説明

光線の照射により硬化可能な接着剤により不透過性の部材を結合するシステムと方法

【課題】電磁波の照射により硬化可能な接着剤を用いて不透過性の部材を結合するに当たり,接着剤を不透過性の部材の間に面的に塗布した場合であっても,光線の照射により接着剤の迅速な効果が可能なシステムと方法を提案する。
【解決手段】本発明に係るシステムは,相互に結合されるべき不透過性の部材(1,2)の間に,少なくとも部分的に透過性を有する素子(3)を挿入したものである。この透過素子(3)は,入射する電磁波を,透過素子(3)及び/又は不透過性の部材(1,2)に設けた接着剤層に案内し,接着剤層を活性化させて硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,請求項1の前段に記載した,電磁波の照射により硬化可能な接着剤を用いて不透過性の部材を結合するシステム,及び請求項16の前段に記載した,電磁波の照射により硬化可能な接着剤を用いて不透過性の部材を結合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波の照射により硬化可能な接着剤を用いて部材を相互に面的に接着しようとする場合,接着剤を照射により活性化し,硬化させるため,双方の部材の少なくとも一方は,硬化を開始させる電磁波を透過可能でなければならない。
【0003】
特許文献1(独国特許出願公開第102005002076号明細書)には,ガラスディスク-金属フレーム-構造素子を製造する方法が開示されており,これによると,ガラスディスクを,紫外線により硬化可能な接着剤によりフレーム素子と結合する。ガラスディスクとフレーム素子との間にくさび状の溝穴を設け,これを,毛細管現象を利用して接着剤により充填する。溝穴を充填した後,接着剤を紫外線の照射により硬化させる。
【特許文献1】独国特許出願公開第102005002076号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は,電磁波の照射により硬化可能な接着剤を用いて不透過性の部材を結合するに当たり,接着剤を不透過性の部材の間に面的に塗布した場合であっても,照射により接着剤の迅速な効果が可能であるシステム及び方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このために,本発明は,請求項1に記載したシステム及び請求16に記載した方法を提供するものである。
【0006】
本発明の基本的な発想は,少なくとも部分的に透過性を有する透過素子を,相互に結合されるべき非透過性の部材の間に挿入し,これにより接着剤の硬化を開始させる電磁波を非透過性の部材の間に面的に設けた接着剤層に照射可能とし,接着剤層を必要に応じて迅速に硬化させることにある。少なくとも部分的に透過性を有する透過素子は,ある種の結合部として相互に結合されるべき部材の間に挿入し,両面からそれぞれの部材に接着することにより,結合部材としても構成できる。この場合,このような透過素子は,他方の部材に対して場合により作用するべき力を受けることができる。これに代えて,少なくとも部分的に透過性を有する透過素子は,接着剤の硬化を開始させる電磁波を所望の位置又は領域に案内するある種の電磁波媒体のみとしても構成できる。このシステムは,非透過性の部材を正確に位置合わせした後に迅速かつ持続的に上記の接着剤により結合することに特に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下,本発明を図示の好適な実施形態について更に詳述する。
【0008】
図1は,2個の不透過性の部材を結合するシステムの主要構成部材を示す。この実施形態では,互いに結合されるべき部材はパレット1とプランジャ2からなり,これら双方は金属から製造され,従って可視光線又は紫外線を透過させない。システムの重要な構成要素は,透過素子3である。この透過素子3は2つの平坦で平行な表面を具え,結合素子として互いに結合されるべき部材1,2間に挿入する。システムのこれ以外の構成要素には,プランジャ2をパレット1に対して調節する心出し素子4と,光開始により硬化可能な接着剤に合った波長帯域の電磁波,例えば紫外線を放射する光源7が含まれる。2個の発光ダイオードにより模式的に図示した光源7は,それぞれの部材1,2,3を結合するために,所定の位置に塗布された接着剤層の硬化を開始させる。光源7は,好適には,複数の位置で照射された電磁波が,別個に素子3に入射するように構成する。例えば,光源7に好適には環状に別個に配置した複数の発光ダイオードを設け,電磁波が周囲に沿って可能な限り均等に入射するようにすることができる。接着剤として,好適には光開始により硬化可能なアクリレート接着剤を使用し,これは,紫外線又は可視光の照射により数秒で最終硬度へ硬化する。
【0009】
