光情報記録媒体
【課題】 低速記録時における変調度を確保可能とし、高速記録時における変調度を抑制可能とするとともに、記録前後におけるLPP信号を確保して、低速記録から高速記録の広範囲の記録速度に対応して記録特性を満足可能な光情報記録媒体を提供すること。
【解決手段】 光記録層の色素の熱分解開始温度と変調度ないし高低速記録の間の変調度比との間、さらには光吸収能(消衰係数)kや発熱量と記録感度との間に所定の相関関係があることを見い出し、色素の熱分解開始温度や発熱量および光吸収能(消衰係数)kを最適に制御することにより、基準線速度(1x)から16倍速(16x)の幅広い記録速度域に対応した、とくに16xのDVD−Rに好適な光情報記録媒体を得ることができることに着目したもので、光記録層内の色素は、その熱分解開始温度が190〜260℃、発熱量が20〜150cal/gであることを特徴とする。
【解決手段】 光記録層の色素の熱分解開始温度と変調度ないし高低速記録の間の変調度比との間、さらには光吸収能(消衰係数)kや発熱量と記録感度との間に所定の相関関係があることを見い出し、色素の熱分解開始温度や発熱量および光吸収能(消衰係数)kを最適に制御することにより、基準線速度(1x)から16倍速(16x)の幅広い記録速度域に対応した、とくに16xのDVD−Rに好適な光情報記録媒体を得ることができることに着目したもので、光記録層内の色素は、その熱分解開始温度が190〜260℃、発熱量が20〜150cal/gであることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光情報記録媒体にかかるもので、とくに透光性の基板上に色素から構成した少なくとも光吸収物質などを含む光記録層と、金属膜などによる光反射層と、を有し、高密度かつ高速で書き込みおよび再生が可能である上、低速時でも好適に使用することができる光情報記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、波長が640〜680nm(たとえば650〜665nm)の半導体レーザーに対応する有機色素化合物を光記録層として用いたDVD−RやDVD+Rなどの追記型光情報記録媒体の開発が行われている。これらDVD−RやDVD+Rなどの光情報記録媒体は、従来のCD−Rにおける、トラックピッチ1.6μm、記憶容量650〜600MBに比べて、トラックピッチは0.74μmと、より狭いピッチになり、記憶容量では4.7GBと非常に高密度になっている。さらに、記録速度については、CD−Rでは、基準線速度が1.2〜1.4m/sであるのに対して、DVD−R/+Rでは、基準線速度が3.49m/sと非常に高速化しており、このような高速化に応える色素が求められている。
さらに、このような有機色素化合物を光記録層に使用した光情報記録媒体において、記録速度が低速時から高速時の広い領域にわたって記録再生特性の確保が求められている。しかしながら、現状は、低速時から高速時の各記録再生特性を十分に満足する光情報記録媒体は得られていない。
【0003】
高速記録では、記録パワーが高いために記録時に発生する熱量、ないし単位時間あたりの熱量が大きくなり、熱ひずみの問題が顕在化しやすく、記録ピットがばらつく原因となっている。すなわち、通常の光情報記録媒体では、高速記録では記録パワーが高いために記録ピットが大きくなりすぎる結果、変調度が高くなりすぎる。
とくに、DVD−Rではランドプレピット(LPP)と呼ばれるアドレス情報を確認する領域を設けており、このLPP信号を記録の前後において確保する必要があるが、大きすぎる記録ピットが形成された場合には、LPPの記録指標であるAR(Aperture Ratio:振幅低下率指標)を十分に取ることができず、LPP信号を確保することができないという問題がある。
なお、ARは、記録ピットがない部分におけるLPP信号に対する最長記録ピットがある部分のLPP信号の割合(%)であり、DVD−Rの規格では、ARが15%以上であることが要請されている。
したがって、高速記録では、記録パワーを低く抑えて記録時に発生する熱量を抑制する必要がある。
しかしながら、その一方で、高速記録時の記録パワーを低く抑えようとして、たとえば記録層の膜厚をより薄くした場合には、低速記録時に十分な大きさの記録ピットが形成されにくくなるため、変調度を確保することができないという問題がある。
大きな記録ピットに対するLPP信号の確保には、たとえばLPP自体を大きくすることが考えられるが、LPPを大きくしてしまうと、そのLPP信号が未記録時や記録時の情報にもれ込むために、エラーが大きくなりすぎてしまうという別の問題がある。
したがって、LPP信号を確保するためには、記録速度の相違による記録ピットの大きさのばらつきを小さく抑えるとともに、低パワー記録時には十分な大きさの記録ピットを形成可能とし、かつ、高記録パワー時にもARが規格を満たすように記録する必要があるが、このような記録材料(有機色素材料)に、どのようなものが適しているか全く分かっていなかった。
しかも、半導体レーザーの出力パワー自体にも限界があり,高速記録に対応することができる高感度の色素材料が求められている。また、高速化への要請は、次世代ディスク(Blu−Ray、HD DVDなど)の実用化にともなって、より求められると考えられる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−15612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような諸問題にかんがみなされたもので、従来からの低速記録(基準線速度の1倍)から高速記録(たとえば基準線速度の16倍)間での広範囲の記録速度に対応可能な光情報記録媒体を提供することを課題とする。
【0006】
また本発明は、低速記録時(基準線速度の1倍)における変調度(DVDの規格では50%以上が必要とされている)を確保可能とするとともに、高速記録時(たとえば基準線速度の16倍)における変調度が大きくなりすぎないように抑制可能な光情報記録媒体を提供することを課題とする。
【0007】
また本発明は、記録時に発生する熱を有効かつ速やかに放熱可能として、記録パワーが大きな場合にも変調度が増加する割合を削減可能とした光情報記録媒体を提供することを課題とする。
【0008】
また本発明は、記録前後におけるLPP信号を確保することができ、良好なAR取得が可能で、低速記録から高速記録における記録特性を満足可能な光情報記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、光記録層への記録にあたって記録パワーにより発生する熱の制御を考慮し、放熱特性を向上させること(とくに光反射層を介した放熱特性を向上させること)、色素の熱分解温度(熱分解開始温度)と変調度ないし高低速記録の間の変調度比との間、さらには記録再生波長における薄膜状態での光吸収能(消衰係数)kや発熱量と記録感度との間に所定の相関関係があることを見い出し、色素の熱分解開始温度や発熱量および光吸収能(消衰係数)kを最適に制御することにより、使用速度の最遅と最速(たとえば基準線速度(1x)から16倍速(16x))の幅広い記録速度域に対応した、とくに16xのDVD、さらに好ましくはDVD−Rに好適な光情報記録媒体を得ることができることに着目したもので、透光性を有するとともにプリグルーブを形成した基板と、この基板上に設けるとともに、レーザー光を吸収する色素から構成した光吸収物質を含む光記録層と、この光記録層上に設けるとともに、上記レーザー光を反射する光反射層と、を有し、上記基板を通して上記光記録層に上記レーザー光を照射することにより光学的に読み取り可能な情報を記録する光情報記録媒体であって、上記色素は、その熱分解開始温度が190〜260℃、発熱量が20〜150cal/gであることを特徴とする光情報記録媒体である。
【0010】
上記レーザー光の記録再生波長における上記色素の消衰係数kが、0.15以下であることができる。
【0011】
上記プリグルーブ内において、当該光情報記録媒体の直径方向の切断面における上記プリグルーブの断面積に対する上記色素が占める断面積の比率(グルーブ内色素比率)が、30%〜63%、であることができる。
【0012】
上記色素として、下記構造式(化2)で示す色素化合物を用いることができる。
【化2】
【0013】
上記レーザー光による記録速度が最高速度における変調度と、最低速度における変調度との比(最高速度記録時の変調度/最低速度記録時の変調度)が、1.1〜1.7、であることができる。
【0014】
