説明

光触媒を使用して空気を浄化する方法と装置

酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆は、その被覆上に吸着する空気中の汚染物質を、水、二酸化炭素および他の物質に酸化する。酸化タングステンは、二酸化チタン上に単分子層を形成する。紫外光の光子が酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆により吸収されると、電子は価電子帯から伝導帯へ上げられて、価電子帯に正孔が生成される。価電子帯内の正孔は、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆上に付与される水と反応して、反応性ヒドロキシルラジカルを形成する。空気中の汚染物質が酸化タングステン/二酸化チタン光触媒上に吸着されると、ヒドロキシルラジカルは、汚染物質に作用して、水素原子を汚染物質から引抜く。ヒドロキシルラジカルは、汚染物質を酸化して、水、二酸化炭素および他の物質を生成する。酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆は、湿度変動に対する感受性が低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、光触媒表面へ吸着する空気中の気体状汚染物質を酸化して、二酸化炭素、水および他の物質を形成する空気系の酸化タングステン/二酸化チタン光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
室内空気は、ホルムアルデヒド、トルエン、プロパナール、ブテンおよびアセトアルデヒドのような揮発性有機化合物を含む微量の汚染物質を含有することがある。活性炭のような吸収剤空気フィルターが、これらの汚染物質を空気から除去するのに使用されてきている。空気がそのフィルターを通して流れるにつれて、フィルターは汚染物質の通過を阻止するので、汚染物質のない空気がフィルターから流出できる。フィルターを使用することの欠点は、フィルターが、汚染物質の通過を単に阻止するだけで、汚染物質を破壊しないことである。
【0003】
二酸化チタンは、汚染物質を破壊するために空気浄化装置における光触媒として使用されてきた。二酸化チタンが紫外光で照射されると、光子が二酸化チタンにより吸収されて、電子を価電子帯から伝導帯へ上げるので、価電子帯に正孔を生成し、かつ伝導帯に電子が付加される。上げられた電子は酸素と反応し、また価電子帯に残る正孔は水と反応して、反応性ヒドロキシルラジカルを形成する。汚染物質が二酸化チタン光触媒上に吸着すると、ヒドロキシルラジカルは、汚染物質に作用して、水、二酸化炭素および他の物質へ酸化する。従来技術の二酸化チタン光触媒の欠点は、その触媒の反応性が限定されていることである。加えて、湿度は、二酸化チタンの光触媒性能に、したがって汚染物質の酸化速度に非常に影響することがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属酸化物/二酸化チタン光触媒は、汚染物質を水の流れから除去するために水相光触媒として使用されてきた。水相の化学的性質は、空気相の化学的性質とかなり異なる。反応機構は、一般に、それぞれの相において異なる。したがって、水性相化学的性質用に構成された触媒は、気相化学的性質用に構成された触媒と同一の仕方で機能しない。加えて、ヒドロキシルラジカルは、光触媒表面から水性相に拡散することがあるが、光触媒表面から気相には拡散しない。結局、水相において、水中の水とイオン性化学種は、光触媒上の吸着部位に対して汚染物質と競合するので、光触媒性能を低下させる。
【0005】
ゾルゲル被覆プロセスが、光触媒被覆を生成するために基体へ付与される光触媒懸濁液を生成するのに使用されてきた。ゾルゲル被覆プロセスは、多浸漬被覆プロセスを通して、所望の光触媒負荷と高い付着性能を達成する。ゾルゲル被覆プロセスの欠点は、それが高価なチタン前駆物質(チタンイソプロポキシドのような)と複雑な還流/超音波処理手順を必要とすることである。したがって、ゾルゲル被覆プロセスは、費用がかかり、かつ労力を多く必要とする。
【0006】
このために、反応性が高く、かつ湿度変動に対する感受性が低い、汚染物質を酸化する空気系光触媒に対して、および光触媒を基体へ被覆する経済的なプロセスに対しての必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ハニカムのような基体上の酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆は、その被覆上に吸着する空気中の任意の汚染物質を、水、二酸化炭素および他の物質に酸化することにより、建物または車両内の空気を浄化する。
【0008】
ファンが、空気を空気浄化システム中に引込む。その空気は、先ず粒子フィルターを通して流れ、そのフィルターがダストまたは任意の他の大きい粒子を濾過除去する。ついで空気は、ハニカムの開放通路またはチャネルを通して流れる。ハニカムの表面は、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒で被覆されている。連続するハニカムの間に配置されている紫外線光源が、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆を活性化する。空気浄化システムの壁は、ハニカムの開放通路の内面上に紫外光を反射するために、好ましくは反射性物質でライニングされる。
【0009】
