説明

光沢品の外観検査装置、プログラム

【課題】光沢面の角度の情報を光学的に明度と色に変換し、変換後の画像から得られる明度と色から光沢面の角度を抽出することにより、光沢面の外観の検査を容易にする。
【解決手段】光源1は、第1の偏光要素4を通して光沢を有する検査対象7に円偏光を照射する。撮像装置2は、楕円偏光を直線偏光にする第2の偏光要素5を通して検査対象を撮像する。処理装置3は、撮像装置2から撮像した画像から抽出される画素ごとの明度と色との情報を用いて検査対象7の表面の角度に換算する換算部33と、画素ごとの角度をグループ化することにより同じ角度を有した平面を抽出する面抽出部34とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に光沢を有する検査対象について、画像を用いて検査対象の外観を検査する光沢品の外観検査装置、外観検査装置に用いるプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、画像を用いて検査対象の外観を検査する外観検査装置が種々知られている。この種の外観検査装置は、コンピュータ画像処理の技術を用いることにより、たとえば、検査対象の表面の傷、凹凸、しわなどの欠陥を検出するために広く用いられている。この目的を達成するために、外観検査装置は、検査対象の表面を照明する照明装置と、照明された検査対象を撮像する撮像装置と、撮像装置から取得した画像をコンピュータ画像処理の技術により解析する処理装置とを基本構成として備える。
【0003】
ところで、検査対象の種類や検査項目の種類に応じて処理装置での処理の内容が異なるのはもちろんのこと、処理装置での処理が容易になる画像が得られるように、照明装置や撮像装置についても種々の技術が提案されている。とくに、検査対象の表面が拡散反射性を有するとともに光沢を有している場合には、検査対象の表面で反射され撮像装置に入射する光量が、光沢を有していない検査対象よりも増加し、傷のような欠陥を画像内で見分けることが難しくなる。
【0004】
特許文献1には、特定の野菜や果実、人体の肌のように、表面に光沢を有する対象物について光沢性を検出する技術が記載されている。特許文献1に記載された装置は、同軸落射方式で照明を行い、ハーフミラーと対象物との間に直線偏光子と四分の一波長板とからなる光アイソレータを配置した構成を備える。
【0005】
光源からの光は、光アイソレータを通ることにより円偏光に変えられて対象物の表面に照射される。また、対象物の表面において鏡面反射された成分は、逆回転方向の円偏光となって光アイソレータを逆向きに通過し直線偏光に変えられる。この構成では、対象物の表面で鏡面反射された成分のうちの一部しか光アイソレータを通過することができない。つまり、対象物で鏡面反射された反射光の大部分は光アイソレータで除去され、撮像装置は、鏡面反射(つまり、光沢)の成分を含まず光沢成分が除去された画像を撮像することになる。
【0006】
特許文献1では、光アイソレータが光沢成分を除去する機能を利用し、光アイソレータを介さずに撮像した対象物の画像と、光アイソレータを介して撮像した対象物の画像との差により、光沢成分のみを抽出した画像を生成している。
【0007】
特許文献1に記載された技術は、光沢を有する対象物に円偏光の光を照射すると正反射光も円偏光になることが利用されていると考えられる。すなわち、特許文献1に記載された技術は、以下の原理に基づいていると考えられる。
【0008】
すなわち、正反射光は、円偏光であるから、一方向の直線偏光成分のみを通過させる光アイソレータを通過することができず、実質的に正反射光の成分が除去される。また、光源から対象物に照射された光のうち正反射光ではない拡散反射光の成分や光源からの光ではない環境光の成分は、光アイソレータを通過可能な成分が正反射光よりも大幅に多いから、正反射光の成分のみが除去されることになる。したがって、光アイソレータを介して撮像装置が撮像した画像は、光源から対象物に照射された光のうち正反射光の成分のみが除去された画像になるのである。
【0009】
