説明

光学膜を有する光学物品

【課題】 ポリオレフィン系合成樹脂基材との優れた密着性を有する光学膜を具備し、優れた光学性能を有する光学物品を提供する。
【解決手段】 ポリオレフィン系合成樹脂基材1と、複数の層からなり、ポリオレフィン系合成樹脂基材1上に形成した光学膜2を有する光学物品であって、ポリオレフィン系合成樹脂基材1に接触するフッ素系樹脂含有層21が紫外線硬化性のフッ素系樹脂を含有し、1.45以下の屈折率を有する光学物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系合成樹脂基材と光学膜からなる光学物品に関し、特にポリオレフィン系合成樹脂基材との優れた密着性を有する光学膜を有する光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系の小型化及び/又は軽量化や、光学系の製造コストの削減を目的として、樹脂製の光学物品が用いられてきている。光学物品に一般的に使用される樹脂にはメタクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)及びポリオレフィン系樹脂がある。これらのうちPMMAやPCは十分な耐熱性及び/又は耐湿性を有していない他、複屈折を起こすという短所を有することが知られている一方、ポリオレフィン系樹脂はこのような問題を有していない。このため、最近、ポリオレフィン系樹脂は光学物品基材用に特に有望視されている。
【0003】
十分な光学性能を得るために、光学物品の表面に、光学膜を形成することが多い。例えば対物レンズの表面には、入射光を効率よく透過させるために反射防止膜を成膜する。従来、光学膜を成膜する方法としてはスパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法や、CVD等の化学蒸着法が主流であった。
【0004】
特許第3439227号(特許文献1)は、ポリオレフィン系合成樹脂からなる光学部品の光学面及びこの光学面と同一方向で且つ光学面の外周にある被接着部の表面に光学膜が形成された合成樹脂製光学部材であって、光学膜の最上層が二酸化ケイ素からなり、最下層がAl2O3、TiO2、SiO2等の誘電体材料からなるものを記載している。この光学膜の各層は真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理成膜法によって形成される。しかし、最近は光学膜に一般的な光学性能に加えて導電性、撥水性、抗菌性等の機能を有する光学膜が望まれているのに対し、物理蒸着法又は化学蒸着法によると、これらの機能を有し得る樹脂製の光学膜を形成し難い。またこれらの方法は、真空機器を要するため高コストであるという問題も有している。
【0005】
一方、スプレーコート法、スピンコート法、ディップ法、フローコート法、スクリーン印刷法等の湿式法は低コストである上、上述のような種々の機能を有する膜の成膜にも適している。このため、フラットパネルディスプレイや自動車ガラス等の光学膜に実用化されてきている。しかし光学物品の基材がポリオレフィン系樹脂からなる場合、湿式法によって形成された光学膜は簡単に剥離してしまうという問題がある。これは、ポリオレフィン系樹脂が末端に水酸基等の結合性の官能基を有していないために、化学種と結合し難いためであると考えられている。
【0006】
【特許文献1】特許第3439227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、ポリオレフィン系合成樹脂基材との優れた密着性を有する光学膜を具備する光学物品であって、優れた光学性能を有する光学物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、紫外線硬化性のフッ素系樹脂からなる層はポリオレフィン系合成樹脂基材に対して十分な密着性を有することを発見し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明の光学物品はポリオレフィン系合成樹脂基材と、複数の層からなり、前記ポリオレフィン系合成樹脂基材上に形成された光学膜とを有し、前記光学膜は前記ポリオレフィン系合成樹脂基材に接触するフッ素系樹脂含有層を有し、前記フッ素系樹脂含有層は紫外線硬化性であって、1.45以下の屈折率を有することを特徴とする。
【0010】
前記フッ素系樹脂含有層の物理膜厚は10〜400 nmであるのが好ましい。前記フッ素系樹脂含有層はフッ素系の共重合体からなるのが好ましい。
【0011】
前記光学膜を構成する複数の層は、それぞれ紫外線硬化性の樹脂を含有するのが好ましい。また液体コーティング法によって形成された層であるのが好ましい。前記光学膜は反射防止膜であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学物品はポリオレフィン系合成樹脂基材と多層の光学膜とからなり、光学膜の各層のうち基材に接触するフッ素系樹脂含有層は紫外線硬化性のフッ素系樹脂を含有する。フッ素系樹脂からなる層はポリオレフィン系合成樹脂基材との優れた密着性を有しており、基材から剥離し難い。このため、光学膜全体も基材から剥離し難く優れた耐久性を有する。また紫外線硬化性であるため、ポリオレフィン系合成樹脂基材を加熱する必要なく作製可能である。さらに好ましい光学物品のフッ素系樹脂含有層は、物理膜厚10〜400 nmであるので、屈折率1.45以下であっても優れた光学性能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[1] 光学物品
