説明

光線路識別システム及び方法

【課題】個々の光ファイバ心線を特別な細工を施すことなく正確に識別できるようにし、これにより識別作業に要する手間と費用を軽減しかつ伝送損失を高く維持する。
【解決手段】設備ビル1内に試験装置10を設け、この試験装置10から試験光を識別対象の光線路に光カプラ7を介して入射し、この試験光のONUによる反射光(戻り試験光)を上記光カプラ7を介して試験装置10で受光する。そして、この試験装置10による上記戻り試験光の受光波形データを情報処理装置14に転送し、情報処理装置14において当該受光波形データと波形データベース12に予め記憶してあるデフォルト波形データとの時間軸上における相関を求め、相関値がしきい値以下となるデフォルト波形データに対応する心線番号を上記試験装置10に返送して表示デバイス10−10に表示するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のファイバ心線を束ねた光ファイバケーブルを敷設し、上記光ファイバ心線を各々光線路として用いて光通信を行う光通信ネットワークにおいて、上記光線路を識別するための光線路識別システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信ネットワークの主流は光ファイバを用いた高速大容量ネットワークへとシフトしつつあり、光通信ネットワークの設備量が増加している。光通信ネットワークの構成は、例えば通信事業者の拠点(セントラルオフィス)にOLT(Optical Line Terminal)を設置し、このOLTに接続された屋内の光ファイバ心線を、接続盤においてコネクタにより接続することにより屋外に敷設される光ファイバ心線に接続する。そして、この屋外の光ファイバ心線を地下や電柱等の架空を経て加入者宅に導き、加入者宅の屋内に配置されたONU(Optical Network Unit)に接続するものとなっている。
【0003】
ところで、この種の光通信ネットワークに用いる光ファイバ心線は、複数本が束ねられて光ファイバケーブルを構成し、さらにこの光ファイバケーブルが多条敷設されるようになっている。したがって、光通信ネットワークの建設や保守に際しては、例えば接続盤に接続された多数の光ファイバ心線の中から作業を実施すべき心線を識別し特定する作業が必要となる。
【0004】
そこで従来では、例えば先ずデータベースに格納された情報から作業すべき心線番号と関連付けられたケーブル番号を抽出し、続いて端子盤に取り付けられた心線番号の表示に基づいて作業対象の光ファイバ心線を特定するという手法を採用している。しかし、データベースに対し心線番号とケーブル番号との関連付けを誤登録してしまうと、そのまま間違った心線を選択してしまうことになり、作業対象の光ファイバ心線を正しく特定することができない。
【0005】
一方、光ファイバ心線を識別するための別の方法として、以下のようなものが提案されている。すなわち、光ファイバ心線の一部において光ファイバコアを部分的に変化させることで、光ファイバ心線ごとに散乱光コードパターンを形成する。そして、散乱光パワー分布を光ファイバ心線の片端において測定する際に、上記散乱光コードパターンにより反射光スペクトルが固有に変化することを利用して光ファイバ心線を特定するものである(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−309904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記従来の識別方法では、光ファイバ心線の本数分に相当する膨大な数の散乱光コードパターンを生成する必要があり、またこの散乱光コードパターンを光ファイバ心線のコアに埋め込むには多くの手間と費用がかかる。さらに、散乱光コードパターンを埋め込んだ部位において伝送損失が発生する。この伝送損失は散乱光コードパターンが多値化するほど増加するため、通信伝送距離が制限される。
【0008】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、個々の光ファイバ心線を特別な細工を施すことなく正確に識別できるようにし、これにより識別作業に要する手間と費用を軽減しかつ伝送損失を高く維持することが可能な光線路識別システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためにこの発明の一つの観点は、局側設備と複数の加入者宅設備との間に複数の光線路を敷設した光通信網で使用され、前記複数の光線路を前記局側設備で識別する光線路識別システムにあって、前記局側設備から前記複数の光線路の各々に対し波長及びパルス幅が予め定めた試験光を送信し、当該試験光が前記複数の加入者宅設備により反射して前記局側設備に戻ったときの戻り試験光の波形を時系列上で計測する。そして、前記時系列上で計測された戻り試験光の波形データと予め記憶手段に記憶しておいたデフォルト波形データとの時系列上における相関の度合いを計算し、この計算された相関の度合いをもとに前記光線路を識別するようにしたものである。
