動場を印加してもよく、ポリマー溶液に対して多段階に複数方向にずり流動場を印加してもよい。同時に複数方向にずり流動場を印加する方法としては、上記方法(b)、(d)、(e)が挙げられる。多段階に複数方向にずり流動場を印加する方法としては、上記方法(a)、(c)が挙げられる。回転運動や一軸方向の振動運動をそれぞれ単独で行う場合にはランダムずり流動場を印加することはできないが、方法(c)のように、各運動を多段階に行うことによりポリマー溶液に対してランダムずり流動場を印加することができる。旋回運動では、板状部材30,40の移動に伴い経時的にずり流動場の印加方向が変化するため、ランダム方向にずり流動場が印加される。
【0077】
図7(a),(b)では、板状部材40の外側に位置する基準軸の周りに板状部材40を旋回させているが、主面40b内から基準点を選択し当該基準点を通過し主面40bに垂直な基準軸の周りに板状部材40を旋回させてもよい。図7(b)では、回転運動の回転方向と旋回運動の旋回方向とは互いに逆方向であることが好ましい。上記方法(a)〜(e)に追加して振動運動、回転運動、旋回運動、遊星運動を更に行ってもよい。
【0078】
運動方向が互いに逆向きとなるように板状部材30,40を運動させて、板状部材30,40のそれぞれからポリマー溶液60に印加されるずり流動場が互いに逆方向に印加されることが好ましい。板状部材30,40のそれぞれからポリマー溶液60に印加されるランダムずり流動場の大きさが互いに略同一となりミクロドメインの配向度が均一になり易いことから、板状部材30,40の運動方法、運動条件は、運動方向を除いて互いに略同一であることが好ましい。
【0079】
板状部材30,40の運動方法、運動条件は、ポリマー溶液60の厚さに応じて適宜選択されるが、ポリマー溶液60の厚さが0.01〜1.00mmである場合には、上記平均配向度P、エッジ急峻度G及びピークの対称性Sが上記好ましい範囲に調整され易くなる観点から以下のように調整されることが好ましい。振動運動の振動数は、0.1〜5s−1が好ましく、0.5〜2s−1がより好ましい。回転運動の回転数は、0.1〜50rpmが好ましく、1〜25rpmがより好ましい。旋回運動の回転数は、1〜100rpmが好ましく、2〜60rpmがより好ましい。ポリマー溶液60の温度は室温(25℃)が好ましく、流動場の印加時間は5〜120分が好ましい。
【0080】
アニール工程では、配向性付与工程においてミクロドメインが配向制御されたミクロ相分離構造を有するポリマー溶液をアニールして、ミクロ相分離構造の規則性を向上させる。アニール温度としては、15〜100℃が好ましい。
【0081】
光重合工程では、ポリマー溶液に活性光線(例えば紫外線)を照射することにより、ポリマー溶液中の光重合性モノマーを重合させる。これにより、配向性付与工程において形成されたミクロ相分離構造を保持しつつ簡易な方法でミクロ相分離構造を固定化することができる。
【0082】
以上により、図1に示すようにポリマー鎖9aを主成分とするラメラ状のミクロドメイン7aと、ポリマー鎖9bを主成分とするラメラ状のミクロドメイン7bとが交互に積層されたミクロ相分離構造5を有する高分子フォトニック結晶3を備える光学素子1を得ることができる。
【0083】
本実施形態に係る光学素子1の製造方法では、配向性付与工程において、互いに対向する主面30aと主面40aとの間に、ブロック共重合体と光重合開始剤と光重合性モノマーとを含有するポリマー溶液60を介在させた状態で、主面30a及び主面40aに略平行な互いに異なる方向に板状部材30,40をポリマー溶液60に対して相対移動させて、ランダムずり流動場をポリマー溶液60に対して印加する。これにより、ミクロ相分離構造5におけるラメラ状のミクロドメインのそれぞれが、主面30a及び主面40aに対して略平行に配向制御される。
【0084】
そして、光重合工程において、ポリマー溶液60中の光重合性モノマーを重合させることにより、配向性付与工程で得られたミクロ相分離構造5の配向状態を保持しつつミクロ相分離構造5を固定化して高分子フォトニック結晶3を得ることができる。本実施形態に係る光学素子1の製造方法では、ミクロドメイン7a,7bのそれぞれが主面30a及び主面40aに対して略平行に配向制御されるため、ミクロドメインが結晶の主面に対して充分に略平行に配向していない領域を含む従来のブロック共重合体を用いたフォトニック結晶の光学素子に比して光学特性を向上させることができる。
【0085】
