説明

光情報記録媒体

【課題】新たな記録方法で高感度に記録が可能な光情報記録媒体を提供する。
【解決手段】複数の記録層14と、当該複数の記録層14の間に設けられる中間層15とを備えた光情報記録媒体10である。この光情報記録媒体10は、記録層14が、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有し、一層の厚さが50nm以上であり、隣接する2つの中間層15との間で第1界面(前側界面18)および第2界面(奥側界面19)を形成し、色素が記録光を吸収して発生する熱により高分子バインダーが変形し、第1界面および第2界面の少なくとも一方の界面に、中間層15に向かう凸形状が形成されることで情報が記録される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光情報記録媒体の記録材料には、色素を主成分とした有機記録材料や、金属を主成分とした無機記録材料が用いられてきた。これらの記録材料は、いずれも、記録光を吸収して得たエネルギーを利用してそれ自身が変化(分解や相変化など)することによって記録スポットを形成していた。このような記録スポットの形成原理を利用する場合、記録材料が分解・相変化を起こす温度に達するために必要なエネルギーを、記録光の照射により与える必要がある。
【0003】
ところで、近年では、光情報記録媒体の大容量化の技術として、1枚の記録媒体中に多層に情報を記録する3次元記録が検討されている。3次元記録では、深い記録層まで記録光を到達させるために記録層の光吸収率を小さく設定する必要がある。しかし、従来の光情報記録媒体に用いられてきた記録材料では、吸収率を小さくすると、記録光から十分なエネルギーを得られず、記録感度の不足が問題となる。
【0004】
色素自身が変化を起こす色素を主成分とした記録材料の他に、色素を含む高分子バインダーを記録材料に用い、色素が吸収したエネルギーによって高分子バインダーを変化させることで記録する方法が特許文献1に開示されている。この特許文献1に記載の光情報記録媒体では、照射位置において記録材料を凹状に変形させるため、少なくとも20%以上の吸収率が必要であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−014038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の背景の下、本願発明者等は、高感度な光情報記録媒体を研究する中で、偶然にも、記録材料に色素と高分子バインダーを用いる場合に、高感度に記録が可能な新たな記録方法に適用可能な現象を発見した。
【0007】
そこで、本発明は、多層の、新たな記録方法により高感度で記録が可能な光情報記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するため、本発明は、複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備えた光情報記録媒体であって、前記記録層は、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有し、一層の厚さが50nm以上であり、隣接する2つの中間層との間で第1界面および第2界面を形成し、前記色素が記録光を吸収して発生する熱により前記高分子バインダーが変形し、前記第1界面および前記第2界面の少なくとも一方の界面に、前記中間層に向かう凸形状が形成されることで情報が記録されることを特徴とする。
【0009】
このような構成によると、適度な強度の記録光を一の記録層に焦点を合わせて照射すると、当該照射部分の温度が上がり、熱膨張する。本発明の光情報記録媒体における記録層は、一層の厚さが50nm以上であり、従来の高分子バインダーと色素を用いた光情報記録媒体に比較して厚いため、隣接する中間層の界面に向かって中央が凸形状となるように変形する。この理由は明らかではないが、簡単には、記録層に与えられるエネルギーによる高分子バインダーの軟化および熱膨張が、記録層の内部では激しく起こり、中間層付近では少ないため、熱膨張により生じた中間層へ向かう凸形状が、凸の状態を残したまま、温度低下により固まるものと推察される。
【0010】
このように、記録層から中間層へ向かう凸形状により光情報記録媒体に情報を記録することで、従来の分解や相変化に至るほどのエネルギーを必要とせず、特許文献1に記載されたような凹形状を残すことによる記録のように記録層に20%もの吸収率を必要としない。すなわち、高感度の光情報記録媒体とすることができ、記録層一層あたりの記録光の吸収率を小さくして記録層の多層化を図ることができる。
【0011】
前記した発明においては、記録光の照射により、前記凸形状の周囲に前記記録層に向かう凹形状が形成されることが望ましい。
【0012】
このように凸形状の周囲に、記録層に向かう凹形状があると、記録された凸形状に読出光を照射したときに凸形状と周囲とのコントラスト差が得られるので、光学的な読取が容易となる。
【0013】
前記凸形状が形成される界面を介して前記記録層に隣接する前記中間層は、前記記録層よりも軟らかいことが望ましい。また、これを記録層と中間層のガラス転移温度の観点で言えば、前記凸形状が形成される界面を介して前記記録層に隣接する前記中間層のガラス転移温度は、前記記録層のガラス転移温度よりも低い構成と言うことができる。さらに、これを具体的な他の形態で言えば、前記記録層は固体層であり、前記中間層は粘着層であると言うことができる。
