説明

光学素子用塗料及び光学素子

【課題】屈折率1.70を超える基材に対しても十分な内面反射防止効果を有する光学素子用塗料を提供する。
【解決手段】光学素子用塗料において、屈折率が1.65以上であるエポキシ樹脂前駆体と、硬化触媒と、黒色粒子とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズやプリズムなどの光学素子用の塗料及び該塗料によって形成されうる皮膜を備えた光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズやプリズム等の光学素子を組み合わせて構成された光学系においては、各光学素子の周辺部や縁、稜部等に乱反射や散乱による迷光を生じやすい。特に結像光学系においては、迷光が画像のゴーストやフレアを起こすため、画質低下の原因の一つとなる。そこで、このような迷光による光学性能の低下を抑制するため、光学素子の周辺部や縁、稜部等に存在する比較的散乱の大きい加工面には墨汁やガラス用の黒色塗料が塗布されることが多い。
【0003】
また、最近では光学系の小型軽量化への要請から、光学素子の素材として屈折率1.70を超える材料が使用されるようになってきているが、このような材料に対しても内部反射防止性能を有する新たな塗料の提案がなされている。
【0004】
例えば特開平9−258005号公報には、カルダノール誘導体とポリイソシアネート前駆体に光吸収剤としてコールタールまたはコールタールピッチを混ぜた黒色塗料が開示されており、特開平7−82510号公報には、光吸収剤として粒子径が0.1μm以下であり、かつ屈折率が1.5以上である黒色無機微粒子を含有する黒色塗料が開示されている。
【特許文献1】特開平9−258005号公報
【特許文献2】特開平7−82510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが光吸収剤として用いられるコールタールやコールタールピッチは、光学素子の洗浄工程で使用される有機溶剤に対して耐久性が十分ではないために、色落ち等の問題を起こすことがあり、さらにピレン等の発ガン性物質を含有するため、既に一般消費者向けには販売が禁止されている。
【0006】
一方、粒子径が0.1μm以下の黒色無機微粒子は塗料中に均一に分散させることが難しく、凝集が起こりやすいという性質を有するが、粒子が凝集すると塗布作業性が悪化するだけでなく、実質的に粒子径が拡大することになり、所望の反射防止特性を得られないという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、屈折率が1.70以上の基材に対しても十分な内面反射防止効果を有する皮膜を備えた光学素子および、該皮膜を形成するのに好適な光学素子用塗料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が提供する光学素子の一つの態様は、基材と、該基材上に形成された皮膜とを有する光学素子であって、前記皮膜が屈折率1.67以上のエポキシ樹脂硬化物と黒色粒子とを含むことを特徴とする。
【0009】
また本発明が提供する光学素子用塗料の一つの態様は、屈折率が1.65以上であるエポキシ樹脂前駆体と、硬化触媒と、黒色粒子とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明が提供する光学素子の別の態様は、基材と、該基材上に形成された皮膜とを有する光学素子であって、前記被膜が、屈折率が1.65以上であるエポキシ樹脂前駆体と、硬化触媒と、黒色粒子とを含む光学素子用塗料の硬化物であることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
基材の表面に皮膜を形成することによって光学素子の内面反射が低下するのは、基材から皮膜中に滲み出した光が皮膜内部で吸収され、基材側への戻り光が減少することによる。例えば図2に示した光学素子の場合、入射角θで基材1と皮膜2の界面に入射する光6は、全反射条件下において基材1から皮膜2側に距離dだけ滲み出し、皮膜2の内部で吸収され、基材1側への戻り光が減少する。
【0012】
被膜2から基材1への戻り光を少なくするためには、皮膜2の単位光路長あたりの光吸収量を大きくするか、皮膜2中への光の滲み出し距離dを長くする必要がある。皮膜2中への滲み出し距離dは物理光学から下記(1)式によって求められる。
【0013】
d=λ/[2π(sin2θ−(n2/n121/2] (1)
ここでλは光の波長であり、θは入射角であり、n1は基材1の屈折率であり、n2は皮膜2の屈折率である。
【0014】
式(1)から、皮膜2中への滲み出し距離dを長くするには、皮膜2の屈折率n2を基材1の屈折率n1に近づければよいことが判る。すなわち基材1の屈折率が高い場合には、皮膜2の屈折率も高くすれば良い。
【0015】