また、本実施形態に係る光学素子1の製造方法では、ポリマー溶液60に対してランダムずり流動場を印加し、ブロック共重合体が自己組織化することでミクロ相分離構造5が形成される。これにより、トップダウン加工によりフォトニック結晶を形成する場合と比較して、フォトニック結晶の製造コストを大幅に低減させることができる。
【0086】
本発明は上述の実施形態に限られず、様々な変形態様が可能である。例えば、光学素子としては、ラマン分光装置や蛍光顕微鏡用途のノッチフィルタ、ダイクロイックミラーの他、レーザー共振器が挙げられる。
【0087】
上述の実施形態では、板状部材30,40やスペーサ50の開口50aは円形状であるがこれに限られるものではなく、例えば矩形状であってもよい。
【0088】
上述の実施形態では、互いに対向する2つの板状部材30,40を用いているが、3つ以上の板状部材を用いてポリマー溶液60にランダムずり流動場を印加してもよい。例えば、ポリマー溶液の上に板状部材を2つ配置し、それぞれの板状部材を動かしてポリマー溶液60にランダムずり流動場を印加してもよい。
【実施例】
【0089】
以下、本発明に関して実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
<実施例1>
(フィルム作製)
まず、ブロック共重合体として、ポリスチレン−b−ポリ(tert−ブチルメタクリレート)(PS−b−P(t−BMA))(重量平均分子量1.0×10[g/mol]、PS:P(t−BMA)=38:62[vol%])を真空下リビングアニオン重合により合成した。次に、光重合性モノマーである1,6−ビス(アクリロイルオキシ)ヘキサンと、可塑剤であるフタル酸ジオクチルとを質量比70:30で含有する混合溶媒に、上記ブロック共重合体を混合物の全質量基準で15質量%となるように溶解させて混合物を得た。また、1,6−ビス(アクリロイルオキシ)ヘキサンの含有量に対して0.3質量%となるように、光重合開始剤としてIRGACURE651(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を混合物に添加してポリマー溶液を得た。
【0091】
厚さ0.3mm、開口部内径40mmのリング状スペーサを円形の石英ガラス板(直径50mm、厚さ1.0mm)の主面上に配置した後、上記ポリマー溶液をスペーサの開口部内に滴下した。続いて、上記と同様の円形の石英ガラス板をスペーサ上に配置し、ポリマー溶液を石英ガラス板で上下に挟み、円形の膜状に展開させた。
【0092】
次に、ポリマー溶液を挟んだ2つの石英ガラス板のそれぞれを主面に平行な面内において異なる方向にランダムに動かし、ポリマー溶液(室温:25℃)にランダムずり流動場を印加してミクロ相分離構造のラメラ状のミクロドメインを配向させた。2つの石英ガラス板は、互いに逆向きの旋回運動(上記方法(d)(図7(a)))によってポリマー溶液に対して相対移動させた。旋廻運動の回転数は10rpmであり、流動場の印加時間は5分であった。
【0093】
ずり流動場印加後、余分な流動が加わらないように24時間、室温でアニールして、ミクロ相分離構造の規則性を向上させた。その後、5分間紫外線をポリマー溶液に照射(1820μW/cm)してポリマー溶液を硬化させ、ミクロドメインが配向した高分子フォトニック結晶フィルムを得た。高分子フォトニック結晶フィルムの厚さは0.3mmであった。
【0094】
<比較例1>
(フィルム作製)
まず、実施例1と同様の手法によりポリマー溶液を得た後、実施例1と同様の手法によりポリマー溶液を石英ガラス板で上下に挟み、円形の膜状に展開させた。
【0095】
次に、ポリマー溶液を挟んだ2つの石英ガラス板を互いに反対方向に同心円状に回転させて、ポリマー溶液(室温:25℃)に1軸方向のずり流動場を印加してミクロ相分離構造のラメラ状のミクロドメインを配向させた。回転運動の回転数は5rpmであり、流動場の印加時間は5分であった。
【0096】
ずり流動場印加後、余分な流動が加わらないように24時間、室温でアニールして、ミクロ相分離構造の規則性を向上させた。その後、5分間紫外線をポリマー溶液に照射(1820μW/cm)してポリマー溶液を硬化させ、ミクロドメインが配向した高分子フォトニック結晶フィルムを得た。高分子フォトニック結晶フィルムの厚さは0.3mmであった。
【0097】
(TEM観察)
