説明

光熱変換測定装置及び同装置に用いられる試料収容器

【課題】簡単かつ低コストの構成で、試料に対する励起光の照射効率を高めて光熱変換測定の精度の向上を測る。
【解決手段】試料Sに励起光を入射して光熱効果を生じさせるにあたり、試料Sを収容するための試料収容器50に励起光反射体56を設ける。この励起光反射体56は、試料収容空間を外側から囲み、この試料収容空間から散乱しようとする励起光を反射させて同空間内に再入射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種試料の含有物質の分析等に用いられる光熱変換測定技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種試料の含有物質の分析等を行う手段として、光熱効果、すなわち、試料に励起光を照射したときにその照射部位が前記励起光を吸収して発熱する効果を利用した光熱変換測定が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、液体の試料に励起光を照射して前記光熱効果を生じさせるとともに、その発熱量を光学的な測定装置により測定するものが開示されている。この測定装置は、前記の液体試料に前記励起光とは別の測定光を透過させ、この測定光の屈折率の変化から前記光熱効果による発熱量を測定するものである。ここで、前記屈折率は前記測定光の位相変化から求められ、その位相変化は光干渉法により測定される。
【特許文献1】特開2004−301520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の光熱変換測定装置において、その測定精度を高めるためには、前記励起光による光熱効果を向上させることが重要である。その手段として、前記励起光を増強することが考えられるが、その場合、励起光照射のための光学系が大掛かりで高価なものとなってしまう。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑み、簡単かつ低コストの構成で、試料に対する励起光の照射効率を高めて測定精度の向上を測ることができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、試料に励起光を入射してその光熱効果による前記試料の発熱量を測定する光熱変換測定装置に用いられる試料収容器であって、前記試料を収容するための試料収容空間を囲み、かつ、この試料収容空間内に前記励起光を入射するための入射口を有する容器体と、前記試料収容空間をこの試料収容空間内での前記励起光の光軸方向と略直交する方向から囲み、当該試料収容空間から到来する励起光をこの試料収容空間側に反射させる励起光反射体とを備えるものである。
【0007】
また本発明は、試料に励起光を入射してその光熱効果による前記試料の発熱量を測定する光熱変換測定装置であって、前記試料収容器と、この試料収容器の試料収容空間内に収容される試料に対して当該試料収容器の入射口から前記励起光を入射する励起光入射光学系と、前記試料に前記励起光とは別の測定光を透過させてこの透過した測定光の位相変化を測定する測定装置とを備えるものである。
【0008】
以上の構成によれば、前記試料収容器の試料収容空間内に入射される励起光のうち、当該試料収容空間からその外に散乱しようとする光は当該試料収容空間を囲む励起光反射体で反射して前記試料収容空間内に再入射されるので、前記試料収容空間内に収容される試料に対する前記励起光の照射効率が高められる。従って、この励起光を特に増強させなくても当該励起光による試料の光熱効果を高めることができる。
【0009】
ここで、前記励起光反射体は、前記試料収容空間内での前記励起光の光軸方向について前記試料収容空間の一部のみを覆うものでもよいが、同空間の全域を覆うものであれば、前記励起光の照射効率がより高められる。
【0010】
前記励起光反射体は前記試料収容空間を囲む前記容器体の内側面上にあることが、好ましい。あるいは、前記容器体のうち前記試料収容空間に面する部分の少なくとも一部が前記励起光を透過させる透光体であり、この透光体を挟んで前記試料収容空間と反対の側に前記励起光反射体が位置する試料収容器でもよい。後者のものでは、前記励起光反射体と前記試料収容空間内の試料とが直接接触することが阻止される。従って、当該接触による不都合、例えば励起光反射体の劣化や試料の特性に対する影響等を回避することができる。また、前記試料収容空間を囲む容器体の内径が非常に小さくてその容器体の内側面上に励起光反射体を配することが困難な場合でも、当該励起光反射体による励起光の反射が可能になる。