さらに,上側及び下側チャック5,6がみられる。上側チャック5は,鋳型として構成された心出し素子4を正確な位置に固定し,下側チャック6は,パレット5を正確な位置に固定する。好適には,双方のチャック5,6は,少なくとも一方のチャック5が他方のチャック6と連動して軸線方向に移動可能に,例えばプレス機の基台又はフレームに固定する。この実施形態では,上側チャック5を下側チャック6に対して軸線方向に移動可能に配置するが,これに必要な手段は詳細な説明を要するものではない。双方のチャック5,6を支持するフレーム8のみを模式的に示す。
【0010】
パレット1,プランジャ2及び透過素子3を拡大して示す図2から明らかなように,透過素子3は開口9を具え,その内部に対してパレット1に設けた突起10を挿入できる。突起10は平坦な上面を具え,全体としてプランジャ2のための載置面を形成する。いずれの場合も突起10は透過素子3よりもいくらか高いので,透過素子3をパレット1に接着した際に,突起10は透過素子3よりも突出する。プランジャ2をパレット1に固定するために,パレット1と透過素子3との間及びプランジャ2と透過素子3との間にそれぞれ1つ接着剤層を塗布するが,これについては以下で詳細に説明する。この接着剤層の最終的な厚みは,突起10の高さと透過素子3の高さ又は厚みとの間の差により決定される。最適な接着剤層の厚みを実現可能にするため,それぞれ設けた接着剤層の厚みのおよそ2倍分だけ,突起10を透過素子3よりも高くする。好適には0.1〜0.5 mmだけ突起10を透過素子3よりも高くし,これによりパレット1と透過素子3の平坦な底面との間及びプランジャ2と透過素子3の平坦な上面との間に0.05 mm〜0.25 mmの範囲内の厚みを有する接着剤層をそれぞれ塗布又は残存させる。
【0011】
さらに,明らかなように,突起10それぞれの基部に斜面11を配置する。この斜面11は,この場合には,透過素子3の上面とプランジャ2の底面との間に塗布された接着剤層を必要な場合に迅速に硬化させるため,側面から透過部材3の内部へ案内された電磁波の一部を上方へ屈折させる働きをする。斜面11に代えてあるいはこれに加えて,透過部材3自体を,側面から入射する紫外線の少なくとも一部を転向又は散乱させるように構成する。これは材料の選択により実行でき,あるいは電磁波を転向又は散乱させる中間層を材料に設けることができる。材料候補としては,例えばPC(ポリカーボネート),特にMakrolon(登録商標)又はPMMA(ポリメチルメタクリレート )を列挙することができる。
【0012】
プランジャ2をパレット1に固定するため,好適には先ず,透過素子3をパレット1に結合する。そのために接着剤層をパレット1に設け,その接着剤は,好適にはパレット1の平坦な上面及び/又は透過素子3の底面にのみ塗布し,突起10には塗布しない。その後,突起10が透過素子3の開口9の内部へ延びるように,透過素子3をパレット1に載せる。この後,接着剤層に透過素子3を介して硬化を開始させる電磁波を照射することにより,接着剤を硬化させる。プランジャをパレットに未だ載せていない状態では,電磁波を面的に上から透過素子3に入射させることができる。
【0013】
透過素子3のパレット1に対する固定は,いずれの場合もチャックによるパレット1の付勢を必要とすることなく,任意の場所において行うことができる。しかし,プランジャ2を透過素子3に固定する前に,パレット1を下側のチャック6(図1参照)に固定する。その後,接着剤をパレット1の平坦な上面及び/又は透過素子3の底面に塗布し,プランジャ2を透過素子3の上に載せる。突起10は,透過素子3の底面よりもわずかに突出するので,プランジャ2の底面は突起10にのみ当接し,透過素子3には当接しない。このとき,プランジャ2はパレット1に関してZ軸方向,すなわち長手軸線方向Lについて正確に位置決めする。接着剤を硬化させる前に,プランジャ2をパレット1に関してX軸及びY軸方向についても正確に位置合わせする。このために,鋳型4を下方へ動かして,プランジャ2の円筒状に構成した先端部2aを中心にある鋳型孔4a(図1参照)に挿入し,プランジャ2をX軸及びY軸方向について位置合わせする。この後,硬化を開始させる電磁波を側面から透過素子3に入射させることにより,接着剤を硬化させる。
【0014】
図3は,パレット1及びこれに接着された透過素子3の断面図である。この図面から特に明らかなように,パレット1の突起10と透過素子3上の開口との間に溝状の切り欠き13が形成され,これはそれぞれの開口9を取り囲むとともに,溢れた接着剤を収容する。このような切り欠きは,場合により,透過素子3の底面にも設けることができる。
【0015】
本発明において提案する透過素子は,電磁波により硬化可能な接着剤により非透過性の部材を相互に面的に結合できる利点があり,その際,透過素子に入射する電磁波を,塗布された接着剤の方向に少なくとも部分的に転向又は散乱させる必要がある。
【0016】
いずれの場合にも,硬化に作用し又は硬化を開始させる電磁波は,透過素子により,通常は電磁波が当たらない場所に向けて屈折される。
