説明

光照射によって機能制御が可能な新規抗菌剤

【課題】 光照射下において、抗菌作用を示す有機化合物を提供すること。
【解決手段】 電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物を含む、光照射下で微生物の増殖を抑制するための組成物。光照射下で微生物の増殖を抑制する方法、光触媒も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって機能制御が可能な新規抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
光照射下において、抗菌作用を示す化学物質として、無機化合物である酸化チタン(非特許文献1)が知られている。
酸化チタンのような無機化合物は、化学修飾が容易ではないことから、水への溶解性などといった使用目的に応じた機能改善が難しかった。
【0003】
【非特許文献1】実力養成化学スクール5 光触媒、日本化学会編、藤島昭責任編集、丸善株式会社、平成17年9月30日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光照射下において、抗菌作用を示す有機化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物が光照射下で雑菌の繁殖を抑制することを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0006】
(1)電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物を含む、光照射下で微生物の増殖を抑制するための組成物。
(2)電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物が、アントラキノン類化合物、アントラセン類化合物、キノキサリン類化合物、キノリン類化合物、ポルフィリン類化合物又はそれらの組合せである(1)記載の組成物。
(3)アントラキノン類化合物が、アントラキノンの2、6及び7位の少なくとも1つの位置に電子吸引基を有する(2)記載の組成物。
(4)アントラセン類化合物が、アントラセンの2位に電子吸引基を有するものである(2)記載の組成物。
【0007】
(5)キノキサリン類化合物が、キノキサリンの6位に電子吸引基を有するものである(2)記載の組成物。
(6)キノリン類化合物が、キノリンの2、5、6及び8位の少なくとも1つの位置に電子吸引基を有するものである(2)記載の組成物。
(7)ポルフィリン類化合物が、ポルフィリンの5,10,15及び20位の少なくとも1つの位置に電子吸引基を有するものである(2)記載の組成物。
(8)電子吸引基が、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基及びその塩からなる群より選択される(1)〜(7)のいずれかに記載の組成物。
【0008】
(9)アントラセン類化合物が、アントラセンの2位に電子供与基を有するものである(2)記載の組成物。
(10)キノキサリン類化合物が、キノキサリンの2及び5位の少なくとも1つの位置に電子供与基を有するものである(2)又は(5)記載の組成物。
(11)電子供与基が、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換の芳香族基である(9)又は(10)記載の組成物。
(12)アントラキノン類化合物が、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸二ナトリウム及びアントラキノン-2,7-ジスルホン酸二ナトリウムからなる群より選択される(3)記載の組成物。
【0009】
(13)アントラセン類化合物が、2−アントラセンカルボン酸及び2−ヒドロキシメチルアントラセンからなる群より選択される(4)記載の組成物。
(14)キノキサリン類化合物が、2−メチルキノキサリン、5−メチルキノキサリン及び6−ニトロキノキサリンからなる群より選択される(5)又は(10)記載の組成物。
(15)キノリン類化合物が、6−ニトロキノリン、8−ニトロキノリン、8−ヒドロキシ−5−ニトロキノリン、8−ヒドロキシ−7−ヨードキノリン−5−スルホン酸及び2−クロロキノリン−4−カルボン酸からなる群より選択される(6)記載の組成物。
【0010】
(16)ポルフィリン類化合物が、テトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸及びα,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トリエンスルホネートからなる群より選択される(7)記載の組成物。
