説明

光拡散性部材用樹脂組成物及び光拡散性部材

【課題】
ポリカーボネート樹脂本来の性質を損なうことなく、光拡散性、全光線透過率、色相及び耐光性のいずれにも優れ、特に、溶融加工時の発生ガスを抑え、総合的にバランスの良い性能を有する光拡散性部材用樹脂組成物、及び光拡散性部材を提供する。
【解決手段】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、アクリル系共重合体からなる紫外線吸収剤(B)0.05〜20重量部、及び、蛍光染料を分散させた微粒子(C)0.05〜20重量部を含有してなることを特徴とする光拡散性部材用樹脂組成物、及び該樹脂組成物を溶融成形してなる光拡散性部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散性部材用樹脂組成物及び光拡散性部材に関する。詳しくは、ポリカーボネート樹脂が本来有する物性を損なうことなく、光拡散性、全光線透過率、色相及び耐光性に優れ、特に、溶融加工時の発生ガスを抑えた光拡散性部材用樹脂組成物、及び当該樹脂組成物から得られる光拡散性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性及び透明性に優れた熱可塑性樹脂として幅広い用途があり、無機ガラスに比べ軽量で、生産性にも優れているので、光拡散性を付与することにより、照明カバー、照明看板、透過型のスクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散シート等の用途に好適である。このポリカーボネート樹脂に光拡散性を付与するためには、ガラス、シリカ、水酸化アルミニウム等の無機化合物を添加する方法が提案されているが、成形加工時や押出加工時の熱安定性が低く、衝撃強度等の機械的強度の低下が大きいという欠点があった。
【0003】
このような欠点を改良した光拡散性ポリカーボネート樹脂として、例えば特許文献1には、ポリカーボネート樹脂に、該ポリカーボネート樹脂との屈折率差が0.08より大きく、かつ少なくとも部分的に架橋したポリメチルメタアクリレート微粒子を分散添加せしめた光拡散性ポリカーボネート樹脂が開示されている。しかし、このように光拡散剤としての微粒子をポリカーボネート樹脂に分散させた樹脂組成物では、光拡散性を上げるために微粒子を多量に添加すると、光線透過率が低下し、光線透過率と光拡散性が共に高い材料が得られないという問題があった。
【0004】
これを解決する方法として、特許文献2には、無機蛍光体、蛍光体含有樹脂粒子または蛍光染料含有樹脂粒子からなる光拡散剤を透明性樹脂に分散させてなる光拡散性樹脂組成物が開示されている。しかし、特許文献2の樹脂組成物は、輝度を上げることはできるものの、耐光(候)性が不十分であり、光拡散性部材としては実用性が低かった。
【0005】
芳香族ポリカーボネート樹脂の耐光性を向上させる方法として、各種紫外線吸収剤を添加する方法が知られている。例えば、特許文献3及び4には、ポリカーボネート樹脂に、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤と、ベンゾオキサゾール系やクマリン系の蛍光増白剤を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物が開示され、特許文献5には、更に、透明微粒子を含有してなる樹脂組成物が開示されている。
【0006】
しかし、これら特許文献3〜5の樹脂組成物は、溶融加工時に発生するガスが多く、また、色相が劣り、更には、熱安定性が不十分のため、成形加工時又はリサイクル時等に変色が生じ易いという問題があった。
【0007】
一方、特許文献6には、メタクリル酸メチル及びベンゾトリアゾール化合物の共重合体を含有してなる紫外線吸収用組成物を使用すると、UV吸収特性が改善されることが開示されているが、耐光性が十分ではなく、また、光拡散性部材用のポリカーボネート樹脂組成物において、溶融加工時に発生するガスを低減するという目的は全く着目されていない。
【0008】
このように、従来の樹脂組成物は、光拡散性部材の材料としては実用上不十分なものであり、光拡散性、全光線透過率、色相及び耐光性のいずれにも優れ、特に、溶融加工時の発生ガスを抑え、総合的にバランスの良い性能を有する光拡散性部材用樹脂組成物が求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開平03−143950号公報
【特許文献2】特開平09−176366号公報
【特許文献3】特開平07−196904号公報
【特許文献4】特開2002−003710号公報
【特許文献5】特開2004−029091号公報
