説明

光後硬化性組成物

【課題】使用環境温度変化によらず優れた接着性を維持することができ、透明性に優れ、かつ、ポットライフの長い光後硬化性組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ変成シリコーン及び/又はオキセタン変性シリコーン、カチオン重合性単量体、光カチオン重合開始剤、並びに、クラウンエーテル型下記式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤を含有する光後硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用環境温度変化によらず優れた接着性を維持することができ、透明性に優れ、かつ、ポッドライフの長い光後硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の耐衝撃性を向上させる方法としては、例えば、液晶が一対の透明基板間に封入され、周囲がシール剤で封止された構造を有する液晶パネルと、該液晶パネルを外部衝撃から保護するための保護用基板との間にエアギャップ(空気層)を設ける方法が従来から行われていた。
しかしながら、このような空気層が設けられた液晶表示装置は、屈折率が異なる材料が積み重ねられた構造となっているため、太陽光等の外光やバックライトからの光の一部が反射されて光の散乱が起こり、表示画像の輝度やコントラストの低下を招くという問題があった。このような問題に対し、例えば、特許文献1には、液晶パネルと透明部材との間に空気層に代えて透明弾性樹脂を介在させ、該透明弾性樹脂で液晶パネルと透明部材とを接合することが開示されている。
【0003】
ここで、携帯電話等の携帯可能な情報通信機器は、極めて広範な温度域、例えば、−30〜60℃もの温度域で使用されることがあり、このような温度域において良好な表示品質を保つ必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の透明弾性樹脂で液晶パネルと透明部材とを接合してなる情報通信機器は、このような広範な温度域で使用すると、使用環境温度変化により液晶パネル及び透明部材と透明弾性樹脂の硬化物との界面において剥離が発生してしまい、液晶表示装置の表示品質が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平11−174417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討の結果、エポキシ変成シリコーンまたはオキセタン変成シリコーン、カチオン重合性単量体、及び、カチオン重合開始剤を含有する硬化性組成物を電子部品等用の接着剤として用いた場合には、使用環境温度変化によらず優れた接着性を維持することができることを見出した(特願2007−157629)。
しかしながら、このような硬化性組成物は、光を照射してから硬化するまでの時間、即ち、ポッドライフが短いという問題があった。ポッドライフの短い硬化性組成物を用いて電子部品等の接着を行う場合、電子部品等の被着体と硬化性組成物とをあわせてから光を照射する必要があるが、強い光によって電子部品等が劣化してしまう場合がある。組成物のポッドライフを延長する方法としては、硬化遅延剤を配合する方法が一般的である。しかしながら、上記硬化性組成物に一般的な硬化遅延剤を配合すると、白濁して組成物全体の透明性が低下してしまい、光学用途には用いることができなくなるという問題があった。
本発明は、上記現状に鑑み、使用環境温度変化によらず優れた接着性を維持することができ、透明性に優れ、かつ、ポッドライフの長い光後硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、エポキシ変成シリコーン及び/又はオキセタン変性シリコーン、カチオン重合性単量体、光カチオン重合開始剤、並びに、下記一般式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤を含有する光後硬化性組成物である。
【0006】
【化1】

【0007】
式(1)中、R21〜R32の少なくとも1つは炭素数1〜20のアルキル基を表し、その余は水素を表す。前記アルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、−OH基、−COOH基及び−COO−アルキルエステル基(ただし、アルキル部分は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20残基である)からなる群より選択される1以上の官能基で置換されていてもよく、更に、隣接するR及びRn+1(但し、nは、1〜11の奇数を表す)は、共同して環状アルキル骨格を形成していてもよい。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、エポキシ変成シリコーン及び/又はオキセタン変成シリコーン、カチオン重合性単量体並びにカチオン重合開始剤とを含有する硬化性組成物において、硬化遅延剤として特定の構造を有する化合物を配合した場合には、透明性を損なうことなくポッドライフを延長することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の光後硬化性組成物は、エポキシ変成シリコーン及び/又はオキセタン変成シリコーン、カチオン重合性単量体、カチオン重合開始剤、並びに、硬化遅延剤を含有する。
上記エポキシ変成シリコーン、オキセタン変性シリコーンとしては特に限定されないが、下記一般式(3−1)、一般式(4)で表されるものが好適である。このようなエポキシ変成シリコーン、オキセタン変性シリコーンを含有する本発明の光後硬化性組成物は、使用環境が変化した場合でも安定した接着力を発揮することができ、被着体の界面での剥離を生じることがない。
【0010】
【化2】

