説明

光触媒アパタイト含有膜、その形成方法、コーティング液、および、光触媒アパタイト含有膜で被覆された部位を有する電子機器

光触媒アパタイト含有膜は、無機コーティング主材と、当該無機コーティング主材に分散する粉末状の光触媒アパタイトと粉末状の酸化チタンとを含み、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有率が0.01〜5wt%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光触媒機能を有する光触媒アパタイトを含有する膜、その形成方法、当該膜を形成するためのコーティング液、および、当該膜で被覆された部位を有する電子機器に関する。
【背景技術】
ノートパソコンや携帯電話などの電子機器には、使用態様に応じて、手脂やタバコタール、および、これらを介して埃などが付着してしまう。また、電子機器に対する手脂の付着は、機器表面における雑菌などの繁殖を助長する傾向がある。手脂、タバコタール、雑菌などによるこのような汚染を放置しておくと、電子機器の外観ひいては清潔感が損われる場合が多い。一方、生活環境における抗菌に対する関心が高まるにつれて、ノートパソコンや携帯電話などの電子機器においても、その筐体や操作キーなどに対して抗菌性が強く要求されるようになってきた。そのため、電子機器の分野では、手脂、タバコタール、雑菌などによる汚染に適切に対応するための抗菌・防汚技術の導入が望まれている。
近年、酸化チタン(TiO)などの一部の半導体物質の光触媒機能が注目を集めており、この光触媒機能に基づいて抗菌作用や防汚作用が発揮され得ることが知られている。光触媒機能を有する半導体物質では、一般に、価電子帯と伝導帯のバンドギャップに相当するエネルギーを有する光を吸収することによって、価電子帯の電子が伝導帯に遷移し、この電子遷移により、価電子帯には正孔が生ずる。伝導帯の電子は、当該光触媒性半導体の表面に吸着している物質に移動する性質を有し、これにより当該吸着物質は還元され得る。価電子帯の正孔は、当該光触媒性半導体の表面に吸着している物質から電子を奪い取る性質を有し、これにより当該吸着物質は酸化され得る。
光触媒機能を有する酸化チタン(TiO)においては、伝導帯に遷移した電子は、空気中の酸素を還元してスーパーオキシドアニオン(・O)を生成させる。これとともに、価電子帯に生じた正孔は、酸化チタン表面の吸着水を酸化してヒドロキシラジカル(・OH)を生成させる。ヒドロキシラジカルは、非常に強い酸化力を有している。そのため、光触媒性酸化チタンに対して例えば有機物が吸着すると、ヒドロキシラジカルが作用することによって、当該有機物は、水と二酸化炭素にまで分解される場合がある。
有機物におけるこのような酸化分解反応を光触媒機能に基づいて促進することが可能な酸化チタンは、抗菌剤、殺菌剤、防汚剤、脱臭剤、環境浄化剤などにおいて、広く利用されている。しかしながら、酸化チタン自体は、その表面に何らかの物質を吸着する能力に乏しい。したがって、光触媒機能に基づく酸化チタンの酸化分解作用ひいては抗菌作用や防汚作用などを充分に享受するためには、酸化分解されることとなる分解対象物と酸化チタンとの接触効率を向上させる必要がある。
分解対象物と酸化チタンとの接触効率の向上を目的とする技術は、例えば特開2001−191458号公報や特開2002−126451号公報に開示されている。これらの技術においては、粉末状の酸化チタンと粉末状の所定のハイドロキシアパタイト(HAP)との混在物が利用される。HAPは、一般に、吸着力が高い。上掲の公報に開示されている技術においては、吸着力の高いHAPを酸化チタンの近傍に存在させることによって、分解対象物と酸化チタンとの接触効率の向上が図られている。
しかしながら、特開2001−191458号公報および特開2002−126451号公報によると、酸化チタンおよびHAPは相互に独立した粒子として所定のバインダ内に分散しているため、分解対象物との接触効率が充分に向上しない酸化チタン粒子が存在する場合がある。酸化チタン粒子とHAP粒子の離隔距離が比較的大きい場合には、当該酸化チタン粒子に対する分解対象物の接触効率は充分に向上しない。
分解対象物と酸化チタンとの接触効率の向上を目的とする他の技術は、例えば特開2000−327315号公報に開示されている。当該公報には、光触媒機能を有する例えば酸化チタンと、特にタンパク質などの有機物を吸着する能力に優れている例えばカルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP)とが原子レベルで複合化された光触媒アパタイトが開示されている。当該光触媒アパタイトは、具体的には、CaHAP(Ca10(PO(OH))を構成するCaの一部がTiに置換された結晶構造を有し、当該Ti導入部位には、光触媒性酸化チタンの化学構造に近似する酸化チタン様部分構造が形成されている。有機物吸着性に優れたCaHAPの結晶構造中に、光触媒機能を発揮し得る酸化チタン様部分構造が内在しているため、有機物すなわち分解対象物と酸化チタン様部分構造との接触効率は効果的に向上している。その結果、当該酸化チタン様部分構造は、光触媒機能に基づいて、例えば手脂や細菌細胞膜などの有機物を効率良く酸化分解することが可能となっている。
電子機器における所定の部材に対してこのような光触媒アパタイトを練り込んだり付着させたりすることによって、当該部材に対して、優れた抗菌性や防汚性を付与することができる。抗菌性や防汚性を向上させるという観点からは、部材に対する光触媒アパタイトの練り込み量または付着量は多い方がよい。しかしながら、上掲の特開2000−327315号公報に開示されている光触媒アパタイト製造方法によると、光触媒アパタイトは白色の粉体として得られる。そのため、抗菌剤や防汚剤などとして当該光触媒アパタイトを使用すると、光触媒アパタイトが白色であることに起因して、部材が本来的に有すべき色調が影響を受けてしまう場合がある。また、光触媒アパタイトは、例えば溶剤中にて粉体どうしが凝集する傾向を有し、当該凝集に起因して部材の質感に影響を与えてしまう場合もある。ノートパソコンや携帯電話などの電子機器においては、例えば筐体や表示画面保護用の透明カバーについて、これらのような不具合を回避する必要のある場合は多い。