【0011】
さらに、前記容器体が、前記透光体を含みかつ前記試料収容空間を囲む内側容器と、この内側容器の外側に位置する外側容器とを備え、この外側容器の内側に前記内側容器が着脱可能に挿入されるとともに、当該外側容器の内側面のうち前記内側容器の前記透光体に対向する面に前記励起光反射体が設けられているものであれば、外側容器は設置したまま当該外側容器に対して前記内側容器を挿脱するだけで、試料の交換ができる。従って、複数種の試料についての測定を効率よく行うことができる。
【0012】
本発明において、前記試料収容空間の形状は適宜設定可能である。そのうち、特に、前記試料収容空間が同空間内に入射される励起光の光軸方向と平行な方向に延びる形状が好ましい。この試料収容器を用い、前記励起光及び前記測定光を前記試料収容空間内の試料に対してその試料収容空間の長手方向に沿う方向に同軸で入射すれば、前記容器体の容積を特に大きくすることなく、前記試料内での前記励起光及び前記測定光の光路長を伸ばすことができ、これによって測定精度のさらなる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、試料収容空間から外向きに散乱しようとする励起光を励起光反射体で反射させて前記試料収容空間内に再入射することにより、簡単かつ低コストの構成で、試料に対する励起光の照射効率を高めて光熱効果の向上ひいては測定精度の向上を測ることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の好ましい実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光熱変換測定装置の例を示す。この装置は、励起光入射光学系(以下、単に「励起系」と称する。)10と、測定系(測定装置)20と、試料収容部40とを備える。そして、この試料収容部40に図2等に示される試料収容器50がセットされ、その収容器50内に色素水溶液やエタノール等の対象試料Sがセットされる。
【0016】
前記励起系10は、前記試料収容部40に励起光を入射するためのものであり、励起光源12と、分光機構14と、変調機構16と、光案内部18とを備える。前記励起光源12としては、例えば白色光を出力するキセノンランプが好適である。この励起光源12から発せられる光は前記分光機構14で分光され、前記変調機構16で周期的に変調されて測定に好適な励起光となる。この励起光が前記光案内部(例えばコリメート機構やライトガイド)18を通じて前記試料収容部40内の試料に照射されることにより、当該試料が当該励起光を吸収して発熱し、その温度変化によって当該試料の屈折率が変化する。
【0017】
前記測定系20は、前記試料の屈折率を測定するための測定光を前記試料Sに照射し、かつ、その測定光から前記屈折率を測定するものである。この実施の形態では、前記測定系20は、測定光源22と必要な光学系、さらには光検出器36、信号処理装置38を備えている。
【0018】
前記測定光源22は、例えば出力1mWのHe−Neレーザ発生器からなり、この測定光源22から照射される光は、図1に示されるように、λ/2波長板23で偏光面の調節を受けた後、偏光ビームスプリッタ24によって互いに直交する偏光L1,L2に2分される。
【0019】
前記偏光L1は、参照光として用いられるもので、音響光学変調機25Aによって光周波数のシフト(周波数変換)を受けた後、ミラー26Aで反射して偏光ビームスプリッタ28に入力される。また、前記偏光L2は、測定光として用いられるもので、音響光学変調機25Bによって光周波数のシフト(周波数変換)を受けた後、ミラー26Bで反射して前記偏光ビームスプリッタ28に入力され、このスプリッタ28で前記偏光L1と合成される。
【0020】
なお、前記の互いに直交する2偏光L1、L2の周波数差fbは、例えば、30MHz程度が好適である。
【0021】
前記偏光L1は、前記偏向ビームスプリッタ30をそのまま透過してミラー34で180°反射することにより前記偏光ビームスプリッタ30に戻る。このとき、前記偏光ビームスプリッタ30と前記ミラー34との間には1/4波長板33が介在していてこの1/4波長板33を前記偏光L1が往復で通過するため、この偏光L1の偏光面は90°回転する。従って、前記偏光ビームスプリッタ30に戻った偏光L1は前記試料収容部40と反対の側に90°反射する。この偏光L1は、偏光板35を通じて光検出器36に入力される。
