説明

光学素子

【課題】接合層を透過する光の透過率の低下を防止できる光学素子の提供。
【解決手段】透光性を有する第一基材11と透光性を有する第二基材12とを接合する接合層13を、プラズマ重合法により成膜されシロキサン結合を含み、結晶化度が45%以下であるSi骨格とこのSi骨格に結合する有機基からなる脱離基とを含み、エネルギーを付与して表面付近に存在する脱離基がSi骨格から脱離することにより発現した接着性を有する構成とし、波長をλ、この波長λでの接合層13の屈折率をn、定数をM(M=0,1,2,…)とすると、接合層13の厚さdを、n×d/λ={(M+1)/2}+αの式[1]と−0.1≦α≦+0.2の式[2]とから求めた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の透光性を有する基材を、接合層を介して接合してなる光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
積層波長板、偏光板、回折格子、等、複数の透光性を有する基材を接合層で接合してなる光学素子が多く用いられている。これらの光学素子は、互いに対向する2つ以上の基材が接合層を介して互いに接合されているものがある。この接合層として従来から接着剤を用いたものがあるが、接着剤の厚みが厚いことに起因して、波面収差が生じるという課題がある。
接着剤を用いて2つの基材を接合する際に生じるかかる課題を解決するために、接着剤を用いることなく基材同士を接合する技術として、特許文献1が知られている。
この特許文献1では、複数の板状をなす基板を当該基板の表面にプラズマ重合法で成膜され、活性化させた接合層を用いて、前記基板同士を接合する技術が提案されている。即ち、前記接合層は、プラズマ重合法により成膜されシロキサン結合を含み、結晶化度が45%以下であるSi骨格とこのSi骨格に結合する有機基からなる脱離基とを含み、エネルギーを付与して表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより発現した接着性を有するものである。
【0003】
特許文献2には、特許文献1において提案された接合技術を用いて、ガラス基板と偏光フィルムとを前記接合層を介して接合することにより構成された偏光板が提案されている。
特許文献3には、特許文献1において提案された接合技術を用いて、2枚の水晶基板同士が前記接合層を介して接合されてなる積層波長板が開示されている。
特許文献4には、特許文献1において提案された接合技術を用いて、多層膜からなる偏光分離膜の中間層のSiOを前記接合層の一部として利用し、最上層に第1の前記接合層を配置された第1の多層膜が形成された第1の透光性基板と、最上層に第2の前記接合層を配置された第2の多層膜が形成された第2の透光性基板と、を第1、第2の前記接合層を分子接合することにより一体化すると共に、第1の多層膜と第2の多層膜とを積層して前記偏光分離膜を構成する偏光ビームスプリッターが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4337935号公報
【特許文献2】特開2009−098465号公報
【特許文献3】特開2009−258404号公報
【特許文献4】特開2010−060770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1から特許文献4で提案されている従来の如き接合技術においては、プラズマ重合膜からなる接合層と基板との間で屈折率が異なる場合に生じる透過特性について詳細には議論されていなかった。
即ち、接合層と基板との間で屈折率が異なることに起因して、光学素子を透過する光と、前記接合層内で多重反射を引き起こした光とが干渉することによって、透過光の透過率が低下してしまうという問題が発生する。例えば、特許文献3で提案された如き積層波長板は、2枚の水晶基板をプラズマ重合膜からなる前記接合層を介して接合してなる光学素子であるが、水晶基板と前記接合層との間で屈折率が相違することに起因して、積層波長板を透過する透過光に、前記接合層と水晶基板との境界面(界面)で多重反射が引き起こされることによって損失が発生して透過率が低下することになる。
【0006】
本発明の目的は、接合層を透過する光の透過率の低下を防止することを可能とする光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[適用例1]
本適用例に係わる発明は、透光性を有する第一基材と、透光性を有する第二基材と、前記第一基材と前記第二基材とを接合するプラズマ重合法により設けられた接合層と、を備える光学素子であって、前記接合層は、シロキサン(Si−O)結合と、結晶化度が45%以下であるSi骨格と、当該Si骨格に結合する脱離基と、を含み、前記脱離基は、有機基で構成され、前記接合層は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したとき、前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより発現した接着性を有するものであり、前記接合層の厚みをd、透過する光の波長をλ、この波長λにおける前記接合層の屈折率をn、としたとき、
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.2 …[2]
但し、Mは自然数
を満足することを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、透過する光の波長λ、この波長λでの屈折率n及び接合層の厚みdに一定の関係があることに着目して、式[1]及び式[2]が導かれたものである。定数Mは使用される波長λの領域や、その領域での透過率のピークの数によって設定される。例えば、波長λが相違すると、透過率のピークの回数が相違し、この回数に応じて設定される定数Mの数も相違する。
そのため、本適用例では、波長λに応じた定数Mを設定し、この定数M、波長λ、屈折率nを式[1]に代入し、さらに、式[2]との関係で接合層の厚みdの範囲を求めることにより、使用する波長に応じて透過率が高いものとなる。しかも、プラズマ重合法により接合層が形成されているので、耐光性を有することになり、長寿命化に好適な光学素子を提供することができる。
【0008】
[適用例2]
本適用例に係わる発明は、前記第一基材と前記第二基材は、複屈折性を有することを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、複屈折性を有する材料を基板に用いることで、波長板、偏光板、回折格子等の光学素子であっても、透過率の高いものにすることができる。
【0009】
[適用例3]
本適用例に係わる発明は、前記第一基材と前記第二基材とは、それぞれ水晶からなることを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、第一基材と第二基材とが比較的入手可能な水晶から構成されているから、サファイヤ等の複屈折性を有する材料に比べて安価に入手できる。
【0010】
[適用例4]
本適用例に係わる発明は、前記波長λを405nm帯とし、前記屈折率nを1.5269としたとき、前記Mが0,1,2のうちのいずれかであることを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、定数Mは透過率のピークの回数Pに応じて0,1,2の3つのうちいずれかをとることになる。定数Mが0の場合では、接合層の厚みdは106nm以上186nm以下の範囲に最適な値がある。定数Mが1の場合では、接合層の厚みdは239nm以上319nm以下の範囲に最適な値がある。定数Mが2の場合では、接合層の厚みdは372nm以上452nm以下の範囲に最適な値がある。
本適用例では、これらの3つの例の厚みdをいずれも採用可能であるが、これらのうち1つの好ましい値を選択する。
本適用例では、式[2]は−0.1≦α≦+0.1が好ましい。この式によると、定数Mが0の場合では、接合層の厚みdは106nm以上160nm以下の範囲に最適な値がある。定数Mが1の場合では、接合層の厚みdは239nm以上293nm以下の範囲に最適な値がある。定数Mが2の場合では、接合層の厚みdは372nm以上426nm以下の範囲に最適な値がある。
なお、本適用例において、波長λの405nm帯とは、ブルーレイで利用される波長領域であり、厳密な意味で波長λが405nmに限定されるものではなく、405nm±10nmの波長領域をいう。上記数値は波長λとして406nmを用いた。
【0011】
[適用例5]
本適用例に係わる発明は、前記波長λを660nm帯とし、前記屈折率nを1.4950としたとき、前記Mが0又は1であることを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、定数Mは透過率のピークの回数Pに応じて0,1の2つのうちいずれかをとることになる。定数Mが0の場合では、接合層の厚みdは173nm以上302nm以下の範囲にある。定数Mが1の場合では、接合層の厚みdは389nm以上518nm以下の範囲にある。本適用例では、これらの2つの例の厚みdをいずれも採用可能であるが、これらのうち1つの好ましい値を選択する。
