説明

光情報記録再生光学系及び光情報記録再生装置

【課題】青色レーザ光を使用する光情報記録再生用光学系において、高温時に反射防止膜が設けられた光学素子の光学面に発生する微細な形状変化を防止しつつ、リム強度の改善を図る。
【解決手段】樹脂製の光学素子及び対物レンズを有する光情報記録再生用光学系が提供される。光学素子及び対物レンズに高温耐久性の高い材料を用いて、かつ前記光学素子及び前記対物レンズの光学面に設けられる機能膜において、光触媒作用に関係する元素を含む薄膜層の導入に一定の制限を加える。また、リム強度の改善を図るために、対物レンズの光ディスクと反対側の面に所定の反射特性の機能膜を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の規格の光ディスクの記録層にレーザ光束を照射して情報の記録及び/又は再生を行うための光情報記録再生光学系に関連し、特にBD(Blu-ray Disc)等の高記録密度光ディスクに対する情報の記録及び/又は再生に適した光情報記録再生光学系に関する。また、本発明は上記の光情報記録再生光学系を搭載した光情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクには、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)といった記録密度や保護層の厚みが異なる複数の規格が存在する。また、近年では、情報記録のさらなる高容量化を実現した、DVDよりも記録密度が一層高い高記録密度光ディスクが実用化されている。そのような高記録密度光ディスクとして、例えばBDが一般に普及している。ここで、光ディスクの記録層にレーザ光束を照射して情報の記録及び/又は再生を行う装置を光情報記録再生装置という。なお、本明細書において、「光情報記録再生装置」とは、「情報の記録専用装置」、「情報の再生専用装置」、「情報の記録および再生兼用装置」の全てを含む。「光情報記録再生光学系」についても同様である。なお、以下の説明において、「光情報記録再生光学系」を「光ピックアップ光学系」とも呼ぶ。
【0003】
光情報記録再生装置により光ディスクの記録又は再生を行う際、光ピックアップ光学系を構成する対物レンズやコリメートレンズ等の光学素子の光学面で発生する不要な反射光や散乱光が信号光に干渉して、記録又は再生される信号が劣化することがある。このため、光ピックアップ光学系を構成する対物レンズ等の光学面には、反射防止膜や、埃の付着を抑制する帯電防止膜等の各種機能膜が設けられることが多い。
【0004】
ところで、BD等の高記録密度光ディスクに対する記録・再生を行うには、レーザ光束が光ディスクの記録層上で細いスポット径に集光される必要がある。このため、例えば400nm付近の短波長のレーザ光(以下「青色レーザ光」という。)が使用され、開口数NAが大きく(例えばBDでは0.85)焦点距離が短い対物レンズが使用される。このような対物レンズは、レンズ面の曲率半径が小さいため、レンズ面の周辺部においてレーザ光の入射角が大きくなり、反射率が高くなる。そのため、対物レンズを透過した光束のリム強度(対物レンズの光軸付近を透過する光の強度に対する周辺部を通過する光の強度)が低下し、記録層上に集光されるスポットの周辺部がぼやけ、スポット全体のパワーも低下するという問題がある。
【0005】
この問題に対して、特許文献1は、曲率半径の小さい対物レンズの入射面に、対物レンズの中心部における透過率が低く、周辺部における透過率が高い反射防止膜を設けることにより、記録層におけるスポット径を細くする技術を開示している。
【0006】
また、高記録密度光ディスクに対する記録・再生に使用される青色レーザ光は、光子エネルギーが高いため、光学素子の基材に化学的に作用して変質させやすい。このため、例えば反射防止膜がコーティングされた樹脂レンズに、高温環境下で青色レーザ光線を一定以上のパワー密度で長時間照射すると、コーティングされた樹脂レンズの光学面に微細な形状変化が発生して、収差や光学効率等の光学特性が劣化することが知られている。この問題に対して、特許文献2は、樹脂基材の材料変更による対策を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−217886号公報
【特許文献2】特開2005−251354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、反射防止膜の反射率分布を、特に対物レンズのような複雑な立体形状を有する光学面上に高い位置分解能で制御することは難しく、特許文献1に提案される透過率分布の実現は、現在知られている加工技術によっては極めて困難である。また、特許文献1に提案される透過率分布は、青色レーザ光を長時間照射したときに基材に形状変化を生じさせ易いコーティング材料を使用せずには実現することが難しい。
【0009】
一方、特許文献2には、樹脂基材に脂環式構造を有する樹脂を使用することで、機能膜との密着性の低下を抑制する技術が提案されている。しかしながら、樹脂材料は光学素子、延いては光ピックアップ光学系の特性を決定づける最も重要な設計パラメータの一つであり、樹脂材料の選択範囲に大きな制限を加えることは設計の自由度を著しく損なうため好ましくない。実際に、特許文献2が提案する構成によっては、例えばBD用の光ピックアップ光学系に要求される光学特性を実現することができない。また、特許文献2が提案する構成によっては、光学素子のコート面の形状変化が発生するまでの時間をある程度延長することは可能であるが、十分な耐光性を達成することができない。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、機能膜が形成された光学素子に高温環境下において十分な耐光性を与えつつ、リム強度の低下を補償して光ディスクの記録層上に細径のスポットを集光可能な光情報記録再生光学系、及び該光学系を搭載した光情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明により、光ディスクの記録層にレーザ光束を当て、光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生用光学系が提供される。本発明の実施形態に係る光情報記録再生用光学系は、レーザ光束を発生する光源と、光源から出射された光束を略平行光に変換する光学素子と、光学素子からの光束を光ディスクの記録層に集光するための対物レンズとを有している。レーザ光束の波長λ(単位:nm)は、次の条件式(1)に定める範囲内にある。
