説明

光活性抗ウイルス材料およびデバイスならびにウイルス感染した環境の除染方法

ウイルスを不活性化する方法、ウイルスを不活性化するための物品、およびそれらの物品を製造する方法を開示する。一重項酸素発生色素を支持体に付着させる。露光すると一重項酸素が発生して、存在するウイルスを不活性化する。好ましい態様においては、1種類より多い色素を使用する。1種類の色素のみを使用する場合、アクリジンイエローGが特に有効である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の引照
本出願は、米国仮特許出願No. 60/788,010(2006年3月31日出願)、表題:光活性抗ウイルス材料およびデバイスならびにウイルス感染した環境の除染方法、に関連し、それに基づく優先権を主張する。その仮特許出願の開示内容全体を本明細書に援用する。
【0002】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、光活性抗ウイルス材料、系およびデバイス、その製造方法、ならびにウイルス感染した環境を除染し、ウイルス感染を阻止するための、それらの材料およびデバイスの使用の分野に関する。より詳細には、本発明は、一重項酸素を発生する物質および化合物を布帛、粒子、固体表面などの表面に付着させ、それらの表面を照射してウイルスおよびある程度は細菌を不活性化する機能をもつ一重項酸素を発生させることにより抗ウイルス環境を提供することに関する。
【0003】
2.関連技術の考察
色素、たとえばポルフィリン類、フルオレセイン類、フェノチアジニウム類およびフタロシアニン類、ならびにWilkinson, Helman et al. 1995(その全体を本明細書に援用する)が挙げたもの、およびWilkinson, Helmanらが挙げていない他のものが、露光した際に一重項酸素を放出する物質として知られている。特に、周知の物質であるフタロシアニン、アルミニウムフタロシアニン、プロトポルフィリンIXおよび亜鉛プロトポルフィリンIXは遊離形で分散した場合に一重項酸素を発生し、抗菌薬として有効であることが知られている。
【0004】
以前は、ナイロンフィルムおよび繊維などの表面に光活性抗菌性物質、たとえばプロトポルフィリンおよび亜鉛プロトポルフィリンを架橋させることは、フィルムおよび繊維を保存処理するのに役立ち、感染性細菌の伝播を阻止することにより疾患の伝播を阻止するのに役立つと考えられていた。そのような方法のひとつが、Jennifer Sherrilll, Stephen Michielsen, and Igor Stojiljkovicにより2002年11月20日にJournal of Polymer Science, Part A Polymer Chemistry, Vol. 41, p. 41-47, 2003に発表された”ナイロンフィルムへの光活性抗菌性物質の架橋”と題する報文中に記載されている;その記載内容全体を特に本明細書に援用する。その報文は下記のそれぞれについて多様な方法を記載している:1)プロトポルフィリンの多様な誘導体の合成;および2) PAA-架橋ナイロンフィルムへのPPIX-EDまたはZn-PPIX-EDなどの誘導体の架橋。
【0005】
その後の”ポルフィリンベースの光活性抗菌性物質”と題する報文、Jadranka Bozja, Jennifer Sherrill, Stephen Michielsen, and Igor Stojiljkovic, 2003年11月11日発表, Journal of Polymer Science, Part A Polymer Chemistry, Vol. 41, p. 2297-2303, 2003(その記載内容全体も本明細書に援用する)に、試験された前記プロトポルフィリン架橋ナイロン繊維の抗菌特性が記載された。その繊維は、繊維が露光される光の強度および露光時間に応じて、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および大腸菌(Escherichia coli)に対してある程度有効なことが示された。
【0006】
それらの細菌に対してある程度の有効性は示されたが、その後の試験により、それらの架橋または結合したプロトポルフィリン物質の抗菌作用はその報文中で考察された方法で試みた際に細菌に対して有効に使用するのに十分なほど有効ではない可能性のあることが示された。他の試験で、その記載に従ってそれらのプロトポルフィリン物質を布帛に結合させた場合、効果的に色素が露光されないため、それらの細菌に対して完全に有効なほど一重項酸素の発生量が十分ではない可能性があることが示された。したがって、プロトポルフィリンおよびこれに類する他の色素は遊離形で露光された場合に有効であって、この形では選択した細菌に対して有効なほど十分な一重項酸素を発生しうることが知られているが、これに対しこの色素が布帛に結合している場合は細菌に対する広域有効性が実質的に低下する。
【0007】
インフルエンザの蔓延に対処するための方法および系を開発することが望ましい。インフルエンザは、感染者が咳やくしゃみをした際にエーロゾル化した液滴により拡散する多数のウイルスのうちのひとつにすぎない。それは季節的流行に際して急速に世界中に拡散する。世界保健機構は、インフルエンザの流行は米国経済にとって年間710〜1670億ドルの経費になると推定している。250,000〜500,000人が毎年インフルエンザ流行のため死亡しているとも推定される。鳥型H5N1株のインフルエンザ(”鳥インフルエンザ”)による世界的流行の現在の懸念は、世界的流行を阻止するのに有効な方法がまだ見いだされていないことを示す。ワクチン接種はインフルエンザ感染症の発症率および重症度を低下させるのに有効であることが示されているが、循環ウイルスの抗原特性が急速に変動するため、新たなワクチンを毎年作製しなければならない。時間的拘束があることおよび卵中でのワクチン保存株増殖に依存していることは、1回のインフルエンザ流行季に限られた供給量のワクチンが得られるにすぎないことを意味する。インフルエンザに対して有効な医薬にはウイルスの脱外被およびウイルス放出を阻害する2クラスがあるにすぎず、最近の研究で、ウイルスが耐性を発現するためこれらの薬物はそれらの有効性を失いつつあると指摘されている。ウイルス感染症に対処するための新規薬物の開発はきわめて困難であることが証明された。さらに、ウイルス感染症の予防または治療のための現在の方法のコストは、これらの感染症の多くの根源であると考えられている地域を含む世界中の多くの地域にとって法外に高い。したがって、ウイルス感染症全般、特にインフルエンザの蔓延を阻止するための新規な低コストの方法が得られれば、きわめて有益であろう。
【0008】
