説明

光導波路型Qスイッチ素子およびQスイッチレーザ装置

【課題】高い消光比、超小型、低駆動電圧を実現した光導波路型Qスイッチ素子およびQスイッチレーザ装置を得る。
【解決手段】コア5およびクラッド4a、4bからなる平面導波路構造の光導波路3と、光損失手段7a、7bおよび電極2a、2bと、電極2a、2bに電圧を印加するQスイッチ駆動装置6とを備える。クラッド4a、4bはコア5の上下面に設けられ、光損失手段7a、7bはクラッド4a、4bの上下面に設けられ、電極2a、2bは光損失手段7a、7bの上下面に設けられる。コア5は、電界が印加されると電気光学効果によって屈折率が変化し、電界未印加時はクラッド屈折率よりも高く、電界印加時は、高電位側の屈折率がクラッド屈折率よりも低くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気光学効果を用いた光導波路型Qスイッチ素子(たとえば、平面導波路型Qスイッチ素子)、および、このQスイッチ素子を用いて共振器内のQ値を変えてジャイアントパルスを得るためのQスイッチレーザ装置、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、Qスイッチ素子の一例として、ポッケルスセル(Pockels cell)効果を有する電気光学結晶を用いたQスイッチ素子が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
この種のQスイッチ素子は、偏光分離スプリッタと、薄膜偏光子などの偏光子とを組み合わせて共振器内に構成されており、ポッケルスセルの偏光の向きを電気的に制御して偏光子の透過成分と反射成分との比を変更し、共振器内のQ値を変えることにより、Qスイッチパルスを得るようになっている
【0003】
また、従来から、光導波路型Qスイッチ素子の一例として、可飽和吸収体を光導波路材料に用いたQスイッチ素子も提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
この種の光導波路型Qスイッチ素子において、可飽和吸収体は、光を吸収すると除々に透明になる物質であり、共振器内に挿入すると励起開始時は損失となり、レーザ発振を抑制しつつ徐々に透明になり、利得が損失よりも大きくなると、急速にレーザ発振を開始してQスイッチパルスを得るようになっている。
【0004】
さらに、従来から、出力鏡および全反射鏡からなる共振器と、この共振器内に配置されたレーザ光の発生源(レーザロッド、偏光子およびポッケルスセル)と、レーザロッドを励起するフラッシュランプと、ポッケルスセルへの印加電圧を変化させるポッケルスセル駆動回路と、により構成されたQスイッチレーザ装置が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0005】
この種のQスイッチレーザ装置においては、ポッケルスセルへの印加電圧によって共振器内の偏光方向の制御を行い、偏光子との組み合わせによって共振器内のQ値を変えることにより、ジャイアントパルスを得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−64448号公報(第7頁、第1図)
【特許文献2】特開昭61−168979号公報(第5頁、第1図)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.I.Mackenzie「End−pumped、passively Q−Switched Yb:YAG double−clad waveguide laser」OPTICS LETTERS/Vol.27,NO.24/December 15,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のQスイッチ素子およびQスイッチレーザ装置は、特許文献1に記載のQスイッチ素子、および特許文献2に記載のQスイッチレーザの場合、偏光を90°回転させるために、高電圧(数100〜数kV)であって、高速な立ち下がりまたは立ち上がり時間(約10ns)のスイッチング電圧を駆動可能なスイッチング回路が必要となるうえ、偏光子などの偏光制御素子を共振器内に挿入する必要があるので、部品点数が多くなるという課題があった。
また、Nd:YAGなどの材料をレーザ媒質に用いた場合には、熱複屈折によるDepolarization損失(偏光解消損失)が生じて、効率が低下するという課題があった。
【0009】
また、非特許文献1に記載の光導波路型Qスイッチ素子においては、可飽和吸収体の残留損失によって効率が低下するという課題があった。
また、ピークパワーを大きくするためには、可飽和吸収体の光学濃度(Optical Density)を濃くする必要があり、このときの残留損失が光学濃度に比例して大きくなることから、効率低下が大きくなるという課題があった。
さらに、可飽和吸収体は正確なパルスの発振タイミングの制御が困難であり、励起光の強度ばらつきなどに起因する発振タイミングのばらつきが大きいという課題があった。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、高い消光比、超小型、低駆動電圧を実現した光導波路型Qスイッチ素子を得ることを目的とする。
また、光導波路型Qスイッチ素子を用いたQスイッチレーザ装置においては、部品点数が少なく、小型で、高効率が期待でき、正確なタイミング制御を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る光導波路型Qスイッチ素子は、コアおよびクラッドからなる平面導波路構造の光導波路と、光導波路の上下面に設けられた光損失手段および電極と、電極に電圧をオンオフ可能に印加するQスイッチ駆動装置と、を備えた光導波路型Qスイッチ素子であって、クラッドは、コア内の光を閉じ込めるために、コアの上下面に設けられ、光損失手段は、光が接触すると光を減衰させる材料または構造からなり、クラッドの平面に対し平行で、かつコアと対向する両端面に設けられ、電極は、電気伝導性が高い材料からなり、光損失手段の平面に対し平行で、かつクラッドと対向する両端面に設けられるとともに、Qスイッチ駆動装置と電気的に接続され、コアは、電気光学結晶を有し、両端面の電極の相互間に電界が印加されると電気光学効果によって屈折率が変化する材料からなり、コア内の屈折率は、電界が印加されていない場合は、上下面のクラッドの屈折率よりも高くなり、両端面の電極の相互間に正の電界が印加されて、上面の電極が高電位になり、下面の電極が低電位になった場合は、上面のクラッドの屈折率よりも低く、かつ下面のクラッドの屈折率よりも高くなり、両端面の電極の相互間に負の電界が印加されて、上面の電極が低電位になり、下面の電極が高電位になった場合は、下面のクラッドの屈折率よりも低く、かつ上面のクラッドの屈折率よりも高くなるように設定されたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、電気光学効果による光偏向、または光導波路内の屈折率変化によって、光導波路とクラッドとの屈折率差を逆転させて、クラッド膜の光の閉じ込め機能を取り除くことを利用し、偏光を利用したポッケルスセルや可飽和吸収体を用いることなく、高消光比および小型化を実現した光導波路型Qスイッチ素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る光導波路型Qスイッチ素子を示す斜視図である。
