説明

光学補償フィルムの製造方法、及び偏光板の製造方法

【課題】要求される特性をフィルム面内に均一に有する光学補償フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】ノルボルネン系樹脂フィルムを縦方向と横方向に逐次二軸延伸して光学補償フィルムを製造する方法であって、横延伸工程後に、横延伸率を緩和する工程を設けることを特徴とする光学補償フィルムの製造方法であって、前記緩和工程は、横延伸されたノルボルネン系フィルムを、所定時間、所定温度に保持することにより行なわれ、かつ、前記所定温度はノルボルネン系樹脂のガラス転移点マイナス30℃からガラス転移点プラス30℃の範囲内の温度であり、前記所定時間は30秒〜180秒の間の時間である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置の視野角改善やコントラスト改善に使用される光学補償フィルムとその製造方法、及び該フィルムを用いた偏光板、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータやワードプロセッサ等の種々の画面表示にはSTN型等の複屈折性を利用した高コントラストな液晶表示装置が使用されている。かかる液晶表示装置では、偏光板を介して直線偏光とした入射光が液晶セルによる複屈折で楕円偏光となり、それを偏光板を介して見た場合にディスプレイが黄色ないし青色系統に着色する問題がある。そのため、液晶セル透過後の楕円偏光を直線偏光に戻して着色を防止すべく、液晶セルの複屈折による位相差を補償する手段として、液晶セルと偏光板の間に延伸フィルムからなる位相差板(光学補償フィルム)を介在させるFTN方式が提案されている。
【0003】
しかし、前記FTN方式における光学補償フィルムとして、普通の延伸フィルムを用いたのでは、視点を若干変えるだけで再び着色表示が現れるなど、白黒表示として見ることができる視野角が狭く、また、良好なコントラストで見ることができる視野角も狭く視認性に劣る。そのため、液晶表示装置用の視野角改善やコントラスト改善に使用される光学補償フィルムとして、フィルムの厚さをd、フィルム面内の主屈折率をnx、ny、厚さ方向の主屈折率をnz、かつ、nx>nyとした場合に、面内のレターデーション値(Re=(nx−ny)d)が0〜500nm、厚み方向のレターデーション値(Rth=(nx−nz)d)が0〜500nm、Re/Rth<1のフィルムが要求されている。
【0004】
ところが、上記の特性を満足する光学補償フィルムは、従来の縦一軸延伸のみや横一軸延伸のみによる方法では得られなかった。また、汎用の包装用フィルム等の製造に使用されている逐次二軸延伸でも部分的には上記特性は得られるが、フィルム面内の均一性に欠けるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、前記特性をフィルム面内に均一に有する光学補償フィルムとその製造方法、及び該フィルムを用いた偏光板、液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため本発明の光学補償フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを縦方向と横方向に逐次二軸延伸して光学補償フィルムを製造する方法であって、横延伸工程後に横延伸率を緩和する工程を設けることを特徴とする。緩和工程における緩和率は、20%以内であるのが好ましい。
【0007】
また、前記の方法により製造された本発明の光学補償フィルムは、フィルムの厚さをd、フィルム面内の主屈折率をnx、ny、厚さ方向の主屈折率をnz、かつnx>nyとした場合、フィルム面内のレターデーション値(Re=(nx−ny)d)が0〜500nm、厚み方向のレターデーション値(Rth=(nx−nz)d)が0〜500nm、Re/Rth<1であることを特徴とする。
【0008】
また、前記の方法により製造された本発明の光学補償フィルムは、フィルムの厚さをd、フィルム面内の主屈折率をnx、ny、厚さ方向の主屈折率をnz、かつnx>nyとした場合、フィルム面内のレターデーション値(Re=(nx−ny)d)が10〜100nm、厚み方向のレターデーション値(Rth=(nx−nz)d)が100〜300nm、Re/Rthが1〜5であることを特徴とする。また、本発明の光学補償フィルムは、シート幅の80%以上において幅方向のRe分布が±10%の範囲内であることを特徴とする。
【0009】
また、熱可塑性樹脂フィルムは、ノルボルネン系樹脂フィルムが好ましい。
【0010】
また、本発明の偏光板は、前記光学補償フィルムと偏光板との積層体からなる偏光板であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の液晶表示装置は、前記光学補償フィルムを液晶セルの少なくとも片側に配置したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の液晶表示装置は、前記偏光板を液晶セルの少なくとも片側に配置したことを特徴とする。
【0013】