紫外光の光子が酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆により吸収されると、電子は価電子帯から伝導帯へ上げられて、価電子帯に正孔が生成される。伝導帯内の電子は、酸素により捕獲される。価電子帯内の正孔は、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆上に吸着される水と反応して、反応性ヒドロキシルラジカルを形成する。
【0010】
酸化タングステンは、二酸化チタン上に単分子層を形成する。空気中の汚染物質が酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆上に吸着されると、ヒドロキシルラジカルは、汚染物質に作用して、水素原子を汚染物質から引抜き、汚染物質を水、二酸化炭素および他の物質に酸化する。酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆は、湿度に対する感受性が低い。したがって、湿度は、従来技術の二酸化チタン光触媒と比べて、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の光触媒活性に対する影響は、かなり低い。
【0011】
本発明のこれらと他の特徴は、下記の明細書と図面から最も良く理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の種々の特徴と利点は、現在好ましい実施例の以下の詳細な説明から当業者にとり明らかになる。その詳細な説明に添付される図面が以下に簡単に説明される。
【0013】
図1は、部屋、事務所、もしくは自動車、列車、バスまたは航空機のような移送手段のキャビンのような内部空間12を含む建物、車両または他の構造物10を概略図示する。HVACシステム14が、内部空間12を暖房または冷房する。内部空間12内の空気が、通路16によりHVACシステム14中に引込まれる。HVACシステム14は、内部空間12から引出された空気16の温度を変更する。HVACシステム14が冷房モードで作動しているならば、空気は冷却される。代わりに、HVACシステム14が暖房モードで作動しているならば、空気は加熱される。ついで空気は、通路18により内部空間12へ戻されて、内部空間12の空気温度を変更する。
【0014】
図2は、揮発性有機化合物のような空気中の汚染物質を、水、二酸化炭素および他の物質に酸化することにより、建物または車両10内の空気を浄化するために使用される空気浄化システム20を概略図示する。汚染物質は、一酸化炭素のような酸化可能化学種、またはオゾンのような還元可能化学種でありうる。たとえば、汚染物質は、トルエン、プロパナール、ブテンまたはアセトアルデヒドのような揮発性有機化合物または半揮発性有機化合物でありうる。また汚染物質は、アルデヒド、ケトン、アルコール、芳香族化合物、アルケンまたはアルカンでもありうる。空気浄化システム20は、空気が通路16に沿ってHVACシステム14中に引込まれる前に空気を浄化できるか、または空気が、建物または車両10の内部空間12中に通路18に沿って吹込まれる前にHVACシステム14から出る空気を浄化できる。空気浄化システム20は、HVACシステム14と共に使用されない独立装置とすることもできる。
【0015】
ファン34が、入口22を通して空気浄化システム20中に空気を引込む。空気が粒子フィルター24を通過し、そのフィルターは、ダストまたは任意の他の大きい粒子の流れを阻止することによりこれらの粒子を濾過除去する。ついで空気は、ハニカム28を通過する。一例において、ハニカム28は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から成る。図3は、複数の六角形開放通路またはチャネル30を有するハニカム28の正面図を概略図示する。複数の開放通路30の表面は、酸化タングステン/二酸化チタン(WO3/TiO2)の光触媒被覆40で被覆され、その被覆は、紫外光により活性化されると、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40上に吸着される汚染物質を酸化する。以下で説明するように、空気がハニカム28の開放通路30を通過するときに、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40の表面上に吸着される空気中の汚染物質は、二酸化炭素、水および他の物質に酸化される。
【0016】
好ましくは、光触媒は二酸化チタンである。一例において、二酸化チタンは、ミレニウム(Millennium)チタニア、デグッサ(Degussa)P−25、または同等な二酸化チタンである。しかしながら、他の光触媒を使用できることが分かる。たとえば、光触媒は、ZnO、CdS、SrTiO3、Fe23、V25、SnO2、FeTiO3、またはPbOでもありうる。加えて、酸化タングステンは、好ましくは被覆として使用される。しかしながら、他の金属酸化物を被覆として使用できることが分かる。たとえば、金属酸化物は、ZnO、CdS、SrTiO3、Fe23、V25、SnO2、FeTiO3、PbOおよびそれらの組合せでありうる。これらの金属酸化物は、金、銀、パラジウム、白金およびルテニウムのような金属添加剤とも組合せできる。
【0017】
連続するハニカム28の間に配置される光源32が、開放通路30の表面上の酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40を活性化する。示されるように、ハニカム28と光源32は、空気浄化システム20において互い違いになる。すなわち、紫外光32は、ハニカム28それぞれの間に配置される。好ましくは光源32は、紫外線光源であり、180ナノメートルから400ナノメートルの範囲の波長を有する光を発生する。
