説明

光硬化型プリプレグ

【課題】簡便な脱泡作業で確実に密着性を確保することが可能な光硬化型プリプレグを提供する。
【解決手段】光重合開始剤を含む樹脂R1、R2を繊維質基材G1、G2に含浸させてシート状に形成され、特定波長の光を照射することによって硬化する光硬化型プリプレグPにおいて、それぞれ樹脂R1、R2を繊維質基材G1、G2に含浸させて一体に積層した上層部1と下層部2を備えてなり、上層部1は、樹脂R1に少なくとも2種の光重合開始剤を含み、少なくとも1種の光重合開始剤を感光させる第1の特定波長の光を照射することによって一部の樹脂R1が予備重合して硬化し、下層部2は、第1の特定波長の光に感光しない光重合開始剤のみを含む樹脂R2を備えて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって硬化する樹脂を繊維質基材に含浸させてシート状に形成した光硬化型プリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル、橋梁、下水道施設などのコンクリート構造物の表面に、光重合開始剤を含む樹脂を例えばガラスクロスやガラスマットなどの繊維質基材に含浸させてシート状に形成した光硬化型プリプレグを貼り付けて、補修、補強、コンクリート片剥落防止対策やコンクリート防食対策を施すことが行なわれている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
この種の光硬化型プリプレグは、例えば、2種の光重合開始剤を混入した樹脂を繊維質基材に含浸させ、未硬化状態(Aステージ状態)の樹脂と繊維質基材をPET(polyethylene terephthalate)フィルムなどの透明フィルムで挟んで形成される。また、工場で、予め特定波長の紫外線もしくは可視光(第1の特定波長の光)を照射し、1種の光重合開始剤のみを感光させることによって一部の樹脂の硬化を進め、全体が増粘化した状態(不完全硬化状態、Bステージ状態)で形成される。このように光硬化型プリプレグをBステージ化することによって、未硬化の樹脂を備えつつ樹脂の液だれを防止することができ、保存性と運搬性を向上させることができる。
【0004】
また、現場に搬入したBステージ状態の光硬化型プリプレグをコンクリート表面に貼り付ける際には、透明フィルムを剥がして取り除き、コンクリート表面と光硬化型プリプレグの間に空気が残らないように、すなわち未硬化の樹脂を備えて柔軟性を有する光硬化型プリプレグが確実にコンクリート表面に密着するように、ヘラ等で空気を追い出しながら貼り付ける。そして、残りの1種の光重合開始剤が感光する特定波長の光(第2の特定波長の光)を照射し未硬化の樹脂を完全に硬化させることによって、光硬化型プリプレグの設置が完了する。
【特許文献1】特許第3479202号公報
【特許文献2】特開昭63−186744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の光硬化型プリプレグにおいては、貼り付け前の光硬化型プリプレグの全体がBステージ化されているため、すなわち全体の樹脂が増粘化されているため、保存性や運搬性に優れる反面、剛性が大きくなって、厚さが大きな光硬化型プリプレグを用いるほど、貼り付け時に空気を追い出す脱泡作業に多大な労力を要し、コンクリート表面との密着性を十分に確保できなくなる場合があった。また、コンクリート表面に僅かな凹凸が存在するような場合でも、コンクリート表面と光硬化型プリプレグの間に空気が残りやすく、密着性が確保できないおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑み、簡便な脱泡作業で確実に密着性を確保することが可能な光硬化型プリプレグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0008】
本発明の光硬化型プリプレグは、光重合開始剤を含む樹脂を繊維質基材に含浸させてシート状に形成され、特定波長の光を照射することによって硬化する光硬化型プリプレグにおいて、それぞれ前記樹脂を前記繊維質基材に含浸させて一体に積層した上層部と下層部を備えてなり、前記上層部は、前記樹脂に少なくとも2種の光重合開始剤を含み、少なくとも1種の光重合開始剤を感光させる第1の特定波長の光を照射することによって一部の樹脂が予備重合して硬化し、前記下層部は、前記第1の特定波長の光に感光しない光重合開始剤のみを含む樹脂を備えて形成されており、前記第1の特定波長の光と異なる波長領域の第2の特定波長の光を照射することによって、前記上層部の他の光重合開始剤及び前記下層部の光重合開始剤が感光して完全に硬化するように形成されていることを特徴とする。