【図2】図1内のA−A’線による断面図である。
【図3】電界が印加されない場合の図1の光導波路型Qスイッチ素子の動作を断面図で示す説明図である。
【図4】電界印加時の図1の光導波路型Qスイッチ素子の動作を断面図で示す説明図である。
【図5】光導波路内の屈折率変化と電界との関係の計算結果を示す特性図である。
【図6】コア5に厚さ40μmのKTNおよびTaの屈折率と印加電圧の関係の計算結果を示す特性図である。
【図7】各種金属材料の入射角依存性の計算結果を示す特性図である。
【図8】各種金属材料の入射角依存性の計算結果を示す特性図である。
【図9】この発明の実施の形態1の他の構成例を示す斜視図である。
【図10】電界が印加されない場合の図9の動作をB−B’線による断面図で示す説明図である。
【図11】電界印加時の図9の動作をB−B’線による断面図で示す説明図である。
【図12】この発明の実施の形態2に係る光導波路型Qスイッチ素子を示す斜視図である。
【図13】図12内のC−C’線による断面図である。
【図14】電界が印加されない場合の図12の光導波路型Qスイッチ素子の動作を断面図で示す説明図である。
【図15】電界印加時の図12の光導波路型Qスイッチ素子の動作を断面図で示す説明図である。
【図16】この発明の実施の形態3に係る光導波路型Qスイッチ素子を示す斜視図である。
【図17】図16内のD−D’線による断面図である。
【図18】電界が印加されない場合の図16の光導波路型Qスイッチ素子の動作を断面図で示す説明図である。
【図19】電界印加時の図16の光導波路型Qスイッチ素子の動作を断面図で示す説明図である。
【図20】この発明の実施の形態4に係る光導波路型Qスイッチ素子を示す斜視図である。
【図21】図20内のE−E’線による断面図である。
【図22】電界が印加されない場合の図20の光導波路型Qスイッチ素子の動作を断面図で示す説明図である。
【図23】電界印加時の図20の光導波路型Qスイッチ素子の動作を断面図で示す説明図である。
【図24】この発明の実施の形態5に係るQスイッチレーザを示す斜視図である。
【図25】この発明の実施の形態5に係るQスイッチレーザの他の構成例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る光導波路型Qスイッチ素子1を示す斜視図であり、図2は図1内のA−A’線による断面図である。
図1、図2において、光導波路型Qスイッチ素子1は、平面導波路構造(平面導波路型Qスイッチ素子)からなり、上下面の電極2a、2bと、上下面のクラッド4a、4bおよびコア5により構成される光導波路3と、Qスイッチ駆動装置6と、上下面の光損失手段7a、7bと、を備えている。
【0015】
コア5のx−z平面に平行な両端面には、クラッド4a、4bが設けられている。
また、クラッド4a、4bのx−z平面に平行で、かつコア5と対向する両端面には、光損失手段7a、7bが設けられている。
さらに、光損失手段7a、7bのx−z平面に平行で、かつクラッド4a、4bと対向する両端面には、電極2a、2bが設けられており、両端面(上下面)の電極2a、2bの各々には、Qスイッチ駆動装置6の出力端子が電気的に接続されている。
【0016】
光導波路3に入射した入射光L1は、コア5内をz軸方向に伝搬し、出射光L2として放出される。すなわち、z軸は、光導波路3に対して光軸に平行である。
光導波路3のx−z面方向に対して平行で、かつ光伝搬方向(z軸)に対して直角なx軸は、光導波路3に対して遅軸となる。また、光導波路3のx−z面方向に対して垂直なy軸は、光導波路3に対して速軸となる。
なお、平面導波路構造とは、層状構造によって入射光L1を閉じ込め、x−z平面に沿う方向にのみに光波を伝搬させる光導波路3のことをいう。
【0017】
次に、図3〜図5を参照しながら、図1および図2に示したこの発明の実施の形態1による光伝搬動作について説明する。
図3および図4は入射光L1の伝搬動作を示す説明図であり、図3は電極2aと電極2bとの間に電界が印加されていない場合の動作を示し、図4は電極2aと電極2bとの間に電界が印加された場合の動作を示している。
【0018】
また、図5は光導波路3内の屈折率nの分布状態を示す説明図であり、図5(a)は電極2aと電極2bとの間に電界が印加されていない場合を示し、図5(b)は電極2aと電極2bとの間に電界が印加された場合を示している。
【0019】
まず図3に示すように、電極2aと電極2bとの間に電界が印加されていない場合において、光L1がコア5の入射面5aから入射して光導波路3内を伝搬すると、y軸方向に関しては、コア5と上面クラッド4aとの界面、および、コア5と下面クラッド4bとの界面で、臨界角θcよりも低い伝搬角を有する光導波モード光に関して全反射する。
【0020】
したがって、電界が印加されていない場合(図3)には、y軸方向の入射光L1のうち臨界角θcよりも低い伝搬角を有する光導波モード光は、光導波路3内をほとんど損失なく伝搬し、コア5の出射面5bから出射光L2として放出される。
また、x軸方向に関しては、z軸方向(光路方向)に対して平行に光L1が伝搬し、コア5の出射面5bから出射光L2として放出される。
【0021】
一方、図4のように、電極2aと電極2bとの間に電界が印加された場合には、光L1がコア5の入射面5aから入射して光導波路3内を伝搬すると、y軸方向に関しては、コア5と下面クラッド4bとの界面で、臨界角θcよりも低い伝搬角を有する光導波モード光に関して全反射する。
【0022】
しかし、電界印加によってコア5の屈折率(図5とともに後述する)が変化するので、コア5と上面クラッド4aとの界面においては、入射光L1がクラッド4aを通過して光損失手段7aまで漏洩し、一部の光L1が光損失手段7aにより減衰された状態で、コア5の出射面5bから出射される。
また、x軸方向に関しては、z軸方向に平行に光L1が伝搬し、コア5の出射面5bから出射光L2として放出される。
【0023】
次に、図5を参照しながら、コア5に電圧が印加された場合の屈折率nの変化について説明する。
図5は光導波路型Qスイッチ素子1の光導波路3内の屈折率nを示す説明図であり、コア5およびクラッド4a、4bの各位置(y軸方向)に対応した屈折率の状態を、電界の有無に関連して示している。
【0024】
