説明

光硬化性樹脂の微細加工方法及び装置

【課題】走査型シェアフォース顕微鏡とマイクロピペットプローブを利用した光硬化性樹脂の新しい微細加工方法及び装置を提供することにある。
【解決手段】先端が開口した中空のマイクロピペットプローブ12を備えた走査型シェアフォース顕微鏡を用い、マイクロピペットプローブ12の内部に液状の光硬化性樹脂を充填し、マイクロピペットプローブ12の先端を透明な基板18の表面上の所定の位置に接触させ、透明な基板18の表面上に液状の光硬化性樹脂を所定の量だけ滴下させ、この滴下した光硬化性樹脂液の部分に励起用レーザ光54を照射して滴下した光硬化性樹脂液の部分を硬化させることで、透明な基板18の表面上に光硬化性樹脂の堆積物を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型シェアフォース顕微鏡を用いた微細加工方法及び装置に関するもので
あり、特に、光硬化性樹脂の微細加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡は,微細なプローブを用いてその先端と試料表面の間に働く様々
な物理量を検出して,ナノスケールでの高い分解能で前記物理量の表面分布を画像化でき
る顕微鏡である。この走査型プローブ顕微鏡は,試料表面の観察だけではなくて、表面の微細加工ツールとしても知られている。走査型プローブ顕微鏡を用いた微細表面加工技術は比較的低コストでシンプルであり、原子スケールからマイクロスケールまで高い加工精度を有しており、次世代の微細表面加工技術として期待されている。
【0003】
このような微細表面加工技術としては、例えば、下記の非特許文献1に記載されている。下記の非特許文献1は、走査型プローブ顕微鏡の一種である走査型シェアフォース顕微鏡のプローブとして,マイクロピペットプローブを採用している。そして,このマイクロピペットの内部に,試料加工用の試薬溶液(1,4−ジオキサン)を充填して,この試薬を被加工物であるポリカーボネート基板に近接させて,試薬の蒸気により基板を加工している。
【非特許文献1】F. Iwata, et al., “Submicrometer−scale fabrication of polycarbonate surface using a scanning micropipette probe microscope”, Nanotechnology 15 (2004) p.422−426
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来技術では、液体状態の光硬化性樹脂を基板の表面上の所定の位置に滴下し、この滴下した光硬化性樹脂液の部分を樹脂状態に硬化させることで、基板の表面上に微少量の樹脂を堆積させることが出来なかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、走査型シェアフォース顕微鏡とマイクロピペットプローブの組み合わせを用いて,液体状態の光硬化性樹脂をマイクロピペットプローブ内に充填させ、マイクロピペットプローブの先端から透明な基板の表面上の所定の位置に滴下し、その後、この滴下した光硬化性樹脂液の部分をレーザ光で照射させることで樹脂状態に硬化させ、透明な基板の表面上に適宜所望の形状の光硬化性樹脂の堆積物を形成することができる微細加工の方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本願の第1の発明の光硬化性樹脂の微細加工方法は、先端が開口した中空のマイクロピペットプローブを備えた走査型シェアフォース顕微鏡を準備する段階と、該マイクロピペットプローブの内部に光硬化性樹脂液を充填する段階と、該マイクロピペットプローブの該先端を透明な基板の表面上の所定の位置に接触させる段階と、該透明な基板の表面上に該光硬化性樹脂液を所定の量だけ滴下させる段階と、該滴下した光硬化性樹脂液の部分にレーザ光を照射して該滴下した光硬化性樹脂液の部分を硬化させる段階と、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本願の第2の発明の光硬化性樹脂の微細加工方法は、第1の発明において、前記レーザ光は、前記滴下した光硬化性樹脂液の部分に対して下側から全反射する角度で照射され、前記滴下した光硬化性樹脂液の部分に生じるエバネッセント光により前記滴下した光硬化性樹脂液の部分が励起されて硬化することを特徴とする。
