説明

光検出装置及び光検出方法

【課題】安価な装置構成により、高感度に第1の波長領域の光を検出できる光検出装置を提供する。
【解決手段】光検出装置2は、被対象物4から輻射される第一の波長領域の光を結像する光学系1と、第一の波長領域の光を吸収することにより第二の波長領域の光に対する応答が変化する光学フィルタ6と、第二の波長領域の光を発する光源8と、第二の波長領域の光の周波数を変調する光周波数変調手段10と、第二の波長領域の光を検出する光検出手段12と、第二の波長領域の光を二つの光路に分離し、一方の光を光学フィルタ6に導き、光学フィルタ6による反射光と他方の光とを光検出手段12上で重ね合わせる光学系2と、光検出手段12により取得した情報から第一の波長領域の光の強さを算出する光学応答解析手段14とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線検出方式の光検出装置及び光検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防犯用の監視カメラや暗闇で画像取得が可能な暗視カメラのように、人や物体から放射される赤外線を画像として検知する赤外線カメラの開発が、従来から進められている。近年は、防犯用途のほか、自動車に搭載し暗闇での人を検知する危険防止のためのセンシングデバイスとしての需要も高まっている。
赤外線の検出方式として、感熱抵抗体の抵抗値の温度変化を利用するボロメータがよく知られている。近年、MEMS(Micro-Electro-Mechanical-Systems)作製技術の急速な進展にともない、ボロメータ方式の赤外線カメラが数多く市場に投入されてきている。しかしながら、ボロメータ方式の赤外線カメラは受光素子自体の価格が高く、一般的な用途への赤外線の利用は限られているのが現状である。
このような課題に対し、低価格の熱電堆素子を直列または並列に接続したサーモパイルからなるサーモパイルアレイ型の赤外線イメージャも市場に出てきている。
【0003】
特許文献1には、画素要素の温度変化に伴う屈折率変化により波長がシフトする通過帯域を有するアレイ状の熱チューナブル光学フィルタ画素要素と、前記アレイ状の熱チューナブル光学フィルタ画素要素が、第2波長のフィルタ処理された光を生成するように、前記アレイ状の熱チューナブル光学フィルタ画素要素に前記第2波長の光を供給する光源と、前記アレイ状の熱チューナブル光学フィルタ画素要素から前記第2波長のフィルタ処理された光を受け取り、前記シーンの画像に対応する電気信号を生成する検出器アレイと、第1波長の光を前記アレイ状の熱チューナブル光学フィルタ画素要素に導く光学系と、を備え、前記アレイ状の熱チューナブル光学フィルタ画素要素が前記第1波長の光の少なくとも一部を熱に変換し、前記熱の少なくとも一部を吸収するカメラシステムが開示されている。
【0004】
低価格を実現する赤外線検知技術として、赤外線の吸収による温度変化にともなう光学フィルタの反射率または透過率の変化(熱光学機能)を利用して赤外線を検出する赤外線カメラシステムが提案されている。この技術によれば、熱光学機能を有する素子に、検出したい赤外線とは異なる波長領域の光を照射し、その反射光又は透過光を安価なシリコン等の受光素子によって受光することで、赤外線の受光量を検出することができる。
従って、従来のボロメータを用いた技術とは異なり、受光素子としてシリコン受光素子を用いることが可能になるため、赤外線検出装置の低価格化を実現できる(例えば、特許文献2、3参照)。
【0005】
特許文献4には、微細な凹凸による周期構造によって前記周期構造に共鳴する特定波長領域の光を反射せしめる共振モード格子を有するフィルタ素子と、被対象物から輻射される第一の波長領域の光を前記共振モード格子へ導く第一の光学系と、第二の波長領域の光を発する光源と、
前記光源が発する前記第二の波長領域の光を前記共振モード格子へ導く第二の光学系と、光の強度を検出する受光素子と、前記光源が発する前記第二の波長領域の光のうち前記共振モード格子で反射した前記特定波長領域の光を前記受光素子へ導く第三の光学系と、を有する光学システムが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された赤外線カメラシステムでは、熱チューナブル光学フィルタ画素により赤外線を受光し、熱的な光学特性の変化を異なる波長の光で検知し、安価なCMOSイメージセンサで画像化している。
したがって、安価な赤外線カメラシステムを構成することができているが、十分な光学特性の変化を得るためには大きな受光画素面積が必要であり、そのため赤外線画像の十分な空間分解能が得られていない。また、赤外線による熱チューナブル光学フィルタの特性変化が微小量であり、赤外線検出システムとして十分な感度が得られていない。
