説明

光導波路素子及びその製造方法

【課題】光導波路素子について、コアの寸法を大きくし、かく曲率半径を小さくする。
【解決手段】基板20上に、第1クラッド層30、導波路層40及び第2クラッド層50を順に備えている。導波路層40は、コア42と、コア42を水平方向に挟む位置に設けられたサイドクラッド44を備えている。第1クラッド層30及び第2クラッド層50の屈折率は、コア42の屈折率より低く、かつ、サイドクラッド44の屈折率は、コア42、第1クラッド層30及び第2クラッド層50の屈折率よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光導波路素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光を閉じ込め伝播させる光導波路の構造は、これまで多く提案されている。代表的な例として、電気光学結晶であるLiNbO基板にTiを拡散させて屈折率を上昇させて形成されたもの、この結晶にプロトンを導入して形成されたもの、あるいは、石英系材料又は化合物半導体の組成を変えて積層されたものなどが知られている。
【0003】
近年では、コアにシリコン材料を用い、周囲を低屈折率物質である石英などで囲む光導波路構造が、極めて小さい曲率半径を実現できることなどで、大きな注目を集めている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている光導波路は、単一モード条件を満たすように、コアの幅及び高さが300nm程度で形成されている。このため、製造において、最先端のリソグラフィ技術が必要になるなど、製造が困難になるとともに、光を光導波路へ入射させる際にも、コアの寸法に比例して要求される入力位置精度が厳しくなる。
【0005】
これに対し、光導波路を石英系の素材を用いたリッジ構造とし、コアの両側を空気層とする構造が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に開示されている技術によれば、コアとその周囲の空気の屈折率差が大きいため、単一モード条件を実現する寸法が大きくなり、この結果、コアの寸法を特許文献1の構造よりも大きくした場合であっても、大きな曲率、すなわち小さな曲率半径を実現可能にする。ここで、特許文献2に開示されている構造では、基板への伝播光の損失を減らすためには、基板の屈折率を伝播光に対する等価屈折率よりも充分低くする必要がある。
【0006】
この基板への伝播光の損失を減らすために、高屈折率の膜を数層、コアの下部と基板との間に設ける技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】米国特許第5,838,870号明細書
【特許文献2】特許第3755961号公報
【非特許文献1】D.Dai et al.、“A Minimized SiO2 Waveguide With an Antiresonant Reflecting Structure for Large−Scale Optical Integrations”, IEEE Photonics Technology Letters Vol.19 No.10 pp.759−761, May 15 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に開示されている構造は、製造にあたり多層膜を基板上に形成する作業プロセスが必要になるなど、工程が煩雑になる。また、リッジ状の光導波路を形成するために長時間のドライエッチング工程が行われるので、電子回路を形成した基板上に光導波路を作成する用途には、電子回路がドライエッチング工程で受けるダメージを考えると、不向きである。
【0008】
この発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、コアの寸法が大きく、かつ曲率半径の小さい光導波路を有する光導波路素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、この発明の第1の要旨によれば、第1クラッド層と、第2クラッド層と、第1クラッド層及び第2クラッド層の間に設けられた導波路層とを備える光導波路素子が提供される。
【0010】
この光導波路素子では、導波路層は、コアと、コアを水平方向に挟む位置に設けられたサイドクラッドとを備えて構成されている。第1クラッド層及び第2クラッド層の屈折率は、コアの屈折率よりも低い。また、サイドクラッドの屈折率は、第1クラッド層及び第2クラッド層の屈折率よりも低い。
【0011】
この発明の光導波路素子の好適な実施形態によれば、第1クラッド層は、コアと接する部分に第1凸部を有しており、コアの、第1凸部と接する部分の面積は、第1凸部と接する側の面積より小さい。また、第2クラッド層は、コアと接する部分に第2凸部を有しており、コアの、第2凸部と接する部分の面積は、第2凸部と接する側の面積より小さい。