図1は、本発明の光学物品の一例を示す。図1に示す光学物品は基材1と、基材1の表面11に設けられた反射防止膜2とからなる。反射防止膜2は多層構造であり、基材1上に形成されたフッ素系樹脂含有層21と、その上に形成された高屈折率層22及び低屈折率層23とからなる。
【0014】
基材1はポリオレフィン系合成樹脂からなる。図1に示す例では基材1はレンズであるが、本発明の光学物品の基材はこれに限定されない。光学物品の基材1はプリズム、ライトガイド、回折素子、偏光素子、平板、ファイバー、フィルム等でも良い。
【0015】
フッ素系樹脂含有層21は紫外線硬化性のフッ素系樹脂を含有する。フッ素系樹脂は非結晶性であるのが好ましい。非結晶性のフッ素系樹脂からなる層は優れた透明性を有する。非結晶性のフッ素系樹脂の具体例として、フルオロオレフィン系の共重合体、含フッ素脂肪族環構造を有する重合体、フッ素化アクリレート系の共重合体が挙げられる。フッ素系樹脂はエチレン性のフッ素含有共重合体であって、側鎖にカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有するのが好ましい。側鎖にカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有するエチレン性のフッ素含有共重合体はポリオレフィン系合成樹脂からなる基材1との大きな密着性を有する。
【0016】
フルオロオレフィン系の共重合体の例として37〜48質量%のテトラフルオロエチレンと、15〜35質量%のフッ化ビニリデンと、26〜44質量%のヘキサフルオロプロピレンとが共重合したものが挙げられる。
【0017】
含フッ素脂肪族環構造を有する重合体には、含フッ素脂肪族環構造を有するモノマーが重合したものや、少なくとも二つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを環化重合したものがある。含フッ素環構造を有するモノマーの重合により得られる重合体については、特公昭63-18964号等に記載されている。この重合体はパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)等の含フッ素環構造を有する重合体の単独重合、又はテトラフルオロエチレン等のラジカル重合性モノマーとの共重合により得られる。
【0018】
少なくとも二つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーの環化重合により得られる重合体は、特開昭63-238111号や特開昭63-238115号等に記載されている。この重合体はパーフルオロ(アリルビニルエーテル)やパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等のモノマーの環化重合、又はテトラフルオロエチレン等のラジカル重合性モノマーとの共重合により得られる。共重合体の例として、パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)等の含フッ素環構造を有するモノマーとパーフルオロ(アリルビニルエーテル)やパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等の少なくとも二つの重合性二重結合を有する含フッ素モノマーを共重合して得られるものが挙げられる。
【0019】
共重合可能な含フッ素モノマーにカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を付加した後で共重合すると、側鎖にカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有するフッ素含有共重合体を得ることができる。
【0020】
なお透明性を求められない光学膜のフッ素系樹脂含有層21は、結晶性を有するフッ素系樹脂を含有しても差し支えない。結晶性を有するフッ素系樹脂としてポリテトラフルオロエチレン樹脂、パーフルオロエチレンプロピレン樹脂、パーフルオロアルコキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂が挙げられる。
【0021】
フッ素系樹脂含有層21はフッ素系樹脂以外の樹脂を含有しても良い。フッ素系樹脂以外の樹脂の例としてアクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂以外の樹脂も紫外線硬化性であるのが好ましい。耐久性及び/又は硬度を向上させるために、フッ素系樹脂含有層21にフィラーを添加してもよい。フィラーの例としてコロイダルシリカ及び中空シリカが挙げられる。