上記レーザー光による記録速度が最高速度における変調度と、最低速度における変調度との比(最高速度記録時の変調度/最低速度記録時の変調度)が、1.1〜1.55、であることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による光情報記録媒体においては、記録時における光記録層内の色素の熱分解開始温度および発熱量さらには光吸収能(消衰係数)kを最適に制御するようにしたので、基準線速度(1x)から16倍速(16x)の幅広い記録速度域に対応して、LPP信号および変調度を適正に確保した光情報記録媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、色素の熱分解開始温度を190〜260℃、発熱量を20〜150cal/gとしたので、使用最速(16x)でも好適に使用可能で、とくにDVD−Rとした場合でも良好なAR(Aperture Ratio:振幅低下率指標)を取得することができる上、低速から高速まで広範囲の記録線速度に対応した光情報記録媒体を実現することができた。
本発明の光情報記録媒体は、DVD−Rに適用してとくに好適であるが、これに限られるものではなく、たとえば、CD−R、DVD+R、Blu−Ray、HD DVDなどにも適用することができる。
【実施例】
【0017】
つぎに本発明の一実施例による光情報記録媒体1を図1ないし図16にもとづき説明する。
図1は、円盤状の光情報記録媒体1の要部拡大断面図であって、光情報記録媒体1の直径方向の切断面を示す断面図、すなわち、プリグルーブ7が刻んである面に対して垂直、かつプリグルーブ7方向に対して垂直に切断した断面図を模式的に示したものである。
光情報記録媒体1は、透光性の基板2と、この基板2上に形成した光記録層3(光吸収層)と、この光記録層3の上に形成した光反射層4と、この光反射層4の上に形成した保護層5と、を有する。なお、保護層5のさらに上層に所定厚さのダミー基板6を積層し、DVD規格で必要とされる所定の厚さに形成する。
上記基板2にはスパイラル状にプリグルーブ7を形成してある。このプリグルーブ7の左右には、このプリグルーブ7以外の部分すなわちランド8が位置している。
【0018】
図示するように、光情報記録媒体1にレーザー光9(記録光)を照射したときに、光記録層3がこのレーザー光9のエネルギーを吸収することにより発熱し、基板2側に熱変質が生じて記録ピット10が形成される。また、図示を省略してあるが、ランド8上にはアドレス情報用の前記ランドプレピット(LPP)を形成する。
【0019】
なお、基板2と光記録層3とは、第1の層界11により互いに接している。
光記録層3と光反射層4とは、第2の層界12により接している。
光反射層4と保護層5とは、第3の層界13により接している。
保護層5とダミー基板6とは、第4の層界14により接している。
【0020】
透光性の基板2は、レーザー光に対する屈折率がたとえば1.5〜1.7程度の範囲内の透明度の高い材料で、耐衝撃性に優れた主として樹脂により形成したもの、たとえばポリカーボネート、ガラス板、アクリル板、エポキシ板等を用いる。
【0021】
光記録層3は、基板2の上に形成した色素を含む光吸収性の物質(光吸収物質)からなる層で、レーザー光9を照射することにより、発熱、溶融、昇華、変形または変性をともなう層である。この光記録層3はたとえば溶剤により溶解したアゾ系色素、シアニン系色素等を、スピンコート法等の手段により、基板2の表面に一様にコーティングすることによってこれを形成する。
光記録層3に用いる材料は、任意の光記録材料を採用することができるが、本発明においては所定の熱分解温度および発熱量を有することが必要であり、詳しくは後述する。
【0022】
光反射層4は、熱伝導率および光反射性の高い金属膜であり、たとえば、金、銀、銅、アルミニウム、あるいはこれらを含む合金を、蒸着法、スパッタ法等の手段によりこれを形成する。
【0023】
保護層5は、基板2と同様の耐衝撃性、接着性に優れた樹脂によりこれを形成する。たとえば、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により塗布し、これに紫外線を照射して硬化させることによりこれを形成する。
【0024】
ダミー基板6は、上記基板2と同様の材料によりこれを構成し、約1.2mmの所定の厚さを確保する。
【0025】
まず、光情報記録媒体1の放熱特性について説明する。
図1において、光情報記録媒体1の各部分の寸法を図示のように設定する。
とくに、プリグルーブ7において、基板2と光記録層3との第1の層界11における、図1中、プリグルーブ7の左側上隅部をA点とし、左側下隅部をB点とし、右下隅部をC点とし、右上隅部をD点とする。
さらに、ランド8上に位置する光反射層4の左上隅部をE点とし、プリグルーブ7の開口部にランド8からの第1の層界11と同一レベルに延びる開口部レベル線15(仮想線)と光反射層の左傾斜部との交点をF点とし、プリグルーブ7内に基板2方向に向かって突出している光反射層4の左下隅部をG点とし、右下隅部をH点とし、開口部レベル線15と光反射層の右傾斜部との交点をI点とし、ランド8上に位置する光反射層4の右上隅部をJ点する。
光反射層4がプリグルーブ7に臨む凹み部の最大幅(光情報記録媒体1の直径方向の幅)をWdt(直線EJの長さ)、とする。
光反射層4がプリグルーブ7に臨む凹み部の最小幅をWdb(直線GHの長さ)、とする。
光記録層3のプリグルーブ7における最大幅をWst(直線ADの長さ)、とする。
光記録層3のプリグルーブ7における最小幅をWsb(直線BCの長さ)、とする。
光反射層4のランド8に臨む凸部の幅をWdl(直線JE1の長さ)、とする。
光記録層3のランド8における幅をWsl(直線DA1の長さ)、とする。
光記録層3と光反射層4との間におけるランド8の第1の層界11のレベルでの光記録層3の幅をWx(直線AF、IDの長さ)、とする。
光反射層4のランド8における第2の層界12からプリグルーブ7における第2の層界12までの深さ(色素グルーブ深さ)をHdg(直線JEと直線GHとの間の長さ)、とする。
光記録層3のランド8における深さをHdl(直線JEと直線DAとの間の長さ)、とする。
プリグルーブ7の深さ(基板グルーブ深さ)をHsg(直線DAと直線BCとの間の長さ)、とする。
プリグルーブ7における光記録層3と光反射層4との間の深さをHsd(直線GHと直線BCとの間の長さ)、とする。
光反射層4の光記録層3内における傾斜部の角度(グルーブ色素角度)をα、とする。
なお、光記録層3の基板2内における傾斜部の角度(グルーブ基板角度)をβ、とする。
【0026】
当該光情報記録媒体1の断面形状およびそれぞれの寸法を測定するためには、光情報記録媒体1の中央の孔から金属製のスパチュラーを差し込んで光記録層3と光反射層4との間の第2の層界12部分を剥離し、分解する。
ついで、光反射層4側に付着している色素層(光記録層3)をエタノールで洗い落とし、剥離の際にスパチュラーで傷ついた部分を除いて、色素層形状の測定サンプルとして測定に用いた。
さらに、基板2側に付着している色素層をエタノールで洗い落とし、剥離の際にスパチュラーで傷ついた部分を除いて、基板2形状の測定サンプルとして測定に用いた。
それぞれの部分の形状測定には、AFM(Thermomicroscopes製、Autoprobe M5)を用いた。
【0027】
図2は、光反射層4側の形状の測定結果を示すグラフであって、実際の測定形状は曲線となっているが、深さ、半値幅および角度のデータを用いて計算しやすいように直線で近似する。
すなわち、図3は、図2のように得られた曲線を直線で近似した光反射層4の断面形状を示すグラフであって、点線が実際の測定形状を示し、実線が近似形状を示す。
なお、上述と同様の手法により、基板2の形状も測定する。
【0028】
本発明における高速記録時の熱制御設計について述べると、光情報記録媒体1に記録する際のレーザー光9のレーザーパワーによってプリグルーブ7内の色素は急激に加熱され、それぞれの熱は光記録層3や光反射層4を通って拡散されてゆく。
この拡散されてゆく熱は、隣接部分のトラック間やプリグルーブ7内へと移ってゆき、その部分はある程度暖められた、いわば予熱状態となる。この予熱状態で、つぎの記録のためのレーザー光9が照射されると、予熱状態ではない冷めた状態の記録膜とは異なった記録ピット10が形成されることになる。
【0029】
また、レーザー光9のレーザーパワーが強ければ強いほど、すなわち、高速記録になればなるほど、発生する熱量は多くなる。たとえば、一般的なDVD−Rのメディアでは、1倍速記録(約3.5m/s)でその記録パワー(レーザー強度)は6〜10mW前後であり、4倍速記録では15〜20mW前後であり、8倍速記録では25〜30mW前後であり、16倍速記録では40mW以上の記録レーザーパワーが必要と予想される。
要するに、高速記録対応のメディアにとって、その記録時に発生する熱が隣接部分に影響しないようすることはますます重要となってくる。