上述したように、特許文献1には、対象物の光沢成分を除去した画像を得る機能と、対象物の光沢成分のみを含む画像を得る機能とが記載されている。また、特許文献1に記載された光沢像検出方法は、これらの機能を実現するために同軸落射方式で照明を行うことが必要になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−281144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献1には、同軸落射方式で照明を行うことによって対象物における光沢成分を抽出する技術が記載され、光沢成分を抽出するために光沢成分を含まない画像を生成する技術についても言及されている。しかしながら、特許文献1に記載された技術では、対象物において光沢を有する領域内に刻印、傷などが存在する場合に、周囲光の光量が多いために、これらを識別することは困難である。また、光沢を有する領域に高低差の小さい凹凸やうねりがある場合にも画像内では濃度差がほとんど得られないから、識別は困難である。このように、光沢面における外観の検査は容易に行うことができないという問題がある。前者の問題はダイナミックレンジの大きい撮像装置を用いることにより、解決可能と考えられるが、ダイナミックレンジの大きい撮像装置は高価であり、工業用の用途において実用的ではない。
【0012】
本発明は、光沢面の角度の情報を光学的に明度と色との少なくとも一方の情報に変換し、変換後の画像から得られる明度と色との少なくとも一方の情報を光沢面の角度に換算することにより、光沢面の外観の検査を容易にした光沢品の外観検査装置を提供することを目的とする。また、外観検査装置に用いるプログラムを提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る光沢品の外観検査装置は、光沢を有する検査対象に光を照射する光源と、検査対象を撮像する撮像装置と、撮像装置から取得した画像を用いて検査対象の表面の面の向きを検出する処理装置と、光源から出力された光を円偏光にして検査対象に照射させる第1の偏光要素と、検査対象からの反射光を直線偏光にして撮像装置に入射させる第2の偏光要素とを備え、処理装置は、撮像装置が撮像した画像から抽出される画素ごとの明度と色との少なくとも一方の情報を検査対象の表面の角度に換算する換算部と、画素ごとの角度をグループ化することにより同じ角度を有した平面を抽出する面抽出部とを備えることを特徴とする。
【0014】
この光沢品の外観検査装置において、撮像装置は、カラー画像を撮像するカメラを備え、換算部は、カラー画像から抽出された色と明度とを組み合わせを検査対象の表面の角度に換算することが好ましい。
【0015】
また、この光沢品の外観検査装置において、撮像装置は、所定の波長域の光を透過させる色選択用の光学フィルタと、光学フィルタを通して検査対象のモノクロ画像を撮像するカメラとを備え、換算部は、モノクロ画像から抽出された明度を検査対象の表面の角度に換算する構成であってもよい。
【0016】
あるいはまた、この光沢品の外観検査装置において、光源は、発光波長が単一波長であり、撮像装置は、検査対象のモノクロ画像を撮像するカメラを備え、換算部は、モノクロ画像から抽出された明度を検査対象の表面の角度に換算する構成であってもよい。
【0017】
この光沢品の外観検査装置において、第2の偏光要素は偏光の方向が可変であって、処理装置は第2の偏光要素の偏光の方向を指示する機能と、第2の偏光要素の偏光の方向が異なる複数枚の画像を取得する機能とを備え、換算部は、偏光の方向および画素の明度の複数の組み合わせを、検査対象の表面の角度に換算することがさらに好ましい。
【0018】
この光沢品の外観検査装置において、第2の偏光要素は、四分の一波長板と偏光板とを重ね合わせて構成されていることが好ましい。
【0019】
この光沢品の外観検査装置において、第1の偏光要素と第2の偏光要素とは兼用されていることが好ましい。
【0020】
この光沢品の外観検査装置において、撮像装置は、受光光学系がテレセントリック光学系であることが好ましい。
【0021】
この光沢品の外観検査装置において、第1の偏光要素と検査対象との間は外光が遮断されていることが好ましい。
【0022】
本発明に係るプログラムは、光沢を有する検査対象に光を照射する光源と、検査対象を撮像する撮像装置と、撮像装置から取得した画像を用いて検査対象の表面の面の向きを検出する処理装置と、光源から出力された光を円偏光にして検査対象に照射させる第1の偏光要素と、検査対象からの反射光を直線偏光にして撮像装置に入射させる第2の偏光要素とを備える光沢品の外観検査装置に用いるプログラムであって、コンピュータを、撮像装置が撮像した画像から抽出される画素ごとの明度と色との少なくとも一方の情報を検査対象の表面の角度に換算する換算部と、画素ごとの角度をグループ化することにより同じ角度を有した平面を抽出する面抽出部として機能させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の構成によれば、光沢面の角度の情報を光学的に明度と色との少なくとも一方の情報に変換し、変換後の画像から得られる明度と色との少なくとも一方の情報を光沢面の角度に換算するので、光沢面の外観の検査を容易になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上の原理説明図である。