これに加え、皮膜2の屈折率n2を基材1の屈折率n1に近づければ、式(2)で与えられる全反射の臨界角θTを大きくすることができる。臨界角θTが大きいほど、基材1と皮膜2の界面で全反射条件を満たす入射角範囲が狭くなる。
【0016】
sinθT=n2/n1 (2)
ここでn1は基材1の屈折率であり、n2は皮膜2の屈折率である。
【0017】
一般に、内面反射防止膜として用いられる皮膜は、基材への付着力、硬度、対擦傷性等を決めるビヒクル成分と、光吸収材とから構成されている。そして従来の内面反射防止膜においてビヒクル成分の屈折率は1.65未満であり、屈折率が1.70以上であるような高屈折率の基材に対して内面反射防止膜として用いるには不十分であった。
【0018】
なお、本明細書中において屈折率とは、特に断らない限り25℃におけるd線(587.6nm)波長の屈折率を指すものとする。
【0019】
本発明者は、ビヒクル成分を高屈折率化すれば皮膜中への光の滲み出し距離dが長くなり、さらには臨界角θTもより大きくなることから、コールタールやコールタールピッチ、凝集しやすい粒子径0.1μm以下の黒色微粒子を用いることなく、内面反射防止効果の高い皮膜を得ることができるであろうと推測した。そして種々の樹脂についてビヒクル成分としての特性を評価した結果、屈折率が1.65以上であるエポキシ樹脂前駆体と、硬化触媒と、黒色粒子とを含む塗料を基材上に塗布して硬化させることにより、屈折率1.67以上のエポキシ樹脂硬化物と黒色粒子を含む皮膜を形成することができ、かかる皮膜は屈折率1.70以上の高屈折率の基材に対しても優れた内面反射防止効果を有することを見出したのである。
[第一の実施形態]
本発明の第1の実施形態は、屈折率が1.65以上であるエポキシ樹脂前駆体と、硬化触媒と、黒色粒子とを含む光学素子用塗料ならびに、該塗料の硬化物からなる皮膜を有する光学素子に関するものである。
【0020】
第1の実施形態の光学素子用塗料に好適な屈折率1.65以上のエポキシ樹脂前駆体としては、ビス[4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル]ジスルフィド、2,5−ジ(2,3−エポキシプロピルチオ)−1,4−ジチアン、5,5’−ジ(2,3−エポキシプロピルオキシ)−1,1’−ビナフタレン、5,5’−ジ(2,3−エポキシプロピルオキシ)−1,1’−ジイルカルボジイミド等が挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上の混合物として用いることができる。
【0021】
上記エポキシ樹脂前駆体のうち、特にビス[4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル]スルフィドは、屈折率が1.67と高い上、常温では低粘度の液体であるので取り扱いやすく、さらに硫黄原子が多く含まれるにもかかわらず不快な臭いもないので、第1の実施形態のエポキシ樹脂前駆体として好適である。
【0022】
上記エポキシ樹脂前駆体の含有量は、塗料総量の15重量%以上60重量%以下、より好ましくは15重量%以上45重量%以下、さらに好ましくは20重量%以上45重量%以下である。エポキシ樹脂前駆体の含有量が60重量%を超えると、塗料の粘度が上昇して塗布作業性が低下する。一方、エポキシ樹脂前駆体の含有量が15重量%未満となると、塗料の基材への付着力や、硬度、耐擦傷性等の皮膜の特性が低下する。
【0023】
第1の実施形態の光学素子用塗料に好適な硬化触媒としては、脂肪族第三級アミン、N,N’,N’−トリアルキル環状アミジン等が挙げられる。これらの硬化触媒は上記エポキシ樹脂前駆体を室温又は加熱下、特に80℃以下の温度で硬化させることができ、硬化時の収縮率が3〜5%であるため、屈折率が1.67以上のエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。また硬化時にはアクリル系樹脂塗料でしばしば問題となる塗膜表面の酸素阻害もなく、空気中で硬化させることが可能である。
【0024】
上記脂肪族第三級アミンの具体例としては、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエタノールアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等が挙げられる。これらの脂肪族第三級アミンのうち2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールは、三官能アミンであるために反応活性が高く、添加量を抑えることができるので第1の実施形態の硬化触媒として好ましい。
【0025】