【0010】
すなわち、局側設備と複数の加入者宅設備との間に敷設される各光線路はそれぞれ固有の線路長を持つことに着目し、局側設備から加入者宅設備に向けて各光線路へ送信した試験光が加入者宅設備で反射されて局側設備に戻ってくるときの受光タイミングと、予め記憶した各光線路の固有の受光タイミングとの相関を求めることにより、光線路を識別するようにしている。
【0011】
したがって、従来技術のように、光ファイバ心線に反射光スペクトルを固有に変化させる特殊な散乱光コードパターンを形成することなく、簡単かつ安価に各光線路を識別することが可能となる。また、光ファイバ心線に散乱光コードパターンを形成する必要がないので、光ファイバ心線による伝送損失を増加させずに済む利点がある。
【0012】
また、この発明の一つの観点は以下のような態様を備えることも特徴とする。
第1の態様は、前記相関の度合いを計算する際に、前記時系列上で計測された戻り試験光の波形データと予め記憶手段に記憶しておいたデフォルト波形データとの時系列上における相関の度合いを計算すると共に、前記時系列上で計測された戻り試験光の波形データと予め記憶手段に記憶しておいたデフォルト波形データとの受光パワーの相関の度合いを計算する。そして、上記計算された時系列上の相関の度合いと、上記計算された受光パワーの相関の度合いをもとに、前記光線路を識別するものである。
このようにすると、時系列上の相関の度合いと受光パワーの相関の度合いの両方を考慮して光線路が識別されることになるので、時系列上の相関の度合いのみに基づいて光線路を識別する場合に比べ、識別精度を高めることが可能となる。
【0013】
第2の態様は、光線路を識別する際に、計算された相関の度合いを予め設定されたしきい値と比較し、相関の度合いがしきい値に満たない場合には該当する光線路に接続された加入者宅設備が追加又は削除されたと判断し、その旨の情報を出力するようにしたものである。
このようにすると、光線路の敷設後に、例えば加入者宅設備でONUの追加又は取り外しが行われた場合に、その旨の情報が報知されることになる。この結果保守作業者は、この報知情報をもとに光線路の識別だけでなく、光線路ごとに当該光線路に接続された加入者宅設備の変更を確認することが可能となる。
【0014】
第3の態様は、前記複数の加入者宅設備の各々に、試験光の波長成分を反射するターミネーションフィルタをさらに設けるようにしたものである。
このようにすると、ターミネーションフィルタにより反射された、より光パワー強度の高い戻り試験光の受光波形データをもとに光線路を識別することができ、これにより既存のONUにより反射される戻り試験光の受光波形データを用いる場合に比べ識別精度を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
すなわちこの発明の1つの観点によれば、個々の光ファイバ心線を特別な細工を施すことなく正確に識別できるようにし、これにより識別作業に要する手間と費用を軽減しかつ伝送損失を高く維持可能な光線路識別システム及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る光線路識別システムを備えた光通信ネットワークシステムの構成を示す図。
【図2】図1に示した光線路識別システムの試験装置の構成を示すブロック図。
【図3】図2に示した試験装置において受信される戻り光試験信号の波形の一例を示す図。
【図4】この発明の第2の実施形態に係る光線路識別システムを備えた光通信ネットワークシステムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1は、この発明の第1の実施形態に係る光線路識別システムを備えた光通信ネットワークシステムの構成を示す図である。
図1において、通信事業者が運用する設備ビル1内には複数のOLT(Optical Line Terminal)4,4,…が設置され、これらのOLT4,4,…にはそれぞれ屋内光ファイバ心線5′,5′,…が接続される。これらの屋内光ファイバ心線5′,5′,…は束ねられて屋内光ファイバケーブル5を構成する。また、設備ビル1内には接続盤8が設置され、この接続盤8の屋内側の端子群に上記屋内光ファイバ心線5′,5′,…がコネクタにより接続される。
【0018】