【図3】同上の表示例を示す図である。
【図4】同上の他の構成例を示す図である。
【図5】同上の他の動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に説明する外観検査装置は、図1に示すように、光沢を有する検査対象7に光を照射する光源1と、光源1から照射され検査対象7の表面で反射された反射光を撮像する撮像装置2とを備える。検査対象7は、刻印された金属面、光沢面における高低差の小さい凹凸やうねり、光沢面に付着した透明な物体などである。たとえば、金属箔を丸めて広げた形は、光沢面における高低差の小さい凹凸に相当する。
【0026】
さらに、外観検査装置は、この種の検査対象について撮像装置2が撮像した画像に含まれる情報を用いて、基準面に対する光沢面の傾きを推定する機能を有した処理装置3を備える。言い換えると、処理装置3は、撮像装置2により撮像された検査対象の画像から、同じ傾きを持つ光沢面を抽出する。外観検査装置は、上記構成に加えて、光源1と検査対象7との間に配置された第1の偏光要素4と、検査対象7と撮像装置2との間に配置された第2の偏光要素5とを備える。第1の偏光要素4は、偏光板と四分の一波長板とを重ね合わせて構成され、第2の偏光要素5は、偏光板を用いて構成される。また、後述するように、第1の偏光要素4と第2の偏光要素5とは、ともに偏光板と四分の一波長板とを重ね合わせて構成されていてもよい。
【0027】
光源1は、撮像装置2の光軸21の方向とは異なる方向から検査対象7に光を照射し、撮像装置2は、検査対象7の表面からの反射光を撮像する。図1に示す光源1は、撮像装置2の視野に周囲の全周からほぼ均等に光を照射することにより、いわゆるリング照明を行う。
【0028】
光源1がリング照明であることにより、撮像装置2の光軸21に直交する平面から撮像装置2に入射する光量は相対的に少なくなり、撮像装置2は主に当該平面とは異なる領域からの光を受光することになる。比較対象として、光源1が同軸落射方式を採用した場合を想定すると、撮像装置2は主に光軸21に直交する平面からの光を受光し、当該平面とは異なる領域から撮像装置2に入射する光は相対的に少なくなる。
【0029】
リング照明を行う光源1は、撮像装置2の視野の周囲の全周から検査対象7の表面にほぼ均等に光を照射するが、検査対象7に影が形成されないように撮像装置2の視野の周囲から光を照射するという条件を満たしていれば、光源1の構成にとくに制限はない。すなわち、光源1は、リング照明のように発光領域を環状に形成した構成のほか、たとえば、撮像装置2の視野の周囲に複数の発光領域を配列した構成でもよい。また、光源1は、場合によっては、撮像装置2の視野に対して一方向から光を照射してもよい。
【0030】
また、光源1は、複数の波長成分を含む光を放射することが望ましいが、単波長の光を放射してもよい。複数の波長成分を含む光を放射する場合、光源1は、赤緑青(RGB)の三原色を混色した白色を放射するのが望ましい。また、光源1から出射される光は、必ずしも可視光領域であることは要求されない。
【0031】
ところで、光源1から出力された光は、第1の偏光要素4を透過することにより円偏光になり、検査対象7には円偏光が照射される。第1の偏光要素4は、光源1と同様に、撮像装置2の視野を除く部位に配置されている。また、図示例において、検査対象7はテーブル8に載せられている。テーブル8の上面は平面であって、撮像装置2はテーブル8の上面に平行である一面を基準面に用いる。
【0032】
検査対象7に照射された円偏光は検査対象7の表面で反射され、検査対象7からの反射光は第2の変換要素5を通過して撮像装置2に入射する。ここにおいて、検査対象7の表面に円偏光を照射した場合に、検査対象7で反射される反射光は以下の特性を有していると考えられる。
【0033】
すなわち、検査対象7の光沢面で反射された光は、光沢面が基準面に対してなす角度と偏光の向きとの関係に応じて反射率が異なる。入射する光の電界が入射面に垂直であるs成分の反射率と、電界が入射面に水平であるp成分の反射率とは、光沢面に入射する角度に依存する。また、s成分の反射率とp成分の反射率とは、波長にも依存する。したがって、光沢面で反射された反射光は、光沢面に円偏光が入射する角度に応じた主軸を持つ楕円偏光になる。また、円偏光の反射率は波長にも依存しているから、波長に応じて楕円率が変化する。
