説明

光活性化開始剤を含むマクロマー組成物

本発明は、マクロマー及び可視光で活性化する重合開始剤を含む組成物と、主として可視光スペクトル内の光を発する光源と共に、これらの組成物を用いてマトリックスを生成させるための方法とを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のクロスリファレンス
本出願は、「可視光で活性化する開始剤を含むマクロマー組成物」と題し、そして2005年6月15日に出願されたシリアルナンバー60/690,706を有する仮出願の利益を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、水可溶性光活性化重合開始剤を含む重合性組成物と、当該重合性組成物を用いた現場での(in situ)マトリックス形成方法とに関する。本発明はまた、現場で形成させたマトリックスを用いて、組織機能を改良又は回復させるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
光硬化性であり且つ無機フィラーと結合した重合性有機モノマー材料を含むチキソトロピー性重合性複合材料が、修復(restrative)及び歯科系補綴物処置における材料として一般的に用いられている。これらの歯科材料は、重合性有機モノマー材料、無機フィラー(当該無機フィラーは、複合材料のための構造強化材を提供する)、及び光開始剤及び光還元剤を含む光開始系(例えば、第三級アミン)の一般混合物である。さらに具体的には、これらの歯科組成物は、概して、アクリレート系重合性モノマー材料、例えば、メチルメタクリレート、微粒子フィラー、例えば、ヒドロキシアパタイト、光開始剤としてのカンファーキノン、及び重合補因子としての第三級アミンの混合物を含む。これらの混合物は非水性であり、そして当該混合物が重合により硬化するまでペースト様コンシステンシーを有する。
【0004】
これらの歯科処置の実施において、これらの重合性複合材料は、概して、重合性複合材料が必要な口腔の目標範囲に適用され、次いで、歯科目標物に結合すべき歯科系補綴物と結合するか、又は形成される。上記処置が、上記重合性複合材料を硬化させることができる点に進むと、光源を導入し、そして光を吸収し、かつ励起状態に進めるカンファーキノン光開始剤を活性化するために、当該重合性複合材料を光に曝す。活性化した光開始剤は、光還元剤と反応して、歯科複合材料内でモノマー材料のフリーラジカル付加重合を開始することができ、それにより上記複合材料が硬化する。上記混合物は、概して、約20〜60秒で比較的迅速に硬化する。
【0005】
重合性歯科複合材料における可視光で活性化する光開始剤、例えば、カンファーキノンの広範囲の使用のために、上記混合物を硬化させるためのこの分子の活性化を促進する場合に、特に有用なランプが、歯科処置が実施される所定の位置に見出される。カンファーキノンは、約440nm〜500nm(約470nmの最高吸光度)の範囲の光を最適に吸収し、そしてそれらにより活性化されるので、この発光スペクトルを有するランプ又は他の光源を用いることが好ましい。光開始剤、例えば、カンファーキノンを活性化するためにアルゴン−イオンレーザーを用いることができるが、プラズマアーク、一般的なハロゲンランプ、ファストハロゲンランプ(fast halogen lamp)、及びさらに一般的には、LED(発光ダイオード)供給源が、活性化光源として用いられている。
【0006】
LED源は、カンファーキノンの最高吸光度と調和した狭いスペクトルを超える放射線を発することができ、そして過度の熱を発生しないのが一般的である。カンファーキノン/LED系により供給される光開始メカニズムは、高強度低UV発光源、例えば、メタルハライドバルブと共に、短波長UV(例えば、UVA)活性化光開始剤を用いた光開始系と比較して相対的に弱いことに留意すべきである。
【0007】
歯科複合材料における材料の重合は、チキソトロピー性組成物の物理的性質と、補助剤(ancillary agent)、例えば、光還元剤又は反応促進剤の存在とによって改良されるのが一般的である。ここで、非チキソトロピー性(例えば、水性組成物)である重合性組成物は、歯科処置において用いられないのが一般的である。
【0008】
チキソトロピー性組成物の物理的性質は、歯科処置に特に従順である一方で、これらの組成物の化学的特徴は、決して望ましいものではない。歯科組成物中に存在するいくつかの小分子量化合物、例えば、モノマー材料及び補助試薬は、毒性の懸案事項をもたらす可能性がある。上記重合反応内で完全に消費されるとまではいかず、これらのモノマー材料は、上記複合材料から浸出する場合がある。さらに、チキソトロピー性組成物内で用いられる溶媒系、特に有機成分を有するものは、口の使用に決して理想的なものとはならない場合がある。
【0009】
チキソトロピー性組成物は、修復及び補綴系歯科処置用に用いられるのが一般的であるが、これらの組成物は、固い組織、例えば、骨、又は柔らかい組織、例えば、軟骨の変性の治療に用いられないのが一般的である。上記変性の病気は、歯垢に存在するバクテリアにより引き起こされた歯肉の慢性感染症である歯周炎に見出されることが多い。これらの病気により、歯が失われるまで、歯を支持する装具の破壊が誘発される。手術は、疾患の進行を阻止し、そして失われた組織を再生させるために必要性が示されうる。歯周組織を再生させるために、組織再生誘導(GTR)、骨移植術(BG)及びエナメル質基質誘導体(EMD)の使用を含むいくつかの外科技法が開発されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、組織再生に関連する課題を扱うために用いることができる新規重合性系及び方法に関する。本明細書に記載される本発明の組成物及び方法は、歯科用途に特に有用であるが、他の病状を治療するために用いることがまたできる。
発明の要約
【0011】
一般的に、本発明は、組成物、並びに可視光により活性化する水溶性重合光開始剤とマクロマーとを含む組成物からマトリックスを形成させるための方法に関する。
いくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物は、病状又は適応症の現場での治療のための方法に用いられている。上記治療は、組織の成長又は機能を、回復、改善及び/又は増やすことを含むことができる。本明細書に記載される本発明の組成物を用いて、ホスト組織と接触させて重合したマクロマーのマトリックスを生成させることができる。上記マトリックスは、例えば、当該マトリックスの間及びその中で新しい組織の形成を促進するか、又は許可することにより、組織成長又は機能を回復又は改良させることができる。組織上の作用は、マクロマーそれ自体によるか、又は当該マトリックス中に存在する、そして/又はそれから放出されうる1つ又は2つ以上の生物活性薬剤と組み合わせたマクロマーにより生ずることができる。
【0012】
一般的に、本発明は、可視光発光源と共に用いられる、水溶性の可視光で活性化する重合開始剤及びマクロマーを含むマトリックスを形成する組成物を提供する。可視光発光源は、400nm超、そして一般的には430nm超のピーク波長を有する。上記可視光発光源を、プラズマアーク、一般的なハロゲンランプ、ファストハロゲンランプ、及びLEDから選択することができる。好ましい発光源は、LEDである。上記可視光発光源は、光開始剤を活性化することができるスペクトル出力を有し、それにより上記マクロマーの重合及び上記マトリックスの形成を促進する。
【0013】
本発明の組成物及び方法は、可視光発光源(例えば、LED及びハロゲンランプ)が、多くの歯科及び医療方法で一般的に用いられており、そして/又は市販されている観点から有利である。さらに、これらの光源の種類は、生体組織に関連して用いられた場合に、概して安全である。すなわち、これらの光源から発光するスペクトル出力は、主として、生体組織の核酸へのダメージを含む、組織へのダメージを最小化する可視光スペクトル内にある。ここで、いくつかの態様では、本発明の組成物を、硬組織、例えば、骨、又は軟組織(softer tissue)、例えば、軟骨に作用する病気を治療するための市販の歯科装置と用いることができる。
【0014】
水溶性組成物中のマクロマーと共に、可視光で活性化する光開始剤及び可視光源(例えば、約400nm以上の励起/発光ピークを有するもの)を使用することは、技術的に難しい場合がある。可視光で活性化する光開始剤により、溶液内でラジカル重合を成長させるための比較的弱い機構が提供される。概して、これらの種類の光開始剤を、重合を強化するための種々の補助共試薬(co−reagent)と共に、重合系中で利用する。還元剤、例えば、第三級アミンが、一般的に用いられる共試薬である。上記第三級アミンは、
低エネルギー光開始剤の能力を改良し、還元剤として作用して、光活性化後にフリーラジカル種を発生させ、ラジカル種の発生の際に、水素引抜きを促進することができる。
【0015】
低分子量モノマー化合物がまた、重合を強化することができる。しかし、現場で使用する場合、上記組成物の生態適合性を改良するために、一定の種類の低分子量化合物の存在を減らすか、又は排除することが望ましい場合がある。本発明の組成物及び方法は、非チキソトロピー性組成物のこの光開始系との使用に関連する課題を克服する。
【0016】
本明細書に記載される進歩に基づいて、本発明は、水溶性光開始剤及びマクロマーを含む、マトリックスを形成する組成物を提供し、当該組成物は、可視光発光源(例えば、約400nm以上のピーク波長を有するもの)にさらした場合に、マトリックス中に重合されうる。本発明のいくつかの態様では、これらのマトリックスを形成する組成物を、複数の補助剤(例えば、安全上の懸念をもたらす場合がある、複数の低分子量モノマー化合物又は共開始剤)の存在を要求することなく調製し、上記組成物の重合を促進することができる。照射の際、本発明の組成物は、現場での適用のために特に好適な、エラストマー特性を有する良好な形態のマトリックスを提供する。
【0017】
従って、態様の一つでは、本発明は、現場でマトリックスを形成させるための方法を提供する。
当該方法は、下記段階を含む;
(a)マトリックスを形成する組成物を表面に適用する段階、当該組成物は、(i)マクロマー及び(ii)400nm以上の活性化波長を有する、水溶性の可視光で活性化する光開始剤を含む:そして
(b)光開始剤を活性化して、400nm超のピーク発光波長を有するLED源を用いて上記マトリックスの形成を促進する段階。
いくつかの好ましい実施形態では、上記水溶性光開始剤は、約440〜500nmの範囲の活性化波長を有する。例示的な方法には、カンファーキノン含有組成物を準備すること、次いで当該組成物をLED源で活性化することが含まれる。
【0018】
別の態様では、本発明は、歯科処置における機能又は組織成長を回復又は改良させるための方法に関する。例えば、当該方法の処置を、歯周処置における材料の、重合されたマトリックスを作り出すために実施することができる。
上記方法は、次の段階;
(a)マトリックスを形成する歯周用組成物を、口腔内の組織に適用する段階、当該組成物は、(i)マクロマーと、(ii)400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤とを含む;
(b)上記組成物を光で処理して、上記光開始剤を活性化し、そしてマトリックスの形成を促進する段階。
例えば、上記組成物を、歯と歯茎の境界に沿って適用し、そして上記マトリックスを形成させるために照射することができる。重合性歯科組成物は、組織成長又は機能を改良又は回復させるために調製されることができ、そして生物活性薬剤を含むことができる。