【0030】
光情報記録媒体1の記録時に発生する熱を制御する因子は、発熱制御および放熱制御に大別することができる。
発熱制御は、光記録層3の材料自体の発熱量や分解温度などの材料物性因子と関係し、放熱制御は、光記録層3や基板2などの形状因子すなわち光記録層3の厚さや光記録層3と光反射層4との間の第2の層界12の形状と密接に関連している。
たとえば有機色素材料薄膜である光記録層3は、金属薄膜である光反射層4とポリカーボネート材料の基板2との間に挟まれている。熱伝導性としては、プラスチック材料であるポリカーボネート(基板2)よりも金属(光反射層4)の方が良いのは自明で、放熱制御は、形状因子が密接に関係する。
【0031】
とくに、以下の項目による光記録層3の形状は、高速記録時の熱制御(放熱制御)に対して影響度が大きい。さらに、項目(1)および(2)がとくに影響度が大きい。
(1)プリグルーブ7内における色素比率(グルーブ内色素比率)、すなわちこのグルーブ内色素比率は、実際はプリグルーブ7内における色素量の容積割合であるが、図1における台形ABCDの面積に対する台形FGHIの面積の比と等価である。
図4は、このグルーブ内色素比率の計算式を示す。
(2)プリグルーブ7内における反射膜突出深さ(Hsg−Hsd)。
(3)プリグルーブ7内における色素の厚さ(グルーブ内色素厚さ)Hsd。
(4)プリグルーブ7内におけるグルーブ色素角度α。
(5)色素レベリング値(Hsg−Hdg)÷Hsg。
(6)プリグルーブ7内における光反射層4の比率(グルーブ内光反射層比率)、すなわち、本発明においては、グルーブ内色素比率と相関して、プリグルーブ7内における光反射層4の比率を着目することもできる。図4に計算式を示すように、グルーブ内色素比率と同様にして、グルーブ内光反射層比率を定義することができる。
【0032】
本発明において、8倍速以上の高速記録に対応させるためには、(1)のグルーブ内色素比率を、30%〜63%、とすることが望ましい。
30%未満では十分な大きさの記録ピット10を形成することができない。
63%をこえた場合には、図5にもとづいて後述するように、DCジッターを規格値以内に抑えることができない。
【0033】
つぎに、基板2、光記録層3および光反射層4などの形状(とくにグルーブ内色素比率)がメディアの高速記録特性にどのように影響するかを調べた結果のデータを示す。
図5は、DCジッターと、グルーブ内色素比率とを示すグラフであって、DCジッターが13%をこえるアシンメトリ値を横軸に取り、グルーブ内色素比率を縦軸に取っている。
ここで、「DCジッター(ジッター)」とは、”Data to Clock Jitter”のことで、光情報記録媒体1を一回転させたときのジッター値であり、記録ピット10のゆらぎを表す。このDCジッターが13%をこえてしまうと、DVD−Rの場合、規格で決められているエラー信号(PIエラー)がその規格値280をこえてしまいやすくなる。
「アシンメトリ値」とは、DVD−Rにおける記録ピット10のピット長さ3Tから14Tまでの長さに対しての平均値について本来記録されるべき位置からのズレを表す。
このアシンメトリ値は、記録媒体の記録感度をより向上させるためには、設計上なるべくプラス側にシフトさせた方がよいことが実験上検証されており、そのため、アシンメトリ値としては、高速記録の場合は、−5%〜15%の範囲が望ましく、たとえば8倍速のときには、−5%からプラス側へシフトさせることが望ましく、16倍速のときには、5%からプラス側へシフトさせることが望ましい。
図5は、1倍速、2倍速、4倍速、6倍速および8倍速の記録を行って得られたDCジッターの結果をもとに、16倍速の記録結果を予測したものであり、図示のように、グルーブ内色素比率が減少するほど(グルーブ光反射層比率が増加するほど)、DCジッターが13%をこえるアシンメトリ値がプラス側にシフトして行くのがわかる。すなわち、プリグルーブ7内に光反射層4が突出する割合が増加するほど(もちろん上限値としてたとえば70%はあるが)、記録時の発生熱量が光反射層4の金属膜により速やかに放熱拡散されてゆくことがわかる。
図5のグラフから、アシンメトリ値が−5%のときのグルーブ内色素比率が63%以下が望ましく、アシンメトリ値が+5%のときの57%以下が好ましいことを裏付けることができる。
【0034】
つぎに、色素材料の熱分解開始温度、発熱量、消衰係数kと、変調度、記録感度ないし記録パワーとの相関関係について述べる。
図6は、色素の熱分解開始温度(色素分解開始温度)と、16倍速および1倍速の変調度の比との関係を示すグラフであって、熱分解開始温度が低温になるほど、低速記録および高速記録記録ピット10の大きさが互いに近くなること、すなわち、低速記録に対する高速記録の変調度比が小さくなることがわかる。熱分解開始温度が低くなることにより、低いレーザーパワーでも十分な色素分解をもたらすことができ、高速記録時においても低速記録時と同様にレーザーパワーをを低く抑えることができるため、記録ピット10の大きさがばらつかずに制御可能になったためと考えられる。
低速記録すなわち、1倍速記録(1x記録)を満足するための変調度はDVDのベーシックライトストラテジーの場合は50%以上であり、記録ドライブにおける半導体レーザーその他の個体差などによる影響を考慮した場合、その記録特性を安定に確保するためには、1倍速記録時の変調度は55%以上が好ましい。
高速記録すなわち、16倍速記録(16x記録)時のLPP信号を確保するための変調度は85%以下であることから、16x/1xの変調度比(16x記録の変調度/1x記録の変調度)は、1.7以下、好ましくは1.55以下に抑える必要がある。また1x以外の記録を満足するための変調度は60%以上であるため、16xの変調度は少なくとも60%以上にする必要があり、16x/1xの変調度比は少なくとも1.1以上にする必要がある。
図6のグラフから、変調度比が1.1〜1.7の範囲、とくに1.1〜1.55の範囲にするために、色素の熱分解開始温度が190〜260℃、好ましくは200〜250℃の範囲にする必要がある。熱分解開始温度が190℃より低すぎると記録に支障が出るとともに、260℃より高すぎると高速記録でのARを取ることができなくなる。本発明による光情報記録媒体1では、以上のように変調度比を調整しているので、1x〜16xまでの広い記録速度範囲において安定して対応可能とすることができる。
【0035】
さらに述べると、光情報記録媒体1に記録する際のレーザーパワーによってプリグルーブ7内の色素は急激に加熱され、その熱によって記録ピット10が形成される。色素の消衰係数k、色素の熱分解開始温度や発熱量などの色素物性や、光記録層3における色素膜厚などの形状によって記録パワーが変化し、形成される記録ピット10の大きさも変わってくる。
半導体レーザー自体による記録レーザーパワーに限界があることから、16x記録では記録パワーを40〜50mW程度以下に抑えることが推奨される。
また、反射率(規格では45%以上)を確保するために、消衰係数kをある一定値以下にする必要がある。加えて、16x記録では、その高い記録レーザーパワーの影響のために、生じる熱を隣接する記録ピット10部分などへ影響しないように制御しなければならず、この発生する熱を制御するために、図1ないし図5にもとづいて既述のような光反射層4を通した放熱制御が効果的であり、上述のような熱分解開始温度を190〜260℃の範囲に抑えるとともに、グルーブ内色素比率を30%〜63%とすることにより、さらに発熱時の変調度比を望ましい範囲内に限定可能である。
【0036】
図7は、色素の消衰係数kと、記録パワー(16x記録時)との関係を示すグラフであって、図示のように、消衰係数kが小さくなるほど、記録パワーが増加する(記録感度が悪化する)。16x記録を満足するために記録パワーの目標値は、規格である50mW以下、好ましくは47mW以下であり、図7のグラフから記録パワー(記録感度)に対応して制御可能な範囲は、レーザー光による記録再生波長(たとえばDVDの660nm)において消衰係数kが0.09以上の場合である。また、規格の反射率45%以上を得るためには、レーザー光の記録再生波長における色素の消衰係数kが、0.15以下にする必要がある。なお、本発明における消衰係数kの指標は、一検出波長として660nmがあるが、これは本発明の対象をDVDに限るものではない。
【0037】
つぎに、消衰係数kが同じ場合における色素の発熱量と16x記録感度の関係を検証した。
図8は、色素の発熱量と、記録感度(記録パワー)(16x記録時)との関係を示すグラフであって、図示のように、消衰係数kが同じ場合(k=0.09、k=0.06)、色素の発熱量が小さくなるほど、記録感度は大幅に悪化(記録パワーが増加)することがわかる。本発明においては、色素の発熱量としては、20〜150cal/g、好ましくは、50〜100cal/g、さらに好ましくは、70〜100cal/gにする必要がある。