ウイルスに対して用いられる方式のひとつは、光力学療法を伴う。これまでに、光力学療法は一般にHIVを含む多くのエンベロープ保有ウイルスを一重項酸素Δgの発生により不活性化しうることが示された。ローズベンガル(Rose Bengal)またはヒペリシン(hypericin)の使用によるエンベロープ保有ウイルスの不活性化の機序が調べられ、一重項酸素はVSVの表面にあるプロテインGを架橋することによりウイルスの融合を阻害することが見いだされた。これに類する他のウイルスが同様な機序で不活性化される。ウイルスの不活性化は使用する光の強度に比例する。両物質とも露光した際に一重項酸素を発生することが知られており、両方とも暗所では不活性であった。熱的にポリ(1,4-ジメチル-t-ビニルナフタレン-1,4-エンドペルオキシド)の分解により発生した一重項酸素もエンベロープ保有ウイルスを不活性化することが示され、一重項酸素は有効な物質であることが確認された。しかし、光力学療法をいかにして有用な方法、物品および系で効果的に適用するかは現在まで知られていなかった。
【0009】
本明細書に記載する色素の作動原理を理解するために、基底状態の普通の酸素はπ分子軌道に平行スピン状態で配置された最大エネルギーの電子2個をもち、分光学的表記Σで表わされるスピン三重項状態と記述される状態を形成していることを留意する。この状態より95 kJ高い状況は、Δg分子軌道の電子が反対方向のスピンをもち、スピン一重項状態Δgを与える状態である。一般に一重項酸素と呼ばれるのは、この励起状態である。一重項酸素を発生させるのに有効な1方法は、金属置換されたポルフィリン、フタロシアニン、および他の前記および後記分子を、これまでに開発された化学物質/生物学的物質抵抗性の軟質ポリマーバリヤーコーティング内に、可視光線活性化される反応性光触媒として統合したものを用いることである。それらの光触媒は、可視スペクトル領域に強い吸収をもつ大型環状化合物であり、要求される色規格に一致するようにブレンドすることができる。
【0010】
発明の概要
1観点において本発明は、不活性化によりウイルスの増殖を阻害する方法に関する。有効量の色素組成物を支持体に付着させる。色素は、反応性色素および反応性官能基を含む色素である。色素はさらに、予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光を吸収して、酸素含有雰囲気の存在下でウイルスを不活性化するのに有効な量の一重項酸素を発生させる能力をもつことを特徴とする。
【0011】
好ましい観点において、色素は少なくとも2種類、より好ましくは3種類の異なる色素であり、それぞれが他の色素と異なるスペクトル範囲の光に露光された際に一重項酸素を発生させるのに有効となるように選択される。
【0012】
さらにより具体的な観点において、色素は下記の基本構造のものである:
【0013】
【化1】

【0014】
式中:Rは水素、ヒドロキシル、カルボン酸、アルキル、アミノもしくは置換アミノ基、または当業者に自明の他の基である。Rのうち少なくとも1つはアミノ、ヒドロキシル、カルボン酸、または他の反応性基である。
【0015】
より具体的には、色素はアクリジンイエローG、プロフラビンおよびアクロフラビン(acroflavin)のうち少なくとも1つである。最も好ましくは、色素はアクリジンイエローGである。
【0016】
他の観点において、本発明はウイルスの増殖を抑制するための製品に関する。支持体に有効量の前記色素が付着しており、これが前記のように光を吸収すると一重項酸素を発生する。
【0017】
さらに、本発明はそれらの製品を製造する方法にも関する。
さらにより具体的な観点において、支持体は繊維および布帛、ならびに他のタイプの表面であってよい。
【0018】
本発明の開示のために、”付着した(attached)”は、当業者に自明のとおり分子結合、コーティング、含浸、吸着および他の形の付着を意味することを留意する。さらに、支持体は少なくとも1つの繊維、布帛、または他のタイプの表面、たとえば壁、壁張り材料、紙、塗料、プラスチック、不織布など、および当業者に自明のとおり本明細書に記載する色素が付着しうるいずれかの表面全般を意味する。
【0019】
本発明による1観点において、プロトポルフィリンその他の一重項酸素発生物質を布帛に結合させる方法を、特定の予想外かつ未経験の用途に有効となるのに十分な一重項酸素を発生させることができる様式で効果的に実施できることが見いだされた。より具体的には、プロトポルフィリンと一重項酸素発生を結合させた形態は特定タイプの細菌に対してある程度有効であるとこれまで考えられてはいたが、それらの物質を本明細書に記載する発明に従って修飾すると布帛などの材料に結合させてウイルスに対して有効なほど十分な一重項酸素を発生させうることが予想外に見いだされた。本明細書に記載する発明に従って調製した材料は、たとえばインフルエンザ、ワクシニアなど、”エンベロープ保有”タイプのウイルスを中和する効果をもちうることが見いだされた。
【0020】
細菌に対するポルフィリンおよび一重項酸素の有効性はポルフィリンが遊離形である場合には証明されていたが、結合した形ではポルフィリンは細菌に対してより効果が少ない。細菌が一重項酸素により死滅する機序はウイルスを含む環境で起きるものとは実質的に異なり、ウイルスが実質的に細菌と異なる性質をもつためウイルスに対する作用は異なるので、本明細書に記載するようなウイルスに対する一重項酸素発生色素の有効性は全く異なり、予想外かつ予測外である。
【0021】
発明の詳細な記述
本発明の開発は、一部は生物戦およびバイオテロリズムについて新たな関心をもたらす最近の出来事に基づく。使用される可能性のある生物系物質の仮想範囲のため、非特異的な除染システムが望ましい。その際、特に関心がもたれるのは、表面が自己除染および自己再生するように修飾された材料である。他の有益な要件は、表面処理がきわめて軽量であることである。これらのコーティングは、開発された光活性抗ウイルス材料(Light Activated Antiviral Material)、すなわちLAAMに基づく。LAAMコーティングはさらに、それらを希望するほぼすべての色に一致させることができるという特性をもつ。
【0022】
本発明は、一部は表面修飾を目標とする。本発明の一部として開発されたコーティングの1態様においては、約10〜約20 nm、一般に約5〜15 nm、最も一般的には約10 nmの厚さの仲介または増幅ポリマー(mediator or amplifying polymer)を繊維の表面に結合させる。次いで光活性物質をこの仲介ポリマーに架橋させる。仲介または増幅ポリマーという用語は、表面の反応性部位に付着または結合してより多くの反応性結合部位を形成するポリマーを意味する。これは、実際に表面部位増幅材料である。これによって利用可能な光活性物質が100倍以上増加するが、支持体に付加されるのは0.5重量%未満、一般に0.1重量%未満である。この量は、支持体重量に対比した有効物質の正味重量である。これらの光活性物質は可視光線を吸収し、エネルギーを空気中の酸素へ伝達して、特定の微生物を破壊することが示されている一重項酸素を発生させる。光活性物質は有機色素であるので、同時に規格色に一致させることができる。
