説明

光情報記録媒体

【課題】記録再生信号特性を犠牲にすることなく、経時変化による欠陥増殖を抑えることが可能な金属層光情報記録媒体を提供する。
【解決手段】支持基板11と、記録再生レーザ光の入射側の層となる光透過保護層13と、支持基板11と光透過保護層13との間に介在する複数の情報記録層14,16,18とを有する。そして、レーザ光入射側の前記情報記録層16,18が、レーザ光の入射側から順に、相変化材料層22と、誘電体層と、金属層24とを備える。誘電体層は、(In(SnO1−x、(但し、0.4<x≦0.7)、又は、(In(ZrO1−x、(但し、0.1<x≦0.5)を主成分として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射により記録層の状態を変化させ、その変化を光学的な応答の変化として読み取ることで情報の記録、消去及び読み取りが行われる光情報記録媒体に係わる。
【背景技術】
【0002】
レーザ光の照射による情報の記録、再生及び消去可能なメモリー媒体の一つとして、結晶−非晶質、又は、結晶1−結晶2の2つの結晶相間の転移を利用する、いわゆる相変化型の光情報記録媒体が知られている。この光情報記録媒体としては、例えば、CD−RW(Compact Disc-Rewritable)、DVD−RW(Digital Versatile Disk-Rewritable)、DVD−RAM(Digital Versatile Disk-Random Access Memory)等が商品化されている。
【0003】
相変化記録方式に用いられる記録層材料としては、GeSbTe、AgInSbTe等を主成分とする記録材料が広く知られており、書き換え可能な光情報記録媒体として実用化されている。
【0004】
また、近年では、ブルーレイディスク(Blu-ray disc:登録商標)に代表される青色レーザ波長に対応した高密度光情報記録媒体や、それに対応するディスクドライブ装置が製品化されている。ブルーレイディスクなどの高密度光情報記録媒体では、書き換え型(相変化型)光情報記録媒体において、二層ディスクが実用化されている。
【0005】
二層ディスクは、ポリカーボネート等のプラスチックからなる支持基板上に第一情報記録層が形成されている。そして、第一情報記録層上に、記録再生レーザ光の波長に対して透明な中間層を介して第二情報記録層が形成され、第二情報記録層上に、記録再生波長に対して透明な光透過保護層が形成された形態を有する。
記録再生に用いるレーザ光は光透過保護層側から対物レンズを通して入射される。対物レンズを通過したレーザ光は情報記録層に集光され、情報の記録再生が行われる。
情報記録層の基本的な構成の一例としては、支持基板側から金属層、透明誘電体層、相変化材料層、透明誘電体層、及び、光透過保護層となる。
【0006】
情報の書き換えのためには、記録材料の結晶化速度を高める必要がある。結晶化速度を高める方法としては、例えば、相変化材料と密着性が悪い材料を、相変化材料層に接触させ、結晶化促進効果を得ている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−213446号公報
【特許文献2】特開2001−344817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、相変化型の光情報記録媒体は、相変化材料層と、相変化材料層に接する誘電体層との密着力の低さ等の材料物性を利用して情報の書き換えを行っている。このため、記録材料と接する材料の界面は剥離が起りやすい。
また、記録時に相変化材料層で発生する熱を拡散させるため、Ag合金等による金属層が形成されている。相変化記録層で用いられるGeや、熱を拡散させる目的で用いているAgはそれぞれ凝集を起こしやすい材料である。
凝集が起こると、例えばAgの局所的な体積変化が発生し、記録層内に応力が溜まり、相変化材料層の界面の密着の悪い部分において剥離が発生する。光情報記録媒体の経時変化により、この相変化材料層の界面の剥離による欠陥が増殖するという問題が発生する。
【0009】
上述した問題の解決のため、本発明においては、記録再生信号特性を犠牲にすることなく、経時変化による欠陥増殖を抑えることが可能な光情報記録媒体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光情報記録媒体は、支持基板と、記録再生レーザ光の入射側の層となる光透過保護層と、支持基板と光透過保護層との間に介在する情報記録層とを有する。そして、情報記録層が、レーザ光の入射側から順に、相変化材料層と、誘電体層と、金属層とを備える。