すなわち、16x記録を満足するための記録感度の目標値は、記録パワーとして47mW以下であり、図8のグラフから、この記録感度に制御することができるのは、色素の発熱量が少なくとも20cal/g以上でなければならない。20cal/gより少ないとレーザー出力を高くしなければならなくなる。
また、実験の結果、熱分解開始温度が低くても発熱量が150cal/gをこえると色素の分解が進みすぎる結果、変調度が大きくなりすぎてしまう。
【0038】
以上のような、本発明の光情報記録媒体1における熱分解開始温度、発熱量および消衰係数kなどの範囲を満足する色素の一例として、図9に示す有機色素材料(アゾ色素)を挙げることができる。
なお、図10は、図9における「A」の具体例を例示した説明図である。ただし、実用上、図中左上部に示すふたつの環以外のものが好ましい。
図11は、図9における「B」の具体例を例示した説明図である。
図12は、図9における「X」の具体例を例示した説明図である。ただし、実用上、図中左上部に示すふたつの基が好ましい。
図13は、図9における「C」の具体例を例示した説明図である。ただし、実用上、図中左右上部に示すいつつの単環のもの以外が好ましい。
図14は、図9における「M2+」の具体例を例示した説明図である。ただし、実用上、Ni2+が好ましい。
【0039】
つぎに、具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
図15に示す色素化合物I(アゾ色素)0.25gを、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール10mlに溶解し、塗布溶液を調製した。
この色素化合物Iの熱分解開始温度をTG−DTA((株)理学電機製)を用いて分析したところ、温度251.4℃から熱分解開始が認められた。
色素化合物Iの分解発熱量をDSC(マックサイエンス社製)を用いて分析したところ、発熱量71.4cal/gが認められた。
色素化合物Iの消衰係数kは、記録波長660nmにおいて0.13であった。
ポリカーボネート製で連続した案内溝(プリグルーブ7)を有する外径120mm、厚さ0.6mmの円盤状の基板2に、この色素化合物Iの塗布溶液を回転数2000rpmでスピンコート法により塗布し、平均色素膜厚さ約50nmの光記録層3を形成した。
さらに、この光記録層3の上に銀(Ag)をスパッタリングし、厚さ100nmの光反射層4を形成した。
さらに、光反射層4の上に、紫外線硬化樹脂SD−318(大日本インキ化学工業製)をスピンコートしたのち、これに紫外線を照射して硬化させ、保護層5を形成した。
この保護層5の表面に紫外線硬化樹脂製の接着剤を塗布し、上述と同じ材質および形状のダミー基板6を貼り合わせ、この接着剤に紫外線を照射して硬化させて接着し、追記型光情報記録媒体1を作成した。
【0040】
上述のようにして光記録層3を形成した光情報記録媒体1について、波長660nmの半導体レーザー(NA=0.65)を搭載したパルステック工業製ディスク評価装置(DDU−1000)を用いて、EFM信号を線速度3.49m/s(1倍速)で記録を行った結果、レーザーパワーは、6.5mWであった。
記録後、同評価装置を用いて、レーザー出力を0.7mWにして信号を再生し、反射率、変調度、エラーレートおよびジッターを測定したところ、いずれも良好な値を示した。
また、線速度28m/s(8倍速)で高速記録を行ったところ、レーザーパワーは、24.5mWであった。
記録後、同評価装置を用いて、レーザー出力を0.7mWにして信号を再生し、反射率、変調度、エラーレートおよびジッターを測定したところ、いずれも良好な値を示した。
【0041】
(比較例1)
図15に示す色素化合物I(アゾ色素)の代わりに、図16に示す色素化合物II(アゾ色素)を用いた以外は実施例1と同様にした。
この色素化合物IIの熱分解開始温度は275.1℃、分解発熱量は121.5cal/g、消衰係数kは記録波長660nmにおいて0.14であった。
【0042】
塗布溶液を上述の実施例1と同様にして追記型光情報記録媒体1を作成し、評価を行ったところ、熱分解開始温度が高すぎるために、1x記録時の変調度が42%と小さくなってしまったため、十分な特性を得ることができなかった。
【0043】
(比較例2)
比較例1における色素膜厚を約50nmから60nmに変更した以外は比較例1と同様にした。
この色素化合物IIの熱分解開始温度、分解発熱量および消衰係数kは、それぞれ比較例1の場合と同じであった。
【0044】
塗布溶液を上述の実施例1と同様にして追記型光情報記録媒体1を作成し、評価を行ったところ、色素膜圧を十分厚く形成したために、1x記録時の変調度を55%と十分に確保することができたが、16x記録時の変調度が86%と大きく取れすぎてしまって、ランドプレピット(LPP)信号の信号振幅が低下し、ARがゼロになってしまったため、十分な特性を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例による光情報記録媒体1の要部拡大断面図である。
【図2】同、光反射層4側の形状の測定結果を示すグラフである。
【図3】同、図2のように得られた曲線を直線で近似した光反射層4の断面形状を示すグラフである。
【図4】同、グルーブ内色素比率、およびグルーブ内光反射層比率の計算式を示す図面である。
【図5】同、DCジッターと、グルーブ内色素比率とを示すグラフである。
【図6】同、色素の熱分解開始温度(色素分解開始温度)と、16倍速および1倍速の変調度の比との関係を示すグラフである。
【図7】同、色素の消衰係数kと、記録パワー(16x記録時)との関係を示すグラフである。
【図8】同、色素の発熱量と、記録感度(記録パワー)(16x記録時)との関係を示すグラフである。
【図9】同、本発明の光情報記録媒体1における熱分解開始温度、発熱量および消衰係数kなどの範囲を満足する有機色素材料(アゾ色素)の一般構造式を示す説明図である。
【図10】同、図9における「A」の具体例を例示した説明図である。
【図11】同、図9における「B」の具体例を例示した説明図である。
【図12】同、図9における「X」の具体例を例示した説明図である。
【図13】同、図9における「C」の具体例を例示した説明図である。
【図14】同、図9における「M2+」の具体例を例示した説明図である。
【図15】同、実施例1で用いた色素化合物I(アゾ色素)の構造式を示す説明図である。である。
【図16】同、比較例1、2で用いた色素化合物II(アゾ色素)の構造式を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 光情報記録媒体(実施例、図1)
2 基板
3 光記録層(光吸収層)
4 光反射層
5 保護層
6 ダミー基板
7 プリグルーブ
8 ランド
9 レーザー光(記録光、再生光)
10 記録ピット
11 第1の層界
12 第2の層界
13 第3の層界
14 第4の層界
15 開口部レベル線
【技術分野】
【0001】
本発明は光情報記録媒体にかかるもので、とくに透光性の基板上に色素から構成した少なくとも光吸収物質などを含む光記録層と、金属膜などによる光反射層と、を有し、高密度かつ高速で書き込みおよび再生が可能である上、低速時でも好適に使用することができる光情報記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、波長が640〜680nm(たとえば650〜665nm)の半導体レーザーに対応する有機色素化合物を光記録層として用いたDVD−RやDVD+Rなどの追記型光情報記録媒体の開発が行われている。これらDVD−RやDVD+Rなどの光情報記録媒体は、従来のCD−Rにおける、トラックピッチ1.6μm、記憶容量650〜600MBに比べて、トラックピッチは0.74μmと、より狭いピッチになり、記憶容量では4.7GBと非常に高密度になっている。さらに、記録速度については、CD−Rでは、基準線速度が1.2〜1.4m/sであるのに対して、DVD−R/+Rでは、基準線速度が3.49m/sと非常に高速化しており、このような高速化に応える色素が求められている。
さらに、このような有機色素化合物を光記録層に使用した光情報記録媒体において、記録速度が低速時から高速時の広い領域にわたって記録再生特性の確保が求められている。しかしながら、現状は、低速時から高速時の各記録再生特性を十分に満足する光情報記録媒体は得られていない。
【0003】
高速記録では、記録パワーが高いために記録時に発生する熱量、ないし単位時間あたりの熱量が大きくなり、熱ひずみの問題が顕在化しやすく、記録ピットがばらつく原因となっている。すなわち、通常の光情報記録媒体では、高速記録では記録パワーが高いために記録ピットが大きくなりすぎる結果、変調度が高くなりすぎる。