(17)照射光が紫外光又は可視光である(1)〜(16)のいずれかに記載の組成物。
(18)(1)記載の組成物を含む製品。
(19)ガラス製品、琺瑯製品、樹脂製品、金属製品及び木材製品からなる群より選択される(18)記載の製品。
(20)(18)記載の製品を含む装置又は設備。
(21)(1)記載の組成物又は(18)記載の製品に光を照射することにより、該組成物又は製品中に存在する微生物の増殖を抑制する方法。
【0011】
(22)(1)記載の組成物又は(18)記載の製品に光を照射することにより、該組成物又は製品に接触している気体又は液体中に存在する微生物の増殖を抑制する方法。
(23)電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物を含む光触媒。
(24)電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物が、アントラキノン類化合物、キノキサリン類化合物、キノリン類化合物、ポルフィリン類化合物又はそれらの組合せである(23)記載の光触媒。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、光照射によって機能制御が可能な新たな抗菌剤が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
本発明は、電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物を含む、光照射下で微生物の増殖を抑制するための組成物を提供する。
本明細書において、「光増感化合物」とは、光増感を起こすことができる化合物をいう。
光増感化合物の電子吸引基としては、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基、その塩などを例示することができる。
【0014】
光増感化合物の電子供与基としては、置換又は非置換のアルキル基、置換又は非置換の芳香族基などを例示することができる。アルキル基の炭素数は、1〜20個が適当であり、1〜10個が好ましく、1〜5個がより好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などを例示することができ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましい。アルキル基の置換基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン基、アミノ基などを例示することができる。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基などの炭素環式基及びピリジル基、キノリル基などの複素環式基などを例示することができ、フェニル基とピリジル基が好ましい。芳香族基の置換基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン基、ニトロ基、アミノ基、カルボン酸基などを例示することができる。
【0015】
電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物としては、アントラキノン類化合物、アントラセン類化合物、キノキサリン類化合物、キノリン類化合物、ポルフィリン類化合物、それらの組合せなどを挙げることができる。
アントラキノン類化合物は、アントラキノンの2、6及び7位の少なくとも1つの位置に電子吸引基を有するとよい。
このようなアントラキノン類化合物は以下の式(I)で表すことができる。
【0016】

(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は電子吸引基であるが、R1、R2及びR3の少なくとも1つは電子吸引基である。電子吸引基は上記の通りである。)
具体的には、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸二ナトリウム、アントラキノン-2,7-ジスルホン酸二ナトリウムなどを例示することができる。
【0017】
電子吸引基を有するアントラキノン類化合物は、市販のものを使用してもよいし、公知の方法により製造してもよい。例えば、芳香族化合物に対するハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、Friedel-Crafts反応などを含む求電子置換反応(K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore, Organic Chemistry-Structure and Function- Third Edition, Chapters 15 and 16, New York, W. H. Freeman and Campany, 1999.)を経て、アントラキノン類化合物を合成することができる。