誘電体層は、(In(SnO1−x、(但し、0.4<x≦0.7)、又は、(In(ZrO1−x、(但し、0.1<x≦0.5)を主成分として構成されている。
【0011】
本発明の光情報記録媒体によれば、相変化材料層と金属層との間に設けられる誘電体層を上述の組成とすることにより、相変化材料層と誘電体層との剥離による欠陥を抑制することができる。さらに、相変化材料層の結晶化速度を高めることができる。このため、信頼性と信号特性の双方の特性に優れた光情報記録媒体を提供することができる。
【0012】
また、本発明の光情報記録媒体は、支持基板と、記録再生レーザ光の入射側の層となる光透過保護層と、支持基板と光透過保護層との間に介在する複数の情報記録層とを有する。そして、情報記録層において、レーザ光入射側の前記情報記録層が、レーザ光の入射側から順に、相変化材料層と、誘電体層と、金属層とを備える。
誘電体層は、(In(SnO1−x、(但し、0.4<x≦0.7)、又は、(In(ZrO1−x、(但し、0.1<x≦0.5)を主成分として構成されている。
【0013】
本発明の光情報記録媒体によれば、誘電体層を上述の組成とすることにより、特に欠陥抑制が難しいレーザ光入射側の情報記録層において、相変化材料層と誘電体層との剥離による欠陥を抑制することができる。さらに、相変化材料層の結晶化速度を高めることができる。このため、信頼性と信号特性の双方の特性に優れた光情報記録媒体を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、信号品質を下げることなく経時変化による欠陥増殖を抑制した光情報記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の光情報記録媒体の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の光情報記録媒体の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例において作製した光情報記録媒体の概略構成を示す図である。
【図4】実施例で使用したディスク評価装置の概略構成を示す図である。
【図5】実施例において作製した光情報記録媒体のRF信号消去特性の比較結果を示す図である。
【図6】実施例において作製した光情報記録媒体の信頼性試験の結果を示す図である。
【図7】実施例において作製した光情報記録媒体の信頼性試験の結果を示す図である。
【図8】実施例において作製した光情報記録媒体のRF信号書き換え特性を示すである。
【図9】A〜Cは、実施例において作製した光情報記録媒体のRF信号ジッター値の比較結果を示す図である。
【図10】A〜Cは、実施例において作製した光情報記録媒体のRF書き換え回数の比較結果を示す図である。
【図11】A〜Cは、実施例において作製した光情報記録媒体の信頼性試験の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.光情報記録媒体の構造
2.光情報記録媒体の実施例
【0017】
〈1.光情報記録媒体の構造〉
[光情報記録媒体の全体構成例]
図1に、本実施の形態の相変化型の光情報記録媒体の一例として、記録層が一層のみの光情報記録媒体の概略構成図を示す。
図1に示すように、光情報記録媒体10は、支持基板11、情報記録層12、及び、光透過保護層13から構成されている。
【0018】
支持基板11は、ポリカーボネート等のプラスチック材料、又は、ガラス等により構成される。そして、支持基板11上に、情報記録層12が形成されている。また、情報記録層12上には、記録再生レーザ光の波長に対して透明な光透過保護層(カバー層)13が設けられている。光透過保護層13は、例えば、紫外線硬化樹脂等により構成される。
【0019】
図1に示す光情報記録媒体10において、記録再生に用いられるレーザ光は光透過保護層13側から入射される。
また、記録再生に用いられるレーザ光は、ディスク記録再生装置から出射される。そして、光透過保護層13側から入射されたレーザ光は、ディスク記録再生装置のフォーカス制御に応じて、情報記録層12に集光され、情報の記録再生が行われる。
【0020】
情報記録層12は、その層中に記録再生に用いられるレーザ光の入射側から、第一誘電体層21、相変化材料層22、第二誘電体層23、及び、金属層24を備える。
【0021】
[情報記録層を複数備える光情報記録媒体の全体構成例]
次に、図2に、本実施の形態の相変化型の光情報記録媒体の一例として、情報記録層を3層備える光情報記録媒体の概略構成図を示す。なお、図1に示す光情報記録媒体10と同様の構成には、同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0022】
