光機能ナノ材料、その作製方法、発光ダイオード及び太陽電池
【課題】可視領域において少なくとも一つの光学遷移を示す光機能ナノ材料を提供する。また、容易に光機能ナノ材料が得られる光機能ナノ材料の作製方法を提供する。低コスト化を図った発光ダイオード及び太陽電池を提供する。
【解決手段】波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、ホスト材料に導入されて、光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含むことを特徴とする。
【解決手段】波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、ホスト材料に導入されて、光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な機能又は特性が強化されたナノオーダのサイズの材料(以下、「光学的に強化されたナノ材料」又は「光機能ナノ材料」と呼ぶ。)、その作製方法、発光ダイオード及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ドープ剤を用いたナノ材料の光学的特性が、研究されている。
【0003】
半導体の光電子的特性と分子の物理的及び化学的な特性とを組み合わせた半導体ナノ結晶が開示されている(非特許文献1参照)。従来、ホスト材料に不純物原子をドープしていたが、不純物原子は、小寸の結晶核から排除され易く、さらに不純物原子の熱イオン化が強力な閉じ込めにより阻害されるため、旨く行かなかった。
【0004】
Shimは、0.3eVのエネルギによって吸収を示すn型ナノ結晶を作製するために電子移動を用いたが、不純物の存在、空気への露出、溶体の乾燥度及び温度の影響によって技術的な制限を受けることから、n型ナノ結晶は、その長期安定性を維持することが難しかった。
【0005】
別のドーピング方法として、カリウムの挿入と脱離を可逆的に行う方法も開示されており(非特許文献2参照)、このドーピング方法では、アルカリ源(例えば、カリウム)を加熱して真空蒸着をしている。例えば、未ドープの半導体化ナノチューブは、空気から吸着されると共に真空中で加熱すると除去される分子種によってドープされる。
【0006】
また、リチウム箔を備えた二電極セルを用いて、リチウムを開放型単壁カーボン・ナノチューブと電気化学的に反応させてリチウムを挿入する方法(非特許文献3参照)、またはナトリウムによってSiナノクラスタを作製する方法(非特許文献4参照)が開示されている。さらに、照射誘起欠陥又はSi/SiO2界面状態の存在に依存する光ルミネッセンスを、酸化物でのSiナノ結晶の量子閉じ込め効果とした技術も開示されている(非特許文献5)。
【0007】
一方で、化学蒸着によってSiナノ粒子を生成する方法も開示されている(非特許文献6参照)。この方法では、ケイ素(Si)のガス状化合物(例えば、シラン(SiH4)など)を加熱したチャンバ内に導入して加熱した後、他のエネルギ源(熱的エネルギ又は光源からの光子エネルギなど)によって分解してSi蒸気を結晶化し、基板上にSiナノ結晶を生成している。生成されたSiナノ結晶を二酸化ケイ素に埋設すると、酸化物がエルビウムによってドープされて緑色発光が起こることから、電子機器として利用することが可能になる。しかし、この発光は、単波長のみであり、全色には至らない。
【0008】
そこで、Siナノ結晶のサイズ分布を調整し、粒径10nm以下のSiナノ結晶のみを用いて白色光を生成する方法が開示されている(非特許文献7)。
【0009】
また、超臨界溶媒反応を用いて、Siナノ結晶を作成する方法も開示されている(非特許文献8)。この方法では、Si化合物であるジフェニルシランを、オクタノール、ヘキサン等の溶媒に混合した後、その溶液を圧力セルに入れて高圧加熱し、プロセス・パラメータに依存した各種サイズとしたSiナノ結晶としている。さらに、得られたSiナノ結晶粒子を撓曲可能な有機分子によって被覆して安定化させている。この方法では、前述した白色光を生成する方法と同様に、Siナノ結晶のサイズ分布を制御することで、各種の光を発光させることが可能であり、例えば、Siナノ結晶の粒径を1.0nm〜2.0nmにすると紫色光・青色光が生成され、粒径を2.5 nm〜4.0nmにすると緑色光・黄色光、さらにSiナノ結晶の粒径が大きくなると赤色光が生成される。
【0010】
さらに、アモルファス半導体(例えば、アモルファス・ケイ素、カルコゲニド・ガラスなど)の置換ドーピングも開示されている(非特許文献9参照)。このドーピングによれば、導電時に大電荷を誘起する欠陥生成を伴うが、欠陥生成は、ホスト原子と不純物原子との選択的な結合状態に基づき生じるものと考えられる。
【0011】
また、サイズ8nm×13nmの長寸としたCdSeナノ結晶と位置規則的ポリ(3−ヘキシルチオフェン)との複合体により構成した光起電性デバイスが開示されている(非特許文献10参照)。この光起電性デバイスは、ナノ結晶とポリマによるヘテロ結合式の光起電性デバイスに比べて、パワー変換効率が格段に優れている。このため、CdSeナノ結晶の粒径を大きくすると、エネルギの変換効率も格段に高まるが、例示した方法あるいは溶媒熱的経路を用いて任意の大寸としたロッド状のCdSeナノ結晶を合成する場合には、光起電性デバイスに不向きな不溶性の粒子となってしまう。
【0012】
白色光源及びモノクロ用途に対する発光ダイオード(LED)光の蛍光体変換についての技術が開示されている(非特許文献11参照)。LEDパッケージに大量の蛍光体を装入し、大量の青色励起光を蛍光体発光に変換するが、青の色度点は蛍光体の色度に移動し、青色励起と蛍光体を組み合わせると、“白色”発光になる。
【0013】
また、ケイ素又はゲルマニウムから成る粒子を液相合成する技術が開示されている(特許文献1参照)。この粒子は、溶媒に溶解した有機金属(テトラ−有機ケイ素あるいはテトラ−有機ゲルマニウム))から作製され、不活性雰囲気中での反応を活性化するために前駆体を光分解する光源を使用し、粒子成長を終了させる表面不動態化剤を導入している。上記プロセス間にドープ剤を導入することで、半導体粒子の電子的特性を選択的に改変することができる。
【0014】
さらに、ケイ素又はゲルマニウムから成る半導体粒子であり、選択的に量子的効果を示す粒径とした半導体粒子を液相合成する技術が開示されている(特許文献2参照)。この半導体粒子は、前駆体を光分解する波長の光を伝達する溶媒中に、有機金属(テトラ−有機ケイ素、又はテトラ−有機ゲルマニウム)を溶解したものから作製されるが、ドープ剤を導入することで、半導体粒子の電子的特性を選択的に改変している。
【0015】
また、炭素−炭素の枠組みがダイヤモンド格子の反復単位となる3次元構造の炭化水素分子も開示されている(非特許文献12)。例えば、医薬的に重要なアダマンタン等のように、より高度なダイヤモンド形の分子を原油から分離している。
【非特許文献1】ネーチャー誌、第47巻(第981〜983頁(2000年))、Shim, M. and Phillipe G.-S., G.-S.、「n型コロイド性半導体ナノ結晶」
【非特許文献2】物理論評、第61巻、第10606〜10608頁(2000年)、Bockrath et al.、「カーボン・ナノチューブ・ロープを個別に半導体化する化学ドーピング」
【非特許文献3】物理論評投稿、第88巻(1)、015502頁(2002年1月7日)、シモダ・エイチ等、「開放型単壁カーボン・ナノチューブへのリチウムの挿入:記憶容量および電子特性」
【非特許文献4】先端材料、第12巻(21号)、第1605頁(2000年11月2日)、Acker等、「固体気体反応によるケイ素ナノクラスタの合成」
【非特許文献5】材料研究学会シンポジウム論文集、第358巻第163頁(1995年)、コマダ(Komoda)等、「Si+イオン注入により形成されたSiO2におけるケイ素ナノ構造からの室温可視光線放射のための機構の制御」
【非特許文献6】電子工学時報、www.eetimes.com/story/OEG20021029S0027 (2002年11月4日)、 Brown, C.、「CMOS製造ラインに対するST発光シリコンLED」
【非特許文献7】米国エネルギ省の建築技術プログラム報告、第22〜23頁(2003年11月)、Jurbergs D. 、「固体発光:プロジェクト・ポートフォリオ、高効率白色蛍光物質としてのケイ素ナノ結晶の開発」
【非特許文献8】www.appliednanotech.net(2002年)、Yaniv等、P-00:「新規なディスプレイ材料としてのケイ素ナノ結晶発光」
【非特許文献9】材料百科事典:科学および技術、(エルセビア・サイエンス社、(2000年)) 「アモルファス半導体:ドーピング」http://www.elsevier.com/homepage/sai/emsatinfo/site/Emsat_li/site/PDFsamples/emr202025.pdf、
【非特許文献10】先端材料、第11巻(11号)、第923〜27頁(1999年)、Huynh, W.U.等、「CdSeナノ結晶ロッド/ポリ(3-ヘキシルチオフェン)光起電性複合デバイス」
【非特許文献11】量子エレクトロニクスにおける選択トピックに関するIEEE機関誌、第8巻(2号)、第339〜45頁(2002年)、Mueller-Mach, R.等、「III族−窒化物に基づく高出力蛍光体変換発光ダイオード」
【非特許文献12】www.scienceexpress.or/28 November2002/Page1/10.1126/、science.1079630、Marchand, A.P.、「ダイヤモンド形炭化水素−自然の恵みへの探求」
【特許文献1】米国特許第5,850,064号、「ケイ素及びゲルマニウムのナノ結晶材料を光分解して液相合成する方法」
【特許文献2】米国特許第6,268,041号、「サイズ分布の狭いケイ素及びゲルマニウム・ナノ結晶」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、前述したケイ素(Si)または炭素(C)などのIV族半導体は、以下の2つの理由から、光学的用途、特に、可視領域の波長を対象とした場合には不向きであった。
【0017】
第1に、IV族半導体は、伝導帯から価電子帯への遷移が間接的であるため、室温での間接的遷移は、伝導帯の最低エネルギ準位から価電子帯の最高エネルギ準位へと生じる。しかし、IV族などの間接遷移形半導体では、伝導帯の最低エネルギ準位と価電子帯の最高エネルギ準位とが、それぞれ異なる運動量ベクトル(k)に対応し、それぞれの遷移でエネルギと運動量とが同時に変化することから、遷移の確率が減少してしまう恐れがあった。
【0018】
第2に、可視領域での光学遷移は、波長700nmに対応する1.8eVから波長400nmに対応する3.1eVのエネルギ・バンドギャップが必要となるが、ケイ素及びゲルマニウムのIV族ナノ結晶は、そのエネルギ・バンドギャップが、1.1eV、0.7eVと狭く、逆に、炭素のエネルギ・バンドギャップは5.5eVと広すぎており、可視領域及びその近傍での光学用途で利用するには不向きであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の光機能ナノ材料は、波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲の外側に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、ホスト材料に導入されて、光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含むことを要旨とする。
【0020】
本発明の光機能ナノ材料の作製方法は、波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲の外側に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、ホスト材料の光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を化合させて、可視スペクトルに少なくとも一つの遷移を示す光学的に強化されたナノ材料とすることを要旨とする。
【0021】
本発明の発光ダイオードは、上記光機能ナノ材料を樹脂に分散した蛍光体層と、光子を放出するLEDチップと、有することを要旨とする。
【0022】
本発明の太陽電池は、上記光機能ナノ材料を樹脂に分散した光吸収層と、前記光吸収層の両面に設けられた電極と、を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の光機能ナノ材料によれば、アルカリ金属元素をホスト材料に導入することで、単独では光学的特性が不十分なホスト材料の光学的特性を変えて、可視領域及びその近傍での光学遷移を引き起こすことができる。
【0024】
本発明の光機能ナノ材料の作製方法によれば、可視領域及びその近傍での光学用途に使用できる蛍光体を容易に作製することができる。
【0025】
本発明の発光ダイオードによれば、低コスト化を図ることができる。
【0026】
本発明の太陽電池によれば、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照し、本発明に係る光機能ナノ材料、その作製方法、発光ダイオード及び太陽電池の実施の形態を説明する。
【0028】
本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料は、波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、ホスト材料に導入されて、光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含み、可視スペクトルにおいて光学遷移を示す材料である。このようにホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入すると、ホスト材料のエネルギ準位が変化して、ホスト材料は、可視スペクトルの範囲内で光学遷移を引き起こすようになる。
【0029】
ここで、光機能ナノ材料における“ナノ”とは、粒子の大半が粒子径100nm以下の粒子であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上が粒子径100nm以下の粒子であることを意味する。
【0030】