【0022】
フッ素系樹脂含有層21は1.45以下の屈折率を有する。1.45超の屈折率を有する層は、フッ素系樹脂の含有量が小さ過ぎて、ポリオレフィン系合成樹脂からなる基材1との十分な密着性を有しない。フッ素系樹脂含有層21の物理膜厚は10〜400 nmであるのが好ましい。物理膜厚が10 nm未満であると、基材1と反射防止膜2との接着性が十分でない。400 nm超であると、光学特性が低過ぎる。
【0023】
高屈折率層22は1.6〜2.3の屈折率を有するのが好ましい。高屈折率層22は1.8〜2.3の屈折率を有する無機微粒子とバインダからなる複合層(以下、無機微粒子−バインダ複合層と言う)であるのが好ましく、無機微粒子と紫外線硬化性のバインダからなる複合層がより好ましい。無機微粒子と紫外線硬化性のバインダからなる複合層は液体コーティング法によって形成可能である。
【0024】
1.8〜2.3の屈折率を有する無機微粒子の例として酸化ジルコニウム、クライオライト、チオライト、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化タンタル及び酸化亜鉛からなる群より選択された少なくとも一種の無機物の微粒子が挙げられる。無機微粒子−バインダ複合層の屈折率は、無機微粒子の組成や含有率の他、バインダの組成にも依存する。レンズ1の形状や屈折率にも拠るが、高屈折率層22の物理膜厚は一般的には20〜200 nm程度である。
【0025】
低屈折率層23の組成はフッ素系樹脂含有層21と同じでも良いし、異なっても良い。フッ素系樹脂含有層21と異なる組成を有する低屈折率層23の例として、1.3〜1.5の屈折率を有する無機微粒子とバインダとからなる層が挙げられる。1.3〜1.5の屈折率を有する無機微粒子の具体例としてフッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化セリウム、酸化ケイ素、及びフッ化バリウムからなる群より選択された少なくとも一種の無機物の微粒子が挙げられる。より好ましい無機微粒子として、コロイダルシリカ微粒子が挙げられる。コロイダルシリカ微粒子はシランカップリング剤等によって表面処理されているのが好ましい。バインダは紫外線によって硬化した樹脂であるのが好ましい。低屈折率層23の物理膜厚は、一般的には50〜500 nm程度である。
【0026】
なお図1に示す例では、光学物品は基材1とその上に形成した3層構成の反射防止膜2とからなるが、本発明はこれに限定されない。例えば基材1上に(a) 反射防止膜に加えてハードコート膜、防眩膜、防曇膜、防汚膜又は帯電防止膜を有するもの、(b) 反射防止膜を有しておらず反射膜、半透膜、偏光膜又は干渉膜を有するものも本発明の範疇である。また3層構成の光学膜に限定されず、二層及び四層以上の層からなるものを含む。
【0027】
[2] 光学物品の製造方法
(1) フッ素系樹脂含有層
(a) フッ素含有組成物溶液の調製
フッ素系樹脂含有層21を形成するには、(a) フッ素含有重合体と、架橋性化合物とを含有する組成物の溶液を基材等に塗布した後で架橋させても良いし、(b) フッ素含有モノマー及びこれと共重合する単量体を含有する組成物の溶液を塗布した後、これらを重合させても良い。フッ素含有組成物を用いてフッ素系樹脂含有層を形成する方法については、特開平07-126552号、特開平11-228631号、特開平11-337706号等に詳細に記載されている。
【0028】
例えばフッ素含有オレフィン系化合物と、これと共重合する化合物と、溶媒とを混合し、フッ素含有組成物溶液とする。フッ素含有オレフィン系化合物/共重合化合物の混合比率は、共重合の比率に応じて適宜決定する。具体的には1H,1H,6H,6H‐パーフルオロ‐1,6‐ヘキサンジオールジアクリレート1molに対して7‐アリロキシカルボニル‐2,2,4,4,5,5,7,7‐オクタフルオロ‐3,6‐ジオキサヘプタン酸が1〜99 mol%となるように、これらを混合する。また予め100万以下の平均分子量を有する程度に共重合させ、得られたフッ素含有オレフィン系共重合体を含むフッ素含有組成物溶液としてもよい。平均分子量100万超であると、溶媒に溶け難過ぎる。フッ素含有オレフィン系重合体の濃度は、5〜80質量%とするのが好ましい。
【0029】
フッ素含有組成物溶液の調製方法を具体的に説明する。まず2‐プロペン‐1‐オールと、実質的に等モルのパーフルオロ‐3,6‐ジオキサオクタン-1,8-二酸とを、ジエチルエーテル及びMIBKの混合溶媒中で脱水縮重合反応させる。ジエチルエーテル/MIBKの体積比は0.1〜10とするのが好ましく、0.5〜2とするのがより好ましい。次いで、得られたエステル化合物と、1H,1H,6H,6H‐パーフルオロ‐1,6‐ヘキサンジオールジアクリレートとの重合により得られた共重合体と、自己開裂型ラジカル系重合開始剤とをMIBK等の極性溶媒に均一に分散させ、フッ素含有組成物溶液とする。フッ素含有組成物溶液の共重合体の濃度は0.5〜10 g/L(例えば4g/L)とするのが好ましく、重合開始剤の濃度は0.001〜0.1 g/L(例えば0.01 g/L)とするのが好ましい。