一方、接続盤8の屋外側の端子群には、屋外光ファイバ心線6′,6′,…の一端がコネクタにより接続される。これらの屋外光ファイバ心線6′,6′,…は束ねられて屋外光ファイバケーブル6を構成し、地下や電柱等の架空に敷設される。また、上記屋外光ファイバ心線6′,6′,…の終端はそれぞれ屋外光スプリッタ9に接続される。屋外光スプリッタ9は、上記OLT4,4,…から屋内光ファイバ心線5′,5′,…及び屋外光ファイバ心線6′,6′,…を介して伝送された下り光信号を光カプラ等の多分岐光デバイスを用いて等分岐するもので、その分岐先側の端子群には加入者宅用の光ファイバ心線11−1〜11−mが接続されている。これらの加入者宅用の光ファイバ心線11−1〜11−mはそれぞれ異なる加入者宅に引き込まれ、加入者宅内に配置されたONU(Optical Network Unit)2−1〜2−mに接続される。ONU2−1〜2−mは、ユーザ・網間のインタフェース機能を備える。
【0019】
かくして、設備ビル1内のOLT4,4,…と各加入社宅内のONU2−1〜2−mとの間で光信号の伝送が可能となる。なお、この光信号の伝送のために使用される、屋内光ファイバ心線5′,5′,…、接続盤8、屋外光ファイバ心線6′,6′,…、屋外光スプリッタ9及び加入者宅用の光ファイバ心線11−1〜11−mを接続した個々の通信経路を光線路と呼ぶ。
【0020】
ところで、本実施形態の光線路識別システムは以下のように構成される。
すなわち、設備ビル1内には試験光を送受信するための試験装置10が設置されている。また接続盤8内には、上記光線路に介挿される状態で光カプラ7,7,…が設置されている。光カプラ7,7,…にはそれぞれ上記試験光を合分波するためのポートが設けられており、この合分波ポートに上記試験装置10が接続される。
【0021】
すなわち、光カプラ7,7,…の合分波ポートを使用することで、OLT4,4,…とONU2−1〜2−mとの間の通信経路を切断することなく、各光線路に対し試験光を送信しかつ当該試験光の上記ONU2−1〜2−mによる反射光を受信することを可能としている。なお、この反射光はレイリー後方散乱光及びフレネル反射光を主成分とするもので、戻り試験光と呼ぶ。
【0022】
試験装置10は以下のように構成される。図2はその構成を示すブロック図である。すなわち試験装置10は、光源10−1と、光カプラ10−2と、受光部10−3と、アナログ/ディジタル(A/D)変換器10−4と、制御ユニット10−5と、試験光線路10−6を備え、さらに通信ユニット10−7と、入出力インタフェースユニット10−8を備えている。
【0023】
光源10−1は、上記OLT4,4,…とONU2−1〜2−mとの間で伝送される通信用の光信号とは異なる波長のパルス光を発生するもので、このパルス光を試験光として光カプラ10−2を介して試験光線路10−6へ送出する。試験光線路10−6は、上記光カプラ7,7…の試験用合分波ポートに対し任意にコネクタ接続されるようになっており、上記試験光は光カプラ7,7…の試験用合分波ポートに入力される。
【0024】
受光部10−3は、上記光カプラ7,7,…の試験用合分波ポートにより分岐された戻り試験光を、上記光カプラ10−2を介して受光してその受光波形を表すアナログ電気信号を出力する。A/D変換器10−4は、上記受光部10−3から出力された受光波形を表すアナログ電気信号を時間軸方向にサンプリングしてディジタル信号に変換する。
【0025】
制御ユニット10−5は例えばマイクロコンピュータを備えたもので、以下の制御機能を備える。
(1) 上記A/D変換器10−4から受光波形のディジタル信号を取り込み、この取り込んだ受光波形のディジタル信号、つまり戻り試験光の受光波形データを、通信ユニット10−7から通信ネットワーク13を介して情報処理装置14へ送信する処理。
(2) 情報処理装置14から通信ネットワーク13を介して返送された光線路の識別結果を表す情報を通信ユニット10−7から受け取り、この光線路識別結果を表す情報を表示するための表示データを生成して、この表示データを入出力インタフェースユニット10−8へ出力する処理。
【0026】
入出力インタフェースユニット10−8には、入力デバイス10−9と、表示デバイス10−10が接続されている。入力デバイス10−9は、キーボードやマウス或いはタブレット式の入力デバイスからなり、オペレータが光線路の識別作業に必要な情報を入力するために使用される。表示デバイス10−10は例えば液晶表示器からなり、上記入出力インタフェースユニット10−8から供給される光線路識別結果の表示データを表示するために用いられる。
【0027】
情報処理装置14は、例えばパーソナル・コンピュータ或いはサーバ・コンピュータからなり、以下の処理機能を有している。
(1) 上記試験装置10により受光された、ONU2−1〜2−mによる戻り試験光の受光波形データを、試験装置10から通信ネットワーク13を介して受け取る機能。
(2) 上記受け取った戻り試験光の受光波形データと、波形データベース12に予め記憶されているデフォルトの波形データとの時間軸上の相関を計算する処理。
