説明

光拡散カバーの製造方法

【課題】光拡散シートのインサート成型に接着剤を用いることで、接着強度および品質の良好な光拡散カバーを提供する。
【解決手段】接着剤層14を設けた光拡散シート12を金型24内に配置した後に、ベース材16用の成型樹脂を金型24内に射出することにより、光拡散シート12がベース材16に接合された光拡散カバー10を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散カバーの製造方法に関するものである。より詳細には、光を拡散させるための光拡散シートを透明樹脂製のベース材表面へインサート成型により接合する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばパチンコ機やスロットマシンなどの遊技機には、興趣性を向上させるために発光体を備える様々な電飾装置が取り付けられている。一般的にこのような電飾装置においては、発光体の前方に、透明なベース材の表面に光拡散シートを備える光拡散カバーが設けられている。当該光拡散カバーは、従来では、真空成型等によって予め所定形状に型付けした光拡散シートを、別途同一形状に射出成型したベース材へ嵌合したり、ビスなどの係止具を用いて係止したりして、一体化することが一般的であった。一方、近年では、作業工程をより簡略化するために、ベース材を射出成型する際に光拡散シートを金型内にインサートして、光拡散カバーをインサート成型する方法も用いられている。
【0003】
例えば先行技術である特許文献1においては、遊技機部品を成型する際に、アクリル樹脂等の成型樹脂を用いてフィルムをインサート成型することによって、フィルムにより装飾された成型体を製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、光拡散フィルムを用いたインサート成型が可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−360809号公報
【特許文献2】特開2009−31641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、単に光拡散シートをインサート成型しただけでは、光拡散シートとベース材との間に十分な接着強度を担保できておらず、成型された光拡散カバーから光拡散シートが剥離してしまう恐れがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものである。本発明の解決しようとする課題は、接着強度が良好で、品質が良好な光拡散カバーを製造可能なインサート成型法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は射出成型される透明樹脂製のベース材の表面に、光を拡散させる光拡散シートがインサート成型により接合された光拡散カバーの製造方法であって、前記光拡散シートの裏面に接着剤層を設けたうえで、インサート成型することを特徴とする。
【0008】
この製造方法によれば、ベース材と光拡散シートとが接着剤によって接着されることで、従来の接着剤を使用しない場合と比べて接着強度(剥離強度)を向上することができ、品質が向上する。
【0009】
しかし、ベース材と光拡散シートとの間に接着剤層を介在させると、成型条件によっては光拡散カバーの品質に悪影響を及ぼす場合がある。例えば、成型温度が低すぎると強固な接着強度が得られ難い。一方、成型温度が高すぎると接着剤層において気泡が発生し、透光性や光拡散性の低下を招き得る。
【0010】
そこで、インサート成型時の射出樹脂温度は、190〜300℃とすることが好ましい。これによれば、良好な接着強度を確実に担保できると共に、気泡等に起因する品質低下も避けることができる。
【0011】
ベース材は、一定の強度と透明性を有する熱可塑性樹脂製であれば特に限定されず、成型温度はベース材を成す射出樹脂の種類に応じて適宜変更すればよい。例えば、前記ベース材をアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)製とする場合は、インサート成型時の射出樹脂温度を190〜220℃とすることが好ましい。この場合、射出樹脂温度が190℃以上なので、良好な接着強度を担保できる。
【0012】