390<λ<420 …(1)
また、光学素子及び対物レンズは、それぞれガラス転移温度Tgが次の条件式(2)に定められる範囲内にある同一又は異なる種類の樹脂材料からなる。
Tg>115℃ …(2)
対物レンズにおける光ディスク側の光学面、光学素子における光源側の光学面、光学素子における光ディスク側の光学面には、それぞれ多層膜である第1の機能膜、第2の機能膜、第3の機能膜が形成されている。また、対物レンズにおける光ディスクと反対側の光学面には、4層以上の多層膜である第4の機能膜が形成されている。第4の機能膜は、チタン(Ti)を含む層を含んでいない。第1、第2、第3の機能膜は、酸化シリコン、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、又は、これらの二以上の混合物(例えば酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物)から形成される非高屈折率層を含んでいる。また、第1、第2、第3の機能膜は、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)のいずれかの化合物を含む層を含んでいない。第4の機能膜の最も基材に近い第1層は非高屈折率層であり、第4の機能膜において、垂直入射光に対する反射率が最大となる波長λmax(2)及び最小となる波長λmin(2)が、それぞれ次の条件式(3)及び(4)に定める範囲内にある。
350<λmax(2)<420 …(3)
600<λmin(2)<750 …(4)
第4の機能膜の垂直入射光に対する反射率はλmax(2)からλmin(2)にかけて単調減少する。
【0012】
機能膜への入射角度が大きくなるほど反射率が最小となる波長は短波長側にシフトすることが分かっている。そのため、条件式(3)を満たすことにより中心部の反射率を上げることができ、条件式(4)を満たすことで入射角度の大きい周辺部での反射率を下げ、リム強度を上げることができる。条件式(3)を満たさない場合には、中心部の反射率が低くリム強度を改善することができず、膜厚のバラつきによって大きく特性が変化してしまうといった問題が発生する。条件式(4)を満たさない場合には、入射角度の大きい周辺部での反射率が下げられずリム強度を改善することができない。
また、第4の機能膜の垂直入射光に対する反射率はλmax(2)からλmin(2)にかけて単調減少しない場合には、入射角度に対する透過率の変動が滑らかな単調変化でなくなることにより、スポット形状への悪影響が起こる。
【0013】
上記の構成により、BD等の高記録密度光ディスク用の光ピックアップ光学系としての必要な光学特性を備え、耐光性に優れ、更にリム強度の低下を抑えて低ジッター化が可能な光ピックアップ光学系が実現される。
【0014】
第4の機能膜は、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)のいずれかの化合物、又は、これらの二以上の混合物から形成される高屈折率層を含んでいてもよい。
【0015】
第4の機能膜においては、対物レンズの光ディスク側の面に比べて光のエネルギー密度が小さいため、基材との間に非高屈折率層を設ければ上述の化合物を含む高屈折率層を用いることができる。機能膜に高屈折率層を設けることにより、機能膜の光学特性を広範囲に設定可能となり、所望の光学特性が得られる。
【0016】
対物レンズにおける光ディスク側の光学面に形成された第1の機能膜の垂直入射光に対する反射率が、350〜400nmの波長域において10%以上となるように第1の機能膜が構成されることが望ましい。
【0017】
対物レンズの光ディスク側の光学面の反射特性が更にこのような条件を満たす場合、リム強度のさらなる改善が達成される。
【0018】
上記の光情報記録再生用光学系は、光源と光学素子の間に光源からの光を複数の回折光に分割するための回折格子を含んでいてもよい。
【0019】
対物レンズにおける光ディスク側の光学面に形成された第1の機能膜の垂直入射光に対する最小反射率を与える波長λmin(1)が、次の条件式(5)に定める範囲内に入るように第1の機能膜が構成されていることが望ましい。
430<λmin(1)<600 …(5)
機能膜への入射角度が大きくなるほど反射率が最小となる波長は短波長側にシフトすることが分かっている。そのため、条件式(5)の下限を超えた場合には、中心の垂直入射となる部分に比べて斜入射となる周辺の透過率が大きく下がりリム強度を改善することができない。上限を超えた場合には、全体の透過率が下がりすぎてしまう。
【0020】
第1の機能膜が基材側上に第1層から第3層までが番号順に積層された3層膜である場合に、第1層〜第3層を形成する材料の波長406nmにおける屈折率をそれぞれn1〜n3とし、第1層〜第3層の厚さをそれぞれd1〜d3(単位:nm)としたときに、第1の機能膜の各層の屈折率及び厚さは次の範囲内にあることが望ましい。
第1層: n1≦1.55, 40≦d1≦100
第2層: 1.55<n2≦1.70, 40≦d2≦150
第3層: n3≦1.55, 40≦d3≦100
【0021】
このように基材の屈折率に近い、比較的に低い屈折率の層から機能膜を構成すると、機能膜にレーザ光のパワーが局在することがなく、耐光性の良い光学面が得られる。また、機能膜の各層の屈折率及び厚さを上記範囲内に設定することにより、光学面に垂直入射する設計基準波長付近の光線に対する反射率が低くなり、光量の確保に有利である。