【0030】
フッ素含有オレフィン系化合物の種類や、共重合体の分子量にも拠るが、好ましい溶媒としてアセトン、メチルエチルケトン、メチルi-ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、パーフルオロヘキサン、パーフルオロベンゼン等のフッ素系溶剤及びこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
フッ素含有組成物溶液にはラジカル重合開始剤を配合する。ラジカル重合開始剤としては紫外線照射によりラジカルを発生する化合物が用いられる。好ましいラジカル重合開始剤の例として安息香酸エステル、ベンゾインエーテル、アセトフェノン、ベンゾフェノンやその誘導体、チオキサントン類、ベンジルジメチルケタール類、α-ヒドロキシアルキルフェノン類、ヒドロキシケトン類、アミノアルキルフェノン類及びアシルホスフィンオキサイド類が挙げられる。ラジカル重合開始剤の添加量は、フッ素含有組成物100質量部に対して0.1〜20質量部程度である。
【0032】
(b) コーティング
ディッピング法、スピン法、スプレー法、ロールコティング法、スクリーン印刷法等によって基材にフッ素含有組成物溶液の層を形成する。例えばディッピング法による場合、形成する層の厚さは溶液の濃度、浸漬時間、引き上げ時間等によって制御することができる。スピン法による場合、回転初速度、回転速度、回転時間等によって層の厚さを制御することができる。
【0033】
(c) 重合
フッ素含有組成物を架橋反応又は重合反応させる。UV照射装置を用いてフッ素含有組成物溶液の層に50〜10000 mJ/cm2程度でUV照射するのが好ましい。層の厚さにも拠るが、照射時間は通常0.1〜60秒程度である。次いでフッ素含有組成物溶液の溶剤を揮発させる。溶剤を揮発させるには、室温で保持しても良いし、30〜110℃程度に加熱しても良い。
【0034】
(2) 高屈折率層の形成
無機微粒子−バインダ複合層は、ディップコート法、スピン法、スプレー法、ロールコティング法、スクリーン印刷法等の湿式の方法(液体コーティング法)で形成することができる。
【0035】
高屈折率の無機微粒子と、紫外線硬化性のバインダとからなる複合層を例にとって、高屈折率層22の作製方法を説明する。この高屈折率層22の作製方法は、バインダ成分と高屈折率の無機微粒子(以下、高屈折率微粒子)とを含有するスラリーを調製し、このスラリーをフッ素系樹脂含有層21上に塗布する以外、フッ素系樹脂含有層21の作製方法とほぼ同じであるので、相違点のみ以下に説明する。なお本明細書中、「バインダ成分」とは、重合によりバインダとなるモノマー及び/又はオリゴマーを言う。
【0036】
高屈折率微粒子の平均粒径は5〜80 nm程度であるのが好ましい。平均粒径80 nm超であると、反射防止膜の透明性が悪過ぎる。平均粒径5nm未満のものは作製困難である。高屈折率微粒子/バインダ成分の質量比は0.05〜0.2とするのが好ましい。高屈折率微粒子/バインダ成分の質量比が0.2超であると、均一に塗布し難過ぎる上、形成する層が脆過ぎる。質量比0.05未満であると、所望の屈折率にし難過ぎる。
【0037】
紫外線硬化性のバインダ成分としてはアクリル酸エステルが好ましい。アクリル酸エステルの具体例として2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシ3-フェノキシプロピルアクリレート、カルボキシポリカプロラクトンアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸及びアクリルアミド等の単官能(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート及びペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート等のジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート誘導体及びジペンタエリスリトールペンタアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート、並びにこれらが重合したオリゴマーが挙げられる。
【0038】
高屈折率微粒子含有スラリーにラジカル重合開始剤を配合する。ラジカル重合開始剤としては紫外線照射によりラジカルを発生する化合物が用いられる。好ましいラジカル重合開始剤の例として安息香酸エステル、ベンゾインエーテル、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾフェノンやその誘導体、チオキサントン類、ベンジルジメチルケタール類、α-ヒドロキシアルキルフェノン類、ヒドロキシケトン類、アミノアルキルフェノン類及びアシルホスフィンオキサイド類が挙げられる。ラジカル重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して0.1〜20質量部程度である。
【0039】