また、上記N,N’,N’−トリアルキル環状アミジンの具体例としては、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等が挙げられる。これらのN,N’,N’−トリアルキル環状アミジンのうち1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンは、塩基性が非常に高いにもかかわらず、これを添加した塗料は室温でのポットライフが長いので第1の実施形態の硬化触媒として好ましい。
【0026】
これらの硬化触媒は単独で、もしくは2種以上を混合して用いることができる。前記エポキシ樹脂前駆体に対する硬化触媒の配合量は、皮膜の物性を低下させずに適度な速度で硬化させるために、エポキシ樹脂前駆体の総量100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下とすることが好ましい。
【0027】
第1の実施形態の光学素子用塗料に好適な黒色粒子の具体例としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ニッケル、炭化シリコン、窒化シリコン、チタンブラック等が挙げられるが、これらのうちカーボンブラック及びチタンブラックは隠ぺい力が高く、分散もさせやすいので特に好適である。これらの黒色無機粒子の他に、光学素子の洗浄に用いる洗浄剤に対して十分な耐溶出性を有するものであれば、黒色有機粒子も同様に用いることができる。ここで光学素子の洗浄に用いる洗浄剤の代表的なものはイソプロピルアルコール、パーフルオロブチルメチルエーテル、臭化n−プロピル等であり、黒色無機粒子はこれらに対して十分な耐溶出性を有する。以上の黒色無機粒子及び黒色有機粒子は、それぞれ単独もしくは2種以上の混合物として用いることができる。
【0028】
上記黒色粒子の配合量は、塗料総量の3重量%以上30重量%以下が好ましく、より好ましくは5重量%以上20重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以上15重量%以下である。黒色粒子の配合量が30重量%を超えると、塗料の粘度が上昇して塗布作業性が悪化し、また黒色粒子同士が凝集しやすくなり皮膜の外観が悪化する。一方、黒色粒子の配合量が3重量%未満では、皮膜の遮光性が低下して、外部から皮膜を透過して光学素子内部に侵入する迷光が問題となる。黒色粒子の粒径は、凝集が起こりにくく、かつ皮膜の外観が損なわれない0.3μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0029】
以上のエポキシ樹脂前駆体、硬化触媒及び黒色粒子を含む塗料は、必要に応じて溶剤等で希釈しても良い。溶剤の種類はエポキシ樹脂前駆体の硬化反応を妨げないものであれば特に制限は無く、具体的にはトルエン、エチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等のアルキルベンゼン類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等のセロソルブ類、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、メチルエチルケトン、シクロペンタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のエステル類、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類を挙げることができる。これらは単独で、若しくは2種以上の混合物として用いることができる。
【0030】
さらに第1の実施形態の光学素子用塗料には、必要に応じて塗料の保存安定性や塗布作業性、その他の物性を調整するための添加剤を含有させることができる。具体的には保存安定性を調整するための顔料分散剤や色分かれ防止剤等の各種分散剤、塗布作業性の調整のためのタレ止め剤、沈降防止剤等の各種揺変剤、皮膜の物性調整のための撥水剤、スリップ剤、レべリング剤、脱泡・消泡剤等の表面調整剤、艶消剤、防錆剤、防かび剤、架橋剤、付着性向上剤等である。
【0031】
以上の各構成成分を配合して調製した塗料は、光学素子の基材表面に塗布して硬化させることにより、内面反射防止効果を有する皮膜を形成することができる。このときの塗布方法としては、通常用いられる刷毛、ローラー、スプレー等を用いる塗布方法を適用することができる。
【0032】
光学素子の基材の材質には特に制限は無く、各種の光学用ガラス及びプラスチックに適用することができるが、第1の実施形態の光学素子用塗料は、特に屈折率が1.70以上の基材を用いた場合において、顕著な効果を奏するものである。
【0033】