【0034】
このことから、検査対象7の光沢面が基準面に対してなす角度に応じて主軸の向きが異なる楕円偏光が得られることになる。つまり、検査対象7からの反射光が第2の偏光要素5を通ると、楕円偏光の主軸方向に応じて通過量が変化する。また、波長に応じて楕円率が異なることから、楕円偏光の主軸方向に応じて第2の偏光要素5を通過した後の波長成分の混合比が変化する。言い換えると、検査対象7の光沢面が基準面に対してなす角度が、明度の相対値(相対差または相対比)および色の相違に変換されたことになる。
【0035】
たとえば、図2(a)に示すように、検査対象7における2つの面71,72の間に稜線73が形成されているとすれば、面71,72は異なる向きを向いていることになる。このような検査対象7において、各面71,72に円偏光が照射されると、面71,72の向きに応じて主軸93,94の異なる楕円偏光91,92が得られる。したがって、第2の偏光要素5を通して撮像装置2が撮像した画像では、図3に示すように、明度の異なる2つの領域74,75が形成される。また、上述したように、反射率は波長域によって異なるから、波長成分の混合比に差異が生じ、各領域74,75は異なる色になる。図3は、検査対象7の表面に傷76が存在する場合を示しており、傷76は、他の部位とは向きが異なるから、領域74,75とは異なる明度および色になる。
【0036】
撮像装置2は、カラー画像を撮像するカメラを備え、検査対象7の反射光から抽出した明度と色との情報を処理装置3に与える。検査対象7の光沢面の角度の情報は、明度および色の情報に変換されているから、処理装置3は、撮像装置2が撮像した画像から明度と色との少なくとも一方の情報を用いることにより、光沢面の角度を求めることができる。
【0037】
処理装置3は、汎用のコンピュータと、コンピュータを処理装置3として機能させるプログラムとにより構成される。このコンピュータは、キーボード、マウス、デジタイザのような入力装置と、CRTあるいは液晶表示器を用いたモニタ装置やプロジェクタのように映像を提示することができる表示装置とを備える。
【0038】
処理装置3は、撮像装置2から画像を取得する取得部31と、取得部31を通して取得したカラー画像から画素ごとの情報を抽出する情報抽出部32とを備える。情報抽出部32は、カラー画像の各画素について明度の情報を抽出する明度抽出部321と、カラー画像の各画素について色の情報を抽出する色抽出部322とを備える。すなわち、明度抽出部321は、画素ごとの受光量に相当する明度を求め、色抽出部322は、画素ごとにRGBの三刺激値の比率を求める。なお、明度抽出部321と色抽出部322とは一方のみを備えていてもよい。ここでは、色抽出部322で求めた三刺激値は、明度抽出部321で求められた明度を用いて正規化されているものとする。
【0039】
色抽出部322が求めた三刺激値の比率は、色度図上の座標位置すなわち色を表している。また、上述のように、色の情報は、検査対象7において光沢面が基準面に対してなす角度の情報に対応している。処理装置3は、色抽出部322が求めた三刺激値の比率から光沢面の角度を求めるために換算部33を備える。
【0040】
換算部33は、三刺激値の比率を角度に対応付けた換算テーブル331と、色抽出部322から与えられた三刺激値の比率を換算テーブル331と照合する照合部332とを備える。照合部332は、三刺激値の比率に対応を換算テーブル331に照合することにより、換算テーブル331から検査対象7における光沢面の角度を抽出する。換算テーブル331は三刺激値の比率を離散値で記憶している。
【0041】
照合部332は、色抽出部322から与えられた三刺激値の比率に一致する値が換算テーブル331に存在しない場合、換算テーブル331から複数の値を抽出し、抽出した値を用いて内挿を行うことにより角度を決定する。なお、換算テーブル331において光沢面の角度の刻み幅は、色の分解能などを勘案して適宜に設定される。
【0042】
換算部33において角度を内挿して求める必要がない場合は、色抽出部322から三刺激値の比率を換算部33に与える代わりに、三刺激値の比率に応じた色に相当するコードを色抽出部322が出力する構成を採用してもよい。この構成では、換算部33は、色抽出部322から与えられたコードを角度に換算する。
【0043】