【0012】
上述した光導波路素子の実施にあたり、好ましくは、コアを伝播する光の基本モードについて、コアにおける等価屈折率が、第1クラッド層及び第2クラッド層における等価屈折率よりも高く、かつ、コアを伝播する光の高次モードについて、コアにおける等価屈折率が、第1クラッド層及び第2クラッド層における等価屈折率よりも低く設定するのが良い。
【0013】
また、上述した目的を達成するために、この発明の第2の要旨によれば、第1〜n+1クラッド層(nは2以上の整数)と、第kクラッド層と第k+1クラッド層の間に設けられた第k導波路層(kは1以上n以下の整数)とを備える光導波路素子が提供される。
【0014】
この光導波路素子では、第k導波路層は、第kコアと、第kコアを水平方向に挟む位置に設けられた第kサイドクラッドとを備えて構成されている。第kクラッド層及び第k+1クラッド層の屈折率は、第kコアの屈折率よりも低い。また、第kサイドクラッドの屈折率は、第kクラッド層及び第k+1クラッド層の屈折率よりも低い。
【0015】
この発明の光導波路素子の好適な実施形態によれば、第kクラッド層は、第kコアと接する部分に第k凸部を有しており、第kコアの、第k凸部と接する部分の面積は、第k凸部と接する側の面積より小さい。また、第k+1クラッド層は、第kコアと接する部分に第k+1凸部を有しており、第kコアの、第k+1凸部と接する部分の面積は、第k+1凸部と接する側の面積より小さい。
【0016】
上述した光導波路素子の実施にあたり、好ましくは、第kコアを伝播する光の基本モードについて、第kコアにおける等価屈折率が、第kクラッド層及び第k+1クラッド層における等価屈折率よりも高く、かつ、第kコアを伝播する光の高次モードについて、第kコアにおける等価屈折率が、第kクラッド層及び第k+1クラッド層における等価屈折率よりも低く設定するのが良い。
【0017】
また、上述した目的を達成するために、この発明の第3の要旨によれば、以下の工程を有する光導波路素子の製造方法が提供される。先ず、基板上に、第1クラッド層を形成する。次に、第1クラッド層上に、コア形成層を形成した後パターニングを行って、コアとコアを水平方向に挟む位置にサイドクラッドを有する導波路層を形成する。次に、導波路層上に、第2クラッド層を形成する。このとき、第1クラッド層及び第2クラッド層の屈折率を、コアの屈折率よりも低くする。
【0018】
上述した光導波路素子の製造方法の実施に当たり、好ましくは、第1クラッド層のコアと接する側の面に第1凸部を形成する工程と、第2クラッド層のコアと接する側の面に第2凸部を形成する工程とを備えるのが良い。このとき、コアの、第1凸部と接する部分の面積を、第1凸部と接する側の面積より小さくし、また、コアの、第2凸部と接する部分の面積を、第2凸部と接する側の面積より小さくする。
【0019】
また、上述した目的を達成するために、この発明の第4の要旨によれば、以下の工程を有する光導波路素子の製造方法が提供される。まず、基板上に、第1クラッド層を形成する。次に、第kクラッド層上に、第kコア形成層を形成した後パターニングを行って、第kコアと第kコアを挟む位置に第kサイドクラッドとを有する第k導波路層を形成する工程と、第k導波路層上に、第k+1クラッド層を形成する工程とをkを1からnまで順次に変えて繰り返し行う。このとき、第kクラッド層及び第k+1クラッド層の屈折率を、第kコアの屈折率よりも低くする。
【0020】
上述した光導波路素子の製造方法の実施に当たり、好ましくは、第kクラッド層の第kコアと接する側の面に第k凸部を形成する工程と、第k+1クラッド層の第kコアと接する側の面に第k+1凸部を形成する工程とを備えるが良い。このとき、第kコアの、第k凸部と接する部分の面積を、第k+1凸部と接する側の面積より小さくし、また、第kコアの、第k+1凸部と接する部分の面積を、第k+1凸部と接する側の面積より小さくする。
【発明の効果】
【0021】
この発明の光導波路素子によれば、コアの上下にクラッド層を設けているので、コアの厚みを0に近づけていくと、基本モードの導波光は、平面波に漸近していき、常に光導波路内に導波光が存在する伝播状態が存在する。従って、基本モードのカットオフ条件が緩和される。
【0022】
また、基本モードのカットオフ条件が緩和されれば、基本モードのみを伝播する寸法範囲が増加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0024】
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態の光導波路素子の構造について説明する。図1は、光導波路素子の構造を説明するための図であって、光導波方向に直角方向の面で切った切断端面を示している。