2種以上の高屈折率微粒子及び/又はバインダ成分をスラリーに配合しても良い。また物性を損なわない範囲であれば、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤等、一般的な添加剤を使用することができる。
【0040】
スラリーの濃度は形成する薄膜の厚さに影響する。溶剤の例としてメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、3-メトキシプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール等のアルコキシアルコール類、ジアセトンアルコール等のケトール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルi-ブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられる。溶剤の使用量は高屈折率微粒子とバインダ成分の合計100質量部あたり、20〜10000質量部程度である。
【0041】
得られた高屈折率微粒子含有スラリーをフッ素系樹脂含有層21上に塗布してバインダ成分を重合し、乾燥すると、高屈折率層22が形成する。
【0042】
(3) 低屈折率層の形成
低屈折率層23の作製方法は、(a) 低屈折率層23がフッ素系樹脂含有層21と同じ組成を有する場合、上述のフッ素系樹脂含有層21の作製方法と同じであり、(b) 低屈折率層23が低屈折率の無機微粒子とバインダとからなる複合層の場合、低屈折率の無機微粒子とバインダ成分とを含有するスラリーを調製し、得られた低屈折率微粒子含有スラリーを高屈折率層上に塗布する以外、上述の高屈折率層22の作製方法とほぼ同じである。ただし低屈折率微粒子含有スラリーの濃度や、紫外線照射時間は、低屈折率層23の物理膜厚等に応じて適宜調整する必要がある。
【実施例】
【0043】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0044】
実施例1
(a) 低屈折率塗布液(フッ素系樹脂含有層形成用及び低屈折率層形成用の塗布液)
0.5 mol の2-プロペン‐1‐オールと、0.5 molのパーフルオロ‐3,6‐ジオキサオクタン‐1,8‐二酸とを、ジエチルエーテル及びMIBKの混合溶媒(ジエチルエーテル:MIBKの体積比は1:1)中で脱水縮重合反応させた。得られたエステル化合物と、1H,1H,6H,6H‐パーフルオロ‐1,6‐ヘキサンジオールジアクリレートとを重合させ、得られた共重合体と、自己開裂型ラジカル系重合開始剤とを、表1に示す濃度となるようにMIBKに均一に分散させた。この分散液をフッ素系樹脂含有層用及び低屈折率層用の塗布液とした。
【0045】
【表1】

注 共重合体は、2-プロペン-1-オール及びパーフルオロ-3,6-ジオキサオクタン-1,8-二酸のエステル化物と、1H,1H,6H,6H‐パーフルオロ‐1,6‐ヘキサンジオールジアクリレートとの共重合体を示す。
【0046】
(b) 高屈折率塗布液
シランカップリング処理した酸化チタン微粒子(平均粒径80 nm)と、シリコーン樹脂と、アクリル樹脂(質量平均分子量300)と、自己開裂型ラジカル系重合開始剤(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)とを表2の濃度になるように、ブタノール、メチルブチルケトン及びi-プロピルアルコールからなる混合溶媒(ブタノール:メチルブチルケトン:i-プロピルアルコールの体積比は、1:1:1)に分散させ、高屈折率層用の塗布液を得た。
【0047】
【表2】

【0048】
ZEONEX330R(日本ゼオン株式会社製)からなるレンズ1に、スプレーコート法によって、実施例1(a) で調製した低屈折率塗布液を塗布し、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射し、フッ素系樹脂含有層21を形成した。フッ素系樹脂含有層21の物理層厚は10 nmであった。
【0049】
フッ素系樹脂含有層21上に、スプレーコート法によって高屈折率層塗布液を塗布して1500 mJ/cm2で紫外線照射した後、低屈折率塗布液を塗布して1500 mJ/cm2で紫外線照射した。高屈折率層22の屈折率は1.78であり、物理層厚は36 nmであった。また低屈折率層23の屈折率は1.36であり、物理層厚は109 nmであった。
【0050】
得られた光学物品の分光反射率を入射角0°の位置で測定した。分光反射率の測定結果を図2に示す。図2に示すように、波長430〜590 nmで反射率1%以下であった。
【0051】
実施例2
アクリル系ハードコート液(ジーイー東芝シリコーン株式会社製、商品名UVHC8558)を、i-プロピルアルコールで10倍に希釈し、ハードコート塗布液を得た。
【0052】