【0018】
アントラセン類化合物は、アントラセンの2位に電子吸引基又は電子供与基を有するものであるとよい。
このようなアントラセン類化合物は以下の式(II)で表すことができる。

(式中、R11は、電子吸引基又は電子供与基である。電子吸引基及び電子供与基は上記の通りである。)
具体的には、2−アントラセンカルボン酸、2−ヒドロキシメチルアントラセンなどを例示することができる。
【0019】
電子吸引基又は電子供与基を有するアントラセン類化合物は、市販のものを使用してもよいし、公知の方法により製造してもよい。例えば、芳香族化合物に対するハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、Friedel-Crafts反応などを含む求電子置換反応(K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore, Organic Chemistry-Structure and Function- Third Edition, Chapters 15 and 16, New York, W. H. Freeman and Campany, 1999.)を経て、アントラセン類化合物を合成することができる。
キノキサリン類化合物は、キノキサリンの6位に電子吸引基を有するものであるとよい。キノキサリン類化合物は、キノキサリンの2及び5位の少なくとも1つの位置に電子供与基を有するものであってもよい。
【0020】
このようなキノキサリン類化合物は以下の式(III)で表すことができる。

(式中、R31は電子吸引基であり、R32及びR33は、それぞれ独立に、水素原子又は電子供与基であるが、R32及びR33の少なくとも1つは電子供与基である。電子吸引基及び電子供与基は上記の通りである。)
具体的には、2−メチルキノキサリン、5−メチルキノキサリン、6−ニトロキノキサリンなどを例示することができる。
【0021】
電子吸引基及び/又は電子供与基を有するキノキサリン類化合物は、市販のものを使用してもよいし、公知の方法により製造してもよい。例えば、芳香族化合物に対するハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、Friedel-Crafts反応などを含む求電子置換反応(K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore, Organic Chemistry-Structure and Function- Third Edition, Chapters 15 and 16, New York, W. H. Freeman and Campany, 1999.)を経て、キノキサリン類化合物を合成することができる。
【0022】
キノリン類化合物は、キノリンの2、5、6及び8位の少なくとも1つの位置に電子吸引基を有するものであるとよい。
このようなキノリン類化合物は以下の式(IV)で表すことができる。
【0023】

(式中、R41、R42、R43及びR44は、それぞれ独立に、水素原子又は電子吸引基であるが、R41、R42、R43及びR44の少なくとも1つは電子吸引基である。電子吸引基は上記の通りである。)
具体的には、6−ニトロキノリン、8−ニトロキノリン、8−ヒドロキシ−5−ニトロキノリン、8−ヒドロキシ−7−ヨードキノリン−5−スルホン酸、2−クロロキノリン−4−カルボン酸などを例示することができる。
【0024】
電子吸引基を有するキノリン類化合物は、市販のものを使用してもよいし、公知の方法により製造してもよい。例えば、芳香族化合物に対するハロゲン化、ニトロ化、スルホン化、Friedel-Crafts反応などを含む求電子置換反応(K. P. C. Vollhardt, N. E. Schore, Organic Chemistry-Structure and Function- Third Edition, Chapters 15 and 16, New York, W. H. Freeman and Campany, 1999.)を経て、キノリン類化合物を合成することができる。
ポルフィリン類化合物は、ポルフィリンの5、10、15及び20位の少なくとも1つの位置に電子吸引基を有するものであるとよい。
【0025】
このようなポルフィリン類化合物は以下の式(V)で表すことができる。

(式中、R51、R52、R53及びR54は、それぞれ独立に、水素原子又は電子吸引基であるが、R51、R52、R53及びR54の少なくとも1つは電子吸引基である。電子吸引基は上記の通りである。)