【0025】
光導波路素子10は、基板20上に、第1クラッド層30、第1導波路層(以下、第1導波路層を単に導波路層と称することもある。)40及び第2クラッド層50を順に備えている。すなわち、導波路層40は、下部クラッドとして用いられる第1クラッド層30と、上部クラッドとして用いられる第2クラッド層50の間に設けられている。
【0026】
基板20として、例えば、シリコン基板が用いられる。ここで、基板20には、トランジスタ、抵抗素子などの回路素子を備える任意好適な電子集積回路(図示を省略する。)や受光素子(図示を省略する。)などが形成されている。例えば、使用する波長が0.85μm程度の場合、シリコン材料を受光素子として使用することができる。
【0027】
第1クラッド層30及び第2クラッド層50の材料として、例えば、石英、スピンオンガラス(SOG:Spin On Glass)、感光性のゾルゲル材料などを用いることができる。感光性のゾルゲル材料には、JSR社製のPJ5010(型番)、PJ5023(型番)がある。これらの材料の屈折率は1.4〜1.6程度である。
【0028】
導波路層40は、第1コア(以下、第1コアを単にコアと称することもある。)42と、コア42を水平方向に挟む位置に設けられた第1サイドクラッド(以下、第1サイドクラッドを単にサイドクラッドと称することもある。)44を備えている。
【0029】
コア42の材料として、例えば、無機材料である、石英中にゲルマニウム(Ge)やチタン(Ti)を添加したもの、酸化シリコン(Si1−x)、窒化シリコン(Si1−x)、又は、有機材料である感光性ポリマーを用いることができる。これらの材料の屈折率は1.5〜1.7程度である。
【0030】
ここで、第1クラッド層30及び第2クラッド層50の屈折率を、コア42の屈折率よりも低くする。
【0031】
サイドクラッド44は、コア42、第1クラッド層30及び第2クラッド層50よりも屈折率が低い材料で形成される。例えば、サイドクラッド44を空気層で構成しても良い。すなわち、導波路層40のコア42以外の領域が、空気で満たされる構成とすることができる。
【0032】
次に、図2及び3を参照して、コア42の設計条件について説明する。
【0033】
図2は、規格化周波数とコアの等価屈折率の関係を示す図である。図2では、横軸に規格化周波数2πW(N−1.0)1/2/λを取って示し、縦軸に、等価屈折率neffを取って示す。
【0034】
ここで、Wはコア42の幅を示し、λはコアを伝播する光の波長を示し、Nはコア42の屈折率を示している。また、ここでは、コア42の厚みを充分厚いものとしている。
【0035】
図2中、曲線Iは、基本モードに対する、コア42の等価屈折率を示し、曲線IIは、高次モードに対する、コア42の等価屈折率を示している。また、クラッドの等価屈折率neffCを1.46としている。
【0036】
基本モードの光に対するコア42の等価屈折率neffWが、クラッドの等価屈折率neffCよりも大きい場合は、基本モードの光がコア42を伝播できる。同様に、高次モードの光に対するコア42の等価屈折率neffWが、クラッドの等価屈折率neffCよりも大きい場合は、高次モードの光がコア42を伝播できる。
【0037】
従って、規格化周波数2πW(N−1.0)1/2/λを、基本モードの光がコア42を伝播し、高次モードの光がコア42を伝播しないように設定すれば、コアが基本モードの光のみを伝播する、シングルモード条件が満たされる。
【0038】
すなわち、シングルモード条件を満足させるためには、基本モードの光に対するコア42の等価屈折率neffWが、クラッドの等価屈折率neffCと等しくなる周波数をf1とし、高次モードの光に対するコア42の等価屈折率neffWが、クラッドの等価屈折率neffCと等しくなる周波数をf2としたときに、規格化周波数2πW(N−1.0)1/2/λを、f1より大きくf2より小さい値に設定すれば良い。
【0039】
図3は、コア42の屈折率Nと、コア42の幅Wの関係を示す図である。図3では、横軸に、コア42の屈折率Nを取って示し、縦軸にコア42の幅を光波長λで規格化して示している。
【0040】
図3中、白丸(○)は、シングルモード条件を満たす最小の幅Wを示している。このシングルモード条件を満たす最小の幅Wは、図2に示す周波数f1に対応して定まる。また、図3中、白四角(□)は、シングルモード条件を満たす最大の幅Wを示している。このシングルモード条件を満たす最大の幅Wは、図2に示す周波数f2に対応して定まる。コア42の幅Wが、この○と□の間(図中、Iで示す範囲)にあるとき、シングルモード条件が満たされる。ここでは、コア42の厚みTが充分大きいものとしている。
【0041】
