説明

光沢差を利用した潜像印刷物

【課題】 光沢凸形状を有する画線上又は光沢凸形状を有する画素上に、一定方向からの入射光に対して光の反射率の異なる領域を設け、複数の潜像を効果的に施すことが可能な真偽判別性に優れた光沢差を利用した潜像印刷物に関する。
【解決手段】 一定のピッチをもって配した光沢凸形状の画線又は画素の集合体に、光沢凸形状の画線又は画素と同一のピッチで配された画線又は画素によって光の反射率の異なる領域を設け、一定の角度に傾けた場合に光を強く正反射した光沢凸形状の画線又は画素によるポジ画像領域と、光を低反射したネガ画像領域の、二つの領域の相対的な光沢差によって光沢画線をより鮮明に認識させることを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸構造を有する画線上又は凸構造を有する画素上に、一定方向からの入射光に対して光の反射率の異なる領域を設け、複数の潜像を効果的に施すことが可能な真偽判別性に優れた光沢差を利用した潜像印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、諸証券及び郵券等のセキュリティが必要な印刷物には、偽造を抑止するために真性品と偽造品を区別するための真偽判別要素が不可欠である。
【0003】
例えば、最高度のセキュリティが要求される銀行券には複数の真偽判別要素が様々な方法で複合的な構成により付与されている。これらの要素は大別して、特別な判別装置が必要な真偽判別要素と、特別な判別装置を必要としない真偽判別要素に分けられ、一つの印刷物の中に各々の真偽判別要素が混在しているのが通例である。
【0004】
特殊な判別装置を必要とする真偽判別要素の一例としては、紫外線や赤外線を照射することによって真偽判別が可能な技術が挙げられる。通常は、一般ユーザにその存在を意識させない構成で印刷物の中に施され、鑑別機や自動販売機において真偽判別を行うものであり、多くの場合、機械判別を対象とした真偽判別要素としても用いられる技術である。
【0005】
もう一方の自然光で真偽判別が可能な真偽判別要素の一例としては、透き入れやパール印刷、潜像印刷が挙げられる。対面販売のような一般的な物品と通貨の交換時にユーザが目視で確認できる要素として目的に応じて使い分けられている。
【0006】
昨今のカラーコピー機や家庭用デジタル製版ソフト、出力機の進歩は著しい。これに伴って、特殊印刷の経験のない一般人がカラーコピー機を用いた複写やパソコンからの出力によるセキュリティ印刷物の偽造品を作製し、これを対面販売やチケット換金所において使用するといった事件が多発している。この場合の偽造を防ぐために必要な要素は特別な装置を必要とする真偽判別要素ではなく、装置を必要としない自然光を利用したような通常の使用環境下で確認可能な真偽判別要素である。
【0007】
これらの対面販売を対象としたデジタル製版技術を用いた様々な偽造に対抗するため、カラーコピーや一般的なパソコンを用いたプリンタで再現不可能な、特別な装置を必要としない高度な真偽判別要素を備えた新しいセキュリティ印刷が望まれている。
【0008】
上記に示した自然光を利用して真偽判別することが可能な潜像効果を有する技術は日本銀行券で公知である透き入れに代表される。その他にも自然光を利用して真偽判別することが可能な技術は数多くあるが、その一つとして、インキの光沢を利用して潜像を出現させる技術がある。例えば、微細で濡れの良い有機顔料を用い、ワニス配合量を多くして練合する光沢インキと、粒子径が大きく濡れの悪い無機顔料を主体的に配合し、ワニス配合量を少なくして練合する無光沢インキとを用い、それぞれを重ねてオフセット印刷を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
他の例として、シートの表面に金属光沢領域を設け、その領域の少なくとも一部に、同一・同質又は異質の金属光沢領域を積層して形成することによって、それらの領域に反射率の差異を生じさせ、この印刷物を見る角度によって、それらの領域がそれぞれ異なる色彩に見える技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
特許文献1及び特許文献2に記載の技術は、単に一つの潜像の有無を確認するものであるが、前述の自然光を利用して真偽判別することが可能な技術の中で、更に二つ以上の潜像を容易に出現させる技術も存在する。例えば、一つの潜像のみを生じさせるセキュリティ印刷物の場合、低光沢インキを使用して潜像をオーバプリントしたり、エンボスを用いて用紙に凹凸を施したりすることで潜像を施すなど、偽造の方法は数限りなく存在する。しかし、一つの領域の中で潜像が変化する(複数の潜像を有する)技術の場合、その変化する像すべてを偽造時には再現しなければならない。以上のことから、生じさせることが可能な潜像数が多いほど、真偽判別のために照合・確認する要素が増えることから、その技術の真偽判別の信頼性は高くなると考えられている。
【0011】
ただし、自然光を利用して多潜像を生じさせる技術自体はその数が少なく、三つ以上の潜像となれば、公知の技術としてはレンチキュラーを用いた潜像技術か、回折格子を使用したホログラムにほぼ限られるのが実情である。
【0012】
【特許文献1】特開平03−266684号公報
【特許文献2】特開2000−158789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
光を用いた最も知られた潜像技術の一つである透き入れは、厚さや密度に差異のある用紙内部を通過する光が部分的に減衰されることを利用するものであるが、フィルムやプラスチックと異なり、内部を通過する光を一定の割合で散乱させてしまう紙を基材として用いるため、多数の潜像を施すことは困難である。
【0014】
前述の特開平03−266684号公報記載の技術では同一領域の中に施すことが可能な潜像数は基本的に一つである。光沢の異なるインキを使用して潜像数を増やすことは可能ではあるが、その場合、それぞれの潜像が重なりあって出現してしまう現象が発生する。鮮明な複数の潜像を施すことが可能な技術ではない。
【0015】
また、特開2000−158789号公報記載の技術は潜像を施した上で、その潜像部分の光沢差を利用し、潜像をポジネガ反転させることが可能な技術である。しかし、ポジネガ反転は可能なものの、特開平03−266684号公報記載の技術同様にその像を変えることは不可能であり、特開平03−266684号公報記載の技術と同様に鮮明な多潜像を施すことが可能な技術ではない。
【0016】
レンチキュラーを用いる潜像技術の場合においては、潜像が印刷された基材上の面とレンチキュラーのレンズ面に焦点を合わせるための一定の距離が必要となることから印刷物としては厚みのあるものとなり、多くの場合、一定の厚みが許される特殊なカード類に用いられるに留まっている。またレンズとの張り合わせが必要であり、加工工程が複雑であるという問題がある。