【0023】
既に述べたように、重量を著しく付加せず、除染供給材料の輸送または取扱いを必要とせず、かつ有毒排出物がゼロである、硬質および軟質表面に対する自己除染処理法の開発は、長年の関心事であった。本明細書に記載するように、光活性有機色素による一重項酸素の合成に基づく自己除染性表面が開発された。
【0024】
除染を目標として設計される処理法はいずれも可能な限り多様な物質に対して有効でなければならず、個々の生物の特定の特徴を標的とすべきではない。微生物の除染は一般に照射殺菌、生体高分子に酸化的損傷を引き起こす溶剤曝露または薬剤曝露により行われる。これらの後者の処理法には、漂白剤およびガス、たとえばエチレンオキシドおよび二酸化塩素が含まれる。ヒトがいる環境では、ガンマ線照射または高強度UV照射の採用は望ましくない。有機溶剤および有害ガスへの人体被曝も同様である。しかし、後続の節に述べる光活性抗ウイルス材料LAAM技術によれば、脂質およびタンパク質に酸化的損傷を引き起こす多数の反応性酸素種のひとつである一重項酸素がその場で発生する。タンパク質において、標的アミノ酸はTrp、His、Tyr、CysおよびMetである。この技術はグラム陽性菌に対してもある程度有効であることが示された。これは、LAAM技術を材料設計に採用すると広範囲の生物系因子の除染という実質的な有益性が得られることを示唆した。しかし、その後の試験で、それらのLAAM物質を本発明により開発されたように結合させると、それらの物質はグラム陽性菌に対する作用が制限されることが示された。しかし、本発明においてはさらに修飾したので、布帛などの表面に結合した色素はエンベロープ保有ウイルスに対して高度に有効であることが示された。
【0025】
本発明によれば、光活性抗ウイルス材料LAAMが開発された。これらの材料は可視光線を吸収して、空気からの酸素または水に溶解した酸素をΔg酸素に変換する。LAAMは個々の繊維、糸、布帛、粒子その他の表面を処理するために開発された。1態様においては、プロトポルフィリンIX(PPIX)および亜鉛プロトポルフィリンIX(Zn-PPIX)を、たとえば前記の”ナイロンフィルムへの光活性抗菌性物質の架橋”と題する報文中に考察されるように、ナイロンフィルムおよび布帛の表面にポリ(アクリル酸)(PAA)を仲介ポリマーとして用いて化学結合させた。まずPAAを水に溶解し、そして結合剤の存在下でナイロン表面に架橋させる。このPAAは、多数回の洗浄で除去できなかった。次いでPPIX中のカルボン酸基とエチレンジアミン中のアミノ基との間にアミド結合を形成した。最後に、今度はエチレンジアミンの他方の末端とPAA中の酸基との間で再びアミド結合を形成させることにより、これらの誘導体をPAAに架橋させた。こうして、ナイロン表面に付着した単一のPAA分子に多数の分子を結合させることができる。PPIXを結合させるための仲介物質または増幅物質として作用するPAAがなければ、表面ナイロン分子当たり1個のPPIX分子が付着できるにすぎない。言い換えると、PAA分子が表面のPPIXまたはZn-PPIXの量を増加させた。この処理法を用いて作製した布帛は、グラム陽性菌をある程度破壊し、エンベロープ保有ウイルスをより効果的に破壊することができた。この方法の本質的な特徴は、LAAMがUV/可視光線/近赤外線を吸収する適切な色素からなることである。励起状態のこの色素はそれのスピンおよびエネルギーを空気からの酸素と交換して、Δg酸素を発生する。LAAM色素は、意図する使用期間中、光漂白および光酸化に耐えなければならない。高い量子収量が望ましい。適切な仲介ポリマーに架橋でき、または適切な仲介ポリマーに架橋しうる形に変換できるLAAM色素が好ましい。最後に、修飾した表面は、たとえば軍用その他の用途のための希望する色をもたなければならない。幸い、選択する多数の色素があるので、適切なLAAM色素を見いだすのは困難ではない。さらに、目的とする全範囲に及ぶLAAMを容易に達成できる。
【0026】
好ましい1観点においては、少なくとも2種類、好ましくは3種類の色素を用いる。色素は、近赤外からUV線までのスペクトルに及ぶことによりすべての光条件でウイルスに対して有効であるように選択される。1種類の色素のみを用いる場合、前記の基本構造をもつ色素が他の色素について見いだされていない高い予想外のレベルの有効性をウイルスに対してもつので、それらを使用する。最も好ましい観点において、この単一の色素はアクリジンイエローGである。もちろん、前記の全スペクトルに及ぶように、アクリジンイエローGを含めた前記式をもつ色素を他の色素と組み合わせることもできる。
【0027】
最も一般的にはすべての光活性物質のうち約75重量%を超える物質、より一般的には90%を超える物質が表面にあるので、これらのLAAMが最終製品に付加する重量はごくわずかである。それらは空気からの酸素および光(自然または人工)を用いてそれらの除染物質を補充するので、それらは自己再生する。さらに、有効成分であるΔg酸素は空気中の他の場所に存在する基底状態の酸素に戻るまでの寿命が約10ミリ秒未満であるので、排出物はない。さらに、それは腐食性ではなく、塩類を生成することもない。したがって、LAAMはきわめて望ましい除染手段を提供する。
【0028】
LAAM布帛表面を調製する際の第1工程のひとつは、LAAM物質を表面に付着させることである。これは、適切な光活性物質を表面に架橋させること、すなわち表面にLAAMを形成することにより達成される。反応性のポルフィリンおよびフタロシアニン色素は、表面に化学的に架橋させることができ、かつΔg酸素発生について高い量子収量をもつ色素の例である。具体的には、ポリアラミド、ポリアミドまたはポリエステル、たとえばポリ(エチレンテレフタラート)繊維の布帛を表面として用いる。これらの繊維上に、ポリ(アクリル酸)(PAA)を吸着させ、架橋させてPAA-g-布帛を形成する。次いで、プロトポルフィリンIX、亜鉛プロトポルフィリンIX、フタロシアニンその他の色素を、前記の”ナイロンフィルムへの光活性抗菌性物質の架橋”と題する報文中の記載に従ってPAA-g-布帛に架橋させる。
【0029】
得られたLAAM布帛を、(1)Δg酸素を発生する能力および(2)多様なウイルスを無害にするその能力について試験した。これらの各試験については後記に詳述する。Δg酸素を効率的に発生することが知られている色素は数百種類あるので、この課題を達成する際に著しい困難はない。
【0030】
一重項酸素発生について高い量子収量をもつ色素は参考文献から選択できる。高い一重項酸素量子収量をもつことが知られている色素には、ポルフィリン類、フルオレセイン類、フェノチアジン類、キサンテン類およびフタロシアニン類が含まれる。これらの色素は、可視スペクトルのほぼ全体ならびに近赤外および近紫外スペクトルに及ぶ。色素は、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレンイミン)その他の仲介ポリマーへのそれらの架橋の容易さに基づいて選択される。特に、アルケン、カルボン酸、ヒドロキシル、アミノ、チオールおよび他の反応性基を含む色素を選択する。