図5(a)は電極2aと電極2bとの間に電界が印加されていない場合の光導波路3内の屈折率nの分布状態を示し、図5(b)は電極2aと電極2bとの間に正の電界が印加された場合の光導波路3内の屈折率nの分布状態を示す。
【0025】
まず、電極2aと電極2bとの間に正の電界が印加された場合の光導波路3内の屈折率nの変化について説明する。
図5(a)のように、電極2aと電極2bとの間に電界が印加されていない場合は、コア5内の屈折率nは、クラッド4a、4bの屈折率nよりも高い状態にある。
一方、図5(b)のように、電極2aと電極2bとの間に正の電界が印加されて、電極2aが高電位になり、電極2bが低電位になると、コア5内の屈折率nは、コア5の電気光学効果により変化して、上面の電極2a側ではクラッド4bの屈折率nよりも低くなり、かつ下面の電極2b側ではクラッド4aの屈折率nよりも高くなる。
【0026】
なお、図示しないが、電極2aと電極2bとの間に負の電界が印加されて、電極2aが低電位となり、電極2bが高電位となった場合には、コア5内の屈折率は、図5(b)とは逆に変化して、下面の電極2b側ではクラッド4bの屈折率よりも低く、上面の電極2a側ではクラッド4aの屈折率よりも高くなる。
【0027】
図1〜図4の光導波路型Qスイッチ素子1において、クラッド4a、4bの材質は、電界が印加されない場合(図5(a))には、コア5の屈折率に対して屈折率が低くなり、かつ正の電界が印加された場合(図5(b))には、高電位(上面の電極2a)側でのコア5の屈折率よりも屈折率が高くなり、低電位(下面の電極2b)側でのコア5の屈折率よりも低くなる材料が用いられる。
【0028】
また、コア5の材質としては、高い電気光学定数を有する材料が用いられ、1次の電気光学効果(屈折率変化Δnが印加電界Eに比例)を示すポッケルスセル効果、または、2次の電気光学効果(屈折率変化Δnが印加電界Eの2乗に比例)を示すカー効果を有するものが選択される。具体的には、ニオブ酸リチウム(LiNbO)やタンタル酸リチウム(LiTaO)、SrBaNb(SBN)、KTaNbO(KTN)などが望ましい。
【0029】
ポッケルスセル効果による屈折率変化Δnと印加電界E[V/m]との関係は、屈折率nと、電気光学定数reff[m/V]と、印加電圧V[V]と、光導波路厚d[m]とを用いて、以下の式(1)のように表わされる。
【0030】
Δn=(neff
=(neff(V/d) ・・・(1)
【0031】
また、カー効果による屈折率変化Δnと印加電界E[V/m]との関係は、屈折率nと、kerr定数Seff[m/V]とを用いて、以下の式(2)のように表わされる。
【0032】
Δn=0.5(neff ・・・(2)
【0033】
図6はコア5およびクラッド4a、4bの屈折率n、nと印加電圧との関係を示す説明図であり、たとえば、コア5(印加電圧=0)の屈折率n=2.18、kerr係数Seff=−4.8×10−15[m/V](KTN相当)、クラッド4a、4bの屈折率n=2.08(Ta相当)、光導波路厚d=40μm、とした場合の印加電圧に対する特性を示している。
【0034】
図6から明らかなように、電圧=0の状態から、約81[V]の電圧が印加された場合には、コア5の屈折率nがクラッド4aの屈折率nよりも小さくなり、コア5とクラッド4aとの間の屈折率の関係は、「n>n」から「n<n」へと逆転する。
【0035】
また、電極2aと電極2bとの間に電界が印加されると、コア5内の光L1は偏向するので、下面の電極2bとクラッド4bとの間に光損失手段(光吸収手段)7bを設け、コア5とクラッド4bとの界面での臨界角θcよりも、光導波路3内の伝搬モードの偏向角θdの方を大きく設定し、クラッド4bに光L1の一部が屈折するように、電界印加時の損失効果を高めることが可能である。
【0036】
臨界角θcと、コア5およびクラッド4a、4bの屈折率n、nとの関係は、以下の式(3)のように表わされる。
【0037】
θc=sin−1{√(n−n)/n} ・・・(3)
【0038】
また、電極2aと電極2bとの間に電界が印加された場合の光の偏向角θdは、コア5の屈折率nと、kerr定数Seffと、結晶の相互作用長hと、光導波路厚dと、電界Eとを用いて、以下の式(4)のように表わされる。
【0039】
θd=−9/8(n)Seff(h/d)E ・・・(4)
【0040】
たとえば、コア5の屈折率n=2.18、kerr係数Seff=−4.8×10−15[m/V](KTN相当)、クラッド4a、4bの屈折率n=2.08(Ta相当)、とした場合、式(3)から、臨界角θc=17.4[°]となる。
ここで、光導波路厚(コア厚)d=40μmで、電圧81[V]が印加された場合は、図6から、相互作用長h=60μmでの偏向角θdは、臨界角θcよりも大きくなる。
【0041】
なお、光導波路型Qスイッチ素子1において、伝搬光の減衰率を高くするためには、反射率の低い材質で光損失手段7a、7bを形成することが望ましい。
光導波路3を伝搬している光L1は、図3、図4のように光損失手段7a、7bにより多数回反射するので、光損失手段7a、7bへの入射角度が広範囲にわたることになる。
【0042】
図7および図8は各種金属材料への入射角度[°]に対する反射率の依存性の計算結果を示す特性図である。
図7、図8において、それぞれ、図7(a)は銀、図7(b)は銅、図7(c)はニッケル、図7(d)は金の特性図であり、図8(a)は鉛、図8(b)はアルミニウム、図8(c)はクロム、図8(d)はチタン、の特性図を示している。
【0043】
ここでは、レーザ発振光として、一般的に用いられる波長1064nmの光に対する特性を示している。
また、図7、図8では、それぞれ、S偏光(入射面に対して垂直な偏光方向)に対する特性を曲線aで示し、P偏光(入射面に対して水平な偏光方向)に対する特性を曲線bで示している。
【0044】
図7、図8において、光損失手段7a、7bをクラッド4a、4bの上下面に設けた場合、TM(Transverse Magnetic)偏光モードに対しては、P偏光で入射するので、図7(c)のニッケル、図8(a)の鉛、図8(c)、図8(d)のクロムおよびチタンは、入射角度80[°]以下で、反射率が0.15〜0.7となる。
【0045】
したがって、ニッケル、鉛、クロムおよびチタンは、クラッド4a、4bの外部に漏洩した光に対して大きな損失が与えられるので、光損失手段7a、7bとして、ニッケル、鉛、クロムおよびチタンのうちのいずれかを用いることが望ましい。
【0046】
また、光導波路型Qスイッチ素子1において、電極2a、2bの材質として要求される条件は、電気伝導性が高いことであり、たとえば、金、銀、銅、アルミニウム、クロムなどの金属膜を電極2a、2bとして用いることが望ましい。なお、電極2a、2bは、光損失手段7a、7bとして共通に用いることも可能である。
【0047】