【0019】
いくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物には、バイオマクロマーが含まれる。バイオマクロマーは、重合性の、天然由来ポリマー又は天然由来ポリマーの誘導体を指す。バイオマクロマーは、天然由来ポリマー又はその部分を得て、そして当該ポリマーを誘導して、重合性基、例えば、エチレン系(ethylenically)不飽和基を付加することにより生成されるのが一般的である。
【0020】
さらに別の態様では、本発明は、(a)多糖類を含むバイオマクロマー、及び(b)約400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤を含むマトリックスを形成する組成物を提供する。いくつかの態様では、上記多糖類は、ムコ多糖類である。例えば、上記ムコ多糖類を、ヒアルロン酸、コンドロイチン酸、ケラト硫酸、デルマタン(dermatane)スルフェート、及びヘパリンを含む群から選択することができる。例示的な組成物には、約50mg/mL〜約100mg/mLの範囲の濃度の多糖類バイオマクロマーが含まれる。
【0021】
本発明のいくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物には、多糖類マクロマーと、ポリペプチド又はその活性部分との両方が含まれる。上記ポリペプチドはまた、マクロマーの状態であることができる。有用なポリペプチドの一群には、結合組織、例えば、コラーゲンに見出されるか、又はそれらに由来するものが含まれる。
【0022】
本発明のいくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物は高粘度を有する。粘稠なバイオマクロマー(例えば、ヒアルロン酸)を含む、マトリックスを形成する組成物の調製は、溶液の粘度が、光開始剤(又は他の補助試薬)を上記組成物に十分に混合すための障害となるとの観点から難しい場合がある。上記組成物中の試薬を十分に混合しないと、部分的な又は欠陥があるマトリックスが形成するか、又はマトリックスが全く形成しない場合がある。これらの態様では、上記バイオマクロマーは、上記マトリックスを形成する組成物の高度に粘稠な特性に、部分的に又は全体として寄与することができる。
【0023】
従って、別の態様では、本発明は、(a)マクロマーと、(b)約400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤とを含むマトリックスを形成する組成物を提供し、当該組成物は、約500センチポイズ(cP)以上の粘度を有する。いくつかの好ましい実施形態では、上記光開始剤は、約440〜500nmの範囲の活性化波長を有する。
【0024】
本発明の他の利益は、マトリックスを形成する組成物が、複数の補助試薬に、マクロマー組成物の重合反応を促進又は強化させることなく調製することができることに見出される。場合には、形成したマトリックスから拡散し、そして生体で望ましくない作用を示す場合がある小モノマー化合物の存在が、これにより減るのが一般的である。態様の一つでは、驚くべきことに、好適なマトリックス構造は、上記高粘度組成物中で穏やかな反応性を有する無毒の重合ペルオキシド共開始剤を含ませることにより得ることができることが見出された。
【0025】
従って、別の態様では、本発明は、マクロマーと、約400nm以上の活性化波長を有する水溶性重合光開始剤と、ペルオキシド共開始剤とを含む重合性組成物を提供する。当該重合共開始剤を、ヒドロペルオキシドを含む有機ペルオキシドから選択することができる。好ましい態様では、上記共開始剤には、アルキルヒドロペルオキシド、例えば、パラ−メンタン、t−ブチルヒドロペルオキシド、又はt−ブチルパーベンゾエートを含むヒドロペルオキシドが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に記載される本発明の実施形態は、網羅的であること、又は下記の詳細な説明に開示される厳格な形態まで本発明を限定することを意図するものではない。むしろ、当該実施形態は、当業者が本発明の本質及び実施を正しく評価し、そして理解することができるように選択され、そして記載されている。
【0027】
本明細書で言及される全ての出版物及び特許を、参照により本明細書に組み入れる。本明細書に開示される出版物及び特許は、単にそれらの公表のために提供されている。発明者が、先行する任意の出版物及び/又は特許(本明細書で引用される任意の出版物及び/又は特許を含む)に権利を与えないことの自認として解釈される。
【0028】
本発明は、マクロマー及び光開始剤を含む重合性組成物、マトリックスを形成させるためのこれらの組成物を用いた方法、これらの組成物から形成させたマトリックス、及び種々の用途向けのマトリックスの使用に向けられている。例示的な実施形態により、歯科処置中のマトリックスを形成する組成物の使用を具体的に説明する。しかし、上記組成物を任意の合成面又は天然面に適用し、次いで活性化して当該組成物を重合することができる。
【0029】
本発明の組成物及び方法を、細胞カプセル化;接着剤、密封剤及びバリアのため;制御された放出キャリアのため、組織置換/足場(scaffolding)のため、創傷ドレッシングのため、そして現場でのデバイス形成のために、種々の他の用途で用いることができる。いくつかの態様では、重合されたマトリックスは、合成製品、例えば、移植型の医療デバイスの表面のコーティングを生成することができる。あるいは、上記組成物を用いて、例えば、細胞カプセル化方法において、天然製品、例えば、細胞又は細胞含有物体、例えば、組織の表面をコーティングすることができる。
【0030】
いくつかの態様では、本発明は、重合された材料のマトリックスを現場で形成するための方法に関する。本発明のマトリックスを形成する組成物は、組織を修復又は増加させることが望ましい病気を治療することが望ましい方法を促進することができる。概して、本発明の重合性組成物を、重合されたマトリックスを形成させることが望ましい身体の1箇所又は2箇所以上の部分に適用する。次いで、上記組成物を処理して、その位置に重合された材料のマトリックスを形成させる。形成したマトリックスは、形成後に、組織の置換、足場、組織増加を含む1種若しくは2種以上の機能を果たすか、又は接着剤若しくはシーラントとしてはたらく。
【0031】
例えば、上記マクロマー組成物を組織に適用し、続いて、照射してマクロマーを重合させることができる。これによりマトリックスが形成し、その際に、内方成長(in−growing)細胞が移動し且つ組織化し、組織を生成させることができる。例えば、歯周炎は、組織(骨等)に、成長因子に加えて本発明の組成物を供給することにより治療することができる。いくつかの態様では、上記マクロマー組成物は、上記マトリックスから溶出又は放出することができ、且つ所望の細胞種の内殖をシミュレートする成長因子を含むことができる。すなわち、上記マトリックスの周辺の成長因子の局所濃度により、細胞が、上記マトリックスの周辺、そして多くの場合には、上記マトリックスそのものの中に移動する。
【0032】
他の態様では、上記マトリックスは、所望の細胞種の内殖をシミュレートすることができるが、上記マトリックスから溶出しない因子を提供する。多くのケースでは、上記マトリックスの重合されたマクロマーが、この機能を付与することができる一方で、他の因子を、この機能を補うか、又は様々な機能を提供するために、上記マトリックスに含ませることができる。他の態様では、上記マトリックスは、当該マトリックス内に存在する生物活性薬剤と、当該マトリックス内に含まれる細胞増殖に影響を与える因子とを含むことができる。いくつかの態様では、上記因子は、上記マトリックスの一部である。
【0033】
本明細書に記載される通り、本発明のマクロマー組成物及び方法をまた、組織インプラント又は事前形成させたデバイスと、近接する組織との間の空間を満たすために用いることができる。例えば、上記マクロマー組成物を、組織インプラント、例えば、自家移植片、同種移植片若しくは異種移植片に由来するもの、又は再生医療により提供される移植片と共に用いることができる。現在の再生医療生成物は、組織欠陥に移植される培養された組織から成ることが多い。
【0034】
上記生成物は、近接する天然組織に順応せず、望ましくない分泌液及び細胞が堆積し、そして有害な組織応答を生じさせる空間を残すのが典型的である。例えば、培養した軟骨を軟骨欠陥に移植した場合、滑液分泌液及びマクロファージが満たされてない空間に入り込み、そして線維組識形成をもたらし、移植された軟骨を、天然の軟骨に組み込むことが妨げられる場合がある。組織欠陥に移植され、且つ本発明のマクロマー組成物から形成させたマトリックスの利益を受ける、他の培養された組織には、皮膚、骨、じん帯、血管及び心臓弁が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明のマクロマー組成物及び方法を、身体の一部に移植されるデバイスの表面上又はその中の空隙をコーティング及び/又は満たすために用いることができる。形成させた上記マトリックスを、コーティングされたマトリックスを有するデバイスの一部への組織に組織を組み込むことを促進するために用いることができる。例えば、上記バイオマクロマー組成物を、関節インプラント(例えば、股関節又は膝関節復元向け)、人工歯根、軟組織美容(cosmetic)人工器官(例えば、胸部インプラント)、創傷ドレッシング、血管用人工器官(例えば、人工血管及びステント)、及び眼病用人工器官(例えば、角膜内レンズ)上にマトリックスを形成させるために用いることができる。
【0036】
いくつかの態様では、上記マクロマー組成物を、皮膚用フィラーとして用いることができる。例えば、上記組成物を軟組織の増加に用いて、疾患、組織損傷、傷跡(scarification)、光に由来するダメージ、及び老化の影響から生じうる輪郭の欠陥を治療することができる。
【0037】
組織の修復のため、種々の組織の損傷、例えば、慢性潰瘍、床ずれの傷及び褥瘡、足部潰瘍、角膜損傷、鼓膜穿孔、外科創傷、皮膚移植片恵皮部(skin graft donor site)、火傷等を治療するために、上記マトリックスを形成させることができる。
【0038】
上記重合性組成物を、天然組織に強く付着したマトリックス中で重合することができる。一般的に、上記マトリックスを、組織成長又は機能を、回復、改良、及び/又は増やすために形成させることができる。いくつかの態様では、上記マトリックスは、出血のうっ血性圧力に耐えることができるうっ血バリアとして作用することができる。上記マトリックスを形成させるために生分解性マクロマーが用いられた場合、ある期間の後、上記マトリックスは、例えば、好適な量の組織治癒が行われた後に生分解し、そして生分解吸収される。
【0039】
本発明の例示的な態様において、上記組成物は、組織増加に特に有用である。この態様では、上記バイオマクロマー組成物を、重合されていない状態で目標位置に供給され、次いで現場で重合させ、重合された材料のマトリックスを供給する。
【0040】
本発明の組成物を、任意の種類の医療処置に用いることができる一方で、さらなるいくつかの特定用途には、歯科処置における使用が含まれる。本発明の組成物は、歯科処置に特に好適である。というのは、それらは、カンファーキノン含有混合物を利用する処置が実施される歯科医院で一般的に入手可能なデバイス及び試薬と共に、それらを用いることができるからである。上記デバイスには、チキソトロピー性混合物の光重合を開始するために用いられるランプが含まれる。この点では、本発明の組成物が有利に用いられる。というのは、活性化系、例えば、ハロゲンランプ及びLEDが、使用者の所持物の中にあるのが典型だからである。カンファーキノンと同一範囲にある活性化波長を有する光開始剤をまた、本発明の組成物及び方法において用いることができる。