【0014】
このように、凸形状が形成される界面を介して記録層に隣接する中間層が、記録層よりも軟らかいことで、記録光の照射により、その照射箇所が熱膨張したときに、この熱膨張による圧力により中間層が変形しやすいので、凸形状を残しやすくすることができる。なお、記録層と中間層の硬さの比較は、それぞれを構成する材料のバルク体を互いに押し付け合うことで確認することができる。すなわち、バルク体同士を押し付け合ったときに大きく凹む方が軟らかいと確認することができる。
【0015】
前記した光情報記録媒体においては、記録光の照射により、前記第1界面および前記第2界面のうち、一方の界面のみで前記凸形状が形成され、他方の界面においては前記凸形状が形成されず、前記凸形状が形成される界面を形成する中間層と前記記録層との屈折率の差は、前記凸形状が形成されない界面を形成する中間層と前記記録層の屈折率の差よりも大きいことが望ましい。
【0016】
このように、第1界面および第2界面の一方の界面のみで凸形状が形成される場合には、凸形状が形成される方の界面は、情報の読取に用いられるので、界面両側の材料の屈折率差が大きいことで界面反射率が大きくなって読取り易くなり、凸形状が形成されない方の界面は、情報の読取に用いられないので、界面両側の材料の屈折率差を小さくすることで、記録・再生に用いられる光(記録再生光という)の透過率(第1界面および第2界面を合わせた透過率)を高くすることができる。これにより、記録層を多層にした場合に、記録再生光の照射側から見て奥深い記録層まで光を届かせることができ、多層化による記録容量の増大に有利である。
【0017】
この構成においては、前記凸形状が形成されない界面を形成する中間層の屈折率と前記記録層の屈折率は略同じであることが望ましい。界面両側の層の屈折率が略同じであることで、その界面における光の反射率が実質的に0になり、記録層を多層にした場合に、記録再生光の照射側から見て奥深い記録層まで光を届かせることができ、多層化による記録容量の増大に有利である。
【0018】
前記した各光情報記録媒体において、前記凸形状は変形前の前記界面を基準として1〜300nmの範囲で突出する構成とすることができる。また、前記した光情報記録媒体において、前記色素は一例として、多光子吸収化合物を含むことが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、新たな記録方法で高感度に記録が可能な光情報記録媒体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】多層光情報記録媒体の断面図である。
【図2】記録時に形成される記録スポットを示す図である。
【図3】再生時を説明する図である。
【図4】従来の光情報記録媒体における凹形状の形成過程を説明する図(a)〜(c)である。
【図5】実験結果をまとめた表である。
【図6】記録スポットの原子間力顕微鏡像である。
【図7】記録スポットの光学顕微鏡像である。
【図8】記録スポットの高さと変調度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、光情報記録媒体10は、基板11と、サーボ信号層12と、複数の記録層14と、複数の中間層15(第1中間層15Aおよび第2中間層15B)と、カバー層16とを備えてなる。なお、本実施形態においては、記録層14と第1中間層15Aとの界面を第1界面の一例として「前側界面18」といい、記録層14と第2中間層15Bとの界面を第2界面の一例として「奥側界面19」という。また、第1中間層15Aと第2中間層15Bとの界面を「中間界面20」という。
【0022】
基板11は、記録層14などを支持するための支持体であり、一例としてポリカーボネートの円板などからなる。基板11の材質や厚さは特に限定されない。
【0023】
サーボ信号層12は、記録層14および中間層15を基板11に保持させるための粘着性または接着性の樹脂材料からなり、基板11側の面に予め凹凸または屈折率の変化によりサーボ信号が記録された層である。ここでのサーボ信号は、記録時および再生時のフォーカスの基準面であることを記録再生装置が認識できるように予め設定された信号である。所定の記録層14に焦点を合わせる場合には、この基準面からの距離や、界面の数を考慮して焦点を制御する。また、記録時および再生時に円周方向に並んだ記録スポットのトラックに正確にレーザ光を照射できるようにトラッキング用のサーボ信号または溝を設けておくとよい。なお、サーボ信号層12の有無は任意である。
【0024】
記録層14は、情報が光学的に記録される感光材料からなる層であり、本実施形態においては、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有してなる。記録層14は、記録光を照射すると、色素が記録光を吸収して発生する熱により高分子バインダーが変形し、前側界面18に、第1中間層15Aに向かう凸形状が形成されることで情報が記録される。より詳しくは、後述するように、中央が記録層14から第1中間層15Aに向かうように凸形状となり、この凸形状の周囲が、第1中間層15Aから記録層14に向かうように凹形状(記録層14を基準に見て)が形成される。
【0025】
