説明

光硬化性液状樹脂組成物およびインクジェット光造形法による立体造形物の製造方法

【課題】インクジェット光造形法による立体造形物形成用に有用な光硬化性液状樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシ−3−フェノキシアルキル(メタ)アクリレートから選択される1種以上の、エチレン性不飽和基を1個有する化合物30〜80質量%、(B)ポリエーテル構造若しくはポリエステル構造および2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物5〜50質量%、(C)2個以上のエチレン性不飽和基を有する、成分(B)以外の化合物5〜55質量%、および(D)光重合開始剤0.01〜10質量%を含有し、かつ、組成物全量100質量%に対して、(E)カチオン重合性成分、および(F)粒子を、各々、5質量%以上の割合で含有しない光硬化性液状樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光造形用樹脂組成物、特にインクジェット方式の光造形法により立体造形物を造形するために好適な光造形用樹脂組成物、該光造形用樹脂組成物により製造された立体造形物、および該光造形用樹脂組成物を用いた立体造形物の造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性液状樹脂組成物にレーザー光や紫外線ランプ等により紫外線ないし近紫外線等の光を照射して一定のパターンに硬化させた薄層を形成し、さらにその薄層の上に新たな光硬化性液状樹脂組成物を供給して上記工程を繰り返すことにより所望の立体形状を有する硬化物を造形する光造形法が広く知られている(特許文献1〜4)。このような光造形法としては、薄膜上に塗布した光硬化性液状樹脂組成物にレーザー光を一定のパターンで走査して該薄膜の一部を所望のパターンに硬化させて硬化薄膜を形成する方法、レーザー光ではなく紫外線ランプ等の光を所定の形状パターンのマスクを介して照射することにより光硬化性液状樹脂組成物を硬化させて硬化薄膜を調製する方法などが多用されてきたが、近年、インクジェット方式により光硬化性液状樹脂組成物の微小液滴をノズルから所定の形状パターンを描画するよう吐出してから紫外線を照射して硬化薄膜を形成する方式が報告されている(特許文献5、6)。
インクジェット方式による光造形法(以下、「インクジェット光造形法」という。)は、従来法に較べて光硬化性液状樹脂組成物を大量に貯留する大型の樹脂液槽が不要であるため比較的小型の造形装置とすることができる等の利点があり、CAD(Computer Aided Design)データに基づき簡便に3次元の立体造形物を得るいわゆる3次元プリンター(3Dプリンター)の用途も期待されている。インクジェット光造形法に用いられる光硬化性液状樹脂組成物としては、従来の光造形法に用いられる樹脂組成物と異なり、精細なノズルからスムーズに吐出する必要があるため、低粘度の樹脂組成物であることが要請される。
また、従来の光造形用樹脂について、硬化物の機械的特性は、粒子、特にエラストマーを含有する粒子を配合することにより改善がなされる場合が多かった。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−247515号公報
【特許文献2】特開昭62−35966号公報
【特許文献3】特開昭62−101408号公報
【特許文献4】特開平5−24119号公報
【特許文献5】特開2002−067174号公報
【特許文献6】特開2003−299679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来はインクジェット方式以外の光造形用樹脂をインクジェット光造形法に流用したため粘度が過大であったり、樹脂中に配合された粒子がインクジェットノズルにつまりを生じたりすることにより、インクジェットノズルからスムーズに吐出することができず、また、インクジェットノズルから微小な液滴として樹脂が空気中に吐出されたときに空気と接触する表面積が大きいために十分に硬化せず立体造形物の強度が不足する場合があり、インクジェット光造形法に用いることが困難であった。
従って、本発明の目的は、インクジェット光造形法に好適な低い粘度を有し、インクジェットノズルにつまりを生じにくく、空気中での硬化性が良好であり、得られる立体造形物が良好な機械的特性、特にヤング率、破断伸び、破断強度を有しており、かつ、硬化収縮が小さいために形状精度が高い、インクジェット光造形法による立体造形物形成用の光硬化性液状樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記特性を有する組成物を得るべく種々検討した結果、特定の単官能ラジカル重合性化合物および特定のラジカル重合性多官能化合物を配合して組成物を構成することにより、機械的特性が良好で形状精度が高い立体造形物が得られることから、本発明の組成物がインクジェット光造形法による立体造形物形成用材料として好適であることを見いだし、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、光硬化性液状樹脂組成物をインクジェット方式により射出する光造形法において立体造形物を造形するために使用される光硬化性液状樹脂組成物であって、組成物全量100質量%に対して、下記成分(A)、(B)、(C)および(D)を含有し、かつ、組成物全量100質量%に対して、下記成分(E)および(F)を下記所定量以上含有しない光硬化性液状樹脂組成物を提供するものである。