【0008】
さらに、本願の第3の発明の光硬化性樹脂の微細加工方法は、第1及び2の発明において、微細加工が施された前記透明な基板の表面に対して前記マイクロピペットプローブを非接触の状態で走査することにより,前記走査型シェアフォース顕微鏡を用いて前記透明な基板の表面の加工状態を観察することを特徴とする。
【0009】
さらに、本願の第4の発明の光硬化性樹脂の微細加工装置は、先端が開口した中空のマイクロピペットプローブと,試料台と,該試料台を該マイクロピペットプローブに対して相対的に3次元方向に移動させる移動機構とを備える走査型シェアフォース顕微鏡を具備し、さらに、前記マイクロピペットプローブ内に充填された光硬化性樹脂液と、該試料台に載置された透明な基板と、レーザ照射装置とを具備し、該透明な基板の表面上に該マイクロピペットプローブ内に充填された該光硬化性樹脂液を所定の量だけ滴下させ、該滴下した光硬化性樹脂液の部分に該レーザ照射装置からのレーザ光を照射して該滴下した光硬化性樹脂液の部分を硬化させることを特徴とする。
【0010】
さらに、本願の第5の発明の光硬化性樹脂の微細加工装置は、第4の発明において、前記レーザ光は、前記滴下した光硬化性樹脂液の部分に対して下側から全反射する角度で照射され、前記滴下した光硬化性樹脂液の部分に生じるエバネッセント光により前記滴下した光硬化性樹脂液の部分が励起されて硬化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光硬化性樹脂の微細加工方法及び装置を提供することにより、液体状態の光硬化性樹脂をマイクロピペットプローブ内に充填させ、マイクロピペットプローブの先端を透明な基板の表面上の所定の位置に接触させて液体状態の光硬化性樹脂を滴下し、滴下した光硬化性樹脂液の部分にレーザ光を照射して樹脂状態に硬化させることで、透明な基板の表面上に適宜所望の形状の光硬化性樹脂の堆積物を形成することが可能となる。
【0012】
また、本発明の光硬化性樹脂の微細加工方法及び装置を提供することにより、レーザ光を照射して樹脂状態に硬化させる際に全反射する角度で照射することによって、透過光や散乱光を防ぐことができると同時に、発生するエバネッセント光を利用することで滴下した光硬化性樹脂液を硬化させることが可能となる。
【0013】
さらに、本発明の光硬化性樹脂の微細加工方法及び装置を提供することにより、透明な基板の表面上に堆積した光硬化性樹脂の形成状況を観察することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下,図面を参照して本発明の実施例を詳しく説明する。図1は本発明の光硬化性樹脂の微細加工をするためのマイクロピペットプローブを備える走査型シェアフォース顕微鏡の構成図である。マイクロピペットプローブを備える走査型シェアフォース顕微鏡の構成は既に知られており、ここでは、その構成を簡単に説明するが、図1には、本発明の光硬化性樹脂の微細加工をするために新たに励起用レーザ光硬化装置が追加されて内蔵されている。
【0015】
図1において円筒状のプローブ支持体10の中心軸上にマイクロピペットプローブ12が固定されている。プローブ支持体10には励振用圧電素子が組み込まれている。この圧電素子の材質はPZTである。この励振用圧電素子の振動によって,マイクロピペットプローブ12は図1の紙面に垂直な方向に振動する。試料台14は圧電素子で駆動される3次元アクチュエータによって,XY方向(水平面内での2次元方向)及びZ方向(上下方向)に所定の移動距離の範囲内で移動できる。
【0016】
試料台14の上面には基板支持体16が固定されている。基板支持体16の上面には透明な基板18を載せることができる。なお、透明な基板18としては、ガラス、プラスチック、マイカ製等の基板が考えられる。また、透明な基板18は基板支持体16の上面に載せることができるが、単に載せるのではなく、固定されることが望ましい。マイクロピペットプローブ12は励振用圧電素子によって水平方向に振動し,その振幅は振幅検出装置で検出される。振幅検出装置は変位検波用レーザダイオード20と集光レンズ22と2分割フォトダイオード24で構成されている。変位検波用レーザダイオード20は波長670nmの変位検波レーザ光を出射し,この変位検波用レーザ光26は集光レンズ22でマイクロピペットプローブ12の付近に集光され,そこを通過した変位検波用レーザ光は2分割フォトダイオード24で集光される。2分割フォトダイオード24の出力はマイクロピペットプローブ12の振動振幅に依存する。