特許文献2および3に関しても、同様の理由により、赤外線検出システムとして十分な性能(感度、空間分解能)が得られておらず、製品化には至っていない。
【0007】
特許文献4に記載された赤外線撮像システムでは、特許文献1の多層膜による熱チューナブル光学フィルタに対して、平面凹凸構造を施し、面内の共鳴反射特性を利用して感度の向上を図っている。
しかしながら、微小な光学特性の変化を反射率の差として測定する原理は特許文献1と同様のものであり、赤外線カメラシステムとして大幅な性能向上は期待できない。
【0008】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたもので、安価な装置構成により、高感度に第1の波長領域の光を検出できる光検出装置の提供を、その主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、被対象物から輻射される第一の波長領域の光を結像する光学系1と、第一の波長領域の光を吸収することにより第二の波長領域の光に対する応答が変化する光学フィルタと、第二の波長領域の光を発する光源と、第二の波長領域の光の周波数を変調する光周波数変調手段と、第二の波長領域の光を検出する光検出手段と、第二の波長領域の光を二つの光路に分離し、一方の光を前記光学フィルタに導き、該光学フィルタによる反射光と他方の光とを前記光検出手段上で重ね合わせる光学系2と、前記光検出手段により取得した情報から第一の波長領域の光の強さを算出する光学応答解析手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光検出装置において、前記光源ならびに前記光周波数変調手段として半導体レーザ又は面発光レーザを用い、注入電流を制御することにより光周波数を変調することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の光検出装置において、前記光源ならびに前記光周波数変調手段として半導体レーザ又は面発光レーザを用い、前記半導体レーザ又は前記面発光レーザの温度を制御することにより光周波数を変調することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、被対象物から輻射される第一の波長領域の光を結像する光学系1と、第一の波長領域の光を吸収することにより第二の波長領域の光に対する応答が変化する光学フィルタと、第二の波長領域の光を発する光源と、第二の波長領域の光を検出する光検出手段と、第二の波長領域の光を二つの光路に分離し、一方の光を前記光学フィルタに導き、該光学フィルタによる反射光と他方の光とを前記光検出手段上で重ね合わせる光学系2と、前記光学系2において一方の光路の長さを変調する位相変調手段と、前記光検出手段により取得した情報から第一の波長領域の光の強さを算出する光学応答解析手段と、を有することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の光検出装置において、前記位相変調手段としてMEMSミラー素子を用いることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の光検出装置において、前記位相変調手段として電気光学結晶による位相変調素子を用いることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項4に記載の光検出装置において、前記位相変調手段として液晶材料による位相変調素子を用いることを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1つに記載の光検出装置において、第二の波長領域に近接した第三の波長領域の光を発する光源を有し、前記光検出手段は第二および第三の波長領域の光を検出し、前記光学系2は第二及び第三の波長領域の光をそれぞれ二つの光路に分離し、それぞれの一方の光を前記光学フィルタに導き、該光学フィルタによる反射光とそれぞれの他方の光とを前記光検出手段上で重ね合わせることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1つに記載の光検出装置において、前記光学フィルタが微細な凹凸による周期構造を有することを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1つに記載の光検出装置において、前記光学フィルタが多層膜により構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項11に記載の発明は、請求項1に記載の光検出装置において、前記光源ならびに前記光周波数変調手段として半導体レーザ又は面発光レーザを用い、注入電流を制御することにより光周波数を変調することを特徴とする光検出方法である。