【0018】
ついで浄化された空気は、出口36を通して空気浄化装置から出る。空気浄化システム20の壁38は、好ましくは反射性物質42でライニングされる。反射性物質42は、ハニカム28の開放通路30の表面に紫外光を反射する。
【0019】
低い圧力損失で特徴づけられる装置での汚染物質の除去は、2003年5月29日に出願され、代理人整理番号03−374を有し、「低い圧力損失での気相汚染物質除去」という名称の同時係属仮特許出願番号60/474,638に開示され、その開示は全体が参照によって組込まれる。
【0020】
図4aは、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒を調製する方法の流れ図を概略図示する。約1.0〜3.0mg/mlのパラタングステン酸アンモニウム((NH4101241)を含有する水溶液が調製される。好ましくは、その溶液は、約2.0mg/mlのパラタングステン酸アンモニウムを含有する。一定重量の二酸化チタン(62)が、懸濁液を形成するために、パラタングステン酸アンモニウム溶液中に添加されて分散される。
【0021】
結果として生じた懸濁液は、一晩攪拌され(64)、ついで分散発生器を有するホモジナイザー(66)を使用して約10〜30分間、均質化される。一例において、懸濁液は、7500rpmの速度で均質化され、また分散発生器は、30mmの径と15箇所のスロットを有する。
【0022】
回転式真空蒸発器のような乾燥装置(68)が、結果として生じた懸濁液を乾燥するまで蒸発させる。ついで、その生成物は、60〜80℃の温度において真空(70)で一晩さらに乾燥される。好ましくは、その生成物は、70℃の温度で乾燥される。
【0023】
ついで、その生成物は、空気の存在下、または流れる酸素とアルゴンガスの混合物の存在下で、350〜500℃の温度まで毎分1〜5℃の速さで生成物を加熱することにより、か焼される(72)。好ましくは、この生成物は、毎分1.5℃の速さで加熱される。生成物は、好ましくは、450℃の温度まで加熱される。というのは、この温度が、僅かに高い光触媒活性を提供するからである。所望の温度に一旦達すると、この温度は、約0.5〜3時間維持される。好ましくは、この温度は、一時間維持される。酸素の存在下で、か焼は、パラタングステン酸アンモニウムを酸化タングステン、水およびアンモニアまで分解する。
【0024】
図4bは、光触媒生成物を基体へ付与する方法の流れ図を概略図示する。一例として、結果として生じた酸化タングステン/二酸化チタン粉末が、25wt%の水性懸濁液を作成するために、蒸留水へ添加される(74)。ついで、その懸濁液は、分散発生器を有するホモジナイザーを使用して、7500rpmの速度で10〜30分間、均質化される(76)。結果として生じた酸化タングステン/二酸化チタンスラリーが、ついでハニカム28の表面へ付与される(78)。好ましくはハニカム28は、汚れと油を除去し、表面を清浄化して、付与される被覆のハニカム28への付着を強化するために、アセトンとメタノールで事前に清浄化される。
【0025】
その懸濁液は、噴霧、電気泳動、浸漬被覆によりハニカム28の表面へ付与される。懸濁液は、付与された後に、乾燥され、ハニカム28上に均一な酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40を形成する。
【0026】
均質化プロセスは、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40の性能に多大の影響を有する。ホモジナイザー(66)により生じる剪断力は、大きい酸化タングステン/二酸化チタン凝集塊を非常に小さい粒子に破壊するので、光触媒がハニカム28上に高度に分配されることが示唆される。したがって、必要な光触媒負荷を、均質化された懸濁液の単一の噴霧または浸漬のプロセスにより達成できる。加えて、光触媒被覆は、良好な付着性能を有する。懸濁液がハニカム28上に噴霧されるときに、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒は、ハニカム28上に十分に分散され、また必要で最小の光触媒負荷を堆積させるためには、単一の被覆プロセスだけで済む。
【0027】
均質化プロセスは、光触媒被覆40の重量負荷と全体性能に重要な影響を有する。酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40の負荷は、0.1mg/cm2から1.7mg/cm2の範囲であり、すなわち、光触媒被覆40は、1から20ミクロンの厚さを有する。好ましくは、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40は、0.5mg/cm2から1.0mg/cm2の範囲の負荷を有し、すなわち、光触媒被覆40は、4から8ミクロンの厚さを有する。単一の噴霧または浸漬被覆のプロセスを使用することにより、重量負荷が約0.8mg/cm2であり、その負荷は、光触媒性能の0.5mg/cm2の最小負荷を超える。
【0028】
空気浄化システム20の作動中に、ハニカム28の表面上の酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40を活性化するために、光源32が照射される。紫外光の光子が酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40により吸収されると、電子が価電子帯から伝導帯へ上げられて、価電子帯に正孔を生成する。汚染物質を二酸化炭素、水および他の物質に酸化するために、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40は、酸素と水の存在下になければならない。伝導帯へ上げられる電子は、酸素により捕獲される。価電子帯内の正孔は、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40上に吸着された水分子と反応して、反応性ヒドロキシルラジカルを形成する。