【0022】
第4の機能膜が基材側上に第4層から第7層までが番号順に積層された4層膜である場合に、第4層〜第7層を形成する材料の波長406nmにおける屈折率をそれぞれn4〜n7とし、第4層〜第7層の厚さをそれぞれd4〜d7(単位:nm)としたときに、第4の機能膜の各層の屈折率及び厚さは次の範囲内にあることが望ましい。
第4層: n4≦1.55, 10≦d4≦100
第5層: 1.55<n5≦1.70, 20≦d5≦ 50
第6層: 1.80≦n6, 40≦d6≦100
第7層: n7≦1.55, 100≦d7≦200
【0023】
上記の構成により、基材と高屈折率層との間に一定の間隔が設けられる。これにより基材が高屈折率層から熱的あるいは化学的な影響を直接受け難くなり、光学面の耐光性が向上する。基材と高屈折率層との間に遷移元素を含まない複数の層を設けることにより、基材と高屈折率層との間隔を確保することができる。また、機能膜の各層の屈折率及び厚さを上記範囲内に設定することにより、光軸付近の透過率が低く、レーザ光束の周辺部の光線に対する透過率が高くなり、リム強度を改善することができる。これにより、ジッターが低くなる。
【0024】
第4の機能膜が基材側上に第4層から第7層までが番号順に積層された4層膜である場合に、第4層〜第7層を形成する材料の波長406nmにおける屈折率をそれぞれn4〜n7とし、第4層〜第7層の厚さをそれぞれd4〜d7(単位:nm)としたときに、第4の機能膜の各層の屈折率及び厚さは次の範囲内にあることが望ましい。
第4層: n4≦1.55, 20≦d4≦150
第5層: 1.55<n5≦1.70, 30≦d5≦100
第6層: n6≦1.55, 30≦d6≦100
第7層: 1.55<n7≦1.70, 30≦d7≦100
【0025】
機能膜の各層の屈折率及び厚さを上記範囲内に設定することにより、光軸付近の透過率が低く、レーザ光束の周辺部の光線に対する透過率が高くなり、リム強度を改善することができる。
【0026】
また、本発明により上記の光情報記録再生用光学系を備えた光情報記録再生装置が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の構成によれば、BD等の高記録密度光ディスク用の光ピックアップ光学系として十分な光学特性を達成しつつ、機能膜が設けられた対物レンズ等の光学素子の光学面に十分な耐光性を与え、更にリム強度が改善されてジッターの低い光情報記録再生光学系が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る光ピックアップ光学系の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例で使用される光学膜F1〜F10の反射スペクトルである。
【図3】本発明の実施例で使用される光学膜F11及びF12の光学面の反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る光ピックアップ光学系、及びこの光ピックアップ光学系が搭載される光情報記録再生装置について説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る光情報記録再生装置に搭載される光ピックアップ光学系100の概略構成を表す模式図である。本実施形態の光情報記録再生装置は、BD規格に準拠した高記録密度光ディスクD(以下「光ディスクD」という。)に対する情報の記録や再生を行う装置である。
【0031】
図1に示されるように、光ピックアップ光学系100は、光源1、ハーフミラー2、コリメートレンズ3、対物レンズ4、及び受光部5を有している。なお、図1に示される一点鎖線は、光ピックアップ光学系100の基準軸AXを示す。また、細い実線は光ディスクDへの入射光束またはその戻り光を示している。また、以下の説明において、光源1からのレーザ光束がコリメートレンズ3に入射する光学面(光源側の光学面)をA面31、コリメートレンズ3から出射する光学面(対物レンズ側の光学面)をB面32、B面32から出射したレーザ光束が対物レンズ4に入射する光学面(光ディスクとは反対側の光学面)をC面41、対物レンズ4から出射する光学面(光ディスク側の光学面)をD面42と呼ぶ。
【0032】
光ディスクDは、図示省略された保護層及び記録面を有している。なお、実際の光ディスクDにおいては、記録面は保護層と基板層(あるいはレーベル層)によって挟持されている。また、光ディスクDは、図示省略されたターンテーブル上にセットされ、回転された状態で記録面に光源1が発生するレーザ光束が当てられて情報の記録又は再生が行われる。
【0033】
光源1は、設計基準波長406nmの青色レーザ光を照射する半導体レーザである。一般に光ピックアップ光学系に使用されるファブリ・ペロー型半導体レーザの発振波長λ(単位:nm)は、使用環境や製品個体差により数nm〜数十nm程度の範囲(例えば400〜410nm)で変動する。
【0034】
図1に示されるように、光源1から照射されたレーザ光束は、ハーフミラー2により偏向されてコリメートレンズ3のA面31に入射する。A面31からコリメートレンズ3に入射したレーザ光束は、略平行光束に変換された後、B面32にてコリメートレンズ3から出射し、対物レンズ4のC面41に入射する。C面41に入射したレーザ光束は、対物レンズ4のD面42から出射して、情報の記録または再生の対象となる光ディスクDの記録面近傍に収束する。収束したレーザ光束は、光ディスクDの記録面上で収差の少ない良好なスポットを形成する。そして、レーザ光束は、光ディスクDの記録面で反射して、入射時と同一の光路を戻り、ハーフミラー2を透過して受光部5により受光される。なお、コリメートレンズ3は、ディスク厚誤差、波長変動、温度変化等に起因して発生する球面収差を打ち消すため、光軸AX方向に位置調節されてレーザ光束の発散度を僅かに変える。このように、コリメートレンズ3から射出される光束は、厳密には完全な平行光束でなく実質的に平行光束と呼べる範囲で僅かに発散し又は収束することがある。そのため、本明細書中、コリメートレンズ3から射出される光束は、「略」平行光束と表現している。