請求項12に記載の発明は、請求項1に記載の光検出装置において、前記光源ならびに前記光周波数変調手段として半導体レーザ又は面発光レーザを用い、前記半導体レーザ又は前記面発光レーザの温度を制御することにより光周波数を変調することを特徴とする光検出方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安価な装置構成により、高感度に第1の波長領域の光を検出できる光検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光検出装置の概要構成図である。
【図2】光学フィルタの具体的な構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A’線での概要断面図である。
【図3】光学フィルタの画素における周期構造レイアウトを示す図である。
【図4】論理式における光路長を示す図である。
【図5】第2の実施形態に係る光検出装置の概要構成図である。
【図6】反射素子の動作を示す図である。
【図7】第3の実施形態に係る光検出装置の概要構成図である。
【図8】第4の実施形態に係る光検出装置の概要構成図である。
【図9】第5の実施形態に係る光検出装置の概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
まず、図1乃至図4に基づいて第1の実施形態(FMヘテロダイン干渉方式)を説明する。FMヘテロダイン干渉方式
図1は、本実施形態に係る光検出装置の構成図である。光検出装置2は、被対象物4から輻射される第1の波長領域の光を、光学系1を介して光学フィルタ6上に結像する構成を有している。被対象物4は、第1の波長領域の光を発する光源ともいえる。
ここで、第1の波長領域の光は、被対象物4の温度により放射される赤外線を対象としている。光学フィルタ6は、第1の波長領域の光を吸収して第2の波長領域の光に対する屈折率が変化する、すなわち熱光学効果を有する素子である。
【0017】
光検出装置2の光検出原理は、第1の波長領域の光強度に依存した光学フィルタ6の微小な屈折率変化を、第2の波長領域の光により検出することによる。
さらに、光検出装置2は、第2の波長領域の光を生成する光源8と、第2の波長領域の光の周波数(波長)を変調する光周波数変調手段10と、第2の波長領域の光を検出する光検出手段12と、干渉計を構成する光学系2と、第2の波長領域の光強度情報から第1の波長領域の光強度を算出する光学応答解析手段14を備えている。
【0018】
次に、各構成部位の詳細について説明する。光学系1は、波長7〜15μmの赤外線を集光するレンズ16およびその保持機構(不図示)により構成される。赤外線用のレンズとしては、シリコンやゲルマニウムのような半導体材料や、カルコゲナイドガラスなどのガラス材料、ポリカーボネートなどの樹脂材料を利用する。
光学フィルタ6は、熱光学効果を有する材料と、赤外線を吸収するための吸収材料により構成される。また、熱光学効果による微小な屈折率変化を高感度に測定する目的から、第2の波長領域の光に対し共鳴反射特性を示す周期構造を有している。
【0019】
図2及び図3は、光学フィルタ6の具体的な素子構成例を説明する図である。図2は、本発明の光検出装置として、二次元イメージセンサの例であり、図2(a)は画素の構成を説明する上面図、図2(b)は図2(a)のA−A’線での断面図を示している。
第2の波長領域である近赤外光に対し強い共鳴反射と構成を示すように、ホール構造からなるフォトニック結晶構造を用いている。フォトニック結晶構造を構成する材料は、第2の波長領域の光に対して吸収の少ない材料が適しており、第2の波長領域の光として波長800〜1000nmを用いる場合にはシリコンが光学特性および加工精度において適している。
【0020】
吸収膜16は、図2の上方から入射する遠赤外光(波長7〜10μm)を効率良く吸収する材料であれば良く、これを満たす材料としてSiOなどが適している。また、遠赤外線検出器としての感度を上げるためには、断熱構造であることが必要であり、シリコン構造を利用して支持基板18から浮かせた構成であり、かつ各画素も孤立、断熱されている。
図2の例では、図3(a)に示すような2次元周期配列であるフォトニック結晶構造を用いたが、図3(b)に示すようなサブ波長グレーティング構造や、図3(c)に示すような多重反射層構造を有した多層膜構造も同様に利用できる。
サブ波長グレーティング構造では、パターンの下部に導波層20を設けることにより、共鳴反射特性をもたせることが可能であることが知られている(特許文献4)。