具体的には、テトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸、α,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トリエンスルホネートなどを例示することができる。
【0026】
電子吸引基を有するポルフィリン類化合物は、市販のものを使用してもよいし、公知の方法により製造してもよい。例えば、ピロールと芳香族アルデヒド及び置換された芳香族アルデヒドとの縮合反応であるRothemunt法(実験化学講座(第4版)、27巻 生物有機、pp. 28-33、日本化学会編、丸善、1991.)を経て、ポルフィリン類化合物を合成することができる。
【0027】
本発明の組成物は、液剤、粉剤、ペースト、粒剤とすることができる。組成物は、溶媒を含有してもよい。溶媒としては、水、アルコール、アセトン、ヘキサンなどを例示することができる。溶媒の添加量は、電子吸引基を有する光増感化合物の種類や添加剤の種類・量などに応じて変わるが、通常、電子吸引基を有する光増感化合物1重量部に対して、0.001〜20重量部程度が適当である。本発明の組成物には、他の抗菌剤、界面活性剤、酸化防止剤などを添加してもよい。他の抗菌剤としては、銀、銅、亜鉛、酸化チタン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル(TPN)、トリクロロカルバニリド、キトサンなどを例示することができる。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤(例えば、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウムなどの脂肪酸系、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの直鎖アルキルベンゼン系、アルキル硫酸エステルナトリウムなどの高級アルコール系、αオレフィンスルホン酸ナトリウムなどのαオレフィン系、アルキルスルホン酸ナトリウムなどのノルマルパラフィン系)、ノニオン系界面活性剤(例えば、ショ糖脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステルなどの脂肪酸系、ポリオキシアルキルエーテルなどの高級アルコール系、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのアルキルフェノール系)、両性イオン界面活性剤(例えば、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウムなどのアミノ酸系、アルキルベタインなどのベタイン系、アルキルアミンオキシドなどのアミンオキシド系)、カチオン系界面活性剤(例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩などの第四級アンモニウム塩系)などを例示することができる。酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、クロロゲン酸などを例示することができる。これらの添加剤の添加量は、適宜調整することができるが、通常、組成物100重量部に対して、一般に0.001〜20重量部程度である。
【0028】
本発明の組成物は、光照射下で微生物の増殖を抑制するために用いることができる。照射光は、紫外光、可視光であるとよく、好ましくは紫外光である。増殖を抑制することができる微生物としては、かび類、細菌、酵母、藻類、ウイルスなどが挙げられる。
本発明は、本発明の組成物を含む製品も提供する。本発明の組成物を含む製品としては、ガラス製品、琺瑯製品、樹脂製品、金属製品、木材製品などを挙げることができる。本発明の組成物を含む製品を製造する方法としては、本発明の組成物を樹脂やパーチクルボード等に練りこむ方法や基材表面に本発明の組成物を含むコーティング組成物を塗布、硬化させる方法が一般的である。コーティング組成物の塗布方法として、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法などがある。
【0029】
本発明の組成物を含む製品は、キッチンカウンター、キッチンシンク、キッチンキャビネット、レンジフード、ガスコンロ、電磁調理器、浴槽、浴室、ユニットバスなどの装置及び設備の部材として用いられる。本発明の組成物を含む製品を部材として用いる装置及び設備も本発明に包含される。これらの装置及び設備は、公知の方法で製造することができる。
本発明の組成物を含む製品を部材として用いる装置及び設備は、住宅、ホテル、プール、下水道、温泉施設、クアハウス、スポーツ施設、クリーニング店、飲食店、研究施設、船舶、車両、航空機、ロケット等などに設置して、利用することができる。