【0017】
さらに、ホログラムに関しては極めて薄く構成可能であり、かつ鮮明に複数の潜像を生じさせるものの、その製造・加工工程は複雑であり、印刷物と比較して極めて高価であるという問題がある。また、多くの場合アルミ蒸着膜を使用するため、その外観は独特のメタリック調となる。
【0018】
以上のように、従来の自然光下で真偽判別可能なこれらの技術には、同一領域に複数の潜像を鮮明に生じさせることが困難、または製造工程が複雑、あるいは構成する画像は一定の色や機能性材料が必要、高価であるという様々な問題がある。
【0019】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、一定の光沢を有する光沢凸形状の画線や画素の集合体において、入射する光と法線を成す面のみが光を強く正反射する効果と、材料や厚さの違いによって生じる相対的な光沢差が正反射領域において、大きく強調される効果を同時に利用することで、同一の場所に画像が相関しない複数の潜像を発現させるものであり、光沢差を利用した視認性に優れた潜像印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
一定方向から光が入射する環境下において、光沢凸形状をもつ構造物は、入射する光に対して法線を成す面を中心に光を強く正反射する。この光沢凸形状をもつ構造物がある程度の光の反射率を持つ場合には、正反射領域はポジ画線領域として拡大して浮び上がった印象を与え、光が面に対して法線方向とならない部分は影となり、視認できなくなるか、目視上、面積が小さくなったかのような印象を与える。この効果は光沢凸形状の構造物を密接させ、光沢凸形状の集合体を成した場合により一層高まる。
【0021】
例えば、一定のピッチで光沢凸形状の画線を連続して平行に配し、この光沢凸形状の平行画線に光を一定の入射方向から照射した場合、目視上はあたかも光沢凸形状の画線すべての面が光を正反射しているかのごとく見える。また、この基材に対する光の入射方向を変えた場合でも、目視上は全面が単純に光を正反射しているかのごとく見えるが、実際には入射する光が法線方向になる面のみが選択的に光を正反射しており、その反射面はそれぞれ光の入射方向に応じて変化している。
【0022】
一方、光に対して一定の反射率を有する画線1の上に、画線1と比較して反射率の低いインキで画線2を形成した場合、光に対する反射率の違いから画線1はポジ画線として、低反射率のインキで形成した画線2はネガ画線となり、正反射領域において、その相対的な光沢差から画線2はネガ画線としてより鮮明に浮びあがる。
【0023】
本発明は、高い光沢を有する凸構造の画線において、入射光の角度に応じて光を強く正反射する面が変化する現象を利用するものであり、凸構造の画線の表面に異なった潜像を同一ピッチで配置することで、入射光の角に応じて潜像をスイッチさせる。潜像は、凸構造の画線上に凸構造の画線と異なる反射率を成す構造を形成することで付与する。異なる反射率を形成する例としては、低光沢インキで付与する方法や、画線表層を切削する方法、厚さを変化させる方法などがある。以上のように、正反射領域で生じる相対的な光沢差によって潜像をより鮮明に認識させることを可能とするとともに、光沢凸形状の画線上の極めて狭い領域において複数配された潜像をそれぞれ混ざり合うことなく、光沢差を利用した潜像印刷物を異なった角度に傾けることによって単独に生じさせることを可能としたものである。
【0024】
本発明の光沢差を利用した潜像印刷物は、基材上に、光沢を有する同一幅の光沢凸形状画線が、所定のピッチで複数配されてなる潜像印刷物において、光沢凸形状画線の画線幅に対してn分の1以下の幅で構成された少なくとも一つの潜像画線が、光沢凸形状画線の一部に同一ピッチで平行に配され、潜像画線の画線高さが、光沢凸形状画線の画線高さより低く形成されてなることを特徴とする。
【0025】
本発明の光沢差を利用した潜像印刷物は、光沢凸形状画線の画線高さは10μm以上で形成され、光沢凸形状画線の画線高さと潜像画線の画線高さの差は4μm以上であることを特徴とする。
【0026】
本発明の光沢差を利用した潜像印刷物は、基材上に、光沢を有する同一幅の光沢凸形状画線が、所定のピッチで複数配されてなる潜像印刷物において、光沢凸形状画線の上に、光沢凸形状画線と異なった光沢を有し、かつ光沢凸形状画線の画線幅に対してn分の1以下の幅で構成された少なくとも一つの潜像画線が、光沢凸形状画線と同一ピッチで平行に配されてなることを特徴とする。
【0027】
本発明の光沢差を利用した潜像印刷物は、光沢凸形状画線の画線高さは1μm以上で形成され、前記光沢凸形状画線の光沢度と前記潜像画像の光沢度の差は50以上であることを特徴とする。
【0028】
本発明の光沢差を利用した潜像印刷物は、基材上に、光沢を有する同一面積の光沢凸形状画素が、所定のピッチで複数配されてなる潜像印刷物において、光沢凸形状画素の画素面積に対してn分の1以下の面積で構成された少なくとも一つの潜像画素が、光沢凸形状画素の一部に同一ピッチで規則的に配され、潜像画素の画素高さが、光沢凸形状画素の画素高さより低く形成されてなることを特徴とする。
【0029】
本発明の光沢差を利用した潜像印刷物は、光沢凸形状画素の画素高さは10μm以上で形成され、前記光沢凸形状画素の画素高さと前記潜像画素の画素高さの差は4μm以上であることを特徴とする。
【0030】
本発明の光沢差を利用した潜像印刷物は、基材上に、光沢を有する同一面積の光沢凸形状画素が、所定のピッチで複数配されてなる潜像印刷物において、光沢凸形状画素の上に、光沢凸形状画素と異なった光沢を有し、かつ光沢凸形状画素の画素面積に対してn分の1以下の面積で構成された少なくとも一つの潜像画素が、光沢凸形状画素と同一ピッチで規則的に配されてなることを特徴とする。
【0031】
本発明の光沢差を利用した潜像印刷物は、光沢凸形状画素の画素高さは1μm以上で形成され、前記光沢凸形状画素の光沢度と前記潜像画素の光沢度の差は50以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
光沢凸形状の画線に選択的に光の反射率の異なる構造を設けることで、これまで困難であった同じ画像領域内に複数の潜像を極めて容易に施すことが可能となる。光沢凸形状の画線の盛り上がり高さや画線光沢によっては、従来の一般的な潜像技術ではほぼ不可能であった三つ以上の潜像を施すことも容易である。
【0033】
また、基本的には画素や画線の光沢差を利用するため、ワニスやメジュームに顔料や染料を混合しない透明な画線構成で実施可能である。このことは印刷工程において問題となる顔料や染料の版詰まりや転移不良が発生しないことを意味するため、製造側の負荷は著しく低くなる。
【0034】
逆に、光沢度が低下しない程度に光沢凸形状の画線を着色染料や着色顔料で有色画線化しても潜像出現の効果は全く損なわれることはないため、ユーザの希望に応じてその構成を変えることが可能である。光沢凸形状の画線を有色化して分割したり、画線幅を変えたりすることで光沢凸形状画線にも有意画像を構成することも可能であり、この場合より一層真偽判別性が向上する。