【0022】
一方、前記偏光L2は、前記偏光ビームスプリッタ30で前記試料収容部40側に90°反射され、1/4波長板32を通じて試料収容部40へ導かれる。この偏光L2は後述のように試料に入射され、さらに180°反射して、前記1/4波長板32を通じて前記偏光ビームスプリッタ30に戻る。この偏光L2は、前記1/4波長板32の往復透過によってその偏光面が90°回転した状態にあるので、今度は当該偏光ビームスプリッタ30をそのまま透過して前記偏光L2と合流し、前記偏光板35および前記光検出器36へ向かう。
【0023】
前記偏光板35では、前記偏光L1,L2がそれぞれ参照光及び測定光として互いに干渉し、その干渉光の光強度が前記光検出器36によって電気信号(検出信号)に変換される。前記信号処理装置38は、前記検出信号に基づいて前記偏光L2(測定光)の位相変化を演算する。これにより、光干渉法による位相変化の測定が達成される。
【0024】
ここで、前記干渉光強度S1は、次の(1)式で表される。
【0025】
S1=C1+C2・cos(2π・fb・t+φ) …(1)
同式において、C1、C2は前記偏光ビームスプリッタ等の光学系や試料Sの透過率により定まる定数、φは前記偏光L1,L2の光路長差による位相差、fbは2偏光L1,L2の周波数差である。この(1)式より、前記干渉光強度S1の変化(前記励起光を照射しない或いはその光強度が小さいときとその光強度が大きいときとの差)から、前記位相差φの変化が求まることがわかる。前記信号処理装置38は、(1)式に基づいて前記位相差φの変化を算出する。
【0026】
なお、前記励起光Leの強度が例えばチョッパの回転により周波数fで周期的に強度変調されていると、試料Sの屈折率も前記周波数fで変化し、測定光L2の光路長も前記周波数fで変化し(参照光L1の光路長は一定)、前記位相差φも周波数fで変化する。従って、前記位相差φの変化を前記周波数fの成分(前記励起信号の強度変調周期と同周期成分)について測定(算出)すれば、周波数fの成分を有しないノイズの影響を除去しつつ試料Sの屈折率変化のみを測定することが可能である。この測定は、前記位相差φの測定のS/N比を向上させる。
【0027】
また、前記励起光源12にレーザダイオードやLEDなどが用いられる場合、その励起光源12の電源を電気回路でコントロールすることにより前記変調を行うことも可能である。
【0028】
次に、前記試料収容部40の構成を図2(a)を参照しながら説明する。この試料収容部40は、集光レンズ42及びダイクロイックミラー44と、本発明に係る試料収容器50とを備えている。
【0029】
前記集光レンズ42は、前記励起系10から導入される励起光Leを集光して前記試料収容器50に収容された試料Sに入射する。前記ダイクロイックミラー44は、前記集光レンズ42と前記試料収容器50との間に位置し、前記集光レンズ42により集光される励起光Leをそのまま透過させる。その一方で、このダイクロイックミラー44は、前記測定系20から前記励起光Leと直交する方向に導入される偏光L2(以下「測定光L2」と称する。)を90°反射させて前記励起光Leと同軸で前記試料Sに入射する。
【0030】
なお、前記励起系10から導入される励起光Leは図2(a)に示されるようにそのまま集光レンズ42に照射されてもよいし、同図(b)に示されるような反射体46での反射により前記集光レンズ42に導かれてもよい。後者の場合、前記反射体46に回折格子を用いると、前記励起光Leの分光を同時に行うことも可能になる。
【0031】
次に、前記試料収容器50の具体的な構造を図3を参照しながら説明する。
【0032】
この試料収容器50は、円筒状の周壁54と、この周壁54の一方の開口を塞ぐ底壁52とを有し、前記周壁54の内側に、試料Sを収容するための試料収容空間が形成されている。すなわち、前記周壁54及び底壁52は、前記試料収容空間を囲む容器体を構成する。前記試料収容空間は、前記底壁52と反対の側(図では右側)に開放され、その開口が前記励起光Le及び前記測定光L2の入射口55になっている。
【0033】
この実施の形態では、前記試料収容空間が前記周壁54の中心軸と平行な方向に延びる円柱状をなしている。そして、この試料収容空間の長手方向が前記励起光Le及び前記測定光L2の光軸方向と合致する姿勢で試料収容器50が設置されている。