光学フィルタ6は、吸収膜16により発生する熱の効果により屈折率変化を生じる熱光学効果を示す材料を含んでいるが、シリコンは熱光学効果の大きな材料であり、光学フィルタ6の共鳴反射構造が熱光学効果材料をも兼ねる。もちろん、熱光学効果を示す材料を別途配した構成であっても構わない。
【0021】
次に光学系2、光源8、光周波数変調手段10、ならびに光検出手段12について説明する。
光学系2は光学フィルタ6における熱による微小な屈折率変化を測定することを目的とした光学系であり、第2の波長領域の光による干渉計を構成していることを特徴とする。
光源8からの光を平行光線に変換するレンズ系22と、光線を参照光と信号光とに分離するビームスプリッタまたはハーフミラー24と、参照光を光検出手段12へ導くための反射素子26により構成されている。
ここで信号光とは、光学フィルタ6により反射される光であり、参照光とは光学フィルタ6を経由せずに光検出手段12へ入射される光である。また、光検出手段12は、第2の波長領域の光に感度のある光検出器、好ましくは多数の画素をもつイメージセンサを用いる。
特に、CMOSイメージセンサは安価であり、波長800〜1000nmの近赤外線に対しても高い感度が得られる。
【0022】
本発明の光検出装置では、FMへテロダイン干渉法による測定原理を用いている。図1では、光源と独立した光周波数変調手段10を記しているが、光源8が光周波数変調手段を兼ねた構成であっても良い。
例えば、光源8として半導体レーザを用い、光周波数変調手段として半導体レーザの注入電流に時間変調を与える電子回路を構成することにより、半導体レーザの波長を時間的に変化させることができる。
また、本発明の光検出装置を小型化し、低消費電力動作を可能とするために単一の面発光レーザ(VCSEL)を用いた構成や、VCSELアレイを用いた構成であっても良い。また、半導体レーザ(面発光レーザ)は温度に依存して波長がシフトするため、温度制御機構を用いた半導体レーザの光周波数変調方法も利用することができる。
【0023】
次に、FMヘテロダイン干渉法の原理について説明する。光源8からビームスプリッタ24を介して光学フィルタ6で反射され、光検出手段(イメージセンサ)12に入射する光線(信号光)の光路長をL1、光源8からビームスプリッタ24を透過して反射素子26により反射され、イメージセンサ12に入射する光線(参照光)の光路長をL2とすると、各光線に対する電場は式(1)のように表わすことができる。
【0024】
【数1】

【0025】
簡単のため、振幅Aは信号光、参照光において等しいものと仮定する。ここで、光周波数の時間変調の効果はω(t)として記述している。信号光と参照光は、イメージセンサ面上で干渉し、その結果得られる光強度は式(2)のようになる。
【0026】
【数2】

【0027】
光路長L1は温度に依存して変化するため、温度に依存した屈折率をn(T)、屈折率変化による微小光路長変化をΔlとして、式(3)のように記述できる。
L1=L2+Δl(n(T)) (3)
式(2)および式(3)より、光強度は式(4)のようになる。
【0028】
【数3】

【0029】
式(4)は、光周波数ω(t)と微小光路長Δlに依存して、光強度が0から2|A|の間で振動することを意味しており、この振動(時間軸上の干渉縞)の本数を一定時間間隔において計上(時間積算)することにより、Δlを推定することができる。
また、Δlとn(T)との間には、おおよそ比例関係があり、比例定数は光学フィルタを構成する材料(例えばシリコン)により既知量となっている。時間軸上の干渉縞の本数は、イメージセンサ12に接続される光学応答解析手段14として、パーソナルコンピュータや電子的なピーク検出回路により計上することができる。
実際には、式(1)の振幅Aは信号光と参照光で一致せず、また、屈折率n(T)に依存して反射光強度も変化するため、振幅の補正処理も光学応答解析手段に備えているほうが好ましい。
【0030】
以上のように、本発明の光検出装置および光検出方式(検出方法)は、安価な可視〜近赤外光(第2の波長領域)に感度のある光検出手段12と、熱に反応して光応答特性の変化する光学フィルタ6を組み合わせた構成を用い、さらに光周波数変調手段10により干渉信号の時間積算を用いることにより、高感度に遠赤外線(第1の波長領域)を検出することを可能にしている。
また、高解像度のイメージセンサを用いることにより、高い空間分解能を有する遠赤外線画像を取得することを可能にしている。
【0031】
図5及び図6に基づいて第2の実施形態(MEMSによるホモダイン干渉方式)を説明する。なお、上記実施形態と同一部分は同一符号で示し、特に必要がない限り既にした構成上及び機能上の説明は省略して要部のみ説明する(以下の他の実施形態において同じ)。