ホスト材料としては、可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する材料とすることが好ましい。ここで、可視スペクトルとは、3.1eVに対応する波長400nmから1.8eVに対応する波長700nmまでの範囲を意味するため、ホスト材料は、可視スペクトルの範囲内で光学遷移を示すことがなく、波長400nm未満あるいは700nmを超える光学スペクトルを示すことを意味する。
【0031】
ホスト材料は、さらに波長200nm〜400nmの紫外線(UV)の光学スペクトルを示すことが好ましく、言い換えると、3.1eVよりも大きなエネルギ・バンドギャップを有することが好ましい。
【0032】
ホスト材料としては、IV族又はIII族−V族の間接遷移形半導体に代表される間接遷移形半導体、絶縁体、トリシクロアルカン及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0033】
間接遷移形半導体は、III族−V族の直接遷移形半導体(例えば、砒化ガリウム(GaAs)など)あるいはII族−VI族の直接遷移形半導体(例えば、セレン化カドミウム(CdSe)など)よりも光学的特性の劣る半導体であり、可視スペクトルを対象とする光学用途とした場合には、そのエネルギ・バンドギャップが幅狭または幅広な半導体である。また、間接遷移形半導体では、(1)最低励起状態と最高基底状態との間のエネルギ差が、可視スペクトルの波長に対応する光子エネルギの範囲内には存在せず、(2)高励起状態から基底状態までの遷移(高い振動子強度)を比較すると、最低励起状態から最高基底状態までの光学遷移を示す確率は、より一層低くなる。
【0034】
なお、ホスト材料は、最長波長に対応する小さい振動子強度を有しており、放射性光学遷移が生じる可能性は低い。放射性光学遷移は、最高励起状態から基底状態までではなく、最低励起状態から基底状態へと生じ易くなっている。例えば、ケイ素又はゲルマニウムは、最長波長に対応する最大振動子強度を有していない。
【0035】
また、ホスト材料は、そのエネルギ・バンドギャップが幅狭である場合には、ホスト材料のサイズをナノメータ寸法等とし、そのエネルギ・バンドギャップを拡げても良い。
【0036】
さらに、バルク形態におけるホスト材料の最低励起状態と最高基底状態との間のエネルギ差が小さすぎて可視波長を包含しない場合には、ホスト材料にドープ剤を導入する前に、ホスト材料のエネルギ・バンドギャップを拡げると良い。予めホスト材料のサイズをナノメータ寸法まで小さくして、そのエネルギ・バンドギャップを拡げることで、ホスト材料にドープ剤の導入を促進することができる。
【0037】
ここで、ホスト材料は、粒子の大半が粒子径100nm以下の粒子であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上が粒子100nm以下の粒子であることが好ましい。このように、可視波長を包含するのに十分に幅広なエネルギ・バンドギャップを有するホスト材料を使用し、また、可視領域の波長を包含するのに十分に幅広のエネルギ・バンドギャップとした安定なナノ構造とするため、ホスト材料を改変する点が、本発明の特徴である。
【0038】
以下、ホスト材料の具体例を挙げるが、これらに限定されない。
【0039】
IV族の間接遷移形半導体としては、炭素(C)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0040】
III族−V族の間接遷移形半導体としては、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、砒化アルミニウム(AlAs)及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0041】
絶縁体としては、多面体オリゴマー性シルセスキオキサン、窒化ケイ素及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0042】
トリシクロアルカンとしては、炭素アダマンタン(C10H16)、ケイ素アダマンタン(Si10H16)、ゲルマニウム・アダマンタン(Ge10H16)及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0043】
また、ホスト材料は、任意に組み合わせても良く、例えば、IV族材料の組み合わせとして、炭化ケイ素とケイ素ゲルマニウム合金としても良い。また、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、炭化ケイ素、ケイ素、ゲルマニウム、多面体オリゴマー性シルセスキオキサン、窒化ケイ素、炭素アダマンタン、ケイ素アダマンタン、ゲルマニウム・アダマンタン及びこれらの組み合わせとしても良い。
【0044】
一方、ホスト材料に導入するアルカリ金属ドープ剤としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でも、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム及びこれらの混合物、さらに、リチウム、ナトリウム、カリウム及びこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0045】
アルカリ金属ドープ剤の種類及びアルカリ金属ドープ剤の濃度のいずれか一方は、ホスト材料によって示される光学遷移の波長を調整するパラメータとして使用される。このため、ホスト材料とドープ剤の種類と濃度を適切に調整することで、光機能ナノ材料の光学遷移の波長を調整することが可能となる。なお、後述するが、ホスト材料に導入するアルカリ金属ドープ剤の濃度が高くなるほど、光機能ナノ材料の光学遷移の波長も長くなる事が判明した。
【0046】
また、アルカリ金属ドープ剤は、1原子%〜20原子%の濃度で存在することが好ましく、5原子%〜10原子%の濃度とすることがより好ましい。
【0047】
さらに、アルカリ金属ドープ剤は、ホスト材料の表面に導入するか、又はホスト材料の全体に亘って分布させて導入させても良い。
【0048】
IV族元素 (例えば、炭素、ケイ素、ゲルマニウムなど)及び絶縁体(例えば、多面体オリゴマー性シルセスキオキサンなど)などから成るホスト材料に、アルカリ金属ドープ剤(例えば、ナトリウム、カリウムなど)を導入した光機能ナノ材料の光学的特性は、量子力学的シミュレーションにより調査することが可能である。例えば、サイズ1nm未満のホスト材料は、3.0eVよりも大きい幅広のエネルギ・バンドギャップを有し、可視スペクトルの範囲内では何らの光学遷移を示さない。しかし、ホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入すると、ホスト材料のエネルギ準位が劇的に変化し、可視領域及びその近傍における光学遷移が引き起こされる。このようなエネルギ準位の変化が起こるため、可視領域及びその近傍の範囲での光の放出、吸収が要求される発光ダイオードあるいは太陽電池等の用途に適用することが可能となる。
【0049】
また、本発明の光機能ナノ材料は、粒子の大半が粒子径100nm以下の粒子であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上が100nm以下の粒子であることが好ましい。
【0050】
次に、本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料の作製方法を説明する。
【0051】
本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料は、任意の方法によって作製することができる。例えば、可視スペクトルの範囲の外側における光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料に、少なくとも一種のアルカリ金屋ドープ剤を導入して、光機能ナノ材料を作製することができる。
【0052】
得られた光機能ナノ材料は、可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内において光学遷移を示すが、この光機能ナノ材料の光学スペクトルは、導入するアルカリ金属ドープ剤の種類と濃度を変えることによって調節することが可能である。
【0053】
また、ホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入する方法として、任意の方法を用いることができる。例えば、ホスト材料表面の2個の水素原子をアルカリ金属と置換することで、ホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入しても良く、一例として、ホスト材料である炭素アダマンタンの水素原子が、2個のナトリウム原子と置換されたナトリウム炭素アダマンタンを挙げることができる。
【0054】
さらに、ドープ剤を導入する他の方法として、以下の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、(1)電子工学時報、www.eetimes.com/story/ OEG20021029S0027(2002年11月4日)におけるブラウン・シーによる“CMOS製造ラインに対するST発光シリコンLED”に記述された化学蒸着;(2)SID 00ダイジェスト:第1〜2頁におけるヤニフ等のP-00:“新規なディスプレイ材料としてのケイ素ナノ結晶発光”に記述された超臨界溶媒反応;(3)米国特許第6,268,041号および米国特許第5,850,064号に記述された液相合成;(4)先端材料、第12巻(21号)、第1605頁(2000年11月2日)におけるアッカ等の“固体気体反応によるケイ素ナノクラスタの合成”における固体気体反応;(5)ネーチャー誌、第407巻:第981頁(2000年10月16日)におけるシム等の“N型コロイド性半導体ナノ結晶”に記述された、ホストに接触するアルカリ固体からホストへの拡散;(6)物理論評、第61巻、第10606〜10608頁(2000年)におけるボックラス等の“カーボン・ナノチューブ・ロープを個別に半導体化する化学ドーピング”に記述された、加熱されたアルカリ源からの真空蒸着;(7)材料百科事典:科学および技術(エルセビア・サイエンス社、2000年)のストリートによる“アモルファス半導体:ドーピング”に記述された、イオン化アルカリ原子のイオン注入;(8)物理論評投稿、第88巻(1)、015502頁(2002年1月7日)におけるシム等の“開放型単壁カーボン・ナノチューブへのリチウムの挿入:記憶容量および電子特性”に記述された、一方の電極がアルカリ金属であるという電気化学電池における反応、などが挙げられる。
【0055】
さらに、アルカリ金属ドープ剤を導入していないホスト材料と、ホスト材料にドープ剤を導入した光機能ナノ材料の光学的特性は、量子力学計算用のHyperchem (フロリダ州、ゲーンズビルのハイパーキューブ社等のコンピュータ・ソフトウェア)によって算出可能であり、アルカリ金属ドープ剤は、コンピュータ・シミュレーションによってホスト材料に導入される。尺度に対する基準を与えるために、波長と振動子強度の値が用いられる。
【0056】
ホスト材料の光学スペクトルは、(1)波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲内に光学遷移は無く、全ての光学遷移はUVスペクトルの範囲内にあり、(2)最大振動子強度は最長波長に対応していない事を示している。次に、ドープ剤(例えば、アルカリ金属原子など)を導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを算出することができる。理論に拘泥されることを意図しなければ、上記光学スペクトルは、以下の事を示している。(1)可視スペクトル及びその近傍において光学遷移を示すホスト材料のスペクトルにおける相当の変化を示す。(2)ドープ剤(例えば、アルカリ金属原子など)は、複数の光学遷移に寄与しており、可視スペクトル及びその近傍において、複数の波長における放出と吸収の可能性を生み出す。このため、発光ダイオード、太陽電池等の用途に適している。(3)スペクトルの最長波長に対応する最大振動子強度を示す。この結果は、最低励起状態から基底状態への放射性光学遷移が最も起こり易いことを意味している。ホスト材料にドープ剤(例えば、アルカリ金属原子など)を導入すると、ホスト材料の間接的性質が変化するため、効率的な発光体として使用できる可能性が生み出される。(4)光機能ナノ材料の光学遷移は、ホスト材料に導入するドープ剤の原子量が増えると長波長側にシフトするように、ドープ剤が多くなるほど、光機能ナノ材料の光学遷移も長波長へとシフトする。このため、可視スペクトル及びその近傍での光機能ナノ材料の光学遷移は、ホスト材料と、導入するドープ剤の種類とを適切に選択することで調整可能である。
【0057】
本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料は、可視スペクトル及びその近傍において光学遷移することが要求される用途に使用され、例えば、発光ダイオード(LED)等の光電子的システム、太陽電池等の光起電力電池、ナノ電子デバイスの構成要素などの用途が挙げられる。以下、本発明に係る光機能ナノ材料を発光ダイオード(LED)の蛍光体及び太陽電池の吸収層に適用した例を挙げて説明する。
【0058】
図1に、発光ダイオードを簡略化した模式図を示す。図1に示すように、発光ダイオード1は、光子を放出するLEDチップ2と、LEDチップ2の上部と側面に、透明樹脂3(例えば、エポキシ樹脂)に蛍光体粒子4を多数分散させた蛍光体層5によって封止されて構成される。
【0059】
蛍光体粒子4は、本発明に係る光機能ナノ材料から成り、LEDチップ2から放出される光子の出力経路中に載置されて、光子を吸収する。蛍光体粒子4は、光子を吸収すると、より波長の短い色を発光する。例えば、LEDチップ2は青色6、蛍光体粒子4が赤色7と緑色8を発光するように選択すると、青色6、赤色7、緑色8の3種類の色が同時に発色されて、発光ダイオード(LED)の混合出力は、白色に見えるようになる。
【0060】
また、次の理由から、本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料は、蛍光体の用途に適している。(a)ホスト材料とアルカリ金属ドープ剤とをそれぞれ組み合わせることで、可視スペクトルの範囲内で複数の輝線を得ることができる。(b)数多くの組み合わせを選択することが可能であるため、ホスト材料とアルカリ金属ドープ剤を適切に選択することで、スペクトル線を調節することができる。(c)さらに、ホスト材料に導入されるアルカリ金属原子の密度を適切に選択することで、スペクトル線を調節することができる。
【0061】