外観的不具合を回避することを目的として単に光触媒アパタイトの使用量を低減するのみでは、部材表面における光触媒アパタイトによる抗菌作用や防汚作用は比例的に低下する傾向にある。そのため、抗菌剤や防汚剤などとして光触媒アパタイトを使用するにあたっては、光触媒アパタイトの抗菌作用や防汚作用などを高く維持しつつ外観的不具合を回避するのには困難性がある。したがって、ノートパソコンや携帯電話などの電子機器においては、従来、抗菌剤や防汚剤などとして光触媒アパタイトを使用するのは実用的でなかった。
一方、ノートパソコンなどの電子機器に付着した汚れは、拭き取り作業により除去される場合がある。上述のような光触媒アパタイトを練りこんだり付着させることによって電子機器における所定の部材に対して防汚性を付与する場合であっても、特に光照射量が少ない条件下では、光触媒アパタイトの触媒機能が低下するため、汚れの拭き取り作業の必要性は高い。しかしながら、拭き取り作業を過剰に行うと、部材表面からの光触媒アパタイト粒子が除去される傾向にあり、部材表面における光触媒アパタイトの光触媒酸化分解作用に基づく抗菌性や防汚性が劣化してしまう。
【発明の開示】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、抗菌作用や防汚作用などを充分に発揮しつつ汚れが除去され易く、且つ、透明性に優れている光触媒アパタイト含有膜、その形成方法、光触媒アパタイト含有膜を形成するためのコーティング液、および、光触媒アパタイト含有膜で被覆された部位を有する電子機器を提供することを目的とする。
本発明の第1の側面によると、光触媒アパタイト含有膜が提供される。この光触媒アパタイト含有膜は、無機コーティング主材と、当該無機コーティング主材に分散する粉末状の光触媒アパタイトと粉末状の酸化チタンとを含み、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有率が0.01〜5wt%である。ここで光触媒アパタイトとは、アパタイト結晶構造に含まれる金属原子の一部が光触媒性金属原子であるアパタイトをいい、光触媒性金属原子とは、酸化物の状態で光触媒中心として機能し得る金属原子をいうものとする。また、無機コーティング主材は、実質的に透明であって可視領域における透過率が90%以上であるのが好ましい。
本発明で用いられる光触媒アパタイトにおいて、その基本骨格を構成するアパタイトは、次のような一般式によって表すことができる。
(BO ・・・・(1)
式(1)におけるAは、Ca,Co,Ni,Cu,Al,La,Cr,Fe,Mgなどの各種の金属原子を表す。Bは、P,Sなどの原子を表す。Xは、水酸基(−OH)やハロゲン原子(例えば、F,Cl)などである。より具体的には、光触媒アパタイトの基本骨格を構成するアパタイトとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが挙げられる。本発明において好適に用いることのできるアパタイトは、上式におけるXが水酸基(−OH)であるハイドロキシアパタイトである。より好ましくは、上式におけるAがカルシウム(Ca)であって、Bがリン(P)であって、Xが水酸基(−OH)であるカルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP)、即ちCa10(PO(OH)である。
CaHAPは、カチオンともアニオンともイオン交換し易いため吸着性に富んでいるので、上述のように、特にタンパク質などの有機物を吸着する能力に優れている。加えて、CaHAPは、カビや細菌などを強力に吸着することによって、それらの増殖を阻止ないし抑制し得ることが知られている。
光触媒アパタイトに含まれる光触媒性金属原子、すなわち、酸化物の状態で光触媒中心として機能し得る金属原子としては、例えば、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、インジウム(In)、鉄(Fe)などが挙げられる。このような光触媒性金属原子が、上掲の一般式で表されるアパタイトの結晶構造を構成する金属原子の一部としてアパタイト結晶構造中に取り込まれることによって、アパタイト結晶構造内において光触媒機能を発揮し得る光触媒性部分構造が形成される。光触媒性部分構造とは、より具体的には、式(1)におけるAの一部に代わって取り込まれる光触媒性金属原子と、式(1)における酸素原子とからなり、光触媒機能を有する金属酸化物の構造に相当するものであると考えられる。
このような化学構造を有する光触媒アパタイトは、光照射条件下においては、高い吸着力および光触媒機能の相乗効果により、吸着力に乏しい光触媒性金属酸化物よりも効率のよい分解作用ひいては効率のよい抗菌作用や防汚作用などを示す。また、暗所においては、高い吸着力により、カビや細菌なとを強力に吸着してそれらの増殖を阻止ないし抑制するという抗菌作用を示す。
本発明で用いられる酸化チタンは、光触媒性の酸化チタン(TiO)であり、好ましくはアナターゼ型酸化チタンである。光触媒性の酸化チタンは、光照射条件下で親水性を示すようになることが知られている。特に光触媒としての機能が高いアナターゼ型酸化チタンは、光照射条件下において極めて高い親水性を示す。また、本発明の第1の側面においては、酸化チタンは、吸着性に優れた光触媒アパタイトと混在している。そのため、当該酸化チタンと分解対象物との接触効率は比較的高く、当該酸化チタンは比較的効果よく触媒分解作用を発揮することができる。