【特許文献6】特開昭63−227575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決し、ポリカーボネート樹脂本来の性質を損なうことなく、光拡散性、全光線透過率、色相及び耐光性のいずれにも優れ、特に、溶融加工時の発生ガスを抑え、総合的にバランスの良い性能を有する光拡散性部材用樹脂組成物、及び光拡散性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂に、特定のポリマー型紫外線吸収剤と、蛍光染料を分散させた特定の微粒子を含有させることにより、光拡散性、全光線透過率、色相及び耐光性のいずれにも優れ、特に、溶融加工時の発生ガスを抑えることが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、アクリル系共重合体からなる紫外線吸収剤(B)0.05〜20重量部、及び、蛍光染料を分散させた微粒子(C)0.05〜20重量部を含有してなることを特徴とする光拡散性部材用樹脂組成物、及び該樹脂組成物を溶融成形してなることを特徴とする光拡散性部材、に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光拡散性部材用樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性を損なうことなく、高い光拡散性と高い光線透過率を同時に満たし、溶融加工時の変色が抑えられるため透過光の色相が良好である。また、光源から発生する紫外線による変色も少なく耐光性に優れている。特に、溶融加工時に発生するガスが少ないため、連続成形によりガス成分が成形品表面に付着することがなく、外観が良好な成形品を得ることができる。従って、本発明の樹脂組成物は、照明カバー、照明看板、透過性のスクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散シートや光拡散板等の光拡散性部材に好適であり、特に、屋外に設置される機会が多く、外観性能の影響が出やすい、大型の液晶テレビ用拡散板として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂
本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲンと反応させる界面重合法(ホスゲン法)、又は炭酸ジエステルと反応させる溶融法(エステル交換法)により得られる樹脂であり、直鎖状又は分岐状の熱可塑性重合体又は共重合体である。
【0015】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン(=テトラメチルビスフェノールA)等のビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン(=テトラブロムビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン(=テトラクロロビスフェノールA)等のハロゲンを含むビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物の他、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられる。中でも、ハロゲンを含んでいても良いビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物が好ましく、特には、ビスフェノールAが好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類でも良いが、複数種類を用いても良い。
【0016】
また、分岐状の芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、以下の化合物、即ちフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、 1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノールなどの3価以上のポリヒドロキシ化合物で置換すれば良い。これら置換するポリヒドロキシ化合物の使用量は、通常芳香族ジヒドロキシ化合物の0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0017】
さらに、分子量調節剤として、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を使用することができ、具体的には、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−ブロムフェノール、p−tert−ブチルフェノール、並びにp−長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。
【0018】
本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、25℃で測定した溶液粘度より算定した値で、16,000〜38,000が好ましく、18,000〜35,000が更に好ましい。また、本発明で使用する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、上記範囲の粘度平均分子量を満たすものであれば、2種以上の混合物であっても良い。
【0019】
(B)紫外線吸収剤
