説明

光弾性測定方法およびその装置

【課題】複数の層からなる透過性を有する測定対象物から、所定層に作用している主応力の差とその方向を精度よく、かつ高速に求める。
【解決手段】第2偏光ビームスプリッタ8で分離出力された2つの反射光を複数層からなる測定対象物Wと参照ミラー14とでそれぞれを反射させて戻す過程で、両反射光の周者数偏差が数kHzとなる周波数変調をかけ、第2偏光ビームスプリッタ8に戻った両反射光を再び合成したときに干渉を生じさせる。つまり、これら両反射光の周波数偏差のビート信号に光弾性信号を載せ、第2偏光ビームスプリッタ8で分離出力する両反射光を第1および第2ラインセンサ17,19で検出し、検出信号を反射スペクトルに変換し、周波数解析してパワースペクトルにより複屈折の変化量情報、主応力の差の大きさ、およびその方向を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルやプラズマディスプレイパネルなどのような透過性を有する測定対象物に作用する応力や歪みなどを測定するための光弾性測定方法およびその装置に係り、特に、積層基板や微小間隙をおいて配備された2枚の貼り合せ基板のそれぞれの基板に作用している応力を精度よく測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板のような透過性を有する測定対象物に作用している応力を求める方法として、次のような方法が知られている。ガラス基板などの試料の周縁を保持し、異なる2つの周波数成分が互いに反対向きの円偏光となるレーザ光を透過させて光電検出器で検出し、この検出信号構成する直流成分と交流成分に基づいて、当該試料の複屈折の変化量とその主軸の方向を求めている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−254495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の各方法では次のような問題がある。
【0005】
上記方法は透過式であるので、透過性を有する測定対象物である単一のガラス基板などの試料に対しては、有効に機能する。しがしながら、光学特性、特に屈折率の異なる複数の素材が積層された基板、特に積層や微小間隙をおいて配備された2枚の貼り合せ基板について主応力の差と角度を測定する場合、求まる複屈折の変化量は、すべての層のものが合成されたものであるので、2枚の基板のいずれの基板に、または両方の基板に作用する主応力の差と角度(方向)を精度よく求めることができないといった問題がある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、光学特性として屈折率の異なる複数の素材が積層された基板、特に積層や微小間隙をおいて積層された貼り合せ基板について、応力の作用している基板を正確に分別するとともに、その基板に作用する応力で生じる複屈折の変化量、主応力の差の大きさと位置情報、およびその方向を高速かつ精度よく求めることのできる光弾性測定方法およびその装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、第1の発明は、水平方向に対して傾斜した直線偏光を光学手段で分岐し、一方を透過性を有する複数層からなる測定対象物に、他方を参照ミラーに向けて照射する照射過程と、
前記両直線偏光が光学手段に戻るまでに異なる周波数変調を両直線偏光にかける変調過程と、
変調のかかった測定対象物に向う直線偏光を光学手段に透過させて円偏光にするとともに、変調のかかった状態で参照ミラーから戻る直線偏光の偏光面を45°回転させる回転過程と、
前記両偏光を測定対象物と参照ミラーのそれぞれで反射させ、前記各過程と同一光路に各反射光を通して前記光学手段に戻す反射過程と、
前記光学手段に戻る両反射光のうち当該光学手段出力時に偏光状態が測定対象側に含まれる垂直成分と参照ミラー側に含まれる水平成分とにまとめた第1反射光と、
光学手段に入射する両反射光の周波数偏差により求まる交流信号に光弾性信号を載せて抽出するとともに、測定対象物からの反射光のうち複屈折信号を含んだ偏光成分と、参照ミラーからの反射光の1部をまとめて干渉を生じさせた第2反射光とを光学手段の異なる部位から出力する出力過程と、
複数個の検出素子を1次元アレー状に配備した検出手段で前記光学手段から出力された両反射光を検出する検出過程と、
検出した前記両反射光のスペクトルを波数軸での反射スペクトルに変換し、その後に周波数解析してパワースペクトルのピークを与える周波数から複屈折の生じている位置情報と、そのピーク高さから複屈折の変化量情報を求め、
さらに、第1反射光と第2反射光とから得られる各情報に基づいて、主応力の差の方向を求める演算過程と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
(作用・効果) この方法によれば、光学手段で分離された2つの直線偏光は、一方の測定対象物に向う直線偏光が円偏光され、他方の参照ミラーに向う直線偏光が偏光面を45°回転させられた状態でそれぞれに照射され、反射して同一光路を通って光学手段に戻される。この往復過程で、両直線偏光に異なる周波数変調がかけられているので、光学手段で両反射光の異なる成分同士が合成されるとき、その周波数偏差分に測定対象物に作用する応力が光弾性信号として含まれる。さらに、両反射光を合成することにより干渉が生じる。つまり、光学手段で、再び合成された両反射光である直線偏光を検出手段で検出し、その検出結果を利用して演算処理することにより、第2反射光から複屈折の生じている位置情報と、そのピーク高さから複屈折の変化量情報を求めることができるとともに、第1反射光と第2反射光とから得られる各情報に基づいて、主応力の差の方向を求めることができる。ただし、複屈折の変化量は、第1反射成分の反射情報で補正することが好ましい。
【0009】
この方法を利用すれば、1回の検出操作で全ての層の主応力の差の各種情報を求められるので、高速処理が可能となる。
【0010】
また、反射光を利用するので、シート状などの薄い測定対象物の裏面全体を覆って保持していても各層に作用している主応力の差を精度よく求めることができる。
【0011】
第2の発明は、第1の方法発明において、
前記測定対象物の最外側の層に押圧をかけた押圧状態と非押圧状態のときの各主応力の差を求め、両値の偏差に基づいて、測定対象物に作用している主応力の差が圧縮か引っ張りかを特定することを特徴とする。
【0012】
(作用・効果) この方法発明によれば、測定対象である所定層に作用している応力が圧縮応力であるか引張応力であるかを容易に特定することができる。例えば、ガラス基板などの板状物に応力が作用している場合、通常、反りが発生している。この状態で凹入湾曲している内側には圧縮応力が作用しており、反り返っている外側には引張応力が作用している。また、複数層が積層されている場合は、同じような現象が発生している。つまり、凹入湾曲側に位置する層に圧縮応力が作用し、外側の層に引張応力が作用する。
【0013】
ここで、非押圧状態で求めた所定層の主応力の差の方向については、π/2度の不定性がある。そこで、最外側の層を押圧状態で測定したとき、その層の応力差が大きくなれば、その層は、引っ張り状態あることが分かる。逆に、応力差が小さくなれば、圧縮状態であると分かる。
【0014】
第3の発明は、光学手段を介して分離した2つの直線偏光のうち、一方の第1直線偏光を測定対象物に、他方の第2直線偏光を参照ミラーに照射しながら、測定対象物と第1直線偏光および参照ミラーと第2直線偏光をそれぞれ各光軸回りに同期をとりながら回転させる回転過程と、前記測定対象物と参照ミラーで反射する両反射光のそれぞれを、入射光の偏光状態に対して偏光状態の変化した成分と、初期の偏光状態の成分とに分離する分離過程と、
前記回転しながら戻る測定対象物側からの入射光の偏光状態に対して偏光状態の変化した成分と参照ミラー側からの反射光の偏光状態が測定対象物側からものと同じ成分を分離し、両成分同士をまとめて干渉を生じさせた第1反射光と、
第1反射光の成分を除く成分同士をまとめた第2反射光とを前記光学手段の異なる部位から出力する出力過程と、
前記両直線偏光の光軸回りに少なくとも3箇所の回転角度で複数個の検出素子を1次元アレー状に配備した検出手段を利用して両反射光を検出する検出過程と、
検出した前記第1反射光を第2反射成分で補正して波長軸での反射スペクトルに変換し、その後に周波数解析してパワースペクトルのピークを与える周波数から複屈折の生じている位置情報とそのピーク高さから複屈折の変化量情報を求め、
さらに、前記回転角度ごとの当該複屈折の変化量情報から楕円を近似して、各位置で主応力の差の大きさとその向きとを求める演算過程と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
(作用・効果) この方法によれば、光学手段で分離された2つの直線偏光が、測定対象物と参照ミラーで反射して光学手段に戻され、入射光の偏光状態に対して偏光状態の変化した垂直成分同士と、非変化状態の水平成分同士とにまとめられる。このとき、変化のある垂直成分でまとめた第1反射光で干渉が生じる。これら両反射光と反射物とを光軸周りに回転させながら、少なくとも異なる3箇所の回転角度で検出する。検出した第1反射光を第2反射成分で補正して波長軸での反射スペクトルに変換し、その後に周波数解析してパワースペクトルのピークを与える周波数から複屈折の生じている位置情報とそのピーク高さから複屈折の変化量情報を求め、さらに、複屈折の生じている位置情報で回転角度ごとの当該複屈折の変化量情報から楕円を近似することにより主応力の差の作用している主応力の差の大きさとその方向とを求めることができる。