コア42を曲線導波路とする場合、伝播中の光の損失を抑えるためには、コア42の屈折率を第1クラッド層30及び第2クラッド層50に対して充分大きい必要がある。しかし、図3の○及び□が示すように、コア42の屈折率を大きくすると、コア42の幅を小さくする必要がある。この場合、コア42の屈折率が1.6であるとき、コア42の幅Wが、0.7λ程度になる。
【0042】
図3には、さらにコア42の厚みTを有限とした場合のコア42の幅Wが示されている。ここではコア42の厚みTとコア42の幅Wとを等しい値としている。すなわち、コア42の、当該コア42内での光の導波方向に直角な断面形状は、正方形状である。図3中、黒丸(●)は、コア42の厚みTが有限な場合の、シングルモード条件を満たすコア42の最小の幅を示している。図3中、黒四角(■)は、コア42の厚みTが有限な場合の、シングルモード条件を満たすコア42の最大の幅を示している。このコア42の厚みTが有限な場合のシングルモード条件を満たすコア42の幅は、差分法(FDM:Finite Difference Method)により計算される。
【0043】
コア42の幅Wのシングルモード条件を満たす範囲は、●と■の間(図中、IIで示す範囲)である。この範囲は、Iで示す、コア42が充分厚いときに比べてやや狭くなる。しかし、例えば、屈折率Nwが1.6のとき、規格化されたコア42の幅W/λが0.8λ〜1.2λの範囲でシングルモード条件が満たされ、例えば、波長λが0.85μmであれば、1μm角のコア42が実現できる。
【0044】
例えば、上部クラッドである第2クラッド層が無い場合、導波光が空気などの低屈折率部分の影響を受けるため、等価屈折率が低下する。このことから、コア42の材料として、より屈折率の高い材料を用いる必要があり、材料選定が難しくなる。これに対し、本発明の上部クラッドを有する構成では、等価屈折率の低下を防ぐことができる。
【0045】
また、下部クラッド、コア及び上部クラッドを上下対称の構造にして、コアの厚みを0に近づけていくと、基本モードの導波光は、平面波に漸近していく。この平面波には、カットオフ状態が存在しないため、シングルモード条件が緩和され、その結果、シングルモード条件を満たす寸法範囲が増加する。
【0046】
また、上部クラッドが存在しない構成では、光界分布の中心が下部クラッドに引っ張られるため、クラッドを伝播する成分が増え、この結果、コアを伝播中の光の損失が増加する。これに対し、本発明の上部クラッドを有する構成では、光界分布の中心がコアの中心付近となるため、クラッドを伝播する成分が減り、この結果、コアを伝播中の光の損失が減少する。
【0047】
上述した構成で、小さな曲率半径Rを実現できるのは、コアとサイドクラッドの屈折率差が充分大きければ、コアを伝播する光が放射光に変換されにくいことを利用している。例えば曲率半径Rを10μm程度にするためには、コアを石英とし、サイドクラッドを空気とすれば充分である。これは、光を直角方向に曲げるのに、石英と空気の界面が使用できることから、類推できる。
【0048】
次に、図4を参照して、第1実施形態の光導波路素子の製造方法について説明する。図4は、第1実施形態の光導波路素子の製造方法を説明するための工程図であって、図1と同様に、光導波方向に直角方向の面で切った切断端面を示している。
【0049】
この光導波路素子の製造方法は、以下の工程を備えている。先ず、基板20として例えばシリコン基板を用意する。なお、基板20には、トランジスタ、抵抗素子などを有する電子集積回路や、受光素子などを形成しても良い。
【0050】
次に、基板20上に、第1クラッド層30として、例えば、感光性ゾルゲル材料を用いたSiO膜を形成する(図4(A))。
【0051】
次に、第1クラッド層30上に感光性ポリマーを塗布することにより、コア形成層41を形成する(図4(B))。
【0052】
次に、コア形成層41をパターニングしてコア42を形成する。このパターニングは、コア形成層41の材質に応じて、任意好適な方法で行えば良い。例えば、コア形成層を感光性ポリマーで形成した場合は、フォトリソグラフィ法を用いることができる。また、コア形成層が感光性を有していない場合は、コア形成層上にマスクパターンを形成した後、従来周知のウェットエッチングを行えば良い(図4(C))。
【0053】
次に、第2クラッド層50をコア42上に任意好適な手段を用いて貼り付ける(図4(D))。
【0054】
(第2実施形態)
図5を参照して、第2実施形態の光導波路素子の構造について説明する。図5は、第2実施形態の光導波路素子の構造を説明するための図であって、光導波方向に直角方向の面で切った切断端面を示している。
【0055】
第2実施形態の光導波路素子11は、第1クラッド層32が、第1凸部34を備え、第2クラッド層52が、第2凸部54を備える点が、第1実施形態の光導波路素子と異なっていて、それ以外は、同様である。従って、重複する説明は省略する。