上述のような本発明の第1の側面に係る光触媒アパタイト含有膜は、抗菌作用や防汚作用などを充分に発揮することができる。光触媒アパタイトは、上述のように、吸着性に優れたアパタイトと光触媒物質とが原子レベルで複合化しており、その結果、光照射条件下では、効率のよい光触媒分解作用に基づく抗菌作用や防汚作用を示し、且つ、暗所では吸着力に基づく抗菌作用を示す。加えて、光触媒性の酸化チタンは、光照射条件下で光触媒分解作用に基づく抗菌作用や防汚作用を示す。したがって、このように、光照射条件下では、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの重畳的な光触媒分解作用に基づく優れた抗菌作用や防汚作用を示し、暗所では、光触媒アパタイトの吸着力に基づく抗菌作用を示すため、本発明の第1の側面に係る光触媒アパタイト含有膜は抗菌作用や防汚作用などを充分に発揮することできるのである。
本発明の第1の側面に係る光触媒アパタイト含有膜は、付着した汚れが除去され易い。光触媒アパタイト含有膜に含まれる酸化チタンは、上述のように、光照射条件下では優れた親水性を示す。そのため、光照射条件下においては、光触媒アパタイト含有膜の表面に対して水がなじみ易く、膜表面に付着した油分などの汚れは、水により浮きあがる傾向にある。したがって、第1の側面に係る光触媒アパタイト含有膜に付着した汚れは、水拭きなどにより容易に除去することが可能なのである。
このような光触媒アパタイトおよび酸化チタンの特性を有効活用すべく、本発明者らは、無機コーティング主材と、これに分散する光触媒アパタイト粉末および酸化チタン粉末と、を含む光触媒アパタイト含有膜において、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有率が0.01〜5wt%と低くとも、無機コーティング主材内にて光触媒アパタイト粉末および酸化チタン粉末を適切に分散させておくことによって、例えば電子機器表面に要求される抗菌性や防汚性などは充分に付与することができ、且つ、汚れの除去性も充分に向上するという知見を得た。
また、本発明の第1の側面に係る光触媒アパタイト含有膜は、透明性に優れている。具体的には、実質的に無色透明な無機コーティング主材に適切に分散されている白色の光触媒アパタイトおよび白色の酸化チタンの含有率は0.01〜5wt%と低いため、適切な膜厚で形成することにより、光触媒アパタイト含有膜は実質的に無色透明とすることができるのである。
このように、本発明の第1の側面に係る光触媒アパタイト含有膜は、光触媒アパタイトの有する酸化分解作用を充分に発揮しつつ汚れが除去され易く、且つ、透明性に優れているのである。
本発明の第1の側面において、好ましくは、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの2次粒子径は5μm以下である。光触媒アパタイト粉末および酸化チタン粉末の粒径が小さい方が、光触媒アパタイトおよび酸化チタンにおける単位体積あたりの光触媒機能は多大となり、且つ、膜形成後の外観的不具合は低減される傾向にある。
好ましくは、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有量に対する光触媒アパタイトの含有量の比率は20〜80wt%である。このような構成は、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの機能を充分に享受するうえで好適である。
好ましくは、光触媒アパタイトは、CaHAPのCaの一部がTiで置換された化学構造を有するチタン修飾カルシウムハイドロキシアパタイト(Ti−CaHAP)である。Ti−CaHAPは、CaHAPの優れた吸着力と、酸化チタンの優れた光触媒機能とを併有する。
好ましくは、酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタンである。アナターゼ型酸化チタンは、光照射条件下にて極めて高い親水性を示す。膜表面の親水性が高いほど、水などの水性媒体による当該膜からの汚れの除去は容易となる傾向にある。
本発明の第2の側面によると、光触媒アパタイト含有膜の形成方法が提供される。この形成方法は、粉末状の光触媒アパタイトと、粉末状の酸化チタンと、無機コーティング主材とを含み、且つ、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有率が0.01〜5wt%であるコーティング液を調製する工程と、コーティング液を基材に対して塗布する工程とを含む。
このような方法によると、本発明の第1の側面に係る光触媒アパタイト含有膜を形成することができる。したがって、本発明の第2の側面によると、形成される光触媒アパタイト含有膜において第1の側面に関して上述した効果が奏される。
好ましくは、調製工程の前に、粉末状の光触媒アパタイトおよび/または粉末状の酸化チタンをアルコール液に分散させる前処理工程を更に含み、調製工程では、当該アルコール液を無機コーティング主材に添加する。この場合、好ましくは、前処理工程では、粉末状の光触媒アパタイトおよび/または粉末状の酸化チタンを含むアルコール液に対して、ボールミルによる粉砕処理を施す。前処理工程では、更に、粉砕処理を経たアルコール液に対してろ過を施すのが好ましい。ボールミルによる粉砕処理およびろ過を経ることにより、アルコール溶媒における光触媒アパタイトおよび酸化チタンの凝集状態を解き、各々が充分に小さな2次粒子径を有するようにする。
このような手法により、無機コーティング主材に対して、光触媒アパタイト粉末および酸化チタン粉末を好適な微粒径で適切に分散させることが可能となる。光触媒アパタイト粉末および酸化チタン粉末の粒径が小さい方が、光触媒アパタイトおよび酸化チタンにおける単位体積あたりの光触媒機能は多大となり、且つ、膜形成後の外観的不具合は低減される傾向にある。