【0041】
簡素な形態では、本発明の組成物には、少なくとも2種の成分が含まれる。上記組成物の第一の成分はマクロマーであり、そして上記組成物の第二の成分は光開始剤である。本発明の組成物の光開始剤は、約400nm以上の最大吸光度を有する光開始剤である。本発明のいくつかの態様では、上記水溶性重合開始剤は、約440〜500nmの範囲において最高吸光度を有する。これらの範囲内の活性化エネルギーを有する光開始剤の例には、例えば、カンファーキノン及びそれらの水溶性誘導体等の化合物が含まれる。
【0042】
重合されたマクロマーのマトリックスの形成を促進するために十分な量で、可視光を上記組成物に適用することができる。上記組成物中に、他の成分が存在することができる。これらは、重合されたマトリックスの形成を改良する成分と、重合されたマトリックスの物理的性質を変化又は改良する成分と、治療の効果、例えば、生物活性薬剤を供給することができる成分とであることができる。上記組成物に追加の成分が存在する場合、それらは、所望の機能性又は特性を有するマトリックスを形成する組成物及び/又はマトリックスを供給するように、使用者により選択されうる。
【0043】
「水溶性」光開始剤は、約0.5%以上の、上記マクロマー組成物中での溶解性を有する。
いくつかの実施形態では、カンファーキノンの水溶性誘導体を利用することができる。カンファー又はカンファーキノンを、例えば、帯電した基を添加する当業者に公知の技法により、誘導することができる。例えば、G.Ullrichらの(2003)「Synthesis and photoactivity of new camphorquinone derivatives」Austrian Polymer Meeting 21,International H.F.Mark−Symposium,131を参照のこと。
【0044】
本発明のいくつかの態様では、カンファーキノン、9,10−フェナントレンキノン、及び400nm以上の吸光度を有するナフトキノンの水溶性誘導体から選択されうる水溶性光開始剤はジケトンである。本発明のいくつかの態様では、例えば、上記光開始剤は、カンファーキノンの水溶性誘導体から選択される、水溶性の非芳香族のα−ジケトンである。
【0045】
他の好適な長波紫外線(LWUV)又は光活性化分子には、[(9−オキソ−2−チオキサンタニル)−オキシ]酢酸、2−ヒドロキシチオキサントン、及びビニルオキシメチルベンゾインメチルエーテルが含まれるが、これらに限定されるものではない。好適な可視光で活性化する分子には、アクリジンオレンジ、エチルエオシン、エオシンY、エオシンB、エリスロシン、フルオレセイン、メチレングリーン、メチレンブルー、フロキシン(phloxime)、リボフラビン、ローズベンガル、チオニン、キサンチン染料等を含む開始剤の水溶性形態が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
約400nm以上の活性化波長を有する光開始剤がまた、マトリックス形成のために十分な濃度で上記組成物に存在する。いくつかの態様では、上記水溶性光開始剤(例えば、水溶性の非芳香族α−ジケトン、例えば、水溶性カンファーキノン誘導体)が、約10mg/mL以上の濃度で用いられる。好ましいマトリックスを形成する組成物には、約10mg/mL〜20mg/mLの範囲の濃度において、約400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤が含まれる。
【0047】
本発明で実証されるように、約10mg/mL以上、例えば、約10mg/mL〜20mg/mLの範囲内の濃度により、400nm超のピーク波長を有する可視光発光源(LED光源等)と併せて用いられる、特に丈夫なマトリックスを形成する組成物が生成する。
例示的なマトリックスを形成する組成物には、約15mg/mLの濃度における水溶性カンファーキノン誘導体、例えば、カンファーキノン−10−スルホン酸が含まれる。
【0048】
用語「マクロマー」は、1個若しくは2個、又は2個超の重合性基を有するポリマーを指す。上記マクロマーのポリマー部分は、ホモポリマー又はコポリマーであることができ、そして天然品又は合成品であることができる。マクロマーを作り出すために、重合性基を天然ポリマーに加える場合、当該マクロマーは、天然ポリマーの誘導体とみなされる。上記マトリックスを形成する組成物は、1種のマクロマー、又は異種のマクロマーの組み合わせ物を含むことができる。
【0049】
本発明のいくつかの態様では、上記マクロマーは、天然由来の多糖類である。
天然由来の多糖類には、植物、動物、及び微生物を含む天然源から得られた多糖類及び/又は多糖類誘導体が含まれる。上記天然由来の多糖類は、ホモグリカン又はヘテログリカンであることができ、例示的なヘテログリカンには、ジヘテログリカン及びトリヘテログリカンが含まれる。
【0050】
例示的な天然由来の多糖類には、アミロース、マルトデキストリン、アミロペクチン、でん粉、デキストラン、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、硫酸デキストラン、ペントサンポリスルフェート及びキトサンが含まれる。上記天然由来の多糖類はまた酵素的に分解されうるが、一般的に非酵素的な加水分解に安定である優位性を示す。
【0051】
本発明のいくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物には、植物由来の多糖類、例えば、アミロース、マルトデキストリン、アミロペクチン、でん粉、デキストラン、硫酸デキストラン、ペントサンポリスルフェート又はキトサンから調製されたマクロマーが含まれる。いくつかの態様では、上記植物由来の多糖類は、分岐がほとんど又は全くない低分子量ポリマー、例えば、でん粉調製物に由来するか、そして/又はそれに見出されるもの、例えば、アミロース及びマルトデキストリンである。好ましいマクロマーには、α−1,4結合により結合したグルコピラノース単位を含む低分子量生分解性ポリマーが含まれる。従って、上記植物由来の多糖類は、実質的に分岐していないか、又は分岐していないポリ(グルコピラノース)ポリマーであることができる。
【0052】
例示的な植物由来のマクロマーには、アミロース及びマルトデキストリンマクロマーが含まれ、その調製は、同一出願人による米国特許出願公開第2005/0255142号公報及び2005年11月11日に出願された米国特許第11/271,238号明細書に記載されている。実施のいくつかの様式では、約1000Da〜約10,000Daの範囲の平均分子量を有する生分解性多糖類マクロマー(例えば、アミロース又はマルトデキストリン)を、約400nm以上の活性化波長を有する光開始剤(例えば、水溶性カンファーキノン)と組み合わせて用いて、現場でマトリックスを形成する。
【0053】
マトリックス形成のために、この種の生分解性マクロマー(例えば、マルトデキストリンマクロマー)を用いることにより、歯科処置向けの優位性を提供することができる。上記マトリックスの分解は、当該マトリックスを分解することができるアミラーゼを含む唾液と接触して開始する場合がある。上記マトリックスは高度に架橋することができるので、分解の速度は遅くなりうる。さらに、上記マトリックスの分解は、バルク腐食よりはむしろ、表面腐食により生ずるであろう。これにより、上記マトリックスの分解の際に、当該マトリックスの結合性が維持される。これらのマクロマーから形成させたマトリックスは、長期間にわたり、当該マトリックスから生物活性薬剤を供給させるために有用であることができる。上記マトリックスは、より大きな親水性生物活性薬剤、例えば、ポリペプチド、核酸及び多糖類を送達させるために特に好適である。
【0054】
本発明のいくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物は高粘度を有する。上記組成物の高度に粘稠な特性は、当該組成物中の1種又は2種以上の成分の特性により、例えば、上記マクロマー成分により付与されうる。多くのケースでは、ムコ多糖類系マクロマーにより、高度に粘稠な特性を有する、マトリックスを形成する組成物が提供される。他の非ムコ多糖類系マクロマー、例えば、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシメチルデキストランが、高度に粘稠な、マトリックスを形成する組成物を供給するために含まれうる。
【0055】
粘度は、回転円筒式機器、例えば、ブルックフィールド型粘度計(Brookfield Engineering Laboratories,Middleboro,MA)等の装置を用いて、ポイズ(P)若しくはセンチポイズ(cP)、又はPa/秒(Pa・s-1)の単位で測定されるのが一般的である。軸を回転させるために必要な力の量(トルク)を、ポイズ(P)又はセンチポイズ(cP)(1.0P=0.1ニュートン・秒/m2)で記録する。ガラスキャピラリ粘度計が、ニュートン流体の粘度を測定するための標準機器であり、そして水の粘度の規定値を参照して較正される。
【0056】
本発明のマトリックスを形成する組成物の粘度に影響を与えうる要因には、当該組成物中の重合性材料(マクロマー)の濃度と、当該組成物のpHと、当該組成物の温度と、当該組成物のイオン条件とが含まれる。本発明のいくつかの態様を実証するために、「高粘度」組成物を、上記組成物の特定のパラメータを参照して、本明細書で例証する。
【0057】
すなわち、「高粘度」組成物は、マクロマー成分の選択された濃度、選択されたpH、そして選択された温度における、組成物の粘度を指す。マクロマーを含む任意の重合性組成物を調製することができ、ここで、当該マクロマーは選択された濃度で存在し、そして当該組成物はまた選択されたpHを有するように調製される。次いで、上記組成物の粘度を、選択された温度で測定することができる。
【0058】
重合性組成物の粘度を測定するための例示的な選択されたパラメータは、次の通りである。
・一又は複数のマクロマー成分の濃度:5%(w/v)(例えば、100mLの水溶液当たり、5gの一又は複数の凍結乾燥されたマクロマー)
・組成物のpH:7
・温度:25℃
【0059】
ポリマー溶液、例えば、多糖類系溶液の粘度は、当該ポリマーの間の水素結合した網目の存在に少なくとも起因すると考えられる。水素結合を破壊する要因は、粘度を下げるように寄与することができる一方で、水素結合を促進する要因(例えば、pH条件)は、粘度の上昇をもたらすことができる。従って、マクロマー、例えば、多糖類を含む重合性組成物の粘度の測定において、より広いpH範囲にわたる組成物の粘度の代表とはならない極めて高い粘度を有する組成物を形成させるpH条件(特にマクロマーの等電点)を避けることが望ましい。
【0060】
例えば、ムコ多糖類、例えば、ヒアルロン酸を溶解させて、高粘度水溶液を生成させることが知られている。HA溶液の粘度は、当該溶液のpH条件によって変わりうる。また、上記粘度は、溶液中のマクロマーの濃度によって有意に影響を受けることがある。上記多糖類の濃度をわずかに高く又は低くすると、溶液の粘度を、それぞれ、有意に高く又は低くすることができる。
【0061】
本発明のいくつかの態様には、
(a)マトリックスを形成する組成物を、対象の一部に適用する段階、