さらに、本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料を、上述した発光ダイオード(LED)の樹脂中に分散させる蛍光体粒子として用いる場合には、以下の材料を用いることが好ましい。具体的には、ドープ剤の平均濃度が、5原子%〜10原子%の範囲内であり、ホスト材料は、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、多面体オリゴマー性シルセスキオキサン、窒化ケイ素、炭素アダマンタン、ケイ素アダマンタン、及びゲルマニウム・アダマンタンの中から選択される少なくとも一種から成り、ドープ剤は、リチウム、ナトリウム及びカリウムの中から選択される少なくとも一種から成り、かつ、光機能ナノ材料の平均最大粒子寸法が10nmである材料を用いることが好ましい。
【0062】
図2は、太陽電池を単純化して示した断面図である。図2に示すように、太陽電池10は、底部電極を含む基板11上に光吸収層12を形成し、さらに光吸収層12上に透明頂部電極13を形成して構成される。
【0063】
光吸収層12は、透明樹脂(例えば、エポキシ樹脂)14中に蛍光体粒子15を分散させており、蛍光体粒子15は、本発明の光機能ナノ材料から成るものである。すなわち、蛍光体粒子15は、可視スペクトルの外側の光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含む光機能ナノ材料から形成される。
【0064】
図2に示すように、太陽電池10に太陽光16が照射されると、太陽光16は光吸収層12に吸収されて、光吸収層12で電子と正孔とが生成される。この電子と正孔のキャリアは、両側の各電極11、13に流れて電流が生成される。
【0065】
典型的な太陽電池は、半導体処理操作を用いて、結晶ケイ素から製造されるが、この方法によれば、製造コストが高くなる。これに対して、本発明に係る光機能ナノ材料を適切なポリマに混合し、得られた混合物を基板上に被覆して光吸収層を形成する方法を用いることにより、比較的低コストで大面積化した太陽電池を製造することが可能となる。
【0066】
また、太陽光は、近UVから近IRまでの非常に広範囲のスペクトルを有する。効率を高めるためには、幾つかの異なる波長により光を吸収することが望ましく、現在、この目的を達成するために、幾つかの異なる半導体が並行して使用されている。LED用途と同様に、本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料の複数のスペクトル線は、太陽のスペクトルの全体に亘って、光を吸収するために使用される。吸収スペクトルは、ホスト材料、ドープ剤及びドープ剤の密度を適切に選択することで調節することが好ましい。
【0067】
特に、太陽電池の光吸収層として使用する場合には、アルカリ金属ドープ剤の平均濃度を5原子%〜10原子%とし、ホスト材料は、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、多面体オリゴマー性シルセスキオキサン、窒化ケイ素、炭素アダマンタン、ケイ素アダマンタン、又は、ゲルマニウム・アダマンタンの内の少なくとも一種から成り、ドープ剤は、リチウム、ナトリウム又はカリウムの内の少なくとも一種から成り、かつ、光機機能ナノ材料の平均最大粒子寸法を10nmとした光機能ナノ材料を用いることが好ましい。
【0068】
以上に本発明を実施するための最良の形態を説明したが、この説明は例示的なものであって、当業者であれば容易に変更可能であり、本発明はそれに限定されず、請求の範囲の記載に従い解釈されるものとする。
【実施例】
【0069】
さらに、実施例を用いて具体的に説明する。
【0070】
参考例1
[光学的特性の計算]
アルカリ金属ドープ剤を一切含まないホスト材料と、ホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入した光機能ナノ材料の光学的特性は、量子力学計算のためのHyperchem (フロリダ州、ゲーンズビルのハイパーキューブ社(Hypercube: Gainesville, FL))を用いて計算される。このソフトウェアは、Ab Initio又は密度汎関数理論(DFT)などの第一原理的な量子力学計算方法、及びオースティン方法1(Austin Method 1)(AM1)等の半経験的方法を実行している。ナノ結晶の構造物は、以下の各段階によって(原子単位のモデルを構築する)Hyperchemのグラフィカル・ユーザ・インタフェースにより生成される。
【0071】
(a)結晶構造、単位格子の寸法、単位格子における原子及び単位格子における各原子の座標を含む結晶の単位格子の特性を決定する。例えば、全てのIV族結晶は、ダイヤモンド状の結晶構造を有しており、この場合に、単位格子は元素8個の原子を含む立方体である。立方体のサイズは、炭素0.356nm、ケイ素0.543nm、ゲルマニウム0.565nmである。
【0072】
(b)ナノ結晶を構成するために、各方向に積層される単位格子の量を決定する。例えば、各方向にケイ素の2個の単位格子を積層すると、約1nm(2×0.543nm)の寸法を有するナノ結晶が得られる。このナノ結晶は、8個の単位格子から成ると共に、64個(8×8=64)のケイ素原子を含む。
【0073】
(c)上記ナノ結晶を切り詰めると、安定な構造が得られる。実験遂行のためには、元の結晶配置を維持できる安定なナノ構造とすることが望ましい。現実に遭遇するこのような構造の例として、アダマンタンという“かご”状分子が挙げられる。アダマンタンは、対角線に沿って約0.5nmの寸法を有するダイヤモンド型結晶から構成される最小の安定な“かご”状の分子である。ここでは、炭素、ケイ素及びゲルマニウムに対するモデルとして、アダマンタンを使用する。
【0074】
(d)コンピュータ・モデルの表面を処理して、不完全な結合を除去する。コンピュータ・モデルの表面は、不完全結合に対して水素分子を付着させて不動態化される。
【0075】
参考例2
[Ab Initioを用いた量子力学計算]
参考例1の量子力学計算は、選択された基底関数系(basis set)により自己無撞着場(SCF)ハートリー・フォック計算を実施して、一群の占有軌道(基底状態)と非占軌道(励起状態)とを得たものである。次に、選択された一部の軌道により配置相互作用(CI)計算を行い、特に、励起状態に対する上記の計算を精緻化する。このCI計算によれば、Hyperchemは、ホスト材料に対して自動的にUV及び可視スペクトルを決定し、スペクトルにおける遷移の各々の波長及び振動子強度を提供する。上記基底関数系は、波動関数の数学的記述を提供する。通常、上記モデルに含まれる元素に依存し、かつ、Hyperchemソフトウェアの制限に従って、3つの基底関数系を選択する。(1)6-31G*は、水素から亜鉛までの元素に対して選択されると共に、炭素、ケイ素、酸素、水素、リチウム、ナトリウム及びカリウムに関与する計算に使用され、(2)6-311G*は、水素からクリプトンまでの元素に対して選択されると共に、ゲルマニウム、水素、リチウム、ナトリウム及びカリウムに関与する計算に使用され、(3)3-21G*は、水素からキセノンまでの元素に対して選択されると共に、ルビジウムに関与する計算に使用される。SCF計算に対する収束判定基準は、10-5kcal/molに設定される。上記CIは、9個の占有軌道と9個の非占有軌道とにより実施される。CIにおける軌道の個数を増加すれば、通常は更に正確な結果が得られるが、9個の軌道が最大である。
【0076】
参考例3
[DFTを使用する量子力学計算]
参考例1の量子力学計算は、一群の占有及び非占有エネルギ準位を求めるDFT計算を実施して行った。この場合の非占有準位と占有準位との間のエネルギ差は、光学遷移の波長を計算するために使用される。DFT計算は、一般的な混成関数B3-LYPを用いて実施される。積分に対して選択されたグリッドは、Popleの標準グリッド#1である。上記で論じられたAb Initio計算と同様に、基底関数系及び収束判定基準は同一である。
【0077】
参考例4
[量子力学計算の照合]
参考例3でのDFT計算は、第2の独立的な計算方法により参考例2のAb Initioにより求めた結果を検証するために実施される。表1は、各光機能ナノ材料に対して、Ab Initio及びDFT計算によって求めた最長光学遷移波長を示し、それぞれ比較した値である。DFTにより計算された波長は、平均して約20%だけ長い。この差は、計算アルゴリズムにおいて電子/電子相互作用を取り扱う様式に依るものである。
【表1】
【0078】
参考例5
ホスト材料として炭素アダマンタンを用いた場合の光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは、参考例1に従って決定される。そのスペクトルを図3に示し、コンピュータにより生成された炭素アダマンタンの分子モデルを図4に示す。図3では、横軸に波長(nm)、縦軸に振動子強度(遷移確率)を示す。このスペクトルによれば、炭素アダマンタンは可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内に遷移が存在せず、UVスペクトルの範囲内に遷移が存在し、最大振動子強度は最長波長に対応していない。
【0079】
参考例6
ホスト材料としてケイ素アダマンタンを用いた場合の光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは、参考例1に従って決定される。そのスペクトルを図5に示し、横軸に波長(nm)、縦軸に振動子強度(遷移確率)を示す。図5に示すスペクトルによれば、ケイ素アダマンタンは可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内に遷移が存在せず、UVスペクトルの範囲内に遷移が存在し、最大振動子強度は最長波長に対応していない。この結果、幅狭のバンドギャップを有するケイ素が、そのエネルギ・バンドギャップを拡げた場合であっても、最長光学遷移は依然としてUVスペクトルの深いところで生じることを示している。
【0080】
参考例7
ホスト材料としてゲルマニウム・アダマンタンを用いた場合の光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは、参考例1に従い決定される。そのスペクトルを図6に示し、横軸に波長(nm)、縦軸に振動子強度(遷移確率)を示す。図6に示すスペクトルによれば、ゲルマニウム・アダマンタンは可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内に遷移が存在せず、UVスペクトルの範囲内に遷移が存在し、最大振動子強度は最長波長に対応していない。この結果、幅狭のバンドギャップを有するゲルマニウムが、そのエネルギ・バンドギャップを拡げた場合であっても、最長光学遷移は依然としてUVスペクトルの深いところで生ずることを表している。
【0081】
参考例8
ホスト材料として多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)を用いた場合の光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは、参考例1に従い決定される。そのスペクトルを図7に示し、横軸に波長(nm)、縦軸に振動子強度(遷移確率)を示す。また、コンピュータにより生成された多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)の分子モデルを図8に示す。図7に示すスペクトルによれば、POSSは可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内に遷移が存在せず、UVスペクトルの範囲内に遷移が存在し、最大振動子強度も最長波長に対応していない。
【0082】
実施例1
アルカリ金属ドープ剤を含む炭素アダマンタンの光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは参考例1に従い決定される。なお、ここで、アルカリ金属原子は、ホスト材料の表面に存在する2個の水素原子を置換することで、ホスト材料にアルカリ金属原子を導入している。コンピュータ・シミュレーションにより、以下に示すA〜Dのドープ剤をホスト材料に導入した。
【0083】
A.炭素アダマンタンにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図9(a)に示す。図9(a)から、可視スペクトルの範囲内の波長540nmと655nmとに2つの遷移があることが判明した。
【0084】
B.炭素アダマンタンにナトリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図9(b)に示す。図9(b)から、可視スペクトルの範囲内の波長414nm、475nm、703nmに3つの遷移があることが判明した。
【0085】
C.炭素アダマンタンにカリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図9(c)に示す。図9(c)から、可視スペクトルの範囲内の波長459nm、594nmおよび707nmに3つの遷移があることが判明した。
【0086】
D.炭素アダマンタンにルビジウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図9(d)に示す。図9(d)から、可視スペクトルの範囲内の波長592nm、667nmに2つの遷移があることが判明した。
【0087】
アルカリ金属原子をホスト材料に導入すると、(1)可視スペクトル及びその近傍で光学遷移が得られることから、ホスト材料である炭素アダマンタンのスペクトルに相当な変化が生じ、(2)可視スペクトル及びその近傍の複数の波長における放出及び吸収の可能性を生み出す複数の光学遷移が生じ、(3)最低励起状態から基底状態への放射性光学遷移を生じ易くすることで炭素アダマンタンの間接的性質の変化が引き起こされ、これにより、組み合わせ材料を効率的な発光体として使用できる可能性が生み出される。さらに、(4)アルカリ金属原子が多くなるに従って、長波長にシフトする光学遷移が引き起こされることが判り、可視スペクトル及びその近傍での光学遷移は、選択されるホスト材料とアルカリ金属原子の種類に応じて調整可能であることが判明した。
【0088】
次に、炭素アダマンタンにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料を試作して、その光学的特性を評価した。炭素アダマンタンに対するリチウムのドープ量は、1分子あたり1原子とした(C10H15Li)。そして、この光機能ナノ材料を、用いた溶剤(THF)を蒸発させることによって凝集させ、その凝集物に350nm、370nm及び270nmの波長の光を照射して、光機能ナノ材料から発光される光を観測した。