また、伝搬光の減衰を高めるためには、光損失手段7a、7bに接するクラッド4a、4bの界面を荒らすことにより光を散乱させて、損失効果を高めることも有効である。
この場合、たとえば、リアクティブイオンエッチングやバックスパッタなどを施すことによって、光損失手段7a、7bに接するクラッド4a、4bの界面を荒らすことが有効である。
【0048】
さらに、図1〜図4では言及しなかったが、図9で示すように、上面の光損失手段7aに代えて、テーパ形状を有する透明ブロック8を設けることも有効である。
図9はこの発明の実施の形態1の他の構成例を示す斜視図であり、前述(図1参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
【0049】
図9〜図11において、透明ブロック8は、光導波路3を構成するコア5の入射面5aから出射面5bに向かうにしたがって、y軸方向の寸度(厚さ)が徐々に大きくなるようなテーパ形状を有する。
【0050】
図10および図11は、図9の構成による光伝搬動作をB−B’線による断面図で示す説明図である。
図10においては、電極2aと電極2bとの間に電界が印加されない場合の動作を示しており、図11においては、電極2aと電極2bとの間に電界が印加された場合の動作を示している。
【0051】
以下、図9〜図11に示したこの発明の実施の形態1の他の構成例による動作について説明する。
図10のように、電極2aと電極2bとの間に電界が印加されていない場合において、光L1がコア5の入射面5aから入射して光導波路3内を伝搬すると、y軸方向に関しては、コア5と上面クラッド4aとの界面、および、コア5と下面クラッド4bとの界面で、臨界角よりも低い伝搬角を有する光導波モード光に関して全反射する。
【0052】
したがって、電界が印加されていない場合(図10)には、y軸方向の入射光L1のうち臨界角θcよりも低い伝搬角を有する光導波モード光は、光導波路3内をほとんど損失なく伝搬し、コア5の出射面5bから出射光L2として放出される。
また、x軸方向に関しては、z軸方向に平行に光L1が伝搬し、コア5の出射面5bから出射光L2として放出される。
【0053】
一方、図11のように、電極2aと電極2bとの間に電界が印加された場合には、光L1がコア5の入射面5aから入射して光導波路3内を伝搬すると、y軸方向に関しては、コア5と下面クラッド4bとの界面で、臨界角よりも低い伝搬角を有する光導波モード光に関して全反射する。
【0054】
しかし、コア5と上面クラッド4aとの界面では、コア5の屈折率変化により、クラッド4aを通過して透明ブロック8まで漏洩し、透明ブロック8と電極2aとの界面において反射し、点線矢印で示すように、光は、コア5内に入射することなく、透明ブロック8の端面8bから放出される。
【0055】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図11)に係る光導波路型Qスイッチ素子1は、コア5およびクラッド4a、4bからなる平面導波路構造の光導波路3と、光導波路3の上下面に設けられた光損失手段7a、7b(透明ブロック8、7b)および電極2a、2bと、電極2a、2bに電圧をオンオフ可能に印加するQスイッチ駆動装置6と、を備えている。
【0056】
クラッド4a、4bは、コア5内の光を閉じ込めるために、コア5の上下面に設けられている。
光損失手段7a、7bは、光が接触すると光を減衰させる材料または構造からなり、クラッド4a、4bの平面に対し平行で、かつコア5と対向する両端面に設けられている。
【0057】
電極2a、2bは、電気伝導性が高い材料からなり、光損失手段7a、7bの平面に対し平行で、かつクラッド4a、4bと対向する両端面に設けられるとともに、Qスイッチ駆動装置6と電気的に接続されている。
【0058】
すなわち、高い電気光学定数reffの結晶からなる光導波路(平面導波路)3の上下面にクラッド4a、4bが設けられ、クラッド4a、4bの外側上下面に光損失手段7a、7bが設けられ、光損失手段7a、7bの外側上下面に電極2a、2bが設けられ、電極2aと電極2bとの間に電気的に接合されたQスイッチ駆動装置6が設けられている。
【0059】
コア5は、電気光学結晶を有し、両端面の電極2a、2bの相互間に電界が印加されると電気光学効果によって屈折率が変化する材料からなる。
コア5内の屈折率n(図5(a))は、電界が印加されていない場合は、上下面のクラッド4a、4bの屈折率nよりも高くなるように設定されている。
【0060】
また、コア5内の屈折率n(図5(b))は、両端面の電極2a、2bの相互間に正の電界が印加されて、上面の電極2aが高電位になり、下面の電極2bが低電位になった場合は、上面のクラッド4aの屈折率nよりも低く、かつ下面のクラッド4bの屈折率nよりも高くなるように設定されている。
【0061】
また、コア5内の屈折率nは、両端面の電極2a、2bの相互間に負の電界が印加されて、上面の電極2aが低電位になり、下面の電極2bが高電位になった場合は、下面のクラッド4bの屈折率nよりも低く、かつ上面のクラッドの屈折率nよりも高くなるように設定されている。
【0062】
また、光導波路3は、KTNからなり、クラッド4a、4bは、Taからなり、光損失手段は、金、銀、銅、ニッケル、鉛、アルミニウム、クロム、またはチタンの金属膜からなる。
また、光損失手段7a、7bに接するクラッド4a、4bの界面には、損失効果を高めるために、リアクティブイオンエッチングまたはバックスパッタが施されている。
【0063】
このように、光導波路型Qスイッチ素子1を平面導波路構造とすることにより、小型化が容易となる。すなわち、平面導波路構造の光導波路3により電気光学結晶の厚さ(y軸方向の寸度)を薄くすることができるので、低電圧駆動が可能で、さらに、光導波路3内の光伝搬を利用することにより、高い消光比を実現することができる。
【0064】
さらに、上下面のクラッド4a、4bの少なくとも一方は、光導波路3の光入射面から光出射面に向かうにしたがって上下方向(y軸方向)の厚さが徐々に大きくなるような、テーパ形状の透明ブロック8(図9〜図11)により構成されている。
【0065】
このように、光損失手段7aに代えて、テーパ状の透明ブロック8(図9〜図11)を用いることにより、光導波路3内の反射回数を軽減させることができるので、さらに光導波路型Qスイッチ素子1の小型化を実現することができる。
【0066】
この発明の実施の形態1によれば、電気光学効果による光偏向、または電界印加による光導波路3内の屈折率変化を用い、光導波路3とクラッド4a、4bとの屈折率差を逆転させて、クラッド4a、4bの光閉じ込め機能を取り除くので、偏光を利用したポッケルスセルや可飽和吸収体を用いることなく、高消光比および小型化を実現した光導波路型Qスイッチ素子を得ることができる。