当該マトリックスを形成する組成物には、(i)マクロマーと、(ii)約400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤とが含まれ、当該組成物は、500cP以上の粘度を有する;そして
(b)上記組成物を光で処理して上記光開始剤を活性化させ、そして上記組織上でマクロマーを含むマトリックスの形成を促進する段階:
が含まれる。
【0062】
さらに具体的には、上記段階を、歯科処置の中で実施することができる。
例えば、上記方法には、
(a)マトリックスを形成する歯科組成物を、口腔内の組織に適用する段階、
当該マトリックスを形成する歯科組成物には、(i)マクロマーと、(ii)約400nm以上の活性化波長を有する光開始剤とが含まれ、当該重合性歯科組成物は、約500cP以上の粘度を有する;
(b)上記組成物を光で処理して上記光開始剤を活性化させ、そして上記組織上でマクロマーを含むヒドロゲルの生成を促進する段階:
が含まれる。
【0063】
グリコサミノグリカンとしても知られているムコ多糖類は、マクロマーの状態で本明細書に記載される本発明の組成物に含まれうるマイナスに帯電したポリマーであり、高度に粘稠な、マトリックスを形成する組成物を生成する。本発明により企図される好適なムコ多糖類には、関節の潤滑分泌液中に見出されるもの、そして滑軟骨、滑液分泌液、硝子体液、骨及び心臓弁として見出されるものが含まれる。典型的なムコ多糖類は、長鎖且つ未分岐のポリマーである。しかし、例えば、より短鎖のそして/又は分岐の少ないムコ多糖類が望ましい場合には、これらのポリマーを、当該ポリマーの分岐及び長さに影響を与えるように変性することができる。
【0064】
ムコ多糖類は、2つのアミノ糖化合物、例えば、N−アセチルガラクトースアミン又はN−アセチルグルコサミンのいずれか、及びウロン酸、例えば、グルクロネートを含む繰返しの二糖類単位を含むのが典型的である。上記重合性組成物に含まれうる例示的な天然由来のムコ多糖類には、例えば、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸及びケラタン硫酸が含まれる。
【0065】
本発明のいくつかの態様では、患者が、ポリペプチド系バイオマクロマー、例えば、コラーゲン(例えば、ウシのコラーゲン)に過敏性を示す場合には、ムコ多糖類を含むバイオマクロマー組成物を用いることができる。他の態様では、動物に由来する材料の使用を避けるために、ムコ多糖類系組成物を利用することが望ましい場合がある。
【0066】
ヒアルロン酸は、(たんぱく質に)非接着性であり、非免疫原性であり、そして交互のβ−1,4−グルクロン酸及びβ−1,3−N−アセチル−D−グルコサミン単位を含む天然由来の線状ポリマーである。HAは、結合組織分泌液内の主なグリコサミノグリカンである。HA(例えば、HANa+塩)の市販の調製物を用いて、マクロマーを調製することができる。1×105〜2×106の範囲の分子量を有するHAを用いることができる。
【0067】
細胞外のマトリックスに構造上の機能を付与するHAの役割に加えて、HAはまた、組織のマクロ環境及びミクロ環境を制御することにより、並びに遺伝子発現に対する直接の受容体媒介性の作用により、細胞の機能を実施させると考えられる。HAは、細胞外マトリックス分子と、細胞表面受容体とへのその結合を経由して、上記作用を与えると考えられる。HAの存在により、細胞、例えば、ケラチノサイト、繊維芽細胞及び軟骨細胞が影響を受ける場合がある。HAは、炎症の早い段階を促進するが、炎症のより遅い段階を調節することにより、外傷治療を促進すると考えられる。
【0068】
本発明において、任意の種類の水溶性HAポリマー又は水溶性HAポリマー誘導体を、マクロマー成分として用いることができる。HAの水溶性エステル化誘導体、例えば、部分エステル化を有するHAが、上記マトリックスを形成する組成物内に含まれうる。例えば、HAの誘導体、例えば、HAのベンジルエステル(Italiano,G.ら(1997)Urol.Res.,25(2):137−42)を、マトリックスを形成する組成物中に存在するマクロマーとして用いることができる。
【0069】
他の態様では、HAの低分子量断片(Chen及びAbatangelo(1999)Wound Repair Regen.,7:79−89)を、本発明のマトリックスを形成する組成物中のマクロマーとして用いることができる。HAの低分子量断片は、脈管形成(agiogenesis)及び内皮細胞増殖を促進することが示されている(West及びKumar(1989)Exp.Cell.Res.,183:179−196)。HAを、ヒアルロニダーゼの存在下で分断することができる。
【0070】
ヒアルロン酸を、真核性源、例えば、ウシの硝子体液、雄鶏のとさか又は臍帯から得ることができ、そしてバクテリア源、例えば、連鎖球菌属(Streptococcus)ゾオエピデヌクス(zooepidemicus)から得ることができる。HAを含む重合性組成物のために所望の使用にもよるが、1種又は2種以上のこれらの供給源を、上記組成物の調製のために用いることができる。
【0071】
コンドロイチン硫酸は、N−アセチルガラクトースアミン−グルクロン酸二糖類のポリマーである。コンドロイチン硫酸を、組織及び分泌液、例えば、軟骨、滑膜及び滑液分泌液中に見出すことができる。種々のコンドロイチンの硫酸化形態、例えば、種々の硫酸化パターン、例えば、種々のC4S:C6S比(コンドロイチン−4−スルフェート、C4S、又はコンドロイチン硫酸A;コンドロイチン−6−スルフェート、C6S、又はコンドロイチン硫酸C)を有するものを、本発明のマトリックスを形成する組成物で用いることができる。
【0072】
ポリペプチドは、マクロマーを生成するために、本発明で用いられうるのとは別の種類のポリマーを構成する。本明細書において、用語「ポリペプチド」は、その最も広義で用いられ、そして2種若しくは3種以上の天然由来及び/又は合成のアミノ酸残差を含むポリマーを指す。さらに特定の種類のポリペプチドには、40、30又は20個未満のアミノ酸を有する比較的短鎖のポリペプチド等のペプチドと、より大きなポリペプチドを一般的に指すたんぱく質とが含まれる。任意の種類の天然由来型、合成型、組換型、又は誘導型たんぱく質を、マクロマー成分として、本発明のマトリックスを形成する組成物中で用いることができる。
【0073】
上記ポリペプチドマクロマーは、上記マトリックスと接触する組織に作用しうる特性を有することができる。種々の型のポリペプチドマクロマーが、組織機能を改良するか、又は組織成長を促進することができるマトリックスを形成することができる。他のポリペプチドマクロマーを用いて、マトリックスに構造上の機能を付与することができ、そしてまたそれらが接触する組織と相性が良いことができる。マクロマーを生成させるために好適に用いられうるポリペプチドの例には、コラーゲン、アルブミン、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、カゼイン、種々のグロブリン等、及びそれらの生物学的に許容できる合成誘導体が含まれる。有用なポリペプチドの一群には、結合組織に見出されるもの、又はそこに由来するものが含まれる。
【0074】
特に有用なポリペプチドの1種は、ゼラチンである。ゼラチンは、結合組織たんぱく質コラーゲンの変性形態である。いくつかの種類のゼラチンを、調製するか、又は商業的に購入することができる。ゼラチンは、種々の供給源から得られるコラーゲンから調製することができる。また、用いられる抽出及び生産方法により、種々のコラーゲン/ゼラチン調製物を生産することができる。任意の好適なゼラチン調製物を用いて、ゼラチンマクロマーを生成させることができる。好適な種類のゼラチンには、動物の骨及び動物の皮膚から抽出されたものが含まれる。通常、動物材料は、ウシ科又は豚科の動物源に由来する。抽出法にもよるが、2種のゼラチンを調製することができる:A(又は酸性)型、コラーゲンの酸加水分解により調製され、そして約8の等電点を有する、そしてB(又は塩基性)型、コラーゲンの塩基性加水分解により調製され、そして約5の等電点を有する。
【0075】
いくつかの態様では、上記組成物は、2種又は3種以上の異なるマクロマーの混合物を含むことができる。例えば、上記混合物は、ムコ多糖類マクロマー(例えば、HAマクロマー)と、ムコ多糖類マクロマー、ポリペプチドマクロマー、又は合成マクロマーから選択されうる1種又は2種以上の他のマクロマーとを含むことができる。他の例では、上記混合物は、ポリペプチドマクロマーと、ムコ多糖類マクロマー、ポリペプチドマクロマー又は合成マクロマーから選択されうる1種又は2種以上の他のマクロマーとを含むことができる。本発明の態様の一つでは、上記マトリックスを形成する組成物は、ムコ多糖類マクロマーと、ポリペプチドマクロマー(例えば、結合組織、例えば、コラーゲン又はゼラチンに由来するポリペプチドマクロマー)との混合物を含む。一つの例示的な混合物には、HAマクロマー及びコラーゲンマクロマーが含まれる。
【0076】
従って、本発明の組成物は、(a)ムコ多糖類含有バイオマクロマー、(b)ポリペプチド含有バイオマクロマー、及び(c)約400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤を含むことができる。
【0077】
非天然ポリマーに由来するマクロマー、例えば、合成ポリマー主鎖を有するものを、上記マトリックスを形成する組成物に含ませることができる。非天然系マクロマーは、上記マトリックスを形成させるための上記マクロマー組成物の重合の後に形成するマトリックスの特性を変化及び/又は改良させることができる。例えば、非天然系マクロマーは、上記マトリックスを形成させるために用いられた場合、上記マトリックスの生分解性を減らすことができる。非天然系マクロマーには、重合性ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリアクリルアミド(PAA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、それらのコポリマー等が含まれるが、これらに限定されるものではない。これらの種類のマクロマーは、概して、水溶性であり、そして生分解性ポリマーと比較して、in vivoでさらに安定である。
【0078】
非天然系水溶性生分解性マクロマー、例えば、合成且つ生分解性のポリマー主鎖を有するものをまた、上記重合性組成物に含ませることができる。例示的な非天然系水溶性生分解性マクロマーには、生分解性ラクチド結合及び末端アクリレート基を有するPEG部分を含ませることができる。
【0079】
上記マトリックスを形成する組成物は、好適な溶液(例えば、水溶液)に、上記マクロマー成分及び重合開始剤を溶解又は懸濁させて調製することができる。上記マクロマーが、上記溶液に容易に溶解しない場合には、他の成分を上記溶液に添加する前に、最初に当該マクロマーを溶解させることが望ましい場合がある。例えば、上記マクロマー成分は、溶液中に溶解又は懸濁させることにより得られ、次いで、必要に応じて他の補助成分とともに、上記マトリックスを形成する組成物を調製するために水溶性重合開始剤を上記溶液に添加する。
【0080】
上記マトリックスを形成する組成物は、一定量のマクロマー、又は上記マトリックスに所望の特性を付与する量で、マクロマーの組み合わせ物を含むことができる。例えば、上記マトリックスを形成する組成物中のマクロマーの量を調整して、形成するマトリックスの強度、弾性及び/又は多孔性を変化させることができる。例えば、現場で使用する場合、一又は複数のマクロマーの量により、上記マトリックスに、経口適用のために好適である十分な強度及びエラストマー特性を付与することができる。