【0030】
本発明の組成物又は製品に光を照射することにより、該組成物又は製品中に存在する微生物の増殖を抑制することができる。また、本発明の組成物又は製品に光を照射することにより、該組成物又は製品に接触している気体又は液体中に存在する微生物の増殖を抑制することができる。照射光は、紫外光、可視光であるとよく、好ましくは紫外光である。紫外光の光源としては、自然光、太陽光などだけではなく、人工光源としてブラックライト、ケミカルライト、エキシマランプ、発光ダイオード(LED)などがある。照射光の強度と照射時間は、適宜調整すればよいが、例えば、照射光の強度は、ブラックライトの波長360 nmにおける紫外線強度で1〜100,000μW/cm2が適当であり、10 〜10,000μW/cm2が好ましく、100〜5,000μW/cm2がより好ましく、照射時間は、1〜168時間が適当であり、1〜48時間が好ましく、8〜24時間がより好ましい。増殖を抑制することができる微生物としては、かび類、細菌、酵母、藻類、ウイルスなどが挙げられる。本発明の組成物又は製品に接触する気体又は液体としては、空気、水などを挙げることができる。
【0031】
さらに、本発明は、電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物を含む光触媒を提供する。本発明の光触媒は、光照射下でタンパク質、DNA、糖などの生体高分子を切断(分解)する活性を有しうる(後述の実施例5参照)。電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物は、アントラキノン類化合物、キノキサリン類化合物、キノリン類化合物、ポルフィリン類化合物又はそれらの組合せであるとよいが、これらの化合物は前述の通りである。
本発明の光触媒は、光照射下での微生物の増殖を抑制するために用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〕紫外光(1000μW/cm28時間1回)を用いた抗菌効果確認
・試験体
有機光増感剤:アントラキノン-2,6-ジスルホン酸二ナトリウム(増感剤1)、アントラキノン-2,7-ジスルホン酸二ナトリウム(増感剤2)、2−アントラキノンスルホン酸ナトリウム(増感剤3)、2−アントラセンカルボン酸(増感剤4)、2−ヒドロキシメチルアントラセン(増感剤5)、2−メチルキノキサリン(増感剤6)、5−メチルキノキサリン(増感剤7)、6−ニトロキノキサリン(増感剤8)、6−ニトロキノリン(増感剤9)、8−ニトロキノリン(増感剤10)、8−ヒドロキシ−5−ニトロキノリン(増感剤11)、8−ヒドロキシ−7−ヨードキノリン−5−スルホン酸(増感剤12)、2−クロロキノリン−4−カルボン酸(増感剤13)、テトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸(増感剤14)、α,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トリエンスルホネート(増感剤15)
汚水:キッチン排水口のぬめりを普通ブイヨン培地で培養(35℃、24時間)し、10倍希釈したもの(以下、ぬめり水と呼ぶ)
・試験方法(JIS Z 2801抗菌加工製品 抗菌性 試験方法・抗菌効果を参考)
(1)ぬめり水を試験管に各20mL入れた。
(2)有機光増感剤ありの条件は、有機光増感剤濃度が0.025%となるように、調整した。
(3)紫外光ありの条件は、ブラックライトの波長360nmにおける紫外線強度が約1,000μW/cm2となる位置で8時間照射した。この紫外線強度(約1,000μW/cm2)は、晴天時の屋外の紫外線強度に匹敵する。
(4)24時間経過後、各サンプルのぬめり水を1mL採取し、生理食塩水9mL入った試験管に加え、十分に混合した。
(5)さらに、この試験管から1mLを採取し別の試験管の生理食塩水9mLに入れて、十分に混合した。この操作を順次繰り返して、10倍希釈系列希釈液を作製した。
(6)それぞれ1mLを滅菌済シャーレ2枚に分注し、シャーレ1枚当たり、約50℃に保温した標準寒天培地15〜20mLを加え、よく混合した。シャーレのふたをして室温で放置し、培地が固まった後、シャーレを倒置し、35℃で48時間培養した。
(7)培養後、各シャーレの生菌数を測定した。
・結果
結果を図1に示す。上記15種(但し、1種は光未照射でも生菌数減少)に紫外線照射下での抗菌効果が確認された。
【0034】
〔実施例2〕紫外光(1000μW/cm28時間/日×7日間)を用いた抗菌効果確認
・試験体