【0009】
この発明においては、例えば工場などで第1の特定波長の光を照射することにより、上層部が、その一部の樹脂が硬化してBステージ化(増粘化)するのに対し、下層部の樹脂をAステージ状態(未硬化状態)で保持することができる。そして、このような状態の光硬化型プリプレグを透明フィルムで挟んで形成し、現場に搬入した段階で透明フィルムを剥がして取り除くとともに、Aステージ状態の下層部を例えばコンクリート構造物の表面に貼り付ける、すなわち全く硬化していない樹脂をコンクリート構造物の表面に接着させることができるため、従来のBステージ化した樹脂を貼り付ける場合と比較して、簡便な脱泡作業で空気を追い出し、確実に密着させることができる。
【0010】
また、本発明の光硬化型プリプレグにおいては、少なくとも前記下層部の繊維質基材がクロスまたはマットであることが望ましい。
【0011】
この発明においては、面外への変形が小さく、含浸した樹脂の保持能力が高い例えばガラス製や有機繊維製のクロスまたはマットを繊維質基材として用いることによって、例えば複数の光硬化型プリプレグを重ねて梱包して運搬するような場合においても、下方に配された光硬化型プリプレグの上載荷重による変形が生じにくく、下層部の硬化していない樹脂が繊維質基材から漏れ出し、液だれが生じることを防止できる。また、このようなガラス製や有機繊維製の繊維質基材を用いることで、光硬化型プリプレグの透明性を確保することが可能になり、第1及び第2の特定波長の光を透過させて、上層部及び下層部の樹脂を確実に硬化させることが可能になる。
【0012】
さらに、本発明の光硬化型プリプレグにおいては、前記下層部の少なくとも幅方向両端部には、前記樹脂に前記第1の特定波長の光に感光する光重合開始剤が含まれてなる予備重合部が設けられており、該予備重合部は、前記幅方向中央側の前記第1の特定波長の光を照射した段階で硬化しない樹脂の前記幅方向外側への流動を規制するように形成されていることがより望ましい。
【0013】
この発明においては、上層部をBステージ化するように第1の特定波長の光を照射するとともに、下層部の幅方向両端部側に設けた予備重合部をBステージ化することができる。これにより、下層部の第1の特定波長の光で硬化しない樹脂の幅方向外側への流動を予備重合部によって規制することができ、Aステージ状態の樹脂を備えた場合においても、樹脂の液だれが生じることを確実に防止できる。
【0014】
また、本発明の光硬化型プリプレグにおいては、前記予備重合部が前記下層部の両端部の間にも前記幅方向に間隔をあけて設けられていることがさらに望ましい。
【0015】
この発明においては、下層部の幅方向両端部に加えて、これら両端部の間にも予備重合部が設けられているため、幅方向に隣り合う予備重合部によって、Aステージ状態の樹脂の外側への流動をさらに確実に規制することができ、より確実に樹脂の液だれが生じることを防止できる。
【0016】
さらに、本発明の光硬化型プリプレグにおいては、前記上層部と前記下層部の間にネット部材が介装されていることが望ましい。
【0017】
この発明においては、例えば金属製や繊維製のネット部材を介装することによって光硬化型プリプレグの変形を抑えることができ、Aステージ状態の樹脂を備えた場合においても、光硬化型プリプレグの変形よって液だれが生じることを防止できる。なお、このように光硬化型プリプレグの剛性を大きくするネット部材を備えた場合においても、Aステージ状態の樹脂を備えることによって、コンクリート構造物などの表面への密着性が確保できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光硬化型プリプレグによれば、下層部にAステージ状態の樹脂を備えた状態で貼り付け作業を行なうことができるため、従来のBステージ化した樹脂を貼り付ける場合と比較して、簡便な脱泡作業で確実に密着性を確保することができ、好適に光硬化型プリプレグを設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図1から図3を参照し、本発明の第1実施形態に係る光硬化型プリプレグについて説明する。本実施形態は、トンネル、橋梁、下水道施設などのコンクリート構造物の補修、補強、コンクリート片剥落防止対策やコンクリート防食対策、さらに、管渠・水路などの流量増大のために施されるコンクリート表面の粗度係数の低減対策などに用いられる光硬化型プリプレグに関するものである。