本発明の製造方法によれば、フィルムの光学軸角度のバラツキが低減されるので、偏光板や液晶表示装置に使用した場合に白黒表示として見ることができる視野角が広く、良好なコントラストで見ることができる視野角も広く視認性に優れた光学補償フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において使用される熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、酢酸セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。フィルムは、キャスティング法、カレンダー法、押出し法のいずれで製造したものでもよい。中でも、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂が好ましい。ポリノルボルネン系樹脂は、光弾性係数が比較的小さく、柔軟性があり曲げ応力や剪断応力に対して割れや裂け等が生じにくいので、特に好ましい。熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、特に制限はなく、適宜なものを使用することができる。
【0015】
延伸処理に用いる熱可塑性樹脂フィルムの厚さは特に限定はなく、作製される延伸フィルムの使用目的などに応じて適宜に決定することができる。一般には、安定した延伸処理により均質な延伸フィルムを得る点などより、3mm以下、好ましくは1μm〜1mm、特に好ましくは5〜500μmの厚さのフィルムが用いられる。
【0016】
本発明において、縦方向と横方向に逐次二軸延伸する場合、縦方向の延伸にはロール間延伸、圧延延伸等を、横方向の延伸にはテンター等を使用することができる。テンターのレール開き角は10度以内、好ましくは5度以内にするのがよい。レール開き角を狭くすることにより、横延伸時に生じるボーイング現象を抑制することができ、光学軸角度分布のバラツキを低減することができる。縦方向と横方向の延伸の順序は任意であり、横延伸工程後に横延伸率を緩和する工程を設ければよい。緩和工程は、横延伸工程後に設ければよく、回数等の制限はない。緩和工程を設けることにより、光学軸角度のバラツキを低減することができる。本発明においては、例えば、(1)縦一軸延伸した後に横一軸延伸して緩和する方法、(2)縦一軸延伸した後に横一軸延伸して緩和し、さらに縦または横方向に延伸する方法、(3)横一軸延伸した後に緩和し、縦一軸延伸する方法、(4)横一軸延伸した後に横一軸延伸して緩和する方法等が挙げられる。
【0017】
熱可塑性樹脂フィルムの延伸温度は、用いる樹脂の種類によっても異なるが、通常は80〜250℃、好ましくは120〜200℃、特に好ましくは140〜180℃である。
【0018】
延伸倍率は、縦方向は1〜5倍、好ましくは1〜2倍、 特に好ましくは1.1〜1.5倍である。また、横方向は1〜5倍、好ましくは1〜2倍、特に好ましくは1.1〜1.5倍である。縦方向の延伸倍率と横方向の延伸倍率の比は、縦延伸倍率/横延伸倍率=0.2〜5.0であり、好ましくは0.3〜3.0、特に好ましくは0.5〜1.0である。
【0019】
緩和工程では、横延伸された熱可塑性樹脂フィルムを所定時間、所定温度に保持して、延伸フィルムを収縮させる。緩和率は20%以内であるのが好ましく、特に15%以内であるのが好ましい。緩和率が高すぎると、フィルムが弛み走行性が悪くなったり、特性バラツキが大きくなるからである。保持温度は、上記熱可塑性樹脂のガラス転移点マイナス30℃からガラス転移点プラス30℃の範囲内であるのが好ましい。保持温度が高すぎると、所望の特性(位相差)が得られなくなり、一方、低すぎると延伸過程での分子配向が凍結されてレターデーション値を均一化することができなくなるからである。保持時間は、10〜300秒、好ましくは30秒〜180秒である。保持時間が短すぎると応力緩和効果が小さくレターデーション値を均一化することができず、長すぎるとフィルムの厚み方向のレターデーション値のバラツキが増加する。
【0020】
本発明の製造方法によれば、フィルムの厚さd、フィルム面内の主屈折率をnx、ny、厚さ方向の主屈折率をnz、かつnx>nyとした場合に、面内のレターデーション値(Re)が0〜500nm、厚み方向のレターデーション値(Rth)が0〜500nm、Re/Rth<1である光学補償フィルムを作製することができる。
【0021】
また、本発明の製造方法により作製される光学補償フィルムは、前記面内のレターデーション値(Re)が10〜100nm、前記厚み方向のレターデーション値(Rth)が100〜300nm、Rth/Reが1〜5である。
【0022】
さらに、本発明の製造方法により作製される光学補償フィルムは、シート幅の80%以上において幅方向のRe分布が±10%の範囲内にあり、Reのバラツキが少なく面内の均一性に優れているものである。すなわち、延伸処理により作製したフィルムの幅方向のReを測定した場合に、フィルム中央のReと幅方向のReとの差がフィルム中央のReに対して±10%以内にある割合が80%以上を占める。フィルムの厚さは、使用目的に応じた位相差などにより適宜に決定することができるが、一般には1mm以下、好ましくは1〜500μm、特に好ましくは5〜300μmである。