【0081】
一般的に、上記マクロマー(例えば、バイオマクロマー)が、マトリックス形成に十分な濃度で、上記組成物中に存在する。上記重合性材料は、1種若しくは2種以上のバイオマクロマー、又は1種若しくは2種以上のバイオマクロマーと、非マクロマー系重合性材料との組み合わせ物を含むことができる。いくつかの実施形態では、上記重合性材料(すなわち、上記組成物中の一又は複数のマクロマー成分、及び存在する場合には、非マクロマー成分の総計)が、約50mg/mL以上の量で上記組成物中に存在する。いくつかの態様では、上記マクロマー成分(例えば、ムコ多糖類マクロマー、例えば、HAマクロマー)、が、約50mg/mL以上の量で存在する。
【0082】
例示的な範囲は、約50mg/mL〜約125mg/mL、そしてさらに具体的には約50mg/mL〜約100mg/mLの範囲である。この範囲におけるマクロマー濃度により、組成物調製の容易性のさらなる利益が提供される。例示的な重合性組成物には、約75mg/mLの濃度におけるHAマクロマーが含まれる。いくつかの態様では、上記バイオマクロマーが、上記組成物の高粘度の一因となる場合には、上記組成物中のバイオマクロマーの濃度は、最大約100mg/mLであることが好ましい。
【0083】
本明細書において、用語「重合性基」は、一般的には、約400nm以上の波長における光に曝露した際に、水溶性光開始剤の活性化により生成したフリーラジカルの存在下で重合性を有する基を指す。一般的に、重合性基は、炭素−炭素二重結合を含み、そしてエチレン系不飽和基又はビニル基であることができる。例示的な重合性基には、アクリレート基、メタクリレート基、エタクリレート基(ethacrylate group)、2−フェニルアクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、イタコネート基及びスチレン基が含まれる。
【0084】
ポリマー、例えば、多糖類及びポリペプチドは、多糖類又はポリペプチド系マクロマーを生成させるために、有機、極性若しくは無水溶媒、又は溶媒の組合せ物の中で有効に誘導することができる。一般的に、重合性基との誘導体化の間、ポリマーの溶解性及び制御を可能とする溶媒系が用いられる。ポリマー誘導体化に特に有用な溶媒は、ホルムアミドである。他の溶媒又は溶媒組み合わせ物を用いることができる。
【0085】
任意の好適な方法を用いて、マクロマーの調製(重合性基をポリマーに付加)を実施することができる。簡単な合成方法において、重合性基、例えば、グリシジルアクリレートを、多糖類及びポリペプチドに付加させることができる。いくつかの態様では、上記重合性基が、1mgのマクロマー当たり、0.05μmol以上の重合性基のモル比において、上記バイオマクロマーに存在する。いくつかの態様では、上記マクロマーを、1mgのマクロマー当たり、約0.05μmol〜約2μmolの範囲の重合性基(例えば、アクリレート基)の範囲の量で、当該重合性基を用いて誘導する。
【0086】
例えば、アクリレートから誘導したヒアルロン酸分子を提供するために、ホルムアミド(及びTEA、pH制御用)の存在下で、ヒアルロン酸を、重合性基(例えば、グリシジルアクリレート含有化合物)と反応させることができる。アクリレート基の数及び/又は密度は、現在の方法を用いて、例えば、糖基含有物に対する反応性部分の相対濃度を制御することにより制御することができる。
【0087】
別の例では、アミン含有リジン残差を、アクリロイルクロリドと反応させることにより、重合性基を、コラーゲンに付加させることができる。アクリロイルクロリド(及びTEA、pH制御用)を添加しながら、コラーゲンをホルムアミドに溶解させ、アクリレートから誘導したコラーゲン分子を準備することができる。
【0088】
また、架橋剤化学物質を用いて、天然由来ポリマーに重合性基を付加させることができる。例えば、たんぱく質、例えば、コラーゲン又はゼラチンを、種々の量のビニル含有化合物、例えば、ビニル安息香酸を用いて誘導することができる。ゼラチン及びビニル安息香酸の中和溶液を冷間で混合し、架橋剤、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドの添加が続く。
【0089】
上記マクロマーを、上記マトリックスを形成する組成物中で用いる前に、例えば、透析により精製することができる。
本発明のいくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物には、
(a)1mgのマクロマー当たり、0.05μmol以上の重合性基(例えば、アクリレート基)を有するバイオマクロマー;及び
(b)約400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤:
が含まれる。
例示的なバイオマクロマーは、1mgのヒアルロン酸当たり、約0.2μmolのアクリレート基を有するヒアルロン酸である。
【0090】
他の非重合性の天然又は合成材料を、所望により、上記マクロマー組成物に含ませることができる。例えば、任意のムコ多糖類、ポリペプチド、合成ポリマー又は生分解性ポリマー、例えば、非マクロマー形態である本明細書に記載されるものを、上記マクロマー組成物に含ませることができる。可塑化剤としてはたらく誘導されていないポリマー(すなわち、重合性基を用いて誘導されていない)を、上記マトリックスを形成する組成物に添加することができる。
【0091】
本発明のマトリックスを形成する組成物は、上記バイオマクロマー及び水溶性重合開始剤と異なる、1種又は2種以上の他の成分を含むことができる。強エラストマー性マトリックスを、1種又は2種以上の補助試薬の存在下で形成させることができる。しかし、いくつかの態様では、好適なマトリックスを形成するために複数の補助試薬が要求されないことが見出された。これは、重合性組成物の調製及び使用における利益であることができる。というのは、当該利益により、ある場合には、形成したマトリックスから拡散し、且つin vivoで望ましくない効果を示す場合があるこれらの種類の化合物の存在を減らすことができるからである。
【0092】
ここで、上記共開始剤系は、1種のみの主成分が、マトリックス形成のために十分な様式で重合を強化するために要求されることを意味する一成分系(unary system)であることができる。一成分系は、優れた成分を有する;他の成分が、上記マトリックスを形成する方法に重大な影響を及ぼさない量で存在することができるか、又は上記優れた成分が、上記共開始剤系で唯一の成分であることができる。
【0093】
本発明の一態様によると、驚くべきことに、良好なマトリックス構造は、安定な(すなわち、反応性が高くない)無毒のペルオキシド重合共開始剤を、上記マトリックスを形成する組成物中に含ませて得ることができることが見出された。
【0094】
従って、本発明の別の態様では、上記組成物には、バイオマクロマーと、約400nm以上の吸光度を有する水溶性光開始剤と、ペルオキシド重合共開始剤とが含まれる。いくつかの態様では、酸化重合共開始剤は、1つ又は2つの水素原子が有機基で置換されている、過酸化水素(H22)の誘導体である有機ペルオキシドである。有機ペルオキシドには、分子構造内に−O−O−結合が含まれ、そして当該ペルオキシドの化学的特性が、この結合から生ずる。
【0095】
種々の有機ペルオキシドを用いることができる。室温未満で自己加速性熱分解を受けることができる反応性の高い有機ペルオキシドを用いることができる一方で、活性化剤、例えば、開始剤の存在下で分解する、安定な有機ペルオキシドを用いることがさらに望ましいのが一般的である。安定な有機ペルオキシドは、高温(60℃)に加熱した際に分解するのが一般的であるが、高温に加熱することを含む方法は、現場での重合法の際には実施されないのが一般的である。
【0096】
本発明のいくつかの態様では、上記ペルオキシド重合共開始剤は、安定な有機ペルオキシド、例えば、アルキルヒドロペルオキシドである。
【0097】
重合共開始剤を、例えば、ジアシルペルオキシド、パーオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、パーオキシケタール、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシドから選択することができる。上記ジアシルペルオキシドには、ベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、m−トルオイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド及びジベンゾイルペルオキシドが含まれる。上記パーオキシエステルには、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート及びt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが含まれる。上記ジアルキルペルオキシドには、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシド及びジラウリルペルオキシドが含まれる。上記パーオキシケタールには、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン及び1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサンが含まれる。上記ケトンペルオキシドには、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド及びメチルアセトセテート(acetocetate)ペルオキシドが含まれる。上記ヒドロペルオキシドには、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド及びp−ジイソプロピルベンゼンペルオキシドが含まれる。
【0098】
いくつかの態様では、上記共開始剤には、アルキルヒドロペルオキシド、例えば、パラメンタンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−ジイソプロピルベンゼンペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、アセチルペルオキシド、t−アミルヒドロジェンペルオキシド、及びクミルヒドロジェンペルオキシドを含むヒドロペルオキシドが含まれる。
【0099】
他の重合共開始剤には、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジアセチルペルオキシド、4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)吉草酸ブチル、p−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチル−パーオキシヘキサ−3−イン及び4−メチル−2,2−ジ−t−ブチルパーオキシペンタンが含まれる。
【0100】
上記重合共開始剤が、マトリックス形成のために十分な濃度で、上記組成物中に存在することができる。いくつかの態様では、上記重合共開始剤は、上記組成物中に、約7mg/mL以上の濃度で存在し、例えば、上記重合共開始剤は、約7mg/mL〜約14mg/mLの範囲で存在することができる。いくつかの態様では、上記重合共開始剤は、上記バイオマクロマー組成物中に、約7mg/mL〜約14mg/mLの範囲で存在する、ヒドロペルオキシド又はペルオキシド、例えば、アルキルペルオキシド、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシドである。