本発明の樹脂組成物は、特定のポリマー型紫外線吸収剤を含有させることを特徴とする。本発明の紫外線吸収剤(B)とは、アクリル系共重合体からなる紫外線吸収剤であり、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物及びトリアジン系化合物等の一般的な紫外線吸収剤と、メタクリル酸メチル等のアクリル系単量体とを共重合させて得られる共重合体である。
【0020】
この特定のアクリル系共重合体からなる紫外線吸収剤(B)を配合することにより、溶融加工時や紫外線照射後の変色が抑えられ、色相が良好となり、且つ、溶融成形時に発生するガスを抑制することが可能となる。
【0021】
本発明の紫外線吸収剤(B)としては、中でも、ベンゾトリアゾール系化合物又はベンゾフェノン系化合物を共重合させた共重合体、即ちベンゾトリアゾール系アクリル共重合体及びベンゾフェノン系アクリル共重合体から選ばれる少なくとも1種の紫外線吸収剤が好ましい。
【0022】
ベンゾトリアゾ−ル系化合物とは、ベンゾトリアゾ−ル骨格を有する化合物、及びその誘導体であり、一般に用いられている紫外線吸収剤から選択することができるが、アクリル系単量体と共重合させるために、水酸基を置換基として有する化合物が好ましい。
【0023】
ベンゾトリアゾ−ル系化合物としては、具体的には、2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾ−ル、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾ−ルなどが挙げられる。
【0024】
また、アクリル系単量体と共重合させるベンゾフェノン系化合物とは、ベンゾフェノン骨格を有する化合物、及びその誘導体であり、アクリル系単量体と共重合させるために、水酸基を置換基として有する化合物が好ましい。
【0025】
ベンゾフェノン系化合物としては、具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0026】
本発明の紫外線吸収剤(B)としては、上述した中でも、初期色相及び紫外線照射後の色相が良好な光拡散性部材が得られるという点から、ベンゾトリアゾール系アクリル共重合体が好ましい。
【0027】
上述した化合物と共重合させるアクリル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
【0028】
本発明の(B)紫外線吸収剤中の、ベンゾトリアゾール系化合物及び/又はベンゾフェノン系化合物と、アクリル系単量体との組成比(ベンゾトリアゾール系化合物及び/又はベンゾフェノン系化合物:アクリル系単量体)は、通常80:20〜20:80、好ましくは70:30〜30:70、更に好ましくは60:40〜40:60である。
【0029】
(B)紫外線吸収剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.05〜20重量部であり、好ましくは0.1〜10重量部、更に好ましくは0.5〜5重量部である。(B)紫外線吸収剤が20重量部を超えると、光拡散性部材としての強度が不足する傾向があり、0.05重量部に満たないと、変色や発生ガスの抑制効果が不十分となる傾向がある。
【0030】
(C)微粒子
本発明においては、樹脂組成物に、蛍光染料を分散させた微粒子(C)を配合させることを特徴とする。該(C)微粒子を配合することにより、溶融成形時に発生するガスを抑制することが可能となる。
【0031】
該微粒子(C)は、光拡散剤として使用される無機又は有機の各種の粒子が使用可能であって、特に限定されるものではないが、重量平均粒径が、通常0.7〜30μmの微粒子である。ここで、重量平均粒径の測定は、例えば、コールター法(Coulter Multisizer)により行う。重量平均粒径が0.7μm未満の微粒子(C)を配合すると、得られた樹脂組成物の光拡散性が劣り、光源が透けて見えたり、視認性に劣る傾向がある。逆に、粒子径が30μmを越える微粒子は、添加量に対する拡散効果が低い。微粒子(C)の重量平均粒径としては、好ましくは1〜20μm、より好ましくは2〜10μmの範囲である。
【0032】
無機系の微粒子としては、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、ガラス等が挙げられ、有機系の微粒子としては、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、又は、これらの共重合体やコアシェルタイプの重合体からなる微粒子が挙げられる。これらの微粒子の中でも、蛍光染料の分散処理が容易であるという点から、アクリル系樹脂が好ましく、耐溶剤性及び耐熱性を考慮すると、特に、架橋構造を有するアクリル系樹脂が好ましい。
【0033】
架橋構造を有するアクリル系樹脂を製造する際に加えられる架橋性単量体は、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンのように、1分子内に2つ以上のビニル基を有する単量体が好ましい。これらの架橋性単量体は、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いてもよく、その使用割合は、全単量体に対して5〜50重量%が好ましい。
【0034】