【0035】
また、レンチキュラーを使用した光沢凸形状の画線のレンズ効果を利用した複数の潜像技術と比較しても、複数の潜像を施した基材とレンズ間の焦点距離をとる必要がないことから、印刷物の厚さを抑えることが可能となるとともに、本発明が必要とする光沢凸形状の画線の高さはオフセット印刷方式やグラビア印刷方式、あるいはスクリーン印刷方式や凹版印刷方式等の印刷で容易に得ることが可能であることから、製造が極めて容易である。
【0036】
加えて、本発明はホログラムのようにメタリック調の色調に限定されるものではなく、色相の選択性が極めて高いため、印刷物の中に違和感無く配すことが可能となる。また、本発明の光沢凸形状の画線を透明あるいは淡い色相に抑えても潜像効果が損なわれないことは、光沢差を利用した潜像印刷物の下に配された画像の視認性を低下させることが無いことを意味し、光沢差を利用した潜像印刷物下の画像を全く確認することが不可能であるホログラムとその効果を異ならしめている大きな相違点である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画線構成及びその断面を示す。図2は、本発明の一実施例における潜像Aと潜像Bの画線高さを水準1から水準9まで変化させて光沢差を利用した潜像印刷物を作製し、視認性を確認した結果を示す。図3(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物を、拡散反射が支配的な環境で観察した場合を示し、(b)は、正反射が支配な環境で入射する光に対して約5度手前側に傾けて観察した場合を示し、(c)は、正反射が支配的な環境で入射する光に対して約−5度向こう側に傾けて観察した場合を示す。図4は、本発明の一実施例における有色凸画像(5)の画線構成を示す。図5は、本発明における潜像画像の詳細な画線構成を示す。図6は、本発明の一実施例における潜像画像A、潜像画像B、潜像画像Cの画線構成を示す。図7は、本発明の一実施例における潜像の画線幅を変更し、それに伴う潜像数を水準1から水準4まで変更して光沢差を利用した潜像印刷物を作製し、視認性を確認した結果を示す。図8(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画線構成を示し、(b)は、その断面を示す。図9(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物を、拡散反射が支配的な環境で観察した場合を示し、(b)、(c)及び(d)は、正反射が支配的な環境で入射する光に対してそれぞれ一定角度傾けて観察した場合を示す。図10は、本発明の一実施例における有色光沢凸形状の画素を複数配列した図を示す。図11は、本発明の一実施例における潜像画素F、潜像画素G、潜像画素H、潜像画素Iの構成を示す。図12は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画線構成を示す。図13(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物を、拡散反射が支配的な環境で観察した場合を示し、(b)、(c)、(d)及び(e)は、正反射が支配的な環境で入射する光に対して一定角度傾けて観察した場合を示す。図14は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画線構成を示す。図15は、本発明の一実施例における潜像画像の立体物を示す。図16は、本発明における潜像画像の詳細な画線構成を示す。図17は、本発明の一実施例における潜像画像A、潜像画像B、潜像画像C、潜像画像D、潜像画像Eにおける潜像合成画線の画線構成を示す。図18は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画線構成及びその断面を示す。図19は、本発明の一実施例における潜像画像A、潜像画像Bにおける潜像合成画線の画線構成を示す。図20(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物を、入射する光に対して拡散反射が支配的な環境で観察した場合を示し、(b)、(c)は正反射が支配的な環境で入射する光に対して一定角度傾けて観察した場合を示す。
【実施例1】
【0038】
最初に、1回刷りで二つの潜像を出現させる光沢差を利用した潜像印刷物について、図1、図2及び図3を用いて説明する。
【0039】
光沢凸形状の画線を構成するための印刷方式は、UV硬化タイプのスクリーン印刷方式(以下「UVスクリーン印刷方式」と記す。)を用いた。UVスクリーン印刷方式においては、オフセット印刷方式やグラビア印刷方式等と比較して画線の濃淡が画線高さの違いとして顕著に現れるため、同一画線内において画線高さの差によって一定角度から差し込む光に対して部分的な光沢差を発生させることが可能である。
【0040】
図1に本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物(1)の画線構成及びその断面を示す。潜像印刷物の画線構成は万線であり、平行に一定のピッチで配置し、画線高さ15μm(焼付けフィルムにおける画線濃度100%)の光沢凸形状の画線L(2)の中に、潜像画像A(3)と潜像画像B(4)を光沢凸形状の画線L(2)と同一のピッチで、かつ光沢凸形状の画線L(2)の画線幅の約3分の1の幅で分割し、画線高さ11μm(焼付けフィルムにおける画線濃度60%)で配した画線構成とした。これは、1本の画線が2段(段差のある)の凸形状となっており、凸形状の一方の斜面で潜像画像A(3)を、もう一方の斜面で潜像画像B(4)を形成している。
【0041】
画線高さとは印刷物の基材の表面に対する画線の膜厚のことであり、画線濃度とは画線の膜厚と相関関係にある焼付けフィルムにおける画線の濃淡のことをいい、画線高さが高いほど画線濃度が濃くなり、逆に画線高さが低いほど画線濃度が淡くなる。したがって、本実施例においては画線高さ15μmのものを焼付けフィルムの画線濃度100%とし、それに対して焼付けフィルムの画線濃度60%とは画線濃度と画線高さとの相関関係から、画線高さ11μmのものをいう。
【0042】
また、画線高さは、UVスクリーン印刷方式を用いる場合にはスクリーンメッシュ線数や焼付けフィルムの線数、光沢凸形状の画線の高さや使用するインキの特性によって左右されるものであるため、印刷材料や印刷条件を変更した場合にはその都度変更する必要がある。
【0043】
今回は、図2に示すとおり、あらかじめ水準1から水準9までの潜像画像A(3)と潜像画像B(4)を成す画線を変化させた試作印刷物を作製して効果の高かった水準を確認した上で、目視上、最も効果の高かった水準4で使用した画線高さ11μm(画線濃度60%)に決定した。光沢凸形状の画線のピッチは、特に限定するものではないが、ピッチが短く、かつスリット構造における非画線に対する画線部の比率は1倍以上であることが視認性の面からは望ましい。