【0017】
励起用レーザダイオード50、反射板51と52、プリズム53が、本発明の光硬化性樹脂の微細加工をするために新たに追加され、励起用レーザ光硬化装置として内蔵されている。この励起用レーザ光硬化装置は、マイクロピペットプローブ12の先端から透明な基板18の表面上に滴下された液状の光硬化性樹脂を硬化させて堆積させるために使用される。
【0018】
次に,走査型シェアフォース顕微鏡の制御系を説明する。図1において,プローブ支持
体10に組み込まれた励振用圧電素子には発振器28から発振出力信号29が供給されて
、プローブ支持体10は所定の共振周波数で水平方向に振動する。2分割フォトダイオー
ド24の出力信号はマイクロピペットプローブ12の振動振幅に依存しており、この出力
信号はI−V変換器30と演算回路32とロックインアンプ34を経て、マイクロピペッ
トプローブ12の振動振幅に変換される。ロックインアンプ34には参照信号33として
発振器28の信号が入力されていて、このロックインアンプ34によりノイズが除去され
る。ロックインアンプ34から出力されるマイクロピペットプローブ12の振動振幅35
は制御回路36に入力される。
【0019】
制御回路36ではマイクロピペットプローブ12の振動振幅と所定の基準値とを比較して、振動振幅が基準値に等しくなるようにZ方向指令信号37を出力する。すなわち,振動振幅が基準値よりも大きければ、試料台14を上昇させるように、逆に、振動振幅が基準値よりも小さければ、試料台14を下降させるように、Z方向指令信号37を出力する。Z方向駆動信号はPZTドライバ38のZ方向駆動回路40に入力され、Z方向駆動回路40からは、Z方向のPZTアクチュエータに対して、Z方向駆動信号41が出力される。
【0020】
その結果、試料台14が微小距離だけ上下して、マイクロピペットプローブ12の振動振幅が常に一定に保たれる。マイクロピペットプローブ12の振動振幅は、後述するように、プローブの先端と透明な基板18の表面との距離に依存するので、結局、上述のようなZ方向のフィードバック制御により、プローブの先端と透明な基板18の表面との距離が一定に保たれる。
【0021】
パーソナルコンピュータ44はPZTドライバ38のXY方向駆動回路42にXY方向
指令信号45を出力する。XY方向駆動回路42はそれに応じてXY方向アクチュエータ
に対してXY方向駆動信号43を出力し、試料台14がXY方向に移動する。これによっ
て、透明な基板18の表面上の所望の位置をマイクロプローブピペット12の先端に対向させることができる。Z方向駆動回路40からはZ方向指令信号(これは,基板の表面の高さ信号に相当する)がパーソナルコンピュータ44に入力されている。したがって、パーソナルコンピュータ44では、XY方向指令信号に応じたZ方向指令信号の値、すなわち、基板表面上の各位置における高さ信号を取得することができ、これに基づいて、基板表面の高さ画像を作ることができる。
【0022】
図2は走査型シェアフォース顕微鏡の動作原理を示す説明図である。上段のAの状態は
、プローブ57の先端と試料56の表面との距離dが十分離れている状態である。このと
き、プローブ57は所定の共振周波数で振動していて、その振幅は最大値Wmaxとなる。上段のBの状態は、プローブ57の先端が試料56の表面に近づいて、プローブ57の振動振幅が試料56の影響を受けている状態である。
【0023】
すなわち、共振周波数付近で振動するプローブ57が試料56に近づくと、プローブ57はシェアフォースと呼ばれる横方向の力を受ける。このときの振動振幅はAの状態よりも小さくなる。プローブ57がさらに試料56に近づくと、振動振幅が急激に減衰する。そして、上段のCに示すように、プローブ57の先端が試料56の表面に接触すると、振動振幅はゼロになる。
【0024】
下段のグラフは、横軸にプローブ57の先端と試料56の表面との距離dをとり,縦軸にプローブ57の振動振幅をとったものである。距離dがd1よりも大きいときは、上段のAの状態に相当し、プローブの振動振幅はWmaxである。距離dがd1よりも小さくなっていくと振動振幅は減少していき、この中間状態が上段のBの状態に相当する。距離dがさらに小さくなってゼロに近づくと、振動振幅がゼロになる。これが上段のCの状態に相当する。そして,距離dがd1よりも小さい領域が制御領域であり、この制御領域は、距離dに応じて振動振幅が変化する領域として定義される。