また、本発明の微粒子(C)は、光拡散性の点から、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)との屈折率差(△n)が0.01以上であり、且つ、該ポリカーボネート樹脂(A)と非相溶性の微粒子であるのが好ましい。ここで、屈折率とは、温度25℃における、d線(587.562nm,He)の光に対する値であり、実際の測定は、ポリカーボネート樹脂の屈折率(npc)は、Vブロック法(カルニュー光学製、形式KPR)により行い、微粒子の屈折率(nld)は、ベッケ法(標準溶液と比較する方法)により行う。本発明において好ましく使用される、ビスフェノールAを原料とするポリカーボネート樹脂の屈折率は約1.58であるので、これとの差が0.01以上の微粒子を選ぶことが好ましい。また、屈折率差が、0.01以上であっても、光拡散性が不十分で、光源が透けて見えて、視認性に劣ることがあるので、好ましい屈折率差は0.05以上、更に好ましくは0.07以上である。
【0035】
本発明の微粒子に分散させる蛍光染料としては、白色系もしくは青色系の蛍光染料が好ましく用いられる。具体的には、蛍光増白剤、有機EL用として公知の白色有機発光体や青色有機発光体が挙げられる。蛍光増白剤とは、成形品を明るく見せるため、成形品に配合される白色系もしくは青色系の蛍光染料であり、成形品の黄色味を消し、明るさを強める機能がある。成形品の黄色味を消すという点では、機能がブルーイング剤と類似しているが、ブルーイング剤は単に成形品の黄色光を除去するのに対して、蛍光増白剤は波長400nm未満の紫外線を吸収し、そのエネルギーを波長400nm以上の可視光線、特に青紫色の光線に変えて放射する点で異なっている。
【0036】
蛍光増白剤としては、熱可塑性樹脂用として公知の蛍光増白剤が使用可能であるが、中でも、耐熱性の観点から、分子量300〜1000の高分子量のものが好ましく、例えば、ベンゾオキサゾール系化合物及びクマリン系化合物が好ましい。
【0037】
ベンゾオキサゾール系化合物としては、具体的には、4−(ベンゾオキサゾール−2−イル)−4’−(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)フラン等を挙げることができ、中でも、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン等のスチルベンベンゾオキサゾール系化合物が好ましい。
【0038】
クマリン系化合物としては、具体的には、3−フェニル−7−アミノクマリン、3−フェニル−7−(イミノ−1’,3’,5’−トリアジン−2’−ジエチルアミノ−4’−クロロ)−クマリン、3−フェニル−7−(イミノ−1’,3’,5’−トリアジン−2’−ジエチルアミノ−4’−メトキシ)−クマリン、3−フェニル−7−ナフトトリアゾールクマリン、4−メチル−7−ヒドロキシクマリン等を挙げることができ、中でも、3−フェニル−7−ナフトトリアゾールクマリン等のフェニルアリルトリアゾリルクマリン系化化合物が好ましい。
【0039】
また、白色有機発光体や青色有機発光体としては、例えば、ジスチリルビフェニル系青色蛍光発光材、アリールエチニルベンゼン系青色蛍光発光材、キンキピリジン系蛍光発光材、セキシフェニル系青色蛍光発光材、ジメシチルボリルアントラセン系蛍光発光材、キナクリドン系蛍光発光材等が挙げられる。
【0040】
上述した蛍光染料の中でも、熱安定性の点から、ベンゾオキサゾール系化合物及びクマリン系化合物から選ばれる蛍光増白剤が好ましい。
【0041】
微粒子(C)に分散させる蛍光染料の量は、本発明の樹脂組成物中の蛍光染料の濃度が、0.00001〜1重量%、更には0.001〜0.8重量%、特には0.01〜0.5重量%の範囲となる量であることが好ましい。蛍光染料の含有率が0.00001重量%未満では、成形品の黄色味を消し、明るさを強めるという機能や、紫外線を吸収し可視部の青紫色に放射する機能が十分に発揮されず、一方、含有率が1重量%を超えてもそれ以上の添加効果は見られない。
【0042】
微粒子に分散させる蛍光染料の量は、樹脂組成物中の蛍光染料の含有率と、樹脂組成物中に配合させる微粒子(C)の量を勘案して決定されるが、微粒子中の濃度として、通常0.001〜5重量%であり、好ましくは0.01〜1.0重量%、更に好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0043】
蛍光染料を微粒子に分散させる方法は特に限定されるものではなく、公知の種々の方法を採用できる。例えば、微粒子として、アクリル系樹脂を用いる場合は、蛍光染料を添加したモノマー組成物を溶媒中に分散或いは乳化させ、重合(懸濁重合、乳化重合、シード重合等)する方法、又は、溶液中に蛍光染料を添加したモノマー組成物を溶解させ、重合によってポリマーを析出させる分散重合法などの方法により、容易に蛍光染料を分散した微粒子(C)を得ることができる。
【0044】