【0044】
UVスクリーン印刷による光沢凸形状の画線高さは15μmであり、画線ピッチは0.6mmとし、画線と非画線の比率は3:1(0.45mm:0.15mm)であり、潜像画像A(3):光沢凸形状の画線L(2)の中央部(画線に潜像を施さない領域):潜像画像B(4)の比率は1:1:1(全て0.15mm幅)で構成している。インキにはUVスクリーン用メジューム(永瀬スクリーン印刷研究所A−Z)を使用した。本インキの60°光沢度(株式会社村上色彩技術研究所_デジタル光沢計GM−3Dでの測定)は、印刷物のベタ部分で97.2である。
【0045】
この版面とインキを使用して塗工紙に印刷を行い、光沢差を利用した潜像印刷物(1)を得た。
【0046】
図3は、本実施例における光沢差を利用した潜像印刷物を観察した場合の効果を表したものであり、図3(a)は光沢差を利用した潜像印刷物を拡散反射が支配的な環境で観察した場合、図3(b)は正反射が支配的な環境で光源に対して光沢差を利用した潜像印刷物を約5度手前側に傾けて観察した場合、図3(c)は正反射が主体的な環境で光源に対して光沢差を利用した潜像印刷物を約−5度向こう側に傾けて観察した場合に認証できる像を示している。本光沢差を利用した潜像印刷物は拡散反射が支配的な環境での観察では無色透明であり、全くの無像として認識され、正反射が支配的な環境で約5度手前側に傾けた場合は画線の部分的な画線の光沢差によって潜像画像Bが現れ、逆に−5度向こう側に傾けた場合には潜像画像Aが現れることを確認した。
【実施例2】
【0047】
次に、2回刷りで一つの画像と3つの潜像を出現させる光沢差を利用した潜像印刷物について、図4から図9を用いて説明する。
【0048】
本発明は画線の光沢差を利用した技術であることから、光沢凸形状の画線は高光沢インキで印刷し、潜像は低光沢インキで印刷するといった、材料自体の光沢差を有効に活用することで本発明の効果を一層高めることができる。なお、ここでいう高光沢インキとは、60°光沢度で50を超える程度の光沢を有するインキのこととし、更に低光沢インキとは、光沢凸形状画線を印刷するために用いた高光沢インキよりも、より低い光沢を有するインキのこととする。高光沢インキと低光沢インキの光沢差があればあるほど本発明の効果を高めることが可能である。
【0049】
本実施例は、高光沢インキと低光沢インキの2種類を使用して一つの光沢差を利用した潜像印刷物を成した例であり、加えて高光沢インキを使用した光沢凸形状の画線には着色顔料を混合して有色化し、この光沢凸形状の画線の画線幅を変えることで拡散反射が支配的な環境でも有意味な画像を構成した上で、光沢凸形状の画線上に低光沢インキを重ね合わせて印刷して多数の潜像を鮮明に発生させた、本発明の真偽判別性をより一層高めた例である。
【0050】
本実施例において高光沢な有色光沢凸形状の画線M(6a、6b)はUVスクリーン印刷方式を用い、低光沢画線はオフセット印刷方式を用いた。
【0051】
図4は、1度刷り目である有色凸画像(5)における有色光沢凸形状の画線M(6a、6b)の画線構成であり、画線M(6a)は一定のピッチを有した画線幅0.45mmの画線を0.15mmの非画線部を挟んで0.6mmピッチで平行線として配している。また、画線M(6b)は平行線である画線M(6a)に対して直交した0.15mmの非画線部を設けることで、画線M(6a)と画線M(6b)の色濃度及び反射率が異なることから画線M(6b)で配置される領域は目視で「NPB」の文字が認識できる構成としている。
【0052】
次に、潜像合成画像を作製するための画線構成の例を図5に示す。潜像を3パターン現す場合について説明する。まず、潜像画像A、潜像画像B及び潜像画像Cをそれぞれ4分割する。潜像画像Aを分割したそれぞれをA1、A2、A3、A4とし、同じように潜像画像Bを分割したそれぞれをB1、B2、B3、B4、潜像画像Cを分割したそれぞれをC1、C2、C3、C4とする。その後、A1、B1、C1によって1本の万線を作製し、同じようにA2、B2、C2によって1本の万線を作製し、A3、B3、C3によって1本の万線を作製する。このようにして作製した全ての万線を合成することで潜像合成画像を作製する。
【0053】
本説明では、各潜像画線を同じ分割数で、かつ分割した各画像を4本の万線に集合させているが、各潜像画像の分割数や分割した各画像の配置は適宜選択すればよい。
【0054】
この方法を利用して、2度刷り目である潜像合成画像を作製する。図6は、3パターンの潜像が現出するように作製された潜像合成画像(7)であり、低光沢画線を形成するオフセット版に使用した画線構成を示す図である。潜像画像A、潜像画像B及び潜像画像Cの各潜像画像を、画線M(6a、6b)と同一のピッチで、かつ有色光沢凸形状の画線M(6a、6b)の3分の1の幅、つまり0.15mmで分割する。上述した方法にしたがい、画線を順に隙間なく配置して1本の万線(18)を作製し、同様に潜像画像分の全ての万線を作製する。作製した全ての万線を0.15mmの非画線部を挟んで0.6mmピッチで構成する。
【0055】
当然のことながら、画像に施すことができる潜像数は光沢凸形状の画線の幅及び高さ並びに画線光沢に主に依存するために、インキの特性を含めた印刷条件に応じて適正な潜像数を確認しておく必要がある。
【0056】
ここでいう適正潜像数とは、目視で違和感なく観察可能であり、かつその他の潜像と交じり合わないことを条件として一つの光沢凸形状画線中に施すことが可能な潜像の数である。
【0057】
今回使用するスクリーンインキで成す光沢凸形状の画線の高さは15〜20μm程度となり、かつ画線光沢も高いことから、図7に示すように、あらかじめ水準1から水準4まで潜像の画線幅を変えて潜像数を変化させた試作印刷物の実験結果を参考に決定した。潜像数4は確認可能であるものの、複数の方向に光源が存在するような観察環境下で観察した場合には視認性が低く感じられることから、この例においては三つの潜像のみを施すこととしている。
【0058】
本実施例は、高光沢インキと低光沢インキの2種類を使用するインキは、UVスクリーン用メジューム96%(永瀬スクリーン印刷研究所A−Z)にアサヒ化成工業製コバルトブルーCR−4を4%加え、消泡剤を外割りで2%添加し、高速分散機(特殊機化工業株式会社製_ホモディスパーfモデル)を使用して約3分間攪拌を行い、本発明で使用する有色高光沢のスクリーンインキを作製した。本インキの60°光沢度(株式会社村上色彩技術研究所_デジタル光沢計GM−3Dでの測定)は、印刷物のベタ部分で75.5である。
【0059】
また、低光沢画線を構成するオフセットインキにはマットニス(大日本インキ化学工業製OPニス_new_championマット)を用いた。本インキの60°光沢度(株式会社村上色彩技術研究所_デジタル光沢計GM−3Dでの測定)は、印刷物のベタ部分で5.5である。