【0023】
本発明の光学補償フィルムは、1枚で使用しても重畳体として使用してもよい。重畳数は任意であるが、光の透過率などの点より2〜5枚の重畳が一般的である。重畳する延伸フィルムの組合せも任意であり、同じ配向角度のもの同士や異なる配向角度のもの同士、同素材のもの同士や異なる素材のもの同士、同じ位相差のもの同士や異なる位相差のもの同士などを適宜に組合せることができる。
【0024】
次に、本発明で用いる偏光板について説明する。本発明で用いる偏光板の基本的な構成は、二色性物質含有のポリビニルアルコール系偏光フィルム等からなる偏光子の片側又は両側に、適宜の接着層、例えばビニルアルコール系ポリマー等からなる接着層を介して保護層となる透明保護フィルムを接着したものからなる。
【0025】
偏光子(偏光フィルム)としては、例えばポリビニルアルコールや部分ホルマール化ポリビニルアルコール等の従来に準じた適宜なビニルアルコール系ポリマーよりなるフィルムに、ヨウ素や二色性染料等よりなる二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適宜な処理を適宜な順序や方式で施したもので、自然光を入射させると直線偏光を透過する適宜なものを用いることができる。特に、光透過率や偏光度に優れるものが好ましい。偏光フィルムの厚さは、5〜80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0026】
偏光子(偏光フィルム)の片側又は両側に設ける透明保護層となる保護フィルム素材としては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れるポリマーからなるフィルム等が好ましく用いられる。そのポリマーの例としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート系樹脂やポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等があげられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
偏光特性や耐久性などの点より、特に好ましく用いることができる透明保護フィルムは、表面をアルカリなどでケン化処理したトリアセチルセルロースフィルムである。透明保護フィルムの厚さは、任意であるが一般には偏光板の薄型化などを目的に500μm以下、好ましくは5〜300μm、特に好ましくは5〜150μmとされる。なお、偏光フィルムの両側に透明保護フィルムを設ける場合、その表裏で異なるポリマー等からなる透明保護フィルムとすることもできる。保護層に用いられる透明保護フィルムは、本発明の目的を損なわない限り、ハードコート処理や反射防止処理、スティッキングの防止や拡散ないしアンチグレア等を目的とした処理などを施したものであってもよい。ハードコート処理は、偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばシリコーン系、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り性等に優れる硬化皮膜を、透明保護フィルムの表面に付加する方式などにて形成することができる。
【0028】
一方、反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止は隣接層との密着防止を目的に、アンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止などを目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式等による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。
【0029】
前記の透明微粒子には、例えば平均粒径が0.5〜20μmのシリカやアルミナ、チタニアやジルコニア、酸化錫や酸化インジウム、酸化カドミウムや酸化アンチモン等が挙げられ、導電性を有する無機系微粒子を用いてもよく、また、架橋又は未架橋のポリマー粒状物等からなる有機系微粒子等を用いることもできる。透明微粒子の使用量は、透明樹脂100質量部あたり2〜70質量部、とくに5〜50質量部が一般的である。
【0030】
透明微粒子配合のアンチグレア層は、透明保護フィルムそのものとして、あるいは透明保護フィルム表面への塗工層等として設けることができる。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角を拡大するための拡散層(視角補償機能など)を兼ねるものであってもよい。なお、上記の反射防止層やスティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、それらの層を設けたシートなどからなる光学層として透明保護フィルムとは別体のものとして設けることもできる。
【0031】