【0034】
この試料収容器50の設置姿勢は特に限定されない。図示のように開口(入射口55)が側方や下方を向く姿勢では、前記試料収容空間から試料Sが流出しないように、前記入射口を透光材からなる蓋で塞ぐようにすればよい。これに対し、前記入射口が上を向く場合には前記蓋を省略してもよい。
【0035】
図に示される試料収容器50の特徴として、前記試料収容空間を囲む前記周壁54の内周面及び前記底壁54の内側面(底面)上に薄膜の励起光反射体56が形成されている。この励起光反射体56は、前記試料収容空間内から到来する励起光Leをこの試料収容空間側に(すなわち試料収容器内側に)反射させるものであればよく、その具体的な材質は限定されない。好適な例としては、アルミニウムや金などからなる薄膜、誘電多層膜、その他屈折率の低い材料からなる膜が挙げられる。
【0036】
この励起光反射体56は、少なくとも周壁54の内周面に形成されていればよい。しかし、この励起光反射体56が図示のように底壁54の内側面にも形成されていて前記測定光L2を反射するものであれば、この測定光L2が試料収容空間内を往復して試料Sを透過するため、その実光路長は前記周壁54の軸長の約2倍となる。従って、試料収容器50の容積を小さく抑えながら大きな光路長を稼ぐことが可能になる。
【0037】
次に、この光熱変換測定装置の作用を説明する。
【0038】
まず、前記励起系10から前記試料収容部40に照射される励起光Leは、集光レンズ42で集光されて試料収容器50の入射口55からその試料収容空間内に入射され、この試料収容空間内に収容されている試料Sを透過する。このとき、試料Sの所定の含有物質が前記励起光Leを吸収して発熱する(光熱効果)。従って、この発熱量は前記試料S中の前記含有物質の含有量に応じて変化する。
【0039】
しかも、前記励起光Leのうち、前記試料収容空間からその外に散乱しようとする光は、当該試料収容空間を囲む励起光反射体56で内側に反射し、前記試料収容空間内に再入射される。従って、この試料収容空間内の試料Sに対する前記励起光Leの照射効率が高められる。つまり、この励起光を特に増強させなくても当該励起光による試料の光熱効果を高めることができる。
【0040】
一方、前記測定光20から試料収容部40に導入される測定光L2は、ダイクロイックミラー44で90°反射することにより、前記励起光Leと同軸で前記入射口55から前記試料収容空間内に入射される。このとき、前記光熱効果による発熱の量に応じて前記試料Sでの屈折率が変わり、該屈折率に応じて前記位相差φが変わっているので、当該発熱の量に応じて前記測定系20に戻る測定光L2とこの測定系20における前記参照光L1との干渉光強度が変わる。この干渉光強度が前記測定系20にて測定されることにより、前記試料Sの温度変化により生じる前記測定光L2の屈折率の変化が求められ、その結果、試料の含有物質の量(濃度)の分析が可能となる。
【0041】
この装置において、励起光反射体56の存在によって試料Sへの励起光Leの照射効率が高められることは、その分前記試料S中の特定物質による光熱効果が高まることを意味し、これは測定精度(感度)の向上につながる。また、図3に示されるように、前記励起光Leと同軸に前記測定光L2が試料収容空間内に入射される装置において、この試料収容空間が両光Le,L2の光軸方向と平行な方向に延びる形状を有するものでは、試料収容器50の全体の著しい大型化を伴わずに、前記試料S内での前記測定光L2の光路長が有効に増え、当該測定光L2による測定感度をさらに高めることが可能になる。
【0042】
ここで、前記励起光反射体56の配設領域は適宜設定可能である。例えば、前記励起光反射体56は、前記励起光Leの光軸方向について前記試料収容空間の一部のみを覆うものでもよい。具体的には、同方向に間欠的に配されたものでもよいし、入射口に近い側の領域のみ、あるいは試料収容空間の奥側の領域のみに設けられたものでもよい。ただし、図示のように励起光反射体56が試料収容空間の全域を覆うものであれば、前記励起光の照射効率がより高められる。
【0043】
また、前記励起光反射体56は必ずしも容器体の内側面上にあるものに限られない。例えば、前記容器体のうち前記試料収容空間に面する部分の少なくとも一部が前記励起光を透過させる透光体であり、この透光体を挟んで前記試料収容空間と反対の側に前記励起光反射体が位置するようにしてもよい。このような構成の試料収容器であれば、前記励起光反射体と前記試料収容空間内の試料とが直接接触することが阻止されるため、当該接触による不都合、例えば励起光反射体の劣化等の不都合を回避することができる。