また、前記ベース材をポリカーボネート(PC)製とする場合は、インサート成型時の射出樹脂温度を250〜300℃とすることが好ましい。この場合、射出樹脂温度が300℃以下なので、気泡の発生を避けられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光拡散シートとベース材との接着強度を向上することが可能になる。また、蒸気温度範囲で成型することで、良好な接着強度を担保しながら、接着剤の揮発による気泡の発生を低減することができ、透明度の低下や光拡散性の低下などの品質低下を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の製造方法の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の製造方法は、図1(d)に示すように、ベース材16の表面に光拡散シート12が接合された光拡散カバー10を得るものであり、ベース材16と光拡散シート12との間に接着剤層14が設けられている。以下において、本発明の製造手順と共に各層を説明する。
【0016】
最初に、図1(a)に示されるように、光拡散シート12の裏面に接着剤を付与して接着剤層14を形成する。光拡散シート12は、透明の合成樹脂(PC、ABS、アクリル等)製のシートに光拡散パターンを設けた従来から公知のものを使用すればよい。光拡散シート12の厚みは0.2〜0.5mm、特に0.3〜0.4mmであることが好ましい。光拡散シート12が0.2mmより薄いと光拡散効果が弱いからである。また、光拡散パターンは凸条を同心の格子状に配置したもののほか、様々なパターンに構成することができる。更に、光拡散シート12は無色透明のほか、有色透明なシートとしてけいせいすることもできるとともに、一部が不透明であっても良い。
【0017】
接着剤は特に限定されず、様々な種類の接着剤が使用可能である。好ましい例として十条ケミカル株式会社製G−2Sが挙げられる。接着剤層14の厚みは10〜500μmとすることが好ましい。接着剤層14の厚みが10μm未満であると、得られる光拡散カバー10における光拡散シート12とベース材16との間に良好な接着強度を担保し難い。一方、接着剤層14の厚みを500μm以上にしても、厚みが500μmの場合と比べて接着強度は向上せず、必要な接着剤の量が多くなるために製造コストが高くなる。なお、接着剤層14の厚みは、気泡の発生し易さには影響しない。
【0018】
次に、図1(b)に示されるように、接着剤層14を設けた光拡散シート12を固定型20の内部に配置し、図1(c)に示されるように、可動型22を固定型20と合わせることによって金型24を閉じる。その後、可動型22に形成された射出通路(ランナー)26から金型24のキャビティ内にベース材16用の成型樹脂を射出することによってインサート成型を行う。成型樹脂が冷却されて固化したら、図1(d)に示されるように光拡散カバー10を金型24から取り出す。
【0019】
ベース材16を形成する樹脂は、成型後に一定の強度を有し、且つ透明性を有する熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、融点ないし軟化点が190〜300℃の範囲にある樹脂が好ましい。このような樹脂としては、例えばアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂などが挙げられる。中でも、ポリカーボネートが好ましい。接着強度が他の樹脂に比して高くなるからである。
【0020】
インサート成形時の射出樹脂温度は、基本的には射出樹脂の融点ないし軟化点に応じて適宜設定する。但し、射出樹脂温度は190〜300℃の範囲に設定することが好ましい。射出樹脂温度が300℃を超えると、当該射出樹脂と接触した接着剤の一部が揮発して気泡が生じることがある。この場合、接着剤層14は光拡散シート12とベース材16とによって挟持されているので、気泡の逃げ場が無く光拡散カバー10内に気泡が残存する。すると、光拡散カバー10が白濁化して透明度が低下し、光の透過率が低下および不均一化するため、光拡散カバー10の品質が低下する。したがって、例えばベース材16をPC製とする場合は、射出樹脂温度を250〜300℃とすることが好ましい。
【0021】
一方、射出樹脂温度が190℃未満では良好な接着強度を得られ難い。したがって、例えばベース材16をABS製とする場合には、射出樹脂温度を190〜220℃とすることが好ましい。
【0022】
また、インサート成型時の金型24は、内部に射出された成型樹脂を冷却するために20〜90℃に保たれていることが好ましい。なお、金型24の温度は用いる成型樹脂の種類に応じて変更可能であり、例えばABSの場合は40〜60℃、PCの場合は70〜90℃であることが好ましい。
【0023】
また、光拡散シート12の場合と同様に、ベース材16は無色透明又は有色透明のいずれにすることも可能であるとともに、一部が不透明となるように形成することも可能である。また、ベース材16の厚みは0.5〜3.0mmとなるよう成型することが好ましい。
【0024】