(3) 上記相関度の計算結果をもとに光線路を識別し、その識別結果を表す情報を通信ネットワーク13を介して試験装置10へ返送する処理。
【0028】
なお、通信ネットワーク13としては、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(Local Area Network)やWiMAX(登録商標)等の等の近距離データ通信ネットワーク、LAN等の有線ネットワーク、インターネットを含む公衆ネットワークを使用することができる。
【0029】
(動作)
次に、以上のように構成されたシステムによる光線路識別動作を説明する。
(1)準備
オペレータは、光カプラ7,7,…の一つに試験装置10の試験光線路10−6を接続し、実際に試験光を送信してONU2−1〜2−mによる戻り試験光を受光する。そして、この戻り試験光の受光波形データを通信ネットワーク13を介して情報処理装置14に送り、対応する光線路の識別情報(心線番号)と関連付けて、これをデフォルトデータとして波形データベース12に記憶させる。
【0030】
以後同様に、すべての光カプラ7,7,…に対し試験装置10の試験光線路10−6を順次接続し、これによりすべてのONUによる戻り試験光の受光波形データを計測する。そして、この計測された受光波形データを各々対応する光線路の識別情報(心線番号)と関連付けて、デフォルトデータとして波形データベース12に記憶させる。
【0031】
(2)光線路の識別
作業者は、識別対象の光線路を含む屋外光ファイバケーブル6が接続された光カプラ7の試験用合分波ポートに対し、試験装置10の試験光線路10−6を接続する。そして、入力デバイス10−9において試験開始コマンドを入力する。
そうすると、制御ユニット10−5の制御の下で光源10−1から試験光が発生され、この試験光が光カプラ10−2及び試験光線路10−6を介して上記光カプラ7の試験用合分波ポートに入射される。この試験光は、屋外光ファイバ心線6′を介して屋外光スプリッタ9に伝送され、この屋外光スプリッタ9により等分岐されたのち、加入者宅用の光ファイバ心線11−1〜11−mを介して各加入者宅のONU2−1〜2−mに伝送される。
【0032】
各ONU2−1〜2−mでは、例えばレイリー後方散乱及びフレネル反射により上記試験光の反射光が発生する。そしてこの反射光は、戻り試験光として、加入者用の光ファイバ心線11−1〜11−m、屋外光スプリッタ9及び屋外光ファイバ心線6′を介して設備ビル1内の接続盤8に伝送され、この接続盤8の光カプラ7により分岐されて試験装置10に導かれる。
【0033】
試験装置10では、上記戻り試験光が光カプラ10−2により分岐されて受光部10−3に受光され、ここで受光波形を表すアナログ電気信号に変換される。そして、A/D変換器10−4により、アナログ電気信号からディジタル信号により表される受光波形データに変換され、制御ユニット10−5に取り込まれる。制御ユニット10−5は、上記戻り試験信号の受光波形データを通信ユニット10−7から通信ネットワーク13を介して情報処理装置14へ転送する。
【0034】
情報処理装置14では、上記戻り試験光の受光波形データが受信されると、この受信された戻り試験光の受光波形データと、波形データベース12に予め記憶されているデフォルトデータとの時間軸上の相関が計算される。そして、この相関の計算結果をもとに光線路が識別され、その識別結果を表す情報が通信ネットワーク13を介して試験装置10へ返送される。試験装置10では、上記情報処理装置14から返送された光線路の識別結果を表す情報が受信されると、この光線路識別結果を表す情報を表示するための表示データが生成され、この表示データが入出力インタフェースユニット10−8を介して表示デバイス10−10に表示される。
【0035】
以上の動作をさらに詳しく説明する。
すなわち、レイリー散乱光の反射率R_rsは、αr をレイリー散乱による光損失、Sをレイリー散乱による後方に戻る光の割合、Wを入力パルスの半値全幅、vo を光ファイバ中の光速とすると、以下の式で表される。
【数1】

【0036】
ただし、αr は波長により係数が異なり、1650nmにおいて0.3dB/km程度である。Sはシングルモードファイバの場合、以下のように表される。
【数2】

ただしwはガウスビームスポットサイズ、aは光ファイバのコア半径、νは正規化周波数、n1 は光ファイバコア屈折率、n2 はクラッドの屈折率である。
【0037】
例えば、試験光パルス幅を10nsとすると、レイリー散乱光レベルは入力パルスピークパワーに対して、73dBとなる。これに対し、光線路中で発生するフレネル反射点としては光コネクタによる接続点、光スプリッタ9、開放端等がある。 屋外光スプリッタ9より下流側における反射パワーは、以下のように表される。