【0044】
その例を第2の実施の形態として図4に示す。図示の試料収容器50では、前記底壁52及び前記周壁54が外側容器を構成し、その内側面に前記第1の実施の形態と同様に励起光反射体56が設けられるのに加え、この外側容器の内側に挿入される内側容器58が備えられている。
【0045】
この内側容器58は、例えば石英やPDMS(ポリジメチルシロサキン)のような透光材(特に紫外光透過性の高い材料)からなり、前記外側容器の内側にほぼ隙間なく着脱可能に挿入される外形を有している。すなわち、前記励起光反射体56の表面形状と略同等の外面形状を有している。換言すれば、前記外側容器の内側面のうち前記内側容器58に対向する面に前記励起光反射体56が設けられた状態となっている。
【0046】
前記内側容器58は、前記外側容器の内側空間よりも一回り小さい試料収容空間を囲む形状であって、その試料収容空間内に前記励起光Leを入射するための入射口55をもつ形状を有している。つまり、前記外側容器を一回り小さくした形状を有し、この外側容器と同じ向きに開口する(励起光入射側に開口する)姿勢で当該外側容器内に挿入される。
【0047】
この試料収容器50においても、その内側容器58が囲む試料収容空間内に試料Sを収容してその試料収容空間内に前記入射口55から前記励起光Le及び前記測定光L2を入射することにより、前記第1の実施の形態と同様の光熱変換測定を行うことができる。また、前記試料収容空間に入射される励起光Leのうち同空間からその外側に散乱しようとする光は、前記透光材からなる内側容器58を透過してその外側の励起光反射体56で反射され、再び前記試料収容空間内に入射されるので、前記第1の実施の形態と同様に励起光の入射効率を高めることができる。
【0048】
さらに、この試料収容器50では、前記励起光反射体56と前記試料Sとが直接接触するのを阻止しながら前記励起光Leの入射効率を高めることができる。
【0049】
また、試料Sを交換する場合には内側容器58を着脱するだけでよく、外側容器及び励起光反射体56はそのままの状態で繰返し使用することができる。従って、複数種の試料についての測定を効率よく行うことができる。また、前記内側容器58には、市販の比較的安価な透明セルを使用することも可能である。
【0050】
本発明に係る試料収容器は、その容器体が複数の試料収容空間を囲むものであってもよい。また、その容器体の一部が導光機能を有するものであってもよい。その例を第3の実施の形態として図5(a)(b)に示す。
【0051】
同図に示される試料収容器60の容器体は、本体板62と、左右一対のプリズム63,64と、蓋板65とで構成されている。
【0052】
前記本体板62の上面には、複数本の試料収容空間形成用の溝62aが形成されている。前記各溝62aは、例えば正方形または矩形の断面形状を有し、前記本体板62の左端から右端に至るまで延び、これらの溝62aが互いに平行な姿勢で前後方向(図5(a)では上下方向)に配列されている。そして、これらの溝62aを上から覆うように前記蓋板65が前記本体板62の上に重ね合わされる。
【0053】
さらに、前記各溝62aの内側面及び前記蓋板65の下面はそれぞれ励起光反射体66によりコーティングされ、この励起光反射体66が前記各溝62に対応する試料収容空間をその軸方向と直交する方向から囲む配置となっている。
【0054】
前記プリズム63,64は、前記各溝62aに対応する試料収容空間(すなわち前記本体板62と前記蓋板65とにより囲まれる試料収容空間)の左右両端を塞ぐようにこれら本体板62及び蓋板65の左右端面に接合される。具体的に、前記各プリズム63,64は二等辺三角形状の断面を有し、その等辺のうちの一方の等辺に相当する面(水平面)が前記蓋板65の上面と面一となる高さ位置で、その他方の等辺に相当する面(垂直面)が前記両板62,65の端面に接合されている。
【0055】
さらに、前記各プリズム63,64において、前記二等辺三角形の斜辺に相当する斜面はそれぞれ測定光反射膜63a,64aによりコーティングされている。これらの測定光反射膜63a,64aは、前記励起光Leは透過させて前記測定光L2のみを反射させるもので、例えば誘電多層膜が好適である。この誘電多層膜としては、例えば前記測定光L2がHe−Neレーザの場合、金属酸化膜の多層膜等が好適である。