【0031】
図2、3および4は、ウイルに対する特定の色素の有効性を示す。アクリジンイエローGは、低い光照射レベルで予想外のきわめて高いウイルス不活性化を示す。
以下に色素の代表例を挙げるが、当業者に容易に認識されるようにこれらの色素に限定されない。
【0032】
適切な色素は、露光された際に一重項酸素を発生させ、かつ色素を前記の表面または仲介ポリマーに化学的に結合させることができる化合物部分を含むものである。これらにはWilkinson, Helman and Ross (J. Physical Chem. Ref. Data, Vol 24, pp 663 - 1021)に挙げられた、下記を含めた色素の多くが含まれる:プロトポルフィリンIX、亜鉛プロトポルフィリンIX、ローズベンガル、チオニン(thionin)、アズレ(Azure A)、アズレB、アズレC、プロフラビン、アクリフラビン、ビニルアントラセン、l-アミノ-9,10-アントラキノン、1,5-ジアミノ-アントラキノン、1,8-ジアミノ-アントラキノン、l,8-ジヒドロキシ-9,10-アントラキノン、1-ヒドロキシ-9,10-アントラキノン、1,4,5,8-テトラアミノ-9,10-アントラキノン、l,4,5,8-テトラヒドロキシ-9,10-アントラキノン、エオシン(Eosin)B、エオシンY、フロキシンB(Phloxin B)、フルオレセイン、エリスロシン(Erythrosin)、トリブロモ-フルオレセイン、ヒペリシン、キヌレン酸、リボフラビン、クロロフィルa、クロロフィルb、コプロポルフィリンI、コプロポルフィリンII、コプロポルフィリンIII、GaプロトポルフィリンIX、クロリンe6(clorin e6)、プロフラビン、アクロフラビン、アクリジンイエローG、トルイジンブルー、アントラシン(anthracine)誘導体、アントラキノン類、テトラカルボキシフタロシアニン、Snテトラカルボキシフタロシアニン、Alテトラカルボキシフタロシアニン、Geテトラカルボキシフタロシアニン、5-アミノ-エチオポルフィリンI、クロリンe6、ならびに前記に挙げたポルフィリン誘導体およびフタロシアニン誘導体または他の色素の亜鉛およびアルミニウム誘導体:それらは当業者に自明であろう。さらに、照射された際に一重項酸素を発生する他の多くの色素を、それらが前記の表面または仲介ポリマーに付着可能であれば使用できる。
【0033】
前記色素のほかに、図4に示すようにアクリジンイエローGはウイルス不活性化において予想外の効果を示した。
開発したLAAM材料がそれらの抗ウイルス活性を保持する能力について試験した。それらの生物学的試験については後記に述べる。
【0034】
LAAMが布帛である場合、化学的捕捉法を用いて、種々の照射条件下で発生する一重項酸素の量を測定した。フルフリルアルコールは一重項酸素と速やかに反応することが知られている。布帛試料および酸素飽和水を入れた密閉循環系にフルフリルアルコールの水溶液を添加する。照射期間中、溶存酸素濃度を測定した。一重項酸素が光化学的に発生してフルフリルアルコールと反応するのに伴って、溶存酸素濃度は低下した。
【0035】
被験体および生物学的試験法の選択:
試験はまず細菌およびポックスウイルスに焦点を当てた。枯草菌(Bacillus subtilis)をグラム陽性菌の除染モデルとして用いた。ポックスウイルスのモデルとしてはワクシニアウイルスを用いた。ワクシニアウイルスは普通の微生物実験室で安全に取り扱うことができ、何ら特殊な封じ込め施設を必要としない。
【0036】
本発明によれば、本発明はペスト菌(Yersinia pestis)、黄熱病ウイルス(フラビウイルス脳炎ウイルスについて)、シンドビスウイルス(sindbis virus)(アルファウイルス脳炎ウイルス)、鳥伝染性ウイルス(コロナウイルス疾患、たとえばSARS)およびパラインフルエンザウイルス(病原性の高いニパ(nipah)およびヘンドラ(hendra)ウイルス)に有効である。
【0037】
本発明を全般的に記載したが、以下はウイルスを不活性化するための本発明の具体的態様の製造および使用を示す具体例である。
実施例1:
ナイロン(布片、サイズ1×1 cm)上に架橋させたZn-プロトポルフィリンIX (Zn-PPIX)の殺ウイルス活性を、感染性ワクシニアウイルスに対して試験した。Zn-PPIX架橋ナイロン布帛を下記に従って調製した。ポリ(アクリル酸) (PAA)を水に1.4 g/Lの濃度で溶解した。ナイロン布帛片をこの溶液35 mlに浸漬した。10 mlの4-(4,6-ジメトキシ-l,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)水溶液(20 g/L)を添加した。溶液を1時間、穏やかに振とうし、布帛を溶液から取り出し、水ですすぎ、乾燥させた。調製された布帛の表面にPAAが架橋していた。次いで0.1 gのZn-PPIX、0.2 gのDMTMMおよび100μLのエチレンジアミンを120 mLの水に溶解し、30分間撹拌した。この時点でPAA-架橋ナイロン布帛をこの反応混合物中に入れた。過剰の溶液を絞り出し、布帛を120℃で40分間、乾燥および硬化させた。水の蒸発乾固により生成Zn-PPIXナイロン布帛が得られた。次いで、抗ウイルス活性試験のためにこの布帛を1 cm×1 cm片に切断した。
【0038】
ワクシニアウイルス感染に対する効果のアッセイのために、プラークアッセイ法を用いた。このアッセイ法は、LAAMの光処理後に残存する感染性粒子数を測定することができる。
【0039】
BSC40細胞を用いた。以下の試料を試験した:1) 20μlのウイルス原液(濃度1×lO6)をZn-PPIX処理布帛に添加したもの、2) 20μlのウイルス原液のみ、3) 20μlの洗浄媒質、これらの試料を60,000ルクスで30分間照射した;4)対照として、Zn-PPIX処理布帛上の20μlのウイルス原液を、アルミニウム箔で包んだペトリ皿内に保持したもの。30分後、細胞を感染させた。感染の2日後、培地を除去し、細胞を染色し、プラーク数を計数した。結果は下記のとおりである:
Zn-PPIX処理布帛上のウイルス(照射)−プラークなし
ウイルスのみ:lO-2希釈−70個のプラーク
Zn-PPIX処理布帛上のウイルス(対照、暗所):lO-2希釈−40個のプラーク
洗浄媒質のみ−プラークなし
実施例2:
前記に従って露光した細菌に関して(60,000ルクスの光およびZn-PPIX処理布帛)、架橋した物質はバチルス属菌株に対してある程度有効であった。
【0040】
2つのバチルス属菌株を実験に用いた:
バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、BGSCコード6A5による株(オリジナルコード: ATCC 14579)、記載;野生型単離株、バチルス・セレウスの標準菌株;
バチルス・スリンギエンシス(Bacillus thuringiniensis)、BGSC No. 4Al;オリジナルコードNRRL-B4039、記載;野生型単離株。