【数3】

【0038】
また、各分岐線路遠端部における反射パワーは、
【数4】

と表される。
ただし、Pは屋外光スプリッタ9の直前の試験光ピークパワー、r_o は開放端における反射率、r_c はコネクタにおける反射率、r_t は分岐線路遠端における反射率、mは0以上n以下の整数であり屋外光スプリッタ9より下流の光線路の数、lは線路損失である。また、nは屋外光スプリッタ9における分岐回数であり、例えば8分岐スプリッタではn=3である。
【0039】
r_o ,r_c ,r_t は、それぞれ3.16%、0.01%、0.01% (反射量15dB、40dB、40dB)程度である。また、屋外光スプリッタ9より下流側の光ファイバ心線11−1〜11−mの線路長は数百m程度でかつ接続点数も限定されるため、l は各々の屋外光スプリッタ9のコネクタから分岐線路遠端までの損失であり、およそ透過率63%(損失2dB)程度である。
【0040】
式(3) 及び式(4) に示すようにフレネル反射は、光パルス(OTDR)試験においては試験光のパルス幅に依存しない反射パワーを伴う。このとき、前述したようにレイリー散乱光パワーに対するフレネル反射光は大きく、OTDR波形上で急峻なパワー変化を伴う。図3は、光分岐部を含む光線路に対して光パルス(OTDR)試験を実施したときの、戻り試験光の受光波形の一例を示すもので、横軸は時間、縦軸は受光パワーをそれぞれ示す。
【0041】
各光ファイバ心線11−1〜11−mの長さは、各加入者宅に設置されたONU2−1〜2−mまでの敷設ルートに依存するため、屋外光スプリッタ9の下流側の線路長に応じた反射ピークが発生する。試験装置10を基点とする光線路長Lに対し、戻り試験光を受光するまでの遅延時間は、
【数5】

を含む。ただしc は光速、n は光ファイバコアの屈折率である。
【0042】
試験装置10から屋外光スプリッタ9までの距離をLs 、屋外光スプリッタ9から各分岐線路遠端、つまりONU2−1〜2−mまでの距離をL1 ,L2 ,L3 ,…とすると、戻り試験光のピークはそれぞれ、試験光を入射してから
【数6】

の時間位置に発生する。
図3では、屋外光スプリッタ9による反射光は時刻ts に発生し、各ONU2−1〜2−mによる各反射光はそれぞれ時刻ts+t1,ts+t2,…ts+tmに発生した場合を例示している。
【0043】
すなわち、試験装置10においては、光カプラ7,7,…の試験用合分波ポートから屋外光スプリッタ9までの距離と、屋外光スプリッタ9から各加入者宅のONU2−1〜2−mまでの距離に応じた固有の受光波形を有する戻り試験光が時系列上で計測することができる。
【0044】
次に、情報処理装置14による光線路の識別処理について述べる。
戻り試験光の受光波形とデフォルト波形との相関度を求める方法としては、例えば波形データベース12に予め記憶されたデフォルト波形f_s(t)と、計測された時系列上の受光波形f_m(t)との受光パワーの差分
Σ|f_s(t)-f_m(t)|
を算出し、その差がしきい値より小さい場合に相関度が高いと判定する。このとき、一定の信号レベル以上のデータのみを用いて相関度を求めることで、戻り試験光の最低受信感度よりも低い雑音信号の影響を除いて、相関値の精度を高めることができる。
【0045】
そして、上記相関度が高いと判定されたデフォルト波形に対応付けられている心線番号が波形データベース12から読み出され、この読み出された心線番号を表す情報が通信ネットワーク13を介して試験装置10へ返送される。試験装置10では、上記情報処理装置14から返送された光線路の心線番号を表す情報が受信されると、この心線番号が表示デバイス10−10に表示される。作業者は、この表示デバイス10−10に表示された心線番号により、作業を実施する光ファイバ心線が正しいか否かを確認することが可能となる。
【0046】
以上詳述したように第1の実施形態では、設備ビル1内に試験装置10を設け、この試験装置10から試験光を識別対象の光線路に光カプラ7を介して入射し、この試験光のONUによる反射光(戻り試験光)を上記光カプラ7を介して試験装置10で受光する。そして、この試験装置10による上記戻り試験光の受光波形データを情報処理装置14に転送し、情報処理装置14において当該受光波形データと波形データベース12に予め記憶してあるデフォルト波形データとの時間軸上における相関を求め、相関値がしきい値以下となるデフォルト波形データに対応する心線番号を上記試験装置10に返送して表示デバイス10−10に表示するようにしている。
【0047】