換算部33は、上述の動作により、撮像装置2が撮像した画像の画素ごとに角度を対応付ける。したがって、画素値が角度である画像データが得られる。このような画像データは、角度が連続的に変化している場合には有用と考えられるが、検査対象7の表面が様々な角度を有する多数の平面で形成されている場合に、面を単位として角度を認識する場合には容易に扱うことができない。
【0044】
そのため、外観検査装置は、換算部33から出力された画素ごとの角度をグループ化することにより、同じ角度を有した平面を抽出する面抽出部34と、面抽出部34が抽出した平面を表示装置の画面に表示するための視覚化処理部35とを備える。面抽出部34は、隣接する画素の画素値である角度が、規定した角度範囲内であるときに同じグループに属すると判断して画素を連結する。グループ化のための角度範囲は、目的に応じて適宜に定められる。
【0045】
面抽出部34は、画素を適宜に連結して一つの平面に属するとみなせる画素の連結領域を形成し、さらに、連結領域ごとに異なるラベルを付与する。面抽出部34は、連結領域ごとに異なるラベルを付与してもよいが、同じ角度範囲に属する連結領域に同じラベルを付与すると面の角度の識別が容易になる。
【0046】
また、視覚化処理部35は、たとえば、同じ角度範囲に属する連結領域ごとに色付けを行い、着色した画像を表示装置の画面に表示させる。このような表示を行うと、刻印された金属面では刻印部分のみが異なる色で表示され、光沢面に透明な物体が付着していれば物体のみが異なる色で表示される。また、高低差の小さい凹凸が存在する光沢面においてクラックのような傷が存在している場合も、傷の部位が周囲とは異なる色で表示されることになる。したがって、利用者は、光沢面に存在する刻印や付着物や傷などを、表示装置の画面上で容易に識別することができる。
【0047】
上述した構成例は、色抽出部322が求めた三刺激値の比率を、基準面に対する光沢面の角度に換算しているが、明度の相対値も併せて用いてもよい。たとえば、撮像装置2により撮像した画像内で既知の角度を有する面の明度を基準にし、この面の明度に対する相対値を角度に対応付けておけば、明度の相対値から角度が求められる。明度の相対値と角度との関係は、三刺激値の比率と角度との関係と同様に、換算テーブルにおいて対応付けておくことが望ましい。さらに、換算部33は、三刺激値の比率と明度の相対値との両方を用いて、光沢面の角度を求める構成を採用してもよい。
【0048】
撮像装置2は、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサのようなイメージセンサと、撮像装置2の視野を決める受光光学系とを備える。受光光学系は、テレセントリック光学系が用いられる。受光光学系がテレセントリック光学系であることにより、検査対象7の位置関係を保存した画像が得られる。すなわち、撮像装置2により撮像した画像は実空間のアフィン変換で表されるから、画像内には検査対象7の光沢面ごとの偏光が独立して反映される。そのため、換算部33は、着目する光沢面の角度を求めるために、着目する光沢面の周囲の影響を考慮する必要がなく、光沢面ごとに独立して角度を求めることができる。
【0049】
処理装置3は、環境光のような外光が存在する環境であっても、第1の偏光要素4と検査対象7との距離を近づければ光沢面の角度を精度よく検出することができる。ただし、第1の偏光要素4と検査対象7との距離が大きくなると、外光の影響により角度を識別する精度が低下する。そのため、この場合には、少なくとも第1の偏光要素4と検査対象7との間は、外光を遮断することが好ましい。外光を遮断すれば第1の偏光要素4と検査対象7とを離して配置することが可能になるから、検査対象7の表面に高低差の比較的大きい凹凸が存在していても、処理装置3は、画像に基づいて角度を精度よく識別することが可能になる。なお、第1の偏光要素4だけではなく、第2の偏光要素5と検査対象7との間も外光が遮断されていることが望ましい。
【0050】
上述の例において、光源1は三原色を混色した白色を出力しているが、白熱電球のように出力波長域が連続していてもよい。なお、光源1は、単一波長を出力してもよいが、上述した構成例のように白色を出力するほうがコストを低減できる可能性がある。
【0051】
さらに、上述した構成例では、撮像装置2がカラー画像を撮像するカメラを備えているが、カラー画像を撮像するカメラに変えて、モノクロ画像を撮像するカメラと、所定の波長域を透過させる色選択用の光学フィルタとの組み合わせを採用してもよい。つまり、光学フィルタの波長域が適正に選択されていれば、検査対象7からの反射光の明度および色を含む情報を、明度の情報に置換したことになる。この構成では、カラー画像を撮像するカメラが不要になり、設備費用の低減につながる。しかも、処理装置3は、カラー画像に対する処理よりもモノクロ画像に対する処理のほうが処理負荷が少ないから、高速かつ安価に外観検査装置が構築される。