【0011】
一般式(3−1)中、l、m、nは、1〜500であり、Rは、H及び/又はCHを表し、Rは、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を表し、Aはベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、Xは、CR、O、S(O)又はSを表し、Yは、エポキシ基、オキセタニル基又は脂環エポキシ基を表し、Y’は、エポキシ基、オキセタニル基又は脂環エポキシ基の開環した構造を表し、Rは、H及び/又はCHを表す。
【0012】
上記一般式(3−1)において、シリコーン骨格部分の繰り返し単位数「l」「m」「n」の好ましい下限は1、好ましい上限は500であり、「l」のより好ましい上限は200、「m」「n」のより好ましい上限は50である。
上記一般式(3−1)における、シリコーン骨格部分の繰り返し単位数「n」、ビスフェノール型エポキシ骨格とから構成される繰り返し単位数「m」、及び、シリコーン骨格部分とビスフェノール型エポキシ骨格とから構成される繰り返し単位数「l」が上記範囲にあるときには、上記一般式(3−1)で表されるエポキシ変成シリコーン、オキセタン変性シリコーンを光カチオン重合性化合物として含有する本発明の光後硬化性組成物は、使用環境が変化した場合でも安定した接着力を発揮することができ、被着体の界面での剥離を生じることがない。
【0013】
上記一般式(3−1)において、Rは、H及び/又はCHを表し、Rは、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を表し、Xは、CR、O、S(O)又はSを表し、Yは、エポキシ基、オキセタニル基又は脂環エポキシ基を表し、Y’は、エポキシ基、オキセタニル基又は脂環エポキシ基の開環した構造を表し、Rは、H及び/又はCHを表す。
【0014】
上記X、Y、Y’の具体的な構造としては、下記一般式(3−2)〜(3−4)で表されるものが挙げられる。
【0015】
【化3】

【0016】
上記一般式(3−2)〜(3−4)中、R、R、Rは、水素又は炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基をそれぞれ示す。
【0017】
上記一般式(3−1)で表されるエポキシ変成シリコーン、オキセタン変性シリコーンは、上記一般式(3−1)中「A」がベンゼン環であり、XがCRである場合、例えば、ビスフェノール型のエポキシ樹脂(オキセタン樹脂)と、シリコーン樹脂とを公知の方法により縮合反応させることで得ることができる。
【0018】
上記ビスフェノール型のエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、エピコート828、エピコート1004(いずれもジャパンエポキシレジン社製)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂、エピコート806、エピコート4004(いずれもジャパンエポキシレジン社製)等のビスフェノールF型エポキシ樹脂、R−710等のビスフェノールE型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0019】
また、上記一般式(3−1)で表されるエポキシ変成シリコーンの市販品としては、例えば、ナノレジン社製のエポキシシリコーン共重合体「ALBIFLEX」シリーズの商品名「296」、「348」、「XP544」、「712」等が挙げられる。
【0020】
【化4】