【0035】
受光部5は、受光したレーザ光束を光電変換してアナログ信号を生成し、図示省略された信号処理回路に出力する。信号処理回路は、入力されたアナログ信号をビットストリームに変換して所定の誤り訂正処理を行う。次いで、誤り訂正されたビットストリームをオーディオストリームやビデオストリーム等の各ストリームに分離してデコードする。信号処理回路は、デコードして得られたオーディオ信号やビデオ信号等をアナログ信号に変換してスピーカやディスプレイ(何れも不図示)に出力する。これにより、光ディスクDに記録された音声や映像等がスピーカやディスプレイを通じて再生される。
【0036】
対物レンズ4は、光ディスクDに対する情報の記録や再生が適切に行われるように、使用波長λにおける光ディスクD側の開口数NAが例えば0.8〜0.87の範囲に収まるように構成されている。
【0037】
コリメートレンズ3及び対物レンズ4は、合成樹脂から成形された樹脂製レンズである。樹脂製レンズはガラス製レンズに比べて軽量であるため、対物レンズ4に樹脂レンズを採用することにより、レンズ駆動用アクチュエータ(不図示)に加わる負担を軽くすることができる。また、樹脂は、ガラスと比べてガラス転移温度が格段に低く、低い温度で成形することができる。このため樹脂製レンズはガラス製レンズと比べて、製造が容易であり、製造に必要なエネルギー消費量も少ない。更に、樹脂製レンズは割れ難く取扱いが容易であり、量産による低コスト化に適している。コリメートレンズ3及び対物レンズ4の材料には、使用波長λにおける屈折率nが例えば1.4〜1.7の範囲に収まる樹脂が選択される。また、後述するように、コリメートレンズ3や対物レンズ4の光学面に機能膜がコーティングされている場合、高温環境下で青色レーザ光を光ピックアップ光学系100に通すと光学素子のコーティングされた光学面において光触媒反応が関与する微細な形状変化が発生する場合がある。このような形状変化は、コリメートレンズ3や対物レンズ4を構成する樹脂のガラス転移温度Tgが比較的に低い場合(具体的には、Tgが115℃以下の場合)に頻発する。このため、コリメートレンズ3及び対物レンズ4の基材に使用する材料には、Tgが115℃(望ましくは120℃)を超える樹脂が選択される。また、コリメートレンズ3と対物レンズ4の基材に使用される樹脂は、同一種類の樹脂であっても、異なる種類の樹脂であってもよい。なお、コリメートレンズ以外の光学素子を用いて光源から出射された光束を略平行光に変換することでも、本発明の効果を得ることができる。
【0038】
コリメートレンズ3及び対物レンズ4の両光学面には、機能膜がコーティングされている。これらの機能膜は、光学面に入射するレーザ光束の反射を全体として抑制する反射防止膜としての機能、及び/又はコーティング面を劣化させる短波長成分(例えば350〜400nm)の透過を抑制する反射型波長フィルタ(透過率調整膜)としての機能を有するものである。なお、コリメートレンズ3の各光学面に機能膜を設けることにより、設計基準波長に近い波長の光が各光学面での反射によって損失される量が減るため、必要な光量が確保され易くなる。また、対物レンズ4のC面41に形成される機能膜は、リム強度を改善する機能も有している。
【0039】
ところで、光学面に機能膜がコーティングされた樹脂製の光学素子に高温環境下で短波長レーザを長時間照射したときに光学特性が劣化する現象については、その機構は未だ十分に解明されていない。本発明は、様々な実験や解析を通して到達した上記特性劣化のメカニズムに関する本発明者らの仮説に基づいてなされたものである。そこで、次に光学特性の劣化及びそのメカニズムに関する本発明者の知見及び仮説を説明する。
【0040】
上述のように、樹脂製の基材上に反射防止膜等の誘電体薄膜がコーティングされた光学面に、高温環境下にて紫外領域に近い400nm付近の短波長のレーザ光を一定以上の強度で長時間照射すると、光学面に微細な形状変化や変質が発生し、収差や受光されるレーザ光の光量等が変動する。このような形状変化や変質は、約60℃以上の比較的に高い温度において発生し、チタン等の遷移元素を含む化合物から形成される高屈折率薄膜が成膜された光学面において多く発生する。チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、又はクロム(Cr)等の光触媒作用をもつ化合物を与える遷移元素が薄膜材料に含まれる場合に形状変化や変質が頻発し、特に光学面に酸化チタンを含む薄膜が成膜されている場合に顕著に見られる。高温環境下では機能膜の光触媒作用が活性化され、機能膜周辺の基材樹脂の化学反応を誘起し、基材樹脂の分解や変質が生じる。その結果生じる光学面の変形や屈折率又は光吸収率の変化によって光学特性の劣化が起こるものと考えられる。
【0041】
また、青色レーザの照射により収差等の光学特性が劣化した光学素子の光学面を観察すると、しばしば微小な凹凸が確認される。光学面に形成されるこの凹凸は、光学面に照射されるレーザ光束の強度分布(明暗)のプロファイルに対応している。例えば光路中に回折格子が配置された光学系において、回折格子によって発生する縞状の光の強度分布に応じた凹凸が光学系の各レンズ面に発生することがある。また、一面に輪帯段差が形成されたレンズの他面には、輪帯段差の影と一致する同心円状の凹凸が形成される。更に、楕円状の強度分布のプロファイルをもつ青色レーザ光束を光学面に照射すると、光学面にレーザ光束のプロファイルに対応する楕円状の凹部が生じ、非点収差が楕円の長軸方向に変動するという特性劣化が生じる。このような凹凸は、機能膜の光触媒作用により変質・分解を起こした基材の一部が収縮することにより発生すると考えられる。また、光学面の微細な形状変化と光学特性の劣化との相関から、微細な形状変化が特性劣化の直接的な要因の一つと考えられる。光に強度分布があった場合、強度に応じてまた、基材樹脂の分解や変質に伴う屈折率変化によっても収差等が変動すると考えられる。