【0089】
その結果は、図10に示すように、350nmの波長の光を照射して励起させたときには、ピーク発光波長が約480nmの光が発光され、370nmの波長の光照射して励起させたときには、ピーク発光波長が約515nmの光が発光することが確認され、発光する光のスペクトルは、励起される光の波長によってシフトすることが確認された。なお、270nmの波長の光を照射したときには、発光は確認できなかった。これにより、励起状態と基底状態の間に複数の光学遷移が存在していることが確認された。
【0090】
また、ホスト材料に導入するアルカリ金属ドープ剤の濃度を各々変えて、アルカリ金属ドープ剤の濃度と光機能ナノ材料の光学遷移の波長との関係を調べた。
【0091】
ゲルマニウム・アダマンタンをホスト材料とし、ナトリウムをアルカリ金属ドープ剤として使用した場合の、ナトリウムの濃度と光機能ナノ材料の光学遷移の波長との関係をグラフ化して、図11に示した。横軸にナトリウム原子の個数、縦軸に波長を示す。図11に示すグラフから、ナトリウムの個数が増加するにつれて、光学遷移の波長が長くなることが判っている。光学遷移が長波長化する事は、ホスト材料であるゲルマニウム・アダマンタン1分子当たり、1個から2個のナトリウム原子を導入した場合にかけて最も顕著になる。この結果から、ゲルマニウム・アダマンタンに導入されるナトリウム原子の個数は、可視スペクトルにおける光学遷移の波長を調整するパラメータとして使用することが可能である。
【0092】
なお、この確認された発光波長は、シミュレーションにより得られた結果(波長702nm振動子強度0.100、波長426nm振動子強度0.028)より少し短い波長であるが、合成した光機能ナノ材料の凝集により、波長がシフトしたものと推定される。
【0093】
また、得られた光機能ナノ材料を溶剤(THF)に分散させて、光吸収スペクトルを求めた。その結果は、図12に示すように、可視光帯域で2つの広いピークが見られた(約650nmから780nmまでのピークと、約410nmから500nmまでのピーク)。この両ピークの波長は、解析結果とほぼ一致した。
【0094】
実施例2
ホスト材料をケイ素アダマンタンとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて、以下のA〜Dに示すドープ剤をホスト材料に導入して、光学的特性のコンピュータ・シミュレーションを行った。
【0095】
A.ケイ素アダマンタンにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図13(a)に示す。図13(a)から、可視スペクトルの範囲内の波長383nmおよび411nmに2つの遷移があることが判明した。
【0096】
B.ケイ素アダマンタンにナトリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図13(b)に示す。図13(b)から、可視スペクトルの範囲内の波長407nmおよび468nmに2つの遷移があることが判明した。
【0097】
C.ケイ素アダマンタンにカリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図13(c)に示す。図13(c)から、可視スペクトルの範囲内の波長416nm、521nmおよび596nmに3つの遷移があることが判明した。
【0098】
D.ケイ素アダマンタンにルビジウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図13(d)に示す。図13(d)から、可視スペクトルの範囲内の波長430nm、542nmおよび607nmに3つの遷移があることが判明した。
【0099】
このようにホスト材料をケイ素アダマンタンに変えた場合においても、アルカリ金属元素をホスト材料に導入すると、実施例1と同様の効果が得られ、可視スペクトル及びその近傍における光学遷移は、ホスト材料とアルカリ金属原子の種類によって調整することが可能である。
【0100】
実施例3
ホスト材料をゲルマニウム・アダマンタンとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて、以下のA〜Dに示すドープ剤をホスト材料に導入して、光学的特性のコンピュータ・シミュレーションを行った。
【0101】
A.ゲルマニウム・アダマンタンにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図14(a)に示す。図14(a)から、可視スペクトルの範囲内の波長415nmおよび444nmに2つの遷移があることが判明した。
【0102】
B.ゲルマニウム・アダマンタンにナトリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図14(b)に示す。図14(b)から、可視スペクトルの範囲内の波長424nmおよび480nmに2つの遷移があることが判明した。
【0103】
C.ゲルマニウム・アダマンタンにカリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図14(c)に示し、コンピュータにより生成されたゲルマニウム・アダマンタンの分子モデルを図15に示す。図15に示すように、ドープ剤であるカリウムは、ゲルマニウム・アダマンタンの表面に存在する2個の水素原子を置換することで、ホスト材料にカリウムが導入される。また、図14(c)から、可視スペクトルの範囲内の波長409nm、536nm、605nmに3つの遷移があることが判明した。このスペクトルは、青(409nm)、緑(536nm)および橙(605nm)の各色に輝線を示す。材料は、青色を吸収し得ると共に、緑色と橙色を発光し得る。このような特徴は、異なる材料から成る複数種類の蛍光体に対する要望を少なからず満たすものである。
【0104】
D.ゲルマニウム・アダマンタンにルビジウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図14(d)に示す。図14(d)から、可視スペクトルの範囲内の波長444nm、583nm、666nmに3つの遷移があることが判明した。
【0105】
このようにホスト材料をゲルマニウム・アダマンタンに変えた場合においても、アルカリ金属元素をホスト材料に導入すると、実施例1と同様の効果が得られ、可視スペクトル及びその近傍における光学遷移は、ホスト材料とアルカリ金属原子の種類によって調整することが可能である。
【0106】
実施例4
ホスト材料を多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて、以下のA〜Dに示すドープ剤をホスト材料に導入して、光学的特性のコンピュータ・シミュレーションを行った。
【0107】
A.POSSナノ・ホストにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図16(a)に示す。図16(a)から、可視スペクトルに近い波長339nmに一つの遷移があることが判明した。
【0108】
B.POSSナノ・ホストにナトリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図16(b)に示す。図16(b)から、可視スペクトルに近い波長350nmに一つの遷移があることが判明した。この例は、ドープ剤であるナトリウムの濃度を高めると、遷移が可視スペクトルに向けて右側にシフトすることを示している。
【0109】
C.POSSナノ・ホストにカリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図16(c)に示し、コンピュータにより生成されたPOSSナノ・ホストにカリウムを導入した分子モデルを図17に示す。図17に示すように、ドープ剤であるカリウムは、POSSナノ・ホストの表面に存在する2個の水素原子を置換することで、ホスト材料にカリウムが導入される。また、図16(c)から、可視スペクトルの波長443nmに一つの遷移があることが判明した。
【0110】
D.POSSナノ・ホストにルビジウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図16(d)に示す。図16(d)から、可視スペクトルの波長469nmに一つの遷移があることが判明した。
【0111】
このようにホスト材料を多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)に変えた場合においても、アルカリ金属元素をホスト材料に導入すると、実施例1と同様の効果が得られ、可視スペクトル及びその近傍における光学遷移は、ホスト材料とアルカリ金属原子の種類によって調整することが可能である。
【0112】
実施例4
図18は、本発明における光機能ナノ材料のエネルギ準位を示す概略図である。
【0113】
励起状態0から基底状態0への遷移は、放出1として定義される。励起状態1から基底状態0への遷移は、放出2として定義される。基底状態0から励起状態2への遷移は、吸収として定義される。基底状態0から励起状態0への遷移の場合などの様に、これらの遷移の逆も生じる可能性がある。さらに、低い順位の基底状態から始まる遷移もまた生じる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の形態に係る発光ダイオードを簡略化した模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る太陽電池を単純化した断面図である。
【図3】炭素アダマンタンの光学スペクトルを示す図である。
【図4】炭素アダマンタンの分子モデルである。
【図5】ケイ素アダマンタンの光学スペクトルを示す図である。
【図6】ゲルマニウム・アダマンタンの光学スペクトルを示す図である。
【図7】多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)の光学スペクトルを示す図である。
【図8】多面体オリゴマー性シルセスキオキサンの分子モデルである。
【図9】炭素アダマンタンにアルカリ金属をドープ剤として導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを示す図であり、(a)はリチウム、(b)はナトリウム、(c)はカリウム、(d)はルビジウムをドープ剤として導入したものである。
【図10】炭素アダマンタンにリチウムをドープ剤とした導入した光機能ナノ材料から発光される光を観測した図である。
【図11】ゲルマニウム・アダマンタンをホスト材料として、ナトリウムをアルカリ金属ドープ剤とした場合の、ナトリウムの濃度と光機能ナノ材料の光学遷移の波長との関係を示したグラフである。
【図12】光機能ナノ材料を溶剤(THF)に分散させて、光吸収スペクトルを求めたグラフである。
【図13】ケイ素アダマンタンにアルカリ金属をドープ剤として導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを示す図であり、(a)はリチウム、(b)はナトリウム、(c)はカリウム、(d)はルビジウムをアルカリ金属として導入したものである。
【図14】ゲルマニウム・アダマンタンにアルカリ金属をドープ剤として導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを示す図であり、(a)はリチウム、(b)はナトリウム、(c)はカリウム、(d)はルビジウムをアルカリ金属として導入したものである。
【図15】ゲルマニウム・アダマンタンの分子モデルである。
【図16】多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)にアルカリ金属をドープ剤として導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを示す図であり、(a)はリチウム、(b)はナトリウム、(c)はカリウム、(d)はルビジウムをアルカリ金属として導入したものである。
【図17】POSSナノ・ホストにカリウムを導入した分子モデルである。
【図18】光機能ナノ材料のエネルギ準位の概略図である。
【符号の説明】
【0115】
1…発光ダイオード,
2…LEDチップ,
3…透明樹脂,
4…蛍光体粒子,
5…蛍光体層,
6…青色,
7…赤色,
8…緑色,
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な機能又は特性が強化されたナノオーダのサイズの材料(以下、「光学的に強化されたナノ材料」又は「光機能ナノ材料」と呼ぶ。)、その作製方法、発光ダイオード及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ドープ剤を用いたナノ材料の光学的特性が、研究されている。
【0003】
半導体の光電子的特性と分子の物理的及び化学的な特性とを組み合わせた半導体ナノ結晶が開示されている(非特許文献1参照)。従来、ホスト材料に不純物原子をドープしていたが、不純物原子は、小寸の結晶核から排除され易く、さらに不純物原子の熱イオン化が強力な閉じ込めにより阻害されるため、旨く行かなかった。
【0004】
Shimは、0.3eVのエネルギによって吸収を示すn型ナノ結晶を作製するために電子移動を用いたが、不純物の存在、空気への露出、溶体の乾燥度及び温度の影響によって技術的な制限を受けることから、n型ナノ結晶は、その長期安定性を維持することが難しかった。
【0005】
別のドーピング方法として、カリウムの挿入と脱離を可逆的に行う方法も開示されており(非特許文献2参照)、このドーピング方法では、アルカリ源(例えば、カリウム)を加熱して真空蒸着をしている。例えば、未ドープの半導体化ナノチューブは、空気から吸着されると共に真空中で加熱すると除去される分子種によってドープされる。
【0006】
また、リチウム箔を備えた二電極セルを用いて、リチウムを開放型単壁カーボン・ナノチューブと電気化学的に反応させてリチウムを挿入する方法(非特許文献3参照)、またはナトリウムによってSiナノクラスタを作製する方法(非特許文献4参照)が開示されている。さらに、照射誘起欠陥又はSi/SiO2界面状態の存在に依存する光ルミネッセンスを、酸化物でのSiナノ結晶の量子閉じ込め効果とした技術も開示されている(非特許文献5)。
【0007】