本適用例では、式[2]は−0.1≦α≦+0.1が好ましい。この式によると、定数Mが0の場合では、接合層の厚みdは173nm以上259nm以下の範囲にある。定数Mが1の場合では、接合層の厚みdは389nm以上475nm以下の範囲にある。
なお、本適用例において、波長λの660nm帯とは、DVDで利用される波長領域であり、厳密な意味で波長λが660nmに限定されるものではなく、660nm±15nmの波長領域をいう。上記数値は波長λとして660nmを用いた。
【0012】
[適用例6]
本適用例に係わる発明は、前記波長λを785nm帯とし、前記屈折率nを1.4944としたとき、前記Mが0であることを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、定数Mは透過率のピークの回数Pに応じて0の1つとなる。接合層の厚みdは210nm以上368nm以下の範囲にある。
本適用例では、式[2]は−0.1≦α≦+0.1が好ましい。この式によると、接合層の厚みdは210nm以上315nm以下の範囲にある。
なお、本適用例において、波長λの785nm帯とは、CDで利用される波長領域であり、厳密な意味で波長λが785nmに限定されるものではなく、785nm±20nmの波長領域をいう。上記数値は波長λとして786nmを用いた。
【0013】
[適用例7]
本適用例に係わる発明は、前記波長λを354nm帯とし、前記屈折率nを1.5899としたとき、前記Mが1,2,3のうちのいずれかであることを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、定数Mは透過率のピークの回数Pに応じて1,2,3の3つのうちいずれかである。定数Mが1の場合では、接合層の厚みdは201nm以上268nm以下の範囲にある。定数Mが2の場合では、接合層の厚みdは312nm以上379nm以下の範囲にある。定数Mが3の場合では、接合層の厚みdは424nm以上491nm以下の範囲にある。本適用例では、これらの3つの例の厚みdをいずれも採用可能であるが、これらのうち1つの好ましい値を選択する。
本適用例では、式[2]は−0.1≦α≦+0.1が好ましい。この式によると、定数Mが1の場合では、接合層の厚みdは201nm以上245nm以下の範囲にある。定数Mが2の場合では、接合層の厚みdは312nm以上359nm以下の範囲にある。定数Mが3の場合では、接合層の厚みdは424nm以上468nm以下の範囲にある。
なお、本適用例において、波長λの354nm帯は、厳密な意味で波長λが354nmに限定されるものではない。上記数値は波長λとして354nmを用いた。
【0014】
[適用例8]
本適用例に係わる発明は、前記波長λを532nm帯とし、前記屈折率nを1.4982としたとき、前記Mが0又は1であることを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、定数Mは透過率のピークの回数Pに応じて0,1の2つのうちいずれかである。定数Mが0の場合では、接合層の厚みdは142nm以上249nm以下の範囲にある。定数Mが1の場合では、接合層の厚みdは320nm以上426nm以下の範囲にある。これらの2つの例の厚みdをいずれも採用可能であるが、これらのうち1つの好ましい値を選択する。
本適用例では、式[2]は−0.1≦α≦+0.1が好ましい。この式によると、定数Mが0の場合では、接合層の厚みdは142nm以上213nm以下の範囲にある。定数Mが1の場合では、接合層の厚みdは320nm以上391nm以下の範囲にある。
なお、本適用例において、波長λの532nm帯は、厳密な意味での波長λが532nmに限定されるものではない。上記数値は波長λとして532nmを用いた。
【0015】
[適用例9]
本適用例に係わる発明は、前記波長λを1064nm帯とし、前記屈折率nを1.4943としたとき、前記Mが0であることを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、定数Mは透過率のピークの回数Pに応じて0の1つとなる。接合層の厚みdは285nm以上498nm以下の範囲にある。
本適用例では、式[2]は−0.1≦α≦+0.1が好ましい。この式によると、接合層の厚みdは285nm以上427nm以下の範囲にある。
なお、本適用例において、波長λの1064nm帯は、厳密な意味での波長λが1064nmに限定されるものではない。上記数値は波長λとして1064nmを用いた。
【0016】
[適用例10]
本適用例に係わる発明は、前記波長λを308nm帯とし、前記屈折率nを1.7800としたとき、前記Mが2,3,4のうちのいずれかであることを特徴とする光学素子である。
この構成の本適用例では、定数Mは透過率のピークの回数Pに応じて2,3,4の3つのうちいずれかである。定数Mが2の場合では、接合層の厚みdは242nm以上294nm以下の範囲にある。定数Mが3の場合では、接合層の厚みdは329nm以上381nm以下の範囲にある。定数Mが4の場合では、接合層の厚みdは415nm以上467nm以下の範囲にある。本適用例では、これらの3つの例の厚みdをいずれも採用可能であるが、これらのうち1つの好ましい値を選択する。
なお、本適用例において、波長λの308nm帯は、厳密な意味で波長λが308nmに限定されるものではない。上記数値は波長λとして308nmを用いた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光学素子の概略図。
【図2】プラズマ重合装置の概略構成図。
【図3】(A)〜(D)は基材にプラズマ重合膜が成膜される状態を説明する図。
【図4】(A)はプラズマ重合膜にエネルギーを付与する前の分子構造を説明する概略図、(B)はプラズマ重合膜にエネルギーを付与した後の分子構造を説明する概略図。
【図5】(A)〜(D)は光学素子を製造する手順を説明する概略図。
【図6】ブルーレイ領域における波長と透過率との関係を示すグラフ。
【図7】DVD/CD領域における波長と透過率との関係を示すグラフ。
【図8】波長と屈折率との関係を示すグラフ。
【図9】波長λがブルーレイ領域にある場合の接合層厚さと接合層の透過率との関係を示すグラフ。
【図10】波長λがDVD領域にある場合の接合層厚さと接合層の透過率との関係を示すグラフ。
【図11】波長λがCD領域にある場合の接合層厚さと接合層の透過率との関係を示すグラフ。
【図12】本発明の第2実施形態において波長λが354nm帯にある場合の接合層厚さと接合層の透過率との関係を示すグラフ。
【図13】第2実施形態において波長λが532nm帯にある場合の接合層厚さと接合層の透過率との関係を示すグラフ。
【図14】第2実施形態において波長λが1064nm帯にある場合の接合層厚さと接合層の透過率との関係を示すグラフ。
【図15】本発明の第3実施形態において波長が308nm帯にある場合の接合層厚さと接合層の透過率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ここで、各実施形態の説明において、同一構成要素は同一符号を付して説明を省略もしくは簡略にする。
本発明の第1実施形態を図1から図11に基づいて説明する。第1実施形態は光学素子を積層波長板とした例である。
図1は光学素子の概略構成図である。積層波長板は、例えば、光ピックアップ装置やプロジェクター等の投射型映像装置に用いられるものである。
【0019】
図1において、光学素子1は、透光性を有する第一基材11と、透光性を有する第二基材12と、これらの第一基材11と第二基材12とを接合する接合層13とを備えた積層形の光学素子である。
第1実施形態においては、前記第一基材11と前記第二基材12を、それぞれ複屈折性を有する材料から構成し、例えば水晶から形成された第一、第二の波長板とした。前記光学素子は、これら2枚の第一、第二の波長板を互いに各々の結晶光学軸が所定の角度で交差するように積層した構造を有している。なお、波長板を形成する結晶材料としては、水晶以外にも、LiNbO(ニオブ酸リチウム)、サファイヤ、BBO、方解石、YVO、KTP(リン酸チタン酸カリウム:KTiOPO)等を例示できる。
本実施形態では、接合層13は、プラズマ重合膜で形成されている。
第一基材11の接合面と第二基材12の接合面とのそれぞれにプラズマ重合膜131が設けられており、これらのプラズマ重合膜131が互いに重合されて接合層13が形成される(図5参照)。
【0020】
図2は、本実施形態で使用するプラズマ重合装置の概略図である。
図2において、プラズマ重合装置100は、チャンバー101と、このチャンバー101の内部にそれぞれ設けられる第1電極111及び第2電極112と、これらの第1電極111と第2電極112との間に高周波電圧を印加する電源回路120と、チャンバー101の内部にガスを供給するガス供給部140と、チャンバー101の内部のガスを排出する排気ポンプ150を備えた構造である。
電源回路120は、マッチングボックス121と高周波電源122とを備える。ガス供給部140は、液状の膜材料(原料液)を貯蔵する貯液部141と、液状の膜材料を気化して原料ガスに変化させる気化装置142と、キャリアガスを貯留するガスボンベ143と、これらを接続する管102とを備えている。このガスボンベ143に貯留されるキャリアガスは、電界の作用によって放電し、この放電を維持するためにチャンバー101に導入するガスであって、例えば、アルゴンガスやヘリウムガスが該当する。