好ましくは、無機コーティング主材はヒートレスグラスである。光触媒アパタイト粉末および酸化チタン粉末の分散媒である無機コーティング主材としてヒートレスグラスを用いると、これら粉末を含むコーティング液は、塗布された後に常温にて乾燥硬化することができる。例えば、ヒートレスグラスとしては、アルコール可溶性無機系樹脂を70〜85wt%、イソプロピルアルコールを5〜12wt%、メタノールを3〜5wt%、ジブチルスズジアセテートを2〜5wt%含むものを用いることができる。
本発明の第3の側面によると、コーティング液が提供される。このコーティング液は、粉末状の光触媒アパタイトと、粉末状の酸化チタンと、無機コーティング主材とを含み、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有率は0.01〜5wt%である。このようなコーティング液は、本発明の第2の側面に係る方法に使用することができる。
本発明の第4の側面によると、電子機器が提供される。この電子機器は、無機コーティング主材と、当該無機コーティング主材に分散する粉末状の光触媒アパタイトと粉末状の酸化チタンとを含み、且つ、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有率が0.01〜5wt%である光触媒アパタイト含有膜により被覆された部位を有する。
このような構成を有するノートパソコン、携帯電話、PDAなどの電子機器は、本発明の第2の側面に係る方法により、電子機器を構成する部材の所定箇所に対して光触媒アパタイト含有膜を形成することにより得られる。電子機器を構成する部材としては、例えば、筐体、操作キー、表示画面保護用透明カバーなどが挙げられる。第1の側面に係る光触媒アパタイト含有膜は、抗菌作用または防汚作用を充分に発揮し且つ汚れが除去し易いとともに、透明性に優れている。したがって、第4の側面に係る電子機器は、光触媒アパタイト含有膜により充分な抗菌性や防汚性が付与され且つ汚れを除去し易いとともに、当該膜により外観への影響を受けていない箇所を有する。
本発明の第2から第4の側面においても、好ましくは、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの2次粒子径は5μm以下である。好ましくは、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有量に対する光触媒アパタイトの含有量の比率は20〜80wt%である。好ましくは、光触媒アパタイトは、カルシウムハイドロキシアパタイトのCaの一部がTiで置換された化学構造を有する。また、好ましくは、酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタンである。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明で用いられる光触媒アパタイトの表面化学構造のモデルを表す。
図2は、本発明で用いられる光触媒アパタイトの製造方法のフローチャートである。
図3は、本発明に係る光触媒アパタイト含有膜の形成方法のフローチャートである。
図4は、実施例における透過率測定の結果を表す。
図5は、実施例に係る光触媒アパタイト含有膜上の水滴について、紫外線非照射条件下での形状を模式的に表す。
図6は、実施例に係る光触媒アパタイト含有膜上の水滴について、紫外線照射条件下での形状を模式的に表す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に係る光触媒アパタイト含有膜は、無機コーティング主材と、当該無機コーティング主材に分散する粉末状の光触媒アパタイトおよび粉末状の酸化チタンとを含む。光触媒アパタイト含有膜における光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有率は0.01〜5wt%である。
無機コーティング主材は、光触媒アパタイト粉末および酸化チタン粉末を適切に分散させるための媒体であり、実質的に透明である。本実施形態では、無機コーティング主材の可視領域における透過率は90%以上である。本実施形態では、無機コーティング主材は、ヒートレスグラスよりなる。ヒートレスグラスは、常温にて乾燥硬化させることができる。ヒートレスグラスとしては、アルコール可溶性無機系樹脂を70〜85wt%、イソプロピルアルコールを5〜12wt%、メタノールを3〜5wt%、ジブチルスズジアセテートを2〜5wt%含むものを用いることができる。無機コーティング主材は、原子間結合エネルギの比較的高い無機系樹脂などにより構成されるため、原子間結合エネルギの比較的低い有機物の分解反応の触媒として機能し得る光触媒アパタイトおよび酸化チタンであっても、無機コーティング主材の分解反応の触媒としては機能しない。
本発明で用いられる光触媒アパタイトは、光触媒機能を示す金属酸化物と、いわゆるアパタイトとを原子レベルで複合化したものである。そのような光触媒アパタイトにおいて光触媒機能を発現させるための金属としては、例えば、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、インジウム(In)、鉄(Fe)などが挙げられる。また、そのような光触媒アパタイトにおいて基本構造を構成するアパタイトとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、クロロアパタイトなどが挙げられる。図1は、当該金属としてTiを選択し、当該アパタイトとしてカルシウムハイドロキシアパタイトを選択してなるTi−CaHAPの表面化学構造のモデルを表す。