【0029】
空気中の汚染物質が酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40上に吸着されると、ヒドロキシルラジカルは、汚染物質に作用して、水素原子を汚染物質から引抜く。この方法において、ヒドロキシルラジカルは、汚染物質を酸化して、水、二酸化炭素および他の物質を生成する。
【0030】
図5に示されるように、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40の酸化タングステンは、十分に分散されて、二酸化チタンの表面上に単分子層を形成する。酸化タングステンの独立相は、X線回折および透過電子顕微鏡測定法を使用することにより、観察されない。酸化タングステンは、パラタングステン酸アンモニウム((NH4101241)と二酸化チタンの表面ヒドロキシル基との反応を通して、二酸化チタンの表面へ結合(graft)されるものと信じられる。結果として生じた酸化タングステンの完全な単分子層は、1個の原子厚さで二酸化チタンの表面全体を覆うことができるか、または結果として生じた酸化タングステンの部分的な単分子層は、二酸化チタンの表面を部分的に覆うことができる。二酸化チタン上の酸化タングステンの高い負荷(6mol%よりも大きい)により、二酸化チタンの表面に多層の酸化タングステンが生じて、その触媒の活性を少なくすることができる。
【0031】
二酸化チタン表面上の酸化タングステン化学種は、二酸化チタンの表面特性を変更する。たとえば、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆のpHは1.7であるのに対して、二酸化チタンの光触媒被覆のpHは9.5である。二酸化チタン上に酸化タングステンを負荷すると、二酸化チタンは僅かな塩基性から強い酸性へ変化する。二酸化チタンの表面酸性度が増加すると、汚染物質分子の光触媒表面への親和性が増加し、したがって光触媒の吸着力が増加するものと信じられる。光触媒の活性は、強化された吸着能力により向上される。加えて、表面酸性度の増加は、その表面上のヒドロキシラジカル基の密度を増加させ、したがってヒドロキシルラジカルの量を増加させて、光触媒反応を容易にする。
【0032】
光触媒被覆40の二酸化チタンは、ルチル結晶相を含有する。一例において、光触媒被覆40の二酸化チタンは、約20%のルチル結晶相と、約80%のアナターゼ結晶相とを含有する。
【0033】
本発明の酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40は、HVACシステムにおいて通常生じる湿度変動に対して高い安定性を有する。典型的には、HVACシステム14は、建物内で10〜60%の湿度範囲で作動する。従来技術の二酸化チタン被覆の光触媒性能は、水蒸気と気体状汚染物質が、二酸化チタン光触媒上の吸着部位について競合するので、空気中の水蒸気により影響されてきた。本発明の酸化タングステン/二酸化チタン光触媒は、水分子よりも汚染物質の親和性を増加する。したがって、湿度は、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆の酸化性能への影響を減少させる。言い換えれば、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒は、湿度の影響を補償する。
【0034】
図6は、相対湿度の関数としてアセトアルデヒド酸化の固有速度のグラフを図示する。図示されるように、従来技術の酸化チタン光触媒および本発明の酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の両方の酸化速度は、湿度が増加するにつれて減少する。しかしながら、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の酸化速度は、二酸化チタン光触媒の酸化速度よりも全ての湿度レベルにおいて高い。湿度が増加するにつれて、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の光触媒活性は、二酸化チタンの光触媒活性の減少よりも低い速度で減少する。
【0035】
図7は、相対湿度の関数としてプロパナール酸化の固有速度のグラフを図示する。図示されるように、湿度は、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の酸化速度に大きい影響を有しないし、またその酸化速度は、湿度が増加しても安定したままである。従来技術の酸化チタン光触媒の酸化速度は、湿度が増加するにつれて減少する。この場合でも、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の酸化速度は、二酸化チタン光触媒の酸化速度よりも全ての湿度レベルにおいて高い。
【0036】