図2に示すように、光情報記録媒体20は、支持基板11、第一中間層15、第二中間層17、光透過保護層13、及び、複数の第一〜第三情報記録層14,16,18から構成されている。
【0023】
支持基板11は、ポリカーボネート等のプラスチック材料、又は、ガラス等により構成される。そして、支持基板11上に、第一情報記録層14が形成されている。また、第一情報記録層14上には、記録再生レーザ光の波長に対して透明な第一中間層15を介して、第二情報記録層16が設けられている。第二情報記録層16は、第一情報記録層14よりも光情報記録媒体20のレーザ光入射側に形成されている半透過性記録層である。さらに、第二情報記録層16上には、記録再生レーザ光の波長に対して透明な第二中間層17を介して、第三情報記録層18が設けられている。第三情報記録層18は、第二情報記録層16と同様に、第一情報記録層14よりも光情報記録媒体20のレーザ光入射側に形成されている半透過性記録層である。そして、第三情報記録層18上に記録再生レーザ光の波長に対して透明な光透過保護層(カバー層)13が設けられている。第一中間層15、第二情報記録層17及び光透過保護層13は、例えば、紫外線硬化樹脂等により構成される。
【0024】
記録再生に用いられるレーザ光は、ディスク記録再生装置から出射される。また、記録再生に用いられるレーザ光は光透過保護層13側から入射される。そして、光透過保護層13側から入射されたレーザ光は、ディスク記録再生装置のフォーカス制御に応じて、第一情報記録層14、第二情報記録層16、又は、第三情報記録層18に集光され、情報の記録再生が行われる。
【0025】
第一情報記録層14、第二情報記録層16及び第三情報記録層18は、その層中に記録再生に用いられるレーザ光の入射側から、第一誘電体層21、相変化材料層22、第二誘電体層23、金属層24、及び、第三誘電体層25を備える。
【0026】
[光情報記録媒体の記録層の構成例]
次に、図1に示す光情報記録媒体10の情報記録層12、及び、図2に示す光情報記録媒体20の第一〜第三情報記録層14,16,18の構成について説明する。
上述のように、情報記録層12は、レーザ光の入射側から、第一誘電体層21、相変化材料層22、第二誘電体層23、及び、金属層24の順で形成されている。また、情報記録層14,16,18は、レーザ光の入射側から、第一誘電体層21、相変化材料層22、第二誘電体層23、金属層24、及び、第三誘電体層25の順で形成されている。
なお、情報記録層18は、情報記録層12と同様に、レーザ光の入射側から、第一誘電体層21、相変化材料層22、第二誘電体層23、及び、金属層24の順で形成し、第三誘電体層25を設けない構成とすることも可能である。
【0027】
第一誘電体層21及び第三誘電体層25は、例えばSiN、ZnS、SiO2、TiONb等により形成される。
相変化材料層22は、例えば、GeSbTe、AgInSbTe等を主成分とする相変化記録材料により形成される。また、相変化記録材料としては、例えば、Ge−Sb−Te、Te−Sn−Ge、Te−Sb−Ge−Se、Te−Sn−Ge−Au、Ag−In−Sb−Te、In−Sb−Se、In−Te−Se等の各種材料を適用することができる。
金属層24は、例えばAg合金等により形成される。
【0028】
[記録層中の第二誘電体層の構成例]
次に、記録層において、相変化材料層22と金属層24との間に介在する、第二誘電体層23の構成について説明する。
特に、図2に示す光情報記録媒体20のように、多層構造の光情報記録媒体では、第二情報記録層16又は第三情報記録層18のようなレーザ光入射側の半透過性記録層において特に欠陥抑制が難しい。このため、二層以上の記録材料層を備える多層光情報記録媒体において、レーザ光入射側の半透過性記録層の第二誘電体層23に着目し、第二誘電体層23を例にとって、第二誘電体層の材料組成と光情報記録媒体の特性との関係について説明する。
【0029】
光情報記録媒体10,20への情報記録は、相変化材料層22を構成する相変化記録材料に対して行われる。
光情報記録媒体10,20の未記録の領域では、初期化と呼ばれるプロセスにより相変化記録材料を結晶状態にする。そして、光情報記録媒体10,20に記録を行うときは、レーザ光を各情報記録層12,14,16,18に集光し相変化記録材料を加熱溶融し、さらに溶融した相変化記録材料を急冷することでアモルファス領域を形成する。このように、相変化記録材料をアモルファス化させたアモルファスマークの長さを制御することで、光情報記録媒体に情報を記録している。
【0030】