【0020】
本実施形態の光硬化型プリプレグPは、図1及び図2に示すように、それぞれ、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂などの樹脂R1、R2をガラスクロス(ガラス製のクロス)の繊維質基材G1、G2に含浸させて形成される上層部1と下層部2を、上下に一体に積層してシート状且つ平面視方形状に形成されている。
【0021】
また、本実施形態において、上層部1の繊維質基材G1に含浸させる樹脂R1は、モノマー、オリゴマー、安定剤などの添加剤等とともに、2種の光重合開始剤を含んで構成され、下層部2の樹脂R2は、上層部1の樹脂R1に対し、1種の光重合開始剤を含んで構成されている。さらに、この光硬化型プリプレグPは、両面、すなわち上層部1の上面1aと下層部2の下面2aに、光硬化型プリプレグPを挟むように例えばPETフィルムなどの透明フィルム3、4が取り外し可能に接着されている。
【0022】
また、本実施形態の光硬化型プリプレグPは、例えば波長領域が500nm以上の第1の特定波長の光と、波長領域が380nm〜450nmの第2の特定波長の光をそれぞれ照射することで硬化するものである。すなわち、第1の特定波長の光を照射した際には、上層部1の1種の光重合開始剤が感光して反応しこの上層部1の一部の樹脂R1が予備重合して硬化する。これにより、第1の特定波長の光の照射によって、上層部1がBステージ化する。また、このとき、下層部2の樹脂R2は、この樹脂R2に含まれる1種の光重合開始剤が第1の特定波長の光に感光せず、未硬化状態のAステージ状態で保持される。
【0023】
そして、さらに第2の特定波長の光を照射することによって、上層部1の残りの1種の光重合開始剤(他の光重合開始剤)及び下層部2の1種の光重合開始剤が感光して、上層部1の未硬化の樹脂R1及び下層部2の樹脂R2をそれぞれ重合連鎖させて硬化させる。このように、本実施形態の光硬化型プリプレグPは、異なる2つの特定波長の光を2段階で照射することによって完全に硬化するように形成されている。
【0024】
上記のように構成した光硬化型プリプレグPの製造は、図3に示すように、工場にて、上層部1と下層部2のそれぞれの繊維質基材G1、G2を巻き回した一対のロール5、6から両繊維質基材G1、G2を引き出すとともに、上層部1の繊維質基材G1を、樹脂槽7に貯留した2種の光重合開始剤を含む樹脂R1に浸漬通過させ、また、下層部2の繊維質基材G2を、樹脂槽8に貯留した1種の光重合開始剤を含む樹脂R2に浸漬通過させて、それぞれの繊維質基材G1、G2に樹脂R1、R2を含浸させる。また、このとき、上層部1の上面1aの外側及び下層部2の下面2aの外側に、PETフィルムなどの透明フィルム3、4を巻き回した一対のロール9、10からそれぞれ透明フィルム3、4が引き出される。そして、上下一対の転圧ローラー11の間に上層部1と下層部2及び一対の透明フィルム3、4を通過させて、上層部1と下層部2を一体に積層するとともに、これらを挟むように上層部1の上面1aと下層部2の下面2aにそれぞれ透明フィルム3、4を接着する。
【0025】
そして、上層部1及び下層部2の樹脂R1、R2が未硬化状態(Aステージ状態)の光硬化型プリプレグPを、第1の特定波長の光を出射するランプ12aを備えたライトユニット12に通過させる。このとき、第1の特定波長の光が光硬化型プリプレグP全体に照射され、これにより、上層部1の一部の樹脂R1が重合連鎖(予備重合)して硬化し、上層部1が不完全硬化状態のBステージ化する。なお、本実施形態では、繊維質基材G1、G2にガラスクロスを用いているため、光硬化型プリプレグPの透明性が確保され、照射した第1の特定波長の光が確実に上層部1及び下層部2(光硬化型プリプレグP)を透過し、上層部1が均質にBステージ化する。そして、このように上層部1のみがBステージ化した光硬化型プリプレグPは、カッター13などで裁断され所定の長さ及び幅寸法に形成される。
【0026】