【0021】
式(4)中、Rは、H、CH又はCを表し、pは、1〜100の整数を表し、o=0〜100の整数を表す。
、R、R、Rは、いずれか少なくとも1が下記一般式(5−1)、(5−2)或いは(5−3)を、その余はH、CH又はCを表すか、いずれか少なくとも1が下記一般式(6−1)、(6−2)或いは(6−3)を、その余はH、CH又はCを、又は、いずれか少なくとも1が下記一般式(7−1)、(7−2)或いは(7−3)を、その余はH、CH又はCを表す。
【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
上記一般式(4)で表される化合物において、シリコーン骨格部分の繰り返し単位数「p」の下限は1、上限は100である。上記シリコーン骨格部分の繰り返し単位数を上記範囲とすることで、上記一般式(4)で表されるエポキシ変成シリコーン、オキセタン変性シリコーンを光カチオン重合性化合物として含有する本発明の光学部品用硬化性組成物は、使用環境が変化した場合でも安定した接着力を発揮することができ、被着体の界面での剥離を生じることがない。
【0026】
上記一般式(4)で表される構造を有する化合物としては、具体的には、例えば、信越シリコーン社製の変性シリコーンオイルが挙げられ、エポキシタイプのものとしては、「X−22−163」、「KF−105」、「X−22−163A」、「X−22−163B」、「X−22−163C」等が挙げられ、脂環式タイプのものとしては、「X−22−169AS」、「X−22−169B」等が挙げられる。また、オキセタンタイプのものとしては、「OX−SQ」、「OX−SQ−H」、「OX−SQ−SI−20」、「Si−OX」、「OX−SC」(以上、東亞合成社製)等が挙げられる。
【0027】
上記光カチオン重合性化合物としては、分子内に少なくとも1個のカチオン重合性官能基を有する重合性単量体であれば特に限定されず、例えば、分子内に少なくとも1個のエポキシ基、オキセタニル基、水酸基、ビニルエーテル基、エピスルフィド基、エチレンイミン基等の光カチオン重合性官能基を有する化合物等が挙げられる。なかでも、エポキシ系化合物が好適である。
【0028】
上記エポキシ系化合物としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等のノボラック型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、異節環状型エポキシ化合物、多官能性エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、水添ビスフェノールA型エポキシ化合物等のアルコール型エポキシ化合物、臭素化エポキシ化合物等のハロゲン化エポキシ化合物、ゴム変成エポキシ化合物、ウレタン変成エポキシ化合物、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エポキシ基含有ポリエステル化合物、エポキシ基含有ポリウレタン化合物、エポキシ基含有アクリル化合物等が挙げられる。なかでも、光カチオン重合性がより高く、少ない光量でもより効率的に光硬化が進行することから、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物等が好適に用いられる。これらのエポキシ系化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
上記脂環式エポキシ化合物としては特に限定されず、例えば、1,2:8,9−ジエポキシリモネン、4−ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチレン)アジペート、ビス−(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、(2,3−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の分子内に少なくとも1個の4〜7員環の環状脂肪族基と分子内に少なくとも1個のエポキシ基とを有する化合物等が挙げられる。これらの脂環式エポキシ化合物は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記エポキシ系化合物の市販品としては特に限定されず、例えば、ジャパンエポキシレジン社製の商品名「エピコート807」、「エピコート828」、「エピコート1001」等の「エピコート」シリーズ、大日本インキ化学工業社製の商品名「エピクロンHP−4032」等の「エピクロン」シリーズ、ダイセル化学工業社製の商品名「セロキサイド2021」等の「セロキサイド」シリーズ等が挙げられる。
【0031】
上記カチオン重合性単量体は、脂肪族エポキシ化合物及び/又は脂肪族オキセタン化合物を含有することが好ましい。これらの脂肪族エポキシ化合物、脂肪族オキセタン化合物は、希釈剤としての役割も果たすことができ、本発明の光後硬化性組成物の粘度を調整することができる。
【0032】
上記脂肪族エポキシ化合物としては特に限定されず、例えば、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(製品名デナコールEX−141、ナガセケムテックス社製)、ポリテトラメチレングリコール(ジ)グリシジルエーテル、ポリネオペンチレングリコール(ジ)グリシジルエーテル(製品名YL−7217、ジャパンエポキシレジン社製)等が挙げられる。なかでも、柔軟性が高く、反応性が高いことから、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルが好適である。
【0033】
上記脂肪族オキセタン化合物としては特に限定されず、例えば、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン(製品名アロンオキセタンOXT−212、東亞合成社製)、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(製品名アロンオキセタンOXT−101、東亞合成社製)等が挙げられる。なかでも、柔軟性が高く、反応性が高いことから、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタンが好適である。
【0034】
本発明の光後硬化性組成物は、カチオン重合開始剤を含有する。
上記カチオン重合開始剤としては、光照射によりプロトン酸又はルイス酸を発生するものであれば特に限定されず、イオン性光酸発生型であっても、非イオン性光酸発生型であってもよい。
【0035】
上記カチオン重合開始剤としては、下記一般式(8)で表されるオニウム塩が好適である。カチオン重合開始剤として下記一般式(8)で表されるオニウム塩を用い、かつ、増感剤として後述する一般式(10)で表されるベンゾフェノン誘導体を用いた場合には、得られる光後硬化性組成物は光や熱による着色が極めて小さいものとなる。
【0036】
【化8】