第1の実施形態の光学素子用塗料は、屈折率が1.65以上であるエポキシ樹脂前駆体と、硬化触媒と、黒色粒子とを含むので、光学素子の基材上に塗布して硬化させることにより、前記基材上に屈折率1.67以上のエポキシ樹脂硬化物からなる黒色皮膜を形成することができる。かかる皮膜は従来の光学素子用塗料によって形成される皮膜よりも屈折率が高いため、基材から皮膜中への光の滲み出し距離が長くなり、屈折率が1.70以上の基材を用いた場合でも滲み出し光を効率よく吸収することができる。また、皮膜の屈折率が高いことによって基材と皮膜の界面における臨界角が大きくなるため、全反射条件を満たす入射角範囲が狭くなり、内面反射率がより低減されるという効果を得ることができる。そして屈折率が1.70以上の基材に上記皮膜を内面反射防止膜として形成した光学素子は、基材が高屈折率であるとともに内面反射率が十分に低減されているので、結像光学系を構成する光学素子として用いることにより、小型・軽量でゴーストやフレアが抑制された高性能な光学系を実現することができる。
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態である光学素子用塗料は、第1の実施形態の光学素子用塗料において、さらに二官能以上の芳香族ポリチオールを含むことを特徴とするものである。
【0034】
二官能以上の芳香族ポリチオールは、エポキシ樹脂前駆体の硬化反応において硬化剤として作用する。芳香族ポリチオールは、酸無水物、脂肪族ポリアミン、脂肪族ポリアミドアミンと比較して屈折率が高く、脂肪族ポリチオールよりも臭気が少なく、塗料として配合した際のポットライフが長いという特徴を有する。このため二官能以上の芳香族ポリチオールを光学素子用塗料に配合すれば、屈折率を低下させずに作業性や硬化性を高めることができる。
【0035】
第2の実施形態において好適な芳香族ポリチオールの具体例としては、1,4−ベンゼンチオール、1,5−ジメルカプトナフタレン、4,4’−ビフェニルジチオール、4,4’−チオビスベンゼンチオール、1,3,5−トリメルカプトベンゼン等が挙げられる。これらの芳香族ポリチオールは単独で、または2種以上の混合物として用いることができる。
【0036】
上記芳香族ポリチオールの配合量は、前記エポキシ樹脂前駆体に対して重量比で0.05以上0.5以下であることが好ましく、0.07以上0.4以下であることがより好ましく、0.1以上0.3以下であることがさらに好ましい。芳香族ポリチオールの配合比が0.05よりも小さくなると80℃以下の温度における硬化性が顕著に低下し、0.5を超えると架橋密度が大きくなりすぎ硬化後の皮膜がもろくなる。
【0037】
なお、第2の実施形態における硬化触媒としては、第1の実施形態と同様のものを用いることができるが、第2の実施形態における硬化触媒の配合量は、エポキシ樹脂前駆体と芳香族ポリチオールの合計量100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下とすることが好ましい。
【0038】
上記以外の点においては、第2の実施形態の光学素子用塗料は第1の実施形態の光学素子用塗料と同様の構成を有するので、エポキシ樹脂前駆体、硬化触媒、黒色粒子等についての詳細な説明は省略する。
【0039】
以上に説明した第2の実施形態の光学素子用塗料は、第1の実施形態の光学素子用塗料と同様に、光学素子用基材の表面に塗布して硬化させることにより、優れた内面反射防止性能を有する皮膜を形成することができるものである。また、第2の実施形態の光学素子用塗料は、第1の実施形態の光学素子用塗料の組成に加え、さらに硬化剤として二官能以上の芳香族ポリチオールを含んでいるので、第1の実施形態の光学素子用塗料が有する特徴に加えて、さらに硬化性に優れるという特徴を有するものである。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例を示すものであって、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)試料の調製
エポキシ樹脂前駆体として、d線における屈折率が1.67であるビス[4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル]スルフィド(商品名MPG:住友精化製)を用いた。このエポキシ樹脂前駆体100重量部に、黒色粒子としてカーボンブラック(商品名トーカブラック#8500F:東海カーボン製)5重量部及びチタンブラック(商品名13M−C:三菱マテリアル製)5重量部を加え、さらにトルエン:2−メトキシエタノール=2:1(体積比)の混合溶剤を90重量部、艶消し剤として超微粉無定形シリカ(商品名ファインシールFM−30:トクヤマ製)を15重量部、分散剤として高分子ポリエステル酸アマイドアミン塩(商品名ディスパロンDA−7301:楠木化学製)を5重量部加え、高速自公転方式ミキサーで10分間混練した。
【0041】
次に、上記混合物に硬化触媒として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを3重量部加え、さらにトルエン:2−メトキシエタノール=2:1(体積比)の混合溶剤を45重量部加えて攪拌した。最後に200メッシュ(12.7μm)の金属網を用いて凝集粒子を除去することにより塗料Aを得た。