【0041】
Zn-PPIX処理布帛がバチルス・セレウスおよびバチルス・スリンギエンシスの胞子の発芽および生存栄養細胞の形成を不活性化しうる程度を検査した。1 cm×1 cm片のLAAM (ナイロン、PPIX、およびZn-PPIX)を新鮮な胞子希釈液(ABS580O.3)に浸漬し、次いで露光した。光源はタングステンランプであった。60,000ルクス未満の光強度は胞子に影響を与えなかった。60,000ルクスで30分間の露光では、Zn-PPIX処理布帛のみが胞子に影響を与えた:4Al株の胞子のうち20.16%および6A5株の胞子のうち23.14%が生存栄養細胞を形成することができた。対照培養物を暗所に同一期間(30分間)放置したが、胞子数の減少は示さなかった。PPIXおよびナイロンが60,000ルクスで胞子に与えた影響は限られていた。
【0042】
実施例3
Cerex Suprex HPナイロン不織布(DuPont);基礎重量45 g
分子量450,000のポリ(アクリル酸)2.0 gを500 mlの水に溶解した。この溶液に不織布を通し、含浸量が布帛の135% wt/wtになるまでパダーロール間で絞った。水の蒸発を防ぐために処理布帛をアルミニウム箔で覆って2日間静置し、次いで新鮮な水で6回すすいだ。次いで4-(4,6-ジメトキシ-l,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリン-4-イウムクロリド(DMTMM)の水溶液(水250 ml中、0.41 gのDMTMMからなる)を調製し、この溶液に処理布帛を通し、絞って過剰の溶液を除去した。この布帛をアルミニウム箔で覆って2時間静置し、6回すすいだ。
【0043】
実施例4
実施例3で調製した布帛の一部をアクリジンイエローGで下記に従って処理した。0.185 gのアクリジンイエローGおよび0.364 gのDMTMMを、250 mlの水に溶解した。実施例3の布帛をこの溶液に通し、過剰分をパダーロール間で絞り出した。布帛を24時間静置すると、強い黄色になった。すすぎ水に色が見えなくなるまですすぐことにより未反応色素を抽出した。
【0044】
実施例5
実施例3で調製した布帛の一部をアズレA(Azure A)で下記に従って処理した。0.231 gのアズレAおよび0.329 gのDMTMMを、250 mlの水に溶解した。実施例3の布帛をこの溶液に通し、過剰分をパダーロール間で絞り出した。布帛を24時間静置すると、淡青色になった。すすぎ水に色が見えなくなるまですすぐことにより未反応色素を抽出した。
【0045】
実施例6
実施例3で調製した布帛の一部をローズベンガルで下記に従って処理した。まずローズベンガルを下記により誘導体化してアミノ架橋基を付加した;0.47 gのローズベンガルを2 mlのエチレンジアミンおよび6 mlの水に溶解した。この溶液を30分間還流し、回転蒸発により乾固させ、過剰のエチレンジアミンを除去した。生成物は濃赤色の粘稠な液体であった。
【0046】
次いで1.99 gのポリ(アクリル酸)を500 mlの水に溶解した。実施例3の布帛をこの溶液に通し、含浸量が布帛の135% wt/wtになるまでパダーロール間で絞った。水の蒸発を防ぐために処理布帛をアルミニウム箔で覆って30分間静置した。0.346 gのDMTMMを250 mlの水に溶解し、布帛をこの溶液に通し、過剰の溶液をパダーで絞り出し、覆って30分間静置した。ローズベンガルアミン誘導体の半量を250 mlの水に溶解し、処理布帛をこの溶液に通し、過剰の溶液をパダーで絞り出し、布帛を30分間静置した。次いで0.16 gのDMTMMを水に溶解し、前記に従って布帛上にパディングした。布帛を30分間静置し、次いですすぎ水に色が見えなくなるまで水ですすいだ。処理布帛はピンク色であった。
【0047】
実施例7
実施例3からの布帛の一部をローズベンガル、アクリジンイエローGおよびアズレA色素混合物で下記に従って処理した。実施例5に記載したローズベンガルアミン誘導体の半量を0.049 mgのアズレAおよび0.051 mgのアクリジンイエローGと共に250 mlの水に溶解した。
【0048】
次いで1.99 gのポリ(アクリル酸)を500 mlの水に溶解した。実施例3の布帛をこの溶液に通し、含浸量が布帛の135% wt/wtになるまでパダーロール間で絞った。水の蒸発を防ぐために処理布帛をアルミニウム箔で覆って30分間静置した。0.346 gのDMTMMを250 mlの水に溶解し、布帛をこの溶液に通し、過剰の溶液をパダーで絞り出し、覆って30分間静置した。次いで0.16 mgのDMTMMを前記で調製した混合色素溶液に添加し、ポリ(アクリル酸)処理布帛をこの混合色素溶液に通し、過剰の溶液をパダーで絞り出し、布帛を30分間静置し、次いですすぎ水に色が見えなくなるまで水ですすいだ。この処理布帛はラベンダー色であった。その後の試験でアクリジンイエローGは付着しなかったことが認められた。
【0049】
実施例8
50 mgの亜鉛プロトポルフィリンIXを20 mlのジメチルホルムアミドに溶解することにより、亜鉛プロトポルフィリンIXをアミン誘導体に変換した。この溶液に10 mgのエチレンジアミンを添加し、続いて9 mgのN-ヒドロキシ-スクシンイミド(NHS)および46 mgのl-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を添加した。反応を24時間進行させた。この間に、分子量450,000 g/molのポリ(アクリル酸)をブライダルベールの形のナイロン-6,6布帛に下記に従って架橋させた:2インチのナイロンブライダルベール片を切り取った。次いで250 mgのポリ(アクリル酸)を200 mLの水に溶解した。次いで0.05 gのDMTMMをこの溶液に添加し、ブライダルベールをこの溶液に通し、過剰の溶液を絞り出した。布帛を一夜風乾した。次いで処理布帛を水で3回すずぎ、乾燥させた。最後に、前記で調製した亜鉛プロトポルフィリンIX溶液に0.05 gのDMTMMを添加した後、処理布帛を浸漬した。処理および浸漬した布帛を次いで絞って過剰の溶液を除去し、覆って24時間反応させた。最後に布帛を水、続いてメタノールで十分に洗浄して、未架橋物質を除去した。
【0050】
一重項酸素発生色素が付着しうるポリマー布帛に関して、以下の考察によってさらに詳細を示す。
色素をポリマーに付着させる際、一般に多くのポリマーの表面は一重項酸素発生色素を付着させるには反応性基が少なすぎることが見いだされた。この難点を克服するためには、多数の反応性部位を含む表面部位仲介または増幅ポリマーを付着させることができる。たとえば、ナイロン6,6は分子当たり2個の反応性基、アミノ基およびカルボン酸基を含むにすぎない。色素をナイロン6,6の表面に直接結合させると、有効であるには色素分子が少なすぎるであろう。しかし、ポリ(アクリル酸)をアミノ末端に共有結合させ、またはポリ(エチレンイミン)をカルボン酸基に結合させることができる。これらのポリマーは両方とも各反復単位中に反応性基を含む。したがって、ポリ(アクリル酸)を用いてそれをナイロン6,6表面に共有結合させると、反応性部位の数を数百倍ないし数千倍増加させることができる。次いで適切に選択した色素を、この表面部位増幅ポリマーの無いものよりはるかに高いレベルで表面に付着させることができる。