有機光増感剤:2−メチルキノキサリン(増感剤1)、5−メチルキノキサリン(増感剤2)、6−ニトロキノキサリン(増感剤3)、6−ニトロキノリン(増感剤4)、8−ニトロキノリン(増感剤5)、8−ヒドロキシ−5−ニトロキノリン(増感剤6)、8−ヒドロキシ−7−ヨードキノリン−5−スルホン酸(増感剤6)、2−クロロキノリン−4−カルボン酸(増感剤7)
汚水:キッチン排水口のぬめりを普通ブイヨン培地で培養(35℃、24時間)し、10倍希釈したもの(以下、ぬめり水と呼ぶ)
・試験方法(JIS Z 2801抗菌加工製品 抗菌性 試験方法・抗菌効果を参考)
(1)ぬめり水を試験管に各20mL入れた。
(2)有機光増感剤ありの条件は、有機光増感剤濃度が0.025%となるように、調整した。
(3)紫外光ありの条件は、ブラックライトの波長360nmにおける紫外線強度が約1,000μW/cm2となる位置で8時間/日×7日間照射した。この紫外線強度(約1,000μW/cm2)は、晴天時の屋外の紫外線強度に匹敵する。
(4)24時間経過後、各サンプルのぬめり水を1mL採取し、生理食塩水9mL入った試験管に加え、十分に混合した。
(5)さらに、この試験管から1mLを採取し別の試験管の生理食塩水9mLに入れて、十分に混合した。この操作を順次繰り返して、10倍希釈系列希釈液を作製した。
(6)それぞれ1mLを滅菌済シャーレ2枚に分注し、シャーレ1枚当たり、約50℃に保温した標準寒天培地15〜20mLを加え、よく混合した。シャーレのふたをして室温で放置し、培地が固まった後、シャーレを倒置し、35℃で48時間培養した。
(7)培養後、各シャーレの生菌数を測定した。
・結果
結果を図2に示す。上記7種に紫外線照射下での抗菌効果が確認された。
【0035】
〔実施例3〕紫外光(250μW/cm28時間/日×7日間)を用いた抗菌効果確認
・試験体
有機光増感剤:6−ニトロキノリン(増感剤1)、8−ヒドロキシ−5−ニトロキノリン(増感剤2)
汚水:キッチン排水口のぬめりを普通ブイヨン培地で培養(35℃、24時間)し、10倍希釈したもの(以下、ぬめり水と呼ぶ)
・試験方法(JIS Z 2801抗菌加工製品 抗菌性 試験方法・抗菌効果を参考)
(1)ぬめり水を試験管に各20mL入れた。
(2)有機光増感剤ありの条件は、有機光増感剤濃度が0.025%となるように、調整した。
(3)紫外光ありの条件は、ブラックライトの波長360nmにおける紫外線強度が約250μW/cm2となる位置で8時間/日×7日間照射した。この紫外線強度(約250μW/cm2)は、JIS 光触媒抗菌試験法基準における最高紫外光強度である。
(4)24時間経過後、各サンプルのぬめり水を1mL採取し、生理食塩水9mL入った試験管に加え、十分に混合した。
(5)さらに、この試験管から1mLを採取し別の試験管の生理食塩水9mLに入れて、十分に混合した。この操作を順次繰り返して、10倍希釈系列希釈液を作製した。
(6)それぞれ1mLを滅菌済シャーレ2枚に分注し、シャーレ1枚当たり、約50℃に保温した標準寒天培地15〜20mLを加え、よく混合した。シャーレのふたをして室温で放置し、培地が固まった後、シャーレを倒置し、35℃で48時間培養した。
(7)培養後、各シャーレの生菌数を測定した。
・結果
結果を図3に示す。上記2種に紫外線照射下での抗菌効果が確認された。
【0036】
〔実施例4〕可視光(1000ルクス24時間1回)を用いた抗菌効果確認
・試験体
有機光増感剤:8−ヒドロキシ−7−ヨードキノリン−5−スルホン酸(増感剤1)、テトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸(増感剤2)、α,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トリエンスルホネート(増感剤3)
汚水:キッチン排水口のぬめりを普通ブイヨン培地で培養(35℃、24時間)し、10倍希釈したもの(以下、ぬめり水と呼ぶ)
・試験方法(JIS Z 2801抗菌加工製品 抗菌性 試験方法・抗菌効果を参考)
(1)ぬめり水を試験管に各20mL入れた。
(2)有機光増感剤ありの条件は、有機光増感剤濃度が0.025%となるように、調整した。
(3) 光ありの条件は、20W蛍光灯2本照射下(約1000ルクス、波長360nmにおける紫外線強度が約15μW/cm2)となる位置で24時間照射した。
(4)24時間経過後、各サンプルのぬめり水を1mL採取し、生理食塩水9mL入った試験管に加え、十分に混合した。
(5)さらに、この試験管から1mLを採取し別の試験管の生理食塩水9mLに入れて、十分に混合した。この操作を順次繰り返して、10倍希釈系列希釈液を作製した。
(6)それぞれ1mLを滅菌済シャーレ2枚に分注し、シャーレ1枚当たり、約50℃に保温した標準寒天培地15〜20mLを加え、よく混合した。シャーレのふたをして室温で放置し、培地が固まった後、シャーレを倒置し、35℃で48時間培養した。