前記偏光子(偏光フィルム)と保護層である透明保護フィルムとの接着処理は、特に限定されるものではないが、例えば、ビニルアルコール系ポリマーからなる接着剤、あるいは、ホウ酸やホウ砂、グルタルアルデヒドやメラミン、シュウ酸などのビニルアルコール系ポリマーの水溶性架橋剤から少なくともなる接着剤等を介して行うことができる。これにより、湿度や熱の影響で剥がれにくく、光透過率や偏光度に優れるものとすることができる。かかる接着層は、水溶液の塗布乾燥層等として形成されるものであるが、その水溶液の調製に際しては必要に応じて、他の添加剤や、酸等の触媒も配合することができる。
【0032】
偏光板は、実用に際して他の光学層と積層した光学部材として用いることができる。その光学層については特に限定はなく、例えば反射板や半透過反射板、位相差板(1/2波長板、1/4波長板などのλ板も含む)、本発明の光学補償フィルムや輝度向上フィルムなどの、液晶表示装置等の形成に用いられることのある適宜な光学層の1層または2層以上を用いることができ、特に、偏光子と保護層からなる偏光板に、更に反射板または半透過反射板が積層された反射型偏光板または半透過反射板型偏光板、前述した偏光子と保護層からなる偏光板に、更に位相差板が積層されている楕円偏光板または円偏光板、前述した偏光子と保護層からなる偏光板に、更に本発明の光学補償フィルムが積層されている偏光板、あるいは、前述した偏光子と保護層からなる偏光板に、更に輝度向上フィルムが積層されている偏光板が好ましい。
【0033】
前記の反射板は、それを偏光板に設けて反射型偏光板を形成するためのものであり、反射型偏光板は、通常液晶セルの裏側に設けられ、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置などを形成でき、バックライト等の光源の内蔵を省略できて液晶表示装置の薄型化を図りやすいなどの利点を有する。
【0034】
反射型偏光板の形成は、必要に応じ上記した透明保護フィルム等を介して偏光板の片面に金属等からなる反射層を付設する方式などの適宜な方式にて行なうことができる。その具体例としては、必要に応じマット処理した透明保護フィルムの片面に、アルミニウム等の反射性金属からなる箔や蒸着膜を付設して反射層を形成したものなどが挙げられる。
【0035】
また、微粒子を含有させて表面を微細凹凸構造とした上記の透明保護フィルムの上に、その微細凹凸構造を反映させた反射層を有する反射型偏光板なども挙げられる。表面微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させて指向性やギラギラした見栄えを防止し、明暗のムラを抑制することができる利点などを有する。透明保護フィルムの表面微細凹凸構造を反映させた微細凹凸構造の反射層の形成は、例えば真空蒸着方式、イオンプレーティング方式、スパッタリング方式等の蒸着方式やメッキ方式などの適宜な方式で金属を透明保護フィルムの表面に直接付設する方法などにより行なうことができる。
【0036】
また、反射板は、上記の偏光板の透明保護フィルムに直接付設する方式に代えて、その透明保護フィルムに準じた適宜なフィルムに反射層を設けてなる反射シートなどとして用いることもできる。反射板の反射層は、通常金属からなるので、その反射面がフィルムや偏光板等で被覆された状態の使用形態が、酸化による反射率の低下防止、ひいては初期反射率の長期持続の点や、保護層の別途付設の回避の点などから好ましい。
【0037】
なお、半透過型偏光板は、上記において反射層で光を反射し、かつ透過するハーフミラーなどの半透過型の反射層とすることにより得ることができる。半透過型偏光板は、通常液晶セルの裏側に設けられ、液晶表示装置などを比較的明るい雰囲気で使用する場合には、視認側(表示側)からの入射光を反射させて画像を表示し、比較的暗い雰囲気においては、半透過型偏光板のバックサイトに内蔵されているバックライトなどの内蔵光源を使用して画像を表示するタイプの液晶表示装置などを形成できる。すなわち、半透過型偏光板は、明るい雰囲気下では、バックライト等の光源使用のエネルギーを節約でき、比較的暗い雰囲気下においても内蔵光源を用いて使用できるタイプの液晶表示装置などの形成に有用である。
【0038】
輝度向上フィルムは、自然光を入射させると所定偏光軸の直線偏光又は所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを前述した偏光子と保護層とからなる偏光板と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得ると共に、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光を更にその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上板に再入射させ、その一部又は全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図ると共に、偏光子に吸収されにくい偏光を供給して液晶画像表示等に利用できる光量の増大を図ることにより輝度を向上させることができるものである。
【0039】