また、既に情報が記録されている領域に新たに情報を上書きする場合には、新たなアモルファスマークが形成される直前に、上書きする際に発生する熱で相変化記録材料を溶融又は結晶化して既存のアモルファスマークを消去する。そして、このとき溶融した部分を急冷することで新たなアモルファスマークを形成する。
【0031】
ここで、相変化材料層22に接触する第二誘電体層23は、上書きを行う際の既存マークの結晶化に関与する。
第二誘電体層23に、相変化記録材料との密着力が弱い材料を配置することで、記録材料に結晶核をより多く持たせることができる。このため、相変化記録材料を結晶化させる早さ、いわゆる結晶化速度を高めることができる。しかしながら、第二誘電体層23と相変化記録材料との密着力の悪さから、環境試験で剥離を起こす界面になり、光情報記録媒体の信頼性を低下させている。従って、光情報記録媒体の信頼性と信号特性双方を満たす材料を、第二誘電体層23に配置することが必要となる。
【0032】
また、相変化記録材料にアモルファスマークを形成する際は、溶融した相変化記録材料が急冷される必要がある。このため、金属層24を構成するAg合金等の高熱伝導率特性を利用し、相変化記録材料で発生した熱を急速に拡散させて急冷させている。このとき、相変化材料層22と金属層24との間に存在する第二誘電体層23が、この熱伝達を制御する役割を持つ。
【0033】
また、相変化材料層22に用いられるGeSbTeやGeBiTeの相変化記録材料中のGeや、金属層を構成するAg合金は凝集を起こしやすい。特に、金属層を構成するAgは、凝集しやすく且つ基板中の水分と反応して酸化し体積変化を引き起こしやすい。このため、第二誘電体層23は、記録時の情報書き換え性能と、Agの凝集や腐食を抑制する効果を必要とする。
このように第二誘電体層23は、情報記録層中で重要な働きを担っている。
【0034】
上述のように、相変化材料層22と金属層24との間に設けられる第二誘電体層23には、光情報記録媒体の信頼性と信号特性双方を満たす材料を適用する必要がある。この観点から、第二誘電体層23に適用する材料は、(In(SnO1−x(但し、0.4<x≦0.7)を主成分とすることが好ましい。また、(In(ZrO1−x(但し、0.1<x≦0.5)を主成分とすることが好ましい。なお、各組成はモル比(mol%)で表している。
【0035】
相変化材料層22と金属層24との間に設けられる第二誘電体層23が、Inを含むことにより、経時変化による欠陥増加率が低く、信頼性の高い記録層を形成することができる。しかし、Inのみを主成分として第二誘電体層23を形成した場合には、RF(Radio Frequency)信号特性が低い。また、RF信号書き換え性能、いわゆるDOW(Direct Over Write)特性の点で、書き換え回数(DOW回数)が少ない段階でDOWジッターが増加傾向を示す。従って、第二誘電体層23をInのみを主成分として形成した場合には、RF信号書き換え性能が不充分となる。
このため、Inに対して一定量のSnO又はZrOを混合することにより、Inの有する高い信頼性を維持しつつ、SnO又はZrOの特性より、書き換え特性、DOW回数等のRF信号特性を向上させることができる。このため、第二誘電体層23は、(In(SnO1−x、(但し、0.4<x≦0.7)を主成分とする材料を適用することが好ましい。また、(In(ZrO1−x、(但し、0.1<x≦0.5)を主成分とする材料を適用することが好ましい。
このように、相変化材料層と金属層との間に設けられる誘電体層を、上記組成を主成分とする材料で構成することにより、記録再生信号特性を犠牲にすることなく、経時変化による欠陥増殖を抑えることが可能な情報記録媒体を提供することができる。
【実施例】
【0036】
〈2.光情報記録媒体の実施例〉
実際に光情報記録媒体を作製し、相変化材料層と金属層との間に設けられる誘電体層の材料と、光情報記録媒体の信頼性及び信号特性との関係を調べた。
本実験において、実際に作製した光情報記録媒体の構造を図3に示す。
図3に示すように、光情報記録媒体30は、支持基板31上に、中間層32を介して情報記録層33が形成され、さらに、情報記録層33上に光透過保護層34が形成された積層構造を有する。
また、情報記録層33は、記録再生に用いられるレーザ光側から、第一誘電体層35、相変化材料層36、第二誘電体層37、金属層38、及び、第三誘電体層39が積層された構成である。
【0037】
第一誘電体層35には、SiN層を10nm形成した上にNb層を24nm積層して形成した。また、相変化材料層36には、GeBiTe(GeTe−BiTe)系統の擬似二元系材料を6nm形成した。金属層38には、Ag合金を8nm形成した。第三誘電体層39には、TiOを21nm形成した。支持基板31は、1.1t厚のポリカーボネートにより形成した。