微粒子としてアクリル系樹脂を用いる場合の、モノマー組成物としては、(メタ)アクリル酸エステル系単量体が使用でき、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル等のメタクリル酸エステル類等が挙げられ、中でもエステル部分の炭素数が1〜8のアクリル酸エステル類が好ましい。これらの単量体はそれぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて用いてもよく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体が全単量体中に50〜95%の割合で含有されているものが好ましい。また、単量体には、(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な他の単量体を加えてもよく、そのような他の単量体としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、酢酸ビニル等のビニル基を有する単量体が挙げられる。
【0045】
本発明において、樹脂組成物中の該微粒子(C)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、0.05〜20重量部であり、好ましくは0.5〜10重量部、更に好ましくは1.0〜5.0重量部である。該微粒子(C)の量が少なすぎると、光拡散性が不足し、一方、多すぎると光線透過率が低下する傾向がある。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、上記(A)〜(C)を必須成分として含有するが、更に、樹脂組成物の光線透過率と色相を向上させるため、リン系熱安定剤を配合するのが好ましい。リン系熱安定剤としては、亜リン酸エステル及びリン酸エステルが好ましい。
【0047】
亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、モノブチルジフエニルホスファイト、モノオクチルジフエニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2.6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル及びモノエステル等が挙げられる。
【0048】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジフェニレンホスフォナイト等が挙げられる。
【0049】
これらのリン系熱安定剤の中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2.6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等の亜リン酸エステルが好ましく、中でもビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト及びトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等のホスファイトが特に好ましい。なお、リン系熱安定剤は、単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
本発明において、樹脂組成物中のリン系熱安定剤の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、通常0.005〜0.2重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部、更に好ましくは0.02〜0.05重量部である。リン系熱安定剤の量が0.005重量部未満では、熱安定剤としての効果が小さく、0.2重量部を超えてもそれ以上の添加効果は見られず、むしろ加水分解が発生し易くなる傾向がある。
【0051】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で更に、種々の添加剤を配合することができる。例えば、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、熱安定剤、流動性改良剤、難燃剤、凝集防止剤等を添加してもよい。中でも、酸化防止剤、熱安定剤及び難燃剤から選ばれる少なくとも一種を使用するのが良い。
【0052】
本発明に関わる光拡散性樹脂組成物の製法は特に限定されるものではなく、上記(A)〜(C)成分、必要に応じて添加される熱安定剤、及びその他の添加剤の所定量を混合し、好ましくは更に混練することにより製造される。混合及び混練の際は、通常の熱可塑性樹脂に適用される方法が採用され、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリユー押出機、多軸スクリュー押出機等を使用することができる。混練の温度条件は通常、230〜300℃、好ましくは235〜280℃、更に好ましくは240〜260℃である。
【0053】
本発明の樹脂組成物を用いた成形においては、一般的な熱可塑性樹脂の成形方法を用いることができるが、例えば生産性の点から、ペレット状樹脂組成物からの射出成形、射出圧縮成形又は押出成形が可能であり、押出成形されたシート状成形品については、更に真空成形や圧空成形等を行い、目的の光拡散性部材とすることもできる。
【0054】