【0021】
貯液部141に貯留される膜材料は、プラズマ重合装置100によって第一基材11や第二基材12にプラズマ重合膜131を形成するための原材料である。この原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサン等のオルガノシロキサン等が挙げられる。ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性を示すが、各種の活性化処理を施すことによって容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化することができる。
【0022】
次に、接合層13がプラズマ重合膜131から形成されてなる光学素子1の製造方法の手順を図3から図5に基づいて説明する。
まず、図3(A)〜(C)に示される通り、第一基材11や第二基材12の接合面にプラズマ重合膜131を形成する。この工程では、プラズマ重合装置100の第1電極111に、第一基材11又は第二基材12を保持し、チャンバー101の内部に酸素を所定量導入するとともに第1電極111と第2電極112との間に電源回路120から高周波電圧を印加して光学部材自体の活性化(基板活性化)を実施する。
その後、ガス供給部140を作動させて、チャンバー101の内部に原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給する。供給された混合ガスはチャンバー101の内部に充填され、第一基材11又は第二基材12には前記混合ガスが曝露される。
【0023】
第1電極111と第2電極112との間に高周波電圧を印加することにより、これらの電極111,112の間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、図3(B)に示される通り、重合物が第一基材11又は第二基材12の表面に付着、堆積する。これにより、図3(C)に示される通り、第一基材11又は第二基材12の接合面にプラズマ重合膜131が形成される。その後、図3(D)に示される通り、プラズマ重合膜131にエネルギーを付与して表面を活性化させる。この工程は、例えば、プラズマを照射する方法、オゾンガスに接触させる方法、オゾン水で処理する方法、あるいは、アルカリ処理する方法等を用いることができる。これらのうち、プラズマ重合膜131の表面を効率よく活性化させるためにプラズマを照射する方法が好ましい。プラズマとしては、例えば、酸素、アルゴン、チッソ、空気、水等を1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0024】
エネルギーが付与される前のプラズマ重合膜131は、図4(A)に示される通り、シロキサン(Si−O)結合13Aを含み、ランダムな原始構造を有するSi骨格13Bと、このSi骨格13Bに結合する脱離基13Cとを有し、変形し難い強固な膜となる。これは、Si骨格13Bの結晶性が低くなるため、結晶粒界における転位やズレ等の欠陥が生じがたいためと考えられる。このようなプラズマ重合膜131にエネルギーが付与されると、図4(B)に示される通り、プラズマ重合膜131の表面及び内部に、活性手13Dが生じる。これにより、プラズマ重合膜131の表面に接着性が発現する。このような接着性が発現すると、プラズマ重合膜131同士は強固に接合可能となる。なお、プラズマ重合膜131のSi骨格13Bの結晶化度は45%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。これにより、Si骨格13Bは十分のランダムな原始構造を含むものとなり、これにより、前述した通り、Si骨格13Bの特性が顕在化する。
【0025】
プラズマ重合膜131の表面が活性化された第一基材11と第二基材12とを貼り合わせて一体化する。つまり、図5(A)(B)に示される通り、第一基材11と第二基材12とをそれぞれプラズマ重合膜131を対向させた状態で互いに押し付ける。プラズマ重合膜131同士を貼り合わせることで、これらの膜同士が結合する。
図5(C)に示される通り、貼合工程の後に、必要に応じて、第一基材11と第二基材12とを加圧する。これにより、図5(D)に示される通り、光学素子1が製造される。
第一基材11と第二基材12とを加圧した後に、これらを加熱する。この加熱により、接合強度を高めることができる。なお、光学素子1は適宜ダイシングされる。
【0026】
次に、本実施形態における接合層13の厚みdを求める方法について図6から図11に基づいて説明する。
図6はブルーレイ領域における波長と透過率との関係を示すグラフであり、図7はDVD及びCD領域における波長と透過率との関係を示すグラフである。図6及び図7では、100nmから500nmまで50nm間隔に設定した厚みdの接合層13に対する波長と透過率との関係が示されている。なお、図6及び図7のグラフでは、表面で反射する光はないものとしている。
図6及び図7から、波長帯や接合層13の厚みdにより透過率が変化しているのが確認できる。透過率が変化している要因としては、接合層13と第一基材11との間の境界面並びに接合層13と第二基材12との境界面との間で引き起こされる多重反射による光の損失が考えられる。
図6及び図7から、波長に依らず、厚みdの大小によっても透過率が大きく変動することがわかる。
【0027】
図8は波長と接合層13の屈折率との関係を示すグラフである。図8に示される通り、波長が500nm以下になると急激に、屈折率が上昇し波長分散性が顕著に出現していることがわかる。これに対して、500nmを超える長波長側では大きな屈折率の変動は観測されない。
つまり、波長が500nm以下である405nm帯のブルーレイ領域用に使用される積層波長板等の光学素子や354nm帯のYAGレーザーを用いたレーザー発振器用光学素子においては、接合層13の厚みを厳密に制御しなければ、所望の光学特性が得られない可能性があることが判明した。
接合層13の屈折率は製造条件(成膜条件)により変動を生じることが想定されるが、製造条件がほぼ最適化されていれば、現在の屈折率の値よりも大きくなる(屈折が上昇する)ことはないと考えられるため、本願発明者らは考慮すべきは接合層13の屈折率の下限値であることに思い至った。
さらに、本願発明者は、500nm以下の短波長帯に主眼を落とし、当該短波長帯とともに、長波長側での仕様も視野に入れた接合層の最適化も試みた。
またさらに、波長に依らず、接合層13の厚みにおいても、厚みの大小(厚い/薄い)によっても透過率が大きく変動することが判明しているので、この点についても考慮して最適化を試みた。
接合層13の屈折率として基準値から−1%〜−5%まで変化させたとき、接合層の厚みによって透過率がどのように変化するのかシミュレーションにより検証を行った。そのシミュレーションの結果を図9から図11に示す。接合層の13の屈折率は、図8の結果より、屈折の大きな変動の見られない波長λが500nm以上での値とし、当該屈折率を基準の値(現状値)から下限率として−1%〜−5%までの値で設定した。なお、図9から図11において、屈折率の基準値に対して下限率が0の場合がNo.1で示され、基準値に対して下限率が−1%の場合がNo.2で示され、基準値に対して下限率が−2%の場合がNo.3で示され、基準値に対して下限率が−3%の場合がNo.4で示され、基準値に対して下限率が−4%の場合がNo.5で示され、基準値に対して下限率が−5%の場合がNo.6で示されている。そして、No.1からNo.6までの下限率と屈折率との関係が表1に示される。
【0028】
【表1】

【0029】
接合層13の厚みを100(nm)か500(nm)まで、50(nm)ステップで変化させたときの、前記接合層13を透過する波長λ=406(nm)の光の透過率をシミュレーションにより検証した結果を以下の表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
図9は、表2の透過率の値に基づき、波長λがブルーレイ領域にある場合の接合層の厚さと接合層の透過率との関係を示すシミュレーションの結果を表すグラフである。尚、ブルーレイ領域で使用される波長λは405nm±10nmであり、図9で示している接合層の透過率は、波長λ=406nmに対する値を表している。
【0032】
接合層13の厚みを100(nm)から500(nm)まで、50(nm)ステップで変化させたときの、前記接合層13を透過する波長λ=660(nm)の光の透過率をシミュレーションにより検証した結果を以下の表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
図10は、表3の透過率の値に基づき、波長λがDVD領域にある場合の接合層の厚さと接合層の透過率との関係を示すシミュレーションのグラフである。尚、DVD領域で使用される波長λは660nm±15nmであり、図10で示している接合層の透過率は、波長λ=660nmに対する値を表している。
接合層13の厚みを100(nm)から500(nm)まで、50(nm)ステップで変化させたときの、前記接合層13を透過する波長λ=786(nm)の光の透過率をシミュレーションにより検証した結果を以下の表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