【0067】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1〜図11)では、クラッド4a、4bのy軸方向の外側上下面に電極2a、2bを設けたが、図12〜図15のように、クラッド14a、14bのx軸方向の側面に電極12a、12bを設けてもよい。
【0068】
図12はこの発明の実施の形態2に係る光導波路型Qスイッチ素子11を示す斜視図であり、図13は図12内のC−C’線による断面図である。
また、図14および図15は、この発明の実施の形態2による動作を断面図で示す説明図であり、図14は電界が印加されない場合の光導波路型Qスイッチ素子11の動作を示し、図15は電界印加時の光導波路型Qスイッチ素子11の動作を示している。
【0069】
図12〜図15において、同一符号は同一または相当部分を示す。また、各符号11〜16で示す要素は、前述(図1)の各符号1〜6の要素に対応している。
図12、図13において、光導波路型Qスイッチ素子11は、前述と同様に、平面導波路構造を有し、電極12a、12bと、クラッド14a、14bおよびコア15で構成される光導波路13と、Qスイッチ駆動装置16と、を備えている。
【0070】
前述と同様に、コア15のx−z平面に平行な両端面(上下面)には、クラッド14a、14bが設けられている。
また、x軸は、光導波路13に対して遅軸となり、y軸は光導波路13に対して速軸となり、z軸は、光導波路13に対して光軸にそれぞれ平行である。
【0071】
この場合、コア15のx−z平面に対して垂直な両端側面(y−z面)には、第1および第2の電極12a、12bが設けられており、両電極12a、12bには、Qスイッチ駆動装置16が電気的に接続されている。
【0072】
次に、図14および図15を参照しながら、図12および図13に示したこの発明の実施の形態2による動作について説明する。
まず図14のように、電極12aと電極12bとの間に電界が印加されていない場合において、光L1がコア15の入射面15aから入射すると、前述(図3)と同様に、y軸方向に関しては、コア15の屈折率が上面クラッド14aおよび下面クラッド14bの屈折率よりも高いので、コア15と上面クラッド14aとの界面、およびコア15と下面クラッド14bとの界面で、臨界角よりも低い伝搬角を有する光導波モード光に関して全反射する。
【0073】
したがって、電界が印加されない場合(図14)には、y軸方向の入射光L1は、光導波路13内をほとんど損失なく伝搬し、コア15の出射面15bから出射光L2として放出される。
また、x軸方向に関しては、z軸方向に平行に光L1が伝搬し、コア15の出射面15bから光L2として出射される。
【0074】
一方、図15のように、電極12aと電極12bとの間に電界が印加された場合には、光L1がコア15の入射面15aから入射すると、y軸方向に関する伝搬動作は前述(図14)と同様であるが、x軸方向に関しては、電気光学効果によりコア15の高電位側(電極12a側)の屈折率が低下するので、入射光L1が低電位側に偏向される。
したがって、コア15の出射面15bにおいて、電極12b側に屈折した状態で、出射光L2が放出される。
【0075】
以上のように、この発明の実施の形態2(図12〜図15)に係る光導波路型Qスイッチ素子11は、コア15およびクラッド14a、14bからなる平面導波路構造の光導波路13と、光導波路13の両端側面に設けられた電極12a、12bと、電極12a、12bに電圧をオンオフ可能に印加するQスイッチ駆動装置16と、を備えている。
【0076】
コア15は、電気光学結晶を有する材料からなり、クラッド14a、14bは、コア15内の光L1を閉じ込めるために、コア15の上下面に設けられるとともに、コア15の材料よりも屈折率が低い材料からなる。
電極12a、12bは、電気伝導性が高い材料からなり、コア15のx−z平面に対し垂直な両端側面(y−z面)に設けられるとともに、Qスイッチ駆動装置16と電気的に接続されている。
【0077】
このように、光導波路型Qスイッチ素子11を共振器内に挿入し、励起時にx軸方向に関して共振を妨げるように、光軸方向に対して光L1を偏向することにより(図15)、高効率なQスイッチ動作を実現することができる。
【0078】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態2(図12〜図15)では、直方体形状のコア15を用いたが、図16〜図19に示すように、x軸方向に関してテーパ形状を有するコア25を用いてもよい。
【0079】
図16はこの発明の実施の形態3に係る光導波路型Qスイッチ素子21を示す斜視図であり、図17は図16内のD−D’線による断面図である。
また、図18および図19は、この発明の実施の形態3による動作を断面図で示す説明図であり、図18は電界が印加されない場合の光導波路型Qスイッチ素子21の動作を示し、図19は電界印加時の光導波路型Qスイッチ素子21の動作を示している。
【0080】
図16〜図19において、同一符号は同一または相当部分を示す。また、各符号21〜26で示す要素は、前述(図12)の各符号11〜16の要素に対応している。
図16、図17において、光導波路型Qスイッチ素子21は、前述と同様に、平面導波路構造を有し、電極22a、22bと、クラッド24a、24bおよびコア25で構成される光導波路23と、電極22a、22bに電圧をオンオフ可能に印加するQスイッチ駆動装置26と、を備えている。
【0081】
コア25のx−z平面に平行な両端面(上下面)には、クラッド24a、24bが設けられている。また、コア25のx−z平面に垂直な両端側面(y−z面)には、電極22a、22bが設けられており、両電極22a、22bには、Qスイッチ駆動装置26が電気的に接続されている。
また、x軸は、光導波路23に対して遅軸となり、y軸は、光導波路23に対して速軸となり、z軸は、光導波路23に対して光軸にそれぞれ平行である。
【0082】
この場合、光導波路23において、コア25の断面形状は、第1の電極22aから第2の電極22bに向かうにしたがって、z軸方向の寸度(光路方向の長さ)が徐々に小さくなるようなテーパ形状を有する。
【0083】
次に、図18および図19を参照しながら、図16および図17に示したこの発明の実施の形態3による動作について説明する。
まず図18のように、電極22aと電極22bとの間に電界が印加されていない場合において、光L1がコア25の入射面25aから入射すると、y軸方向の光L1の伝搬は、コア25の屈折率がクラッド24a、24bの屈折率よりも高いので、コア25と上面クラッド24aとの界面、および、コア25と下面クラッド24bとの界面で、臨界角よりも低い伝搬角を有する光導波モード光に関して全反射する。
【0084】
したがって、電界が印加されていない場合(図18)において、y軸方向の入射光L1は、光導波路23内をほとんど損失なく伝搬し、コア25の出射面25bからz軸に対して平行な向きに出射される。
【0085】