【0016】
第4の発明は、前記反射光が光学手段に入射する前に、複屈折の変化量が予め決められた光学素子に反射光を透過させることを特徴とする。
【0017】
ピークを与える周波数から複屈折の生じている位置情報と
(作用・効果) この方法発明によれば、各層を通過したときに作用している複屈折の変化量ごとに光学素子が有する予め決まった複屈折の変化量が合算される。したがって、特定層に作用している複屈折の変化量の値が小さくても、基準となる閾値レベルを高めているので、容易にその値を求めることができ、ひいては特定層に作用している微小な主応力の差とその方向を精度よく求めることができる。
【0018】
第5の発明は、第3または第4の方法発明において、
前記測定対象物の最外側の層に押圧をかけた押圧状態と非押圧状態のときの各主応力の差を求め、両値の偏差に基づいて、測定対象物に作用している主応力の差が圧縮か引っ張りかを特定することを特徴とする。
【0019】
(作用・効果) この方法によれば、測定対象である所定層に作用している応力が圧縮応力であるか引張応力であるかを容易に特定することができる。例えば、ガラス基板などの板状物に応力が作用している場合、通常、反りが発生している。この状態で凹入湾曲している内側には圧縮応力が作用しており、反り返っている外側には引張応力が作用している。また、複数層が積層されている場合は、同じような現象が発生している。つまり、凹入湾曲側に位置する層に圧縮応力が作用し、外側の層に引張応力が作用する。
【0020】
ここで、非押圧状態で求めた所定層の主応力の差の方向については、π/2度の不定性がある。そこで、最外側の層を押圧状態で測定したとき、その層の応力差が大きくなれば、その層は、引っ張り状態あることが分かる。逆に、応力差が小さくなれば、圧縮状態であると分かる。
【0021】
第6の発明は、複数の層からなる透過性を有する測定対象物を保持する保持手段と、
前記測定対象物に向けて直線偏光を照射する照射手段と、
前記直線偏光を水平方向に対して傾斜させる第1光学手段と、
前記光を透過させて直交する2方向の直線偏光に分離し、一方を測定対象物に、他方を参照ミラーに照射する第2光学手段と、
前記両直線偏光に異なる周波数変調をかける光音響変調手段と、
前記両直線偏光の偏光面を45°回転させる第3光学手段と、
測定対象物からの反射光で入射光の偏光状態に対して光弾性信号を含む水平成分と参照ミラー側からの反射光の垂直成分とが第2光学手段に戻り、
当該第2光学手段を通過した成分に両反射光の周波数偏差により求まる交流信号に光弾性信号を載せて抽出されるとともに、
測定対象物からの反射光のうち光弾性信号を含まない成分と参照ミラーからの水平成分をまとめて45°の直線偏光素子通すことで干渉を生じさせた第1反射光と、第1反射光の成分を除く成分同士をまとめた光弾性信号を含んだ第2反射光とが分離して異なる部位から出力され、これら両反射光を検出する1次元アレー状に配備した複数個の検出素子からなる検出手段と、
検出した前記両反射光のスペクトルを波数軸での反射スペクトルに変換し、その後に第2反射光からは周波数解析してパワースペクトルのピークを与える周波数から複屈折の生じている位置情報と、そのピーク高さから複屈折の変化量情報を求め、
さらに、第1反射光と第2反射光とから得られる各情報に基づいて、主応力の差の方向を求める演算手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0022】
(作用・効果) この構成によれば、第1の発明方法を好適に実現することができる。
【0023】
なお、この装置発明によれば、押圧部材の先端を測定対象物の最外側の層に接触させて押圧する作用位置と非接触状態で離間した待機位置とにわたって押圧部材を移動させる移動機構をさらに備え、
前記演算手段は、測定対象物の最外側の層に押圧をかけた押圧状態と非押圧状態のときの各主応力の差を求め、両値の偏差に基づいて測定対象物に作用している主応力の差が圧縮か引っ張りかを特定することが好ましい(請求項7)。
【0024】
この構成によれば、第2の発明方法を好適に実現することができる。
【0025】
また、この装置発明によれば、前記第2反射光をさらに直交する2つの偏光に分離する第3光学手段と、複数個の検出素子が2次元アレー状に配備し、分離された一方の前記偏向の位置を検出する位置検出手段と、前記保持手段を傾斜させる駆動手段と、前記第3検出手段によって検出された偏光の位置に応じて保持手段に保持された測定対象物の傾斜量が前記演算手段により求められ、この傾斜量にしたがって前記駆動手段を作動させて前記保持手段の平行度を維持させる駆動制御手段とを備えることが好ましい(請求項8)。
【0026】
この構成によれば、平面保持した測定対象物のあおりが検出され、その検出結果に応じてあおり補正される。したがって、反射光を正確に検出手段に導いて精度よく検出することができる。すなわち、測定精度を向上させることができる。
【0027】
また、第9の発明は、複数の層からなる透過性を有する測定対象物を保持する保持手段と、
前記測定対象物に向けて直線偏光を照射する照射手段と、
前記光を透過させて直交する2方向の直線偏光に分離し、一方を前記測定対象物に、他方を参照ミラーに照射する第1光学手段と、
前記測定対象物から反射して戻る偏光のうち初期の光路を戻る偏光と、この偏光と直交する偏光を別光路に分離して出力する第1分離手段と、
前記参照ミラーから反射して戻る偏光のうち初期の光路を戻る偏光と、この偏光と直交する偏光を別光路に分離して出力する第2分離手段と、
前記両偏光の偏光面を水平方向から微少回転させる第2光学手段と、
測定対象物側からの偏光のうち入射光の偏光状態に対して、偏光状態の変化した偏光の成分と、参照ミラー側からの反射光の偏光状態が測定対象物側からのものと同じ成分を分離し、両成分同士をまとめて干渉を生じさせた第1反射光と、
これら両成分を除く成分同士をまとめた第2反射光とが分離して異なる部位から出力され、両反射光を検出するアレー状に配備した複数個の検出素子からなる第1検出手段と、
前記保持手段と第1分離手段および参照ミラーと第2分離手段の各組を光軸回りに回転させる回転手段と、
両回転手段の回転駆動の同期をとる回転駆動制御手段と、
前記第1検出手段によって検出された第1反射光の波長軸に対する反射スペクトルを第2反射光のスペクトルで補正して波数軸に対する反射スペクトルに変換し、その後に周波数解析して複屈折の変化量情報と位置情報を求め、前記光軸回りの少なくとも3箇所から取得した情報に基づいて楕円を近似して求め、その長軸の大きさとその傾きから主応力の差とその方向を求める演算手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0028】
(作用・効果) この構成によれば、第3の発明方法を好適に実現できる。
【0029】
なお、この装置発明によれば、押圧部材の先端を測定対象物の最外側の層に接触させて押圧する作用位置と非接触状態で離間した待機位置とにわたって押圧部材を移動させる移動機構をさらに備え、前記演算手段は、測定対象物の最外側の層に押圧をかけた押圧状態と非押圧状態のときの各主応力の差を求め、両値の偏差に基づいて測定対象物に作用している主応力の差が圧縮か引っ張りかを特定することが好ましい(請求項10)。
【0030】
この構成によれば、第5の発明方法を好適に実現できる。
【0031】
また、この装置発明によれば、前記第2反射光をさらに直交する2つの偏光に分離する第3光学手段と、複数個の検出素子が2次元アレー状に配備し、分離された一方の前記偏向の位置を検出する位置検出手段と、前記保持手段を傾斜させる駆動手段と、前記第3検出手段によって検出された偏光の位置に応じて保持手段に保持された測定対象物の傾斜量が前記演算手段により求められ、この傾斜量にしたがって前記駆動手段を作動させて前記保持手段の平行度を維持させる駆動制御手段とを備えることが好ましい(請求項11)。
【0032】
この構成によれば、測定対象物のあおりを補正し、測定対象物からの反射光を検出手段に精度よく導くことができる。すなわち、測定精度を向上させることができる。
【0033】
また、この装置発明によれば、反射光が前記分離手段に入射する前段に、複屈折の変化量が予め決められた第4光学手段と、前記第3光学手段で分離されて位置検出手段と異なる方向に出力された他方の偏光を検出する第2検出手段とを備え、前記演算手段は、前記第1および第2検出手段によって検出された反射光を利用して、測定対象の反射光に含まれる複屈折の変化量を加算し、基準となる閾値レベルを高めることが好ましい(請求項12)。
【0034】