すなわち、試験装置10から各ONU2−1〜2−mまでの距離に応じて、試験装置10で計測される戻り試験光の受光タイミングが各光線路間で固有の値となることに着目し、この受光タイミングをもとに光線路を識別するようにしている。したがって、光ファイバ心線に、反射光スペクトルを固有に変化させる特殊な散乱光コードパターンを形成することなく、簡単かつ安価に各光線路を識別することが可能となる。また、光ファイバ心線に散乱光コードパターンを形成する必要がないので、光ファイバ心線による伝送損失を増加させずに済む。
【0048】
[第2の実施形態]
この発明の第2の実施形態は、各ONU2―1〜2−mの入力端に、通信信号とは異なる波長帯域を使用する試験信号のみを反射しかつ遮断するように設計されたターミネーションフィルタをそれぞれ設置するようにしたものである。
【0049】
図4は、この発明の第2の実施形態に係る光線路識別システムを備えた光通信ネットワークシステムの構成を示す図である。なお、同図において前記図1と同一部分には同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0050】
各加入社宅内のONU2―1〜2−mの入力端には、ターミネーションフィルタ3−1〜3−mがそれぞれ設置されている。このターミネーションフィルタ3−1〜3−mは、OLT4,4,…とONU2―1〜2−mとの間で伝送される光通信信号とは異なる波長帯域を使用する試験信号のみを反射しかつ遮断するように設計されている。試験光波長としては、通信光波長帯域として定義されている1260〜1625nmの波長の範囲外として、例えば1650nm波長を用いる。なお、ターミネーションフィルタ3−1〜3−mにおける試験光の遮断量はコネクタ以上の反射率を持っていればよい。
【0051】
このような構成であるから、第1の実施形態に比べ、分岐線路遠端における試験光の反射効率を高くすることができ、これにより試験装置10における戻り試験信号のS/Nを高めて受光波形の検出精度を高めることができる。なお、このターミネーションフィルタ3−1〜3−mを設置しても、通信光波長帯域は制限されないため伝送信号波長が制限されることはない。
【0052】
[第3の実施形態]
前記第1の実施形態で述べたように波形データ間の時間相関を計算するには、波形データベース12に大容量の記憶領域を設け、かつ情報処理装置14において膨大な計算を行う必要がある。そこで、この発明の第3の実施形態では、光パルス(OTDR)波形の特徴点を抽出し、特徴点同士の相関度を計算することで検出時間を短縮するようにしたものである。
【0053】
屋外光スプリッタ9及びターミネーションフィルタ3−1〜3−mによる反射光を検出するためには、それぞれにおける反射率がレイリー散乱光レベルから十分大きければよい。いま、開放端における反射率r_o 、コネクタにおける反射率r_c 、分岐線路遠端における反射率r_tを、第1の実施形態と同様にそれぞれ3.16%、0.01%、0.01% (反射量15dB、40dB、40dB)とすると、m =0 の場合に屋外光スプリッタ9において反射光のピークの最小値を取る。
【0054】
したがって、
【数7】

となるパルス幅w を設定すれば、全ての特徴点を抽出することが可能である。この条件は、パルス幅が短い程満たされ、さらに短いパルス幅を用いたパルス測定では高い空間分解能が得られる。このため、各ターミネーションフィルタ3−1〜3−mの設置位置で反射した試験光の特徴点の検出が容易になる。
【0055】
試験光のパルスピーク値に基づく特徴点は、波形データの微分変化を計測したパルス幅で長手方向に逐次解析し、正の傾きが生じた始めた点を検出することにより検出される。このようにして光パルス(OTDR)波形から反射光のピーク位置(Ls ,L1 ,L2 ,L3 ,…)を得る。そして、このピーク位置(Ls ,L1 ,L2 ,L3 ,…)の情報を、光ファイバ心線の心線番号と関連付けて、波形データベース12にデフォルトデータとして記憶する。
【0056】
この状態で、例えば工事対象となる光線路を識別する場合、試験装置10により当該光線路の特徴点を表す反射光の波形データを上記デフォルトデータを登録する過程と同様の処理により検出する。そして、情報処理装置14において、上記試験装置10により得られた反射光のピーク位置を、波形データベース12に予め記憶されたピーク位置(Ls ,L1 ,L2 ,L3 ,…)のデフォルトデータと比較する。そして、これらのピーク位置のデフォルトデータのうち、上記検出されたピーク位置と最も近いデフォルトデータに対応付けられた心線番号を波形データベース12から読み出し、この読み出された心線番号を情報処理装置14から試験装置10に返送し、表示デバイス10−10に表示する。
【0057】