【0038】
また、光情報記録媒体30の評価には、図4に示すディスク評価装置を用いて信号記録再生を行い、信号品質の評価や欠陥の検出を行った。このディスク評価装置は、ブルーレイディスク(Blu-ray disc:登録商標)ドライブと同様の仕様を有する。
【0039】
図4に示すディスク評価装置は、光情報記録媒体30に対する記録再生を行う記録再生装置であり、記録媒体配置部、移動光学系を有する。
記録媒体配置部には、光情報記録媒体30が配置され、光情報記録媒体30を回転駆動するスピンドルモータ40を有する。
移動光学系は、例えば半導体レーザ等からなる光源部41、コリメータレンズ42、ビームスプリッタ43、ミラー44、対物レンズ45、集光レンズ46、及び、フォトディテクタ47を有する。
【0040】
ディスク評価装置では、光情報記録媒体30をスピンドルモータ40によって回転させ、移動光学系を光情報記録媒体30のラジアル方向に移動させることによって、光源部41からのレーザ光を光情報記録媒体30上に走査させる。また、光透過保護層側を上面にして光情報記録媒体30が配置され、光透過保護層側からレーザ光が照射される。
また、光情報記録媒体30からの戻り光は、ビームスプリッタ43によって分岐されてフォトディテクタ47に導入される。そして、戻り光をフォトディテクタ47により検出する。さらに、フォトディテクタ47に接続された信号解析装置48によって信号品質の評価や欠陥の検出を行う。
【0041】
光情報記録媒体30の信号品質の評価には、上述のディスク評価装置を用いて、記録した信号の品質を示すジッター値、及び、情報書き換え性能を示す消去比を指標とした。
欠陥検出は、光情報記録媒体30の未記録部トラックを、ドライブでトラッキングサーボをかけながら全面スキャンしてレーザ戻り光量を観察し、戻り光量が変化した時にその変化を欠陥として検出した。
【0042】
[RF信号消去特性]
情報記録層33の層構成の中で第二誘電体層37の材料が信号品質及び欠陥増加率の双方に強く影響を与るため、以下の実験では第二誘電体層37の材料を種々変更して光情報記録媒体30の性能比較を行った。
光情報記録媒体30の第二誘電体層37に、Al、Cr、Ga、In、Nb、SiN、SiO、Ta、ZnO、ZnS−、ZrO、ZnS、CeO、又は、SnOを配置し、RF信号消去特性を測定した。
各光情報記録媒体30のRF信号消去特性の測定結果を図5に示す。
RF信号消去特性は、記録層に8Tの長さの信号を記録し、8Tの信号の上から3Tの長さの信号で書き換えた。そして、3Tの信号で書き換える前後で、8Tの信号の信号量の変化を測定した。
【0043】
図5に示すように、第二誘電体層37にZnO、ZnS−以外の各材料を適用した光情報記録媒体30が、RF信号消去特性においてよい結果を示した。ZnO、ZnS−を第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30は、消去比が極端に小さく、良い結果が得られなかった。
【0044】
[信頼性試験による欠陥増加率1]
次に、上述のRF信号消去特性と同様に、第二誘電体層37に、Al、Cr、Ga、In、Nb、SiN、SiO、Ta、ZnO、ZnS、ZrO、ZnS−、CeO、又は、SnOを適用した光情報記録媒体30の信頼性試験を行った。
信頼性試験は、作製した各光情報記録媒体30を90℃の窒素雰囲気中に24時間保持した後、上述のディスク評価装置により欠陥の検出をすることにより、欠陥の増加率を測定した。欠陥増加率は、光情報記録媒体30において、信頼性試験前後での1mm当たりの欠陥箇所の増加数を、信頼性試験の時間(day)で除した数値で表す。
各光情報記録媒体30の信頼性試験の欠陥増加率の比較結果を図6に示す。
【0045】
図6に示すように、第二誘電体層37にGa、In、Nb、ZnO、ZrO、SnOを適用した光情報記録媒体30が、欠陥増加率の点でよい結果を示した。このうち、ZnOは、図5に示すRF信号消去特性の結果において、消去比が極端に小さいため、光情報記録媒体の誘電体層に適用するのは好ましくない。
【0046】
[信頼性試験による欠陥増加率2]
次に、図6に示す信頼性試験の結果が好ましく、図5に示すRF信号消去特性の結果も比較的良好な、Ga、In、Nb、ZrO、又は、SnOを第二誘電体層37に適用して光情報記録媒体30を作製した。作製した各光情報記録媒体30の信頼性試験を行った。
信頼性試験は、恒温恒湿度槽を用いて槽内温度80℃、湿度85%の環境下に光情報記録媒体30を100時間保持した後、上述のディスク評価装置により欠陥の検出をすることにより、欠陥の増加率を計測した。