Ti−CaHAPにおいては、図1に示すようにTiが取り込まれることによって、CaHAP結晶構造中にTiを活性中心とした光触媒性部分構造が形成されている。このようなTi−CaHAPでは、光触媒性部分構造すなわち触媒サイトと、分解対象物である所定の有機物(図示せず)に対する吸着力が高い吸着サイトとが、同一結晶面上において、原子レベルのスケールで散在している。したがって、Ti−CaHAPは、高い吸着力と光触媒機能とを併有して、抗菌作用や防汚作用などを効率よく発揮することができる。
具体的には、光照射条件下においては、Ti−CaHAPにおける酸化チタン様の触媒サイトでは、酸化チタンと同様に吸着水からヒドロキシラジカル(・OH)が生成しており、吸着サイトには有機物が吸着される。吸着した有機物は、表面拡散によりTi−CaHAP表面を移動して、触媒サイトおよびその近傍にてヒドロキシラジカルによって酸化分解される。また、Ti−CaHAPの吸着サイトにより微生物が強力に吸着されると、当該微生物の増殖は阻止・抑制されるので、Ti−CaHAPが光照射条件下にないために触媒サイトが光触媒として機能しない場合であっても、当該Ti−CaHAPは抗菌性を有する。
本発明で用いられる光触媒アパタイトのアパタイト結晶構造に含まれる全金属原子に対する光触媒性金属の存在比率は、光触媒アパタイトの吸着性および光触媒機能の両方を効果的に向上するという観点より、3〜11mol%の範囲が好ましい。すなわち、例えばTi−CaHAPでは、Ti/(Ti+Ca)の値が0.03〜0.11(モル比)であるのが好ましい。当該比率が11mol%を上回ると、結晶構造が乱れてしまう場合がある。当該比率が3mol%を下回ると、過剰な吸着サイトに吸着した物質が少ない触媒発現サイトでは充分に処理されない状態となり、触媒効果が充分に発揮されない場合がある。
本発明で用いられる酸化チタンは、光触媒性の酸化チタン(TiO)であり、好ましくはアナターゼ型酸化チタンである。光触媒性の酸化チタンは、光照射条件下では親水性を示すようになることが知られている。特に光触媒としての機能が高いアナターゼ型酸化チタンは、光照射条件下において極めて高い親水性を示す。加えて、本発明で用いられる酸化チタンは、光触媒分解作用に基づく抗菌作用や防汚作用を発揮し得る。
本実施形態においては、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの2次粒子径は5μm以下である。また、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総和に対する光触媒アパタイトの比率は20〜80wt%である。
図2は、本発明の光触媒アパタイト含有膜の形成方法に用いられる光触媒アパタイトの製造におけるフローチャートである。光触媒アパタイトの製造においては、まず、原料混合工程S11において、光触媒アパタイトを構成するための原料を混合する。例えば、単一の水溶液系に対して、上掲のアパタイト一般式におけるA,BO,Xおよび光触媒性金属イオンに相当する化学種を、各々、所定の量を添加し、混合する。光触媒アパタイトとしてTi−CaHAPを形成する場合には、Ca供給剤としては、硝酸カルシウムなどを用いることができる。PO供給剤としては、リン酸などを用いることができる。水酸基は、後述のpH調節時に使用されるアンモニア水溶液、水酸化カリウム水溶液、または水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液から供給される。光触媒性金属としてのTiの供給剤としては、塩化チタンや硫酸チタンを用いることができる。
アパタイト結晶構造に含まれる全金属原子における光触媒性金属の比率は、上述のように、3〜11mol%の範囲が好ましい。したがって、原料混合工程S11では、形成される光触媒アパタイトにおける光触媒性金属の比率が3〜11mol%となるように、各原料について供給量を決定し、供給すべき相対的な物質量を調整するのが好ましい。
次に、pH調節工程S12において、上述のようにして用意された原料溶液について、目的とする光触媒アパタイトの生成反応が開始するpHに調節する。このpHの調節には、アンモニア水溶液、水酸化カリウム水溶液および水酸化ナトリウム水溶液などを用いることができる。光触媒アパタイトとして例えばTi−CaHAPを形成する場合には、原料溶液のpHは8〜10の範囲に調節するのが好ましい。
次に、生成工程S13において、光触媒アパタイトの生成を促進することによって、目的とする光触媒アパタイトの結晶性を高める。具体的には、例えば、アパタイト成分および光触媒性金属の一部を共沈させた原料液を、100℃で6時間にわたってエージングすることによって、結晶性の高い光触媒アパタイトが得られる。例えばTi−CaHAPを製造する場合には、本工程では、共沈に際してアパタイト結晶構造におけるCa位置にTiイオンが取り込まれ、Ti−CaHAPが成長する。
次に、乾燥工程S14において、前の工程で生成した光触媒アパタイトを乾燥する。具体的には、生成工程S13にて析出した光触媒アパタイト粉末をろ過した後、ろ別した沈殿を純水で洗浄し、更に、乾燥する。乾燥温度は、100〜200℃が好ましい。本工程によって、原料溶液における液体成分が、光触媒アパタイトから除去される。
このようにして製造された粉末状の光触媒アパタイトは、必要に応じて焼結工程S15に付される。焼結工程S15では、乾燥工程S14とは別に、光触媒アパタイトを再び加熱することによって、光触媒アパタイトを焼結する。焼結温度は、580〜660℃の範囲が好ましい。例えばTi−CaHAPにあっては、本工程を経ることによって、光触媒活性は向上する傾向にある。