【0025】
この制御領域内の特定の振動振幅値を基準値Wrefとすると、プローブに対して試料を相対的に走査して、振動振幅が常に基準値Wrefに等しくなるように距離dを制御すれば、その距離dの変化によって試料表面の高さ変化を表すことができる。このようにして、試料の表面形状を取得することができる。本発明の実施例では、基準値WrefをWmaxの80%に設定している。
【0026】
プローブを試料に接触した状態から徐々に離していくと、プローブの振動振幅は増加し
ていくが、その上昇曲線58は、距離を小さくしていくときの下降曲線60とは異なって
いる。すなわち、ヒステリシス特性がある。下降曲線60の傾きは距離制御(高さ制御)
の感度を示している。
【0027】
図3はマイクロピペットプローブの製造方法を示す平面断面図である。マイクロピペッ
トプローブはマイクロピペット引き伸ばし装置によって製造される。この引き伸ばし装置
は、第1チャック62と第2チャック64と加熱装置66を備えている。第1チャック6
2はガラス管68の一端をつかんで図面の左方向に引っ張り力70を付与するものである
。第2チャック64はガラス管68の他端をつかんで図面の右方向に引っ張り力72を付
与するものである。
【0028】
加熱装置66は、ガラス管68の周囲を取り囲む加熱コイル74と、この加熱コイル74に電力を供給する加熱電源76からなる。二つのチャック62、64によってガラス管68に引っ張り力を付与した状態で、加熱電源76から加熱コイル74に電力を供給して、ガラス管68の中央を加熱すると、ガラス管68の中央が軟化して伸びるとともに、その径が小さくなっていき、ついには中央で分離する。
【0029】
これによって、先端が先細のマイクロピペットプローブが出来上がる。二つのチャック62、64に付与する引っ張り力の強さと、加熱電源76が供給する電力とを調整することで、出来上がるマイクロピペットプローブの先端の開口径を変えることができる。高温にするほど、開口径は小さくなる傾向にある。実施例では,開口径が約200nmのものを使用する。なお、加熱装置としては、上記の手段に限らず、例えば、レーザによる加熱手段を利用することも可能である。
【0030】
図4は出来上がったマイクロピペットプローブの概略形状を示す平面図である。図4において、マイクロピペットプローブ12の先端付近には第1テーパ部77と第2テーパ部78が形成されている。
【0031】
図5はマイクロピペットプローブの構造を示す説明図である。図5において、中空のマイクロピペットプローブ12の先端付近82は先細のテーパ状になっていて、その先端は開口している。開口径は約200nmである。マイクロピペットプローブ12の内部には光硬化性樹脂液80が充填されている。
【0032】
この実施例では,光硬化性樹脂液80として、感光波長が500nmに調整され、粘度が100mPa・s(25°C)の光硬化性樹脂の原液を、アセトンで1.5倍に希釈化したものを使用している。この光硬化性樹脂液80が充填されたマイクロピペットプローブ12の先端を透明な基板18に接触した状態にすることで、光硬化性樹脂液80が透明な基板18の表面上に滴下されて硬化し、光硬化性樹脂堆積物84が形成される。なお、光硬化性樹脂液としては、上記に限らず、モノマー、オリゴマー、光開始剤等の種類や組成割合などを調整することにより、本実施例の様に溶剤を添加することなく、プローブに充填可能な粘度に調整した光硬化性樹脂液を用いることも可能である。
【0033】
図6は透明な基板の表面上に滴下された光硬化性樹脂液を硬化するための原理を示す説明図である。図6において、励起用レーザ光54は、プリズム53、透明な基板18を介して、透明な基板18の表面上に滴下された光硬化性樹脂液の部分に照射される。また、照射される励起用レーザ光54は滴下された光硬化性樹脂液の部分に対して下側から全反射する角度で入射される。この場合、反射面からしみ出す様なエバネッセント光86が発生する。このエバネッセント光86によって光硬化性樹脂液が励起されて硬化し、光硬化性樹脂堆積物84が形成される。なお、照射される励起用レーザ光54は、滴下された光硬化性樹脂液の部分に対して下側から全反射する角度で入射されることによって、マイクロピペットプローブ12内に光が入らないために、マイクロピペットプローブ12に充填されている光硬化性樹脂液80が液体状態に保たれ、連続した加工が可能となる。
