説明

光源装置

【課題】凹面反射鏡とショートアーク型放電ランプとを備え、該ショートアーク型放電ランプは、発光部とその両端の封止部とからなる発光管と、前記発光部内に配置された一対の電極とを有し、該電極の軸部が前記封止部内に埋設された金属箔に溶接接合されてなる光源装置において、封止部の溶接部近傍でクラックが生じないようにした構造を提供することにある。
【解決手段】前記電極間の中心位置から、各電極軸部と金属箔との溶接部までの距離が、一方と他方の電極側で異なるようにして、両封止部における溶接部近傍の温度に差異が生じないようにして所定の温度範囲に保つことができるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プロジェクター装置や露光装置用などの光源装置に関するものであり、特に、ショートアーク型放電ランプを用いた光源装置に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクター装置用や露光装置用の光源装置として、ショートアーク型放電ランプを備えた光源装置が知られている。特開2009−198640号公報などがこれであり、図5に該従来技術に係る光源装置が示されている。
ショートアーク型放電ランプ10は、略球形の発光部12の両端に枝状の封止部13a、13bが連続して形成された石英ガラスからなる発光管11を備え、発光部12の内部に一対の電極14、14が対向配置されて構成される。前記発光部12の内部には、発光物質として水銀が封入されている。
前記電極14は、材質としてはタングステンからなり、先端に形成された頭部14aと、外側に向かって延びる細長い軸部14bとを備える。軸部14bの端部は封止部13bに埋設された金属箔15に溶接により接続されている。
該金属箔15は通常モリブデンにより構成されており、石英ガラスに対して溶着して気密を保持する。金属箔15の端部には、電極軸部14bおよび外部リード棒16が溶接によって接続されている。なお、溶接の際は通常は低融点バインダを介さない抵抗溶接が好適に採用されている。
【0003】
反射鏡20は、基体部分は耐熱性の良好な材質で構成され、例えば石英ガラス、結晶化ガラス、セラミックス等からなり、略椀型の凹面反射部21の内面に誘電体多層膜からなる反射膜が形成されている。
そして、中心部に形成された首部22が形成され、前面には開口23が形成されていて、ランプ10からの光が放射される。
【0004】
前記ショートアーク型放電ランプ10の一方の封止部13aが、前記反射鏡20の首部22に形成された貫通孔に挿入されて無機物質系接着剤30により固定される。
なお、ここではランプ10と反射鏡20の固定部の構造として封止部13を直接接着剤によって固定したものを示したが、このような形態に限定されず、当該接着部分に冷却風のための通気口を設けて固定するものや、ランプ10の封止部13に口金を装着した上で当該口金と反射鏡20とを固定するものなど、実際には様々な形態がある。
【0005】
以上のような光源装置は、ランプ動作中、発光管の温度が非常に高温になる一方、発光管内部の圧力が極めて高い状態になるので、ランプの到達温度が過熱状態とならないよう冷却手段を具備した状態で使用されることが多い。
この冷却の方法は様々であり、図6ではその一例として反射鏡20の前面開口23側からランプ10に向かって流入させる形態が図示されている。この例では、光源装置を収容する筺体40の、反射鏡20の光出射側の前面開口23側に設けられた前面流入口41からランプ10に向けて冷却風が流入され、ランプ10を冷却した後に、反射鏡20の前面開口23における前記流入口41と対向方向に形成された排気開口42から排出される。
【0006】
ところで、上述したようなランプの高温化を回避するように冷却条件が設定された光源装置においては、ショートアーク型放電ランプの封止部にクラックが入ることがある。
特に、電極軸部と金属箔との溶接部は、封止部のなかでもとりわけ発光部に近い部分にあり、このような破損が生じることで、発光管の気密が損なわれるという事態が生じたり、金属箔の酸化で導電性が損なわれたりして、ランプが不点灯になるといった事態に至る。
このようなランプの封止部、特に、前記した電極軸部と金属箔との溶接部の周囲でクラックが生じる理由は、ランプの点灯、消灯の温度変化で電極軸部が膨張するが、溶接部は金属箔に固定されているため、この部分において膨張・伸縮が規制され、その結果、ガラスに応力がかかることによって封止部が破損することによる。
【0007】