ついで、上記のように製造された光硬化型プリプレグPをコンクリート構造物の表面(コンクリート表面)に貼り付けて設置する方法を説明するとともに、本実施形態の光硬化型プリプレグPの作用及び効果について説明する。
【0027】
上記のように予め上層部1のみをBステージ化した光硬化型プリプレグPを現場に搬入する。このとき、例えば、工場で所定の形状に形成した複数の光硬化型プリプレグPを重ねて梱包し、この状態で光硬化型プリプレグPが現場に搬入される。このため、本実施形態のように、下層部2の樹脂R2がAステージ状態である場合には、運搬時に、下方に配された光硬化型プリプレグPが上載荷重によって変形し、樹脂R2が繊維質基材G2の端部側から外側に漏れ出し、液だれが生じるおそれがある。しかしながら、本実施形態では、繊維質基材G2として、面外への変形が小さく、含浸した樹脂R2の保持能力が高いガラスクロスを用いているため、上載荷重による変形が抑制され、下層部2の硬化していない樹脂R2による液だれが防止される。
【0028】
このように現場に搬入した光硬化型プリプレグPをコンクリート表面に貼り付ける際には、はじめに、下層部2の下面2aに接着した透明フィルム4を剥がして取り除く。そして、不陸修正を行いプライマー及び下塗り材を塗布したコンクリート表面に、Aステージ状態の下層部2側を貼り付けて、光硬化型プリプレグPを所定位置に設置する。ここで、作業者が、上層部1の上面1a側(光硬化型プリプレグPの上面1a側)に例えばヘラを当接させて押圧し、且つ光硬化型プリプレグPの中央側から端部側にヘラを摺動させることによって、コンクリート表面と光硬化型プリプレグPの間に入った空気を端部から外に追い出す。すなわち脱泡作業を行なう。このとき、従来の全体がBステージ化した光硬化型プリプレグでは、剛性が大きく、且つコンクリート表面に接着する下面が増粘化されていることで、厚さが大きな光硬化型プリプレグを用いるほど、脱泡作業に多大な労力を要し、コンクリート表面との密着性を十分に確保できない場合があった。
【0029】
これに対し、本実施形態の光硬化型プリプレグPにおいては、コンクリート表面に貼り付ける下層部2の樹脂R2がAステージ状態で粘性が低いため、作業者がヘラを摺動するとともに、容易に空気を外側に追い出すことができ、また、樹脂R2がコンクリート表面になじみ易いことから、簡便に且つ確実に光硬化型プリプレグPがコンクリート表面に密着する。特に、コンクリート表面に僅かな凹凸が存在するような場合においても、Aステージ状態の樹脂R2が脱泡作業とともに凹凸部に入り込み、光硬化型プリプレグPが確実に密着する。
【0030】
そして、上記のように脱泡作業を終えた段階で、例えば第2の特定波長の光を出射するランプをシート状の光硬化型プリプレグPの略中央に対向配置し、このランプから第2の特定波長の光を光硬化型プリプレグPの全体に照射する。このとき、繊維質基材G1、G2にガラスクロスを用いているため、光硬化型プリプレグPの透明性が確保され、照射した第2の特定波長の光が確実に上層部1及び下層部2を透過する。これにより、第2の特定波長の光によって、上層部1の残りの1種の光重合開始剤及び下層部2の1種の光重合開始剤が感光し、未硬化の上層部1及び下層部2の樹脂R1、R2が重合連鎖して硬化する。そして、光硬化型プリプレグPが、確実にコンクリート表面に密着した状態で硬化して設置される。
【0031】
したがって、本実施形態の光硬化型プリプレグPにおいては、工場で第1の特定波長の光を照射して、上層部1のみをBステージ化(増粘化)し、全く硬化していない樹脂R2を備えた下層部2をコンクリート構造物の表面に接着するように構成することで、従来の全体がBステージ化した光硬化型プリプレグを貼り付ける場合と比較して、簡便な脱泡作業で空気を追い出すことができ、確実に密着させることができる。
【0032】
また、面外への変形が小さく、含浸した樹脂R2の保持能力が高いガラスクロスを繊維質基材G2として用いることで、光硬化型プリプレグPに外力が作用した場合においても変形が生じにくく、下層部2の硬化していない樹脂Rが漏れ出し、液だれが生じることを防止できる。さらに、ガラスクロスを用いることで、光硬化型プリプレグPの透明性を損なうことがなく、確実に第1及び第2の特定波長の光を透過させて、上層部1及び下層部2の樹脂R1、R2を確実に硬化させることができる。
【0033】
よって、本実施形態の光硬化型プリプレグPによれば、簡便な脱泡作業で確実に密着性を確保することができ、好適に光硬化型プリプレグPを設置することが可能になる。