(A)(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシ−3−フェノキシアルキル(メタ)アクリレートから選択される1種以上の、エチレン性不飽和基を1個有する化合物 30〜80質量%
(B)ポリエーテル構造若しくはポリエステル構造および2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物 5〜50質量%
(C)2個以上のエチレン性不飽和基を有する、成分(B)以外の化合物 5〜55質量%
(D)光重合開始剤 0.01〜10質量%
(E)カチオン重合性成分 5質量%
(F)粒子 5質量%
また、本発明は、当該光硬化性液状樹脂組成物を硬化して得られる立体造形物、及びこの立体造形物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物は、インクジェット光造形法に好適な低い粘度を有し、インクジェットノズルにつまりを生じにくく、空気中での硬化性が良好であり、硬化収縮が小さいため、良好な機械的特性、特にヤング率、破断伸び、破断強度を有しており、かつ、形状精度が高い立体造形物を提供することができるという特性を有する。従って、本発明の組成物は、インクジェット光造形法による立体造形物形成用材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[光硬化性液状樹脂組成物]
本発明の光硬化性液状樹脂組成物に用いられる成分(A)である(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシ−3−フェノキシアルキル(メタ)アクリレートから選択される1種以上の、エチレン性不飽和基を1個有する化合物(以下、「特定単官能ラジカル重合性化合物」ともいう。)は、光硬化性に優れる特性を有しており、成分(D)との組合せにより組成物に空気中での良好な硬化性を付与することができる。
【0009】
成分(A)である2−ヒドロキシ−3−フェノキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシ−3−フェノキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等を挙げることができ、2−ヒドロキシ−3−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは1種であるいは二種以上を組合せて使用することができる。
【0010】
成分(A)は、本発明の光硬化性液状樹脂組成物中に、組成物全量100質量%に対して、好ましくは30〜80質量%、さらに好ましくは40〜70質量%配合される。成分(A)の配合量が上記範囲内であると、十分な光硬化性が得られる。
なお、成分(A)であるイソボルニル(メタ)アクリレートの配合量は、組成物全量100質量%に対して、5質量%以下とすることが好ましく、さらには全く配合しないことが好ましい。イソボルニル(メタ)アクリレートの配合量を上記範囲内とすることにより、イソボルニル(メタ)アクリレートが有する独特の臭気を低減することができる。
【0011】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物に用いられる成分(B)は、ポリエーテル構造若しくはポリエステル構造および2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物である。成分(B)を配合することにより、硬化物に靱性を付与し、ヤング率及び破断伸び、破断強度を改善することができる。
成分(B)の具体例としては、2個以上のエチレン性不飽和基を有するポリエーテル(メタ)アクリレート、2個以上のエチレン性不飽和基を有するポリエステル(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらの市販品としては、例えば、ポリエーテル(メタ)アクリレートであるEBECRYL12(ダイセル・サイテック株式会社)等、ポリエステル(メタ)アクリレートであるEBECRYL800、810、811、812(ダイセル・サイテック株式会社)、アロニックスM−6100、6200、7100、8030、8560、9050(東亞合成株式会社)等を挙げることができる。
【0012】
成分(B)は、好ましくはウレタン結合を有していること、すなわち2個以上のエチレン性不飽和基を有するウレタン(メタ)アクリレートであることが好ましい。このようなウレタン(メタ)アクリレートは、典型的には(a)水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物と、(b)ポリイソシアネートと、(c)ポリエーテル構造又はポリエステル構造を有するポリオールを反応させて得られる。以下、(a)〜(c)成分について説明する。
【0013】
[(a)成分]
(a)成分として用いられる水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリロイルフォスフェート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
これら水酸基含有(メタ)アクリレートは1種であるいは二種以上を組合せて使用することができる。
【0014】
[(b)成分]