【0051】
ポリマーを選択する際には、セルロース系ポリマーの場合は表面の反応性基の濃度が適切なので表面部位仲介または増幅ポリマーは不必要であることを留意することが重要である。
【0052】
各ポリマーについて、その表面の基と反応しうる反応性基を含むように、表面部位仲介または増幅ポリマーを選択しなければならない。繊維の表面に一般にみられる反応性部位には、ヒドロキシル(-OH)、カルボン酸(-COOH)およびアミノ(-NH2または-NH-)基が含まれる。他の基が存在する可能性もあり、あるいは当業者に既知の手段(たとえばプラズマ処理、UV活性化、コロナ処理など)により他の基を表面に付加することができる。
【0053】
適切な表面部位仲介または増幅ポリマーには、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ(エチレン-co-無水マレイン酸)、ポリ(ビニルフェノール)、およびそれらとエチレン、プロピレンまたは他の物質(当業者に既知のもの)とのコポリマーが含まれる。
【0054】
色素上の適切な基を表面部位増幅ポリマー中の反応性官能基に共有結合させることにより、色素をこれらの表面部位増幅ポリマーに付着させることができる。たとえば、アミノ基を含む色素は、ポリ(アクリル酸)のカルボン酸基と色素分子のアミノ基(1以上)との間にアミド結合を形成することにより、ポリ(アクリル酸)に共有結合させることができる。アズレAは、アズレA上の-NH2基をポリ(アクリル酸)反復単位の-COOH基と反応させることによりポリ(アクリル酸)に共有結合させることができる色素の例である。当業者に自明のとおり、他の色素-表面部位増幅ポリマーの組合わせも使用できる。
【0055】
色素が反応性基を含むけれどもそれが表面部位仲介もしくは増幅ポリマーまたはポリマー表面と直接には反応できない場合、短いリンカー分子をまず、たとえば色素に共有結合させ、続いてこの修飾された色素を表面部位増幅ポリマーまたはポリマー表面に共有結合させることができる。結合の順番を逆転させて、リンカー分子をまず表面部位増幅ポリマーまたはポリマー表面に付着させ、続いてそれを色素に共有結合させることができる。短いリンカー分子は、色素に共有結合しうる1以上の基、およびポリマー表面または表面部位増幅ポリマーに共有結合しうる1以上の基を含むべきである。これらの基は異なってもよく、あるいはそれらは同一であってもよい。リンカー分子反応性基の選択は当業者に自明であろう。たとえば、反応性カルボン酸基のみをもつ色素をカルボン酸ベースの表面部位増幅ポリマーに付着させるためには、ジアミン、たとえばエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどをまず色素分子に結合させ、続いて表面部位増幅ポリマーに付着させる。
【0056】
本発明の他の観点によれば、複数の色素を用いると、一重項酸素発生を太陽光線、タングステンランプ、蛍光光線光源、ならびに環境光線および/または一般に2500ルクス程度の低い光線下で最適化することができる。そのような場合、少なくとも2種類、好ましくは3種類の色素を使用でき、これらはそれぞれが他のものと異なる、一重項酸素を発生させる吸収スペクトルをもつ。
【0057】
アクリジンイエローGの場合、500ルクス程度の低い光線への露光が、これにより発生した一重項酸素に曝露されたウイルスの少なくとも99%を不活性化する作用を示した。ある具体的かつ有効な用途において、アクリジンイエローGまたは本明細書に記載する構造をもつ他の色素を、他の2種類の色素と共に使用でき、追加色素それぞれがアクリジンイエローGおよび他方の色素と異なるスペクトルの光に露光された際に一重項酸素を発生する。
【0058】
太陽光線、屋内および蛍光照明を模した特定の光源について単位光強度当たり最大量の一重項酸素を発生するものとして、候補色素を選択する。色素または組合わせを濾過材の表面に付着させることができる仲介ポリマーにそれらを付着させる。
【0059】
1態様において本発明は、一重項酸素発生効率、濾過効率、およびフィルター全体の低い圧力降下を維持した状態で、光活性色素を空気濾過材の表面に付与する方法をも含む。
当業者に理解されるように、キャリヤーに付着した際の色素活性の変化を補正するために、色素-キャリヤーの組合わせを最適化する。この色素-キャリヤーの組合わせを濾過材表面に付着させる。付着条件は、1)一重項酸素の発生を最大にし、かつ2)濾過性能の変化を最小にするように、最適化される。
【0060】
本発明は、インフルエンザウイルスを不活性化するマスクを実現することにより、実際の世界環境への適用をもたらす。
本発明者らは、4-(4,6-ジメトキシ-l,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)、他のタイプのアミド結合形成、または熱のみを用いて物質を表面に付着させるための、より低コストでより着実な方法を開発した。熱は簡単で低コストの色素付着方法である。これらの物質を付着させるコストが低下し、かつローズベンガル、アズレAおよび関連色素が含まれるように色素クラスが拡大された。多数の一重項酸素発生色素を、本発明の一部として本明細書に記載する技術を用いて、当業者に自明のナイロンその他の材料の表面に付着させることが、本発明により可能になった。
【0061】
色素がカルボン酸基を含む場合、色素をポリ(エチレンイミン)にイミン上のNH基により架橋させるか、またはまず色素をジアミン、たとえばエチレンジアミンもしくは,1,6-ジアミノヘキサンに架橋させる。色素が遊離アミノ基を含む場合、色素はポリ(アクリル酸)に直接架橋するであろう。2つの方法を用いてカルボン酸基をアミノ基またはイミン基に付着させる。まず、確実に架橋させるために4-(4,6-ジメトキシ-l,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)を用いる。
【0062】
ポリアクリル酸の代わりとして、化学薬品の使用量が少なくかつ低コストであるため好ましい態様である他の方法は、酸含有基およびアミン含有基を加熱して水を駆出することによりアミドを直接形成することである。この方法は、年間数十億ポンドのポリアミドを製造するために用いられており、商業的に有望な経路である。実験室における最近の試みにより、この方法で色素をポリ(アクリル酸)に容易に付着させうること、およびポリ(アクリル酸)または色素修飾したポリ(アクリル酸)をナイロンに付着させうることが示された。
【0063】