一方で、化学蒸着によってSiナノ粒子を生成する方法も開示されている(非特許文献6参照)。この方法では、ケイ素(Si)のガス状化合物(例えば、シラン(SiH4)など)を加熱したチャンバ内に導入して加熱した後、他のエネルギ源(熱的エネルギ又は光源からの光子エネルギなど)によって分解してSi蒸気を結晶化し、基板上にSiナノ結晶を生成している。生成されたSiナノ結晶を二酸化ケイ素に埋設すると、酸化物がエルビウムによってドープされて緑色発光が起こることから、電子機器として利用することが可能になる。しかし、この発光は、単波長のみであり、全色には至らない。
【0008】
そこで、Siナノ結晶のサイズ分布を調整し、粒径10nm以下のSiナノ結晶のみを用いて白色光を生成する方法が開示されている(非特許文献7)。
【0009】
また、超臨界溶媒反応を用いて、Siナノ結晶を作成する方法も開示されている(非特許文献8)。この方法では、Si化合物であるジフェニルシランを、オクタノール、ヘキサン等の溶媒に混合した後、その溶液を圧力セルに入れて高圧加熱し、プロセス・パラメータに依存した各種サイズとしたSiナノ結晶としている。さらに、得られたSiナノ結晶粒子を撓曲可能な有機分子によって被覆して安定化させている。この方法では、前述した白色光を生成する方法と同様に、Siナノ結晶のサイズ分布を制御することで、各種の光を発光させることが可能であり、例えば、Siナノ結晶の粒径を1.0nm〜2.0nmにすると紫色光・青色光が生成され、粒径を2.5 nm〜4.0nmにすると緑色光・黄色光、さらにSiナノ結晶の粒径が大きくなると赤色光が生成される。
【0010】
さらに、アモルファス半導体(例えば、アモルファス・ケイ素、カルコゲニド・ガラスなど)の置換ドーピングも開示されている(非特許文献9参照)。このドーピングによれば、導電時に大電荷を誘起する欠陥生成を伴うが、欠陥生成は、ホスト原子と不純物原子との選択的な結合状態に基づき生じるものと考えられる。
【0011】
また、サイズ8nm×13nmの長寸としたCdSeナノ結晶と位置規則的ポリ(3−ヘキシルチオフェン)との複合体により構成した光起電性デバイスが開示されている(非特許文献10参照)。この光起電性デバイスは、ナノ結晶とポリマによるヘテロ結合式の光起電性デバイスに比べて、パワー変換効率が格段に優れている。このため、CdSeナノ結晶の粒径を大きくすると、エネルギの変換効率も格段に高まるが、例示した方法あるいは溶媒熱的経路を用いて任意の大寸としたロッド状のCdSeナノ結晶を合成する場合には、光起電性デバイスに不向きな不溶性の粒子となってしまう。
【0012】
白色光源及びモノクロ用途に対する発光ダイオード(LED)光の蛍光体変換についての技術が開示されている(非特許文献11参照)。LEDパッケージに大量の蛍光体を装入し、大量の青色励起光を蛍光体発光に変換するが、青の色度点は蛍光体の色度に移動し、青色励起と蛍光体を組み合わせると、“白色”発光になる。
【0013】
また、ケイ素又はゲルマニウムから成る粒子を液相合成する技術が開示されている(特許文献1参照)。この粒子は、溶媒に溶解した有機金属(テトラ−有機ケイ素あるいはテトラ−有機ゲルマニウム))から作製され、不活性雰囲気中での反応を活性化するために前駆体を光分解する光源を使用し、粒子成長を終了させる表面不動態化剤を導入している。上記プロセス間にドープ剤を導入することで、半導体粒子の電子的特性を選択的に改変することができる。
【0014】
さらに、ケイ素又はゲルマニウムから成る半導体粒子であり、選択的に量子的効果を示す粒径とした半導体粒子を液相合成する技術が開示されている(特許文献2参照)。この半導体粒子は、前駆体を光分解する波長の光を伝達する溶媒中に、有機金属(テトラ−有機ケイ素、又はテトラ−有機ゲルマニウム)を溶解したものから作製されるが、ドープ剤を導入することで、半導体粒子の電子的特性を選択的に改変している。
【0015】
また、炭素−炭素の枠組みがダイヤモンド格子の反復単位となる3次元構造の炭化水素分子も開示されている(非特許文献12)。例えば、医薬的に重要なアダマンタン等のように、より高度なダイヤモンド形の分子を原油から分離している。
【非特許文献1】ネーチャー誌、第47巻(第981〜983頁(2000年))、Shim, M. and Phillipe G.-S., G.-S.、「n型コロイド性半導体ナノ結晶」
【非特許文献2】物理論評、第61巻、第10606〜10608頁(2000年)、Bockrath et al.、「カーボン・ナノチューブ・ロープを個別に半導体化する化学ドーピング」
【非特許文献3】物理論評投稿、第88巻(1)、015502頁(2002年1月7日)、シモダ・エイチ等、「開放型単壁カーボン・ナノチューブへのリチウムの挿入:記憶容量および電子特性」
【非特許文献4】先端材料、第12巻(21号)、第1605頁(2000年11月2日)、Acker等、「固体気体反応によるケイ素ナノクラスタの合成」
【非特許文献5】材料研究学会シンポジウム論文集、第358巻第163頁(1995年)、コマダ(Komoda)等、「Si+イオン注入により形成されたSiO2におけるケイ素ナノ構造からの室温可視光線放射のための機構の制御」
【非特許文献6】電子工学時報、www.eetimes.com/story/OEG20021029S0027 (2002年11月4日)、 Brown, C.、「CMOS製造ラインに対するST発光シリコンLED」
【非特許文献7】米国エネルギ省の建築技術プログラム報告、第22〜23頁(2003年11月)、Jurbergs D. 、「固体発光:プロジェクト・ポートフォリオ、高効率白色蛍光物質としてのケイ素ナノ結晶の開発」
【非特許文献8】www.appliednanotech.net(2002年)、Yaniv等、P-00:「新規なディスプレイ材料としてのケイ素ナノ結晶発光」
【非特許文献9】材料百科事典:科学および技術、(エルセビア・サイエンス社、(2000年)) 「アモルファス半導体:ドーピング」http://www.elsevier.com/homepage/sai/emsatinfo/site/Emsat_li/site/PDFsamples/emr202025.pdf、
【非特許文献10】先端材料、第11巻(11号)、第923〜27頁(1999年)、Huynh, W.U.等、「CdSeナノ結晶ロッド/ポリ(3-ヘキシルチオフェン)光起電性複合デバイス」
【非特許文献11】量子エレクトロニクスにおける選択トピックに関するIEEE機関誌、第8巻(2号)、第339〜45頁(2002年)、Mueller-Mach, R.等、「III族−窒化物に基づく高出力蛍光体変換発光ダイオード」
【非特許文献12】www.scienceexpress.or/28 November2002/Page1/10.1126/、science.1079630、Marchand, A.P.、「ダイヤモンド形炭化水素−自然の恵みへの探求」
【特許文献1】米国特許第5,850,064号、「ケイ素及びゲルマニウムのナノ結晶材料を光分解して液相合成する方法」
【特許文献2】米国特許第6,268,041号、「サイズ分布の狭いケイ素及びゲルマニウム・ナノ結晶」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、前述したケイ素(Si)または炭素(C)などのIV族半導体は、以下の2つの理由から、光学的用途、特に、可視領域の波長を対象とした場合には不向きであった。
【0017】
第1に、IV族半導体は、伝導帯から価電子帯への遷移が間接的であるため、室温での間接的遷移は、伝導帯の最低エネルギ準位から価電子帯の最高エネルギ準位へと生じる。しかし、IV族などの間接遷移形半導体では、伝導帯の最低エネルギ準位と価電子帯の最高エネルギ準位とが、それぞれ異なる運動量ベクトル(k)に対応し、それぞれの遷移でエネルギと運動量とが同時に変化することから、遷移の確率が減少してしまう恐れがあった。
【0018】
第2に、可視領域での光学遷移は、波長700nmに対応する1.8eVから波長400nmに対応する3.1eVのエネルギ・バンドギャップが必要となるが、ケイ素及びゲルマニウムのIV族ナノ結晶は、そのエネルギ・バンドギャップが、1.1eV、0.7eVと狭く、逆に、炭素のエネルギ・バンドギャップは5.5eVと広すぎており、可視領域及びその近傍での光学用途で利用するには不向きであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の光機能ナノ材料は、波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲の外側に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、ホスト材料に導入されて、光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含むことを要旨とする。
【0020】
本発明の光機能ナノ材料の作製方法は、波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲の外側に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、ホスト材料の光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を化合させて、可視スペクトルに少なくとも一つの遷移を示す光学的に強化されたナノ材料とすることを要旨とする。
【0021】
本発明の発光ダイオードは、上記光機能ナノ材料を樹脂に分散した蛍光体層と、光子を放出するLEDチップと、有することを要旨とする。
【0022】
本発明の太陽電池は、上記光機能ナノ材料を樹脂に分散した光吸収層と、前記光吸収層の両面に設けられた電極と、を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の光機能ナノ材料によれば、アルカリ金属元素をホスト材料に導入することで、単独では光学的特性が不十分なホスト材料の光学的特性を変えて、可視領域及びその近傍での光学遷移を引き起こすことができる。
【0024】
本発明の光機能ナノ材料の作製方法によれば、可視領域及びその近傍での光学用途に使用できる蛍光体を容易に作製することができる。
【0025】
本発明の発光ダイオードによれば、低コスト化を図ることができる。
【0026】
本発明の太陽電池によれば、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面を参照し、本発明に係る光機能ナノ材料、その作製方法、発光ダイオード及び太陽電池の実施の形態を説明する。
【0028】
本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料は、波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、ホスト材料に導入されて、光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含み、可視スペクトルにおいて光学遷移を示す材料である。このようにホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入すると、ホスト材料のエネルギ準位が変化して、ホスト材料は、可視スペクトルの範囲内で光学遷移を引き起こすようになる。
【0029】
ここで、光機能ナノ材料における“ナノ”とは、粒子の大半が粒子径100nm以下の粒子であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上が粒子径100nm以下の粒子であることを意味する。
【0030】
ホスト材料としては、可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する材料とすることが好ましい。ここで、可視スペクトルとは、3.1eVに対応する波長400nmから1.8eVに対応する波長700nmまでの範囲を意味するため、ホスト材料は、可視スペクトルの範囲内で光学遷移を示すことがなく、波長400nm未満あるいは700nmを超える光学スペクトルを示すことを意味する。
【0031】
ホスト材料は、さらに波長200nm〜400nmの紫外線(UV)の光学スペクトルを示すことが好ましく、言い換えると、3.1eVよりも大きなエネルギ・バンドギャップを有することが好ましい。
【0032】
ホスト材料としては、IV族又はIII族−V族の間接遷移形半導体に代表される間接遷移形半導体、絶縁体、トリシクロアルカン及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0033】
間接遷移形半導体は、III族−V族の直接遷移形半導体(例えば、砒化ガリウム(GaAs)など)あるいはII族−VI族の直接遷移形半導体(例えば、セレン化カドミウム(CdSe)など)よりも光学的特性の劣る半導体であり、可視スペクトルを対象とする光学用途とした場合には、そのエネルギ・バンドギャップが幅狭または幅広な半導体である。また、間接遷移形半導体では、(1)最低励起状態と最高基底状態との間のエネルギ差が、可視スペクトルの波長に対応する光子エネルギの範囲内には存在せず、(2)高励起状態から基底状態までの遷移(高い振動子強度)を比較すると、最低励起状態から最高基底状態までの光学遷移を示す確率は、より一層低くなる。
【0034】
なお、ホスト材料は、最長波長に対応する小さい振動子強度を有しており、放射性光学遷移が生じる可能性は低い。放射性光学遷移は、最高励起状態から基底状態までではなく、最低励起状態から基底状態へと生じ易くなっている。例えば、ケイ素又はゲルマニウムは、最長波長に対応する最大振動子強度を有していない。
【0035】
また、ホスト材料は、そのエネルギ・バンドギャップが幅狭である場合には、ホスト材料のサイズをナノメータ寸法等とし、そのエネルギ・バンドギャップを拡げても良い。
【0036】
さらに、バルク形態におけるホスト材料の最低励起状態と最高基底状態との間のエネルギ差が小さすぎて可視波長を包含しない場合には、ホスト材料にドープ剤を導入する前に、ホスト材料のエネルギ・バンドギャップを拡げると良い。予めホスト材料のサイズをナノメータ寸法まで小さくして、そのエネルギ・バンドギャップを拡げることで、ホスト材料にドープ剤の導入を促進することができる。
【0037】
ここで、ホスト材料は、粒子の大半が粒子径100nm以下の粒子であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上が粒子100nm以下の粒子であることが好ましい。このように、可視波長を包含するのに十分に幅広なエネルギ・バンドギャップを有するホスト材料を使用し、また、可視領域の波長を包含するのに十分に幅広のエネルギ・バンドギャップとした安定なナノ構造とするため、ホスト材料を改変する点が、本発明の特徴である。