この構成によれば、予め複屈折の変換量が決められた第4光学手段に両反射光を透過させることにより、測定対象の複屈折の変化量にこの光学素子の分が加算される。したがって、特定層に作用している複屈折の変化量の値が小さくても、基準となる閾値レベルを高めているので、容易にその値を求めることができる。すなわち、第5の発明方法を好適に実現できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る光弾性測定方法およびその装置によると、光学手段で分離した2つの直線偏光を円偏光に変換して複数の層からなる測定対象物と参照ミラーに照射し、各面で反射させて当該光学手段に戻すことにより、再び合成させる。このとき、測定対象物に作用している応力により、測定対象面からの反射光に光弾性信号が載っており、両反射光を間合成したときに干渉が生じ、異なる同士が求められて光学手段の異なる部位が出力される。この両反射光を検出し、波数軸での反射スペクトルへの変換、周波数解析することにより、求めるパワースペクトルから複屈折の生じている位置情報、複屈折の変化量情報および主応力の差の方向を1回の測定操作で高速、かつ、精度よく求めることができる。
【実施例1】
【0036】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【0037】
図1は、本発明の光弾性測定方法を利用した実施例装置の概略構成を示す図である。なお、本実施例では、図1に示すように、測定対象物Wとして液晶パネルやプラズマディスプレイのように2枚の透過性を有するガラス基板W1,W2を、微小間隔をおいて重ね合わせた物であり、この測定対象物Wを平板上の保持テーブルを有する載置台11に平面保持した状態で、その各層に作用している主応力の差とその方向を求める。
【0038】
この実施例装置は、光源1から出力される光を測定対象物Wと参照ミラー14に向けて分離する第2偏光ビームスプリッタ8までの第1光路、第2偏光ビームスプリッタ8から測定対象物Wまでの第2光路、第2偏光ビームスプリッタ8から参照ミラー14までの第3光路、さらに、測定対象物Wと参照ミラー14で反射した両反射光が第2偏光ビームスプリッタ8でまとめられ、さらに2つの偏光に分離されて異なる部位から出力され、これら両反射光が検出されるまでの第4光路と第5光路が形成され、各光路上に複数の構成部材が配備されている。以下、各光路上に配備されている構成部材とその構成について説明する。
【0039】
光源1から第2偏光ビームスプリッタ8までの第1光路には、偏光板2、平行光にする対物レンズ3、第1偏光ビームスプリッタ4、ファラデーローテータ5、偏光板6、および1/2波長板7が配備されている。
【0040】
光源1は、近赤外域のSLD(Super Luminescent Diode)や半導体レーザや白色LED(Light emitting diode)などのランダム偏光のものが利用される。こなお、光源1は、本発明の照射手段に相当する。
【0041】
偏光板2は、光源1からの光を水平成分の直線偏光にする。
【0042】
第1偏光ビームスプリッタ4は、光源1からの直線偏光のうち水平成分は透過させ、直交する垂直成分を第2ラインセンサ19側に向かわせる第5光路を形成する。
【0043】
ファラデーローテータ5は、直線偏光を透過させたときに偏光面を45°回転させる。つまり、本実施例の場合、光源1から第2偏光ビームスプリッタ8に向う直線偏光、および測定対象物Wと参照ミラー14で反射して第2偏光ビームスプリッタ8でまとめられて同一光路を戻る反射光を水平成分から垂直成分の直線偏光にする。
【0044】
偏光板6は、ファラデーローテータ5で垂直成分となった直線偏光の偏光面を45°回転させ、水平成分の直線偏光に戻す。
【0045】
1/2波長板7は、偏光板6で水平成分に戻った直線偏光を、この水平方向に対して所定の傾斜角を持たせる。本実施例の場合、10°程度傾ける。なお、1/2波長板7は、本発明の第1光学手段に相当する。
【0046】
第2偏光ビームスプリッタ8は、光源1からの直線偏光のうち水平成分を測定対象物Wに、垂直成分を参照ミラー14に向けて出力するように分離する。本実施例に場合、光源1からの直線偏光が1/2波長板7で水平成分に対して傾斜角を有しており、垂直成分が発生している。したがって、第2偏光ビームスプリッタ8は、光源1側から入射する直線偏光を垂直成分と水平成分分離する。
【0047】
また、第2偏光ビームスプリッタ8は、測定対象物Wと参照ミラー14で反射して戻る両反射光を透過させる過程で、反射前の偏光状態が応力により変化し、その両反射光の入射光の偏光状態に対して偏光状態が測定対象側に含まれる垂直成分と参照ミラー側に含まれる水平成分とをまとめ、この成分以外同士をまとめた2つの反射光にして異なる部位から出力する。つまり、反射前と比較して偏光状態の変化した成分同士からなる第1反射光は垂直成分が含まれるので、当初入射時の水平成分と直交する方向に出力される。第1反射光の成分を除く成分同士をまとめた第2反射光は、当初入射光と同じ水平成分であるので、光源1側からの第1光路と同じ光路を通るように出力される。なお、第2偏光ビームスプリッタ8は、本発明の第2光学手段に相当する。
【0048】
次に、第2偏光ビームスプリッタ8から測定対象物Wまでの第2光路上には、第1光音響変調器9および1/4波長板10が配備されている。
【0049】
第1光音響変調器9は、透過する直線偏光に所定周波数の変調をかける。この周波数は、後述する第2光音響変調器12との偏差が数kHzとなる周波数に設定される。なお、第1光音響変調器9および第2光音響変調器12は、本発明の光音響変調手段に相当する。
【0050】
1/4波長板10は、直線偏光の偏光面を45°回転させる。すなわち、入射した直線偏光を円偏光に変換して測定対象物Wに照射する。なお、1/4波長板10は、本発明の第3光学手段に相当する。
【0051】
第2偏光ビームスプリッタ8から参照ミラー14までの第3光路上には、第2光路と同じ構成となるように第2光音響変調器12および1/4波長板13が配備されている。したがって、第2光音響変調器12は、透過する直線偏光に所定周波数の変調をかける。また、1/4波長板13は、直線偏光の偏光面を2回通過することで45°回転させ、参照ミラー14からの反射光は垂直偏光であるが、その垂直偏光成分から水平偏光成分を作り出している。この成分が第2偏光ビームスプリッタ8から出力されて第1ラインセンサ17に到達する。一方、垂直成分は第2偏光ビームスプリッタ8で反射して、第2ラインセンサ19に到達する。なお、1/4波長板13は、本発明の第3光学手段に相当する。
【0052】
第2偏光ビームスプリッタ8から第1ラインセンサ17までの第4光路は、第1反射光の光路であり、その光路上に偏光板15、回折格子16、および第1ラインセンサ17が配備されている。測定対象からの反射光中、この光路の成分には、反射率に関する情報を含む。この成分と参照ミラーからの水平成分は、偏光板15で直交成分同士を抽出し、それら同士を干渉させる。
【0053】
回折格子16は、反射型であり第1反射光を第1ラインセンサ17に第1反射光を分光して照射する。
【0054】
第1ラインセンサ17は、複数個の検出素子を1次元アレー状に整列配備して構成したものである。第1ラインセンサ17としては、例えば、512,1024,2048画素などに対応したものが挙げられる。なお、第1ラインセンサ17は、本発明の検出手段に相当する。
【0055】
第5光路は、第1偏光ビームスプリッタ4に入射する水平成分と直交する垂直成分が出力される光路であって、第1光路を戻る第2反射光が通る光路となる。この光路上には、第2反射光を反射させる回折格子18と、この回折格子18からの反射光を受光する第2ラインセンサ19とが配備されている。第2ラインセンサ19としては、例えば、512,1024,2048画素などに対応したものが挙げられる。なお、第2ラインセンサ19は、本発明の検出手段に相当する。
【0056】
載置台11は、保持テーブルを備え、この保持テーブルが駆動機構20によって前後左右に水平移動するように構成されている。なお、載置台11は、本発明に保持手段に相当する。
【0057】
制御ユニット21は、操作部22、トリガー発生部23、演算処理部24、および駆動制御部25を含む構成となっていおり、本実施例装置を総括的に制御している。なお、各構成部については、後述する動作説明で具体的に説明する。なお、演算処理部24は、本発明の演算手段に相当する。
【0058】
次に、上記実施例装置を用いて、測定対象物Wの各ガラス基板W1,W2に作用する主応力の差と主応力の差の作用している方向を測定する一巡の動作および処理について説明する。なお、測定対象物Wを構成するガラス基板W1,W2の両方に応力が作用している場合を例にとって説明する。なお、本実施例のガラス基板W1,W2の微少ギャップが5μmと既知であり、この測定対象Wに対して光源1に790−890nm、コヒーレント長が6μmのSLDを利用する。また、第1および第2ラインセンサ17,19は、CCDタイプであり、1024画素のものが利用される。
【0059】
オペレータは、操作部22を操作して測定対象物Wのサイズ、移動速度、この移動速度に応じた検出タイミングのトリガー、第1および第2光音響変調器9、12の周波数などの設定をする。本実施例は、トリガーとして2kHz、第1光音響変調器9の周波数を80.000MHz、第2光音響変調器12の周波数を80.001MHzに設定する。つまり、両光音響変調器9,12の周波数偏差が1kHz(往復透過で2kHzとなる)になるように設定される。
【0060】
設定が終了すると、装置を作動させて測定を開始する。光源1から出力される光は、偏光板2で水平成分の直線偏光となりそのままの状態でファラデーローテータ5に到達する。
【0061】
ファラデーローテータ5は、水平成分から垂直成分の直線偏光に変換する。この直線偏光は、次の偏光板6で水平成分に戻され、1/2波長板7で水平方向に対して偏光面に傾斜角が持たされて第2偏光ビームスプリッタ8に向けられる。