【0034】
この実施例では、透明な基板18として屈折率が1.52のガラス基板を、またプリズム53として屈折率が1.52のプリズムを使用している。また、これらのガラス基板とプリズムを一時的に固定し、間に空気が入らないようにするためにマッチングオイル88が使用される。そして、このマッチングオイル88として、ガラス基板とプリズムと同じ1.52の屈折率をもつマッチングオイルを使用することで、ガラス基板とプリズムとの間で全反射が起きることを防止している。
【0035】
また、励起用レーザ光54は、図1の励起用レーザダイオード50から図示しないノズルを通して出射され、反射板51、反射板52、プリズム53、マッチングオイル88、透明な基板18であるガラス基板を介して、ガラス基板の表面上に滴下された光硬化性樹脂液の部分に対して下側から全反射する角度で入射されるように制御される。なお、励起用レーザ光54の照射スポット径は、例えば、0.2〜2mm程度にすることができるため、レーザ照射位置を変えなくても、プローブによる加工域を十分にカバーして照射することが可能である。図6において、ハッチングして描いた励起用レーザ光54は照射スポット径の一部を描いたものである。
【0036】
また、励起用レーザ光54として、波長が488nmで出力が12mWのアルゴン・イオン・レーザを使用しているが、この限りではなく、その波長が光硬化性樹脂の感光波長に合うものであれば良く、逆に、使用する光硬化性樹脂は、その感光波長がレーザの波長に合うものであれば良い。一般に、光硬化性樹脂としては紫外線硬化性樹脂が広く普及しているので、その場合には、可視光レーザではなく、紫外線レーザを使用するのが望ましい。また、レーザの照射時間は、基板の表面に滴下した光硬化性樹脂が硬化するのに十分な時間であれば良く、光硬化性樹脂の光硬化性やレーザの強度等を勘案して決定すれば良い。
【0037】
次に、光硬化性樹脂の加工手順を纏めて説明する。まず、図5で説明した光硬化性樹脂液80をマイクロピペットプローブ12の内部に充填する。そして、図1において、パーソナルコンピュータ44からXY方向指令信号45を出力して試料台14をXY方向に動かし、透明な基板18であるガラス基板の所望の地点(光硬化性樹脂を堆積させたい地点)をマイクロピペットプローブ12の真下に持ってくる。
【0038】
次に、制御回路36を加工モードにして、ガラス基板がマイクロピペットプローブ12の先端に十分に近接するまで、Z方向指令信号37を出力する。マイクロピペットプローブ12の振動振幅がゼロ近辺になったときにマイクロピペットプローブ12の先端がガラス基板に接触した状態にあるものと判断する。マイクロピペットプローブ12の先端がガラス基板に接触した状態になると、マイクロピペットプローブ12の先端から光硬化性樹脂液80がガラス基板の表面上の所望の地点に滴下される。なお、この滴下は、雫となって転移するほか、プローブの先端から滲み出ている光硬化性樹脂液がガラス基板に接触して転移するようにして行われる。
【0039】
なお、滴下される光硬化性樹脂液の量はマイクロピペットプローブ12の先端がガラス基板に接触した状態を保持している時間(以降、加工時間と呼ぶ)の長さに依存する。そして、図6で説明したように、ガラス基板の表面上の所望の地点に滴下された光硬化性樹脂液の部分に対して下側から、励起用レーザ光54が全反射する角度で入射され、エバネッセント光86の発生によって滴下された光硬化性樹脂液が硬化して光硬化性樹脂堆積物84が形成される。
【0040】
図7は、図1〜6の実施例に基づく本発明の光硬化性樹脂の微細加工によって、ガラス基板上に1ドットの堆積加工を施したものについての取得画像のイメージとこの画像中のラインに沿ったドットの高さ変化を示している。
【0041】
図7(a)は、加工時間が0.4秒、励起用レーザ光の照射時間が2秒程度の場合を示している。図7(a)の上段が取得画像から線画として作図したものであり、その中央に約180nmのサイズの堆積物90−1が形成されている。この線画として作図したものは、光硬化性樹脂液のガラス基板上への滴下、そして、励起用レーザ光による照射の後、観察モードにして,マイクロピペットプローブをガラス基板に非接触の状態で走査して取得した画像から得られたものである。堆積物があるところだけが高くなっており,その高い部分を他の部分から区別して(ハッチング)示している。
【0042】