とくに、DVD−Rではランドプレピット(LPP)と呼ばれるアドレス情報を確認する領域を設けており、このLPP信号を記録の前後において確保する必要があるが、大きすぎる記録ピットが形成された場合には、LPPの記録指標であるAR(Aperture Ratio:振幅低下率指標)を十分に取ることができず、LPP信号を確保することができないという問題がある。
なお、ARは、記録ピットがない部分におけるLPP信号に対する最長記録ピットがある部分のLPP信号の割合(%)であり、DVD−Rの規格では、ARが15%以上であることが要請されている。
したがって、高速記録では、記録パワーを低く抑えて記録時に発生する熱量を抑制する必要がある。
しかしながら、その一方で、高速記録時の記録パワーを低く抑えようとして、たとえば記録層の膜厚をより薄くした場合には、低速記録時に十分な大きさの記録ピットが形成されにくくなるため、変調度を確保することができないという問題がある。
大きな記録ピットに対するLPP信号の確保には、たとえばLPP自体を大きくすることが考えられるが、LPPを大きくしてしまうと、そのLPP信号が未記録時や記録時の情報にもれ込むために、エラーが大きくなりすぎてしまうという別の問題がある。
したがって、LPP信号を確保するためには、記録速度の相違による記録ピットの大きさのばらつきを小さく抑えるとともに、低パワー記録時には十分な大きさの記録ピットを形成可能とし、かつ、高記録パワー時にもARが規格を満たすように記録する必要があるが、このような記録材料(有機色素材料)に、どのようなものが適しているか全く分かっていなかった。
しかも、半導体レーザーの出力パワー自体にも限界があり,高速記録に対応することができる高感度の色素材料が求められている。また、高速化への要請は、次世代ディスク(Blu−Ray、HD DVDなど)の実用化にともなって、より求められると考えられる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−15612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上のような諸問題にかんがみなされたもので、従来からの低速記録(基準線速度の1倍)から高速記録(たとえば基準線速度の16倍)間での広範囲の記録速度に対応可能な光情報記録媒体を提供することを課題とする。
【0006】
また本発明は、低速記録時(基準線速度の1倍)における変調度(DVDの規格では50%以上が必要とされている)を確保可能とするとともに、高速記録時(たとえば基準線速度の16倍)における変調度が大きくなりすぎないように抑制可能な光情報記録媒体を提供することを課題とする。
【0007】
また本発明は、記録時に発生する熱を有効かつ速やかに放熱可能として、記録パワーが大きな場合にも変調度が増加する割合を削減可能とした光情報記録媒体を提供することを課題とする。
【0008】
また本発明は、記録前後におけるLPP信号を確保することができ、良好なAR取得が可能で、低速記録から高速記録における記録特性を満足可能な光情報記録媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、光記録層への記録にあたって記録パワーにより発生する熱の制御を考慮し、放熱特性を向上させること(とくに光反射層を介した放熱特性を向上させること)、色素の熱分解温度(熱分解開始温度)と変調度ないし高低速記録の間の変調度比との間、さらには記録再生波長における薄膜状態での光吸収能(消衰係数)kや発熱量と記録感度との間に所定の相関関係があることを見い出し、色素の熱分解開始温度や発熱量および光吸収能(消衰係数)kを最適に制御することにより、使用速度の最遅と最速(たとえば基準線速度(1x)から16倍速(16x))の幅広い記録速度域に対応した、とくに16xのDVD、さらに好ましくはDVD−Rに好適な光情報記録媒体を得ることができることに着目したもので、透光性を有するとともにプリグルーブを形成した基板と、この基板上に設けるとともに、レーザー光を吸収する色素から構成した光吸収物質を含む光記録層と、この光記録層上に設けるとともに、上記レーザー光を反射する光反射層と、を有し、上記基板を通して上記光記録層に上記レーザー光を照射することにより光学的に読み取り可能な情報を記録する光情報記録媒体であって、上記色素は、その熱分解開始温度が190〜260℃、発熱量が20〜150cal/gであることを特徴とする光情報記録媒体である。
【0010】
上記レーザー光の記録再生波長における上記色素の消衰係数kが、0.15以下であることができる。
【0011】
上記プリグルーブ内において、当該光情報記録媒体の直径方向の切断面における上記プリグルーブの断面積に対する上記色素が占める断面積の比率(グルーブ内色素比率)が、30%〜63%、であることができる。
【0012】
上記色素として、下記構造式(化2)で示す色素化合物を用いることができる。
【化2】
【0013】
上記レーザー光による記録速度が最高速度における変調度と、最低速度における変調度との比(最高速度記録時の変調度/最低速度記録時の変調度)が、1.1〜1.7、であることができる。
【0014】
上記レーザー光による記録速度が最高速度における変調度と、最低速度における変調度との比(最高速度記録時の変調度/最低速度記録時の変調度)が、1.1〜1.55、であることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による光情報記録媒体においては、記録時における光記録層内の色素の熱分解開始温度および発熱量さらには光吸収能(消衰係数)kを最適に制御するようにしたので、基準線速度(1x)から16倍速(16x)の幅広い記録速度域に対応して、LPP信号および変調度を適正に確保した光情報記録媒体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、色素の熱分解開始温度を190〜260℃、発熱量を20〜150cal/gとしたので、使用最速(16x)でも好適に使用可能で、とくにDVD−Rとした場合でも良好なAR(Aperture Ratio:振幅低下率指標)を取得することができる上、低速から高速まで広範囲の記録線速度に対応した光情報記録媒体を実現することができた。
本発明の光情報記録媒体は、DVD−Rに適用してとくに好適であるが、これに限られるものではなく、たとえば、CD−R、DVD+R、Blu−Ray、HD DVDなどにも適用することができる。
【実施例】
【0017】
つぎに本発明の一実施例による光情報記録媒体1を図1ないし図16にもとづき説明する。
図1は、円盤状の光情報記録媒体1の要部拡大断面図であって、光情報記録媒体1の直径方向の切断面を示す断面図、すなわち、プリグルーブ7が刻んである面に対して垂直、かつプリグルーブ7方向に対して垂直に切断した断面図を模式的に示したものである。
光情報記録媒体1は、透光性の基板2と、この基板2上に形成した光記録層3(光吸収層)と、この光記録層3の上に形成した光反射層4と、この光反射層4の上に形成した保護層5と、を有する。なお、保護層5のさらに上層に所定厚さのダミー基板6を積層し、DVD規格で必要とされる所定の厚さに形成する。
上記基板2にはスパイラル状にプリグルーブ7を形成してある。このプリグルーブ7の左右には、このプリグルーブ7以外の部分すなわちランド8が位置している。
【0018】
図示するように、光情報記録媒体1にレーザー光9(記録光)を照射したときに、光記録層3がこのレーザー光9のエネルギーを吸収することにより発熱し、基板2側に熱変質が生じて記録ピット10が形成される。また、図示を省略してあるが、ランド8上にはアドレス情報用の前記ランドプレピット(LPP)を形成する。
【0019】
なお、基板2と光記録層3とは、第1の層界11により互いに接している。
光記録層3と光反射層4とは、第2の層界12により接している。
光反射層4と保護層5とは、第3の層界13により接している。
保護層5とダミー基板6とは、第4の層界14により接している。
【0020】
透光性の基板2は、レーザー光に対する屈折率がたとえば1.5〜1.7程度の範囲内の透明度の高い材料で、耐衝撃性に優れた主として樹脂により形成したもの、たとえばポリカーボネート、ガラス板、アクリル板、エポキシ板等を用いる。
【0021】
光記録層3は、基板2の上に形成した色素を含む光吸収性の物質(光吸収物質)からなる層で、レーザー光9を照射することにより、発熱、溶融、昇華、変形または変性をともなう層である。この光記録層3はたとえば溶剤により溶解したアゾ系色素、シアニン系色素等を、スピンコート法等の手段により、基板2の表面に一様にコーティングすることによってこれを形成する。