【0042】
また、前記艶消し剤に代えて付着性向上剤としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド5重量部を加えた他は塗料Aと同様の工程により塗料を調製し、塗料Bを得た。
【0043】
次に、以下の工程により塗料D及びEを調整した。前記ビス[4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル]スルフィド80重量部に二官能以上の芳香族ポリチオールとして4,4’−チオビスベンゼンチオールを20重量部加え、黒色粒子として前記カーボンブラック及びチタンブラックを各5重量部、前記混合溶剤を90重量部、前記超微粉無定形シリカを5重量部、前記高分子ポリエステル酸アマイドアミン塩を5重量部加え、高速自公転方式ミキサーで10分間混練した。
【0044】
上記混合物に塗料Aと同様に硬化触媒として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを3重量部、混合溶剤を45重量部加えて攪拌し、200メッシュの金属網を通して塗料Dを得た。
【0045】
一方、前記二官能以上の芳香族ポリチオールとして4,4’−チオビスベンゼンチオールに代えて1,4−ベンゼンチオールを20重量部加えた他は塗料Dと同様の工程により塗料を調製し、塗料Eを得た。
【0046】
また、塗料A〜B及びD〜Eに対する比較例として、コールタール及び染料を着色剤として含有する市販のエポキシ系塗料C(商品名GT−7:キヤノン化成製)を用意した。
【0047】
なお、ビス[4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル]スルフィドを単独で硬化させた場合の硬化物の屈折率は、d線の波長において1.71であった。
(2)皮膜の形成
図3に示すように、d線における屈折率が1.87、アッベ数が40の光学ガラスを用いて同一形状の三角プリズム1を複数個作製し、その斜面に(1)で用意した塗料A〜Eをそれぞれ塗布した。塗料を塗布したそれぞれの三角プリズム1は、塗料A及びBについては120℃で1時間、塗料Cについては120℃で40分間、塗料D及びEについては70℃で4時間加熱して塗料を硬化させ、皮膜2を形成して評価用サンプル3とした。
(3)評価
上記の方法により作製した塗料A〜Eの各評価用サンプルを、それぞれ皮膜1mgあたり1mlのイソプロピルアルコールに浸漬し、室温で15時間放置した。その結果、塗料A、B、D、Eの評価用サンプルについてはいずれもイソプロピルアルコールに着色は認められず、十分な耐溶剤性を有することが確認された。これに対して塗料Cの評価用サンプルではイソプロピルアルコールに顕著な着色が認められ、皮膜中からコールタールないし染料が溶出したものと考えられた。
【0048】
次に、図4に示す構成の分光光度計を用い、各評価用サンプルの内面反射率を測定した。図4においてモノクロメータ4から発した単色の測定光7は、評価用サンプル3の一面に入射し、評価用サンプル3の内部を透過して、皮膜2が形成された斜面に内部から入射する。そして皮膜2が形成された斜面で反射した測定光7は、再び評価用サンプル3の内部を透過し、他の一面から出射する。評価用サンプル3から出射した測定光7は積分球を備えた検出器5に入射して、その光量が測定される。
【0049】
内面反射率の基準サンプルとしては、各評価用サンプルと同一素材・同一形状の三角プリズムであって斜面に皮膜を形成していないものを用い、(評価用サンプルの反射光量)/(基準サンプルの反射光量)を評価用サンプルの内面反射率とした。
【0050】
図1は、上記の方法により測定された各評価用サンプルの内面反射率を示すグラフである。塗料A〜B及び塗料D〜Eの評価用サンプルの内面反射率は、いずれも可視波長領域全体にわたって8%以下に抑えられており、1.87という高い屈折率を有する基材に対しても優れた内面反射防止効果を有することが確認された。また、塗料D〜Eは、塗料A〜Bと比較して短波長側の領域における内面反射防止が優れており、特に塗料Dは波長486nm以下の領域において、内面反射率を3%以下に低減可能な性能を有していた。これは[4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル]スルフィド80重量部と4,4’−チオビスベンゼンチオールを20重量部から成る硬化物のアッベ数が19と小さく、この波長領域で屈折率が1.75を大きく超えていたことによるものと考えられる。
【0051】
これに対して市販の塗料Cの評価用サンプルの内面反射率は、可視領域全体にわたって塗料A〜B及びD〜Eの評価用サンプルの内面反射率よりも高く、特に短波長側において8%を超える高い値となった。