このため、記録層14は、従来の高分子バインダーと色素を含む記録層に比較して厚く形成されており、一層の記録層14は、50nm〜5μm、望ましくは100nm〜3μm、より望ましくは200nm〜2μmで形成されている。厚さが50nmより小さい場合には、従来技術のように、記録層14と中間層15の界面(本実施形態では、前側界面18または奥側界面19に相当する)が記録層14を基準に見て凹形状に変形するが、厚さが50nm以上であることで、記録した箇所の中央が凸となるように変形する。記録層14の厚さの上限は特に限定されないが、記録層14の層数をできるだけ多くするため、記録層14の厚さは5μm以下であるのが望ましい。
【0026】
記録層14は、例えば、2〜100層程度設けられる。光情報記録媒体10の記憶容量を大きくするため、記録層14は多い方が望ましく、例えば10層以上であるのが望ましい。また、記録層14は、記録の前後において、屈折率が変化してもよいし、変化しなくてもよい。
【0027】
記録層14は、記録光に対する吸収率(一光子吸収率)が1層当たり5%以下であるのが望ましい。また、この吸収率は2%以下であるのがより望ましく、1%以下であるのがさらに好ましい。例えば、最も奥側の記録層14に到達する記録光の強度が照射した記録光の強度の50%以上であることを条件とすると、30層の記録層を実現するためには、記録層1層当たりの吸収率が2%以下である必要があり、50層の記録層を実現するためには、記録層1層当たりの吸収率が1%以下である必要があるからである。また、吸収率が高いと、記録層14を加熱しすぎることで、前側界面18に凸形状を形成しにくくなるからである。
【0028】
記録層14の形成方法は、特に限定されないが、色素材料と高分子バインダーを溶媒に溶解させた液をスピンコートして形成することができる。このときの溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、ヘキサンなどを用いることができる。
【0029】
記録層14に用いる高分子バインダーとしては、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリベンジルメタクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、ポリシクロヘキシルメタクリレート、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルアルコール(PVA)などを用いることができる。
【0030】
記録層14に用いる、上記記録光を吸収する色素としては、例えば、ヒートモード型記録材料として従来用いられていた色素を用いることができる。例えば、フタロシアニン系化合物、アゾ化合物、アゾ金属錯体化合物、メチン色素(シアニン系化合物、オキソノール系化合物、スチリル色素、メロシアニン色素)を用いることができる。また、多層の記録層を有する記録媒体において記録再生時における隣接記録層への影響を最小限にするためには、前記記録光を吸収する色素として、多光子吸収色素を含むことが望ましく、多光子吸収色素は、例えば、読出光の波長に線形吸収帯を持たない2光子吸収化合物であることが好ましい。
【0031】
2光子吸収化合物としては、読出光の波長に線形吸収帯を持たないものであれば、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0032】
【化1】

【0033】
(一般式(1)中、XおよびYはハメットのシグマパラ値(σp値)が共にゼロ以上の値を有する置換基を表し、同一でもそれぞれ異なってもよく、nは1〜4の整数を表し、Rは置換基を表し、同一でもそれぞれ異なってもよく、mは0〜4の整数を表す。)
【0034】
一般式(1)中、XおよびYはハメット式におけるσp値が正の値を取るもの、所謂電子吸引性の基を指し、好ましくは例えばトリフルオロメチル基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、カルバモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、などが挙げられ、より好ましくはトリフルオロメチル基、シアノ基、アシル基、アシルオキシ基、またはアルコキシカルボニル基であり、最も好ましくはシアノ基、ベンゾイル基である。これらの置換基のうち、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、カルバモイル基、アシル基、アシルオキシ基、およびアルコキシカルボニル基は、溶媒への溶解性の付与等の他、様々な目的で、更に置換基を有してもよく、置換基としては、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アリールオキシ基、などが挙げられる。
【0035】
nは1以上4以下の整数を表し、より好ましくは2または3であり、最も好ましくは2である。nが5以上になるほど、線形吸収が長波長側に出てくるようになり、700nmよりも短波長の領域の記録光を用いての非共鳴2光子吸収記録ができなくなる。
Rは置換基を表し、置換基としては、特に限定されず、具体的には、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アリールオキシ基、などが挙げられる。mは0以上4以下の整数を表す。
【0036】
一般式(1)で表される構造を有する化合物の具体例としては、特に限定されないが、下記の化学構造式D−1〜D−21の化合物を使用することができる。
【0037】
【化2】

【0038】
中間層15は、複数の記録層14の間、言い換えると、各記録層14の上下に隣接して設けられている。中間層15は、複数の記録層14の間で層間クロストーク(隣接する記録層14間の信号の混じり合い)が生じないように、記録層14同士の間隔を所定量空けるために設けられている。このため、中間層15の厚さは、3μm以上であり、一例として、本実施形態では10μmである。