図8は、相対湿度の関数としてトルエン酸化の固有速度のグラフを図示する。図示されるように、湿度は、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の酸化速度に大きい影響を有しないし、またその酸化速度は、湿度が増加しても安定したままである。従来技術の酸化チタン光触媒の酸化速度も、湿度が増加しても比較的安定したままである。しかしながら、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の酸化速度は、二酸化チタン光触媒の酸化速度よりも全ての湿度レベルにおいて高い。
【0037】
図9は、相対湿度の関数としてブテン酸化の固有速度のグラフを図示する。図示されるように、湿度は、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の酸化速度に影響を有し、またその酸化速度は、湿度が増加するにつれて減少する。従来技術の酸化チタン光触媒の酸化速度も、湿度が増加するにつれて減少する。しかしながら、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒の酸化速度は、二酸化チタン光触媒の酸化速度よりも全ての湿度レベルにおいて高い。
【0038】
種々の体積のパラタングステン酸アンモニウム懸濁液が、結果として生じた光触媒における二酸化チタン上の酸化タングステンの種々の負荷を達成するために、付与される。一例において、6.396gの二酸化チタンが、約2.0mg/mlのパラタングステン酸アンモニウムを含有する100ml、300mlおよび500mlの懸濁液へ個別に添加される。それに対応して、1mol%、3mol%、および5mol%の一連の酸化タングステン負荷を、結果として生じた酸化タングステン/二酸化チタン光触媒において達成できる。
【0039】
図10は、酸化タングステン含有量の関数として光触媒の効率のグラフを図示する。図示されるように、プロパナール、トルエン、およびブテンの酸化の場合に、酸化タングステンが約2から4mol%の濃度を有するときに、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆は、最高の効率を有する。3mol%の酸化タングステン/二酸化チタン光触媒を使用するときに、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒は、従来技術の二酸化チタン光触媒に比べて、プロパナール酸化の固有反応速度を二倍にした。従来技術の二酸化チタン光触媒に比べて、トルエン酸化の固有反応速度は80%増加している。ブテン酸化の固有反応速度は、従来技術の二酸化チタン光触媒に比べて、三倍にされる。
【0040】
ハニカム28を図示および説明してきたが、酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40を、任意の構造部材へ被覆できることが分かる。ハニカム28における空隙は、典型的には形状が六角形であるが、他の空隙形状を使用できることが分かる。光源の存在下で、構造部材の酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆40上に汚染物質が吸着するにつれて、汚染物質は、水、二酸化炭素および他の物質に酸化される。
【0041】
汚染物質jにより汚染されている室内空気について作動している空気浄化装置の有効な効率は、
ηeff=1−(ΣCjo/ΣCji)=1−(ΣCjo/CT) (式1)
と定義され、ここに、ΣCjiとΣCjoは、反応装置に流入する汚染物質濃度の総量と反応装置から流出する汚染物質濃度の総量を、それぞれ表す。
【0042】
空気浄化装置の有効性は、空気中の各化学種の汚染物質モル分率Xjにより重みが付けられる、その化学種についての効率の総量として、
CADReff=CADR11+CADR22+CADR33+… (式2)
と記述することができる。
【0043】
空気浄化用の触媒は、式2に記述されるように、空気中の全ての化学種について、またはより重要には、空気品質にとり重要な空気中の全ての化学種について有効でなければならない。モル分率Xを、全体の室内空気品質に対するその化学種の重要性を表す加重因子Zで置換することができる。この場合、式2は、
CADReff=CADR11+CADR22+CADR33+… (式3)
となる。
【0044】
1つの可能性のあるAQI加重因子は、
j=Tji/AQIi (式4)
で表される空気品質指標(Air Quality Index)Zである。ここに、Tは、個別の種jの全体指標AQIへの寄与率である。
【0045】
空気浄化性能を定義する際の重要性が、本発明において実証され、そこにおいて、触媒性能は、室内空気品質にとり重要な、1つだけの化学種ではなく、多くの化学種についての重み付けされた総量である。
【0046】
本発明の光触媒被覆40は、空気浄化システム20の有効な清浄空気送出速度を向上する。加えて、光触媒被覆40が湿度変動に対して高い安定性を有するので、有効な清浄空気送出速度への、湿度による有害な影響が少ない。
【0047】
本発明の酸化タングステン/二酸化チタン光触媒には幾つかの利点がある。一例として、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒は活性が高いので、従来技術の二酸化チタン光触媒に比べて汚染物質の固有反応速度を大幅に増加させる。加えて、酸化タングステン/二酸化チタン光触媒は、HVACシステムにおいて湿度変動に対して高い安定性を有する。最後に、この被覆方法は、0.5mg/cm2の最小負荷をハニカム28上に堆積させるために、浸漬の噴霧のプロセスの1サイクルだけが必要であるので、経済的である。
【0048】