欠陥増加率は、光情報記録媒体30において、1mm当たりの欠陥箇所の個数を、信頼性試験の時間(day)で除した数値で表す。
各光情報記録媒体30の信頼性試験の欠陥増加率の比較結果を図7に示す。
【0047】
図7に示すように、Inを第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30が、他の材料を第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30に比べ、格段に欠陥増加率が低い結果が得られた。また、Nbを第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30では、Ga、In、ZrO、SnOを第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30に比べて、欠陥増加率が格段に悪化することがわかった。
【0048】
次に、第二誘電体層37に、信頼性試験の結果が良好なInを適用した光情報記録媒体30について、RF信号書き換え特性の試験を行った。この試験の結果を図8に示す。
図8に示すように、光情報記録媒体30の第二誘電体層37にInを適用した場合は、書き換え回数が100付近においてDOWジッターが増加した。この結果、第二誘電体層37にInを適用した場合は、RF信号書き換え性能、いわゆるDOW特性において、書き換え回数が少ないうちからDOWジッターが増加する傾向を示した。
【0049】
以上の結果から、信頼性試験における欠陥増加率の点では、第二誘電体層37を構成する材料として、Inを用いるのが好ましいことがわかる。しかし、Inを第二誘電体層37に適用した場合には、図5に示すように消去比が22dBであり、光情報記録媒体のRF信号書き換え性能としては不十分な結果であった。一般に、光情報記録媒体の消去比は、26dB以上必要とされている。また、DOW特性において、書き換え回数が少ないうちからDOWジッターが増加する傾向を示した。
従って、第二誘電体層を、In単体で構成した場合には、光情報記録媒体の性能としては不十分である。
【0050】
[Inと他の材料との複合酸化物を適用した場合の各種試験]
次に、図6に示した信頼性試験の結果においてInに次いで良好な結果を示した、Ga、ZrO、及び、SnOを、Inと組み合わせて複合酸化物とし、この複合酸化物を第二誘電体層37に適用して光情報記録媒体30を評価した。
【0051】
第二誘電体層37に、Ga、ZrO、又は、SnOをInと組み合わせた複合酸化物を適用した光情報記録媒体30のDOW10回時(DOW10)のRF信号ジッター値を測定した。
各光情報記録媒体30のRF信号ジッター値の測定結果を図9A〜Cに示す。なお、図9Aには、第二誘電体層37にInとGaとの複合酸化物を適用した場合の結果を示す。また、図9Bには、第二誘電体層37にInとSnOとの複合酸化物を適用した場合の結果を示す。図9Cには、第二誘電体層37にInとZrOとの複合酸化物を適用した場合の結果を示す。
【0052】
また、第二誘電体層37に、Ga、ZrO、又は、SnOをInと組み合わせた複合酸化物を適用した光情報記録媒体30のDOW回数を測定した。
各光情報記録媒体30のDOW回数の測定結果を図10A〜Cに示す。なお、図10Aには、第二誘電体層37にInとGaとの複合酸化物を適用した場合の結果を示す。また、図10Bには、第二誘電体層37にInとSnOとの複合酸化物を適用した場合の結果を示す。図10Cには、第二誘電体層37にInとZrOとの複合酸化物を適用した場合の結果を示す。
なお、DOW回数は、オーバーライトを進めたときにジッター値が急激に悪化する点を測定し、急激な悪化の開始点の書き換え回数と定義する。例えば、図8に示す第二誘電体層37にInを単体で適用した光情報記録媒体30の場合には、DOW回数は100である。
【0053】
また、第二誘電体層37に、Ga、ZrO、又は、SnOをInと組み合わせた複合酸化物を適用した光情報記録媒体30の信頼性試験を行った。
信頼性試験は、恒温恒湿度槽を用いて槽内温度80℃、湿度85%の環境下に光情報記録媒体30を100時間保持した後、上述のディスク評価装置を用いて欠陥検出を行い、欠陥増加率を計測した。欠陥増加率は、光情報記録媒体30において、1mm当たりの欠陥箇所の個数を、信頼性試験の時間(day)で除した数値で表す。
各光情報記録媒体30の信頼性試験の欠陥増加率の結果を図11A〜Cに示す。なお、図11Aには、第二誘電体層37にInとGaとの複合酸化物を適用した場合の結果を示す。また、図11Bには、第二誘電体層37にInとSnOとの複合酸化物を適用した場合の結果を示す。図11Cには、第二誘電体層37にInとZrOとの複合酸化物を適用した場合の結果を示す。