図11は、表4の透過率の値に基づき、波長λがCD領域にある場合の接合層厚さと接合層の透過率との関係を示すシミュレーションのグラフである。なお、CD領域で使用される波長λは785nm±20nmであり、図11で示している接合層の透過率は、波長λ=786nmに対する値を表している。
【0037】
図9を参照して、使用波長λが406nmである積層波長板の最適な接合層13の厚みdを設定する方法について説明する。
波長をλ、この波長λでの接合層13の屈折率をn、定数をMとし、自然数(M=0,1,2,…)とする。
図9において、屈折率nは1.5269である。図9のグラフから明らかな通り、接合層13のNo.1〜No.6間での透過率の差が小さくなるピークは第一次ピークP1、第二次ピークP2及び第三次ピークP3の3回ある。ここでは、定数Mとピークとの関係はM=P−1である。つまり、第一次ピークP1に対応した定数Mは0であり、第二次ピークP2に対応した定数Mは1であり、第三次ピークP3に対応した定数Mは2である。
【0038】
図9の結果より、各ピーク毎に、接合層13の屈折率No.1〜No.6の各々の透過率に互いに差の小さな領域として、接合層の厚みdの値として、以下の値を3箇所、抽出した。
ピーク1:d=140.0(nm)
ピーク2:d=278.5(nm)
ピーク3:d=418.5(nm)
このとき、波長λ=406(nm)のときの接合層13の屈折率nを図8より
n=1.5269 とした。
【0039】
【表5】

【0040】
よって、ピーク1の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=140.0(nm)、n=1.5269
nd=n×d=1.5269×140.0=213.766
このndを波長λ(=405(nm))で規定すると、
nd/λ=213.766/405=0.5278=0.53
同様に、ピーク2の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=278.5(nm)、n=1.5269
nd=n×d=1.5269×278.5=425.241
このndを波長λ(=405(nm))で規定すると、
nd/λ=425.241/405=1.049=1.05
同様に、ピーク3の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=418.5(nm)、n=1.5269
nd=n×d=1.5269×418.5=639.007
このndを波長λ(=405(nm))で規定すると、
nd/λ=639.007/405=1.577=1.57
従って、接合層13は以下の式を満足するように設定すれば、接合層13での多重反射を抑制できることに想到した。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
但し、波長:λ(nm)、波長λでの接合層13の屈折率:n、M:自然数
即ち、
ピーク1:d=140.0(nm)のときは、M=0、α=0.03
ピーク2:d=278.5(nm)のときは、M=1、α=0.05
ピーク3:d=418.5(nm)のときは、M=2、α=0.07
【0041】
第一次ピークP1に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
ブルーレイ領域では、波長λが406nmであり、この波長λに対応する屈折率nが1.5269である(図8参照)。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.5269×d/406=1/2+α
d=(0.5+α)×(406/1.5269)≒(0.5+α)×266
0.4×266≦d≦0.6×266
106≦d≦160
【0042】
第二次ピークP2に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.5269×d/406=1+α
d=(+α)×(406/1.5269)≒(1+α)×266
0.9×266≦d≦1.1×266
239≦d≦293
第三次ピークP3に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.5269×d/406=1+α
d=(1.5+α)×(406/1.5269)≒(1.5+α)×266
1.4×266≦d≦1.6×266
372≦d≦426
本実施形態では、光学素子をブルーレイ専用とする場合には、これらの3つの領域での厚みdの値のうち好ましい値を適宜設定する。
【0043】
これらの3つの領域で求められた厚みdが透過率の高い領域に含まれることを図9に基づいて説明する。
図9において、第一次ピークP1から第三次ピークP3に対応した領域としてE1,E2,E3を設定する。これらの領域E1,E2,E3は透過率が製品として不都合がない値、例えば、99.70%以上の領域である。領域E1は接合層の厚みdが100nm〜180nmのエリアであり、この領域に実際にシミュレーションで求めた第一次ピークP1の厚さ150nmが含まれる。領域E2は厚みdが237nm〜320nmのエリアであり、この領域に実際にシミュレーションで求めた第二次ピークP2の厚さ278.5nmが含まれる。領域E3は厚みdが380nm〜457nmのエリアであり、この領域に実際にシミュレーションで求めた第三次ピークP3の厚さ418.5nmが含まれる。これらのエリアの範囲に前述の計算で求められた厚みdが含まれていれば前述の計算式が最適なものであると言える。
【0044】
第一次ピークP1に対応して求められた厚みdは106nm以上160nm以下であり、この範囲に第一次ピークP1の厚さ140nmが含まれる。つまり、接合層13の厚みdを106nm以上160nm以下の範囲で設定することで、第一次ピークP1の最も透過率の高い厚さあるいはそれに近い厚さとすることができる。
同様に、第二次ピークP2に対応して求められた厚みdは239nm以上293nm以下であり、この範囲に第二次ピークP2の厚さ278.5nmが含まれる。つまり、接合層13の厚みdを239nm以上293nm以下の範囲で設定することで、第二次ピークP2の最も透過率の高い厚さあるいはそれに近い厚さとすることができる。第三次ピークP3に対応して求められた厚みdは372nm以上426nm以下であり、この範囲に第三次ピークP3の厚さ418.5nmが含まれる。つまり、接合層13の厚みdを372nm以上426nm以下の範囲で設定することで、第三次ピークP3の最も透過率の高い厚さあるいはそれに近い厚さとすることができる。
【0045】
図10の結果より、各ピーク毎に、接合層13の屈折率No.1〜No.6の各々の透過率に互いに差の小さな領域として、接合層の厚みdの値として、以下の値を2箇所を抽出し、
ピーク1:d=227.5(nm)
ピーク2:d=466.0(nm)
このとき、波長λ=660(nm)のときの接合層13の屈折率nを図8より
n=1.4950 とした。
【0046】
【表6】

【0047】
よって、ピーク1の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=227.5(nm)、n=1.4950
nd=n×d=1.4950×227.5=340.112
このndを波長λ(=405(nm))で規定すると、
nd/λ=340.112/660=0.51532=0.52
同様に、ピーク2の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=466.0(nm)、n=1.4950
nd=n×d=1.4950×466.0=696.670
このndを波長λ(=405(nm))で規定すると、
nd/λ=696.670/660=1.055=1.06
従って、接合層13は以下の式を満足するように設定すれば、接合層13での多重反射を抑制できることが実証された。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
但し、波長:λ(nm)、波長λでの接合層13の屈折率:n、M:自然数
即ち、
ピーク1:d=227.5(nm)のときは、M=0、α=0.02
ピーク2:d=466.0(nm)のときは、M=1、α=0.06
【0048】
図10を参照して、使用する波長λが660nmである積層波長板の最適な接合層13の厚さを設定する方法について説明する。
図10において、屈折率nは1.4950である。図10のグラフから明らかな通り、接合層13の透過率が小さくなるピークは第一次ピークP1及び第二次ピークP2の2回ある。ここでは、定数Mとピークとの関係はM=P−1である。つまり、第一次ピークP1に対応した定数Mは0であり、第二次ピークP2に対応した定数Mは1である。
【0049】
第一次ピークP1に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
DVD領域では、波長λが660nmであり、この波長λに対応する屈折率nが1.4950である(図8参照)。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.4950×d/660=1/2+α