具体的には、アズレAおよびポリ(アクリル酸)の両方を水に溶解し、DMTMMを添加することにより、アズレAをポリ(アクリル酸)に架橋させる。30分間撹拌した後、Millipore Amicon Ultra 100,000分子量カットオフ濾過膜および遠心機を用いる透析により、未反応のアズレAを除去する。これにより、450 kDのポリ(アクリル酸)に架橋したアズレAはいずれも保持され、未反応のアズレAはいずれも通過する。アズレAおよびポリ(アクリル酸)のアルコール溶液を60分間還流し、透析して未反応のアズレAを除去することにより、同様な反応が行なわれる。
【0064】
本発明に従ってウイルスを不活性化するためには一重項酸素が必要なので、その発生を最大にすることが重要である。一重項酸素の発生量は、色素の吸収能、色素の量子収量(吸収される光子当たりの一重項酸素の発生量)、色素の吸収スペクトルと光源の発光スペクトルの重なり、ならびに光源の強度に依存する。適切な色素を選択する際の他の重要な要因には、一重項酸素との反応による分解に対する色素の抵抗性、表面への色素の結合しやすさ、およびそのコストが含まれる。
【0065】
幸い、太陽光線、タングステン光線および蛍光光線光源の発光スペクトルは周知である。さらに、多数の市販色素について吸収スペクトルおよび一重項酸素発生の量子収量が測定されている。他の色素についての吸収スペクトルおよび一重項酸素量子収量は、本明細書に後に記載する試験チャンバーおよび一重項酸素分析方法を用いて容易に測定される。さらに、多くの繊維タイプ上の利用可能な反応性部位が既知であるので、色素を表面に付着させ、または結合剤分子に付着させ、次いでこれを表面に付着させるのは簡単なことである。
【0066】
以下は、さらに本発明の使用例である。
Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)上皮細胞を、10%のウシ胎仔血清、100 U/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンを補充したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中で培養する。MDCK細胞を75 cm2のポリスチレン製細胞培養フラスコ内において37℃および5% CO2で増殖させる。これらの細胞は、VSV、ワクシニアウイルス、アデノウイルスおよびレオウイルスならびにインフルエンザウイルスを含めた広範な動物ウイルスの増殖を支持する。インフルエンザA/WSN/33ウイルス(HlNl)をMDCK細胞中で増殖させる。A/WSN/33は慣用される実験室株である。それは多様なネズミ組織および培養細胞中で複製する。2 cm2の処理布帛片または対照布帛片を約2×108プラーク形成単位/mlのウイルス懸濁液に浸漬し、次いで35 mmの細胞培養皿に移す。ウイルス浸漬布帛片を入れたこれらの皿を目的光源下に置き、指示した期間照射する。光の強度を可視光線計測器で測定する。照射後、3 mlの無血清DMEMを入れた15 mlのポリプロピレン製コニカル試験管へ布帛片を移す。試験管を10〜15秒間渦撹拌して、ウイルスを布帛から培地中へ放出させる。
【0067】
殺ウイルス活性を10倍系列希釈により分析する。データを
【0068】
【化2】

【0069】
として報告する:ここでNは、この処理に対する”対数不活性化(log kill)”比である。対数不活性化比3は、99.9%のウイルスがこの濾過材により特定の露光で不活性化されることを示す。各測定を10回実施し、試験が有効であることを確認するために陽性対照および陰性対照の両方を用いる。これらの各例において対数不活性化比を比較して、この方法で適切な防護が得られたかを判定する。適切な防護は、30分間の露光後の対数不活性化比が2 (99%の不活性化)と定義される。
【0070】
具体的なフィルター用途は、個人用フィルターとしてインフルエンザに使用するのが可能であると考えられる。さらに、下記のものは本明細書に記載する発明の他の用途の可能性である:
1)フィルター:
家庭用HVACシステム
オフィスビルディング
病院および
航空機キャビンフィルター
2)マスク:
軍用
自国防衛
NIH”世界的流行”
国際的および
小売業
3)家具および室内装飾:
病院待合室
病院手術室
壁紙
椅子
デイケアセンター
軍用制服ならびに
航空機キャビン椅子張りおよび壁張り材料。
【0071】
以上のように本発明を詳細に記載したが、本発明は限定されない形で記載した特許請求の範囲からより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に従って布帛上に特定の色素を含む布帛から反射した光のスペクトルおよび相対強度を示すグラフである。
【図2】ポリ(アクリル酸)が付着したナイロン布帛および実施例7からの布帛によるウイルス不活性化を示すグラフである。
【図3】アズレAまたはローズベンガル色素が付着した布帛によるウイルス不活性化を示すグラフである。
【図4】アクリジンイエローGが付着した布帛によるウイルス不活性化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスの増殖を抑制する方法であって、
反応性色素および反応性官能基を含む色素のうちの1つから選択される有効量の色素を支持体に付着させ、色素組成物はさらに、予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光を吸収し、これにより酸素含有雰囲気の存在下でこの予め定めたスペクトル範囲の光を吸収した際に一重項酸素と接触したウイルスを不活性化するのに有効な量の一重項酸素を発生させる能力を有することを特徴とし;そして
不活性化すべきウイルスを、酸素ならびに前記の予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光の存在下で、前記組成物が付着した支持体と接触させる
ことを含む方法。
【請求項2】
色素が少なくとも2種類の異なる色素を含み、それぞれが他方と異なる、一重項酸素を発生させる光吸収スペクトルを有する、請求項1の方法。
【請求項3】
色素が少なくとも3種類の異なる色素を含み、それぞれが他と異なる、一重項酸素を発生させる光吸収スペクトルを有する、請求項1の方法。
【請求項4】
色素が、アミノ-、カルボキシル-、ヒドロキシル-、アルケン-およびチオールのうち少なくとも1つからなる反応性官能基を含む、請求項1の方法。
【請求項5】
色素が、セルロース系繊維を含む支持体上に直接架橋する、請求項1の方法。
【請求項6】
色素が、支持体に付着した仲介ポリマーに付着する、請求項1の方法。
【請求項7】
色素が、キサンテン類、フェノチアジン類、フルオレセイン類、アクリジン色素、ポルフィリン類、フタロシアニン類、アントラセン誘導体、アントラキノン類、およびその組合わせのうち少なくとも1つから選択される、請求項1の方法。
【請求項8】
色素が、ローズベンガル、チオニン、アズレA、アクリジンイエローG、プロトポルフィリンIX、AlプロトポルフィリンIXおよびZnプロトポルフィリンIXのうち少なくとも1つである、請求項1の方法。