【0101】
他の重合共開始剤には、アゾ化合物、例えば、2−アゾビス(イソブチロ−ニトリル)、過流酸アンモニウム、及び過硫酸カリウムが含まれる。
いくつかの態様では、上記マクロマー、重合開始剤及び重合共開始剤を含む組成物はまた、1種又は2種以上の他の試薬、例えば、還元剤及び/又は重合促進剤を含むことができる。上記還元剤又は重合促進剤には、本明細書に記載される任意のものが含まれうるが、これらに限定されるものではない。また、上記還元剤又は重合促進剤が、任意の有用な濃度で、上記組成物中に含まれうる。
【0102】
本発明のいくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物は、還元剤、例えば、第三級アミンを含むことができる。例えば、上記組成物は、(a)マクロマー、例えば、バイオマクロマー、(b)約400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤、及び(c)第三級アミンを含むことができる。いくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物は、約500cP以上の粘度を有する。多くのケースでは、上記還元剤、例えば、第三級アミンは、フリーラジカルの発生を向上させることができる。
【0103】
アミン化合物の例には、第一級アミン、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン及びアニリン;第二級アミン、例えば、N−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン、ジブチルアミン及びジフェニルアミン;脂肪族第三級アミン、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジベンジルアニリン及びN,N’−ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチルジエチルアミノベンゾエート(EDAB)トリメチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、及びトリエタノールアミントリメタクリレート;並びに芳香族第三級アミン、例えば、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸アミル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N’−ジメチルアントラニックアシッドメチルエステル(N,N’−dimethylanthranic acid methyl ester)、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、N,N’−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N’−ジメチル−p−トルイジン及びN,N’−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチル及び4−ジメチルアミノベンゾフェノンが含まれる。本発明のいくつかの特定の態様では、第三級アミン、例えば、芳香族第三級アミンが、上記マトリックスを形成する組成物中に存在する。
【0104】
本発明のいくつかの態様では、フィラー粒子が、上記マトリックスを形成する組成物に含まれうる。上記フィラー粒子は、1つ又は2つ以上の目的、例えば、上記マトリックスに追加の構造特性(例えば、強度)を付与するため、そして/又は生物活性薬剤を有するマトリックスを形成させるための機構を付与するために用いられうる。例えば、生物活性薬剤、例えば、ペプチドである生物活性薬剤を、上記フィラー粒子に、結合、連結又は吸着させることができる。
【0105】
いくつかの態様では、上記フィラー粒子は、表面反応性ガラスを含むことができる。例には、ボロシリケートガラス、ソーダガラス;(重金属)、例えば、バリウム−、ストロンチウム−、又はジルコニウム含有ガラス;アルミノシリケート;フルオロアルミノシリケート;ガラスセラミック;シリカ、並びに複合材料無機酸化物、例えば、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア及びシリカ−アルミナ、超微粒子シリカ、超微細アルミナ、超微細ジルコニア、超微細チタニア、非晶質シリカ、シリカ−チタニア−バリウムオキシド、石英及びアルミナが含まれる。
【0106】
表面反応性ガラス粒子は、例えば、Industrial Corporation、又はSchott Glass Electronic Packaging Companyから市販されている。表面反応性ガラス粒子の具体例は、フッ素を放出することができる、約0.2〜約10μmの平均粒子サイズを有するフルオロアルミノシリケートガラス粉末を含むものであり、そして公開された日本国特許出願第55882/1995号に記載されるように、上記ガラスの総重量に基づいて、約20〜約50重量%のSiO2、約20〜約40重量%のAl23、約15〜約40重量%のBaO、及び約1〜約20重量%のF2を含む。表面反応性ガラス粒子はまた、ランタニド金属元素、例えば、La、Gd及び/又はYbを含むことができる。いくつかの態様では、上記表面反応性ガラス粒子は、歯科修復物の一部で、フッ素を放出することができる。
【0107】
フィラー粒子はまた、不規則な形状の粒子、球形粒子若しくは球形粒子、又は微粒子、あるいはそれらの組み合わせを含むことができる。上記フィラー粒子はまた、ポリマー系フィラー粒子であることができる。これらのフィラーを、単独で、又は他のフィラー粒子、例えば、表面反応性ガラスフィラー粒子と共に、上記マトリックスを形成する組成物中で用いることができる。他のフィラーの例には、非晶質シリカ、アルミニウムシリケート、アルミニウム酸化物、アルミニウム窒化物、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、炭化ホウ素、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム(アンモニアと化合した又はアンモニアと化合していないリン酸カルシウム、及びトリリン酸カルシウムを含む)、硫酸カルシウム、粘土、ヒドロキシアパタイト、カオリン、リチウムシリケート、リチウムアルミナシリケート、マイカ、石英、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ストロンチウムシリケート、ストロンチウムヒドロキシド、ストロンチウムボロシリケート、タルク酸化錫(talc tin oxide)、酸化チタン、窒化チタン、酸化ジルコニウム及びゼオライトが含まれる。
【0108】
本発明の他の態様では、これらの成分に加えて、上記マトリックスを形成する組成物は、1種又は2種以上の重合促進剤を含むことができる。例えば、生体適合性官能基を有する重合促進剤(例えば、生体適合性重合促進剤)が、本発明のマトリックスを形成する組成物に含まれる。上記生体適合性重合促進剤はまた、N−ビニル基、例えば、N−ビニルアミド基を含むことができる。これらの種類の重合開始剤が、マトリックス形成を促進することができる。
【0109】
例示的な生体適合性重合促進剤には、スルホン化されたN−ビニルカプリルラクタム(1−ビニル−アゾナン−2−オン)、スルホン化されたN−ビニルエナトラクタム(N−vinyl enatholactam)(1−ビニル−アゾカン−2−オン)、スルホン化されたN−ビニルカプロラクタム(1−ビニル−アゼパン−2−オン)、スルホン化されたN−ビニルバレロラクタム(1−ビニル−ピペリジン−2−オン)、及びスルホン化されたN−ビニルブチロラクタム(1−ビニル−ピロリジン−2−オン)等;直鎖のスルホン化されたN−ビニルカルボキサミド、例えば、ビニルカルバモイル−メタンスルホネート、2−ビニルカルバモイル−エタンスルホネート、3−ビニルカルバモイル−プロパン−1−スルホネート、4−ビニルカルバモイル−ブタン−1−スルホネート、5−ビニルカルバモイル−ペンタン−1−スルホネート、6−ビニルカルバモイル−ヘキサン−1−スルホネート、7−ビニルカルバモイル−ヘプタン−1−スルホネート等;及びスルホン化された環式のN−ビニルイミド、例えば、スルホン化されたN−ビニルスクシンイミド(スルホン化された1−ビニル−ピロリジン−2,5−ジオン)、スルホン化されたN−ビニルグルタルイミド(スルホン化された1−ビニル−ピペリジン−2,6−ジオン)及びスルホン化されたN−ビニルフタルイミド(スルホネート2−ビニル−イソインドール−1,3−ジオン)等が含まれる。生体適合性重合促進剤が、同一出願人の米国特許出願公開第2005/0112086号明細書に記載されている。
【0110】
上記重合促進剤が、マトリックス形成を促進するために十分な濃度で、上記組成物中に存在しうる。いくつかの態様では、上記重合促進剤は、上記組成物中に、約3mg/mL以上の濃度で存在し、例えば、上記重合促進剤は、約3mg/mL〜約7mg/mLの範囲で存在する。他の試薬、例えば、UV吸収剤が、上記組成物中に含まれうる。これらは、重合工程の際に一定量で用いられた場合には、紫外線から上記マトリックス材料を保護するために、場合によっては有用でありうる。UV吸収剤には、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、及びそれらの誘導体、例えば、Ciba−Geigy Corporation(Ardsly,New York)から入手可能な、TINUVIN P、ベンゾトリアゾール系UV吸収剤が含まれる。
【0111】
他の多糖類及び水溶性ポリマーがまた、上記バイオマクロマー組成物中に含まれうる。例えば、天然多糖類の合成誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロース、種々のアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシセルロース、及び酸化したでん粉をまた、本発明の目的に用いることができる。
【0112】
本発明のいくつかの態様では、生物活性薬剤が、上記バイオマクロマー組成物に含まれうる。従って、上記組成物から形成させたマトリックスは、多くの態様において、形成したマトリックスの周辺に局所的な薬理学的活性を付与することができる生物活性薬剤を含むことができる。従って、上記マトリックスは、当該マトリックスがコーティングされた表面から、上記生物活性薬剤の徐放又は制御放出のための媒体としてはたらくことができる。例えば、生物活性薬剤を、上記マトリックスにしっかりと結合させるか、又はそこに放出可能なように導入することができる。続いて、上記生物活性薬剤は、上記マトリックスから上記薬剤を拡散させることにより、そして/又はマトリックス分解により放出されうる。
【0113】
用語「生物活性薬剤」は、ペプチド、たんぱく質、炭水化物、核酸(例えば、遺伝子治療薬剤)、脂質、多糖類若しくはそれらの組み合わせ、又は動物にin vivoで利用可能な場合に生物系効果を生じさせることができる合成の無機若しくは有機分子を指す。好適な遺伝子治療薬剤の例には、関連する促進剤及び賦形剤と共に、(a)アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、及び干渉RNAを含む治療用核酸、並びに(b)プラスミドDNA及びウイルス性断片を含む核酸符号化治療用遺伝子製品が含まれる。導入できる他の分子の例には、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ビタミン、無機物及びステロイドが含まれる。