図5は、本実施形態に係る光検出装置30の構成図である。基本的な構成は第1の実施の形態と同様であり、図1の光周波数変調手段10の部分が、反射素子26の位置を変位させる位相変調手段32に置き換わっている。また、光周波数変調を必要としないため、光源8は単色(近赤外波長)の半導体レーザ、面発光レーザを用いればよい。
【0032】
次に、位相変調手段32について説明する。本実施形態の光検出装置30は、図5の光学系2において干渉計を構成しており、光路長を位相変調手段32に含まれる変位ミラーにより制御する。
変位ミラーにMEMSミラーを用いると、高速な位相変調が可能となる。
図6は、MEMSミラーの駆動機構を説明した図である。2層の静電駆動電極34、36間にスペーサ38を配することによりエアギャップ部分を設け、静電引力によりミラーを変形させることにより位相差を発生させている。静電駆動電極34、36に印加する電圧を調整することにより、ミラー稼動範囲において位相差を任意の値に制御することが可能となる。
ミラーを構成する材料はアルミなど、近赤外波長領域で高い反射率をもつものであれば良く、静電駆動電極を兼ねている。また、ミラー部分を保持する構成として、可変(有機)フィルム40を用いると変形に対する耐性があり、また、酸化や外的損傷を防ぐことができる。
【0033】
次に、光検出装置30の動作原理について説明する。図5において、2本の光線による干渉の結果、イメージセンサ12の面上で得られる光強度は式(2)に説明したものと同様である。ただし、ω(t)=ωとし、光周波数に関する時間依存性はないものとする。光路長L1は、第1の実施例と同様であり、式(3)により与えられる。ただし、L2=L20は位相変調量が0の場合の光路長である。
一方、光路長L2はMEMSミラーの変位により時間変調を受けており、次式で記述される。
L2=L20+Δs(t) (5)
結果として、イメージセンサ面上における光強度は、式(3)と式(5)を式(2)に代入して、式(6)のようになる。
【0034】
【数4】

【0035】
式(6)は、微小光路長変化ΔlとMEMSミラーによる光路長シフト量Δsとの関係において、Δl=Δsとなる時間において光強度が最大になることを示しており、Δsの時間依存性が既知であることから、Δsをスケールとして遠赤外線による光路長のシフト量が推定できる。
したがって、Δlとn(T)との比例関係から遠赤外線の光量が算出可能となる。
以上のように、本実施形態の光検出装置および光検出方式は、安価な可視〜近赤外光(第2の波長領域)に感度のある光検出手段と、熱に反応して光応答特性の変化する光学フィルタを組み合わせた構成を用い、さらに位相変調手段により参照光に位相変調を与え光学フィルタの熱応答特性を推定することにより、高感度に遠赤外線(第1の波長領域)を検出することを可能にしている。
また、高解像度のイメージセンサを用いることにより、高い空間分解能を有する遠赤外線画像を取得することを可能にしている。
本実施形態によれば、高速動作が可能であり、耐環境性の高い光検出装置を提供できる。
【0036】
図7に基づいて第3の実施形態(EO結晶によるホモダイン干渉方式)を説明する。
図7は、本実施形態に係る光検出装置50の構成図である。基本的な構成は第2の実施の形態と同様であり、図5の位相変調手段として、ビームスプリッタ24と反射素子26との間に電気光学効果を用いた位相変調手段52を配置したことを特徴としている。また、光周波数変調を必要としないため、光源8は単色(近赤外波長)の半導体レーザ、面発光レーザを用いればよい。
電気光学効果を用いた位相変調手段52について説明する。電気光学効果を生じる材料は強誘電体材料であり、BBO、LiTaO3、KTB、LiNb3、KTB、KTP、KTNなどの無機結晶、PZT、PLZTなどのセラミックス、アゾ系色素、スチルベンゼン系色素などの有機分子または有機結晶が利用できる。
電気光学効果を用いた位相変調手段52においては、可動部がなく、高速な位相変調動作が可能となる。また、経時劣化の影響を受けにくいといった特徴がある。
【0037】
光検出装置50の動作原理については、第2の実施の形態で説明した原理と同様であり、式(6)に示す光強度から、Δlを算出し、温度変化に換算すればよい。
以上のように、本実施形態の光検出装置および光検出方式は、安価な可視〜近赤外光(第2の波長領域)に感度のある光検出手段12と、熱に反応して光応答特性の変化する光学フィルタ6とを組み合わせた構成を用い、さらに電気光学効果を用いた位相変調手段52を用い、光学フィルタ6の熱応答特性を推定することにより、高感度に遠赤外線(第1の波長領域)を検出することを可能にしている。
また、高解像度のイメージセンサ12を用いることにより、高い空間分解能を有する遠赤外線画像を取得することを可能にしている。また、高速、耐環境性の高い光検出装置となっている。