【0054】
なお、図9〜11において、横軸は、各複合酸化物におけるGa、ZrO、又は、SnOの組成比をモル比(mol%)で表している。また、図11A〜Cにおいて、グラフ中の破線は、第二誘電体層37にInを単体で使用した場合の欠陥増加率を示している。
【0055】
図10A〜Cに示すDOW回数の測定結果から、第二誘電体層37に、Ga、ZrO、又は、SnOとInとの複合酸化物を適用することで、光情報記録媒体30のDOW回数の増加が見込めることがわかる。
第二誘電体層37にInを単体で適用した光情報記録媒体30の場合には、DOW回数が100であった。これに対し、第二誘電体層37にGa、ZrO、又は、SnOとInとの複合酸化物を適用した光情報記録媒体30では、Ga、ZrO、又は、SnOの組成比に応じて、DOW回数がInを単体よりも優れるという結果が得られた。
【0056】
また、InとGaとの複合酸化物を第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30では、図10Aに示すように、Gaの組成比が50mol%以上70mol%以下の領域でDOW回数が伸びた。また、図9Aに示すように、DOW10のジッター値が、組成比が50mol%以上70mol%以下の領域で低減することが分かった。しかし、図11Aに示すように、組成比が40mol%以上の領域において、欠陥増加率が悪化することがわかる。
この結果から、InとGaとの複合酸化物を第二誘電体層37に適用した場合には、Inを単体で使用した場合よりもDOW回数及びDOW10のジッター値の効果が優れる組成比領域において、信頼性試験の欠陥増加率が増加する。このため、第二誘電体層37へのInとGaとの複合酸化物の適用は、好ましくないこととわかる。
【0057】
また、InとZrOとの複合酸化物を第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30では、ZrOの組成比が60mol%以上では初期化工程において記録材料の結晶化を進められなかった。
しかし、図10Bに示すように、ZrOの組成比が60mol%より低い領域において、10mol%を超える領域、特に20mol%以上50mol%以下の領域で、DOW回数の増加が確認できた。また、ZrOの組成比が20mol%以上50mol%以下の領域では、DOW10のジッター値の悪化が見られなかった。
さらに、ZrOの組成比が10mol%を超え、50mol%以下の領域では、欠陥増加率がInを単体で使用した場合よりも若干悪化するものの、顕著には悪化していない。特に、ZrOの組成比が20mol%では、欠陥増加率が悪化せず、且つ、DOW回数の増加が見られた。
【0058】
また、InとSnOとの複合酸化物を第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30では、図10Bに示すように、SnOの組成比が40mol%を超えた領域、特に50mol%以上70mol%以下の領域で、DOW回数の増加が確認できた。
また、図11Bに示すように、SnOの組成比が50mol%以上70mol%以下の領域の領域では、Inを単体で使用した場合に対する欠陥増加率の悪化は見られなかった。
さらに、図9Bに示すように、SnOの組成比が50mol%以上60mol%以下の領域では、DOW10ジッター値に関して特に良好な結果が得られた。
【0059】
上述のように、欠陥増加率、DOW10ジッター値、及び、DOW回数の三点において、InとSnOとの複合酸化物を第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30の特性が優れている。特に、SnOの組成比が40mol%を超え、70mol%以下の領域において、優れた効果が得られた。
【0060】
また、InとZrOとの複合酸化物を第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30では、ZrOの組成比が60mol%以上では初期化工程において記録材料の結晶化ができなかった。また、InとSnOとの複合酸化物を第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30には、やや特性面で劣っている。しかし、InとSnO以外の材料との複合酸化物を第二誘電体層37に適用した光情報記録媒体30対しては、格段に優れる結果が得られた。特に、ZrOの組成比が10mol%を超え、50mol%以下の領域において、優れた効果が得られた。なかでも、ZrOの組成比が20mol%の点では、欠陥増加率が悪化せず、且つ、DOW回数が増加した。