図7(a)の下段は上段の画像中のライン94に沿った高さ変化を示している。横軸はライン94に沿った位置であり、縦軸はガラス基板表面の高さである。中央付近において180nmのドット幅で高い部分が観測され、この部分が堆積物に相当する。なお、堆積量は0.09aLである。
【0043】
図7(b)は、加工時間が6秒、励起用レーザ光の照射時間が2秒程度の場合を示している。図7(b)の上段が取得画像から線画として作図したものであり、その中央に約230nmのサイズの堆積物92−1が形成されている。堆積物があるところだけが高くなっており,その高い部分を他の部分から区別して(ハッチング)示している。 図7(a)の下段は上段の画像中のライン96に沿った高さ変化を示している。横軸はライン96に沿った位置であり、縦軸はガラス基板表面の高さである。中央付近において230nmのドット幅で高い部分が観測され、この部分が堆積物に相当する。なお、堆積量は0.37aLである。
【0044】
図8は光硬化性樹脂の1ドット堆積加工における加工時間とドット幅およびドット高さとの関係を示すグラフである。図8(a)は、加工時間とドット幅との関係を、図8(b)は、加工時間とドット高さとの関係を示している。
【0045】
図8(a)において、横軸は加工時間であり、縦軸はドット幅である。プロット90−2は図7(a)の場合を、また、プロット92−2は図7(b)の場合を示している。また、その他のプロットも図7(a)と(b)の場合と同様の手順、方法に基づいてプロットされたものである。図8(b)において、横軸は加工時間であり、縦軸はドット高さである。プロット90−3とプロット92−3は、それぞれ、図7(a)と(b)の場合を示している。また、その他のプロットも図7(a)と(b)の場合と同様の手順、方法に基づいてプロットされたものである。加工時間が長くなると、ドット幅とドット高さ共に大きくなる傾向にある。
【0046】
なお、図7及び図8は、図1〜6の実施例に基づく本発明の光硬化性樹脂の微細加工によって、ガラス基板上に1ドットの堆積物を形成したものについての取得画像から線画として作図したもの、ドット幅、ドット高さ等のデータを示したが、複数のドットを連続的にガラス基板上に堆積させることも可能である。また、図4にマイクロピペットプローブの製造方法を、図5にマイクロピペットプローブの概略形状を示したが、マイクロピペットプローブの先端の開口径を更に小さくしたマイクロピペットプローブと置き換えることによって、図7(a)に示した堆積物よりも更に小さい堆積物を形成することも可能である。
【0047】
さらに、ドット形成した上にさらに重ねてドットを形成すること、ドット周辺に密接してその他のドット等を形成することも可能であり、適宜所望な形状に成形することができる。また、基板の表面処理を工夫することによって、光硬化性樹脂を基板に堅固密着させて形成することも、あるいはまた、基板に形成された光硬化性樹脂を基板から剥離することも可能である。この剥離した光硬化性樹脂の微細な加工物は、例えば、マイクロパーツとしての利用が考えられる。
【0048】
従って、本実施例の光硬化性樹脂の微細加工方法及び装置を提供することによって、光硬化性樹脂液をマイクロピペットプローブ内に充填させ、マイクロピペットプローブの先端を透明な基板の表面上の所定の位置に接触させて光硬化性樹脂液を滴下し、滴下した光硬化性樹脂液の部分にレーザ光を照射して液体状態から樹脂状態に硬化させることで、基板の表面上に微少量の光硬化性樹脂を堆積させることが可能となる。
【0049】
また、基板の表面上に堆積された光硬化性樹脂の堆積状況を観察することも可能となる。さらに、加工時間等の加工条件、マイクロピペットプローブ先端の開口径等を任意に選択することで、光硬化性樹脂の堆積量及び形状が調整可能となり、ガラス基板等の透明な基板の表面上に適宜所望の形状の堆積物を形成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の光硬化性樹脂の微細加工方法及び装置は、走査型シェアフォース顕微鏡とマイクロピペットプローブを利用して光硬化性樹脂液を透明な基板の表面上に滴下し、この滴下した光硬化性樹脂液の部分に励起用レーザ光を照射することで硬化させて微小量の堆積物を形成する微細加工の方法及び装置であって、今日、工業的に幅広く利用されている光硬化性樹脂を、光導波路、マイクロマシン、ナノマシン等の微細デバイスの製作などに活用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は本発明の光硬化性樹脂の微細加工をするためのマイクロピペットプローブを備える走査型シェアフォース顕微鏡の構成図である。