【0062】
第2偏光ビームスプリッタ8は、偏光面に傾斜角を有する直線偏光を直交する2つの直線偏光に分離する。一方の水平成分が測定対象物Wに出力され、他方の垂直成分の直線偏光が参照ミラー14に向けて出力される。
【0063】
測定対象物Wに向う直線偏光は、第1光音響変調器9で設定周波数の80MHzの周波数変調がかけられ、さらに1/4波長板10で円偏光にされる。この状態で測定対象物Wに照射され、図2に示すように、ガラス基板W1の表面と空気層との接触界面(反射面P1)で反射して戻る反射光R1、ガラス基板W1とガラス基板W2との微小間隙の空気層とガラス基板W1の裏面との接触界面(反射面P2)で反射して戻る反射光R2、空気層とガラス基板W2の表面との接触界面(反射面P3)で反射して戻る反射光R3、およびガラス基板W2と載置台11との接触界面(反射面P4)で反射して戻る反射光R4が合成される。この光学系では、コヒーレント長が6μmの為、R2とR3とは干渉を起こし、P2,P3は分離出来ない。これを生じる位置を、以下適宜にP23とする。
【0064】
このとき、各ガラス基板W1,W2に応力が作用している場合、円偏光が楕円偏光に変化している。つまり、楕円偏光となった反射光が、入射光と同一光路を通って第2偏光ビームスプリッタ8へと戻される。なお、この過程で、1/4波長板10と透過して直線偏光に戻される。
【0065】
他方の参照ミラー14に向う直線偏光は、第2光音響変調器12で設定周波数の80.001MHzの周波数変調がかけられ、さらに1/4波長板13で円偏光にされる。この状態で参照ミラー14に照射され、反射して第2反射光となって第2偏光ビームスプリッタ8に戻される。このとき、第2反射光は、円偏光になったことにより、水平成分が発生している。
【0066】
第2偏光ビームスプリッタ8の戻された両反射光は、水平成分および垂直成分が発生しており、測定対象物Wからの反射光のうち複屈折により光弾性信号を含む。これは水平偏光成分の第2反射光となる。一方、垂直成分は、測定対象物Wの反射情報を含む反射信号で、第1反射光となる。参照ミラー14からの反射光は、垂直偏光成分であるが、光学素子13を2回通ることで、45°偏光方向が傾き、水平成分と垂直成分の両方を持つことになる。それらを光学素子15で偏光成分を45°傾け、干渉を生じさせた第1反射光と、光弾性信号を含む成分を参照ミラー14からの垂直成分と干渉させた第2反射光となる。これらの信号は、測定対象物Wからの反射光と参照ミラー14からの反射光の周波数偏差により生じる交流信号(本実施例では2kHz)に載せて抽出する。
【0067】
両反射光は、第2偏光ビームスプリッタ8の異なる部位から出力され、一方の第1反射光は、第1ラインセンサ17に、他方の第2反射光は、第2ラインセンサ19に向う。
【0068】
第2反射光は、第1偏光ビームスプリッタ4の手前のファラデーローテータ5によって垂直成分の直線偏光にされる。したがって、第2反射光は、光源1側に戻ることなく、第5光路を通って第2ラインセンサ19によって検出される。
【0069】
両ラインセンサ17,19によって検出された両反射光は光電変換され、その電気信号が制御ユニット21の演算処理部24に送信される。
【0070】
演算処理部24には、第1ラインセンサ17から時刻(t)で受光した1024個の成分からなるスペクトル信号s1j(t)(j=1,2,…1024)と、第2ラインセンサ19からのスペクトル信号s2j(t)(j=1,2,…1024)が入力される。この信号は、信号光と参照光の周波数偏差が2kHzなので、干渉信号は、2kHzのビート信号になる。このビート信号をサンプリングする。本実施例の場合、トリガー設定した2kHzを1周期とし、その間に例えば10点程度サンプリングする。
【0071】
サンプリングしたスペクトル信号s2j(t)に光弾性信号が含まれており、これを周波数解析するために波数軸でのスペクトルに変換する。ここで波長軸に対する光強度I(λ)を用いて、I(1/λ)の光強度を波数軸の強度とみなす。
【0072】
したがって、波長域[λ1,λ2]を波数域[1/λ1,1/λ2]に対して刻み、σ={(1/λ1)−(1/λ2)}/1023を求める。
【0073】
さらに、I(λ1)=I (1/λ1)、I(λ2)=I (1/λ2)とし、その非サンプリング画素の1022個の光強度I((1/λ1)−nσ)を既知のサンプリング画素の値から補間して求める。ここに、n=1,2,・・・、1022である。
【0074】
上記演算処理により求まる時刻tでの1024個の強度s21(t)、s22(t)、・・・、s21024(t)を成分とするベクトルをs2(t)と定義し、s2(t1),s2(t2),…s2(t10)を各々高速フーリエ変換処理し、図3に示すパワースペクトル(以下、適宜「PS」という)で表す。つまり、所定周波数位置(例えばωiとする)で複数個のピークが現れ、その高さが光弾性信号となる。したがって、演算処理部24は、サンプリング10個に対してピーク高さを10個算出する。例えば、PS2(tn,ωi)とし、ωiを固定すると、tn=t1,t2,…t10の場合、PS2(t1,ωi),PS2(t2,ωi),…PS2(t10,ωi)となる。ここで、ωiは反射面P1,P23,P4の位置に対応する。
【0075】
同様に、第1ラインセンサ17の検出結果を利用したスペクトル信号s1j(t)には、測定対象物Wの反射率の情報が含まれており、これについて演算処理をする。つまり、PS1(tn,ωi)とし、ωiを固定すると、tn=t1,t2,…t10の場合、PS1(t1,ωi),PS1(t2,ωi),…PS1(t10,ωi)となる。なお、図3に示す各ピークは、PS1の場合は、反射光信号のものであり、PS2の場合は、光弾性信号のものとなる。
【0076】
したがって、ここまでの処理により、図3に示すように、PSを表すことができる。つつまり、反射光R1、R2+R3(なお、ここで+は干渉の意味する)、R4の3つのピークが現れ、図2の位置P2が図3でh1、位置P23がh2、位置P4がh3として順に現れる。これは、本実施例装置において、第2偏光ビームスプリッタ8から参照ミラー14までの距離が、第2偏光ビームスプリッタ8から測定対象物Wの表面までの距離と略同じに設定しているからである。なお、この距離の偏差が大きくなるると、所定のパターンでピークの現れる順番が変化する。
【0077】
次に、演算処理部24は、光弾性信号を反射光信号で除算して補正する。具体的には、PS’2(tn,ωi)=PS2(tn,ωi)/PS1(tn,ωi)の式を利用して補正する。この補正により求まる光弾性信号に基づく{PS1(tn,ωi)},{PS’2(tn,ωi)}を用いて、図4に示す周期T=2kHzの波を復元する。つまり、10個のデータからkHzの波を(Kcos(2π2000t+θ)と仮定し、振幅Kと位相θを求める。具体的には、A1+K1cos(2π2000t+θ1)、A2+K2cos(2π2000t+θ2)とし、振幅Kiと位相θiを求めことになる。したがって、ガラス基板の厚さ方向の光弾性信号の大きさをK2、その向きをθ2−θ1として求まめることができる。すなわち、本実施例の場合、図4に示す振幅Kとして表すことができる。なお、図4に示す、横軸の時間軸と平行な一転鎖線は、オフセット値であり、PS1の場合はA1、PS2の場合は、A2となる。
【0078】
以上で1回の演算処理が終了し、測定対象物Wを水平走査し、その表面全体についての測定が終わるまで同じ処理が繰り返し行われる。
【0079】
上述の本実施例装置によれば、直線偏光を分離して測定対処物Wと参照ミラー14とに照射し、反射して戻る両反射光の偏光成分を同じ成分同士にまとめることにより干渉を生じさせ、この干渉に含まれる光弾性信号をビート信号として抽出することができる。換言すれば、測定対象物に作用している応力による複屈折の変化量情報をビート信号に光弾性信号として載せて抽出することができる。さらに、両反射光をラインセンサ17,19で受光して反射スペクトルに変換し、周波数解析してパワースペクトルPSのピークを与える周波数を求めることにより、第2反射光を受光する第2ラインセンサ19の信号から複屈折の生じている位置情報およびそのピーク高さから複屈折の変化量情報を求めることができる。さらに、第1反射光と第2反射光とから得られるスペクトルを利用して同様の演算処理を行うことにより、その振幅から主応力の差の大きさおよび、その方向を求めることができる。ただし、複屈折の変化量は第1反射光の反射情報で補正しておく。
【0080】
また、反射光を利用するので、測定対象物Wを平面保持した状態で測定することができる。つまり、撓みやすい大型の液晶パネルなどの測定に有効に機能する。さらに、測定対処物Wを走査しながらリアルタイムに演算処理を行って各種情報を取得することができる。
【実施例2】
【0081】
本実施例は、上記実施例1の装置と比較して学素子などのレイアウトを変更して構成したものである。したがって、同じ構成部分には、同一符号を付すに留め、異なる部分について具体的に説明する。
【0082】
図5は、本実施例装置の概略構成を示す図である。
【0083】