(7)培養後、各シャーレの生菌数を測定した。
・結果
結果を図4に示す。上記3種(但し、1種は光未照射でも生菌数減少)に可視光照射下での抗菌効果が確認された。
【0037】
〔実施例5〕タンパク分解活性の確認
化合物(アントラキノン-2,6-ジスルホン酸二ナトリウム、アントラキノン-2,7-ジスルホン酸二ナトリウム、テトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸、α,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トリエンスルホネート)をトリス塩酸緩衝液(pH 7.0, 50mM)中で、牛血清アルブミン(BSA)(1.5μM)に作用させ、光(365nm, 100W)を、10cmの距離から照射した。照射中は恒温槽にて系の温度を25℃に保ち、光照射は、2時間行った。その後、 トリシン−SDS-PAGE(8%ポリアクリルアミドゲル)にて電気泳動を行い、活性を評価した。
結果を図5〜8に示す。図5〜8の写真でのレーンはそれぞれ、レーン1 : 分子量マーカー, レーン2 : タンパク質のみ, レーン3 :タンパク質+ 光, レーン4 : 化合物(15μM) +タンパク質, レーン5 〜 8 : それぞれ化合物15, 5, 1.5, 0.5μM +タンパク質+光。BSAのバンドが、光照射下、作用させる化合物の濃度依存的に薄くなっていることで、タンパクの分解を確認した。
【0038】
〔製造例1〕
20cm角のステンレス板2枚で、枠状のゴムガスケットを挟み、金型を作成した。この金型にクリナップ製キッチン用アクリル樹脂に2−アントラキノンスルホン酸ナトリウムを1重量部添加したものを撹拌後注入し、加熱して樹脂を硬化させた(試験体1)。2−アントラキノンスルホン酸ナトリウムを添加しなかった他は、同様の操作で樹脂成形物を作製した(試験体2)。また、2−アントラキノンスルホン酸ナトリウムの代わりに市販銀系抗菌剤を1重量部添加して、同様の操作で樹脂成形物を作製した(試験体3)。本発明の有機光増感剤練り込み樹脂(試験体1)と比較例のブランク(試験体2)、比較例の市販銀系抗菌剤練り込み樹脂(試験体3)について、それぞれ5センチ角に切り出し、20Wブラックライトを用いて紫外光強度1,000μW/cm2の強さで照射し、ぬめり水を用いたフィルム密着法抗菌性試験(JIS Z 2801抗菌加工製品 抗菌性 試験方法・抗菌効果に準ずる)を行った結果を図9に示す。本発明の有機光増感剤を練り込んだ樹脂は、銀系抗菌剤を練り込んだ樹脂と比較して抗菌性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の組成物は、無機化合物よりも水への溶解性が高いことが期待できる有機化合物を抗菌成分として含有するので、水の防腐や除菌に利用できる。また、樹脂などの高分子材料への添加も容易であるから、抗菌性を有する新たな材料の開発が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1で試験した光増感剤の紫外光照射(1000μW/cm28時間1回)下での抗菌効果を示す。
【図2】実施例2で試験した光増感剤の紫外光照射(1000μW/cm28時間/日×7日間)下での抗菌効果を示す。
【図3】実施例3で試験した光増感剤の紫外光照射(250μW/cm28時間/日×7日間)下での抗菌効果を示す。
【図4】実施例4で試験した光増感剤の可視光照射(1000ルクス24時間1回)下での抗菌効果を示す。
【図5】アントラキノン-2,6-ジスルホン酸二ナトリウムの光照射(365nm, 100W 2時間)下でのBSA分解活性を示す。
【図6】アントラキノン-2,7-ジスルホン酸二ナトリウムの光照射(365nm, 100W 2時間)下でのBSA分解活性を示す。
【図7】テトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸の光照射(365nm, 100W 2時間)下でのBSA分解活性を示す。
【図8】α,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トリエンスルホネートの光照射(365nm, 100W 2時間)下でのBSA分解活性を示す。
【図9】製造例1で製造した樹脂成形物の紫外光照射(1000μW/cm2)下での抗菌効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物を含む、光照射下で微生物の増殖を抑制するための組成物。
【請求項2】