【0042】
また、本発明者は、レンズ基材の光学面に酸化シリコン、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、又は、これらの二以上の混合物(例えば酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物)のみから形成された機能膜を設けると、高温環境下で青色レーザを照射したときに光学面に微細な形状変化や基材の変質等に伴う光学特性の変化が起こり難いことを見出した。更に、本発明者は、上記機能膜が光触媒作用をもつ酸化タンタル等の遷移金属を含む高屈折率化合物から形成される薄膜層を有していても、樹脂基材との間に酸化シリコン等の層が介在する場合には、光学面の形状変化等が比較的に生じ難いことを見出した。酸化シリコン等の化合物は光触媒作用を有しない。従って、酸化シリコン等の化合物から形成される機能膜が設けられた光学面では、微細な形状変化等は発生しにくいと考えられる。また、機能膜が酸化タンタル等の遷移元素を含む薄膜層を有する場合でも、酸化タンタル等の遷移元素を含む薄膜層と基材との間に酸化シリコン等の薄膜層が介在する場合には、基材が遷移元素を含む層による光触媒作用の影響を直接受けないため、形状変化等が生じ難くなると考えられる。なお、チタンは特に強い光触媒作用をもつ化合物を与える。機能膜にチタンを含む薄膜層を設ける場合には光学膜の特性変化を有効に抑制するため、基材との間に介在させる酸化シリコン等の薄膜層をかなり厚くする必要があり、実現が難しい。
【0043】
光源1とコリメートレンズ3との間には、トラッキングサーボに利用するためのサブビームを形成するための回折格子(不図示)が配置されている。コリメートレンズ3の各光学面31、32及び対物レンズ4のD面42は、回折格子が発生する同心円状の縞状の強度分布をもつ強い回折光に曝されるため、回折光の強度分布に対応した縞状の形状変化を起こしやすい。また、対物レンズ4のC面41に入射する光源1からのレーザ光束は、C面41の屈折力により集束されて、例えば5倍以上にパワー密度が増大してD面42に入射する。従って、D面42はレーザ光束が透過する領域全体で形状変化を起こしやすい。このため、コリメートレンズ3の各光学面31、32及び対物レンズ4のD面42には、特に耐光性の高い機能膜が形成される。
【0044】
コリメートレンズ3の各光学面31、32及び対物レンズ4のD面42に形成される機能膜は、積層された複数層の誘電体薄膜であり、スパッタリングや真空蒸着により樹脂基材上に成膜される。これらの光学面上に形成される機能膜の材料には、酸化シリコン、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、又は、これらの二以上の混合物(例えば酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物)が使用され、光触媒作用をもつ化合物を与えるチタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、又はクロム等の元素を含むものは使用されない。また、コリメートレンズ3の各光学面31、32及び対物レンズ4のD面42に形成される機能膜は、それぞれ別の構成であっても、全て同じ構成であってもよい。
【0045】
対物レンズのC面41は、曲率が大きく入射光束に対して斜めに向いているため、対物レンズのC面41が曝されるレーザ光のパワー密度は実質的に低下している。そのため、かかるパワー密度の最大値は、A面31、B面32及びD面42と比べると大幅に低い。また、A面31等に形成される上記の機能膜では、材料の屈折率が例えば1.7以下と比較的に低いため、調整可能な反射率特性の範囲が大きく限定される。このような機能膜によっては、リム強度を低下させない光学特性を実現することが難しい。そのため、対物レンズのC面41に形成される機能膜には、タンタル等の遷移元素を含む高屈折率材料を使用してリム強度を低下させない光学特性が与えられると共に、タンタル等を含む化合物による影響から基材を保護して一定の耐光性を確保する膜構造が与えられる。具体的には、機能膜の最下層(基材に最も近い層)を光学面の耐光性に与える影響が少ない酸化シリコン、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、又は、これらの二以上の混合物(例えば酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物)から形成し、光学面の耐光性に影響を与え得るタンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、又はクロム元素を含む化合物から形成される高屈折率層を直接基材と接触させないようにしている。また、タンタル等の遷移元素を含む高屈折率材料による耐光性の低下を更に確実に防ぐために、基材と高屈折率材料の層との間に耐光性に与える影響が少ない酸化シリコン等の材料の層が2層以上設けられ、全体で少なくとも4層からなる機能膜が形成される。基材と遷移金属含有層との間に酸化シリコン等の層を2層以上設けることにより、基材と遷移金属含有層との間の距離を十分に確保することができる。また、機能膜を4層以上の誘電体層から構成される多層膜とすることで、リム強度を改善するために必要な光学特性を機能膜に与えることができる。なお、光学面の耐光性を特に顕著に低下させ得るチタンを含む材料は、C面41の機能膜にも使用されることはない。
【0046】