d=(0.5+α)×(660/1.5269)≒(0.5+α)×432
0.4×432≦d≦0.6×432
173≦d≦259
第二次ピークP2に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.4950×d/660=1+α
d=(1+α)×(660/1.5269)≒(1+α)×432
0.9×432≦d≦1.1×432
389≦d≦475
本実施形態では、光学素子をDVD専用とする場合には、これらの2つの領域でのdの値のうち好ましい値を適宜設定する。
【0050】
これらの2つの領域で求められた厚みdが透過率の高い領域に含まれることを図10に基づいて説明する。
図10において、第一次ピークP1及び第二次ピークP2に対応した領域としてE1,E2を設定する。これらの領域E1,E2は透過率が製品として不都合がない値、例えば、99.70%以上の領域である。領域E1は接合層の厚みdが175nm〜280nmのエリアであり、この領域に第一次ピークP1の厚さ227.5nmが含まれる。領域E2は厚みdが412nm〜520nmのエリアであり、この領域に第二次ピークP2の466nmが含まれる。これらのエリアの範囲に前述の計算で求められた厚みdが含まれていれば前述の計算式が最適なものであると言える。
第一次ピークP1に対応して求められた厚みdは173nm以上259nm以下であり、この範囲に第一次ピークP1の厚さ227.5nmが含まれる。第二次ピークP2に対応して求められた厚みdは389nm以上475nm以下であり、この範囲に第二次ピークP2の厚さ466nmが含まれる。
【0051】
図11の結果より、ピークにおいて、接合層13の屈折率No.1〜No.6の各々の透過率に互いに差の小さな領域として、接合層の厚みdの値として、以下の値を1箇所、抽出し、
ピーク:d=275.0(nm)
このとき、波長λ=786(nm)のときの接合層13の屈折率nを図8より
n=1.4944
とした。
【0052】
【表7】

【0053】
よって、ピークの光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=275.0(nm)、n=1.4944
nd=n×d=1.4944×275.0=410.960
このndを波長λ(=405(nm))で規定すると、
nd/λ=410.960/786=0.5228=0.52
従って、接合層13は以下の式を満足するように設定すれば、接合層13での多重反射を抑制できることが実証された。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
但し、波長:λ(nm)、波長λでの接合層13の屈折率:n、M:自然数
即ち、
ピーク:d=275.0(nm)のときは、M=0、α=0.02
【0054】
図11を参照して、使用する波長λが786nmである積層波長板の最適な接合層13の厚さを設定する方法について説明する。
図11において、屈折率nが1.4944である。図11のグラフから明らかな通り、接合層13の透過率が小さくなるピークPは1回である。ここでは、定数Mとピークとの関係はM=P−1である。つまり、ピークPに対応した定数Mは0である。
ピークに対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2]
CD領域では、波長λが786nmであり、この波長λに対応する屈折率nが1.4944である(図8参照)。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.4944×d/786=1/2+α
d=(0.5+α)×(786/1.4944)≒(0.5+α)×526
0.4×526≦d≦0.6×526
210≦d≦315
【0055】
この領域で求められたdが透過率の高い領域に含まれることを図11に基づいて説明する。
図11において、ピークに対応した領域としてEを設定する。この領域Eは透過率が製品として不都合がない値、例えば、99.70%以上の領域である。領域Eは接合層の厚みdが210nm〜340nmのエリアであり、この領域にピークの厚さ275nmが含まれる。このエリアの範囲に前述の計算で求められた厚みdが含まれていれば前述の計算式が最適なものであると言える。
ピークに対応して求められた厚みdは210nm以上315nm以下であり、この範囲にピークの厚さ275nmが含まれる。
【0056】
本実施形態の積層波長板からなる光学素子1は、ブルーレイに対応した406nm帯、DVDに対応した660nm帯、及びCDに対応した786nm帯の3タイプを共通して利用可能な汎用品とする場合には、接合層13の厚みdは3タイプに共通する範囲でなければならない。つまり、光学素子1を3波長共通の積層波長板とするには、接合層13の厚みdは239nm以上259nm以下となる。
【0057】
従って、第1実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)水晶の第一基材11と水晶の第二基材12とを接合する接合層13を、プラズマ重合法により成膜されシロキサン結合を含み、結晶化度が45%以下であるSi骨格とこのSi骨格に結合する有機基からなる脱離基とを含み、エネルギーを付与して表面付近に存在する脱離基がSi骨格から脱離することにより発現した接着性を有する構成とし、波長をλ、この波長λでの接合層13の屈折率をn、定数をM(M=0,1,2,…)とすると、接合層13の厚みdを、n×d/λ={(M+1)/2}+αの式[1]と−0.1≦α≦+0.1の式[2A]とから求めた。そのため、定数Mを設定し、この定数M、波長λ、屈折率nを式[1]に代入し、さらに、式[2A]との関係で接合層13の厚みdの範囲を求めることができるから、使用する波長に応じた透過率の高い光学素子を提供することができる。
【0058】
(2)光学素子1を積層波長板としたから、積層波長板の透過率を高いものにできる。
(3)波長λを406nm、屈折率nを1.5269、定数Mを0,1,2のうちのいずれかとして前述の式から接合層13の厚みdを求め、106nm以上160nm以下、239nm以上293nm以下、372nm以上426nm以下とした。これらの範囲で接合層13の厚みdを設定することで、ブルーレイに対応した積層波長板の透過率を高いものにできる。
【0059】
(4)波長λを660nm、屈折率nを1.4950、定数Mを0,1として前述の式から接合層13の厚みdを求め、173nm以上259nm以下、389nm以上475nm以下とした。これらの範囲で接合層13の厚みdを設定することで、DVDに対応した積層波長板の透過率を高いものにできる。
(5)波長λを786nm、屈折率nを1.4944、定数Mを0として前述の式から接合層13の厚みdを求め、210nm以上315nm以下とした。この範囲で接合層13の厚みdを設定することで、CDに対応した積層波長板の透過率を高いものにできる。
(6)ブルーレイに対応した積層波長板での接合層13の厚みdと、DVDに対応した積層波長板での接合層13の厚みdと、CDに対応した積層波長板での接合層13の厚みdとを重複する範囲を239nm以上259nm以下に設定すれば、3つの波長域に対応できる汎用の積層板を提供することができる。
【0060】
次に、本発明の第2実施形態を図12から図14に基づいて説明する。
第2実施形態は光学素子をYAGレーザー加工用光学素子とした例である。この光学素子は図1に示される積層波長板と同様に、第一基材11と、第二基材12と、これらの第一基材11と第二基材12とを接合する接合層13とを備えた構造である。この接合層13の厚みはdである。
第2実施形態の光学素子は第1実施形態の光学素子1と同様に製造されるので、ここでの説明を省略する。
【0061】
接合層13の厚みを100(nm)から500(nm)まで、50(nm)ステップで変化させたときの、前記接合層13を透過する波長λ=354(nm)の光の透過率をシミュレーションにより検証した結果を以下の表8に示す。
【0062】
【表8】

【0063】
図12は、表8の透過率の値に基づき、波長λが354nm帯にある場合の接合層の厚さと接合層の透過率との関係を示すシミュレーションの結果を表すグラフである。
接合層13の厚みを100(nm)から500(nm)まで、50(nm)ステップで変化させたときの、前記接合層13を透過する波長λ=532(nm)の光の透過率をシミュレーションにより検証した結果を以下の表9に示す。
【0064】
【表9】

【0065】
図13は、表9の透過率の値に基づき、波長λが532nm帯にある場合の接合層の厚さと接合層の透過率との関係を示すシミュレーションの結果を表すグラフである。
接合層13の厚みを100(nm)から500(nm)まで、50(nm)ステップで変化させたときの、前記接合層13を透過する波長λ=1064(nm)の光の透過率をシミュレーションにより検証した結果を以下の表10に示す。
【0066】
【表10】

【0067】
図14は、表10の透過率の値に基づき、波長λが1064nm帯にある場合の接合層の厚さと接合層の透過率との関係を示すシミュレーションの結果を表すグラフである。
【0068】
図12を参照して、354nm帯で使用される発振器用光学素子の最適な接合層13の厚さを設定する方法について説明する。