【0038】
以下、ホスト材料の具体例を挙げるが、これらに限定されない。
【0039】
IV族の間接遷移形半導体としては、炭素(C)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0040】
III族−V族の間接遷移形半導体としては、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、砒化アルミニウム(AlAs)及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0041】
絶縁体としては、多面体オリゴマー性シルセスキオキサン、窒化ケイ素及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0042】
トリシクロアルカンとしては、炭素アダマンタン(C10H16)、ケイ素アダマンタン(Si10H16)、ゲルマニウム・アダマンタン(Ge10H16)及びこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0043】
また、ホスト材料は、任意に組み合わせても良く、例えば、IV族材料の組み合わせとして、炭化ケイ素とケイ素ゲルマニウム合金としても良い。また、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、炭化ケイ素、ケイ素、ゲルマニウム、多面体オリゴマー性シルセスキオキサン、窒化ケイ素、炭素アダマンタン、ケイ素アダマンタン、ゲルマニウム・アダマンタン及びこれらの組み合わせとしても良い。
【0044】
一方、ホスト材料に導入するアルカリ金属ドープ剤としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でも、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム及びこれらの混合物、さらに、リチウム、ナトリウム、カリウム及びこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0045】
アルカリ金属ドープ剤の種類及びアルカリ金属ドープ剤の濃度のいずれか一方は、ホスト材料によって示される光学遷移の波長を調整するパラメータとして使用される。このため、ホスト材料とドープ剤の種類と濃度を適切に調整することで、光機能ナノ材料の光学遷移の波長を調整することが可能となる。なお、後述するが、ホスト材料に導入するアルカリ金属ドープ剤の濃度が高くなるほど、光機能ナノ材料の光学遷移の波長も長くなる事が判明した。
【0046】
また、アルカリ金属ドープ剤は、1原子%〜20原子%の濃度で存在することが好ましく、5原子%〜10原子%の濃度とすることがより好ましい。
【0047】
さらに、アルカリ金属ドープ剤は、ホスト材料の表面に導入するか、又はホスト材料の全体に亘って分布させて導入させても良い。
【0048】
IV族元素 (例えば、炭素、ケイ素、ゲルマニウムなど)及び絶縁体(例えば、多面体オリゴマー性シルセスキオキサンなど)などから成るホスト材料に、アルカリ金属ドープ剤(例えば、ナトリウム、カリウムなど)を導入した光機能ナノ材料の光学的特性は、量子力学的シミュレーションにより調査することが可能である。例えば、サイズ1nm未満のホスト材料は、3.0eVよりも大きい幅広のエネルギ・バンドギャップを有し、可視スペクトルの範囲内では何らの光学遷移を示さない。しかし、ホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入すると、ホスト材料のエネルギ準位が劇的に変化し、可視領域及びその近傍における光学遷移が引き起こされる。このようなエネルギ準位の変化が起こるため、可視領域及びその近傍の範囲での光の放出、吸収が要求される発光ダイオードあるいは太陽電池等の用途に適用することが可能となる。
【0049】
また、本発明の光機能ナノ材料は、粒子の大半が粒子径100nm以下の粒子であり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上が100nm以下の粒子であることが好ましい。
【0050】
次に、本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料の作製方法を説明する。
【0051】
本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料は、任意の方法によって作製することができる。例えば、可視スペクトルの範囲の外側における光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料に、少なくとも一種のアルカリ金屋ドープ剤を導入して、光機能ナノ材料を作製することができる。
【0052】
得られた光機能ナノ材料は、可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内において光学遷移を示すが、この光機能ナノ材料の光学スペクトルは、導入するアルカリ金属ドープ剤の種類と濃度を変えることによって調節することが可能である。
【0053】
また、ホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入する方法として、任意の方法を用いることができる。例えば、ホスト材料表面の2個の水素原子をアルカリ金属と置換することで、ホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入しても良く、一例として、ホスト材料である炭素アダマンタンの水素原子が、2個のナトリウム原子と置換されたナトリウム炭素アダマンタンを挙げることができる。
【0054】
さらに、ドープ剤を導入する他の方法として、以下の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、(1)電子工学時報、www.eetimes.com/story/ OEG20021029S0027(2002年11月4日)におけるブラウン・シーによる“CMOS製造ラインに対するST発光シリコンLED”に記述された化学蒸着;(2)SID 00ダイジェスト:第1〜2頁におけるヤニフ等のP-00:“新規なディスプレイ材料としてのケイ素ナノ結晶発光”に記述された超臨界溶媒反応;(3)米国特許第6,268,041号および米国特許第5,850,064号に記述された液相合成;(4)先端材料、第12巻(21号)、第1605頁(2000年11月2日)におけるアッカ等の“固体気体反応によるケイ素ナノクラスタの合成”における固体気体反応;(5)ネーチャー誌、第407巻:第981頁(2000年10月16日)におけるシム等の“N型コロイド性半導体ナノ結晶”に記述された、ホストに接触するアルカリ固体からホストへの拡散;(6)物理論評、第61巻、第10606〜10608頁(2000年)におけるボックラス等の“カーボン・ナノチューブ・ロープを個別に半導体化する化学ドーピング”に記述された、加熱されたアルカリ源からの真空蒸着;(7)材料百科事典:科学および技術(エルセビア・サイエンス社、2000年)のストリートによる“アモルファス半導体:ドーピング”に記述された、イオン化アルカリ原子のイオン注入;(8)物理論評投稿、第88巻(1)、015502頁(2002年1月7日)におけるシム等の“開放型単壁カーボン・ナノチューブへのリチウムの挿入:記憶容量および電子特性”に記述された、一方の電極がアルカリ金属であるという電気化学電池における反応、などが挙げられる。
【0055】
さらに、アルカリ金属ドープ剤を導入していないホスト材料と、ホスト材料にドープ剤を導入した光機能ナノ材料の光学的特性は、量子力学計算用のHyperchem (フロリダ州、ゲーンズビルのハイパーキューブ社等のコンピュータ・ソフトウェア)によって算出可能であり、アルカリ金属ドープ剤は、コンピュータ・シミュレーションによってホスト材料に導入される。尺度に対する基準を与えるために、波長と振動子強度の値が用いられる。
【0056】
ホスト材料の光学スペクトルは、(1)波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲内に光学遷移は無く、全ての光学遷移はUVスペクトルの範囲内にあり、(2)最大振動子強度は最長波長に対応していない事を示している。次に、ドープ剤(例えば、アルカリ金属原子など)を導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを算出することができる。理論に拘泥されることを意図しなければ、上記光学スペクトルは、以下の事を示している。(1)可視スペクトル及びその近傍において光学遷移を示すホスト材料のスペクトルにおける相当の変化を示す。(2)ドープ剤(例えば、アルカリ金属原子など)は、複数の光学遷移に寄与しており、可視スペクトル及びその近傍において、複数の波長における放出と吸収の可能性を生み出す。このため、発光ダイオード、太陽電池等の用途に適している。(3)スペクトルの最長波長に対応する最大振動子強度を示す。この結果は、最低励起状態から基底状態への放射性光学遷移が最も起こり易いことを意味している。ホスト材料にドープ剤(例えば、アルカリ金属原子など)を導入すると、ホスト材料の間接的性質が変化するため、効率的な発光体として使用できる可能性が生み出される。(4)光機能ナノ材料の光学遷移は、ホスト材料に導入するドープ剤の原子量が増えると長波長側にシフトするように、ドープ剤が多くなるほど、光機能ナノ材料の光学遷移も長波長へとシフトする。このため、可視スペクトル及びその近傍での光機能ナノ材料の光学遷移は、ホスト材料と、導入するドープ剤の種類とを適切に選択することで調整可能である。
【0057】
本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料は、可視スペクトル及びその近傍において光学遷移することが要求される用途に使用され、例えば、発光ダイオード(LED)等の光電子的システム、太陽電池等の光起電力電池、ナノ電子デバイスの構成要素などの用途が挙げられる。以下、本発明に係る光機能ナノ材料を発光ダイオード(LED)の蛍光体及び太陽電池の吸収層に適用した例を挙げて説明する。
【0058】
図1に、発光ダイオードを簡略化した模式図を示す。図1に示すように、発光ダイオード1は、光子を放出するLEDチップ2と、LEDチップ2の上部と側面に、透明樹脂3(例えば、エポキシ樹脂)に蛍光体粒子4を多数分散させた蛍光体層5によって封止されて構成される。
【0059】
蛍光体粒子4は、本発明に係る光機能ナノ材料から成り、LEDチップ2から放出される光子の出力経路中に載置されて、光子を吸収する。蛍光体粒子4は、光子を吸収すると、より波長の短い色を発光する。例えば、LEDチップ2は青色6、蛍光体粒子4が赤色7と緑色8を発光するように選択すると、青色6、赤色7、緑色8の3種類の色が同時に発色されて、発光ダイオード(LED)の混合出力は、白色に見えるようになる。
【0060】
また、次の理由から、本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料は、蛍光体の用途に適している。(a)ホスト材料とアルカリ金属ドープ剤とをそれぞれ組み合わせることで、可視スペクトルの範囲内で複数の輝線を得ることができる。(b)数多くの組み合わせを選択することが可能であるため、ホスト材料とアルカリ金属ドープ剤を適切に選択することで、スペクトル線を調節することができる。(c)さらに、ホスト材料に導入されるアルカリ金属原子の密度を適切に選択することで、スペクトル線を調節することができる。
【0061】
さらに、本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料を、上述した発光ダイオード(LED)の樹脂中に分散させる蛍光体粒子として用いる場合には、以下の材料を用いることが好ましい。具体的には、ドープ剤の平均濃度が、5原子%〜10原子%の範囲内であり、ホスト材料は、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、多面体オリゴマー性シルセスキオキサン、窒化ケイ素、炭素アダマンタン、ケイ素アダマンタン、及びゲルマニウム・アダマンタンの中から選択される少なくとも一種から成り、ドープ剤は、リチウム、ナトリウム及びカリウムの中から選択される少なくとも一種から成り、かつ、光機能ナノ材料の平均最大粒子寸法が10nmである材料を用いることが好ましい。
【0062】
図2は、太陽電池を単純化して示した断面図である。図2に示すように、太陽電池10は、底部電極を含む基板11上に光吸収層12を形成し、さらに光吸収層12上に透明頂部電極13を形成して構成される。
【0063】
光吸収層12は、透明樹脂(例えば、エポキシ樹脂)14中に蛍光体粒子15を分散させており、蛍光体粒子15は、本発明の光機能ナノ材料から成るものである。すなわち、蛍光体粒子15は、可視スペクトルの外側の光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含む光機能ナノ材料から形成される。
【0064】
図2に示すように、太陽電池10に太陽光16が照射されると、太陽光16は光吸収層12に吸収されて、光吸収層12で電子と正孔とが生成される。この電子と正孔のキャリアは、両側の各電極11、13に流れて電流が生成される。
【0065】
典型的な太陽電池は、半導体処理操作を用いて、結晶ケイ素から製造されるが、この方法によれば、製造コストが高くなる。これに対して、本発明に係る光機能ナノ材料を適切なポリマに混合し、得られた混合物を基板上に被覆して光吸収層を形成する方法を用いることにより、比較的低コストで大面積化した太陽電池を製造することが可能となる。
【0066】
また、太陽光は、近UVから近IRまでの非常に広範囲のスペクトルを有する。効率を高めるためには、幾つかの異なる波長により光を吸収することが望ましく、現在、この目的を達成するために、幾つかの異なる半導体が並行して使用されている。LED用途と同様に、本発明の実施の形態に係る光機能ナノ材料の複数のスペクトル線は、太陽のスペクトルの全体に亘って、光を吸収するために使用される。吸収スペクトルは、ホスト材料、ドープ剤及びドープ剤の密度を適切に選択することで調節することが好ましい。
【0067】
特に、太陽電池の光吸収層として使用する場合には、アルカリ金属ドープ剤の平均濃度を5原子%〜10原子%とし、ホスト材料は、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、多面体オリゴマー性シルセスキオキサン、窒化ケイ素、炭素アダマンタン、ケイ素アダマンタン、又は、ゲルマニウム・アダマンタンの内の少なくとも一種から成り、ドープ剤は、リチウム、ナトリウム又はカリウムの内の少なくとも一種から成り、かつ、光機機能ナノ材料の平均最大粒子寸法を10nmとした光機能ナノ材料を用いることが好ましい。