光記録層3に用いる材料は、任意の光記録材料を採用することができるが、本発明においては所定の熱分解温度および発熱量を有することが必要であり、詳しくは後述する。
【0022】
光反射層4は、熱伝導率および光反射性の高い金属膜であり、たとえば、金、銀、銅、アルミニウム、あるいはこれらを含む合金を、蒸着法、スパッタ法等の手段によりこれを形成する。
【0023】
保護層5は、基板2と同様の耐衝撃性、接着性に優れた樹脂によりこれを形成する。たとえば、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により塗布し、これに紫外線を照射して硬化させることによりこれを形成する。
【0024】
ダミー基板6は、上記基板2と同様の材料によりこれを構成し、約1.2mmの所定の厚さを確保する。
【0025】
まず、光情報記録媒体1の放熱特性について説明する。
図1において、光情報記録媒体1の各部分の寸法を図示のように設定する。
とくに、プリグルーブ7において、基板2と光記録層3との第1の層界11における、図1中、プリグルーブ7の左側上隅部をA点とし、左側下隅部をB点とし、右下隅部をC点とし、右上隅部をD点とする。
さらに、ランド8上に位置する光反射層4の左上隅部をE点とし、プリグルーブ7の開口部にランド8からの第1の層界11と同一レベルに延びる開口部レベル線15(仮想線)と光反射層の左傾斜部との交点をF点とし、プリグルーブ7内に基板2方向に向かって突出している光反射層4の左下隅部をG点とし、右下隅部をH点とし、開口部レベル線15と光反射層の右傾斜部との交点をI点とし、ランド8上に位置する光反射層4の右上隅部をJ点する。
光反射層4がプリグルーブ7に臨む凹み部の最大幅(光情報記録媒体1の直径方向の幅)をWdt(直線EJの長さ)、とする。
光反射層4がプリグルーブ7に臨む凹み部の最小幅をWdb(直線GHの長さ)、とする。
光記録層3のプリグルーブ7における最大幅をWst(直線ADの長さ)、とする。
光記録層3のプリグルーブ7における最小幅をWsb(直線BCの長さ)、とする。
光反射層4のランド8に臨む凸部の幅をWdl(直線JE1の長さ)、とする。
光記録層3のランド8における幅をWsl(直線DA1の長さ)、とする。
光記録層3と光反射層4との間におけるランド8の第1の層界11のレベルでの光記録層3の幅をWx(直線AF、IDの長さ)、とする。
光反射層4のランド8における第2の層界12からプリグルーブ7における第2の層界12までの深さ(色素グルーブ深さ)をHdg(直線JEと直線GHとの間の長さ)、とする。
光記録層3のランド8における深さをHdl(直線JEと直線DAとの間の長さ)、とする。
プリグルーブ7の深さ(基板グルーブ深さ)をHsg(直線DAと直線BCとの間の長さ)、とする。
プリグルーブ7における光記録層3と光反射層4との間の深さをHsd(直線GHと直線BCとの間の長さ)、とする。
光反射層4の光記録層3内における傾斜部の角度(グルーブ色素角度)をα、とする。
なお、光記録層3の基板2内における傾斜部の角度(グルーブ基板角度)をβ、とする。
【0026】
当該光情報記録媒体1の断面形状およびそれぞれの寸法を測定するためには、光情報記録媒体1の中央の孔から金属製のスパチュラーを差し込んで光記録層3と光反射層4との間の第2の層界12部分を剥離し、分解する。
ついで、光反射層4側に付着している色素層(光記録層3)をエタノールで洗い落とし、剥離の際にスパチュラーで傷ついた部分を除いて、色素層形状の測定サンプルとして測定に用いた。
さらに、基板2側に付着している色素層をエタノールで洗い落とし、剥離の際にスパチュラーで傷ついた部分を除いて、基板2形状の測定サンプルとして測定に用いた。
それぞれの部分の形状測定には、AFM(Thermomicroscopes製、Autoprobe M5)を用いた。
【0027】
図2は、光反射層4側の形状の測定結果を示すグラフであって、実際の測定形状は曲線となっているが、深さ、半値幅および角度のデータを用いて計算しやすいように直線で近似する。
すなわち、図3は、図2のように得られた曲線を直線で近似した光反射層4の断面形状を示すグラフであって、点線が実際の測定形状を示し、実線が近似形状を示す。
なお、上述と同様の手法により、基板2の形状も測定する。
【0028】
本発明における高速記録時の熱制御設計について述べると、光情報記録媒体1に記録する際のレーザー光9のレーザーパワーによってプリグルーブ7内の色素は急激に加熱され、それぞれの熱は光記録層3や光反射層4を通って拡散されてゆく。
この拡散されてゆく熱は、隣接部分のトラック間やプリグルーブ7内へと移ってゆき、その部分はある程度暖められた、いわば予熱状態となる。この予熱状態で、つぎの記録のためのレーザー光9が照射されると、予熱状態ではない冷めた状態の記録膜とは異なった記録ピット10が形成されることになる。
【0029】
また、レーザー光9のレーザーパワーが強ければ強いほど、すなわち、高速記録になればなるほど、発生する熱量は多くなる。たとえば、一般的なDVD−Rのメディアでは、1倍速記録(約3.5m/s)でその記録パワー(レーザー強度)は6〜10mW前後であり、4倍速記録では15〜20mW前後であり、8倍速記録では25〜30mW前後であり、16倍速記録では40mW以上の記録レーザーパワーが必要と予想される。
要するに、高速記録対応のメディアにとって、その記録時に発生する熱が隣接部分に影響しないようすることはますます重要となってくる。
【0030】
光情報記録媒体1の記録時に発生する熱を制御する因子は、発熱制御および放熱制御に大別することができる。
発熱制御は、光記録層3の材料自体の発熱量や分解温度などの材料物性因子と関係し、放熱制御は、光記録層3や基板2などの形状因子すなわち光記録層3の厚さや光記録層3と光反射層4との間の第2の層界12の形状と密接に関連している。
たとえば有機色素材料薄膜である光記録層3は、金属薄膜である光反射層4とポリカーボネート材料の基板2との間に挟まれている。熱伝導性としては、プラスチック材料であるポリカーボネート(基板2)よりも金属(光反射層4)の方が良いのは自明で、放熱制御は、形状因子が密接に関係する。
【0031】
とくに、以下の項目による光記録層3の形状は、高速記録時の熱制御(放熱制御)に対して影響度が大きい。さらに、項目(1)および(2)がとくに影響度が大きい。
(1)プリグルーブ7内における色素比率(グルーブ内色素比率)、すなわちこのグルーブ内色素比率は、実際はプリグルーブ7内における色素量の容積割合であるが、図1における台形ABCDの面積に対する台形FGHIの面積の比と等価である。
図4は、このグルーブ内色素比率の計算式を示す。
(2)プリグルーブ7内における反射膜突出深さ(Hsg−Hsd)。
(3)プリグルーブ7内における色素の厚さ(グルーブ内色素厚さ)Hsd。
(4)プリグルーブ7内におけるグルーブ色素角度α。
(5)色素レベリング値(Hsg−Hdg)÷Hsg。
(6)プリグルーブ7内における光反射層4の比率(グルーブ内光反射層比率)、すなわち、本発明においては、グルーブ内色素比率と相関して、プリグルーブ7内における光反射層4の比率を着目することもできる。図4に計算式を示すように、グルーブ内色素比率と同様にして、グルーブ内光反射層比率を定義することができる。
【0032】
本発明において、8倍速以上の高速記録に対応させるためには、(1)のグルーブ内色素比率を、30%〜63%、とすることが望ましい。
30%未満では十分な大きさの記録ピット10を形成することができない。
63%をこえた場合には、図5にもとづいて後述するように、DCジッターを規格値以内に抑えることができない。
【0033】
つぎに、基板2、光記録層3および光反射層4などの形状(とくにグルーブ内色素比率)がメディアの高速記録特性にどのように影響するかを調べた結果のデータを示す。
図5は、DCジッターと、グルーブ内色素比率とを示すグラフであって、DCジッターが13%をこえるアシンメトリ値を横軸に取り、グルーブ内色素比率を縦軸に取っている。
ここで、「DCジッター(ジッター)」とは、”Data to Clock Jitter”のことで、光情報記録媒体1を一回転させたときのジッター値であり、記録ピット10のゆらぎを表す。このDCジッターが13%をこえてしまうと、DVD−Rの場合、規格で決められているエラー信号(PIエラー)がその規格値280をこえてしまいやすくなる。
「アシンメトリ値」とは、DVD−Rにおける記録ピット10のピット長さ3Tから14Tまでの長さに対しての平均値について本来記録されるべき位置からのズレを表す。