フッ素系樹脂含有層21の物理層厚を202 nmとし、高屈折率層22の物理層厚を77 nmとした以外実施例1と同様にして、ZEONEX330R(日本ゼオン株式会社製)からなるレンズにフッ素系樹脂含有層21と高屈折率層22をこの順で形成した。得られた高屈折率層22上に、ハードコート塗布液をスプレーコート法によって塗布した後、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射し、ハードコート層を形成した。ハードコート層の屈折率は1.49であり、物理層厚は92 nmであった。
【0053】
得られた光学物品の分光反射率を入射角0°の位置で測定した。分光反射率の測定結果を図3に示す。図3に示すように、波長480〜630 nmで反射率1%以下であった。
【0054】
実施例3
フッ素系樹脂含有層21の物理層厚を185 nmとし、高屈折率層22の物理層厚を142 nmとし、低屈折率層23の物理層厚を92 nmとした以外実施例1と同様にして、ZEONEX330R(日本ゼオン株式会社製)からなるレンズ1にフッ素系樹脂含有層21、高屈折率層22及び低屈折率層23をこの順に形成した。低屈折率層23の形成には、フッ素系樹脂含有層21と同じ塗布液、すなわち実施例1(a) で調製した低屈折率塗布液を用いた。
【0055】
得られた光学物品の分光反射率を入射角0°の位置で測定した。分光反射率の測定結果を図4に示す。図4に示すように、波長380〜750 nmで反射率1.2%以下であった。
【0056】
比較例1
実施例1と同じ組成を有する低屈折率塗布液及び高屈折率塗布液を使用し、ZEONEX330R(日本ゼオン株式会社製)からなるレンズ1に物理層厚33 nmの高屈折率層22と、物理層厚110 nmの低屈折率層23とをこの順に形成した。
【0057】
得られた光学物品の分光反射率を図5に示す。図5に示すように、波長440〜600 nmで反射率1%以下であった。
【0058】
実施例1〜3及び比較例2の光学物品の反射防止膜の一部に、それぞれセロテープ(登録商標)(ニチバン株式会社製)を貼り付けた。次いで、それぞれのテープをレンズ1の表面に対して45°の方向に勢いよく剥がし、反射防止膜の表面を観察した。実施例1〜3の光学物品の反射防止膜表面は、貼り付け前と変わらず平滑な状態であったのに対し、比較例1においてはテープと共に反射防止膜も剥がれ、レンズ1の一部が露出していた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の光学物品の一例を示す断面図である。
【図2】実施例1の多層反射防止膜付きレンズの分光反射率を示すグラフである。
【図3】実施例2の多層反射防止膜付きレンズの分光反射率を示すグラフである。
【図4】実施例3の多層反射防止膜付きレンズの分光反射率を示すグラフである。
【図5】比較例1の多層反射防止膜付きレンズの分光反射率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1・・・基材
11・・・表面
2・・・反射防止膜
21・・・フッ素系樹脂含有層
22・・・高屈折率層
23・・・低屈折率層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系合成樹脂基材と、複数の層からなり前記ポリオレフィン系合成樹脂基材上に形成された光学膜とを有する光学物品であって、前記光学膜は前記ポリオレフィン系合成樹脂基材に接触するフッ素系樹脂含有層を有し、前記フッ素系樹脂含有層は紫外線硬化性であって、1.45以下の屈折率を有することを特徴とする光学物品。
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品において、前記フッ素系樹脂含有層の物理膜厚が10〜400 nmであることを特徴とする光学物品。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光学物品において、前記フッ素系樹脂含有層がエチレン性のフッ素含有共重合体であって、側鎖にカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基を有するものからなることを特徴とする光学物品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光学物品において、前記光学膜を構成する複数の層がそれぞれ紫外線硬化性の樹脂を含有することを特徴とする光学物品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光学物品において、前記光学膜を構成する各層が液体コーティング法によって形成された層であることを特徴とする光学物品。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の光学物品において、前記光学膜が反射防止機能を有することを特徴とする光学物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−72019(P2006−72019A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255974(P2004−255974)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】