【0052】
ところで、上述した構成例は、第1の偏光要素4と第2の偏光要素5とが個別に設けられている。第1の偏光要素4は偏光板と四分の一波長板とを重ね合わせて構成され、第2の偏光要素5は、偏光板を備えていればよく四分の一波長板が設けられていてもよい。したがって、図4に示すように、偏光板41と四分の一波長板42とを重ね合わせたシート状の部材を、第1の偏光要素4と第2の偏光要素5とに兼用してもよい。この場合、シート状の部材は、周部が第1の偏光要素4として機能し、中央部が第2の偏光要素5として機能する。このように、第1の偏光要素4の機能と第2の偏光要素5の機能とを1つの部材で実現すると外観検査装置の小型化につながる。しかも、直線偏光を抽出するための偏光板41と検査対象7との間に四分の一波長板42が配置されていることにより、波長ごとの偏光状態の差が増幅されることになり、結果的に、処理装置3は、検査対象7の光沢面の角度の差異を抽出しやすくなる。
【0053】
また、第1の偏光要素4と第2の偏光要素5とは、偏光板41と四分の一波長板42との組み合わせ以外の構成によって実現してもよい。たとえば、第1の偏光要素4は偏光板とミラーとの組み合わせによって行ってもよい。
【0054】
上述の構成では、撮像装置2の視野を周囲の全周から照明する光源1を用いたが、検査対象7の光沢面の角度に関する情報は、光源1と撮像装置2との光軸の向きが異なっていれば得られる。したがって、撮像装置2の視野に一方向から光を照射する光源1を用い、撮像装置2の位置を変化させてもよい。ただし、第1の偏光要素4および第2の偏光要素5の位置は固定しておく。
【0055】
また、撮像装置2の視野を周囲の全周から照明する光源1を用いる代わりに、テーブル8の直上から検査対象7を照明する光源1を用い、検査対象7が照明されている領域の周囲で撮像装置2が移動する構成を採用してもよい。また、撮像装置2が移動すると検査対象7における光沢面の角度を検出する精度が低下するおそれがあるから、検査対象7を異なる方向から撮像する複数台の撮像装置2が配置されていてもよい。この場合、処理装置3は、撮像装置2ごとに得られた画像から、撮像装置2の向きに応じて検査対象7における光沢面の角度を計算する。
【0056】
上述した構成例において、第1の偏光要素4および第2の偏光要素5の位置が撮像装置2に対して固定された例を示したが、検査対象7からの楕円偏光から直線偏光を抽出する第2の偏光要素5は偏光の方向が可変であってもよい。この場合でも、直線偏光を抽出する光学要素は、円偏光を生成する第1の偏光要素4と兼用されていてもよい。また、直線偏光を抽出する第2の偏光要素5は、円偏光を生成する第1の偏光要素4とは別であってもよい。
【0057】
この構成を採用する場合、撮像装置2は、同じ検査対象7について、楕円偏光から直線偏光を抽出する第2の偏光要素5の偏光の方向のみを異ならせた複数の画像を撮像する。直線偏光を抽出する際の偏光方向が変化すれば、撮像装置2が撮像した画像の各画素の明度は、図5に示すように、楕円偏光の主軸の向きに応じて増減する。すなわち、楕円偏光の主軸の向きが、直線偏光を抽出する際の偏光の向きと明度の増減との関係を表すプロファイルに変換される。
【0058】
したがって、処理装置3は、複数の画像を取得するとともに、取得した画像から上述したプロファイルを求める機能を備えていてもよい。すなわち、処理装置3は、第2の偏光要素5の偏光の方向と明度の比率との組を、検査対象7の面の角度に対応付けたデータテーブルと、複数の画像から得られたプロファイルをデータテーブルに照合する機能とを備えていればよい。さらに、処理装置3は、第2の偏光要素5の偏光の方向を指示する機能を備え、第2の偏光要素5は、処理装置3からの指示を受けて偏光の方向を変化させる駆動装置を備えている必要がある。
【0059】
プロファイルの一例を図5に示す。たとえば、検査対象7において、基準面に対する角度が同じであって向きが異なる場合に、1枚の画像から得られる情報では、第2の偏光要素5を通して得られる明度および色が等しくなる場合がある。図5(a)(b)に示す例では、第2の偏光要素5の向きが20度であるときに、どちらも明度が140程度になっている。しかしながら、各面のプロファイルは、まったく異なっているから、複数の角度について明度との組合わせを求めると、2つの面を判別することが可能である。したがって、処理装置3にプロファイルを判別する機能が設けられていれば、面の向きをさらに精度よく検出することが可能になる。