【0068】
以上に本発明を実施するための最良の形態を説明したが、この説明は例示的なものであって、当業者であれば容易に変更可能であり、本発明はそれに限定されず、請求の範囲の記載に従い解釈されるものとする。
【実施例】
【0069】
さらに、実施例を用いて具体的に説明する。
【0070】
参考例1
[光学的特性の計算]
アルカリ金属ドープ剤を一切含まないホスト材料と、ホスト材料にアルカリ金属ドープ剤を導入した光機能ナノ材料の光学的特性は、量子力学計算のためのHyperchem (フロリダ州、ゲーンズビルのハイパーキューブ社(Hypercube: Gainesville, FL))を用いて計算される。このソフトウェアは、Ab Initio又は密度汎関数理論(DFT)などの第一原理的な量子力学計算方法、及びオースティン方法1(Austin Method 1)(AM1)等の半経験的方法を実行している。ナノ結晶の構造物は、以下の各段階によって(原子単位のモデルを構築する)Hyperchemのグラフィカル・ユーザ・インタフェースにより生成される。
【0071】
(a)結晶構造、単位格子の寸法、単位格子における原子及び単位格子における各原子の座標を含む結晶の単位格子の特性を決定する。例えば、全てのIV族結晶は、ダイヤモンド状の結晶構造を有しており、この場合に、単位格子は元素8個の原子を含む立方体である。立方体のサイズは、炭素0.356nm、ケイ素0.543nm、ゲルマニウム0.565nmである。
【0072】
(b)ナノ結晶を構成するために、各方向に積層される単位格子の量を決定する。例えば、各方向にケイ素の2個の単位格子を積層すると、約1nm(2×0.543nm)の寸法を有するナノ結晶が得られる。このナノ結晶は、8個の単位格子から成ると共に、64個(8×8=64)のケイ素原子を含む。
【0073】
(c)上記ナノ結晶を切り詰めると、安定な構造が得られる。実験遂行のためには、元の結晶配置を維持できる安定なナノ構造とすることが望ましい。現実に遭遇するこのような構造の例として、アダマンタンという“かご”状分子が挙げられる。アダマンタンは、対角線に沿って約0.5nmの寸法を有するダイヤモンド型結晶から構成される最小の安定な“かご”状の分子である。ここでは、炭素、ケイ素及びゲルマニウムに対するモデルとして、アダマンタンを使用する。
【0074】
(d)コンピュータ・モデルの表面を処理して、不完全な結合を除去する。コンピュータ・モデルの表面は、不完全結合に対して水素分子を付着させて不動態化される。
【0075】
参考例2
[Ab Initioを用いた量子力学計算]
参考例1の量子力学計算は、選択された基底関数系(basis set)により自己無撞着場(SCF)ハートリー・フォック計算を実施して、一群の占有軌道(基底状態)と非占軌道(励起状態)とを得たものである。次に、選択された一部の軌道により配置相互作用(CI)計算を行い、特に、励起状態に対する上記の計算を精緻化する。このCI計算によれば、Hyperchemは、ホスト材料に対して自動的にUV及び可視スペクトルを決定し、スペクトルにおける遷移の各々の波長及び振動子強度を提供する。上記基底関数系は、波動関数の数学的記述を提供する。通常、上記モデルに含まれる元素に依存し、かつ、Hyperchemソフトウェアの制限に従って、3つの基底関数系を選択する。(1)6-31G*は、水素から亜鉛までの元素に対して選択されると共に、炭素、ケイ素、酸素、水素、リチウム、ナトリウム及びカリウムに関与する計算に使用され、(2)6-311G*は、水素からクリプトンまでの元素に対して選択されると共に、ゲルマニウム、水素、リチウム、ナトリウム及びカリウムに関与する計算に使用され、(3)3-21G*は、水素からキセノンまでの元素に対して選択されると共に、ルビジウムに関与する計算に使用される。SCF計算に対する収束判定基準は、10-5kcal/molに設定される。上記CIは、9個の占有軌道と9個の非占有軌道とにより実施される。CIにおける軌道の個数を増加すれば、通常は更に正確な結果が得られるが、9個の軌道が最大である。
【0076】
参考例3
[DFTを使用する量子力学計算]
参考例1の量子力学計算は、一群の占有及び非占有エネルギ準位を求めるDFT計算を実施して行った。この場合の非占有準位と占有準位との間のエネルギ差は、光学遷移の波長を計算するために使用される。DFT計算は、一般的な混成関数B3-LYPを用いて実施される。積分に対して選択されたグリッドは、Popleの標準グリッド#1である。上記で論じられたAb Initio計算と同様に、基底関数系及び収束判定基準は同一である。
【0077】
参考例4
[量子力学計算の照合]
参考例3でのDFT計算は、第2の独立的な計算方法により参考例2のAb Initioにより求めた結果を検証するために実施される。表1は、各光機能ナノ材料に対して、Ab Initio及びDFT計算によって求めた最長光学遷移波長を示し、それぞれ比較した値である。DFTにより計算された波長は、平均して約20%だけ長い。この差は、計算アルゴリズムにおいて電子/電子相互作用を取り扱う様式に依るものである。
【表1】
【0078】
参考例5
ホスト材料として炭素アダマンタンを用いた場合の光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは、参考例1に従って決定される。そのスペクトルを図3に示し、コンピュータにより生成された炭素アダマンタンの分子モデルを図4に示す。図3では、横軸に波長(nm)、縦軸に振動子強度(遷移確率)を示す。このスペクトルによれば、炭素アダマンタンは可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内に遷移が存在せず、UVスペクトルの範囲内に遷移が存在し、最大振動子強度は最長波長に対応していない。
【0079】
参考例6
ホスト材料としてケイ素アダマンタンを用いた場合の光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは、参考例1に従って決定される。そのスペクトルを図5に示し、横軸に波長(nm)、縦軸に振動子強度(遷移確率)を示す。図5に示すスペクトルによれば、ケイ素アダマンタンは可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内に遷移が存在せず、UVスペクトルの範囲内に遷移が存在し、最大振動子強度は最長波長に対応していない。この結果、幅狭のバンドギャップを有するケイ素が、そのエネルギ・バンドギャップを拡げた場合であっても、最長光学遷移は依然としてUVスペクトルの深いところで生じることを示している。
【0080】
参考例7
ホスト材料としてゲルマニウム・アダマンタンを用いた場合の光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは、参考例1に従い決定される。そのスペクトルを図6に示し、横軸に波長(nm)、縦軸に振動子強度(遷移確率)を示す。図6に示すスペクトルによれば、ゲルマニウム・アダマンタンは可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内に遷移が存在せず、UVスペクトルの範囲内に遷移が存在し、最大振動子強度は最長波長に対応していない。この結果、幅狭のバンドギャップを有するゲルマニウムが、そのエネルギ・バンドギャップを拡げた場合であっても、最長光学遷移は依然としてUVスペクトルの深いところで生ずることを表している。
【0081】
参考例8
ホスト材料として多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)を用いた場合の光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは、参考例1に従い決定される。そのスペクトルを図7に示し、横軸に波長(nm)、縦軸に振動子強度(遷移確率)を示す。また、コンピュータにより生成された多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)の分子モデルを図8に示す。図7に示すスペクトルによれば、POSSは可視スペクトル(波長400nm〜700nm)の範囲内に遷移が存在せず、UVスペクトルの範囲内に遷移が存在し、最大振動子強度も最長波長に対応していない。
【0082】
実施例1
アルカリ金属ドープ剤を含む炭素アダマンタンの光学的特性のコンピュータ・シミュレーションは参考例1に従い決定される。なお、ここで、アルカリ金属原子は、ホスト材料の表面に存在する2個の水素原子を置換することで、ホスト材料にアルカリ金属原子を導入している。コンピュータ・シミュレーションにより、以下に示すA〜Dのドープ剤をホスト材料に導入した。
【0083】
A.炭素アダマンタンにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図9(a)に示す。図9(a)から、可視スペクトルの範囲内の波長540nmと655nmとに2つの遷移があることが判明した。
【0084】
B.炭素アダマンタンにナトリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図9(b)に示す。図9(b)から、可視スペクトルの範囲内の波長414nm、475nm、703nmに3つの遷移があることが判明した。
【0085】
C.炭素アダマンタンにカリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図9(c)に示す。図9(c)から、可視スペクトルの範囲内の波長459nm、594nmおよび707nmに3つの遷移があることが判明した。
【0086】
D.炭素アダマンタンにルビジウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図9(d)に示す。図9(d)から、可視スペクトルの範囲内の波長592nm、667nmに2つの遷移があることが判明した。
【0087】
アルカリ金属原子をホスト材料に導入すると、(1)可視スペクトル及びその近傍で光学遷移が得られることから、ホスト材料である炭素アダマンタンのスペクトルに相当な変化が生じ、(2)可視スペクトル及びその近傍の複数の波長における放出及び吸収の可能性を生み出す複数の光学遷移が生じ、(3)最低励起状態から基底状態への放射性光学遷移を生じ易くすることで炭素アダマンタンの間接的性質の変化が引き起こされ、これにより、組み合わせ材料を効率的な発光体として使用できる可能性が生み出される。さらに、(4)アルカリ金属原子が多くなるに従って、長波長にシフトする光学遷移が引き起こされることが判り、可視スペクトル及びその近傍での光学遷移は、選択されるホスト材料とアルカリ金属原子の種類に応じて調整可能であることが判明した。
【0088】
次に、炭素アダマンタンにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料を試作して、その光学的特性を評価した。炭素アダマンタンに対するリチウムのドープ量は、1分子あたり1原子とした(C10H15Li)。そして、この光機能ナノ材料を、用いた溶剤(THF)を蒸発させることによって凝集させ、その凝集物に350nm、370nm及び270nmの波長の光を照射して、光機能ナノ材料から発光される光を観測した。
【0089】
その結果は、図10に示すように、350nmの波長の光を照射して励起させたときには、ピーク発光波長が約480nmの光が発光され、370nmの波長の光照射して励起させたときには、ピーク発光波長が約515nmの光が発光することが確認され、発光する光のスペクトルは、励起される光の波長によってシフトすることが確認された。なお、270nmの波長の光を照射したときには、発光は確認できなかった。これにより、励起状態と基底状態の間に複数の光学遷移が存在していることが確認された。
【0090】
また、ホスト材料に導入するアルカリ金属ドープ剤の濃度を各々変えて、アルカリ金属ドープ剤の濃度と光機能ナノ材料の光学遷移の波長との関係を調べた。
【0091】
ゲルマニウム・アダマンタンをホスト材料とし、ナトリウムをアルカリ金属ドープ剤として使用した場合の、ナトリウムの濃度と光機能ナノ材料の光学遷移の波長との関係をグラフ化して、図11に示した。横軸にナトリウム原子の個数、縦軸に波長を示す。図11に示すグラフから、ナトリウムの個数が増加するにつれて、光学遷移の波長が長くなることが判っている。光学遷移が長波長化する事は、ホスト材料であるゲルマニウム・アダマンタン1分子当たり、1個から2個のナトリウム原子を導入した場合にかけて最も顕著になる。この結果から、ゲルマニウム・アダマンタンに導入されるナトリウム原子の個数は、可視スペクトルにおける光学遷移の波長を調整するパラメータとして使用することが可能である。
【0092】
なお、この確認された発光波長は、シミュレーションにより得られた結果(波長702nm振動子強度0.100、波長426nm振動子強度0.028)より少し短い波長であるが、合成した光機能ナノ材料の凝集により、波長がシフトしたものと推定される。
【0093】
また、得られた光機能ナノ材料を溶剤(THF)に分散させて、光吸収スペクトルを求めた。その結果は、図12に示すように、可視光帯域で2つの広いピークが見られた(約650nmから780nmまでのピークと、約410nmから500nmまでのピーク)。この両ピークの波長は、解析結果とほぼ一致した。
【0094】
実施例2
ホスト材料をケイ素アダマンタンとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて、以下のA〜Dに示すドープ剤をホスト材料に導入して、光学的特性のコンピュータ・シミュレーションを行った。
【0095】
A.ケイ素アダマンタンにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図13(a)に示す。図13(a)から、可視スペクトルの範囲内の波長383nmおよび411nmに2つの遷移があることが判明した。
【0096】
B.ケイ素アダマンタンにナトリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図13(b)に示す。図13(b)から、可視スペクトルの範囲内の波長407nmおよび468nmに2つの遷移があることが判明した。
【0097】