一方、電界が印加されていない場合(図18)のx軸方向の入射光L1の伝搬に関しては、光L1がコア25の入射面25aに入射すると、屈折によりz軸方向に対して屈折角θ1だけ傾いた状態で、コア25内を伝搬し、コア25の出射面25bまで到達した後、さらに屈折することにより、z軸に対して屈折角θ2だけ傾いて出射光L2が放出される。
【0086】
これに対し、図19のように、電極22aと電極22bとの間に電界が印加されると、コア25の入射面25aから入射した光L1は、y軸方向に関する光L1の伝搬動作は前述(図18)と同様であるが、x軸方向の光L1の伝搬に関しては、電気光学効果によってコア5の高電位側(電極22a側)の屈折率が低下するので、入射時にz軸に対して屈折角θ1だけ傾いた光L1は、コア25内で低電位側(電極22b側)に偏向される。
【0087】
したがって、電界印加時(図19)においては、コア25内を伝搬した光L1は、出射面25bに到達時に、z軸に対して平行(θ2=0°)になるように偏向され、コア25の出射面25bから出射される。
【0088】
以上のように、この発明の実施の形態3(図16〜図19)によれば、コア25(光導波路23)は、両端側面の電極22a、22bのうちの第1の電極22aから第2の電極22bに向かうにしたがって、z軸方向(光路方向)の長さが徐々に小さくなるようなテーパ形状を有するので、電界印加時(図19)において、出射光L2のz軸方向に対する傾きを0°にすることができる。
【0089】
実施の形態4.
なお、上記実施の形態3(図16〜図19)では、光導波路23の両端側面(y−z面)に電極22a、22bを設けた光導波路型Qスイッチ素子21において、x軸方向に関してテーパ形状を有するコア25を用いたが、図20〜図23に示すように、光導波路33の上下面(x−z面)に電極32a、32bを設けた光導波路型Qスイッチ素子31において、y軸方向に関してテーパ形状を有するコア35を用いてもよい。
【0090】
図20はこの発明の実施の形態4に係る光導波路型Qスイッチ素子31を示す斜視図であり、図21は図20内のE−E’線による断面図である。
また、図22および図23は、この発明の実施の形態4による動作を断面図で示す説明図であり、図22は電界が印加されない場合の光導波路型Qスイッチ素子31の動作を示し、図23は電界印加時の光導波路型Qスイッチ素子31の動作を示している。
【0091】
図20〜図23において、同一符号は同一または相当部分を示す。また、各符号31〜37で示す要素は、前述(図1)の各符号1〜7の要素に対応している。
図20、図21において、光導波路型Qスイッチ素子31は、前述と同様に、平面導波路構造を有し、電極32a、32bと、クラッド34a、34bおよびコア35により構成される光導波路33と、電極32a、32bに電圧をオンオフ可能に印加するQスイッチ駆動装置36と、を備えている。
【0092】
コア35のx−z平面に平行な両端面(上下面)には、クラッド34a、34bが設けられている。また、クラッド34a、34bのx−z平面に平行で、かつコア35と対向する両端面(上下面)には、光損失手段37a、37bが設けられている。さらに、光損失手段37a、37bのx−z平面に平行で、かつクラッド34a、34bと対向する両端面(上下面)には、電極32a、32bが設けられている。
【0093】
両電極32a、32bには、Qスイッチ駆動装置36が電気的に接続されている。
また、x軸は光導波路33に対して遅軸、y軸は光導波路33に対して速軸、z軸は光導波路33に対して光軸にそれぞれ平行である。
【0094】
この場合、光導波路33において、コア35は、y軸方向に関して、第1の電極32aから第2の電極32bに向かうにしたがって、z軸方向の寸度が徐々に小さくなるようなテーパ形状を有する。
なお、クラッド34a、34bの材質としては、電極32a、32bへの電界印加の有無にかかわらず、クラッド34a、34bの屈折率がコア35の屈折率よりも常に低くなるような材質を用いる。
【0095】
次に、図22および図23を参照しながら、図20および図21に示したこの発明の実施の形態4による動作について説明する。
まず図22のように、電極32aと電極32bとの間に電界が印加されていない場合において、y軸方向の光L1の伝搬に関しては、光L1がコア35の入射面35aに入射すると、屈折によりz軸方向に対して屈折角θ1だけ傾き、上面クラッド34aに入射する。
【0096】
このとき、コア35と上面クラッド34aとの界面、および、コア35と下面クラッド34bとの界面で、伝搬角が臨界角よりも大きくなるので、光L1は、クラッド34a、34bを透過して、光損失手段37a、37bに入射し、光損失手段37a、37bにより一部の光は減衰されて反射する。
以下、反射を何回も繰り返し、最後にコア35の出射面35bでさらに屈折した後、光L2は出射面35bから放出される。
【0097】
一方、図23のように、電極32aと電極32bとの間に電界が印加された場合において、光L1がコア35の入射面35aから入射すると、y軸方向の光L1の伝搬動作は前述(図22)と同様であるが、x軸方向の光L1の伝搬に関しては、電気光学効果により高電位側(電極32a側)の屈折率が低下するので、z軸方向に対して屈折角θ1だけ傾いた光L1は、コア35内で低電位側(電極32b側)に偏向される。
したがって、コア35の出射面35bへの到達時に、出射光L2は、z軸方向に対して平行(θ2=0°)になるように偏向され、出射面35bから放出される。
【0098】
以上のように、この発明の実施の形態4(図20〜図23)によれば、コア35およびクラッド34a、34bからなる平面導波路構造の光導波路33と、光導波路33の上下面に設けられた光損失手段37a、37bおよび電極32a、32bと、電極32a、32bに電圧をオンオフ可能に印加するQスイッチ駆動装置36と、を備えている。
【0099】
クラッド34a、34bは、コア35内の光L1を閉じ込めるために、コア35の上下面に設けられるとともに、コア35の材料よりも屈折率が常に低い材料からなる。
光損失手段37a、37bは、光L1が接触すると光を減衰させる材料または構造をからなり、クラッド34a、34bの平面に対し平行で、かつコア35と対向する両端面に設けられている。
【0100】
電極32a、32bは、電気伝導性が高い材料からなり、光損失手段37a、37bの平面に対し平行で、かつクラッド34a、34bと対向する両端面に設けられるとともに、Qスイッチ駆動装置36と電気的に接続されている。
コア35は、電気光学結晶を有する材料からなり、光導波路33は、両端面の電極32a、32bのうちの第1の電極32aから第2の電極32bに向かうにしたがって、z軸方向(光路方向)の長さが徐々に小さくなるようなテーパ形状を有する。
これにより、電界印加時(図23)において、出射光L2のz軸方向に対する傾きを0°にすることができる。
【0101】
実施の形態5.