(b)成分として用いられるポリイソシアネートは、イソシアネート基を2個以上含む化合物である。(b)ポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。芳香族ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、4−クロロ−1,3−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート等を、脂環族ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、メチレンジシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等を、脂肪族イソシアネートとしては、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート等を例示することができる。
これらのうち、好ましい例としては芳香族ジイソシアネートおよび脂環式ジイソシアネート、より好ましくは、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレンジシクロヘキサンジイソシアネート、およびイソホロンジイソシアネートが挙げられる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても、2種以上併用しても良い。
【0015】
[(c)成分]
(c)成分は、ポリエーテル構造又はポリエステル構造を有するポリオールである。(c)成分の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ1,4−ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルに由来する構造を有するポリオールが挙げられる。
ポリエステル構造を有するポリオールの具体例としては、例えば二価アルコールと二塩基酸とを反応して得られるポリエステルポリオールなどが挙げられる。上記二価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,6−ヘキサンポリオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンポリオール、1,9−ノナンポリオール、2−メチル−1,8−オクタンポリオール等が挙げられる。二塩基酸としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマール酸、アジピン酸、セバシン酸等の二塩基酸を挙げることができる。市販品としては、クラレポリオールP−2010、P−2020、P−2030、P−2050、PMIPA、PKA−A、PKA−A2、PNA−2000(以上、株式会社クラレ製)等が入手できる。
【0016】
これらのポリエステルポリオールのうち、二塩基酸として、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のような芳香族ジカルボン酸、又はアジピン酸、セバシン酸のようなアルカンジカルボン酸を用いたものが好ましい。ここでアルカンジカルボン酸のアルカン部分の炭素数は、2〜20、特に2〜14が好ましい。また、芳香族ジカルボン酸の芳香族部分はフェニル基が好ましい。
なお、(c)成分として用いられるポリエーテル構造又はポリエステル構造を有するポリオールは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により得られるポリスチレン換算数平均分子量が600〜3000であることが好ましく、800〜2000であることがより好ましい。
【0017】
(B)成分のウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、以下の(1)〜(4)の方法によって製造される。
(1)(c)ポリオール及び(b)脂肪族ポリイソシアネートを反応させ、次いで(a)水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させる方法
(2)(b)脂肪族ポリイソシアネート及び(a)水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させ、次いで(c)ポリオールを反応させる方法
(3)(c)ポリオール、(b)脂肪族ポリイソシアネート、及び(a)水酸基含有(メタ)アクリレートを一括に仕込んで反応させる方法
(4)(b)脂肪族ポリイソシアネート及び(a)水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させ、次いで(c)ポリオールを反応させ、最後にまた(a)水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させる方法
これらのうち、上記(2)の方法が好ましく用いられる。
【0018】
成分(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により得られるポリスチレン換算の数平均分子量は、好ましくは700〜3500、より好ましくは900〜2200である。該数平均分子量が上記範囲内であると、組成物の粘度および硬化物の機械的特性が良好である。
成分(B)は、本発明の光硬化性液状樹脂組成物中に、組成物全量100質量%に対して、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜45質量%、特に好ましくは15〜40質量%配合される。成分(B)の配合量が上記範囲内であると、硬化物の靱性、ヤング率、破断伸び、破断強度がより良好となる。
【0019】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物に用いられる成分(C)は、2個以上のエチレン性不飽和基を有する、成分(B)以外の化合物である。成分(C)を配合することにより、硬化物のヤング率、破断伸び、および破断強度を改善することができる。