図3は、本発明の光触媒アパタイト含有膜形成方法のフローチャートである。光触媒アパタイト含有膜の形成においては、まず、前処理工程S21にて、粉末状の光触媒アパタイトおよび粉末状の酸化チタンに対して、前処理を施す。上述のようにして得られた光触媒アパタイト粉末や、一般に市販されている酸化チタン粉末は、その1次粒子どうしが凝集して比較的大きな2次粒子を形成しているので、そのような凝集状態を解くために、後述の無機コーティング主材と混合する前に、これら粉末に対して前処理を施す。具体的には、まず、アルコールに対して光触媒アパタイトおよび酸化チタンを添加して、これらを混合する。光触媒アパタイトおよび酸化チタンの添加重量比は、2:8〜8:2である。アルコールとしては、例えば、イソプロピルアルコールやエタノールを用いることができる。次に、このアルコール溶液に対して、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの2次粒子径が5μm以下となるまで、ボールミルによる粉砕処理を施す。ボールミルによる粉砕処理は、例えば、ジルコニウム製の10mm径のボールで1時間、続いて5mm径のボールで1時間、続いて3mm径のボールで1時間、続いて1.75mm径のボールで1時間、続いて1mm径のボールで1時間行う。このような粉砕処理に代えて、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの2次粒子径が5μm以下となるように、アルコール溶液をろ過してもよい。或は、粉砕処理により光触媒アパタイトの2次粒子径をある程度小さくした後にろ過を行うことにより、アルコール溶液における光触媒アパタイトおよび酸化チタンの2次粒子径を5μm以下としてもよい。
次に、コーティング液調製工程S22にて、アパタイト含有コーティング液を調製する。具体的には、上述のようにして得られたアルコール溶液を無機コーティング主材に添加し、これらを混合する。このとき、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有率が0.01〜5wt%となるように、アルコール溶液を無機コーティング主材に添加する。本発明における光触媒アパタイトおよび酸化チタンは、有機物に対する分解作用が強い傾向にあるので、コーティング液の主材としては、光触媒アパタイトにより分解されない無機コーティング主材を使用する。無機コーティング主材としては、本実施形態においてはヒートレスグラスを使用する。ヒートレスグラスとしては、例えば、ceraZ((株)ダイワ製)、ユーベルHGS(ユーベルエース製)、および、主剤としてアルキルシロキサンを含む常温硬化型無機コーティング剤S00(日本山村硝子製)などを用いることができる。
次に、塗布工程S23にて、電子機器筐体の所定箇所に対してコーティング液をスプレー塗布する。塗布の手法としては、塗布対象によっては、スプレー塗布に代えて、コーティング液への浸漬、スピンコート、またはロールコートを採用することもできる。
次に、乾燥硬化工程S24にて、電子機器筐体の所定箇所に塗布されたコーティング液を乾燥硬化させる。本実施形態では、コーティング液の主材としてヒートレスグラスを用いているため、本工程では過大な加熱を行う必要はない。
このようにして電子機器筐体の所定箇所に形成された光触媒アパタイト含有膜は、2次粒子径が5μm以下の光触媒アパタイト粉末および酸化チタン粉末を0.01〜5wt%の含有率で含んでおり、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの総含有量に対する光触媒アパタイトの含有量の比率は20〜80wt%である。
このようして光触媒アパタイト含有膜により被覆された箇所を有する電子機器筐体においては、光照射条件下では、当該被覆箇所に付着したカビや細菌などの細胞膜やこれら微生物からの毒素などは、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの光触媒分解作用によって、効率よく分解される。その結果、微生物が殺菌されたり、或は、その増殖が阻止・抑制されたりして、電子機器における光触媒アパタイト含有膜被覆箇所は抗菌される。また、当該被覆箇所に手脂やタバコタールなどが付着しても、これら有機物も、光触媒アパタイトおよび酸化チタンの光触媒分解作用によって、効率よく分解される。その結果、被覆箇所に対する有機物の付着性が低下したり、或は、当該有機物を介して付着していた埃などが除去されたりして、電子機器における光触媒アパタイト含有膜被覆箇所は防汚される。また、暗所においては、微生物などは、光触媒アパタイトの吸着サイトの作用により光触媒アパタイト含有膜に強力に吸着される。その結果、当該微生物の増殖は阻止・抑制されて、電子機器における光触媒アパタイト含有膜被覆箇所は抗菌される。光触媒アパタイト含有膜が一旦光照射条件下に曝露されると、吸着作用により増殖が阻止・抑制されていた微生物は上述のようにして分解される。
また、電子機器において光触媒アパタイト含有膜被覆箇所に付着した汚れは、除去され易い。光触媒アパタイト含有膜に含まれる光触媒性の酸化チタンは、光照射条件下では優れた親水性を示す。そのため、光照射条件下においては、光触媒アパタイト含有膜表面に対して水がなじみ易く、例えば、油分などの汚れは水により浮きあがる傾向にある。したがって、光触媒アパタイト含有膜被覆箇所に付着した汚れは、水拭きなどにより容易に除去することができるのである。汚れが除去されやすいので、汚れの拭き取り作業を過剰に行う必要はなく、従って、抜き取り作業に起因して光触媒アパタイトが当該膜から除去されることを適切に抑制することができる。
加えて、上述のようにして形成された光触媒アパタイト含有膜は、透明性に優れている。実質的に無色透明な無機コーティング主材に適切に分散されている白色の光触媒アパタイトおよび酸化チタンの含有率は0.01〜5wt%と低いため、適切な膜厚で形成することにより、光触媒アパタイト含有膜は実質的に無色透明とすることができる。
このように、本発明に係る光触媒アパタイト含有膜は、電子機器筐体に必要な充分な抗菌性や防汚性を有するとともに、優れた親和性を有するために汚れが除去しやすい。併せて、本発明の光触媒アパタイト含有膜は、実質的に透明であり且つ光触媒アパタイト粒子の不当に大きな凝集体を有さないので、電子機器筐体において外観的不具合を生じない。