【符号の説明】
【0060】
1 光源
2 撮像装置
3 処理装置
4 第1の偏光要素
5 第2の偏光要素
7 検査対象
33 換算部
34 面抽出部
41 偏光板
42 四分の一波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光沢を有する検査対象に光を照射する光源と、前記検査対象を撮像する撮像装置と、前記撮像装置から取得した画像を用いて前記検査対象の表面の面の向きを検出する処理装置と、前記光源から出力された光を円偏光にして前記検査対象に照射させる第1の偏光要素と、前記検査対象からの反射光を直線偏光にして前記撮像装置に入射させる第2の偏光要素とを備え、前記処理装置は、前記撮像装置が撮像した画像から抽出される画素ごとの明度と色との少なくとも一方の情報を前記検査対象の表面の角度に換算する換算部と、画素ごとの角度をグループ化することにより同じ角度を有した平面を抽出する面抽出部とを備えることを特徴とする光沢品の外観検査装置。
【請求項2】
前記撮像装置は、カラー画像を撮像するカメラを備え、前記換算部は、カラー画像から抽出された色と明度とを組み合わせを前記検査対象の表面の角度に換算することを特徴とする請求項1記載の光沢品の外観検査装置。
【請求項3】
前記撮像装置は、所定の波長域の光を透過させる色選択用の光学フィルタと、光学フィルタを通して前記検査対象のモノクロ画像を撮像するカメラとを備え、前記換算部は、モノクロ画像から抽出された明度を前記検査対象の表面の角度に換算することを特徴とする請求項1記載の光沢品の外観検査装置。
【請求項4】
前記光源は、発光波長が単一波長であり、前記撮像装置は、前記検査対象のモノクロ画像を撮像するカメラを備え、前記換算部は、モノクロ画像から抽出された明度を前記検査対象の表面の角度に換算することを特徴とする請求項1記載の光沢品の外観検査装置。
【請求項5】
前記第2の偏光要素は偏光の方向が可変であって、前記処理装置は前記第2の偏光要素の偏光の方向を指示する機能と、前記第2の偏光要素の偏光の方向が異なる複数枚の画像を取得する機能とを備え、前記換算部は、偏光の方向および画素の明度の複数の組み合わせを、前記検査対象の表面の角度に換算することを特徴とする請求項3又は4記載の光沢品の外観検査装置。
【請求項6】
前記第2の偏光要素は、四分の一波長板と偏光板とを重ね合わせて構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光沢品の外観検査装置。
【請求項7】
前記第1の偏光要素と前記第2の偏光要素とは兼用されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光沢品の外観検査装置。
【請求項8】
前記撮像装置は、受光光学系がテレセントリック光学系であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の光沢品の外観検査装置。
【請求項9】
前記第1の偏光要素と前記検査対象との間は外光が遮断されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光沢品の外観検査装置。
【請求項10】
光沢を有する検査対象に光を照射する光源と、前記検査対象を撮像する撮像装置と、前記撮像装置から取得した画像を用いて前記検査対象の表面の面の向きを検出する処理装置と、前記光源から出力された光を円偏光にして前記検査対象に照射させる第1の偏光要素と、前記検査対象からの反射光を直線偏光にして前記撮像装置に入射させる第2の偏光要素とを備える光沢品の外観検査装置に用いるプログラムであって、コンピュータを、前記撮像装置が撮像した画像から抽出される画素ごとの明度と色との少なくとも一方の情報を前記検査対象の表面の角度に換算する換算部と、画素ごとの角度をグループ化することにより同じ角度を有した平面を抽出する面抽出部として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−230081(P2012−230081A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100027(P2011−100027)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】