【0037】
式(8)中、R11、R12は、水素、炭素数1〜20の直鎖状のアルキル基、炭素数1〜20の分枝鎖状のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、−OH基、−COOH基、又は、炭素数1〜20の−COO−アルキルエステル基を表す。R11、R12はそれぞれ異なっても同一であってもよい。
式(8)中、Xは、PF、AsF、BF、又は、下記化学式(9)で表されるボロン酸を表す。
【0038】
【化9】

【0039】
なかでも、上記カチオン重合開始剤は、上記化学式(9)で表される嵩高いボロン酸を対アニオンとする塩からなるものが好適である。上記化学式(9)で表される対アニオンを有する光カチオン重合開始剤を用いると透明性に優れ、液晶パネルの電極と本発明の接着剤との界面で電極の酸化が発生しにくく、耐久性に優れる。
【0040】
上記カチオン重合開始剤の含有量としては特に限定されないが、上記光カチオン重合性化合物の全量100重量部に対して、好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。上記カチオン重合開始剤の含有量が0.1重量部未満であると、光カチオン重合性化合物のカチオン重合が充分に進行しなかったり、これらの硬化反応が遅くなりすぎたりすることがある。上記カチオン重合開始剤の含有量が10重量部を超えると、光カチオン重合性化合物の硬化反応が速くなりすぎて、作業性が低下したり不均一な硬化物となったりすることがある。上記カチオン重合開始剤の含有量のより好ましい下限は0.3重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0041】
上記硬化遅延剤は、上記一般式(1)で表される構造を有するものである。硬化遅延剤を含有することにより、ポッドライフが長くなり、取扱い性が向上する。また、いったん光を照射してから貼り合わせ等を行うことができることから、光によって損傷しやすい部材の接着を行うことも可能になる。上記一般式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤は、上記エポキシ変成シリコーン等と組み合わせて用いても組成物の透明性を損なうことがない。
【0042】
上記一般式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤のなかでも、少なくとも1つのシクロヘキシル基を有するものが好適である。シクロヘキシル基を有することにより、シリコーン樹脂との相溶性が良くなり透明性が向上する。
シクロヘキシル基を有する上記一般式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤としては、具体的には例えば、下記式(2)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0043】
【化10】

【0044】
上記化学式(2)で表される構造を有する化合物は、18−クラウン−6−エーテル分子の中央を通る線に対して線対称となる位置に2個のシクロヘキシル基を有するため、18−クラウン−6−エーテル分子の骨格に歪み等を生じさせることなく相溶性を向上させる効果が大きくなると考えられる。
【0045】
上記硬化遅延剤の含有量としては、上記光カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は5.0重量部である。上記硬化遅延剤の含有量が0.05重量部未満であると、本発明の光後硬化性組成物に遅延効果を充分付与できない場合があり、5.0重量部を超えると、本発明の光後硬化性組成物を硬化させる際に発生するアウトガス等が多くなり、該アウトガス等が大きな影響を与える用途に本発明の光後硬化性組成物を使用しにくくなることがある。上記硬化遅延剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は3重量部である。
【0046】
本発明の光後硬化性組成物は、下記一般式(10)で表されるベンゾフェノン誘導体からなる増感剤を含有することが好ましい。上記増感剤は、上記光カチオン重合開始剤の効率をより向上させて、本発明の光後硬化性組成物の硬化反応をより促進させるものである。
【0047】
【化11】

【0048】
式(10)中、R13、R14は、水素、下記一般式(11−1)、下記一般式(11−2)を表す。R13、R14はそれぞれ異なっても同一であってもよい。
【0049】
【化12】