上述の説明は、本発明の原理の単なる代表例である。本発明の多くの変更態様と変形態様は、上述の教示に鑑みて実施可能である。本発明の好ましい実施例を開示してきたが、当業者は、幾つかの変更態様が本発明の範囲に入ることを認めるであろう。したがって、添付される請求項の範囲において、本発明を、特に説明されたものと異なる態様で実施できることが分かる。その理由のために、添付の請求項を、本発明の真の範囲と内容を判断するために検討すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】内部空間とHVACシステムを含む、建物、車両または他の構造体のような密閉された環境の概略図。
【図2】本発明の空気浄化システムの概略図。
【図3】空気浄化システムのハニカムの概略図。
【図4a】光触媒生成物を作成するプロセスの流れ図の概略図。
【図4b】光触媒生成物を基体へ付与するプロセスの流れ図の概略図。
【図5】光触媒被覆の二酸化チタン上の酸化タングステンの単分子層の概略図。
【図6】相対湿度の関数としてアセトアルデヒド酸化の固有速度を概略図示するグラフ。
【図7】相対湿度の関数としてプロパナール酸化の固有速度を概略図示するグラフ。
【図8】相対湿度の関数としてトルエン酸化の固有速度を概略図示するグラフ。
【図9】相対湿度の関数としてブテン酸化の固有速度を概略図示するグラフ。
【図10】酸化タングステンのモル含有量の関数として本発明の光触媒の効率を概略図示するグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、
二酸化チタン上に単分子層酸化タングステンを含む金属酸化物/二酸化チタンの光触 媒被覆であって、前記基体上に付与される前記光触媒被覆と、
前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆を活性化する光源と、
を備える空気浄化システムであって、前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆は、前記光源により活性化されると、前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆上に吸着される空気流中の汚染物質を酸化することを特徴とする空気浄化システム。
【請求項2】
前記紫外線光源からの光子が、前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆により吸収されて、酸素と水の存在下で前記汚染物質を酸化する反応性ヒドロキシルラジカルを形成することを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項3】
前記反応性ヒドロキシルラジカルは、前記汚染物質を水と二酸化炭素に酸化することを特徴とする請求項2記載の空気浄化システム。
【請求項4】
前記汚染物質は、酸化可能化学種と還元可能化学種とのいずれか一方または両方であることを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項5】
前記酸化可能化学種は一酸化炭素であり、また前記還元可能化学種はオゾンであることを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項6】
前記汚染物質は、トルエン、プロパナール、ブテン、アセトアルデヒドおよびそれらの混合物の少なくとも一つであることを特徴とする請求項4記載の空気浄化システム。
【請求項7】
前記汚染物質は、アルデヒド、ケトン、アルコール、芳香族化合物、アルケンおよびアルカンの少なくとも一つを含む、揮発性有機化合物および半揮発性有機化合物のうちの一つであることを特徴とする請求項4記載の空気浄化システム。
【請求項8】
前記基体は、固体により分離されている空隙の配列であることを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項9】
前記基体は、アルミニウムおよびアルミニウム合金のいずれかであることを特徴とする請求項8記載の空気浄化システム。
【請求項10】
前記空気浄化システムは、複数の基体および複数の紫外線光源をさらに含み、前記複数の基体および前記複数の紫外線光源は互い違いになることを特徴とする請求項8記載の空気浄化システム。
【請求項11】
前記空気流におけるダストを阻止する粒子フィルターをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項12】
前記空気流を前記空気浄化システム中に引込むファンをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項13】
前記空気浄化システムは、ハウジングをさらに含み、前記空気浄化システムは、前記ハウジング内にあり、前記ハウジングは、反射性物質でライニングされていることを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項14】
前記光源は、紫外線光源であることを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項15】
前記紫外線光源は、180ナノメートルから400ナノメートルの範囲の光を発生することを特徴とする請求項14記載の空気浄化システム。
【請求項16】
前記被覆は、0.01mg/cm2と1.7mg/cm2との間の負荷を有することを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項17】
前記光触媒は、前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆の反応速度に対する湿度の影響を補償することを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項18】