【0017】
上述した方法,すなわち,先ず透過素子3をパレット1と,次にプランジャ2を透過素子3と接着するという段階的な方法に代えて,パレット1及びプランジャ2を同時に透過素子3と接着できる。このためには上記3個の部材,すなわちパレット1,透過素子3及びプランジャ2を,関連する接着剤層を設けた状態で組み立て,プランジャ2をパレット1に関して位置合わせする。その後,硬化を開始させる電磁波を透過素子3に入射させて双方の接着剤層,すなわちパレット1と透過素子3との間の接着剤層及び透過素子3とプランジャ2との間の接着剤層を同時に硬化させる。この場合,透過素子3に側面から入射した電磁波を双方の側,すなわちパレット1の方向及びプランジャ2の方向に確実に転向又は錯乱させる必要がある。
【0018】
透過素子に関連して,「透過」又は「透過性」とは,それぞれの素子が接着剤の硬化を開始させる電磁波を少なくとも部分的に通すことができ,透過素子に入射する電磁波をこの素子を介してそれぞれの接着剤層に案内できることを意味する。非透過性の部材とは,この場合,接着剤の硬化を開始させる電磁波を,塗布された接着剤層に面的に入射するようには透過させない部材を意味する。いずれの場合も,電磁波を全く通さない部材のみを意味するわけではない。
【0019】
透過素子に側面から入射する電磁波を塗布された接着剤の方向に転向させるやり方には,複数の可能性がある。1つには,透過素子の材料の選択により電磁波に干渉できる。他のやり方として,相互に結合されるべき部材の両方のうち少なくとも一方に,上記で説明したような転向面を設ける。
【0020】
プランジャをパレットに機械的に固定する従来のシステムと比較して,本発明のシステムには,プランジャをパレットに非常に迅速かつ正確に固定できるという点で,著しい利点がある。機械的な固定と比較して,接着することでプランジャを実質的に力を加えることなく固定できるので,プランジャを迅速に,高い絶対的な精度でパレットに固定できる。プランジャをこのようにパレットに固定することで,プランジャを必要に応じて容易かつ迅速に交換し,あるいは精密にプレス機に固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】2個の不透過性の部材を結合するシステムの主要構成部材を示す斜視図である。
【図2】システムの主要構成の拡大図である。
【図3】システムにおける2個の個別部材の縦断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 パレット
2 プランジャ
2a 先端部
3 透過素子
4 心出し素子/鋳型
4a 鋳型孔
5,6 チャック
7 光源
8 フレーム
9 開口
10 突起
11 斜面
13 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非透過性の部材(1,2)を電磁波により硬化可能な接着剤を用いて結合するシステムであって,
少なくとも部分的に透過性を有する透過素子(3)を含み,該透過素子(3)が,透過素子(3)に入射する電磁波により,透過素子(3)及び/又は非透過性の部材(1,2)に塗布された接着剤の硬化を開始させるように,相互に結合されるべき前記部材(1,2)の間に挿入可能であることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記透過素子(3)がディスク状に構成され,前記接着剤がその上に面的に塗布されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記透過素子(3)が2つの平坦で平行な表面を具え,これらがそれぞれ1つの非透過性の部材(1,2)と接着されていることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記透過素子(3)が,該透過素子に側面から入射する電磁波の少なくとも一部を透過素子(3)及び/又は非透過性の部材(1,2)上に設けた接着剤層の方向に転向又は散乱させる材料から製造されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のシステム。
【請求項5】
前記透過素子(3)が,ガラス又はプラスチック,特にポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートから製造されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記透過素子(3)が,孔穴,凹部又は開口(9)を具えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