【0050】
式(11−1)、(11−2)中、R15は、水素、炭素数1〜20の直鎖状のアルキル基、炭素数1〜20の分枝鎖状のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、−OH基、−COOH基、又は、炭素数1〜20の−COO−アルキルエステル基を表す。
【0051】
上記一般式(10)表される増感剤としては、具体的には例えば、ベンゾフェノン、2,4−ジクロルベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4‘メチルジフェニルサルファイドが挙げられる。
【0052】
上記増感剤の含有量としては特に限定されないが、上記光カチオン重合性化合物の全量100重量部に対して、好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は3重量部である。上記増感剤の含有量が0.05重量部未満であると、増感効果が弱いことがある。3重量部を超えると、吸収が大きすぎ、深部まで光が伝わらないことがある。上記増感剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は1重量部である。
【0053】
本発明の光後硬化性組成物は、更に熱硬化剤を含有することが好ましい。
上記熱硬化剤を含有することで、本発明の光後硬化性組成物に熱硬化性を好適に付与することができる。
上記熱硬化剤としては特に限定されず、例えば、1,3−ビス[ヒドラジノカルボノエチル−5−イソプロピルヒダントイン]等のヒドラジド化合物、ジシアンジアミド、グアニジン誘導体、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、N−[2−(2−メチル−
1−イミダゾリル)エチル]尿素、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、N,N’−ビス(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)尿素、N,N’−(2−メチル−1−イミダゾリルエチル)−アジポアミド、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、変性脂肪族ポリアミン、テトラヒドロ無水フタル酸、エチレングリコールービス(アンヒドロトリメリテート)等の酸無水物、各種アミンとエポキシ樹脂との付加生成物等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0054】
上記熱硬化剤を含有する場合、その含有量としては特に限定されないが、上記光カチオン重合性化合物の合計100重量部に対して、好ましい下限は0.5重量部、好ましい上限は30重量部である。上記熱硬化剤の含有量が0.5重量部未満であると、本発明の光後硬化性組成物に充分な熱硬化性を付与できないことがあり、30重量部を超えると、本発明の光後硬化性組成物の保存安定性が不安定になることがあり、また、本発明の光後硬化性組成物の硬化物の耐湿性が不充分となることがある。上記熱硬化剤の含有量のより好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は15重量部である。
【0055】
本発明の光後硬化性組成物は、更にシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤を含有することにより、液晶パネルや基板等との接着性が向上する。
【0056】
上記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのシラン化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
上記シランカップリング剤の配合割合としては特に限定されないが、上記光カチオン重合性化合物の合計100重量部に対して好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。上記シランカップリング剤の配合割合が0.1重量部未満であると、シランカップリング剤を添加した効果がほとんど得られない可能性があり、10重量部を超えると、余剰のシランカップリング剤がブリードアウトする恐れがある。上記シランカップリング剤の配合割合のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0058】
本発明の光後硬化性組成物は、透明性を阻害しない範囲で充填剤を含有していてもよい。
上記充填剤としては特に限定されず、例えば、タルク、石綿、シリカ、珪藻土、スメクタイト、ベントナイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、モンモリロナイト、珪藻土、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、硫酸バリウム、石膏、珪酸カルシウム、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト等の無機フィラーやポリエステル微粒子、ポリウレタン微粒子、ビニル重合体微粒子、アクリル重合体微粒子等の有機フィラー等が挙げられる。
【0059】
本発明の光後硬化性組成物は、その硬化物を厚さを100μmとしたときの可視光領域における光線透過率が90%以上であることが好ましい。90%未満であると、本発明の接着剤硬化体の透明性が不充分となることがある。
本発明の光後硬化性組成物は、その硬化物を厚さを100μmとしたときのヘーズが5%以下であることが好ましい。
【0060】