【0056】
第1凸部34は、第1クラッド層32の、コア42と接する側の表面付近に形成されている。コア42の、第1凸部34と接する部分の面積は、コア42の第1凸部34と接する側の面積より小さい。この結果、コア42と第1クラッド層32の間に、サイドクラッド46が入り込むように設けられる(図中、Aで示す)。
【0057】
この第1凸部34は、例えば、以下のように形成することができる。この場合、第1クラッド層をSiO膜で形成し、コア42をレジストで形成する。SiOはフッ酸に溶解するが、レジストは溶解しない。そこで、コア42側から、第1クラッド層32を溶解させる。このとき、コア42が形成された部分の第1クラッド層についても、一部、サイドエッチされる。
【0058】
同様に、第2凸部54は、第2クラッド層52の、コア42と接する側の表面付近に形成されている。コア42の、第2凸部54と接する部分の面積は、コア42の第2凸部54と接する側の面積より小さい。この結果、コア42と第2クラッド層52の間に、サイドクラッド46が入り込むように設けられる。
【0059】
この第2凸部54は、第1凸部34と同様に形成することができる。
【0060】
このように構成すると、コア42から、第1クラッド層32及び第2クラッド層52に染み出す導波光の成分が減少する。この結果、光の伝播ロスを第1実施形態の構成よりもさらに抑制できる。このため、曲率半径の小さい光導波路を実現するのに好適である。
【0061】
図6を参照して、第2実施形態の動作について説明する。図6は、図5を第2実施形態の光導波路素子の動作を説明するための特性図であって、3次元ベクトルビーム伝播(BPM:Beam Propagation Method)法によるシミュレーション結果を示している。
【0062】
図6は、横軸に曲率半径R(単位:μm)を取って示し、縦軸に出力光強度を取って示している。ここで、出力光強度は、入力光強度を1としたときの相対的な大きさである。
【0063】
このシミュレーションでは、コア42の幅W及び厚みTを共に1μmとしている。また、サイドエッチの部分は、幅0.1μm、高さ0.5μmとする。
【0064】
コアの屈折率を1.6、クラッドを石英、サイドクラッドを空気としている。導波路の曲率半径Rが10μm以上になると、光の損失の屈折率依存性が無くなり、曲線導波路による損失が抑制されていることがわかる。ここで、出力が1より小さい値を取るのは、光導波路への光の入力における結合損失による。
【0065】
(第3実施形態)
図7を参照して、第3実施形態の光導波路素子の構造について説明する。図7は、第3実施形態の光導波路素子の構造を説明するための図であって、光導波方向に直角方向の面で切った切断端面を示している。
【0066】
第3実施形態の光導波路素子12は、基板20上に、クラッド層30(30−1、30−2、…)と導波路層40(40−1、40−2、…)を交互に備えていて、第1から第n層の多層導波路構造15(15−1、15−2、…)を構成している。
【0067】
第1層の導波路構造15−1は、第1クラッド層30−1、第1導波路層40−1及び第2クラッド層50−1を順に備えて構成される。すなわち、第1導波路層40−1は、下部クラッドとして用いられる第1クラッド層30−1と、上部クラッドとして用いられる第2クラッド層50−1の間に設けられている。
【0068】
第1導波路層40−1は、第1コア42−1と、第1コア42−1を水平方向に挟む位置に設けられた第1サイドクラッド44−1を備えている。
【0069】
この第1層の導波路構造15−1は、図1を参照して説明した第1実施形態の光導波路素子10と同様に構成することができる。
【0070】
第2層の導波路構造15−2は、第1層の導波路構造15−1上に形成されている。ここで、第2クラッド層30−2(50−1)は、第1層の導波路構造15−1の上部クラッドと、第2層の導波路構造15−2の下部クラッドの両者を兼ねている。
【0071】
同様に、第k層の導波路構造15−kは、第kクラッド層30−kと、第k+1クラッド層30−(k+1)の間に、第k導波路層40−kを備えて構成される。ここで、第k+1クラッド層30−(k+1)は、第k層の導波路構造15−kの上部クラッドと、第k+1の導波路構造15−(k+1)の下部クラッドの両者を兼ねる。
【0072】
第1〜n+1クラッド層30−1〜(n+1)は、第1実施形態の第1及び第2クラッド層と同様に形成できる。また、第1〜n導波路層40−1〜kは、第1実施形態のクラッド層と同様に形成できる。
【0073】