また、対物レンズ4のC面41は大きな曲率をもつ曲面であるため、レーザ光源1からのレーザ光束の周辺部の光線はC面41へ大きな入射角で入射する。一般に光学面に設けられる機能膜は、光軸を通る光線に対して特性が最適化されるように構成される。すなわち、一般的な対物レンズの入射面(C面)に形成される反射防止膜は、設計基準波長のレーザ光が光学面に垂直入射したときに、反射率が低く、レーザ光が低損失で透過できるように構成されている。誘電体多層膜等の機能膜の光学特性は入射角によって変化するため、このように構成された機能膜は大きな入射角の光線に対しては反射率が高く、透過損失が大きくなる。そのため、レーザ光束の中心部の光線はC面に対して小さな入射角度で入射するため透過損失は小さく、レーザ光束の周辺部の光線はC面に対して大な入射角度で入射するため透過損失が大きくなり、従ってレーザ光束のリム強度(周辺部のパワー密度)が低下する。リム強度が低下してレーザ光束の強度分布がガウス曲線から外れると、ビームウェスト径が太くなる。本発明の実施形態においては、リム強度の低下によるビームウェストの緩みを改善するために、C面41に設けられる機能膜は、垂直入射において反射率が最小となる波長λminが設計基準波長よりも長い波長(例えば600〜750nm)となるように構成される。このように構成された機能膜をC面41に設けることにより、C面41を通過するレーザ光束の周辺部の光線に対する機能膜の反射率(設計基準波長における値)が低く抑えられ、リム強度が改善される。そのため、レーザ光束はガウシアンビームと同様に細いビームウェスト径に集束され、ジッターが抑えられる。
【0047】
本発明の実施形態においては、C面41に設けられる機能膜は、垂直入射において反射率が最大となる波長λmaxが350〜450nmの範囲に入るように構成されている。また、C面41に設けられる機能膜は、垂直入射において反射率が最小となる波長λminが600〜750nmの範囲に入るように構成されている。このように最小反射率となる波長をレーザ光の波長より長波長側にシフトさせることにより、リム強度が改善される。さらに、C面41に設けられる機能膜は、垂直入射光に対する反射率がλmaxからλminまで単調減少するように構成されている。なお、λmin、λmaxは、それぞれ300〜800nmの波長範囲において反射率が最小、最大となる波長である。機能膜の反射スペクトルを使用波長範囲においてこのように滑らかで、極値を有しない波形にすることにより、機能膜を透過又は反射する光の強度分布に強い変調を与えることが防止される。なお、800nmに近い長波長域の反射波形は、大きな入射角でC面41に入射する光束周辺部の光線の反射に影響を与える。
【実施例】
【0048】
上記に説明した本発明の実施形態に係る光ピックアップ光学系について、以下に幾つかの実施例を示す。表1に、各実施例(実施例1〜11)における光ピックアップ光学系100の具体的構成を示す。また表2に、実施例1〜11において使用される機能膜F1〜F12の膜構成を示す。
【0049】
【表1】

【表2】

【0050】
また、各実施例のC面41に適用される機能膜F1〜F10の反射スペクトルを、それぞれ図2(a)〜(j)に示す。また、A、B、及びD面に適用される機能膜F11及びF12の反射スペクトルを、それぞれ図3(a)及び(b)に示す。なお、図2及び図3の反射スペクトルは、各光学素子の光学面に外部から垂直入射した光線の反射率を示すものである。
【0051】
表1には、コリメートレンズ3及び対物レンズ4の各光学面に形成される機能膜の構成(略号F1〜F12にて表示)及び基材樹脂のガラス転移温度Tg、C面41における反射率が最大となる波長λmax、最小となる波長λmin、及び耐光性評価試験後のスポット特性の良否が示されている。また、表2には、機能膜F1〜F12のそれぞれについて、膜構成(各層の材料、屈折率n1〜n4、及び厚さd1〜d4(単位:nm))、λmax及びλminが示されている。
【0052】
いずれの実施形態に使用される基材も、121℃以上のガラス転移温度Tgを有する、熱的な形状安定性に優れた樹脂材料から形成されている。すなわち、光学面の形状変化が生じにくい基材材料が選択されている。特に、実施例5では、対物レンズに使用される基材材料のガラス転移温度Tgが156℃と非常に高く、基材材料のみによっても大幅な耐光性の向上が達成されていると考えられる。
【0053】
C面41に形成される機能膜F1〜10は、いずれも4層構造の誘電体多層膜である。また、A、B、及びD面に形成される機能膜F11及び12は、いずれも3層構造の誘電体多層膜である。誘電体多層膜の層は、基材に最も近い最低層を第1層とし、第1層の上に第2層、第3層、及び第4層の順で積層される。
【0054】
各実施例の光学面に形成される機能膜(多層膜)は、基本的には低屈折率層(n<1.55)及び中屈折率層(1.55≦n≦1.70)から構成されている。C面41用の一部の光学面に形成される機能膜には、更に高屈折率層(1.70<n)が含まれる。低屈折率層及び中屈折率層は、酸化シリコン、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、又は、これらの二以上の混合物から形成される。表2に示されるように、実施例では、低屈折率層は主に酸化シリコン(屈折率1.46)から形成される。一部の機能膜F3〜F6では、酸化シリコンに少量の酸化アルミニウムを混合して層の屈折率を多少高めに調整した材料(屈折率1.49)が低屈折率層に使用されている。また、いずれの実施例の中屈折率層も酸化アルミニウム(屈折率1.64)から形成されている。低屈折率層及び中屈折率層には、チタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、クロムのいずれの元素も含まれていない。また、高屈折率層は、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、又はクロム等の遷移元素を含む化合物(例えば酸化物等)、またはそれらの二以上の混合物から形成される。但し、酸化チタン等のチタンを含む化合物は高屈折率層の材料から除かれる。すなわち、本発明の実施形態においては、コリメートレンズ3及び対物レンズ4の全ての光学面に形成される機能膜には、チタンを含む化合物は一切含まれていない。実施例においては、高屈折率層を有する機能膜F1〜F6の高屈折率層の材料として酸化タンタル(屈折率1.94)が使用されている。