前記の輝度向上フィルムとしては、例えば誘電体の多層薄膜や屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体の如き、所定偏光軸の直線偏光を透過して他の光は反射する特性を示すもの、コレステリック液晶層、特にコレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持したものの如き、左回り又は右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すものなどの適宜なものを用いることができる。
【0040】
従って、前記の所定偏光軸の直線偏光を透過するタイプの輝度向上フィルムでは、その透過光をそのまま偏光板に偏光軸を揃えて入射させることにより、偏光板による吸収ロスを抑制しつつ効率よく透過させることができる。一方、コレステリック液晶層の如く円偏光を透過するタイプの輝度向上フィルムでは、そのまま偏光子に入射させることもできるが、吸収ロスを抑制する点よりその透過円偏光を位相差板を介し直線偏光化して偏光板に入射させることが好ましい。なお、その位相差板として1/4波長板を用いることにより、円偏光を直線偏光に変換することができる。
【0041】
可視光域などの広い波長範囲で1/4波長板として機能する位相差板は、例えば波長550nmの光などの単色光に対して1/4波長板として機能する位相差層と他の位相差特性を示す位相差層、例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方式などにより得ることができる。従って、偏光板と輝度向上フィルムの間に配置する位相差板は、1層または2層以上の位相差からなるものであってよい。
【0042】
なお、コレステリック液晶層についても、反射波長が相違するものの組合せにして2層または3層以上重畳した配置構造とすることにより、可視光域等の広い波長範囲で円偏光を反射するものを得ることができ、それに基づいて広い波長範囲の透過円偏光を得ることができる。
【0043】
次に、前述した偏光板に、更に光学補償フィルムが積層されている偏光板について説明する。
【0044】
本発明の偏光板は、上記偏光板に本発明の光学補償フィルムを1枚以上積層させたものであり、偏光板と2層または3層以上積層したものからなっていてもよい。従って、上記の反射型偏光板や半透過型偏光板と本発明の光学補償フィルムを組合せた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであってもよい。積層方法については特に限定はなく、粘着層等の適宜な接着手段を用いることができる。2層または3層以上の光学層を積層した偏光板は、液晶表示装置等の製造工程で順次別個に積層する方式でも形成することができるが、予め積層して光学部材とした光学補償板一体型偏光板は、品質の安定性や組立作業性等に優れているので、液晶表示装置等の製造効率を向上させることができる利点がある。
【0045】
次に、本発明の光学補償フィルム、または前述した偏光板に更に本発明の光学補償フィルムを積層した偏光板を、液晶セルの少なくとも片側に配置した液晶表示装置について説明する。
【0046】
本発明の液晶表示装置は、偏光板を液晶セルの片側又は両側に配置してなる透過型や反射型、あるいは透過・反射両用型等の従来に準じた適宜な構造を有するものとして形成することができる。従って、液晶表示装置を形成する液晶セルは任意であり、例えば薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型のもの、ツイストネマチック型やスーパーツイストネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型のもの等の適宜なタイプの液晶セルを用いたものであってよい。
【0047】
また、液晶セルの両側に偏光板や光学部材を設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えばプリズムアレイシートやレンズアレイシート、光拡散板やバックライト等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0048】
本発明の光学補償フィルムまたは偏光板を液晶セルと接着するため、粘着層を設けることもできる。その粘着層は、アクリル系等の従来公知の粘着剤を用いて適宜形成することができる。中でも、吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる液晶表示装置の形成性等の点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層であることが好ましい。また、微粒子を含有して光拡散性を示す粘着層等とすることもできる。
【0049】
偏光板や光学部材に設けた粘着層が表面に露出する場合には、その粘着層を実用に供するまでの間、汚染防止等を目的にセパレータにて仮着カバーすることが好ましい。セパレータは、上記の透明保護フィルム等に準じた適宜な薄葉体に、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤による剥離コートを設ける方式等により形成することができる。