【実施例1】
<光触媒アパタイト含有膜の形成>
光触媒アパタイトとしてのTi−CaHAP粉末(平均2次粒子径5.7μm、Ti比率10mol%)、および、アナターゼ型の酸化チタン(TiO)粉末(平均1次粒子径7nm、石原産業製)に対して前処理を施した。
具体的には、まず、当該Ti−CaHAPおよび酸化チタンをイソプロピルアルコール(IPA)に添加し、Ti−CaHAPの含有率が20wt%であって酸化チタンの含有率が5wt%のアルコール溶液を調製した。次に、このアルコール溶液に対して、ボールミルによる粉砕処理を施した。ボールミルによる粉砕処理は、ジルコニウム製の10mm径のボールで1時間、続いて5mm径のボールで1時間、続いて3mm径のボールで1時間、続いて1.75mm径のボールで1時間、続いて1mm径のボールで1時間行った。このような粉砕処理により、T−i−CaHAPの平均2次粒子径は3.5μmとなるとともに酸化チタンの凝集も低減され、アルコール溶液におけるTi−CaHAPおよび酸化チタンの分散性が高まった。次に、アルコール溶液をろ過して、2次粒子径2.5μm以下のTi−CaHAPおよび酸化チタンを含有するアルコール溶液を得た。このようにして、Ti−CaHAP粉末および酸化チタンに対して前処理を施した。
このアルコール溶液0.2gを、無機コーティング主材としての常温硬化型無機コーティング剤(日本山村硝子製の、商品名S00の液材と商品名UTE01の液材を、10:1で混合したもの)2gに添加し、混合した。次に、このようにして調製したコーティング液を所定の電子機器筐体に対してスプレー塗布した。これを乾燥硬化させることによって、電子機器筐体表面に光触媒アパタイト含有膜を形成することができた。
本実施例の光触媒アパタイト含有膜は充分な透明性を有していた。また、本実施例の光触媒アパタイト含有膜においては、筐体表面の質感を損うようなTi−CaHAP粒子や酸化チタンの凝集体は観察されなかった。
<光触媒活性の評価>
本実施例の光触媒アパタイト含有膜の光触媒活性を、メチレンブルー分解試験により調べた。具体的には、まず、上述と同様の手法によりガラスプレート(100×100mm)の所定箇所に本実施例の光触媒アパタイト含有膜を形成し、当該ガラスプレートを、10μMのメチレンブルー水溶液に浸漬して染色した。次に、このようにして染色されたガラスプレートに対して、紫外線ランプにより、10mW/cmの紫外線(照射波長領域200〜400nm)を12時間照射した。すると、光触媒アパタイト含有膜が形成されている箇所は退色し、形成されていない箇所は退色せず、本実施例の光触媒アパタイト含有膜は光触媒機能に基づく分解作用を有していることが判った。また、紫外線照射の前後において、ガラスプレートの透過率を測定したところ、図4の結果を得た。
図4において、透過率曲線Aは、紫外線照射前に得られたものであり、透過率曲線Bは、紫外線照射後に得られたものである。透過率曲線Aにおいては、650nm付近にメチレンブルー由来の吸収が存在する。一方、透過率曲線Bにおいては、メチレンブルー由来の吸収が消失している。これは、光触媒アパタイト含有膜に含まれるTi−CaHAPおよび酸化チタンの光触媒機能によってメチレンブルーが分解されたことを示唆するものである。また、Ti−CaHAP含有膜を形成していないガラスプレートのみの可視領域における透過率は90%程度であり、図4に示すように、光触媒アパタイト含有膜が形成されている同一のガラスプレートの可視領域における透過率は85%程度であるので、本実施例に係る光触媒アパタイト含有膜は実質的に透明であることが理解できよう。
<親水性の評価>
本実施例の光触媒アパタイト含有膜の親水性について、接触角測定により調べた。具体的には、まず、上述と同様の手法によりガラスプレート(100×100mm)の所定箇所に本実施例の光触媒アパタイト含有膜を形成し、当該膜形成箇所に対して2μmの水を滴下した。紫外線を照射しない条件下では、水滴は、図5に示すような形状を維持した。このとき、光触媒アパタイト含有膜1により被覆されているガラスプレート2に対する水滴3の接触角は80°であった。また、紫外線ランプにより、10mW/cmの紫外線(照射波長領域200〜400nm)を照射すると、水滴は、図6に示すような形状へと変形した。これは、光触媒アパタイト含有膜1の親水性が高くなったことを意味する。このとき、光触媒アパタイト含有膜1により被覆されているガラスプレート2に対する水滴3の接触角は、60°であった。このように、紫外線照射条件下では、本実施例の光触媒アパタイト含有膜は親水性を示すことが判った。親水性が高いことは、油分などの汚れを水に浮かして除去するのに好適である。
〔比較例1〕
アルコール溶液におけるTi−CaHAP含有率を5wt%に代えて50wt%(比較例1)とした以外は実施例1と同様にして、Ti−CaHAPに対する前処理工程から乾燥硬化工程までを行うことによって、ガラスプレート上に光触媒アパタイト含有膜を形成した。これらのTi−CaHAP含有膜について、実施例1と同様にして可視領域の透過率を測定したところ、比較例1の光触媒アパタイト含有膜では、可視領域の一部において透過率90%を下回る波長領域が確認された。
〔比較例2〜4〕