C.ケイ素アダマンタンにカリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図13(c)に示す。図13(c)から、可視スペクトルの範囲内の波長416nm、521nmおよび596nmに3つの遷移があることが判明した。
【0098】
D.ケイ素アダマンタンにルビジウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図13(d)に示す。図13(d)から、可視スペクトルの範囲内の波長430nm、542nmおよび607nmに3つの遷移があることが判明した。
【0099】
このようにホスト材料をケイ素アダマンタンに変えた場合においても、アルカリ金属元素をホスト材料に導入すると、実施例1と同様の効果が得られ、可視スペクトル及びその近傍における光学遷移は、ホスト材料とアルカリ金属原子の種類によって調整することが可能である。
【0100】
実施例3
ホスト材料をゲルマニウム・アダマンタンとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて、以下のA〜Dに示すドープ剤をホスト材料に導入して、光学的特性のコンピュータ・シミュレーションを行った。
【0101】
A.ゲルマニウム・アダマンタンにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図14(a)に示す。図14(a)から、可視スペクトルの範囲内の波長415nmおよび444nmに2つの遷移があることが判明した。
【0102】
B.ゲルマニウム・アダマンタンにナトリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図14(b)に示す。図14(b)から、可視スペクトルの範囲内の波長424nmおよび480nmに2つの遷移があることが判明した。
【0103】
C.ゲルマニウム・アダマンタンにカリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図14(c)に示し、コンピュータにより生成されたゲルマニウム・アダマンタンの分子モデルを図15に示す。図15に示すように、ドープ剤であるカリウムは、ゲルマニウム・アダマンタンの表面に存在する2個の水素原子を置換することで、ホスト材料にカリウムが導入される。また、図14(c)から、可視スペクトルの範囲内の波長409nm、536nm、605nmに3つの遷移があることが判明した。このスペクトルは、青(409nm)、緑(536nm)および橙(605nm)の各色に輝線を示す。材料は、青色を吸収し得ると共に、緑色と橙色を発光し得る。このような特徴は、異なる材料から成る複数種類の蛍光体に対する要望を少なからず満たすものである。
【0104】
D.ゲルマニウム・アダマンタンにルビジウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図14(d)に示す。図14(d)から、可視スペクトルの範囲内の波長444nm、583nm、666nmに3つの遷移があることが判明した。
【0105】
このようにホスト材料をゲルマニウム・アダマンタンに変えた場合においても、アルカリ金属元素をホスト材料に導入すると、実施例1と同様の効果が得られ、可視スペクトル及びその近傍における光学遷移は、ホスト材料とアルカリ金属原子の種類によって調整することが可能である。
【0106】
実施例4
ホスト材料を多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて、以下のA〜Dに示すドープ剤をホスト材料に導入して、光学的特性のコンピュータ・シミュレーションを行った。
【0107】
A.POSSナノ・ホストにリチウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図16(a)に示す。図16(a)から、可視スペクトルに近い波長339nmに一つの遷移があることが判明した。
【0108】
B.POSSナノ・ホストにナトリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図16(b)に示す。図16(b)から、可視スペクトルに近い波長350nmに一つの遷移があることが判明した。この例は、ドープ剤であるナトリウムの濃度を高めると、遷移が可視スペクトルに向けて右側にシフトすることを示している。
【0109】
C.POSSナノ・ホストにカリウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図16(c)に示し、コンピュータにより生成されたPOSSナノ・ホストにカリウムを導入した分子モデルを図17に示す。図17に示すように、ドープ剤であるカリウムは、POSSナノ・ホストの表面に存在する2個の水素原子を置換することで、ホスト材料にカリウムが導入される。また、図16(c)から、可視スペクトルの波長443nmに一つの遷移があることが判明した。
【0110】
D.POSSナノ・ホストにルビジウムをドープ剤として導入した光機能ナノ材料のスペクトルを図16(d)に示す。図16(d)から、可視スペクトルの波長469nmに一つの遷移があることが判明した。
【0111】
このようにホスト材料を多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)に変えた場合においても、アルカリ金属元素をホスト材料に導入すると、実施例1と同様の効果が得られ、可視スペクトル及びその近傍における光学遷移は、ホスト材料とアルカリ金属原子の種類によって調整することが可能である。
【0112】
実施例4
図18は、本発明における光機能ナノ材料のエネルギ準位を示す概略図である。
【0113】
励起状態0から基底状態0への遷移は、放出1として定義される。励起状態1から基底状態0への遷移は、放出2として定義される。基底状態0から励起状態2への遷移は、吸収として定義される。基底状態0から励起状態0への遷移の場合などの様に、これらの遷移の逆も生じる可能性がある。さらに、低い順位の基底状態から始まる遷移もまた生じる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の形態に係る発光ダイオードを簡略化した模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る太陽電池を単純化した断面図である。
【図3】炭素アダマンタンの光学スペクトルを示す図である。
【図4】炭素アダマンタンの分子モデルである。
【図5】ケイ素アダマンタンの光学スペクトルを示す図である。
【図6】ゲルマニウム・アダマンタンの光学スペクトルを示す図である。
【図7】多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)の光学スペクトルを示す図である。
【図8】多面体オリゴマー性シルセスキオキサンの分子モデルである。
【図9】炭素アダマンタンにアルカリ金属をドープ剤として導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを示す図であり、(a)はリチウム、(b)はナトリウム、(c)はカリウム、(d)はルビジウムをドープ剤として導入したものである。
【図10】炭素アダマンタンにリチウムをドープ剤とした導入した光機能ナノ材料から発光される光を観測した図である。
【図11】ゲルマニウム・アダマンタンをホスト材料として、ナトリウムをアルカリ金属ドープ剤とした場合の、ナトリウムの濃度と光機能ナノ材料の光学遷移の波長との関係を示したグラフである。
【図12】光機能ナノ材料を溶剤(THF)に分散させて、光吸収スペクトルを求めたグラフである。
【図13】ケイ素アダマンタンにアルカリ金属をドープ剤として導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを示す図であり、(a)はリチウム、(b)はナトリウム、(c)はカリウム、(d)はルビジウムをアルカリ金属として導入したものである。
【図14】ゲルマニウム・アダマンタンにアルカリ金属をドープ剤として導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを示す図であり、(a)はリチウム、(b)はナトリウム、(c)はカリウム、(d)はルビジウムをアルカリ金属として導入したものである。
【図15】ゲルマニウム・アダマンタンの分子モデルである。
【図16】多面体オリゴマー性シルセスキオキサン(POSS)にアルカリ金属をドープ剤として導入した光機能ナノ材料の光学スペクトルを示す図であり、(a)はリチウム、(b)はナトリウム、(c)はカリウム、(d)はルビジウムをアルカリ金属として導入したものである。
【図17】POSSナノ・ホストにカリウムを導入した分子モデルである。
【図18】光機能ナノ材料のエネルギ準位の概略図である。
【符号の説明】
【0115】
1…発光ダイオード,
2…LEDチップ,
3…透明樹脂,
4…蛍光体粒子,
5…蛍光体層,
6…青色,
7…赤色,
8…緑色,
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、前記ホスト材料に導入されて、光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含むことを特徴とする光機能ナノ材料。
【請求項2】
前記ホスト材料は、3.1eVよりも大きいエネルギ・バンドギャップを持つ光学スペクトルを有することを特徴とする請求項1記載の光機能ナノ材料。
【請求項3】
前記アルカリ金属ドープ剤は、1原子%から20原子%までの範囲の濃度で存在することを特徴とする請求項1又は2記載の光機能ナノ材料。
【請求項4】
前記ホスト材料は、間接遷移形半導体、絶縁体及びトリシクロアルカンの中から選択されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光機能ナノ材料。
【請求項5】
前記アルカリ金属ドープ剤は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムの中から選択される一種であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光機能ナノ材料。
【請求項6】
前記光機能ナノ材料の80%以上が、粒子径100nm以下の粒子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項の記載の光機能ナノ材料。
【請求項7】
波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、前記ホスト材料の光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を化合させて、前記可視スペクトルの範囲内に遷移を示し、光学的に強化されたナノ材料とすることを特徴とする光機能ナノ材料の作製方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光機能ナノ材料を樹脂に分散した蛍光体層と、光子を放出するLEDチップと、を有することを特徴とする発光ダイオード。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光機能ナノ材料を樹脂に分散した光吸収層と、前記光吸収層の両面に設けられた電極と、を有することを特徴とする太陽電池。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のナノ材料から成る樹脂に分散された蛍光体。
【請求項1】
波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、前記ホスト材料に導入されて、光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を含むことを特徴とする光機能ナノ材料。
【請求項2】
前記ホスト材料は、3.1eVよりも大きいエネルギ・バンドギャップを持つ光学スペクトルを有することを特徴とする請求項1記載の光機能ナノ材料。
【請求項3】
前記アルカリ金属ドープ剤は、1原子%から20原子%までの範囲の濃度で存在することを特徴とする請求項1又は2記載の光機能ナノ材料。
【請求項4】
前記ホスト材料は、間接遷移形半導体、絶縁体及びトリシクロアルカンの中から選択されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光機能ナノ材料。
【請求項5】
前記アルカリ金属ドープ剤は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムの中から選択される一種であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光機能ナノ材料。
【請求項6】
前記光機能ナノ材料の80%以上が、粒子径100nm以下の粒子であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項の記載の光機能ナノ材料。
【請求項7】
波長400nmから700nmまでの可視スペクトルの範囲外に光学スペクトルを有する少なくとも一種のホスト材料と、前記ホスト材料の光学スペクトルを調節する少なくとも一種のアルカリ金属ドープ剤と、を化合させて、前記可視スペクトルの範囲内に遷移を示し、光学的に強化されたナノ材料とすることを特徴とする光機能ナノ材料の作製方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光機能ナノ材料を樹脂に分散した蛍光体層と、光子を放出するLEDチップと、を有することを特徴とする発光ダイオード。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光機能ナノ材料を樹脂に分散した光吸収層と、前記光吸収層の両面に設けられた電極と、を有することを特徴とする太陽電池。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のナノ材料から成る樹脂に分散された蛍光体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−119535(P2007−119535A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310497(P2005−310497)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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