【0114】
本発明のマトリックスは、親水性分子、例えば、ポリペプチド(たんぱく質及びペプチドを含む)、核酸(DNA及びRNAを含む)、及び多糖類(ヘパリンを含む)である生物活性薬剤を送達させるために特に有用であるが、それらに限定されるものではない。これらの生物活性薬剤を、本明細書に記載されるフィラー粒子に吸着させることができる。
【0115】
生体活性を有するペプチドは、ある特有の種類の生物活性薬剤である。組織修復に含まれるペプチドを、上記マトリックスのポリマー材料に導入するか、そして/又はそれに連結することができる。組織修復方法に含まれるペプチドには、EGF、FGF、PDGF、TGF−β、VEGF、PD−ECGF又はIGFファミリー、及び骨形成たんぱく質2(すなわちBMP−2)に由来するペプチドに属するものが含まれる。
【0116】
いくつかの態様では、細胞外マトリックスたんぱく質に由来するペプチドを用いることができる。例えば、コラーゲン、アルブミン、エラスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン又はカゼインに由来するペプチドが、上記マトリックスを形成する組成物に含まれうる。例えば、コラーゲンの細胞結合領域によく似たP−15ペプチドを、上記マトリックスに含ませて、皮膚繊維芽細胞の付着及び増殖を促進させることができる。
【0117】
上記生物活性薬剤が、任意の有効な濃度で、上記マトリックスを形成する組成物及びマトリックスに存在することができる。例えば、上記生物活性薬剤、例えば、ペプチドが、上記マトリックスを形成する組成物中に、約0.1mg/mL〜約200mg/mLの範囲で含まれうる。
ある場合では、防腐剤、例えば、抗生物質、抗菌性スルファミド若しくはペプチド、キノロン、又は防カビ剤を、上記マトリックスに含ませて、組織修復における上記マトリックスの機能を補うことができる。
【0118】
上記マトリックスを形成する組成物を調製するため、上記マクロマーを、上記水溶性重合開始剤と混合し、エラストマー特性を有する良好な形態のマトリックスを供給するために活性化可能な組成物を提供することができるのが一般的である。良好な形態のマトリックスは、上記マトリックスの全体にわたり概して変わらない物理的性質を有する。上記光開始剤が、上記マクロマー含有溶液に良好に分散する条件の下、マクロマー含有溶液を光開始剤と混合することにより、例示的なマトリックスを形成する組成物を調製することができる。
【0119】
上記マトリックスを形成する組成物の成分を、水単体、又は水及び水混和性有機液体の混合物を含む水溶液、あるいは有機液体に溶解させることができる。いくつかの態様では、アルコール、例えば、エタノールを、上記重合性組成物に含ませることができる。
【0120】
いくつかの態様では、上記マクロマー溶液により、高粘度組成物が供給される。例えば、バイオマクロマー(例えば、HAマクロマー)を含む組成物を、水溶性光開始剤、例えば、水溶性カンファーキノンと混合し、そこでは、上記組成物は、約50mg/mL〜約100mg/mLの範囲のバイオマクロマー濃度と、約10mg/mL〜約20mg/mLの範囲の水溶性光開始剤濃度とを有する。
【0121】
上記組成物を、37℃で、所定の時間(例えば、約2時間)混合することができる。このわずかに高い温度により、上記成分をより迅速に混合し、あるいは、より低い温度(例えば、室温)により、より長い混合時間が実施される。一般的に、可視光で活性化する光開始剤を利用するので、暗闇の中で上記混合を実施する。他の試薬を上記組成物に添加する場合、それらは、上記マクロマー及び開始剤が所定の時間混合されるのと同時又はその後に含まれうる。例えば、いくつかの態様では、重合共開始剤を、上記マクロマー及び開始剤の最初の混合の後に添加する。
【0122】
上記組成物を調製し、次いで使用前の期間、貯蔵することができる。一般的に、貯蔵条件には、使用前の材料の分解及び/又は活性化を避けるために、暗闇且つより低温で貯蔵することが含まれうる。使用前の上記組成物を貯蔵する時間(貯蔵寿命)は、当該組成物の正確な配合によって決まるであろう。例えば、さらに反応性の重合共開始剤(例えば、さらに反応性のペルオキシド又は過酸化水素)を含む組成物を、より短時間貯蔵することができる。
【0123】
あるいは、上記組成物の成分を、まさに使用前に混合することができる。例えば、上記組成物の成分を、キット内として、使用者に個々に供給し、次いで、当該成分を使用前のある時点で混合することができる。例えば、キットには、個々のガラス瓶又は容器内の(a)マクロマー成分、及び(b)約400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤(例えば、水溶性カンファーキノン)が含まれうる。あるいは、キットには、(a)マクロマー成分、(b)光開始剤、及び(c)重合共開始剤(例えば、ペルオキシド又は過酸化水素共開始剤)が含まれうる。1種又は2種以上の成分が、乾燥形態又は凍結乾燥形態で供給される場合には、他の試薬、例えば、賦形剤がまた、上記キット内に存在することができる。他の補助試薬をまた、必要に応じて、個々の容器内で供給することができる。
【0124】
これらの容器に由来する成分を所望の量で混合して、意図する用途のために好適なマトリックスを形成する組成物を準備することができる。上記マトリックスを形成する組成物を調製するための教示にはまた、1種又は2種以上の組成物を調製するための方法と、上記組成物を適用し、且つ上記マトリックスを目標位置に形成させる方法とを記載することができるキットが含まれうる。上記キットはまた、上記組成物を目標位置に供給するために有用なアプリケータデバイスを含むことができる。
【0125】
本発明のいくつかの態様では、上記マトリックスを形成する組成物を、現場の目標位置に適用し、次いで、重合された材料のマトリックスを形成するように処理する。適用において、上記組成物が調製し、次いで、アプリケータデバイス、例えば、シリンジを含むアプリケータデバイスを用いて、上記位置に適用するのが一般的である。
【0126】
上記マトリックスを形成させる段階には、好適な形態の上記組成物を目標位置に配置させることが含まれるのが一般的である。上記組成物を、任意の好適な様式及び所望の量、例えば、注入、塗装、はけ塗り及びスプレーにより、目標位置に配置させることができる。いくつかの態様では、上記組成物を、高度に粘稠な状態で、目標位置に適用することが望ましい場合がある。これにより、所望の位置及び所望の形状において、上記マトリックスを正確な様式で形成させることができる。あるいは、目標位置における上記組成物の広がりを制御するため、上記マトリックスを形成する組成物と共に、注入成形又はモールディングを用いることができる。
【0127】
適応があれば、上記目標位置は、マトリックスを形成させることを意図する身体の任意の範囲にあることができる。例えば、口腔内で、上記組成物を、軟組織、例えば、歯肉及び/又は歯に配置させることができる。
上記マトリックスを形成する組成物はまた、皮膚外傷の修復のために、例えば、皮膚潰瘍に用いることができ、そして軟骨の欠損又はダメージに用いることができる。
【0128】
上記組成物を上記目標位置に配置させる際、及び/又はその後、当該組成物を処理して、上記光開始剤を活性化させ、そして重合及びマトリックス形成を促進することができる。例えば、一定量の組成物を配置させ、そして適用の間に照射するか、又は配置させ、次いで適用後に照射するか、あるいはその組み合わせを行うことができる。配置段階及び照射段階を、総合工程の際に、一回又は2回以上で実施することができる。例えば、上記マトリックスの厚さを増すことが望ましい場合、マトリックス形成の総合工程の際に、配置段階及び照射段階を複数回実施することができる。
【0129】
照射段階の実施において、任意の好適な可視光発光源を用いることができる。一般的に用いられる可視光発光源には、プラズマアーク、一般的なハロゲンランプ、ファストハロゲンランプ及びLEDが含まれる。上記可視光発光源は、上記水溶性光開始剤の活性化を促進する波長内の可視光を発生させることができる任意のものであることができる。約250nm〜約750nmの波長を有する光源、そして好ましくは、さらに特有の発光を有するもの(主として可視光を発光するもの)を用いることができる。例えば、多くの態様において、約400nm以上の波長を主として発光する光源が用いられる。
【0130】
多くのLEDは、約450nm〜約490nmの範囲のピーク発光を有し、約420nm〜約530nmの範囲にわたる、比較的規定された可視光発光スペクトルを有する。このため、それらは、水溶性光開始剤、例えば、約470nmのピーク吸収を有するカンファーキノンの活性化に非常に好適である。さらに、LEDは、低電力消費、高効率出力、及び最小の発熱により特徴付けられる。
【0131】
いくつかの市販のLEDは、異なる発光ピークを有するので、上記マトリックスを形成する組成物で用いられる光開始剤又はその組み合わせに基づいて、適切なLEDを選択することができる。種々のLEDシャンクピースデザインを利用することができる(例えば、「ワンド」又は「ガン」型);適切なヘッドピースを、好み及び/又は用途に基づいて選択することができる。市販のLEDには、Ultra Lume(商標)LED5(Ultradent;South Jordan,UT);L.E.Demtron(商標)1(Kerr Corporation,Orange,CA)、CoolBlu(商標)2(Dental Systems Intl.,Ormond Beach,FL);LumaCure(商標)(LumaLite Inc.,Spring Valley,CA);及びVersaLux(商標)(Centrix,.Shelton,Conn)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0132】
ハロゲン光、例えば、石英タングステンハロゲン(QTH)光がまた、好適な供給源であり、そして約390nm〜約530nmの範囲にわたる発光スペクトルを有するのが一般的である。市販のQTH光には、例えば、Optilux 401(商標)(Kerr Corporation,Orange,CA)が含まれる。
LED/石英タングステンハロゲン複合型ランプをまた、用いることができる(例えば、ZAP(商標)Dual Curing Light,CMS−Dental)。
【0133】
上記マトリックスを形成する組成物の成分及び光源が用いられることを前提として、適用される組成物のマトリックスの形成を促進するために十分な量で、上記光源からの光が適用される。一般的に、配置されたマトリックスに適用されるエネルギーの量は、光処理の光強度及び持続時間によって決まるであろう。光の強さは、所与の面積に分布する出力の量である。
【0134】
光の強さは、総出力の量を調整するか、又は光の分布の面積を調整(例えば、配置された組成物から、光が置かれた距離)して増減することができる。一般的に、LEDは、QTH光と比較して、発光強度がより弱い。例えば、いくつかの市販のLEDは、約250mW/cm2〜約1000mW/cm2の範囲にわたることができる光の強さを有し、そして出力は、約150mW〜約600mWの範囲にわたる。光の強さの値は、線量計を用いた測定により、任意の特定光源に関して得ることができる。
【0135】