【0055】
次に、各実施例のA面31、B面32、及びD面42に適用される機能膜F11及びF12の層構成を詳しく説明する。上述のように、本発明の実施形態においては、コリメートレンズ3の両光学面(A面31及びB面32)と対物レンズ4の光源側の面(D面42)には、次の層構成を有する3層の機能膜が形成される。なお、d1〜d3は、それぞれ第1層〜第3層の厚さ(単位:nm)である。
第1層 : 低屈折率層 ( 40≦d1≦100)
第2層 : 中屈折率層 ( 40≦d2≦150)
第3層 : 低屈折率層 ( 40≦d3≦100)
各実施例のA面31、B面32、及びD面42には、上記膜構成の機能膜が形成されている。このような3層膜は、光学面の耐光性に悪影響を与えない酸化シリコン、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、又はこれらの二以上の混合物(例えば酸化シリコンと酸化アルミニウムの混合物)から形成され、また耐光性を低下させるチタン、タンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、又はクロム等の遷移元素が用いられていないため、耐光性に優れたコーティング面を与える。また、図3(a)及び(b)に示されるように、これらの光学面に形成される機能膜F11及びF12は、設計基準波長(406nm)の近傍において垂直入射光に対する反射率が低く、光量の確保に有利である。
【0056】
次に、C面41に適用される機能膜F1〜F10の層構成を詳しく説明する。上述のように、いずれの実施例においてもC面41には4層膜の機能膜が形成される。高屈折率層が導入される機能膜F1〜F6では、次のような層構造が採用されている。なお、d1〜d4は、それぞれ第1層〜第4層の厚さ(単位:nm)である。
第1層 : 低屈折率層 ( 10≦d1≦100)
第2層 : 中屈折率層 ( 20≦d2≦ 50)
第3層 : 高屈折率層 ( 40≦d3≦100)
第4層 : 低屈折率層 (100≦d4≦200)
なお、高屈折率層は少なくとも第1層には形成されず、第3層以上に形成されることが望ましい。実施例では高屈折率層は全て第3層に形成されている。また、基材と高屈折率層との間に遷移元素を含まない複数の層を設けることにより、基材と高屈折率層との間隔を確保することができる。基材と高屈折率層との間隔(基材と高屈折率層との間に介在する低屈折率層及び/又は中屈折率層の厚さの合計)は、30〜150nmの範囲に設定されることが望ましい。基材と高屈折率層との間に一定の間隔を設けることにより、基材が高屈折率層から化学的な影響を直接受け難くなり、光学面の耐光性が向上する。
【0057】
また、高屈折率層が導入されない機能膜F7〜F10では、次のような層構造が採用されている。なお、d1〜d4は、それぞれ第1層〜第4層の厚さ(単位:nm)である。
第1層 : 低屈折率層 ( 20≦d1≦150)
第2層 : 中屈折率層 ( 30≦d2≦100)
第3層 : 低屈折率層 ( 30≦d3≦100)
第4層 : 中屈折率層 ( 30≦d4≦100)
4層構造を採用することにより、機能膜に所望の光学特性を与えることができる。更に各層の厚さを上記の範囲に設定することにより、リム強度を改善することができる。そのため、レーザ光束はガウシアンビームと同様の細いビームウェスト径に集束され、ジッターが抑えられる。また、350nm〜400nmの波長範囲において垂直入射光に対する反射率が10%以上となる反射特性をC面41の機能膜に与えると、リム強度の低下を適切に抑えることができる。
【0058】
また、表1には、図2及び図3に示される反射スペクトルが最大となる波長λmax及び最小となる波長λminが記載されている。A、B、及びD面に適用される機能膜F11及びF12は、設計基準波長(406nm)付近に反射率が最小となる波長λminが位置するように調整されている。なお、光学特性上は、機能膜F11よりも機能膜F12の方が設計基準波長における反射率が低いため望ましい。一方、曲率が大きい対物レンズのC面42に適用される機能膜F1〜F10においては、最小反射率を与える波長λminが600nm〜450nmの波長範囲に、最大反射率を与える波長λmaxが350nm〜450nmの波長範囲にそれぞれ入るように機能膜のパラメータが設定されている。このように最小反射率となる波長をレーザ光の波長より長波長側にシフトさせた波長特性を機能膜に与えることにより、レーザ光束全体に略均一な反射率を与えることができる。このため、光束が曲率の大きいC面42を透過する際にも光束のリム強度を低下させず、光ディスクDの記録面上に細径のビームウェストを形成することができる。表1に示されるように、いずれの実施形態においても良好なスポット特性が得られている。これによりジッターが抑えられる。
【0059】
なお、表1に示される実施例は本発明を説明するための単なる例示である。本発明の実施形態に係る光学面における基材のガラス転移温度、機能膜の層構成、あるいは機能膜の各層の材料(屈折率)や厚さ等は、表1に記載されていないものも含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1 光源
2 ハーフミラー
3 コリメートレンズ
31 A面
32 B面
4 対物レンズ
41 第一面、C面
42 第二面、D面
5 受光部
100 光ピックアップ光学系(光情報記録再生光学系)
AX 基準軸
D 光ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクの記録層にレーザ光束を当て、光ディスクに対する情報の記録または再生を行う光情報記録再生用光学系において、
レーザ光束を発生する光源と、