【0050】
なお、上述した偏光板や光学部材を形成する偏光フィルムや透明保護フィルム、光学層や粘着層等の各層は、例えばサリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式等の適宜な方式により紫外線吸収能をもたせたものであってもよい。次に本発明を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
厚さ100μmのポリノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「アートンフィルム」)を、2対のピンチロール間でロールの周速差によって縦延伸を行う装置を使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.10倍で縦方向に延伸した後、テンターを使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.50倍で横方向に延伸した。延伸フィルムを、温度180℃で、フィルム幅が98%になるまで60秒間緩和し、フィルム中央の厚みが65μm、幅360mmの光学補償フィルムを作製した。
【0052】
(実施例2)
厚さ100μmのポリノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「アートンフィルム」)を、2対のピンチロール間でロールの周速差によって縦延伸を行う装置を使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.10倍で縦方向に延伸した後、テンターを使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.50倍で横方向に延伸した。延伸フィルムを、温度180℃で、フィルム幅が98%になるまで60秒間緩和した。これを、さらに、延伸温度180℃、延伸倍率1.02倍で縦方向に延伸し、フィルム中央の厚みが64μm、幅357mmの光学補償フィルムを作製した。
【0053】
(実施例3)
厚さ100μmのポリノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「アートンフィルム」)を、テンターを使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.47倍で横方向に延伸した。延伸フィルムを、温度180℃で、フィルム幅が98%になるまで60秒間緩和した。これを、さらに2対のピンチロール間でロールの周速差によって縦延伸を行う装置を使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.05倍で縦方向に延伸し、フィルム中央の厚みが67μm、幅440mmの光学補償フィルムを作製した。
【0054】
(実施例4)
厚さ100μmのポリノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「アートンフィルム」)を、テンターを使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.20倍で横方向に延伸した後、さらに延伸温度180℃、延伸倍率1.25倍で横方向に延伸した。延伸フィルムを、温度180℃で、フィルム幅が98%になるまで60秒間緩和し、フィルム中央の厚みが66μm、幅450mmの光学補償フィルムを作製した。
【0055】
(比較例1)
厚さ100μmのポリノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「アートンフィルム」)を、2対のピンチロール間でロールの周速差によって縦延伸を行う装置を使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.10倍で縦方向に延伸した後、テンターを使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.50倍で横方向に延伸し、フィルム中央の厚みが66μm、幅360mmの光学補償フィルムを作製した。
【0056】
(比較例2)
厚さ100μmのポリノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「アートンフィルム」)を、2対のピンチロール間でロールの周速差によって縦延伸を行う装置を使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.10倍で縦方向に延伸した後、テンターを使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.50倍で横方向に延伸した。延伸フィルムを、さらに延伸温度180℃、延伸倍率1.02倍で縦方向に延伸し、フィルム中央の厚みが65μm、幅357mmの光学補償フィルムを作製した。
【0057】
(比較例3)