【0060】
画線の光沢差によって潜像を施す技術であることから、オフセット印刷画線については光沢が低ければ低いほど発明の効果は高まる。
【0061】
図8に示すように、塗工紙に有色高光沢のスクリーンインキを用いて図4に示したような複数の有色光沢凸形状の画線M(6)を印刷し、その後、低光沢のオフセットインキを用いて図6に示したような、潜像画線C(8)、潜像画線D(9)及び潜像画線E(10)から構成される万線を複数配置した潜像合成画像(7)を重ね刷りし、光沢差を利用した潜像印刷物を得る。
【0062】
図6の潜像合成画像(7)の1本の万線を構成している潜像画線C(8)、潜像画線D(9)、潜像画線E(10)の間は、動画的に潜像変化を成さしめるため図8に示すように隙間なく配置することが好ましい。しかし、有色凸形状の画線M(6)の画線幅と、潜像画線C(8)、潜像画線D(9)、潜像画線E(10)のそれぞれの画線幅によってはこの限りではなく、潜像画線C(8)、潜像画線D(9)、潜像画線E(10)の間にわずかな隙間を設けても良い。この場合、潜像画線C(8)で構成される潜像画像と、潜像画線D(9)で構成される潜像画像と、潜像画線E(10)で構成される潜像画像とが、混ざり合うことなく極めて鮮明に画像変化し視認される。
【0063】
図9は発明の効果を表したものであり、図9(a)は光沢差を利用した潜像印刷物を拡散反射が支配的な環境で観察した場合、図9(b)、図9(c)、図9(d)は正反射が支配的な環境で光源に対して光沢差を利用した潜像印刷物を傾け観察した場合に認証できるそれぞれの像を示している。本光沢差を利用した潜像印刷物は拡散反射が主体的な環境で角度からの観察では単に「NPB」とのみ認識可能であり、正反射が支配的な環境で角度を傾けて観察した場合には部分的な画線の光沢差によって、図6の潜像画像A、潜像画像B、潜像画像Cが次々に現れることを確認した。連続して光沢差を利用した潜像印刷物を傾けることであたかも鳥が羽ばたいているかのような動画として認識される。
【0064】
実施例においては、潜像合成画像(7)をマットニスのベタとし、有色凸画像(5)にはマットニスを用いない構成としたが、逆に有色凸画像(5)をマットニスのベタとし、潜像合成画像(7)にマットニスを用いない構成とすることは、潜像の図柄を単純にポジネガ反転させた構成であり、発明の構成としては全く同一のものであることは言うまでもない。
【実施例3】
【0065】
次に、2回刷りで一つの画像と四つの潜像を出現させる光沢差を利用した潜像印刷物について、図10から図14を用いて説明する。
【0066】
本実施例は、二つの実施例において平行線で構成していた光沢凸形状の画線を、左右方向に加えて上下方向にも一定のピッチの非画線部を設け、格子状の正方形である有色光沢凸形状の画素N(11a)とし、各方向に平行な潜像を配すことで、上下左右それぞれに傾けた場合に各々異なった潜像を生じさせることが可能な光沢差を利用した潜像印刷物(11)に関する例である。ここでの画素形状とは、多角形、丸、楕円等の最小形状単位をいう。
【0067】
本実施例は、高光沢インキと低光沢インキの2種類を使用して一つの光沢差を利用した潜像印刷物を成した例であり、加えて高光沢インキを使用した正方形の光沢凸形状の画素には着色顔料を混合して有色化し、光沢凸形状の画素上に低光沢インキを重ね合わせて印刷して上下左右の合計四つの方向に傾けた場合に潜像を鮮明に発生させ、本発明の真偽判別性をより一層高めた例である。
【0068】
本実施例においては、高光沢な正方形の光沢凸形状の画素はUVスクリーン印刷方式を用い、低光沢画線はオフセット印刷方式を用いた。図10は、本実施例における有色光沢凸形状の画素N(11a)を複数配列した図であり、上下左右に一定のピッチの非画線部を有した画素構成としている。画素の形状は0.45mm×0.45mmの正方形とし、上下に0.15mmの非画線部を設けてピッチ0.60mmで配している。
【0069】
図11は、潜像となる低光沢画線を形成するオフセット版に使用した画線の構成であり、潜像画素F(12)、潜像画素G(13)、潜像画素H(14)、潜像画素I(15)は図10の1画素と同一のピッチを有し、各画線が画素の四方向の各辺と平行な位置関係で構成している。このように各辺に配す場合には傾けた場合に複数の潜像が同時に出現しないように、四角形の四つの頂点には画線を配しない構成とするのが望ましい。
【0070】
使用するインキは、UVスクリーン用メジューム96%(永瀬スクリーン印刷研究所A−Z)にアサヒ化成工業製コバルトブルーCR−4を4%加え、消泡剤を外割りで2%添加し、高速分散機(特殊機化工業株式会社製_ホモディスパーfモデル)を使用して約3分間攪拌を行い、本発明で使用する有色高光沢のスクリーンインキを作製した。本インキの60°光沢度(株式会社村上色彩技術研究所_デジタル光沢計GM−3Dでの測定)は、印刷物のベタ部分で75.5である。
【0071】
また、低光沢画線を構成するオフセットインキにはマットニス(大日本インキ化学工業製OPニス_new_championマット)を用いた。本インキの60°光沢度(株式会社村上色彩技術研究所_デジタル光沢計GM−3Dでの測定)は、印刷物のベタ部分で5.5である。
【0072】
それぞれの潜像画素F(12)、潜像画素G(13)、潜像画素H(14)、潜像画素I(15)は0.07mm×0.3mm、あるいは0.3mm×0.07mmの長方形で構成している。
【0073】
図12に示すように、塗工紙に有色高光沢のスクリーンインキを用いて有色光沢凸形状の画素N(11a)を印刷し、その後、低光沢のオフセットインキを用いて潜像画素F(12)、潜像画素G(13)、潜像画素H(14)、潜像画素I(15)を重ね刷りし、光沢差を利用した潜像印刷物を得た。
【0074】
図13は発明の効果を表したものであり、(a)は光沢差を利用した潜像印刷物に対して光源に対して拡散反射が支配的な環境で観察した場合、(b)、(c)、(d)、(e)は、正反射が支配的な環境で光源に対して光沢差を利用した潜像印刷物を傾けて観察した場合に認証できるそれぞれの像を示している。
【0075】
本実施例では有色光沢凸形状の画素N(11a)をなす画素の各辺に低光沢画線を配したが、図14に示すように、画素の配置ピッチと一致していれば画素のコーナーに配した場合でも同様の効果を得ることができることはいうまでもない。
【実施例4】
【0076】
次に、スクリーン印刷1回刷り後に切削加工を行い、連続画像を出現させる光沢差を利用した潜像印刷物について、図15、図16及び図17を用いて説明する。
【0077】
本実施例は、拡散領域においては潜像が濃淡反転した画像であって、正反射領域においては潜像として付与した画像が立体物のように潜像遷移として視認される例である。
【0078】