このアシンメトリ値は、記録媒体の記録感度をより向上させるためには、設計上なるべくプラス側にシフトさせた方がよいことが実験上検証されており、そのため、アシンメトリ値としては、高速記録の場合は、−5%〜15%の範囲が望ましく、たとえば8倍速のときには、−5%からプラス側へシフトさせることが望ましく、16倍速のときには、5%からプラス側へシフトさせることが望ましい。
図5は、1倍速、2倍速、4倍速、6倍速および8倍速の記録を行って得られたDCジッターの結果をもとに、16倍速の記録結果を予測したものであり、図示のように、グルーブ内色素比率が減少するほど(グルーブ光反射層比率が増加するほど)、DCジッターが13%をこえるアシンメトリ値がプラス側にシフトして行くのがわかる。すなわち、プリグルーブ7内に光反射層4が突出する割合が増加するほど(もちろん上限値としてたとえば70%はあるが)、記録時の発生熱量が光反射層4の金属膜により速やかに放熱拡散されてゆくことがわかる。
図5のグラフから、アシンメトリ値が−5%のときのグルーブ内色素比率が63%以下が望ましく、アシンメトリ値が+5%のときの57%以下が好ましいことを裏付けることができる。
【0034】
つぎに、色素材料の熱分解開始温度、発熱量、消衰係数kと、変調度、記録感度ないし記録パワーとの相関関係について述べる。
図6は、色素の熱分解開始温度(色素分解開始温度)と、16倍速および1倍速の変調度の比との関係を示すグラフであって、熱分解開始温度が低温になるほど、低速記録および高速記録記録ピット10の大きさが互いに近くなること、すなわち、低速記録に対する高速記録の変調度比が小さくなることがわかる。熱分解開始温度が低くなることにより、低いレーザーパワーでも十分な色素分解をもたらすことができ、高速記録時においても低速記録時と同様にレーザーパワーをを低く抑えることができるため、記録ピット10の大きさがばらつかずに制御可能になったためと考えられる。
低速記録すなわち、1倍速記録(1x記録)を満足するための変調度はDVDのベーシックライトストラテジーの場合は50%以上であり、記録ドライブにおける半導体レーザーその他の個体差などによる影響を考慮した場合、その記録特性を安定に確保するためには、1倍速記録時の変調度は55%以上が好ましい。
高速記録すなわち、16倍速記録(16x記録)時のLPP信号を確保するための変調度は85%以下であることから、16x/1xの変調度比(16x記録の変調度/1x記録の変調度)は、1.7以下、好ましくは1.55以下に抑える必要がある。また1x以外の記録を満足するための変調度は60%以上であるため、16xの変調度は少なくとも60%以上にする必要があり、16x/1xの変調度比は少なくとも1.1以上にする必要がある。
図6のグラフから、変調度比が1.1〜1.7の範囲、とくに1.1〜1.55の範囲にするために、色素の熱分解開始温度が190〜260℃、好ましくは200〜250℃の範囲にする必要がある。熱分解開始温度が190℃より低すぎると記録に支障が出るとともに、260℃より高すぎると高速記録でのARを取ることができなくなる。本発明による光情報記録媒体1では、以上のように変調度比を調整しているので、1x〜16xまでの広い記録速度範囲において安定して対応可能とすることができる。
【0035】
さらに述べると、光情報記録媒体1に記録する際のレーザーパワーによってプリグルーブ7内の色素は急激に加熱され、その熱によって記録ピット10が形成される。色素の消衰係数k、色素の熱分解開始温度や発熱量などの色素物性や、光記録層3における色素膜厚などの形状によって記録パワーが変化し、形成される記録ピット10の大きさも変わってくる。
半導体レーザー自体による記録レーザーパワーに限界があることから、16x記録では記録パワーを40〜50mW程度以下に抑えることが推奨される。
また、反射率(規格では45%以上)を確保するために、消衰係数kをある一定値以下にする必要がある。加えて、16x記録では、その高い記録レーザーパワーの影響のために、生じる熱を隣接する記録ピット10部分などへ影響しないように制御しなければならず、この発生する熱を制御するために、図1ないし図5にもとづいて既述のような光反射層4を通した放熱制御が効果的であり、上述のような熱分解開始温度を190〜260℃の範囲に抑えるとともに、グルーブ内色素比率を30%〜63%とすることにより、さらに発熱時の変調度比を望ましい範囲内に限定可能である。
【0036】
図7は、色素の消衰係数kと、記録パワー(16x記録時)との関係を示すグラフであって、図示のように、消衰係数kが小さくなるほど、記録パワーが増加する(記録感度が悪化する)。16x記録を満足するために記録パワーの目標値は、規格である50mW以下、好ましくは47mW以下であり、図7のグラフから記録パワー(記録感度)に対応して制御可能な範囲は、レーザー光による記録再生波長(たとえばDVDの660nm)において消衰係数kが0.09以上の場合である。また、規格の反射率45%以上を得るためには、レーザー光の記録再生波長における色素の消衰係数kが、0.15以下にする必要がある。なお、本発明における消衰係数kの指標は、一検出波長として660nmがあるが、これは本発明の対象をDVDに限るものではない。
【0037】
つぎに、消衰係数kが同じ場合における色素の発熱量と16x記録感度の関係を検証した。
図8は、色素の発熱量と、記録感度(記録パワー)(16x記録時)との関係を示すグラフであって、図示のように、消衰係数kが同じ場合(k=0.09、k=0.06)、色素の発熱量が小さくなるほど、記録感度は大幅に悪化(記録パワーが増加)することがわかる。本発明においては、色素の発熱量としては、20〜150cal/g、好ましくは、50〜100cal/g、さらに好ましくは、70〜100cal/gにする必要がある。
すなわち、16x記録を満足するための記録感度の目標値は、記録パワーとして47mW以下であり、図8のグラフから、この記録感度に制御することができるのは、色素の発熱量が少なくとも20cal/g以上でなければならない。20cal/gより少ないとレーザー出力を高くしなければならなくなる。
また、実験の結果、熱分解開始温度が低くても発熱量が150cal/gをこえると色素の分解が進みすぎる結果、変調度が大きくなりすぎてしまう。
【0038】
以上のような、本発明の光情報記録媒体1における熱分解開始温度、発熱量および消衰係数kなどの範囲を満足する色素の一例として、図9に示す有機色素材料(アゾ色素)を挙げることができる。
なお、図10は、図9における「A」の具体例を例示した説明図である。ただし、実用上、図中左上部に示すふたつの環以外のものが好ましい。
図11は、図9における「B」の具体例を例示した説明図である。
図12は、図9における「X」の具体例を例示した説明図である。ただし、実用上、図中左上部に示すふたつの基が好ましい。
図13は、図9における「C」の具体例を例示した説明図である。ただし、実用上、図中左右上部に示すいつつの単環のもの以外が好ましい。
図14は、図9における「M2+」の具体例を例示した説明図である。ただし、実用上、Ni2+が好ましい。
【0039】
つぎに、具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
図15に示す色素化合物I(アゾ色素)0.25gを、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール10mlに溶解し、塗布溶液を調製した。
この色素化合物Iの熱分解開始温度をTG−DTA((株)理学電機製)を用いて分析したところ、温度251.4℃から熱分解開始が認められた。
色素化合物Iの分解発熱量をDSC(マックサイエンス社製)を用いて分析したところ、発熱量71.4cal/gが認められた。
色素化合物Iの消衰係数kは、記録波長660nmにおいて0.13であった。
ポリカーボネート製で連続した案内溝(プリグルーブ7)を有する外径120mm、厚さ0.6mmの円盤状の基板2に、この色素化合物Iの塗布溶液を回転数2000rpmでスピンコート法により塗布し、平均色素膜厚さ約50nmの光記録層3を形成した。
さらに、この光記録層3の上に銀(Ag)をスパッタリングし、厚さ100nmの光反射層4を形成した。
さらに、光反射層4の上に、紫外線硬化樹脂SD−318(大日本インキ化学工業製)をスピンコートしたのち、これに紫外線を照射して硬化させ、保護層5を形成した。
この保護層5の表面に紫外線硬化樹脂製の接着剤を塗布し、上述と同じ材質および形状のダミー基板6を貼り合わせ、この接着剤に紫外線を照射して硬化させて接着し、追記型光情報記録媒体1を作成した。
【0040】
上述のようにして光記録層3を形成した光情報記録媒体1について、波長660nmの半導体レーザー(NA=0.65)を搭載したパルステック工業製ディスク評価装置(DDU−1000)を用いて、EFM信号を線速度3.49m/s(1倍速)で記録を行った結果、レーザーパワーは、6.5mWであった。