このような封止部でのクラックは、発光管の温度の関係でどちらかの一方の封止部に発生することが多い。これは、封止部の温度条件が両側の封止部で必ずしも一致せず相違するからである。両封止部で温度差ができる理由としては、様々なものがあり、例えば、図5に示すような構造においては、反射鏡20の首部22側に位置する封止部13aのほうが反射部21に近接していて、その熱的影響を受けやすく、かつ、冷却風が当たり難いということもあって、その温度が高くなる。
このような条件のもとで、その首部22側の封止部13aの温度を適正なものにするように冷却条件を設定すると、反射鏡20の前面開口23側の封止部13bの温度が当該適正温度よりも低くなってしまう。
その温度分布の一例を記すと、首部22側の封止部13aにおける溶接部近傍を熱電対で測定した場合の温度が、680〜760℃であって、このような温度範囲にあると封止部を構成するガラスは十分な粘性を有していて、電極軸部の膨張収縮に追随してクラックが生じることがない。
一方、この時、前面開口24側の封止部13bの溶接部近傍を、熱電対で測定したときの温度は600〜650℃と低く、この封止部13bにおいてガラスの粘度が低くなり、クラックが入りやすくなる。
【0008】
また、本発明の実施例として後述するランプ構造として、前面開口側の封止部に反射部材を設けて、発光部からの放射光を当該発光部に戻してその有効利用を図るランプ構造の場合には、当該反射部材による反射光や保温効果、あるいは冷却風が遮断されることなどによって、当該封止部のほうがその温度が高くなる。
この場合には、この反射部材を設けた側の封止部温度を適正温度にするような冷却条件のもとでは、首部側の封止部温度が適正温度より低くなってしまい、当該封止部でクラックが入りやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−198640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、凹面反射鏡と、該反射鏡に固定されたショートアーク型放電ランプとを備え、該ショートアーク型放電ランプは、発光部とその両端の封止部とからなる発光管と、前記発光部内に配置された一対の電極とを有し、該電極の軸部が前記封止部内に埋設された金属箔に溶接接合されてなる光源装置において、前記封止部のどちらか一方が適正温度よりも低温となって、特に、電極軸部と金属箔の溶接部近傍でクラックが生じることのないようにした構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明に係る光源装置は、前記ショートアーク型放電ランプの発光部内の電極間の中心位置から、各電極軸部と金属箔との溶接部までの距離が、一方と他方の電極側で異なるようにすることにより、温度が低くなる側の封止部での前記距離を小さくして発光部に接近させて高温側の他方の封止部温度に近づけ、両封止部内の溶接部近傍での温度を近接させてその温度差を少なくして、両方の封止部の温度を適正温度とすることができるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発光部両端の封止部のうち、封止部内の電極軸部と金属箔の溶接部の温度が低くなるほうの封止部における、電極間中心位置から溶接部までの距離を小さくしたので、発光部により接近することになってその温度が上昇し、高温側の他方の封止部における前記温度に近づけられ、両封止部内での溶接部近傍の温度を適正温度範囲内にすることができて、封止部を構成するガラスに十分な粘性が保たれて、当該部位でのクラックの発生を回避できるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る光源装置の断面図。
【図2】図1のランプの要部の拡大断面図。
【図3】本発明の他の実施例の断面図。
【図4】本発明の更に他の実施例の断面図。
【図5】従来の光源装置の断面図。
【図6】図5の従来光源装置の冷却状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に係る光源装置を示す断面図である。光源装置1は、光源となるショートアーク型放電ランプ10と凹面反射鏡20とからなり、その基本的な構造は図5に示す従来技術構造と同様である。
前記ショートアーク型放電ランプ10は、発光管11を有し、該発光管11は発光部12と、その両端の封止部13a、13bとで構成され、前記発光部12内には一対の電極14、14が配置されている。この電極14は頭部14aと軸部14bとからなり、該電極軸部14bは封止部13b内で金属箔15に溶接接合されている。