なお、上記実施の形態1〜4(図1〜図23)では、光導波路型Qスイッチ素子について説明したが、図24に示すように、前述(図1)の光導波路型Qスイッチ素子1を用いてQスイッチレーザ装置40を構成してもよい。
【0102】
図24はこの発明の実施の形態5に係るQスイッチレーザ装置40を示す斜視図である。
図24において、Qスイッチレーザ装置40は、光導波路型Qスイッチ素子1と、励起光Lpを出射する励起光源41と、励起光Lpを光導波路型Qスイッチ素子1への入射光に変換する平面導波路型レーザ媒質42と、励起光源41、平面導波路型レーザ媒質42および光導波路型Qスイッチ素子1が載置されたヒートシンク43と、光導波路型Qスイッチ素子1に電界を印加するQスイッチ駆動装置46と、第1の反射手段(図示せず)と、発振光Loを出射する第2の反射手段45と、を備えている。
【0103】
励起光源41、平面導波路型レーザ媒質42、光導波路型Qスイッチ素子1および第2の反射手段45は、Qスイッチレーザ装置40のレーザ光源を構成している。
【0104】
平面導波路型レーザ媒質42は、光導波路型Qスイッチ素子1と同じ光導波路の厚さを有する。
励起光源41、平面導波路型レーザ媒質42および光導波路型Qスイッチ素子1は、近接配置されている。
【0105】
図24においては、煩雑さを回避するために図示しないが、第1の反射手段は、平面導波路型レーザ媒質42の励起光源41側の端面に設けられており、励起光Lpに対して反射を防止し、発振光Loに対して、全反射させる機能を有する。
第2の反射手段45は、発振光Loに対して一部反射させる機能を有しており、第1の反射手段、平面導波路型レーザ媒質42および光導波路型Qスイッチ素子1と協働して、レーザ共振器を形成している。
【0106】
ヒートシンク43上においては、励起光源41、第2の反射手段、平面導波路型レーザ媒質42、および光導波路型Qスイッチ素子1の順に各要素が配列されており、さらに、光導波路型Qスイッチ素子1の出射端面には、第2の反射手段45が配置されている。
【0107】
励起光源41としては、複数のエミッタと、平面導波路型レーザ媒質42の平面方向に対して小さい広がり角とを有し、平面導波路型レーザ媒質42が良好に吸収される発振波長の励起光源41を出力するものを用いることが望ましい。
ここでは、励起光源41として、LD(Laser Diode)アレイを用いるものとする。
【0108】
平面導波路型レーザ媒質42としては、平面構造を形成し、かつ励起光Lpの波長に対して高い利得を有し、機械強度および熱伝導性に優れるものを用いることが望ましい。
【0109】
次に、前述の図1〜図4を参照しながら、図24に示したこの発明の実施の形態5に係るQスイッチレーザ装置40の動作について説明する。
励起光源41から出射された励起光Lpは、平面導波路型レーザ媒質42に入射し、平面導波路型レーザ媒質42に入射した励起光Lpは、垂直方向で光導波路3を伝搬し、平面方向で空間的に伝搬し、平面導波路型レーザ媒質42内を光励起する。
【0110】
励起開始時においては、光導波路型Qスイッチ素子1の電極2a、2bに電気的に接続されたQスイッチ駆動装置46を駆動することにより、平面導波路型レーザ媒質42で発生した自然放出光を、光導波路型Qスイッチ素子1により光軸から偏向させる(図4)。
【0111】
このように、平面導波路型レーザ媒質42と光導波路型Qスイッチ素子1との間の隙間から一部の光を漏洩させて、共振器のフィードバック機能を失わせることにより、レーザ発振を抑制する。
【0112】
その後、平面導波路型レーザ媒質42中のエネルギーが充分蓄積された後に、Qスイッチ駆動装置46の駆動を停止させると、光導波路型Qスイッチ素子1による偏向がなくなるので、共振器のフィードバック機能が発生し、コア5とクラッド4a、4bとの界面で、臨界角よりも低い伝搬角を有する光導波モード光に関して全反射する。
【0113】
これにより、光導波路3内をほとんど損失なく光L1が伝搬することができるので、共振器内のQ値が急速に向上する。
このように、利得が損失よりも高い場合には、共振器内で光子数が急激に増加して、尖頭値の高いパルスを発生するので、光導波路型Qスイッチ素子1の出射端面に設けられた第2の反射手段45において、共振器内に発生した光の一部が発振光Loとして取り出され、出力パルスとして発振する。
【0114】
なお、図24では第2の反射手段45を設けたが、部品点数を削減するために、図25のように、第2の反射手段45(図24)に代えて、光導波路型Qスイッチ素子1の出射面5bに反射コーティング(図示せず)を施してもよい。
【0115】
図25において、光導波路型Qスイッチ素子1の、平面導波路型レーザ媒質42に対する入射面5aとは逆側(出射面5b)には、第2の反射手段45として機能する反射コーティング(図示せず)が施されている。
【0116】
以上のように、この発明の実施の形態5(図24、図25)に係るQスイッチレーザ装置40は、光導波路型Qスイッチ素子1を含み、レーザ光を発生する平面構造のレーザ光源(励起光源41、平面導波路型レーザ媒質42、光導波路型Qスイッチ素子1および第2の反射手段45)を備えているので、横方向にレーザビーム幅を拡大することができ、LDアレイとの整合性が高く、パワースケーリングが容易で、高出力化を実現することができる。
【0117】
なお、図24、図25においては、Qスイッチレーザ装置40のレーザ光源として、前述の実施の形態1(図1)のQスイッチ素子1を用いたが、他の実施の形態2〜4によるQスイッチ素子11、21、31を用いてもよい。
【0118】
いずれのQスイッチ素子を用いた場合も、小型化が容易で消光比が高いことから、高効率動作が実現可能であり、また、光導波路化により電気光学結晶(コア)の厚さを薄くすることができるので、低電圧印加によるQスイッチ駆動および電気的スイッチングが可能となり、パルスレーザ出力の正確なタイミング制御が可能となる。
さらに、平面構造を有する平面導波路型レーザ媒質42を用いることにより、高出力化が可能となる。
【符号の説明】
【0119】