以上述べたように第3の実施形態では、光パルス(OTDR)波形から反射光のピーク位置(Ls ,L1 ,L2 ,L3 ,…)を検出して、このピーク位置(Ls ,L1 ,L2 ,L3 ,…)の情報のみを当該反射光の特徴点情報として波形データベース12に記憶している。そして、計測された反射光のピーク位置を、上記記憶されたピーク位置(Ls ,L1 ,L2 ,L3 ,…)と比較して最も近いピーク位置を検出することで、作業対象の光線路を識別するようにしている。したがって、ピーク位置間の比較のみで光線路を識別することが可能となり、これにより波形データベース12に大容量の記憶領域を設ける必要がなくなり、さらに情報処理装置14で膨大な相関演算を行うことも不要となる。
【0058】
なお、識別精度をさらに高めるために、距離に対応する時間軸上の情報に加えて、反射光の受光パワー情報が付与された(Ls:Ps ,L1:P1 ,L2:P2 ,L3:P3 ,…)なる特徴点情報を用いてもよい。このようにすると、時間軸上でのピーク位置の類似度と、波形の受光パワーレベル間の類似度の両方を用いて、光線路を識別することが可能となり、これによりさらに高精度の識別処理が可能となる。
【0059】
また、光線路にコネクタ点が存在する場合には、光パルス(OTDR)波形に
r_c [dB]− Rs [dB]
のピーク反射が発生する。この点に着目し、このピーク反射をさらに特徴点として加えることで、検出精度をさらに高めることもできる。
【0060】
さらに、融着点等のフレネル反射の発生しない光ファイバ線路損失点では、レイリー散乱光レベルに損失分の段差が発生する。これを特徴点として加えることで、相関度の検出精度をさらに高めることが可能となる。
【0061】
さらに、屋外光スプリッタ9では、
【数8】

の損失が発生するため、レイリー散乱光レベルに損失分の段差が発生する。そこで、この点を特徴点として抽出条件に加える。このようにすることによっても、相関度の検出精度を高めることが可能となる。
【0062】
[第4の実施形態]
この発明の第4の実施形態は、計測された戻り試験光の受光波形データと予め記憶されたデフォルト波形データとの相関演算の結果から、ONUの増設及び削除の有無を判定し、この判定結果を表す情報を試験装置10の表示デバイス10−10に表示するようにしたものである。
【0063】
戻り試験光の受光波形データから特徴点(Ls ,L1 ,L2 ,L3 ,…)を検出し、この検出された特徴点と、波形データベース12に予め記憶されている光ファイバ心線の波形特徴点(Ld-s ,Ld-1 ,Ld-2 ,Ld-3 )との相関度を計算する。その際、受光波形データの特徴点がそれぞれ最も近くなる組み合わせを抽出し、波形データベース12に記憶されていない特徴点が検出された場合にはこれを設備追加点として表示する。また、波形データベース12に記憶された特徴点が検出されなかった場合には、これを設備削除点として表示する。
【0064】
このような処理を行うために、波形データベース12の更新が実行されなかった場合でも、心線番号を高い相関度が示されるように相関度の重み付けを行う。相関度の重み付け優先度としては、波形データベース12に記憶された波形データに対して組み合わせが得られた特徴点を用いてのみ相関度を求め、設備追加点及び削除点については相関度に影響させないようにする。
【0065】
以上述べたように第4の実施形態によれば、以下のような効果が奏せられる。すなわち、一般に屋外光スプリッタ9より下流側の設備は、加入者のリクエストによる通信サービスの開始・休止によって線路状態が頻繁に変更される。また、このような線路状態の変更は波形データベース12に即時反映されるとは限らない。これに対し本実施形態によれば、設備が増設された場合及び削除された場合にこれらの状態がそれぞれ判定されて表示デバイス10−10に表示されるので、作業者は上記した線路状態に変更変化を確認することが可能となる。
【0066】
[その他の実施形態]
前記各実施形態では、試験光の送受信及び受光波形の検出処理を試験装置10で行い、波形データ間の相関演算と心線番号の判定処理を情報処理装置14で行うようにしたが、これらの処理をすべて試験装置10内で行うようにしてもよい。また、試験装置10と情報処理装置14との間は、通信ネットワーク13ではなくUSBケーブル等の信号ケーブルを用いて1対1に接続するようにしてもよい。
【0067】
その他、局側設備としての設備ビルの構成、加入者宅設備の構成や、試験装置の構成、情報処理装置の構成、試験光の特性(パルス幅や光パワー)、波形データ間の相関演算と心線番号の判定処理内容等についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。
【0068】