【0052】
以上の評価結果より、塗料A〜B及びD〜Eは、従来の塗料Cと比較して耐溶剤性が高く、かつ高屈折率の基材に対しても優れた内面反射防止効果を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は評価用サンプルの内面反射率を示すグラフである。
【図2】図2は光学素子の内面反射の説明図である。
【図3】図3は評価用サンプルの構成を示す概略断面図である。
【図4】図4は内面反射率の測定系を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0054】
1・・基材、2・・皮膜、3・・評価用サンプル、4・・モノクロメータ、5・・検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成された皮膜とを有する光学素子であって、前記皮膜が屈折率1.67以上のエポキシ樹脂硬化物と黒色粒子とを含むことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記基材の屈折率が1.70以上であることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂硬化物がビス[4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル]スルフィドの硬化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記黒色粒子がカーボンブラック及びチタンブラックの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
屈折率が1.65以上であるエポキシ樹脂前駆体と、硬化触媒と、黒色粒子とを含むことを特徴とする光学素子用塗料。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂前駆体がビス[4−(2,3−エポキシプロピルチオ)フェニル]スルフィドであることを特徴とする請求項5に記載の光学素子用塗料。
【請求項7】
前記硬化触媒が脂肪族第三級アミン及びN,N’,N’−トリアルキル環状アミジンの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の光学素子用塗料。
【請求項8】
前記脂肪族第三級アミンが2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールであることを特徴とする請求項7に記載の光学素子用塗料。
【請求項9】
前記N,N’,N’−トリアルキル環状アミジンが1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エンであることを特徴とする請求項7に記載の光学素子用塗料。
【請求項10】
前記黒色粒子がカーボンブラック及びチタンブラックの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項5ないし請求項9のいずれか一項に記載の光学素子用塗料。
【請求項11】
前記エポキシ樹脂前駆体の含有量が15重量%以上60重量%以下であることを特徴とする請求項5ないし請求項10のいずれか一項に記載の光学素子用塗料。
【請求項12】
前記黒色粒子の含有量が3重量%以上30重量%以下であることを特徴とする請求項5ないし請求項11のいずれか一項に記載の光学素子用塗料。
【請求項13】
二官能以上の芳香族ポリチオールをさらに含むことを特徴とする請求項5ないし請求項12のいずれか一項に記載の光学素子用塗料。
【請求項14】
前記芳香族ポリチオールが4,4’−チオビスベンゼンチオール及び1,4−ベンゼンジチオールの少なくとも一方であることを特徴とする請求項13に記載の光学素子用塗料。
【請求項15】
前記エポキシ樹脂前駆体に対する前記二官能以上の芳香族ポリチオールの重量比が0.05以上0.5以下であることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の光学素子用塗料。
【請求項16】
基材と、該基材上に形成された皮膜とを有する光学素子であって、前記被膜が請求項5ないし請求項15のいずれか一項に記載の光学素子用塗料の硬化物からなることを特徴とする光学素子。
【請求項17】
前記基材の屈折率が1.70以上であることを特徴とする請求項16に記載の光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−282488(P2009−282488A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266984(P2008−266984)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】