前記光源から出射された光束を略平行光に変換する光学素子と、
前記光学素子からの光束を前記光ディスクの記録層に集光するための対物レンズと
を有し、
前記光束の波長λ(単位:nm)は、次の条件式(1)に定める範囲内にあり、
390<λ<420 …(1)
前記光学素子及び前記対物レンズは、それぞれガラス転移温度Tgが次の条件式(2)に定められる範囲内にある同一又は異なる種類の樹脂材料からなり、
Tg>115℃ …(2)
前記対物レンズにおける前記光ディスク側の光学面、前記光学素子における前記光源側の光学面、該光学素子における該光ディスク側の光学面には、それぞれ多層膜である第1の機能膜、第2の機能膜、第3の機能膜が形成され、
前記対物レンズにおける前記光ディスクと反対側の光学面には、4層以上の多層膜である第4の機能膜が形成され、
前記第4の機能膜は、チタン(Ti)を含む層を含まず、
前記第1、第2、第3の機能膜は、酸化シリコン、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、又は、これらの二以上の混合物から形成される非高屈折率層を含み、
前記第1、第2、第3の機能膜は、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)のいずれかの化合物を含む層を含まず、
前記第4の機能膜の最も基材に近い第1層は前記非高屈折率層であり、
前記第4の機能膜において、垂直入射光に対する反射率が最大となる波長λmax(2)及び最小となる波長λmin(2)が、それぞれ次の条件式(3)及び(4)に定める範囲内にあり、
350<λmax(2)<420 …(3)
600<λmin(2)<750 …(4)
前記第4の機能膜の垂直入射光に対する反射率はλmax(2)からλmin(2)にかけて単調減少することを特徴とする光情報記録再生用光学系。
【請求項2】
前記第4の機能膜は、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)のいずれかの化合物、又は、これらの二以上の混合物から形成される高屈折率層を含むことを特徴とする請求項1に記載の光情報記録再生用光学系。
【請求項3】
前記対物レンズにおける前記光ディスク側の光学面に形成された第1の機能膜の垂直入射光に対する反射率は、350〜400nmの波長域において10%以上となる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光情報記録再生用光学系。
【請求項4】
前記光源からの光を複数の回折光に分割するための回折格子を該光源と前記光学素子の間に含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光情報記録再生用光学系。
【請求項5】
前記対物レンズにおける前記光ディスク側の光学面に形成された第1の機能膜の垂直入射光に対する最小反射率を与える波長λmin(1)が、次の条件式(5)に定める範囲内にある
430<λmin(1)<600 …(5)
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光情報記録再生用光学系。
【請求項6】
前記第1の機能膜は、前記基材側上に第1層から第3層までが番号順に積層された3層膜であり、
前記第1層〜第3層を形成する材料の波長406nmにおける屈折率をそれぞれn1〜n3とし、
前記第1層〜第3層の厚さをそれぞれd1〜d3(単位:nm)としたときに、
前記第1の機能膜の各層の屈折率及び厚さが次の範囲内にある
第1層: n1≦1.55, 40≦d1≦100
第2層: 1.55<n2≦1.70, 40≦d2≦150
第3層: n3≦1.55, 40≦d3≦100
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の光情報記録再生用光学系。
【請求項7】
前記第4の機能膜は、前記基材側上に第4層から第7層までが番号順に積層された4層膜であり、
前記第4層〜第7層を形成する材料の波長406nmにおける屈折率をそれぞれn4〜n7とし、
前記第4層〜第7層の厚さをそれぞれd4〜d7(単位:nm)としたときに、
前記第4の機能膜の各層の屈折率及び厚さが次の範囲内にある
第4層: n4≦1.55, 10≦d4≦100
第5層: 1.55<n5≦1.70, 20≦d5≦ 50
第6層: 1.80≦n6, 40≦d6≦100
第7層: n7≦1.55, 100≦d7≦200
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の光情報記録再生用光学系。
【請求項8】
前記第4の機能膜は、前記基材側上に第4層から第7層までが番号順に積層された4層膜であり、
前記第4層〜第7層を形成する材料の波長406nmにおける屈折率をそれぞれn4〜n7とし、
前記第4層〜第7層の厚さをそれぞれd4〜d7(単位:nm)としたときに、
前記第4の機能膜の各層の屈折率及び厚さが次の範囲内にある
第4層: n4≦1.55, 20≦d4≦150
第5層: 1.55<n5≦1.70, 30≦d5≦100
第6層: n6≦1.55, 30≦d6≦100
第7層: 1.55<n7≦1.70, 30≦d7≦100
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の光情報記録再生用光学系。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の光情報記録再生用光学系を備えた光情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−48802(P2012−48802A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211526(P2010−211526)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】