本発明の光後硬化性組成物の製造方法としては特に限定されず、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリウムミキサー、ニーダー、3本ロール等の混合機を用いて、上記エポキシ変成シリコーンまたはオキセタン変成シリコーン、カチオン重合性単量体、光カチオン重合開始剤、硬化遅延剤、及び、必要に応じて添加する添加剤を混合する方法が挙げられる。
【0061】
本発明の光学部品用硬化性組成物は、例えば、有機EL素子等の封止剤や、液晶表示装置の液晶パネルと透明部材との貼り合わせ用の接着剤等の用途に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、使用環境温度変化によらず優れた接着性を維持することができ、透明性に優れ、かつ、ポッドライフの長い光後硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0064】
(実施例1〜7、比較例1〜3)
表1に示した組成に従い、エポキシ変成シリコーン又はオキセタン変成シリコーン、カチオン重合性単量体、カチオン重合開始剤、硬化遅延剤及びシランカップリング剤を混合して、光後硬化性組成物を調製した。
なお、表1に示した実施例及び比較例に係る各材料の製造会社名等は以下の通りである。
【0065】
(エポキシ変成シリコーン)
Albiflex 348(ナノレジン社製)
【0066】
(オキセタン変成シリコーン)
アロンオキセタン OX−SC(東亞合成社製)
【0067】
(カチオン重合性単量体)
X−22−169AS(信越シリコーン社製)
【0068】
(カチオン重合開始剤)
RP−2074(ヨードニウム塩、ミドリ化学社製)
【0069】
(シランカップリング剤)
KBM−403(信越ケミカル社製)
【0070】
(評価)
実施例及び比較例で調製した光後硬化性組成物について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0071】
(1)貯蔵弾性率
ガラス基板に実施例及び比較例で製造した光後硬化性組成物を流し込んで約1mm厚にし、紫外線ランプで1500mJ照射した。その後、80℃10分間加熱して反応を完了させ、実施例及び比較例に係る光後硬化性組成物の硬化体を作製した。
EI計測製粘弾性スペクトロメーター(アイティー計測制御社製 DVA−200)を用いて、作製した硬化体について、−60〜120℃の温度範囲の引っ張り弾性で、振動数10サイクル/秒の条件で貯蔵弾性率を測定した。
【0072】
(2)光学特性
(光線透過率)
厚さ1mmのアルカリガラスの間を100μmに保ち、このガラスの間に実施例及び比較例で製造した光後硬化性組成物を流し込み、紫外線を1500mJ照射後、80℃10分間保持して光後硬化性組成物を硬化させ、実施例及び比較例に係るサンプルをそれぞれ作製した。
得られたサンプルを用いて、分光光度計(日立製作所社製、U−3000、条件300〜800nm)を用いて、波長400nm、550nm及び780nmの吸光度を測定し、初期の光線透過率を算出した。
【0073】
(ヘーズ)
上記光線透過率の測定に使用したサンプルを使用して、ヘーズメーター(東京電色社製TC−H3DPK)にて、ヘーズを測定した。
【0074】
(3)可使時間
実施例及び比較例で得られた光後硬化性組成物に、紫外線ランプ(スポットキュアSP−7、ウシオ電機社製)を用いて2000mJ/cmの紫外線を照射し、粘度計(東機産業社製、TV−22)を用いて粘度を経時測定した。粘度が初期の2倍に達する時間を可使時間とした。
【0075】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、使用環境温度変化によらず優れた接着性を維持することができ、透明性に優れ、かつ、ポットライフの長い光後硬化性組成物を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ変成シリコーン及び/又はオキセタン変性シリコーン、カチオン重合性単量体、光カチオン重合開始剤、並びに、下記一般式(1)で表される構造を有する硬化遅延剤を含有することを特徴とする光後硬化性組成物。
【化1】

式(1)中、R21〜R32の少なくとも1つは炭素数1〜20のアルキル基を表し、その余は水素を表す。前記アルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20のアルコキシル基、ハロゲン原子、−OH基、−COOH基及び−COO−アルキルエステル基(ただし、アルキル部分は、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜20残基である)からなる群より選択される1以上の官能基で置換されていてもよく、更に、隣接するR及びRn+1(但し、nは、1〜11の奇数を表す)は、共同して環状アルキル骨格を形成していてもよい。
【請求項2】
硬化遅延剤は、少なくとも1つのシクロヘキシル基を有することを特徴とする請求項1記載の光後硬化性組成物。
【請求項3】
硬化遅延剤は、下記式(2)で表される構造を有するものであることを特徴とする請求項2記載の光後硬化性組成物。
【化2】

【請求項4】
請求項1、2又は3記載の光後硬化性組成物からなることを特徴とする光学部品用接着剤。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の光後硬化性組成物からなることを特徴とする有機EL素子用封止剤。


【公開番号】特開2009−298888(P2009−298888A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153378(P2008−153378)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】