【0056】
この試料収容器60は、その各試料収容空間の軸方向が前記励起系10からの励起光Leの光軸と平行となる姿勢で、かつ、その励起系10側に前記プリズム64が向く向きで、試料収容部40に設置される。また、測定系20は、前記試料収容器60に対してそのプリズム63の上面に測定光L2を入射する。そして、この測定光L2が前記プリズム63の測定光反射膜63aで反射することにより前記各試料収容空間内にその軸方向(長手方向)に沿って入射され、かつ、これらの試料収容空間から出た測定光L2が前記プリズム64の測定光反射膜64aで反射して前記測定系20に戻されるように、前記測定光L2の入射位置が設定されている。
【0057】
この構成においても、前記励起系10から試料収容部40に導入される励起光Leが集光レンズ42で集光され、プリズム64を通じて前記各試料収容空間内の試料Sに入射され、この試料Sの光熱効果を引き起こす。この励起光Leのうち前記各試料収容空間から外に散乱しようとする光は、前記本体板62及び蓋板65の表面に形成された励起光反射体66で反射する。すなわち、前記試料収容空間内に再入射される。
【0058】
その一方、前記測定系20から前記プリズム63の上面に入射される測定光L2は、プリズム63の測定光反射膜63aで反射して前記各試料収容空間内に入射され、これらの試料収容空間を抜けた後に前記プリズム64の測定光反射体64aで上向きに反射して前記測定系20に戻される。
【0059】
この構成によれば、単一の試料収容器60で複数の試料Sについての光熱変換測定を同時に行うことができる。また、試料収容器60自身がその試料収容空間内に測定光を導く導光手段(プリズム63,64)を有するため、同試料収容器60の周囲の光学系の構成を簡素化することができる。
【0060】
また、第4の実施の形態として図6に示すように、前記第3の実施の形態に係る試料収容器60のプリズム64の垂直面(すなわち本体板62及び蓋板65に対向する面)が測定光反射膜62bでコーティングされたものでは、前記試料収容空間を通る測定光L2が前記測定光反射膜62bで反射して前記試料収容空間を再透過するために、この測定光L2の前記試料収容空間内での光路長が倍増する。
【0061】
第5の実施の形態を図7に示す。ここに示す試料収容器には透明で細長いガラス管(例えばキャピラリガラス管)68が使用され、その内側空間が試料収容空間として利用される。ただし、このガラス管68は、その軸長に比して内径が微小な形状を有しており(例えば軸長が1〜2mで内径が0.1〜0.2mm)、当該ガラス管68の内側面に励起光反射体のコーティング(例えば蒸着による成膜)をすることが困難である。そこで、この実施の形態では、前記ガラス管68の外周面に鏡面コートが施されることにより、当該外周面上に励起光反射体66が形成されている。
【0062】
このキャピラリガラス管68においても、その内側空間に収容される試料Sに対して当該ガラス管68の軸方向に沿って励起光及び測定光が同軸に入射されることにより、精度の高い光熱変換測定が効率良く行われる。すなわち、前記励起光のうち前記内側空間から管本体を通じて前記励起光反射体66に至る光が同反射体66で前記内側空間側に反射する(すなわち同空間内に再入射される)ため、この励起光の入射効率が高められる。また、試料収容器全体の大型化を避けながら前記内側空間内での測定光の光路長を大きくすることができる。
【実施例1】
【0063】
前記図3に示す試料収容器50において、その底壁52及び周壁54を石英で構成し、その表面を前記励起光反射体56に相当するアルミニウム薄膜でコーティングする。周壁54の軸長Zは1.5cm(従って測定光の光路長は3cm)とし、内径(すなわち試料収容空間の直径)は5mmとする。
【0064】
その試料収容空間内に試料Sとして色素水溶液を入れる。この試料Sに対してLEDまたは水銀ランプから発せられた励起光を入射するとともに、これと同軸にHe−Ne−レーザ(波長633mm)からなる測定光を入射する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光熱変換測定装置の全体構成図である。
【図2】(a)(b)は前記光熱変換測定装置における試料収容部の例を示す図である。
【図3】前記試料収容部に設置される試料収容器の断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る試料収容器の断面図である。