【請求項9】
支持体が少なくとも1つの繊維である、請求項1の方法。
【請求項10】
支持体が布帛である、請求項1の方法。
【請求項11】
支持体が表面である、請求項1の方法。
【請求項12】
表面が空気濾過材である、請求項11の方法。
【請求項13】
色素が下記の基本構造:
【化1】

(式中:Rは水素、ヒドロキシル、カルボン酸、アルキル、アミノもしくは置換アミノ基、または他の基であり;Rのうち少なくとも1つはアミノ、ヒドロキシル、カルボン酸、または他の反応性基である)を有する、請求項1の方法。
【請求項14】
色素が、プロフラビン、アクロフラビンおよびアクリジンイエローGのうち少なくとも1つである、請求項13の方法。
【請求項15】
色素がアクリジンイエローGである、請求項13の方法。
【請求項16】
ウイルスの増殖を抑制しうる、下記のものを含む製品:
支持体;ならびに
支持体に付着した、反応性色素および反応性官能基を含む色素のうち少なくとも1つから選択される有効量の色素組成物;色素はさらに、予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光を吸収して、酸素含有雰囲気の存在下でこの予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光を吸収した際に一重項に近接したウイルスを不活性化するのに有効な量の一重項酸素を発生させる能力を有することを特徴とする。
【請求項17】
色素が少なくとも2種類の異なる色素を含み、それぞれが他方と異なる、一重項酸素を発生させる光吸収スペクトルを有する、請求項16の製品。
【請求項18】
色素が少なくとも3種類の異なる色素を含み、それぞれが他と異なる、一重項酸素を発生させる光吸収スペクトルを有する、請求項16の製品。
【請求項19】
色素が、アミノ-、カルボキシル-、ヒドロキシル-、アルケン-およびチオールのうち少なくとも1つからなる反応性官能基を含む、請求項16の製品。
【請求項20】
色素が、セルロース系繊維を含む支持体上に直接架橋している、請求項16の製品。
【請求項21】
色素が、支持体に付着した仲介ポリマーに付着している、請求項16の製品。
【請求項22】
色素が、キサンテン類、フェノチアジン類、フルオレセイン類、アクリジン色素、ポルフィリン類、フタロシアニン類、アントラセン誘導体、アントラキノン類、およびその組合わせのうち少なくとも1つから選択される、請求項16の製品。
【請求項23】
支持体が少なくとも1つの繊維である、請求項16の製品。
【請求項24】
支持体が布帛である、請求項16の製品。
【請求項25】
支持体が表面である、請求項16の製品。
【請求項26】
表面が空気濾過材である、請求項25の製品。
【請求項27】
色素が、ローズベンガル、チオニン、アズレA、アクリジンイエローG、プロトポルフィリンIX、AlプロトポルフィリンIXおよびZnプロトポルフィリンIXのうち少なくとも1つである、請求項16の製品。
【請求項28】
色素が下記の基本構造:
【化2】

(式中:Rは水素、ヒドロキシル、カルボン酸、アルキル、アミノもしくは置換アミノ基、または他の基であり;Rのうち少なくとも1つはアミノ、ヒドロキシル、カルボン酸、または他の反応性基である)を有する、請求項16の製品。
【請求項29】
色素が、プロフラビン、アクロフラビンおよびアクリジンイエローGのうち少なくとも1つである、請求項28の製品。
【請求項30】
色素がアクリジンイエローGである、請求項28の製品。
【請求項31】
ウイルスの増殖を抑制しうる物品の製造方法であって、
支持体を用意し;
有効量の色素組成物を支持体に付着させ、色素は反応性色素および反応性官能基を含む色素のうち少なくとも1つから選択され、色素はさらに、予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光を吸収して、酸素含有雰囲気の存在下でこの予め定めたスペクトルおよび強度範囲の光を吸収した際に一重項酸素に近接したウイルスを不活性化するのに有効な量の一重項酸素を発生させる能力を有することを特徴とする
ことを含む方法。
【請求項32】
色素が少なくとも2種類の異なる色素を含み、それぞれが他方と異なる、一重項酸素を発生させる光吸収スペクトルを有する、請求項31の製造方法。
【請求項33】
色素が少なくとも3種類の異なる色素を含み、それぞれが他と異なる、一重項酸素を発生させる光吸収スペクトルを有する、請求項31の製造方法。
【請求項34】
色素が、アミノ-、カルボキシル-、ヒドロキシル-、アルケン-およびチオールのうち少なくとも1つからなる反応性官能基を含む、請求項31の製造方法。
【請求項35】
色素が、セルロース系繊維を含む支持体上に直接架橋する、請求項31の製造方法。
【請求項36】
色素が、支持体に付着した仲介ポリマーに付着する、請求項31の製造方法。
【請求項37】
色素が、キサンテン類、フェノチアジン類、フルオレセイン類、アクリジン色素、ポルフィリン類、フタロシアニン類、アントラセン誘導体、アントラキノン類、およびその組合わせのうち少なくとも1つから選択される、請求項31の製造方法。
【請求項38】
支持体が少なくとも1つの繊維である、請求項31の方法。
【請求項39】
支持体が布帛である、請求項31の方法。
【請求項40】
支持体が表面である、請求項31の方法。
【請求項41】
表面が空気濾過材である、請求項40の方法。
【請求項42】
色素が、ローズベンガル、チオニン、アズレA、アクリジンイエローG、プロトポルフィリンIX、AlプロトポルフィリンIXおよびZnプロトポルフィリンIXのうち少なくとも1つである、請求項31の製造方法。
【請求項43】
色素が下記の基本構造:
【化3】

(式中:Rは水素、ヒドロキシル、カルボン酸、アルキル、アミノもしくは置換アミノ基、または他の基であり;Rのうち少なくとも1つはアミノ、ヒドロキシル、カルボン酸、または他の反応性基である)を有する、請求項29の製造方法。
【請求項44】
色素が、プロフラビン、アクロフラビンおよびアクリジンイエローGのうち少なくとも1つである、請求項43の製造方法。
【請求項45】
色素がアクリジンイエローGである、請求項43の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−532084(P2009−532084A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502759(P2009−502759)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/043919
【国際公開番号】WO2007/114843
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(507238115)ノース・カロライナ・ステート・ユニバーシティ (2)
【出願人】(598038968)エモリー・ユニバーシティ (19)
【Fターム(参考)】