【0038】
図8に基づいて第4の実施形態(液晶位相変調ホモダイン干渉方式)を説明する。
図8は、本実施形態に係る光検出装置60の構成図である。基本的な構成は第2の実施の形態と同様であり、図5の位相変調手段として、ビームスプリッタ24と反射素子26との間に液晶位相変調素子62を配置したことを特徴としている。また、光周波数変調を必要としないため、光源8は単色(近赤外波長)の半導体レーザ、面発光レーザを用いればよい。
液晶位相変調素子62は、大きな位相シフト量を得ること、ならびに安価な材料で位相変調手段を構成できることが特徴である。液晶材料は一般的に偏光異方性または複屈折性があるために、図8においては、単一の直線偏光成分だけを抽出するために液晶位相変調素子の手前に偏光板64を設けている。
液晶の配向制御により偏光異方性を解消するなどして、偏光板64を挿入しない構成を用いても構わない。
【0039】
光検出装置60の動作原理については、第2の実施の形態で説明した原理と同様であり、式(6)に示す光強度から、Δlを算出し、温度変化に換算すればよい。
以上のように、本実施形態の光検出装置および光検出方式は、安価な可視〜近赤外光(第2の波長領域)に感度のある光検出手段12と、熱に反応して光応答特性の変化する光学フィルタ6とを組み合わせた構成を用い、さらに安価に大きな位相シフト量が得られる液晶位相変調素子62を用い、光学フィルタ6の熱応答特性を推定することにより、高感度に遠赤外線(第1の波長領域)を検出することを可能にしている。
また、高解像度のイメージセンサ12を用いることにより、高い空間分解能を有する遠赤外線画像を取得することを可能にしている。
【0040】
図9に基づいて第5の実施形態(波長ヘテロダイン干渉方式)を説明する。
図9は、本実施形態に係る光検出装置70の構成図である。基本的な構成は第1の実施の形態と同様であり、図1の光源8および光周波数変調手段10の部分を、2つの波長の近接した光源8、72に置き換えた構成を有しており、波長の異なる光をイメージセンサ面上で干渉させるために反射ミラー74およびハーフミラー76を光路内に配置している。
また、光周波数変調を必要としないため、2つの異なる波長をもつ単色光源(近赤外波長)として、半導体レーザや面発光レーザを用いればよい。
光検出装置70の動作原理について説明する。イメージセンサ12に入射する光線(信号光)の光路長をL1、光源8、72からビームスプリッタ24を透過して反射素子26により反射され、イメージセンサ12に入射する光線(参照光)の光路長をL2とすると、各光線に対する電場は式(7)のように表わすことができる。
【0041】
【数5】

【0042】
簡単のため、振幅Aは信号光、参照光において等しいものと仮定し、信号光および参照光に相当する2つの光源の光周波数をω1およびω2として記述している。信号光と参照光は、イメージセンサ面上で干渉し、その結果得られる光強度は式(8)のようになる。
【0043】
【数6】

【0044】
光路長L1は、第1の実施形態における説明と同様に式(3)のように記述できる。式(3)を式(8)に代入すると、光強度は式(9)のようになる。
【0045】
【数7】

【0046】
式(9)は、遠赤外線により光学フィルタ6による反射光に微小光路長変化Δlが生じ、温度に依存した位相シフトが生じることがわかる。すなわち、光強度における干渉成分は、光源波長ωS、ωRの差周波により規定される時間振動成分と、光学系の大きさで決まる静的な位相と、遠赤外線の受光による位相で構成されており、この光強度をイメージセンサまたは光検出器で電気信号に変換することにより、位相情報は高分解能で計測することができる。
以上のように、本実施形態の光検出装置および光検出方式は、安価な可視〜近赤外光(第2の波長領域)に感度のある光検出手段12と、熱に反応して光応答特性の変化する光学フィルタ6とを組み合わせた構成を用い、さらに波長の異なる2つの光源8、72を用い、その干渉信号から光学フィルタ6の熱応答特性を推定することにより、高感度に遠赤外線(第1の波長領域)を検出することを可能にしている。
また、位相情報を電気信号に変換して取得するため、位相を高分解能に測定することができ、その結果、遠赤外線の光量を高感度に測定することを可能にしている。
【0047】
本発明に係る赤外線検出装置(光検出装置)は、暗視カメラ、監視カメラ等の撮像装置に利用できる。また、人検知などのセンシングデバイスとして利用できる。
【符号の説明】
【0048】
4 被対象物
6 光学フィルタ
8、72 光源
10 光周波数変調手段
12 光検出手段
14 光学応答解析手段
32、52、62 位相変調手段
【先行技術文献】
【特許文献】