【図5】(a)は本発明の第3の実施の形態に係る試料収容器の一部平面図、(b)は(a)の4B−4B線断面図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係る試料収容器の断面図である。
【図7】本発明の第5の実施の形態に係る試料収容器の断面図である。
【符号の説明】
【0066】
L1 偏光(参照光)
L2 偏光(励起光)
Le 励起光
S 試料
10 励起系
20 測定系
40 試料収容部
50 試料収容器
52 底壁(容器体)
54 周壁(容器体)
55 入射口
56 励起光反射体
58 内側容器
60 試料収容器
62 本体板(容器体)
63 プリズム(容器体)
64 プリズム(容器体)
65 蓋板(容器体)
66 励起光反射体
68 キャピラリガラス管(容器体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に励起光を入射してその光熱効果による前記試料の発熱量を測定する光熱変換測定装置に用いられる試料収容器であって、
前記試料を収容するための試料収容空間を囲み、かつ、この試料収容空間内に前記励起光を入射するための入射口を有する容器体と、
前記試料収容空間をこの試料収容空間内での前記励起光の光軸方向と略直交する方向から囲み、当該試料収容空間から到来する励起光をこの試料収容空間側に反射させる励起光反射体とを備えることを特徴とする試料収容器。
【請求項2】
請求項1記載の試料収容器において、
前記励起光反射体は前記試料収容空間内での前記励起光の光軸方向について前記試料収容空間の全域を覆うものであることを特徴とする試料収容器。
【請求項3】
請求項1または2記載の試料収容器において、
前記励起光反射体は前記試料収容空間を囲む前記容器体の内側面上にあることを特徴とする試料収容器。
【請求項4】
請求項1または2記載の試料収容器において、
前記容器体のうち前記試料収容空間に面する部分の少なくとも一部が前記励起光を透過させる透光体であり、この透光体を挟んで前記試料収容空間と反対の側に前記励起光反射体が位置することを特徴とする試料収容器。
【請求項5】
請求項4記載の試料収容器において、
前記容器体が、前記透光体を含みかつ前記試料収容空間を囲む内側容器と、この内側容器の外側に位置する外側容器とを備え、この外側容器の内側に前記内側容器が着脱可能に挿入されるとともに、当該外側容器の内側面のうち前記内側容器の前記透光体に対向する面に前記励起光反射体が設けられていることを特徴とする試料収容器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の試料収容器において、
前記試料収容空間が同空間内に入射される励起光の光軸方向と平行な方向に延びる形状を有することを特徴とする試料収容器。
【請求項7】
試料に励起光を入射してその光熱効果による前記試料の発熱量を測定する光熱変換測定装置であって、
前記試料を収容する請求項1〜6のいずれかに記載の試料収容器と、
この試料収容器の試料収容空間内に収容される試料に対して当該試料収容器の入射口から前記励起光を入射する励起光入射光学系と、
前記試料に前記励起光とは別の測定光を透過させてこの透過した測定光の位相変化を測定する測定装置とを備えることを特徴とする光熱変換測定装置。
【請求項8】
試料に励起光を入射してその光熱効果による前記試料の発熱量を測定する光熱変換測定装置であって、
前記試料を収容する請求項6記載の試料収容器と、
この試料収容器の試料収容空間内に収容される試料に対して当該試料収容器の入射口から前記励起光を入射する励起光入射光学系と、
前記試料に前記励起光とは別の測定光を透過させてこの透過した測定光の位相変化を測定する測定装置とを備え、
前記励起光入射光学系及び前記測定装置は、前記励起光及び前記測定光を前記試料収容空間内の試料に対してその試料収容空間の長手方向に沿う方向に同軸で入射することを特徴とする光熱変換測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−303912(P2007−303912A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131315(P2006−131315)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】