【0034】
以上、本発明に係る光硬化型プリプレグの第1実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、上層部1の樹脂R1に、第1の特定波長の光と第2の特定波長の光にそれぞれ感光する2種の光重合開始剤が含まれているものとしたが、上層部1の樹脂R1は、第1の特定波長の光によって一部の樹脂R1が予備重合し、第2の特定波長の光によって完全に硬化するように構成されていれば、3種以上の光重合開始剤を含んで構成されてもよい。
【0035】
また、本実施形態では、第1の特定波長の光を例えば波長領域が500nm以上の光とし、第2の特定波長の光を波長領域が380nm〜450nmの光であるものとしたが、第1と第2の特定波長の光は、異なる波長領域の光とし、それぞれの光を照射することによって、本実施形態のように上層部1を予備重合させたり、上層部1及び下層部2を完全に硬化させることが可能であれば、特に波長領域を限定する必要はない。
【0036】
さらに、本実施形態では、繊維質基材G1、G2がガラス繊維を布状に織って形成したガラスクロスであるものとしたが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維)、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アミド繊維、金属繊維、セラミック繊維などの有機質または無機質の繊維を、織布もしくは不織布として形成したクロスあるいはマットであればよい。さらに、これらの繊維を2種類以上組み合わせて形成してもよい。そして、このような繊維を用いて繊維質基材G1、G2を形成することによって、ガラスクロスを用いた本実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0037】
また、本実施形態では、光硬化型プリプレグPが樹脂R1、R2及び繊維質基材G1、G2からなる上層部1と下層部2を一体に積層して構成されているものとしたが、例えば図4に示すように、上層部1と下層部2の間に、樹脂R3と例えば金属製もしくは繊維製のネット部材14を備えた中間層15を設け、ネット部材14を介装して構成してもよい。この場合には、ネット部材14によって光硬化型プリプレグPの変形をより効果的に抑制することができるため、Aステージ状態の下層部2の樹脂R2の液だれの発生をより確実に防止できる。ここで、このようなネット部材14を金属製とする場合には、鋼製やステンレス製の金網などを適用し、繊維製とする場合には、例えばビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維などの有機繊維または無機繊維の2軸メッシュなどを適用することで、上記効果を確実に得ることができる。また、2軸メッシュとは、通常のクロスと異なり、一辺の長さ(目合)が5mm以上の方形の網目を備えるように、繊維を用いてメッシュ状に形成したものであり、本発明では、目合を10〜20mm以上として形成することがより好ましい。なお、このような光硬化型プリプレグPの剛性を大きくするネット部材14を備えた場合においても、Aステージ状態の樹脂R2を備えることによって、コンクリート構造物などの表面への密着性を確保することが可能である。
【0038】
また、上層部1と下層部2がそれぞれ樹脂R1、R2を繊維質基材G1、G2に含浸させた1層ずつで形成されているものとしたが、例えば上層部1は、それぞれ樹脂R1を繊維質基材G1に含浸させた複数の層を一体に積層して形成されてもよい。
【0039】
さらに、上層部1と下層部2の繊維質基材G1、G2が共にガラス製のクロスであるものとしたが、前述のように例えばガラス製のマットなど他の繊維質基材を用いてもよく、また、上層部1と下層部2を、それぞれ異なる繊維質基材を用いて形成してもよい。
【0040】
また、本実施形態では、光硬化型プリプレグPが平面視矩形状に形成されているものとしたが、特に光硬化型プリプレグPの平面視形状を限定する必要はない。
【0041】
ついで、図5から図7を参照し、本発明の第2実施形態に係る光硬化型プリプレグについて説明する。本実施形態は、第1実施形態と同様、トンネル、橋梁、下水道施設などの補修、補強、コンクリート防食対策などに用いられる光硬化型プリプレグに関するものであり、上層部と下層部を一体に積層して構成される。よって、ここでは、第1実施形態に共通する構成に対して同一符号を付し、その詳細についての説明を省略する。