【0039】
1つ(1層)の中間層15は、第1中間層15Aと、当該第1中間層15Aの上側に隣接する第2中間層15Bとを備えている。第1中間層15Aは、記録層14に対し記録光の入射方向における一方側である上側に隣接しており、第2中間層15Bは、記録層14に対し前記した一方側とは反対側である下側に隣接している。
【0040】
第1中間層15Aおよび第2中間層15Bは、記録時および再生時のレーザ光の照射により変化しない材料が用いられる。また、第1中間層15Aおよび第2中間層15Bは、記録光や読出光、再生光(読出光の照射により発生する再生信号を含む光)の損失を最小限にするため、記録光や読出光、再生光に対し、透明な樹脂からなることが望ましい。ここでの透明とは、第1中間層15Aの吸収率と第2中間層15Bの吸収率を合わせた吸収率が1%以下であることをいう。
【0041】
第1中間層15Aは、記録光などの照射側(図1における上)から見て記録層14の上側(手前側)に隣接して設けられ、記録層14の屈折率と異なる屈折率を有している。これにより、記録層14と第1中間層15Aとの界面(前側界面18)においては、屈折率の急変による読出光の反射が可能となっている。第1中間層15Aは、記録層14と屈折率の差が適度に設けられているのがよい。具体的には、記録層14の屈折率をn1、第1中間層15Aの屈折率をn2として、
0.001<((n2−n1)/(n2+n1))<0.04
を満たすのが望ましい。
【0042】
((n2−n1)/(n2+n1))、つまり、反射率が0.001より大きいことで、前側界面18での反射光量を大きくして、情報の再生時に、S/N比を大きくすることができる。また、反射率が0.04より小さいことで、前側界面18での反射光量を適度な大きさに抑えて、記録時および再生時において記録再生光が大きな減衰を受けることなく深い記録層14に到達するのを可能にする。これにより、記録層14を多数設けて高容量化を図ることが可能となる。
【0043】
第1中間層15Aの屈折率n2は、一例としては、1.61である。記録層14の屈折率n1が1.40であるとすると、((n2−n1)/(n2+n1))は、0.0049であり、前記した不等式を満たす。
【0044】
本実施形態において、第1中間層15Aは、記録層14よりも軟らかくなっている。具体的には、例えば、第1中間層15Aは、ガラス転位温度が記録層14のガラス転位温度よりも低くなっている。また、他の例としては、記録層14を固体層とし、第1中間層15Aを粘着層としてもよい。このような構成は、記録層14の材料として用いることができる高分子バインダー(樹脂)や、第1中間層15Aの材料として用いることができる樹脂を適切に選択することにより実現することができる。
このように、第1中間層15Aを記録層14よりも軟らかい構成とすることで、記録層14を記録光により加熱して膨脹させたときに、第1中間層15Aが変形しやすく、前側界面18の変形を容易に起こさせることができる。
【0045】
第2中間層15Bは、記録光などの照射側から見て記録層14の下側(奥側)に隣接して設けられ、記録層14の屈折率と略同一である屈折率を有している。ここで、本発明において、記録層14と第2中間層15Bとの界面(奥側界面19)での反射率は、前側界面18での反射率よりも十分に小さいことが望ましい。すなわち、凸形状が形成されない奥側界面19を形成する第2中間層15Bと記録層14との屈折率の差は、凸形状が形成される前側界面18を形成する第1中間層15Aと記録層14の屈折率の差よりも小さいことが望ましい。奥側界面19からの反射光と前側界面18からの反射光が干渉すると、記録層14の厚みの変化により再生出力が大きくなったり小さくなったりするが、このような再生出力の変動は、再生光の波長の数分の一以下という非常に小さな記録層14の厚みの誤差を許容しないことを意味する。そして、実際の媒体においては、例えば、厚さ1μmの記録層14を、上記したような再生出力の変動を生じない精度に均一に製造することは非常に困難である。このような点からも、奥側界面19での反射率を前側界面18での反射率よりも十分に小さくすることが望ましい。
【0046】
以上の観点から、本発明において、奥側界面19での反射率は、前側界面18での反射率の1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましく、0であることが最も好ましい。そして、これを満たすために、記録層14の屈折率と第2中間層15Bの屈折率とは略同一であることが望ましい。具体的には、本明細書において屈折率が略同一とは、記録層14の屈折率と第2中間層15Bの屈折率との差が0.05以下の場合をいい、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.01以下、最も好ましくは0の場合をいう。これにより、奥側界面19においては、屈折率の急変による反射が起こらず、記録再生光を反射することなく透過させることができる。
【0047】