実施例1及び比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムを厚み方向に切断し、フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。図8は、実施例1の高分子フォトニック結晶フィルムのTEM写真である。図9は、比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムのTEM写真であり、図9(b)は図9(a)の領域Dの拡大図である。
【0098】
図8,9に示すように、実施例1及び比較例1のいずれにおいてもラメラ状のミクロドメインが形成されていることが確認された。ランダムずり流動場を印加して配向制御した実施例1の高分子フォトニック結晶フィルムでは、欠陥がなく周期構造が揃っていることが確認された。一方、図9に示すように、回転ずり流動場のみを印加して配向制御した比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムでは、欠陥が複数観察され、周期構造が乱れていることが確認された。
【0099】
(配向度評価)
実施例1及び比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムを用いて、ミクロ相分離構造(屈折率周期構造)におけるミクロドメインの配向度を大型放射光施設SPring8 ビームライン19B2の小角X線散乱測定によって評価した。フィルムを厚み方向に切断した断面に垂直にX線を入射して散乱パターンを測定した。
【0100】
図10は、高分子フォトニック結晶フィルムの2次元散乱パターンを示す図面である。図11は、高分子フォトニック結晶フィルムにおける散乱強度の方位角依存性を示す図面である。なお、図11において方位角0°は、フィルムの主面と垂直な方向(図10の子午線方向)に相当する。図10(a)及び図11(a)は、実施例1の高分子フォトニック結晶フィルムの測定結果である。図10(b)及び図11(b)は、比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムの測定結果である。図10に示されるように、実施例1の高分子フォトニック結晶フィルムは、比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムに比べて、方位角方向の乱れが少ないことが確認された。
【0101】
実施例1の高分子フォトニック結晶フィルムについて、図11(a)で示される散乱強度の方位角依存性から平均配向度Pを上記式(1)から算出したところ、0.98であった。フィルムの主面に対するラメラ状のミクロドメインの配向度が優れていることが確認された。
【0102】
比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムについて、図11(b)で示される散乱強度I(μ)の方位角μ依存性から平均配向度Pを上記式(1)から算出したところ、0.86であった。フィルムの主面に対するラメラ状のミクロドメインの配向度が十分でないことが確認された。
【0103】
(光学特性評価)
実施例1及び比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムの透過スペクトルを測定して、偏光透過特性を評価した。透過スペクトルの測定には、分光光度計U−3500((株)日立製)を用いた。
【0104】
得られた透過スペクトルを図12に示す。図12中、実線Eは実施例1の透過スペクトルであり、破線Fは比較例1の透過スペクトルである。実施例1の高分子フォトニック結晶フィルムでは、比較例1の高分子フォトニック結晶フィルムに比べて、高波長側及び低波長側のいずれにおいても急峻なピークが得られていることが確認された。実施例1の高分子フォトニック結晶フィルムでは、ミクロドメインが均一に配向していることが確認された。
【0105】
上記式(3)、(5)に基づき、実施例1の透過スペクトルにおけるピークのエッジ急峻度及び対称性を算出したところ、それぞれ1.1%及び1.1であった。実施例1では、波長選択性の高い優れた透過特性を有する高分子フォトニック結晶フィルムが作製されていることが確認された。
【0106】
同様に、比較例1の透過スペクトルにおけるピークのエッジ急峻度及び対称性を算出したところ、それぞれ2.8%及び2.5であった。回転ずり流動場のみを印加した比較例1では、充分な透過特性を有する高分子フォトニック結晶フィルムが作製されていないことが確認された。
【符号の説明】
【0107】