上記ショートアーク型放電ランプ10の一方の封止部13aが反射鏡20の首部22を貫通し、接着剤23によって固定されていて、他方の封止部13bは反射鏡20の反射部21の前面開口23側に延びている。
図2にその詳細が示されるように、発光部12の電極間中心位置Oから、電極軸部14bと金属箔15との溶接部Xa、Xbまでの距離La、Lbが、両封止部13a、13bで異なっている。即ち、電極間中心位置Oから、反射鏡20の首部22側の封止部13aにおける溶接部Xaまでの距離Laと、反射鏡20の前面開口23側の封止部13bにおける溶接部Xbまでの距離Lbは異なっていて、距離Lbのほうが距離Laよりも小さい(La>Lb)。
つまり、前面側の封止部13bでの溶接部Xbは、後方側の封止部13aでの溶接部Xaに比べて、より発光部12に接近した位置に置かれている。
【0015】
図2を参照して、このランプの一数値例をあげると以下の通りである。
発光部内径(a):4.5mm
発光部外径(b):10mm
電極長さ(c):8mm
電極長さ(d):7mm
電極間の中心位置Oから溶接部Xaまでの長さ(La):7.5mm
電極間の中心位置Oから溶接部Xbまでの長さ(Lb):6.5mm
電極間距離(f):1mm

すなわち、この実施例では、両者の電極14の長さ(先端から軸部の後端部までの長さ)でいうと一方と他方の長さでは約10〜15%程度の差となる。
このランプ10を反射鏡20に組み込んだ場合、反射鏡20の前面開口23側の封止部13bにおける溶接部Xbは、他方の封止部13aでの溶接部Xaよりも発光部12に近接されて、その温度の影響をより強く受ける。その状態で、冷却条件を適正に設定して点灯させると、両封止部13a、13bにおける溶接部Xa、Xb近傍での温度を適正温度に保つことができた。ここで、適正温度に関して具体的な数値例を挙げると、熱電対によって測定された温度では680〜760℃程度となる。
なお、ここでは、溶接部Xの位置を1mmだけ発光部12側に近づけることにより、約70℃程度の温度上昇を見込むことができた。
【0016】
図3は、他の実施例であって、この実施例では反射鏡20の前面開口23側の封止部13bに、副反射鏡25を設けた構造である。
前記副反射鏡25は、ランプ10の発光部12から前方に放射される光を反射して再び発光部12内に戻すものであって、これにより光の有効利用が図られるものである。
この実施例の場合、副反射鏡25の反射や、冷却風が該副反射鏡25によって遮られるなどの理由で、副反射鏡25を設けた側の封止部13bのほうが高温となる。
従って、この副反射鏡25を設けた封止部13bの温度を冷却によって適正温度にすると、首部22側の他方の封止部13aが適正温度よりも低くなってしまう。
そのため、首部22側の封止部13aにおける溶接部Xaを発光部12に近づけて、該封止部13aのほうの溶接部Xaまでの距離Laを、反対側の封止部13bでの溶接部Xbまでの距離Lbよりも小さくする(La<Lb)。
こうすることによって、両封止部13a、13bでの溶接部Xa、Xb近傍の温度をほぼ近づけることができ、両者を適正温度領域に設定できて、ガラスに十分な粘性が保たれて、両封止部での電極軸部の膨張、収縮に由来して発生する応力に対して緩衝性を備えることになるので、封止部に生じるクラックの発生を抑えることができる。
【0017】
図4は本発明の他の実施例を説明する断面図である。
この実施例においてはショートアーク型放電ランプ10の発光管11に対して反射膜26が具備された例である。
該反射膜26は、反射鏡20の前方開口23側に配置された封止部13b上に設けられており、少なくとも可視光の光に対して反射特性を備えるものである。この反射膜26は、例えば酸化タンタル(Ta)と二酸化ケイ素(SiO)とによる多層膜、アルミナ(Al)の膜などにより構成されている。
この反射膜26は、発光部12及び封止部13b上に形成されることにより、保温の機能も具備している。その結果、反射膜26が形成された側の封止部13bと、これが形成されていない側(すなわち、冷却風により直接的に冷却される)側の封止部13aとの間で、温度に差異が生じることがある。
反射膜26が形成された側(高温側)の封止部13bが適切な温度となるよう、冷却は例えば反射鏡20の前面開口23側から発光管11に向けて吹き付ける条件で行われる。