1、11、21、31 光導波路型Qスイッチ、2a、2b、12a、12b、22a、22b、32a、32b 電極、2a、12a、22a、32a 第1の電極、2b、12b、22b、32b 第2の電極、3、13、23、33 光導波路、4a、4b、14a、14b、24a、24b、34a、34b クラッド、4a、14a、24a、34a 上面クラッド、4b、14b、24b、34b 下面クラッド、5、15、25、35 コア、5a、15a、25a、35a コアの入射面、5b、15b、25b、35b コアの出射面、6、16、26、36、46 Qスイッチ駆動装置、7a、7b、37a、37b 光損失手段、8 透明ブロック、8b 透明ブロックの端面、40 スイッチレーザ装置、41 励起光源、42 平面導波路型レーザ媒質、43 ヒートシンク、45 第2の反射手段、L1 入射光、L2 出射光、Lo 発振光、Lp 励起光、n 屈折率、n 屈折率、n 屈折率、θ1 屈折角、θ2 屈折角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアおよびクラッドからなる平面導波路構造の光導波路と、前記光導波路の上下面に設けられた光損失手段および電極と、前記電極に電圧をオンオフ可能に印加するQスイッチ駆動装置と、を備えた光導波路型Qスイッチ素子であって、
前記クラッドは、前記コア内の光を閉じ込めるために、前記コアの上下面に設けられ、
前記光損失手段は、光が接触すると光を減衰させる材料または構造からなり、前記クラッドの平面に対し平行で、かつ前記コアと対向する両端面に設けられ、
前記電極は、電気伝導性が高い材料からなり、前記光損失手段の平面に対し平行で、かつ前記クラッドと対向する両端面に設けられるとともに、前記Qスイッチ駆動装置と電気的に接続され、
前記コアは、電気光学結晶を有し、前記両端面の電極の相互間に電界が印加されると電気光学効果によって屈折率が変化する材料からなり、
前記コア内の屈折率は、
前記電界が印加されていない場合は、前記上下面のクラッドの屈折率よりも高くなり、
前記両端面の電極の相互間に正の電界が印加されて、上面の電極が高電位になり、下面の電極が低電位になった場合は、上面のクラッドの屈折率よりも低く、かつ下面のクラッドの屈折率よりも高くなり、
前記両端面の電極の相互間に負の電界が印加されて、上面の電極が低電位になり、下面の電極が高電位になった場合は、前記下面のクラッドの屈折率よりも低く、かつ前記上面のクラッドの屈折率よりも高くなることを特徴とする光導波路型Qスイッチ素子。
【請求項2】
前記光導波路は、KTNからなり、
前記クラッドは、Taからなることを特徴とする請求項1に記載の光導波路型Qスイッチ素子。
【請求項3】
前記光損失手段は、金、銀、銅、ニッケル、鉛、アルミニウム、クロム、またはチタンの金属膜からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光導波路型Qスイッチ素子。
【請求項4】
前記光損失手段に接する前記クラッドの界面に、リアクティブイオンエッチングまたはバックスパッタが施されたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の光導波路型Qスイッチ素子。
【請求項5】
前記上下面のクラッドの少なくとも一方は、前記光導波路の光入射面から光出射面に向かうにしたがって上下方向の厚さが徐々に大きくなるようなテーパ形状の透明ブロックからなることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の光導波路型Qスイッチ素子。
【請求項6】
コアおよびクラッドからなる平面導波路構造の光導波路と、前記光導波路の両端側面に設けられた電極と、前記電極に電圧をオンオフ可能に印加するQスイッチ駆動装置と、を備えた光導波路型Qスイッチ素子であって、
前記コアは、電気光学結晶を有する材料からなり、
前記クラッドは、前記コア内の光を閉じ込めるために、前記コアの上下面に設けられるとともに、前記コアの材料よりも屈折率が低い材料からなり、
前記電極は、電気伝導性が高い材料からなり、前記コアの平面に対し垂直な両端側面に設けられるとともに、前記Qスイッチ駆動装置と電気的に接続されることを特徴とする光導波路型Qスイッチ素子。
【請求項7】
前記光導波路は、前記両端面の電極のうちの第1の電極面から第2の電極面に向かうにしたがって、光路方向の長さが徐々に小さくなるようなテーパ形状を有することを特徴とする請求項6に記載の光導波路型Qスイッチ素子。
【請求項8】
コアおよびクラッドからなる平面導波路構造の光導波路と、前記光導波路の上下面に設けられた光損失手段および電極と、前記電極に電圧をオンオフ可能に印加するQスイッチ駆動装置と、を備えた光導波路型Qスイッチ素子であって、
前記クラッドは、前記コア内の光を閉じ込めるために、前記コアの上下面に設けられるとともに、前記コアの材料よりも屈折率が常に低い材料からなり、
前記光損失手段は、光が接触すると光を減衰させる材料または構造をからなり、前記クラッドの平面に対し平行で、かつ前記コアと対向する両端面に設けられ、
前記電極は、電気伝導性が高い材料からなり、前記光損失手段の平面に対し平行で、かつ前記クラッドと対向する両端面に設けられるとともに、前記Qスイッチ駆動装置と電気的に接続され、
前記コアは、電気光学結晶を有する材料からなり、
前記光導波路は、前記両端面の電極のうちの第1の電極面から第2の電極面に向かうにしたがって、光路方向の長さが徐々に小さくなるようなテーパ形状を有することを特徴とする光導波路型Qスイッチ素子。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の光導波路型Qスイッチ素子を含み、レーザ光を発生する平面構造のレーザ光源を備えたことを特徴とするQスイッチレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−247912(P2011−247912A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117655(P2010−117655)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】