互いに結合されるべき部材(1)の少なくとも1つが突起(10)を具えるとともに,前記透過素子(3)が前記突起(10)に対応するように配置された開口(9)を具え,前記部材(1,2)が結合された状態において,前記突起(10)がこの開口の内部に延びることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記突起(10)が2つの互いに結合されるべき部材(1)の少なくとも一方に配置され,この突起(10)が前記透過素子(3)よりも高く,別の非透過性の部材(2)のための支持体又はストッパとして機能することを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記突起(10)が側面に配置された面(11)を具え,この面が,前記透過素子(3)に入射する電磁波の少なくとも一部を前記素子及び/又は非透過性の部材(1,2)上に面的に設けた接着剤層の方向に転向又は散乱させるように構成されていることを特徴とする請求項7又は8に記載のシステム。
【請求項10】
前記透過素子(3)及び/又は非透過性の部材(1,2)が,溢れた接着剤を収容するように構成された切り欠き(13)を具えることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
少なくとも1つの光源(7)を具え,これにより,接着剤の硬化を開始させる電磁波が前記少なくとも部分的に透過性の素子(3)の内部へ入射可能とされていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記光源(7)が複数の発光ダイオードを含むことを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
一方の非透過性の部材(2)を他方の非透過性の部材(1)に対して位置合わせするための手段(4,4a)を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記非透過性の部材のうち一方が,チャック(6)に固定可能なパレット(1)であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記非透過性の部材のうち一方が,ツール(2)又は加工品であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
非透過性の部材(1,2)を光線の照射により硬化可能な接着剤を用いて結合する方法であって,前記双方の互いに結合されるべき部材(1,2)の間に少なくとも部分的に透過性を有する透過素子(3)を挿入し,硬化を開始させる電磁波を前記透過素子(3)に照射することにより,前記部材(1,2)を結合するために設けた接着剤層の硬化を開始させることと特徴とする方法。
【請求項17】
前記透過素子(3)及び/又はこれにより結合されるべき非透過性の部材(1,2)に接着剤層を設け,その後,硬化を開始させる電磁波を前記透過素子(3)を介して前記接着剤層に照射することにより前記接着剤層を硬化させることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
先ず前記透過素子(3)を第1の非透過性の部材(1)に接着し,次に第2の非透過性の部材(2)及び/又は前記透過素子(3)に接着剤層を設け,硬化を開始させる電磁波を前記透過素子(3)に照射することにより接着剤層の硬化を開始させることを特徴とする請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
接着剤の硬化を開始させる電磁波の照射の前に,前記相互に結合されるべき部材(1,2)を正確に相互に位置合わせすることを特徴とする請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記透過素子(3)を第1の接着剤層により第1の非透過性の部材(1)に,第2の接着剤層により第2の非透過性の部材(2)に結合し,前記互いに結合されるべき部材(1,2)の双方を正確に相互に位置合わせした後に,双方の接着剤層のうち少なくとも一方に前記透過素子(3)を介して電磁波を照射することを特徴とする請求項16〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜15のいずれか一項に記載のシステムを,ツール(2)又は加工品をクランプ装置により固定可能なパレットに正確に位置合わせして固定するのに使用する固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−173633(P2008−173633A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10419(P2008−10419)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(502454802)エロワ アーゲー (8)
【氏名又は名称原語表記】EROWA AG
【Fターム(参考)】