ボールミルによる粉砕処理工程の後に行うろ過工程において、2次粒子径2.5μm以下に代えて8μm以下(比較例2)、11μm以下(比較例3)または25μm以下(比較例4)のTi−CaHAPを含有するアルコール溶液を得た以外は実施例1と同様にして、Ti−CaHAPに対する前処理工程から乾燥硬化工程までを行うことによって、電子機器筐体表面に光触媒アパタイト含有膜を形成した。その結果、比較例2の光触媒アパタイト含有膜においてはTi−CaHAP粒子凝集体が散見され、筐体表面の質感は損われていた。比較例3および4の光触媒アパタイト含有膜においては、比較例2よりも多数のTi−CaHAP粒子凝集体が観察され、筐体表面の質感は著しく損われていた。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機コーティング主材と、当該無機コーティング主材に分散する粉末状の光触媒アパタイトと粉末状の酸化チタンとを含み、前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの総含有率は0.01〜5wt%である、光触媒アパタイト含有膜。
【請求項2】
前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの2次粒子径は5μm以下である、請求項1に記載の光触媒アパタイト含有膜。
【請求項3】
前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの総含有量に対する前記光触媒アパタイトの含有量の比率は20〜80wt%である、請求項1に記載の光触媒アパタイト含有膜。
【請求項4】
前記光触媒アパタイトは、カルシウムハイドロキシアパタイトのCaの一部がTiで置換された化学構造を有する、請求項1に記載の光触媒アパタイト含有膜。
【請求項5】
前記酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタンである、請求項1に記載の光触媒アパタイト含有膜。
【請求項6】
粉末状の光触媒アパタイトと、粉末状の酸化チタンと、無機コーティング主材とを含み、且つ、前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの総含有率が0.01〜5wt%であるコーティング液を調製する調製工程と、
前記コーティング液を基材に対して塗布する塗布工程と、を含む、光触媒アパタイト含有膜の形成方法。
【請求項7】
前記調製工程の前に、粉末状の光触媒アパタイトおよび/または粉末状の酸化チタンをアルコール液に分散させる前処理工程を更に含み、前記調製工程では、当該アルコール液を無機コーティング主材に添加する、請求項6に記載の光触媒アパタイト含有膜の形成方法。
【請求項8】
前記前処理工程では、前記粉末状の光触媒アパタイトおよび/または前記粉末状の酸化チタンを含む前記アルコール液に対して、ボールミルによる粉砕処理を施す、請求項7に記載の光触媒アパタイト含有膜の形成方法。
【請求項9】
前記前処理工程では、前記粉砕処理を経た前記アルコール液に対してろ過を施す、請求項8に記載の光触媒アパタイト含有膜の形成方法。
【請求項10】
前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの2次粒子径は5μm以下である、請求項6に記載の光触媒アパタイト含有膜の形成方法。
【請求項11】
前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの総含有量に対する前記光触媒アパタイトの含有量の比率は20〜80wt%である、請求項6に記載の光触媒アパタイト含有膜の形成方法。
【請求項12】
前記光触媒アパタイトは、カルシウムハイドロキシアパタイトのCaの一部がTiで置換された化学構造を有する、請求項6に記載の光触媒アパタイト含有膜の形成方法。
【請求項13】
前記酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタンである、請求項6に記載の光触媒アパタイト含有膜の形成方法。
【請求項14】
前記無機コーティング主材はヒートレスグラスである、請求項6に記載の光触媒アパタイト含有膜の形成方法。
【請求項15】
粉末状の光触媒アパタイトと、粉末状の酸化チタンと、無機コーティング主材とを含み、前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの総含有率は0.01〜5wt%である、コーティング液。
【請求項16】
前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの2次粒子径は5μm以下である、請求項15に記載のコーティング液。
【請求項17】
前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの総含有量に対する前記光触媒アパタイトの含有量の比率は20〜80wt%である、請求項15に記載のコーディング液。
【請求項18】
無機コーティング主材と、当該無機コーティング主材に分散する粉末状の光触媒アパタイトと粉末状の酸化チタンとを含み、且つ、前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの総含有率が0.01〜5wt%である光触媒アパタイト含有膜により被覆された部位を有する、電子機器。
【請求項19】
前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの2次粒子径は5μm以下である、請求項18に記載の電子機器。
【請求項20】
前記光触媒アパタイトおよび前記酸化チタンの総含有量に対する前記光触媒アパタイトの含有量の比率は20〜80wt%である、請求項18に記載の電子機器。

【国際公開番号】WO2004/026470
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【発行日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537501(P2004−537501)
【国際出願番号】PCT/JP2002/009530
【国際出願日】平成14年9月17日(2002.9.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】