本発明の光拡散性部材としては、照明カバー、照明看板、透過形のスクリーン、各種ディスプレイ、液晶表示装置の光拡散シートや光拡散板が挙げられ、中でも液晶表示装置に用いる光拡散シートや光拡散板として好適であり、特に、大型液晶テレビ用の拡散板として好適に用いることができる。
【0055】
また、本発明の光拡散性部材には、光拡散性を上げるために、公知の方法でエンボス加工、V溝加工、畝状加工等、表面に凹凸加工を施しても良い。これらの加工を施すことにより、光拡散性を保持したまま、微粒子の添加量を減らすことができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
[原料]
実施例及び比較例で使用した原料を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[樹脂組成物の物性測定及び評価方法]
(1)粘度平均分子量(Mv):
ウベローデ粘度計を用い、塩化メチレンを溶媒として、20℃の極限粘度[η]を測定し、以下の式より粘度平均分子量を求めた。
【0059】
[η]=1.23×10−4×(Mv)0.83
【0060】
(1)全光線透過率およびヘイズ:
濁度計(日本電色工業社製「NDH−2000型」)を使用して、実施例及び比較例で成形した試験片の全光線透過率(%)およびヘイズ(%)を測定した。
【0061】
(2)拡散率:
MURAKAMI COLOR RESEARCH LABORATORY社製のGP−5 GONIOPHOTOMETERを使用し、以下の条件で各試験片の輝度を測定し、下式により拡散率(%)を求めた。
測定条件:入射光0°、煽り角0°、受光範囲0°〜90°、光束絞り2.0、
受光絞り3.0
拡散率(%)={(20°の輝度値+70°の輝度値)/(5°の輝度値×2)}×100
【0062】
(3)初期色相(YI):
実施例及び比較例で成形された試験片を用い、分光式色彩計(日本電色工業社製「SE−2000型」)により初期色相(YI)を測定した。
(4)UV照射後の色相(YI):
スガ試験機社製Super Xenon Weather Meterを用い、実施例及び比較例で成形された試験片に、照射強度156W/mで紫外線を600時間照射後、(3)と同様に色相(YI)を測定した。
(5)成形時の発生ガス
実施例及び比較例において、試験片のプレートを成形した後の発生ガス量を観察した。
【0063】
[実施例1〜3及び比較例1〜3]
表2に示す割合で各原料を混合した後、スクリュー径40mmのベント付単軸押出機(田辺プラスチックス機械社製「VS−40」)により、シリンダー温度250℃で溶融混練し、ストランドをカットして樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを、120℃で5〜7時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した。
【0064】
乾燥後のペレットを用い、射出成形機(日本製鋼所社製「J50」)により、温度300℃、成形サイクル40secで、90mm×50mm×2mm厚のプレートを成形した。このプレートを試験片として、上述した評価を行ない、その結果を表2に示した。
【0065】
【表2】

【0066】
表2より以下のことが明らかとなる。
(1)実施例1と比較例1とを比べると、芳香族ポリカーボネート樹脂に、ベンゾトリアゾール系アクリル共重合体の紫外線吸収剤を配合した実施例1においては、全光線透過率、ヘイズ及び拡散率に優れ、初期色相及び紫外線照射後の色相も優れるが、アクリル共重合体ではない紫外線吸収剤を使用した比較例1に比べ、成形時の発生ガスが少なくなっている。
【0067】
(2)実施例1と比較例3とを比べると、芳香族ポリカーボネート樹脂に、蛍光染料を分散させた微粒子を配合した実施例1においては、成形時の発生ガスが少なく、初期色相及び紫外線照射後の色相も良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、アクリル系共重合体からなる紫外線吸収剤(B)0.05〜20重量部、及び、蛍光染料を分散させた微粒子(C)0.05〜20重量部を含有してなることを特徴とする光拡散性部材用樹脂組成物。
【請求項2】
該紫外線吸収剤(B)が、ベンゾトリアゾール系アクリル共重合体及びベンゾフェノン系アクリル共重合体から選ばれるものである請求項1に記載の光拡散性部材用樹脂組成物。
【請求項3】
該微粒子(C)が、架橋構造を有するアクリル系樹脂である請求項1又は2に記載の光拡散性部材用樹脂組成物。
【請求項4】
該微粒子(C)に分散させた蛍光染料が、ベンゾオキサゾール系化合物及びクマリン系化合物から選ばれる蛍光増白剤である請求項1〜3のいずれかに記載の光拡散性部材用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の光拡散性部材用樹脂組成物を溶融成形してなることを特徴とする光拡散性部材。

【公開番号】特開2007−23227(P2007−23227A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210797(P2005−210797)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】