【0061】
上述のように、材料の相変化を記録再生原理に用いた書き換え型光情報記録媒体において、相変化材料層に接触し、相変化材料層と金属層との間に介在する誘電体層に、InとSnOとの複合酸化物、又は、InとZrOとの複合酸化物を適用する。これにより、記録再生信号特性を犠牲にすることなく、経時変化による欠陥増殖を抑えることが可能な情報記録媒体を作製することができる。
【0062】
なお、上述の実施例では、第二誘電体層以外の各層、相変化材料層や金属層等の材料を一種類の材料で固定して実験を行っているが、第二誘電体層以外の各層の組成は上述の材料以外でも、実施例と同様の効果を得ることができる。また、実施例では、情報記録層を1層のみ形成した光情報記録媒体を用いたが、情報記録層を中間層上に形成することにより、情報記録層を複数備える光情報記録媒体と同様の結果を得ることができる。
【0063】
なお、上述の実施の形態では記録層を一層又は三層備える光情報記録媒体を例示して説明しているが、光情報記録媒体の構成はこれに限られず、例えば記録層を二層又は四層以上備える光情報記録媒体に適用することができる。特に、記録層を二層以上備え、半透過性記録層を備える光情報記録媒体に効果的に適用することができる。
【0064】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
10,20,30 光情報記録媒体、11,31 支持基板、12,33 情報記録層、13,34 光透過保護層、14 第一情報記録層、15 第一中間層、16 第二情報記録層、17 第二中間層、18 第三情報記録層、21,35 第一誘電体層、22,36 相変化材料層、23,37 第二誘電体層、24,38 金属層、25,39 第三誘電体層、32 中間層、40 スピンドルモータ、41 光源部、42 コリメートレンズ、43 ビームスプリッタ、44 ミラー、45 対物レンズ、46 集光レンズ、47 フォトディテクタ、48 信号解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
記録再生レーザ光の入射側の層となる光透過保護層と、
前記支持基板と、前記光透過保護層との間に介在する情報記録層とを有し、
前記情報記録層が、レーザ光の入射側から順に、相変化材料層と、誘電体層と、金属層とを備え、
前記誘電体層が、(In(SnO1−x、(但し、0.4<x≦0.7)を主成分として構成されている
光情報記録媒体。
【請求項2】
支持基板と、
記録再生レーザ光の入射側の層となる光透過保護層と、
前記支持基板と、前記光透過保護層との間に介在する情報記録層とを有し、
前記情報記録層が、レーザ光の入射側から順に、相変化材料層と、誘電体層と、金属層とを備え、
前記誘電体層が、(In(ZrO1−x、(但し、0.1<x≦0.5)を主成分として構成されている
光情報記録媒体。
【請求項3】
支持基板と、
記録再生レーザ光の入射側の層となる光透過保護層と、
前記支持基板と、前記光透過保護層との間に介在する複数の情報記録層とを有し、
前記情報記録層において、レーザ光入射側の前記情報記録層が、レーザ光の入射側から順に、相変化材料層と、誘電体層と、金属層とを備え、
前記誘電体層が、(In(SnO1−x、(但し、0.4<x≦0.7)を主成分として構成されている
光情報記録媒体。
【請求項4】
支持基板と、
記録再生レーザ光の入射側の層となる光透過保護層と、
前記支持基板と、前記光透過保護層との間に介在する複数の情報記録層とを有し、
前記情報記録層において、レーザ光入射側の前記情報記録層が、レーザ光の入射側から順に、相変化材料層と、誘電体層と、金属層とを備え、
前記誘電体層が、(In(ZrO1−x、(但し、0.1<x≦0.5)を主成分として構成されている
光情報記録媒体。
【請求項5】
前記相変化材料層がGeSbTe、又は、GeBiTeを主成分とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
前記相変化材料層がGeSbTe、又は、GeBiTeを主成分とする請求項2に記載の光情報記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−192025(P2010−192025A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34245(P2009−34245)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】