この実施例装置は、照明装置30から出力された光を第2非偏光ビームスプリッタ36で2つの直線偏光に分離し、一方を測定対象物Wに、他方を参照ミラー14に向けて出力るように構成されている。また、測定対象物Wと参照ミラー14とで反射して第2非偏光ビームスプリッタ36に戻る反射光をまとめるとともに、このまとめた反射光を2つに分離し、一方をラインセンサ51で、他方を回折格子55Aを介してラインセンサ55Bで受光し、それぞれを光電変換して制御ユニット60に備わった演算処理部62で所定の演算処理を行うように構成されている。以下、各行路上に配備される構成部について説明する。
【0084】
照明装置30は、図6に示すように、波長の異なる第1光源31と第2光源32、および両光源31,32からの光を合成する第1非偏光ビームスプリッタ34が配備されている。また、第1光源31と第1非偏光ビームスプリッタ34との間に、両光源31,32の光強度が同じとなるように、光量を調節する1/2波長板33が配備されている。さらに、第1非偏光ビームスプリッタ34で合成された光を水平成分の直線偏光にする偏光板35が第1非偏光ビームスプリッタ34の下流側に配備されている。
【0085】
両光源31,32は、近赤外域のSLDであり、本実施例では第1光源31の波長を790nm、第2光源32の波長に890nmのものが使用されている。なお、照明装置30は、本発明の照明手段に相当する。
【0086】
第2非偏光ビームスプリッタ36から測定対照物Wまでの光路上に2個の1/4波長板37,38とBeam Displacing Prism39(以下、単に「BDP39」という)が配備されている。
【0087】
第2非偏光ビームスプリッタ36は、無極性のものであり、照明装置30側から入射した水平成分の直線偏光を2つに分離する。また、測定対象物Wと参照ミラー14から戻る反射光を一旦まとめた後に、2つの反射光に分離して一方をラインセンサ51側に、他方を照明装置30側に出力する。なお、第2非偏光ビームスプリッタ36は、本発明の第1光学手段に相当する。
【0088】
1/4波長板37,38は、初期光路および下流側のBDP39で分離出力されて戻る2つの直線偏光の光路にまたがって配備されている。1/4波長板37は、測定対象物Wに向う直線偏光を45°回転させて円偏光にする。また、下流側の1/4波長板38で円偏光になって測定対象物Wから戻る反射光を45°回転させて円偏光から直線偏光に戻す。
【0089】
1/4波長板38は、上流側の1/4波長板37と逆の働きをする。つまり、1/4波長板38は、上流からの円偏光を45°回転させて直線偏光に戻し、測定対象物Wから戻る反射光を45°回転させて直線偏光から円偏光にする。したがって、な両1/4波長板37,38は、協働して本発明の第2光学手段として機能する。
【0090】
BDP39は、入射する直線偏光を全透過させて下流側に向せる。また、測定対象物Wから反射して戻る反射光を透過させたとき、入射時と同じ偏光状態を有する直線偏光(水平成分である第1偏光B)を同一光路に戻し、測定対象物Wを透過する過程で測定対象物Wに作用している応力の影響を受けて偏光状態が変化した成分(垂直成分の第2偏光A)のみを抽出し、第1偏光Bとは異なる方向に出力する。つまり、第1偏光Bは、上流側に配備された非偏光ビームスプリッタ52に向けて出力される。なお、BDP39は、本発明の第1分離手段に相当する。
【0091】
次に、第2非偏光ビームスプリッタ36から参照ミラー14までの光路上には、2個の1/4波長板40,41、BDP42、偏光板43、およびメカニカルシャッタ44が配備されている。
【0092】
1/4波長板40,41は、初期光路および下流側のBDP42で分離出力されて戻る2つの直線偏光の光路にまたがって配備されている。1/4波長板40は、参照ミラー14に向う直線偏光を45°回転させて円偏光にする。また、下流側の1/4波長板41で円偏光になって参照ミラー14から戻る反射光を45°回転させて円偏光から直線偏光に戻す。
【0093】
1/4波長板41は、上流側の1/4波長板40と逆の働きをする。つまり、1/4波長板41は、上流からの円偏光を45°回転させて直線偏光に戻し、参照ミラー14から戻る反射光を45°回転させて直線偏光から円偏光にする。したがってなお、両1/4波長板40,41は、協働して本発明の第2光学手段として機能する。
【0094】
なお、1/4波長板40,41はでは、BDP42への入射光路および参照ミラー14で反射して同一光路を戻る往復路上に配備されるように構成すればよい。
【0095】
BDP42は、入射する直線偏光を全透過させて下流側に向せる。また、参照ミラー14から反射して戻る反射光を透過させたとき、入射時と同じ偏光状態を有する直線偏光(水平成分である第1偏光Bを同一光路に戻し、後述する偏光板43を透過する過程で発生した垂直成分の第2偏光Aのみを抽出し、第1偏光Bとは異なる光路を通って第2非偏光ビームスプリッタ36に戻される。なお、BDP42は、本発明の第2分離手段に相当する。
【0096】
偏光板43は、45°傾けて配備されている。つまり、透過する水平成分の直線偏光に垂直成分を発生させるようにしている。
【0097】
メカニカルシャッタ44は、ON状態のとき参照ミラー14に向う光を遮蔽し、OFF状態のときに参照ミラー14へのアクセスを許可する。
【0098】
なお、第2非偏光ビームスプリッタ36から参照ミラー14までの光路長は、第2非偏光ビームスプリッタ36から測定対象物Wの最表面までの距離と略同じに設定されている。この設定によれば、測定処理時の高速フーリエ変換後に求める各層に対応するパワースペクトルのピークが、照明装置30側の上層から下層に向けて順に現れる。なお、両光路長を変更した場合は、ピークの現れる順番が変動する。しかしながら、この順番は、予め決まったパターンで現れるので、いずれの層に応じたピークであるかを特定することができる。
【0099】
第2非偏光ビームスプリッタ36から出力される垂直成分の反射光の光路上には、遮光板45A、1/4波長板46,47、BDP48、回折格子49、反射ミラー50、およびラインセンサ51が配備されている。
【0100】
遮光板45Aは、参照ミラー14で反射し、第2非偏光ビームスプリッタ36を透過してラインセンサ51に向う非測定対象の直線偏光を遮光する。つまり、つまり、この直線偏光によって生じる迷光を除去する。
【0101】
1/4波長板46は、垂直成分の反射光を円偏光にし、1/4波長板47は円偏光を直線偏光に戻す。
【0102】
この部分のBDP48は、反射光を透過させるだけである。したがって、BDP48で透過した反射光は回折格子49に向かい、回折格子49で分光反射し、さらにこの反射光が反射ミラー50によって反射されてラインセンサ51に導かれる。
【0103】
ラインセンサ51は、複数個の検出素子が1次元アレー状に整列配備されたものであって、本実施例の場合、例えばCCDラインセンサが利用される。ラインセンサ51としては、例えば、512,1024,2048画素などに対応したものが挙げられる。なお、ラインセンサ51は、本発明の検出手段に相当する。
【0104】
BDP39で出力される垂直成分の反射光は、非偏光ビームスプリッタ52,反射ミラー53を介して第3非偏光ビームスプリッタ54に導かれるように構成されている。
【0105】
なお、非偏光ビームスプリッタ52と第2非偏光ビームスプリッタ36との間に遮光板45Bが配備されている。この遮光板45Bは、測定対象物Bで反射し、第2非偏光ビームスプリッタ36を透過してラインセンサ55Bに向う非測定対象の直線偏光を遮光する。つまり、この直線偏光によって生じる迷光を除去する。
【0106】
第3非偏光ビームスプリッタ54は無極性であり、入射した反射光を分離して一方をラインセンサ55Bに、他方を平行度検出部56に向かわせる。ラインセンサ55Bとしては、例えば、512,1024,2048画素などに対応したものが挙げられる。なお、第3非偏光ビームスプリッタ54は、本発明の第3光学手段に相当する。
【0107】
ラインセンサ55Bは、受光した反射光の光強度を検出信号に変換して制御ユニット60に送信する。
【0108】
平行度検出部56は、図7に示すように、4個のフォトダイオード56a〜56dが2次元アレー状に隣接配備されており、第3非非偏光ビームスプリッタ54から到達する直線偏光の光軸Aが互いに隣接し合う中心点Cに位置し、4個のフォトダイオード56a〜56dにまたがって均等に受光されるようになっている。各フォトダイオード56a〜56dで受光した直線偏光を光強度の検出信号に変換して制御ユニット60に送信する。つまり、平行度検出部56は、反射光の光路ズレを検出している。なお、平行度検出部56は、本発明の位置検出手段に相当する。
【0109】
なお、各光路上に配備された1/4波長板38とBDP39の組、1/4波長板41とBDP42の組、および1/4波長板47とBDP48の組は、それぞれが回転ユニットU1〜U3として構成されており、制御ユニット60に含まれる駆動制御部63により作動制御される回転駆動機構57A〜57Cによって、それぞれが同期をとられながら光軸回りに回転するように構成されている。なお、回転駆動機構57A〜57Cは、本発明の回転手段に相当し、駆動制御手段63は、本発明の回転駆動制御手段に相当する。
【0110】
載置台11は、保持テーブルを備え、この保持テーブルが駆動機構58によって水平移動するとともに、アクチュエータ59によって測定対象物Wの平行度を調整するようになっている。つまり、あおり補正できるように構成されている。なお、載置台11は、本発明の保持手段に相当し、アクチュエータ59は、駆動手段に相当する。
【0111】