得られた光拡散カバー10は、遊技機の電飾装置、車輌の室内灯若しくはランプカバー、室内照明器具のランプカバーなどに適用可能である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。
[実施例1]
厚さ0.4μmのポリカーボネート(PC)製光拡散シート(カタニ産業製)の裏面に、接着剤(G−2S、十条ケミカル株式会社製)を塗布することで厚さ260〜340μmの接着剤層を設け、当該光拡散シートを50℃に保たれた金型内に配置した。金型を閉じた後に、210℃に加熱されたアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂(ABS)(テクノポリマー社製)を金型内に射出し、射出が完了してから30秒後に金型を開けて光拡散カバーを得た。なお、剥離試験機による把持を可能にするため、光拡散シートは約半分のみがベース材に接着されるよう成型を行った。
【0026】
[実施例2〜4]
下記表1に示されるように、成型樹脂として180℃のABS、280℃若しくは305℃のポリカーボネート(PC)(テイジン社製)を使用し、ポリカーボネートを用いた場合には金型の温度を85℃にした。それ以外は、全て実施例1と同様にして光拡散カバーを作成した。
【0027】
[比較例1]
接着剤を塗布しなかった以外は、全て実施例1と同様にして光拡散カバーを得た。
【0028】
<剥離試験の方法>
剥離試験機(INSTRON5582、インストロンジャパン カンパニーリミテッド製)を用いて、光拡散カバーのベース材部分を固定し、ベース材に接着されていない光拡散シートの端部をベース材から垂直に離間する方向に10mm/分の速度で引っ張ることで、光拡散シートを剥離するために必要な荷重(剥離荷重)を測定した。
【0029】
実施例1〜4および比較例1の光拡散カバーを用いて剥離試験を行った。なお、各実施例および比較例において、3又は4個の光拡散カバーについて試験を行い、測定された剥離荷重から算出した相加平均値(平均剥離荷重)を以下の表1に示す。
【表1】

【0030】
表1の試験結果において、接着剤を用いていない比較例1においては、小さな荷重で光拡散シートがベース材から剥離してしまい、光拡散シートとベース材との間の接着を十分に担保できなかった。一方、実施例1〜4においては、接着剤層を設けたことにより平均剥離荷重が大きくなっており、比較例1と比べて光拡散シートとベース材との間の接着強度が向上した。
【0031】
実施例1と2、及び実施例3と4をそれぞれ比較すると、成型樹脂が同じ場合には射出時の樹脂温度が高くなると平均剥離荷重が高くなる傾向があった。そのため、樹脂温度が210℃である実施例2は、樹脂温度が180℃である実施例1よりも優れた接着強度を提供できた。
【0032】
また、接着強度が180℃、210℃、及び280℃の場合には、接着層中にほとんど気泡は見られないのに対し、樹脂温度が305℃の場合には、接着層中にわずかに気泡が生じてしまったため、樹脂温度が305℃の場合には接着強度は十分であるものの、光の透過性に悪影響を与え、光拡散カバーとしての品質が低下した。以上の理由から、成型樹脂の射出温度は190〜300℃が好適である。
【符号の説明】
【0033】
10 光拡散カバー
12 光拡散シート
14 接着剤層
16 ベース材
20 固定型
22 可動型
24 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形される透明樹脂製のベース材の表面に、光を拡散させる光拡散シートがインサート成型により接合された光拡散カバーの製造方法であって、
前記光拡散シートの裏面に接着剤層を設けたうえで、インサート成型することを特徴とする、光拡散カバーの製造方法。
【請求項2】
インサート成形時の射出樹脂温度が190〜300℃である、請求項1に記載の光拡散カバーの製造方法。
【請求項3】
前記ベース材はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂製であり、
インサート成型時の射出樹脂温度が190〜220℃である、請求項2に記載の光拡散カバーの製造方法。
【請求項4】
前記ベース材はポリカーボネート製であり、
インサート成型時の射出樹脂温度が250〜300℃である、請求項2に記載の光拡散カバーの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−101429(P2012−101429A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251560(P2010−251560)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(501095370)株式会社サンワクリエイト (1)
【Fターム(参考)】