【0042】
本実施形態は、第1実施形態と異なり、図5及び図6に示すように、下層部2の繊維質基材G2の幅d1方向両端部2bに、第2の特定波長の光に感光する光重合開始剤とともに第1の特定波長の光に感光する光重合開始剤を含む樹脂R1’、すなわち上層部1と同様の2種の光重合開始剤を含む樹脂R1’が含浸されて、予備重合部20が形成されている。本実施形態において、この一対の予備重合部20は、それぞれ、下層部2の端部2bに沿って設けられ、すなわち光硬化型プリプレグPの幅d1方向に直交する長さd2方向に延びて設けられている。
【0043】
そして、このように構成される本実施形態の光硬化型プリプレグPは、図3に示した第1実施形態の光硬化型プリプレグPの製造方法に対し、例えば図7に示すように、下層部2の繊維質基材G2をロール6から引き出して樹脂R2、R1’を含浸させる際に、繊維質基材G2の両端部2b側にそれぞれ配された一対のノズル21から2種の光重合開始剤を含む樹脂R1’を噴出させて含浸させ、これら一対のノズル21の間に配された他のノズル22から1種の光重合開始剤を含む樹脂R2を噴出させて含浸させて形成される。これにより、下層部2の両端部2b側にのみ2種の光重合開始剤を含む樹脂R1’からなる予備重合部20が形成され、下層部2の両予備重合部20の間に、第1の特定波長の光に感光しない1種の光重合開始剤を含む樹脂R2が含浸される。
【0044】
そして、第1実施形態で示した図3と同様、上下一対の転圧ローラー11の間に、上層部1と下層部2及び透明フィルム3、4を通過させ、上層部1と下層部2を一体に積層するとともに、これらを挟むように、透明フィルム3、4を密着させる。さらに、未硬化状態(Aステージ状態)の光硬化型プリプレグPをライトユニット12に通過させ、上層部1の1種の光重合開始剤及び下層部2の予備重合部20の1種の光重合開始剤を感光させる。これにより、上層部1の一部の樹脂R1と下層部2の予備重合部20の一部の樹脂R1’が重合連鎖(予備重合)して硬化し、上層部1と下層部2の両端部2b側とが、不完全硬化状態のBステージ化される。
【0045】
このように下層部2の両端部2b側(予備重合部20)がBステージ化することにより、下層部2の幅d1方向中央側のAステージ状態の樹脂R2が、予備重合部20及び下層部2の下面2aに接着した透明フィルム4によって囲繞される。このため、Aステージ状態の樹脂R2は、幅d1方向外側への流動が予備重合部20によって規制され、且つ下層部2の下面2aから外側(下方)への流動が透明フィルム4によって規制されて保持される。これにより、例えば、工場で製造した複数の光硬化型プリプレグPを重ねて梱包し、この状態で現場に運搬する場合においても、上載荷重によって光硬化型プリプレグPの下層部2のAステージ状態の樹脂R2が外部に漏れて液だれが発生することを確実に防止できる。
【0046】
したがって、本実施形態の光硬化型プリプレグPによれば、下層部2にAステージ状態の樹脂R2を備えているため、第1実施形態と同様にコンクリート表面への設置時の脱泡作業を容易に行なうことができる。また、上層部1をBステージ状態、下層部2をAステージ状態で形成した場合においても、下層部2の幅d1方向両端部2bにBステージ化した予備重合部20を備えることで、Aステージ状態の樹脂R2の液だれを確実に防止できる。
【0047】
なお、本発明に係る光硬化型プリプレグの第2実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、第1実施形態に示した変更例を含め、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、下層部2の両端部2bにのみ予備重合部20を設けるものとしたが、予備重合部20は、例えば図8に示すように、下層部2の幅d1方向両端部2bとともに、下層部2の中央側に幅d1方向に間隔をあけて設けられてもよい。