制御ユニット60は、操作部61、演算処理部62、および駆動制御部63を含む構成となっていおり、本実施例装置を総括的に制御している。なお、各構成部については、後述する動作説明で具体的に説明する。
【0112】
次に、上記実施例装置を用いて、測定対象物Wの各ガラス基板W1,W2に作用する主応力の差と主応力の差の作用している方向を測定する一巡の動作および処理について、図8に示すフローチャートに沿って説明する。なお、測定対象物Wを構成するガラス基板W1,W2の両方に応力が作用している場合を例にとって説明する。なお、ラインセンサ51は、CCDタイプであり、1024画素のものが利用される。
【0113】
オペレータは、操作部61を操作して測定対象物Wの総厚み、測定位置となる回転ユニットU1〜U3の回転角などの測定条件を設定入力する(ステップS1)。なお、この実施例の場合、回転角は、測定対象物Wから同一距離を維持したまま、基準位置0°、45°、90°の3箇所で測定対対象物Wの各ガラス基板W1,W2に作用する主応力の差とその方向の測定を連続して行うように設定する。
【0114】
条件設定が完了すると、載置台11に測定対象物Wが載置保持されるとともに、各駆動機構が作動制御されて測定開始できる状態となる。これら測定条件が整うと、オペレータは、テスト照射をする(ステップS2)。このとき、メカニカルシャッタ44がONとなり、参照ミラー14へのアクセスを断つ。そして、照射装置30から測定対象物Wに向けて水平成分の直線偏光が照射され、反射して戻る水平成分の第1偏光Bを平行度検出器56で受光し、フォトダイオード56a‐56dごとの光強度の検出信号を制御ユニット60の演算処理部62に送信する。
【0115】
演算処理部62は、フォトダイオード56a‐56dごとの光強度値と平均値から照射装置30から測定対象物Wまでの光路のズレの有無を判断する(ステップS3)。光路のズレがあることが確認できた場合、演算処理部62は、測定対象物Wの反りなどの影響で起こる煽りを補正するための補正量を求めて信号変換する(ステップS4)。この補正信号に基づいて、駆動制御部63は、アクチュエータ59を作動させて載置台11をチルトさせ、反射光が平行度検出器56の各フォトダイオード56a−56dに均等に照射させるようにする(ステップS5)。
【0116】
光路ズレのあおり補正処理が完了すると、再度テスト照射を行う。この時点で光路ズレが解消されていれば、所定の設定角度での1回目の第1測定を開始する(ステップS6)。光路ズレが解消されていなければ、ステップS2からの煽り補正処理が繰り返し行われる。
【0117】
第1測定では、各回転ユニットU1〜U3を光軸回りの平面上でX,Y軸の基準0°に位置合せされた状態で測定を開始する。具体的には、照射装置30から測定対象物Wに向けて光を照射する。光は、第2非偏光ビームスプリッタ36で分離され、一方の直線偏光が測定対象物Wに、他方の直線偏光が参照ミラー14に向けて出力される。測定対象物Wに向う水平成分の直線偏光は、1/4波長板37,38およびBDP39を透過して、水平成分の直線偏光となって測定対象物Wに到達する。
【0118】
この直線偏光が、ガラス基板W1,W2の各表裏面で反射して第2偏光ビームスプリッタ36に戻る。このとき、ガラス基板W1,W2に応力が作用している場合、各焦点面で反射して戻る反射光に第2偏光Bが含まれている。つまり、図2に示すように、ガラス基板1の表面と空気層との接触界面(反射面P1)で反射して戻る反射光R1、ガラス基板W1とガラス基板W2との微小間隙の空気層とガラス基板W1の裏面との接触界面(反射面P2)で反射して戻る反射光R2、空気層とガラス基板W2の表面との接触界面(反射面P3)で反射して戻る反射光R3、およびガラス基板W2と載置台11との接触界面(反射面P4)で反射して戻る反射光R4のそれぞれに、第2偏光Bの光強度の検出信号Isの成分が含まれている。
【0119】
各焦点面P1〜P4で反射して戻る反射光は、初期光と同一光路に戻され、再びBDP39を透過する。このとき、応力の影響を受けて生じた第2偏光Aと影響のない第1偏光Bとに分離される。分離された第1偏光Bは、第3非偏光ビームスプリッタ54側に導かれ、ラインセンサ55Bなどで受光される。第1偏光Bは、同一光路を通り第2偏光ビームスプリッタ36に戻される。
【0120】
参照ミラー14に向う水平成分の直線偏光は、1/4波長板40,41、およびBDP42を透過して水平成分の直線偏光となり、さらに偏光板43を透過して垂直成分が発生した直線偏光となって参照ミラー14に到達する。
【0121】
この直線偏光は、参照ミラー14で反射して第2偏光ビームスプリッタ36に戻る。このとき、直線偏光に垂直成分が発生しているので、BDP42を透過することにより、偏光状態に変化のある第2偏光Aと非変化状態の第1偏光Bに分離される。第1偏光Bは、同一光路を通って第2偏光ビームスプリッタ36に戻される。第1偏光Bは、BDP42の異なる部位から出力され、第1偏光Bと異なる光路を通って第2偏光ビームスプリッタ36に戻される。
【0122】
測定対象物Wと参照ミラー14から戻る両偏光(反射光)は、第2非偏光ビームスプリッタ36でまとめられ、このとき干渉が生じるとともに、垂直偏光成分に光弾性信号が載る。さらに、反射光は、第2非偏光ビームスプリッタ36で分離され、一方の第2偏光Aがラインセンサ51に、第1偏光Bの反射光が第3非偏光ビームスプリッタ54側に出力される。
【0123】
ラインセンサ51に向う反射光は、1/4波長板46で円偏光にされた後、1/4波長板47で直線偏光に戻され、BDP48をそのまま透過する。その後、回折格子50に到達した反射光は、分光(例えば、1800本/mm)され、反射ミラー50で反射で再び反射された後にラインセンサ51に到達する。
【0124】
ラインセンサ51によって検出された反射光は光電変換され、その電気信号が制御ユニット60の演算処理部62に送信される。
【0125】
第3非偏光ビームスプリッタ54に向う反射光は、非偏光ビームスプリッタ52、反射ミラー53で反射して第3非偏光ビームスプリッタ54に到達し、透過することにより分離されて一方がラインセンサ55Bに、他方が平行度検出部56に出力される。ラインセンサ55Bで受光される反射光は、光電変換され、その電気信号が制御ユニット60の演算処理部62に送信される。なお、平行度検出部56で検出された反射光は、測定時の演算に寄与されない。
【0126】
演算処理部62には、光弾性信号の含まれる検出信号Isとなるラインセンサ51から受光した1024個の成分からなるスペクトル信号Is(j)(j=1,2,…1024)と、フォトダイオードからの検出される参照信号Ir(j)(j=1,2,…1024)とが入力される。jは波長に対応する。これら信号に対して、以下の処理を行う。
【0127】
先ず、Is(j)、Ir(j)を波数軸のスペクトルに変換する。Is(j)について示すが、Ir(j)についても同じである。ここで波長軸に対する光強度Is(λ)を用いて、Is(1/λ)の光強度を波数軸の強度とみなす。
【0128】
つぎに、波長域[λ1,λ2]を波数域[1/λ1,1/λ2]に対して刻み、σ={(1/λ1)−(1/λ2) }/1023を求める。
【0129】
さらに、Is(1)=Is (1/λ1)、Is(1024)=Is(1/λ2)とし、その非サンプリング画素の1022個の光強度Is((1/λ1)−nσ)を既知のサンプリング画素の値から補間して求める。ここに、n=1,2,・・・、1022である。この1024個のデータIs(j)、j=1,2,・・・、1024を高速フーリエ変換処理して、PSを算出する。
【0130】
上記演算処理により求まるパワースペクトル(以下、適宜「PS」という)PS(j)で表す。ここでjは周波数解析で意味のある、データ数の半分で、j=1,2,…512である。ここでは、所定周波数位置で複数個のピークが現れ、その高さが光弾性信号となる。
【0131】
これは、反射面P1,P23,P4の位置に対応し、その位置でのPSの強度が光弾性信号の大きさである。またIr(j)に対しても同様の処理でPSのピーク位置P1,P23、P4のピーク高さから反射光量に関する情報が得られる。各位置で、先の光弾性信号をこのピーク高さで割ることで規格化する。以上で第1測定が終了する。
【0132】
第1測定が終了すると、照射装置30から光が照射されたまま駆動制御部63が各回転駆動機構57A〜57Cの同期をとりながら回転ユニットU1〜U3を光軸回りに45°回転させて第1測定と同じ処理の第2測定を行い(ステップS7)、さらに、第2測定が終了すれば、同様に各回転ユニットU1〜U3を光軸回りに45°回転(初期位置から90°)させて第3測定を継続して行う(ステップS8)。
【0133】
第1測定〜第3測定が終了すると、演算処理部62は、ガラス基板W1,W2に作用している各主応力の差とその方向を求める(ステップS9)。具体的に、演算処理部62は、記憶しておいた3つの回転角でのピーク高さと位置情報を整理し、XY平面上へのプロットし、このプロット状態から各回転ユニットU1〜U3を1回転させたときに得られる楕円情報をシミュレーションにより近似する。そして、得られる楕円情報から長軸を特定し、その長軸の長さを主応力の差として求める。また、このときの長軸方向を主応力の方向として特定する。以上で、測定対象物Wの各ガラス基板W1,W2に作用している主応力の差とその方向の測定が完了する。
【0134】