このように冷却状態を制御すると、反射膜を形成しない首部22側の封止部13aが過冷却となるので、当該封止部13a側の電極軸部の長さを短くし、電極軸部と金属箔との溶接部Xaの位置を、発光部12側に近づけるよう構成する。即ち、該封止部13aのほうの溶接部Xaまでの距離Laを、反対側の封止部13bでの溶接部Xbまでの距離Lbよりも小さくする(La<Lb)。
こうすることによって、両封止部13a、13bでの溶接部Xa、Xb近傍の温度をほぼ近づけることができ、両者を適正温度領域に設定できる。
【0018】
しかして、両封止部内の電極軸部と金属箔との溶接部近傍での温度に相違ができるランプ構造は上記に限られず、トリガワイヤーを封止部に巻回する構造や始動補助UVセルを設ける構造など種々の形態がある。これらの場合に、その構造に由来して低温側となる封止部での溶接部の位置を、反対側の高温側となる封止部での溶接部よりも発光部に近づけるように構成すればよい。
即ち、ショートアーク型放電ランプが反射鏡に組み込まれた状態で、両封止部内の電極中心位置から等距離位置において低温となる側の封止部において、前記電極中心位置から溶接部までの距離を小さくして、当該溶接部を発光部よりに近づければよい。
なお、上記においては、冷却風により冷却するものとして説明したが、ランプ構造や反射鏡構造、および点灯条件などによっては必ずしも冷却しなくとも、封止部温度が適正な温度領域にある場合もあり、冷却が必須なわけではない。
【0019】
以上説明したように、本発明の光源装置では、ランプの電極間の中心位置から、各電極軸部と金属箔との溶接部までの距離が、一方と他方の電極側で異なるようにしたので、前記電極間の中心位置から等距離位置で温度が低い側にある封止部の溶接部までの距離のほうを小さくすることによって、当該低温側の溶接部を発光部に近づけて温度上昇をはかり、両封止部内の溶接部近傍の温度を適正な温度範囲内に設定できて、特に、低温側の封止部でのクラックの発生を回避できるものである。
【符号の説明】
【0020】
1 光源装置
10 ショートアーク型高圧水銀ランプ
11 発光管
12 発光部
13 封止部
13a 反射鏡首部側の封止部
13b 反射鏡前面開口側の封止部
14 電極
14a 電極頭部
14b 電極軸部
15 金属箔
20 凹面反射鏡
21 反射部
22 首部
23 前面開口
25 副反射鏡
26 反射膜
O 電極間の中心位置
Xa、Xb 溶接部
La、Lb 電極間の中心位置から溶接部までの距離




【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹面反射鏡と、該反射鏡に固定されたショートアーク型放電ランプとを備え、該ショートアーク型放電ランプは、発光部とその両端の封止部とからなる発光管と、前記発光部内に配置された一対の電極とを有し、該電極の軸部が前記封止部内に埋設された金属箔に溶接接合されてなる光源装置において、
前記電極間の中心位置から、各電極軸部と金属箔との溶接部までの距離が、一方と他方の電極側で異なることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記電極間の中心位置から等距離位置で温度が低い側にある封止部の溶接部までの距離のほうを小さくしたことを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記反射鏡の前面開口側の封止部における、前記電極間の中心位置から溶接部までの距離のほうを小さくしたことを特徴とする請求項2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記反射鏡の前面開口側の封止部に、前記発光部からの放射光の一部を該発光部戻す副反射鏡を備えてなり、前記電極間の中心位置から該副反射鏡を備えた封止部の溶接部までの距離のほうを小さくしたことを特徴とする請求項2に記載の光源装置。
【請求項5】
前記反射鏡の前面開口側の封止部に、前記発光部からの放射光の一部を該発光部戻す反射膜を被覆してなり、前記電極間の中心位置から該反射膜を備えた封止部の溶接部までの距離のほうを小さくしたことを特徴とする請求項2に記載の光源装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−4503(P2013−4503A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138210(P2011−138210)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】