前記空気浄化システムは、HVACシステムに使用されることを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項19】
前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆の二酸化チタンは、ルチル結晶相を含有することを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項20】
酸化タングステンの前記単分子層は、前記二酸化チタンの全体を覆うことを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項21】
酸化タングステンの前記単分子層は、前記二酸化チタンを部分的に覆うことを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項22】
前記光触媒被覆は、前記空気浄化システムの有効な清浄空気送出速度を向上させることを特徴とする請求項1記載の空気浄化システム。
【請求項23】
基体と、
前記基体上に付与される金属酸化物/二酸化チタンの光触媒被覆であって、前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆はルチル結晶相を含有する金属酸化物/二酸化チタンの光触媒被覆と、
前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆を活性化する光源と、
を備える空気浄化システムであって、前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆は、前記光源により活性化されると、前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆上に吸着される空気流中の汚染物質を酸化することを特徴とする空気浄化システム。
【請求項24】
入口および出口を有する容器と、
前記容器内にある多孔性基体と、
流体を前記入口を通して前記容器内に引込み、前記流体を前記多孔性基体を通して流し、前記流体を前記出口を通して前記容器から放出する装置と、
二酸化チタン上に単分子層酸化タングステンを含む酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆であって、前記多孔性基体上に付与される酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆と、
前記光触媒被覆を活性化する紫外線光源と、
を備える空気浄化システムであって、前記紫外線光源からの光子が、前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆により吸収されて、反応性ヒドロキシルラジカルを形成し、前記反応性ヒドロキシルラジカルは、前記光紫外線光源により活性化されると、前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆上に吸着される前記流体中の汚染物質を、水と酸素の存在下で水と二酸化炭素に酸化することを特徴とする空気浄化システム。
【請求項25】
単分子層の酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆を基体上に付与し、
前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆を活性化し、
反応性ヒドロキシルラジカルを形成し、
前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆上に空気流中の汚染物質を吸着し、
前記汚染物質を前記ヒドロキシルラジカルで酸化する、
各ステップを含むことを特徴とする空気を浄化する方法。
【請求項26】
前記酸化タングステン/二酸化チタンの光触媒被覆を活性化するステップは、紫外線光源を照射することを含むことを特徴とする請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記汚染物質を酸化するステップは、前記汚染物質を水と二酸化炭素に酸化することを含むことを特徴とする請求項25記載の方法。
【請求項28】
光触媒を調製し、
水を前記光触媒に添加して、光触媒懸濁液を生成し、
ついで前記光触媒懸濁液を均質化する、
各ステップを含むことを特徴とする光触媒懸濁液を作成する方法。
【請求項29】
前記光触媒懸濁液は、25重量%の懸濁液であることを特徴とする請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記方法は、前記光触媒懸濁液の被覆を基体へ付与するステップをさらに含み、前記被覆は、単一のステップで付与されることを特徴とする請求項28記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−500077(P2007−500077A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533447(P2006−533447)
【出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/016710
【国際公開番号】WO2004/108255
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(591003493)キャリア コーポレイション (161)
【氏名又は名称原語表記】CARRIER CORPORATION
【Fターム(参考)】