なお、各クラッド層には、第2実施形態と同様に凸部を設けても良い。この場合、第kクラッド層は、第kコアと接する部分に第k凸部を有している。第kコアの、第k凸部と接する部分の面積が、第k凸部と接する側の面積より小さい。また、第k+1クラッド層は、第kコアと接する部分に第k+1凸部を有している。第kコアの、第k+1凸部と接する部分の面積が、第k+1凸部と接する側の面積より小さい。
【0074】
次に、図8を参照して、第3実施形態の光導波路素子の製造方法について説明する。図8は、第3実施形態の光導波路素子の製造方法を説明するための工程図であって、図7と同様に、光導波方向に直角方向の面で切った切断端面を示している。
【0075】
この光導波路素子の製造方法は、以下の工程を備えている。先ず、基板20として例えばシリコン基板を用意する。なお、基板20には、トランジスタ、抵抗素子などを有する電子集積回路や、受光素子などを形成しても良い。
【0076】
次に、基板20上に、第1クラッド層30−1及び第1コア形成層41−1を形成する。ここで、第1コア形成層41−1として、感光性材料を用いる(図8(A))。
【0077】
次に、第1コア形成層41−1のコア42−1が形成される領域を露光する。その後、第1コア形成層41−1上に、第2クラッド層30−2(50−1)を形成する(図8(B))。
【0078】
次に、第2クラッド層30−2上に、第2コア形成層41−2を形成し、第2コア形成層41−2のコア42−2が形成される領域を露光する。その後、第2コア形成層41−2上に、第3クラッド層30−3(50−2)を形成する。
【0079】
この工程を第nコア形成層41−n上に、第n+1クラッド層30−(n+1)が形成されるまで、繰り返し行う(図8(C))。
【0080】
その後、各クラッド層に形成した開孔56を経て溶剤をクラッド層間に流し込み、サイドクラッドの部分を充填している感光性材料を溶かしだす。この結果、多層導波路構造を有する光導波路素子が得られる。
【0081】
なお、この溶剤を流し込むための開孔56は、任意好適な従来周知の、フォトリソグラフィ及びエッチングによって形成することができる。また、この開孔56の形成は、第k+1クラッド層を形成した後、第k+1コア層を形成する前に、すなわち、各クラッド層を形成する都度、行うことができる(図8(D))。
【0082】
サイドクラッドに紫外線あるいは熱により分解気化する材料を用い、気化した材料を開孔56を通して取り出す方法で作製しても良い。
【0083】
また、この多層導波路構造の形成は、図4を参照して説明した第1実施形態の光導波路素子の製造方法と同様に、各導波路層についてサイドクラッドの部分の材料を除去してコアを形成した後に、上部クラッドを形成する工程を繰り返し行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】第1実施形態の光導波路素子の構造を説明するための図である。
【図2】規格化周波数とコアの等価屈折率の関係を示す図である。
【図3】コアの屈折率Nと、コアの幅Wとの関係を示す図である。
【図4】第1実施形態の光導波路素子の製造方法を説明するための工程図である。
【図5】第2実施形態の光導波路素子の構造を説明するための図である。
【図6】第2実施形態の光導波路素子の動作を説明するための特性図である。
【図7】第3実施形態の光導波路素子の構造を説明するための図である。
【図8】第3実施形態の光導波路素子の製造方法を説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0085】
10、11、12 光導波路素子
20 基板
30、32 クラッド層(下部クラッド)
34、54 凸部
40 導波路層
41 コア形成層
42 コア
44、46 サイドクラッド
50、52 クラッド層(上部クラッド)
56 開孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1クラッド層と、
第2クラッド層と、
前記第1クラッド層と前記第2クラッド層の間に設けられた導波路層と
を備え、
前記導波路層は、コアと、該コアを水平方向に挟む位置に設けられたサイドクラッドとを備え、
前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の屈折率は、前記コアの屈折率よりも低く、かつ、前記サイドクラッドの屈折率は、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の屈折率よりも低い
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
前記第1クラッド層は、前記コアと接する部分に第1凸部を有し、
前記コアの前記第1凸部と接する部分の面積が、前記第1凸部と接する側の面積より小さく、
前記第2クラッド層は、前記コアと接する部分に第2凸部を有し、