この場合には、幅d1方向に隣り合う予備重合部20によって、Aステージ状態の樹脂R2が幅d1方向に複数に区画されて外側への流動が規制されるため、本実施形態と比較してAステージ状態の樹脂R2をさらに確実に保持することができ、より確実に樹脂R2の液だれを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光硬化型プリプレグを示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る光硬化型プリプレグを示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る光硬化型プリプレグの製造方法の一例を説明するために用いた図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る光硬化型プリプレグの変形例として示した断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る光硬化型プリプレグを示す平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る光硬化型プリプレグを示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る光硬化型プリプレグの製造方法の一例を説明するために用いた図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る光硬化型プリプレグの変形例として示した断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 上層部
1a 上面
2 下層部
2a 下面
2b 端部
3 透明フィルム
4 透明フィルム
14 ネット部材
15 中間層
20 予備重合部
P 光硬化型プリプレグ
d1 幅
d2 長さ
G1 上層部の繊維質基材
G2 下層部の繊維質基材
R1 上層部の樹脂
R1’ 予備重合部の樹脂
R2 下層部の樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合開始剤を含む樹脂を繊維質基材に含浸させてシート状に形成され、特定波長の光を照射することによって硬化する光硬化型プリプレグにおいて、
それぞれ前記樹脂を前記繊維質基材に含浸させて一体に積層した上層部と下層部を備えてなり、
前記上層部は、前記樹脂に少なくとも2種の光重合開始剤を含み、少なくとも1種の光重合開始剤を感光させる第1の特定波長の光を照射することによって一部の樹脂が予備重合して硬化し、
前記下層部は、前記第1の特定波長の光に感光しない光重合開始剤のみを含む樹脂を備えて形成されており、
前記第1の特定波長の光と異なる波長領域の第2の特定波長の光を照射することによって、前記上層部の他の光重合開始剤及び前記下層部の光重合開始剤が感光して完全に硬化するように形成されていることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項2】
請求項1記載の光硬化型プリプレグにおいて、
少なくとも前記下層部の繊維質基材がクロスまたはマットであることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光硬化型プリプレグにおいて、
前記下層部の少なくとも幅方向両端部には、前記樹脂に前記第1の特定波長の光に感光する光重合開始剤が含まれてなる予備重合部が設けられており、
該予備重合部は、前記幅方向中央側の前記第1の特定波長の光を照射した段階で硬化しない樹脂の前記幅方向外側への流動を規制するように形成されていることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項4】
請求項3記載の光硬化型プリプレグにおいて、
前記予備重合部が前記下層部の両端部の間にも前記幅方向に間隔をあけて設けられていることを特徴とする光硬化型プリプレグ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の光硬化型プリプレグにおいて、
前記上層部と前記下層部の間にネット部材が介装されていることを特徴とする光硬化型プリプレグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−195745(P2008−195745A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29117(P2007−29117)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】