本実施例は、光沢凸形状画線に適当な波長のレーザを照射し、光沢凸形状画線の表層をわずかに切削することでレーザを照射していない光沢凸形状画線部と比較して光沢の低い低反射画線を付与する技術を利用する。
【0079】
光沢凸形状画線における画線ピッチは0.6mmとし、0.45mmの画線と0.15mmの非画線からなる平行線であり、画線高さ15μmの構成とする。また、インキは蒸着アルミ顔料を含有している銀インキ(ウォールステンホルム社製:ミラシーン)を使用し、UVスクリーン印刷方式を用いた。本インキの60°光沢度(株式会社村上色彩技術研究所_デジタル光沢計GM−3Dでの測定)は、199以上、75°光沢度は179である。
【0080】
潜像画像は、図15に示す立体物(16)に対して約50cmの距離から0度、5度、10度、−5度、−10度の角度でそれぞれ撮影した画像を使用とする。立体物と正対して撮影した写真を潜像画像C、立体物の中心から5度を成す角度から撮影した写真を潜像画像B、立体物の中心から10度を成す角度から撮影した写真を潜像画像A、立体物の中心から−5度を成す角度から撮影した写真を潜像画像D、立体物の中心から−10度を成す角度から撮影した写真を潜像画像Eとする。
【0081】
次に、潜像合成画像を作製するための画線構成の例を図16に示す。潜像を5パターン現す場合について説明する。まず、潜像画像A、潜像画像B、潜像画像C、潜像画像D及び潜像画像Eをそれぞれ4分割する。潜像画像Aを分割したそれぞれをA1、A2、A3、A4とし、同じように潜像画像Bを分割したそれぞれをB1、B2、B3、B4、潜像画像Cを分割したそれぞれをC1、C2、C3、C4、潜像画像Dを分割したそれぞれをD1、D2、D3、D4、潜像画像Eを分割したそれぞれをE1、E2、E3、E4とする。その後、A1、B1、C1、D1、E1によって1本の万線を作製し、同じようにA2、B2、C2、D2、E2によって1本の万線を作製、A3、B3、C3、D3、E3によって1本の万線を作製、A4、B4、C4、D4、E4によって1本の万線を作製する。このようにして作製した複数の万線を合成することで潜像合成画像を作製する。
【0082】
潜像合成画像は、レーザ加工用のデータに変換され、前記光沢凸形状画線にレーザ加工を行い、潜像合成画像を作製する。図17は、5パターンの潜像が現出するように作製された潜像合成画像(17)である。潜像画像A、潜像画像B、潜像画像C、潜像画像D及び潜像画像Eの各潜像画像を、それぞれ画線幅0.09mmで分割し、上述した方法に従い画線を順に隙間なく配置して潜像合成画像を形成する画線(18)を作製し、同様に潜像画像分の全ての万線を作製する。作製した全ての万線を非画線0.15mmで挟み、光沢凸形状画線と同じピッチの0.6mmで構成する。その後、構成した各潜像画像の画線を合成し潜像合成画像を作製する。
【0083】
光沢凸形状画線の表層に、潜像合成画像を生成するために使用するレーザ照射装置は、波長1μmのYVO4レーザマーカー(キーエンス社製)を使用し、レーザ照射条件はレーザパワー25%、スキャンスピード2000mm/s、Qスイッチ周波数100kHzの設定で行った。この出力によって光沢凸形状画線にレーザを照射した場合、レーザを照射した銀インキの60°光沢度は16.7となる。
【0084】
本実施例においては、ホログラム調の印刷物の作製を目的とするため、実際のホログラム同様に潜像合成画像は拡散反射領域である程度ネガ像として視認できる構成とし、正反射領域における潜像の視認性を重視した構成とするため、潜像が拡散反射領域で視認できる程度に光沢凸形状画線の部分的な表面切削を行うが、潜像を拡散反射領域で視認されたくない場合にはレーザの出力を低く抑えることが好ましい。
【0085】
また、レーザの波長は光沢差を利用した潜像印刷物の正反射領域における視認性及び拡散領域における画像の視認性並びにレーザ切削加工(レーザ照射)を行う基材に合わせて選択する必要がある。例えば、画像濃度の低い光沢凸形状画線を切削する場合、光沢差を利用した潜像印刷物の拡散反射領域における潜像合成画像の隠ぺい性と、正反射領域における潜像の視認性を両立させるために炭酸ガスレーザを使用するのが好ましい。
【0086】
作製した光沢差を利用した潜像印刷物は、拡散反射領域ではネガ画像として光沢凸形状画線に視認されるが、光に対して傾けることで正反射が支配的な環境において潜像画像Cがポジ画像に転じる。その状態から5度傾けた場合は潜像画像Dが出現し、10度傾けた場合は潜像画像Eが出現する。また、−5度傾けた場合は潜像画像Bが出現し、−10度傾けた場合は潜像画像Aが出現する。
【0087】
これらの潜像画像を視認する観察角度の間にはわずかな差異しかないため、潜像画像の遷移は部分的に2像混ざり合って視認されたり、単独で視認されたりすることから、左右の目で異なった潜像画像を視認させつつ、潜像間で切れ目のないスムーズな画像遷移として視認できる。さらに、この光沢差を利用した潜像印刷物から適当な距離を置いて正反射領域における潜像を確認すると、立体物のように視認可能である。
【実施例5】
【0088】
前記実施例1から4において、光沢凸形状画線は高い画線高さを有する印刷方式であるスクリーン印刷方式によって形成しているが、本実施例においては光沢凸形状画線をオフセット印刷方式によって形成し、潜像合成画像もオフセット印刷方式によって形成する、高い生産性を実現した潜像印刷物について、図18、図19及び図20を用いて説明する。
【0089】
本実施例は、オフセット印刷方式で形成できるわずかな画線高さを利用することで本潜像印刷物を形成する例であり、数マイクロメートルの高さの画線高さであっても、請求項に記載の光沢凸形状画線を形成できることを示すものである。本印刷物は、拡散領域においては画像として認識できない無像の状態であって、正反射領域においては潜像印刷物をわずかに傾けることで、潜像として2つ以上の画像がスイッチして視認される。
【0090】
図18に示す光沢凸形状画線J(19)は平行なスリット画像とし、スリットにおける画線ピッチは0.15mmとし、0.1mmの画線と0.05mmの非画線からなり、画線高さ1〜3μmの構成とする。光沢凸形状画線の上に図19の潜像画像Aを構成する潜像画線(20)と図19の潜像画像Bを構成する潜像画線(21)が同一のピッチで配されている。光沢凸形状画線J(19)を形成しているインキは高光沢なOPニス(大日本インキ化学工業株式会社製:POP-K OPニス)を使用し、酸化重合ウェットオフセット印刷方式を用いた。本インキの60°光沢度(株式会社村上色彩技術研究所_デジタル光沢計GM−3Dでの測定)は、61.3である。
【0091】
次に、潜像合成画像を作製するための画線構成の例を図19に示す。潜像を2パターン現す場合について説明する。まず、潜像画像A、潜像画像Bをそれぞれ同一のピッチで分割する。潜像画像Aを分割したそれぞれをA1、A2、A3、A4とし、同じように潜像画像Bを分割したそれぞれをB1、B2、B3、B4とする。その後、A1、B1を含みA1とB1の間に非画線を挟んだ1本の万線を作製し、同じようにA2、B2を含みA2とB2の間に非画線を挟んだ1本の万線を作製、A3、B3を含みA3とB3の間に非画線を挟んだ1本の万線を作製、A4、B4を含みA4とB4の間に非画線を挟んだ1本の万線を作製する。このようにして作製した複数の万線を合成することで潜像合成画像を作製する。