【図2】走査型シェアフォース顕微鏡の動作原理を示す説明図である。
【図3】マイクロピペットプローブの製造方法を示す平面断面図である。
【図4】マイクロピペットプローブの概略形状を示す平面図である。
【図5】マイクロピペットプローブの構造を示す説明図である。
【図6】光硬化性樹脂液を硬化するための原理を示す説明図である。
【図7】光硬化性樹脂の1ドット堆積加工の取得画像のイメージ図と画像中のラインに沿ったドットの高さ変化を示す図である。
【図8】光硬化性樹脂の1ドット堆積加工における加工時間とドット幅およびドット高さとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
10 プローブ支持体
12 マイクロピペットプローブ
14 試料台
16 基板支持体
18 透明な基板
20 変位検波用レーザダイオード
24 2分割フォトダイオード
28 発振器
30 I−V変換器
32 演算回路
34 ロックインアンプ
36 制御回路
38 PZTドライバ
40 Z方向駆動回路
42 XY方向駆動回路
44 パーソナルコンピュータ
50 励起用レーザダイオード
51 反射板
52 反射板
53 プリズム
54 励起用レーザ光
80 光硬化性樹脂液
84 光硬化性樹脂堆積物
86 エバネッセント光
88 マッチングオイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が開口した中空のマイクロピペットプローブを備えた走査型シェアフォース顕微鏡を準備する段階と、該マイクロピペットプローブの内部に光硬化性樹脂液を充填する段階と、該マイクロピペットプローブの該先端を透明な基板の表面上の所定の位置に接触させる段階と、該透明な基板の表面上に該光硬化性樹脂液を所定の量だけ滴下させる段階と、該滴下した光硬化性樹脂液の部分にレーザ光を照射して該滴下した光硬化性樹脂液の部分を硬化させる段階と、を含む光硬化性樹脂の微細加工方法。
【請求項2】
前記レーザ光は、前記滴下した光硬化性樹脂液の部分に対して下側から全反射する角度で照射され、前記滴下した光硬化性樹脂液の部分に生じるエバネッセント光により前記滴下した光硬化性樹脂液の部分が励起されて硬化することを特徴とする請求項1に記載の光硬化性樹脂の微細加工方法。
【請求項3】
微細加工が施された前記透明な基板の表面に対して前記マイクロピペットプローブを非接触の状態で走査することにより、前記走査型シェアフォース顕微鏡を用いて前記透明な基板の表面の加工状態を観察することを特徴とする請求項1及び2に記載の光硬化性樹脂の微細加工方法。
【請求項4】
先端が開口した中空のマイクロピペットプローブと、試料台と、該試料台を該マイクロピペットプローブに対して相対的に3次元方向に移動させる移動機構とを備える走査型シェアフォース顕微鏡を具備し、さらに、該マイクロピペットプローブ内に充填された光硬化性樹脂液と、該試料台に載置された透明な基板と、レーザ照射装置とを具備し、該透明な基板の表面上に該マイクロピペットプローブ内に充填された該光硬化性樹脂液を所定の量だけ滴下させ、該滴下した光硬化性樹脂液の部分に該レーザ照射装置からのレーザ光を照射して該滴下した光硬化性樹脂液の部分を硬化させることを特徴とする光硬化性樹脂の微細加工装置。
【請求項5】
前記レーザ光は、前記滴下した光硬化性樹脂液の部分に対して下側から全反射する角度で照射され、前記滴下した光硬化性樹脂液の部分に生じるエバネッセント光により前記滴下した光硬化性樹脂液の部分が励起されて硬化することを特徴とする請求項4に記載の光硬化性樹脂の微細加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−112021(P2007−112021A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306214(P2005−306214)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月1日 社団法人精密工学会発行の「2005年度 精密工学秋季大会学術講演会 講演論文集」に発表
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】