1…光学素子、3…高分子フォトニック結晶、3a…主面(第1の主面)、3b…主面(第2の主面)、5…ミクロ相分離構造、7a,7b…ミクロドメイン、30…板状部材(第1部材)、40…板状部材(第2部材)、30a,40a…主面、60…ポリマー溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第1の主面及び第2の主面を有する高分子フォトニック結晶を備え、
前記高分子フォトニック結晶が、ブロック共重合体を含有すると共に、ラメラ状のミクロドメインを含むミクロ相分離構造を有し、
前記ミクロドメインのそれぞれが、前記第1の主面又は前記第2の主面の少なくとも一方に対して略平行に配向している、光学素子。
【請求項2】
前記第1の主面又は前記第2の主面の少なくとも一方に略垂直な複数の断面における前記ミクロドメインの平均配向度が互いに略同一である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
下記式(1)で定義される前記ミクロドメインの平均配向度Pが0.92以上である、請求項1に記載の光学素子。
【数1】


(式中、μは小角X線散乱測定における方位角を表し、<cosμ>は下記式(2)で定義される。)
【数2】


(式中、I(μ)は前記方位角μにおける散乱強度を表す。)
【請求項4】
前記高分子フォトニック結晶の透過スペクトルが、下記式(3)で定義される傾斜Gが2.0%未満である波長帯域を阻止帯域と通過帯域との間に有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学素子。
【数3】


(式中、λ50は前記波長帯域において透過率50%を示す波長(nm)を表し、λは、前記阻止帯域及び前記波長帯域の境界の波長(nm)を表す。)
【請求項5】
前記ブロック共重合体の重量平均分子量が8.0×10以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記高分子フォトニック結晶が、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の光重合性モノマーを含む組成物を重合させて得られる高分子化合物を更に含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記高分子フォトニック結晶が、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項8】
互いに対向する第1部材の主面及び第2部材の主面の間に、ブロック共重合体と、光重合開始剤と、当該ブロック共重合体及び光重合開始剤を可溶な光重合性モノマーとを含有する溶液を介在させた状態で、前記第1部材の前記主面又は前記第2部材の前記主面の少なくとも一方に略平行な互いに異なる方向に前記第1部材及び前記第2部材を前記溶液に対して相対移動させて、ランダムずり流動場を前記溶液に対して印加する第1工程と、
前記第1工程の後、前記溶液に光を照射して前記光重合性モノマーを重合させ、ラメラ状のミクロドメインが前記第1部材の前記主面又は前記第2部材の前記主面の少なくとも一方に対して略平行に配向した高分子フォトニック結晶を得る第2工程と、を備える、光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記ブロック共重合体の重量平均分子量が8.0×10以上である、請求項8に記載の光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記光重合性モノマーが、アクリレート及びメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8又は9に記載の光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記溶液が、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、クエン酸エステル、エポキシ化合物及びポリエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含有する、請求項8〜10のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−103277(P2012−103277A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248879(P2010−248879)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】