【0092】
潜像画像A、潜像画像Bの各潜像画像を、それぞれ画線幅0.03mmで分割し、上述した方法に従い画線(例:A1)と画線(例:B1)の間に0.03mmの非画線を挟んだ1本の万線を作製し、同様に潜像画像分の全ての万線を作製する。作製した全ての万線を非画線0.06mmで挟み、光沢凸形状画線と同じピッチの0.15mmで構成する。その後、構成した各潜像画像の画線を合成し潜像合成画像を作製する。
【0093】
図18に示すように、塗工紙に光沢凸形状画線J(19)を印刷し、その後、低光沢のオフセットインキ(大日本インキ化学工業製OPニス_new_championマット)を用いて潜像画像A(20)、潜像画像B(21)を重ね刷りし、光沢差を利用した潜像印刷物を得た。低光沢オフセットインキの60°光沢度(株式会社村上色彩技術研究所_デジタル光沢計GM−3Dでの測定)は、印刷物のベタ部分で5.5である。
【0094】
作製した光沢差を利用した潜像印刷物は、拡散反射領域では光沢凸形状画線Jおよび潜像画像A、潜像画像Bともに透明なインキで形成されていることから、図20(a)に示すとおり、ほぼ視認できず無像であり、本潜像印刷物を光に対して傾けることで正反射が支配的な環境において光沢凸形状画線Jが光を反射する状態となる。正反射の状態から1〜2度傾けた場合は図20(b)に示すとおり、潜像画像Bが出現し、図20(c)に示すとおり、−1〜2度傾けた場合は潜像画像Aが出現する。
【0095】
以上のように、本発明を用いることで光沢差を利用した複数の潜像を効果的に配すことが可能となる。
【0096】
記載した実施例1乃至実施例4においては光沢凸形状の画線及び画素をすべてスクリーン印刷方式で施したが、一定の高さの画線及び画素が得られる印刷方式や加工方式であれば問題なく、凹版印刷やエンボス加工等の方式であっても何ら問題ない。また、実施例5において説明した二つ程度の潜像のスイッチであればオフセット印刷方式で光沢凸画線を形成することも可能である。本技術は、高光沢画線の中にわずかでも光の反射角度の異なる面を形成することができれば潜像のスイッチは可能であり、その角度の差は1〜2度程度あれば潜像はスイッチする。より一層の効果を望むのであれば、光沢凸形状の画素に機能性材料を用いることが望ましい。光沢凸形状の画素にパール顔料を混合したり、発泡インキを用いたりすることで、より効果的に実施可能である。特にパール顔料を配した画線は拡散領域で極めて鮮やかな色相表現を加えることが可能であるため、本発明の潜像の視認性をより一層高めることができる。
【0097】
実施例では低光沢画線は、オフセット印刷方式で施したが、グラビア印刷方式や凸版印刷方式、フレキソ印刷方式、あるいはスクリーン印刷方式等のあらゆる印刷方式で実施可能であることはいうまでもなく、実施例1のように画線の被覆厚さを変えることで光沢差を生じさせることはもちろん、実施例4で説明するように、レーザ照射で画線を部分的に削り取る方法や、プリンタで白色インキを転写し、光沢凸形状の画素に画素の粗さの違う部位を形成する方法等、光沢差を生じさせることで実施できる。プリンタによる印字やレーザ照射のような加工方法を用いる場合、その加工精度の問題から潜像の画像解像度は低くなる場合が多いものの、製版を行う必要がある印刷と異なり、瞬時に潜像を付与することが可能であり、印刷物ごとに異なった番号や顔画像等の可変情報を付与することが可能であるという利点がある。
【0098】
また、UVスクリーン印刷や凹版印刷などの盛り上がりに富んだ画線を形成させることが可能な印刷方式の場合、潜像画線となる低光沢画線を光沢凸形状画線と同じ光沢度のインキを使用しても、その画線の高低差によって光を正反射する角度に変化が生じるため、これらの複数の潜像を生じさせることは可能である。ただし、この場合でも光沢凸形状画線と同じ高光沢インキを使用するよりも低光沢インキを使用した場合のほうが効果は高い。
【0099】
また、実施例2については光沢凸形状の画線を直線構造の平行線としたが、刷り合わせ精度を維持できるのであれば、曲線や分割線、円あるいはそれらの組み合わせを用いても何ら問題ない。この場合、例えば実施例2の構成で考えると、潜像画像は光沢凸形状の画線や画素が成している曲線や分割線、円等の同じ形状でn分の1以下の幅で切り分け、光沢凸形状の画線上に積層すればよい。
【0100】
また、実施例3において画素は四角形の画素形状としたが多角形や円形であっても、同様にこの発明の範疇であることは言うまでもない。加えて、刷り合わせ難度を下げるために、潜像を成す画線や画素の幅を太らせて光沢凸形状画線・光沢凸形状画素からはみだし、非画線部にも積層する潜像画線・画素構成とすることは、容易に想定しうるものであり、本発明の範疇である。
【0101】
加えて、凸構造を有する透明な画線がある一定のレンズ効果を有することを利用して、ピッチを持った色の異なった画線を光沢凸形状の画素下に配して本発明に色変化の効果を追加したり、光沢凸形状の画素下にピッチを持った分割画像を配して画像変化を付与したりすることは、本発明と公知の技術との単純な組み合わせである。さらに、銀や金色等の実体色を有した高光沢インキで任意の画像を形成し、その上に透明な画線で形成した本発明(透明な光沢凸形状画線と透明な潜像画線)を印刷することで、拡散反射領域では高光沢インキの画像のみが視認され、正反射領域では潜像画像のみが視認される画像形成体についても、本発明と公知の技術の組み合わせとして容易に考えられる範疇のものである。
【0102】
また、これまで述べてきたいずれの実施形態においても、光沢凸形状画線及び光沢凸形状画素の高さは10μmを超えていることが、視認性の面からは望ましい。ただし、実施例5に示すように、潜像数を2〜3程度に限定するのであれば、オフセット印刷で得られる程度の画線高さである1〜3μm程度の画線高さでも本発明は実施可能である。
【0103】
さらに、請求項1(実施例1)及び請求項3に記載の印刷物においては、光沢凸形状画線の高さと潜像画線の高さの差は4μm以上あることが望ましく、同じく光沢凸形状画素の高さと潜像画素の高さの差も4μm以上あることが望ましい。
【0104】
さらに、請求項2(実施例2、実施例5)及び請求項4(実施例3)に記載の印刷物においては、光沢凸形状画線の光沢度と潜像画線の光沢度の差は50以上であることが望ましく、同じく光沢凸形状画素の光沢度と潜像画素の光沢度の差も50以上であることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画線構成及びその断面を示す。