図12において、屈折率nは1.5899である。図12のグラフから明らかな通り、接合層13のNo.1〜No.6間での透過率の差が小さくなるピークは第一次ピークP1、第二次ピークP2及び第三次ピークP3の3回ある。ここでは、定数Mとピークとの関係はM=Pである。つまり、第一次ピークP1に対応した定数Mは1であり、第二次ピークP2に対応した定数Mは2であり、第三次ピークP3に対応した定数Mは3である。
【0069】
図12の結果より、各ピーク毎に、接合層13の屈折率No.1〜No.6の各々の透過率に互いに差の小さな領域として、接合層の厚みdの値として、以下の値を3箇所、抽出した。
ピーク1:d=247.5(nm)
ピーク2:d=337.5(nm)
ピーク3:d=450(nm)
このとき、波長λ=354(nm)のときの接合層13の屈折率nを図8より
n=1.5899 とした。
【0070】
【表11】

【0071】
よって、ピーク1の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=247.5(nm)、n=1.5899
nd=n×d=1.5899×247.5≒393.5
このndを波長λ(=354(nm))で規定すると、
nd/λ=393.5/354≒1.11
同様に、ピーク2の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=337.5(nm)、n=1.5899
nd=n×d=1.5899×337.5≒536.6
このndを波長λ(=354(nm))で規定すると、
nd/λ=536.6/354≒1.52
同様に、ピーク3の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=450(nm)、n=1.5899
nd=n×d=1.5899×450≒715.4
このndを波長λ(=354(nm))で規定すると、
nd/λ=715.4/354≒2.02
従って、接合層13は以下の式を満足するように設定すれば、接合層13での多重反射を抑制できることに想到した。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
但し、波長:λ(nm)、波長λでの接合層13の屈折率:n、M:自然数
即ち、
ピーク1:d=247.5(nm)のときは、M=1、α=0.11
ピーク2:d=337.5(nm)のときは、M=2、α=0.02
ピーク3:d=450(nm)のときは、M=3、α=0.02
【0072】
第一次ピークP1に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
波長λが354nmであり、この波長λに対応する屈折率nが1.5899である(図8参照)。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.5899×d/354=2/2+α
d=(1+α)×(354/1.5899)≒(1+α)×223
0.9×223≦d≦1.1×223
201≦d≦245
【0073】
第二次ピークP2に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.5899×d/354=1.5+α
d=(1.5+α)×(354/1.5899)≒(1.5+α)×223
1.4×223≦d≦1.6×223
312≦d≦359
第三次ピークP3に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.5899×d/354=2+α
d=(2+α)×(354/1.5899)≒(2+α)×223
1.9×223≦d≦2.1×223
424≦d≦468
本実施形態では、光学素子を354nm帯専用とする場合には、これらの3つの領域での厚みdの値のうち好ましい値を適宜設定する。
【0074】
これらの3つの領域で求められたdが透過率の高い領域に含まれることを図12に基づいて説明する。
図12において、第一次ピークP1から第三次ピークP3に対応した領域としてE1,E2,E3を設定する。これらの領域E1,E2,E3は透過率が製品として不都合がない値、例えば、領域E1では略99.85%以上、領域E2では99.80%以上、領域E3では99.75%以上の領域である。領域E1は接合層13の厚みdが220nm〜270nmのエリアであり、この領域にシミュレーションで求められた第一次ピークP1の厚さ245nmが含まれる。領域E2は厚みdが300nm〜375nmのエリアであり、この領域にシミュレーションで求められた第二次ピークP2の337.5nmが含まれる。領域E3は厚みdが400nm〜500nmのエリアであり、この領域にシミュレーションで求められた第三次ピークP3の450nmが含まれる。これらのエリアの範囲に前述の計算で求められた厚みdが含まれていれば前述の計算式が最適なものであると言える。
【0075】
第一次ピークP1に対応して求められた厚みdは201nm以上245nm以下であり、この範囲に第一次ピークP1の厚さ245nmが含まれる。第二次ピークP2に対応して求められた厚みdは312nm以上359nm以下であり、この範囲に第二次ピークP2の厚さ337.5nmが含まれる。第三次ピークP3に対応して求められた厚みdは424nm以上468nm以下であり、この範囲に第三次ピークP3の厚さ450nmが含まれる。以上の通り、これらの厚さの範囲はシミュレーションで求められたピーク時の最も透過率の高い厚さを含むものであり、これらの範囲で接合層13の厚さを設定すれば、最も透過率の高い厚さあるいはそれに近似した厚さとすることができる。
【0076】
図13を参照して、532nm帯で使用される発振器用光学素子の最適な接合層13の厚さを設定する方法について説明する。
図13のグラフから明らかな通り、接合層13の透過率が小さくなるピークは第一次ピークP1及び第二次ピークP2の2回ある。ここでは、定数Mとピークとの関係はM=P−1である。つまり、第一次ピークP1に対応した定数Mは0であり、第二次ピークP2に対応した定数Mは1である。
図13の結果より、各ピーク毎に、接合層13の屈折率No.1〜No.6の各々の透過率に互いに差の小さな領域として、接合層の厚みdの値として、以下の値を2箇所、抽出した。
ピーク1:d=185.5(nm)
ピーク2:d=375.0(nm)
このとき、波長λ=532(nm)のときの接合層13の屈折率nを図8より
n=1.4982 とした。
【0077】
【表12】

【0078】
よって、ピーク1の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=185.5(nm)、n=1.4982
nd=n×d=1.4982×185.5≒277.9
このndを波長λ(=532(nm))で規定すると、
nd/λ=277.9/532≒0.52
同様に、ピーク2の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=375.0(nm)、n=1.4982
nd=n×d=1.4982×375.0≒561.8
このndを波長λ(=532(nm))で規定すると、
nd/λ=561.8/532≒1.06
従って、接合層13は以下の式を満足するように設定すれば、接合層13での多重反射を抑制できることに想到した。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
但し、波長:λ(nm)、波長λでの接合層13の屈折率:n、M:自然数
即ち、
ピーク1:d=185.5(nm)のときは、M=0、α=0.02
ピーク2:d=375.0(nm)のときは、M=1、α=0.06
【0079】
第一次ピークP1に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
波長λが532nmであり、この波長λに対応する屈折率nが1.4982である(図8参照)。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.4982×d/532=1/2+α
d=(0.5+α)×(532/1.4982)≒(0.5+α)×355
0.4×355≦d≦0.6×355
142≦d≦213
【0080】
第二次ピークP2に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.4982×d/532=1.0+α
d=(1.0+α)×(532/1.4982)≒(1.0+α)×355
0.9×355≦d≦1.1×355
320≦d≦391
本実施形態では、光学素子を532nm帯専用とする場合には、これらの2つの領域での厚みdの値のうち好ましい値を適宜設定する。
【0081】
これらの2つの領域で求められたdが透過率の高い領域に含まれることを図13に基づいて説明する。
図13において、第一次ピークP1及び第二次ピークP2に対応した領域としてE1,E2を設定する。これらの領域E1,E2は透過率が製品として不都合がない値、例えば、99.70%以上の領域である。領域E1は接合層13の厚みdが146nm〜225nmのエリアであり、この領域にシミュレーションで求められた第一次ピークP1の厚さ185.5nmが含まれる。領域E2は厚みdが330nm〜420nmのエリアであり、この領域にシミュレーションで求められた第二次ピークP2の厚さ375nmが含まれる。これらのエリアの範囲に前述の計算で求められた厚みdが含まれていれば前述の計算式が最適なものであると言える。