【0049】
【特許文献1】特表2007−503622号公報
【特許文献2】特開2002‐214035号公報
【特許文献3】特開2004‐245674号公報
【特許文献4】特開2009−264888号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被対象物から輻射される第一の波長領域の光を結像する光学系1と、
第一の波長領域の光を吸収することにより第二の波長領域の光に対する応答が変化する光学フィルタと、
第二の波長領域の光を発する光源と、
第二の波長領域の光の周波数を変調する光周波数変調手段と、
第二の波長領域の光を検出する光検出手段と、
第二の波長領域の光を二つの光路に分離し、一方の光を前記光学フィルタに導き、該光学フィルタによる反射光と他方の光とを前記光検出手段上で重ね合わせる光学系2と、
前記光検出手段により取得した情報から第一の波長領域の光の強さを算出する光学応答解析手段と、
を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光検出装置において、
前記光源ならびに前記光周波数変調手段として半導体レーザ又は面発光レーザを用い、注入電流を制御することにより光周波数を変調することを特徴とする光検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光検出装置において、
前記光源ならびに前記光周波数変調手段として半導体レーザ又は面発光レーザを用い、前記半導体レーザ又は前記面発光レーザの温度を制御することにより光周波数を変調することを特徴とする光検出装置。
【請求項4】
被対象物から輻射される第一の波長領域の光を結像する光学系1と、
第一の波長領域の光を吸収することにより第二の波長領域の光に対する応答が変化する光学フィルタと、
第二の波長領域の光を発する光源と、
第二の波長領域の光を検出する光検出手段と、
第二の波長領域の光を二つの光路に分離し、一方の光を前記光学フィルタに導き、該光学フィルタによる反射光と他方の光とを前記光検出手段上で重ね合わせる光学系2と、
前記光学系2において一方の光路の長さを変調する位相変調手段と、
前記光検出手段により取得した情報から第一の波長領域の光の強さを算出する光学応答解析手段と、
を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光検出装置において、
前記位相変調手段としてMEMSミラー素子を用いることを特徴とする光検出装置。
【請求項6】
請求項4に記載の光検出装置において、
前記位相変調手段として電気光学結晶による位相変調素子を用いることを特徴とする光検出装置。
【請求項7】
請求項4に記載の光検出装置において、
前記位相変調手段として液晶材料による位相変調素子を用いることを特徴とする光検出装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の光検出装置において、
第二の波長領域に近接した第三の波長領域の光を発する光源を有し、前記光検出手段は第二および第三の波長領域の光を検出し、前記光学系2は第二及び第三の波長領域の光をそれぞれ二つの光路に分離し、それぞれの一方の光を前記光学フィルタに導き、該光学フィルタによる反射光とそれぞれの他方の光とを前記光検出手段上で重ね合わせることを特徴とする光検出装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の光検出装置において、
前記光学フィルタが微細な凹凸による周期構造を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の光検出装置において、
前記光学フィルタが多層膜により構成されていることを特徴とする光検出装置。
【請求項11】
請求項1に記載の光検出装置において、
前記光源ならびに前記光周波数変調手段として半導体レーザ又は面発光レーザを用い、注入電流を制御することにより光周波数を変調することを特徴とする光検出方法。
【請求項12】
請求項1に記載の光検出装置において、
前記光源ならびに前記光周波数変調手段として半導体レーザ又は面発光レーザを用い、前記半導体レーザ又は前記面発光レーザの温度を制御することにより光周波数を変調することを特徴とする光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−149888(P2012−149888A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6353(P2011−6353)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】