要するにこの発明は、上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、各実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…設備ビル、2−1〜2−m…ONU、4…OLT、5…屋内光ファイバケーブル、5′,5′,…屋内光ファイバ心線、6…屋外光ファイバケーブル、6′,6′,…屋外光ファイバ心線、7…光カプラ、8…接続盤、9…光スプリッタ、10…試験装置、10−1…光源、10−2…光カプラ、10−3…受光器、10−4…A/D変換器、10−5…制御ユニット、10−6…試験光線路、10−7…通信ユニット、10−8…入出力インタフェースユニット、10−9…入力デバイス、10−10…表示デバイス、11−1〜11−m…加入者宅用の光ファイバ心線、12…波形データベース、13…通信ネットワーク、14…情報処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局側設備と複数の加入者宅設備との間に複数の光線路を敷設した光通信網で使用され、前記複数の光線路を前記局側設備で識別する光線路識別システムであって、
前記局側設備から前記複数の光線路の各々に対し波長及びパルス幅が予め定めた試験光を送信し、当該試験光が前記複数の加入者宅設備により反射して前記局側設備に戻ったときの戻り試験光の波形を時系列上で計測する手段と、
前記時系列上で計測された戻り試験光の波形データと、予め記憶手段に記憶しておいたデフォルト波形データとの、時系列上における相関の度合いを計算する相関計算手段と、
前記計算された相関の度合いをもとに前記光線路を識別する識別手段と
を具備することを特徴とする光線路識別システム。
【請求項2】
前記相関計算手段は、
前記時系列上で計測された戻り試験光の波形データと、予め記憶手段に記憶しておいたデフォルト波形データとの、時系列上における相関の度合いを計算する第1の計算手段と、
前記時系列上で計測された戻り試験光の波形データと、予め記憶手段に記憶しておいたデフォルト波形データとの、受光パワーの相関の度合いを計算する第2の計算手段と
を備え、
前記識別手段は、前記第1の計算手段により計算された時系列上の相関の度合いと、前記第2の計算手段により計算された受光パワーの相関の度合いをもとに、前記光線路を識別することを特徴とする請求項1記載の光線路識別システム。
【請求項3】
前記識別手段は、前記計算された相関の度合いを予め設定されたしきい値と比較し、相関の度合いがしきい値に満たない場合には、該当する光線路に接続された加入者宅設備が追加又は削除されたと判断してその旨の情報を出力する手段を、さらに備えることを特徴とする請求項1又は2記載の光線路識別システム。
【請求項4】
前記複数の加入者宅設備の各々は、前記試験光の波長成分を反射するターミネーションフィルタを、さらに備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光線路識別システム。
【請求項5】
局側設備と複数の加入者宅設備との間に複数の光線路を敷設した光通信網で使用され、前記複数の光線路を前記局側設備で識別する光線路識別方法であって、
前記局側設備から前記複数の光線路の各々に対し波長及びパルス幅が予め定めた試験光を送信し、当該試験光が前記複数の加入者宅設備により反射して前記局側設備に戻ったときの戻り試験光の波形を時系列上で計測する過程と、
前記時系列上で計測された戻り試験光の波形データと、予め記憶手段に記憶しておいたデフォルト波形データとの、時系列上における相関の度合いを計算する相関計算過程と、
前記計算された相関の度合いをもとに前記光線路を識別する識別過程と
を具備することを特徴とする光線路識別方法。
【請求項6】
前記相関計算過程は、
前記時系列上で計測された戻り試験光の波形データと、予め記憶手段に記憶しておいたデフォルト波形データとの、時系列上における相関の度合いを計算する第1の計算過程と、
前記時系列上で計測された戻り試験光の波形データと、予め記憶手段に記憶しておいたデフォルト波形データとの、受光パワーの相関の度合いを計算する第2の計算過程と
を備え、
前記識別過程は、前記第1の計算過程により計算された時系列上の相関の度合いと、前記第2の計算過程により計算された受光パワーの相関の度合いをもとに、前記光線路を識別することを特徴とする請求項5記載の光線路識別方法。
【請求項7】
前記識別過程は、前記計算された相関の度合いを予め設定されたしきい値と比較し、相関の度合いがしきい値に満たない場合には、該当する光線路に接続された加入者宅設備が追加又は削除されたと判断してその旨の情報を出力する過程を、さらに備えることを特徴とする請求項5又は6記載の光線路識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−237590(P2012−237590A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105358(P2011−105358)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】