成分(C)の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(トリシクロデカンジイルジメチレンジ(メタ)アクリレートともいう。)、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド(以下「EO」という。)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド(以下「PO」という。)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両末端(メタ)アクリル酸付加物、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、トリプロピレングリコールジアクリレートおよび1,6−ヘキサンジオールジアクリレートから選択される1種以上を含有することが好ましい。これらは1種であるいは二種以上を組合せて使用することができる。
【0020】
成分(C)は、本発明の光硬化性液状樹脂組成物中に、組成物全量100質量%に対して、好ましくは5〜55質量%、さらに好ましくは10〜45質量%配合される。成分(C)の配合量が上記範囲であると、硬化物のヤング率、破断伸びおよび破断強度が良好となる。
【0021】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物の成分(D)は、光重合開始剤である。成分(D)は、紫外線、近紫外線又は可視光領域の波長の光を照射するとラジカル反応を促進する化合物であれば特に限定されない。
成分(D)の具体例としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。成分(D)の市販品名としては、IRGACURE184、369、651、500、819、907、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、DAROCUR1116、1173(以上、チバスペシャルティケミカルズ社製);LUCIRIN TPO(BASF社製);ユベクリルP36(UCB社製)等が挙げられる。
【0022】
成分(D)は、本発明の光硬化性液状樹脂組成物中に、組成物全量100質量%に対して、好ましくは0.01〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%配合される。成分(B)の配合量が上記範囲であると、空気中での光硬化性が良好となる。
【0023】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物中には、発明の効果を損なわない範囲で成分(E)であるカチオン重合性化合物を配合してもよい。カチオン重合性化合物としては、典型的にはエポキシ基(グリシジル基やオキセタン基)を有する化合物が挙げられる。ただし、光硬化性および硬化物の機械的特性を損なわないために、成分(E)の配合量は、組成物全量100質量%に対して、5質量%未満であることが好ましく、全く配合しないことがさらに好ましい。
【0024】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物中には、発明の効果を損なわない範囲で成分(F)である粒子を配合してもよい。ここで粒子とは、無機材料、有機材料又はこれらの複合材料からなる粒子であって、形状は特に限定されず、球形、針状、フレーク状等であってもよい。また、粒子とは、フィラー、粉体等を含む概念である。成分(F)の典型例は、シリカ粒子等の酸化物粒子が挙げられる。成分(F)である粒子は、その大きさがインクジェットノズルの直径より大きい場合にはノズルのつまりを引き起こす傾向があり、インクジェットノズルの直径より小さい場合であっても粒子の配合量が大きい場合には凝集した二次粒径がノズルのつまりを引き起こす傾向がある。このため、成分(F)である粒子の配合量は、組成物全量100質量%に対して、5質量%未満であることが好ましく、さらに全く配合しないことがさらに好ましい。
なお、成分(F)である粒子とは、組成物中で固体粒子の形態を保つものであり、配合前に固体粒子であっても組成物中では溶解して固体粒子でなくなるものは除かれる。
【0025】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物には、発明の効果を妨げない範囲で成分(A)〜(C)以外の(メタ)アクリレート系化合物を配合することができる。これらの成分(A)〜(C)以外の(メタ)アクリレート系化合物は、周知の(メタ)アクリレート化合物の中から該当するものを適宜選択することができる。
【0026】
また、上記成分以外に各種添加剤、例えば酸化防止剤、染料、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗面改良剤等を必要に応じて配合することができる。
ここで、酸化防止剤としては、例えばIRGANOX1010、1035、1076、1222(以上、チバスペシャルティケミカルズ社製)、ANTIGENE P、3C、Sumilizer GA−80、GP(住友化学工業社製)等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えばTINUVIN P、234、320、326、327、328、329、213(以上、チバスペシャルティケミカルズ社製)、Seesorb102、103、501、202、712、704(以上、シプロ化成社製)等が挙げられる。光安定剤としては、例えばTINUVIN 292、144、622LD(以上、チバスペシャルティケミカルズ社製)、サノールLS770(三共社製)、TM−061(住友化学工業社製)等が挙げられる。