記録層14の屈折率と第2中間層15Bの屈折率との差を小さくし、望ましくは0にするためには、記録層14および第2中間層15Bに用いる材料の配合を調整するとよい。具体的には、記録層14の材料には、2光子吸収化合物などの色素が高分子バインダー中に混入されているので、色素または高分子バインダーの屈折率を適切に選択し、それぞれの配合比率を変更することによって屈折率を任意に調整することができる。また、高分子バインダーは、類似の基本構造を有していても重合度が異なると屈折率も変化するため、重合度が異なる高分子バインダーを用いたり、高分子バインダーの重合度を調整したりすることでも屈折率の調整が可能である。さらに、複数の高分子バインダーを配合することで調整することも可能である。また、屈折率調整剤(無機微粒子等)を添加して屈折率を調整することも可能である。
【0048】
第2中間層15Bの屈折率を調整する場合、第2中間層15Bの材料として用いることができる樹脂などのポリマー材料の重合度を調整することで、屈折率を調整することができる。また、中間層15として使用可能な材料を任意に配合して屈折率を調整したり、屈折率調整剤(無機微粒子等)を添加して調整したりすることも可能である。
【0049】
本実施形態において、第2中間層15Bは、記録層14と同等の硬さ、または、記録層14よりも硬い構成とすることができる。具体的には、例えば、第2中間層15Bは、ガラス転位温度が記録層14のガラス転位温度以上のものとすることができる。このような構成は、記録層14の材料として用いることができる樹脂や、第2中間層15Bの材料として用いることができる樹脂を適切に選択することにより実現することができる。
【0050】
1つの中間層15を構成する第1中間層15Aと第2中間層15Bとの界面(中間界面20)は、第1中間層15Aと第2中間層15Bが混じり合うことで徐々に屈折率が変化していることが望ましい。すなわち、中間界面20では、界面が明確には形成されていないことが望ましい。これにより、中間界面20においては、屈折率の急変による反射が起こらず、記録再生光を反射することなく透過させることができる。
このような、第1中間層15Aと第2中間層15Bが混じり合うような構成は、例えば、第1中間層15Aと第2中間層15Bに、光硬化性樹脂を混ぜて硬化させる場合に、第1中間層15Aの材料を塗布後、硬化させる前に第2中間層15Bの材料を塗布し、その後、光を当てて第1中間層15Aと第2中間層15Bを同時に硬化させることで実現することができる。
なお、本実施形態においては、中間層15を第1中間層15Aと第2中間層15Bの2つの層で形成したが、より多くの層を形成して中間層15内で徐々に屈折率を変化させてもよいし、一つの中間層15の層の中で、徐々に屈折率を変化させてもよい。
【0051】
カバー層16は、記録層14および中間層15(第1中間層15Aおよび第2中間層15B)を保護するために設けられる層であり、記録再生光が透過可能な材料からなる。カバー層16は、数十μm〜数mmの適宜な厚さで設けられる。
【0052】
以上のような光情報記録媒体10に、情報を記録・再生する方法について説明する。
所望の記録層14に情報を記録するとき、図2に示すように、その記録層14に、記録すべき情報に応じて出力が変調されたレーザ光(記録光RB)を照射する。記録層14が、多光子吸収化合物を記録色素として有する場合、このレーザ光には、ピークパワーを大きくできるパルスレーザ光を用いるとよい。そして、記録光RBの焦点の位置は、特に限定されないが、前側界面18付近や、奥側界面19付近、または前側界面18と奥側界面19の間とすることができる。
【0053】
記録光RBを照射すると、図2に示すように、記録光RBを照射した箇所の中心が記録層14から第1中間層15Aに向けて凸形状となる記録スポットMが形成される。記録スポットMは、詳細には、中央が凸部M1となり、この凸部M1の周囲が記録層14に向かうリング状の凹部M2となっている。凹部M2の最も深い部分の前側界面18(変形前の前側界面18)からの距離は、凸部M1の頂点の前側界面18(変形前の前側界面18)からの距離よりも小さい。すなわち、記録スポットMは、全体としては、およそ凸形状ということができる。この中央が凸形状となる記録スポットMの形成原理は明らかではないが、従来の記録方法として知られている、照射箇所の中央が凹形状となる記録方法における、凹形状の形成原理(これも、推測として論じられている)との比較から、次のように推察される。
【0054】
まず、従来の記録方法についてみると、J.Appl.Phys 62(3), 1 August 1987によれば、記録光を記録材料に照射すると、図4(a)に示すように、記録材料の温度上昇により記録材料(記録層14)が膨脹する(斜線部分は、加熱された範囲を示す)。そして、図4(b)に示すように、膨脹した部分が表面張力により周囲に流出する。その後、温度が低下すると、図4(c)に示すように、膨脹していた記録材料が収縮して、照射箇所の周囲に流出した部分は、基準面(記録層14の上面)よりも高い位置に記録材料が残って凸形状となるが、中央部分は、材料の流出により基準面よりも低くなって凹形状となる。
【0055】
一方、本実施形態の光情報記録媒体では、記録光RBを照射すると、記録層14が熱膨張して、従来と同様、図4(a)のように記録層14が突出する。しかし、本実施形態の場合、記録層14が比較的厚いため、記録層14の表面付近の粘度は従来技術ほど低くならず、図4(b)の流出が起こらない。そのため、温度が下がることにより、膨脹した部分が収縮すると、図4(a)の形状から図2の形状のように変形して、中央に凸部M1が残り、凸部M1の周囲に凹部M2ができると考えられる。
【0056】