【0082】
前述の式から第一次ピークP1に対応して求められた厚みdは142nm以上213nm以下であり、この範囲にシミュレーションで求められた第一次ピークP1の厚さ185.5nmが含まれる。第二次ピークP2に対応して求められた厚みdは320nm以上391nm以下であり、この範囲に第二次ピークP2の厚さ375nmが含まれる。以上の通り、これらの厚さの範囲はシミュレーションで求められたピーク時の最も透過率の高い厚さを含むものであり、これらの範囲で接合層13の厚さを設定すれば、最も透過率の高い厚さあるいはそれに近似した厚さとすることができる。
【0083】
図14を参照して、1064nm帯で使用される発振器用光学素子の最適な接合層13の厚さを設定する方法について説明する。
図14のグラフから明らかな通り、接合層13の透過率が小さくなるピークは1回である。ここでは、定数Mとピークとの関係はM=P−1である。つまり、ピークPに対応した定数Mは0である。
図14の結果より、ピークにおいて、接合層13の屈折率No.1〜No.6の各々透過率に互いに差の小さな領域として、接合層の厚みdの値として、以下の値を1箇所、抽出し、
ピーク:d=375.0(nm)
このとき、波長λ=1064(nm)のときの接合層13の屈折率nを図8より
n=1.4943 とした。
【0084】
【表13】

【0085】
よって、ピークの光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=375.0(nm)、n=1.4943
nd=n×d=1.4943×375.0=560.32
このndを波長λ(=1064(nm))で規定すると、
nd/λ=560.32/1064≒0.53
従って、接合層13は以下の式を満足するように設定すれば、接合層13での多重反射を抑制できることが実証された。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
但し、波長:λ(nm)、波長λでの接合層13の屈折率:n、M:自然数
即ち、
ピーク:d=375.0(nm)のときは、M=0、α=0.03
【0086】
この領域で求められた厚みdが透過率の高い領域に含まれることを図14に基づいて説明する。
図14において、ピークPに対応した領域としてEを設定する。この領域Eは透過率が製品として不都合がない値、例えば、99.70%以上の領域である。領域Eは接合層13の厚みdが248nm〜500nmのエリアであり、この領域にシミュレーションで求められたピークPの厚さ375nmが含まれる。このエリアの範囲に前述の計算で求められた厚みdが含まれていれば前述の計算式が最適なものであると言える。
前述の式からピークPに対応して求められた厚みdは285nm以上427nm以下であり、この範囲にシミュレーションで求められたピークPの厚さ375nmが含まれる。計算で求めた厚さの範囲はシミュレーションで求められたピーク時の最も透過率の高い厚さを含むものであり、これらの範囲で接合層13の厚さを設定すれば、最も透過率の高い厚さあるいはそれに近似した厚さとすることができる。
【0087】
本実施形態のYAGレーザー加工用光学素子からなる光学素子1は、基本の354nm帯、2次の532nm帯、3次の1064nm帯の3タイプを共通して利用可能な汎用品とする場合には、接合層13の厚みdは3タイプに共通する範囲でなければならない。つまり、光学素子1を3波長共通のYAGレーザー加工用光学素子とするには、接合層13の厚みdは320nm以上359nm以下とする。
【0088】
従って、第2実施形態では、第1実施形態の(1)と同様の作用効果を奏することができる他、次の作用効果を奏することができる。
(7)光学素子1をYAGレーザー加工用光学素子としたから、YAGレーザー加工用光学素子の透過率を高いものにできる。
(8)波長λを354nm、屈折率nを1.5899、定数Mを1,2,3として前述の式から接合層13の厚みdを求め、201nm以上245nm以下、312nm以上359nm以下、424nm以上468nm以下とした。これらの範囲で接合層13の厚みdを設定することで、基本に対応したレーザー発振装置に対応したYAGレーザー加工用光学素子の透過率を高いものにできる。
【0089】
(9)波長λを532nm、屈折率nを1.4982、定数Mを0,1として前述の式から接合層13の厚みdを求め、142nm以上213nm以下、320nm以上391nm以下とした。これらの範囲で接合層13の厚みdを設定することで、2次に対応したYAGレーザー加工用光学素子の透過率を高いものにできる。
(10)波長λを1064nm、屈折率nを1.4943、定数Mを0として前述の式から接合層13の厚みdを求め、285nm以上427nm以下とした。この範囲で接合層13の厚みdを設定することで、3次に対応したYAGレーザー加工用光学素子の透過率を高いものにできる。
(11)基本に対応したYAGレーザー加工用光学素子での接合層13の厚みdと、2次に対応したYAGレーザー加工用光学素子での接合層13の厚みdと、3次に対応したYAGレーザー加工用光学素子での接合層13の厚みdとを重複する範囲320nm以上359nm以下に設定すれば、3つの波長域に対応できる汎用のYAGレーザー加工用光学素子を提供することができる。
【0090】
次に、本発明の第3実施形態を図15に基づいて説明する。
第3実施形態は光学素子をキセノンレーザー加工用光学素子とした例である。この光学素子は図1に示される積層波長板と同様に、第一基材11と、第二基材12と、これらの第一基材11と第二基材12とを接合する接合層13とを備えた構造である。この接合層13の厚みはdである。
第3実施形態の光学素子は第1実施形態の光学素子1と同様に製造されるので、ここでの説明を省略する。
【0091】
接合層13の厚みを100(nm)から500(nm)まで、50(nm)ステップで変化させたときの、前記接合層13を透過する波長λ=308(nm)の光の透過率をシミュレーションにより検証した結果を以下の表14に示す。
【0092】
【表14】

【0093】
図15を参照して、308nm帯で使用される光学素子の最適な接合層13の厚さを設定する方法について説明する。
図15において、屈折率nは1.7800である。図15のグラフから明らかな通り、接合層13の透過率が小さくなるピークは第一次ピークP1、第二次ピークP2及び第三次ピークP3の3回ある。ここでは、定数Mとピークとの関係はM=P+1である。つまり、第一次ピークP1に対応した定数Mは2であり、第二次ピークP2に対応した定数Mは3であり、第三次ピークP3に対応した定数Mは4である。
【0094】
図15の結果より、各ピーク毎に、接合層13の屈折率No.1〜No.6の各々の透過率に互いに差の小さな領域として、接合層の厚みdの値として、以下の値を3箇所、抽出した。
ピーク1:d=243.5(nm)
ピーク2:d=352.5(nm)
ピーク3:d=459.5(nm)
このとき、波長λ=308(nm)のときの接合層13の屈折率nを図8より
n=1.7800 とした。
【0095】
【表15】

【0096】
よって、ピーク1の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=243.5(nm)、n=1.7800
nd=n×d=1.7800×243.5≒433.4
このndを波長λ(=308(nm))で規定すると、
nd/λ=433.4/308≒1.40
同様に、ピーク2の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=352.5(nm)、n=1.7800
nd=n×d=1.7800×352.5≒627.5
このndを波長λ(=308(nm))で規定すると、
nd/λ=627.5/308≒2.04
同様に、ピーク3の光学膜厚ndは、以下のように求まる。
d=459.5(nm)、n=1.7800
nd=n×d=1.7800×459.5≒817.9
このndを波長λ(=308(nm))で規定すると、
nd/λ=817.9/308≒2.66
従って、接合層13は以下の式を満足するように設定すれば、接合層13での多重反射を抑制できることに想到した。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.1 …[2A]
但し、波長:λ(nm)、波長λでの接合層13の屈折率:n、M:自然数
即ち、
ピーク1:d=243.5(nm)のときは、M=2、α=−0.10
ピーク2:d=352.5(nm)のときは、M=3、α=0.04
ピーク3:d=459.5(nm)のときは、M=4、α=0.16
【0097】
第一次ピークP1に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.2 …[2]
波長λが308nmであり、この波長λに対応する屈折率nが1.7800である(図8参照)。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.7800×d/308=3/2+α
d=(1.5+α)×(308/1.7800)≒(1.5+α)×173