記録後、同評価装置を用いて、レーザー出力を0.7mWにして信号を再生し、反射率、変調度、エラーレートおよびジッターを測定したところ、いずれも良好な値を示した。
また、線速度28m/s(8倍速)で高速記録を行ったところ、レーザーパワーは、24.5mWであった。
記録後、同評価装置を用いて、レーザー出力を0.7mWにして信号を再生し、反射率、変調度、エラーレートおよびジッターを測定したところ、いずれも良好な値を示した。
【0041】
(比較例1)
図15に示す色素化合物I(アゾ色素)の代わりに、図16に示す色素化合物II(アゾ色素)を用いた以外は実施例1と同様にした。
この色素化合物IIの熱分解開始温度は275.1℃、分解発熱量は121.5cal/g、消衰係数kは記録波長660nmにおいて0.14であった。
【0042】
塗布溶液を上述の実施例1と同様にして追記型光情報記録媒体1を作成し、評価を行ったところ、熱分解開始温度が高すぎるために、1x記録時の変調度が42%と小さくなってしまったため、十分な特性を得ることができなかった。
【0043】
(比較例2)
比較例1における色素膜厚を約50nmから60nmに変更した以外は比較例1と同様にした。
この色素化合物IIの熱分解開始温度、分解発熱量および消衰係数kは、それぞれ比較例1の場合と同じであった。
【0044】
塗布溶液を上述の実施例1と同様にして追記型光情報記録媒体1を作成し、評価を行ったところ、色素膜圧を十分厚く形成したために、1x記録時の変調度を55%と十分に確保することができたが、16x記録時の変調度が86%と大きく取れすぎてしまって、ランドプレピット(LPP)信号の信号振幅が低下し、ARがゼロになってしまったため、十分な特性を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例による光情報記録媒体1の要部拡大断面図である。
【図2】同、光反射層4側の形状の測定結果を示すグラフである。
【図3】同、図2のように得られた曲線を直線で近似した光反射層4の断面形状を示すグラフである。
【図4】同、グルーブ内色素比率、およびグルーブ内光反射層比率の計算式を示す図面である。
【図5】同、DCジッターと、グルーブ内色素比率とを示すグラフである。
【図6】同、色素の熱分解開始温度(色素分解開始温度)と、16倍速および1倍速の変調度の比との関係を示すグラフである。
【図7】同、色素の消衰係数kと、記録パワー(16x記録時)との関係を示すグラフである。
【図8】同、色素の発熱量と、記録感度(記録パワー)(16x記録時)との関係を示すグラフである。
【図9】同、本発明の光情報記録媒体1における熱分解開始温度、発熱量および消衰係数kなどの範囲を満足する有機色素材料(アゾ色素)の一般構造式を示す説明図である。
【図10】同、図9における「A」の具体例を例示した説明図である。
【図11】同、図9における「B」の具体例を例示した説明図である。
【図12】同、図9における「X」の具体例を例示した説明図である。
【図13】同、図9における「C」の具体例を例示した説明図である。
【図14】同、図9における「M2+」の具体例を例示した説明図である。
【図15】同、実施例1で用いた色素化合物I(アゾ色素)の構造式を示す説明図である。である。
【図16】同、比較例1、2で用いた色素化合物II(アゾ色素)の構造式を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 光情報記録媒体(実施例、図1)
2 基板
3 光記録層(光吸収層)
4 光反射層
5 保護層
6 ダミー基板
7 プリグルーブ
8 ランド
9 レーザー光(記録光、再生光)
10 記録ピット
11 第1の層界
12 第2の層界
13 第3の層界
14 第4の層界
15 開口部レベル線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有するとともにプリグルーブを形成した基板と、
この基板上に設けるとともに、レーザー光を吸収する色素から構成した光吸収物質を含む光記録層と、
この光記録層上に設けるとともに、前記レーザー光を反射する光反射層と、を有し、
前記基板を通して前記光記録層に前記レーザー光を照射することにより光学的に読み取り可能な情報を記録する光情報記録媒体であって、
前記色素は、その熱分解開始温度が190〜260℃、発熱量が20〜150cal/gであることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
前記レーザー光の記録再生波長における前記色素の消衰係数kが、0.15以下であることを特徴とする請求項1記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
前記プリグルーブ内において、当該光情報記録媒体の直径方向の切断面における前記プリグルーブの断面積に対する前記色素が占める断面積の比率(グルーブ内色素比率)が、
30%〜63%、
であることを特徴とする請求項1あるいは2記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
前記色素として、下記構造式(化1)で示す色素化合物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光情報記録媒体。
【化1】
【請求項5】
前記レーザー光による記録速度が最高速度における変調度と、最低速度における変調度との比(最高速度記録時の変調度/最低速度記録時の変調度)が、
1.1〜1.7、
であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
前記レーザー光による記録速度が最高速度における変調度と、最低速度における変調度との比(最高速度記録時の変調度/最低速度記録時の変調度)が、
1.1〜1.55、
であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光情報記録媒体。
【請求項1】
透光性を有するとともにプリグルーブを形成した基板と、
この基板上に設けるとともに、レーザー光を吸収する色素から構成した光吸収物質を含む光記録層と、
この光記録層上に設けるとともに、前記レーザー光を反射する光反射層と、を有し、
前記基板を通して前記光記録層に前記レーザー光を照射することにより光学的に読み取り可能な情報を記録する光情報記録媒体であって、
前記色素は、その熱分解開始温度が190〜260℃、発熱量が20〜150cal/gであることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
前記レーザー光の記録再生波長における前記色素の消衰係数kが、0.15以下であることを特徴とする請求項1記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
前記プリグルーブ内において、当該光情報記録媒体の直径方向の切断面における前記プリグルーブの断面積に対する前記色素が占める断面積の比率(グルーブ内色素比率)が、
30%〜63%、
であることを特徴とする請求項1あるいは2記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
前記色素として、下記構造式(化1)で示す色素化合物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光情報記録媒体。
【化1】
【請求項5】
前記レーザー光による記録速度が最高速度における変調度と、最低速度における変調度との比(最高速度記録時の変調度/最低速度記録時の変調度)が、
1.1〜1.7、
であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
前記レーザー光による記録速度が最高速度における変調度と、最低速度における変調度との比(最高速度記録時の変調度/最低速度記録時の変調度)が、
1.1〜1.55、
であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光情報記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−134518(P2006−134518A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324342(P2004−324342)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
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