上述の構成を有する光弾性測定装置によれば、直線偏光を分離して測定対処物Wと参照ミラー14とに照射し、反射して戻る両反射光の垂直偏光成分をまとめることにより干渉を生じさせ、この干渉の生じた反射光に光弾性信号が載っている。この反射光をラインセンサ51で受光して反射スペクトルを波数軸に変換し、それを周波数解析してパワースペクトルPSのピークを与える周波数を求めることにより、その光強度値から複屈折の生じている位置情報およびそのピーク高さから複屈折の変化量情報を求めることができる。
【0135】
さらに、回転ユニットU1〜U3を光軸回りに回転させ、少なくとも3箇所の所定の回転角から同じ条件で取得した複屈折の変化量情報をXY平面上へのプロットし、このプロット状態から回転ユニットU1〜U3を1回転させたときに得られる楕円情報をシミュレーションにより近似する。すなわち、この楕円情報からその長軸を特定し、その長軸の長さを主応力の差として求めることができ、さらに、このときの長軸方向を主応力の方向として特定することができる。
【0136】
また、平行度検出器56を利用することにより、測定光の光路ズレが補正され、ラインセンサ51およびラインセンサ55Bでの反射光の受光精度を向上させることができる。
【0137】
なお、本発明は上述した実施例に限らず、次のように変形実施することができる。
【0138】
(1)上記実施例1の装置は、第2偏光ビームスプリッタ8で分離出力された反射光を個別の回折格子16,18を介して両ラインセンサ17,19に導いていたが、両反射光を1個の回折格子で分光し反射させて各ラインセンサ17、19に導かれるように構成してもよい。具体的には、図9に示すように、第2偏光ビームスプリッタ8から分離されて第1ラインセンサ17に向う反射光の第4光路上に、ファラデーローテータ65、偏光板15、反射ミラー66、および回折格子68の順に配備する。また、第1偏光ビームスプリッタ4から第2ラインセンサ19に反射光が向う第5光路上に、反射ミラー67および回折格子68を配備する。
【0139】
この構成によれば、第4光路を通る垂直成分の直線偏光は、ファラデーローテータ65で45°回転され、これが0°の偏光板15を透過することにより水平成分が回折格子68に導かれる。第5光路を通る垂直成分の直線偏光は、垂直成分のまま回折格子68に導かれる。したがって、同じ偏光成分からなる両反射光は、異なる位置に配備されたラインセンサ17,19にそれぞれが導かれる。
【0140】
この構成によれば、1個の回折格子68を利用して各ラインセンサ17,19に反射光を導くことができるので、実施例1の装置のように異なる回折格子16,18を利用したときに発生する固体差による測定誤差を除去することができる。
【0141】
(2)上記実施例1の装置および図9に示す変形例装置において、実施例2の装置と同様に測定対象物Wのあおりを補正できるように、光軸のズレを検出する構成と、光軸のズレの補正量を求めて載置台11の平行度を調整できるようにアクチュエータでチルト補正できるように構成してもよい。
【0142】
実施例1の装置の場合、第4光路上の第2偏光ビームスプリッタ8と偏光板15との間に第1非偏光ビームスプリッタ69を配備して反射光を分離し、一方を第1ラインセンサ17に、他方を平行度検出部56に導くように構成すればよい。なお、平行度検出部56の上流側に第2非偏光ビームスプリッタ70を配備し、この第2非偏光ビームスプリッタで分離した一方を平行度検出部56に、他方をラインセンサ55Bに導くように構成する。
【0143】
(3)上記実施例2の装置において、楕円状態に近似して求める長軸の長さ、つまり主応力の差とその方向をより正確に求めるために、次にようにして求めるのが有効である。
【0144】
第1の手法として、各回転角の測定後に、先端が後述する形状の押圧部材で、その先端をガラス基板W1の表面に押圧させた状態で、同じ測定を行ってもよい。この場合、各ガラス基板W1,W2の主応力の差は、楕円情報の長軸の長さ(大きさ)とその長軸の方向を持ったベクトルとして、第2偏光Aが通過したガラス基板に作用している応力をベクトルの和として求めることができる。そこで、応力の方向の分かった最表面のガラス基板W1からガラス基板W2に作用する主応力の差とその方向を順に特定することができる。
【0145】
なお、ガラス基板W1の表面を押圧させる構成としては、例えば、図5の二点鎖線で示すように、先端に先端形状が数mm程度の等方的な円形、もしくは異方的長方形の略扁平面を有する押圧部材71を備えたロボットハンド72を載置台11に隣接配備して構成すればよい。つまり、押圧部材71の先端がガラス基板W1の表面を押圧する作用位置と、ガラス基板W1の表面から外れた待機位置とに進退および昇降するようにロボットハンド72を作動制御できるよう構成すればよい。なお、ガラス基板のサイズが小さい場合は、ガラス基板の対向する両端辺から押圧または引張力を作用さえるようにしてもよい。
【0146】
第2の手法として、図11に示すように、測定対象物Wの焦点面の中央寄りの所定位置P0の主応力を求め、さらに同じ面の端縁P1から所定位置P0までの間の複数個の点(P2、P3、…、Pi)の応力を間欠的または連続的に求める。つまり、応力は、所定位置P0から端縁方向に向って滑らかに変化しており、各点での測定結果を曲線状に近似することにより、この曲線からその主応力の差が、引っ張りであるか、圧縮であるかを特定することができる。
【0147】
なお、この押圧部材71を利用して主応力の差が引っ張りであるか、圧縮であるかを特定する方法は、実施例1の装置にも適用することができる。
【0148】
(4)上記実施例2の装置は、回転ユニットU1〜U3を光軸回りに回転させていたが、載置台11を回転させる構成であってもよい。
【0149】
(5)上記各実施例では、2枚のガラス基板W1,W2を間隙おいて配備した測定対象物Wを利用したが、測定対象物Wはこの形態に限定されるものではなく、間隙をなくし複数枚の透過性を有する測定対象物を密着させて積層したものであってもよい。例えば、ガラス基板同士、ガラス基板とフィルムなどのように屈折率の異なる測定対象物の組合せなどがある。
【0150】
(6)上記実施例2の装置では、測定対象物Wの平行度が保たれている場合には第3非偏光ビームスプリッタ54および平行度検出器56を省いた構成であってもよい。
【0151】
(7)上記各実施例では、測定対象物Wの全面を覆う平板状の保持テーブルを備えた載置台11であったが、中央に開口が形成されて照射光が透過する構成であってもよい。この場合、保持テーブル表面からの反射光を除去し、測定対象物Wの各反射面からの反射光のみを有効に利用することができる。
【0152】
(8)上記実施例2では、回転ユニットU1〜U3を同期をとりながら回転させていたが、測定対象物Wを載置保持した保持テーブルを回転させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】実施例1に係る光弾性測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】測定対象物の各焦点面で反射する反射光の状態を示す図である。
【図3】パワースペクトルを示す模式図である。
【図4】サンプリング周期と補完処理後の振幅を示す図である。
【図5】実施例2に係る光弾性測定装置の概略構成を示す図である。
【図6】実施例2の装置における照射装置の腰部を示す図である。
【図7】平行度検出部による偏光の受光状態を示す平面図である。
【図8】変形例装置の構成を示す図である。
【図9】実施例2の装置の動作説明を示すフローチャートである。
【図10】変形例装置の構成を示す図である。
【図11】測定対象物に作用する主応力差の向きを測定する模式図である。
【符号の説明】
【0154】
1 … 光源
4 … 第1偏光ビームスプリッタ
7 … 1/2波長板
8 … 第2偏光ビームスプリッタ
9 … 第1音響変調器
10 … 1/4波長板
11 … 載置台
12 … 第2光音響変調器
13 … 1/4波長板
14 … 参照ミラー
16 … 回折格子
17 … 第1ラインセンサ
18 … 回折格子
19 … 第2ラインセンサ
21 … 制御ユニット
24 … 演算処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に対して傾斜した直線偏光を光学手段で分岐し、一方を透過性を有する複数層からなる測定対象物に、他方を参照ミラーに向けて照射する照射過程と、
前記両直線偏光が光学手段に戻るまでに異なる周波数変調を両直線偏光にかける変調過程と、
変調のかかった測定対象物に向う直線偏光を光学手段に透過させて円偏光にするとともに、変調のかかった状態で参照ミラーから戻る直線偏光の偏光面を45°回転させる回転過程と、
前記両偏光を測定対象物と参照ミラーのそれぞれで反射させ、前記各過程と同一光路に各反射光を通して前記光学手段に戻す反射過程と、
前記光学手段に戻る両反射光のうち当該光学手段出力時に偏光状態が測定対象側に含まれる垂直成分と参照ミラー側に含まれる水平成分とにまとめた第1反射光と、
光学手段に入射する両反射光の周波数偏差により求まる交流信号に光弾性信号を載せて抽出するとともに、測定対象物からの反射光のうち複屈折信号を含んだ偏光成分と、参照ミラーからの反射光の1部をまとめて干渉を生じさせた第2反射光とを光学手段の異なる部位から出力する出力過程と、
複数個の検出素子を1次元アレー状に配備した検出手段で前記光学手段から出力された両反射光を検出する検出過程と、