1.4×173≦d≦1.7×173
242≦d≦294
【0098】
第二次ピークP2に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2}+α
1.7800×d/308=2+α
d=(2+α)×(308/1.7800)≒(2+α)×173
1.9×173≦d≦2.2×173
329≦d≦381
第三次ピークP3に対応した厚みdを式から求める。
n×d/λ={(M+1)/2.5}+α
1.7800×d/308=2.5+α
d=(2.5+α)×(308/1.7800)≒(2.5+α)×173
2.4×173≦d≦2.7×173
415≦d≦467
本実施形態では、光学素子を308nm帯専用とする場合には、これらの3つの領域での厚みdの値のうち好ましい値を適宜設定する。
【0099】
これらの3つの領域で求められたdが透過率の高い領域に含まれることを図15に基づいて説明する。
図15は波長λが308nm帯にある場合の接合層厚さと接合層の透過率との関係のシミュレーションを示すグラフである。
図15のグラフから明らかな通り、接合層13の透過率が小さくなるピークは第一次ピークP1、第二次ピークP2及び第三次ピークP3の3回ある。ここでは、定数Mとピークとの関係はM=P+1である。つまり、第一次ピークP1に対応した定数Mは2であり、第二次ピークP2に対応した定数Mは3であり、第三次ピークP3に対応した定数Mは4である。
【0100】
図15において、第一次ピークP1から第三次ピークP3に対応した領域としてE1,E2,E3を設定する。これらの領域E1,E2,E3は透過率が製品として不都合がない値、例えば、98.8%以上の領域である。領域E1は接合層13の厚みdが212nm〜275nmのエリアであり、この領域にシミュレーションで求められた第一次ピークP1の厚さ243.5nmが含まれる。領域E2は厚みdが325nm〜380nmのエリアであり、この領域にシミュレーションで求められた第二次ピークP2の352.5nmが含まれる。領域E3は厚みdが435nm〜484nmのエリアであり、この領域にシミュレーションで求められた第三次ピークP3の459.5nmが含まれる。これらのエリアの範囲に前述の計算で求められた厚みdが含まれていれば前述の計算式が最適なものであると言える。
【0101】
第一次ピークP1に対応して求められた厚みdは242nm以上294nm以下であり、この範囲に第一次ピークP1の厚さ243.5nmが含まれる。第二次ピークP2に対応して求められた厚みdは329nm以上381nm以下であり、この範囲に第二次ピークP2の厚さ352.5nmが含まれる。第三次ピークP3に対応して求められた厚みdは415nm以上467nm以下であり、この範囲に第三次ピークP3の厚さ459.5nmが含まれる。以上の通り、これらの厚さの範囲はシミュレーションで求められたピーク時の最も透過率の高い厚さを含むものであり、これらの範囲で接合層13の厚さを設定すれば、最も透過率の高い厚さあるいはそれに近似した厚さとすることができる。
【0102】
従って、第3実施形態では、第1実施形態の(1)と同様の作用効果を奏することができる他、次の作用効果を奏することができる。
(12)光学素子1をキセノンレーザー加工用光学素子としたから、キセノンレーザー加工用光学素子の透過率を高いものにできる。
【0103】
なお、本発明は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
例えば、光学素子として、第1実施形態では積層波長板を説明し、第2実施形態ではYAGレーザー加工用光学素子を説明し、第3実施形態ではキセノンレーザー加工用光学素子を説明したが、本発明の光学素子はこれらに限定されるものではなく、透光性を有する第一基材と透光性を有する第二基材との間にプラズマ重合法により設けられた接合層で接合された光学素子であればよく、例えば、開口フィルター、その他の光学素子でもよい。
第1実施形態では、光学素子として光ピックアップ装置に用いられ、材料が水晶からなる第一基材と第二基材とを積層してなる波長板を例にして説明したが、本発明は基材の材料が水晶に限定されるものではなく、また波長板に限定されるものでもないことは言うまでもない。つまり、本発明では、水晶に代えてサファイヤ等の複屈折性を有する結晶材料を用いてもよく、さらには、結晶材料に代えて、単に透光性を有する材料を用いてもよい。
本発明に係る光学素子は、光ピックアップ装置に用いられるものに限定されるものではなく、プロジェクター装置等の投射型映像装置、その他の光学装置に広く用いられるものであることは言うまでもない。
【0104】
前記各実施形態において、プラズマ重合膜131を第一基材11と第二基材12との双方の主面に成膜したが、本発明では、第一基材11と第二基材12のうちのいずれか一方の基材の主面に成膜するものでもよい。
さらに、第1実施形態及び第2実施形態において、接合層13の厚みdを関係式から求めるにあたり、−0.1≦α≦+0.1の式[2A]でなく、−0.1≦α≦+0.2の式[2]を用いるものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、波長板、レーザー加工用光学素子、その他の光学素子に利用できる。
【符号の説明】
【0106】
1…光学素子、11…第一基材、12…第二基材、13…接合層、131…プラズマ重
合膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する第一基材と、透光性を有する第二基材と、前記第一基材と前記第二基材とを接合するプラズマ重合法により設けられた接合層と、を備える光学素子であって、
前記接合層は、
シロキサン(Si−O)結合と、結晶化度が45%以下であるSi骨格と、当該Si骨格に結合する脱離基と、を含み、
前記脱離基は、有機基で構成され、
前記接合層は、
その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与したとき、前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより発現した接着性を有するものであり、
前記接合層の厚みをd、透過する光の波長をλ、この波長λにおける前記接合層の屈折率をn、としたとき、
n×d/λ={(M+1)/2}+α …[1]
−0.1≦α≦+0.2 …[2]
但し、Mは自然数
を満足することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載された光学素子において、
前記第一基材と前記第二基材は、複屈折性を有することを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項2に記載された光学素子において、
前記第一基材と前記第二基材とは、それぞれ水晶からなることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された光学素子において、
前記波長λを405nm帯とし、前記屈折率nを1.5269としたとき、
前記Mが0,1,2のうちのいずれかであることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された光学素子において、
前記波長λを660nm帯とし、前記屈折率nを1.4950としたとき、
前記Mが0又は1であることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された光学素子において、
前記波長λを785nm帯とし、前記屈折率nを1.4944としたとき、
前記Mが0であることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された光学素子において、
前記波長λを354nm帯とし、前記屈折率nを1.5899としたとき、
前記Mが1,2,3のうちのいずれかであることを特徴とする光学素子。
【請求項8】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された光学素子において、
前記波長λを532nm帯とし、前記屈折率nを1.4982としたとき、
前記Mが0又は1であることを特徴とする光学素子。
【請求項9】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された光学素子において、
前記波長λを1064nm帯とし、前記屈折率nを1.4943としたとき、
前記Mが0であることを特徴とする光学素子。
【請求項10】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された光学素子において、
前記波長λを308nm帯とし、前記屈折率nを1.7800としたとき、
前記Mが2,3,4のうちのいずれかであることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−237767(P2011−237767A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44336(P2011−44336)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】