電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物が、アントラキノン類化合物、アントラセン類化合物、キノキサリン類化合物、キノリン類化合物、ポルフィリン類化合物又はそれらの組合せである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
アントラキノン類化合物が、アントラキノンの2、6及び7位の少なくとも1つの位置に電子吸引基を有する請求項2記載の組成物。
【請求項4】
アントラセン類化合物が、アントラセンの2位に電子吸引基を有するものである請求項2記載の組成物。
【請求項5】
キノキサリン類化合物が、キノキサリンの6位に電子吸引基を有するものである請求項2記載の組成物。
【請求項6】
キノリン類化合物が、キノリンの2、5、6及び8位の少なくとも1つの位置に電子吸引基を有するものである請求項2記載の組成物。
【請求項7】
ポルフィリン類化合物が、ポルフィリンの5,10,15及び20位の少なくとも1つの位置に電子吸引基を有するものである請求項2記載の組成物。
【請求項8】
電子吸引基が、ニトロ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基及びその塩からなる群より選択される請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
アントラセン類化合物が、アントラセンの2位に電子供与基を有するものである請求項2記載の組成物。
【請求項10】
キノキサリン類化合物が、キノキサリンの2及び5位の少なくとも1つの位置に電子供与基を有するものである請求項2又は5記載の組成物。
【請求項11】
電子供与基が、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換の芳香族基である請求項9又は10記載の組成物。
【請求項12】
アントラキノン類化合物が、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸二ナトリウム及びアントラキノン-2,7-ジスルホン酸二ナトリウムからなる群より選択される請求項3記載の組成物。
【請求項13】
アントラセン類化合物が、2−アントラセンカルボン酸及び2−ヒドロキシメチルアントラセンからなる群より選択される請求項4記載の組成物。
【請求項14】
キノキサリン類化合物が、2−メチルキノキサリン、5−メチルキノキサリン及び6−ニトロキノキサリンからなる群より選択される請求項5又は10記載の組成物。
【請求項15】
キノリン類化合物が、6−ニトロキノリン、8−ニトロキノリン、8−ヒドロキシ−5−ニトロキノリン、8−ヒドロキシ−7−ヨードキノリン−5−スルホン酸及び2−クロロキノリン−4−カルボン酸からなる群より選択される請求項6記載の組成物。
【請求項16】
ポルフィリン類化合物が、テトラフェニルポルフィンテトラスルホン酸及びα,β,γ,δ-テトラキス(1-メチルピリジニウム-4-イル)ポルフィンp-トリエンスルホネートからなる群より選択される請求項7記載の組成物。
【請求項17】
照射光が紫外光又は可視光である請求項1〜16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
請求項1記載の組成物を含む製品。
【請求項19】
ガラス製品、琺瑯製品、樹脂製品、金属製品及び木材製品からなる群より選択される請求項18記載の製品。
【請求項20】
請求項18記載の製品を含む装置又は設備。
【請求項21】
請求項1記載の組成物又は請求項18記載の製品に光を照射することにより、該組成物又は製品中に存在する微生物の増殖を抑制する方法。
【請求項22】
請求項1記載の組成物又は請求項18記載の製品に光を照射することにより、該組成物又は製品に接触している気体又は液体中に存在する微生物の増殖を抑制する方法。
【請求項23】
電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物を含む光触媒。
【請求項24】
電子吸引基及び/又は電子供与基を有する光増感化合物が、アントラキノン類化合物、キノキサリン類化合物、キノリン類化合物、ポルフィリン類化合物又はそれらの組合せである請求項23記載の光触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−114115(P2009−114115A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288208(P2007−288208)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000104973)クリナップ株式会社 (341)
【Fターム(参考)】