このようにして形成された記録スポットMは、図3に示すように連続波レーザで読出光OBを照射すると、記録層14の屈折率と第1中間層15Aの屈折率に差があることで、記録スポットMの周囲の前側界面18における反射光の強度と、記録スポットMにおける反射光の強度に差が生じるので、この変調により記録スポットMを検出することができる。このような光学的な検出のため、凸部M1は、変形する前の界面(前側界面18)に対して1〜300nm程度突出しているのが望ましい。
【0057】
本実施形態においては、記録スポットMは、凸部M1の周囲に凹部M2が形成されているので、記録スポットMを読み取るための読出光OBを記録スポットMに当てると、凸部M1のみが有る場合に比較して、記録スポットMによる反射光の強度分布は凸部M1の中央からの距離に応じて急激に変化すると考えられ、高い変調度で読み取ることが可能である。
【0058】
記録層14に記録した情報を消去する場合、記録層14を高分子バインダーのガラス転移温度付近の温度、望ましくは、ガラス転移点より高い温度に加熱することで、高分子バインダーの流動性が向上し、表面張力により前側界面18の変形がなくなって元の平面に戻ることで、その記録層14に記録された情報を消去することができる。このように情報を消去することで、記録層14への再度の記録(繰り返し記録)が可能である。この加熱の際には、記録層14に焦点を合わせるように連続波レーザを照射する方法を用いることができる。連続波レーザで加熱を行うことにより、記録層14中で連続した領域の情報をムラなく消去することが可能である。この連続波レーザは、情報の再生に用いるレーザを用いてもよいし、別のレーザを用いてもよい。いずれの場合にも、1光子吸収が可能な波長の光を発するレーザを用いるのが望ましい。
【0059】
また、記録層14の加熱により情報を消去する際には、光情報記録媒体10の全体を高分子バインダーのガラス転移温度より高い温度に加熱することで、すべての記録層14に記録された情報を一度に消去することができる。これにより、記録層14が有する色素の種類にかかわらず、簡易に光情報記録媒体の全体の情報を消去して初期化することができる。また、光情報記録媒体の廃棄の際にも、簡易に情報を抹消することができる。
【0060】
以上のように、本実施形態の光情報記録媒体10においては、前側界面18に、記録層14から第1中間層15Aに向かう凸形状による記録スポットMを形成して情報を記録することができる。この記録スポットMを形成するには、従来の凹形状を形成する場合のように、記録層14に高い流動性を与える必要がないため、その分、高感度で記録することができる。
【0061】
そして、本実施形態の光情報記録媒体10においては、情報の再生に関与しない奥側界面19の両側にある記録層14および第2中間層15Bについて、両者の屈折率の差を実質的になくすことで、奥側界面19での記録再生光の反射をなくし、記録光および読出光を奥深くの記録層14まで届かせることができ、記録層14の層数を多くすることができる。また、奥側界面19における反射が実質的に無いことで、情報の再生時に、前側界面18における反射光と奥側界面19における反射光との干渉が起こらないので、再生時のS/N比を向上させることができる。
【0062】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することが可能である。
例えば、前記実施形態においては、記録光の照射により、前側界面18のみが変形する形態を例示したが、奥側界面19のみを中間層15(第2中間層15B)に向けて凸形状となるように変形させるように構成してもよい。この場合、第2中間層15Bとして比較的(例えば、記録層14より)軟らかいものを選択したり、記録光の照射位置をずらしたりするとよい。また、前側界面18と奥側界面19の両方を変形させることも可能であるが、記録スポットMの読取の容易さからいうと、前側界面18と奥側界面19の一方のみを変形させる構成とするのが望ましい。
【0063】
また、中間層15は、第1中間層15Aと第2中間層15Bの2層により構成していたが、厚み方向の全体に渡って均一な層であっても構わない。
【実施例】
【0064】
次に、本発明の光情報記録媒体に記録と消去のテストをした実験について説明する。
1.記録材料
実施例においては、記録材料として、高分子バインダーに、色素を分散させたものを用いた。
【0065】
(1)高分子バインダー
高分子バインダーとしては、ポリ酢酸ビニル(Across社製、Mw:101600)またはポリメタクリル酸メチル(SIGMA−ALDRICH社製)を用いた。
【0066】
(2)色素
色素としては、下記C−1に示すフタロシアニン系の1光子吸収色素およびC−2に示す2光子吸収色素の一方または双方を用いた
【化3】

【化4】

【0067】
2.記録層の形成方法
溶媒(後述)に、色素および高分子バインダーを撹拌・溶解させた塗布液を作り、ガラス基板上にスピンコートにより膜を形成した。膜厚は1μmとした。なお、ガラス基板の屈折率は1.53である。
【0068】
3.材料の熱分析方法
以下の方法を用いて、高分子バインダーのガラス転移温度、色素の融点・分解点を確認した。
分析手法: TG−DTA(熱重量/示差熱分析)測定
装置: TG−DTA6300(セイコーインスツルメンツ社製)
昇温速度: 10℃/min
測定温度範囲: 25℃〜600℃
測定雰囲気: 窒素(N2)雰囲気
【0069】
ガラス転移温度、融点、分解点(もしくは気化温度)には以下の温度を採用した。
(1)ガラス転移温度
重量減少を伴わない高分子バインダーの吸熱反応ピーク温度をガラス転移温度とした。
(2)融点
重量減少を伴わない色素の吸熱反応のピーク開始温度を外挿により求めた温度を融点とした。