【0027】
なお、本発明の光硬化性液状樹脂組成物は、光によって硬化される。ここで光とは、遠赤外線、赤外線、可視光線、近紫外線、紫外線等であるが、特に近紫外線又は紫外線が好ましい。
【0028】
本発明の光硬化性液状樹脂組成物の粘度は、インクジェットノズルからの吐出性の点から80℃以下において5〜20mPa・sが好ましい。
本発明の光硬化性液状樹脂組成物の硬化物のヤング率は、700〜2200MPa、さらに1000〜1500MPaであることが好ましい。
【0029】
[インクジェット光造形法、立体造形物および立体造形物の製造方法]
インクジェット光造形法は、インクジェット方式により光硬化性液状樹脂組成物の微小液滴をノズルから所定の形状パターンを描画するよう吐出してから紫外線を照射して硬化薄膜を形成する方式の光造形法である。具体的には、インクジェット光造形法に用いる光造形装置は、目的とする立体造形物を光造形するための平面ステージと、平面ステージに対して少なくとも平行な平面上に移動可能なインクジェットノズルを少なくとも1個と、光硬化性液状樹脂組成物の硬化光を照射するための光源とを有している。CADデータ等に基づいて目的とする立体造形物の形状を複数の断面形状に分割した断面形状データに応じた所望のパターンでインクジェットノズルから光硬化性液状樹脂組成物を吐出して、同組成物からなる樹脂薄層(光硬化性液状樹脂組成物層)を形成した後、光源から硬化光を照射して該樹脂薄層を硬化させる。次いで、該硬化させた樹脂薄層の上に、次の断面形状に応じてインクジェットノズルから光硬化性液状樹脂組成物を供給する。以上を繰り返すことにより、各断面形状に相当する樹脂硬化層を積層して、目的とする立体造形物を形成する。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
[合成例1:ウレタンアクリレート(B)の合成]
撹拌機を備えた反応容器に、2,4−トリレンジイソシアネート28.59g、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.021g、ジブチル錫ジラウレート0.072gおよびフェノチアジン0.007gを仕込み、これらを撹拌しながら液温度が10℃以下になるまで氷冷した。数平均分子量1000のプロピレンオキサイドの開環重合体26450gを加え、液温が35℃以下になるように制御しながら2時間攪拌して反応させた。次に、2−ヒドロキシプロピルアクリレート9.70gを滴下し、さらに、ヒドロキシエチルアクリレート24.74gを滴下して、液温度70〜75℃にて3時間撹拌を継続させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。得られたウレタンアクリレートを「UA−1」とする。UA−1は、プロピレンオキサイドに由来するポリエーテル構造と、2個のエチレン性不飽和基を有しているため、成分(B)に該当する。
【0032】
[比較合成例1:ウレタンアクリレート(C)の合成]
攪拌機を備えた反応容器に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.240g、トルエンジイソシアナート428.10g、ジブチル錫ジラウレート0.799gを加え、攪拌しながら、15℃まで冷却した。ヒドロキシエチルアクリレートを液温度が20℃以下になるように制御しながら570.86g滴下した後、湯浴40℃にし1時間攪拌した。その後、温度上昇が見られないことを確認した後、65℃で3時間攪拌させ、残留イソシアネートが0.1質量%以下になった時を反応終了とした。得られたウレタン(メタ)アクリレートを、「UA−2」とする。UA−2は、ポリエーテル構造とポリエステル構造のいずれも有していないため成分(C)に該当する。
【0033】
実施例1〜5、比較例1〜4
表1に示す組成の光硬化性液状樹脂組成物を製造し、下記の方法に従い、粘度、表面張力、空気中での光硬化性、硬化物のヤング率、破断伸び、破断強度、硬化収縮率を測定した。表1中の配合量は、質量部である。
(1)粘度測定方法:
実施例及び比較例で得られた組成物の80℃における粘度を、粘度計TV−10形(東機産業(株)製)を用いて測定した。
(2)表面張力
実施例及び比較例で得られた組成物の表面張力を、表面張力計CBVP−A3(協和界面科学(株)製)を用いて測定した。
【0034】
(3)光硬化性
354μm厚のアプリケーターバーを用いてガラス板上に光硬化性液状樹脂組成物を塗布し、これを空気中で1J/cmのエネルギーの紫外線を照射し硬化させ試験用フィルムを得た。この試験用フィルムを指触し、ベタツキの有無を確認した。ベタツキがない場合を「◎」、ややベタツキがある場合を「○」と判定した。
(4)ヤング率:
光硬化性評価の場合と同様にして試験用フィルムを調製した。この硬化フィルムから延伸部が幅6mm、長さ25mmとなるように短冊状サンプルを作成した。温度23℃、湿度50%下で、引張り試験機AG−X 500N(島津製作所(株)製)を用い、JIS K7127に準拠して引張試験を行った。引張速度は1mm/minで2.5%歪みでの抗張力からヤング率を求めた。
【0035】
(5)破断伸び、破断強度
光硬化性評価の場合と同様にして試験用フィルムを調製した。引張試験器(島津製作所社製、AG−X 500N)を用い、試験片の破断強度および破断伸びを下記測定条件にて測定した。
引張速度 :50mm/分
標線間距離(測定距離):25mm
測定温度 :23℃
相対湿度 :50%RH
【0036】
(6)硬化収縮率