前記コアの、前記第2凸部と接する部分の面積が、前記第2凸部と接する側の面積より小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】
前記コアを伝播する光の基本モードについて、前記コアにおける等価屈折率が、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層における等価屈折率よりも高く、
前記コアを伝播する光の高次モードについて、前記コアにおける等価屈折率が、前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層における等価屈折率よりも低い
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光導波路素子。
【請求項4】
第1〜n+1クラッド層(nは2以上の整数)と、
第kクラッド層と第k+1クラッド層の間に設けられた第k導波路層(kは1以上n以下の整数)と
を備え、
前記第k導波路層は、第kコアと、該第kコアを水平方向に挟む位置に設けられた第kサイドクラッドとを備え、
前記第kクラッド層及び前記第k+1クラッド層の屈折率は、前記第kコアの屈折率よりも低く、かつ、前記第kサイドクラッドの屈折率は、前記第kクラッド層及び前記第k+1クラッド層の屈折率よりも低い
ことを特徴とする光導波路素子。
【請求項5】
前記第kクラッド層は、前記第kコアと接する部分に第k凸部を有し、
前記第kコアの、前記第k凸部と接する部分の面積が、前記第k凸部と接する側の面積より小さく、
前記第k+1クラッド層は、前記第kコアと接する部分に第k+1凸部を有し、
前記第kコアの、前記第k+1凸部と接する部分の面積が、前記第k+1凸部と接する側の面積より小さい
ことを特徴とする請求項4に記載の光導波路素子。
【請求項6】
前記第kコアを伝播する光の基本モードについて、前記第kコアにおける等価屈折率が、前記第kクラッド層及び前記第k+1クラッド層における等価屈折率よりも高く、
前記第kコアを伝播する光の高次モードについて、前記第kコアにおける等価屈折率が、前記第kクラッド層及び前記第k+1クラッド層における等価屈折率よりも低い
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の光導波路素子。
【請求項7】
基板上に、第1クラッド層を形成する工程と、
該第1クラッド層上にコア形成層を形成した後パターニングを行って、コアと該コアを水平方向に挟む位置にサイドクラッドとを有する導波路層を形成する工程と、
該導波路層上に、第2クラッド層を形成する工程と
を備え、
前記第1クラッド層及び前記第2クラッド層の屈折率を、前記コアの屈折率よりも低くする
ことを特徴とする光導波路素子の製造方法。
【請求項8】
基板上に、第1クラッド層を形成する工程と、
第kクラッド層(kは1以上n以下の整数、nは2以上の整数)上に、第kコア形成層を形成した後パターニングを行って、第kコアと該第kコアを水平方向に挟む位置に第kサイドクラッドとを有する第k導波路層を形成する工程と、
該第k導波路層上に、第k+1クラッド層を形成する工程と
をkを1からnまで順次に変えて繰り返し行い、
前記第kクラッド層及び前記第k+1クラッド層の屈折率を、前記第kコアの屈折率よりも低くする
ことを特徴とする光導波路素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1クラッド層の前記コアと接する側の面に第1凸部を形成する工程と、
前記第2クラッド層の前記コアと接する側の面に第2凸部を形成する工程と
を備え、
前記コアの、前記第1凸部と接する部分の面積が、前記第1凸部と接する側の面積より小さく、
前記コアの、前記第2凸部と接する部分の面積が、前記第2凸部と接する側の面積より小さい
ことを特徴とする請求項7に記載の光導波路素子の製造方法。
【請求項10】
前記第kクラッド層の前記第kコアと接する側の面に第k凸部を形成する工程と、
前記第k+1クラッド層の前記第kコアと接する側の面に第k+1凸部を形成する工程と
を備え、
前記第kコアの、前記第k凸部と接する部分の面積が、前記第k+1凸部と接する側の面積より小さく、
前記第kコアの、前記第k+1凸部と接する部分の面積が、前記第k+1凸部と接する側の面積より小さい
ことを特徴とする請求項8に記載の光導波路素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−205086(P2009−205086A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49725(P2008−49725)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】