(3)分解点(もしくは気化温度)
分解前に対して重量が10%減少した温度を分解点(もしくは気化温度)とした。分解点が複数ある場合、最も低い温度で比較した。
【0070】
この熱分析の結果は、下記の表の通りである。
【表1】

【0071】
4.記録・再生の試験・評価方法
記録光(パルスレーザ:波長522nm、繰り返し周波数3GHz、パルス幅500fsec、平均パワーPa=5〜50mW、ピークパワーPp=3〜33W)をピークパワー10Wで記録層に照射した。そして、記録層に対し、光軸方向に記録光の焦点位置を0.4μmずつ4μmの範囲(つまり、深さ方向で11点の位置)で動かし、各深さ位置(焦点位置)で、4点の記録(つまり、計44箇所での記録)をテストした。
記録条件は、記録時間を5μs〜5msの間で調整した。そして、記録スポットが12個(隣接する焦点位置で3箇所、その各焦点位置で4個)ずつ記録できる記録時間[μs]をデータとして得た。
また、一部の実施例について、原子間力顕微鏡(AFM)および光学顕微鏡により観察を行った。このときの観察条件は以下の通りである。
【0072】
原子間力顕微鏡
装置 ナノサーチ顕微鏡OLS−3500(オリンパス社製)
観察条件 ダイナミックモード、走査範囲10μm、走査速度1Hz
高アスペクト比プローブAR5-NCHR-20(ナノワールド社製)使用
光学顕微鏡
装置 ECLIPSE LV150(Nikon社製)
観察条件 対物レンズ100倍、暗視野観察
【0073】
さらに、再生光として波長405nmの連続波レーザ(CWレーザ)を用い、パワー0.5mWで記録スポットを照射し、反射光量を読み取った。
変調度を以下の式で定義し、実験結果から算出した。
変調度=
{(未照射箇所の反射光量)−(照射箇所の反射光量)}/(未照射箇所の反射光量)
【0074】
5.各実施例および比較例の条件
各実施例および比較例の条件は、以下に説明する通りとした。
【0075】
[実施例1]
溶媒 メチルエチルケトン(MEK) 7g
色素 C−1化合物 15mg
高分子バインダー ポリ酢酸ビニル(PVAc) 500mg
【0076】
[実施例2]
実施例1に対し、色素を下記のものに変更し、その他は、実施例1と同じとした。
色素 C−2化合物 72mg
【0077】
[実施例3]
実施例1に対し、色素を下記の2つの化合物とし、その他は実施例1と同じとした。
色素 C−1化合物 15mg
C−2化合物 72mg
【0078】
[実施例4]
実施例2に対し、高分子バインダーを下記のものに変更し、その他は、実施例2と同じとした。
高分子バインダー ポリメタクリル酸メチル(PMMA) 500mg
【0079】
[比較例1]
実施例2に対し、高分子バインダーを用いず、C−2化合物(2光子吸収色素)のみからなる記録層を作製した。
【0080】
[比較例2]
実施例2に対し、高分子バインダーを下記のものに変更し、その他は、実施例2と同じとした。
高分子バインダー ポリビスフェノールAカーボネート 500mg
(SIGMA−ALDRICH社製 Mw: 29000)
【0081】
6.結果
各実施例および比較例の構成及び記録時間をまとめたのが図5である。
【0082】
図5に示すように、実施例1〜4においては、高分子バインダーのガラス転移温度は、色素の融点または分解点より低い。実施例1〜4においては、いずれも、記録スポットを形成することができた。
実施例2で記録した記録スポットを、AFMにより形状測定した結果を3次元表示したのが図6であり、実施例2で記録した記録スポットを、光学顕微鏡で観察した像が図7である。図6に示すように、記録スポットは、中央に凸部があり、その周囲に凹部が形成されていた。また、図7に示すように、光学顕微鏡による観察において、記録スポットを明確に確認することができるので、光学的な読取りを良好に行うことが可能であることが確認された。
なお、上記の実施例2は、中間層がない状態で記録のテストを行ったが、記録層の上に、粘着剤を塗布して中間層を形成した後、同様の記録テストを行った。そして、中間層を剥離した後に原子間力顕微鏡による観察を行ったところ、同様の凸形状の記録スポットを観察することができた。このとき用いた中間層(粘着剤)のガラス転移温度は、−53℃である。
【0083】
また、複数の記録スポットについて、変形前の記録層の上面からの高さを測定し、変調度の関係を分布で示したのが図8である。図8に示すように、記録スポットの高さが高いほど、変調度が大きくなることが分かった。変調度0.1を確保するためには、記録スポットの凸形状の高さは10nm以上であるのが望ましく、0.2を確保するためには凸形状の高さは25nm以上であるのが望ましいことが分かった。なお、図7の光学顕微鏡像の記録スポットは、上から下にいくにつれて焦点位置をずらしたものであり、記録スポットの高さのバラツキも、この焦点位置のずれから発生したものである。図7の像からも分かるように、記録層に焦点が合っている記録スポットほど凸部の高さが高く、大きい変調度が得られ、逆に、記録層から焦点がずれた記録スポットほど凸部の高さが低く、小さい変調度が得られた。すなわち、焦点位置を調整することで、記録スポットの凸部の高さ(変調度)を調整できるともいえる。
【0084】