検出した前記両反射光のスペクトルを波数軸での反射スペクトルに変換し、その後に周波数解析してパワースペクトルのピークを与える周波数から複屈折の生じている位置情報と、そのピーク高さから複屈折の変化量情報を求め、
さらに、第1反射光と第2反射光とから得られる各情報に基づいて、主応力の差の方向を求める演算過程と、
を備えたことを特徴とする光弾性測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光弾性測定方法において、
前記測定対象物の最外側の層に押圧をかけた押圧状態と非押圧状態のときの各主応力の差を求め、両値の偏差に基づいて、測定対象物に作用している主応力の差が圧縮か引っ張りかを特定する
ことを特徴とする光弾性測定方法。
【請求項3】
光学手段を介して分離した2つの直線偏光のうち、一方の第1直線偏光を測定対象物に、他方の第2直線偏光を参照ミラーに照射しながら、測定対象物と第1直線偏光および参照ミラーと第2直線偏光をそれぞれ各光軸回りに同期をとりながら回転させる回転過程と、前記測定対象物と参照ミラーで反射する両反射光のそれぞれを、入射光の偏光状態に対して偏光状態の変化した成分と、初期の偏光状態の成分とに分離する分離過程と、
前記回転しながら戻る測定対象物側からの入射光の偏光状態に対して偏光状態の変化した成分と参照ミラー側からの反射光の偏光状態が測定対象物側からものと同じ成分を分離し、両成分同士をまとめて干渉を生じさせた第1反射光と、
第1反射光の成分を除く成分同士をまとめた第2反射光とを前記光学手段の異なる部位から出力する出力過程と、
前記両直線偏光の光軸回りに少なくとも3箇所の回転角度で複数個の検出素子を1次元アレー状に配備した検出手段を利用して両反射光を検出する検出過程と、
検出した前記第1反射光を第2反射成分で補正して波長軸での反射スペクトルに変換し、その後に周波数解析してパワースペクトルのピークを与える周波数から複屈折の生じている位置情報とそのピーク高さから複屈折の変化量情報を求め、
さらに、前記回転角度ごとの当該複屈折の変化量情報から楕円を近似して、各位置で主応力の差の大きさとその向きとを求める演算過程と、
を備えたことを特徴とする光弾性測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光弾性測定方法において、
前記反射光が光学手段に入射する前に、複屈折の変化量が予め決められた光学素子に反射光を透過させる
ことを特徴とする光弾性測定方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の光弾性測定方法において、
前記測定対象物の最外側の層に押圧をかけた押圧状態と非押圧状態のときの各主応力の差を求め、両値の偏差に基づいて、測定対象物に作用している主応力の差が圧縮か引っ張りかを特定する
ことを特徴とする光弾性測定方法。
【請求項6】
複数の層からなる透過性を有する測定対象物を保持する保持手段と、
前記測定対象物に向けて直線偏光を照射する照射手段と、
前記直線偏光を水平方向に対して傾斜させる第1光学手段と、
前記光を透過させて直交する2方向の直線偏光に分離し、一方を測定対象物に、他方を参照ミラーに照射する第2光学手段と、
前記両直線偏光に異なる周波数変調をかける光音響変調手段と、
前記両直線偏光の偏光面を45°回転させる第3光学手段と、
測定対象物からの反射光で入射光の偏光状態に対して光弾性信号を含む水平成分と参照ミラー側からの反射光の垂直成分とが第2光学手段に戻り、
当該第2光学手段を通過した成分に両反射光の周波数偏差により求まる交流信号に光弾性信号を載せて抽出されるとともに、
測定対象物からの反射光のうち光弾性信号を含まない成分と参照ミラーからの水平成分をまとめて45°の直線偏光素子通すことで干渉を生じさせた第1反射光と、第1反射光の成分を除く成分同士をまとめた光弾性信号を含んだ第2反射光とが分離して異なる部位から出力され、これら両反射光を検出する1次元アレー状に配備した複数個の検出素子からなる検出手段と、
検出した前記両反射光のスペクトルを波数軸での反射スペクトルに変換し、その後に第2反射光からは周波数解析してパワースペクトルのピークを与える周波数から複屈折の生じている位置情報と、そのピーク高さから複屈折の変化量情報を求め、
さらに、第1反射光と第2反射光とから得られる各情報に基づいて、主応力の差の方向を求める演算手段と、
を備えたことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光弾性測定装置において、
押圧部材の先端を測定対象物の最外側の層に接触させて押圧する作用位置と非接触状態で離間した待機位置とにわたって押圧部材を移動させる移動機構をさらに備え、
前記演算手段は、測定対象物の最外側の層に押圧をかけた押圧状態と非押圧状態のときの各主応力の差を求め、両値の偏差に基づいて測定対象物に作用している主応力の差が圧縮か引っ張りかを特定する
ことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の光弾性測定装置において、
前記第2反射光をさらに直交する2つの偏光に分離する第4光学手段と、
複数個の検出素子が2次元アレー状に配備し、分離された一方の前記偏向の位置を検出する位置検出手段と、
前記保持手段を傾斜させる駆動手段と、
前記第4検出手段によって検出された偏光の位置に応じて保持手段に保持された測定対象物の傾斜量が前記演算手段により求められ、この傾斜量にしたがって前記駆動手段を作動させて前記保持手段の平行度を維持させる駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項9】
複数の層からなる透過性を有する測定対象物を保持する保持手段と、
前記測定対象物に向けて直線偏光を照射する照射手段と、
前記光を透過させて直交する2方向の直線偏光に分離し、一方を前記測定対象物に、他方を参照ミラーに照射する第1光学手段と、
前記測定対象物から反射して戻る偏光のうち初期の光路を戻る偏光と、この偏光と直交する偏光を別光路に分離して出力する第1分離手段と、
前記参照ミラーから反射して戻る偏光のうち初期の光路を戻る偏光と、この偏光と直交する偏光を別光路に分離して出力する第2分離手段と、
前記両偏光の偏光面を水平方向から微少回転させる第2光学手段と、
測定対象物側からの偏光のうち入射光の偏光状態に対して、偏光状態の変化した偏光の成分と、参照ミラー側からの反射光の偏光状態が測定対象物側からのものと同じ成分を分離し、両成分同士をまとめて干渉を生じさせた第1反射光と、
これら両成分を除く成分同士をまとめた第2反射光とが分離して異なる部位から出力され、両反射光を検出するアレー状に配備した複数個の検出素子からなる第1検出手段と、
前記保持手段と第1分離手段および参照ミラーと第2分離手段の各組を光軸回りに回転させる回転手段と、
両回転手段の回転駆動の同期をとる回転駆動制御手段と、
前記第1検出手段によって検出された第1反射光の波長軸に対する反射スペクトルを第2反射光のスペクトルで補正して波数軸に対する反射スペクトルに変換し、その後に周波数解析して複屈折の変化量情報と位置情報を求め、前記光軸回りの少なくとも3箇所から取得した情報に基づいて楕円を近似して求め、その長軸の大きさとその傾きから主応力の差とその方向を求める演算手段と、
を備えたことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項10】
請求項9に記載の光弾性測定装置において、
押圧部材の先端を測定対象物の最外側の層に接触させて押圧する作用位置と非接触状態で離間した待機位置とにわたって押圧部材を移動させる移動機構をさらに備え、
前記演算手段は、測定対象物の最外側の層に押圧をかけた押圧状態と非押圧状態のときの各主応力の差を求め、両値の偏差に基づいて測定対象物に作用している主応力の差が圧縮か引っ張りかを特定する
ことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載の光弾性測定装置において、
前記第2反射光をさらに直交する2つの偏光に分離する第3光学手段と、
複数個の検出素子が2次元アレー状に配備し、分離された一方の前記偏向の位置を検出する位置検出手段と、
前記保持手段を傾斜させる駆動手段と、
前記第3検出手段によって検出された偏光の位置に応じて保持手段に保持された測定対象物の傾斜量が前記演算手段により求められ、この傾斜量にしたがって前記駆動手段を作動させて前記保持手段の平行度を維持させる駆動制御手段と、
を備えたことを特徴とする光弾性測定装置。
【請求項12】
請求項11に記載の光弾性測定装置において、
反射光が前記分離手段に入射する前段に、複屈折の変化量が予め決められた第4光学手段と、
前記第3光学手段で分離されて位置検出手段と異なる方向に出力された他方の偏光を検出する第2検出手段とを備え、
前記演算手段は、前記第1および第2検出手段によって検出された反射光を利用して、測定対象の反射光に含まれる複屈折の変化量を加算し、基準となる閾値レベルを高める
ことを特徴とする光弾性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−241585(P2008−241585A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84957(P2007−84957)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】