ガラス基板上に、液状組成物を塗布し、空気中、メタルハライドランプの光を照射量1.0J/cmの条件で照射して、厚さ200μmの硬化膜を作製した。得られた硬化膜を5cm角に切り出し、このフィルム片の重量を天秤で測定すると共に、フィルム片を糸でぶらさげて水中に入れた時の糸の張力変化から浮力を測定して、フィルム片の体積を算出し、これらの値から硬化膜の比重を得た。一方、光照射前の液状組成物の比重を比重瓶を用いて測定した。得られた硬化膜の比重と光照射前の液状組成物の比重から、次式を用いて硬化収縮率を算出した。
硬化収縮率(%)={1−(光照射前の液状組成物の比重/硬化膜の比重)}×100
【0037】
【表1】

【0038】
表1中の略称等の内容は、次のとおりである。
UA−1:合成例1で得られたウレタン(メタ)アクリレート
UA−2:比較合成例1で得られたウレタン(メタ)アクリレート
ポリエステルアクリレート:アロニックスM−8560(東亞合成株式会社製、3個以上のエチレン性不飽和基を有する。)
【0039】
表1から明らかなように、本発明の組成物は、インクジェット光造形法に好適な低い粘度を有し、インクジェットノズルにつまりを生じにくく、空気中での硬化性が良好であり、硬化収縮が小さいため、良好な機械的特性、特にヤング率、破断強度を有しており、かつ、形状精度が高い立体造形物を提供することができるという特性を有する。また、表中には記載されていないが、各実施例は、いずれもイソボルニル(メタ)アクリレートを含有していないので、各比較例に対してイソボルニル(メタ)アクリレートが有する独特の臭気を有しておらず、使用者に与える不快感が軽減されている。本発明の組成物は、インクジェット光造形法による立体造形物形成用材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性液状樹脂組成物をインクジェット方式により射出する光造形法において立体造形物を造形するために使用される光硬化性液状樹脂組成物であって、組成物全量100質量%に対して、下記成分(A)、(B)、(C)および(D)を含有し、かつ、組成物全量100質量%に対して、下記成分(E)および(F)を下記所定量以上含有しない光硬化性液状樹脂組成物。
(A)(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシ−3−フェノキシアルキル(メタ)アクリレートから選択される1種以上の、エチレン性不飽和基を1個有する化合物 30〜80質量%
(B)ポリエーテル構造若しくはポリエステル構造および2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物 5〜50質量%
(C)2個以上のエチレン性不飽和基を有する、成分(B)以外の化合物 5〜55質量%
(D)光重合開始剤 0.01〜10質量%
(E)カチオン重合性成分 5質量%
(F)粒子 5質量%
【請求項2】
組成物全量100質量%に対して、成分(A)であるイソボルニル(メタ)アクリレートの含有量が0〜5質量%である、請求項1に記載の光硬化性液状樹脂組成物。
【請求項3】
成分(B)が有するポリエーテル構造又はポリエステル構造の分子量が、600〜3000である、請求項1又は2に記載の光硬化性液状樹脂組成物。
【請求項4】
成分(B)がウレタン(メタ)アクリレートである、請求項1〜3のいずれか一に記載の光硬化性液状樹脂組成物。
【請求項5】
成分(C)が、ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、トリプロピレングリコールジアクリレートおよび1,6−ヘキサンジオールジアクリレートから選択される1種以上を含有する、請求項1〜4のいずれか一に記載の光硬化性液状樹脂組成物。
【請求項6】
光硬化性組成物をインクジェット方式により射出する光造形法により、請求項1〜5のいずれか一に記載の光硬化性組成物を硬化して得られる立体造形物。
【請求項7】
光硬化性液状樹脂組成物をインクジェット方式により所望のパターンで射出して光硬化性液状樹脂組成物層を形成する工程1、および、光硬化性液状樹脂組成物層に光を照射して該光硬化性液状樹脂組成物層を硬化させる工程2を含み、かつ、工程1および工程2を含む一連の手順を繰り返して立体造形物を形成する、立体造形物の製造方法であって、
該光硬化性液状樹脂組成物が、組成物全量100質量%に対して、下記成分(A)、(B)、(C)および(D)を含有し、かつ、組成物全量100質量%に対して、下記成分(E)および(F)を下記所定量以上含有しない光硬化性液状樹脂組成物である、立体造形物の製造方法。
(A)(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシ−3−フェノキシアルキル(メタ)アクリレートから選択される1種以上のエチレン性不飽和基を1個有する化合物 30〜80質量%
(B)ポリエーテル構造若しくはポリエステル構造および2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物 5〜50質量%
(C)2個以上のエチレン性不飽和基を有する、成分(B)以外の化合物 5〜55質量%
(D)光重合開始剤 0.01〜10質量%
(E)カチオン重合性成分 5質量%
(F)粒子 5質量%

【公開番号】特開2010−155926(P2010−155926A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334893(P2008−334893)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(592109732)日本特殊コーティング株式会社 (23)
【Fターム(参考)】