高分子バインダーとしてポリ酢酸ビニルを用いた実施例1〜3では、色素として2光子吸収色素(C−2)のみを用いた場合(実施例2)には記録スポットの形成に90μsecの時間を要したが、1光子吸収色素(C−1)のみを用いた場合(実施例1)には、記録スポットの形成に15μsecを要しただけであった。さらに、1光子吸収色素(C−1)と2光子吸収色素(C−2)を両方用いた場合には、5μsecで記録スポットを形成することができた。すなわち、1光子吸収色素と2光子吸収色素を両方用いることで、最も高感度の記録が可能であった。
【0085】
実施例4においては、ガラス転移温度が高い高分子バインダーを用いたため、実施例1〜3よりは、記録スポットの形成に時間がかかったが、450μsecという短い時間での記録が可能であった。
【0086】
比較例1においては、高分子バインダーがなく、1.8%という小さな吸収率の条件では、記録スポットを形成することができなかった。
【0087】
比較例2においては、高分子バインダーのガラス転移点が色素の融点よりも高く、ピークパワー10Wの記録光では記録スポットを形成することができなかった。
【0088】
以上のように、本発明の光情報記録媒体によれば、高感度で記録が可能であることが確認された。ちなみに、レーザ光の照射により分解する1光子吸収色素を用い、記録層が低い吸収率でも記録が可能になることを目標とした研究の報告(Yuki Suzuki等、「The static recording and readout of the twenty-recording layers containing organic dye materials」、ISOM’09 Technical Digest、P.202(発表番号Tu−PP−09))によれば、20層の記録層を持つ記録媒体を、記録層1層あたりの記録光の吸収率を16%以下として作製し、2.8mW,405nmの半導体レーザで記録をした場合、1層目について8ms〜4000msの露光時間で記録することができるとされている。上記の実施例においては、この報告と比較しても、本発明の光情報記録媒体は、高感度で記録できることが確認された。
【0089】
[記録の消去]
記録スポットを記録した実施例1〜3(高分子バインダーとしてポリ酢酸ビニルを用いた媒体)を、80℃1時間、オーブンで加熱した。また、記録スポットを記録した実施例4(高分子バインダーとしてポリメタクリル酸メチルを用いた媒体)を、120℃1時間、オーブンで加熱した。その結果、いずれの光情報記録媒体においても、記録スポットが消えた。すなわち、記録の消去が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0090】
10 光情報記録媒体
11 基板
14 記録層
15 中間層
16 カバー層
18 前側界面
19 奥側界面
M 記録スポット
OB 読出光
RB 記録光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備えた光情報記録媒体であって、
前記記録層は、高分子バインダーと、当該高分子バインダーに分散された色素とを有し、一層の厚さが50nm以上であり、隣接する2つの中間層との間で第1界面および第2界面を形成し、
前記色素が記録光を吸収して発生する熱により前記高分子バインダーが変形し、前記第1界面および前記第2界面の少なくとも一方の界面に、前記中間層に向かう凸形状が形成されることで情報が記録されることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
記録光の照射により、前記凸形状の周囲に前記記録層に向かう凹形状が形成されることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
前記凸形状が形成される界面を介して前記記録層に隣接する前記中間層は、前記記録層よりも軟らかいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
前記凸形状が形成される界面を介して前記記録層に隣接する前記中間層のガラス転移温度は、前記記録層のガラス転移温度よりも低いことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項5】
前記記録層は固体層であり、前記中間層は粘着層であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
記録光の照射により、前記第1界面および前記第2界面のうち、一方の界面のみで前記凸形状が形成され、他方の界面においては前記凸形状が形成されず、
前記凸形状が形成される界面を形成する中間層と前記記録層との屈折率の差は、前記凸形状が形成されない界面を形成する中間層と前記記録層の屈折率の差よりも大きいことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項7】
前記凸形状が形成されない界面を形成する中間層の屈折率と前記記録層の屈折率は略同じであることを特徴とする請求項6に記載の光情報記録媒体。
【請求項8】
前記凸形状は変形前の前記界面を基準として1〜300nmの範囲で突出していることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項9】
前記色素は多光子吸収化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−89195(P2012−89195A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234590(P2010−234590)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】