上記光源を、配置させた組成物から所望の距離に置くことができる。一般的に、光源を置く距離は、適用された光のスポットサイズと、配置された組成物の範囲とによって決まるであろう。典型的には、最高強度を適用し、それにより硬化時間(すなわち、マトリックス形成のための時間)を最小にするために、光の先端から、配置された組成物への距離を最適化することが望ましい。
【0136】
配置された組成物の重合を促進する上記光開始剤を活性化する工程を例証するために、約400mWの出力を有する光源は、配置された組成物から約10〜20mmの距離に置かれる。次いで、上記組成物を約40秒間照射する。
本発明をまた、次の非限定的な例に関連してさらに記載する。
【実施例】
【0137】
例1
2gのヒアルロン酸(Lifecore Biomedical,Chaska,Minn.)を、100mLの脱水ホルムアミドに溶解させた。この溶液に、1.0g(9.9ミリモル)のTEA及び4.0g(31ミリモル)のグリシジルアクリレートを添加した。当該反応混合物を、37℃で72時間、撹拌した。12〜14kMWCO透析チューブを用いて、脱イオン水に対して完全な透析を行った後、生成物(2.89g)を、凍結乾燥法により分離した。
【0138】
例2
80mgの量のアクリレート化したHA(例1で調製)を、1mLのPBS(pH7.4)に添加し、次いで、1.5mgのカンファーキノン−10−スルホン酸水和物(CQ−10−SAH;Fluka)を添加した。これらの成分を、オービタルシェーカー上で、2時間、37℃で混合した。混合後、10μLのt−ブチルヒドロペルオキシド(濃度、700mg/mL)と、0.5mgのn−ビニル−スルホスクシンイミド(凍結乾燥;米国特許出願公開第2005/0112086号明細書の例4に記載されるように調製)とを添加し、そして室温で2〜4時間、オービタルシェーカー上で混合した。上記マクロマー組成物内の試薬の最終濃度は、次の通りであった:80mg/mLのアクリレート化したHA;1.5mg/mLのCQ−10−SAH;7mg/mLのt−ブチルヒドロペルオキシド、及び0.5mg/mLのn−ビニル−スルホスクシンイミド。
【0139】
次いで、30μLの量の上記組成物をスライドガラスに置き、そして約2cmのスライドガラス/組成物距離に合わせた光の先端を備えるSmartlite IQ(商標)LED硬化光を用いて40秒間照射した。エラストマー特性を有する半硬質ゲルが生成した。
【0140】
例3
ペプチドを含むマクロマー組成物を調製し、次いで重合して、ペプチド含有マトリックスを形成させた。例2に従って上記マクロマー組成物を調製し、そして当該マクロマー組成物は、8%のHA、1.5%のCQ、0.5%のNVSS、及び1%のTBHPの最終濃度を有していた。次いで、250μLの量の上記マクロマー組成物を、凍結乾燥させた微粒子として供給されるPepgen P−15 ペプチド(Dentsply Ceramed Dental,Lakewood,CO)150mgに添加し、そして室温で3分間、スパチュラを用いて混合した。
【0141】
次いで、30μLの量の上記組成物をスライドガラスに置き、そして約2cmのスライドガラス/組成物距離に合わせた光の先端を備えるSmartlite IQ(商標)LED硬化光を用いて40秒間照射した。エラストマー特性を有する半硬質ゲルが生成した。
【0142】
例4
0.5%のNVSSの代わりに0.5%のn−ビニルピロリドン(NVP)を用いて、例2に記載される工程を繰り返した。エラストマー特性を有する半硬質ゲルが生成した。
【0143】
例5
80mgの量のアクリレート化したHA(例1で調製)を、1mLのPBS(pH7.4)に添加し、次いで、1.5mgのCQ−10−SAHを添加した。これらの成分を、オービタルシェーカー上で、2時間、37℃で混合した。混合後、10μLのt−ブチルヒドロペルオキシド(濃度、700mg/mL)を添加し、そして室温で2〜4時間、オービタルシェーカー上で混合した。上記マクロマー組成物内の試薬の濃度は、次の通りであった:80mg/mLのアクリレート化したHA;1.5mg/mLのCQ−10−SAH;7mg/mLのt−ブチルヒドロペルオキシド。
【0144】
次いで、30μLの量の上記組成物をスライドガラスに置き、そして約2cmのスライドガラス/組成物距離に合わせた光の先端を備えるSmartlite IQ(商標)LED硬化光を用いて、40秒間照射した。エラストマー特性を有する半硬質ゲルが生成した。
【0145】
例6
5gのウシ1型コラーゲン(Kinsey−Nash Corp.,Exton,PA)を、1700mLの0.012N塩酸に溶解させ、そして4時間、4℃で撹拌させた。この溶液に、3gの炭酸ナトリウム(Sigma)と、11.76gの重炭酸ナトリウム(Sigma)とを添加し、そして4℃で60分間混合した。この溶液に、350mgのアクリル酸N−ヒドロキシスクシンイミド(Sigma)を添加した。当該反応混合物を、4℃で24時間撹拌させた。6〜8kMWCO透析チューブを用いて、脱イオン水に対して完全な透析を行った後、生成物(4.93g)を、凍結乾燥法により分離した。
【0146】
例7
45mgの量のアクリレート化したコラーゲンマクロマー(例6で調製)を、1mLのPBS(pH7.4)に添加し、次いで1.5mgのCQ−10−SAH(Fluka)を添加した。これらの成分を、オービタルシェーカー上で、2時間、37℃で混合した。混合後、10μLのt−ブチルヒドロペルオキシド(濃度、700mg/mL)を添加し、そして37℃で30分間、オービタルシェーカー上で混合した。上記マクロマー組成物内の試薬の濃度は、次の通りであった:45mg/mLのコラーゲンマクロマー;1.5mg/mLのCQ−10−SAH;7mg/mLのt−ブチルヒドロペルオキシド。
【0147】
次いで、30μLの量の上記組成物をスライドガラスに置き、そして約2cmのスライドガラス/組成物距離に合わせた光の先端を備えるSmartlite IQ(商標)LED硬化光を用いて、40秒間照射した。エラストマー特性を有する半硬質ゲルが生成した。
【0148】
例8
40mgの量のアクリレート化したHA(例1で調製)と、30mgのアクリレート化したコラーゲン(例7で調製)を、1mLのPBS(pH7.4)に添加し、次いで、1.5mgのCQ−10−SAH(Fluka)を添加した。これらの成分を、オービタルシェーカー上で、2時間、37℃で混合した。混合後、10μLのt−ブチルヒドロペルオキシド(濃度、700mg/mL)を添加し、そして37℃で60分、オービタルシェーカー上で混合した。上記マクロマー組成物内の試薬の濃度は、次の通りであった:40mg/mLのアクリレート化したHA;30mg/mLのコラーゲンマクロマー;1.5mg/mLのCQ−10−SAH;7mg/mLのt−ブチルヒドロペルオキシド。
【0149】
次いで、30μLの量の上記組成物をスライドガラスに置き、そして約2cmのスライドガラス/組成物距離に合わせた光の先端を備えるSmartlite IQ(商標)LED硬化光を用いて、40秒間照射した。エラストマー特性を有する半硬質ゲルが生成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)マトリックスを形成する歯周用組成物を口腔内の組織に適用する段階、
当該組成物は、(i)マクロマーと、(ii)400nm以上の活性化波長を有する水溶性光開始剤とを含む;そして
(b)前記組成物を処理して、前記光開始剤を活性化し、そしてマトリックスの形成を促進する段階:
を含む、歯周系処置における、現場で前記マトリックスを形成させる方法。
【請求項2】
前記光開始剤が、440nm〜500nmの範囲の活性化波長を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光開始剤が水溶性カンファーキノン誘導体を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記マクロマーがバイオマクロマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオマクロマーが多糖類を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記バイオマクロマーがヒアルロン酸を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオマクロマーが、50mg/mL〜100mg/mLの範囲の濃度で存在する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が約500cP以上の粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物がペルオキシド又はヒドロペルオキシド共開始剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、アルキルヒドロペルオキシド共開始剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記共開始剤が7mg/mL以上の濃度で存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
段階(b)が、プラズマアーク源、一般的なハロゲンランプ、ファストハロゲンランプ及びLEDから成る群から選択される可視光発光源を用いて、前記光開始剤を活性化することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が生物活性薬剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記生物活性薬剤が生物活性ペプチドを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記生物活性ペプチドが生物活性コラーゲンペプチドを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物がフィラー粒子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が第三級アミン共開始剤を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記マクロマーが、1×105Da以上の分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
マクロマーと、400nm超の活性化波長を有する水溶性重合光開始剤とを含む、現場で使用するための重合性組成物であって、当該組成物は、500cP以上の粘度を有する。
【請求項20】
(a)マトリックスを形成する組成物を表面に供給する段階、当該組成物は、(i)マクロマーと、(ii)水溶性の可視光で活性化する光開始剤とを含む;そして
(b)前記光開始剤を活性化して、400nm超のピーク発光波長を有するLED源を用いて、マトリックスの形成を促進する段階:
を含む、現場での前記マトリックスの供給方法。

【公表番号】特表2008−546710(P2008−546710A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517132(P2008−517132)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/023458
【国際公開番号】WO2006/138542
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(506112683)サーモディクス,インコーポレイティド (50)
【Fターム(参考)】