【図2】本発明の一実施例における潜像Aと潜像Bの画線高さを水準1から水準9まで変化させて光沢差を利用した潜像印刷物を作製し、視認性を確認した結果を示す。
【図3】(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物を、入射する光に対して拡散反射が支配的な環境で観察した場合を示し、(b)は、正反射が支配的な環境で入射する光に対して5度手前側に傾けて観察した場合を示し、(c)は、正反射が支配的な環境で入射する光に対して−5度向こう側に傾けて観察した場合を示す。
【図4】本発明の一実施例における有色凸画像5の画線構成を示す。
【図5】本発明における潜像画像の詳細な画線構成を示す。
【図6】本発明の一実施例における潜像画像A、潜像画像B、潜像画像Cにおける潜像画線C、潜像画線D、潜像画線Eの画線構成を示す。
【図7】本発明の一実施例における潜像の画線幅を変更し、それに伴う潜像数を水準1から水準4まで変更して光沢差を利用した潜像印刷物を作製し、視認性を確認した結果を示す。
【図8】(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画線構成を示し、(b)は、その断面を示す。
【図9】(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物を、入射する光に対して拡散反射が支配的な環境で観察した場合を示し、(b)、(c)及び(d)は、正反射が支配的な環境で入射する光に対してそれぞれ一定角度傾けて観察した場合を示す。
【図10】本発明の一実施例における有色光沢凸形状の画素を複数配列した図を示す。
【図11】本発明の一実施例における潜像画素F、潜像画素G、潜像画素H、潜像画素Iの画素構成を示す。
【図12】本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画素構成を示す。
【図13】(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物を、入射する光に対して拡散反射が支配的な環境で観察した場合を示し、(b)、(c)、(d)及び(e)は、正反射が支配的な環境で入射する光に対して一定角度傾けて観察した場合を示す。
【図14】本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画素構成を示す。
【図15】本発明の一実施例における潜像画像の立体物を示す。
【図16】本発明における潜像画像の詳細な画線構成を示す。
【図17】本発明の一実施例における潜像画像A、潜像画像B、潜像画像C、潜像画像D、潜像画像Eにおける潜像合成画線の画線構成を示す。
【図18】本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物の画線構成及びその断面を示す。
【図19】本発明の一実施例における潜像画像A、潜像画像Bにおける潜像合成画線の画線構成を示す。
【図20】(a)は、本発明の一実施例における光沢差を利用した潜像印刷物を、入射する光に対して拡散反射が支配的な環境で観察した場合を示し、(b)、(c)は正反射が支配的な環境で入射する光に対して一定角度傾けて観察した場合を示す。
【符号の説明】
【0106】
1 光沢差を利用した潜像印刷物
2 光沢凸形状の画線L
3 潜像画線A
4 潜像画線B
5 有色凸画像
6a、6b 有色光沢凸形状の画線M
7 潜像合成画像
8 潜像画線C
9 潜像画線D
10 潜像画線E
11 潜像印刷物
11a 有色光沢凸形状の画素N
12 潜像画素F
13 潜像画素G
14 潜像画素H
15 潜像画素I
16 立体物
17 潜像合成画像
18 潜像合成画像を形成する画線
19 光沢凸形状の画線J
20 潜像Aを構成する潜像画線
21 潜像Bを構成する潜像画線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、光沢を有する同一幅の光沢凸形状画線が、所定のピッチで複数配されてなる潜像印刷物において、
前記光沢凸形状画線の画線幅に対してn分の1以下の幅で構成された少なくとも一つの潜像画線が、前記光沢凸形状画線の一部に同一ピッチで平行に配され、
前記潜像画線の画線高さが、前記光沢凸形状画線の画線高さより低く形成されてなることを特徴とする光沢差を利用した潜像印刷物。
【請求項2】
前記光沢凸形状画線の画線高さは10μm以上で形成され、前記光沢凸形状画線の画線高さと前記潜像画線の画線高さの差は4μm以上であることを特徴とする請求項1記載の光沢差を利用した潜像印刷物。
【請求項3】
基材上に、光沢を有する同一幅の光沢凸形状画線が、所定のピッチで複数配されてなる潜像印刷物において、
前記光沢凸形状画線の上に、前記光沢凸形状画線と異なった光沢を有し、かつ前記光沢凸形状画線の画線幅に対してn分の1以下の幅で構成された少なくとも一つの潜像画線が、前記光沢凸形状画線と同一ピッチで平行に配されてなることを特徴とする光沢差を利用した潜像印刷物。
【請求項4】
前記光沢凸形状画線の画線高さは1μm以上で形成され、前記光沢凸形状画線の光沢度と前記潜像画像の光沢度の差は50以上であることを特徴とする請求項3記載の光沢差を利用した潜像印刷物。
【請求項5】
基材上に、光沢を有する同一面積の光沢凸形状画素が、所定のピッチで複数配されてなる潜像印刷物において、
前記光沢凸形状画素の画素面積に対してn分の1以下の面積で構成された少なくとも一つの潜像画素が、前記光沢凸形状画素の一部に同一ピッチで規則的に配され、
前記潜像画素の画素高さが、前記光沢凸形状画素の画素高さより低く形成されてなることを特徴とする光沢差を利用した潜像印刷物。
【請求項6】
前記光沢凸形状画素の画素高さは10μm以上で形成され、前記光沢凸形状画素の画素高さと前記潜像画素の画素高さの差は4μm以上であることを特徴とする請求項5記載の光沢差を利用した潜像印刷物。
【請求項7】
基材上に、光沢を有する同一面積の光沢凸形状画素が、所定のピッチで複数配されてなる潜像印刷物において、
前記光沢凸形状画素の上に、前記光沢凸形状画素と異なった光沢を有し、かつ前記光沢凸形状画素の画素面積に対してn分の1以下の面積で構成された少なくとも一つの潜像画素が、前記光沢凸形状画素と同一ピッチで規則的に配されてなることを特徴とする光沢差を利用した潜像印刷物。
【請求項8】
前記光沢凸形状画素の画素高さは1μm以上で形成され、前記光沢凸形状画素の光沢度と前記潜像画素の光沢度の差は50以上であることを特徴とする請求項7記載の光沢差を利用した潜像印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−106116(P2007−106116A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250199(P2006−250199)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】