厚さ100μmのポリノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「アートンフィルム」)を、テンターを使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.47倍で横方向に延伸した後、2対のピンチロール間でロールの周速差によって縦延伸を行う装置を使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.05倍で縦方向に延伸し、フィルム中央の厚みが67μm、幅440mmの光学補償フィルムを作製した。
【0058】
(比較例4)
厚さ100μmのポリノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「アートンフィルム」)を、テンターを使用して、延伸温度180℃、延伸倍率1.20倍で横方向に延伸した後、さらに延伸温度180℃、延伸倍率1.25倍で横方向に延伸して、フィルム中央の厚みが66μm、幅450mmの光学補償フィルムを作製した。
【0059】
(光学補償フィルムの特性評価)
上記実施例及び比較例の光学補償フィルムの厚さをd、フィルム面内の主屈折率をnx、ny、厚さ方向の主屈折率をnzとした場合、フィルム中央のRe=(nx−ny)d、Rth=(nx−nz)d、Re/Rthを、王子計測器製の自動複屈折率計(KOBRA21ADH)にて測定した。その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
上記の結果から明らかなように、本発明の光学補償フィルムは、比較例の光学補償フィルムに比べてレターデーション比(Re/Rth)が小さく、幅方向の軸角度バラツキも少なく面内の均一性に優れていることがわかる。
【0062】
(実施例5)
実施例1で作製した光学補償フィルムと、ポリビニルアルコール系偏光板との積層体からなる楕円偏光板を、STN型液晶セルの両側に接着して表示装置を形成した。その結果、広範囲で着色が認められず、コントラスト比も良好であった。
【0063】
以上説明したとおり、本発明は、熱可塑性樹脂フィルムを縦方向と横方向に逐次二軸延伸した後に横延伸率を緩和する工程を設けることにより、フィルムの要求性能を満足するとともに、光学補償フィルムの二軸特性の発現が容易で、光学軸角度のバラツキが低減され、フィルム面内の均一性に優れた光学補償フィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系樹脂フィルムを縦方向と横方向に逐次二軸延伸して光学補償フィルムを製造する方法であって、横延伸工程後に、横延伸率を緩和する工程を設けることを特徴とする光学補償フィルムの製造方法(但し、横延伸工程と緩和工程と間の弛緩工程を有しない)であって、
前記緩和工程は、横延伸されたノルボルネン系フィルムを、所定時間、所定温度に保持することにより行なわれ、
かつ、前記所定温度はノルボルネン系樹脂のガラス転移点マイナス30℃からガラス転移点プラス30℃の範囲内の温度であり、前記所定時間は30秒〜180秒の間の時間であることを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項2】
緩和工程における緩和率が20%以内である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
縦方向の延伸倍率と横方向の延伸倍率の比が、縦延伸倍率/横延伸倍率=0.5〜1.0である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
横延伸工程の延伸倍率が1.1〜1.5倍である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
フィルムの厚さをd、フィルム面内の主屈折率をnx、ny、厚さ方向の主屈折率をnz、かつ、nx>nyとした場合に、光学補償フィルムの面内のレターデーション値(Re=(nx−ny)d)が0〜500nm、光学補償フィルムの厚み方向のレターデーション値(Rth=(nx−nz)d)が100〜300nm、光学補償フィルムのRe/Rth<1である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
光学補償フィルムの面内のレターデーション値(Re)が10〜100nm、光学補償フィルムの厚み方向のレターデーション値(Rth)が100〜300nm、光学補償フィルムのRth/Reが1〜5である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造された光学補償フィルムと偏光子とを積層する工程を含む偏光板の製造方法。


【公開番号】特開2011−13680(P2011−13680A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167169(P2010−167169)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【分割の表示】特願2000−390620(P2000−390620)の分割
【原出願日】平成12年12月22日(2000.12.22)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】